以下、図面を参照して本発明を実施するための各実施の形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
本発明の一実施の形態に係る機械学習装置、データ処理システム、推論装置及び機械学習方法を説明する前に、以下には先ず機械学習装置等が適用される電磁弁装置又は流体圧駆動弁について、流体圧駆動弁を中心に説明を行う。
(流体圧駆動弁)
図1は、本発明の一実施の形態に係る流体圧駆動弁10の一例を示す概略図である。本実施の形態における流体圧駆動弁10としては、例えば、プラント設備において各種のガスや石油等が流れる配管100に設置され、プラント設備に異常等が発生した緊急停止時に、配管100の流れを遮断するための緊急遮断弁として用いることができる。なお、流体圧駆動弁10の設置場所や用途は、上記の例に限られない。
図1に示す流体圧駆動弁10は、配管100の途中に配置される主弁11と、主弁11
に連結された弁軸13aを駆動流体の流体圧に応じて駆動させることで主弁11の開閉操作を行う流体圧式の駆動装置12と、駆動装置12に対して駆動流体の給排を制御する機能を有する電磁弁1とを備えている。
この流体圧駆動弁10に用いられる駆動流体には、計装空気(以下、単に「空気」という)Aが採用されている。この空気Aは空気供給源14から第1の空気配管140を介して電磁弁1に供給され、さらに、第2の空気配管141を介して駆動装置12に供給される。また、流体圧駆動弁10には、外部装置15及び電磁弁1の間で各種のデータを送受信するための通信ケーブル150と、外部電源16から電磁弁1に電力を供給するための電力ケーブル160とが接続されている。なお、駆動流体としては、上記の空気Aに限られず、他の気体でも液体(例えば、油)でもよい。
外部装置15は、流体圧駆動弁10との間で各種情報を送受信するための装置であって、例えば、プラント管理用のコンピュータ(ローカルサーバ及びクラウドサーバを含む。)、作業者(保守点検者)が使用する診断用コンピュータ、又は、USBメモリや外付けHDD等の外部記憶ユニットで構成されている。この外部装置15は、後述する機械学習装置200に接続されて学習用データセットを構成する各種データを送信することも可能である。また、この外部装置15は、流体圧駆動弁10に異常が発生した場合に作業者等に対して異常が発生したことやその内容を報知するための、GUI(Graphical
User Interface)等からなる報知手段を備えている。なお、外部装置15及び電磁弁1の間の通信には無線通信を利用してもよい。
本実施の形態の流体圧駆動弁10の駆動方式は、エアーレスクローズ方式が採用されている。したがって、定常運転時は空気供給源14から電磁弁1を介して駆動装置12に空気Aを供給(給気)することで、主弁11が開操作され、緊急停止時や試験運転時は、駆動装置12から電磁弁1を介して空気Aを排出(排気)することで、主弁11が閉操作される。なお、流体圧駆動弁10は、エアーレスオープン方式を採用してもよく、その場合には、駆動装置12に空気Aを供給することで閉操作され、駆動装置12から空気Aを排出することで主弁11を閉操作される。
主弁11には、ボールバルブが採用されている。この主弁11の具体的な構成としては、配管100の途中に配置される弁箱110と、弁箱110内に回動可能に設けられたボール状の弁体111とを備え、弁体111の上部には、弁軸13aが連結されている。弁軸13aが0度〜90度に回動されることに応じて弁箱110内で弁体111が回動し、主弁11の全開状態(図1に示す状態)と全閉状態が切り替えられる。なお、主弁11として用いられる弁は、ボールバルブに限られず、例えば、バタフライバルブやその他のオンオフ弁であってもよい。
駆動装置12には、主弁11と電磁弁1との間に配置された単作動式のエアシリンダ機構が採用されている。この駆動装置12の具体的な構成としては、スプリング室127及びシリンダ室128を有する、円筒状のシリンダ120と、このシリンダ120内に往復直線移動可能に設けられピストンロッド121を介して連結された一対のピストン122A、122Bと、第1のピストン122A側に形成されたスプリング室127に設けられたコイルばね123と、第2のピストン122B側に形成されたシリンダ室128に接続された空気給排口124と、シリンダ120を径方向に沿って貫通するように配置された主軸13bとピストンロッド121とが直交する部分に設けられた伝達機構125とを備える。なお、駆動装置12は、単作動式に限られず、例えば、複作動式等の他の形式で構成されていてもよい。
第1のピストン122Aは、スプリング室127に設けられたコイルばね123により
主弁11を閉方向に動作するように付勢されている。また、第2のピストン122Bは、空気給排口124からシリンダ室128に供給された空気A(給気)により主弁11を開方向に動作するように(コイルばね123の付勢力に抗して)押圧するものである。さらに、伝達機構125は、ラックアンドピニオン機構、スコッチヨーク機構、リンク機構、カム機構等で構成されており、ピストンロッド121の往復直線運動を回動運動に変換して駆動装置12の主軸13bに伝達するものである。
図2は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置等が適用される駆動装置12の例を示す概略図である。図2(a)は伝達機構125がラックアンドピニオン機構の例、図2(b)は伝達機構125がスコッチヨーク機構の例を示す。
例えば、伝達機構125が、図2(a)に示すように、ラックアンドピニオン機構の場合、空気Aがシリンダ120に給気又はシリンダ120から排気されることによってピストン122及びピストンロッド121が往復直線運動を行う。すると、ピストンロッド121に設けられたラック125aが往復直線運動を行う。続いて、ラック125aに対して接触して噛み合うピニオン125bが回動する。すると、ピニオン125bと同様に回動する主軸13bが回動運動を行う。
また、伝達機構125が、図2(b)に示すように、スコッチヨーク機構の場合、空気Aがシリンダ120に給気又はシリンダ120から排気されることによってピストン122A、122B及びピストンロッド121が往復直線運動を行う。すると、ピストンロッド121と同様に移動するローラピン125cが往復直線運動を行う。続いて、ローラピン125cに対して軸偏心して接触し組み付けられるヨーク125dが90°回動する。すると、ヨーク125dと同様に90°回動する主軸13bが回動運動を行う。
駆動装置12は、ピストン122A、122Bの動きをそれぞれ規制する位置を変更可能なストッパ126A、126Bと、駆動装置12の各部の状態を取得する駆動状態センサ49とをさらに備える。図2(a)及び図2(b)に示す例では、ストッパ126A、126Bは、シリンダ120のシリンダケース120A、120Bそれぞれのピストンロッド121軸上に設置されたボルトにより構成されている。
駆動状態センサ49は、例えば、位置センサ491、加速度センサ492、及び、温度・湿度センサ493等である。図2(a)及び図2(b)に示す例では、駆動状態センサ49として、2つの位置センサ491、2つの加速度センサ492、及び、2つ(図2(b)においては3つ)の温度・湿度センサ493が、ストッパ126A、126B又はシリンダ120に取り付けられている。
位置センサ491は、シリンダ120のシリンダケース120A、120Bに対するピストン122又はピストンロッド121の位置を検出する。位置センサ491は、例えば、第1のストッパ126A及び第2のストッパ126Bにそれぞれ取り付けられ、シリンダ120に対するピストン122A、122B又はピストンロッド121の位置(距離)を計測する。位置センサ491は、超音波センサ、赤外線センサ、ホールセンサ、リードセンサ等で構成される。
加速度センサ492は、シリンダ120に生じる加速度を計測する。具体的には、加速度センサ492は、ピストン122A、122Bがシリンダ120内を往復直線移動するときに発生する駆動装置12の振動や、ピストン122がストッパ126A、126Bに衝突するときに発生する駆動装置12の振動(衝撃)を、駆動装置12の加速度として計測する。
温度・湿度センサ493は、例えば、シリンダ120に形成されたタップ孔に取り付けられ、シリンダ120内の温度及び湿度を検出する。温度・湿度センサ493は、温度を検出する温度センサと、相対湿度を検出する湿度センサとを組み合わせて構成される。駆動装置12が、図2に示すように、単作動式の場合には、空気給排口124aが電磁弁1に接続されるとともに、空気給排口124b、124cが外部環境に開放されているため、温度・湿度センサ493は、電磁弁1から空気給排口124aを介してシリンダ120内に給排される空気A(駆動流体)の温度及び湿度を検出するとともに、外部環境から空気給排口124b、124cを介してシリンダ120内に給排される外気(外部空気)の温度および湿度を検出する。また、駆動装置12が、複作動式の場合には、空気供給口124a、124bが電磁弁1に接続されて、電磁弁1から空気供給口124a、124bを介して第2のピストン122Bを境にシリンダ120内に形成された左右の空気室に空気Aが交互に給気又は排気されるとともに、空気給排口124cが外部環境に開放されているため、温度・湿度センサ493は、電磁弁1から空気給排口124a、124bを介してシリンダ120内に給排される空気A(駆動流体)の温度及び湿度を検出するとともに、外部環境から空気給排口124cを介してシリンダ120内に給排される外気(外部空気)の温度および湿度を検出する。
なお、駆動状態センサ49が駆動装置12に取り付けられる位置や数は、図2に示す例に限られず、適宜変更されてもよい。例えば、位置センサ491は、シリンダケース120A、120Bに取り付けられてもよい。加速度センサ492は、シリンダケース120A、120Bに取り付けられてもよいし、ストッパ126Aの基端部(図2(b)参照。)に代えて、ストッパ126Aの先端部に取り付けられてもよい。温度・湿度センサ493は、電磁弁1に接続された空気給排口124a、第1の空気配管140、第2の空気配管141、又は電磁弁1の内部に取り付けられてもよい。また、温度・湿度センサ493は、外部環境に開放された空気給排口124b、124cのいずれかに取り付けられてもよいし、空気給排口124b、124cのいずれかに接続されたロングニップル及びティーのいずれかに取り付けられてもよい。
主弁11の弁軸13a、駆動装置12の主軸13b、及び、電磁弁1の軸13cは、それぞれ回動可能な状態でシャフト状に形成される。駆動装置12の主軸13bは、駆動装置12を貫通するように配置される。主弁11の弁軸13a及び電磁弁1の軸13cは、一直線上にカップリングやコネクタ等を介して駆動装置12の主軸13bと連結され、主軸13bの駆動と同期した回動運動を行う。
電磁弁1は、駆動装置12に対して空気Aの給排を制御する機能を有し、例えば、2ポジションでノーマルクローズタイプ(通電時「開」、非通電時「閉」)の三方電磁弁として構成されている。この電磁弁1は、屋内型又は防爆型の電磁弁1のハウジングとして機能する収容部6の内部に、空気Aが流れる流路を切り替えるスプール部2と、通電状態(通電時又は非通電時)に応じてスプール部2を変位させるソレノイド部3とを備えている。なお、この電磁弁1には、上述したタイプの三方電磁弁に限られず、3ポジションであっても、ノーマルオープンタイプであっても、四方電磁弁等であってもよく、これらの任意の組み合わせに基づく各種の形成で構成できる。また、本実施の形態では、電磁弁1は、流体圧駆動弁10におけるパイロットバルブとして用いられるものであるが、電磁弁1の用途はこれに限られない。
スプール部2は、空気供給源14に第1の空気配管140を介して接続される入力ポート20と、駆動装置12に第2の空気配管141を介して接続される出力ポート21と、駆動装置12からの排気を排出する排気ポート22とを備える。
ソレノイド部3は、通電時に、入力ポート20と出力ポート21との間を連通するよう
に、スプール部2を変位させ、非通電時に、出力ポート21と排気ポート22との間を連通するように、スプール部2を変位させる。
上述した一連の構成により、電磁弁1が通電状態である場合には、空気供給源14からの空気A(給気)が、第1の空気配管140、入力ポート20、出力ポート21及び第2の空気配管141の順に流れて、空気給排口124に供給されることで、第2のピストン122Bが押圧されてコイルばね123が圧縮する。そして、コイルばね123の圧縮に応じてピストンロッド121が移動した分だけピストンロッド121及び伝達機構125を介して主軸13bにコネクタで連結された主弁11の弁軸13aが回動されると、弁箱110内で弁体111が回動し、主弁11が全開状態に操作される。
一方、電磁弁1が非通電状態である場合には、シリンダ120内の空気A(排気)が、空気給排口124から第2の空気配管141、出力ポート21及び排気ポート22の順に流れて、外気に排出されることで、第2のピストン122Bの押圧力が低下し、コイルばね123が圧縮状態から復元する。そして、コイルばね123の復元に応じてピストンロッド121が移動した分だけ伝達機構125を介して主軸13bにコネクタで連結された主弁11の弁軸13aが回動されると、弁箱110内で弁体111が回動し、主弁11が全閉状態に操作される。
図3は、本発明の一実施の形態に係る電磁弁1の一例を示す断面図である。本実施の形態に係る電磁弁1は、図3に示すように、上記のスプール部2及びソレノイド部3に加えて、電磁弁1の各部の状態を取得する複数のセンサ4と、複数のセンサ4のうち少なくとも1つが載置された基板5と、スプール部2、ソレノイド部3、複数のセンサ4及び基板5を収容する収容部6とを備える。
収容部6は、スプール部2を収容する第1の収容部60と、第1の収容部60に隣接されるとともに、ソレノイド部3、複数のセンサ4及び基板5を収容する第2の収容部61と、通信ケーブル150及び電力ケーブル160が接続されるターミナルボックス62とを備える。第1の収容部60及び第2の収容部61は、例えば、アルミニウム等の金属材料で製作されている。
第1の収容部60は、入力ポート20、出力ポート21及び排気ポート22として、それぞれ機能する開口部(不図示)を有する。
第2の収容部61は、両端(第1のハウジング端部610a及び第2のハウジング端部610b)が開放された円筒状のハウジング610と、ハウジング610の内部に配置されるボディー611と、第1のハウジング端部610aに固定されたソレノイド部3を外気から覆うソレノイドカバー612と、第2のハウジング端部610bに固定されたターミナルボックス62を外気から覆うターミナルボックスカバー613とを備える。
ハウジング610は、その下部に形成されて軸13cが挿入される軸挿入口610cと、その上部に形成されてボディー611が挿入されるボディー挿入口610dと、第2のハウジング端部610b側に形成されて通信ケーブル150及び電力ケーブル160が挿入されるケーブル挿入口610eとを有する。
第1の収容部60及び第2の収容部61には、ボディー611を貫通するようにして、入力側流路26から分岐して入力側流路26と第1の圧力センサ40との間を連通する第1の流路63と、出力側流路27から分岐して出力側流路27と第2の圧力センサ41との間を連通する第2の流路64と、スプール部2とソレノイド部3とを連動させるための空気Aが流れるスプール流路65が形成されている。
スプール部2は、スプールケースとして機能する第2の収容部61内に形成されたスプールホール23と、スプールホール23内に移動可能に配置されたスプールバルブ24と、スプールバルブ24を付勢するスプールスプリング25と、入力ポート20とスプールホール23との間を連通する入力側流路26と、出力ポート21とスプールホール23との連通する出力側流路27と、排気ポート22とスプールホール23との間を連通する排気流路28とを備える。
ソレノイド部3は、ソレノイドケース30と、ソレノイドケース30内に収容されたソレノイドコイル31と、ソレノイドコイル31内に移動可能に配置された可動鉄芯32と、ソレノイドコイル31内に固定状態で配置された固定鉄芯33と、可動鉄芯32を付勢するソレノイドスプリング34とを備える。
電磁弁1が非通電状態から通電状態に切り替えられた場合には、ソレノイド部3において、コイル電流がソレノイドコイル31に流れることによりソレノイドコイル31が電磁力を発生し、当該電磁力により可動鉄芯32がソレノイドスプリング34の付勢力に抗して固定鉄芯33に吸引されることで、スプール流路65を流れる空気Aの流通状態が切り替えられる。そして、スプール部2において、スプール流路65を流れる空気Aの流通状態が切り替えられたことにより、スプールバルブ24がスプールスプリング25の付勢力に抗して移動されることで、入力ポート20と排気ポート22との間を連通する状態から、入力ポート20と出力ポート21との間を連通する状態に切り替えられる。
基板5は、基板面500A、500Bが軸挿入口610cから挿入された軸13cに沿うように配置された第1の基板50と、ターミナルボックス62に近接して配置された第2の基板51と、ソレノイド部3に近接して配置された第3の基板52とを備える。
第1の基板50の基板面500A、500Bのうち、第1の基板面500A側には、ボディー611、ソレノイド部3及び第3の基板52が配置される。第1の基板面500A側と反対側の第2の基板面500B側には、第2の基板51及びターミナルボックス62が配置される。
第1の基板50、第2の基板51及び第3の基板52の適所には、センサ4が配置されている。このセンサ4としては、例えば、入力側流路26及び第1の流路63を流れる空気Aの流体圧を計測する第1の圧力センサ40と、出力側流路27及び第2の流路64を流れる空気Aの流体圧を計測する第2の圧力センサ41と、主弁11の弁軸13aからの回動を駆動装置12の主軸13bを介して電磁弁1の軸13cが回動するときの回動角度を計測し、当該回動角度に応じて主弁11の弁開度情報を取得する主弁開度センサ42とを含む。
主弁開度センサ42は、例えば、磁気センサにより構成されており、軸13cに取り付けられた永久磁石131が発生する磁気の強さを計測し、当該磁気の強さに応じて主弁11の弁開度情報を取得する。この主弁開度センサ42は、軸挿入口610cから挿入された軸13cに沿うように配置された第1の基板5の第1の基板面500Aのうち軸13cの軸周りの外周に対向する位置に載置されると好ましい。これにより、収容部6内において、配置スペースを無駄にすることなく、第1の基板50に載置された主弁開度センサ42と、軸13cとを近接して配置することが可能となり、弁開度情報を正確に取得することができる。
図4は、本発明の一実施の形態に係る電磁弁1及び流体圧駆動弁10の一例を示すブロック図である。電磁弁1は、図4に示すように、電気的な構成例として、上記の基板3及
びセンサ4の他に、電磁弁1を制御する制御部7と、外部装置15と通信するための通信部8と、外部電源16に接続される電源回路部9とを備える。
複数のセンサ4は、各部の物理量を計測するセンサ群として、上記の第1の圧力センサ40、第2の圧力センサ41、主弁開度センサ42の他に、ソレノイド部3に対する供給電圧を計測する電圧センサ43と、ソレノイド部3における通電時の電流値及び非通電時の抵抗値を計測する電流・抵抗センサ44と、収容部6の内部温度を計測する温度センサ45と、ソレノイド部3が発生する磁気の強さを計測する磁気センサ46とを備える。
また、複数のセンサ4は、各部の動作履歴に関する情報を取得するセンサ群として、ソレノイド部3の稼働時間としてソレノイド部に対する通電時間の合計及び現在の通電連働時間の少なくとも一方を計測する稼働時間計(タイマ)47と、電磁弁1、駆動装置12及び主弁11それぞれの作動回数を計数する作動カウンタ(カウンタ)48とを備える。
なお、複数のセンサ4(以下では、「複数のセンサ4」は、駆動状態センサ49を含む符号40〜49で示すセンサを示す用語として定義する。)は、上述のようにそれぞれのセンサが個別に設けられたものに限られず、特定のセンサが他のセンサの機能を兼ねることで、当該他のセンサが個別に設けられていなくてもよい。例えば、磁気センサ46が、ソレノイド部3が発生する磁気の強さを計測するとともに、当該磁気の強さに基づいてソレノイド部3における通電時の電流値を求めることで、電流・抵抗センサ44が個別に設けられていなくてもよい。また、マイクロコントローラ70が、センサの機能を内蔵したり、センサの機能の一部を実現したりしてもよく、例えば、マイクロコントローラ70が、稼働時間計47及び作動カウンタ48を内蔵することで、稼働時間計47及び作動カウンタ48が個別に設けられていなくてもよい。
制御部7は、複数のセンサ4により取得された電磁弁1及び駆動装置12を含む流体圧駆動弁10の各部の状態を示す情報を処理するとともに、流体圧駆動弁10の各部を制御するマイクロコントローラ70と、ソレノイド部3の通電状態を制御し、試験運転時における主弁11の開閉操作を行うバルブテストスイッチ71とを備える。
マイクロコントローラ70は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ(不図示)と、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成されるメモリとを備える。このマイクロコントローラ70は、本実施の形態において後述するデータ処理システム300を実現する機能を含むことができる。
バルブテストスイッチ71は、所定の試験運転条件が満たされた場合にマイクロコントローラ70からの指令を受けて、試験運転として、流体圧駆動弁10のストロークテストを実行するためのものである。
ストロークテストは、例えば、フルストロークテスト及びパーシャルストロークテストのいずれかにより実行される。フルストロークテストは、主弁11を全開状態において通電状態から非通電状態に切り替えることで全閉状態に操作し、全閉状態において非通電状態から通電状態に切り替えることで全開状態に戻すことで実行される。パーシャルストロークテストは、主弁11を全閉状態に操作することなく(すなわち、プラント設備を停止することなく)、主弁11を全開状態において通電状態から非通電状態に切り替えることで所定の開度まで部分的に閉じて、部分的な閉状態において非通電状態から通電状態に切り替えることで全開状態に戻すことで実行される。
なお、試験運転条件としては、例えば、管理者により設定値として指定された実行頻度
(例えば、1年に1回)による実行時期や特定の指定日時が到来したり、外部装置15からの実行命令を受け付けたり、電磁弁1に設けられた試験実行ボタン(不図示)が管理者により操作されたりした場合に、試験運転条件を満たすものとして、試験運転(ストロークテスト)が実行されるようにすればよい。
次に、電磁弁装置又は流体圧駆動弁10に適用される機械学習装置、データ処理システム、推論装置及び機械学習方法について、機械学習装置、データ処理システム、推論装置及び機械学習方法が流体圧駆動弁10に適用された例を中心に説明を行う。
(機械学習装置)
上述した一連の構成を備える流体圧駆動弁10においては、上述した複数のセンサ4を備えることにより、例えば定常運転時及び非定常運転時(例えば、開閉操作が行われる試験運転時や緊急停止時を含む。)において流体圧駆動弁10の各種情報を取得することができる。そこで、以下には、流体圧駆動弁10から取得可能な情報(状態変数)に基づいて流体圧駆動弁10(特に駆動装置12)の診断情報を推定することが可能な推論モデル(学習済モデル)を学習する機械学習装置200について、説明を行う。なお、ここでいう機械学習装置200は、それ単独で動作する装置として提供されるもののみならず、任意のプロセッサに以下に説明する動作を実行させるためプログラム、あるいは当該動作を実行させるための1乃至複数の命令を格納した非一時的なコンピュータ読取可能媒体の形式で提供されるものを含む。
図5は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置200の概略ブロック図である。本実施の形態に係る機械学習装置200は、図5に示すように、学習用データセット取得ユニット201と、学習用データセット記憶ユニット202と、学習ユニット203と、学習済モデル記憶ユニット204とを備えている。
学習用データセット取得ユニット201は、例えば有線又は無線の通信回線を介して接続された各種機器から学習(トレーニング)用データセットを構成する複数のデータを取得するためのインタフェースユニットである。ここで、学習用データセット取得ユニット201に接続される各種機器としては、例えば外部装置15や流体圧駆動弁10の作業者が使用する作業者用コンピュータPC1等を挙げることができる。なお、図5においては外部装置15とコンピュータPC1とは別々に接続された例を示しているが、外部装置15と作業者用コンピュータPC1とは同一のコンピュータにより構成されていてもよい。この学習用データセット取得ユニット201では、流体圧駆動弁10の複数のセンサ4の検出データを入力データとして例えば外部装置15から取得すると共に、この入力データに関連付けられる流体圧駆動弁10の診断情報を出力データとして、例えば作業者用コンピュータPC1から取得することができる。そして、これら互いに関連付けられる入力データと出力データとが、後述する一の学習用データセットを構成する。
図6は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置200で使用されるデータの構成例(教師あり学習)を示す図である。図7は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置200で使用されるデータの構成例(教師なし学習)を示す図である。なお、図6、図7は、データ処理システム及び推論装置の説明でも適宜参照する。
学習用データセットは、図6、図7に示すように、入力データとして、シリンダ120内の温度及び湿度を、出力データとして、駆動装置12の診断情報を含んでおり、後述する機械学習において使用するためのデータセットを指すものである。これらの各種データの詳細について以下に一例を説示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
シリンダ120内の温度及び湿度は、電磁弁1から空気給排口124(図2に示す単作
動式の場合には、124a、複作動式の場合には、124a、124b)を介して駆動装置12に給排される空気A(駆動流体)の温度及び湿度、及び、外部環境から空気給排口124(図2に示す単作動式の場合には、124b、124c、複作動式の場合には、124c)を介して駆動装置12に給排される外気(外部空気)の温度及び湿度の少なくとも1つを含む。シリンダ120内の温度及び湿度は上述した温度・湿度センサ493により取得できる。
なお、入力データを構成する、シリンダ120内の温度及び湿度は、ある特定の時点における1つのデータ(時点データ)で構成されていてもよいし、図6、図7の括弧書きで示すように、所定期間内の異なる複数の時点でそれぞれ取得された複数のデータ(時系列データ)で構成されていてもよい。なお、入力データが、空気Aの温度及び湿度の時系列データと、外気の温度及び湿度の時系列データとで構成されている場合には、空気Aの温度及び湿度、及び、外気の温度及び湿度の各々は、同一のサンプリング周期及び同一の位相(位相差がない状態)で複数の時点で取得されたものでもよいし、サンプリング周期及び位相の少なくとも一方が異なるものでもよい。推論の精度を効果的に向上させるためには、後者の時系列データの形式であることが好ましい。
駆動装置12の診断情報は、駆動装置12に対する異常診断が行われたときの、駆動装置12に何らかの異常が発生しているか否かを示す情報であって、そのデータ形式としては種々のものを採用することができる。異常は、異常診断が行われた時点において異常の発生が判明したような事後的な異常だけなく、異常診断が行われた時点では正常と判断される許容範囲ではあるが、将来的な異常の発生が予見されたような異常の兆候も含む。
例えば、一態様としての診断情報は、図6に示すように、駆動装置12が正常であること(異常なし)及び異常であること(異常あり)のいずれかを表す情報で構成することができる。この場合、診断情報は、2値に分類され、例えば駆動装置12が正常な状態であることを示す値を「0」とし、駆動装置12が異常な状態であることを示す値を「1」として、作業用コンピュータPC1を用いて作業者により入力データに関連付けた形で該当する値が入力されればよい。なお、この場合には具体的な異常の内容に関する情報は必ずしも必要ない。
加えて、上記診断情報のうち、駆動装置12が異常であることを表す情報は、図6の破線で示すように、異常の具体的な内容をも含んでいてもよい。異常の具体的な内容としては、例えば、駆動装置12によって駆動される主弁11の弁開度に関する異常、又は、駆動装置12が作動したときの作動時間、作動速度、若しくは不作動に関する異常が含まれ、さらに詳細には、空気Aが流れる空気回路の不良、空気供給源14からの空気Aの供給圧力の異常、シリンダ120とピストン122A、122Bの動作不良、ピストン122A、122Bの摩耗、ピストンロッド121又はコイルばね123の劣化・破損、シリンダ120の破損、空気給排口124(124a〜124c)の詰まり、伝達機構125の動作不良、ストッパ126A、126Bの破損等が含まれる。この場合、診断情報は、多値(3以上の整数)に分類され、例えば、駆動装置12が正常な状態であることを示す値を「0」とし、駆動装置12の作動時間の遅れに該当する異常であることを示す値を「1」、駆動装置12の不作動に該当する異常であることを示す値を「2」、以下同様に各異常の内容に合わせて値を一意に事前に定めた上で、作業用コンピュータPC1を用いて作業者により入力データに関連付けた形で該当する値が入力されればよい。このような診断情報の設定を行うことで、異常の発生の有無のみならず、異常が発生したときの異常の具体的な内容の情報(図7に示す異常1/異常2/…/異常nに対応する。)をも含んだ学習用データセットを準備することができる。上述した一態様としての診断情報は、以下に述べる機械学習においては、教師あり学習(図6参照。)を行う場合に利用されるものである。
また、駆動装置12の診断情報としては、上述したもの以外にも採用することができる。例えば、他の態様としての診断情報は、図7に示すように、駆動装置12が異常でなく正常であることのみを表す情報とすることができる。この場合、診断情報には駆動装置12が正常であることを表す情報しか含まれないため、必然的にこの診断情報を出力データとして含む学習用データセットは、駆動装置12が正常である場合の入力データと出力データとで構成されたデータセットのみとなる。したがって、この場合における学習用データセットの出力データは常に同じであるため、学習用データセットは出力データをデータとして有している必要は必ずしもないことは、当業者であれば当然に理解できるであろう。当該他の態様としての診断情報は、以下に述べる機械学習においては、教師なし学習(図7参照。)を行う場合に利用されるものである。
オプションとして、学習用データセット内の入力データには、更に、主弁11の弁開度、空気Aの圧力、ソレノイド部3の制御パラメータ、電磁弁1の温度、駆動装置12の動作状態、流体圧駆動弁10の総稼働時間、流体圧駆動弁10に対して最後に電源が投入されてからの稼働時間、主弁11の作動回数、駆動装置12の作動回数、ソレノイド部3の作動回数、及び、主弁11の開閉時間を選択的に含むことができる。
主弁11の弁開度は、主弁11の開閉状態の値を指すものであって、上述した主弁開度センサ42より取得できる。また、電磁弁1の温度は、電磁弁1の特に内部温度の値を指すものであって、上述した温度センサ45により取得できる。
空気Aの圧力は、流体圧駆動弁10の内部の各部を流れる空気Aの圧力であることが好ましく、具体的には、空気供給源14から電磁弁1に供給される空気Aの電磁弁入力側圧力、電磁弁1から駆動装置12に給排される空気Aの電磁弁出力側圧力、及び、空気Aの電磁弁入力側圧力と空気Aの電磁弁出力側圧力との差圧の少なくとも1つを含むことが好ましい。また、空気Aの電磁弁出力側圧力は、電磁弁1から駆動装置12に給排される空気Aの圧力であって、電磁弁1から駆動装置12に空気Aが供給されるときの空気A(給気)の圧力と、駆動装置12から電磁弁1を介して外気に空気Aが排出されるときの空気A(排気)の圧力とを含む。このうち、空気Aの電磁弁入力側圧力は上述した第1の圧力センサ40により取得でき、空気Aの電磁弁出力側圧力は上述した第2の圧力センサ41により取得でき、差圧は第1の圧力センサ40と第2の圧力センサ41の出力から算出できる。
ソレノイド部3の制御パラメータは、ソレノイド部3を制御するための各種パラメータ情報であって、具体的にはソレノイドコイル31へ供給される供給電圧、ソレノイドコイル31への通電時の電流値、ソレノイドコイル31の非通電時における抵抗値、ソレノイド部3の稼働時間、及び、ソレノイド部3に生じる磁気の強度の少なくとも1つを含むと好ましい。このうち、ソレノイドコイル31へ供給される供給電圧は上述した電圧センサ43により取得でき、ソレノイドコイル31への通電時の電流値、及び、非通電時における抵抗値は上述した電流・抵抗センサ44により取得でき、ソレノイド部3の稼働時間は上述した稼働時間計47により取得でき、ソレノイド部3に生じる磁気の強度は上述した磁気センサ46により取得できる。
駆動装置12の動作状態は、シリンダ120に対する第1のピストン122Aの位置、シリンダ120に対する第2のピストン122Bの位置、及び、シリンダ120及びピストン122A、122Bの間で生じる振動に基づく駆動装置12の加速度の少なくとも1つを含むことが好ましい。シリンダ120に対するピストン122A、122Bの位置は上述した位置センサ491により取得できる。駆動装置12の加速度は、ピストン122A、122Bがシリンダ120内を往復直線移動するときに発生する振動に基づくシリン
ダ120の加速度と、ピストン122A、122Bがストッパ126A、126Bに衝突するときに発生する振動(衝撃)に基づくシリンダ120の加速度とを含む。駆動装置12の加速度は上述した加速度センサ492により取得できる。
流体圧駆動弁10の総稼働時間と流体圧駆動弁10に対して最後に電源が投入されてからの稼働時間とは上述した稼働時間計47により取得でき、主弁11の作動回数と駆動装置12の作動回数とソレノイド部3の作動回数とは上述した作動カウンタ48により取得でき、主弁11の開閉時間は図示しないタイマ等を用いて取得できる。
上述のように入力データの種類を増やすことは、機械学習の後に得られる学習済モデルの推定精度を向上させるのに概ね寄与するものであるが、診断情報との相関度合いが低い入力データを採用することは、却って学習済モデルの推定精度の向上を阻害する可能性がある。したがって、入力データとして採用するデータの数及び種類については、学習済モデルが適用される流体圧駆動弁10の状態等を考慮して適宜選択されるべきものである。
特に、駆動装置12では、シリンダ120内の空気A又は外気の相対湿度が高くなると、シリンダ120内で結露が発生し、結露の発生状況によってはシリンダ120内に錆や腐食が発生し、駆動装置12の各部(特にシリンダケース120A、120B、ピストン122A、122B、コイルばね123)において、劣化又は破損等の異常が生じるおそれがある。このような駆動装置12の異常は、流体圧駆動弁10の駆動特性の変化に影響を与えると想定される。
したがって、本実施の形態においては、シリンダ120内の温度及び湿度を含む入力データに基づいて、駆動装置12の異常診断を行うものである。つまり、シリンダ120内の温度及び湿度から、シリンダ120内での結露の発生状況(結露が発生した回数や時間、結露が継続して発生した回数や時間、結露が発生した回数や時間を累積した累積値等)を把握することで、駆動装置12に発生する異常を検出することができる。
さらに、入力データが、図6、図7の破線で示すように、空気供給源14から電磁弁1を介して駆動装置12に給排される空気Aの温度及び湿度を含むことで、空気供給源14からの空気Aを原因とするシリンダ120内での結露の発生状況を把握し、駆動装置12に異常が発生したときの原因が、空気供給源14において、例えば、吸気供給設備やエアドライヤ等の異常に起因するものであるか否かの異常診断を行うことが可能となる。また、入力データが、図6、図7の破線で示すように、外部環境から駆動装置12に給排される外気の温度及び湿度を含むことで、季節、天候、時間帯(朝昼晩)等に応じて温度及び湿度が変動する外気を原因とするシリンダ120内での結露の発生状況を把握し、駆動装置12に異常が発生したときの原因が、外部環境に基づく外気の温度及び湿度の変動に起因するものであるか否かの異常診断を行うことが可能となる。
学習用データセット記憶ユニット202は、学習用データセット取得ユニット201で取得した学習用データセットを構成するための複数のデータを、関連する入力データと出力データとを関連付けて1つの学習用データセットとし、格納するためのデータベースである。この学習用データセット記憶ユニットを構成するデータベースの具体的な構成については適宜調整することができる。例えば、図5においては、説明の都合上、この学習用データセット記憶ユニット202と後述する学習済モデル記憶ユニット204とを別々の記憶手段として示しているが、これらは単一の記憶媒体(データベース)によって構成することもできる。
学習ユニット203は、学習用データセット記憶ユニット202に記憶された複数の学習用データセットを用いて機械学習を実行することで、複数の学習用データセットに含ま
れる入力データと出力データとの相関関係を学習した学習済モデルを生成するものである。本実施の形態においては、後に詳しく説示するように、機械学習の具体的な手法としてニューラルネットワークを用いた教師あり学習を採用している。ただし、機械学習の具体的な手法については、これに限定されるものではなく、入出力の相関関係を学習用データセットから学習することができるものであれば他の学習手法を採用することも可能である。例えば、アンサンブル学習(ランダムフォレスト、ブースティング等)を用いることもできる。
学習済モデル記憶ユニット204は、学習ユニット203で生成された学習済モデルを記憶するためのデータベースである。この学習済モデル記憶ユニット24に記憶された学習済モデルは、要求に応じて、インターネットを含む通信回線や記憶媒体を介して実システムへ適用される。実システム(データ処理システム300)に対する学習済モデルの具体的な適用態様については、後に詳述する。
次に、上述のようにして得られた複数の学習用データセットを用いた、学習ユニット203における学習手法について、教師あり学習を中心に説明する。図8は、本発明の一実施の形態に係る機械学習装置において実施される教師あり学習のためのニューラルネットワークモデルの例を示す図である。図8に示すニューラルネットワークモデルにおけるニューラルネットワークは、入力層にあるl個のニューロン(x1〜xl)、第1中間層にあるm個のニューロン(y11〜y1m)、第2中間層にあるn個のニューロン(y21〜y2n)、及び、出力層にあるo個のニューロン(z1〜zo)から構成されている。第1中間層及び第2中間層は、隠れ層とも呼ばれており、ニューラルネットワークとしては、第1中間層及び第2中間層の他に、さらに複数の隠れ層を有するものであってもよく、あるいは第1中間層のみを隠れ層とするものであってもよい。なお、図8においては、出力層が複数個(o個)設定されたニューラルネットワークモデルを例示しているが、例えば上述した診断情報が一の値から特定されるものである場合、すなわち、後述する教師データの数が1個(t1のみ)である場合には、出力層のニューロンの数も1個(z1のみ)とすることができる。
また、入力層と第1中間層との間、第1中間層と第2中間層との間、第2中間層と出力層との間には、層間のニューロンを接続するノードが張られており、それぞれのノードには、重みwi(iは自然数)が対応づけられている。
本実施の形態に係るニューラルネットワークモデルにおけるニューラルネットワークは、学習用データセットを用いて、シリンダ120内の温度及び湿度と、駆動装置12の診断情報との相関関係を学習する。具体的には、状態変数としてのシリンダ120内の温度及び湿度のそれぞれを入力層のニューロンに対応づけ、出力層にあるニューロンの値を、一般的なニューラルネットワークの出力値の算出方法で、つまり、出力側のニューロンの値を、当該ニューロンに接続される入力側のニューロンの値と、出力側のニューロンと入力側のニューロンとを接続するノードに対応づけられた重みwiとの乗算値の数列の和として算出することを、入力層にあるニューロン以外の全てのニューロンに対して行う方法を用いることで、算出する。なお、上記状態変数を入力層のニューロンに入力するに際し、状態変数として取得した情報をどのような形式として入力するかは、生成される学習済モデルの精度等を考慮して適宜設定することができる。具体的には、入力データそれぞれに対応させるニューロンの数を調整するため、あるいはニューロンに対応可能な値に調整するために、特定の入力データに対して前処理を実行することができる。
そして、算出された出力層にあるo個のニューロンz1〜zoの値、すなわち本実施の形態においては1以上の診断情報と、学習用データセットの一部を構成する、同じく1以上の診断情報からなる教師データt1〜toとを、それぞれ比較して誤差を求め、求めら
れた誤差が小さくなるように、各ノードに対応づけられた重みwiを調整する(バックプロバケーション)ことを反復する。
そして、上述した一連の工程を所定回数反復実施すること、あるいは前記誤差が許容値より小さくなること等の所定の条件が満たされた場合には、学習を終了して、そのニューラルネットワークモデル(のノードのそれぞれに対応づけられた全ての重みwi)を学習済モデルとして学習済モデル記憶ユニット204に記憶する。
(機械学習方法)
上記に関連して、本発明は、機械学習方法を提供する。以下に本発明に係る機械学習方法について、図6(学習フェーズ)、図7(学習フェーズ)、図8、図9を参照して説明を行う。図9は、本発明の一実施の形態に係る機械学習方法の例を示すフローチャートである。以下に示す機械学習方法においては、上述した機械学習装置200に基づいて説明を行うが、前提となる構成については、上記機械学習装置200に限定されない。また、この機械学習方法はコンピュータを用いることで実現されるものであるが、コンピュータとしては種々のものが適用可能であり、例えば外部装置15、作業用コンピュータPC1あるいはマイクロコントローラ70を構成するコンピュータ装置や、ネットワーク上に配されたサーバ装置等を挙げることができる。また、このコンピュータの具体的構成については、例えば、少なくともCPUやGPU等からなる演算装置と、揮発性又は不揮発性メモリ等で構成される記憶装置と、ネットワークや他の機器に通信するための通信装置と、これら各装置を接続するバスとを含むものを採用することができる。
本実施の形態に係る機械学習方法としての教師あり学習は、機械学習を開始するための事前準備として、先ず、所望の数の学習用データセット(図6参照。)を準備し、準備した複数個の学習用データセットを学習用データセット記憶ユニット202に記憶する(ステップS11)。ここで準備する学習用データセットの数については、最終的に得られる学習済みモデルに求められる推論精度を考慮して設定するとよい。
この教師あり学習に用いられる学習用データセットを準備する方法にはいくつかの方法が採用できる。例えば特定の駆動装置12において異常が発生した場合、あるいは作業者が異常の兆候を認識した場合において、そのときの流体圧駆動弁10の定常運転時における各種情報を複数のセンサ4等を用いて取得し、これらの情報に関連付ける形で作業者が診断情報を、作業用コンピュータPC1等を用いて特定・入力することで、学習データセットを構成する入力データと出力データ(例えば、この場合の出力データの値は「1」)とを準備する。そしてこのような作業を繰り返すことで所望の数の学習用データセットを準備する方法が採用できる。なお、学習用データセットを準備する方法としてはこのような方法以外にも、例えば積極的に駆動装置12に異常状態を作ることで学習用データセットを取得する等、種々の方法を採用することができる。ただし、流体圧駆動弁10の各種情報は流体圧駆動弁10夫々に特有の傾向が存在することが多いため、学習用データセットを構成するデータを取得する対象としては、後述する機械学習を経て得られる学習済みモデルを適用する予定の一の流体圧駆動弁10のみから収集することが好ましい。また、学習用データセットとしては、異常が発生した場合の入出力データで構成されたもののみならず、異常が発生していないとき、すなわち駆動装置12の正常状態における入力データ及び出力データ(例えば、この場合の出力データの値は「0」)で構成された学習用データセットが所定数含まれる。
ステップS11が完了すると、次いで学習ユニット203における学習を開始すべく、学習前のニューラルネットワークモデルを準備する(S12)。ここで準備される学習前のニューラルネットワークモデルは、その構造としては、例えば図8で示した構造を有し、且つ各ノードの重みが初期値に設定されている。そして、学習用データセット記憶ユニ
ット202に記憶された複数個の学習用データセットから、例えばランダムに一の学習用データセットを選択し(ステップS13)、当該一の学習用データセット中の入力データを、準備された学習前のニューラルネットワークモデルの入力層(図8参照。)に入力する(ステップS14)。
ここで、上記ステップS14の結果として生成された出力層(図8参照。)の値は、学習前のニューラルネットワークモデルによって生成されたものであるため、ほとんどの場合望ましい結果とは異なる値、すなわち、正しい診断情報とは異なる情報を示す値である。そこで、次に、ステップS13において取得された一の学習用データセット中の教師データとしての診断情報とステップS13において生成された出力層の値とを用いて、機械学習を実施する(ステップS15)。ここで行う機械学習とは、例えば、教師データを構成する診断情報と出力層の値とを比較し、好ましい出力層が得られるよう、学習前のニューラルネットワークモデル内の各ノードに対応付けられた重みを調整する処理(バックプロパゲーション)であってよい。なお、学習前のニューラルネットワークモデルの出力層に出力される値の数及び形式は、学習対象としての学習用データセット中の教師データと同様の数及び形式である。
ここでいう機械学習について具体的に例示すると、仮に、教師データを構成する診断情報が、正常の場合を「0」とし、異常の場合を「1」としたいずれかの値(2値分類)で構成され、且つステップS13で選択された一の学習用データセット内の出力データの値が「1」である場合、出力層の値は、0〜1の所定の値、具体的に言えば、例えば「0.63」といった値が出力される。そこで、ステップS15では、仮に同様の入力データが入力層に入力された場合に学習中のニューラルネットワークモデルによって得られる値が「1」に近づくように、当該学習中のニューラルネットワークモデルの各ノードに対応付けられた重みを調整する。
ステップS15において機械学習が実施されると、さらに機械学習を継続する必要があるか否かを、例えば学習用データセット記憶ユニット202内に記憶された未学習の学習用データセットの残数に基づいて特定する(ステップS16)。そして、機械学習を継続する場合(ステップS16でNo)にはステップS13に戻り、機械学習を終了する場合(ステップS16でYes)には、ステップS17に移る。上記機械学習を継続する場合には、学習中のニューラルネットワークモデルに対してステップS13〜S15の工程を未学習の学習用データセットを用いて複数回実施する。最終的に生成される学習済モデルの精度は、一般にこの回数に比例して高くなる。
機械学習を終了する場合(ステップS16でYes)には、各ノードに対応付けられた重みが一連の工程によって調整され生成されたニューラルネットワークを学習済モデルとして、学習済モデル記憶ユニット204に記憶し(ステップS17)、一連の学習プロセスを終了する。ここで記憶された学習済モデルは、後述するデータ処理システム300に適用され使用され得るものである。
上述した機械学習装置の学習プロセス及び機械学習方法においては、1つの学習済モデルを生成するために、1つの(学習前の)ニューラルネットワークモデルに対して複数回の機械学習処理を繰り返し実行することでその精度を向上させ、データ処理システム300に適用するに足る学習済モデルを得るものを説示している。しかし、本発明はこの取得方法に限定されない。例えば、所定回数の機械学習を実施した学習済モデルを一候補として複数個の学習済モデル記憶ユニット204に格納しておき、この複数個の学習済モデル群に妥当性判断用のデータセットを入力して出力層(のニューロンの値)を生成し、出力層で特定された値の精度を比較検討して、データ処理システム300に適用する最良の学習済モデルを1つ選定するようにしてもよい。なお、妥当性判断用データセットは、学習
に用いた学習用データセットと同様のデータセットで構成され、且つ学習に用いられていないものであればよい。
以上説明した通り、本実施の形態に係る機械学習装置及び機械学習方法を適用することにより、流体圧駆動弁10の適所に設けられた複数のセンサ4により取得される各種データから、異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)が発生するか否かを示す診断情報を的確に導出することが可能な学習済モデルを得ることができる。
上記機械学習装置200の学習方法及び機械学習方法では、「教師あり学習」について説明したが、学習済みモデルを生成する方法としては、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)等のその他の公知の「教師あり学習」の手法を用いることでもよいし、また、出
力データを構成する診断情報として、上述した他の態様に係る診断情報、すなわち流体圧駆動弁10が異常でなく正常であることのみを表す情報を含む学習用データセット(図7参照。)を用いた「教師なし学習」を用いてもよい。「教師なし学習」を用いることで、入力データに対応付けられた出力データにおける診断情報が、駆動装置12の正常状態の情報しか入手できない場合であっても、図7の「学習フェーズ」で示すように、入力データと出力データとの正常状態の特徴を表す相関関係を学習することにより、学習済みモデルを得ることができる。この場合、後述するデータ処理システム300における推論時には、正常状態の特徴に所定量合致しないと判断した入力データを正常状態でない、つまり、異常状態であるとみなすことで、診断情報の推論が実現できる。この「教師なし学習」の具体的な手法としては、例えば、図7に簡略的に示すオートエンコーダ等を用いた公知の手法を用いることができ、詳細な説明はここでは省略する。
(データ処理システム)
次に、図10を参照して、上述した機械学習装置200及び機械学習方法によって生成された学習済モデルの適用例を説示する。図10は、本発明の一実施の形態に係るデータ処理システムを示す概略ブロック図である。
本実施の形態に係るデータ処理システム300としては、上述した流体圧駆動弁10のマイクロコントローラ70内に搭載された態様を例示する。なお、このデータ処理システム300については、その少なくとも一部を他の機器、例えば外部装置15や流体圧駆動弁10に接続された他の装置に適用することも可能である。
このデータ処理システム300は、入力データ取得ユニット301と、推論ユニット302と、学習済モデル記憶ユニット303と、報知ユニット304とを少なくとも含むものである。
入力データ取得ユニット301は、流体圧駆動弁10が有する複数のセンサ4に接続されて各センサ4が出力するデータを取得するためのインタフェースユニットである。この入力データ取得ユニット301は、シリンダ120内の温度及び湿度を取得する。なお、図10に示す例においては、後述する推論に利用可能な入力データの全てが取得できるように、流体圧駆動弁10の備える全てのセンサ4に接続されているが、入力データ取得ユニット301にどのセンサ4を接続するかについては、後述する推論ユニット302において用いられる学習済モデル等に合わせて適宜選択することができる。また、推論ユニット302の推論結果は、図示しない記憶手段に記憶することが好ましく、記憶された過去の推論結果は、例えば学習済モデル記憶ユニット303内の学習済モデルの推論精度の更なる向上のための、オンライン学習に用いられる学習用データセットとして利用することができる。
推論ユニット302は、入力データ取得ユニット301により取得された流体圧駆動弁
10の各種データから、駆動装置12に異常が発生しているか否かを推論するためのものである。この推論には、例えば上述した機械学習装置200及び機械学習方法を用いて学習が行われた学習済モデルが用いられ、この学習済モデルは任意の記憶媒体で構成された学習済モデル記憶ユニット303内に格納されている。なお、この推論ユニット302は、学習済モデルを用いた推論処理を行う機能のみならず、推論処理の前処理として、入力データ取得ユニット301により取得された入力データを所望の形式等に調整して学習済モデルに入力する前処理機能や、推論処理の後処理として、学習済モデルが出力した出力値に、例えば所定の閾値を適用することで異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)の発生の有無(異常なし(正常)又は異常あり(異常))を最終的に判断する後処理機能をも含んでいる。
学習済モデル記憶ユニット303は、上述した通り、推論ユニット302において用いられる学習済モデルを格納するための記憶媒体である。この学習済モデル記憶ユニット303内に格納される学習済モデルの数は1つに限定されない。例えば入力されるデータの数が異なる、あるいはその学習手法の異なる(例えば、上述した機械学習装置200等で実施される教師あり学習と教師なし学習)複数個の学習済モデルが格納され、選択的に利用可能とすることができる。
報知ユニット304は、推論ユニット302の推論結果を作業者等に報知するためのものである。具体的な報知の手段は種々採用でき、例えば推論結果について通信部8を介して外部装置15に送信し、外部装置15のGUIに表示等を行ったり、流体圧駆動弁10に予め発光部材やスピーカ等を設け、それらを動作させたりすることで、作業者等に異常の発生の有無を知らせることができる。
以上の構成を備えたデータ処理システムによるデータ処理プロセスについて、図6(推論フェーズ)、図7(推論フェーズ)、図11を参照して以下に説明を行う。図11は、本発明の一実施の形態に係るデータ処理システム300によるデータ処理工程の例を示すフローチャートである。
流体圧駆動弁10の電磁弁1に外部電源16からの電力の供給が開始され、それに伴って駆動装置12の異常の診断が開始されると、入力データ取得ユニット301が、複数のセンサ4により取得された流体圧駆動弁10の各部の状態を示す各種データを取得する(ステップS21)。入力データ取得ユニット301が、所望の入力データ(シリンダ120内の温度及び湿度(図6、図7参照。))を取得できた時点で、当該入力データに基づく推論ユニット302による推論が実施される(ステップS22)。このとき、推論に用いられる学習済モデルは事前に特定されていることが好ましい。また、事前に特定された学習済モデルが、例えばその入力データとして所定の時系列データを要するものである場合には、入力データ取得ユニット301において必要なデータ量が取得された後に、ステップS22における推論が実施される。
具体的には、推論ユニット302は、入力データに前処理を施して学習モデル済モデルに入力するとともに、その学習モデル済モデルからの出力値に対して後処理を施すことにより、推論結果である異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)の発生の有無を判断する。教師あり学習(図6の「推論フェーズ」参照。)における後処理では、推論ユニット302は、学習モデル済モデルの出力値(2値分類であれば、0〜1の間の数)と所定の閾値とを比較し、例えば、学習モデル済モデルの出力値が、所定の閾値以上であれば「異常あり(異常)」、所定の閾値未満であれば「異常なし(正常)」と判断することで、その判断結果を推論結果として出力する。また、教師なし学習(図7の「推論フェーズ」参照。)における後処理では、推論ユニット302は、学習モデル済モデルの出力値(特徴量)と、入力データに基づく特徴量との差(距離)を求め、その差(距離)が所定の閾
値以上であれば「異常あり(異常)」、所定の閾値未満であれば「異常なし(正常)」と判断することで、その判断結果を推論結果として出力する。
そして、ステップS22において、推論ユニット302による推論が実施された結果、その推論結果が「異常なし(正常)」を示す場合(ステップS23でNo)には、引き続き一連の推論を継続するようステップS21に戻る。一方、その推論結果が、図6、図7に示すように、「異常あり(異常)」を示す場合(ステップS23でYes)には、報知ユニット304により推論結果が「異常あり(異常)」であること、すなわち、駆動装置12に異常(事後的な異常及び異常の予兆を含む。)が発生したことを作業者等に報知する(ステップS24)。そして、ステップS24において異常の発生を報知した後は、引き続き一連の推論を継続するようステップS21に戻る。なお、駆動装置12の使用用途や検出された異常の内容によっては、異常が検出された段階で流体圧駆動弁10を停止するといった対応を実行するようにしてもよい。
(推論装置)
本発明は、上述したデータ処理システム300の態様によるもののみならず、推論を行うための推論装置の態様で提供することもできる。その場合、推論装置としては、メモリと、少なくとも1つのプロセッサとを含み、このうちのプロセッサが、一連の処理を実行するものとすることができる。当該一連の処理とは、シリンダ120内の温度及び湿度を含む入力データを取得する処理と、当該入力データが入力された際に流体圧駆動弁10における診断情報を推論する処理と、を含む。本発明を上述した推論装置の態様で提供することで、データ処理システム300を実装する場合に比して簡単に種々の流体圧駆動弁10への適用が可能となる。このとき、推論装置が診断情報を推論する処理を行うに際しては、ここまで本書において説明した、本発明における、機械学習装置及び機械学習方法によって学習された学習済みモデルを用い、データ処理システムの推論ユニット302が実施する推論手法を適用してもよいことは、当業者にとって当然に理解され得るものである。
本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。そして、それらはすべて、本発明の技術思想に含まれるものである。