JP2021172043A - 多孔複合フィルム、電気化学素子 - Google Patents

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昌 鍬形
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純二 道添
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Abstract

【課題】本発明の目的は、電極との接着性を有し、かつ優れた電池特性を有する多孔複合フィルムを提供することにある。【解決手段】ポリオレフィンを含む多孔質基材を有し、前記多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を積層した、次のa)〜c)を満たす多孔複合フィルム。a)前記多孔質層がフッ素含有樹脂を含む。b)前記多孔質層に含有されるフッ素含有樹脂に対する、前記多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率が、8重量%以上、21重量%以下である。c)前記基材の単位cm2辺りの空孔体積が、0.000370cm3以上、0.000430cm3以下である。【選択図】なし

Description

本発明は、多孔複合フィルム、電気化学素子に関するものである。
リチウムイオン電池のような二次電池は、繰り返し充放電可能な高容量電池として、スマートフォン、タブレット、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯ゲーム機などのポータブルデジタル機器用途、電動工具、電動バイク、電動アシスト補助自転車などのポータブル機器の高性能化や長時間作動を可能としてきた。
さらに最近では、環境負荷への配慮の観点から、電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車などの自動車用途で使用されており、さらなる高性能化や低コスト化が期待されている。
リチウムイオン電池は、一般的に、正極活物質を正極集電体に積層した正極と、負極活物質を負極集電体に積層した負極との間に、二次電池用セパレータと電解質が介在した構成を有している。
二次電池用セパレータとしては、種々の材料より構成される不織布や多孔質基材が用いられる。二次電池用セパレータに求められる特性としては、多孔構造中に電解液を含み、イオン移動を可能にする特性と、リチウムイオン電池が異常発熱した場合に、熱で溶融することで多孔構造が閉鎖され、イオン移動を停止させることで、発電を停止させるシャットダウン特性が挙げられる。
さらに、二次電池の製造工程において、電解液を含浸する前のセパレータと電極との接着性が求められている。これは、正極、セパレータ、負極を積層した積層体を運搬する際に、積層体を維持するため、捲回した正極、セパレータ、負極の積層体を円筒型、角型などの缶に挿入する場合、積層体を熱プレスしてから挿入するが、その際に形が崩れないようにするため、積層体を熱プレスすることで、より多くの積層体を缶の中に入れ、エネルギー密度を上げるため、さらにはラミネート型において、外装材に挿入した後に形状が変形しないようにするためである。
また一方では、リチウムイオン電池には、高出力化、長寿命化といった優れた電池特性も求められており、電池の生産性を低下させることなく、良好な電池特性を発現することが求められている。
これらの要求に対して、特許文献1では、ポリエステルとポリオレフィンが相互に隣接してなる分割型複合繊維を分割して得られる極細繊維と、叩解されてなる溶剤紡糸セルロース繊維を含有してなる湿式不織布を用いた基材に、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体などのエチレン−アクリレート共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴムなどのゴムやその誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、アクリル樹脂などの樹脂を含むスラリーが含浸又は塗工してなるセパレータが開示されている。
このようなセパレータによれば、極細繊維同士の交点及び/又は極細繊維と溶剤紡糸セルロース繊維の交点がポリオレフィンで接着されることによって、耐水性に優れ、フィラー粒子を含有する水性塗液の裏抜けがなく、塗工する際に基材が破れることや切断することがなく、塗工性に優れる。また、基材に大きな貫通孔がないため、フィラー粒子が基材内部に充填されて基材の空隙を閉塞することがなく、且つ、基材表面及び内部を皮膜で覆うことがないため、水性塗液の濡れ性が良い。さらに耐リチウムデンドライト性、耐熱性に優れ、かつ、リチウム析出時にはリチウム金属が貫通しにくいセパレータおよびそれを備えた二次電池を提供することができると記載されている。
特許文献2では、ビニルアルコール系共重合体とアクリル系モノマーを主成分とする共重合性モノマーを重合してなる合成樹脂の水性エマルジョンを塗工したセパレータが開示されている。
このようなセパレータにおいては、ドライヒートプレスによりセパレータと電極が良好に接着するため、電池製造歩留まりの向上が期待される。
特開2012−221818号公報 国際公開第2012/165578号パンフレット
しかしながら、特許文献1に記載のセパレータでは、スラリー中のフィラー粒子の基材内部への侵入はある程度制御できるが、一方でスラリー中に含まれる結着材の役割を持った樹脂成分の侵入までは制御できないため、基材中に前記樹脂成分が入り込みすぎる場合があり、電極との接着性に必要な樹脂成分が基材表面に少なくなることで、電極との接着力が低くなる場合があった。
また、特許文献2に記載のセパレータでは、セパレータに水性エマルジョンを塗工することで、セパレータの表面孔が閉塞してしまう場合があった。その場合、せっかくドライヒートプレスによりセパレータと電極を接着させても、電池の内部抵抗を増加させてしまう問題があった。
上記の通り、二次電池の製造工程における熱プレス工程によって電極とセパレータの接着性が求められる。また優れた電池特性も求められており、接着性と電池特性の両立が必要である。
本発明の目的は、上記問題に鑑み、電極との接着性を有し、かつ優れた電池特性を有する多孔複合フィルムを提供することである。
また、本発明の目的は、当該多孔複合フィルムをセパレータとして用いた電気化学素子を提供することである。
本発明は、前記課題を解決するために、以下の構成を満たす。
<1>ポリオレフィンを含む多孔質基材を有し、前記多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を積層した、次のa)〜c)を満たす多孔複合フィルム。
a)前記多孔質層がフッ素含有樹脂を含む。
b)前記多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、前記多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率が、8重量%以上、21重量%以下である。
c)前記多孔質基材の単位cm辺りの空孔体積が、0.000370cm以上、0.000430cm以下である。
<2>前記多孔質層が二酸化チタン、アルミナ及びベーマイトからなる群より選択された少なくとも一種を含む、<1>に記載の多孔複合フィルム。
<3>前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン単位を含む重合体である、<1>又は<2>に記載の多孔複合フィルム。
<4>正極、負極及び前記正極と前記負極との間に介されたセパレータを含む電極組立体と、前記電極組立体を収容する電池ケースとを備えた電気化学素子であって、
前記セパレータが、<1>〜<3>のいずれか一つに記載の多孔複合フィルムである、電気化学素子。
<5>リチウム二次電池である、<4>に記載の電気化学素子。
本発明の多孔複合フィルムは、正極、負極及び該正極と負極との間に介されたセパレータとを含む電極組立体と、前記電極組立体を収容する電池ケースとを備えた電気化学素子のセパレータとして好適である。
すなわち、多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率、及び多孔質基材の空孔体積が特定の範囲であることから、ドライヒートプレスによる電極との接着性に優れ、電池の製造工程において電極と位置ずれしにくくなり、電池の製造歩留りを向上させることができると同時に、優れた透気性を有し、優れた電池特性を発現できる。
以下、本発明を詳しく説明する。本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されるべきものではなく、本発明の技術的思想に符合する意味と概念に沿って解釈されるべきものである。
(多孔質基材)
本発明の多孔複合フィルムは、多孔質基材を有する。
多孔質基材は、ポリオレフィンを含む必要がある。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、及びポリペンテン等で形成された多孔質基材を使用することが好ましい。
多孔質基材の形態としては、フィルム形態が好ましい。多孔質基材の厚さは特に制限されないが、5〜30μmが好ましく、多孔質基材の空孔率は12〜86体積%であることが好ましく、13〜85体積%であることがより好ましい。多孔質基材がこのような厚み、空孔率を有することにより、十分な機械的強度と絶縁性が得られ、また十分なイオン電導性を得ることが出来る。
なお、多孔質基材の厚さ、及び多孔質基材の空孔率の算出方法は実施例の項に後述する。
(多孔質基材の空孔体積)
本発明では、多孔質基材の空孔体積が0.000370cm以上、0.000430cm以下であることが必要である。
空孔体積が0.000370cm未満となると、多孔質基材へフッ素含有樹脂が浸透しにくくなるため、多孔質基材表層にフッ素含有樹脂が偏析することで、透気性が低くなり、レート特性を低下させる場合がある。一方、後述の通り、多孔質層のフッ素含有樹脂はドライヒートプレスを行った際に電極と接着する重要な要素である。したがって、0.000430cmを超えると、多孔質基材内部へ浸透しやすくなることで、多孔質層に存在するフッ素含有樹脂の量が相対的に減少し、ドライヒートプレスを行った際の電極との接着力が低下することがあり、電池の製造工程において電極と位置ずれしやすくなり、電池の製造歩留りが低下する場合がある。
空孔体積は透気性とレート特性の観点から、0.000383cm以上が好ましく、電池の歩留まり向上の観点から、0.000425cm以下が好ましい。
なお、空孔体積は実施例の項に後述する通り、多孔質基材のフィルム面方向1cm辺りの多孔質基材の体積(cm)と空孔率(体積%)より算出することができる。
(多孔質基材の表面開孔径)
多孔質基材の表面開孔径は70〜96nmであることが好ましく、72〜93μmであることがより好ましい。前記範囲にすることで、後述の多孔質基材内部のフッ素含有樹脂の含有率を好適な範囲に保つことができる。
なお、多孔質基材の表面開孔は、取得した表面SEM画像を画像処理することによって求めることができる。詳細を以下に記載する。
〈SEM測定条件〉
・測定装置SEM:日立ハイテク製超高分解能分析走査電子顕微鏡 FE−SEM SU−70
・加速電圧:5.0kV
・エミッション電流:31μA
・測定倍率:10000倍
・測定画素数:1280×900ピクセル
・測定モード:LEI
〈画像処理〉
上記で得られたSEM画像について、画像解析ソフトHALCON(Ver.13.0,MVtec社製)にて読み込みを行い、画像のノイズ除去(平均化による平滑化、mean_image、ローパスマスクの幅:3/ローパスマスクの高さ:3)を行った画像について2値化処理を実施した。
なお、ノイズ除去で使用した平均化による平滑化「mean_image」はHALCONに含まれる画像処理プログラムである。
2値化について上記ノイズ除去の処理を行った画像について2値化処理(dyn_threshold、入力画像:上記のノイズ除去した画像/閾値画像:画像処理(mean_image、ローパスマスクの幅:21/ローパスマスクの高さ:21)にて取得した閾値画像/オフセット:30/どの領域を抽出するかの選択:dark)にて画像領域のピクセルが入力画像から選択され、上記2値化の閾値条件を満たした抽出されたピクセルを連結し、連結によってピクセル数として解され値を全て出力した。この出力された値の一つひとつが表面SEMの画像上で基材のフィブリルが存在しない領域、すなわち孔を表した領域となる。
なお、2値化処理の「dyn_threshold」はHALCONに含まれる画像処理プログラムである。
前述で得られた基材の孔の個々のピクセル数として解された値について、表面SEMのスケールバーを用いてnmに換算した。換算した基材の孔の個々の面積(S、nm)について、孔を円とみなし、以下の式(1)で孔の表面開孔径(R、nm)算出した。
R=2×(S/3.14)0.5・・・(1)
さらに、前述で得られた基材の孔の一つひとつの表面開孔径(Ra、Rb・・・、Rn)に関して、以下式(2)に示す算術平均することで得られた平均孔径を、多孔質基材の表面開孔径(Rav)とした。
Rav=(Ra+Rb+・・・+Rn)/n・・・(2)
(多孔質層)
多孔質基材の少なくとも片面には、多孔質層が積層している。多孔質層は、フッ素含有樹脂を含むことが必要であり、好ましくは無機粒子も含んでいる。
本発明では、前述のごとく多孔質基材は、ポリオレフィンを含む。しかし、ポリオレフィンを含む多孔質基材は、材料的特性と延伸を含む製造工程上の特性によって100℃以上の温度で激しい熱収縮挙動を見せる。本発明では、この熱収縮挙動を抑制するため、多孔質基材の少なくとも片面に、上述した多孔質層を有する。
多孔質層が無機粒子を含む場合は、フッ素含有樹脂は無機粒子が互いに結着された状態を維持できるように、これらを互いに付着(すなわち、フッ素含有樹脂が無機粒子の間を連結及び固定)させている。多孔質層に含まれる無機粒子は、実質的に互いに接触した状態で充填された構造として存在し、無機粒子が実質的に互いに接触された状態で形成される空き空間が多孔質層の空孔になる。
(フッ素含有樹脂)
多孔質層に含まれるフッ素含有樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体(即ちポリフッ化ビニリデン);フッ化ビニリデンと他の共重合可能なモノマーとの共重合体(ポリフッ化ビニリデン共重合体);これらの混合物;が挙げられる。
フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニル、トリクロロエチレン等が挙げられ、1種類又は2種類以上を用いることができる。
中でも、電極に対する接着性および多孔質層を適度に強固にできる観点から、VDF−HFP共重合体および/又はVDF−CTFE共重合体が好ましい。
なお、ここで言う「VDF」はフッ化ビニリデン単量体成分を、「HFP」はヘキサフルオロプロピレン単量体成分を、「CTFE」はクロロトリフルオロエチレン単量体成分を指しており、例えば「VDF−HFP共重合体」とはフッ化ビニリデン単量体成分及びヘキサフルオロプロピレン単量体成分を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を意味している。
ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンをフッ化ビニリデンと共重合することで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶性、耐熱性、電解液に対する耐溶解性などを適度な範囲に制御できる。
VDF−HFP共重合体においては、HFP単量体成分のモル比が3〜30%であり、且つ、重量平均分子量(Mw)が10万〜150万であることが好ましい。共重合体の物性がかかる範囲であることにより、ドライヒートプレスを行った際のポリマー鎖の運動性が高く、電極表面の凹凸にポリマー鎖が入り込んでアンカー効果が発現し、電極に対する多孔質層の接着を向上させ得る他、この観点から、VDF−HFP共重合体のHFP単量体成分のモル比は、5%以上がより好ましく、7%以上がさらに好ましい。
VDF−HFP共重合体のHFP単量体成分のモル比が30%以下であると、電解液に溶解しにくく過度に膨潤することもないので、電池内部において電極と多孔質層との接着が保たれ得る。この観点から、VDF−HFP共重合体のHFP単量体成分のモル比は、25%以下がより好ましい。
VDF−HFP共重合体のMwが10万以上であると、多孔質層が電極との接着処理に耐え得る力学特性を確保でき、電極との接着が向上し得る。また、VDF−HFP共重合体のMwが10万以上であると、電解液に溶解しにくいので、電池内部において電極と多孔質層との接着が保たれ易くなる。これらの観点から、VDF−HFP共重合体のMwは、20万以上がより好ましい。
VDF−HFP共重合体のMwが150万以下であると、多孔質層の塗液層成形に用いられる塗液の粘度が高くなり過ぎず、多孔質基材へのフッ素含有樹脂の浸透性を確保でき、その結果として、透気性及び電池特性が良好となる。また、VDF−HFP共重合体のMwが150万以下であると、ドライヒートプレスを行った際のポリマー鎖の運動性が高くなり、電極表面の凹凸にポリマー鎖が入り込んでアンカー効果が発現し、電極に対する多孔質層の接着を向上させ得る。これらの観点から、VDF−HFP共重合体のMwは、100万以下がより好ましく、50万以下がさらに好ましい。
VDF−CTFE共重合体においては、CTFE単量体成分のモル比が5〜30%であり、且つ、重量平均分子量(Mw)が10万〜150万であることが好ましい。共重合体の物性がかかる範囲であることにより、ドライヒートプレスを行った際のポリマー鎖の運動性が高く、電極表面の凹凸にポリマー鎖が入り込んでアンカー効果が発現し、電極に対する多孔質層の接着を向上させ得る。また、強固な多孔質層を形成できる。この観点から、VDF−CTFE共重合体のCTFE単量体成分のモル比は、7%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。
VDF−CTFE共重合体のCTFE単量体成分のモル比が30%以下であると、電解液に溶解しにくく過度に膨潤することもないので、電池内部において電極と多孔質層との接着が保たれ得るし、孔部分を過度に埋めてしまうことがない。
VDF−CTFE共重合体のMwが10万以上であると、多孔質層が電極との接着処理に耐え得る力学特性を確保でき、電極との接着が向上し得る。また、VDF−CTFE共重合体のMwが10万以上であると、電解液に溶解しにくいので、電池内部において多孔質層を強固なまま維持できる。これらの観点から、VDF−CTFE共重合体のMwは、15万以上がより好ましく、20万以上がさらに好ましい。
VDF−CTFE共重合体のMwが150万以下であると、多孔質層の塗液層成形に用いられる塗液の粘度が高くなり過ぎず、多孔質基材へのフッ素含有樹脂の浸透性を確保でき、その結果として、透気性及び電池特性が良好となる。また、VDF−CTFE共重合体のMwが150万以下であると、ドライヒートプレスを行った際のポリマー鎖の運動性が高くなり、電極表面の凹凸にポリマー鎖が入り込んでアンカー効果が発現し、電極に対する多孔質層の接着を向上させ得る。これらの観点から、VDF−CTFE重合体のMwは、100万以下がより好ましい。
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やVDF−HFP共重合体、VDF−CTFE共重合体を製造する方法としては、乳化重合や懸濁重合が挙げられる。また、共重合単位の含有量及び重量平均分子量を満足する市販の重合体を選択することも可能である。
(多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率)
多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率は8重量%以上、21重量%以下であることが必要である。
多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率が8重量%未満となると、多孔質層-基材界面間に相分離によって偏在したフッ素含有樹脂が基材表面の開孔を塞ぐことで透気性が悪化し、レート特性を低下させる。一方で、上述したように、フッ素含有樹脂はドライヒートプレスを行った際に電極と接着する重要な要素である。詳しいメカニズムは解明されていないが、フッ素樹脂の含有率が21重量%を超えると、多孔質層に存在するフッ素含有樹脂の量が相対的に減少することで、ドライヒートプレスを行った際の電極との接着力が低下すると考えられ、電池の製造工程において電極と位置ずれしやすくなり、電池の製造歩留りが低下する場合がある。
多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率は、透気性とレート特性の観点から、11重量%以上が好ましい。また、電池の製造歩留りの観点から、フッ素含有樹脂の含有率は18重量%以下が好ましい。
なお、多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率は、実施例の項に後述する通り、取得した断面SEM−EDXのフッ素マッピングの数値データから算出することができる。
(無機粒子)
本発明では、多孔質層の強度を担保するため、多孔質層中に無機粒子を含むことが好ましい。無機粒子としては、電気化学的に安定さえしていれば特に制限されない。
即ち、本発明で使用できる無機粒子は、使用される電気化学素子の作動電圧範囲(例えば、Li/Li基準で0〜5V)で酸化及び/又は還元反応が起きないものであれば特に制限されないが、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、ゼオライト、硫化モリブデン、ベーマイト等が挙げられる。特に、フッ素含有樹脂の結晶成長性、コスト、入手のしやすさから二酸化チタン、アルミナ、ベーマイトからなる群から選ばれる1種以上を含むことが好適である。
無機粒子の形状は真球形状、略球形状、板状が挙げられるが特に限定されない。
無機粒子の含有量の下限は、フッ素含有樹脂と無機粒子との合計に対して、50質量%以上が好ましく、より好ましくは70質量%以上であり、上限は90質量%以下が好ましい。無機粒子の含有量がこの範囲であると、多孔質層の強度が適度に保たれる。
無機粒子の数平均粒径は、上述の多孔質基材の表面細孔径の1.5倍以上、50倍以下であることが好ましい。より好ましくは2.0倍以上、20倍以下である。無機粒子の平均粒径が上記好ましい範囲内であると、バインダー高分子と無機粒子が混在した状態でセパレータの細孔を塞ぐことなく透気抵抗度を維持し、さらに電池組み立て工程において前記粒子が脱落し、電池の重大な欠陥を招くのを防ぐ。
(多孔質層の物性)
多孔質層の膜厚は、多孔質基材の片面当たり2〜10μmが好ましく、より好ましくは3〜8μm、さらに好ましくは4〜6μmである。多孔質基材の片面あたり膜厚が2μm以上であれば、前述した多孔質基材へのフッ素含有樹脂の含有率の効果が十分に発現できる。多孔質基材の片面あたり膜厚が10μm以下であれば、巻き嵩を抑えることができ、今後、進むであろう電池の高容量化に適する。
(多孔複合フィルムの物性)
本発明の多孔複合フィルムの透気度は、400〜950秒/100ccの範囲で取りうる。
(多孔複合フィルムの製造方法)
本発明の多孔複合フィルムの製造方法について説明する。
1.多孔質基材の製造
本発明で用いられる、ポリオレフィンを含む多孔質基材の製造方法としては、所望の特性を有する多孔質基材が製造できれば、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、日本国特許第2132327号明細書及び日本国特許第3347835号公報、国際公開WO2006/137540号等に記載された方法を用いることができる。具体的には、下記の工程(i)〜(v)を含むことが好ましい。
(i)ポリオレフィンと成膜用溶剤とを溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する工程
(ii)前記ポリオレフィン溶液を押出し、冷却しゲル状シートを形成する工程
(iii)前記ゲル状シートを延伸する第1の延伸工程
(iv)前記延伸後のゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程
(v)前記成膜用溶剤除去後のシートを乾燥する工程
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
(i)ポリオレフィン溶液の調製工程
ポリオレフィンに、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば日本国特許第2132327号明細書及び日本国特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。
ポリオレフィン溶液中、ポリオレフィンと成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されないが、ポリオレフィン20〜30質量部に対して、成膜溶剤70〜80質量部であることが好ましい。ポリオレフィンと成膜用溶剤との配合割合が上記範囲内であると、ポリオレフィン溶液を押し出す際にダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体(ゲル状成形体)の成形性及び自己支持性が良好となる。
(ii)ゲル状シートの形成工程
ポリオレフィン溶液を押出機からダイに送給し、シート状に押し出す。同一又は異なる組成の複数のポリオレフィン溶液を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140〜250℃好ましく、押出速度は0.2〜15m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば日本国特許第2132327号明細書及び日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号明細書及び日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却速度が上記範囲内であると結晶化度が適度な範囲に保たれ、延伸に適したゲル状シートとなる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。
(iii)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば、同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよい。
本工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。また、機械方向(MD)及び幅方向(TD)での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。なお、本工程における延伸倍率とは、本工程直前のゲル状シートを基準として、次工程に供される直前の微多孔性基材の面積延伸倍率のことをいう。
本工程の延伸温度は、ポリオレフィンの結晶分散温度(Tcd)〜Tcd+30℃の範囲内にするのが好ましく、Tcd+5℃〜Tcd+28℃の範囲内にするのがより好ましく、Tcd+10℃〜Tcd+26℃の範囲内にするのが特に好ましい。例えば、ポリエチレンの場合は、延伸温度を90〜140℃とするのが好ましく、より好ましくは100〜130℃にする。結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。
以上のような延伸により、例えばポリオレフィンとしてポリエチレンを用いた場合、ポリエチレンラメラ間に開裂が起こり、ポリエチレン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成し、ゲル状シートは微多孔質基材となる。延伸により機械的強度が向上するとともに表面や内部の孔が拡大するが、適切な条件で延伸を行うと、貫通孔径を制御し、さらに薄い膜厚でも高い空孔率を有することが可能となる。
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより機械的強度に優れた微多孔性基材が得られる。その方法の詳細は日本国特許第3347854号公報に記載されている。
(iv)成膜用溶剤の除去工程
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。ポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する空孔を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒及びこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号明細書や特開2002−256099号公報に開示の方法を利用することができる。
(v)乾燥工程
成膜用溶剤を除去した多孔質基材を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度はポリオレフィンの結晶分散温度(Tcd)以下であることが好ましく、特にTcdより5℃以上低いことが好ましい。
乾燥は、多孔質基材を100質量%(乾燥重量)として、残存洗浄溶媒が5質量%以下になるまで行うのが好ましく、3質量%以下になるまで行うのがより好ましい。残存洗浄溶媒が上記範囲内であると、さらに微多孔性基材の第2の延伸工程及び熱処理工程を行ったときに多孔質基材の空孔率が維持され、透過性の悪化が抑制される。
2.塗液の調製
塗液の調製方法は、以下の工程(a1)を含む。また、塗液の調製方法は、以下の工程(b1)を含むことが好ましい。なお、以下の説明は、フッ素含有樹脂としてVDF−HFP共重合体とVDF−CTFE共重合体用いる場合について説明したものである。
(a1)VDF−HFP共重合体とVDF−CTFE共重合体を溶媒に溶解し、塗液を得る工程
(b1)塗液に無機粒子を添加し、混合する工程
(a1)塗液を得る工程
溶媒はVDF−HFP共重合体とVDF−CTFE共重合体を溶解でき、また後述する乾燥工程(c2)にて除去可能なものであれば、特に限定されない。溶解性、揮発性の高さ、及び多孔質基材へのフッ素含有樹脂の浸透性の観点から、溶媒はテトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトンが好ましく、アセトンがより好ましい。
VDF−HFP共重合体とVDF−CTFE共重合体を溶媒に加え、ディスパーなどで撹拌することで溶解させ、塗液(フッ素含有樹脂溶液)を得る。
(b1)無機粒子を添加する工程
上記で得られた塗液に、撹拌しながら無機粒子を添加して一定の時間(例えば、約1時間)ディスパーなどで撹拌することで予備分散し、さらにビーズミルやペイントシェーカーを用いて粒子を分散させる工程(分散工程)を経て、塗液に無機粒子を分散させる。
なお、(a1)または(b1)の工程においては、本発明の目的を阻害しない範囲で添加剤や分散剤、他の高分子材料等を加えてもよい。
塗液の粘度は、3cP以上、50cP以下であることが好ましく、5cP以上、35cP以下であることがより好ましく、8cP以上、25cP以下であることがさらに好ましい。粘度が50cPを超えると、高速塗工に適さなくなり生産性が悪化する場合がある。また、物質移動速度が遅くなり、多孔質基材へのフッ素含有樹脂の浸透性が低下しすぎる場合がある。塗液が低粘度であれば高速塗工に適するため好ましいが、例えば安定な塗液層形成の観点から3cPを下回らないことが好ましい。
3.多孔質層の形成
多孔質層の形成方法は、次の工程を有することが好ましい。
(a2)塗液を多孔質基材の少なくとも片面に塗工して塗液層を形成する工程
(b2)塗液層が形成された多孔質基材を加湿された雰囲気にばく露する工程
(c2)溶媒を乾燥する工程
(a2)塗液を多孔質基材の少なくとも片面に塗工して塗液層を形成する工程
塗液を多孔質基材に塗工する方法は、公知の方法が用いられる。例えば、ディップ・コート法、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトメタリングバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法およびダイコート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて用いることができる。特に、粘度が3cP以上、50cP以下の塗液を連続的かつ例えば塗工速度50m/min以上で高速塗工する場合は、リバースロール・コート法、ワイヤーバーコート法、ダイレクトメタリングバーコート法、ダイコート法などが好ましい。
上記塗液層の厚みは、片面当たり20μm以上、40μm以下であることが好ましく、25μm以上、38μm以下であることがより好ましく、28μm以上、36μm以下であることがさらに好ましい。
塗液層の厚みが20μm以上であると、本発明に記載する基材にフッ素含有樹脂が浸透した(含有される)構造をとりやすくなる。また、塗液層の厚みが40μm以下であると、多孔質層が過度に厚くならず、多孔質層と多孔質基材との密着を確保できる。
なお、塗液層の厚みは、後述の方法で算出した。
(塗液層の厚み)
塗液層の厚みは塗液層目付(g/cm)を塗液比重(g/cm)で除すことで求めることで求めることができる。両面に塗工する場合、例えば表裏対象の塗液量を塗工する場合は、塗液層目付(g/cm)を塗液比重(g/cm)で除して求めた両面の合計の塗液層厚みを2で除すことで片面当たりの塗液層の厚みを算出することができる。
なお、上記で求まる厚みはcm単位のため、単位換算することでμm(10−4cm)に変換できる。塗液層目付と塗液比重の求め方を後述する。
(塗液層目付)
塗液層目付(WAt、g/cm)は、多孔複合フィルムの目付(g/cm)から多孔質基材の目付(g/cm)を引いて求めた塗液固形成分目付(WAs、g/cm)と、塗液固形成分濃度(Cs、質量%)より、以下式(3)から、塗液層目付(WAt)を算出した。
WAt=100×WAs/Cs・・・(3)
なお、多孔複合フィルムの目付と多孔質基材の目付は、5cm角にカットした多孔複合フィルム及び多孔質基材サンプルを各々用意し、精密天秤(有効数字〇.〇〇〇〇g)にて各々重量を測定し、その重量を25cmで除すことで算出した。
(塗液比重)
塗液の比重(g/cm)は、アルキメデス法を用い、25℃での塗液の比重を測定した。すなわち、適切に選んだ塗液を空気中と水中に浸かっている状態(浮力)で秤量し、空気中の質量を浮力で除することによって比重を求めた。
(b2)塗液層が形成された多孔質基材を加湿された雰囲気にばく露する工程
塗液を塗工後、塗液層が形成された多孔質基材を加湿された雰囲気にばく露することが好ましい。
このときの温度は25℃以上55℃以下であることが好ましく、時間は2秒以上10秒以下あることが好ましく、絶対湿度量は10g/m以上、25g/m以下であることが好ましい。
上記絶対湿度量を10g/m〜25g/mの範囲にすると、多孔質層適度に通気性がある構造にすることができ、本発明の効果を十分に発揮することができる。
(c2)溶媒を乾燥する工程
溶媒を乾燥する方法は熱ロールによる乾燥法、送風による乾燥法、乾燥炉による乾燥法等が挙げられ、特に限定されないが、乾燥温度は25℃以上55℃以下であることが好ましい。乾燥温度が25℃を下回ると溶媒の乾燥に時間を要し、生産性が悪化する場合がある。乾燥温度が55℃を上回ると、多孔複合フィルムが過度に収縮してしまう場合がある。
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、電極組立体と、電極組立体を収容する電池ケースとを備える。
電極組立体は、正極、負極、及び正極と負極との間に介されたセパレータを含む。
本発明の多孔複合フィルムは、上記セパレータに好適に用いることができる。
このような電気化学素子としては、例えば、一次電池、二次電池、電気二重層キャパシタ、アルミ電解コンデンサ等が挙げられる。
一次電池としては、例えば、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、フッ化黒鉛・リチウム電池、二酸化マンガン・リチウム電池、固体電解質電池、注水電池、熱電池等が挙げられる。
二次電池としては、例えば、リチウム二次電池、鉛蓄電池、ニッケル・カドニウム電池、ニッケル・水素電池、ニッケル・鉄蓄電池、酸化銀・亜鉛蓄電池、二酸化マンガン・リチウム二次電池、コバルト酸リチウム・炭酸系二次電池、バナジウム・リチウム二次電池等が挙げられる。
これらの中でも、長期に利用できることから、二次電池が好ましく、有機溶媒を利用することにより高エネルギー密度を実現しているリチウム二次電池がより好ましい。
電池ケースとしては、例えば、アルミニウム製のケース、内面がニッケルメッキされた鉄製のケース、アルミニウムラミネートフィルムからなるケース等を用いることができる。
電池ケースの形状は、パウチ型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。これらの中でも、高エネルギー密度を実現でき、低コストで自由に形状を設計できることから、パウチ型が好ましい。
正極は、活物質、バインダー樹脂、および導電助剤からなる正極材が集電体上に積層されたものである。
活物質としては、LiCoO、LiNiO、Li(NiCoMn)Oなどの層状構造のリチウム含有遷移金属酸化物、LiMnなどのスピネル型マンガン酸化物、およびLiFePOなどの鉄系化合物などが挙げられる。
バインダー樹脂としては、耐酸化性が高い樹脂を使用すればよい。具体的には、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂などが挙げられる。
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛などの炭素材料などが挙げられる。
集電体としては、金属箔が好適であり、特にアルミニウムが用いられることが多い。
負極は、活物質およびバインダー樹脂からなる負極材が集電体上に積層されたものである。
活物質としては、人造黒鉛、天然黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどの炭素材料、スズ、シリコンなどのリチウム合金系材料、リチウムなどの金属材料、およびチタン酸リチウム(LiTi12)などが挙げられる。
バインダー樹脂としては、フッ素含有樹脂、アクリル樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂などが挙げられる。
集電体としては、金属箔が好適であり、特に銅箔が用いられることが多い。
本発明の電気化学素子は、電解液を含有することが好ましい。電解液は、二次電池等の電気化学素子の中で正極と負極との間でイオンを移動させる場となっており、電解質を有機溶媒にて溶解させた構成をしている。
電解質としては、LiPF、LiBF、およびLiClOなどが挙げられるが、有機溶媒への溶解性、イオン電導度の観点からLiPFが好適に用いられている。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートなどが挙げられ、これらの有機溶媒を2種類以上混合して使用してもよい。
以下、電気化学素子の中でも好ましく用いられるリチウム二次電池の作製方法について説明する。
リチウム二次電池の作製方法としては、まず活物質と導電助剤をバインダー樹脂溶液中に分散して電極用塗布液を調製し、この塗布液を集電体上に塗布して、溶媒を乾燥させることで正極、負極がそれぞれ得られる。乾燥後の塗布膜の膜厚は50μm以上500μm以下とすることが好ましい。
得られた正極と負極の間にリチウム二次電池用セパレータを、それぞれの電極の活物質層と接するように配置し、アルミラミネートフィルム等の外装材に封入し、電解液を注入後、負極リードや安全弁を設置し、外装材を封止する。
このようにして得られたリチウム二次電池は、電極との接着性が高く、かつ優れた電池特性を有し、また、低コストでの製造が可能となる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されるものではない。
[実施例1]
(塗液の調製)
VDF−HFP共重合体(HFP単量体成分のモル比7%、重量平均分子量25万)2.6g、VDF−CTFE共重合体(CTFE単量体成分のモル20%比、重量平均分子量25万)0.7gを83.8gのアセトンに添加し、ディスパーで撹拌し溶解させた。ここに、アルミナ(平均粒径0.5μm)11gとベーマイト(平均粒径0.4μm)1.9gを添加し、ボールミル法を利用して無機物粉末を破砕及び分散して塗液(スラリー)を製造した。
得られた塗液の粘度μ(cP)を、粘度計(BROOKFIELD社製DV−I PRIME)を用い、25℃で測定した。
得られた塗液の粘度は20cPであった。
(多孔複合フィルムの製造)
厚さ9μm、空孔体積0.000429cmのポリエチレン製多孔質基材を用意し、一対のワイヤーバー(番手#22)を10μmのクリアランスで退治させ、次いで、ワイヤーバーに前述の塗液を適量のせ、一対のマイヤーバー間に長尺状の多孔質基材を通過させることにより、多孔質基材の両面に塗液を塗工した。塗工後速やかに温度40℃、絶対湿度量11g/mの環境に4秒ばく露し、その後45℃の温風にて送風乾燥することにより、多孔複合フィルムを得た。
(電池の作製)
〈電解液の作製〉
エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(MEC):ジエチルカーボネート(DEC)=3:5:2(体積比)で混合した溶媒を調製した。当該溶媒にLiPF(ヘキサフルオロリン酸リチウム)とVC(ビニレンカーボネート)を添加し、LiPF濃度1.15mol/L及びVC濃度0.5質量%の電解液を調製した。
〈正極の作製〉
コバルト酸リチウム(LiCoO)にアセチレンブラック黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを加え、N−メチル−2−ピロリドン中に分散させてスラリーにした。このスラリーを、厚さ20μmの正極集電体用アルミニウム箔の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形して、集電体を除いた正極層の密度が3.6g/cmの帯状の正極を作製した。
〈負極の作製〉
カルボキシメチルセルロースを1.0質量部含む水溶液を人造黒鉛96.5質量部に加えて混合し、さらに固形分として1.0質量部のスチレン―ブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーを形成した。この負極合剤含有スラリーを、厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形して、集電体を除いた負極層の密度が1.5g/cmの帯状の負極を作製した。
〈扁平捲回型電池の作製〉
上記の正極、実施例1で得られた多孔複合フィルム、及び上記の負極を積層した後、扁平状の巻回電極体(高さ2.2mm×幅32mm×奥行32mm)を作製した。この扁平状の巻回電極体の各電極へ、シーラント付タブを溶接し、正極リード、負極リードとした。
次に、扁平状の巻回電極体部分をアルミラミネートフィルムで挟み、一部開口部を残してシールし、これを真空オーブンにて60℃で12時間乾燥した。乾燥後、速やかに電解液を0.75mL注液し、真空シーラーでシールした。
続いて、得られた電池の充放電を実施した。充放電条件は300mAの電流値で、電池電圧4.35Vまで定電流充電した後、電池電圧4.35Vで15mAになるまで定電圧充電を行った。10分の休止後、300mAの電流値で電池電圧3.0Vまで定電流放電を行い、10分休止した。以上の充放電を3サイクル実施し、電池容量300mAhの扁平捲回型電池(試験用二次電池)を作製した。
実施例1の多孔複合フィルムについて、以下の測定を行った。結果を表1に示す。
[測定法]
(多孔質基材、多孔複合フィルム、多孔質層の厚み)
接触式膜厚計((株)ミツトヨ製「ライトマチック」(登録商標)series318)を使用して各厚みを測定した。測定は、超硬球面測定子φ9.5mmを用いて、加重0.01Nの条件で20点を測定し、得られた測定値の平均値を、多孔質基材または多孔複合フィルムの膜厚とした。
多孔質層の厚みt(μm)は、以下の式(4)を用いて計算した。
t=多孔複合フィルムの厚み(t)−多孔質基材の厚み(t)・・・(4)
(多孔質基材の空孔率)
多孔質基材を30mm×40mmの大きさに切取り試料フィルムとした。電子比重計(ミラージュ貿易(株)製SD−120L)を用いて、室温23℃、相対湿度65%の雰囲気にて比重の測定を行った。測定を3回行い、平均値をその多孔質基材の比重ρとした。次いで、測定した試料フィルムを200℃、5MPaで熱プレスを行い、その後、25℃の水で急冷して、空孔を完全に消去したシートを作製した。このシートの比重を上記した方法で同様に測定し、平均値の比重(d)とした。多孔質基材の比重(ρ)と熱プレス後のシートの比重(d)から、以下の式(5)により空孔率(ε(体積%))を算出した。
ε = {( d − ρ ) / d } × 100・・・(5)
(空孔体積)
空孔体積は多孔質基材のフィルム面方向1cm辺りの多孔質基材の体積(cm)をV、空孔率をεとしたとき、以下の式(6)で求められる値(Vp(cm))である。なお、空孔率の算出方法は上述に記載の通りである。
Vp=V×(ε/100)・・・(6)
一方、多孔質基材のフィルム面方向1cm辺りの多孔質基材の体積(V(cm))は、多孔質基材の厚み(cm)と多孔質基材のフィルム面方向の面積1cmの積で求めた。
(透気度)
多孔質複合フィルム試料をフィルム面方向に1辺の長さが10.0cmの正方形に3枚切り出し、3枚からそれぞれ無作為に抽出した一箇所を選び、王研式透気度測定装置(旭精工(株)社製EG01−5−1MR)を用いて、JIS P 8117(2009)に準拠して測定し、その平均値を多孔複合フィルムの透気度(秒/100cm)とした。
(多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率測定)
断面SEM−EDXで得られた多孔複合フィルム断面のフッ素(F)マッピング数値データから算出した。詳細を以下に記載する。
〈断面SEM−EDX測定〉
多孔複合フィルム試料からフィルム面方向に1辺の長さが0.5cmの正方形の小片を切り出し、多孔質基材面と垂直方向(ZD)、且つ機械方向(MD)にクライオBIB法(日本電子(株)社製IB−19520CCP)によって断面だしを施した多孔複合フィルムの断面(すなわちMD−ZD面)を以下に示す条件にて、大気暴露下でセパレータ断面SEM−EDXを、場所を変えて10視野測定した。
なお、視野は長方形であり、視野に写る断面は多孔複合フィルムの厚み方向全てが視野に入っており、且つ、視野の長辺と多孔質基材底面が平行になるように撮像した。
〈SEM−EDX測定条件〉
・測定装置SEM:日立ハイテクノロジー製電解放出型走査型電子顕微鏡 FE−SEM S−4800、EDX:Bruker AXS製 QUANTAX FLAT QUAD System Xflash 5060FQ
・加速電圧:3.5kV
・エミッション電流:10μA
・測定倍率:2000倍
・電子線入射角度:0°
・X線取出角度:35°〜
・デッドタイム:1%
・マッピング元素:F
・測定画素数:600×450ピクセル
・測定時間:600sec.
・明るさ:最大輝度に達する画素がなく、明るさの平均値が輝度40%〜60%の範囲に入るように輝度及びコントラストを調整
〈フッ素マッピングの数値データから多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率の算出方法〉
上述より得られた各ピクセル毎(600×450ピクセル)のフッ素(F)強度の数値データ(フッ素マッピングの数値データ)に関して、後述の手順(W〜Z)に従って含有率を算出した。断面SEM−EDXは10視野測定しているため、後述の手順(W〜Z)を1視野毎に実施し、得られた含有率の算術平均を取ることで、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率を算出した。
(W)画像の短片側にあたる1ピクセル毎のフッ素強度を長辺方向に積算(600ピクセルの積算強度)した。
(X)多孔複合フィルムが存在しない領域の長辺方向の積算強度の算術平均をとり、その平均値をベースラインとして、(W)で算出した長辺方向の積算強度からその平均値を差し引くことでオフセットをした。
(Y)(X)の処理を実施した長手方向の各積算強度について、多孔質層及び、多孔質基材の領域に相当する部分をそれぞれ割り振って積算し、多孔質層及び多孔質基材のフッ素の積算強度をそれぞれ出した。
(Z)多孔質層の積算強度(Aip)多孔質基材の積算強度(Ais)について、以下の式(7)で多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率(Cfa(重量%))を求めた。
Cfa=(Aip/Aip+Ais)×100・・・(7)
(電極との接着力評価)
活物質がLiCoO、バインダー樹脂がポリフッ化ビニリデン樹脂、導電助剤がアセチレンブラックとグラファイトの正極15mm×100mmと、実施例1の多孔複合フィルムを、活物質と多孔質層が接触するように設置し、熱ロールプレス機にて0.5MPa、100℃、0.2m/分で熱プレスを行い、正極を20mm×110mmのステンレス板(厚み:1mm)に張り付けて固定し、フィルムを180°方向に剥離させ、フォースゲージを用いて接着強度を測定し、後述する3段階にて評価を行った。なお、実施例1では両面に多孔質層を設けているため、片面ずつ接着強度を測定し、どちらか小さく出た値を、その多孔複合フィルムの接着強度の値とした。
接着強度の評価は、下記基準に基づき行った。
○:強い力(80gf以上)で電極と多孔性フィルム側が剥離した。
△:やや強い力(75gf以上80gf未満)で電極と多孔性フィルムが剥離した。
×:弱い力(75gf未満)で電極と多孔性フィルムが剥離した。
(レート特性)
レート特性を下記手順にて試験を行い、放電容量維持率にて評価した。
上記で作製した扁平捲回型電池(1C=300mA)を用いて、25℃の雰囲気下、0.2Cで、電池電圧4.35Vまで定電流充電した後、0.5Cで電池電圧3.0Vまで定電流放電したときの放電容量と、25℃の雰囲気下、0.2Cで、電池電圧4.35Vまで定電流充電した後、5Cで放電したときの放電容量とを測定し、{(5Cでの放電容量)/(0.5Cでの放電容量)}×100で放電容量維持率を算出した。
上記扁平捲回型電池を5個作製し、放電容量維持率が最大、最小となる結果を除去した3個の測定結果の平均を放電容量維持率とした。
レート特性の評価は、下記基準に基づき行った。
○:放電容量維持率が65%以上であった。
△:放電容量維持率が55%以上65%未満であった。
×:放電容量維持率が55%未満であった。
[実施例2〜5及び比較例1、2]
多孔質基材の空孔体積を、表1に記載のとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして多孔複合フィルム及び電池を製造し、測定及び評価した。結果を表1に示す。
Figure 2021172043
表1から、実施例と比較例との対比から、空孔体積及び多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、多孔質基材の内部に含有されるフッ素樹脂の含有率が本発明で規定する範囲内であるものについて、電極との接着力が高いと同時に、透気性が高く、レート特性といった電池特性に優れていることがわかった。

Claims (5)

  1. ポリオレフィンを含む多孔質基材を有し、前記多孔質基材の少なくとも片面に多孔質層を積層した、次のa)〜c)を満たす多孔複合フィルム。
    a)前記多孔質層がフッ素含有樹脂を含む。
    b)前記多孔複合フィルムに含有されるフッ素含有樹脂に対する、前記多孔質基材の内部に含有されるフッ素含有樹脂の含有率が、8重量%以上、21重量%以下である。
    c)前記多孔質基材の単位cm辺りの空孔体積が、0.000370cm以上、0.000430cm以下である。
  2. 前記多孔質層が二酸化チタン、アルミナ及びベーマイトからなる群より選択された少なくとも一種を含む、請求項1に記載の多孔複合フィルム。
  3. 前記フッ素含有樹脂が、フッ化ビニリデン単位を含む重合体である、請求項1又は2に記載の多孔複合フィルム。
  4. 正極、負極及び前記正極と前記負極との間に介されたセパレータを含む電極組立体と、前記電極組立体を収容する電池ケースとを備えた電気化学素子であって、
    前記セパレータが、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔複合フィルムである、電気化学素子。
  5. リチウム二次電池である、請求項4に記載の電気化学素子。

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