≪第1実施形態≫
本発明に係る二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置及び判定方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る判定装置の一実施の形態を含む判定システムを示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る判定システムは、二次電池2の充放電を制御し、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定することで、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを、電池容量が大きく低下する前に通知するためのシステムである。判定システムは、判定装置1と二次電池2とを備える。なお、判定装置1は、図1には図示されていない充電装置等を含んでいてもよい。
判定装置1は、コントローラ10、電圧センサ11、電流センサ12、DCDCコンバータ13、及びディスプレイ14を備えている。コントローラ10は、バッテリーコントロールユニット(BCU)である。コントローラ10は、電圧センサ11により検出された検出電圧、及び/又は、電流センサ12により検出された検出電流に基づき、二次電池2の状態を管理しつつ、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性を事前に検知している。コントローラ10は、ROM又はRAMなどのメモリ、及び、CPUなどのプロセッサ等により構成されている。
電圧センサ11は、二次電池2の端子間の電圧を検出するためのセンサである。二次電池2の正極と負極に接続された配線の間に接続されている。電流センサ12は、二次電池2の入出力電流を検出するためのセンサである。電流センサ12は、二次電池2の正極又は負極に接続された配線に接続されている。電圧センサ11及び電流センサ12は電池の状態を検出しており、検出した値をコントローラ10に出力する。
DCDCコンバータ13は、二次電池2から入力される電圧を、所定の電圧に変換し、モータ等の負荷に電力を出力する電力変換装置である。また、DCDCコンバータ13は、モータ等の負荷又は充電装置から入力される電圧を、所定の電圧に変換し、二次電池2に電力を出力する電力変換装置でもある。DCDCコンバータ13は、コントローラ10により制御される。
ディスプレイ14は、二次電池2の状態をユーザに通知するための表示装置である。ディスプレイ14は、コントローラ10により制御される。コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、電池容量が大きく低下する可能性があることを知らせるための表示画面を、電池容量が大きく低下する前に、ディスプレイ14に表示させることで、ユーザに対して二次電池2の状態を通知する。
二次電池2は、たとえばリチウムイオン二次電池である。この種の二次電池2は、負極活物質として、リチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質を用いたものを例示することができる。このようなリチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質として、グラファイト構造を含有するグラファイト系活物質が好適である。そのため、以下に示す実施形態では、負極にグラファイトを使用したリチウムイオン二次電池を例示して本発明を説明する。正極活物質としては、特に限定されず、リチウム−遷移金属複合酸化物などのリチウムイオン二次電池用の正極活物質として公知のものを用いることができる。二次電池2は、正極及び負極の他に、電解液、セパレータ、タブを有している。
二次電池2は、充電装置に電気的に接続されている。二次電池2に接続されている充電装置は、たとえば、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載された二次電池2への充電を行なうための装置である。車載された二次電池2への充電は、充電装置の充電ケーブルを取り出し、車両の充電ポートのコネクタに充電ケーブル先端の充電ガンを装着したのち、充電開始スイッチを操作することで行われる。コントローラ10は、二次電池2の充電状態(State of Charge:SOC)を管理しつつ、二次電池2の充電状態が目標となる充電状態になるように、DCDCコンバータ13及び充電装置をそれぞれ制御する。
二次電池2は、モータ等の負荷に電気的に接続されている。負荷は、二次電池2の電力を使用して動作する装置であって、車両の駆動源となるモータや、エアーコンディショナーやライトなどの補器類等である。二次電池2の放電は、外部からの電力要求により、コントローラ10の制御の下、実行される。例えば、車両の走行開始時に車室内が適温になるようタイマー設定で車両走行前にエアーコンディショナーを動作させるなど、車両が走行を開始するまでの時間を把握できる場合に、二次電池2の放電制御が実行される。ユーザ要求等に応じて予め設定された車両利用開始時刻に対して、所定時間前になると、コントローラ10は、車両のメインコントローラ(図示しない)から、二次電池2を放電する放電指令信号を受信し、放電指令信号で示されている要求電力になるよう、DCDCコンバータ13を制御して、二次電池2を放電させる。
ここで、二次電池2の利用形態について説明する。二次電池2は、通常の使われ方を想定して、電解液を余剰に充填することで二次電池2の電解液量が減少しても許容できるように設計されている。その一方で、昨今では、自動車用の電池をリユースして有効活用することが行われている。特に、自動車用の二次電池2に対して要求される性能がハイスペックなため、二次電池2が車両用として使用できなくても、蓄電装置やソーラーシステムなど、車両以外の装置やシステムに使用される民生電池としては有効に活用できる。さらには、車両の二次電池2を、他の車両に搭載して再利用することも可能性としては考えられる。このようなリユースは、二次電池2の設計段階では考慮されていないことが多い。そのため、二次電池2が、設計段階では想定されていない形態で利用され、電解液量の減少により容量が大きく低下した場合には、二次電池2を搭載したシステムが機能不全に陥る可能性もある。リチウムイオン電池の電解液量が減少すると、電池容量の低下が早くなるため、現時点では電池容量が十分あるとシステムにより判定されたとしても、電池が短時間で使用不能になることもある。
このような電池の容量低下に伴うシステムの機能不全等を防ぐために、本実施形態に係るシステムは、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を判定している。そして、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を判定することで、以下のような利点もある。二次電池2がシステム(リユース先のシステム)に搭載される前(いわゆるオフボード)には、例えばリユースの対象となる電池が適切か不適切化を仕分けることもできる。また、二次電池2がシステム(リユース先のシステム)に搭載された後(いわゆる、オンボード)には、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電池交換等を行うことができる。
次に、電解液量の減少により二次電池2の電池容量が低下した際の電池特性について、図2を用いて説明する。図2は、二次電池2の耐久試験の分析結果を示したグラフである。図2の縦軸は二次電池2の放電容量(Discharge Capacity)の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合(dV/dQ)を示しており、横軸は二次電池2の放電容量を示している。図2の(а)は、サイクル数(ゼロ)の時の電池特性を示すグラフであり、図2(b)〜(e)は、それぞれ、サイクル数250、500、750、1000の順で電池特性を示すグラフである。耐久試験に使用した二次電池2は、本実施形態に係るシステムに含まれる電池と同様に、負極にグラファイトを使用し電解液を含んだリチウムイオン電池である。ただし、耐久試験に使用した二次電池2は、初期状態で電解液量を少なくした電池であって、図2の電池特性を得るにあたって、電解液量が減少する影響が出やすい電池を試作して使用している。なお、以下の説明において、二次電池2の放電容量の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合を、単にdV/dQとも称すこととする。
二次電池2の負極にグラファイトを使用した場合には、電池の充放電中、ステージ構造が切り替わったときに負極の電位が変動する。そして、この電位変動が、dV/dQのピークとして表れる。二次電池2の初期状態(サイクル数=0)では、図2(а)に示すように、放電容量が13.3mAhと30.2mAhの時に、dV/dQのピークが表れている。図2(b)〜図2(d)に示すように、二次電池2のサイクル数が250、500、750である場合も、dV/dQのピークが表れている。そして、dV/dQのピーク間の放電容量の差分は、初期状態(サイクル数=0)では、Δ16.9[mAh](=30.2‐13.3)である。また、二次電池2のサイクル数が250、500、750である場合に、dV/dQのピーク間の放電容量の差分は、Δ16.0[mAh](=27.2‐11.2)、Δ15.6[mAh](=25.3‐9.7)、Δ14.8[mAh](=23.6‐8.8)である。つまり、サイクル数が増加し、電池容量が低下すると、dV/dQのピーク間の放電容量の差分は徐々に減少する。すなわち、dV/dQのピーク間の放電容量の差分に相当する間隔(以下、単にピーク間容量とも称す)が徐々に狭くなっている。そして、サイクル数が、さらに増加し、1000サイクルになると、図2(e)に示すように、dV/dQのピークはなくなる。
発明者の知見によると、図2(а)〜(e)に示すような電池特性の変化は、次のように説明できる。サイクル数の増加に伴う電池容量の低下は、主には負極と電解液の界面に主に充電時に形成される被膜(Solid Electrolyte Interphase:SEI)により、リチウムの稼働が減少することで生じる。そして、dV/dQのピーク形状がブロードになるのは電解液量の減少によって電極内のSOCに分布がつくことで発生すると考えられる。また、ピーク間容量が低下するのは、電解液量の減少によって電極内の一部の活物質が孤立することで発生すると考えられる。
ピーク間容量が狭くなった二次電池2に対して、電解液を再注入すると、ピーク間容量は初期状態に近い状態となり、dV/dQのピーク形状も初期状態に近い状態となる。この点から、図2(а)〜図2(e)に示すような電池特性の変化の起因は電解液量の減少であることが、確認できる。
また発明者の知見によると、電解液量が減少しているか否かを判定することで、電池容量が大きく低下することを事前に検知できる理由は、以下のように説明できる。電解液量が減少していくと、電極内では一部の活物質が孤立する。このとき、活物質への経路が細くても残ってさえいれば、充放電は可能なため、電池容量の大きな低下は発生していない。そして、電解液量の減少が更に進行して多くの活物質に繋がる経路が完全に途切れると、電池容量が大きく低下する。dV/dQの電池特性において、電解液量の減少を起因として一部の活物質が孤立したことは、ピーク間容量に反映される。また、dV/dQの電池特性において、電解液量の減少を起因として、活物質への経路が細くなりSOC分布がつくと、dV/dQのピーク形状がブロードになる。そのため、dV/dQのピーク形状又はピーク間容量に基づき、電解液量が減少しているか否かを判定でき、また電解液量が減少しているか否かを判定することで、電池容量が大きく低下することを事前に検知できる。
すなわち、dV/dQのピークで表される電池特性の変化から、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。本実施形態は、このような電池特性を用いて、電解液量の減少を判定し、電解液量の減少を起因として二次電池2の容量が大きく低下する可能性があることを事前に検知するものであり、図1に示す判定装置1に含まれるコントローラ10は、dV/dQのピークを演算し、演算されたdV/dQのピークの高さと所定の判定閾値とを比較することで、二次電池の電解液量が減少しているか否かを判定している。
ここで、dV/dQとdV/dSOCについて説明する。dV/dSOCは、二次電池2の充電状態の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合を示している。電池容量の大きさによって二次電池2のセル電圧(端子間電圧)と電荷量の関係が変わる。例えば、ある二次電池2に対して、電池容量が10倍である電池と比較した場合に、セル電圧を同じにするためには、電池容量10倍の電池を10倍充電する必要がある。一方、充電状態は、電池容量に対する現在の電荷量(残充電容量)の割合で表される。そこで、本実施形態では、電池容量の異なる電池で電池特性を共通化するために、dV/dSOCが用いられている。なお、dV/dQのピークと同じように、電池の充放電中に、dV/dSOCのピークが表れる。また、電解液が減少し、電池容量が低下すると、dV/dSOCのピーク形状は変化し、dV/dSOCのピーク間のSOCの差分は徐々に低下する。
コントローラ10によるdV/dSOC(dV/dQ)のピークの高さの演算方法について、説明する。コントローラ10は、二次電池2が満充電の状態又は満充電に近い状態から、二次電池2を放電する。コントローラ10は、二次電池2の放電中、電圧センサ11及び/又は電流センサ12から検出値を取得し、検出値に基づき二次電池2の充電状態を演算する。コントローラ10は、二次電池2の放電電流を積算し、二次電池2の電池容量(満充電時の容量)から電流積算値を減算することで、二次電池2の現在の電荷量を演算する。そして、コントローラ10は、現在の電荷量(Q)を二次電池2の電池容量で割ることで、充電状態を演算する。コントローラ10は、所定の制御周期に合わせて、二次電池2のセル電圧の測定と、SOCの演算を行っている。
次に、コントローラ10は、制御周期に合わせて、下記式(1)によりdV/dSOCを演算する。
ただし、tは時間を示し、t−1は、時間(t)に対して1制御周期前の時間を表す。
コントローラ10は、ノイズの影響をより抑えるために、複数の測定点を用いて近似直線の傾きからdV/dSOCを演算してもよい。コントローラ10は、下記式(2)を用いて、最小二乗法により傾きを求めることで、dV/dSOCを演算してもよい。
なお、nはノイズの影響や測定精度等に合わせて実験的に設定すればよい。
なお、充電状態は、SOC−OCV(開放電圧)の特性を利用して演算することも可能であるが、SOC−OCVの特性から演算した充電状態の変化が制御周期に対して小さい場合には、電流積算等を利用して、充電状態を求めればよい。
コントローラ10は、二次電池2の放電中、制御周期に合わせてdV/dSOCを演算する。コントローラ10は、充電状態とdV/dSOCから得られる電池特性(以下、SOCに対するdV/dSOCで表すことができる電池特性を、dV/dSOC電池特性とも称す)を演算する。図3は、dV/dSOC電池特性を示すグラフである。図3の縦軸はdV/dSOCを示し、横軸は放電深度(Depth of Discharge:DOD)を示している。なお、図3の例では、放電終了時の放電深度が100%未満になっているが、横軸のDODは、初期状態の電池容量を基準としてSOCに換算した値で表しているため、放電終了時の放電深度は電池の劣化分だけ100%より低い値になっている。
コントローラ10は、演算により、時系列で得たdV/dSOC−SOCのデータを用いて、図3に示すようなdV/dSOC電池特性を取得する。図3に示すように、dV/dSOC電池特性は、dV/dSOCのピークを含み、ピークの値を頂点とした急峻した形のグラフで表される。図3の例では、dV/dSOCのピークが2つあるため、dV/dSOC電池特性は、dV/dSOCのピークを頂点とした2つの凸形状となっている。コントローラ10は、dV/dSOC電池特性を取得した後、dV/dSOCのピークを特定する。コントローラ10は、dV/dSOCのピークを特定するために、二次電池2の放電中、制御周期あたりのdV/dSOCの変化量を演算して、dV/dSOCが増加している区間、dV/dSOCが減少している区間を特定する。なお、図3に示すように、dV/dSOCが短時間で増減を繰り返しながら推移する場合には、所定時間あたりのdV/dSOCの平均値を用いて、dV/dSOCの変化量を演算すればよい。そして、コントローラ10はdV/dSOCが増加から減少に反転した点の値を、dV/dSOCのピークとして特定する。なお、dV/dSOCのピークを特定する方法は、他の方法でもよい。また、コントローラ10は、必ずしも放電開始から終了までのdV/dSOC電池特性を得る必要はなく、dV/dSOCの演算中に、dV/dSOCの変化量を時系列で演算し、演算結果に基づいて、dV/dSOCのピークを特定してもよい。
次に、コントローラ10は、図3に示すようなdV/dSOC電池特性において、ベースラインを設定する。ベースラインは、dV/dSOCのピークの頂点から両側に伸びる曲線の両方に接するように引いたラインである。図3の例では、直線b1及びb2がベースラインとなる。図3の例では、コントローラ10は、dV/dSOCのピークの頂点P1、P2を特定する。コントローラ10は、dV/dSOCのピークの頂点P1から両側に延びる曲線を特定する。図3のdV/dSOC電池特性のグラフにおいて、頂点P1に対して充電側(DODが低くなる側)の曲線と、点P1に対して放電側(DODが高くなる側)の曲線が特定される。コントローラ10は、図3に示すようなdV/dSOC電池特性において、それぞれの曲線の両方に接する直線を引く。この直線b1がベースラインとなる。コントローラ10は、点P2についても同様にベースラインb2を引く。そして、コントローラ10は、図3に示すdV/dSOC電池特性において、dV/dSOCの軸に平行な線分であり、ベースラインからdV/dSOCの頂点まで引いた線分の長さを、dV/dSOCのピークの高さとして演算する。図3の例では、コントローラ10は、頂点P1から縦軸に平行に下ろした線とベースラインとの交点B1を設定する。この交点B1はベースラインの高さを決める基準点となる。そして、コントローラ10は、基準点B1の縦軸座標(dV/dSOC_B1)からP1の縦軸座標(dV/dSOC_P1)までの長さを、dV/dSOCのピークの高さとして演算する。すなわち、dV/dSOCのピークの高さは、ベースライン上で、横軸の座標を、dV/dSOCのピーク頂点における横軸座標と同じとする点を基準点B1とした場合に、基準点B1から頂点P1までの距離に相当する。コントローラ10は、頂点P2に対しても同様に、基準点B2から頂点P2までの線分の長さから、dV/dSOCのピークの高さを演算する。
コントローラ10は、dV/dSOCのピークの高さを演算した後、演算されたdV/dSOCのピークの高さと所定の判定閾値とを比較し、比較結果に応じて、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。演算されたdV/dSOCのピークの高さが所定の判定閾値以下である場合には、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。演算されたdV/dSOCのピークの高さが所定の判定閾値より高い場合には、コントローラ10は電解液量が減少していないと判定する。
図4及び図5を参照し、判定閾値の設定方法について説明する。図4は、サイクル数に対するdV/dSOCのピークの高さの特性を示すグラフである。図4において、横軸はサイクル数を示し、縦軸はdV/dSOCのピークの高さを示す。グラフaは高SOC側のdV/dSOCのピークの特性を示し、グラフbは低SOC側のdV/dSOCのピークの特性を示す。図3の例では、高SOC側のdV/dSOCのピークの高さは、基準点B2から頂点P2までの線分の長さに相当し、低SOC側のdV/dSOCのピークの高さは、基準点B1から頂点P1までの線分の長さに相当する。
ある二次電池2について、評価実験を行い、実験データから、初期状態から1000サイクルまで250サイクル毎に、dV/dSOC電池特性が得られ、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークが高SOC側と低SOC側でそれぞれ特定されたとする。そして、高SOC側と低SOC側のそれぞれのdV/dSOCのピークの高さを、250サイクル毎に観察すると、図4に示すように推移する。
初期状態の二次電池2では、高SOC側のdV/dSOCのピークの高さは約5.6[mV/SOC]となり(グラフаを参照)、低SOC側のdV/dSOCのピークの高さは約4.1[mV/SOC]となる(グラフbを参照)。サイクル数が250の時に、高SOC側のdV/dSOCのピークの高さ及び低SOC側のdV/dSOCのピークの高さは最も高くなり、サイクル数が250より多くなると、dV/dSOCのピークの高さは徐々に低くなる。
例えば、判定閾値は、2.0[mV/SOC]から3.5[mV/SOC]の間で設定された場合には、図4の例で用いた二次電池2のサイクル数が750を超えたときに、低SOC側のdV/dSOCのピークの高さが判定閾値より低くなるため、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。
図5のグラフは、初期状態の二次電池2におけるdV/dSOCのピークの高さ(以下、初期ピークの高さとも称す)を100%とした時に、初期ピークの高さに対するdV/dSOCのピークの高さの割合を、250サイクル毎に示したものである。図5のグラフаは高SOC側のdV/dSOCのピークの高さを示し、グラフbは低SOC側のdV/dSOCのピークの高さを示す。
初期ピークの高さに対するdV/dSOCのピークの高さの割合は、高SOC側及び低SOC側共に、250サイクルで最も高くなり、サイクル数が250より多くなると、dV/dSOCのピークの高さは徐々に低くなる。判定閾値は、初期ピークの高さに対して40%以上から70%以上の範囲に設定されることが好ましい。図5において、初期ピークの高さに対して40%以上から70%以上の範囲は、点線Tth_L以上で点線Tth_H以下の範囲である。判定閾値が初期ピークの高さに対して40%以上から70%以上の範囲に設定された場合には、二次電池2のサイクル数が750を超えたときに、低SOC側のdV/dSOCのピークの高さが判定閾値より低くなるため、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。
図6〜図9を参照し、二次電池2の電解液量の減少を判定するための判定フローを説明する。図6に示す制御フロー(S1〜S9)は所定の制御周期で繰り返し実行されている。図6に示す制御フローは、オフボード時に、電解液量の減少があるか否かを判定するための制御フローである。コントローラ10は、任意のタイミングで電解液量が減少しているか否かを判定するための制御フローを実行できる。なお、後述する「ピーク高さ演算完了フラグ」、「特性取得実施フラグ」、「事前放電実施フラグ」、及び「事前充電実施フラグ」の各フラグの初期値はゼロである。
ステップS1にて、コントローラ10は、電圧センサ11及び電流センサ12を用いて、二次電池2の電圧と電流の測定を開始する。コントローラ10は、制御周期に合わせて、電圧センサ11及び電流センサ12から検出値を取得している。ステップS2にて、コントローラ10は、二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させるか否か判定する。後述するように、電解液量の減少の判定は充電時も放電時も行うことができるため、例えば判定後の二次電池2のニーズに応じて、二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させるか、二次電池2が放電された状態で判定フローを終了させるか、適宜、選択できる。例えば、判定終了後に二次電池2を使用する場合には、充電された状態で判定フローを終えた方が、すぐに二次電池2を使用できる。一方、判定終了後に二次電池2を保管する場合には、放電された状態で保管した方が二次電池の劣化を抑制できる。判定終了後に二次電池2を充電された状態にするか放電された状態にするかの選択は、ユーザにより予め決められている。二次電池2が放電された状態で判定フローを終了させる場合には、ステップS2の判定フローは「No」に進み、コントローラ10は、「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」の制御フローを実行する。二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させる場合には、ステップS2の判定フローは「YES」に進み、コントローラ10は、充電時ピーク高さ演算(ステップS4)の制御フローを実行する。「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」は、二次電池2が充電された状態から放電を開始して、放電中、dV/dSOC電池特性を演算する。「放電時ピーク高さ演算」のサブフローは、図7に示されている。「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」は、二次電池2が放電された状態から充電を開始して、充電中、dV/dSOC電池特性を演算する。「充電時ピーク高さ演算」のサブフローは、図8に示されている。
図7を参照し、「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」に含まれるサブフローを説明する。ステップS701にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグが「1」になっているか否か判定する。特性取得実施フラグは、充放電中に、dV/dSOC電池特性を得るために演算対象のデータを取得する状態を、値で示したものである。特性取得実施フラグが「1」の場合には、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性のために演算対象のデータを取得し、dV/dSOC電池特性を演算する。特性取得実施フラグが「0」になっている場合には、コントローラ10は、演算対象のデータを取得せず、dV/dSOC電池特性を演算しない。特性取得実施フラグが「1」になっている場合には、ステップS701の判定フローは「YES」に進む。
特性取得実施フラグが「0」になっている場合には、ステップS702にて、コントローラ10は、事前放電実施フラグが「1」になっているか否か判定する。事前放電実施フラグは、dV/dSOC電池特性を演算する前に、高い放電Cレートで二次電池2を放電させる状態を、値で示したものである。事前放電実施フラグが「1」になっている場合には、コントローラ10は、高い放電Cレートで二次電池2を放電する。事前放電実施フラグが「0」になっている場合には、コントローラ10は、高い放電Cレートで二次電池2を放電しない。事前放電取得フラグが「1」になっている場合には、ステップS702の判定フローは「YES」に進む。
事前放電実施フラグが「0」になっている場合には、ステップ703にて、コントローラ10は、第1充電Cレートで二次電池2を充電するよう、充電装置等を制御する。第1充電Cレートは、Li析出が発生するなどの劣化を助長しないCレートであって、実験等で予め設定された値である。コントローラ10は、定電流充電で二次電池2を充電する。
ステップS704にて、コントローラ10は、二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達したか否か判定する。SOC(100%)に相当する電圧は、実験等で予め設定されている。二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達していない場合には、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達した場合には、ステップS705にて、コントローラ10は、定電流充電から定電圧充電に切り替える。ステップS706にて、コントローラ10は、二次電池2の充電電流と下限電流を比較する。下限電流は、充電を停止させるための終止電流であり、予め設定されている。二次電池2の電流が下限電流以下になった場合には、コントローラ10は、事前放電実施フラグを「1」に設定する(ステップS707)。そして、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。一方、二次電池2の電流が下限電流より高い場合には、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
ステップS702の判定フローにて、事前放電実施フラグが「1」に設定されている場合には、ステップS708にて、コントローラ10は、第1放電Cレートで、二次電池2が放電されるように、充電装置等を制御する。第1放電Cレートは、二次電池2の劣化を助長しない範囲内でできるだけ高いCレートに設定されている。第1放電Cレートは実験などで決まる値である。
ステップS709にて、コントローラ10は、電荷量(Q)と充電状態を演算する。コントローラ10は、前回制御周期の時に演算された電荷量の前回値に、放電電流に1制御周期分の時間を乗算した値を加算することで、電荷量を演算する。なお、電荷量(Q)の初期値はゼロである。また、コントローラ10は、下記式(3)を用いて、充電状態を演算する。
ただし、Q
cは二次電池2の電池容量(満充電時の電荷量)を示す。
ステップS710にて、コントローラ10は、演算された充電状態と第2特性取得SOCとを比較する。なお、第1特性取得SOCは、充電時ピーク高さ演算(ステップS4)の制御フローで使用される。
ここで、図9を参照して、第1特性取得SOC及び第2特性取得SOCについて説明する。図9は、dV/dQ電池特性を示すグラフである。図9の縦軸はdV/dQを示し、横軸は放電深度(Depth of Discharge:DOD)を示している。図9(а)は、初期状態の二次電池2の電池特性を示しており、(b)はサイクル数(750)の時の二次電池2の電池特性を示している。図9において、点線S1が第1特性取得SOCを表し、点線S2が第2特性取得SOCを表している。
第1特性取得SOCは、二次電池2の充電中に、高SOC側のdV/dSOCのピークの特性を得るために設定された閾値である。後述するように、「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」は、二次電池2が放電された状態から充電を開始して、充電中、dV/dSOC電池特性を演算しており、第1特性取得SOCは、dV/dSOC電池特性の演算を開始するタイミングをSOCで表している。「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」において、二次電池2が放電された状態から充電を開始すると、SOCは徐々に大きくなる。そして、二次電池2の充電状態が第1特性取得SOCに達した後、二次電池2のdV/dSOC電池特性は、図9の点線S1に付した矢印の方向に向かって推移する。第1特性取得SOC(例えばSOC40%)からの充電であれば、図9(b)の高SOC側(低DOD側)に、dV/dQ(dV/dSOCに相当)のピークが現れている。そのため、二次電池2の充電状態が第1特性取得SOCに達した後の充電であれば、二次電池2が劣化したとしても、コントローラ10は、二次電池2のdV/dSOC電池特性上でベースラインを設定でき、dV/dSOCのピークの高さを演算できる。なお、第1特性取得SOCは、40%に限らず、30%や20%等、より低SOCにしてもよく、あるいは二次電池2の劣化度に応じて第1特性取得SOCを高SOC側に変えてもよい(例えば図9(b)の劣化後ならばSOC50%にしてもよい)。充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」において、二次電池2が放電された状態から充電を開始した後は、コントローラ10は、高いCレート(第1充電Cレートに相当)で充電を行い、充電状態を第1特性取得SOCに早く近づける。そして、充電状態が第1特性取得SOCに達した後は、コントローラ10は、充電Cレートを低くして(第2充電Cレートに相当)、dV/dSOC電池特性を得るためのサンプリング数を増やして、判定精度を高める。これにより、判定精度を高めつつ、判定までにかかる時間を短縮化できる。
第2特性取得SOCは、dV/dSOC電池特性の演算を開始するタイミングをSOCで表している。「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」において、二次電池2が充電された状態から放電を開始すると、SOCは徐々に小さくなる。そして、二次電池2の充電状態が第2特性取得SOCに達した後、二次電池2のdV/dSOC電池特性は、図9の点線S2に付した矢印の方向に向かって推移する。第2特性取得SOC(例えばSOC50%)からの充電であれば、図9(b)の低SOC側(高DOD側)に、dV/dSOCのピークが現れている。そのため、二次電池2の充電状態が第2特性取得SOCに達した後の放電であれば、二次電池2が劣化したとしても、コントローラ10は、二次電池2のdV/dSOC電池特性上でベースラインを設定でき、dV/dSOCのピークの高さを演算できる。なお、第2特性取得SOCは、50%に限らず、60%や70%等、より高SOCにしてもよく、あるいは二次電池2の劣化度に応じて第2特性取得SOCを低SOC側に変えてもよい(例えば図9(a)の劣化前ならばSOC40%にしてもよい)。「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」において、二次電池2が充電された状態から放電を開始した後は、コントローラ10は、高いCレート(第1放電Cレートに相当)で放電を行い、充電状態を第2特性取得SOCに早く近づける。そして、充電状態が第2特性取得SOCに達した後は、コントローラ10は、放電Cレートを低くして(後述する第2放電Cレートに相当)、dV/dSOC電池特性を得るためのサンプリング数を増やして、判定精度を高める。これにより、判定精度を高めつつ、判定までにかかる時間を短縮化できる。
ステップS710の判定フローにて、充電状態が第2特性取得SOCより高い場合には、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。充電状態が第2特性取得SOC以下である場合には、ステップS711にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグを「1」に設定する。そして、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
ステップS701の判定フローにて、特性取得実施フラグが「1」に設定されている場合には、コントローラ10は、第2放電Cレートで、二次電池2が放電されるように充電装置等を制御する(ステップS712)。第2放電Cレートは、dV/dSOC電池特性において、ピークを特定できるCレートの中から最も高いCレートである。第2放電Cレートは高すぎると電池内でのSOCのばらつきが大きくなるためピークの演算精度が低くなる。逆に、第2放電Cレートは低すぎると判定に時間がかかる。そのため、第2放電Cレートは実験等で最適な値が設定され、例えば0.1C程度に設定すればよい。ステップS713にて、コントローラ10は、dV/dSOCを演算する。なお、SOCの演算方法は、ステップS709の制御フローにおける演算方法と同様である。
ステップS714にて、コントローラ10は、各SOCに対するセル電圧(V)の値をそれぞれメモリに保存する。ステップS715にて、二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達したか否か判定する。SOC(0%)に相当する電圧は、実験等で決まる値であり、予め設定されている。二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達していない場合には、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達した場合には、ステップS716にて、コントローラ10は、各SOCに対するdV/dSOCを演算する。コントローラ10は、例えば上述した最小二乗法を用いた傾きからdV/dSOCを演算すればよい。
ステップS717にて、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性から、dV/dSOCのピークの高さを演算する。具体的には、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性において、ベースラインを設定し、ベースライン上の基準点を決めて、基準点からdV/dSOCのピーク頂点までの長さを演算する。ステップS718にて、コントローラ10は、ピーク高さ演算完了フラグを「1」に設定し、図7に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
図8を参照し、「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」に含まれるサブフローを説明する。ステップS801にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグが「1」になっているか否か判定する。特性取得実施フラグが「1」になっている場合には、ステップS801の判定フローは「YES」に進む。特性取得実施フラグが「0」になっている場合には、ステップS802にて、コントローラ10は、事前充電実施フラグが「1」になっているか否か判定する。事前放電実施フラグは、dV/dSOC電池特性を演算する前に、高い充電Cレートで二次電池2を充電させる状態を、値で示したものである。事前充電実施フラグが「1」になっている場合には、コントローラ10は、高い充電Cレートで二次電池2を充電する。事前充電実施フラグが「0」になっている場合には、コントローラ10は、高い充電Cレートで二次電池2を充電しない。事前放電取得フラグが「1」になっている場合には、ステップS802の判定フローは「YES」に進む。
事前充電実施フラグが「0」になっている場合には、ステップ803にて、コントローラ10は、第1放電Cレートで二次電池2を放電するよう、充電装置等を制御する。第1放電Cレートは、Li析出が発生するなどの劣化を助長しないCレートであって、実験等で予め設定された値である。
ステップS804にて、コントローラ10は、二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達したか否か判定する。SOC(0%)に相当する電圧は、実験等で予め設定されている。二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達していない場合には、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。二次電池2の電圧がSOC(0%)に相当する電圧に到達した場合には、ステップS805にて、コントローラ10は、事前充電実施フラグを「1」に設定する。そして、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
ステップS802の判定フローにて、事前充電実施フラグが「1」に設定されている場合には、ステップS806にて、コントローラ10は、第1充電Cレートで、二次電池2が充電されるように、充電装置等を制御する。コントローラ10は、定電流充電で二次電池2を充電する。第1充電Cレートは、二次電池2の劣化を助長しない範囲内でできるだけ高いCレートに設定されている。第1充電Cレートは実験などで決まる値である。
ステップS807にて、コントローラ10は、電荷量(Q)と充電状態を演算する。コントローラ10は、前回制御周期の時に演算された電荷量の前回値に、充電電流に制御周期分の時間を乗算した値を加算することで、電荷量を演算する。なお、電荷量(Q)の初期値はゼロである。また、コントローラ10は、下記式(4)を用いて、充電状態を演算する。
ただし、Q
cは二次電池2の電池容量(満充電時の電荷量)を示す。
ステップS808にて、コントローラ10は、演算された充電状態と第1特性取得SOCとを比較する。充電状態が第1特性取得SOCより低い場合には、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。充電状態が第1特性取得SOC以上である場合には、ステップS809にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグを「1」に設定する。そして、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
ステップS801の判定フローにて、特性取得実施フラグが「1」に設定されている場合には、コントローラ10は、第2充電Cレートで、二次電池2が充電されるように充電装置等を制御する(ステップS810)。第2充電Cレートは、dV/dSOC電池特性において、ピークを特定できるCレートの中から最も高いCレートである。なお、第2充電Cレートは高すぎると電池内でのSOCのばらつきが大きくなるためピークの演算精度が低くなる。逆に、第2充電Cレートは低すぎると判定に時間がかかる。そのため、第2充電Cレートは実験等で最適な値が設定され、例えば0.1C程度に設定すればよい。ステップS811にて、コントローラ10はdV/dSOCを演算する。なお、SOCの演算方法は、ステップS807の制御フローにおける演算方法と同様である。
ステップS812にて、コントローラ10は、各SOCに対するセル電圧(V)の値をそれぞれメモリに保存する。ステップS813にて、二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達したか否か判定する。SOC(100%)に相当する電圧は、実験等で決まる値であり、予め設定されている。二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達していない場合には、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達した場合には、ステップS814にて、コントローラ10は、定電流充電から定電圧充電に切り替える。ステップS815にて、コントローラ10は、二次電池2の充電電流と下限電流を比較する。下限電流は、充電を停止させるための終止電流であり、予め設定されている。二次電池2の電流が下限電流より高い場合には、コントローラ10は、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電流が下限電流以下になった場合には、ステップS816にて、コントローラ10は、各SOCに対するdV/dSOCを演算する。コントローラ10は、例えば上述した最小二乗法を用いた傾きからdV/dSOCを演算すればよい。
ステップS817にて、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性から、dV/dSOCのピークの高さを演算する。具体的には、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性において、ベースラインを設定し、ベースライン上の基準点を決めて、基準点からdV/dSOCのピーク頂点までの長さを演算する。ステップS818にて、コントローラ10は、ピーク高さ演算完了フラグを「1」に設定し、図8に示す制御フローを終了し、図6に示すステップS5以降の制御フローを実行する。
図6を参照し、ステップS5以降の制御フローを説明する。「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」の制御フローを終了した後、又は、「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」の制御フローを終了した後、ステップS5にて、コントローラ10は、ピーク高さ演算完了フラグが「1」になっているか否か判定する。ピーク高さ演算完了フラグが「0」になっている場合には、図6に示す制御フローを終了し、ステップS1に戻る。
ピーク高さ演算完了フラグが「1」になっている場合には、コントローラ10は、ステップS717又はステップS817の制御フローで演算された、dV/dSOCのピークの高さと判定閾値とを比較する(ステップS6)。dV/dSOCのピークの高さが判定閾値より高い場合には、ステップS7にて、コントローラ10は電解液量の減少無しと判定する。dV/dSOCのピークの高さが判定閾値以下である場合には、ステップS8にて、コントローラ10は、電解液量の減少有りと判定する。そして、ステップS6〜S8の判定フローは二次電池2の電池容量が大きく低下する前に行われるため、コントローラ10は、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。
ステップS9にて、コントローラ10は、二次電池2を保護するために制限制御を実行する。制限制御は、例えば、二次電池2の上限電圧を下げる、二次電池の下限電圧を上げる、充放電電流の上限値を下げる等である。なお、各種制限制御は、複数の制御を組み合わせてもよい。また、コントローラ10は、制限制御と合わせて、現在の電池の状態をユーザに通してもよい。ユーザへの通知は、例えば二次電池2の交換をユーザに要求するための通知である。そして、コントローラ10は、図6に示す制御フローを終了する。
なお、「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」の制御フローにおいて、制御フローを開始する時に、充電状態が十分高い場合には、事前放電実施フラグを「1」に設定するまでの制御フロー(ステップS703からステップS707までの制御フロー)を省略してもよい。また、「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」の制御フローにおいて、制御フローを開始する時に、充電状態が十分低い場合には、事前充電実施フラグを「1」に設定するまでの制御フロー(ステップS803からステップS805までの制御フロー)を省略してもよい。このとき、充電状態は、SOC−OCVの特性を用いて演算すればよい。
次に、図10及び図11を参照し、オンボード時に、電解液量の減少があるか否かを判定するための制御フローを説明する。図10に示す制御フロー(S11〜S24)は所定の制御周期で繰り返し実行されている。なお、オンボード時の判定フローは、タイマー設定で車両走行前にエアーコンディショナーを動作させる場合など、車両が走行を開始するまでの時間を把握できる場合には、走行開始までの時間が、電解液量の減少の判定結果を得るために要する所要時間よりも長い場合に、実行される。判定のための所要時間はCレートから演算で予測できる。例えば、充電Cレート(1C)でSOC(0%)からSOC(50%)まで充電する場合には、判定時間は30分となる。なお、後述する「ピーク高さ演算完了フラグ」、及び「事前充電実施フラグ」の各フラグの初期値はゼロである。
ステップS11にて、コントローラ10は、電圧センサ11及び電流センサ12を用いて、二次電池2の電圧と電流の測定を開始する。コントローラ10は、制御周期に合わせて、電圧センサ11及び電流センサ12から検出値を取得している。ステップS12にて、コントローラ10は、二次電池2が充電中であるか否か判定する。後述するように「充電時ピーク高さ(ステップS19)」の制御フローで充電を行っている場合には、制御ループが戻った時に、ステップS12の判定フローが「YES」になる。なお、例えばユーザが次回の走行に備えて二次電池2の充電を行う場合も、ステップS12の判定フローは「YES」になる。一方、二次電池2が充電中ではない場合には、ステップS13にて、コントローラ10は電解液量が減少しているか否かの判定を行わずに、図10の制御フローを終了する。
二次電池2の充電中である場合には、ステップS14にて、コントローラ10は、事前充電実施フラグが「1」になっているか否か判定する。事前充電実施フラグが「1」に設定されている場合には、コントローラ10は、ステップS19の制御フローを実行する。事前充電実施フラグが「0」に設定されている場合には、ステップS15にて、コントローラ10は起点SOCを推定する。起点SOCは、「充電時ピーク高さ(ステップS19)」の制御フローで充電を開始する時の充電状態を表している。オフボード時の「放電時ピーク高さ演算(ステップS3)」の制御処理では、充電状態が100%になるまで事前に充電を行っている。また、オフボード時の「充電時ピーク高さ演算(ステップS4)」の制御処理では、充電状態が0%になるまで事前に放電を行っている。そのため、オフボード時は、充電状態(0%又は100%)を起点として、電流積算により充電状態を演算することができたが、オンボード時は、このような事前の充放電を行わない。そのため、ステップS15の制御フローで、充電中のSOC演算のために起点となる充電状態(起点SOC)を推定している。起点SOCの推定は、例えばSOCは、SOC−OCVの特性を用いて推定すればよい。
ステップS16にて、コントローラ10は、起点SOCと第1特性取得SOCとを比較し、起点SOCが第1特性取得SOC未満であるか否か判定する。第1特性取得SOCは、ステップS808の制御フローで用いた第1特性取得SOCと同じである。起点SOCが第1特性取得SOC未満である場合には、コントローラ10は、ステップS13の制御フローを実行する。
起点SOCが第1特性取得SOC以上である場合には、ステップS17にて、コントローラ10は、車両の走行開始予定時刻までに、判定フローを終了させることができるか否か判定する。走行開始予定時刻は、例えばユーザによるタイマー設定、又は、タイマー設定で車両走行前にエアーコンディショナーを動作させる時のエアーコンディショナーの動作終了時刻等で決まる。判定フローに必要な時間はCレートから演算で予測できる。車両の走行開始予定時刻までに、判定フローを終了させることができない場合には、コントローラ10は、ステップS13の制御フローを実行する。
車両の走行開始予定時刻までに、判定フローを終了させることができる場合には、ステップS18にて、コントローラ10は、事前充電実施フラグを「1」に設定する。ステップS19にて、コントローラ10は、「充電時ピーク高さ演算」の制御フローを実行する。
図11を参照し、「充電時ピーク高さ演算(ステップS19)」に含まれるサブフローを説明する。ステップS111にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグが「1」になっているか否か判定する。特性取得実施フラグが「1」の場合には、ステップS111の判定フローは「YES」に進む。特性取得実施フラグが「0」になっている場合には、ステップS112にて、コントローラ10は、第1充電Cレートで、二次電池2が充電されるように、充電装置等を制御する。コントローラ10は、定電流充電で二次電池2を充電する。第1充電Cレートは、ステップS806の制御フローで使用したものと同じCレートにすればよい。
ステップS113にて、コントローラ10は、電荷量(Q)と充電状態を演算する。コントローラ10は、前回制御周期の時に演算された電荷量の前回値に、充電電流に制御周期分の時間を乗算した値を加算することで、電荷量を演算する。なお、電荷量(Q)の初期値はゼロである。また、コントローラ10は、下記式(5)を用いて、充電状態を演算する。
ただし、Q
cは二次電池2の電池容量(満充電時の電荷量)を示し、SOC
bは起点SOCを示す。
ステップS114にて、コントローラ10は、演算された充電状態と第1特性取得SOCとを比較する。充電状態が第1特性取得SOCより低い場合には、コントローラ10は、図11に示す制御フローを終了し、図10に示すステップS20以降の制御フローを実行する。充電状態が第1特性取得SOC以上である場合には、ステップS115にて、コントローラ10は、特性取得実施フラグを「1」に設定する。そして、コントローラ10は、図11に示す制御フローを終了し、図10に示すステップS20以降の制御フローを実行する。
ステップS111の判定フローにて、特性取得実施フラグが「1」に設定されている場合には、コントローラ10は、第2充電Cレートで、二次電池2が充電されるように充電装置等を制御する(ステップS116)。第2充電Cレートは、ステップS810の制御フローで使用したものと同じCレートにすればよい。ステップS117にて、コントローラ10はdV/dSOCを演算する。なお、SOCの演算方法は、ステップS113の制御フローにおける演算方法と同様である。
ステップS118にて、コントローラ10は、各SOCに対するセル電圧(V)の値をそれぞれメモリに保存する。ステップS119にて、二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達したか否か判定する。SOC(100%)に相当する電圧は、実験等で決まる値であり、予め設定されている。二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達していない場合には、コントローラ10は、図11に示す制御フローを終了し、図10に示すステップS20以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電圧がSOC(100%)に相当する電圧に到達した場合には、ステップS120にて、コントローラ10は、SOC(100%)に相当する電圧に到達した時の充電電圧で、定電圧充電を行う。ステップS121にて、コントローラ10は、二次電池2の充電電流と下限電流を比較する。下限電流は、充電を停止させるための終止電流であり、予め設定されている。二次電池2の電流が下限電流より高い場合には、コントローラ10は、図11に示す制御フローを終了し、図10に示すステップS20以降の制御フローを実行する。
二次電池2の電流が下限電流以下になった場合には、ステップS122にて、コントローラ10は、各SOCに対するdV/dSOCを演算する。コントローラ10は、例えば上述した最小二乗法を用いた傾きからdV/dSOCを演算すればよい。
ステップS123にて、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性から、dV/dSOCのピークの高さを演算する。具体的には、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性において、ベースラインを設定し、ベースライン上の基準点を決めて、基準点からdV/dSOCのピーク頂点までの長さを演算する。ステップS124にて、コントローラ10は、ピーク高さ演算完了フラグを「1」に設定し、図11に示す制御フローを終了し、図10に示すステップS20以降の制御フローを実行する。
図10を参照し、ステップS20以降の制御フローを説明する。「充電時ピーク高さ演算(ステップS19)」の制御フローを終了した後、ステップS20にて、コントローラ10は、ピーク高さ演算完了フラグが「1」になっているか否か判定する。ピーク高さ演算完了フラグが「0」になっている場合には、図10に示す制御フローを終了し、ステップS1に戻る。
ピーク高さ演算完了フラグが「1」になっている場合には、コントローラ10は、ステップS124の制御フローで演算されたdV/dSOCのピークの高さと判定閾値とを比較する(ステップS21)。dV/dSOCのピークの高さが判定閾値より高い場合には、ステップS22にて、コントローラ10は電解液量の減少無しと判定する。dV/dSOCのピークの高さが判定閾値以下である場合には、ステップS23にて、コントローラ10は、電解液量の減少有りと判定する。ステップS21〜S23の判定フローは二次電池2の電池容量が大きく低下する前に行われるため、コントローラ10は、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。
ステップS24にて、コントローラ10は、二次電池2を保護するために制限制御を実行する。制限制御は、例えば、二次電池2の上限電圧を下げる、二次電池の下限電圧を下げる、充放電電流の上限値を下げる等である。なお、各種制限制御は、複数の制御を組み合わせてもよい。また、コントローラ10は、制限制御と合わせて、現在の電池の状態をユーザに通してもよい。ユーザへの通知は、例えば二次電池2の交換をユーザに要求するための通知である。そして、コントローラ10は、図10に示す制御フローを終了する。
上記のように本実施形態では、電圧センサ11及び/又は電流センサ12により検出された値に基づき二次電池2の充電状態を演算し、二次電池2の充電中又は放電中に、充電状態の変化量に対する二次電池の電圧の変化量の割合(dV/dSOC)と前充電状態より得られる電池特性から、割合(dV/dSOC)のピークを特定し、特定されたピークの高さが所定の判定閾値以下の場合に、二次電池の電解液量が減少していると判定する。
負極にグラファイトを用いる場合は、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークが表れる。このピークはグラファイトが特定の充電状態になった際の構造変化に起因するものである。そのため、電池内で充電状態がほぼ均一ならば充電していくとシャープなピークが表れるが、電解液量が減少して充電状態が不均一だとピークがシャープな形にならない。本実施形態では、このような二次電池2の性質を利用して、電解液量が減少しているか否かを判定している。これにより、電解液量が減少することで生じる二次電池の容量低下を、電池容量が大きく低下する前に検知できる。
また本実施形態では、dV/dSOC電池特性は、充電状態の特定範囲内でピークを有し、コントローラ10は、充電状態が特定範囲外である場合には、二次電池の充電又は放電の電流を所定電流より高くする。「放電時ピーク高さ演算(S3)」の制御フローにおいて、第2特性取得SOC以下の範囲が特定範囲内に相当する。そして、二次電池2の現在の充電状態が第2特性取得SOCより高い場合には、SOCは特定範囲外となるため、コントローラ10は第1放電Cレートで放電させる。このときの、第1放電Cレートが、所定電流より高い電流となる。また、「充電時ピーク高さ演算(S4又はS19)」の制御フローにおいて、第1特性取得SOC以上がSOCの特定範囲内に相当する。そして、二次電池2の現在の充電状態が第1特性取得SOCより低い場合には、SOCは特定範囲外となるため、コントローラ10は第1充電Cレートで充電させる。このときの第1充電Cレートが、所定電流より高い電流となる。電解液量の減少を判定するために必要な演算データは、dV/dSOCのピークが表れる特定範囲内のデータであるため、充電状態が特定範囲外である場合には、充放電Cレートを高めて、計測時間を短くすることができる。
また本実施形態では、コントローラ10は、充電状態が特定範囲内である場合には、二次電池の充電又は放電の電流を所定電流未満にする。「放電時ピーク高さ演算(S3)」の制御フローにおいて、第2放電Cレートが所定電流未満の放電電流に相当する。また、「充電時ピーク高さ演算(S4又はS19)」の制御フローにおいて、第2充電Cレートが所定電流未満の充電電流に相当する。電極内部で充電状態の分布にばらつきが生じると、dV/dSOCのピークが現れにくくなる。そのため、本実施形態では、充電状態が特定範囲内である場合には、電流を小さく抑える。dV/dSOCのピークを特定するためにデータを取得する時には、電流を小さく抑えて計測時間を短くできて、かつ必要なデータを取得することができる。その結果、容量低下の判定精度を高めることができる。
また本実施形態では、充電状態が特定範囲外である場合には充放電Cレートを高めて、充電状態が特定範囲内である場合には充放電Cレートを低くしている。これにより、計測時間を短くしつつ、判定精度を高めることができる。
また本実施形態では、dV/dSOC電池特性はSOCの複数の範囲内にそれぞれdV/dSOCピークを有しており、コントローラ10は、充電状態が複数の範囲のうちいずれかひとつの特定範囲内である場合に、二次電池2の充電又は放電の電流を所定電流未満とし、充電状態が特定範囲外である場合には、二次電池2の充電又は放電の電流を所定電流以上とする。例えば、図3の例は、dV/dSOC電池特性では、頂点P1と頂点P2にそれぞれピークを有しているが、電解液量の減少を判定するには、頂点P1のピークと頂点P2のピークのいずれか一方のピークのみを特定するために、演算データを取得する。少なくとも1つのdV/dSOCピークに関する情報があれば、電解液量の減少を判定できる。そのため、1つのdV/dSOCのピークを特定するために必要なデータを、電流を低く抑えて取得することで、判定時間を短縮化できる。
また本実施形態では、コントローラ10は、判定結果の後の二次電池2の使用用途に応じて、判定時の充電と放電を切り替える。上記のとおり、電解液量の減少の判定は充電時でも放電時でも実施できるので、どちらを選ぶかを適宜、選択すればよい。これにより、判定後の使用用途に合わせて判定後の電池を充電状態にするか放電状態にするか選択することで、無駄な充放電を防止することができる。
また本実施形態では、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性のグラフにおいて、ベースラインからdV/dSOCピークの頂点まで引いた線分の長さを、ピークの高さとして演算する。ベースラインは、dV/dSOC電池特性のグラフにおいて、頂点から両側に延びる曲線の両方に接するように引いたラインとする。ピークの高さを演算する際に電解液量の減少以外の影響で大きく変動するようなベースラインを設定してしまうと誤判定の原因となってしまう。ピークの頂点の両側の曲線の両方に接するようにベースラインを設定することで、グラファイトの構造変化時の電位変動以外の影響を排除でき、かつ、シンプルで人の裁量の入る余地がない方法で判定できる。その結果として、ステージ構造切替以外の影響、ベースラインの引き方等、電解液量の減少以外の要因でピークの高さが変動することを防止できる。
また本実施形態では、判定閾値は、初期ピークの高さに対して40%以上から70%以下の範囲内に設定されている。これにより、ノイズや個体ばらつきによる誤判定を防止し、電解液量の減少によって電池容量が大きく低下することを事前に検知できる。
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、ユーザに対して、二次電池2の状態を通知する。電解液量が減少した場合は、電解液を注入するなど電池に加工を加える手段以外で、電池を回復させることは難しい。電解液が減少した場合には、特殊な電池を除けば基本的には別の電池と交換をすることになる。そのため、ユーザに二次電池2の状態を通知することで、電池容量が大きく低下する前に交換するように促すことができる。
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、二次電池2の使用に制限を加えるための制限制御を実行する。これにより、電解液量が減少した場合に、これ以上の電解液量の減少を抑制するように電池の使用を制限できる。
また本実施形態では、コントローラ10は、制限制御として、二次電池2の上限電圧を下げる、二次電池2の下限電圧を上げる、及び、充放電電流の上限値を下げる、のうち少なくともいずれか1つを実行する。電解液量が減少した場合は電極内の活物質が部分的に使用できない状態となっている。そのため、電池全体で想定している充電状態や電流と、実際の活物質の充電状態や活物質に流れる電流との間に、乖離が発生する。そこで、本実施形態のような二次電池の使用に制限をかけることで、更なる電池の劣化や電解液消費を抑制できる。
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の充電中に、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。これにより、二次電池2の通常の充電に加えて、電解液量の減少の判定を合わせて行うことができるため、判定のためだけに二次電池2を充電又は放電することを防ぎ、判定の時間を別途設ける必要がない。
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態に係る判定システムについて説明する。第2実施形態では、dV/dSOCピークが、負極に含まれるグラファイトを起因とした場合だけでなく、正極材料を起因として表れる場合に対応できるようなシステムになっている。なお、以下に説明する点において第1実施形態に係る判定システムと異なること以外は、第1実施形態と同様の構成を有し、第1実施形態と同様の制御を実施し、第1実施形態と同様に動作するものであって、第1実施形態の記載を適宜、援用する。
図12は、SOCに対する各極の電圧の特性を示したグラフであり、(а)は正極特性を示し、(b)は負極特性を示す。縦軸は電圧を横軸はSOCを示す。なお、SOCを同じにして、図12(а)のグラフ上の正極電圧と、図12(b)のグラフ上の負極電圧との差が、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)に相当する。
図12(b)に示す電池特性のグラフと二次電池2のdV/dSOC電池特性のグラフを並べて図示したものが図13である。図13(а)は二次電池2のdV/dSOC電池特性を示し、図13(b)は、図12(b)に示す電池特性の高電圧側をカットしたグラフである。図13(а)の縦軸はdV/dQを示し、横軸はSOCを示す。図13のグラフのような電池特性をもつ二次電池2の正極は、図12(а)のグラフのような特性を有しており、負極は図12(b)のグラフのような特性を有している。
図13に示すように、dV/dQピークをもつ充電状態と、負極電圧の変化点をもつ充電状態が対応している(図13の矢印で示された部分を参照)。すなわち、負極のグラファイトが特定の充電状態になった際の構造変化が、dV/dQピークに表れている。図13の例のように、dV/dQピークが、正極要因ではなく、負極に含まれるグラファイトを起因として表れるものであれば、特定されたdV/dQピークの高さを用いて、電解液量の減少を判定すればよい。
一方、負極のグラファイト起因としたdV/dQピークが、正極のピークと重なる場合、又は、dV/dQ電池特性においてベースラインを設定する際に正極の影響が反映されてしまう場合には、判定対象となるdV/dSOCピークの選択によって、電解液量の減少の判定精度が低くなる可能性がある。
図14は、二次電池2の放電曲線を示すグラフである。図14において、グラフаはセルの特性を、bはカソード(正極)の特性を、cはアノード(負極)を示す。図14の縦軸はdV/dQを示し、横軸はSOCを示す。なお、二次電池2はリチウムイオン電池であり、正極にはスピネル型マンガン酸リチウムと三元系層状岩塩型酸化物の混合系(0.25 Li1−xMn2O4、0.75Li1−yNi0.5Co0.2Mn0.3O2)を使用し、負極にはグラファイトを使用している。
図14を参照し、「A」と「C」は正極を起因としたピークであり、「B」と「D」は負極を起因としたピークとなる。図14の例では、「B」のピークは、両隣のピーク「A」及び「C」と近く、正極要因ピークと重なる可能性があるため、「B」のピークを用いて、電解液量の減少を判定することは難しい。一方、「D」のピークは、正極要因のピーク「A」及び「C」から離れたところに位置するため、電解液量の減少を精度よく判定するには、「D」のピークを用いる方がよい。
本実施形態に係る判定システムでは、dV/dSOC電池特性が正極要因のピークと、負極要因のピークをそれぞれ含んでいる場合には、正極要因のピークが表れる第1SOC範囲と、負極要因のピークが表れる第2SOC範囲を予め設定する。第1、第2SOC範囲は、例えば二次電池2の評価実験を行い実験データから決めればよい。そして、コントローラ10は、第1範囲内に表れるdV/dSOCピークを用いずに、第2範囲内に現れるdV/dSOCピークを用いて、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。具体的には、「放電時ピーク高さ演算(S3)」の制御フローにおいて、ステップS712からS718の制御フローが第2SOC範囲内で実行されるように、第2特性取得SOCが設定される。また、「充電時ピーク高さ演算(S4)」の制御フローにおいて、ステップS810からS818の制御フローが第2SOC範囲内で実行されるように、第1特性取得SOCが設定される。また、「充電時ピーク高さ演算(S19)」の制御フローにおいて、ステップS116からS124の制御フローが第2SOC範囲内で実行されるように、第1特性取得SOCが設定される。これにより、正極起因のピークの影響で誤判定することを防止できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。