JP2021124375A - 試験体の評価方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】中性化速度についての評価の精度を高める。【解決手段】セメント組成物を有する試験体の評価方法であって、前記試験体の促進耐候性試験を行なう第1ステップと、前記第1ステップ後の前記試験体を用いて促進中性化試験を行なう第2ステップと、を有することを特徴とする。【選択図】図13

Description

本発明は、セメント組成物を有する試験体の評価方法に関する。
一般に、セメント組成物(例えば、コンクリートやモルタル)の中性化速度を短期間で測定する場合、中性化促進試験装置を用いて、二酸化炭素濃度の高い環境条件で試験体の促進中性化試験を行なっている。また、特許文献1では、セメント組成物の経年劣化を考慮して、中性化速度を解析的に推定し、中性化深さの経年進行を予測している。
特開2011−257212号公報
しかしながら、上記のような方法では中性化についての評価を正確に行うことができないおそれがあった。例えば、セメント組成物の表面に表面仕上げ材を施しているような場合では、表面仕上げ材の中性化抑制効果が時間の経過にともに変化することなどにより、促進中性化試験だけでは、自然環境の暴露試験とは大きく異なる試験結果となる可能性があった。これにより建物の寿命を正確に予測できないおそれがあった。また、表面に表面仕上げ材を施していない場合においても、促進耐候性試験をした上での促進中性化試験を行なっていないことにより自然環境の暴露試験とは異なる試験結果となる可能性があった。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、中性化速度についての評価の精度を高めることにある。
上記目的を達成するための主たる発明は、セメント組成物を有する試験体の評価方法であって、前記試験体の促進耐候性試験を行なう第1ステップと、前記第1ステップ後の前記試験体を用いて促進中性化試験を行なう第2ステップと、を有することを特徴とする試験体の評価方法である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
本発明によれば、中性化速度についての評価の精度を高めることができる。
本実施形態のモルタル基板1の形状を示す概略斜視図である。 モルタル試験体10を示す概略斜視図である。 モルタル試験体10作製の概略工程を示す図である。 促進耐候性試験および促進中性化試験の概略工程を示す図である。 促進中性化試験によるモルタル試験体10の切断箇所を示す図である。 促進耐候試験なしの促進材齢と中性化深さの関係を示す図である。 促進耐候試験あり(1500時間)の促進材齢と中性化深さの関係を示す図である。 促進耐候試験なしの促進材齢と中性化速度係数の関係を示す図である。 促進耐候試験あり(1500時間)の促進材齢と中性化速度係数の関係を示す図である。 促進耐候性試験による中性化深さの推移を示す図である。 促進耐候性試験による中性化速度係数の推移を示す図である。 促進耐候性試験による中性化率の推移を示す図である。 建物寿命の予測方法の一例を示すフロー図である。 耐候性試験の促進時間と中性化速度係数の関係を示す図である。 建物寿命の予測方法の別の例を示すフロー図である。 耐候性試験の促進時間と中性化率の関係を示す図である。
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
セメント組成物を有する試験体の評価方法であって、前記試験体の促進耐候性試験を行なう第1ステップと、前記第1ステップ後の前記試験体を用いて促進中性化試験を行なう第2ステップと、を有することを特徴とする試験体の評価方法が明らかとなる。
このような試験体の評価方法によれば、暴露試験により近い、正確な中性化速度の試験結果を得ることができる。よって、中性化速度についての評価の精度を高めることができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記試験体は、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材が設けられたものであることが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、実構造物により近い状態で評価を行うことができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記試験体の厚さの限度は、20mm程度であることが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、促進耐候性試験の試験機で試験可能である(例えば、試験中に試験体がホルダから落下しない)ので、促進耐候性試験を行った試験体を用いて促進中性化試験を行うことができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記促進中性化試験は、促進材齢が所定期間の所定期間促進中性化試験であり、前記所定期間後における前記試験体の中性化深さが前記試験体の厚さ未満の場合、前記所定期間促進中性化試験の結果から、中性化速度係数を算出することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、促進材齢が所定期間のときの中性化速度係数を求めることができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記促進中性化試験は、促進材齢が所定期間の所定期間促進中性化試験であり、前記所定期間後における前記試験体の中性化深さが前記試験体の厚さ以上の場合、前記所定期間よりも短い複数の期間における前記促進中性化試験の結果から、所定算出式により前記所定期間の中性化速度係数を算出することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、促進材齢が所定期間のときの中性化深さが試験体の厚さ以上となる場合でも、中性化速度係数を求めることができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記所定期間は26週であることが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、26週における中性化速度係数を求めることができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記試験体として、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材を設けた第1試験体、又は、前記所定面に前記被覆材を設けてない第2試験体があり、前記試験体の実構造物が設置される自然環境下での気温による係数と、湿度及び前記実構造物に作用する水分の影響による係数と、CO2濃度による係数と、前記中性化速度係数から、前記自然環境下での前記実構造物の中性化深さが所定値に達するまでの期間を予測することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、中性化速度係数を用いて実構造物(建物など)の寿命を予測することができる。
かかる試験体の評価方法であって、複数の期間における前記中性化速度係数をそれぞれ算出し、複数の前記中性化速度係数を用いて、前記中性化深さが前記所定値に達するまでの期間を予測することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、実構造物の寿命を正確に予測することができる。
かかる試験体の評価方法であって、前記試験体として、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材を設けた第1試験体、及び、前記所定面に前記被覆材を設けていない第2試験体があり、前記第1試験体の中性化深さと前記第2試験体の中性化深さの比である中性化率と、前記試験体の実構造物が設置される自然環境下での前記被覆材を設けた部分の中性化深さと、前記実構造物の標準養生供試体の材齢28日の圧縮強度に基づいて求められる前記自然環境下での前記被覆材を設けていない部分の中性化速度係数と、から、前記自然環境下での前記実構造物の前記被覆材を設けた部分の前記中性化深さが所定値に達するまでの期間を予測することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、中性化率を用いて実構造物(建物など)の寿命を予測することができる。また、中性化速度係数を用いる場合は、気温による係数や、水分の影響による係数を求めるための実験が必要であるのに対し、中性化率を用いる場合は上記の係数を求める必要がない(実験が不要である)ので、簡易に寿命を予測することができる。
かかる試験体の評価方法であって、複数の期間における前記中性化深さをそれぞれ算出し、複数の前記中性化深さを用いて、前記中性化深さが前記所定値に達するまでの期間を予測することが望ましい。
このような試験体の評価方法によれば、実構造物の寿命を正確に予測することができる。
===実施形態===
以下、本発明にかかる構造物の一実施形態について図を用いて詳細に説明する。
≪概略≫
一般に、コンクリートやモルタルなどの中性化速度を短期間で測定するには、中性化促進試験装置を用いて、二酸化炭素濃度の高い環境条件で促進中性化試験を行なっている。中性化抑制効果のある表面仕上げを施したコンクリート(又はモルタル)の場合も、同様の促進中性化試験を行っている。
しかし、促進中性化試験だけでは、自然環境の暴露試験とは大きく異なる試験結果となる可能性がある。例えば、表面仕上げ材(以下、単に仕上げ材ともいう)が、コンクリートと比べて、太陽光の紫外線や降雨などによる劣化速度が大きい場合や、仕上げ材の中性化抑制効果が時間の経過に伴い変化するような場合、促進中性化試験だけでは、自然環境の暴露試験とは大きく異なる試験結果となる可能性がある。なお、表面仕上げ材を設けていない場合においても、促進耐候性試験をした上での促進中性化試験を行っていないことにより、自然環境の暴露試験とは異なる試験結果となる可能性がある。また、薄板(プラスチック板や鉄板)の上に仕上げ材を塗布して促進耐候性試験を行ない、その後、劣化した仕上げ材を剥がしてコンクリート試験体に貼り付けて促進中性化試験を実施することも行われている。この場合においても、仕上げ材とコンクリート試験体が完全に密着しない(実際のコンクリート表面の状態とは異なる)ため、正確な評価ができないおそれがある。
そこで、本実施形態では、仕上げ材を施したモルタル試験体を用いて促進耐候性試験を行い、その後、促進中性化試験を行なうようにしている。これにより、暴露試験により近い中性化の試験結果を、短期間で正確に得ることができるようにしている。
≪モルタル基板の作製≫
図1は、本実施形態のモルタル基板1の形状を示す概略斜視図である。モルタル基板1の形状は150×70×20mm(図1のLが150mm、Hが70mm、Wが20mm)の平板試験体とした。
また、本実施形態のモルタル基板1の使用材料を表1に示し、モルタルの調合を表2に示す。本実施形態において、モルタル基板1は、普通ポルトランドセメントを使用し、調合はW/C=65%、1:3.5モルタルとした。細骨材は表面乾燥飽水状態とした。
Figure 2021124375
Figure 2021124375
モルタルは、1バッチを10Lとし、2バッチ分を練り混ぜた。モルタルの練混ぜは、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の「11.5.2練混ぜ方法」に準じて行った。具体的には、モルタルの練混ぜは、JIS R 5201に従って、公称容量20Lの機械式練混ぜ機により行った。
まず、練り鉢に規定量の水(化学混和剤を含む)を入れ、次にセメントを入れた。その後、練混ぜ機を低速(自転速度:毎分140±5回転、公転速度:毎分62±5回転)で始動させた。パドルを始動させて30秒後に規定量の細骨材を30秒間で入れた。次に、高速(自転速度:毎分285±10回転、公転速度:毎分125±10回転)にし、引続き30秒間練混ぜを続けた。90秒間練混ぜを休止し、休止の最初の15秒間に掻き落としを行った。休止が終わったら再び高速で始動させ60秒間練り混ぜた。また、練混ぜ終了後、さじで10回かき混ぜた。
1バッチ目と2バッチ目のモルタルを公称容量50Lの機械式練混ぜ機の練り鉢に投入し、低速で30秒間練り混ぜた。練混ぜ終了後、さじで10回かき混ぜ、その後、フレッシュ性状試験を行った。
モルタル基板1の成形は、モルタルを、図1の形状のパターンを有する型枠に2層に分けて詰めた。締固めは突き棒と木槌を用いて行った。
≪モルタル試験体の作製≫
図2は、モルタル試験体10を示す概略斜視図である。図3は、モルタル試験体10作製の概略工程を示す図である。
型枠に詰めたモルタル(モルタル基板1)を、材齢3日まで封かん養生とし、材齢3日目に型枠を取り外した後、材齢7日目まで標準養生を行なった。これにより、厚さの薄い(ここでは20mmの)モルタル基板1を、割れることなく作製することができた。なお、封かん養生は材齢3日目までには限られず。例えば材齢1日目まで封かん養生し、材齢1日目に型枠を取り外してもよい。さらに、標準養生後、材齢35日目まで(すなわち4週間)20℃,60%RHの恒温恒湿室にて気中養生を行った。なお、標準養生の終了翌日に、モルタル基板1の所定面(以下、塗布面1Aとする)にW/C=65%のセメントペーストを擦り込んで試験体表面の気泡埋め処理を行った。これにより、塗布面1Aの気泡を消すことができた。なお、塗布面1Aは、後述するクリヤ塗料2を塗布する面であり、また、促進耐候性試験において暴露面となる面である。
また、気中養生を行ってから2週間後(具体的には材齢21日目)から3日間でクリヤ塗料2(被覆材に相当)の塗布を行った。クリヤ塗料2の塗布には、短毛の無泡ローラーを使用した。本実施形態では、この無泡ローラーとして、外径が27mm、全長が100mm、毛丈が6mm,毛材がポリエステルの仕上げ用のローラーを用いた。
なお、クリヤ塗料2の塗布直前のモルタル基板1の含水率を、ケット科学研究所社製のコンクリート・モルタル水分計を用いて測定し、クリヤ塗料の付着性能を阻害しない8%以下であることを確認した。本実施形態では、モルタルモードに設定して測定した結果、平均5.5%(8%以下)であった。これにより、モルタル基板1にクリヤ塗料2を確実に塗布することができる。
塗布の際には、モルタル基板1を塗布面1Aが水平になるよう設置し、塗布面1Aに無泡ローラーを用いてクリヤ塗料2を塗布した。なお、クリヤ塗料2を塗布しない残りの5面(すなわち、塗布面1A以外の面)は、材齢28日目から35日目の期間にエポキシ樹脂3を塗布しシールを施した。
≪モルタルの試験項目について≫
モルタルの試験項目を表3に示す。フレッシュ性状試験は、練上がり直後に試料を採取して行った。試験項目は、表に示す通り0打フロー,15打フロー,空気量,モルタル温度とした。
硬化性状については、圧縮強度試験を行った。圧縮強度用の供試体は、モルタル基板1と同様に、材齢3日目に脱型した。標準養生の供試体は、材齢7日と材齢28日に試験を行った。一方、平板試験体と同じ養生条件とした供試体は、材齢35日(促進中性化試験または促進耐候性試験の開始日)に試験を行った。
Figure 2021124375
≪クリヤ塗料の構成と塗布量について≫
今回の実験で使用したクリヤ塗料の概要を表4に示す。いずれの銘柄も水系のクリヤ塗料である。A社製の中塗り材は、顔料入りと顔料なしの2種類がある。B社製は、顔料入りの仕様のみであり、C社製は、顔料なしの仕様である。なお、上塗り材は、いずれも顔料なしの使用である。
Figure 2021124375
モルタル基板1に塗布したクリヤ塗料2の材料構成と塗布量を表5および表6に示す。なお、表5は、促進耐候性試験を行わない場合の試験体を示し、表6は、促進耐候性試験を行なう場合の試験体を示している。各表に示すように、試験体No.1は、クリヤ塗料2を塗布しない試験体であり、試験体No.2〜No.8は、クリヤ塗料2を塗布する試験体である。
Figure 2021124375
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促進耐候性試験を行う試験体No.1b(表6)は、試験中の散水がモルタルの暴露面にかからないようにするために、アルミ袋で全体を覆って封かんして試験を行った。促進耐候性試験が終了し、促進中性化試験を行う際には、アルミ袋を取り外して試験を行った。
≪促進耐候性試験および促進中性化試験≫
図4は、促進耐候性試験および促進中性化試験の概略工程を示す図である。図に示すように、クリヤ塗料を塗布したモルタル試験体の促進中性化試験を行い、クリヤ塗料の材料構成と塗布量の違いが、モルタルの中性化抑制効果に及ぼす影響を定量的に確認した。
促進中性化試験は、モルタル打込み後、1週間の標準養生と4週間の気中養生の後に行う場合(比較例)と、1週間の標準養生と4週間の気中養生と促進耐候性試験の後に行う場合(実施例)の2ケースを行い、クリヤ塗料2の塗膜自体の劣化が中性化抑制効果に及ぼす影響も確認した。促進耐候性試験機は、サンシャインカーボンアーク灯式の耐候性試験機を用いた。促進耐候性試験の試験時間は、1500時間,3000時間,5000時間の3水準とした。それぞれの試験時間は、屋外暴露の6年間,12年間,20年間に相当する(日本建築学会構造系論文集,第584号,pp.15-21,2004年10月を参照)。
<促進耐候性試験>
促進耐候性試験は、JIS B 7753:2007「サンシャインカーボンアーク灯式の耐光性試験機及び耐候性試験機」の規格を満足するサンシャインウェザーメーターを用いて行った。サンシャインウェザーメーターの概要を表7に示す。試験条件は、JIS K 7350-4:2008「プラスチック−試験室光源による暴露試験方法−第4部:オープンフレームカーボンアークランプ」およびJIS A 1415:1999「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」に準拠して行った。また、噴霧条件を表8に示す。表8に示すように、JIS K 7350-4の「6.3噴霧条件」の「噴霧サイクル1」とした。試験時間は、前述したように、暴露6年,12年,20年を想定し、1500時間,3000時間,5000時間とした。
Figure 2021124375
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なお、JIS規格となっている促進耐候性試験機は、サンシャインカーボンアーク灯式(JIS B 7753:2007)の他に下記のものがある。
JIS B 7751:2007 紫外線カーボンアーク灯式の耐光性試験機及び耐候性試験機
JIS B 7754:1991 キセノンアークランプ式耐光性及び耐候性試験機
いずれの試験機においても、試験体の厚さが大きすぎると、試験機の光源からの距離が近くなりすぎ、試験体の劣化が早くなるため、試験可能な厚さに限界がある。具体的には、試験中に試験体がホルダから落下しないようにするためには、厚さの限度は2cm(20mm)程度とする必要がある。本実施形態では、試験体(モルタル試験体10)の厚さを20mmに定めているので上記の試験機で促進耐候性試験を行うことができる。
また、試験方法は、下記のJIS規格がある。
JIS A 1415:2013 高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法
JIS K 7350-1:1995 プラスチック−実験室光源による暴露試験方法 第1部:通則
JIS K 7350-2:2008
プラスチック−実験室光源による暴露試験方法−第2部:キセノンアークランプ
JIS K 7350-3:2008
プラスチック−実験室光源による暴露試験方法−第3部:紫外線蛍光ランプ
さらに、塗料の促進耐候試験方法として、下記のJIS規格がある。
JIS K 5600-7-7 促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)
JIS K 5600-7-8 促進耐候性(紫外線蛍光ランプ法)
<促進中性化試験>
クリヤ塗料2を塗布したモルタル試験体10の促進中性化試験は、JIS A 1153に準拠して行った。試験材齢は、1週,4週,8週,13週,26週とし、モルタル試験体10を各材齢で切断して中性化深さを測定した。図5は、促進中性化試験によるモルタル試験体10の切断箇所を示す図である。なお、図5では、クリヤ塗料2およびエポキシ樹脂3の図示(ハッチング)を省略している。また、モルタル試験体10の各切断面はエポキシ樹脂でシールを施した。
≪試験結果≫
<フレッシュ性状>
フレッシュ性状試験は、1バッチ目の練上がり直後と、1バッチ目と2バッチ目を合わせた直後に行った。フレッシュ性状試験の結果を表9に示す。空気量は目標値4.5±1.5%を満足した。
Figure 2021124375
<モルタルの硬度性状>
モルタルの圧縮強度の試験結果を表10,表11に示す。モルタル平板試験体と同じ養生条件とした供試体の材齢35日の圧縮強度は22.6N/mmであった。なお、モルタル平板試験体の促進中性化試験および促進耐候性試験は、材齢35日より開始した。この結果より、圧縮強度には特に問題がないことを確認した。
Figure 2021124375
Figure 2021124375
<中性化深さ>
図6および図7は、促進材齢と中性化深さの関係を示す図である。なお、図6は、促進耐候性試験なし(耐候性試験0時間)、図7は、促進耐候性試験あり(耐候性試験1500時間)の結果をそれぞれ示している。図6において、クリヤ塗料を塗布した試験体(試験体No.2〜No.8)では、塗布していない試験体(試験体No.1)よりも、同一材齢における中性化深さが小さくなっている(中性化抑制効果)。また、促進材齢26週において、塗布していない試験体の中性化深さはモルタル試験体の厚さ(20mm)にほぼ達しているが、クリヤ塗料を塗布した試験体では、5mm以下である。図7においてもほぼ同様に傾向がみられる。また図7において、クリヤ塗料を塗布していない試験体No1b(封かんあり)は、クリヤ塗料を塗布していない試験体No1a(封かんなし)よりも中性化深さが小さくなっている。
<中性化速度係数>
図8および図9は、促進材齢と中性化速度係数の関係を示す図である。なお、図8は、促進耐候性試験なし(耐候性試験0時間)、図9は、促進耐候性試験あり(耐候性試験1500時間)の結果をそれぞれ示している。クリヤ塗料を塗布した試験体(試験体No.2〜No.8)では、塗布していない試験体(試験体No.1)よりも中性化速度係数が小さくなっている。
<促進耐候性試験による中性化深さ、中性化速度係数、中性化率の推移>
図10は、促進耐候性試験による中性化深さの推移を示す図であり、図11は、促進耐候性試験による中性化速度係数の推移を示す図であり、図12は、促進耐候性試験による中性化率の推移を示す図である。なお、中性化率とは、仕上げ材を施していないコンクリートの中性化深さに対する、仕上げ材を施したコンクリートの中性化深さの比(後述の式5参照)である(日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事より)。これらの各図の横軸は、促進耐候性試験の試験時間である。
図に示すように、耐候性試験3000時間(暴露12年に相当)においてもクリヤ塗料を塗布した試験体では中性化が抑制されている。
≪建物寿命の予測について(予測方法1)≫
図13は、建物寿命の予測方法の一例を示すフロー図である。ここでは、中性化速度係数を用いて建物寿命を予測する。
まず、図13に示すように、仕上げを施した試験体、または、仕上げのない試験体の作製を行う(S101)。なお、本実施形態において、仕上げを施した試験体は、モルタル基板1の塗布面1Aに、クリヤ塗料2を塗布したモルタル試験体10(試験体No.2〜No.8)であり、仕上げのない試験体は、モルタル基板1にクリヤ塗料2を塗布していない試験体(試験体No.1)である。
次に、試験体を用いて促進耐候性試験を行う(S102:第1ステップに相当)。この促進耐候性試験により、試験体のコンクリート(モルタル)表面、あるいは、試験体表面の仕上げ材(ここではクリヤ塗料2)を劣化させる。劣化させる期間は、複数点(複数期間)とする。例えば、JIS B 7753:2007で規定されるサンシャインカーボンアーク灯式の耐候性試験機を用いて、JIS K 7350-4:2008「プラスチック−実験室光源による暴露試験方法−第4部:オープンフレームカーボンアークランプ」およびJIS A 1415:2013「高分子系建築材料の実験室光源による暴露試験方法」に準じて試験を行う場合、促進試験250時間が、関東圏での屋外暴露1年に相当することが知られている。ここでは、促進耐候性試験を3つの期間(1500時間,3000時間,5000時間)について行う(それぞれ、屋外暴露6年,12年,20年に相当)。
次に、促進耐候性試験を行った試験体を用いて促進中性化試験を行う(S103:第2ステップに相当)。すなわち、促進耐候性試験により、コンクリート表面あるいは仕上げ材が劣化した試験体に対し、促進中性化試験を行う。中性化深さの測定は、JIS A 1153:2012「コンクリート促進中性化試験方法」に準じて、促進材齢1週,4週,8週,13週,26週とする。または、26週以下のこれら以外の促進材齢での測定でもよい。26週までの促進材齢で中性化深さが試験体の厚み(20mm)以上に達する場合は、26週より以前の中性化深さ測定値を用いて、最小二乗法により26週目の中性化深さを推定すればよい。
また、中性化深さの測定値(または推定値)から、下記の(式1)より、時間の経過とともに変化する中性化速度係数Aを求める(S104)。
C=A√t ・・・・・(式1)
C:中性化深さ(mm)
A:中性化速度係数(mm/√週)
t:促進材齢(週)
(日本建築学会:建築工事標準仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事(2018年)より)
具体的には、複数点の耐候性試験の促進時間(屋外暴露の経過時間)と、中性化速度係数Aの関係から、最小二乗法により、中性化速度係数の経時変化の曲線式または直線式(自然環境下での材齢Tを変数とする関数)を求める。図14は、耐候性試験の促進時間と中性化速度係数の関係を示す図である。図14では、3つの促進時間についてそれぞれ中性化速度係数が求められており、この複数店のデータから最小二乗法により回帰曲線または回帰直線を求めている。これにより、任意の材齢における中性化速度係数Aを推定できる。
なお、促進中性化試験は、温度20℃,相対湿度60%RH,CO濃度5.0%の環境下で行なうこととする(一方、自然環境のCO濃度は、屋外が0.05%程度、屋内が0.10%〜0.20%程度の数値が一般に用いられることが多い)。このように、高いCO濃度の環境下で促進中性化試験を行なう。
次に、自然環境下での気温による係数β、湿度およびコンクリートに作用する水分の影響による係数β、CO濃度による係数βを求める(S105)。
そして、自然環境下での中性化深さCが鉄筋のかぶり厚さに達する材齢T(週)を求める(S106)。
まず、以下の(式2)により、自然環境下での実暴露における中性化速度係数Aを求める。
=k・α・α・α・β・β・β ・・・・・(式2)
:自然環境下での実暴露における中性化速度係数(mm/√年)
k:中性化速度に関する定数(mm/√年)
α:コンクリートの種類(骨材の種類)による係数
α:セメントの種類による係数
α:調合(水セメント比)による係数
β:気温による係数
β:湿度およびコンクリートに作用する水分の影響による係数
β:CO濃度による係数
(日本建築学会:鉄筋コンクリート造建築物の耐久性設計施工指針・同解説(2016年)より)
中性化速度に関する係数k、コンクリートの種類(骨材の種類)による係数α1、セメントの種類による係数α2、調合(水セメント比)による係数αは、促進中性化試験により既に反映されている。なお、中性化速度に関する係数kには、仕上げの影響による係数も含まれるものとする。したがって、下記の(式3)によって、促進中性化試験により得られた中性化速度係数Aを実暴露における中性化速度係数Aに換算することができる。
Figure 2021124375
さらに、促進中性化試験で求めた中性化速度係数を用いて、自然環境下での中性化深さを求める場合、β1,β2,βを考慮すると、(式4)が得られる。
C=A・β・β・β3・√T ・・・・・(式4)
C:中性化深さ(mm)
A:中性化速度係数(mm/√週)
β:気温による係数
β:湿度およびコンクリートに作用する水分の影響による係数
β:CO濃度による係数
T:材齢(週)
複数点の材齢Tにおける中性化深さCを(式4)にて算出し、例えば横軸を材齢T、縦軸を中性化深さCとしたグラフにプロットする。そして、最小二乗法などで、材齢Tと中性化深さCの関係の回帰曲線または回帰直線を求める。この回帰式によって、中性化深さCが、鉄筋のかぶり厚に到達する材齢Tを求める(S106)。これにより、建物寿命を予測することができる。
以上、説明したように、本実施形態ではモルタル基板1の塗布面1Aにクリヤ塗料2を塗布したモルタル試験体10を用いており、モルタル試験体10の促進耐候性試験を行なうステップS102(第1ステップ)と、促進耐候性試験後のモルタル試験体10を用いて促進中性化試験を行なうステップS103(第2ステップ)と、を有している。これにより、クリヤ塗料2を塗布していても暴露試験により近い、正確な中性化速度の試験結果を得ることができる。よって、中性化速度についての評価(建物寿命の予測など)の精度を高めることができる。
≪建物寿命の予測について(予測方法2)≫
図15は、建物寿命の予測方法の別の例を示すフロー図である。ここでは、中性化率を用いて建物寿命を予測する。
まず、図15に示すように、仕上げを施した試験体、および、仕上げのない試験体の作製を行う(S201)。なお、本実施形態において、仕上げを施した試験体は、モルタル基板1の塗布面1Aにクリヤ塗料2を塗布したモルタル試験体10(試験体No.2〜No.8)であり、仕上げのない試験体は、モルタル基板1にクリヤ塗料2を塗布していない試験体(試験体No.1)である。
次に、各試験体を用いて促進耐候性試験を行う(S202)。促進耐候性試験については図13のステップS102と同じであるので説明を省略する。
次に、促進耐候性試験を行った試験体を用いて促進中性化試験を行う(S203)。促進中性化試験についても、図13のステップS103と同じであるので説明を省略する。
次に、26週の中性化深さ測定値(または推定値)から、下記の(式5)より、時間の経過とともに変化する中性化率を求める(S203)。
中性化率=c/c ・・・・・(式5)
:仕上げを施したコンクリートの中性化深さ
:仕上げを施していないコンクリートの中性化深さ
複数点の耐候性試験の促進時間(屋外暴露の経過時間)と中性化率の関係から、最小二乗法により、中性化率の経時変化の曲線式または直線式(自然環境下での材齢Tを変数とする関数)を求める。図16は、耐候性試験の促進時間と中性化率の関係を示す図である。この場合においても、複数点のデータから任意の材齢での中性化率を推定することができる。
次に、中性化率を用いて建物寿命の予測を行う。ここでは、まず、既往の文献(コンクリート工学年次論文集,Vol.28,No.1,2006年,pp.665-670)から(式6)を用いて、仕上げを施していないコンクリートの中性化速度係数Aを求める(S204)。そして、(式7)の右辺に時間の経過とともに変化する中性化率(c/c)を乗じれば、(式8)に示すように、仕上げを施したコンクリートの中性化深さCが求められる。
=23.8(1/√f−0.13) ・・・・・(式6)
C=A√T ・・・・・(式7)
C:屋外暴露での(仕上げを施していない)コンクリートの中性化深さ(mm)
:既往の文献から求めた中性化速度係数(mm/√年)
f:標準養生供試体の材齢28日の圧縮強度(N/mm2
T:材齢(年)
=c/c×A√T ・・・・・(式8)
:屋外暴露での仕上げを施したコンクリートの中性化深さ(mm)
:仕上げを施したコンクリートの中性化深さ(促進中性化試験の測定値)
:仕上げを施していないコンクリートの中性化深さ(促進中性化試験の測定値)
ここでも複数点の材齢での中性化深さCを(式8)により算出し、材齢Tと中性化深さCの関係の回帰曲線または回帰直線を求めればよい。この回帰式より中性化深さCが、鉄筋のかぶり厚さに到達する材齢Tを求める(S206)。これによって、建物寿命を予測することができる。
なお、仕上げのないコンクリートの中性化速度係数が既に分かっている場合、前述の(式1)の右辺に、時間の経過とともに変化する中性化率(c/c)を乗じれば、中性化深さが鉄筋位置まで到達する材齢、すなわち建物寿命を予測することができる。
このように中性化率を用いても、中性化速度係数を用いる場合と同様に、中性化速度についての評価(建物寿命の予測など)の精度を高めることができる。また、この中性化率を用いる場合では、中性化速度係数を用いる場合における係数(気温による係数β、湿度およびコンクリートに作用する水分の影響による係数β2、CO濃度による係数β)を求めなくてもよく、簡易に評価することができる。
===その他の実施形態===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
前述の実施形態では、モルタル基板1を用いていたが、他のセメント組成物(例えばコンクリート)で基板を作製してもよい。
前述の実施形態では、モルタル基板1の塗布面1Aにクリヤ塗料2を塗布していたが、これには限られず、他の被覆材を設けてもよい。例えば、樹脂塗装、樹脂フィルム、タイル、石材等仕上げ材などを施工してもよい。
また、前述の実施形態では、モルタル基板1の塗布面1A以外の面(5面)にはエポキシ樹脂を塗布してシールしていたが、これには限られず、他のシール材を施工してもよい。
1 モルタル基板
1A 塗布面(所定面)
2 クリヤ塗料(被覆材)
3 エポキシ樹脂
10 モルタル試験体

Claims (10)

  1. セメント組成物を有する試験体の評価方法であって、
    前記試験体の促進耐候性試験を行なう第1ステップと、
    前記第1ステップ後の前記試験体を用いて促進中性化試験を行なう第2ステップと、
    を有することを特徴とする試験体の評価方法。
  2. 請求項1に記載の試験体の評価方法であって、
    前記試験体は、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材が設けられたものである、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の試験体の評価方法であって、
    前記試験体の厚さの限度は、20mm程度である、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  4. 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の試験体の評価方法であって、
    前記促進中性化試験は、促進材齢が所定期間の所定期間促進中性化試験であり、
    前記所定期間後における前記試験体の中性化深さが前記試験体の厚さ未満の場合、前記所定期間促進中性化試験の結果から、中性化速度係数を算出する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  5. 請求項1乃至請求項3の何れかに記載の試験体の評価方法であって、
    前記促進中性化試験は、促進材齢が所定期間の所定期間促進中性化試験であり、
    前記所定期間後における前記試験体の中性化深さが前記試験体の厚さ以上の場合、前記所定期間よりも短い複数の期間における前記促進中性化試験の結果から、所定算出式により前記所定期間の中性化速度係数を算出する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  6. 請求項4又は請求項5に記載の試験体の評価方法であって、
    前記所定期間は26週である、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  7. 請求項4乃至請求項6の何れかに記載の試験体の評価方法であって、
    前記試験体として、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材を設けた第1試験体、又は、前記所定面に前記被覆材を設けてない第2試験体があり、
    前記試験体の実構造物が設置される自然環境下での気温による係数と、湿度及び前記実構造物に作用する水分の影響による係数と、CO濃度による係数と、前記中性化速度係数から、前記自然環境下での前記実構造物の中性化深さが所定値に達するまでの期間を予測する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  8. 請求項7に記載の試験体の評価方法であって、
    複数の期間における前記中性化速度係数をそれぞれ算出し、
    複数の前記中性化速度係数を用いて、前記中性化深さが前記所定値に達するまでの期間を予測する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  9. 請求項4乃至請求項6の何れかに記載の試験体の評価方法であって、
    前記試験体として、前記セメント組成物で形成された基板の所定面に被覆材を設けた第1試験体、及び、前記所定面に前記被覆材を設けていない第2試験体があり、
    前記第1試験体の中性化深さと前記第2試験体の中性化深さの比である中性化率と、
    前記試験体の実構造物が設置される自然環境下での前記被覆材を設けた部分の中性化深さと、
    前記実構造物の標準養生供試体の材齢28日の圧縮強度に基づいて求められる前記自然環境下での前記被覆材を設けていない部分の中性化速度係数と、
    から、前記自然環境下での前記実構造物の前記被覆材を設けた部分の前記中性化深さが所定値に達するまでの期間を予測する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
  10. 請求項9に記載の試験体の評価方法であって、
    複数の期間における前記中性化深さをそれぞれ算出し、
    複数の前記中性化深さを用いて、前記中性化深さが前記所定値に達するまでの期間を予測する、
    ことを特徴とする試験体の評価方法。
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