以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本発明に係る車両の走行支援方法及び車両の走行支援装置は、車両の速度制御や車両の操舵制御を自律的に実行する自律走行制御に適用することができるほか、ドライバーが手動運転する際に適切な走行経路を提示してドライバーの手動運転を支援するナビゲーションシステムにも適用することができる。車両の自律走行制御に適用する場合、速度制御と操舵制御の両方を自律制御するほか、速度制御と操舵制御の一方を自律制御し、他方を手動制御する場合にも適用することができる。以下、自律走行制御機能を備えた車両に、本発明に係る車両の走行支援方法及び車両の走行支援装置を適用した一例を説明する。
図1は、走行支援システム1000の構成を示すブロック図である。本実施形態の走行支援システム1000は、走行支援装置100と、車両コントローラ200とを備える。本実施形態の走行支援装置100は、通信装置111を備え、車両コントローラ200も通信装置211を備え、これら走行支援装置100と車両コントローラ200は、有線通信又は無線通信により互いに情報の授受を行う。
より具体的に本実施形態の走行支援システム1000は、センサ1と、ナビゲーション装置2と、読み込み可能な記録媒体に記憶された地図情報3と、自車情報検出装置4と、環境認識装置5と、物体認識装置6と、走行支援装置100と、車両コントローラ200とを備える。これらセンサ1と、ナビゲーション装置2と、読み込み可能な記録媒体に記憶された地図情報3と、自車情報検出装置4と、環境認識装置5と、物体認識装置6と、走行支援装置100の各装置は、図1に示すように、相互に情報の授受を行うためにCAN(Controller Area Network)その他の車載LANによって接続されている。
本実施形態のセンサ1は、自車両の前方、側方、後方の全周囲など、自車両の周囲に位置する障害物の存在を含む走行環境に関する情報その他の自車両の周囲の状況を検出する。本実施形態のセンサ1は、自車両周囲の環境情報を認識するための装置、例えばCCD等の撮像素子を備えるカメラ、超音波カメラ、赤外線カメラなどを含む。本実施形態のカメラは自車両に設置され、自車両の周囲を撮像し、自車両の周囲に存在する対象車両を含む画像データを取得する。
本実施形態のセンサ1は、測距センサを含み、当該測距センサは、自車両と対象物との相対距離および相対速度を演算する。測距センサにより検出された対象物の情報は、プロセッサ10に出力される。測距センサとしては、レーザーレーダー、ミリ波レーダーなど(LRF等)、LiDAR(light detection and ranging)ユニット、超音波レーダーなどの出願時に知られた方式のものを用いることができる。
本実施形態のセンサ1として、一又は複数のカメラと、測距センサとを採用することができる。本実施形態のセンサ1は、カメラの検知情報と測距センサの検知情報など複数の異なるセンサ情報を統合し、もしくは合成することにより、検知情報において不足している情報を補完し、自車両周囲の環境情報とするセンサフュージョン機能を備える。このセンサフュージョン機能は、環境認識装置5や物体認識装置6やその他のコントローラやロジックに組み込まれるようにしてもよい。
センサ1が検出する対象物は、道路の車線境界線、センターライン、路面標識、中央分離帯、ガードレール、縁石、高速道路の側壁、道路標識、信号機、横断歩道、工事現場、事故現場、交通制限を含む。センサ1が検出する対象物は、自車両以外の自動車(他車両)、オートバイ、自転車、歩行者を含む。センサ1が検出する対象物は、障害物を含む。障害物は、自車両の走行に影響を与える可能性がある対象物である。センサ1は、少なくとも障害物に関する情報を検知する。センサ1が検出する対象物は、GPS等の自車両が走行する位置である自己位置情報と、自車両と対象物の相対位置(距離と方向)により、対象物の位置情報を検出されることができる。またセンサ1が検出する対象物は、地図情報と、オドメトリによる自車両が走行する位置である自己位置情報と、自車両と対象物の相対位置(距離と方向)とにより、対象物の位置情報を地図情報と対応させて検出されることができる。
本実施形態のナビゲーション装置2は、地図情報3を参照し、自車情報検出装置4により検出された現在位置から目的地までの走行レーン/走行経路を算出する。走行レーン又は走行経路は、自車両が走行する道路、方向(上り/下り)及び車線が識別された線形である。走行経路は、走行レーンの情報を含む。以下、走行レーンをレーンと省略して記載することもある。
本実施形態の地図情報3は、走行支援装置100、車載装置、又はサーバ装置に設けられた記録媒体に読み込み可能な状態で記憶され、経路生成及び/又は運転制御に用いられる。本実施形態の地図情報3は、道路情報、施設情報、それらの属性情報を含む。道路情報及び道路の属性情報には、道路幅、曲率半径、路肩構造物、道路交通法規(制限速度、車線変更の可否)、道路の合流地点、分岐地点、車線数の増加・減少位置等の情報が含まれている。本実施形態の地図情報3は、いわゆる高精細地図情報であり、高精細地図情報によれば、レーンごとの移動軌跡を把握できる。高精細地図情報は、各地図座標における二次元位置情報及び/又は三次元位置情報、各地図座標における道路・レーンの境界情報、道路属性情報、レーンの上り・下り情報、レーン識別情報、接続先レーン情報を含む。
また本実施形態の地図情報3は、自車両が走行する走路とそれ以外との境界を示す走路境界の情報を含む。自車両が走行する走路とは、自車両が走行するための道であり、走路の形態は特に限定されない。走路境界は、自車両の進行方向に対して左右それぞれに存在する。走路境界の形態は特に限定されず、例えば、路面標示、道路構造物が挙げられる。路面標示の走路境界としては、例えば、車線境界線、センターラインが挙げられる。また道路構造物の走路境界としては、例えば、中央分離帯、ガードレール、縁石、トンネル又は高速道路の側壁が挙げられる。なお、走路境界が明確に特定できない地点(例えば、交差点内)に対して、地図情報3には予め走路境界が設定されている。予め設定された走路境界は、架空の走路境界であって実際に存在する路面標示または道路構造物ではない。
本実施形態の自車情報検出装置4は、自車両の状態に関する検知情報を取得する。自車両の状態とは、自車両の現在位置、速度、加速度、姿勢、車両性能を含む。これらは、自車両の車両コントローラ200から取得してもよいし、自車両の各センサから取得してもよい。本実施形態の自車情報検出装置4は、自車両のGPS(Global Positioning System)ユニット、ジャイロセンサ、オドメトリから取得した情報に基づいて自車両の現在位置を取得する。また本実施形態の自車情報検出装置4は、自車両の車速センサから自車両の速度及び加速度を取得する。また本実施形態の自車情報検出装置4は、自車両の慣性計測ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)から自車両の姿勢データを取得する。
本実施形態の環境認識装置5は、センサ1が取得した位置情報、自車両周囲の画像情報及び測距情報から得られた物体認識情報と、地図情報に基づいて構築された環境に関する情報とを認識する。本実施形態の環境認識装置5は、複数の情報を統合することにより、自車両の周囲の環境情報を生成する。本実施形態の物体認識装置6も、地図情報3を用いて、センサ1が取得した自車両周囲の画像情報及び測距情報を用いて、自車両周囲の物体の認識や動きを予測する。
本実施形態の車両コントローラ200は、電子コントロールユニット(ECU:Electronic Control Unit)などの車載コンピュータであり、車両の運転を律する駆動機構210を電子的に制御する。車両コントローラ200は、駆動機構210に含まれる駆動装置、制動装置、および操舵装置を制御して、目標車速及び目標走行経路に従って自車両を走行させる。車両コントローラ200には、走行支援装置100から、自車両の運転計画に基づく制御命令が入力される。自車両の目標車速、目標走行経路、及び運転計画については後述する。
本実施形態の駆動機構210には、走行駆動源である電動モータ及び/又は内燃機関、これら走行駆動源からの出力を駆動輪に伝達するドライブシャフトや自動変速機を含む動力伝達装置、動力伝達装置を制御する駆動装置、車輪を制動する制動装置、及びステアリングホイール(いわゆるハンドル)の操舵角に応じて総舵輪を制御する操舵装置などが含まれる。車両コントローラ200には、走行支援装置100から、目標車速に応じた制御信号が入力される。車両コントローラ200は、走行支援装置100から入力される制御信号に基づいてこれら駆動機構210の各制御信号を生成し、車両の加減速を含む運転制御を実行する。駆動機構210の駆動装置に制御情報を送信することにより、車両の速度制御を自律的に制御することができる。
また本実施形態の車両コントローラ200は、地図情報3が記憶するレーン情報と、環境認識装置5が認識した情報と、物体認識装置6で取得した情報とのうちの何れか一つ以上を用いて、自車両が目標走行経路に対して所定の横位置(車両の左右方向の位置)を維持しながら走行するように、駆動機構210の操舵装置の制御を行う。操舵装置は、ステアリングアクチュエータを備え、ステアリングアクチュエータは、ステアリングのコラムシャフトに取り付けられるモータ等を含む。車両コントローラ200には、走行支援装置100から、目標走行経路に応じた制御信号が入力される。駆動機構210の操舵装置は、車両コントローラ200から入力される制御信号に基づいて車両の操舵制御を実行する。駆動機構210の操舵装置に制御情報を送信することにより、車両の操舵制御を自律的に制御することができる。
本実施形態の走行支援装置100は、自車両の運転を制御することにより、自車両の走行を支援する制御を実行する。図1に示すように、本実施形態の走行支援装置100は、プロセッサ10を備える。プロセッサ10は、自車両の運転制御を実行させるプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)12と、このROM12に格納されたプログラムを実行することで、走行支援装置100として機能する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)11と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)13と、を備えるコンピュータである。本実施形態のプロセッサ10は、上記機能を実現するためのソフトウェアと、上述したハードウェアの協働により各種の機能を司る。プロセッサ10は、通信装置111と出力装置110を備え、各種の出力又は入力の指令、情報の読み込み許可又は情報提供の指令を、車両コントローラ200、ナビゲーション装置2、地図情報3、自車情報検出装置4、環境認識装置5、物体認識装置6へ出力する。プロセッサ10は、センサ1、ナビゲーション装置2、地図情報3、自車情報検出装置4、環境認識装置5、物体認識装置6、車両コントローラ200と相互に情報の授受を行う。
本実施形態のプロセッサ10は、目的地設定部120と、経路プランニング部130と、運転計画部140と、走行可能領域算出部150と、経路算出部160と、運転行動制御部170とを備え、それぞれがそれぞれの機能を司る。本実施形態のプロセッサ10は、これら目的地設定部120と、経路プランニング部130と、運転計画部140と、走行可能領域算出部150と、経路算出部160と、運転行動制御部170とをそれぞれ実現する又はそれぞれの処理を実行するためのソフトウェアと、上述したハードウェアとの協働により構成されている。
本実施形態のプロセッサ10による制御手順を、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係る走行支援システムの情報処理手順を示すフローチャートである。図2を用いて、走行支援装置100が実行する自律走行制御処理の概要について説明する。
まず図2のステップS1において、プロセッサ10は、目的地設定部120により、自車情報検出装置4の検出結果に基づいて、自車両の現在位置を取得する処理を実行し、続くステップS2において、自車両の目的地を設定する処理を実行する。目的地は、ユーザが入力したものであってもよいし、他の装置により予測されたものであってもよい。続くステップS3において、プロセッサ10は、経路プランニング部130により、地図情報3を含む各種検出情報を取得する。続くステップS4において、プロセッサ10は、経路プランニング部130により、目的地設定部120によって設定された目的地に対する走行レーン(又は走行経路)を設定する。プロセッサ10は、経路プランニング部130により、地図情報3や自己位置情報に加え、環境認識装置5や物体認識装置6から得られた情報を用いて、走行レーンを設定する。プロセッサ10は、経路プランニング部130により、自車両が走行する道路を設定するが、道路に限らず、道路内において自車両が走行する車線を設定する。
続くステップS5において、プロセッサ10は、運転計画部140により、経路上の各地点における自車両の運転行動を計画する処理を実行する。運転計画は、各地点における進行(GO)、停止(No-GO)といった運転行動が規定される。例えば、交差点を右折する場合では、停止線の位置で停止するのか否かの判定や、対向車線の車両に対する進行判定を実行する。
続くステップS6において、ステップS5で計画された運転行動を実行するために、プロセッサ10は、走行可能領域算出部150により、地図情報3や自己位置情報に加え、環境認識装置5や物体認識装置6から得られた情報を用いて、自車両の周囲で走行可能な領域(走行可能領域ともいう)を算出する処理を実行する。走行可能領域は、自車両が走行する車線内に限られず、自車両が走行する車線に隣接する車線(隣接車線ともいう)であってもよい。また走行可能領域は、自車両が走行可能な領域であればよく、道路のうち車線として認識されている領域以外であってもよい。
続くステップS7において、プロセッサ10は、経路算出部160により、自車両が走行する目標走行経路を生成する処理を実行する。それに加えて、プロセッサ10は、運転行動制御部170により、目標走行経路に沿って走行するときの目標車速、及び目標車速のプロファイルを算出する。プロセッサ10は、目標車速に代えて、又はこれとともに、現在の車速に対しての目標減速度及び目標加速度、及びそれらのプロファイルを算出してもよい。なお、算出した目標車速を、目標走行経路の生成処理にフィードバックして、車両の挙動変化及び車両の乗員が違和感を覚える動き(挙動)を抑制するように、目標走行経路を生成するようにしてもよい。生成した目標走行経路を目標車速の算出処理にフィードバックして、車両の挙動変化及び車両の乗員が違和感を覚える動き(挙動)を抑制するように、目標車速を算出するようにしてもよい。
ステップS8において、プロセッサ10は、生成した目標走行経路を自車両に走行させる運転計画を立案する処理を実行する。またプロセッサ10は、算出した目標車速の速度で自車両を走行させる運転計画を立案する処理を実行する。そして、ステップS9において、プロセッサ10の出力装置110は、通信装置111を介して運転計画に基づく制御命令、制御指令値を車両コントローラ200に出力し、各種アクチュエータである駆動機構210を動作させる。
車両コントローラ200は、プロセッサ10からの指令値に基づいて、自車両の走行位置を制御する縦力及び横力を入力する。これらの入力に従い、自車両が目標とする目標走行経路に追従して自律的に走行するように、車体の挙動及び車輪の挙動が制御される。これらの制御に基づいて、車体の駆動機構210の駆動アクチュエータ、制動アクチュエータの少なくとも一方、必要に応じて操舵装置のステアリングアクチュエータが自律的に動作し、目的地に至る自律的な運転制御が実行される。もちろん、手動操作に基づく指令値に従い、駆動機構210を操作することもできる。
さて、本実施形態の走行支援装置100は、図2のステップS1〜S4において、自車両の現在位置を取得し、設定された自車両の目的地と地図情報3とから、現在位置から目的地に至る走行経路を設定する。ここで、図3は、図1の経路算出部160の一実施の形態を示すブロック図である。本実施形態の経路算出部160は、自車両が走行する目標走行経路を生成する処理を実行するが、そのための予測リスクポテンシャルを求めるため、周辺物体の軌跡取得部1601と、周辺物体の分類部1602と、周辺物体の情報蓄積部1603と、記憶部1604と、予測リスクマップ生成部1605と、顕在リスクマップ学習部1609と、顕在リスクマップ生成部1610と、リスクマップ統合部1611と、行動決定部1612とを備える。また、予測リスクマップ生成部1605は、リスクポテンシャル計算部1606と、遭遇確率計算部1607と、予測リスクポテンシャル生成部1608とを備える。これらの各部1601〜1612は、走行支援装置100のROM12にインストールされたソフトウェアプログラムにより実現することができる。なお、これらの各部1601〜1612は、ソフトウェアプログラムの実行により発揮される機能の説明をする上で便宜的に分類したものに過ぎないことから、権利範囲を確定するものではない。
図1及び図3に示す経路算出部160は、車両に設けたものとして以下の実施形態を説明するが、本発明に係る経路算出部160、特に図3の周辺物体の情報蓄積部1603、記憶部1604、予測リスクマップ生成部1605、リスクポテンシャル計算部1606、遭遇確率計算部1607、予測リスクポテンシャル生成部1608、顕在リスクマップ学習部1609、顕在リスクマップ生成部1610、リスクマップ統合部1611は、必ずしも車両側に備わっている必要はなく、これらの一部又は全部がサーバなどに備わっていてもよい。経路算出部160を構成する各部の一部又は全部が、サーバなど車両以外に設けられ、残りの各部が車両に設けられている場合、車両とサーバとの間の情報の送受信は、インターネットなどの電気通信回線網を介してリアルタイムに行うことができる。なお、周辺物体の情報蓄積部1604や記憶部1604をサーバに設け、複数の車両で検出された物体に関する情報をこれら周辺物体の情報蓄積部1604や記憶部1604に併せて蓄積することもできる。この場合、物体を検出した車両と、リスクポテンシャルの情報を使用する車両は必ずしも一致しなくてよい。
また、予測リスクマップ生成部1605の予測リスクポテンシャル生成部1608で生成する予測リスクポテンシャルは、サーバで事前に算出し、サーバに予測リスクポテンシャルを蓄積しておくタイミングでもよいし、これに代えて遭遇位置を走行するタイミングで予測リスクポテンシャルを算出するようにしてもよい。さらに、顕在リスクマップ生成部1610で生成される顕在リスクマップ、予測リスクマップ生成部1605で生成される予測リスクマップ及びリスクマップ統合部1611で生成される統合リスクマップのいずれかが、サーバで生成され、その他が車両で生成されてもよい。
周辺物体の軌跡取得部1601は、自車両の周辺の交通参加者のそれぞれの軌跡を取得する。交通参加者には、自動車、歩行者、自転車、バイク、その他の物体(工事区間などの障害物等)が含まれる。また自動車には、先行車両、駐車車両、最後尾の車両、流出車両(現在の車線から他車線に分岐する車両)、合流車両(他車線から現在の車線に合流する車両)、障害になる車両、その他の車両が含まれる。また歩行者には、子供・老人・その他の年齢に応じた歩行者、停止中・歩行中・ランニング中の歩行者が含まれる。また自転車には、子供・老人・その他の年齢に応じた自転車、停止中・低速走行中・高速走行中の自転車が含まれる。またバイクには、先行バイク、停車中のバイク、最後尾のバイク、流出バイク(現在の車線から他車線に分岐するバイク)、合流バイク(他車線から現在の車線に合流するバイク)、障害になるバイク、その他のバイクが含まれる。
周辺物体の軌跡取得部1601は、自車両が任意の場所を走行中に当該自車両がプローブカーとなり、カメラや測距センサその他のセンサ1を用いて、交通参加者その他の物体を検出して追跡し、当該交通参加者の位置・速度・方向の各情報を時間スタンプとともに、周辺物体の分類部1602へ送出する。周辺物体の分類部1602は、周辺物体の軌跡取得部1601から読み込んだ交通参加者その他の物体の位置・速度・方向・時間の各情報を、上述した交通参加者その他の物体の分類基準に基づいて分類した上で、周辺物体の情報蓄積部1603と、顕在リスクマップ学習部1609へ送出する。なお、周辺物体の情報蓄積部1603へ送出される交通参加者その他の物体の位置・速度・方向・時間の各情報は、その後の走行支援要求に対する予測リスクポテンシャルの生成に供される。これに対して、顕在リスクマップ学習部1609へ送出される交通参加者その他の物体の位置・速度・方向・時間の各情報は、現在行われている走行支援に対する顕在リスクマップの生成に供される。
周辺物体の分類部1602は、交通参加者その他の物体を上述したように分類することに加え、特に本実施形態では、周辺物体の軌跡取得部1601で取得された、交通参加者を含む物体を、車線を長時間閉塞する物体、車線を一時的に閉塞する物体、交通流を妨げる物体又は部分的に交通流を妨げる物体のいずれかに分類する。たとえば、検出した物体が、駐車中の車両である場合又は工事区間である場合は、車線を長時間閉塞する物体に分類し、検出した物体が、右左折待ちの車両又は停車中のバスなど、現在は動きが停止しているが時間が経過すれば交通流が解消する場合は、車線を一時的に閉塞する物体に分類する。また、検出した物体が、合流する車両又は車線特有の渋滞車両など、動きが停止していないまでも交通流を乱す場合は、交通流を妨げる物体に分類し、検出した物体が、車線を歩行する歩行者、自転車又は二輪車など、自車両の横方向への回避により走行を継続できる可能性がある物体である場合は、部分的に交通流を妨げる物体に分類する。
検出した物体は、予めこれらの分類ごとにリスクポテンシャルが設定され、後述するリスクポテンシャル計算部1606により分類ごとのリスクポテンシャルの値が用いられる。ここでいうリスクポテンシャルとは、障害物への自車両の接近リスクの高さの指標(リスク感指標)を意味し、リスクポテンシャルの値が大きいほど、自車両の障害物に対する接近リスクが高いことになる。リスク感の指標であるため、相対的数値が用いられる。たとえば、交通参加者のうちの歩行者についてのリスクポテンシャルの大小関係は、子供の歩行者>老人の歩行者>その他の歩行者、のように予め設定されている。子供も老人もその他の歩行者に比べれば同じ交通弱者ではあるが、老人に比べて子供の方が活発であるから、車両に対する急な飛び出しなどが予想される。そのため、子供の歩行者のリスクポテンシャルが最も高い値に設定されている。このようにして、自車両の接近リスクの高さという観点から、交通参加者その他の物体の全てについて、リスクポテンシャルが予め設定されている。
特に本実施形態では、車線を長時間閉塞する物体、車線を一時的に閉塞する物体、交通流を妨げる物体、部分的に交通流を妨げる物体の順序で、高いリスクポテンシャルが設定されている。すなわち、車線の交通流を妨げる物体という観点から、車線を長時間閉塞する物体、車線を一時的に閉塞する物体、交通流を妨げる物体、部分的に交通流を妨げる物体という4つに分類されたもののリスクポテンシャルの大小関係は、車線を長時間閉塞する物体>車線を一時的に閉塞する物体>交通流を妨げる物体>部分的に交通流を妨げる物体とされている。
周辺物体の情報蓄積部1603は、周辺物体の分類部1602で分類された交通参加者その他の物体の位置・速度・方向・時間の各情報を記憶部1604に蓄積する。すなわち、自車両を含む複数の車両が、任意の場所を走行中に当該車両がプローブカーとなり、以上の周辺物体の軌跡取得部1601、周辺物体の分類部1602、周辺物体の情報蓄積部1603及び記憶部1604による処理を繰り返すことで、交通参加者その他の物体のリスクポテンシャルが、それぞれの物体が検出された位置の位置情報と関連付けられて、記憶部1604に順次蓄積される。
なお、物体が検出された位置の位置情報に加え、物体が検出された日時及び/又は天候といった属性情報も関連付けて記憶部1604に蓄積してもよい。この場合、物体が検出された日にちの属性、たとえば月、曜日、祝祭日、月初め・月末などといった属性を関連付けたり、時間の属性、たとえば午前・午後・深夜、出勤時間帯・退社時間帯、食事時間帯などといった属性を関連付けたりしてもよい。
天候の属性を関連付ける場合、インターネットなどの通信網を介して天気情報を取得してもよいが、センサ1に含まれる雨滴センサにより雨天か否かを判断したり、自車情報検出装置4によりワイパーの作動状況を検出することで、雨天か否かを判断したりしてもよい。
自車両を含む複数の車両が、任意の場所を走行中に当該車両がプローブカーとなり、図3の周辺物体の軌跡取得部1601、周辺物体の分類部1602、周辺物体の情報蓄積部1603及び記憶部1604による処理を繰り返すことで、周辺物体の情報が、図3の記憶部1604に蓄積される例を説明する。図6は、本実施形態の走行支援装置100の経路プランニング部130により設定される現在位置から目的地までの走行経路の一例を示す平面図であり、たとえば、自車両V1の通勤経路の一部であるものとする。図7は、図6の走行経路における、ある日時の交通状況の一例を示す平面図である。
図6に示す自車両V1の通勤経路は、自車両V1の現在位置P1である道路D1の左車線から、走行経路R1で示すように、交差点Cの手前で右折専用車線に車線変更し、走行経路R2で示すように交差点Cを右折し、右折したら走行経路R3で示すように道路D2の左車線に入り、一つ目のT字路D3をそのまま左折し、走行経路R4で示すように直進する走行経路である。自車両V1は、図6に示す通勤経路R1→R2→R3→R4(以下、これらを総称して走行経路Rともいう。)を毎日走行するものとし、ある日時の交通状況が図7に示すものであったとする。図7に示す車両は全て他車両であり、道路D1の左車線は、交差点Cを左折待ちする車両V2,V2…の渋滞が発生している。また、道路D1の右折専用レーンには右折待ちをしている1台の他車両V3があり、さらに道路D2の左車線には、停車中の他車両V4がある。
このような状況にあるとき、ある日時(2019年2月5日6時〜7時とする)に、自車両が図6に示す走行経路Rに沿って走行したとすると、まず道路D1(道路区間を0001とする)の左車線(車線1とする)に並ぶ、交差点Cを左折待ちする車両V2,V2…(リスクポテンシャルをリスクBとする)を検出することで、この日時の、道路区間0001の車線1に、リスクBのリスクポテンシャルがあることが記憶される。また、道路D1(道路区間を0001とする)の右折専用レーン(車線3とする)には右折待ちをしている1台の他車両V3(リスクポテンシャルをリスクBとする)を検出することで、この日時の、道路区間0001の車線3に、リスクBのリスクポテンシャルがあることが記憶される。さらに、道路D2(道路区間を0002とする)の左車線(車線1とする)には、停車中の他車両V4(リスクポテンシャルをリスクAとする)があることを検出することで、この日時の、道路区間0002の車線1に、リスクAのリスクポテンシャルがあることが記憶される。また、これ以外の道路区間0001の中央車線(車線2とする)や、道路区間0002の右車線(車線2とする)には、物体が検出されないので、物体検出に関するリスクポテンシャルを0として記憶する。
図8は、図6の走行経路を複数回走行した結果得られ、図3の記憶部1604に記憶される周辺物体の情報の蓄積例を示す図である。同図のリスクA〜Dの列欄において、数字の「1」は、該当するリスクが「あり」、数字の「0」は、該当するリスクは「なし」を示す。上述したとおり、2019年2月5日6時〜7時に、図7に示す交通状況にある通勤経路Rを走行したことにより、図8の2019年2月5日6時〜7時の日にちの行欄に、道路区間0001の車線1に、リスクBのリスクポテンシャルがあること、道路区間0001の車線3に、リスクBのリスクポテンシャルがあること、道路区間0002の車線1に、リスクAのリスクポテンシャルがあることが記憶され、これら以外の道路区間、車線には、リスクA〜Dのリスクは検出されなかったことが記憶されている。
また同様に、図8の2019年2月6日6時〜7時の日にちの行欄に、道路区間0001の車線1に、リスクBのリスクポテンシャルがあること、道路区間0002の車線1に、リスクAのリスクポテンシャルがあることが記憶され、これら以外の道路区間、車線には、リスクA〜Dのリスクは検出されなかったことが記憶されている。さらに、図8の2019年2月7日6時〜7時の日にちの行欄に、道路区間0001の車線1に、リスクBのリスクポテンシャルがあること、道路区間0001の車線3に、リスクBのリスクポテンシャルがあること、道路区間0002の車線1に、リスクAのリスクポテンシャルがあることが記憶され、これら以外の道路区間、車線には、リスクA〜Dのリスクは検出されなかったことが記憶されている。
図3に戻り、本実施形態の経路算出部160は、自車両V1が目的地Pxを入力してこれから走行を開始する際又は走行計画を立案する際に、自車両V1の現在位置P1から目的地Pxに至る走行経路R1→R2→R3→R4の全域について、予め記憶部1604に蓄積しておいた走行位置(検出物体との遭遇位置でもある。以下同じ。)ごとのリスクポテンシャルと、物体への遭遇確率から、走行位置ごとに予測される予測リスクポテンシャルを求め、この予測リスクポテンシャルに基づいて、車両の走行経路を設定する。以下の説明では、図6に示す走行経路Rの範囲について、走行位置ごとのリスクポテンシャルと物体への遭遇確率の求め方等を説明するが、他の範囲についても同様の方法で求められる。
リスクポテンシャル計算部1606は、記憶部1604に蓄積された情報から、現在位置から目的地に至る走行経路の各道路区間のリスクポテンシャルを抽出する。これと並行して、遭遇確率計算部1607は、同じく記憶部1604に蓄積された情報から、現在位置から目的地に至る走行経路の各道路区間の遭遇確率を求める。遭遇確率を求めるタイミングは、定期的でもよいし、遭遇確率を取得する時でもよい。図9は、図8に示す周辺物体の蓄積情報を用いて、予測リスクマップ生成部1605のリスクポテンシャル計算部1606と遭遇確率計算部1607により生成されるリスクポテンシャルと遭遇確率の一例を示す図である。なお、リスクAのリスクポテンシャルを100、リスクBのリスクポテンシャルを80、リスクCのリスクポテンシャルを50、リスクDのリスクポテンシャルを20とし、図9においてリスクDの欄の図示は省略する。
図8に示すように、道路区間0001の車線1は、いずれの日もリスクBの物体が検出されたが、他のリスクA,C,Dは検出されなかった。そのため、図9に示すように、道路区間0001の車線1のリスクBの遭遇確率は100%、リスクA,C,Dの遭遇確率は0%として算出される。同様にして、道路区間0001の車線2は、図8に示すようにいずれの日もリスクA〜Dの物体は検出されなかった。そのため、図9に示すように、道路区間0001の車線2のリスクA〜Dの遭遇確率は、全て0%として算出される。また、道路区間0001の車線3は、図8に示すように、3回のうち2回、リスクBの物体が検出されたので、図9に示すように、道路区間0001の車線3のリスクBの遭遇確率は、66%(=2÷3)として算出される。また、道路区間0002の車線1は、図8に示すように、3回のうち2回、リスクAの物体が検出されたので、図9に示すように、道路区間0002の車線1のリスクAの遭遇確率は、66%(=2÷3)として算出される。
予測リスクポテンシャル生成部1608は、道路の延在方向に区画した道路区間ごとの車線ごとのリスクポテンシャルに、遭遇確率が大きいほど大きい係数を乗じ、これらを加算することで、予測リスクポテンシャルを求める。道路区間は、道路の延在方向に対してたとえば100mごとに区画した道路区間ごとに求められ、さらに複数車線がある道路については、車線ごとに求められる。
リスクポテンシャルに乗じる係数は、遭遇確率が大きいほど大きい係数であれば特に限定されず、百分率で表された遭遇確率の数値をそのまま乗じてもよい。たとえば、図9に示すように、道路区間0001の車線1は、リスクA(リスクポテンシャルが100)の遭遇確率が0%、リスクB(リスクポテンシャルが80)の遭遇確率が100%、リスクC(リスクポテンシャルが50)の遭遇確率が0%であるので、予測リスクポテンシャルは、100×0%+80×100%+50×0%=8000として算出される。また同様に、図9に示すように、道路区間0002の車線1は、リスクA(リスクポテンシャルが100)の遭遇確率が66%、リスクB(リスクポテンシャルが80)の遭遇確率が0%、リスクC(リスクポテンシャルが50)の遭遇確率が0%であるので、予測リスクポテンシャルは、100×66%+80×0%+50×0%=6600として算出される。このように、リスクポテンシャルと遭遇確率とから求められる予測リスクポテンシャルは、リスクポテンシャル以下の値になる。
なお、予測リスクポテンシャルの値を求めるにあたり、検出した物体を回避するのに要した回避時間を、検出物体の分類ごとに蓄積し、予測リスクポテンシャルは、分類ごとの回避時間の割合で重み付けしてもよい。たとえば、車線を長時間閉塞する物体をリスクA(=100)、車線を一時的に閉塞する物体をリスクB(=80)、交通流を妨げる物体をリスクC(=50)、部分的に交通流を妨げる物体をリスクD(=20)として分類するものとし、リスクA,B,C,Dに分類された各物体を回避するのに要した平均時間が、それぞれ10分,5分,1分,0.5分であったとすると、リスクA,B,C,Dの各リスクポテンシャルに各遭遇確率を乗じた値に、重み付けとして、10,5,1,0.5をそれぞれ乗じたのち、これらを加算することで予測リスクポテンシャルを求めてもよい。
また、予測リスクポテンシャルの値を求めるにあたり、走行位置ごとの遭遇確率は、記憶部1604に蓄積された情報の中から、現在位置P1から目的地Pxまで走行する時の時間を含む時間帯の情報を抽出して求めてもよい。同様に、予測リスクポテンシャルの値を求めるにあたり、走行位置ごとの遭遇確率は、記憶部1604に蓄積された情報の中から、現在位置P1から目的地Pxまで走行する時の日にちの属性が共通する情報を抽出して求めてもよい。同様に、予測リスクポテンシャルの値を求めるにあたり、走行位置ごとの遭遇確率は、記憶部1604に蓄積された情報の中から、現在位置P1から目的地Pxまで走行する時のワイパーの作動状況が共通する情報を抽出して求めてもよい。
以上のように、予測リスクマップ生成部1605において、走行位置ごとの予測リスクポテンシャルが求められ、この予測リスクポテンシャルを地図情報に展開した予測リスクマップが生成される。図10は、図6の走行経路Rについて、図3の予測リスクマップ生成部1605により生成された予測リスクマップの一例を示す平面図である。図10において、車線に付した色が濃いほど予測リスクポテンシャルが大きいことを示している。最も濃い色が付された走路は対向車線であり、自車両V1が走行できない走路であることを示している。
対向車線ではない自車両V1が走行できる走路には、2番目に濃い色が付された走路と、何も付されていない走路とがある。たとえば、道路D1の左車線D11は、左折待ちの渋滞が頻繁に発生することで、予測リスクポテンシャル生成部1608で求められた予測リスクポテンシャルが大きい値になっているので、2番目に濃い色が付されている。同様に、道路D2の左車線D21には、駐車車両が頻繁に存在することで、予測リスクポテンシャル生成部1608で求められた予測リスクポテンシャルが大きい値になっているので、2番目に濃い色が付されている。
なお、道路1の中央車線については、検出物体に係る予測リスクポテンシャルは小さい。ただし、中央車線のうち交差点Cに近い部分については、自車両V1が右折専用車線に車線変更しなければならないという意味でのリスクポテンシャルが大きくなるので、2番目に濃い色が付されている。同様に、道路D2の右車線D22については、検出物体に係る予測リスクポテンシャルは小さい。ただし、右車線D22のうち道路D3への分岐点に近い部分D22aについては、自車両V1が左車線に車線変更しなければならないという意味でのリスクポテンシャルが大きくなるので、2番目に濃い色が付されている。また、道路D2の、道路D3への分岐点を過ぎた部分D21aについても、自車両V1が左車線に車線変更しなければならないという意味でのリスクポテンシャルが大きくなるので、2番目に濃い色が付されている。
図3の行動決定部1612は、図10に示す予測リスクマップを参照し、図6の走行経路R1→R2→R3→R4を走行するとした場合に、最もリスクポテンシャルが小さくなる走行経路を選択する。ここで、図6の走行経路R1→R2→R3→R4を走行する場合には、走行位置付近(検出物体との遭遇位置付近)、つまり同じ車線を走行する必要はなく、同じ道路を走行する場合を含む。また、少なくとも走行位置(検出物体との遭遇位置)を走行する手前で、予測リスクポテンシャルを算出する。このように予測リスクポテンシャルを考慮した上で設定された最終的な走行経路R1→R2→R3→R4を図11に示す。これに対し、予測リスクポテンシャルを考慮することなく、現在位置P1から目的地Pxという条件で設定された比較例に係る走行経路R1→R2→R3→R4を図12に示す。図11は、図6の走行経路Rに対し、図3の行動決定部1612により決定された最終的な走行経路Rを示す平面図、図12は、図11の実施例に対する比較例であって、図3の顕在リスクマップ生成部1610による顕在リスクマップのみを用いて決定された最終的な走行経路Rを示す平面図である。
図11の本発明の実施例に係る走行経路Rと、図12の本発明の比較例に係る走行経路Rを比較すると、まず自車両V1の現在位置P1から、交差点Cの手前において、中央車線及び右折専用車線に車線変更するタイミングが相違する。すなわち、図12に示す比較例では、自車両V1の車速と車線変更に要する距離又は時間とに基づいた、通常の車線変更のタイミングで車線変更する走行経路R1を設定するため、場合によっては、道路D1の左車線に発生した左折待ちの渋滞の最後尾に追従することもある。
これに対し、図11に示す実施例では、道路D1の左車線に発生する可能性が高い左折待ち渋滞は、図10のD11で示す予測リスクポテンシャルが高いことで予測されているため、設定される走行経路R1は、道路D1の左車線の渋滞より手前で中央車線に車線変更する経路となる。これにより、道路D1の左車線の渋滞の最後尾に追従して低速走行や停車することなく、スムーズに右折専用車線まで車線変更することができる。
図11の本発明の実施例に係る走行経路Rと、図12の本発明の比較例に係る走行経路Rを比較した場合の他の相違点は、交差点Cを右折した後の道路D2への進入方法である。図12に示す比較例では、道路を走行する場合には原則として左車線を走行する設定であることから、交差点Cを右折したらまず道路D2の左車線に進入する。しかしながら、その前方に駐車車両があったため、これを回避するために一旦右車線に車線変更したのち再び左車線に車線変更する、といった走行経路R3を辿ることになる。
これに対し、図11に示す実施例では、道路D2の左車線に駐車車両が存在する可能性が高いことは、図10のD21で示す予測リスクポテンシャルが高いことで予測されているため、設定される走行経路R3は、交差点Cを右折したら、直接道路D2の右車線に進入し、左車線の駐車車両を追い抜いたら、左車線に車線変更する、といった走行経路となる。これにより、道路D2の左車線から右車線に車線変更する操作が不要になる。
一般的に、自律運転などの走行支援制御を実行して走行している車両では、車両に備わるセンサを用いて、センサで検出した情報を用いて走行させる。そのため、センサで得られた情報や、センサで得られた情報の中でも精度が高い情報、例えば、自車両から近い距離の情報等を用いることになり、走行支援制御に用いることができる情報が制限されている。しかしながら、図11に示す実施形態では、センサで得られていない情報や、センサで得られた情報を補う情報として予測リスクポテンシャルを用いるため、例えば、自車両から距離が遠い位置の状況を予測して、事前に車線変更を行うことや、最適な走行車線を選択することにつながる。
図3に戻り、本実施形態の経路算出部160は、顕在リスクマップ学習部1609と、顕在リスクマップ生成部1610と、リスクマップ統合部1611とをさらに備える。顕在リスクマップ学習部1609は、顕在リスクマップを生成するための軌跡誘導ポテンシャルを生成する。
人間の運転者は、交通環境内に駐車中の車両などの物体を見た場合、それからどれくらい距離を取るべきかではなく、それを処理するのに何をすべきか又はどの経路を通るべきかを考える。このような機構を模倣するために、顕在リスクマップ学習部1609は、運転データから、顕在リスクマップを表示するための軌跡誘導ポテンシャルを生成する。すなわち、実際に検出された、例えば車両、歩行者、自転車などの各物体のそれぞれの分類に対し、リアルタイムで軌跡誘導ポテンシャルが生成される。これには、衝突防止のための反発空間ポテンシャル、所望の軌跡を誘導するための吸引空間ポテンシャル、及び適切な目標速度を誘導するための速度ポテンシャルが含まれる。さらに、プローブカーが各分類の各種の交通参加者に対処するときの、自然な運転データでのその軌跡を学習する。オンライン処理においては、軌跡誘導ポテンシャルを使用して、所望のローカル軌跡及び目標速度プロファイルが計算される。
顕在リスクマップ生成部1610は、顕在リスクマップ学習部1609から得られる、分類毎に予め学習された軌跡誘導ポテンシャルと、自車両の周囲の交通参加者の分類結果とに基づいて、自車両の周囲の交通参加者毎に、分類に応じた軌跡誘導ポテンシャルを当てはめて、顕在リスクマップを生成する。予測リスクマップ生成部1605にて生成された予測リスクマップは、これまでの経験に基づくリスクポテンシャルを遭遇確率という特性値を用いて予測したものであるのに対し、この顕在リスクマップ生成部1610にて生成される顕在リスクマップは、実際に走行経路を走行しているときに検出される物体に対するリスクポテンシャルを求めたものである。これにより、検出物体との遭遇確率が低い等の原因で予測リスクポテンシャルが低い道路区間又は車線に、偶然又は突発的に物体が検出された場合には、顕在リスクポテンシャルに基づく適切な走行支援を実行することができる。
そして、リスクマップ統合部1611は、予測リスクマップ生成部1605にて生成された予測リスクマップと、顕在リスクマップ生成部1610にて生成された顕在リスクマップとを統合した統合リスクマップを生成する。具体的には、リスクマップ統合部1611は、実際に自車両を走行させる場合に、自車両の周囲の物体を検出し、障害物その他の物体を検出した場合に、顕在リスクマップ生成部1610により検出した物体の顕在リスクポテンシャルを求める。そして、予測リスクポテンシャルと顕在リスクポテンシャルとを比較し、リスクポテンシャルが大きい方のリスクポテンシャルに基づいて、車両の走行を支援するように、統合リスクマップを生成する。
次に、経路算出部160にて実行される処理内容を説明する。図4は、経路算出部160の周辺物体の情報蓄積部1603における情報処理手順を示すフローチャート、図5は、経路算出部160の予測リスクマップ生成部1605,顕在リスクマップ学習部1609,顕在リスクマップ生成部1610,リスクマップ統合部1611,行動決定部1612における情報処理手順を示すフローチャートである。
まず、それぞれの車両が任意の道路を走行する際に、図4に示す処理が実行され、これにより蓄積されたデータが、その後の各車両に対する走行支援に供される。図4のステップS11にて、それぞれの車両が走行を開始したか否かを判定し、走行を開始したらステップS12へ進み、カメラや測距センサなどのセンサ1を用いて周辺物体を検出する。車両が走行を開始していない場合は、ステップS11を繰り返す。
ステップS12にて、自車両の周囲の物体が検出されたらステップS13へ進み、環境認識装置5と物体認識装置6とを用いて検出した物体を分類するとともに、自車情報検出装置4を用いて物体を検出した位置の位置情報を取得する。そして、検出した物体のリスクポテンシャルに係る分類と、検出した位置とを関連付け、記憶部1604に記憶する。ステップS14では、自車両の走行が終了したか否かを判断し、終了していない場合はステップS12へ戻って物体の検出とデータの蓄積を、走行が終了するまで繰り返す。このような分類別の物体と位置情報とが関連付けられたデータが、記憶部1604に多数蓄積されることにより、任意の位置における経験的なリスクポテンシャルデータを得ることができる。
次に、自車両の走行支援を開始する場合には、図5に示す処理が実行される。本実施形態の走行支援は、ドライバーが目的地を入力することで、現在位置P1から目的地Pxまでの走行経路R自律走行制御する走行支援であるものとする。なお、目的地には、最終目的地のほか、中間地点や、次に遭遇する交差点、例えば左折が予定されている交差点などを含むものとする。この場合、まずステップS21では、自車両の走行支援が開始したか否かを判断し、開始した場合にはステップS22へ進む。走行支援が開始していない場合は、ステップS21を繰り返す。ステップS22では、ドライバーに目的地の入力を促し、自車情報検出装置4により自車両V1の現在位置P1を取得するとともに、ドライバーにより入力された目的地Pxを取得する。
ステップS23では、ステップS22で取得された自車両V1の現在位置P1と目的地Pxに基づいて走行経路Rを計算する。続くステップS24では、ステップS23で算出した走行経路Rの走行位置ごと(つまり、道路区間ごと及び車線ごと)のリスクポテンシャルを記憶部1604から取得する。また続くステップS25では、ステップS23で算出した走行経路Rの走行位置ごと(つまり、道路区間ごと及び車線ごと)の物体への遭遇確率を記憶部1604から取得する。そして続くステップS26では、ステップS23及びS24で取得された、検出物体のそれぞれのリスクポテンシャルと遭遇確率とを乗算して予測リスクポテンシャルを算出する。自車両V1の走行支援を開始したら、好ましくは走行を開始する前にステップS22〜S26の処理を実行し、予測リスクポテンシャルが最も小さくなる道路区間及び車線を選択することで走行経路Rを設定する。
自車両V1が走行を開始したら、ステップS27では、リアルタイムで周囲の物体を検出し、物体が検出されたらステップS28へ進み、顕在リスクマップ生成部1610により検出した物体の顕在リスクポテンシャルを算出する。そして、ステップS29では、予測リスクポテンシャルと顕在リスクポテンシャルとを比較し、リスクポテンシャルが大きい方のリスクポテンシャルに基づいて、車両の走行を支援する。つまり、予測リスクポテンシャルが大きい場合には、ステップS30へ進み、予測リスクポテンシャルを優先した走行支援を実行する。これに対し、顕在リスクポテンシャルが大きい場合には、ステップS31へ進み、顕在リスクポテンシャルを優先した走行支援を実行する。
なお、ステップS27にて、リアルタイムで周囲の物体が検出されない場合は、予測リスクポテンシャルによる走行支援を優先すべく、ステップS28及びS29は実行しないでステップS30へ進む。
以上のとおり、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、車両で物体を検出した場合に、検出した物体のリスクポテンシャルを求め、当該検出した物体のリスクポテンシャルと前記検出した物体に遭遇した遭遇位置とを対応させて、前記遭遇位置におけるリスクポテンシャルを蓄積し、蓄積されていた前記遭遇位置におけるリスクポテンシャルを用いて、前記物体を検出した時に求められたリスクポテンシャルよりも低い、前記遭遇位置において遭遇が予測される物体の予測リスクポテンシャルを求め、前記遭遇位置を再度走行する場合に、前記予測リスクポテンシャルを用いて車両の走行を支援する。また、蓄積された遭遇位置におけるリスクポテンシャルと前記遭遇確率を用いて、前記予測リスクポテンシャルを求め、前記予測リスクポテンシャルに基づいて、前記車両の走行を支援することがより好ましい。さらに、予測リスクポテンシャルは、遭遇確率が高いほど高い値として求めることがより好ましい。
すなわち、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、過去の走行データに基づいて自車両がこれから遭遇する状況を予測し、そのうえで行動を計画し、行動を決定するので、必ずリスクに遭遇するといった必然を回避することができる。すなわち、走行する位置に差し掛かる前に、リスクポテンシャルを予測することができるため、物体を検出する前から、物体の存在を考慮して自車両の走行を制御することができる。したがって、たとえば余計な車線変更を抑制するなど、乗員に与える違和感を抑制することができる。また実際に遭遇する遭遇確率に基づいて、予測リスクポテンシャルを算出するため、遭遇確率が高い場合には、遭遇する可能性が高い物体の位置を避ける行動や、避ける行動をできるだけせずに済むように、行動を計画し、行動を決定することができる。
また、本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、物体を検出した場合に、前記検出した物体を、車線を長時間閉塞する物体、車線を一時的に閉塞する物体、交通流を妨げる物体又は部分的に交通流を妨げる物体のいずれかに分類し、これらの分類ごとに遭遇位置におけるリスクポテンシャルを設定する。すなわち、物体のリスクポテンシャルを分類するため、無秩序にデータを蓄積するよりも整理して蓄えることができ、データを利活用する場合に、必要に応じた取り出し方ができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、物体を検出した場合に、前記検出した物体が、駐車中の車両である場合又は工事区間である場合は、車線を長時間閉塞する物体に分類し、前記検出した物体が、右左折待ちの車両又は停車中のバスである場合は、車線を一時的に閉塞する物体に分類し、前記検出した物体が、合流する車両又は車線特有の渋滞車両である場合は、交通流を妨げる物体に分類し、前記検出した物体が、車線を歩行する歩行者、自転車又は二輪車である場合は、部分的に交通流を妨げる物体に分類する。つまり、物体のリスクポテンシャルを分類するため、無秩序に物体を分けてデータを蓄積するよりも整理して蓄えることができ、データを利活用する場合に、必要に応じた取り出し方ができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、車線を長時間閉塞する物体、車線を一時的に閉塞する物体、交通流を妨げる物体、部分的に交通流を妨げる物体の順序で高いリスクポテンシャルを設定するので、物体に対する行動計画、行動決定する場合に、長時間の車線閉塞、一時的な車線閉塞、交通流の妨げ、部分的な交通流の妨げを判定することにより、蓄積したデータから現在の走行状況に合った適切なデータを抽出することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、物体を検出した場合に、前記検出した物体を回避するのに要した回避時間を、前記分類ごとに蓄積し、蓄積する前記検出した物体のリスクポテンシャルは、前記分類ごとの回避時間の割合で重み付けするので、同じ分類の物体であっても回避時間が長い物体を避けた行動計画、行動決定をすることができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、予測リスクポテンシャルは、道路の車線ごと且つ道路の延在方向に区画した道路区間に求められるので、道路区間ごとに、また車線ごとに、物体の予測リスクポテンシャルを予測することができる。その結果、道路区間単位、かつ車線単位で、行動計画、行動決定することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、物体を検出した場合に、前記検出した物体のリスクポテンシャルと、前記遭遇位置と、前記物体を検出した日時と、を対応させて蓄積するので、蓄積したデータから走行する時の日時を考慮し、現在の走行状況に適合した最適なデータを抽出することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、予測リスクポテンシャルは、前記蓄積された情報の中から、前記遭遇位置を再度走行する時の時間と対応する情報を抽出して求めるので、蓄積したデータから走行する時の時間帯を考慮し、現在の走行状況に適合した最適なデータを抽出することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、予測リスクポテンシャルは、前記蓄積された情報の中から、前記遭遇位置を再度走行する時の日にちと属性が共通する情報を抽出して求めるので、蓄積したデータから走行する時の日にちの属性を考慮し、現在の走行状況に適合した最適なデータを抽出することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、検出した物体のリスクポテンシャルを蓄積する時に、前記車両のワイパーの作動状況を対応させて蓄積し、前記予測リスクポテンシャルは、前記蓄積された情報の中から、前記遭遇位置を再度走行する時とワイパーの作動状況が共通する情報を抽出して求める。したがって、天候を考慮してデータを蓄積することができるため、天候次第で走行状況の傾向が異なるときに、天候に適合した最適な行動計画、行動決定をすることができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、予測リスクポテンシャルは、設定される基準位置までの車両を走行させる車線を立案する時に用いるものであって、実際に検出した物体のリスクポテンシャルと前記予測リスクポテンシャルより、車両が遭遇するリスクポテンシャルが最も低くなるように走行する車線を立案するので、物体との遭遇確率を予測した上で経路算出することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、車両を走行させる場合に、車両の周囲の物体を検出し、前記物体を検出した場合に、検出した物体のリスクポテンシャルを求め、前記予測リスクポテンシャルと前記検出した物体のリスクポテンシャルとを比較し、リスクポテンシャルが大きい方のリスクポテンシャルに基づいて、前記車両の走行を支援するので、物体との衝突リスクを最大限見積もった上で、行動計画、行動決定することができる。
本実施形態の車両の走行支援方法及び支援装置によれば、予測リスクポテンシャルは、車両の乗員の操作なしに自動で走行する自律運転制御に用いられる。一般的に、自律運転などの走行支援制御を実行して走行している車両では、車両に備わるセンサを用いて、センサで検出した情報を用いて走行させる。そのため、センサで得られた情報や、センサで得られた情報の中でも精度が高い情報、例えば、自車両から近い距離の情報等を用いることになり、走行支援制御に用いることができる情報が制限されている。しかしながら、図11に示す実施形態では、センサで得られていない情報や、センサで得られた情報を補う情報として予測リスクポテンシャルを用いるため、例えば、自車両から距離が遠い位置の状況を予測して、事前に車線変更を行うことや、最適な走行車線を選択することにつながる。