本発明による振動試験装置は、低周波数の振動に対する処理と高周波数の振動に対する処理とを切り替えることができ、低周波から高周波までの周波数を含む振動から構成される試験パターンで試験対象を加振する振動試験に対応できる。例えば、地震波形のように低い周波数で構成される試験パターンに対しては、目標波形と実際の応答との間で時系列での波形を一致させることができ、試験対象(供試体)に加える振動の再現性を向上させることができる。また、高周波振動に対する強度試験のように高い周波数で構成される試験パターンに対しては、目標波形と実際の応答との間でエネルギを一致させることができ、試験対象に与えるエネルギの再現性を向上させることができる。このため、本発明による振動試験装置は、低周波試験と高周波試験のどちらにも対応できる。
以下の説明では、フィードフォワードのことを「FF」と表し、フィードバックのことを「FB」と表す。
以下、本発明の実施例による振動試験装置を、図面を参照して説明する。なお、以下の実施例では、説明の簡略化のため、1軸の油圧駆動式の装置を例示して説明するが、本発明による振動試験装置は、1軸の油圧駆動式の装置に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例による振動試験装置を模式的に示す図である。振動試験装置は、油圧駆動式であり、加振目標生成装置1と、コントローラ2と、加振部11を備える。加振部11は、コントローラ2の制御対象であり、サーボアンプ3、サーボバルブ4、油圧源5、油圧シリンダ6、油圧ピストン7、カップリング8、及びテーブル9を備え、コントローラ2から出力された指令に従って試験対象を加振する。
加振目標生成装置1は、目的とする加振波形(目標波形)を生成する装置であり、シグナルジェネレータなどによって構成できる。なお、加振目標生成装置1が生成する加振波形は、変位指令の波形でもよく、速度指令の波形や加速度指令の波形でもよい。加振目標生成装置1は、過去に実際に起きた地震を再現する波形や、特定の挙動を励起するように設計された波形など、任意のパターンの加振波形を生成することができる。
コントローラ2は、センサ信号取得装置2bと制御指令演算装置2aを備え、加振目標生成装置1で生成された目標波形を入力し、目標波形通りに加振部11を動かすための各種制御演算を実行する。センサ信号取得装置2bは、後述のセンサS01〜S05bが検出した値(実験データ)を取得する。制御指令演算装置2aは、加振目標生成装置1が生成した加振波形(目標波形)とセンサ信号取得装置2bが取得した実験データに基づき、加振部11の操作量を演算してサーボアンプ3に指令を出力する。コントローラ2は、例えばコンピュータで構成することができる。
サーボアンプ3は、コントローラ2から出力された指令(電圧値)を、サーボバルブ4を駆動するための電流値に変換する。
サーボバルブ4は、サーボアンプ3から受け取った電流値に従って弁の開閉を行うことで、油圧源5から油圧シリンダ6に流れる圧油の流量を調整する。図1に示すように、サーボバルブ4は、2つのポートを備え、いずれか一方のポートから油圧シリンダ6に圧油を供給する。
油圧源5とサーボバルブ4の間には、圧油の温度を検出する温度センサS01が備えられる。
油圧シリンダ6には、油圧源5からサーボバルブ4を経て圧油が供給される。油圧シリンダ6は、2つの部分に分けられている。一方の部分は、サーボバルブ4の一方のポートから圧油が供給される。他方の部分は、サーボバルブ4の他方のポートから圧油が供給される。
油圧ピストン7は、油圧シリンダ6の内部に設けられ、油圧シリンダ6に供給された圧油により駆動される。油圧ピストン7の駆動方向は、油圧シリンダ6の2つの部分のうちどちらの部分に圧油が供給されるかによって、変更される。
サーボバルブ4と油圧シリンダ6の間には、サーボバルブ4から吐出された圧油の流量を検出する流量センサS02a、S02bが備えられる。油圧ピストン7の駆動方向によって圧油の流れる経路が変わるため、油圧ピストン7の駆動方向に応じて使用する流量センサS02a、S02bを選んでもよい。
油圧ピストン7は、カップリング8を介してテーブル9に力を加えることで、テーブル9を振動させる。油圧ピストン7は、変位センサS04と速度センサS03の少なくとも一方を備える。変位センサS04のみを備える場合には、変位センサS04の検出値の微分値を速度として利用することができる。速度センサS03のみを備える場合には、速度センサS03の検出値の積分値を変位として利用することができる。
油圧シリンダ6は、油圧ピストン7による油圧を検出するための圧力センサS05a、S05bを備える。
テーブル9には、試験対象である構造物(供試体)が設置される。
振動試験装置は、加振目標生成装置1が生成した加振波形(目標波形)とセンサS01〜S05bが検出した実験データに基づいて供試体を加振することで、供試体に対して振動試験を実施する。
振動試験装置は、コントローラ2に接続された操作端末10を備えることもできる。操作端末10は、オペレータ(作業員)が操作可能であり、オペレータが入力した指令をコントローラ2に送信することと、コントローラ2の演算結果をオペレータに表示することができる。オペレータは、操作端末10を介して指令を入力することで、コントローラ2の設定を変更したり、振動試験装置の動作状況を逐次監視したりすることができる。なお、操作端末10には、例えば、通常のパソコン(PC)、タブレットコンピュータ、または携帯情報端末などを用いることができる。操作端末10は、コントローラ2と物理的に接続せずに、ネットワークを経由して接続してもよい。また、操作端末10は、コントローラ2に組み込まれており、携帯できない構成を備えてもよい。
以下、本発明による振動試験装置の特徴を、具体的な実施例により詳しく説明する。なお、以下の実施例では、説明を簡単にするために、加振波形(目標波形)が変位で与えられる変位制御をコントローラ2が行う構成を例示する。コントローラ2のセンサ信号取得装置2bは、変位センサS04が検出した油圧ピストン7の変位を応答波形(実験データ)として取得する。コントローラ2は、加振波形が速度で与えられる速度制御や、加振波形が加速度で与えられる加速度制御を行うこともできる。本発明には、コントローラ2がこれらの制御を行う振動試験装置も含まれる。
図2は、本発明の実施例1による振動試験装置におけるコントローラ2の機能ブロック図である。
制御指令演算装置2aは、フィードバック制御演算部(FB制御演算部)C01と、フィードフォワード制御演算部(FF制御演算部)C02を備える。制御指令演算装置2aの出力は、FB制御演算部C01の出力とFF制御演算部C02の出力の和によって算出される。コントローラ2は、FB制御演算部C01によるフィードバック制御と、FF制御演算部C02によるフィードフォワード制御、すなわち2自由度制御を行う。
FB制御演算部C01は、加振目標生成装置1が生成した変位の目標波形rと、センサ信号取得装置2bが変位センサS04から取得した実際の変位y(応答波形)との差に基づいて、制御入力を計算する。FB制御演算部C01は、一般的に利用されるPID制御などで構成することができる。
FF制御演算部C02は、加振目標生成装置1が生成した変位の目標波形rのみに基づいて、制御入力を計算する。FF制御演算部C02は、低周波数領域で動作する第1補償部C02aと、高周波数領域で動作する第2補償部C02bを備える。FF制御演算部C02は、第1補償部C02aの出力と第2補償部C02bの出力の和を出力する。
第1補償部C02aは、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)とFF補償器F1(s)を備える。第2補償部C02bは、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass Filter)とFF補償器F2(s)を備える。LPFにより、低周波数帯域の信号がFF補償器F1(s)を通過する。HPFにより、高周波数帯域の信号がFF補償器F2(s)を通過する。LPFが通過させる周波数帯域は、HPFが通過させる周波数帯域よりも低いものとする。すなわち、LPFの遮断周波数は、HPFの遮断周波数より低いものとする。
FF制御演算部C02は、LPFとHPFにより、変位の目標波形rの周波数に応じて、第1補償部C02aと第2補償部C02bの動作を切り替えることができる。
FF制御演算部C02の構成は、第1補償部C02aの出力と第2補償部C02bの出力の和を出力するものに限られない。例えば、FF制御演算部C02は、図3に示すような構成を備えることもできる。
図3は、FF制御演算部C02の別の構成例を示すブロック図である。FF制御演算部C02は、第1補償部C02aと、第2補償部C02bと、波形判断部C02eと、スイッチC02dを備える。
第1補償部C02aは、LPFを備えず、FF補償器F1(s)のみを備える。第2補償部C02bは、HPFを備えず、FF補償器F2(s)のみを備える。波形判断部C02eは、変位の目標波形rに含まれる周波数成分に基づいてスイッチC02dを切り替えて、FF制御演算部C02の出力値を変更する。スイッチC02dが切り替わる周波数は、LPFとHPFの遮断周波数と同様に定めることができる。
スイッチC02dが切り替わることにより、低周波数帯域の信号は、FF補償器F1(s)を通過し、高周波数帯域の信号は、FF補償器F2(s)を通過する。図3に示すFF制御演算部C02は、波形判断部C02eとスイッチC02dによって、図2に示したFF制御演算部C02と同様に、変位の目標波形rの周波数に応じて、第1補償部C02aと第2補償部C02bの動作を切り替えることができる。
図3に示すFF制御演算部C02は、波形判断部C02eとスイッチC02dによってLPFとHPFの効果を得られるため、第1補償部C02aがLPFを備えず、第2補償部C02bがHPFを備えない。但し、図3に示すFF制御演算部C02は、図2に示したFF制御演算部C02と同様に、LPFとHPFを備えていてもよい。
図2に戻り、第1補償部C02aのLPFとFF補償器F1(s)、及び第2補償部C02bのHPFとFF補償器F2(s)の具体的な設計指針を説明する。
前述したように、低周波試験では、変位の目標波形rと実際の変位yとの間で時系列での波形が一致することが好ましいため、位相遅れがなく、かつゲインが増加も低下もしないことが望ましい。一方、高周波試験では、変位の目標波形rと実際の変位yとの間でエネルギが一致することが重要であるので、ゲインが増加も低下もしないのであれば、位相が遅れてもよい。
第1補償部C02aを設計するにあたっては、位相遅れを改善することが重要である。位相遅れを改善する方法として、式(1)の1次の位相進み補償が広く知られている。式(1)において、sはラプラス変換の演算子であり、α<1である。
角周波数ωaにて位相をφaだけ進めるように式(1)の位相進み補償を設計すると、角周波数ωaにて増加するゲインKa、及び1/(αT)以上の角周波数にて増加するゲインKbは、それぞれ式(2)と式(3)で与えられる。なお、Tは、位相が進む周波数帯域を決定するパラメータであり、1/T<ωa<1/(αT)を満足する。
なお、周波数fと角周波数ωには、ω=2πfという関係が成り立ち、単位変換が必要である。ただし、説明の都合上、明確な区別が必要でない限り、周波数と角周波数を区別せずに「周波数」と呼ぶ。
図13は、式(2)、(3)でK=1としたとき(すなわち、式(1)でK=1としたとき)の、位相の進み量φaとゲインの増加量Ka、Kbの関係を示す図である。図13より、位相進み量φaを大きくすればするほど、ゲインの増加量Kaが大きくなることが分かる。なお、式(1)でKを1よりも小さな値にすれば、ゲインの増加は抑制できるが低周波数領域のゲインまで低下してしまう。従って、振動試験装置に位相進み補償器を適用する場合には、Kを1よりも小さな値にすることは現実的ではない。
以上に説明した、位相を進めることでゲインが増加するという特性は、式(1)に示した位相進み補償に限らず、一般的に成立する。
位相遅れを改善するためにはゲインの増加が避けられない、ということに注意すると、低周波試験で使用される最高角周波数ω1における位相遅れφ1とゲイン増加量K1は、K=1としたときの式(2)より、次の関係式(4)を満足する必要がある。
図12は、振動試験の周波数(試験パターン)と周波数特性の関係を示すボード線図である。前述したように、低周波試験では、変位の目標波形rと実際の変位yとの間で時系列での波形が一致すること(すなわち、位相遅れがなく、かつゲインが増加も低下もしないこと)が好ましく、高周波試験では、変位の目標波形rと実際の変位yとの間でエネルギが一致すること(すなわち、位相が遅れていても、ゲインが増加も低下もしないこと)が好ましい。
図12の周波数特性において、式(4)の左辺と右辺が等しくなる角周波数、つまり式(5)が成立する角周波数をωpとする。角周波数ωpにおける位相遅れをφpで表し、ゲイン増加量をKpで表す。
この角周波数ωpは、低周波試験で使用される最高角周波数ω1以上であり、かつ高周波試験で使用される最低角周波数ω2以下であるように設定する(ω1≦ωp≦ω2)。FB制御演算部C01が適切に設計されていると、ω1≦ωp≦ω2を満足するように角周波数ωpを設定することができる。以後、角周波数ωpを「所定周波数」と呼ぶことがある。
図12に示すように、角周波数がωp(ω1≦ωp≦ω2)であると、位相遅れがφpであり、ゲインが−Kpである。従って、式(5)が成立する所定周波数ωpで位相進み補償を行って位相遅れを解消すると、ゲインは、Kpだけ増加して0dBとなり、0dBを超えない。すなわち、角周波数がωpでありゲインの増加がKpである位相進み補償を行うと、ゲインを増加させずに位相を進めて位相遅れを解消することができる。
なお、角周波数ωpをω1≦ωp≦ω2となるように設定できない場合(ωp<ω1またはωp>ω2となる場合)には、実施例3で説明するように、FB制御演算部C01が行うフィードバック制御のパラメータ(例えば、PID制御の各ゲイン)を調整する。
以下、FB制御演算部C01が適切に設計されており、所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足するようにフィードバック制御が調整されていることを前提として、説明を行う。
本実施例では、オペレータが、操作端末10を介して、所定周波数ωpと、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)と第2補償部C02bのFF補償器F2(s)の制御パラメータ(例えば、実施例2で説明するような制御パラメータ)を設定する。
第1補償部C02aは、低周波試験を対象とした応答改善を行うように設計する。このため、LPFは、遮断周波数が、低周波試験で使用される最高角周波数ω1であるのが望ましい。
第2補償部C02bは、高周波試験を対象とした応答改善を行うように設計する。このため、HPFは、遮断周波数が、高周波試験で使用される最低角周波数ω2であるのが望ましい。ω2は、低周波試験の最高角周波数ω1よりも高い周波数である。
LPFの遮断周波数がω1であり、HPFの遮断周波数がω2(>ω1)であるため、低周波試験時には、HPFの出力が0(ゼロ)になり、FF補償器F2(s)が動作せず、FF補償器F1(s)のみが動作する。高周波試験時には、LPFの出力が0(ゼロ)になり、FF補償器F1(s)が動作せず、FF補償器F2(s)のみが動作する。このような構成をとることで、試験パターンの周波数帯域に応じて、適切な補償器を動作させることができる。
オペレータは、操作端末10を介して、所定周波数ωpを、ω1≦ωp≦ω2という関係を満たすように設定する。
第1補償部C02aのFF補償器F1(s)は、ω1が所定周波数ωp以下の周波数であるため、ゲインを増加させることなく、位相遅れを解消するように設計することが可能である。すなわち、第1補償部C02aは、ωp以下の周波数でゲインを増加させずに位相を進めることができるように設計される。例えば、FF補償器F1(s)は、位相進み補償と同じ処理をするように設計すればよい。FF補償器F1(s)を設計するには、パラメータの調整後に周波数応答を確認する操作を繰り返してもよいし、実施例2で説明するように実験データを利用してパラメータ設計を実施してもよい。
FF補償器F2(s)は、ω2が所定周波数ωp以上の周波数であるため、位相遅れを解消しようとするとゲインの増加が伴ってしまう。ただし、高周波試験では、変位の目標波形rと実際の変位yとの間で、時系列での波形の一致よりも、エネルギの一致を優先する。このため、FF補償器F2(s)では、閉ループ系が安定である限り、位相遅れの改善を優先しなくてもよいと考えることができる。
図14Aと図14Bは、振動試験における目標波形と応答波形の例を示す図である。図14Aには、目標波形(変位の目標波形r)と応答波形(実際の変位y)との間で、位相が一致しているが、振幅(ゲイン)が一致してしない例を示している。図14Bには、目標波形と応答波形との間で、位相が一致していないが、振幅が一致している例を示している。高周波試験では、図14Bに示す波形の方が、図14Aに示す波形に比べて、目標波形と応答波形との間でエネルギが一致しており、供試体に与えるエネルギの再現性が優れていると判断できる。
以上の観点より、第2補償部C02bのFF補償器F2(s)は、ω2以上の周波数でゲインが0dBとなるように設計される。FF補償器F2(s)を設計するには、FF補償器F1(s)の設計と同様に、パラメータの調整後に周波数応答を確認する操作を繰り返してもよいし、実施例2で説明するように実験データを利用してパラメータ設計を実施してもよい。
以上のことから、第1補償部C02aは、目標波形rの周波数が、所定周波数ωp以下の周波数である場合に動作する。すなわち、第1補償部C02aは、ゲインを増加させずに位相を進めることができる所定周波数ωp以下の周波数に対して動作する。第2補償部C02bは、目標波形rの周波数が、高周波試験で使用される最低周波数ω2以上である場合に動作する。すなわち、第2補償部C02bは、ゲインが0dBとなる周波数であってω2以上の周波数に対して動作する。
本実施例による振動試験装置は、以上の構成を備え、低周波から高周波までの周波数を含む振動から構成される試験パターンで試験対象を加振する振動試験に対応でき、例えば、地震波形のように低い周波数で構成される試験パターンに対しても、高周波振動に対する強度試験のように高い周波数で構成される試験パターンに対しても、対応できる。
本発明の実施例2による振動試験装置について説明する。以下では、実施例1による振動試験装置と異なる構成を主に説明する。実施例1による振動試験装置では、オペレータが、所定周波数ωpと、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)と第2補償部C02bのFF補償器F2(s)の制御パラメータを設定する。本実施例による振動試験装置では、コントローラ2が、取得した実験データに基づいて、所定周波数ωpを求めて、FF補償器F1(s)とFF補償器F2(s)の制御パラメータを設定する。
図1に示したように、振動試験装置は、センサS01〜S05bを備え、これらのセンサS01〜S05bが検出した信号は、コントローラ2内に格納される。
図4は、本実施例による振動試験装置におけるコントローラ2の機能ブロック図である。本実施例でのコントローラ2は、実施例1でのコントローラ2(図2)に、動作切替部C02cと制御応答調整部C03が加わった構成を備える。
動作切替部C02cは、FF制御演算部C02に設けられ、LPFとHPFを備える。実施例1でのコントローラ2では、LPFとHPFは、それぞれ第1補償部C02aと第2補償部C02bに備えられている。本実施例でのコントローラ2では、LPFとHPFは、第1補償部C02aと第2補償部C02bに備えられておらず、これらから独立して動作切替部C02cに備えられている。動作切替部C02cは、LPFとHPFにより、目標波形rの周波数に応じて第1補償部C02aと第2補償部C02bの動作を切り替えることができる。
制御応答調整部C03は、制御指令演算装置2aに設けられ、周波数応答解析部C03a、第1パラメータ設計部C03c、第2パラメータ設計部C03d、及び第3パラメータ設計部C03bを備え、FF制御演算部C02の制御パラメータを調整する。
周波数応答解析部C03aは、センサ信号取得装置2bから、振動試験装置による実験で得られたセンサS01〜S05bの検出値(応答波形)を取得し、この検出値を用いて供試体の周波数応答を解析し、周波数に対するゲインと位相との関係(図9に示すような周波数特性)を得て、所定周波数ωp(式(5)が成立する角周波数)を算出する。本実施例のように、振動試験装置が変位制御で駆動されている場合には、周波数応答解析部C03aは、振動試験装置の変位データ(変位センサS04が取得した実際の変位y)を解析して所定周波数ωpを算出する。
第3パラメータ設計部C03bは、周波数応答解析部C03aが算出した所定周波数ωpを利用して、動作切替部C02cのLPFとHPFの遮断周波数を定める。具体的には、LPFの遮断周波数をωpより低い周波数に定め、HPFの遮断周波数をωpよりも高い周波数に定める。第3パラメータ設計部C03bで定められたLPFとHPFのパラメータ(遮断周波数)は、動作切替部C02cのLPFとHPFに反映される。
なお、実施例1で説明したように、LPFの遮断周波数を低周波試験で使用される最高角周波数ω1とし、HPFの遮断周波数を高周波試験で使用される最低角周波数ω2とする場合には、LPFとHPFの遮断周波数が予め分かっている。このような場合には、制御応答調整部C03は、図5に示すように周波数応答解析部C03aと第3パラメータ設計部C03bを備えなくてもよい。
図5は、本実施例による振動試験装置における、別形態のコントローラ2の機能ブロック図である。図5に示すコントローラ2は、図4に示したコントローラ2において周波数応答解析部C03aと第3パラメータ設計部C03bを備えない構成を備える。図5に示す構成では、制御応答調整部C03は、ω1≦ωp≦ω2となるように所定周波数ωpを定める。
図4に戻って、制御応答調整部C03の説明を続ける。
第1パラメータ設計部C03cは、センサ信号取得装置2bから、振動試験装置による実験で得られたセンサS01〜S05bの検出値(応答波形)を取得し、この検出値を用いて第1補償部C02aのFF補償器F1(s)に関する制御パラメータを調整する。具体的には、FF補償器F1(s)が式(6)の2次遅れ系の伝達関数で表現されたとき、第1パラメータ設計部C03cは、式(6)中の制御パラメータρ0〜ρ4を調整する。
このパラメータρ0〜ρ4の調整には、既存のデータ駆動制御を利用することができる。データ駆動制御は、実験データに基づいて、任意の評価関数の値を最小化する制御パラメータを直接設計する手法であり、例えば以下の文献に記載されている。
金子,中村,池崎:二自由度制御系におけるフィードフォワード制御器更新の新しいアプローチ,計測自動制御学会論文集,Vol.54,No.12,pp.857−874(2018)。
第1補償部C02aのFF補償器F1(s)は、変位の目標波形rと実際の変位y(応答y)との間で時系列での波形が一致することを目的として設計する。このため、第1パラメータ設計部C03cは、式(7)で表される評価関数J1(ρ)の値を最小化するようにパラメータρ0〜ρ4を算出することが望ましい。式(7)は、データ駆動制御で一般的に用いられる評価関数である。
なお、式(7)において、下付きのiは実験データのインデックスであり、i=1は初期時刻を、i=Nは終了時刻を意味する。また、y(ρ)は制御パラメータρ0〜ρ4を変更した際に得られる応答である。ただし、ρはベクトルを意味し、式(7)においてはρ=[ρ0,ρ1,ρ2,ρ3,ρ4]である。以下の説明においても、ρはベクトルとして定義されている。
式(7)の評価関数J1(ρ)は、各時刻における目標波形rの値と応答y(ρ)の値の差の二乗の累積値で表されるため、応答yに位相遅れがあると値が大きくなる。このため、評価関数J1(ρ)の値を最小化すると、位相遅れが改善されるように制御パラメータρ0〜ρ4の値が求められる。また、目標波形rと応答yとの間で、位相が一致し、ゲイン(振幅)が不一致である場合も、評価関数J1(ρ)の値が大きくなる。よって、評価関数J1(ρ)の値を最小化することで、位相だけでなく、ゲインも一致させることができる。これは、周波数が所定周波数ωp以下の低周波数領域にあるため、実現できる特性である。
第1パラメータ設計部C03cが求めた制御パラメータρは、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)に反映される。
第2パラメータ設計部C03dは、センサ信号取得装置2bから、振動試験装置による実験で得られたセンサS01〜S05bの検出値(応答波形)を取得し、この検出値を用いて第2補償部C02bのFF補償器F2(s)に関する制御パラメータを調整する。具体的には、FF補償器F2(s)が式(8)の2次遅れ系の伝達関数で表現されたとき、第2パラメータ設計部C03dは、式(8)中の制御パラメータθ0〜θ4を調整する。
このパラメータθ0〜θ4は、パラメータρ0〜ρ4と同様に、既存のデータ駆動制御を利用し評価関数の値を最小化することで調整できる。ただし、上述の通り、FF補償器F2(s)は、高周波試験向けの補償器であり、位相遅れの改善ではなく、変位の目標波形rと実際の変位y(応答y)との間でエネルギを一致させるために利用される。このため、パラメータθ0〜θ4の調整には、式(7)とは異なる評価関数を用いることが望ましく、例えば、式(9)で表される評価関数J2(θ)を用いるのが望ましい。
式(9)において、y(θ)は制御パラメータθ0〜θ4を変更した際に得られる応答である。ただし、θはベクトルを意味し、式(9)においてはθ=[θ0,θ1,θ2,θ3,θ4]である。以下の説明においても、θはベクトルとして定義されている。
式(9)の評価関数J2(θ)は、各時刻における目標波形rの値の二乗和と応答y(θ)の値の二乗和の差で表されている。このため、変位の目標波形rと実際の変位y(応答y)との間で、位相が一致していなくてもゲイン(振幅)さえ一致していれば、評価関数J2(θ)の値が小さくなる。そこで、第2パラメータ設計部C03dは、評価関数J2(θ)の値を最小化することで、変位の目標波形rと実際の変位y(応答y)との間でエネルギが一致するように制御パラメータθ0〜θ4の値を算出することができる。
第2パラメータ設計部C03dが求めた制御パラメータθは、第2補償部C02bのFF補償器F2(s)に反映される。
なお、周波数応答解析部C03a、第3パラメータ設計部C03b、第1パラメータ設計部C03c、及び第2パラメータ設計部C03dが利用する実験データは、すべて同じものでもよい。但し、これらの解析部と設計部の特性を考慮すると、それぞれが扱う周波数に応じてそれぞれに対して個別に実験データを用意したほうが好ましい制御特性が得られる。
図6は、本実施例による振動試験装置において、FF制御演算部C02のパラメータを定める処理を示すフローチャートである。図6を用いて、制御応答調整部C03が備える周波数応答解析部C03a、第3パラメータ設計部C03b、第1パラメータ設計部C03c、及び第2パラメータ設計部C03dの処理を説明する。
FC01で、コントローラ2が供試体の周波数特性データを有しているか否かを選択する。振動試験装置が既に供試体に振動試験を行っており、コントローラ2が供試体の周波数解析を実施して周波数特性データを有している場合には、FC06に遷移する。一方、振動試験装置が新設であったり供試体が変更されたりしてコントローラ2が供試体の周波数特性データを有していない場合には、FC02に遷移する。また、定期メンテナンスなどで供試体の周波数特性を再度取得する場合もFC02に遷移する。この選択は、オペレータが操作端末10上のGUI(Graphical User Interface)により選択することが望ましい。
FC02では、供試体の周波数特性を取得するために、所望の周波数領域を含む広域周波数の試験パターンで供試体に振動試験を実施する。試験パターンでの加振波形は、チャープ波形やランダム波形が望ましい。オペレータは、操作端末10のGUIでコントローラ2を操作することで、供試体を加振して振動試験を実施する。加振は、試験パターンの終了時刻に合わせて自動で停止してもよいし、オペレータが操作端末10で指示することにより停止してもよい。
FC03では、制御指令演算装置2aは、FC02での振動試験の開始から終了までにセンサ信号取得装置2bが得た実験データを取得する。取得した実験データにノイズが含まれる場合には、制御指令演算装置2aは、取得したデータにノイズ除去処理を実施してもよい。
FC04では、周波数応答解析部C03aは、FC03で制御指令演算装置2aが取得したデータを分析し、周波数応答を解析し、周波数に対するゲインと位相との関係(図9に示すような周波数特性)を得て、所定周波数ωpを算出する。この処理では、オペレータは操作をしない。
FC05では、第3パラメータ設計部C03bは、FC04での周波数解析の結果に従って、動作切替部C02cのLPFとHPFに関するパラメータを設定する。具体的には、第3パラメータ設計部C03bは、FC04で求めた所定周波数ωpを利用して、LPFとHPFの遮断周波数を定める。この処理では、オペレータは操作をしない。
FC06では、低周波試験時に動作するFF補償器F1(s)の設計が必要であるか否かを選択する。試験装置が既存の試験パターンのみを実行し、かつFF補償器F1(s)が既に求まっている場合には、FF補償器F1(s)の設計が不要であるので、FC10に遷移する。試験装置が新設でありFF補償器F1(s)が未設計の場合には、FF補償器F1(s)の設計が必要であるので、FC07に遷移する。また、FF補償器F1(s)が設計済みであっても新しい試験パターンで試験装置を駆動する場合には、FF補償器F1(s)を再設計したほうが制御性能の向上が期待できるので、FC07に遷移する。FF補償器F1(s)の設計が必要であるか否かの選択は、オペレータが操作端末10上のGUIにより選択することが望ましい。
FC07では、低周波試験での(すなわち、低周波数の)試験パターンで供試体に振動試験を実施する。この振動試験は、実際に実行する低周波試験での試験パターン(例えば、地震波形を再現する試験パターン)で実施することが望ましい。ただし、供試体が破損する恐れがある場合には、供試体が破損しない程度に試験パターンのゲインを下げて振動試験を行ってもよい。オペレータは、操作端末10のGUIを用いて振動試験を実施する試験パターンや試験パターンの信号レベル(ゲイン)を選択し、FC02での処理と同様に振動試験を実施する。
FC08では、制御指令演算装置2aは、FC03での処理と同様にして、実験データを取得する。
FC09では、第1パラメータ設計部C03cは、FC08で取得した実験データを利用して、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)に関する制御パラメータを調整する。例えば、第1パラメータ設計部C03cは、式(7)で表される評価関数J1(ρ)の値を最小化するように、式(6)中のパラメータρを求める。この処理では、オペレータが操作をする必要はないが、後述のようにFF補償器F1(s)を表す伝達関数の次数を変更する場合には、オペレータが操作をしてもよい。
FC10では、高周波試験時に動作するFF補償器F2(s)の設計が必要であるか否かを選択する。試験装置が既存の試験パターンのみを実行し、かつFF補償器F2(s)が既に求まっている場合には、FF補償器F2(s)の設計が不要であるので、FC14に遷移する。試験装置が新設でありFF補償器F2(s)が未設計の場合には、FF補償器F2(s)の設計が必要であるので、FC11に遷移する。また、FF補償器F2(s)が設計済みであっても新しい試験パターンで試験装置を駆動する場合には、FF補償器F2(s)を再設計したほうが制御性能の向上が期待できるので、FC11に遷移する。FF補償器F2(s)の設計が必要であるか否かの選択は、オペレータが操作端末10上のGUIにより選択することが望ましい。
FC11では、高周波試験での(すなわち、高周波数の)試験パターンで供試体に振動試験を実施する。この振動試験は、実際に実行する高周波試験での試験パターン(例えば、限界加振試験での試験パターン)で実施することが望ましい。ただし、供試体が破損する恐れがある場合には、供試体が破損しない程度に試験パターンのゲインを下げて振動試験を行ってもよい。オペレータは、操作端末10のGUIを用いて振動試験を実施する試験パターンや試験パターンの信号レベル(ゲイン)を選択し、FC02での処理と同様に振動試験を実施する。
FC12では、制御指令演算装置2aは、FC03での処理と同様にして、実験データを取得する。
FC13では、第2パラメータ設計部C03dは、FC12で取得した実験データを利用して、第2補償部C02bのFF補償器F2(s)に関する制御パラメータを調整する。例えば、第2パラメータ設計部C03dは、式(9)で表される評価関数J2(θ)の値を最小化するように、式(8)中のパラメータθを求める。この処理では、オペレータが操作をする必要はないが、後述のようにFF補償器F2(s)を表す伝達関数の次数を変更する場合には、オペレータが操作をしてもよい。
FC14では、コントローラ2は、求められたパラメータ(LPFとHPFの遮断周波数、ρ、及びθ)をFF制御演算部C02に反映する。
なお、図6に示したフローチャートにおいて、低周波試験時に動作するFF補償器F1(s)の設計に関する処理FC06〜FC09と、高周波試験時に動作するFF補償器F2(s)の設計に関する処理FC10〜FC13は、実施する順番が逆でもよい。
上述の説明では、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)と第2補償部C02bのFF補償器F2(s)は、それぞれ式(6)と式(8)に示した2次遅れ系の伝達関数で表現されることを仮定していた。当然であるが、FF補償器F1(s)とFF補償器F2(s)は、2次遅れ系で表現されるものに限定されない。FF補償器の次数が上がるほど、式(7)と式(9)で表される評価関数の値を小さくできる可能性が高くなる。ただし、FF補償器の次数が大きいと、制御パラメータρとθを計算するための時間が増加するので、FF補償器の次数が必要以上に大きいのは望ましくない。
そこで、FF補償器F1(s)を設計する第1パラメータ設計部C03cと、FF補償器F2(s)を設計する第2パラメータ設計部C03dは、それぞれ、制御パラメータρと制御パラメータθを求めるのに伝達関数の次数を変更できるのが望ましい。
以下では、第1パラメータ設計部C03cが、第1補償部C02aのFF補償器F1(s)を表す伝達関数の次数を変更可能である構成の例を説明する。第2パラメータ設計部C03dも、第1パラメータ設計部C03cと同様な構成を取ることにより、第2補償部C02bのFF補償器F2(s)を表す伝達関数の次数を変更可能である。
図7は、図6に示したフローチャートの処理FC09(第1パラメータ設計部C03cがFF補償器F1(s)の制御パラメータを調整する処理)において、FF補償器F1(s)を表す伝達関数の次数を変更可能な処理のフローチャートを示す図である。
FC09aで、第1パラメータ設計部C03cは、評価関数J1(ρ)の値を最小化する最適化計算を行い、初期設定での次数でFF補償器F1(s)に関する制御パラメータρを調整する。初期設定での次数は、式(6)に示したような2次遅れでもよく、1次遅れでもよい。
FC09bで、コントローラ2は、FC09aで求められた制御パラメータρでの結果を操作端末10に表示する。例えば、コントローラ2は、FC09aで求められた制御パラメータρで得られた評価関数J1(ρ)の値や、FC09aで求められた制御パラメータρを用いて実行した、振動試験の予測シミュレーションで得られた応答を、操作端末10のGUIに表示する。
FC09cで、オペレータは、操作端末10のGUIに表示された結果を見て、FF補償器F1(s)が要求性能を達成できているか否かを判断する。例えば、評価関数J1(ρ)の値が十分に0(ゼロ)に近い(または、評価関数J1(ρ)の値が閾値未満である)場合には、オペレータは、FF補償器F1(s)が要求性能を達成できていると判断する。要求性能が達成されているとオペレータが判断した場合には、FC09の処理を終了する。要求性能が未達であるとオペレータが判断した場合には、FC09dに遷移する。
FC09dで、第1パラメータ設計部C03cは、FF補償器F1(s)の次数を増加させる。例えば、オペレータが、操作端末10を操作し、コントローラ2に予め保存されていた伝達関数の中から、必要な次数を持つ伝達関数を選択することで、第1パラメータ設計部C03cは、FF補償器F1(s)の次数を増やすことができる。例えば、FC09cにて要求性能が未達であると判断されたときのFF補償器F1(s)の次数が2であれば、第1パラメータ設計部C03cは、FF補償器F1(s)の伝達関数を式(10)のように3次遅れ系の伝達関数で表現し、式(10)中のパラメータρ0〜ρ6を調整する。
FF補償器F1(s)の伝達関数の制御パラメータの数は、FF補償器F1(s)が式(6)の2次遅れ系の伝達関数で表現されているとρ0〜ρ4の5つであるが、FF補償器F1(s)が式(10)の3次遅れ系の伝達関数で表現されているとρ0〜ρ6の7つである。このため、FF補償器F1(s)は、パラメータ数の増加により最適化計算(評価関数J1(ρ)の値を最小化する計算)の時間が増加するが、高い自由度の応答を実現できる。
FC09eで、第1パラメータ設計部C03cは、FC09aでの処理と同様に、評価関数J1(ρ)の値を最小化する最適化計算を行い、増加させた次数でFF補償器F1(s)に関する制御パラメータρを調整する。前述の通り、FC09eでは、FC09aよりも多くの計算時間を要する。FC09eで制御パラメータρが求められたら、FC09bに戻る。
FC09bで、コントローラ2は、次数を増加させる前と増加させた後について、制御パラメータρで得られた評価関数J1(ρ)の値や、制御パラメータρを用いて実行した、振動試験の予測シミュレーションで得られた応答を、操作端末10のGUIに表示する。オペレータは、操作端末10のGUIに表示された、次数を増加させる前後の結果を比べて、FF補償器F1(s)が要求性能を達成できているか否かを判断する。
FC09bからFC09eの処理を複数回繰り返すと、次数を増加させても、操作端末10のGUIに表示された、次数を増加させる前後の結果が、ほぼ一致するようになる。このような結果が得られた場合は、それ以上次数を増加させても、FF補償器F1(s)の制御性能が向上する見込みは低い。このため、コントローラ2は、次数を増加させる前後の結果が一致したら、結果が一致したことをオペレータに通知する機能を備えていることが望ましい。
実施例1と実施例2による振動試験装置では、FB制御演算部C01が適切に設計されており、所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足することを前提としていた。オペレータが制御調整に精通していれば、このようなFB制御を容易に設計できる。しかし、オペレータが非熟練者の場合には、FB制御の調整に多くの工数と時間を必要とすることが予想される。
本発明の実施例3による振動試験装置は、この課題を解消するために、所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足するようにFB制御演算部C01を設計する構成を備える。
図8は、本実施例による振動試験装置におけるコントローラ2の機能ブロック図である。本実施例でのコントローラ2は、実施例2でのコントローラ2(図4)において、制御応答調整部C03に第4パラメータ設計部C03eが加わった構成を備える。
第4パラメータ設計部C03eは、センサ信号取得装置2bから、振動試験装置による実験で得られたセンサS01〜S05bの検出値(応答波形)を取得し、この検出値を用いてFB制御演算部C01の制御パラメータ(例えば、PID制御の各ゲイン)を調整する。FB制御演算部C01は、この制御パラメータを用いてフィードバック制御を行う。
以下、第4パラメータ設計部C03eの処理について、簡単に説明する。
第4パラメータ設計部C03eは、第1パラメータ設計部C03cや第2パラメータ設計部C03dと同様に、既存のデータ駆動制御を利用して最適制御設計を実行する。具体的には、第4パラメータ設計部C03eは、FB制御演算部C01のPID制御のパラメータを、評価関数の値を最小化することで調整し、ω1≦ωp≦ω2となる所定周波数ωpを求める。
FB制御演算部C01が式(11)のようなPID制御で構成されていると、第4パラメータ設計部C03eは、比例ゲインKp、積分ゲインKi、及び微分ゲインKdのそれぞれを、データ駆動制御を利用して設計する。式(11)中のηは、微分時間に関するパラメータである。
第4パラメータ設計部C03eは、データ駆動制御に利用する理想応答ydが望みの周波数特性を持つように伝達関数Gdes(s)を設計し、式(12)で表される評価関数J3(K)を最小化するように各ゲインを算出する。
式(12)において、Kはゲインをまとめたベクトルを意味し、K=[Kp,Ki,Kd]である。理想応答の伝達関数Gdes(s)は、実用上、式(14)のように設計すると、多くの場合に所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足する。
第4パラメータ設計部C03eは、所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足するようにFB制御演算部C01を設計するため、図6のFC02とFC03での処理と同様に、広域周波数の試験パターンでの振動実験で得られたデータを利用することが望ましい。このようにすると、FB制御演算部C01の設計に必要な実験データを新たに取得する必要がないため、オペレータの負担が増えないという利点がある。
第4パラメータ設計部C03eは、フィードバック制御のみを行う閉ループ系のボード線図が図12に示す特性を満足するように(例えば、所定周波数ωpがω1≦ωp≦ω2を満足するように)、FB制御演算部C01の制御パラメータを調整する。このため、第4パラメータ設計部C03eの処理は、フィードフォワード制御のパラメータを調整する第1パラメータ設計部C03cと第2パラメータ設計部C03dの処理よりも先に実行される必要がある。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。