JP2021103996A - 酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物製造法 - Google Patents

酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物製造法 Download PDF

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Abstract

【課題】酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物製造法の提供。【解決手段】受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌をスターターとして使用して漬物原料を発酵させることを含む発酵漬物の製造方法、及びその発酵漬物。【選択図】図9

Description

本発明は、酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物製造法に関する。
乳酸菌による乳酸発酵は、古くから様々な発酵漬物の製造に利用されている。乳酸発酵を利用した発酵漬物の製造では、発酵が進むにつれて、乳酸等の有機酸の生成によりpHが低下し、酸味が生じる。しかし発酵速度は発酵に寄与する乳酸菌の種類や発酵条件によって変動し、発酵が過度になると酸味が強くなり過ぎることから、安定した味を有する発酵漬物を製造するのは難しいとされている。また殺菌処理されずに販売される発酵漬物では、消費者による購入後も発酵が進むため、過度な酸味が発現しやすい状況にある。そのため過度な酸味を発現しにくい発酵漬物の開発が望まれている。
発酵キムチなどの発酵漬物の製造においては、乳酸菌ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)が発酵初期から急激な増殖を開始し、乳酸や酢酸などの有機酸を含む様々な代謝産物を生成するとともに、二酸化炭素を排出して発酵漬物内部を嫌気的条件に維持して好気性細菌の繁殖を強く抑制する。しかし発酵中期になるとロイコノストック・メセンテロイデスは減少し、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を始めとする他の乳酸菌が旺盛に増殖するようになる。ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)は乳酸を多量に生成することが知られており、そのため発酵後期には、耐酸性が低いロイコノストック・メセンテロイデスは姿を消し、ラクトバチルス・プランタラム等の酸味発現性乳酸菌が優勢となり、発酵漬物の酸味が急激に増加しやすい状況となる(非特許文献1)。発酵漬物において過度な酸味の発現を抑制するためには、酸味発現性乳酸菌の増殖を抑制することが望まれる。
キムチ発酵において、マンニトールジヒドロゲナーゼ等によるフルクトースからマンニトールへの変換によりマンニトールが生成する。マンニトールは、キムチにまろやかな甘みをもたらすとともに、細菌が資化しにくい糖アルコールであるため発酵を抑制し、過度な酸味を生じにくくすることができる(特許文献1)。
特許文献1は、マンニトール生成能が優れた耐酸性ロイコノストック・メセンテロイデスDRC0512株とそれを用いたキムチの製造方法を開示している。
特許文献2は、ロイコノストック・シトレウムに属するキムチ発酵用乳酸菌及びそれを用いたキムチの製造方法、並びに、その乳酸菌が夏期の発酵品質低下を効果的に制御できることを開示している。
特許文献3は、ラクトバチルス・サケ(Lactobacillus sake)HS1株を用いて野菜を発酵させることによる、食味が良くL-乳酸が豊富な漬物の製造方法を開示している。
しかし過度な酸味を生じにくく発酵漬物の製造に有用な乳酸菌がなお求められている。
特表2009−518031号公報 特開2011−19504号公報 特開2001−120173号公報
宮尾重雄、「身近で活躍する有用微生物 食品と有用微生物−和食文化と微生物 5.漬物と微生物」 モダンメディア、61巻11号(2015)18−25
本発明は、酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物製造法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、乳酸菌ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)のある種の菌株は酸味発現の抑制に有効な性質を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1]受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌をスターターとして使用して漬物原料を発酵させることを含む、発酵漬物の製造方法。
[2]発酵漬物が発酵キムチである、上記[1]に記載の方法。
[3]3℃〜15℃で漬物原料を発酵させる、上記[1]又は[2]に記載の方法。
[4]受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌。
[5]受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌の培養物を含む、スターター組成物。
[6]発酵漬物製造用の、上記[5]に記載のスターター組成物。
[7]発酵漬物が発酵キムチである、上記[6]に記載のスターター組成物。
[8]上記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法により製造される、受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌を含む、発酵漬物。
[9]発酵キムチである、上記[8]に記載の発酵漬物。
本発明に係る乳酸菌は、発酵時の過度な酸味の発現を効果的に抑制することができる。
図1は、A-1株及びX株をそれぞれ培養中のキムチ培地の乳酸菌数の経時的変化を示す図である。白抜き四角はX株、黒丸はA-1株を示す。 図2は、A-1株及びX株をそれぞれ培養中のキムチ培地の有機酸含有量(乳酸及び酢酸)を示す図である。 図3は、A-1株及びX株をそれぞれ培養中のキムチ培地の糖含有量(フルクトース及びマンニトール)を示す図である。 図4は、A-1株、NBRC 100496株、及びNBRC 113243株をそれぞれ培養中のキムチ培地のpHの経時的変化を示す図である。黒丸はA-1株、白抜き丸はNBRC 100496株、黒四角はNBRC 113243株を示す。 図5は、A-1株及びNBRC 113244株について5日間及び10日間培養後の培地中のマンニトール含有量を示す図である。 図6は、試験区2、3、5、及び7の培地のpHの経時的変化を示す図である。黒三角はL.プランタラムNBRC 15891株(試験区2)、白丸はA-1株(試験区3)、黒丸はA-1株+L.プランタラムNBRC 15891株(試験区5)、及び網掛け丸(点線)はA-1株+少量L.プランタラムNBRC 15891株(試験区7)を示す。 図7は、試験区1〜7の培地の有機酸含有量を示す図である。培養日数毎に、左から右へ順番に、NBRC 113244株(試験区1)、L.プランタラムNBRC 15891株(試験区2)、A-1株(試験区3)、NBRC 113244株+L.プランタラムNBRC 15891株(試験区4)、A-1株+L.プランタラムNBRC 15891株(試験区5)、NBRC 113244株+少量L.プランタラムNBRC 15891株(試験区6)、及びA-1株+少量L.プランタラムNBRC 15891株(試験区7)のグラフを示す。 図8は、試験区1〜7の培地のマンニトール含有量を示す図である。培養日数毎に、左から右へ順番に、NBRC 113244株(試験区1)、L.プランタラムNBRC 15891株(試験区2)、A-1株(試験区3)、NBRC 113244株+L.プランタラムNBRC 15891株(試験区4)、A-1株+L.プランタラムNBRC 15891株(試験区5)、NBRC 113244株+少量L.プランタラムNBRC 15891株(試験区6)、及びA-1株+少量L.プランタラムNBRC 15891株(試験区7)のグラフを示す。 図9は、A-1株及びX株をそれぞれスターターとして用いて製造したキムチのpHの推移を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、酸味発現抑制性の乳酸菌及びそれを用いた発酵漬物の製造に関する。本発明において酸味発現抑制性の乳酸菌とは、発酵時の酸味の発現(発生)の抑制(低減)に有効な性質を有する乳酸菌を意味する。酸味発現抑制性の乳酸菌は、程よい酸味を発現するが、過度の酸味を発現しにくい発酵環境をつくることができることが好ましい。
本発明において用いる酸味発現抑制性の乳酸菌は、具体的には、ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)乳酸菌であり、特に、ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌である。
ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌(以下、A-1株乳酸菌又はA-1株とも称する)は、2019年10月3日付で、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 郵便番号292-0818)に、受託番号NITE P-03040にて寄託されている。
ロイコノストック・ファラックスA-1株乳酸菌は、典型的には、以下のような菌学的性質を有する球菌である。
・細胞形態: 卵円球菌(0.8〜1.0 x 1.0〜1.7 μm)
・グラム染色性: +(陽性)
・芽胞形成: −(陰性)
・コロニー色調: 乳白色
(MRS寒天平板培地による30℃、48時間、好気培養の場合)
A-1株乳酸菌は、MRS培地(例えば、後述の表6に示す組成を有するもの)において、嫌気的に30℃で24時間にわたり培養することができる。
A-1株乳酸菌は、比較的低い乳酸生成能を有する。乳酸菌の乳酸生成能は発酵培地における乳酸生成量を指標として評価することができる。ここで「乳酸生成量」は、発酵培地で測定された乳酸含有量から初期乳酸量(培地成分として乳酸が配合された場合はその乳酸配合量)を差し引いた値を指す。
A-1株乳酸菌は、比較的高い酢酸生成能を有する。乳酸菌の酢酸生成能は発酵培地における酢酸生成量を指標として評価することができる。ここで「酢酸生成量」は、発酵培地で測定された酢酸含有量から初期酢酸量(培地成分として酢酸が配合された場合はその酢酸配合量)を差し引いた値を指す。酢酸は乳酸よりも酸性度を高めにくく、また、一般的に発酵後期に優勢となるラクトバチルス・プランタラム等の強い酸味を発現する乳酸菌に対して、増殖抑制効果を示すと考えられる。
A-1株乳酸菌は、高いマンニトール生成能を有する。乳酸菌のマンニトール生成能は、後述の実施例5に記載のとおり、発酵培地におけるフルクトース消費量に対するマンニトール生成量の比率(フルクトースからマンニトールへの変換率)を指標として評価することができる。ここで「マンニトール生成量」は、発酵培地で測定されたマンニトール含有量から初期マンニトール量(培地成分としてマンニトールが配合された場合はそのマンニトール配合量)を差し引いた値を指す。
マンニトールはフルクトースからの変換により生成されることが知られており、A-1株乳酸菌を用いた発酵系では、マンニトール生成量の増加に伴ってフルクトース量が減少(フルクトース消費量が増加)する。マンニトールは、まろやかな甘みをもたらして酸味を和らげるだけでなく、細菌が資化しにくい糖アルコールであるため、フルクトースのような糖から有機酸を生成する乳酸発酵を抑制する効果をもたらすことができる。一実施形態では、A-1株乳酸菌を、2〜45℃、好ましくは5〜40℃、より好ましくは5〜30℃、さらに好ましくは5〜15℃で培養し、発酵(乳酸発酵)させることにより、発酵系(発酵漬物)においてマンニトールを高レベルに生成することができる。
A-1株乳酸菌は、乳酸発酵によって発酵系のpHが低下しても(以下に限定するものではないが、好ましくはpH4.2〜5.0、例えばpH4.2〜4.5であっても)、高い生存能力を示す。したがってA-1株乳酸菌は、好ましい実施形態では、発酵が進行した段階でも生存し発酵に寄与し続けることができる。
A-1株乳酸菌は、発酵系において酸味発現性乳酸菌と共存(共培養)しても、酸味発現性乳酸菌の増殖拡大による排除がされにくく、むしろ酸味発現性乳酸菌の増殖を強力に抑制することができる。そのため、A-1株乳酸菌は、発酵漬物の製造にスターターとして用いた場合、発酵に寄与する様々な酸味発現性乳酸菌の増殖を抑制し、発酵が進行しても乳酸菌中で高い比率を維持することができる。好ましい実施形態では、A-1株乳酸菌は、それをスターターとして用いた発酵漬物の製造において、微生物叢中で優勢を保つことができ、特に好ましくは発酵後期においても優占種として存在することができる。
ここで酸味発現性乳酸菌とは、多量の乳酸の産生等により、過度な酸味の発現に寄与することが知られる乳酸菌を指し、例えば、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)等が挙げられ、通常は桿菌である。
したがってA-1株乳酸菌は、発酵系においてより長期にわたり生存しながら、乳酸生成を抑制し、マンニトール生成を増強し、酸味発現性乳酸菌の増殖を抑制することにより、酸味発現を抑制し続けることができる。それにより、発酵系における過度な酸味の発現を効果的に抑制することができる。本発明は、このような酸味発現抑制性のA-1株乳酸菌を提供する。
本発明は、A-1株乳酸菌をスターターとして使用して漬物原料を発酵させることを含む、発酵漬物を製造する方法も提供する。本発明において「スターター」(「発酵スターター」と称されることもある)とは、発酵を安定的に誘導する(開始させる)ために使用される、微生物培養物を意味する。
本発明において「発酵漬物」とは、食材を発酵させることにより、保存性を高めると共に独特の風味を加えた食品を意味する。本発明では、特に、乳酸発酵を伴う発酵により得られる発酵漬物を指す。本発明における発酵漬物は、野菜を主原料(重量比率が最も高い原料)とするものであり得るが、それに限定されない。本発明における発酵漬物としては、特に限定されないが、発酵キムチ、発酵しば漬、すぐき、すんき、野沢菜漬、ザワークラウト、ピクルス等が挙げられる。本発明において「発酵キムチ」とは、主原料となる野菜(白菜、キュウリなど)を塩漬けにして唐辛子及び他の原料を添加して漬け込み、乳酸発酵させることによって製造される発酵漬物を指す。発酵キムチの例として、乳酸菌を添加して一定期間発酵させた後、乳酸菌を殺菌することで乳酸発酵を終了した後に流通させる発酵キムチや、乳酸菌を添加(接種)した後に5〜10℃で流通させる過程で緩やかに乳酸発酵させる発酵キムチがある。発酵キムチとしては、発酵白菜キムチ(白菜を主原料とするもの)やオイキムチ(キュウリを主原料とするもの)などが挙げられる。
本発明において「漬物原料」とは、発酵漬物を製造するために用いる、スターター以外の食材を意味し、少なくとも発酵原料を含む。漬物原料は、発酵漬物の製造に使用可能な任意の食材又はその混合物であってよく、以下に限定されないが、野菜、魚介、肉、塩、塩以外の調味料、薬味、保存料などの任意の食品添加剤等が挙げられる。発酵原料とは、発酵により分解される糖、タンパク質、アミノ酸等の基質を含む有機物を意味し、以下に限定されないが、野菜、魚介、肉、薬味等が挙げられる。
例えば、発酵キムチの製造に用いる漬物原料として、塩漬けの野菜(例えば、塩漬白菜、塩漬キュウリ)、唐辛子(典型的には赤唐辛子)、塩辛(典型的には魚介塩辛、例えばアミの塩辛、イカ及びオキアミを原料とする液体塩辛)や魚醤などの発酵調味料、にんにく、葱、生姜、人参、大根、ゴマなどの他の野菜、リンゴなどの果実、野菜エキス(白菜エキスなど)、はちみつ、砂糖、還元水あめ、フルクトースなどの糖類、ゴマ油、食塩、乳酸、酢酸、L-グルタミン酸ナトリウム、及び食品添加剤を挙げることができるが、これらに限定されない。
A-1株乳酸菌をスターターとして使用した発酵漬物の製造は、発酵漬物の公知の製造手順に従って行うことができるが、それに限定されるものではない。発酵漬物の製造のための漬物原料の発酵期間は、発酵漬物の種類によって変動し得るが、例えば3日以上、好ましくは4日以上、例えば3〜60日、3〜30日、3〜14日、10〜30日、又は4〜25日であり得る。一実施形態において、一定期間にわたり発酵させかつ殺菌処理等により発酵を終了させた後に、発酵漬物を流通させる場合には、発酵期間は、当該一定期間にわたる発酵工程(製造業者の下での発酵工程)を意味する。別の実施形態では、一定期間にわたり発酵させた後に発酵漬物を流通させ、流通過程でも発酵を継続させる場合には、発酵期間は、発酵工程の開始から流通過程を経て消費者により食される予定時期まで(具体的には、賞味期限まで)の期間を指す。さらに別の実施形態では、流通直前に乳酸菌を添加し、流通過程で発酵漬物を発酵させる場合には、発酵期間は、乳酸菌添加時から流通過程を経て消費者により食される予定時期まで(具体的には、賞味期限まで)の期間を指す。発酵漬物の製造のための発酵温度(発酵環境の温度)は、以下に限定するものではないが、典型的には0〜40℃の範囲であり、好ましくは2〜30℃、より好ましくは2〜20℃、例えば3〜15℃、4〜13℃、又は5〜15℃であってよい。
一例として、発酵キムチの製造は、塩漬けの野菜(塩漬白菜など)を水切りした後、唐辛子及び他の原料(例えば、塩辛や魚醤などの魚介発酵調味料、にんにく、葱、生姜、大根などの他の野菜、還元水あめやフルクトースなどの糖類等)、並びにスターターとしてのA-1株乳酸菌を添加し、混合した後、一定期間漬け込むことにより行えばよい。発酵キムチの製造のための漬け込み時間(発酵期間)は、以下に限定されないが、典型的には3日以上、好ましくは4日以上、例えば3〜60日、3〜30日、3〜14日、10〜30日、又は4〜25日であり得る。発酵キムチの漬け込み温度(発酵環境の温度)は、以下に限定するものではないが、典型的には0〜40℃の範囲であり、好ましくは2〜30℃、より好ましくは2〜20℃、例えば3〜15℃、4〜13℃、又は5〜15℃であってよい。
このような発酵漬物の製造では、スターターとして用いる乳酸菌の他に、漬物原料や周囲環境等に由来する他の微生物(例えば、他の乳酸菌、酵母など)も発酵に関与してもよく、例えば、上記のような酸味発現性乳酸菌も発酵に関与し得る。すなわち、本発明に係る発酵漬物の製造は、ラクトバチルス・プランタラムなどのラクトバチルス属菌を始めとする酸味発現性乳酸菌(典型的には、例えば、白菜などの漬物原料又は周囲環境に由来するそのような乳酸菌)の存在下で、A-1株乳酸菌を用いて漬物原料を発酵させることを含み得る。その場合でも、A-1株乳酸菌は、酸味発現性乳酸菌の増殖を抑制し、発酵が進行しても乳酸菌中で高い比率を維持することができる。すなわち、スターターとして用いたA-1株乳酸菌は、発酵系の微生物叢中でより優勢を保つことができ、好ましくは、発酵後期の又は製造された発酵漬物の微生物叢中で優勢を保つことができる。好ましい実施形態では、スターターとして用いたA-1株乳酸菌は、発酵系又は発酵漬物において優占種として存在することができる。本発明において「優占種として存在する」とは、発酵系(発酵漬物)に存在する生存微生物(細菌及び真菌)のうち、A-1株乳酸菌が最も多い比率で存在することを意味する。本発明においてスターターとして用いたA-1株乳酸菌は、発酵漬物においてより長期にわたり生存し続けることができる。したがって、好ましい実施形態では、本発明に従って製造された発酵漬物は、A-1株乳酸菌を含む。本発明に従って製造された発酵漬物は、A-1株乳酸菌と共に、酸味発現性乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ブレビス等)を含んでもよい。本発明に従って製造された発酵漬物は、A-1株乳酸菌を含む乳酸球菌(球菌)を、酸味発現性乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・プランタラム)を含む乳酸桿菌(桿菌)よりも多い比率で含むことが好ましい。キムチなどの発酵漬物の発酵過程では、ロイコノストック属菌をスターターとして接種しても、ラクトバチルス・プランタラム等の酸味発現性乳酸菌に徐々に菌叢交代してしまうのが一般的であるが、スターターとして接種したA-1株乳酸菌は、発酵が進行しても、ラクトバチルス・プランタラム等の酸味発現性乳酸菌に対して優勢を維持できる。本発明の好ましい実施形態では、例えば、上述の発酵期間完了時に、A-1株乳酸菌を含む乳酸球菌は、発酵系又は発酵漬物中、球菌+桿菌の合計菌数に対する球菌の菌数の割合(%)で、好ましくは50%以上、例えば70%以上、80%以上、90%以上、又は95%以上存在することができる。
以上のようにして製造された発酵漬物(例えば、発酵キムチ)は、乳酸含有量が比較的低い。製造された発酵漬物(例えば、発酵キムチ)のpH値は、以下に限定されないが、例えばpH4.2以上5.0未満であってよく、例えば、pH4.5〜pH4.9であってよく、また、発酵が進んでもpHが急激に低下しにくい。製造された発酵漬物は、好ましくは発酵により生成されたマンニトールを含む。本発明に係る発酵漬物は、過度な発酵を生じにくく、過度な酸味を発現しにくいため、食味(特に、酸味)を安定的に維持しやすいという利点を有する。本発明はこのような発酵漬物にも関する。
製造された発酵漬物については、その後の発酵の進行を遅延又は防止するなどの目的のため、発酵温度未満での冷蔵、冷凍、乾燥、及び/又は凍結乾燥等を行ってもよい。あるいは、製造された発酵漬物を、そのまま発酵温度で維持してもよい。製造された発酵漬物は流通前に殺菌処理してもよく、その場合には腐敗防止などの目的のため、冷蔵、冷凍、乾燥、及び/又は凍結乾燥等を行ってもよい。
本発明はまた、A-1株乳酸菌の培養物を含む、スターター組成物にも関する。このようなスターター組成物は、発酵漬物製造用のスターターとして、例えば上述のような発酵漬物の製造において有利に使用することができる。スターター組成物に含まれるA-1株乳酸菌の培養物は、A-1株乳酸菌が生存している限り、任意の形態であってよい。スターター組成物に含まれるA-1株乳酸菌の培養物は、例えば、A-1株乳酸菌の培養物を乾燥し粉末化したものであってもよいし、A-1株乳酸菌の培養物を凍結乾燥したものであってもよい。スターター組成物はまた、食品添加剤などの他の成分を含んでもよい。本発明において食品添加剤は、保存剤、賦形剤、担体、増粘剤、香料等の任意のものであってよい。本発明は、発酵(特に乳酸発酵)、例えば発酵漬物などの発酵物の製造における、このようなスターター組成物又はA-1株乳酸菌の使用も提供する。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例1]乳酸菌のスクリーニング
福島県、東京都、神奈川県、大阪府、又は京都府(日本)で製造された35種の手作り発酵キムチ(以下、単にキムチとも称する)を入手した。各キムチ試料10gを細かく切断し、滅菌水90mlを添加した。当該試料をストマッカーを用いてホモジナイズ(ストマッカー処理)し、抽出液を得た。
抽出液を、LUSM培地上にプレーティングし、30℃で1〜3日間、嫌気培養した。なおLUSM培地は、表1の組成に従い、L-システイン塩酸塩及び抗生物質以外の成分を混合して水で98.8mlまでフィルアップした後、加温溶解し、48℃まで温度調整した後、0.22μmフィルターでろ過したL-システイン塩酸塩溶液及び各抗生物質溶液を添加することによって調製した。
Figure 2021103996
培養後、出現したコロニーの中から、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)と同様の色調及び形状である球菌を顕微鏡観察により選抜し、31個のコロニーを取得した。
得られた31個のコロニーの菌株を、表2に示す組成のキムチ培地で培養した。このキムチ培地は、唐辛子(粉末)、MSG、液体塩辛、還元水あめ、及び食塩に、白菜エキスAK(水で15.8倍に希釈)を加えて89.5mlまでフィルアップしながら混合した後、BCPを添加してオートクレーブ滅菌し、次いでフルクトース25%溶液10mlを添加し、さらに乳酸及び酢酸の混合液を0.5ml添加し、混合することによって調製した。
Figure 2021103996
培養中のキムチ培地の色の変化を観察し、併せてpH測定を行った。BCPを表2に示す濃度で添加するとキムチ培地は深緑色に着色するが、乳酸菌の増殖が進むにつれて、生成される有機酸によりキムチ培地は淡赤〜淡黄色へと変色する。そのため、乳酸菌発酵中の上記キムチ培地の変色レベルは発酵度及びpH低下度を反映する。キムチ培地の色の変化とpH測定の結果に基づき、pH低下度が小さい4つの菌株を選抜した。
次いで4つの菌株を別々にキムチに接種し、培地のpHを経時的に測定し、最も小さいpH低下度を示したA-1株を選抜した。
[実施例2]菌株A-1の解析
A-1株を顕微鏡下で観察したところ、表3に示す結果が得られた。
Figure 2021103996
またA-1株の16S rRNA遺伝子(16S rDNA)について塩基配列決定(約1500bp)、並びにBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)による相同性検索及び系統解析を行った。その結果、ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)基準株(type culture)DSM 20189の16S rRNA遺伝子配列(NCBIアクセッション番号AF360738)に対して最も高い相同性(99.9%)を示し、A-1株は乳酸菌ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)に属する菌であると同定された。
[実施例3]A-1株のキムチ培地における発酵性
A-1株、及びロイコノストック・シトリウム(Leuconostoc citreum)に属するキムチ製造菌(本明細書では、以下、X株と称する)を、表4に示す組成のキムチ培地10mlに接種し、静置条件で10℃で4週間にわたって培養した。このキムチ培地は、唐辛子(粉末)、MSG、液体塩辛、還元水あめ、及び食塩に、水を加えて89.5mlまでフィルアップしながら混合し、オートクレーブ滅菌した後、フルクトース25%溶液10mlを添加し、さらに乳酸及び酢酸の混合液を0.3ml添加し、混合することによって調製した。
Figure 2021103996
A-1株とX株の間でキムチ培地における発酵性の比較を行うため、培養開始時(0週)、及び培養開始の1、2、3及び4週間後の時点でキムチ培地をサンプリングし、乳酸菌数、有機酸含有量、及び糖含有量の測定を行った。乳酸菌数はBCP寒天培地を用いた混釈培養法により測定した。
培養中のキムチ培地の乳酸菌数の経時的変化を図1に示す。図1に示すとおり、キムチ培地中のA-1株の菌数は4週間後も低下しなかったのに対し、X株は3週間後以降に菌数低下が認められた。この結果から、少なくとも4週間にわたってA-1株の生残性がかなり高いことが示された。
キムチ培地中の有機酸含有量及び糖含有量の測定には、キムチ培地サンプルを蒸留水で約10倍に希釈し、希釈液を0.45μmフィルターにてろ過して、得られたろ液を分析に供した。
有機酸含有量の測定は、イオン排除クロマトグラフィー、及びポストカラムpH緩衝化電気伝導度検出法を用いて行った。分析条件は以下のとおりである。
・カラム:Shim-pack SCR-102H 2本(8mm×300mm)、ガードカラム付き
・ポンプ1:移動相:5mM p-トルエンスルホン酸水溶液
流量:0.8ml/min
・ポンプ2:反応液:5mM p-トルエンスルホン酸、100μM EDTA含有20mM Bis-Tris水溶液
流量:0.8ml/min
・カラム温度:40℃
・検出器:POLARITY:+、DISPLAY:BACK GROUND、RESPONSE:SLOW、GAIN:1
・サンプル注入量:10μl
・1サイクル:35分
糖含有量の測定は、液体クロマトグラフィーのサイズ排除・配位子交換分離法で分離した化合物の屈折率を測定し、各糖質(糖、糖アルコール、及び多価アルコール)を定量分析することによって行った。分析条件は以下のとおりである。
・カラム:Shim-pack SCR-101C、ガードカラム付き
・ポンプ:移動相:水
流量:1.0ml/min
・カラム温度:70℃
・サンプル注入量:10μl
・1サイクル:20分
図2に有機酸含有量、図3にフルクトース及びマンニトールの含有量の測定結果を示す。A-1株は、X株と比較して、キムチ培地中の乳酸含有量の顕著な低下、及び酢酸含有量の若干の増加傾向を示した。乳酸は酢酸よりも酸性度が高いため、A-1株はキムチ培地における酸性度を高めにくいと考えられた。
またA-1株は、X株と比較して、キムチ培地中のフルクトース含有量の低下(すなわち、フルクトース消費量の増加)、及びマンニトール含有量(すなわち、マンニトール生成量)の顕著な増加を示した。マンニトールはキムチ中の常在菌が資化しにくい糖アルコールであるため、A-1株は過度な発酵を生じにくいキムチ環境を作り出すことができると考えられた。
以上の結果から、A-1株は過度の酸味を生じにくい性質を有しており、かつキムチ培地中での生残性(生存能)が高いことが示された。A-1株をキムチ製造のスターター菌として使用すれば、過度の酸味を生じにくいスターター菌が長期間生存することにより、異常発酵を抑制し安定した品質を有する発酵キムチを製造できると考えられた。
[実施例4]培地pHの推移についての他のロイコノストック属菌との比較
ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)NBRC 100496株、及びロイコノストック・シトリウム(Leuconostoc citreum)NBRC 113243株について、酸味の指標である培地pHの推移を調べた。なおNBRC 100496株及びNBRC 113243株は、日本国独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NITE Biological Resource Center; NBRC)から、それぞれ、NBRC番号100496、113243の下で入手できる。
表5に示す組成のキムチ培地を調製した。このキムチ培地は、唐辛子(粉末)、MSG、魚醤、還元水あめ、食塩、にんにく、及び生姜に、白菜エキスAK(水で15.8倍に希釈)を加えて89.75mlまでフィルアップしながら混合し、オートクレーブ滅菌した後、フルクトース25%溶液10mlを添加し、さらに乳酸及び酢酸の混合液を0.25ml添加し、混合することによって調製した。
Figure 2021103996
調製したキムチ培地に、乳酸菌を接種し、静置条件で10℃で培養した。培養の20日後まで培地を経時的にサンプリングし、培地のpHを測定した。
pHはpHメーター(東亜DKK株式会社製 型番:HM-42X)を用いて測定した。
結果を図4に示す。ロイコノストック・ファラックスA-1株は、ロイコノストック・メセンテロイデスNBRC 100496株、及びロイコノストック・シトリウムNBRC 113243株と比べて、pHの低下が緩やかであった。A-1株は、他のロイコノストック属菌と比較しても、過度な酸味を発現しにくい特性を有することが示された。
[実施例5]A-1株の特性評価
1)マンニトール生成能評価
マンニトールはフルクトースからの変換により生成される。そこでA-1株のフルクトースからマンニトールへの変換率(マンニトール生成能)を、以下のように、ロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)基準株NBRC 113244株(日本国独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NITE Biological Resource Center; NBRC)から入手可能;Leuconostoc fallax DSM 20189と同等株)と比較して評価した。
MRS液体培地(表6)に、終濃度2%となるようフルクトースを加え、混合・溶解した。培地を試験管に10ml分注し、オートクレーブ(121℃、15分)にて滅菌した。なおMRS液体培地(表6)は、合成培地原料(ペプトン、肉エキス、酵母エキス、グルコース、モノオレイン酸ソルビタン、リン酸水素二カリウム、酢酸ナトリウム三水和物、クエン酸三アンモニウム、硫酸マグネシウム七水和物、及び硫酸マンガン四水和物)を100mlの水に添加し混合することによって調製した。
Figure 2021103996
冷却した滅菌培地に、A-1株又はNBRC 113244株を接種し、静置条件で10℃にて培養した。培養開始後、培地を経時的にサンプリングし、実施例3と同様にして液体クロマトグラフィーにより培地中のフルクトース含有量及びマンニトール含有量を測定した。
図5にA-1株及びNBRC 113244株の培養開始5日後及び10日後の培地中のマンニトール含有量を示す。A-1株で得られた培地中のマンニトール含有量は、NBRC 113244株と比較して、顕著に増加していた。
測定結果に基づき、マンニトール生成能を以下の式に基づいて算出した。
マンニトール生成能=(培養開始10日後の培地中のマンニトール含有量(mg/100g))/培養開始10日後のフルクトース消費量(mg/100g)
フルクトース消費量=フルクトースの培地添加量(mg/100g)−培養10日目の培地中のフルクトース含有量(mg/100g)
表7に示すとおり、A-1株のマンニトール生成能は、ロイコノストック・ファラックス基準株NBRC 113244株と比較しても、顕著に高かった。
Figure 2021103996
2)桿菌との共培養における生残性評価
実施例4に記載されているようにして、表5に示す組成のキムチ培地を調製した。
調製したキムチ培地での生残性を評価するため、ロイコノストック・ファラックスA-1株(球菌)、及びロイコノストック・ファラックス基準株NBRC 113244株(球菌)に加えて、酸味発現乳酸菌ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)NBRC 15891株(桿菌)(日本国独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NITE Biological Resource Center; NBRC)から入手可能)を用いた。各乳酸菌は、MRS液体培地(表6)に接種し、静置条件で30℃で24時間予備培養して用意した。
上記のとおり調製したキムチ培地を試験管に10ml分注し、試験区毎に表8に示す乳酸菌を接種し、静置条件で10℃で培養した。培養開始後、培地を経時的にサンプリングし、培地中の球菌比率、pH、有機酸含有量、及びマンニトール含有量を測定した。
Figure 2021103996
球菌比率は、球菌と桿菌の共培養を行った試験区について、細菌をグラム染色した培地サンプルを位相差顕微鏡下で観察することにより、球菌及び桿菌のそれぞれの形態の菌数をカウントし、球菌+桿菌の合計菌数に対する球菌の菌数の割合(%)として算出した。
培地のpH、有機酸含有量及びマンニトール含有量は実施例3と同様にして測定した。
試験区4〜7の球菌比率を表9に示す。
Figure 2021103996
ロイコノストック・ファラックスA-1株は、ロイコノストック・ファラックス基準株NBRC 113244株と比較して、キムチを模したキムチ培地での生残性が高いこと、また酸味発現乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムに対する増殖抑制効果が高いことが示された。この結果から、キムチを始めとする発酵漬物の製造時に、漬物原料や周囲環境等に由来するラクトバチルス・プランタラム等の酸味発現乳酸菌(酸敗菌)がロイコノストック・ファラックスA-1株と共存していたとしても、本発明に係るA-1株は発酵漬物において優占種として存在することができるため、発酵期間が長くなっても過度な酸味を生じにくく、安定した品質を有する発酵漬物の製造が可能になることが示された。
図6に試験区2、3、5、及び7の培地のpHの推移(経時的変化)を示す。酸味発現乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムとA-1株を共培養することにより(試験区5及び7)、酸味発現乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムによるpH低下が大幅に抑制(低減)されることが示された。
図7に試験区1〜5における培地中の有機酸含有量、図8に培地中のマンニトール含有量を示す。酸味発現乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムとA-1株を共培養することにより(試験区5及び7)、ラクトバチルス・プランタラム単独の場合と比較して乳酸生成が顕著に抑制された。またラクトバチルス・プランタラムとA-1株を共培養した場合、ラクトバチルス・プランタラム単独及びA-1株単独の場合と比較して、酢酸生成とマンニトール生成の顕著な促進が示され、そのことがラクトバチルス・プランタラムとA-1株を共培養したキムチ培地におけるA-1株の優占につながっていると考えられた。
以上の実施例で示された結果から、ロイコノストック・ファラックスA-1株は、発酵キムチなどの発酵漬物製造において酸味発現を抑制する効果が高い乳酸菌であることが示された。
[実施例6]キムチ製造及び分析
白菜を一口大に切断し、9%濃度の塩水に浸漬して一昼夜にわたり塩漬けにした。続いて塩水から取り出した塩漬け白菜(白菜中の塩分濃度3%)を水洗いし、次いで自重で約5時間かけて脱水した。
薬念(ヤンニョム)と呼ばれるキムチ用の合わせ調味料を、表10に示す原料を混合し、冷蔵庫で一晩保存することにより調製した。
Figure 2021103996
調製した薬念を、脱水した塩漬け白菜に、薬念:脱水塩漬け白菜=20:80の重量比で添加し、よく混合した。
薬念と混合した白菜200gを容器に充填し、そこにロイコノストック・ファラックスA-1株又はロイコノストック・シトリウムX株を接種し、10℃で保存することにより発酵させてキムチを製造した。
発酵中のキムチについて経時的にpHの測定を行った。キムチをジューサーにて搾汁し、搾汁液についてpHメーター(東亜DKK株式会社製 型番:HM-42X)を用いてpHを測定した。
結果を図9に示す。A-1株乳酸菌を接種したキムチでは、X株乳酸菌を接種したキムチと比較して、pHの低下が緩やかであることが示された。
[実施例7]キムチの官能試験
実施例6に従って製造した、発酵開始時(0週)のキムチと8週間発酵後のキムチ(保存期間:8週間)について、発酵臭、酸味、及び総合評価に関する官能試験を行った。
発酵開始時のキムチの評価点を5として、発酵開始時のキムチと比較した8週間発酵後のキムチの変化を、以下に従って官能評価した。
5:変化なし
4:わずかに変化
3:やや変化したが、程よい範囲
2:製品品質として限界
1:製品品質の許容範囲外
結果を表11に示す。
Figure 2021103996
また、官能評価の結果、A-1株を接種した8週間発酵後のキムチは、程よい酸味と発酵臭が感じられる良好な品質であること、一方、X株を接種した8週間発酵後のキムチは、鋭い酸味が感じられ、発酵臭も強く、キムチ製品として許容範囲外であることが示された。
本発明に係る乳酸菌は、酸味発現の抑制に有効な性質を有するため、発酵時に過度な酸味を生じにくく、また生残性が高い。そのため、本発明に係る乳酸菌を発酵漬物の製造においてスターターとして用いることにより、過度な酸味の発現を抑制でき、より安定した食味を有する発酵漬物(キムチなど)の製造を可能にすることができる。

Claims (9)

  1. 受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌をスターターとして使用して漬物原料を発酵させることを含む、発酵漬物の製造方法。
  2. 発酵漬物が発酵キムチである、請求項1に記載の方法。
  3. 3℃〜15℃で漬物原料を発酵させる、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌。
  5. 受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌の培養物を含む、スターター組成物。
  6. 発酵漬物製造用の、請求項5に記載のスターター組成物。
  7. 発酵漬物が発酵キムチである、請求項6に記載のスターター組成物。
  8. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法により製造される、受託番号NITE P-03040を有するロイコノストック・ファラックス(Leuconostoc fallax)A-1株乳酸菌を含む、発酵漬物。
  9. 発酵キムチである、請求項8に記載の発酵漬物。
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