本発明の課題であり、第1の目標は、永久磁石型の集中巻きモータにおいて、出力トルクを増大することである。トルク増大はモータの高効率化、小型化、軽量化とも関わる。他の目標は騒音、振動の低減であり、静粛なモータを必要とする用途は多い。他の目標は高速回転でのトルクと効率の両立であり、例えば、電動バイク、ドローンなど、高速回転で連続運転する用途が増加している。
まず、前記目標を達成するための、より具体的な技術課題とそれらの問題点、及び、その技術課題の解決について説明する。なお、これらの技術課題、問題点、解決策は複数であり、それらの相互関係もあるので、それらの条件を同時に満たすことは単純ではなく、複雑になる。そのため、各実施例の説明の前に、これらの技術課題、問題点、解決策の概略と相関関係をここで説明する。なお、前記の(課題を解決するための手段)の項と内容が少し重複する。
一つの技術課題は、高トルク化のため、ロータの磁束密度を1.8[T]程度へ増加することである。その効果は例えば、磁束密度を1.2[T]から1.8[T]へ変更することにより、トルクが1.5倍となる。その問題点は、磁束密度の増加により、ステータの巻線を巻回するスロット断面積が小さくなることである。この技術課題の解決には、従来の3相交流モータとは異なるモータ構成、形状を考え、巻線を巻回するスロット断面積の拡大が必要である。なお、スロット断面積確保のためにモータ外形を大きくする方法は、同一モータサイズで比較する場合、それは相対的にトルクが減少する効果もあり、あまり意味が無い。
他の技術課題は、高トルク化のため、略台形形状のモータ誘起電圧波形とし、略台形形状の波形の電流を通電することである。後で詳しく述べるが、例えば、台形状交流波形形状で、立ち上がり直線勾配部30°、一定部120°、立ち下がり直線勾配部30°の交流の電圧波形と電流波形とする。その効果は、正弦波状の電圧波形と電流波形に比較して、同一振幅の条件で1.55倍のトルクが得られる。そして単純には、前記の高磁束密度化の1.5倍と合わせて、トルクは1.5×1.55=2.325倍のトルクに増大できる。この技術課題の解決には、台形形状の巻線誘起電圧波形を得るために、ステータ磁極の構成とロータ磁束分布を、従来の3相、正弦波交流モータとは異なるモータ構成とし、その他の技術課題も同時に解決する必要がある。
他の技術課題は、集中巻き巻線に適度な台形形状の誘起電圧と、巻線巻回を行う適度なスロット断面積とを、同時に得ることである。なお、前記技術課題と関わりがあり、一部重複している。この技術課題の解決には、ステータ磁極数とロータ磁極数の選択と、ロータ磁極形状の適正化が必要である。例えば、ステータ磁極数を7としてロータ磁極数を8とするなどの組み合わせで、ステータ磁極のエアギャップ部に面する部分の円周方向幅θstgを電気角で185[°]以上とする必要がある。後に詳しく述べる。また、後に述べるが、ステータ磁極とロータ磁極の構成によっては、ロータからステータのバックヨークへ一部磁束を通過させるバイパス磁路PBPにより、モータ性能を向上させることもできる。
他の技術課題は、各集中巻き線の誘起電圧の適正化とステータ磁極内で循環する磁束成分の低減である。また、前記円周方向幅θstgの大きさにより、ロータ磁極の磁束分布の円周方向形状と集中巻き線の誘起電圧の形状とに差が発生するので、その形状変化を見込んだ磁束分布とする必要がある。なお、この技術課題も前記技術課題と関わりがあり、一部重複している。この技術課題の解決には、ロータ磁極の形状、永久磁石の種類と着磁の特性、円周方向幅θstgの値による誘起電圧波形の変形、および、用途に求められるトルク特性が関わる。また、ステータ磁極の歯内で循環する磁束成分があり、その循環成分は少ない方が歯の先端部近傍での鉄損の低減、あるいは、歯内の部分的な磁気飽和の低減を期待できる。なお、ロータ磁極の磁束分布形状については、永久磁石を使用して製作が容易な形状、即ち、ロータ磁極の製作性の問題も関わってくる。
他の技術課題は、ステータ磁極の円周方向ピッチθspが電気角180[°]より不必要に大きい場合に、集中巻き巻線の誘起電圧を十分に大きくすること、台形形状の誘起電圧波形を作ることである。前記円周方向ピッチθsp[°]が不必要に大きい場合、ステータの歯内で磁束が循環し、相殺する問題がある。巻線の誘起電圧が低下し、電圧波形も変形する問題がある。この技術課題の解決には、前記の様に、ロータからステータのバックヨークへ一部磁束を通過させるバイパス磁路PBPを適度な幅で追加すれば良い。バイパス磁路PBPの円周方向幅を自在に設定できるので、前記円周方向幅θstgを最適化することができる。その結果、モータトルクを増加することができる。なお、前記円周方向幅θstgを最適化できて、バイパス磁路PBPの円周方向幅が小さい方が好ましい。もちろん、バイパス磁路PBPが必要ない方が、モータ構成を簡素化できるので優れている。
他の技術課題は、略台形状電圧と略台形状電流のモータにおいて、トルクリップルを低減し、振動、騒音を低減することである。理論的に理想的に作用する3相交流モータは、理論的にトルクリップルは0である。しかし一般的に種々高調波成分が発生し、トルクリップルがあるので、種々の従来のトルクリップル低減対策が取られている。その結果、巻線係数が低下してトルクが減少する問題もある。本発明モータにおいても、略台形状の電流で駆動する場合には、トルクリップルが大きくなる問題が発生する。この技術課題の解決の一つの方法は、モータの多相化である。従来は3相の正弦波交流でモータを駆動することが多いが、7相などの多相のモータとすることにより、トルクリップルを低減し、かつ、巻線係数が大きくなるのでトルクを増大することができる。なお、さらにトルクリップルを低減する場合は、モータの電流波形を補正することによりトルクリップルを低減することができる。
他の技術課題は、高速回転での高トルクと高効率の両立である。高速回転では鉄損が増加する問題がある。また、永久磁石の観点では、その磁束密度が1.4[T]程度に大きい場合に、その高磁束密度の特徴を生かして、アモルファスコア使用のモータを実現することである。この技術課題の解決には、本発明モータの構成でアモルファスシートを活用し、鉄損を低減する。本発明モータ構成では、ロータ磁束密度を大きくすることができるので、トルクも大きくできる。従って、高速回転におけるトルクと出力を増大できる。また、焼結した希土類磁石の1.4[T]程度のリング形状磁石と、1.4から1.6[T]の最大磁束密度のアモルファスコアを使用して、簡素なモータ構成も実現できる。
他の技術課題は、7相などの多相の略台形形状電流の駆動回路を実現することである。多相の略台形形状電流の総和は0[A]とならない時間帯があるので、いわゆる星形結線を駆動する駆動回路では問題がある。この技術課題の解決には、各相の電流を個別に駆動する方法、及び、多相の総和が0[A]とならない電流成分を通電する駆動回路を付加する方法とがある。
本発明では、前記の各問題を複数の技術を組み合わせて解決する、あるいは、複数の問題を複数の技術で解決する。前記の各問題点などで説明したように、各技術に長所と短所があり、それらの組み合わせの因果関係を考える必要がある。その具体化技術を各実施例と共に説明する。
なお、本発明の背景技術として、エレクトロニクス技術の進歩とその低コスト化があり、現在ではモータ制御の複雑さが制御性能の劣化やコストに与える影響は少なくなった。マイクロプロセッサやメモリーだけでなく、駆動回路周辺の高集積化も進み、相数を5相、7相、11相等の大きな素数の相にすることも可能になっている。また、小型モータの領域では、パワーMOSFETで制御されることが多く、電圧が40[V]などの低電圧なので制御部と駆動部とを近接できる。高集積化も可能であり、また、電流検出における電気絶縁などの必要性も少ない。
ここで、後に示す本発明モータと比較するため、図34に示した従来の表面磁石型同期モータSPMSMの磁束密度Bの分布、集中巻き巻線を通過する鎖交磁束φ、集中巻き巻線に発生する誘起電圧Vの例を、図35の(c)、(d)、(e)に示し、説明する。図35の横軸は、U相ステータ磁極352の中心位置に対する回転角の電気角位置θ[°]であり、図35の右方向は図34の反時計回転方向CCWを示している。図35の下部に、図35の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)に共通する回転角位置θ[°]を示している。図35のU相ステータ磁極352は、図34の342に相当する。回転角位置θ[°]は、図34のロータ磁極345の中心位置、および、図35のロータ磁極355の中心位置の回転角位置であり、ロータ回転角位置θ[°]でもある。
図35の(c)の破線は、ロータ回転角位置θ=0[°]の場合の各ステータ磁極のエアギャップ面の磁束密度Bである。この磁束密度Bの最大値は、基準化して示しており、その最大値は1.0である。図35の(c)の磁束密度Bの分布は正弦波状の分布の例であり、磁束密度Bの値を左側の軸で示している。
図35の(c)の一点鎖線は、U相ステータ磁極352を通過する磁束であり、集中巻き巻線353に鎖交する磁束φである。この計算では、磁束密度Bが1.0の時に、円周方向角度幅の電気角1[°]の磁束φを1.0としている。例えば、磁束密度B=1.0で均一であり、ステータ磁極幅が電気角で90[°]の場合、鎖交磁束φ=90となり、鎖交磁束φの値を図35の(c)の右側の軸に示している。U相ステータ磁極352の円周方向幅は電気角で120[°]であり、鎖交磁束φの正と負の最大値は99.24となる。
図35の(c)の実線は、集中巻き巻線353の誘起電圧Vであり、誘起電圧Vの値を左側の軸に基準化して示している。この時、ロータがCCWへ一定回転数で回転する状態を想定している。誘起電圧Vは、集中巻き巻線353の巻回数をNw[turn]とすると次式となる。
V=Nw×(dφ/dt) (1)
=Nw×(Δφ/Δt)
=Nw×(Δφ/Δθ)×(Δθ/Δt) (2)
誘起電圧Vの値は基準化していて、正と負の最大値を1.0としている。Δθ/Δtはロータ回転速度で、図35の図表計算では、微少回転角Δθを電気角1.0[°]としている。微少鎖交磁束Δφは、微少回転角Δθで変化する鎖交磁束の量である。これらの関係から、巻回数Nw[turn]とロータ回転速度Δθ/Δtは次式となる。
Nw×(Δθ/Δt)=1/2 (3)
そして、図35の(c)の実線の誘起電圧Vの目的は、電圧波形の形状を示すことである。その結果、誘起電圧Vの波形形状により、従来の正弦波駆動に対する相対的なトルクの大きさを評価できる。後に、(23)、(25)式に示す様に、誘起電圧定数Kvとトルク定数Ktは同じ値である。なお、ここで、(1)式は定性的な関係を示すもので、磁束密度Bと誘起電圧Vの値は基準化しているので、正確な値を求めるためには換算が必要である。
また、実線の誘起電圧Vの波形は、ロータがCCWへ一定回転数で回転する状態における、集中巻き巻線353の誘起電圧を示す。その意味で、実線の誘起電圧Vの横軸は時間軸として考え、各時点でのロータ回転位置θが図35の下部に示すθで示していると見ることもできる。逆に、静的な状態では、誘起電圧Vは発生しないので、その様に見ないと、図35が矛盾する。また、図35では、集中巻き巻線353のU相の誘起電圧Vだけを示していて、他のV相巻線、W相巻線の誘起電圧は同じ電圧波形であるが、それぞれに電圧位相が電気角で120[°]づつ異なる。
図35の(c)の特性では、破線で示す磁束密度Bを振幅1.0に基準化した正弦波分布で、図35の(c)の特性では、U相の集中巻き巻線353の誘起電圧Vuは基準化した振幅で0.866となった。このU相電圧Vuの位相が0[°]となるように、図35の(a)のステータ、(b)のロータの位置関係を設定している。図示していないが、V相ステータ磁極357の誘起電圧は120[°]の位相遅れ、W相ステータ磁極358の誘起電圧は240[°]の位相遅れとなる。
後で、図21等で詳しく説明するが、振幅が1.0の正弦波交流電圧、正弦波交流電流を1.0とした時のトルクT、パワーPに対し、振幅が1.0の矩形波交流電圧、矩形波交流電流を1.0とした時のトルクT、パワーPは、2.0と2倍になる。また、例えば、振幅が1.0で、立ち上がり幅が電気角で30[°]、平坦部の幅が電気角で120[°]、立ち下がり幅が電気角で30[°]の台形波の交流の場合、トルクT、パワーPは1.555倍になる。トルクT、パワーPが1.555倍になる効果は大きく、また、短節係数0.866も換算すると、1.555/0.866=1.7956倍となる。さらには、後で詳しく説明するが、ロータ表面磁束密度Bを1.2[T]から1.8[T]へ増加した場合、1.7956×1.8/1.2=2.6934倍のトルクT、パワーPが計算される。短節係数0.866を除いても2.333倍のトルクT、パワーPが計算される。
図35の(c)の各値を、図表計算ソフトで計算する方法を説明する。まず、破線で示す磁束密度Bの分布を、電気角1[°]の分解能の数列で表す。次に、U相の集中巻き巻線353の鎖交磁束φを電気角120[°]の幅について合計し、各ロータ回転位置θごとの数列を作る。鎖交磁束φは一点鎖線で示している。次に、U相の集中巻き巻線353のU相電圧Vuを、(2)、(3)式で鎖交磁束φの差分として、数列として求める。図35の(c)はこれらの値を散布図にしたものである。
この図35の(c)の例で示した計算アルゴリズの目的は、ロータの磁束密度分布が正弦波ではなく、矩形波、台形波などの異形の磁束密度の分布であり、巻線ピッチも電気角で180[°]ではない場合に、誘起電圧波形を求めることである。図35の(c)は正弦波の磁束密度分布の例であるが、以下では、矩形波状の磁束密度分布の例、台形波の磁束密度の分布の例、巻線ピッチも例えばステータ磁極が5個でロータ磁極が6個の場合は216[°]となり、その様な条件においても、誘起電圧波形を同一のアルゴリズムで計算できる。前記の様に、図35の(c)の正弦波状の磁束密度分布で集中巻き巻線のピッチが120°の場合について求め、0.866の振幅の正弦波交流電圧波形を得た。この値は、正弦波交流理論での短節係数cos((180°−120°)/2)=0.866と一致しており、このアルゴリズムの正しさを確認できる。
なお、グラフの表示方法として、磁束密度分布、電圧波形などのグラフは、0°から360°範囲では磁極境界部が視覚的に見難いので、各特性を−180°から360°まで表示範囲を拡張して表示する。また、表示範囲の拡張が不要な場合は0°から360°までの特性を表示する。また、本発明で示す磁束密度Bの分布、集中巻き巻線の鎖交磁束φ、集中巻き巻線の誘起電圧Vなどは、マイクロソフト社の表計算ソフトExcelを使用して計算している。本明細書では、計算の諸条件も示しているので、誰もが同等の表計算ソフトを使用して本発明で示す特性図を再現できる。
次に、図35の(d)の例について説明する。図34のモータで、磁束密度Bの分布は破線で示す様に、増加部30[°]、平坦部120[°]、減少部30[°]の台形形状のS極とN極である。巻線ピッチが電気角で120[°]U相の集中巻き巻線353の鎖交磁束φを一点鎖線で示しており、U相電圧Vuは実線となる。Vuの波形形状は、増加部が60[°]、平坦部が60[°]、減少部が60[°]の台形波形状となる。この様に、120[°]の短節巻き巻線の場合、磁束密度の分布形状に対してU相電圧Vuの形状が変化する。
図35の(c)に示したように、磁束密度の分布が正弦波形状である場合は、120[°]の短節巻き巻線に誘起する電圧は、短節係数0.866の大きさとなるが、形状は同じ正弦波形状であった。これに対し、正弦波分布以外の形状では、巻線ピッチが180[°]以外であれば形状も変化する点に注意が必要である。巻線ピッチが電気角180[°]の全節巻きの場合は、磁束密度の分布形状と電圧の波形形状とが同じ形状となる。
図35の(d)の場合で、電圧形状と同じ形状の電流を通電する場合、図35の(c)の正弦波形状の場合に比較して、1.283倍のトルクとなる。しかし、前記の様に、図34、図35のロータの磁束密度を1.8[T]等に大きくする場合には、巻線を巻回するスロット断面積が小さくなり、むしろトルクが低下する問題がある。
次に、図35の(e)の例について説明する。図34のモータで、磁束密度Bの分布は破線で示す様に、180[°]幅の矩形波形状のS極とN極である。巻線ピッチが電気角で120[°]U相の集中巻き巻線353の鎖交磁束φを一点鎖線で示しており、U相電圧Vuは実線となる。図示するように、Vuの波形形状は、120[°]幅の矩形波となる。この様に、120[°]の短節巻き巻線の場合、磁束密度Bが180[°]幅の場合、120[°]幅の電圧を発生できる。しかし、前記の様に、図34、図35のロータの磁束密度を1.8[T]等に大きくする場合には、巻線を巻回するスロット断面積が小さくなり、むしろトルクが低下する問題がある。
従来例として分数スロットのモータが知られている。毎極当たりの毎相のスロット数qが分数となるモータである。例えば、ステータ磁極数およびスロット数が9でロータが8極の集中巻きモータでは、q=(9スロット)/(3相×8極)=3/8であり、分数スロットの3相集中巻きモータと言われる。このモータの短節係数がcos10°=0.9848で、分布係数が(1+2×cos20°)/3=0.9598なので、巻線係数は0.9452と、比較的大きな値にできる。また、少しづつ位相の異なる3個の巻線を直列接続することになり、高調波成分を相殺することができ、トルクリップルを低減できる特徴がある。しかし、モータを高トルク化するためにロータの磁束密度を1.8[T]程度へ増加すると、ステータの巻線を巻回するスロット断面積が小さくなる問題がある。そのため、トルクはむしろ低下するため問題である。また、高トルク化のために誘起電圧を台形形状化しようとすると、高調波成分の前記相殺効果が災いし、台形形状化に弊害となる。
他の従来例で、ステータ磁極数およびスロット数が12でロータが10極の集中巻きモータも、q=(12スロット)/(3相×10極)=2/5であり、分数スロットの3相集中巻きモータである。このモータにおいても類似の特性となり、前記特徴があるものの、磁束密度が1.8[T]程度へ増加すると、スロット断面積が小さくなる問題がある。
なお、ステータの各歯へ集中的に巻線を巻回する巻線の形態は、本来の集中巻き巻線とは意味が異なる面もあるので、各歯へ集中的に巻線を巻回するモータの名称は磁極集中巻きモータと呼称されることもある。しかし、本発明の明細書では巻線形態での混同は無いので、各歯へ集中的に巻線を巻回するモータを集中巻きモータと呼ぶことにする。
なお、本発明では、ステータ磁極PSの数NSとロータ磁極PRの数NRのモータ構成を記号化して示すことにする。例えば、ステータ磁極数NS=7で、ロータ磁極数NR=8のモータ構成を7S8Rと呼ぶことにする。そして、この7S8Rの構成が円周上に極対数の倍数NN1を配置するモータ構成も、各発明に含むことにする。即ち、7S8Rは、暗黙の内に、14S16R、21S24Rなどを含むことにする。また、この表現方法では、(最小構成のステータ磁極数NS)/(最小構成の極対数NR/2)が既約分数となる。例えば、7S8R、14S16R、21S24Rなどのモータの場合、前式に当てはめて約すと7/4となり、7/4は既約分数である。なお、既約分数とは、それ以上約分できない分数、あるいは、分母と分子が互いに素の関係にある分数と表現できる。
なお、ステータ磁極数は、ステータの歯の間のスロットの数でもある。そして、(スロット数)/(極対数)が分数となる、前記の様な構成のモータは、分数スロットのモータと呼ばれている。しかし、本発明では、従来のスロットの円周方向中間部にバイパス磁路PBPを付加する構成も含み、スロットをPBPの両側へ2分割することあるので、その場合スロット数が2倍に変化する。本発明明細書では、紛らわしいので、分数スロットの言葉を積極的には使用しない。
なお、本発明に使用するアルファベットなどの文字、記号は、大文字と小文字を区別して使用して異なる文字として扱い、全角文字と半角文字とは区別せず同じ文字として扱う。また、前記の様に、グラフの表示方法として、磁束密度分布、電圧波形などのグラフは、0°から360°範囲では磁極境界部が視覚的に見難いので、各特性を電気角で−180°から360°まで表示範囲を拡張して表示する。また、表示範囲の拡張が不要な場合は0°から360°までの特性を表示する。また、本発明では、断りが無い限り、角度幅を電気角の[°]で示すことにする。
次に、請求項1の実施例のモータ横断面図を図1に示す。11はステータ、14はロータ、17はロータ軸である。ステータ磁極の数は7個で、ロータ磁極の数は8極であり、本発明の呼称方法では7S8Rのモータ構成である。12は第1相のステータ磁極、13は12に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極18は12に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθsp=205.71[°]の位相遅れの相である。各ステータ磁極の電圧位相は、相対的に、360/7=51.43[°]の整数倍だけ位相が異なる。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極12の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とし、CCWを正方向とする。15はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は15の円周方向中心位置とし、図1の紙面でCCW方向の回転を正とする。16は2番目のロータ磁極である。15はS極の永久磁石、16はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。各ロータ磁極の永久磁石の円周方向境界部は空間としている。
次に図2の構成について説明する。図2は図1に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。図1のモータの一部を示していて、図2の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図2の紙面の右方向は、図1の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図2の(a)の21はステータで、図2の(b)の24はロータである。22は図1の12に相当し、第1相ステータ磁極である。28は205.71[°]の位相遅れのステータ磁極である。23は第1相のステータ磁極22に巻回する集中巻き巻線である。25は図1の15に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。26はN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、8極なので電気角で360×4=1440[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1440/7=205.71[°]である。各永久磁石の円周方向幅θrtは電気角で180−(205.71−180)=154.29[°]である。各永久磁石間の凹状の空間部で、磁束密度の小さい部分の円周方向幅θouは25.71[°]である。ステータ磁極22のエアギャップに面する部分の円周方向幅θstgは、ステータ磁極の円周方向のピッチθspと同じ205.71[°]である。なお、ここで、各スロット開口部の円周方向幅は0[°]として理想化、モデル化し、仮定している。
次に、第1相のステータ磁極22の磁束通過部の歯幅θstについて説明する。ステータ磁極の磁束が通過する歯の部分の角度幅θstとスロットの円周方向の角度幅θssとが円周方向に並ぶので、それらの大きさの和がステータ磁極円周方向ピッチθspで一定値となっている。前記の様に、ステータ磁極の数がNS2で、ロータ磁極の数NR2の場合、テータ磁極円周方向ピッチθspは180×NR2/NS2[°]となる。
θsp=180×NR2/NS2 (4)
=180×8/7=205.71
θsp=θst+θss (5)
従って、特に、ロータ磁極の磁束密度B、即ち。ロータの永久磁石の磁束密度Bが大きな値になる場合、ステータ巻線をより多く巻回するためにはスロットの円周方向の角度幅θssをより大きくする必要があり、その観点で、(5)式より、ステータの歯の角度幅θstは小さい方が好ましい。しかし、逆に、ステータ磁極22を通過して巻線23に鎖交する磁束φは大きい方が大きなトルクとなる。即ち、θstとθssはトレードオフの関係である。また、(5)式の関係から、θspを適正値とするためには、(4)式のステータ磁極の数NS2とロータ磁極の数NR2の選択が優先し、種々組み合わせを後に述べる。
今、図1、図2の(a)、(b)に図示したロータ回転位置θは、第1相ステータ磁極12、及び、22を通過するロータ磁極の磁束φが負の最大値となるロータ回転位置θ=0[°]である。そして、図2の(b)の各ロータ磁極の永久磁石の表面磁束密度の最大値Bagmを大きい値で、1.8[T]とし、永久磁石の円周方向幅θrtの間の磁束密度を均一とする。各ステータ磁極に使用する電磁鋼板の最大磁束密度Bstmが2.0[T]であると仮定する。図2の(b)のロータ位置θ=0[°]で、ステータ磁極の歯幅θstを最も小さな値とする条件で次式となる。
θrt×Bagm=θst×Bstm (6)
θst=θrt×Bagm/Bstm=154.29×1.8/2.0=138.86
従って、(5)式よりスロットの円周方向の角度幅θssは、205.71−138.86=66.85[°]となる。このθss=66.85[°]の値は、モータとして実用的な大きさを確保できている。
次に、図2の(c)にこれらの値、永久磁石磁束密度1.8[T]、永久磁石の円周方向幅θrt=154.29[°]、ステータ磁極の円周方向ピッチθsp=205.71°、ステータの磁束通過部の歯幅θst=138.86[°]、スロット幅θss=66.85[°]の特性例を示す。図2の(c)の破線は、ロータの回転角度位置θ=0[°]の時のステータ各部の磁束密度Bである。また、この破線の磁束密度は、ロータがCCWへ回転し、ロータ位置がθの時のステータ磁極22の中心線上のエアギャップ部磁束密度と考えても同じ値である。左側の軸に最大値1.0に正規化して、1.8[T]を示している。表計算ソフトの計算では四捨五入し、154.29[°]をθrt=154[°]に近似している。ロータ磁極の境界部のθouは計算では25.71[°]を26[°]に近似し、その磁束密度は0[T]である。一点鎖線は、ロータがCCWへ回転し、ロータ位置がθの時の第1相のステータ磁極22に巻回する集中巻き巻線23の鎖交磁束φであり、右側の軸にその値を示している。磁束密度Bが1.0の時に、円周方向角度幅の電気角1[°]の磁束φを1.0としている。一点鎖線の鎖交磁束φは、S極永久磁石25のエアギャップ面の磁極幅θrtが約154[°]なので、φの最大値は154である。
図2の(c)の実線は、ロータが一定回転数でCCWへ回転し、ロータ位置がθの時の集中巻き巻線23の誘起電圧Vである。(1)、(2)、(3)式に従って計算している。図表計算ソフト上の操作を要約して言えば、鎖交磁束φの1[°]ごとの値の差分を2で割った値である。誘起電圧Vの値は左側の軸に示していて、基準化した値で、最大値が1.0である。なお、誘起電圧Vの波形は、図35の例で説明したように、ロータがCCWへ(3)式の一定回転数で回転する状態における、集中巻き巻線353の誘起電圧である。その意味で、実線の誘起電圧Vの横軸は時間軸として考え、各時点でのロータ回転位置θが図2の下部に示すθで示されていると見ることができる。
集中巻き巻線23の巻線ピッチを電磁気的には206°として求めた誘起電圧Vは、破線で示す磁束密度Bの分布形状とは異なる階段状の波形となる。モデル化した計算なので、シャープな階段形状となっているが、実際には磁石磁極の境界部の近傍の漏れ磁束などが発生することから、少しづつ平滑化した電圧波形になるものと推測される。この実線の階段状の波形は、略台形状と見ることもできる。
なお、電気的には電圧Vと電流Iの積はパワーPであり、機械的にはトルクT[N・m]と回転角速度dθ/dt[rad/sec]の積がパワーPである。巻線の抵抗、モータの摩擦などの内部損失を無視し、磁気エネルギーなどの蓄積エネルギーを無視すると、(7)式となる。一定回転数の時、パワーPとトルクTは比例する。また、(7)式は、図1などのモータの1相についての表現である。しかし、拡張して、(7)式の(V×I)を誘起電圧Vと電流Iの積の全ての相の総和として考え、(7)式のTをモータ全体のトルク出力として考えても良い。
P=V×I=T×dθ/dt (7)
また、ステータ磁極28の巻線の誘起電圧は、図2の(c)の実線で示す誘起電圧に対して電気角で205.71[°]の位相遅れの電圧となる。図2の(a)のさらに右側に当たる5個のステータ磁極の電圧位相は、それぞれ、51.43[°]、257.14[°]、102.86[°]、308.57[°]、154.29[°]の位相遅れの電圧となる。いずれも、360/7=51.43[°]の整数倍の位相遅れで、それぞれが7相の電圧を形成する。
次に、図2の(b)、(c)に示した永久磁石間の空間部に永久磁石を配置し、その磁束密度がN極とS極と間で徐々に変化する磁束密度Bの分布の例を図2の(d)に示す。破線で示す様に、磁束密度Bの増加部が13[°]で、平坦部が154[°]で、減少部が13[°]の台形状であり、S極とN極に交互に交番する磁束密度Bの分布である。一点鎖線は、図2の(c)の場合と同様に、集中巻き巻線23の鎖交磁束φであり、右側の軸にその値を示している。実線は、ロータが一定回転でCCWへ回転し、ロータ位置がθの時の集中巻き巻線23の誘起電圧Vである。誘起電圧Vは正規化して示している。誘起電圧Vの波形形状は、電圧増加部が26[°]、電圧一定部が128[°]、電圧減少部が26[°]の台形波形状の正と負の交流電圧となる。図2の(d)の実線の電圧Vは、図2の(c)の実線の電圧Vに比較して、電圧が正と負に変化する部分の波形形状が異なる。平均電圧は同じである。両電圧共に、同一振幅の正弦波電圧に比較して十分に大きく、良好な電圧波形である。
次に、図1、図2の実施例の特徴、効果について説明する。本発明では永久磁石型の集中巻きモータについて、高トルク化、小型化、軽量化、及び、低コスト化を目指している。これらの実現のためには、各ステータ磁極のそれぞれの位相を確保できるモータ構成であること、各巻線の誘起電圧を同一振幅の正弦波に比較して実効電圧の大きな台形形状等とすること、ロータ磁極の磁束密度が軟磁性体の最大磁束密度である、例えば1.8[T]程度に大きくしてその状態でステータに適度な巻線を券回するスロット断面積を確保すること、矩形波、台形波、正弦波などの自在な電流駆動が可能な駆動回路であること、モータの各部及び駆動回路各部の稼働率、利用率が高いことが同時に必要である。加えて、低トルクリップル化、低振動・低騒音化のために7相等の多相化が効果的である。図1、図2の実施例はこれらの必要条件を全て満たしている。なお、図2の(d)の破線で示す磁束密度Bの分布形状が台形形状であり、矩形状に比較して、ステータ磁極とロータとの吸引力変化を滑らかにできるので、モータの振動、騒音の点で有利である。また、個々の技術の詳細、駆動回路については後に説明する。
次に、図2の(a)、(b)の直線展開図を一般化して、各形状をパラメータで示す図を図3の(a)、(b)に示す。そして、モータパラメータであるθsp、θst、θss、θrt、θouの相関関係を説明する。例えば、4S6R、5S6R、7S8R、8S10Rなどの種々モータ構成について適用できる。また、モータパラメータの具体的な値の例について、ロータの磁束密度Bの分布と巻線の鎖交磁束φ、及び、誘起電圧Vでモータ特性を示し、モータ特性の概略を説明する。
図3の(a)、(b)は図2の(a)、(b)と同様の形状である。32は第1相のステータ磁極、33は32に巻回した集中巻き巻線である。38はステータ磁極ピッチθspだけ位相が遅れた相である。図3の紙面で右方向がCCWの方向であり、正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極32の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。35はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は35の円周方向中心位置とし、図3の紙面でCCW方向の回転を正方向とする。36は2番目のロータ磁極である。35はS極の永久磁石、36はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。各ロータ磁極の永久磁石の境界部は空間としている。この空間部は非磁性、非導通の電磁気的には作用しない樹脂などでも良い。また、この空間部へ、種々磁束分布の永久磁石を配置しても良く、図2の(d)の破線に示したような、円周方向に台形状の磁束密度Bの分布としても良い。なお、図3ではモータ全体は特定しておらず、各種のモータ構成に適用できるように、一般化している。ステータ磁極の円周方向のピッチをθsp、ステータ磁極の磁束が通過する歯の部分の角度幅をθst、スロットの円周方向の幅をθssとしている。ロータの各永久磁石の円周方向幅をθrt、各永久磁石間の空間部、あるいは、磁束密度が低下する部分の円周方向幅をθouとしている。
既に、各モータパラメータθsp、θst、θss、θrt、θouについて説明しているが、図3の(a)、(b)について改めて説明する。それぞれの角度幅を電気角の[°]で表す。θspはステータ磁極の円周方向ピッチで、(4)式の関係である。θstはステータ磁極の磁束が通過する歯の部分の幅で、θssはスロットの円周方向の幅で、(5)式の関係である。
ロータ磁極のピッチθrpは、勿論、180[°]である。ロータ側の永久磁石の円周方向幅θrtと各永久磁石間の凹状の空間部で、磁束密度の小さい部分の円周方向幅θouとは次式の関係である。
θrt+θou=180 (8)
θrtが大きいとトルク発生に有効な磁束φをより多くステータ磁極へ供給できる。他方、θouが大きいとθrtが小さくなり、ステータ巻線の鎖交磁束φの最大値が減少するので、(6)式の関係よりステータ磁極の歯幅θstは小さくなる。(5)式と、特に後に示す(11)、(12)式の関係の場合は、スロットの円周方向の幅θssが大きくなり、巻線の量を増加できる。
ここで、ロータ磁極のエアギャップ面の磁束密度Bagmが大きい場合に、ステータ巻線を巻回するスロット断面積Sssをより大きくする方法について説明する。例えば、軟磁性体の電磁鋼板の最大磁束密度Bstmが2.0[T]と仮定し、Bagmが1.8[T]と言うような状況に置いて、スロット断面積Sss、あるいは、スロットの円周方向の幅θssをより大きくする方法である。そもそも、大きなトルクを得ることを目的としているので、ロータ磁極の磁束密度Bagmが大きいこと、ロータ磁極の円周方向幅θrtが大きいこと、そして、巻線を巻回するスロットの円周方向の幅θssが大きいことが同時に求められる。
これらの必要条件に応える構成例が、図2の(a)、(b)、及び、図3の(a)、(b)である。ここでは、各ステータ磁極円周方向の角度幅θspとロータの各角度幅の関係は次式としている。
θsp=180+θou (9)
=θrt+2×θou (10)
ここでは、ステータ磁極幅θspは180[°]以上であって、磁束密度の小さい部分の円周方向幅θouを2個含んでいる。この状態は、(12)式に示す様に、2個のθouをスロットの円周方向の幅θssの拡大に活用でき、巻線量を増加できる。
なお、ここで、前記円周方向幅θou=0[°]であって、図3の(b)のS極永久磁石35とN極永久磁石36との空間が無く、S極永久磁石35とN極永久磁石3Dとの間の空間も無い状態であって、各ロータ永久磁石が円周方向に隣接している状態を考える。ステータ磁極ピッチθspが180[°]より大きくなると、そのステータ磁極を通過する磁束、即ち、その集中巻き線の鎖交磁束φが最大値となる、図2の(a)、(b)の様なロータ回転位置θ=0[°]においても、ステータ磁極32の歯内でN極磁束の一部はS極磁束と歯内で循環することになる。即ち、その循環磁束は集中巻き線33を通過せずに、歯内で相殺することになる。従って、この循環磁束であり、相殺する磁束は、トルクにあまり寄与しない磁束成分である。また、この循環磁束、相殺磁束は、歯内を局所的に磁気飽和させる作用もあり、その意味では有害であり、問題である。図1、図2、図3の(a)、(b)の状態、及び、(9)、(10)式の条件は、この循環磁束、相殺磁束が、丁度、0[Wb]となる関係のモータ構成であり、大変都合の良いモータ構成である。但し、(9)、(10)式の状態に限定されるわけではなく、前記θouの間の磁束密度の分布状態も、後に示す様に、様々な状態を選択できる。
図3の(a)、(b)の構成例の条件では、(5)、(6)、(9)、(10)式より、スロット幅θssは次式となる。
θss=θsp−θst
=θsp−(θrt×Bagm/Bstm) (11)
=θrt+2×θou−(θrt×Bagm/Bstm)
=2×θou+θrt×(1−Bagm/Bstm) (12)
(12)式の第2項は、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmが大きくなれば縮小するので、Bagmを大きな値とする時には、θssの増加にあまり期待できない。その時、スロットの円周方向の幅θssは、θouの2倍に近づく。一方、θrtとθouは(8)式の関係なので、ステータ巻線の鎖交磁束の最大値に比例するθrtと、スロット断面積、即ち、巻線の量にほぼ比例するθouの両方を大きくすることはできない。θrtとθouはトレードオフの関係であり、従って、θrtとθssもトレードオフの関係である。
次に、永久磁石の円周方向幅θrtとスロットの円周方向の幅θssとの相関関係について説明する。(8)、(9)式より永久磁石の円周方向幅θrtを次のように書ける。
θrt=180−θou
=180−(θsp−180)
=360−θsp (13)
今、ロータ磁極の磁束密度Bagmが1.8[T]で、軟磁性体の電磁鋼板の最大磁束密度Bstmが2.0[T]と仮定した場合に、ステータ磁極ピッチθspをパラメータとした特性は、(11)、(13)式より図7の特性となる。
例えば、スロットの円周方向の幅θss=40[°]以上の条件では、ステータ磁極ピッチθsp=192[°]以上、ロータ磁極の円周方向幅θrt=168[°]以下となる。また、ロータ磁極の円周方向幅θrt=130[°]以上の条件では、ステータ磁極ピッチθsp=230[°]以下、スロットの円周方向の幅θss=113[°]以下となる。これらの2つの条件を満たす領域は、図7の矢印線で示す範囲となる。具体的に、実用的な範囲である。そして、さらにこの範囲からより適した値に絞り込むことができる。
また、図2の(a)、(b)の各値は、これらの中間点で、θsp=206[°]、θrt=154[°]、θss=67[°]の動作点である。また、例えば、スロットの円周方向の幅θssの最低限の値として28[°]を考えると、θsp=185[°]、θrt=175[°]となる。この様に、条件により許容されるパラメータの範囲などが分かるので、鎖交磁束の確保とステータ巻線の巻回の両条件を満たす、より良い条件を計算できる。これら両パラメータはトレードオフの関係にあり、磁気装荷と電気装荷の関係に類似した側面がある。また、後に説明するように、Bagm、Bstm、θouの条件を変更すれば、図7の特性も変わる。
次に、本発明で計算しているスロットの円周方向の幅θssが、従来のモータで活用されていない4つの理由について説明する。第1の理由は、永久磁石型モータではロータ磁極の表面の平均磁束密度を2.0[T]近傍で使用しなかったことである。第2の理由は、各ロータ磁極の両端の磁束密度Bが低下する領域の特性を有効活用しなかったことである。例えば、磁束密度Bの分布が図8に示す様な正弦波形状の場合、中央部が1.0で両端は0であり、その平均値は2/π=0.63662である。今、ステータの軟磁性体の電磁鋼板の最大磁束密度Bstm=2.0[T]で、ロータ磁極の最大磁束密度がBagm=2.0[T]の単純化したモータモデルについて考えてみる。もし、ステータ磁極のエアギャップ面の円周方向幅θstgが電気角で180[°]の場合で、図8の正弦波状の磁束密度Bの分布でその最大値が2.0[T]であると仮定する。そのステータ磁極の歯の磁束通過部の幅θstには、磁束密度2.0[T]で180[°]×0.63662に相当する磁束が通過することになり、θst=180×0.63662=114.6[°]となる。従って、両端の歯で形成されるスロット幅θssは(180−114.6)=65.4[°]となり、ステータの円周方向のスロットの比率としては36.34[%]である。
これに比較して、図34、図35の従来モータの場合に、磁束密度Bの最大値が2.0[T]の正弦波分布の場合を考える。θstgは120[°]=(2π/3)で、通過磁束の最大値は図8の正弦波の30[°]から150[°]の範囲の磁束であり、その平均値は(2×cos30°)/(2π/3)=0.827となる。θst=120×0.827=99.24[°]となる。スロット幅θssは(120−99.24)=20.76[°]となり、ステータの円周方向のスロットの比率としては17.3[%]である。約1/2の比率に低下する。
また、3相、正弦波交流、2極の全節巻き、12スロット、12歯、分布数2の普通のモータについて考える。θstgは30[°]の(π/6)で、通過磁束の最大値は図8の正弦波の75[°]から105[°]の範囲の磁束であり、その平均値は(2×cos75°)/(π/6)=0.9886となる。各歯のθst=30×0.9886=29.66[°]となる。スロット幅θssは(30−29.66)=0.34[°]となり、ステータの円周方向のスロットの比率としては1.13[%]である。小さな値であり、ロータ磁極両端の低磁束密度領域を活用するという観点では、何とももったいない話である。もっとも、エアギャプ部換算で、磁気装荷98.886[%]、電気装荷1.13[%]であり、従来モータ常識では問題外の領域ではある。図8の正弦波状の磁束密度分布における単純計算で、Bが1.0に満たない領域である(1−2/π)=0.363の36.3%のステータスペースが活用できていないと見ることができる。
第3の理由は、図8のロータ磁極の分布に示す、0から180[°]の間の磁束密度の低い領域の活用だけでなく、円周方向の両隣のロータ磁極の磁束密度が低い領域まで活用することである。これは従来モータの問題点ではないが、本発明モータではステータ磁極のピッチθspを210[°]にするなど180[°]以上の値として、両隣のロータ磁極の磁束密度が低い領域もスロット幅θssの拡大のため活用している。例えば、図1の本発明モータの例では図2の(e)に示す様に、ロータ磁極幅θrt=154.29[°]、低磁束密度領域の幅θou=25.71[°]の場合で、ステータ磁極のピッチθsp=θrt+2×θou=205.71[°]として、両隣のロータ磁極領域も活用している。2倍のθouを活用できるので、スロット幅θssを大きくできる。なお、図2の(e)の縦軸は磁束密度Bの絶対値を示している。なお前記の様に、θspを180[°]以上とする理由の一つは、分数スロットのモータとして、各ステータ磁極のそれぞれの相対的な位相を作り出すための条件でもある。
第4の理由は、本発明モータのロータ磁極の磁束密度の分布形状が正弦波状ではなく、トルク増大のため矩形波に近いような略台形形状としていることである。そして、ロータ磁極の最大磁束密度がBagmがステータ磁極の軟磁性体の最大磁束密度Bstmに近づくと、(12)式に示す様に、スロット幅θssは低磁束密度領域の幅θouに依存せざるを得ない。なお、トルクの増加だけを考えるとロータ磁極の磁束分布は矩形波でθrt=180[°]が有利であるが、電流制御における電流の反転、急変などの観点からもθrtを少し縮小でき、(8)式のように、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmを低下させずに低磁束密度領域の幅θouを作り出せる。
次に、図4の(a)、(b)の各部形状、名称について説明する。図3の(a)、(b)の1例である。41はステータであり、42は第1相のステータ磁極、43は42に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極48は42に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図4の紙面で右方向がロータ回転のCCWで、正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極42の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。44はロータである。45はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は45の円周方向中心位置とし、図4の紙面でCCW方向の回転を正とする。46は2番目のロータ磁極である。45はS極の永久磁石、46はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。各ロータ磁極の永久磁石の境界部は空間としている。モータの全体構成は特定しておらず、各種のモータ構成に適用できるように、一般化している。ステータ磁極の円周方向のピッチθsp、ステータ磁極の磁束が通過する歯の部分の角度幅θst、スロットの円周方向の幅θssとしている。ロータの各永久磁石の円周方向幅θrt、各永久磁石間の空間部の円周方向幅θouとしている。
次に、図4の(c)、(d)、(e)の特性について説明する。ロータ磁極の磁極幅θrtを150[°]に固定した正と負の矩形波とし、ステータ磁極ピッチθspを195[°]、210[°]、225[°]に可変した場合の各誘起電圧波形を示す。なお、(8)、(9)、(10)式に沿った値としては、ロータ磁極の磁極幅θrt=150[°]の場合、磁束密度の小さい部分の円周方向幅θou=30[°]となり、該当するステータ磁極ピッチθsp=210[°]となる。図3の(d)の特性が該当する。しかし、(8)、(9)、(10)式に合理性はあるものの、必然性はなく、θouとθrtの値をある程度自由に選択することができる。図4の(c)、(e)は、(9)式から外れる場合の特性例である。また、図1、図2、及び、図4の(c)、(d)、(e)では、磁束密度の小さい部分のθouの領域の磁束密度Bを0とする例を説明しているが、図5、図6、図26等に示す様に、θouの領域の磁束密度Bの分布状態も各種値に選択できる。
図4の(c)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=195[°]の特性である。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。また、ロータ回転位置θ=0[°]の時のエアギャップ部、および、ステータ各部の磁束密度の分布でもある。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極42に巻回した集中巻き巻線43の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線43の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、ステータ磁極の円周方向のピッチθsp=195[°]と全節巻きの180[°]に近いので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状に近い特性となっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は135[°]である。誘起電圧Vの全体形状は階段状であり、少し平滑すると略台形形状の交流電圧波形である。
図4の(d)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=210[°]の特性である。(8)、(9)、(10)式の関係に合致する構成である。破線の磁束密度分布は、前記の図4の(c)と同じである。一点鎖線は、集中巻き巻線43の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線43の誘起電圧Vであり、ステータ磁極42の幅θsp=210[°]に広くなっているので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状から変化が大きくなっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は120[°]に減少している。誘起電圧Vの全体形状は図4の(c)より少しゆるやかな階段形状である。少し平滑すると略台形形状とも言える。
図4の(e)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=225[°]の特性である。破線の磁束密度分布は、前記の図4の(c)と同じである。一点鎖線は、集中巻き巻線43の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線43の誘起電圧Vであり、ステータ磁極42の幅θsp=225[°]にさらに広くなっているので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状から変化が大きくなっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は105[°]へさらに減少している。誘起電圧Vの全体形状は図4の(d)よりさらにゆるやかな階段形状である。少し平滑すると略台形形状とも言える。
以上、図4では、ロータ磁極の磁極幅θrtを150[°]に固定し、ステータ磁極ピッチθspを195[°]、210[°]、225[°]に可変した場合の各誘起電圧波形の変化具合を示した。このように、ステータ磁極ピッチθspを可変することができる。また、各誘起電圧波形が変化するだけでなく、スロットの円周方向の幅θssも変化する。また、ロータ磁極の磁極幅θrtを固定値とし、誘起電圧の平均値とスロットの円周方向の幅θssを図8のようにグラフ化して示すこともでき、用途により適したパラメータを選択できる。
次に、図5の(a)、(b)の各部形状、名称について説明する。図4に類似している。51はステータであり、52は第1相のステータ磁極、53は52に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極58は52に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図5の紙面で右方向がロータ回転のCCWで、正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極52の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。54はロータである。55はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は55の円周方向中心位置とし、図5の紙面でCCW方向の回転を正とする。56は2番目のロータ磁極である。55はS極の永久磁石、56はN極の永久磁石、5DはN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。これらの永久磁石表面の磁束密度Bは一定値である。5Bは永久磁石で、円周方向に隣接するS極の永久磁石55からN極の永久磁石56にかけて徐々に磁束密度Bが変化する特性である。5A、5Cも同様の永久磁石である。
次に、図5の(c)、(d)、(e)の特性について説明する。ロータの前記永久磁石構成の結果、図5の(c)の破線で示す磁束密度Bの分布となる。図5の(d)、(e)の破線で示す磁束密度Bの分布も同様の特性である。図4の矩形状で階段状の磁束密度Bの分布とは異なり、正と負の台形状の分布形状である。
図5の(c)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=195[°]の特性である。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。また、ロータ回転位置θ=0[°]の時のエアギャップ部、および、ステータ各部の磁束密度の分布でもある。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極52に巻回した集中巻き巻線53の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線53の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、ステータ磁極の円周方向のピッチθsp=195[°]と全節巻きの180[°]に近いので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状に近い特性となっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は135[°]である。そして、誘起電圧Vが正から負へ変化する部分、及び、負から正へ変化する部分の電圧波形の形状が図4の(c)の特性と異なる。
図5の(d)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=210[°]の特性である。破線の磁束密度分布は、前記の図5の(c)と同じである。一点鎖線は、集中巻き巻線53の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線53の誘起電圧Vであり、ステータ磁極52の幅θsp=210[°]に広くなっているので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状から変化が大きくなっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は120[°]に減少している。そして、誘起電圧Vが正から負へ変化する部分、及び、負から正へ変化する部分の電圧波形の形状が図4の(d)の特性と異なる。
図5の(e)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=225[°]の特性である。破線の磁束密度分布は、前記の図5の(c)と同じである。一点鎖線は、集中巻き巻線53の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線53の誘起電圧Vであり、ステータ磁極52の幅θsp=225[°]にさらに広くなっているので、ロータ磁極の永久磁石幅θrt=150[°]の磁束分布の形状から変化が大きくなっている。誘起電圧V=1.0の円周方向幅は105[°]へさらに減少している。そして、誘起電圧Vが正から負へ変化する部分、及び、負から正へ変化する部分の電圧波形の形状が図4の(e)の特性と異なる。
以上、図5では、ロータ磁極の磁束密度分布を台形状に固定し、ステータ磁極ピッチθspを195[°]、210[°]、225[°]に可変した場合の各誘起電圧波形の変化具合を示した。このように、ステータ磁極ピッチθspを可変することができる。また、各誘起電圧波形が変化するだけでなく、スロットの円周方向の幅θssも変化する。また、ロータ磁極の磁極幅θrtを固定値とし、誘起電圧の平均値とスロットの円周方向の幅θssを図8のようにグラフ化して示すこともでき、用途により適したパラメータを選択できる。
次に、図6の(a)、(b)の各部形状、名称について説明する。図5に類似している。61はステータであり、62は第1相のステータ磁極、63は62に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極68は62に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。64はロータである。65はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は65の円周方向中心位置とし、図6の紙面でCCW方向の回転を正とする。66は2番目のロータ磁極である。65はS極の永久磁石、66はN極の永久磁石、6DはN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。これらの永久磁石表面の磁束密度Bは、2.0[T]に近い大きな値を想定していて、表面全域の磁束密度Bが一定値である。6Bは永久磁石で、円周方向に隣接するS極の永久磁石65からN極の永久磁石66にかけて徐々に磁束密度Bが変化する特性である。6A、6Cも同様の永久磁石である。
次に、図6の(c)の特性について説明する。集中巻き線のピッチが電磁気的に180[°]である。図6の(c)は、θrt=150[°]、θou=30[°]、θsp=180[°]の特性である。破線はロータ磁極の磁束密度Bの分布であり、磁束密度Bの振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極62に巻回した集中巻き巻線63の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線63の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。図6の(c)は、θsp=180[°]なので、集中巻き巻線63が全節巻きとなっていて、磁束密度Bの分布波形と誘起電圧Vとが同じ、相似の波形となる構成である。しかし、この例では、隣接する隣のステータ磁極も同相になり、多相の分数スロットのモータを構成できない。電磁気的特性を説明するため、参考に示した。また、θouの2倍のスペースをスロットの円周方向幅θssに活用できない例でもある。
次に、図6の(d)の特性について説明する。各ロータ磁極の磁束密度Bが2.0[T]近傍で、かつ矩形波の極端な例である。図6の(d)は、θrt=180[°]、θou=0[°]、θsp=210[°]の特性である。破線はロータ磁極の磁束密度Bの分布であり、磁束密度Bの振幅は1.0に正規化している。θrt=180[°]なので、磁束密度Bの分布は完全に矩形波形状の例である。一点鎖線は、第1相のステータ磁極62に巻回した集中巻き巻線63の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線63の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。この特性において、誘起電圧Vが1.0となる円周方向幅は150[°]であり、優れた電圧特性である。しかし、ロータ磁極表面が2.0[T]に近い、大きなの磁束密度Bを想定すると、ステータ巻線63の鎖交磁束が最大となる近傍では、ステータ磁極内の歯先近傍で相殺する磁束が増加する。また、実線で示す誘起電圧の変化率が大きく、高速回転での電流の制御性の問題がある。
次に、図6の(e)の特性について説明する。スロットの円周方向幅θssを大きくでき、巻線量を多くできるモータ構成の例である。図6の(e)は、θrt=135[°]、θou=45[°]、θsp=225[°]の特性である。破線はロータ磁極の磁束密度Bの分布であり、θssを大きくするため少し縮小している。磁束密度Bの振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極62に巻回した集中巻き巻線63の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線63の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。この特性において、誘起電圧Vが1.0となる円周方向幅は90[°]に縮小している。ロータの最大磁束密度が1.8[T]の場合、(12)式より、スロットの円周方向幅θssは103.5[°]と大きな値となる。そして、集中巻き巻線の量を増加できる。
次に、請求項1の他の実施例のモータ横断面図を図9に示す。91はステータ、94はロータ、97はロータ軸である。ステータ磁極の数は5個で、ロータ磁極の数は6極であり、本発明の呼称方法では5S6Rのモータ構成である。92は第1相のステータ磁極、93は92に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極98は92に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図9の紙面でCCWを正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極92の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。95はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は95の円周方向中心位置とし、図9の紙面でCCW方向の回転を正方向とする。96は2番目のロータ磁極である。95はS極の永久磁石、96はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。
次に図10の構成について説明する。図10は、図9に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。、図9のモータの一部を示していて、図10の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図10の紙面の右方向は、図9の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図10の(a)の101はステータで、図10の(b)の104はロータである。102は、図9の92に相当し、第1相ステータ磁極である。ステータ磁極108は102に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。103は第1相のステータ磁極102に巻回する集中巻き巻線である。105は、図9の95に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。106はN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、6極なので電気角で360×3=1080[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1080/5=216[°]である。各永久磁石の円周方向幅θrtは電気角で180−(216−180)=144[°]である。各永久磁石間の凹状の空間部で、磁束密度の小さい部分の円周方向幅θouは36[°]である。ステータ磁極22のエアギャップに面する部分の円周方向幅θstgは、ステータ磁極の円周方向のピッチθspと同じ216[°]である。なお、ここで、各スロット開口部の円周方向幅は0[°]として理想化、モデル化し、仮定している。
次に、第1相のステータ磁極102の歯幅θst、スロットの円周方向の角度幅θssを、(6)、(8)、(12)式に従って、計算する。ロータ磁極の永久磁石の表面磁束密度の最大値Bagmを大きい値で、1.8[T]とし、永久磁石の円周方向幅θrtの間の磁束密度を均一と仮定する。各ステータ磁極に使用する電磁鋼板の最大磁束密度Bstmが2.0[T]であると仮定する。
θrt=180−θou=144
θst=θrt×Bagm/Bstm=144×1.8/2.0=129.6
θss=θsp−θst
=2×θou+θrt×(1−Bagm/Bstm)=86.4
次に、図10の(c)に示す、前記条件の特性を説明する。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極102に巻回した集中巻き巻線103の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線103の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、7S8Rの図2の(c)ではV=1.0の幅が128[°]であったのに対し、図10の(c)の5S6Rのモータ構成ではV=1.0の幅が108[°]に減少し、電圧が減少した。モータ構成の違いが特性の差に表れている。
次に、図10の(d)に、ロータ磁極の境界部の磁束密度分布を台形状に変更した例の特性を示す。破線が磁束密度Bの分布である。図10の(e)に磁束密度Bの絶対値を示している。実線は図10の(c)の磁束密度Bの絶対値で、破線は図10の(d)の磁束密度Bの絶対値である。一点鎖線は、第1相のステータ磁極102に巻回した集中巻き巻線103の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線103の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。電圧Vが1.0となる領域の幅は、図10の(c)と同じ108[°]である。電圧Vの傾斜部の特性が変わっていて、図10の(c)の階段状の電圧Vに対して、図10の(d)では台形形状に変わっている。図10の(c)と(d)では、磁束分布を理想化してモデル的に説明しているが、現実のモータではロータ磁極の境界部などでは漏れ磁束などが発生し、磁石特性も変化するので、図10の(c)の特性は図10の(d)へ近づいた特性になる。
次に、請求項2について説明する。請求項2は、ロータの円周方向の磁極境界部に備える磁束密度の低い低磁束領域ROUを備え、各相の集中巻き巻線WSの誘起電圧が略台形形状の電圧で、略台形形状の電流を通電するモータとその制御装置である。その具体例を図1から図6にそのいくつかの例を示した。ロータ磁極の磁束密度Bの分布例と、集中巻き巻線に誘起する誘起電圧Vと、集中巻き巻線に通電する電流Iである。トルク増加の効果についても説明した。なお、誘起電圧Vの波形と電流Iの波形とが比例関係である必要はなく、同一波形である必要はない。
次に、請求項3について説明する。請求項3のモータの基本構成として、図3の(c)、(d)の構成について説明する。図3の(a)、(b)と対比して、比較して示しており、(c)、(d)ではバイパス磁路PBPである3J、3K、3Lを追加している。本発明で対象としている分数スロットのモータでは、ステータ磁極PSの数NSとロータ磁極PRの数NRの多くの組み合わせがある。その中で、例えば、図7の矢印で示した範囲に入る場合には、ロータ磁極の磁束密度が大きくなった場合においても、θrtとθssを実用的な特性の組み合わせとすることができる。しかし、図7の紙面の右側のステータ磁極ピッチθspが大きくなる領域では、実効的なロータ磁極幅θrtが小さな値となり、即ち、巻線の鎖交磁束最大値が小さくなり、トルクが低下する問題がある。例えば、図7において、ステータ磁極ピッチθspが220[°]以上になると、ステータ磁極に対向する円周方向幅が大きくなり過ぎるため、実効的なロータ磁極幅θrtが次第に小さくなり、モータ特性が低下する問題がある。図3の(c)、(d)の構成は、この様な領域、組み合わせのモータにおいて、過剰な円周方向幅のロータ磁束がステータ磁極に作用しないようにし、良好な電圧特性、トルク特性が得られるモータ構成である。また、常に、最適な電圧特性、トルク特性とする方法でもある。
図3の(c)、(d)において、3Bは第1相のステータ磁極、3Cは3Bに巻回した集中巻き巻線である。3Hはステータ磁極で、その他の相のステータ磁極も円周方向に配置し、各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。各ステータ磁極の間にバイパス磁路PBPである3J、3K、3Lを追加している。第1相のステータ磁極3Bの円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とし、CCWを正方向とする。3Eはロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は3Eの円周方向中心位置とし、図3の紙面でCCW方向の回転を正とする。3Fは2番目のロータ磁極である。3EはS極の永久磁石、3FはN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。各ロータ磁極の永久磁石の境界部は空間としている。この境界部は、前記の図10の(d)、(e)に示したような台形状の磁束分布の様に変更することもできる。
前記バイパス磁路PBPの円周方向幅はθbpであり、請求項3のθbpの定義は(θsp−185°)より小さい範囲とする。
θbp≦θsp−185° (14)
バイパス磁路PBPの機能は、ロータに対向する部分の過剰で、不要な磁束φbpをステータのバックヨーク側へ通過させることである。この磁束φbpは各相巻線とは鎖交しておらず、原理的にはトルクを発生しない。但し、現実には、磁気抵抗差などに起因するリラクタンストルクなどは発生する。
ステータ磁極の円周方向ピッチはθspであるが、特に、ステータ磁極のエアギャップ面の円周方向幅をθstgとする。
図3の(c)に図示するように、各スロットの中央部にバイパス磁路PBPを配置するので、スロットが円周方向に分割された形状となり、スロットの円周方向幅θssの定義が変わる。ステータ磁極の磁束通過部の歯からバイパス磁路PBPの磁束通過部までの角度幅をθss/2とする。
図3の(d)のロータ側のパラメータθrt、θouは、図3の(a)、(b)の(8)式と同じで、次式である。
θrt+θou=180
図3の(c)、(d)の各パラメータの関係は、(a)、(b)の場合とは、図示するように異なり、次式となる。
θsp=θstg+θbp (15)
θstg=180+θou (16)
=θrt+2×θou (17)
ステータ磁極の歯幅θstは(6)式と同じで次式となる。
θrt×Bagm=θst×Bstm
バイパス磁路の磁束通過部の歯幅θbptは次式となる。
θbpt=θbp×Bagm/Bstm (18)
(18)式でバイパス磁路PBPの磁束通過部の歯幅θbptはBagmの値により小さくなる。スロットの円周方向幅θssは、図3の(c)、(d)より次式となる。
θss=θsp−θst−θbpt (19)
また、ロータ磁極の磁束密度Bagm、ステータの歯の最大磁束密度Bstmで表現すると、両磁束密度に影響されるので、(20)式へ(6)を代入して次式となる。
θss=θsp−θrt×Bagm/Bstm−θbp×Bagm/Bstm (20)
ロータ磁極の磁束密度Bagmが小さくなれば、スロット円周方向幅θssが拡大する関係である。但し、(16)、(17)式の条件であり、θstgとθouとの値の関係には自由度があるので、θstgの値を(16)式とは異なる値にする場合はこれらの式も変わる。
次に、請求項3の実施例として、図13、図14を説明する。その前に、図13、図14へ変形する前の図11、図12を説明し、その問題点を明らかにする。図11は、請求項3を適用する前のモータ横断面図である。111はステータ、114はロータ、117はロータ軸である。ステータ磁極PSの数は4個で、ロータ磁極PRの数は6極であり、本発明の呼称方法では4S6Rのモータ構成である。112は第1相のステータ磁極、113は112に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極118は112に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図11の紙面でロータ回転のCCWを正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極112の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。115はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は115の円周方向中心位置とし、図11の紙面でCCW方向の回転を正とする。116は2番目のロータ磁極である。115はS極の永久磁石、116はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。図1、図9等と異なり、永久磁石115と116の間の空間部、あるいは、磁束密度Bの低い領域は無く、永久磁石115と116の表面の磁束密度Bが一定値の例である。
次に図12の構成について説明する。図12は、図11に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。、図11のモータの一部を示していて、図12の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図12の紙面の右方向は、図11の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図12の(a)の121はステータで、図12の(b)の124はロータである。122は、図11の112に相当し、第1相ステータ磁極である。ステータ磁極128は122に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。123は第1相のステータ磁極122に巻回する集中巻き巻線である。125は、図11の115に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。126、12DはN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、6極なので電気角で360×3=1080[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1080/4=270[°]である。θspの値が大きいので、図12の(b)のロータ回転位置θ=0[°]では、ステータ磁極122の歯の中でN極磁極126、12Dの磁束の一部がS極磁極125の磁束と循環し、歯内で相殺する。その結果、集中巻き線123へ有効に作用する鎖交磁束の最大値は、電気角で180−(270−180)=90[°]の幅の磁束である。大幅に低下し、トルクも減少する問題がある。また、前記循環磁束、相殺磁束は、歯内を局所的に磁気飽和させる作用もあり、その意味では有害であり、問題である。
次に、図12の(c)に、図12の(a)、(b)のモータ構成の誘起電圧波形などの具体的な特性を示す。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。矩形状で、ロータ磁極幅θrtは電気角で180[°]の幅である。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極122に巻回した集中巻き巻線123の鎖交磁束φである。S極とN極の磁束の一部は122の歯内で循環、相殺されるので、その磁束φの最大値は90で、ロータ角度幅で90[°]にしかならない。実線は、集中巻き巻線123の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、図1の7S8Rのモータ構成で図2の(c)の特性ではV=1.0の幅が128[°]の大きさでであったが、図11、図12の(c)の4S6Rのモータ構成ではV=1.0の幅が90[°]に減少し、平均電圧が減少した。トルクも低下する。モータ構成の違いがモータ出力特性の差に表れている。
次に、図12の(d)の例について説明する。図12の(c)の矩形波の磁束密度の分布に比較して、図12の(d)の磁束密度Bの分布は図示するようにS、N極永久磁石の境界部が台形状に変化する磁束密度分布である。台形形状は、増加部15[°]、平坦部150[°]、減少部15[°]形状で、N極の正とS極の負とが交互に分布している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極122に巻回した集中巻き巻線123の鎖交磁束φである。S極とN極の磁束の一部は122の歯内で循環、相殺されるので、その磁束φの最大値は90であり、図12の(c)と同じ値である。実線は、集中巻き巻線123の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の幅が60[°]に減少し、台形状となる。図12の(c)の矩形波から図12の(d)の台形波に変化する。
以上示したように、図11、図12の(a)、(b)のモータ構成はステータ磁極ピッチθspが270[°]と大きいので、隣のロータ磁極の磁束がステータ磁極内で循環、相殺することになり、磁束の一部が有効に作用しない。その結果、誘起電圧が低下し、トルクが低下する問題が発生する。また、前記の様に、歯内の循環磁束、相殺磁束が大きくなると、局所的に磁気飽和させる作用もあり、トルクリップルが増加するなど有害で、問題である。
次に、請求項3の実施例として、図13のモータ横断面図を示し、説明する。図11、図12の問題を解消し、モータの出力トルクを増大する。131はステータ、134はロータ、137はロータ軸である。ステータ磁極の数は4個で、ロータ磁極の数は6極であり、本発明の呼称方法では4S6Rのモータ構成である。図13のモータ構成では、13F、13Eで示すバイパス磁路PBPを、特別に、各ステータ磁極の間に追加している。このバイパス磁路PBPは、不要で有害な磁束成分をロータとステータとの間に通過し、図11、図12の前記問題を解消し、モータのトルク特性を改善する。バイパス磁路PBPの13F、13Eには巻線を巻回していない。
132は第1相のステータ磁極、133は132に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極138は132に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図13の紙面でロータ回転のCCWを正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極132の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。135はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は135の円周方向中心位置とし、図13の紙面でCCW方向の回転を正とする。136は2番目のロータ磁極である。135はS極の永久磁石、136はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。久磁石135と136の間の空間部、あるいは、磁束密度の低い領域を設けている。135と136の表面の磁束密度は一定値である。
次に図14の構成について説明する。図14は、図13に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。、図13のモータの一部を示していて、図14の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図14の紙面の右方向は、図13の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図14の(a)の141はステータで、図14の(b)の144はロータである。142は、図13の132に相当し、第1相ステータ磁極である。ステータ磁極148は142に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。143は第1相のステータ磁極142に巻回する集中巻き巻線である。145は、図13の135に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。146、14DはN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、6極なので電気角で360×3=1080[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1080/4=270[°]である。バイパス磁路PBPの13F、13Eの円周方向幅θbpは60[°]の例である。図14の(c)の特性は、ロータの各永久磁石の円周方向幅θrtが150[°]で、各永久磁石の境界部は空間でその円周方向幅θouは30[°]の例である。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極142に巻回した集中巻き巻線143の鎖交磁束φであり、その最大値は150である。実線は、集中巻き巻線143の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は120[°]であり、その両サイドは階段状の電圧になっていて、階段形状を少し平滑すると略台形形状の交流電圧波形である。図12の(c)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が10/6=1.67倍に増加している。また、図14の(c)の特性は、比較的良好なモータモデルとして先に示した、図4の(d)の特性と全く同じである。図14のモータはステータ磁極ピッチθsp=270[°]であるが、ステータ磁極ピッチθsp=210[°]の図4の(d)の特性を得たことになる。
次に、図14の(d)の特性は、図14の(c)に比較して、破線で示す磁束密度Bの分布を台形状にした例である。増加部が15[°]、平坦部150[°]、減少部15[°]の台形で正と負が交互の磁束である。一点鎖線は、第1相のステータ磁極142に巻回した集中巻き巻線143の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線143の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は120[°]であり、その両サイドは一定勾配の台形状電圧である。図12の(d)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が10/6=1.67倍に増加している。また、図14の(c)の特性は、比較的良好なモータモデルとして先に示した図5の(d)の特性と全く同じである。図14のモータはステータ磁極ピッチθsp=270[°]であるが、ステータ磁極ピッチθsp=210[°]の図5の(d)の特性を得たことになる。
次に、図14の(e)の特性例について説明する。破線で示す様に、磁束を図14の(d)より増加するために、磁束密度Bの分布を増加部が7.5[°]、平坦部165[°]、減少部7.5[°]の台形形状としている。(8)式で、θrt=165[°]、θou=15[°]に相当する。ステータ磁極のエアギャップ部に面した歯先の円周方向幅θstgは(16)式の関係として195[°]としている。バイパス磁路の歯先の円周方向幅θbpは、(15)式で、75[°]である。
図14の(e)の一点鎖線は、第1相のステータ磁極142に巻回した集中巻き巻線143の鎖交磁束φであり、その最大値は165である。実線は、集中巻き巻線143の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は150[°]であり、その両サイドは一定勾配の台形状電圧である。図12の(d)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が11/6=1.83倍に増加している。
但し、(19)、(20)式の関係であり、図14の(e)のロータ磁極の最大磁束密度Bagmがステータ磁極の最大磁束密度Bstmに近い、大きな値である場合は、スロットの円周方向幅θssが小さな値となり、巻回できる巻線の量が少なくなり、結果としてトルクが低下する問題がある。例えば、BagmとBstmが2.0[T]の場合には、(20)式より、θss=30[°]と小さな値になる。また、Bagm=1.7[T]とBstm=2.0[T]の場合には、(20)式より、θss=66[°]となり、巻線量が増加して実用的な値になる。この様に、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmがステータ磁極の最大磁束密度Bstmより少し小さめであれば、図14の(e)のようにロータ磁極幅θrtを極限近くまで増加しても、スロットの円周方向幅θssをある程度確保することができる。
以上、図13、図14に示したように、ステータ磁極のピッチθspが大きいモータ構成の場合に、バイパス磁路PBPを追加し、ステータ磁極のエアギャップに面した歯先の円周方向幅θstgを最適な値とすることができる。前記の様に、モータの誘起電圧特性は、θstgとロータ磁極の磁束密度Bの分布で自在に得ることが可能である。勿論、バイパス磁路PBPはトルクを発生しないので、各ステータ巻線の誘起電圧特性が最適で、バイパス磁路PBPの円周方向幅θbpが小さめの条件がより好ましい。なお、バイパス磁路PBPを巻線巻回後に取り付けられるモータ構成とする場合には、巻線を巻回する時にバイパス磁路PBPのスペースを巻線巻回時の自由スペースとして活用できるので、巻線製作の生産性を改善できる。
次に、図15に、図13、図14のモータのトルクリップルの問題について説明する。図13、図14の4S6Rのモータは、機械角で180[°]反対ら和のステータ磁極と対象の構成なので、第1相と第2相の2相電流で制御できる。その場合、図14に示した誘起電圧に対して、例えば、同一波形の台形形状の電流を通電すると、大きなトルクリップルが発生する。相数が2相と少なく、正弦波ではないので、理論的にトルクリップルが発生する。永久磁石で構成するモータの誘起電圧特性は、モータ運転時に可変できる範囲は限定されるが、モータ電流の波形はその駆動回路により自在に制御が可能である。
図15にトルクリップル対応の例を示す。まず、図13、図14の4S6Rのモータで、最大トルクの1/2以下のトルク領域を制御する場合について、その例を説明する。今、第1相の巻線の誘起電圧が図14の(e)で、第2相の巻線の誘起電圧はその位相が図14の(e)より電気角で90[°]遅れていると仮定する。第1相の誘起電圧である図14の(e)の実線は、θが15[°]から165[°]までの間は誘起電圧が1.0で、195[°]から345[°]までの間は−1である。第1相の巻線の電流を図15の(a)に示す、θが25[°]から65[°]までの間と、θが205[°]から355[°]までの間に台形の電流波形として通電すれば、その間の誘起電圧は+1と−1の一定値なので、その発生トルクは図15の(c)となる。他方、第2相の巻線の誘起電圧が図14の(e)に対して位相が電気角で90[°]遅れているとするので、θが105[°]から255[°]までの間は誘起電圧が1.0で、285[°]から435[°]までの間は−1である。第2相の巻線の電流を図15の(b)に示す、θが115[°]から155[°]までの間と、θが295[°]から4455[°]までの間に台形の電流波形として通電すれば、その間の誘起電圧は+1と−1の一定値なので、その発生トルクは図15の(d)となる。その結果、第1相と第2相の合計トルクは、図15の(e)の一定値となる。単純理論的にはトルクリップルを0にできので、振動、騒音が小さく静粛なモータ駆動を実現できる。
また、他方、図13、図14の4S6Rのモータで、駆動回路のトランジスタの最大電流で駆動するような、大きなトルク領域を制御する場合について、その例を説明する。この場合には、図15の(a)、(b)の様に電流を制約できないので、第1相の電流波形は、図14の(e)の実線のような台形波状の電流にせざるを得ない。そして、トルクは図14の(f)のような形状のトルクとなる。同様に、第2相の電流波形は、第1相の電流波形より位相が90[°]遅れていて、第2相のトルクは図14の(g)のような形状のトルクとなる。何れも正規化して示していて、その最大値を1.0として示している。第1相と第2相の合計トルクは、図14の(h)のような形状のトルクとなる。この時、トルクリップルは50%となり大きな値となる。しかし、図13、図14の4S6Rのモータは、2組の電流で制御できるので駆動装置が簡単になり、低コストであるという大きな特徴がある。そして、低トルク時は振動、騒音が小さく静粛であれば、ある程度の回転数以上の領域で大トルク時にトルクリップルが大きくなってもかまわないという用途は少なくない。
次に、請求項3の他の例を図18、図19に示す。ステータ磁極PSの数は6個でロータ磁極PRは8極であり、本発明の呼称方法では6S8Rのモータ構成である。図13の構成と同様に、バイパス磁路PBPを各ステータ磁極の間に設ける構成である。図18のモータ構成は3相の電圧、電流となる。
図18、図19の説明の前に、バイパス磁路PBPを追加していない6S8Rのモータ構成を図16、図17に示し、その特性と問題点について説明する。図16は、請求項3を適用する前のモータ横断面図である。161はステータ、164はロータ、167はロータ軸である。ステータ磁極PSの数は6個で、ロータ磁極PRの数は8極であり、本発明の呼称方法では6S8Rのモータ構成である。162は第1相のステータ磁極、163は162に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極168は162に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図16の紙面でロータ回転のCCWを正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極162の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。165はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は165の円周方向中心位置とし、図16の紙面でCCW方向の回転を正とする。166は2番目のロータ磁極である。165はS極の永久磁石、166はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。各永久磁石の間に空間部を設けている。また、永久磁石165と166の表面の磁束密度Bが一定値の例である。
次に図17の構成について説明する。図17は、図16に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。、図16のモータの一部を示していて、図17の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図17の紙面の右方向は、図16の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図17の(a)の171はステータで、図17の(b)の174はロータである。172は、図16の162に相当し、第1相ステータ磁極である。ステータ磁極178は172に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。173は第1相のステータ磁極172に巻回する集中巻き巻線である。175は、図11の115に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。176、17DはN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、8極なので電気角で360×4=1440[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1440/6=240[°]である。θspの値がやや大きく、図12の(b)のロータ回転位置θ=0[°]では、ステータ磁極122の歯の中でN極磁極126、12Dの磁束の一部がS極磁極125の磁束と循環し、歯内で相殺する。その結果、集中巻き線123へ有効に作用する鎖交磁束の最大値は、電気角で180−(240−180)=120[°]の幅の磁束である。ロータ磁極ピッチの180[°]に比較して大幅に低下し、トルクも減少する問題がある。また、前記循環磁束、相殺磁束は、歯内を局所的に磁気飽和させる作用もあり、その意味では有害であり、問題である。
次に、図17の(c)に、図17の(a)、(b)のモータ構成の誘起電圧波形などの具体的な特性を示す。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。矩形状で、ロータ磁極幅θrtは電気角で150[°]の幅である。磁束密度Bの振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極172に巻回した集中巻き巻線173の鎖交磁束φである。S極とN極の磁束の一部は172の歯内で循環、相殺されるので、その磁束φの最大値は120で、ロータ角度幅で120[°]にしかならない。実線は、集中巻き巻線173の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、図1の7S8Rのモータ構成で図2の(c)の特性ではV=1.0の幅が128[°]の大きさでであったが、図16、図17の(c)の6S8Rのモータ構成ではV=1.0の幅が90[°]に減少し、平均電圧が減少した。トルクも低下する。誘起電圧Vの波形は階段状になった。
次に、図17の(d)の例について説明する。図17の(c)の矩形波の磁束密度の分布に比較して、図17の(d)の磁束密度Bの分布は図示するようにS、N極永久磁石の境界部が台形状に変化する磁束密度分布である。台形形状は、増加部15[°]、平坦部150[°]、減少部15[°]形状で、N極の正とS極の負とが交互に分布している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極172に巻回した集中巻き巻線173の鎖交磁束φである。S極とN極の磁束の一部は172の歯内で循環、相殺されるので、その磁束φの最大値は120であり、図17の(c)と同じ値である。実線は、集中巻き巻線173の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の幅が90[°]に減少し、台形状となる。
以上示したように、図16、図17の(a)、(b)のモータ構成はステータ磁極ピッチθspが240[°]と大きいので、隣のロータ磁極の磁束がステータ磁極内で循環、相殺することになり、磁束の一部が有効に作用しない。その結果、誘起電圧が低下し、トルクが低下する問題が発生する。また、前記の様に、歯内の循環磁束、相殺磁束が大きくなると、局所的に磁気飽和させる作用もあり、トルクリップルが増加するなど有害で、問題である。
次に、請求項3の他の実施例として、図18のモータ横断面図を示し、説明する。図16、図17の問題を解消し、モータの出力トルクを増大する。181はステータ、184はロータ、187はロータ軸である。ステータ磁極の数は6個で、ロータ磁極の数は8極であり、本発明の呼称方法では6S8Rのモータ構成である。図18のモータ構成では、18F、18Eで示すバイパス磁路PBPを、特別に、各ステータ磁極の間に追加している。このバイパス磁路PBPは、不要で有害な磁束成分をロータとステータとの間に通過し、図11、図12の前記問題を解消し、モータのトルク特性を改善する。バイパス磁路PBPの18F、18Eには巻線を巻回していない。
182は第1相のステータ磁極、183は182に巻回した集中巻き巻線である。ステータ磁極188は182に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。図18の紙面でロータ回転のCCWを正方向とする。各相のステータ磁極に集中巻き巻線を巻回している。第1相のステータ磁極182の円周方向の中心位置を、モータの回転角θが0[°]の位置とする。185はロータの磁極の内、1番目のロータ磁極とし、ロータの始点は185の円周方向中心位置とし、図18の紙面でCCW方向の回転を正とする。186は2番目のロータ磁極である。185はS極の永久磁石、186はN極の永久磁石であり、円周方向にS極とN極を交互に配置する。久磁石185と186の間の空間部、あるいは、磁束密度の低い領域を設けている。185と186の表面の磁束密度は一定値である。
次に図19の構成について説明する。図19は、図18に示すモータの横断面を直線状に変形した展開図である。、図18のモータの一部を示していて、図19の(a)、(b)の左右の破線部の外側は省略している。図19の紙面の右方向は、図18の紙面の反時計回転方向CCWを示している。図19の(a)の191はステータで、図19の(b)の194はロータである。192は、図18の182に相当し、第1相ステータ磁極である。
ステータ磁極198は192に対し、ステータ磁極の円周方向ピッチθspの位相遅れの相である。193は第1相のステータ磁極192に巻回する集中巻き巻線である。195は、図18の185に相当し、S極磁極の永久磁石である。各永久磁石の円周方向ピッチは電気角で180[°]である。196、19DはN極磁極の永久磁石である。
モータ全周は、8極なので電気角で360×4=1440[°]であり、ステータ磁極の円周方向のピッチθspは1440/6=240[°]である。バイパス磁路PBPの19F、19Eの円周方向幅θbpは30[°]の例である。図19の(c)の特性は、ロータの各永久磁石の円周方向幅θrtが150[°]で、各永久磁石の境界部は空間でその円周方向幅θouは30[°]の例である。破線はロータ磁極の磁束密度の分布である。磁束密度の振幅は1.0に正規化している。一点鎖線は、第1相のステータ磁極192に巻回した集中巻き巻線193の鎖交磁束φであり、その最大値は150である。実線は、集中巻き巻線193の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は120[°]であり、その両サイドは階段状の電圧になっていて、階段形状を少し平滑すると略台形形状の交流電圧波形である。図17の(c)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が10/8=1.25倍に増加している。また、図19の(c)の特性は、比較的良好なモータモデルとして先に示した、図14の(c)と同じであり、また、図4の(d)の特性と同じである。図19のモータはステータ磁極ピッチθsp=240[°]であるが、ステータ磁極ピッチθsp=210[°]の図4の(d)の特性を得たことになる。
次に、図19の(d)の特性は、図19の(c)に比較して、破線で示す磁束密度Bの分布を台形状にした例である。増加部が15[°]、平坦部150[°]、減少部15[°]の台形で正と負が交互の磁束である。一点鎖線は、第1相のステータ磁極192に巻回した集中巻き巻線193の鎖交磁束φである。実線は、集中巻き巻線193の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は120[°]であり、その両サイドは一定勾配の台形状電圧である。図17の(d)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が10/8=1.25倍に増加している。また、図19の(d)の特性は、比較的良好なモータモデルとして先に示した図5の(d)の特性と全く同じである。図19のモータはステータ磁極ピッチθsp=270[°]であるが、ステータ磁極ピッチθsp=210[°]の図5の(d)の特性を得たことになる。
次に、図19の(e)の特性例について説明する。破線で示す様に、磁束を図19の(d)より増加するために、磁束密度Bの分布を増加部が7.5[°]、平坦部165[°]、減少部7.5[°]の台形形状としている。(8)式で、θrt=165[°]、θou=15[°]に相当する。ステータ磁極のエアギャップ部に面した歯先の円周方向幅θstgは(16)式の関係として195[°]としている。バイパス磁路の歯先の円周方向幅θbpは、(15)式で、45[°]である。
図19の(e)の一点鎖線は、第1相のステータ磁極192に巻回した集中巻き巻線193の鎖交磁束φであり、その最大値は165である。実線は、集中巻き巻線193の誘起電圧Vであり、振幅は1.0に正規化している。誘起電圧Vの形状は、V=1.0の円周方向幅は150[°]であり、その両サイドは一定勾配の台形状電圧である。図17の(d)のバイパス磁路PBPが無いモータの誘起電圧Vに比較して、平均電圧が11/8=1.375倍に増加している。
但し、図14の(e)の例で説明したように、(20)式より、スロットの円周方向幅θssとロータ磁極の磁束密度Bagmとがトレードオフの関係になっているので、ロータ磁極幅θrtがステータ磁極の最大磁束密度Bstmに近く、大きい時には、θssを確保できるように注意を要する。これらの4つのパラメータに相関関係がある。(15)式から(20)式の関係である。
以上、図14、図19に示したように、ステータ磁極ピッチθspが大きな値であっても、適正なバイパス磁路PBPを追加することにより、良好な誘起電圧特性が得られる。そしてモータトルクを大きくできる。即ち、用途ごとの求められるモータ特性に応じて、バイパス磁路PBPの幅θbpを自由に選択、設計し、同時に、ロータ磁束密度Bの分布を適正にすることにより、モータ特性に最適化できる。
次に、請求項4について説明する。本発明では、ステータ磁極数がNS3×NN3、ロータ磁極数NR3×NN3、NN3は正の整数とする時、NS3/(NR3/2)が既約分数となるような構成のモータを対象としている。そして、請求項4では、NS3が奇数の場合はNS3相の電流で制御するモータである。この時、NN3個の同相のモータ巻線を直列に接続し、NS3組のステータ巻線を構成し、それぞれのステータ巻線へNS3相の電流を通電する。また、NS3が偶数の場合は(NS3/2)相の電流で制御するモータである。この時、(NN3×2)個の同相および逆相のモータ巻線を直列に接続し、(NS3/2)組のステータ巻線を構成し、それぞれのステータ巻線へ(NS3/2)相の電流を通電する。なお、NS3/(NR3/2)が既約分数との前提なので、NS3が偶数の時に(NR3/2)は奇数であり、また、NS3と(NR3/2)との間にその他の約数も無い。
請求項4の目的は、モータのトルク向上することと、それに伴って増加するトルクリップルを低減することを両立させることである。図1、図9、図13、図18等に示した様に、モータトルクの増加には、ロータ磁極の磁束密度Bを大きくするここと、矩形形状にできるだけ近い台形形状の誘起電圧として台形形状の電流を通電することが効果的である。図21に、正弦波と台形波の電圧V、電流I、トルクTの例を、それぞれの値を正規化して振幅1.0で示している。一点鎖線は、正弦波交流の電圧波形であり、かつ、同じ波形形状の電流である。そして、二点鎖線はそれらの積でパワーであり、トルクに比例する。破線は、正弦波と同じ振幅の台形波交流の電圧波形と、同じ波形形状の電流であり、実線はそれらの積でトルクに比例する。但し、一定回転数の条件であり、抵抗損失、鉄損、摩擦損失、磁気エネルギーや運動エネルギーの蓄積エネルギーなどを無視する。図示するように台形波形は、増加部の幅が30[°]で、一定値の平坦部の幅が120[°]で、減少部の幅が30[°]の正と負の交流波形である。二点鎖線の正弦波電圧、電流の平均トルクを1.0とすると、実線の台形波の平均トルクは1.555となる。また、モータの各相の電圧、電流を台形波交流とするので、正弦波交流に比較して、各相のトルクが1.555倍のトルクを発生する。そして、モータの合計トルクは各相のトルク成分の総和である。
なお、台形の一定値の平坦部の幅が180[°]、即ち、完全に矩形波の場合のトルクは、同一振幅の正弦波駆動のトルクに比較して、理論値であるが2.0倍のトルクとなる。台形の一定値の平坦部の幅が150[°]、120[°]、90[°]、60[°]の形状の場合は、それぞれ、正弦波駆動に比較して、1.777、1.555、1.333、1.111倍のトルクとなる。台形の一定値の平坦部の幅が60[°]まで低下すると、正弦波比1.111倍のトルクであり、正弦波交流に近い値となる。
モータの銅損については、正弦波時の銅損に較べて、矩形波時の銅損は2倍になる。この時の両者を駆動するトランジスタの電流容量は、電圧、電流の振幅が同じなので、トランジスタも同じ電流容量である。ここで、矩形波である時の得失について、正弦波の場合と比較して、定性的に確認しておく。駆動回路のトランジスタの全電流容量が同じとする条件では、前記の様に、矩形波のトルクは2倍となり、モータ銅損も2倍になる。相対的に駆動回路を小型化できることになる。モータの銅損が同じ条件では、矩形波の電流振幅は(1/1.414)=0.707となるので、矩形波のトルクは1.414倍となり、矩形波の駆動回路のトランジスタの電流容量を0.707倍に小型化できる。なお、ここでは、電圧波形、電流波形の差について述べたが、その他に、後に示す、磁束密度の差、正弦波交流モータの巻線係数によるトルク減少効果の差があり、モータトルクの比較合計は、それらの比の積となる。なお、例えば電気自動車のモータ駆動では急登坂の運転で大きなトルクが必要であり、インバータのトランジスタの電流容量が低速回転、大トルクの運転モードで決められ、その様な用途は多い。また、モータの最大損失についても、低速回転、大トルクの運転モードで発生する用途は多い。これらは、モータシステム全体のコストに直接的に関わる。従って、矩形波に近い台形波駆動はこれらの観点でも有効である。
次に、巻線係数と磁束密度も加味した比較について説明する。図34に示す従来の12S8Rのモータでは、集中巻き巻線の電磁気的な巻線ピッチは電気角で120°であり、短節係数はcos30°=0.866、分布係数1で、巻線係数は0.866である。そして、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmは1.2[T]で、磁束の分布は正弦波分布であり、巻線の誘起電圧波形と電流波形は正弦波波形であるものとする。他方、比較する本発明モータのモータモデルを、図5の(a)、(b)、(d)で示した、増加部の幅が30[°]で、一定値の平坦部の幅が120[°]で、減少部の幅が30[°]の台形波の誘起電圧で、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmは1.8[T]と仮定する。図34のモータに較べて図5の(a)、(b)、(d)で示したモータのトルクの倍率は次のように2.693倍となる。波形の差、磁束密度の差、巻線係数の差である。
1.555×1.8/1.2×1/0.866=2.693
また、従来モータの巻線係数は、そのモータモデルにより差があるので、比較的巻線係数の大きい9S8Rの従来モータについても考えてみる。3相、正弦波の電圧、電流でロータ磁極の最大磁束密度Bagmは1.8[T]と仮定する。短節係数cos20°=0.940で、3個の巻線が直列接続されることになるので分布係数に相当する電圧減少係数は0.960であり、巻線係数は0.940×0.960=0.902となる。従って、同様に、本発明のトルクと比較すると、次のように2.586倍となる。
1.555×1.8/1.2×1/0.902=2.586
以上、示したように、本発明の図5の(a)、(b)、(d)で示したモータモデルのトルクは、前記ロータ磁束密度の条件、同一の電流最大値の条件で、12S8Rの従来正弦波モータ、9S8Rの従来正弦波モータに比較して、2.5倍以上のトルクを発生できることになる。なお、前記比較は、簡素なモータモデル比較であり、厳密ではなく、概略の比較である。また、前記の様な、モータ銅損が同じになる条件での比較でもない。また、本発明モータのここでの必要条件は、前記の様に、各集中巻き巻線の誘起電圧を有効に活かしてトルクを発生することである。具体的には、NS3が奇数の場合はNS3相の電流で制御し、NS3が偶数の場合は(NS3/2)相の電流で制御することである。その時、台形波の誘起電圧と台形波の電流とで駆動することが可能になる。但し、誘起電圧の位相の近い複数の巻線を直列に接続して、電流の総数を削減する工夫を加えても良い。また、電流波形についても、後で述べるように、高速回転では正弦波形状の電流にするなど、変形が可能である。
次に、前記高トルク化に伴うトルクリップルの問題と、その解決方法について説明する。前記12S8Rの従来正弦波モータ、9S8Rの従来正弦波モータは、正弦波の電流で駆動するので、おおよそ3相交流理論に従うので、トルクリップルを低減しやすい。それに対し、本発明モータの略台形波電圧、略台形波電流による各相のトルクは高調波トルク成分を多く含むことになり、モータ全体としてのトルクリップル低減策が必要である。請求項4では、前記のように、(NS3/2)相の電流、すなわち、5相、7相、8相等に多相のモータとすることにより、多相のトルクの高調波成分を加算して平滑化し、トルクリップルを低減する。
次に、図1、図2の(a)、(b)に示した7相のモータのトルクTとトルクリップルの特性例を図22に示す。図22の特性は、図1の7S8Rのモータにおいて、図2の(d)の実線に示す波形形状の誘起電圧Vが7相それぞれの集中巻き巻線に発生し、同一波形形状の7相の各相電流Iを各相巻線へ通電した場合の特性である。VとIの振幅値は、図2の(d)に示す様に1.0に正規化している。図22の実線は合計トルクであり、電気角360°の間の平均トルクは5.65である。破線はトルクリップルTrip[%]であり、次式の値である。
Trip=(トルク値−平均トルク)/平均トルク×100 (21)
また、図22の特性より、トルクリップルTripは正負のピーク値より約8[%p-p]となっている。
なお、図22の破線で示すトルクリップルTripがモータの回転角θの0から360[°]の間で紙面の上下に3回振れているのは、この計算を表計算ソフトで1[°]単位で行い、1[°]以下の回転角θについては四捨五入したことによる誤差成分である。7相なので端数となる角度θが多い。回転角θの計算分解能を上げればこの誤差成分を除去できる。また、図22の実線で示す7相のトルク合計の内、各相のそれぞれのトルク形状は図21の実線に類似した形状であり、それぞれ位相が360/7[°]づつ異なる。図21の実線のトルク形状の内、その各部に高次高調波が多く含まれることが推察される。
次に、図9、図10の(a)、(b)の5相のモータのトルクTとトルクリップルTripの、同様の特性例を図23に示す。図23の特性は、図9の5S6Rのモータへ図10の(d)の実線に示す波形形状の誘起電圧Vが5相それぞれの集中巻き巻線に発生し、同一波形形状の5相の各相電流Iを各相巻線へ通電した場合の特性である。図23の実線は合計トルクであり、電気角360°の間の平均トルクは3.67である。破線はトルクリップルTrip[%]であり、(21)式の値である。また、図23の特性より、トルクリップルTripは正負のピーク値より約13[%p-p]となっている。
次に、図24に、11相のモータのトルクTとトルクリップルの、同様の特性例を示す。11S12Rのモータ構成で、ステータ磁極のピッチθsp=360×6/11=196.36[°]である。ロータの磁束密度Bの分布は、増加部が8[°]で、平坦部が164[°]で、減少部が8[°]の台形状で、正と負に交流の磁束密度Bの分布である。このモータの電圧特性は、増加部が16[°]で、平坦部が148[°]で、減少部が16[°]の台形状で、正と負に交流の電圧波形となる。図24は、11相の誘起電圧の各巻線へ11相の同一波形の電流を通電した場合の特性である。図24の実線は合計トルクであり、電気角360°の間の平均トルクは9.70である。破線はトルクリップルTrip[%]で、(21)式の値であり、正負のピーク値より約5[%p-p]である。
次に、図25に、12相の12S14Rのモータ構成のトルクTとトルクリップルTripの、同様の特性例を示す。12S14Rのモータ構成は、ステータ磁極のピッチθsp=360×7/12=210[°]である。代表的なモータモデル例として示した図5の(a)、(b)のモータにおいて、ステータ磁極のピッチθsp=210[°]とした図5の(d)と、丁度、同じである。磁束密度Bの分布形状も、増加部が15[°]で、平坦部が150[°]で、減少部が15[°]の台形状で、図5の(d)の破線形状とする。電圧形状は実線となる。また、12S14Rの12は偶数の例であり、モータ中心に対して点対称の構造となるので、12/2=6の6相の電圧、電流で制御できる。この6相の電流の位相遅れの関係は0、30、60、90、120、150[°]であって、3相交流から作成する6相ベクトルではない。図25の実線は合計トルクであり、電気角360°の間の平均トルクは9.33である。破線はトルクリップルTrip[%]で、(21)式の値であり、正負のピーク値より約11[%p-p]である。
図22、図23、図24、図25に7相、5相、11相、12相のトルクリップルTripの例を示した。表計算ソフトで計算した値であり、電磁気特性を単純モデル化した場合のモータ特性の理論値である。これらのトルクリップルTripの特性は、電圧波形と電流波形とそれらの相対位相、及び、相数に関わって様々なトルクリップルの波形になる。その他にモータとして、機械的な形状誤差、電磁気的な誤差、磁気飽和なども発生するが、これらの諸誤差はここでは無視する。図22、図23、図24、図25の特性例からいくつかのことが推測できる。その一つには、相数が大きくなるほどトルクリップルが縮小する。また、台形の波形形状に関して、台形の増加部と減少部の変化部が狭くなると、高調波が増加してトルクリップルも増加する。
図21から類推できるが、電流波形は駆動回路で自在に選択できるので、電流波形を制御してトルクリップルを低減できる。なお、図22、図23、図24、図25に見られるトルクリップルの急峻な形状は、誘起電圧及び電流の波形形状を平滑化することにより低減できる。
また、図21の実線に示すトルク波形の例は、台形波駆動のトルクが正弦波駆動のトルクより大きくなること、また、そのトルク増大比率を示すため、誘起電圧の台形波形に対して通電電流の波形が比例する台形形状の例を示した。しかし、トルクリップル低減の観点では、誘起電圧の略台形形状と電流波形の略台形形状とが同一でない方が、トルクの急峻な変化部が少なくなり、好ましい場合もある。トルク増大とトルクリップル低減とがトレードオフの側面がある。また、モータ、及び、負荷側の機械的な共振現象を含め、大きな素数を含む相数のモータは、振動、騒音が小さくなる傾向がある。
従来のトルクリップル低減手法の一つとして、トルクリップルを計測して、その計測データに基づいて、トルク指令を補正してトルクリップルを低減する方法がある。また他の方法として、前記NN3が2以上の数で、基本のモータ構成が複数ある場合、複数組のモータ構成間で機械的な位相差を作り出し、特定の高調波成分のトルクを相殺する方法がある。これらの従来方法を本発明モータへ適用することもできる。また、後に示す、請求項7のトルクリップル低減方法、即ち、各相の電流波形を補正する方法も適用できる。なお、前記の様に、正弦波交流に比較して、より矩形に近い台形形状の電圧、電流の方がトルクが増大する。しかし、モータ全体の2相、3相、4相などと、相数が小さい場合にはトルクリップルが増加する問題がある。この様な場合に、図15に示したような方法で、トルクが中以下の領域でも、トルクリップルを低減するという方法もある。
以上説明したように、モータの多相化により、モータの電圧、電流の略台形化が可能となり、平均トルクの増加とトルクリップルの低減ができる。そして、トルクリップルの低減は、他のトルクリップル低減策との併用が効果的である。
なお、モータ電圧に比例定数として使用される誘起電圧定数Kv[V/(rad/sec)]とトルクの比例定数として使用されるトルク定数Kt[Nm/A]はMKS単位系で表現すると同じ値である。その観点で、時に、この明細書では電圧の大きさとトルクの大きさとを関連づけて説明している。具体的には、電気的な電圧V[V]と電流I[A]と電気的パワーPe[W]と、機械的なトルクT[Nm]と回転角速度ω[rad/sec]と機械的なパワーPm[W]は次式の関係である。なお、抵抗損失、鉄損、摩擦などの内部損失、磁気エネルギー、運動エネルギーの蓄積エネルギーなどを無視している。また、PeとPmは等しいとすると、(23)、(25)式よりKvとKtの値は等しいことが示される。
V=Kv×ω (22)
Pe=V×I=Kv×ω×I (23)
T=Kt×I (24)
Pm=T×ω=Kt×I×ω (25)
次に、請求項5について説明する。本発明モータのロータ表面の磁束密度Bの分布の例は、円周方向に略台形形状である。前記の様に、図1、図2の(a)、(b)に7S8Rのモータ構成例を示し、図2の(c)の破線にロータ磁極幅θrtが(13)式の関係であって、電気角でθrt=154.29[°]となるS極とN極のロータ磁極PRの例を示した。ステータ磁極PSの円周方向ピッチθsp=180×8/7=205.71[°]である。これらのS極とN極のロータ磁極PSの境界部分を、この明細書では低磁束密度領域ROUと称し、ROUの円周方向幅θouは25.71[°]の例である。但し、各幅が(13)式に限定されるものではなく、前記の様に、ステータのスロットの円周方向幅θssを大きくするために都合の良い関係である。
請求項5は磁束密度Bの分布状態に関わり、特に、低磁束密度領域ROUの磁束密度Bの分布に関わる。図2の(a)、(b)、(c)の例では、S極とN極のロータ磁極PRの間は空間とする、簡単なロータ磁極の構成例である。図2の(c)の破線で示す階段状の磁束密度Bの分布は、実際にはエアギャップ部の漏れ磁束なども発生することから、本発明では略台形状の磁束密度Bの分布と考えている。なお、低磁束密度領域ROUのθouの間には永久磁石が無いが、図2の(a)の集中巻き巻線23の鎖交磁束φの最大値は、前記の様に、図11のロータ、図34のロータの様にロータ永久磁石の幅が180[°]である場合と、単純理論的に同じである。むしろ、不要で有害な永久磁石の磁束成分は無い方が優れている。図2の(c)の破線で示す階段状の磁束密度Bの分布は、鎖交磁束φの最大値を大きくできるので、実線で示す誘起電圧Vの発生およびトルクTの発生の点で遜色ない。
図2の(d)の破線の磁束密度Bの分布は、台形状の分布の例である。図2の(d)の破線で示す磁束密度Bの分布の様に、円周方向に徐々に磁束密度が変化する永久磁石を、ロータ磁極PRの境界部の空間へ配置する。実線は誘起電圧Vで、図2の(c)に比較して、誘起電圧Vが変化する部分の波形が異なる。図2の(c)と図2の(d)との鎖交磁束φの最大値は単純理論的に同じ値になるが、電流制御における電流可変制御の観点では、図2の(d)の方がスムーズに電流を可変制御できるので、優れている。
また、図4、図5などの各図の破線に、種々の略台形形状の磁束密度Bの分布例を示した。さらに、台形の角部を平滑するなど、変形が可能である。また、図zcでは、正弦波状の電圧、電流の場合に比較し、矩形波により近い台形波状の電圧、電流の場合、大きなトルクTが得られることを説明した。例えば、図5の(c)では、増加部が15[°]で、平坦部が150[°]で、減少部が15[°]の台形状磁束密度分布の場合、増加部が30[°]で、平坦部が120[°]で、減少部が30[°]の台形状の正と負の交流の誘起電圧が得られ、電圧と電流の振幅が同じの正弦波駆動に比較して、トルクが1.55倍となることを示した。
図26に、図4、図5などに示した磁束密度Bの分布、誘起電圧V、通電電流Iの各例をまとめて示す。モータの構造は、その直線展開図が図4の(a)、(b)、あるいは、図5の(a)、(b)の形状で、ステータ磁極の歯のピッチθsp=210[°]、ロータ磁極の磁束密度Bが大きい部分の幅θrt=150[°]、ロータ磁極の磁束密度Bが小さい部分の幅θou=30[°]の例である。
図26の(a)は、ロータ磁極の磁束密度Bの円周方向の分布例であり、一点鎖線は円周方向幅θrtが電気角で180[°]の矩形状の磁束分布である。破線は円周方向幅θrtが電気角で150[°]の矩形状の磁束分布であって、各ロータ磁極の間の空間部の幅θouが電気角で30[°]である。実線は円周方向幅θrtが電気角で150[°]で、各ロータ磁極の間のθouが30[°]間の磁束密度Bは直線的に変化する例である。磁束密度Bは増加部が15[°]で、一定部が150[°]で、減少部が15[°]の正と負の台形状の磁束密度Bの分布の例である。二点鎖線は正弦波状の磁束密度Bの分布の例である。ここで、各磁束密度Bの最大値は、正規化して1.0で示している。なお、図4、図5などに示したモータ構成で、正弦波状の磁束密度Bの最大値が2.0[T]に近い値であっても十分な広さのスロット断面積を確保できるが、前記の様に、トルクは台形波分布の場合に較べて小さい。。
図26の(b)は、ロータがCCWへ一定回転で回転する時の、図4の(a)の集中巻き巻線43、あるいは、図5の(a)の集中巻き巻線53の誘起電圧Vの波形の例である。これらの各誘起電圧Vの波形は、図26の(a)の磁束密度Bの分布の例に対応している。図26の(b)の一点鎖線はθrt=180[°]の矩形状の磁束分布の場合の集中巻き巻線43の誘起電圧であり、150[°]幅の矩形波電圧となる。図26の(b)の破線はθrt=150[°]の矩形状の磁束分布の場合の集中巻き巻線43の誘起電圧であり、階段状の電圧となる。一点鎖線と破線は、元となる鎖交磁束の最大値が同じなので、電圧の平均値も同じである。図26の(b)の実線は台形状の磁束密度Bの分布の場合の集中巻き巻線43の誘起電圧Vであり、増加部が30[°]で、一定部が120[°]で、減少部が30[°]の正と負の台形状の誘起電圧Vの例である。電圧波形が磁束密度Bの分布に対して変化している。図26の(b)の二点鎖線は正弦波状の磁束密度Bの場合の集中巻き巻線43の誘起電圧Vであり、磁束密度Bの分布に対して、巻線係数cos((210−180)/2)=0.966の振幅に減少している。図26では各波形を1.0に正規化して示しているが、図26の(b)と(c)の正弦波波形の振幅は0.966である。なお、正弦波以外の電圧波形は、例えば、図26の(b)の点線に示す様な平滑化した電圧へ近似して評価することもできる。
また、図3の(c)、(d)、図13、図14、図18、図19では、ステータ磁極PSの円周方向ピッチθspが、例えば240°以上など、大きい値である場合にステータにバイパス磁路PBPを追加して、ステータ磁極のエアギャップに面する部分の円周方向幅θstgとロータ表面の磁束密度Bの分布を適正化できることを示した。バイパス磁路PBPを追加する負担はあるものの、モータ特性の観点では、こちらの方がむしろ優れている。この場合にも、ロータの磁束密度Bの分布形状は略台形形状である。そして、前記の図26の各波形は、バイパス磁路PBPを追加する様なモータ構成の場合にも共通する。
また、略台形形状の磁束密度Bの分布を作る具体的なロータ構造は、いくつかの方法、構成がある。例えば、永久磁石をいわゆるハルバッハ構造に配列する方法、極異方性永久磁石に工夫を加える方法、永久磁石と軟鉄とを組み合わせてロータ磁極を作る方法、永久磁石の表面形状を工夫する方法などである。これらについては、後に図30に示し、説明する。
次に、請求項6について説明する。図2の(d)の説明などで示したように、略台形状の誘起電圧の巻線へ略台形形状の電流を通電することにより、従来の正弦波状の電圧、電流の場合より、大きなトルクが得られることを示した。前記の様に、増加部が30[°]で、平坦部が120[°]で、減少部が30[°]の台形状の正と負の交流の誘起電圧へ、同一形状の電流を通電した場合、従来の正弦波状の電圧、電流の場合より、1.55倍のトルクが得られる。
前記の様に、図26の(a)に磁束密度Bの分布例、図26の(b)に誘起電圧Vの例を示したが、図26の(c)の様に略台形形状の電流を、それぞれの相の各相の集中巻き巻線へ通電することができる。その結果、正弦波電圧、電流の従来モータに比較して、大きなモータトルクを得ることができる。図26の(c)の各電流例は、図26の(a)の磁束密度B、図26の(b)の誘起電圧Vにそれぞれ対応している。
なお、本発明の対象とする分数スロットのモータなどは、界磁磁束を可変制御することは困難であり、誘起電圧はモータ固有の特性となる。他方、モータの各相電流は駆動回路で電気的に制御できるので、種々形状の電流を通電することができ、その自由度は大きい。電流波形は自由ではあるものの、台形状誘起電圧の巻線へ同一台形状の電流を通電する場合のトルク発生効率は、従来の正弦波電圧、電流よりトルク増大の点で優れており、ここでは、図26の(c)の電流波形の例を説明する。
図26の(c)の一点鎖線は、図26の(b)の一点鎖線の誘起電圧Vと同じ形状の電流波形の例である。しかし、150[°]幅の矩形状の波形なので通電が困難であり、近似した波形形状の電流を通電することもできる。例えば、図26の(c)の点線に示す様な電流波形である。図26の(c)の破線の階段状の電流波形も、同様に、階段状の形状を少し平滑した波形の電流を通電する。なお、そもそも、矩形、階段状の電圧波形は、モータ特性を単純にモデル化した場合の表計算ソフトで計算した値であり、実際にはロータ表面近傍の漏れ磁束、及び、磁気抵抗などの関係から、少し平滑した電圧波形になる。
図26の(c)の実線の台形波形状の電流波形は単調増加と一定値で構成されており、比較的通電が容易な電流波形である。しかしこの場合でも、台形の角部を丸めて平滑した方が、電流制御として容易である。前記の様に、台形の一定値の平坦部の幅が150[°]、120[°]、90[°]、60[°]の形状の電圧、電流を通電した場合、正弦波駆動に比較して、それぞれ、1.777、1.555、1.333、1.111倍のトルクとなる。そして、以上示したように、略台形形状の電流を通電することにより、正弦波駆動に比較して、トルクを増大できる。
また、低速回転では電流の時間変化率が低いので、トルクを増大するために、より矩形波に近い台形形状の電流を通電することが可能である。他方、高速回転では、各巻線の誘起電圧が大きくなり、また、各巻線のインダクタンスにより電流の時間変化率に制限が発生するため、増減部が急勾配の台形形状の電流を通電することが困難になる。従って、中速回転までの台形波状の電流から、高速回転では正弦波に近づく電流波形にせざるを得ない。さらに高速回転では、電流の振幅を減少し、各相の各電流の位相を進めて制御することもできる。
また、トルクリップルを低減する目的で、電流波形を修正して制御することも可能である。前記の様に、各種のトルクリップル方法を適用できる。また、請求項7では、各相の電流波形を積極的に修正する方法を示す。また、永久磁石の強さを可変できる構造のモータとすることにより、モータの誘起電圧特性を変えることも可能である。例えば、低速回転で大きなトルクを発生する時には、磁束密度Bをより大きく、より矩形波に近い分布形状としてトルクを増加し、高速回転では磁束密度Bを低減し、波形形状も正弦波形状に変えることも不可能ではない。
次に、請求項7について説明する。モータ運転状態でのトルクTの大きさ、回転数などに応じて、トルクリップルを低減するために、基本とする電流波形形状にトルクリップル補正量を加える方法である。例えば、7S8Rの図1、図2の(a)、(b)、(d)の条件において、電圧波形と同一の波形の台形電流を通電した場合のトルクTとトルクリップルTripは図22の特性であるが、少し極端な例では、この電流波形を正弦波状に変更すると図28のトルクTとトルクリップルTripになり、トルクリップルTripは8[%p-p]から2.5[%p-p]へ減少する。このように、トルクリップルTripを電流波形により減少することを確認できる。なお、この場合、平均トルクTが5.65から4.31に減少するので、平均トルクTの減少は少ない方が好ましい。図29の実線は、図28の通電条件である台形電圧と正弦波電流による、一つの相が発生するトルクの波形である。図29の二点鎖線は正弦波電圧と正弦波電流によるトルクの波形であり、図21の実線は台形電圧と台形電流によるトルクの波形なので、図29の実線はそれらの中間の値となっている。
次に、請求項7の制御の構成例を図27のブロックダイアグラムに示す。ωrcは速度指令、27Cはロータの回転位置検出信号、27Bは位置検出のインターフェイス、θrは検出したロータ回転位置、ωrは検出したロータ回転速度である。271は加算器で、速度指令ωrcからロータ回転位置θrを差し引いて、その差分を比例積分補償器272へ出力し、272の出力であるTcはトルク指令である。273は電流波形生成器で、トルク指令Tcとロータ回転速度ωrを入力として電流の基本とする台形波などの波形27Dを生成する。274は補正電流波形生成器で、トルク指令Tcとロータ回転速度ωrを入力として、トルクリップルを低減するための補正電流波形27Eを生成する。279は加算器で、電流の基本波形27Dと補正電流波形27Eとを加算し、補正した電流波形27Fを出力する。27Aは乗算器で、トルク指令Tcと補正した電流波形27Fとを乗算し、基本とする電流波形情報27Gを出力する。
275は多相の電流制御部で、例えば、位相の異なる各相の電流指令276、277から278等を出力する。電流制御部275の具体的な電流の制御方法は、ここでは、特定しない。各相の電流値を個別にリアルタイムで制御する方法、各相の電流を回転座標系で計算、制御した後に固定座標系へ戻して通電する方法、多相の電流を一括して制御する方法などがる。
前記の構成により、トルク指令Tcとロータ回転速度ωrに応じた補正電流波形27Eを生成し、補正して各相電流を制御することにより、トルクリップルを低減することができる。この補正電流波形27Eは、電圧波形と電流波形に起因する理論的なトルクリップル成分が主となる。また、この補正電流波形27Eの作用には時間遅れ要素がないので、トルク指令にトルクリップル補正を加える方法とは異なる効果がある。また、従来のトルクリップルを補正する技術も併用することができる。この従来補正技術では、前記補正電流波形27Eを適用後にトルクリップルを計測して補正する方法の場合、前記の波形に起因する理論的なトルクリップル成分を除いて、モータ構成、材質、ロータの偏心などに起因するトルクリップル成分などを補正できる。従って、二つのトルクリップル補正の方法は、異なる特性、特徴があると言える。異なる性質のトルクリップルを、要因別に補正することができる。
なお、図27の後段には、パワートランジスタPTRなどをオン、オフして電圧、電流を制御するためのパルス幅変調器PWM、パワートランジスタPTR等で構成する駆動回路を組み合わせたインバータがある。図27では、電流制御器、パルス幅変調器PWM、インバータINV、モータ、ロータ回転位置を検出するエンコーダENC等の記載を省略している。また、図27のブロックダイアグラムにおける各信号は、通常、マイクロプロセッサなどによるデジタル処理信号であって、アナログのリアルタイム信号に準ずる単一の信号、あるいは、基本とする波形などのようなひとかたまりの情報の流れなどを示している。また、各デジタル処理に必要な情報データなどは、図27に記載していないが、メモリー等に格納しておき、必要に応じて読み出し、使用する。現在では、メモリー容量、メモリーコストの負担は、問題にならない。
次に、請求項8について説明する。アモルファス製の電磁鋼板と、アモルファスの最大磁束密度Bstmに近い磁束密度Bを発生する永久磁石とを活用した、低損失で高トルクな特性のモータである。アモルファスは、透磁率が大きく、ヒステリシス損が小さく、15から30[μm]程度の薄板であるため渦電流も小さく、鉄損が小さいという特徴がある。しかし、アモルファスの最大磁束密度Bstmが1.4[T]程度であるため、永久磁石の最大磁束密度Bagmが1.4[T]に近い特性を採用して、図34のような従来モータへ適用すると、巻線を巻回するスロット断面積が極端に小さくなり、巻線量が減少し、かえって発生トルクが減少する問題があった。また一方、通常の珪素鋼板を使用したモータは、高速回転で鉄損が増加する問題がある。
前記の図1、図18等の本発明モータでは、ロータ磁極の最大磁束密度Bagmとステータの軟磁性体の最大磁束密度Bstmの両方が1.4[T]程度であっても、適度なスロット断面積を作り出せるので、適量の集中巻き巻線を巻回でき、大きなトルクを発生できる。また、モータの製作面でも、後に説明する、図30の(d)のような、いわゆる、極異方性磁石で円周方向に台形状の磁束分布として、リング形状の磁石として簡素なロータを構成できる。但し、図30の(d)の構成に限定するものでもない。これらの結果、高速回転まで高トルクで高効率なモータ特性であって小型化、軽量化が可能であり、生産性とコストにも優れ、現在では最高性能の希土類永久磁石と軟磁性体との特性のバランスにも優れたモータを実現することができる。
なお、ロータバックヨークの軟磁性体は磁束変動が少ないので鉄損がほとんど発生せず、無垢の鉄材からの加工部品、あるいは、低コストで鉄損の大きな材質の電磁素鋼板などが使用でき、ロータバックヨークの鉄損はほとんど発生しない。また、高速回転でのロータの遠心力が問題となる場合は、アウターロータ構造のモータとすることもできる。種々変形が可能である。また、このような高速回転、高トルクのニーズが、ドローン、電気飛行機、自動車等の用途で高まっている。
次に、請求項9について説明する。図1、図4、図5等に示した磁束密度Bの分布を具体的に実現するモータ構成である。図30に、永久磁石を含むロータの各種構成例を示す。8極のロータの例で、全周の1/4を示しており、電気角で360[°]の円周方向幅である。ステータ側は図30に図示していないが、図1、図18等のステータが存在するものとして説明する。各種ステータに適用でき、ロータの極数の異なる場合は円周方向の幅を増減した同様の関係である。
図30の(a)は永久磁石303、304の円周方向幅が電気角で180[°]の例であり、円周方向にS極永久磁石とN極磁石を交互に配置している。永久磁石内の破線は着磁の方向を示している。各永久磁石表面の磁束密度Bの分布は、図26の(a)の一点鎖線に示す様な、180[°]幅の矩形状の磁束密度Bの分布である。なお、永久磁石の着磁次第で、150[°]幅の矩形状、台形状、正弦波状などの様々な分布とすることができる。但し、原理的な話であり、着磁の難しさがある。高性能な永久磁石は等方正ではなく異方性の永久磁石とするので、特に異方性の場合は焼結磁石の焼結時に着磁方向を定めた生産設備とする必要がある。301はロータのバックヨークで、302はロータ軸である。
図30の(b)は永久磁石305、306の円周方向幅が電気角で150[°]の例であり、円周方向にS極永久磁石とN極磁石を交互に配置している。図26の(a)の破線の磁束密度Bの分布の例である。各永久磁石の間307、308は空間である。また、非磁性で非導通な例えば樹脂などのような材料で空間を充填しても良い。
図30の(c)は、永久磁石309はS極磁石で磁極方向はラジアル方向であり、永久磁石30AはN極磁石で磁極方向はラジアル方向である。S極磁石とN極磁石との円周方向境界部には、磁極方向が円周方向で、磁極の向きはそれぞれのロータ磁極の極性の向きである永久磁石30B、30Cを配置している。例えば、永久磁石30BのS極はS極磁石309の方に向いて、30BのN極はN極磁石30Aの方に向いている。このような永久磁石の配列は、ハルバッハ配列とも言われている。永久磁石30Bは、S極磁石309とN極磁石30Aの磁力を強め、磁束密度を増加する効果がある。永久磁石30Cも同様に円周方向両隣の永久磁石の磁力を強める効果がある。また、永久磁石30B、30Cは、原理的にはそれぞれのラジアル方向には磁束を発生しないので、モータモデル的には図4に破線で示すような矩形状の磁束密度Bの分布を実現できる。また、図30の(b)の空間部307、308へ永久磁石30B、30Cを配置した構造であり、空間部307、308のスペースを有効活用した構造でもある。なお、図4に破線で示すような矩形状の磁束密度Bの分布は、実際には、エアギャップ部の漏れ磁束や、磁気抵抗の不均一さ、ステータ電流の起磁力の作用などにより、図4と図5の中間のような磁束密度Bの分布、効果となる。
次に、請求項10について説明する。図30の(d)の永久磁石は、極異方性と言われる磁石構造である。永久磁石に破線で磁束の方向を示す様に製作し、S極磁極30D、N極磁極30Eを構成する。焼結磁石を製作する工程、および、着磁工程において、永久磁石の磁性、向きを配慮して製作される。一般的には、極異方性磁石の磁束密度Bの分布が、図26の(a)の二点鎖線で示す正弦波状の分布であって、正弦波交流電流で駆動した場合にトルクリップルが小さく、モータ品質が良いと言われることがある。しかし、本発明では、図26の(a)の破線、あるいは、実線のような、矩形状、あるいは、台形状の磁束密度Bの分布の極異方性磁石が必要である。図26の(b)の実線の台形形状ような誘起電圧が期待できる。そして、正弦波の磁束密度Bの分布のモータに比較して、モータトルクを増大できる。なお、図30の(d)のような極異方性磁石は、リング形状永久磁石として製作した場合、ロータへの組み付けが容易であり、簡素なロータ構成なので生産性が良い特徴もある。また、強度的にも好ましい。
次に、請求項11について説明する。図30の(e)のロータは、永久磁石をロータ内部へ配置し、ロータ磁極の表面部を軟磁性体で構成し、特に、ロータ磁極の表面の磁束密度Bを大きくできるロータ構造である。30F、30G、30Hは永久磁石で、各磁束の向きはロータ磁極の極性N、あるいは、Sの向きである。なお、永久磁石30F、30G自体の磁性方向はほぼ円周方向に向いていて、永久磁石30H自体の磁性方向はほぼラジアル方向に向くような磁石配置である。そして、軟磁性体である30KはN極磁極のほぼ中心部分であって、図示するように、30F、30G、30HのN極は、N極である30Kの磁極の方向に向いている。また、30JはS極である。ここで、30F、30G、30HのN極磁束は、その全てが磁極8Kの方向に集まる構成なので、30Kの周辺の磁束密度Bを大きくすることができる。例えば、図30の(e)の構成で、30F、30G、30Hの各磁束密度Bが1.2[T]であれば、30Kの部分の磁束密度Bは2.0[T]程度に大きくなる。磁束密度Bが大きければ、より大きな誘起電圧をステータ巻線へ発生することでき、ステータ電流により大きなトルクを発生することができる。
また、30Lは軟磁性体部の磁束の向きに沿った細長い穴であり、スリットと呼ぶこともある。これらの複数のスリットをロータ磁極の軟磁性体部に追加することにより、ステータ巻線の電流が発生する起磁力がロータ磁極へ作用しても、ロータ磁束の分布が大きく変動しないように作用する。スリット30Lの形状、数は必要に応じて変えることができる。永久磁石30F、30G、30Hなどの形状、数、配置位置も必要に応じて変えることができる。なお、30Lなどのスリットの加工は、電磁鋼板のロータ軸穴、外径の切断プレス加工などと同一工程で金型により加工できるので、生産コストの負担は小さい。
また、図30の(f)のロータは、図30の(a)の外径形状に、30Q、30Rの凹みを設けた例である。30M、30PはS極の永久磁石、30NはN極の永久磁石である。磁束密度Bの分布状態を変える手段として、永久磁石の着磁による分布の生成、永久磁石の材料特性の差による分布の生成等が可能であるが、図30の(f)の様に、外形形状を変えて磁束密度Bの分布状態を変えることもできる。また、図30の各ロータは、外周をグラスファイバー、カーボンファイバー、金属管などで覆って、遠心力に対して強化することも多い。
次に、請求項12について説明する。図31は、図9の5S6Rのモータの横断面図に示したステータ311の構成である。312はステータ磁極で、313はその集中巻き巻線である。前記の様に、316の様なステータ磁極の形状は、スロット断面積を大きくするため、その円周方向両端の歯先形状が細くなる。従って、ロータ磁極の磁束密度が大きい場合は、歯を構成する主な軟磁性体の最大磁束密度となって、磁気飽和に伴う弊害が発生するので、モータトルクを発生する上で問題となることがある。
その対応策として、314に示す歯先部分を、最大磁束密度がより大きい軟磁性体とし、磁気飽和に起因する問題を軽減することができる。例えば、ステータコアの主とする軟磁性体を通常の珪素鋼板で構成し、その最大磁束密度が2.0[T]と仮定して、314の斜線で示す部分だけをパーメンジュールのような飽和磁束密度が2.4[T]などの軟磁性体を使用する方法である。また、315の斜線部ように、歯先に少し広い部分をパーメンジュールに変えることもできる。パーメンジュールはコバルトが約50[%]なので高価であるが、部分的であればそのコストを許容できる場合もある。
また、例えば、ステータコアの主とする軟磁性体がアモルファスの電磁鋼板で構成し、その最大磁束密度が1.4[T]と仮定して、314、あるいは、315の斜線で示す部分だけを珪素鋼板で構成することができる。なお、図31はロータ極数が小さく、少し極端な歯先の形状例であり、円周方向への飛び出し部が長い。ロータ極数、ステータ磁極数が大きくなると、歯先の飛び出し長さが短くなるので、歯先の磁気飽和の問題を軽減できる。また、スロットの開口部の円周方向幅θopを0[°]と仮定して、図示した各モータをモデル的に説明した。しかし、開口部の円周方向幅θopは、通常、巻線巻回時に巻線が通る程度には幅があり、さらに、その他の理由で円周方向幅θopを大きくすることもできる。その場合には、ステータ磁極の歯先の飛び出し長さを短くできる。
次に、請求項13について説明する。前記の図9、図10の図で説明したモータ構成であり、ステータ磁極PSの数が5、ロータ磁極PRの数6、あるいは、それらの整数倍のモータ構成である。図10とその説明で示したように、良好な誘起電圧、トルクを発生できる。モータ電流は、5相の電流制御となる。(9)式のモータ構成で、ロータの台形状磁束密度の分布でその最大磁束密度を1.8[T]とする場合、(12)式よりスロットの円周方向幅θssは電気角86.4[°]となり、集中巻き巻線を十分に巻回できる。このモータのトルクリップルは、図23にその例を示したように、小さくはないがその補正はできる。また、ステータ磁極PSの数が5であり、3相より大きな素数なので、モータの機械的な共振現象などを低減できる。なお、ステータの数が5などの奇数の場合は、モータ軸に偏心力が作用するので振動、騒音の原因となることがある。この対応として、5S6Rの整数倍の10S12R、15S18R等の対称性のある構成とした方が好ましい。
次に、請求項14について説明する。前記の図1、図2の図で説明したモータ構成であり、ステータ磁極PSの数が7、ロータ磁極PRの数8、あるいは、それらの整数倍のモータ構成である。図2とその説明で示したように、良好な誘起電圧、トルクを発生できる。
モータ電流は、7相の電流制御となる。(9)式のモータ構成で、ロータの台形状磁束密度の分布でその最大磁束密度を1.8[T]とする場合、(12)式よりスロットの円周方向幅θssは電気角66.85[°]となり、集中巻き巻線を十分に巻回できる。このモータのトルクリップルは、図22にその例を示したように、小さくはないがその補正はできる。また、ステータ磁極PSの数が7であり、大きな素数なので、モータの機械的な共振現象などは起きにくい。なお、ステータの数が7の場合は、モータ軸に偏心力が作用するので、7S8Rの整数倍の14S16R、21S24R等の構成が好ましい。
次に、請求項15について説明する。ステータ磁極PSの数が9、ロータ磁極PRの数10、あるいは、それらの整数倍のモータ構成である。モータ電流は、9相の電流制御となる。(9)式のモータ構成で、ロータの台形状磁束密度の分布でその最大磁束密度を1.8[T]とする場合、(12)式よりスロットの円周方向幅θssは電気角56[°]となり、集中巻き巻線を巻回できる。なお、(8)、(9)、(10)式の関係よりθrtを小さな値として、スロットの円周方向幅θssを増加することもできる。このモータのトルクリップルは、9相と相数が大きくなるので、比較的小さな値となる。なお、ステータの数が9の場合は、モータ軸に偏心力が作用するので、9S10Rの2倍の18S20R等の構成が好ましい。
次に、請求項16について説明する。ステータ磁極PSの数が11、ロータ磁極PRの数12、あるいは、それらの整数倍のモータ構成である。モータ電流は、11相の電流制御となる。(9)式のモータ構成で、ロータの台形状磁束密度の分布でその最大磁束密度を1.8[T]とする場合、(12)式よりスロットの円周方向幅θssは電気角39[°]となり、集中巻き巻線を巻回する。なお、(8)、(9)、(10)式の関係よりθrtを小さな値として、スロットの円周方向幅θssを増加することもできる。このモータのトルクリップルは、図24にその例を示したように、相数が大きいので小さくなる。また、ステータ磁極PSの数が11であり、大きな素数なので、モータの機械的な共振現象などは起きにくい。なお、ステータの数が11の場合は、モータ軸に偏心力が作用するので、11S12Rの2倍の22S24R等の構成が好ましい。
次に、請求項17について説明する。ステータ磁極PSの数NSが12、ロータ磁極PRの数NRが14、あるいは、それらの整数倍であるNN倍のモータ構成である。12S14Rのモータ構成で、ステータ磁極ピッチはθsp=360×7/12=210[°]である。(8)から(12)式の関係の例では、ロータ磁束密度最大値Bagmに依存するが、スロットの円周方向幅θssは60[°]以上となり、実用的に設計できる。Bagmが1.8[T]ではθssは電気角75[°]となる。バイパス磁路PBPの無い図3の(a)、(b)の構成である。そしてこの場合、各集中巻き巻線の誘起電圧は、図4の(d)、あるいは、図5の(d)の実線に示す誘起電圧となる。
この12S14Rのモータは12が偶数なので、その対称性から、6相電流で制御できる。6相電流の相対的な各位相は、0、30、60、90、120、150[°]の関係である。このモータのトルクリップルは、図5の(d)の誘起電圧Vに比例した同一形状の電流波形の電流で駆動する場合、図25の特性となる。実用可能な範囲であり、また、前記の種々トルクリップル策を適用して低減できる。
次に、請求項18について説明する。前記の図13、図14の図で説明した4S6Rのモータ構成であり、ステータ磁極PSの数NSが4、ロータ磁極PRの数NRが6、あるいは、それらの整数倍である、NN倍のモータ構成である。図11、図12と図13、図14とを比較して説明したように、ステータ磁極ピッチはθsp=360×3/4=270[°]と大きな値であるが、バイパス磁路PBPを各ステータ磁極PSの間に追加して挿入することにより、ステータ磁極のエアギャップ面における円周方向幅θstgとロータ磁極との関係を適正化して、良好な誘起電圧、トルクを発生できる。図14には、バイパス磁路PBPの円周方向幅θbp=60[°]の例と、θbp=75[°]の例を示している。誘起電圧の特性は、例えば、図14の(c)、(d)、あるいは、(e)の実線である。バイパス磁路PBPの円周方向幅θbpを自由に設計できるので、(15)式からθstgを自由に選択でき、電圧特性を選択できる。
モータ電流は、ステータ磁極PSの数が4と偶数なので、180[°]異なる逆相の電流を共通に使用できるので、半分の2相電流で制御できる。相数が少ないので駆動回路を簡素化できる。このモータのトルクリップルは、図14の誘起電圧とVと比例した同一形状の電流波形の電流で駆動する場合、図15の(f)、(g)、(h)の様に大きくなる。しかし、最大トルクの1/2以下の駆動領域では、図15の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)の様に、理論的にトルクリップルを0[%p-p]にできる。なお、図13では説明を容易にするため6極の例を示しているが、ステータ磁極PSの数が4、ロータ磁極PRの数6とを整数倍にしたモータ構成とできる。
次に、請求項19について説明する。ステータ磁極PSの数NSが3、ロータ磁極PRの数NRが4、あるいは、それらの整数倍であるNN倍のモータ構成である。前記の図18、図19の図で説明したモータ構成は、ステータ磁極PSの数NSが6、ロータ磁極PRの数NRが8で、前記NNが2の6S8Rの構成例である。図16、図17と図18、図19とを比較して説明したように、ステータ磁極ピッチはθsp=360×4/6=240[°]と大きな値であるが、バイパス磁路PBPを各ステータ磁極PSの間に追加して挿入することにより、ステータ磁極のエアギャップ面における円周方向幅θstgとロータ磁極との関係を適正化して、良好な誘起電圧、トルクを発生できる。図19には、バイパス磁路PBPの円周方向幅θbp=30[°]の例と、θbp=45[°]の例を示している。誘起電圧の特性は、例えば、図19の(c)、(d)、あるいは、(e)の実線である。バイパス磁路PBPの円周方向幅θbpを自由に設計できるので、(15)式からθstgを自由に選択でき、電圧特性を選択できる。
モータは3相電流で制御でき、相数が少ないので駆動回路を簡素化できる。このモータのトルクリップルは、図19の誘起電圧Vに比例した同一形状の電流波形の電流で駆動する場合、比較的大きな値となる。しかし、モータと駆動回路との最大トルクの2/3以下の駆動領域では、例えば、図19の(d)もしくは(e)の各相の電圧に対し、図20の(a)、(b)、(c)様に、3相の各相の電流を2/3の区間で順次通電する。この時、各相のトルクは図20の(a)、(b)、(c)の絶対値となるので、合計トルクは図20の(d)の様に均一の値となる。そして、理論的にトルクリップルを0[%p-p]にできる。なお、各相の通電範囲を広げて、さらにトルクを増加できる。また、図20の通電範囲にとどめる場合は、3相電流の合計電流を0[A]とすることが可能なので、3相の星形結線とすることができ、通常の3相正弦波交流のインバータでこのモータを駆動することができる。
次に、請求項20について説明する。ステータ磁極PSの数NSが8、ロータ磁極PRの数NRが10、あるいは、それらの整数倍であるNN倍のモータ構成である。8S10Rのモータ構成で、ステータ磁極ピッチはθsp=360×5/8=225[°]である。前記の図13、図14の図で説明した4S6Rのθsp=270[°]等に比較してθspは小さく、バイパス磁路PBPを追加しなくても、(8)から(11)式の関係の例では、スロットの円周方向幅θssは、ロータ磁束密度最大値Bagmが大きい場合は90[°]程度であり、θssが過大にならない程度に実用的に設計できる。図3の(a)、(b)の構成である。
また、θbp=15[°]のバイパス磁路PBPを各ステータ磁極PSの間に追加して挿入することにより、(15)から(20)式の関係の例では、図19の(c)、あるいは、(d)の実線の誘起電圧特性とすることができる。θstg=210[°]、θrt=150[°]で、良好な誘起電圧、トルクを発生できる。また、θbp=30[°]のバイパス磁路PBPを各ステータ磁極PSの間に追加して挿入する場合には、図19の(e)の実線の誘起電圧特性とすることができる。θbpを自由に設計できる。
この8S10Rのモータは8が偶数なので、その対称性から、4相電流で制御でき、相数が比較的少なく、駆動回路を簡素化できる。4相電流の相対的な位相は、0、45、90、135[°]の関係である。このモータのトルクリップルは、図19の誘起電圧Vに比例した同一形状の電流波形の電流で駆動する場合、比較的大きな値となる。しかし、図15の(a)から(e)の2相の例、あるいは、図20の(a)から(d)の3相の例のように、最大トルクの3/4以下のトルク領域では、トルクリップルを低減できる。また、各相の通電範囲を広げて、さらにトルクを増加できる。
なお、ステータ磁極ピッチθspが電気角180[°]より大きすぎてロータの磁束を効果的に活用できない場合、あるいは、θspは電気角180[°]よりさほど大きくないがロータ磁束密度が小さいため(11)、(12)式のスロット円周方向幅θssが必要以上に大きくなる場合は、ステータ磁極数とロータ磁極数の種々の組み合わせにおいて、前記バイパス磁路PBPを追加して活用できる。ステータ巻線の誘起電圧とトルクを増加できる。例えば、5S8R、7S10R、11S14Rのモータ構成の場合も、同様に、バイパス磁路PBPを追加して、類似の誘起電圧特性、トルク特性とすることができる。
次に、請求項21について説明する。図32は、図1の7相のモータを駆動する駆動回路の例である。各相の電流値を他の相に制約されずに制御できる。即ち、各相の電流が独立している。図32の325は直流電圧源であり、326は駆動回路全体のモータ制御回路である。図32は7相モータの各巻線の電圧、電流を自在に制御する駆動回路であり、例えば、32Aは図1の第1相の巻線13である。321、322、323、324はパワートランジスタなどの電力素子で、それぞれ逆並列のダイオードを備えており、巻線32Aへ正あるいは負の電圧を印加し、正あるいは負の電流を通電することができる。その印加電圧、通電電流は、他相の巻線、駆動回路の影響を受けないので、矩形波電流、台形波電流、正弦波電流などを自在に制御でき、通電できる。破線で囲って示す32K、32L、32M、32N、32P、32Qは、破線で示す32Jと巻線32Aを除いて同じ構成である。図1の7相のモータの例では、巻線32Bは巻線19、巻線32Cは巻線1A、巻線32Dは巻線1B、巻線32Eは巻線1C、巻線32Fは巻線1D、巻線32Gは巻線1Eに相当する。なお、図1の7相のモータの各巻線の電圧、電流の制御例、値については、図2などに示し、説明した。
図32の駆動回路は、モータの相数に合わせて図32の破線で示した駆動ユニットの数を合わせれば良い。例えば、図9、図10の5相モータの場合は、図32の駆動回路の32Pと32Qを除去すれば良い。また、8相以上のモータの場合は、破線で示す駆動ユニットを追加すれば良い。
なお、駆動ユニットの複雑さの点では、図32の駆動回路は1相について4個のトランジスタが必要である。今、後に示す図33の駆動回路において、33Rの一点鎖線で示す回路ブロックを取り除いた構成を星形結線駆動回路と呼ぶことにする。星形結線駆動回路では、1相の巻線について2個のトランジスタで駆動できるとすれば、図32の駆動回路構成は2倍の素子数となり複雑であると言える。しかし、図32の駆動回路は、星形結線駆動回路に比較して、各巻線へ2倍の電圧を印加することができる。従って、素子数の2倍は、電圧の2倍で相殺できる。
また、例えば5相モータの駆動回路について考えると、図32の構成方法の駆動回路のパワートランジスタ数は20個で、星形結線駆動回路の構成方法の駆動回路のパワートランジスタ数は10個となり、図32の構成方法の方がパワートランジスタ数が20/10=2倍となる。しかし、図32の構成方法では、各相の出力電圧が2倍となるので、パワートランジスタの電流容量は1/2とできる。従って、図32の構成方法の(トランジスタの電圧×トランジスタの電流×トランジスタの個数)で表す、駆動回路の電圧電流容量は、星形結線駆動回路の構成方法とでほぼ同じになる。
また例えば、50[kW]以上の大きさのモータを駆動する場合などでは、パワートランジスタを並列接続して使用することも多い。そのような場合には、星形結線駆動回路で並列接続しているパワートランジスタを、図32の構成方法では、パワートランジスタ間の接続が変わるだけで、個数は変わらない。
また、特に、主回路の直流電圧電源が40V程度でパワーMOSFETで駆動する場合、電圧が小さいのでパワーMOSFETの並列数が増加する。その場合、図32の構成方法としても接続関係が変わるだけで、パワーMOSFETの素子数は変わらない。なお、制御回路とパワーMOSFETのゲート駆動電圧とパワーMOSFETを近接して配置することが可能であり、各部の高集積化もできる。また、低圧電圧なので、電気的な絶縁回路の必要性も少なく、電流検出回路が複雑化する問題も無い。従って、図32の構成を実現する負担が減少する。
また、矩形波電圧と矩形波電流の積は、正弦波電圧と正弦波電流の積の2倍であり、理論的、単純モデル的には、図32の駆動回路は波形形状の違いで2倍の出力、トルクが可能である。但し、低速回転で、大きなトルクを出力する運転モードである。今、この運転モードで比較すると、図32の駆動回路で矩形波に近い台形波電圧と矩形波に近い台形電流で駆動すれば、インバータ駆動回路のトランジスタを、約1/2近くに小型化でき、軽量化、低コスト化もできることになる。なお、矩形波に近い台形波形状の駆動は低速回転で可能であっても、高速回転では巻線インダクタンスなどにより通電が困難となり、次第に正弦波に近い電流波形形状とせざるを得ないことが多い。しかし、低速回転で最大トルクを必要とし、高速回転ではさほどでも無い用途は、EV、産業機械、家電などに多くあり、矩形波駆動、台形波駆動を効果的に使用できる。
次に、請求項22の実施例を図33に示し、説明する。図33の335は直流電圧源で、336は駆動回路全体のモータ制御回路である。331、332はパワートランジスタで、それぞれ逆並列のダイオードを備えており、巻線33Aへ正あるいは負の電圧を印加し、正あるいは負の電流を通電することができる。破線で囲って示す33K、33L、33M、33N、33P、33Qは、破線で示す33Jと同じ構成であり、7相のモータ駆動の例である。33Kの出力は巻線33Bへ接続し、33Lの出力は巻線33Cへ接続し、33Mの出力は巻線33Dへ接続し、33Nの出力は巻線33Eへ接続し、33Pの出力は巻線33Fへ接続し、33Qの出力は巻線33Gへ接続している。これらの巻線の他端は共通に相互に接続した中性点33Hである。一点鎖線で囲う駆動ユニット33Rには、331、332のパワートランジスタとそれぞれ逆並列のダイオードを備えており、その出力は前記中性点33Hへ接続している。
図33の駆動回路は、2個のトランジスタで1個の巻線の電圧、電流を駆動し、各巻線の他端の中性点33Hを前記駆動ユニット33Rで駆動している。33A、33B、33C、33D、33E、33F、33Gの各相巻線へ各相の正弦波電流を通電する場合、合計電流Iallは0[A]となるが、矩形波電流あるいは矩形波に近い台形波状の電流を通電した場合には合計電流Iallは0[A]とならない。前記駆動ユニット33Rで合計電流Iallを駆動することにより、各巻線の電圧、電流を各相の正弦波電流あるいは台形状の電流として制御可能となる。図33は、例えば、図1の7相のモータを駆動する駆動回路の例である。
また、図33の駆動回路は、モータの相数が異なる場合、33L、33M、33N、33P、33Qなどの駆動ユニットの数を変更して駆動することができる。なお、図33が3相の場合で、一点鎖線で囲う駆動ユニット33Rの無い構成は、通常の3相交流、正弦波電圧、電流の駆動回路として、家電用、産業用などの広範囲なモータ駆動に使用されている。
図33の各駆動ユニットが各巻線へ出力できる電圧は、単純には、図32の各駆動ユニットが各巻線へ出力する電圧の1/2となる。図33の各駆動ユニットのパワートランジスタの数は2個で、図32の各駆動ユニットのパワートランジスタの数は4個である。図33の駆動回路は、図32に比較して、駆動ユニット33Rが必要である。図33と図32とのパワートランジスタの電力容量を比較すると、特に3相などのように相数が少ない場合は、駆動ユニット33Rが必要なので、図33の方が不利である。しかし、相数が多い場合は駆動ユニット33Rの負担が相対的に小さくなり、また、図33の駆動回路はトランジスタの数が少なくてすむので、簡素化できる特徴がある。例えば、7相の場合、図33のパワートランジスタの数は16個であり、図32のパワートランジスタの数は28個である。図33の駆動回路の特徴の一つは、全体の簡素化である。
また、各巻線には種々インダクタンス成分があるため、各巻線へ台形状の電流を増減するタイミングでは、各巻線ごとにそれぞれの位相で大きな電圧が必要となる。図33の駆動ユニット33Rは、前記中性点33Hを図33の駆動回路の平均電圧に保つように作用するだけでなく、各巻線ごとに必要となるそれぞれのタイミングでの過大な電圧を供給するように動作させることもできる。例えば、図33の直流電圧源335の電圧を400[V]とすると、単純には、各巻線へ印加できる最大電圧は200[V]であるが、電流を増減するタイミングでは例えば250[V]などと増加して印加することもできる。極端には、瞬時であれば、通常時の2倍の400[V]を印加できる可能性も有る。例えば、各相の電流波形が増減の急峻な台形波形状の場合、各相がそれぞれの電流を増減するタイミングで大きな電圧を必要とするので、その様な場合には、図33の駆動回路をより効果的に活用でき、全体の小型化が可能となる。
また、図33の駆動回路の変形が可能である。変形の一つは、直流電圧源335を2つの直列電圧源に分割して、中間電圧を作る方法であり、前記中性点33Hをその中間電圧に接続することにより、駆動ユニット33Rを排除することができる。また、他の方法として、前記中性点33Hと直流電圧源335のコモン線の間にコンデンサを配置して、直列電圧源の分割に代用することもできる。この場合も、駆動ユニット33Rを排除することができる。これらの様に、図33の駆動回路を簡素化することも可能である。
以上本発明について説明したが、種々の変形、応用、組み合わせが可能である。アウターロータ型モータ、アキシャルギャップ型モータ、あるいは、リニアモータなどのモータ形状を選択できる。内外径方向に、あるいは、ロータ軸方向に、2個のモータ要素とした複合モータの構成とすることができる。他の種類のモータ要素と組み合わせることも可能である。巻線については、ステータ巻線を集中巻きからトロイダル巻きなどの構成へ変形することもできる。また、モータ磁気回路を構成する軟磁性体として、通常の電磁鋼板の他に圧分磁心、アモルファス金属の鉄心、パーメンジュール、フェライト鉄心などの種々の材料が使える。また、各種リラクタンスモータへ永久磁石を付加した構造のモータへも適用できる。いわゆる磁石内蔵型同期モータIPMSMに含まれる。また、インセットマグネット型モータとも言われ、N極とS極のどちらか片側を軟鉄磁極とするロータ磁極の構成も可能である。また、種々の永久磁石が使用でき、使用時に磁石の磁気特性を可変することも可能である。モータ用電流での磁石の磁気特性の可変、あるいは、専用の着磁装置での磁石可変も可能である。また、本発明に使用するロータの永久磁石を、軟磁性体と界磁励磁巻線及び界磁励磁電流とで構成する電磁石へ置き換えることもでき、その電磁石構成のモータも本発明に含むものとする。部分的な電磁石の活用もある。その場合、界磁励磁電流の大きさを可変して界磁弱め制御、定出力制御でより高速の回転数まで制御することができる。なお、ロータの前記界磁励磁電流は、回転トランスを利用してステータからロータへ界磁電力を供給する方法、ステータ巻線からロータ巻線の一部へ界磁電力を供給し、ダイオードで整流して前記界磁励磁電流として使用する方法などがある。また、各巻線の誘起電圧、磁気特性がロータの回転と共に変化することを利用したセンサレス位置検出技術の活用も可能である。本発明構成に、これらの技術を応用、変形したものは本発明に含むものである。