JP2021050936A - 電気抵抗測定装置、電気抵抗測定方法および電気抵抗算出装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】電気抵抗測定において生じるオフセットを有効に補正する技術を提供する。【解決手段】電気抵抗測定装置1は、作用電極41,43と、参照電極51,53と、作用電極41,43に接続され、一定周期の交流信号を印加する交流電源61と、参照電極51,53に接続され、電位差を測定する電圧計63と、電圧計63によって得られる電圧値に基づいて、細胞層9の電気抵抗を算出する電気抵抗算出部71とを備える。電気抵抗算出部71は、同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を算出する処理を実行するオフセット演算部73を有する。【選択図】図6
Description
この発明は、生体試料の電気抵抗を測定する技術に関する。
膜構造を形成する細胞層のバリア機能を評価する手法として、経上皮電気抵抗(TEER)測定が知られている。TEER測定では、培養プレートの凹部内に、底面が多孔質膜で構成されている有底筒状のインサートが配置され、多孔質膜上に細胞が培養される。また、インサートの内外には、電流を印加するための作用電極が配置されるとともに、電位差を測定するための参照電極が配置される。そして、作用電極間に電流を印加しつつ、参照電極間に発生する電位差を測定することによって、細胞層の電気抵抗が求められる。
特許文献1に記載されているように、電気抵抗測定では、細胞に交流信号を印加する交流インピーダンス法が採用される場合がある。交流インピーダンス法によれば、直流波形を印加する直流分極測定に比べて、細胞に与えるダメージが少なくてすむとともに、測定時間を短くすることができる。また、周波数応答や位相差など、測定から得られる情報が多い。
しかしながら、従来のTEER測定では、交流信号の印加によって、電極の電気二重層に電荷が蓄えられ、これによって、電圧計で測定される電位差にオフセットが生じることが知られている。オフセットの変化量が時間に対して急峻である場合、取得される電圧値の波形自体が大きく変化してしまう。このように、波形がオフセットによって大きく変化してしまうと、測定対象である細胞の電気抵抗を精度良く測定することが困難となる。
本発明の目的は、電気抵抗測定において生じるオフセットを有効に補正する技術を提供することにある。
上記課題を解決するため、第1態様は、生体試料の電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置であって、第1作用電極および第2作用電極と、第1参照電極および第2参照電極と、前記第1作用電極および前記第2作用電極に接続され、一定周期の交流信号を印加する交流電源と、前記第1参照電極および前記第2参照電極に接続され、電位差を測定する電圧計と、前記電圧計によって得られる電圧値に基づいて、前記生体試料の電気抵抗を算出する電気抵抗算出部と、を備え、前記電気抵抗算出部は、同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を算出する処理を実行するオフセット演算部を備える。
第2態様は、第1態様の電気抵抗測定装置であって、前記電気抵抗算出部は、前記オフセット演算部によって得られる前記変化量に基づくオフセットを、前記電圧計によって得られる電圧値から差し引く処理を実行する。
第3態様は、第1態様または第2態様の電気抵抗測定装置であって、前記電気抵抗算出部は、前記2つの電圧値各々が測定された時間を、第1時間および第2時間として、前記第1時間から前記第2時間までの期間内で測定される電圧値から、前記電気抵抗を算出する。
第4態様は、第1態様から第3態様のいずれか1つの電気抵抗測定装置であって、前記第1参照電極および前記第2参照電極の少なくとも一方が、薄膜電極である。
第5態様は、第4態様の電気抵抗測定装置であって、前記薄膜電極が、金(Au)、白金(Pt)、または、酸化インジウムスズ(ITO)のうちいずれかで構成される。
第6態様は、生体試料の電気抵抗を測定する電気抵抗測定方法であって、(a)生体試料を間に挟んで、配置される第1作用電極と第2作用電極との間に、一定周期の交流信号を印加しつつ、前記生体試料を挟んで配置される第1参照電極と第2参照電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、(b)前記電位差測定工程によって得られる、同一位相における2つの電圧値の差分値を算出する工程と、(c)前記差分値から、電圧値の単位時間当たりの変化量を算出する工程とを含む。
第7態様は、生体試料を挟んで位置する第1参照電極と前記生体試料の他方側に位置する第2作用電極との間に一定周期の交流信号を印加したときに、前記生体試料の一方側に位置する第1参照電極と前記生体試料の他方側に位置する第2参照電極との間で発生する電位差から、前記生体試料の電気抵抗を算出する電気抵抗算出装置であって、同一位相における2つの電圧値の差分値から、電圧値の単位時間当たりの変化量を算出するオフセット演算部を備える。
第1態様の電気抵抗測定装置によると、同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を求めることができる。これにより、経時的に大きく変化するオフセットを求めることができる。したがって、電気抵抗測定において生じるオフセットを有効に補正できる。
第2態様の電気抵抗測定装置によると、測定された電圧値からオフセットを差し引くことによって、生体試料の電気抵抗を精度良く求めることができる。
第3態様の電気抵抗測定装置によると、第1時間から第2時間までの電圧値の変化量から単位時間当たりの電圧値の変化量を求めた場合、第1時間から第2時間までの期間中のオフセットを適切に求めることができる。これにより、第1時間から第2時間までの期間中の電圧値を精度良く補正することができるため、当該期間中の電圧値から生体試料の電気抵抗を精度良く求めることができる。
第4態様の電気抵抗測定装置によると、第1参照電極または第2参照電極を薄膜電極とすることにより、第1参照電極または第2参照電極が、電気抵抗測定において妨げになることを抑制できる。
第5態様の電気抵抗測定装置によると、金、白金、およびITOの薄膜電極を作製する際、印刷法を採用することができる。また、金、白金またはITOの薄膜電極を用いることによって生じる電気二重層によるオフセットの影響を、補正処理によって除くことができるため、生体試料の電気抵抗を精度良く行うことができる。
第6態様の電気抵抗測定方法によると、同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を求めることができる。これにより、経時的に大きく変化するオフセットを求めることができる。
第7態様の電気抵抗算出装置によると、同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を求めることができる。これにより、経時的に大きく変化するオフセットを求めることができる。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の説明において、電極保持部材の基板に平行な面を水平面として、水平面に平行な方向を「水平方向」、水平面に垂直な方向を「上下方向」と称する。
<1. 実施形態>
図1は、実施形態の電気抵抗測定装置1と細胞培養容器2とを模式的に示す図である。図2は、細胞培養容器2の上面図である。図3は、実施形態の電極ユニット3の上面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿う位置における電極ユニット3の一部を示す断面図である。図5は、図3のV−V線に沿う位置における電極ユニット3の一部を示す断面図である。
図1は、実施形態の電気抵抗測定装置1と細胞培養容器2とを模式的に示す図である。図2は、細胞培養容器2の上面図である。図3は、実施形態の電極ユニット3の上面図である。図4は、図3のIV−IV線に沿う位置における電極ユニット3の一部を示す断面図である。図5は、図3のV−V線に沿う位置における電極ユニット3の一部を示す断面図である。
電気抵抗測定装置1は、細胞培養容器2で培養された細胞の電気抵抗(インピーダンス)を測定する装置である。電気抵抗測定装置1は、電極ユニット3と、電極ユニット3に接続される測定器4とを備える。電極ユニット3は、細胞培養容器2に載置される。
細胞培養容器2は、細胞の培養に用いられる容器である。細胞培養容器2は、複数のウェル21を有する、いわゆるウェルプレートである。図1に示すように、ウェル21は、細胞培養容器2の上面から下方へ窪む凹部である。図2に示すように、細胞培養容器2においては、縦2行、横3列の計6つのウェル21が格子状に配置される。なお、細胞培養容器2におけるウェル21の数は、6つに限定されるものではなく、1〜5つ、または、7つ以上であってもよい。
細胞培養容器2には、インサートカップ23が設置される。本例では、6つウェル21の内部各々に、インサートカップ23が1つずつ配置される。インサートカップ23は、筒部25と、支持部27と、細胞培養部29とを有する。筒部25は、円錐台状かつ筒状に形成された絶縁性の部位である。支持部27は、筒部25の上端から外方へと延びる。支持部27を細胞培養容器2の上面に載置すると、ウェル21の内部であって、細胞培養部29がウェル21の底面に接触しない位置に、筒部25および細胞培養部29を配置することができる。本実施形態では、筒部25の周方向の3箇所に支持部27が放射状に配置される。しかしながら、支持部27は、筒部25および細胞培養部29を所定の位置に支持できる構成であれば、他の形状であってもよい。例えば、支持部27は、インサートカップ23の周方向の2箇所のみに配置されてもよいし、4箇所以上に配置されてもよい。また、支持部27は、インサートカップ23の周方向の一部から外方へ延びるフランジ状であってもよい。
細胞培養部29は、筒部25の下方の開口を覆う膜である。細胞培養部29には、細胞接着性を有する膜が用いられる。なお、細胞培養部29には、微細な貫通孔が多数設けられた板状の部材が用いられてもよい。測定対象の細胞を培養する際には、ウェル21の内部に、少なくとも細胞培養部29が浸る位置まで培養液が注入される。
電気抵抗測定装置1は、電極ユニット3と、測定器4とを備える。電極ユニット3は、基板31と、6つの第1柱部35と、6つの第2柱部37と、6つの電極セットを有する。電極セットは、作用電極41,43と、参照電極51,53とを1組として備える。電極ユニット3は、細胞培養容器2の6つの各ウェル21に電極セットを1つずつ配置する部材である。
基板31は、水平方向に延びる平板状であり、かつ、絶縁性を有する部材である。基板31は、例えば、ガラスエポキシ樹脂で構成される。基板31は、格子状に配置された複数の観察用開口311を有する。各観察用開口311は、細胞培養容器2の各ウェル21と上下方向に重なる位置に設けられる。
基板31には、複数の導線33が配置されている。各導線33の一端は電極接続端子331である。各導線33は、電極接続端子331を介して、第1柱部35に設けられた作用電極41,43、および、第2柱部37に設けられた参照電極51,53のいずれかに接続される。各導線33の他端は、外部接続端子333である。各導線33は、外部接続端子333を介して、測定器4に接続される。導線33のうち、電極接続端子331を含む少なくとも一部は、基板31の上面にプリント形成される。導線33のその他の部分は、複数層に形成された基板31の内側の層にプリント形成されてもよいし、あるいは、基板31の製造時に内側の層に埋め込まれてもよい。
各観察用開口311の近傍には、第1および第2柱部35,37が1つずつ設けられている。本実施形態では、第1および第2柱部35,37は、6つの観察用開口311各々に対して1つずつ設けられている。なお、第1および第2柱部35,37は、6つの観察用開口311のうち一部に対してのみ設けられてもよい。
第1および第2柱部35,37は、上下方向に延びる四角柱状を有する。第1柱部35の端部および第2柱部37の端部は、基板31に連結しており、第1柱部35および第2柱部37は、基板31に連結する部分から下方へ延びる。第1および第2柱部35,37は、絶縁性を有する部材であって、例えば、ガラスで構成される。第1および第2柱部35,37は、基板31と同様に、ガラスエポキシ樹脂で構成されてもよい。
第1柱部35の外表面には、作用電極41(第1作用電極)と、参照電極51(第1参照電極)とが設けられる。図4に示すように、第1柱部35が有する4つの側面のうち、1つの第1側面351に作用電極41が設けられ、第1側面351に対向する第2側面353に参照電極51が設けられる。作用電極41と参照電極51とは、隣り合わず、間隔を空けて配置される。
第2柱部37の外表面には、作用電極43(第2作用電極)と、参照電極53(第2参照電極)とが設けられる。図5に示すように、第2柱部37が有する4つの側面のうち、1つの第1側面371に作用電極43が設けられ、第1側面371に対向する第2側面373に参照電極53が設けられる。作用電極43と参照電極53とは、隣り合わず、間隔を空けて配置される。
作用電極41,43および参照電極51,53は、導電性部材であって、好ましくは、銀−塩化銀、金(Au)、白金(Pt)、または、酸化インジウムスズ(ITO)などの金属で構成される。また、作用電極41,43および参照電極51,53は、好ましくは金属薄膜である。金属薄膜は、例えば、プリント形成、または、蒸着で形成され得る。作用電極41,43および参照電極51,53を金属薄膜とすることによって、作用電極41,43および参照電極51,53が電気抵抗測定の妨げになることを抑制できる。ただし、作用電極41,43および参照電極51,53のいずれか1つまたは全部を、板状または線状の導電性部材としてもよく、接着剤等を介して第1柱部35または第2柱部37に取り付けられてもよい。
図1等に示すように、基板31には、複数の貫通孔313が設けられる。貫通孔313は、観察用開口311の周囲に設けられる。図1等に示すように、各貫通孔313には、第1柱部35および第2柱部37が挿通される。図1に示すように、第1柱部35および第2柱部37の上端部は、基板31の上面よりも上方に突出する。
図3に示すように、各貫通孔313に隣接する位置には、2つの導線33の電極接続端子331が配置される。図4に示すように、作用電極41および参照電極51はそれぞれ、導電性接続部材315を介して導線33の電極接続端子331に電気的に接続される。
各導電性接続部材315は、略直方体形状である。図3中の拡大部、図4および図5に示すように、導電性接続部材315は、各導線33の電極接続端子331の上に配置される。また、図4に示すように、作用電極41の上端部付近が、1つの導電性接続部材315の側面と導電性接着剤317により接着される。また、当該導電性接続部材315の下面と1つの導線33の電極接続端子331の上面とが、導電性接着剤317により接着される。これにより、作用電極41と1つの導線33とが、導電性接続部材315および導電性接着剤317を介して電気的に接続される。
同様に、参照電極51の上端部付近が、他の1つの導電性接続部材315の側面と導電性接着剤317により接着される。また、導電性接続部材315の下面と他の1つの導線33の電極接続端子331の上面とが、導電性接着剤317により接着される。これにより、参照電極51と他の1つの導線33とが、導電性接続部材315および導電性接着剤317を介して電気的に接続される。
作用電極41および参照電極51が導電性接続部材315を介して基板31に接着されることにより、第1柱部35の上端部が基板31に固定される。作用電極43および参照電極53も、同様に、導電性接続部材315を介して導線33と接続される。
電極ユニット3を細胞培養容器2に載置する際には、図1に示すように、各ウェル21において、インサートカップ23が、水平方向の一方側(図1〜図3では右側)に寄せて配置される。そして、電極ユニット3を細胞培養容器2に載置することによって、第1柱部35の下端部および第2柱部37の下端部が、ウェル21の内側に配置される。
電極ユニット3が細胞培養容器2に載置された状態では、各観察用開口311が各ウェル21の略中央に配置される。図3に示すように、第1柱部35は、観察用開口311の一方側(図3中では右側)に配置され、第2柱部37は、観察用開口311の他方側(図3中では左側)に配置される。インサートカップ23は、ウェル21の一方側に偏って配置されるため、第1柱部35は、インサートカップ23の内部に挿入され、第2柱部37は、インサートカップ23の外部に挿入される。
図1に示すように、第2柱部37は、第1柱部35よりも下方に突出している。電極ユニット3が細胞培養容器2に載置されると、第1柱部35の下端部がインサートカップ23の細胞培養部29よりも上方に配置され、第2柱部37の下端部が細胞培養部29よりも下方に配置される。すなわち、作用電極41および参照電極51の下端部は、ウェル21の細胞培養部29よりも上方に配置され、作用電極43および参照電極53の下端部は、細胞培養部29よりも下方には位置される。
測定器4の構成について、図6を参照しつつ説明する。図6は、実施形態の電気抵抗測定装置1における電気的接続を模式的に示す図である。測定器4は、交流電源61と、電圧計63と、制御部7とを備える。交流電源61は、導線33を介して、作用電極41,43に接続され、一定周期の交流信号を印加する。電圧計63は、導線33を介して、参照電極51,53に接続され、参照電極51,53間の電位差を測定する。図示を省略するが、測定器4は、交流電源61および電圧計63に接続される電極セットを、6つの電極セットの中で切り替える切替回路(不図示)を備えてもよい。切替回路の動作は、制御部7によって制御されてもよい。図6は、6つの中の1つの電極セットが交流電源61および電圧計63に接続されている状態を示している。
制御部7は、図示しないCPU、RAMおよび補助記憶装置(例えば、ハードディスク)を備えた一般的なコンピュータとして構成される。CPUは、補助記憶装置にインストールされたプログラムにしたがって動作することにより、電気抵抗を測定するための各種処理を実行する。なお、制御部7が特定用途向け集積回路(ASIC)などの専用回路を備えることによって、制御部7の各種機能がハードウェア的に実現されてもよい。
制御部7は、交流電源61と電気的に制御されており、交流電源61の動作を制御する。制御部7は、電圧計63と電気的に接続されており、電圧計63から電位差(電圧値)を表す入力信号を受け取る。
図6に示す電気抵抗算出部71は、CPUがプログラムに従って動作することにより実現される機能である。電気抵抗算出部71は、オフセット演算部73を有する。オフセット演算部73は、電圧計63によって得られる電圧値に含まれるオフセットを算出する処理を行う。電気抵抗算出部71が実行する処理については、後述する。電気抵抗算出部71は、電圧計63によって得られる電圧値に対してオフセットを除く補正処理を行うとともに、補正された電圧値から細胞層9の電気抵抗を求める処理を実行する。電気抵抗算出部71を備える制御部7は、電気抵抗算出装置の一例である。
<電気抵抗測定について>
電気抵抗測定装置1を用いて細胞層9の電気抵抗を測定する場合、図1に示すように、細胞培養部29上に測定対象である細胞層9が形成されたインサートカップ23が、細胞培養容器2のウェル21にセットされる。そして、細胞培養容器2に電極ユニット3が載置される。各ウェル21には、第1柱部35および第2柱部37に設けられた作用電極41,43および参照電極51,53の先端が浸る程度に、導電性を有する溶液(培養液など)が注入される。この状態で、電極ユニット3の各導線33に、測定器4が接続される。これにより、図6に示す回路が形成され、細胞層9の電気抵抗測定が可能な状態となる。
電気抵抗測定装置1を用いて細胞層9の電気抵抗を測定する場合、図1に示すように、細胞培養部29上に測定対象である細胞層9が形成されたインサートカップ23が、細胞培養容器2のウェル21にセットされる。そして、細胞培養容器2に電極ユニット3が載置される。各ウェル21には、第1柱部35および第2柱部37に設けられた作用電極41,43および参照電極51,53の先端が浸る程度に、導電性を有する溶液(培養液など)が注入される。この状態で、電極ユニット3の各導線33に、測定器4が接続される。これにより、図6に示す回路が形成され、細胞層9の電気抵抗測定が可能な状態となる。
電極ユニット3には、各ウェル21に対応する観察用開口311を設けている。これにより、細胞培養部29上で培養される細胞の観察を行いやすい。さらに、第1および第2柱部35,37を観察用開口311と上下方向に重ならない位置に配置することにより、細胞層9の電気抵抗の測定と、細胞層9の観察とを同時に行うことができる。
図6中、抵抗Rmは、細胞培養部29および細胞培養部29上に培養された細胞層9(以下、細胞培養部29と細胞層9とをまとめて「細胞部」と称する。)の電気抵抗に相当する。抵抗Rw1は、作用電極41と細胞部との間にある培養液の電気抵抗に相当する。抵抗Rw2は、作用電極43と細胞部との間にある培養液の電気抵抗に相当する。抵抗Rr1は、参照電極51と細胞部との間にある培養液の電気抵抗に相当する。抵抗Rr2は、参照電極53と細胞部との間にある培養液の電気抵抗に相当する。なお、細胞層9の電気抵抗測定に先だち、抵抗Rw1,Rr1,Rw2,Rr2と、細胞層9が無い状態での細胞培養部29のみの抵抗Rmとの各電気抵抗値は、あらかじめコントロールとして測定される。
図7は、電気抵抗測定装置1を用いた電気抵抗測定の流れ図である。図7に示す各処理は、特に断らない限り、制御部7の制御下で実行されるものとする。電気抵抗測定では、順に、電位差測定工程S1、差分値算出工程S2、変化量算出工程S3、補正工程S4、電気抵抗算出工程S5が実行される。
電位差測定工程S1は、細胞層9の電気抵抗測定が可能となった状態で実行される。電位差測定工程S1では、制御部7が、交流電源61を駆動することによって、作用電極41,43間に、一定周期Tの交流信号を印加する。また、制御部7は、電圧計63によって測定される電圧値を取得する。電位差測定工程S1では、時間的に継続して1周期以上の交流信号が印加されることにより、少なくとも1周期分の電圧値が測定される。
図8は、測定によって得られる電圧値の波形91(矩形波)を示す図である。図8中、横軸は時間(位相)を示しており、縦軸は電圧を示している。交流電源61が矩形波の交流信号を印加すると、電圧計63によって測定される電圧値は、矩形波である波形91となる。波形91では、交流信号に依存した電圧変動に加えて、電圧値の線形的な増加(オフセット)が生じている。このオフセットは、時間の経過とともに線形的に大きくなっている。このオフセットは、参照電極51,53における電気二重層に電荷が蓄積されることによって、見かけの電圧値が増大することに起因すると考えられる。このオフセットを含む電圧値のまま、細胞層9の電気抵抗を正確に求めることは困難である。また、交流信号の印加により、細胞層9へダメージが加わるおそれがあるため、交流信号の印加後、できるだけ早期に得られる電圧値から、電気抵抗を求めることが望ましい。
電気抵抗測定装置1では、測定された電圧値からオフセットを除く処理が実行される。具体的には、まず、図7に示す差分値算出工程S2が行われる。差分値算出工程S2では、オフセット演算部73が、電位差測定工程S1によって得られた電圧値から、同一位相における2つ電圧値の差分値を算出する処理を実行する。
例えば、電位差測定工程S1によって、図8に示す波形91が得られたとする。波形91は、時間0〜時間2Tまでの2周期分の波形である。ここでは、便宜上、時間0〜時間Tまでを第1周期T1、時間T〜時間2Tまでを第2周期T2と称する。波形91において差分値を求めるため、オフセット演算部73は、例えば、第1の電圧値として、第1周期T1における時間T/4の電圧値V1(点P1)を選択したとする。この場合、オフセット演算部73は、第2の電圧値として、第2周期T2における時間T/4と同一位相である時間5T/4の電圧値V2(点P2)を選択する。そして、オフセット演算部73は、選択された2つの電圧値V1,V2から、これらの差分値ΔV(=V2−V1)を算出する。
変化量算出工程S3では、オフセット演算部73が、差分値ΔVから、単位時間当たりのオフセット変化量Kを算出する処理を実行する。例えば、図8に示す例において、オフセット演算部73は、選択された2つの電圧値V1,V2の差分値ΔVを、2つの電圧値が測定された測定時間の時間差T(=5T/4−T/4)で割る。これによって、オフセット演算部73は、単位時間当たりのオフセット変化量Kとして、ΔV/Tを算出する。このオフセット変化量Kは、図8に示すように、波形91における2つの点P1,P2を結ぶ直線L1の傾きに相当する。
差分値算出工程S2に関して、図8に示す例では、同一位相の電圧値として、1周期分の時間差Tとなる2つの電圧値V1,V2が選択されているが、2周期以上の時間差となる2つの電圧値が選択されてもよい。すなわち、差分値算出工程S2においては、nを1以上の自然数として、n周期分の時間差となる2つの電圧値の差分値が求められる。そして、変化量算出工程S3では、差分値算出工程S2で得られた差分値を、2つの電圧値の測定時間の時間差(すなわち、n周期分)で割ることによって、単位時間当たりのオフセット変化量Kが求められる。
なお、オフセット変化量を1つの位相における差分値ΔVのみから求めることは必須ではない。例えば、異なる位相毎にオフセット変化量Kを求め、求められた複数のオフセット変化量Kの代表値(平均値または中央値など)を最終的なオフセット変化量Kとしてもよい。具体的に、図8に示す例では、T/4に対応する位相でのオフセット変化量Kを求めているが、T/4とは異なる位相(例えば、T/2、または、3T/4に対応する位相)でのオフセット変化量Kも求めてもよい。そして、求められた複数のオフセット変化量Kの代表値を、最終的なオフセット変化量Kとしてもよい。
補正工程S4では、オフセット演算部73が、オフセットを求める処理を実行するとともに、電気抵抗算出部71が、求められたオフセットを電圧計63で得られた電圧値から除く補正処理を行う。具体的に、オフセットは、時間tを変数とし、変化量算出工程S3にて求められたオフセット変化量Kを傾きとする一次式f(t)=Ktとされる。電気抵抗算出部71は、電位差測定工程S1で得られた各時間tの電圧値から、一次式f(t)で求められるオフセットを差し引く。これにより、オフセットについて補正された電圧値が得られる。
電気抵抗算出工程S5では、電気抵抗算出部71が、補正後の電圧値を、交流信号の電流値で割ることによって、電気抵抗が算出される。図8に示す波形91rは、波形91において、オフセットを除く補正処理によって得られる波形である。波形91rにおいては、経時的に線形的に大きくなるオフセット成分が除去される。このため、波形91rが示す電圧値から電気抵抗を算出することによって、細胞層9の電気抵抗を精度良く求めることができる。
ここで、変化量算出工程S3においてオフセット変化量Kを求めるために、差分値算出工程S2にて選択された2つの電圧値各々の測定時間を、それぞれ、第1時間t1、第2時間t2(t1<t2)とする。すると、オフセット変化量Kに基づくf(t)によると、第1時間t1から第2時間t2までの期間中のオフセットを精度良く求めることができるため、当該期間中の電圧値を精度良く補正することができると考えられる。そこで、電気抵抗算出工程S5では、電気抵抗算出部71は、第1時間t1〜第2時間t2の期間内の電圧値から電気抵抗を求めることが望ましい。例えば、図8に示す例では、第1時間t1がT/4、第2時間t2が5T/4である。このため、電気抵抗算出部71が、補正後の波形91rのうち、T/4〜5T/4までの期間内の電圧値から電気抵抗を算出することによって、細胞層9の電気抵抗を精度良く求めることができると考えられる。ただし、電気抵抗算出部71が、時間T/4から時間5T/4までの期間以外で測定された電圧値から、電気抵抗を求めることは妨げられない。
図9は、測定によって得られる電圧値の波形93(正弦波)を示す図である。図9中、横軸は時間(位相)を示しており、縦軸は電圧を示している。作用電極41,43に正弦波の交流信号を印加すると、測定される電圧値は、正弦波である波形93となる。この波形93に対しても、差分値算出工程S2、変化量算出工程S3、および、補正工程S4が順次行われることによって、オフセット成分が除かれた波形93rを取得することができる。このため、波形93rから電気抵抗を算出することによって、細胞層9の電気抵抗を精度良く求めることができる。
<効果>
電気抵抗測定装置1によると、電気抵抗測定時に生じる電圧値のオフセットを、適切に補正することができるため、細胞層9の電気抵抗を精度良く求めることができる。
電気抵抗測定装置1によると、電気抵抗測定時に生じる電圧値のオフセットを、適切に補正することができるため、細胞層9の電気抵抗を精度良く求めることができる。
電極を銀−塩化銀で構成する場合、まず銀電極を作製した後に、当該銀電極に対して塩化処理を実施する必要がある。このため、電極の製造コストが増加する。これに対して、電極を金、白金、または、酸化インジウムスズで構成する場合、塩化処理に相当する追加の処理を特に必要としないため、電極の製造コストを抑えることができる。ただし、参照電極51,53に金、白金、または酸化インジウムスズの金属電極を採用した場合、銀−塩化銀合を採用した場合と比較して、電気二重層容量の影響が大きくなる。これに対して、電気抵抗測定装置1によれば、オフセットを適切に補正することができるため、金、白金、または酸化インジウムスズの金属電極を採用した場合であっても、細胞層9の電気抵抗を適正に求めることができる。
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
例えば、上記説明では、電気抵抗測定装置1による電気抵抗の測定対象が細胞層9としているが、生体組織をであってもよい。
また、各導線33は、基板31にプリントされたものに限定されない。また、図3に示す導線33の配置は、適宜変更し得る。
電極ユニット3の細部の構成については、本願の各図と相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
1 電気抵抗測定装置
3 電極ユニット
41,43 作用電極
51,53 参照電極
61 交流電源
63 電圧計
7 制御部(電気抵抗算出装置)
71 電気抵抗算出部
73 オフセット演算部
9 細胞層(生体試料)
91,93 波形
91r,93r 補正後の波形
K オフセット変化量
S1 電位差測定工程
S2 差分値算出工程
S3 変化量算出工程
S4 補正工程
S5 電気抵抗算出工程
t1 第1時間
t2 第2時間
3 電極ユニット
41,43 作用電極
51,53 参照電極
61 交流電源
63 電圧計
7 制御部(電気抵抗算出装置)
71 電気抵抗算出部
73 オフセット演算部
9 細胞層(生体試料)
91,93 波形
91r,93r 補正後の波形
K オフセット変化量
S1 電位差測定工程
S2 差分値算出工程
S3 変化量算出工程
S4 補正工程
S5 電気抵抗算出工程
t1 第1時間
t2 第2時間
Claims (7)
- 生体試料の電気抵抗を測定する電気抵抗測定装置であって、
第1作用電極および第2作用電極と、
第1参照電極および第2参照電極と、
前記第1作用電極および前記第2作用電極に接続され、一定周期の交流信号を印加する交流電源と、
前記第1参照電極および前記第2参照電極に接続され、電位差を測定する電圧計と、
前記電圧計によって得られる電圧値に基づいて、前記生体試料の電気抵抗を算出する電気抵抗算出部と、
を備え、
前記電気抵抗算出部は、
同一位相における2つの電圧値の差分値から、単位時間当たりの電圧値の変化量を算出する処理を実行するオフセット演算部、
を備える、電気抵抗測定装置。 - 請求項1の電気抵抗測定装置であって、
前記電気抵抗算出部は、
前記オフセット演算部によって得られる前記変化量に基づくオフセットを、前記電圧計によって得られる電圧値から差し引く処理を実行する、電気抵抗測定装置。 - 請求項1または請求項2の電気抵抗測定装置であって、
前記電気抵抗算出部は、
前記2つの電圧値各々が測定された時間を、第1時間および第2時間として、
前記第1時間から前記第2時間までの期間内で測定される電圧値から、前記電気抵抗を算出する、電気抵抗測定装置。 - 請求項1から請求項3のいずれか1項の電気抵抗測定装置であって、
前記第1参照電極および前記第2参照電極の少なくとも一方が、薄膜電極である、電気抵抗測定装置。 - 請求項4の電気抵抗測定装置であって、
前記薄膜電極が、金(Au)、白金(Pt)、または、酸化インジウムスズ(ITO)のうちいずれかで構成される、電気抵抗測定装置。 - 生体試料の電気抵抗を測定する電気抵抗測定方法であって、
(a) 生体試料を間に挟んで、配置される第1作用電極と第2作用電極との間に、一定周期の交流信号を印加しつつ、前記生体試料を挟んで配置される第1参照電極と第2参照電極との間の電位差を測定する電位差測定工程と、
(b) 前記電位差測定工程によって得られる、同一位相における2つの電圧値の差分値を算出する工程と、
(c) 前記差分値から、電圧値の単位時間当たりの変化量を算出する工程と、
を含む、電気抵抗測定方法。 - 生体試料を挟んで位置する第1参照電極と前記生体試料の他方側に位置する第2作用電極との間に一定周期の交流信号を印加したときに、前記生体試料の一方側に位置する第1参照電極と前記生体試料の他方側に位置する第2参照電極との間で発生する電位差から、前記生体試料の電気抵抗を算出する電気抵抗算出装置であって、
同一位相における2つの電圧値の差分値から、電圧値の単位時間当たりの変化量を算出するオフセット演算部、
を備える、電気抵抗算出装置。
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PCT/JP2020/032922 WO2021054103A1 (ja) | 2019-09-20 | 2020-08-31 | 電気抵抗測定装置、電気抵抗測定方法および電気抵抗算出装置 |
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Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2019172220A JP2021050936A (ja) | 2019-09-20 | 2019-09-20 | 電気抵抗測定装置、電気抵抗測定方法および電気抵抗算出装置 |
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Publication Number | Publication Date |
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JP2021050936A true JP2021050936A (ja) | 2021-04-01 |
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WO (1) | WO2021054103A1 (ja) |
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- 2020-08-31 WO PCT/JP2020/032922 patent/WO2021054103A1/ja active Application Filing
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