JP2021034489A - 超伝導コイルおよびmri装置 - Google Patents

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秀樹 田中
孝明 鈴木
Takaaki Suzuki
孝明 鈴木
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Kazumune Kodama
一宗 児玉
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Takeshi Wakuta
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Abstract

【課題】 臨界電流値や臨界電流密度を極端に低下させることなく、超伝導コイルの口出し部などにおける線材の曲げ半径が超伝導コイルのコイル部における曲げ半径よりも小さな超伝導コイルおよびこれを備えたMRI装置を提供する。
【解決手段】 本発明の複数の超伝導フィラメント2が配置された超伝導線材1が巻回された超伝導コイル100は、超伝導コイルの口出し部30における超伝導線材の曲がり部に、所定の超伝導フィラメントの圧縮ひずみ、引張ひずみ、および超伝導線材の曲げ中立線からの超伝導フィラメントの配置距離(配置半径r)により定まる曲げ方向の厚みtを有する曲げ補強部材(10、12)を接合した。
【選択図】 図1

Description

本発明は、超伝導線材を巻回した超伝導コイルおよびこれを備えたMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)装置に関する。
MRI装置では、強力かつ安定的な磁場を必要とするため、低温超伝導線材であるNbTi(ニオブチタン)線材を巻回した超伝導コイルにより所望の磁場を得ている。一般的なNbTi超伝導コイルは液体ヘリウムを必要とするため、液体ヘリウムを必要としない高い温度で超伝導状態になるMgB2(二ホウ化マグネシウム)線材を巻回した超伝導コイルが開発されている。
前駆体を熱処理したMgB2線材をコイル状に巻きまわすリアクト・アンド・ワインド法で作成したMgB2超伝導コイルでは、許容曲げ半径が存在し、その曲げ半径よりも小さな曲率で曲げるとMgB2線材の超伝導特性が低下してしまう。このため、許容曲げ半径はMgB2超伝導コイルの設計・作製の制約になっている。
非特許文献1には、MgB2線材に対し、室温で引っ張り負荷や曲げ負荷を印加した際の許容引っ張り歪みは、0.2%程度であることが記載されている。MgB2線材を巻回して超伝導コイルを作製する際には、線材に対する引っ張りや曲げにより、MgB2線材に許容される引っ張り歪みを超過した場合には、その超伝導特性を低下させる懸念がある。より詳細には、MgB2線材の曲げによる性能低下は、MgB2フィラメント部に加えられる歪みが許容値を超えることで発生する。
特許文献1には、Bi系やY系の高温超伝導コイルにおいて、基材と、基材上方に設けられた高温超伝導層と、高温超伝導層上方に設けられた安定化層とを備える超伝導線材を、安定化層側を外側として巻回してなるコイル体と、このコイル体の前記超伝導線材の巻回終端部の前記安定化層上に設けられた電極と、を備え、超伝導線材の巻回終端部と電極とが、コイル体の周方向から径方向外側に向かって一体に折り曲げられており、電極のコイル体周面に沿う部分と、電極のコイル体の外側に延出された部分との両方が、安定化層と電気的に接続される構成が開示されている。
特開2012−164859号公報
Hideki Tanaka et al., "Tensile and Bending Stress Tolerance on Round MgB2 Wire Made By In Situ PIT Process", IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY, VOL. 28, NO. 4, JUNE 2018,
MgB2線材を巻回した超伝導コイル、および超伝導コイルを1つまたは複数個組み合わせた超伝導磁石では、ソレノイド形状やレーストラック形状が採用されることが多くある。この場合、ソレノイド形状やレーストラック形状の巻線部(コイル部)の曲げ半径は、およそ一定の大きさであり、その曲げひずみは、MgB2線材の許容ひずみを満たしている。
これに対し超伝導コイルの口出し部は、電極や他のコイルとの接続のため、超伝導コイルの巻線部(コイル部)の曲率より小さな曲率で、MgB2線材を曲げたい場合がある。例えば、両端の口出し部をコイル部と同じ曲率で曲げた場合、超伝導コイルが大きくなるなど、超伝導磁石の形状に問題が生じることがある。
特許文献1の開示技術によれば、高温超伝導コイルの電極を、コイル体の周方向から径方向外側に向かって、超伝導線材と一定に折り曲げて設けている。しかし、特許文献1の開示技術は、基材層にBi系やY系の高温超伝導層が形成された超伝導線材に関する技術であり、前駆体を熱処理した複数のMgB2フィラメントから形成されるMgB2線材をコイル状に巻回する超伝導コイルに適用することができない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、臨界電流値や臨界電流密度を極端に低下させることなく、超伝導コイルの口出し部などにおける線材の曲げ半径が超伝導コイルのコイル部における曲げ半径よりも小さな超伝導コイルおよびこれを備えたMRI装置を提供することにある。
前記課題を解決するため、本発明の超伝導コイルは、複数の超伝導フィラメントが配置された超伝導線材が巻回された超伝導コイルであって、前記超伝導コイルの口出し部における前記超伝導線材の曲がり部に、所定の前記超伝導フィラメントの圧縮ひずみ、引張ひずみ、および前記超伝導線材の曲げ中立線からの前記超伝導フィラメントの配置距離により定まる曲げ方向の厚みを有する曲げ補強部材を接合した。
本発明によれば、臨界電流値や臨界電流密度を低下させることなく、超伝導コイルの口出し部などにおける線材の曲げ半径が超伝導コイルのコイル部における曲げ半径よりも小さな超伝導コイルおよびこれを備えたMRI装置を提供できる。
超伝導コイルの口出し部における、超伝導線材の断面を示す断面図である。 t/2<rにおける圧縮ひずみと引張ひずみを説明する図である。 t/2≧rにおける圧縮ひずみと引張ひずみを説明する図である。 湾曲した初期状態の超伝導線材と同じ曲げ方向に曲げ半径を小さくする場合を説明する図である。 湾曲した初期状態の超伝導線材と同じ曲げ方向に曲げ半径を大きくする場合を説明する図である。 湾曲した初期状態の超伝導線材を反対方向に曲げる場合を説明する図である。 凹字型形状の曲げ補強部材を説明する図である。 ソレノイド状の超伝導コイルにおける口出し部の構成を説明する図である。 実施形態の超伝導コイルを適用したMRI装置の構成を説明する図である。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、実施形態の超伝導コイル100の口出し部30(図5参照)における、超伝導線材1の断面を示す図である。
実施形態の超伝導コイル100は、超伝導線材1が一定の太さで一方向にソレノイド状に巻かれている。この超伝導線材1の、超伝導コイル100の磁束方向あるいは超伝導コイル100の巻線部の径方向に、給電のために曲げられた部分を口出し部30と称する。また、超伝導線材1の配線部における、曲げ半径が小さな部分でも実施することができる。
詳細は後述するが、図5は、ソレノイド状の超伝導コイル100における口出し部30の外観を示している。
まず、図1の断面図により、超伝導材としてMgB2を使用した超伝導線材1の構成を説明する。
超伝導線材1は、1本または複数本のMgB2フィラメント2(超伝導フィラメントまたはMgB2線材と記す場合もある)、銅等の金属母材3、および絶縁材4(不図示)から構成され、MgB2フィラメント2が金属母材3に埋め込まれている。符号“r”は、MgB2フィラメント2の配置半径を示している。また、符号“r0”は、超伝導線材1の半径を示している。
詳しくは、超伝導線材1は、つぎのように作製する。まず、MgB2粉体を金属シースに詰込んだMgB2フィラメント2を複数用意し、このMgB2フィラメント2を、金属母材3の内部に環状に等間隔配置し、別の外層金属シースに挿入する。なお、厳密には熱処理前のものはMgB2フィラメントの前駆体であり、熱処理後のみをMgB2フィラメントと称すべきであるが、便宜上両方をMgB2フィラメントと称する。
そして、それを引き抜き加工などにより伸線処理し、超伝導線材1の長さ方向にツイスト加工を施して前駆体を作製する。
つぎに、超伝導線材1の前駆体を巨大なボビンに巻回された状態で熱処理して、超伝導線材1を作製する。
なお、図1の超伝導線材1は円形断面を有する線材として示しているが、矩形断面を有し、MgB2フィラメント2として配置されていてもよい。
図1に示すように、超伝導コイル100の口出し部30では、超伝導線材1の曲げ外側に曲げ補強部材10を設け、超伝導線材1と曲げ補強部材10とをハンダ付け等により接合する。これにより、超伝導コイル100の口出し部30では、曲げ補強部材10により、超伝導線材1の曲げを補強している。
図1の符号“20”は、曲げの中立面の位置(中立線)を示している。
曲げ補強部材10は、図1に示す板形状に限定されず、他の形状であってもよく、超伝導線材1の曲げ耐性を強化したい箇所に対して曲げ外側(図1の引張側)に位置するように設ける。曲げ補強部材10は、銅等の金属材料であれば良く、また、超伝導線材1と曲げ補強部材10の接合は、樹脂や接着剤による接合でもよい。
つぎに、図2Aと図2Bにより、超伝導線材1の曲げにより生じる圧縮ひずみと引張ひずみについて説明する。
図2Aの左側に、超伝導線材1に曲げモーメントが作用した際(図の矢印付き円弧)の、半径r0の超伝導線材1に生じる圧縮応力と引張応力とを示している。符号“R”は、中立線(中立面)20の曲げ半径を示している。この曲げ半径Rは、超伝導線材1の曲げ半径に相当する。図2Aと図2Bと他の図も超伝導線材1に生じる応力分布を示している。
中立線20から距離y離れた位置の断面のひずみεは、ε=y/Rとなるので、超伝導線材1の曲げ内側(圧縮側)における配置半径rのMgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεCと、曲げ外側(引張側)における配置半径rのMgB2フィラメント2の最大引張ひずみεTは、r/Rになる。
MgB2フィラメント2の限界引張ひずみは0.2%程度であり、また、限界圧縮ひずみは数%である。このため、MgB2フィラメント2から成る超伝導線材1は、引張ひずみよりも圧縮ひずみに対してその超伝導特性を大きく損なうことなく耐えられる。なお、MgB2フィラメント2の許容引張ひずみの値は、MgB2と金属シースとの熱膨張係数差と、熱処理温度と許容ひずみを測定する温度(一般的に室温)との温度差を用いて、熱膨張係数差と温度差との積で求まる残留圧縮ひずみの値とほぼ等しい。
したがって、図2Aの左側の超伝導線材1では、超伝導線材1の曲げ半径Rは、MgB2フィラメント2の限界引張ひずみに拘束される。
ここで、限界引張ひずみは、MgB2フィラメント2が破断して超伝導線材1の超伝導特性が低下する限界のひずみを意味し、限界圧縮ひずみは、MgB2フィラメント2が座屈して超伝導線材1の超伝導特性が低下する限界のひずみを意味する。
そこで、実施形態の超伝導コイル100では、超伝導線材1の曲げ外側に曲げ補強部材10を接合して、超伝導線材1の曲げ外側(引張側)に生じるMgB2フィラメント2の引張ひずみの最大値(最大引張ひずみεT)と、曲げ内側(圧縮側)に生じるMgB2フィラメント2の圧縮ひずみの最大値(最大圧縮ひずみεC)を調整する。
なお、MgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみが限界引張ひずみより小さい場合には、超伝導線材1の曲げ内側に曲げ補強部材10を接合すればよい。これは前述の残留圧縮ひずみが比較的大きな場合に発生する。
図2Aの右側により、超伝導線材1に曲げ補強部材10(厚みt)を接合した状態において所定の曲げモーメント(図の矢印付き円弧)が加わった際の、超伝導線材1の曲げ内側(圧縮側)のMgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεCと、曲げ外側(引張側)のMgB2フィラメント2の最大引張ひずみεTを説明する。
なお、曲げ補強部材10の厚みtは、t/2<rの関係にあるものとする。つまり、曲げ補強部材10の厚みtは、超伝導線材1のMgB2フィラメント2の配置半径の2倍(2r)よりも小さい、つまり超伝導線材1の線径よりも小さいものとする。
さらに、超伝導線材1および曲げ補強部材10が接合した超伝導線材1は、中立線20に軸対称な機械特性を有しているとみなす。
この際の中立線20の曲げ半径R´は、R´=R+t/2となる。そして、超伝導線材1の曲げ内側(圧縮側)のMgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεCと、曲げ外側(引張側)のMgB2フィラメント2の最大引張ひずみεTは、
εC=(t/2+r)/R´ (1)
εT=(r−t/2)/R´ (2)
となる。
式(1)(2)から、
εC+εT=2r/R´ (3)
εC−εT= t/R´ (4)
となり、式(3)(4)から、
(εC−εT)/(εC+εT)=t/2r (5)
となる。
式(5)から、曲げ補強部材10の厚みtと、超伝導線材1のMgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεC、最大引張ひずみεTとMgB2フィラメント2の配置半径rの関係は、
t=2r×(εC−εT)/(εC+εT) (6)
となる。
つぎに、図2Bにより、曲げ補強部材10の厚みtがt/2≧rの関係にある場合、つまり、曲げ補強部材10の厚みtが、MgB2フィラメント2の配置半径の2倍(2r)以上の場合における、超伝導線材1のMgB2フィラメント2に生じる圧縮ひずみと引張ひずみについて説明する。
図2Bの左側は、図2Aと同じ、曲げ補強部材10を接合していない状態を示している。ここでは、説明を省略する。
図2Bの右側に、厚みtがt/2≧rの曲げ補強部材10を接合した状態において所定の曲げモーメント(図の矢印付き円弧)が加わった際の、超伝導線材1に生じる応力分布を示す。
この場合、曲げ補強部材10を接合した超伝導線材1の中立線20の位置は、MgB2フィラメント2の配置半径の外側となるため、超伝導線材1の断面には圧縮応力のみが作用し、MgB2フィラメント2に圧縮ひずみが生じる。
この場合の超伝導線材1の曲げ内側(圧縮側)のMgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεCは、
εC=(t/2+r)/R´ (1)
となる。
t/2<rの場合、MgB2フィラメント2の配置半径の2倍(2r)と、超伝導線材1の最大圧縮ひずみεCと最大引張ひずみεTとに対する、超伝導線材1に接合する曲げ補強部材10の厚みtは、上記の式(6)に示される関係となっている。したがって、MgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみ値を最大圧縮ひずみεCとし、MgB2フィラメント2の限界引張ひずみ値を最大引張ひずみεTとすれば、MgB2フィラメント2の配置半径の2倍(2r)から曲げ補強部材10の厚みtを求めることができる。
なお、超伝導コイル100の使用環境や材料の経年劣化等を考慮して安全率を設け、超伝導線材1の限界圧縮ひずみ以下の値を最大圧縮ひずみεCとし、限界引張ひずみ以下の値を最大引張ひずみεTとしてもよい。
また、式(6)による計算値に10%の許容範囲を設けて、
0.9×2r×(εC−εT)/(εC+εT) < t < 1.1×2r×(εC−εT)/(εC+εT) (7)
を、曲げ補強部材10の厚みtの範囲としてもよい。
MgB2フィラメント2を含む超伝導線材1では、限界引張ひずみ値と限界圧縮ひずみ値との比が、1:6であるとすると、式(7)は、
0.65 < t/2r < 0.78 (8)
と表される。
つぎに、曲げ補強部材10の厚みtの決定手順をより具体的に説明する。
まず、MgB2フィラメント2の配置半径rと、取得方法を後述するMgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみと限界引張ひずみを取得する。そして、取得した限界圧縮ひずみを最大圧縮ひずみεC、限界引張ひずみを最大引張ひずみεTとするか、または、安全率を考慮して取得した限界圧縮ひずみ以下の値を最大圧縮ひずみεCとし、限界引張ひずみ以下の値を最大引張ひずみεTとする。
そして、式(6)に基づいて、曲げ補強部材10の厚みtを算出する。
つぎに、式(3)または式(4)から、曲げ半径R´の最小値を算出する。そして、口出し部30における超伝導線材1の目標曲げ半径を求めて、曲げ半径R´の最小値と比較する。曲げ半径R´の最小値が目標曲げ半径以下であれば、曲げ補強部材10の厚みを式(6)に基づいて算出したt値とする。
曲げ半径R´の最小値が目標曲げ半径より大きい場合には、目標曲げ半径で超伝導線材1を曲げると、圧縮ひずみまたは引張ひずみが許容値を超えて、超伝導線材1の超伝導特性が低下する。このため、口出し部30における超伝導線材1の目標曲げ半径が、曲げ半径R´の最小値以上になるように、設計変更する。
上記では、口出し部30における超伝導線材1の目標曲げ半径を評価する手順としたが、口出し部30以外の超伝導線材1の目標曲げ半径を、式(3)または式(4)から算出した曲げ半径R´としてもよい。
口出し部30において複数の超伝導線材1の曲がり部があり、それぞれの曲がり部で超伝導線材1に曲げ補強部材10を設ける場合には、上記の手順によりそれぞれの曲がり部について曲げ補強部材10の厚みtを算出する。
また、超伝導線材1の曲げ半径が最小の曲がり部について、曲げ補強部材10の厚みtを算出し、他の曲がり部は、同じ厚みtの曲げ補強部材10を接合するようにしてもよい。
上記の手順により決めた厚みtの曲げ補強部材10が超伝導線材1に接合された口出し部30の曲がり部では、生じる最大圧縮ひずみεCと最大引張ひずみεTが、曲がり部の曲げ半径に応じて、式(6)の関係を満たして変化するが、生じる最大圧縮ひずみεCと最大引張ひずみεTは、MgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみと限界引張ひずみの値以下の値となる。
つぎに、MgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみと限界引張ひずみとの取得方法について説明する。
超伝導線材1に埋め込まれたMgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみと限界引張ひずみは、評価温度によっても異なるが、本実施形態では、室温において取得するものとする。
なお、上記のとおり、巨大なボビンに巻回した状態で熱処理して超伝導線材1を作製する場合には、超伝導線材1に曲がりが生じているが、ひずみはゼロの状態である。以下の説明では、直線状で熱処理された場合を基準、すなわちひずみゼロとして説明する。
超伝導線材1が、初期状態で湾曲している場合の取り扱いについては後述する。
直線状で熱処理されて作製された超伝導線材1を曲げ半径Rで曲げた場合、図2Aで説明したように、最大圧縮ひずみεCと最大引張ひずみεTとで、同一の、r/Rの大きさのひずみがMgB2フィラメント2に生じる。
超伝導線材1のMgB2フィラメント2は、圧縮ひずみに比べて引張ひずみに対する耐性が弱い。このため、曲げ半径Rを段階的に小さくしていった場合、最大引張ひずみεTが生じる曲げ外側(引張側)に位置するMgB2フィラメント2において、引っ張りによる断裂が発生し、超伝導線材1としての超伝導特性が低下する。
この超伝導特性が低下した際の曲げ半径RとMgB2フィラメント2の配置半径rとから、最大引張ひずみεTを算出し、これをMgB2フィラメント2の限界引張ひずみとする。
超伝導特性の低下は、例えば、臨界電流値とn値とを測定することで判定することができる。ここで、n値は、超伝導体内の電磁現象(E−J特性)をべき乗則で考慮したモデルであるn値モデルにおけるべき乗数である。n値が大きいほど超伝導特性が優れている。
MgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみはつぎのようにして求める。
図2Bで説明したように、超伝導線材1の曲げ外側に、曲げ補強部材10の厚みtがt/2≧rの関係にある場合、超伝導線材1を、曲げ半径Rで曲げると、超伝導線材1に圧縮ひずみのみが生じる。
曲げ半径Rを段階的に小さくしていった場合、最大圧縮ひずみεCが生じる曲げ内側(圧縮側)に位置するMgB2フィラメント2において、圧縮による座屈が発生し、超伝導線材1としての超伝導特性が低下する。
この超伝導特性が低下した際の曲げ半径R´とMgB2フィラメント2の配置半径rとから、最大圧縮ひずみεCを算出し、これをMgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみとする。
この際の超伝導特性の低下判定は、限界引張ひずみの取得の場合と同様に行う。
上記の説明では、超伝導線材1のMgB2フィラメント2が、圧縮ひずみに比べて引張ひずみに対する耐性が弱い場合について説明したが、引張ひずみに比べて圧縮ひずみに対する耐性が弱い場合もある。
例えば、限界引張ひずみは、超伝導線材1のMgB2フィラメント2生成の熱処理温度と、限界引張ひずみを評価する温度(本実施形態では室温)との温度差によりMgB2フィラメント2に加わる残留圧縮ひずみに左右されるため、熱処理温度によっては室温での限界引張ひずみが、限界圧縮ひずみを上回る。
いずれの状態かは、小さな曲げ半径Rで超伝導線材1のみを曲げて超伝導特性の低下を判定した際に、超伝導線材1の断面写真を撮影し、MgB2フィラメント2において圧縮ひずみによる座屈が生じているか、引張ひずみによる断裂が生じているかを、判定する。これにより、MgB2フィラメント2の限界引張ひずみと限界圧縮ひずみとの耐性差を判定する。
引張ひずみに比べて圧縮ひずみに対する耐性が弱いMgB2フィラメント2を含む超伝導線材1の場合には、小さな曲げ半径Rで超伝導線材1のみを曲げて超伝導特性の低下を判定した際に、限界圧縮ひずみを求める。
そして、超伝導線材1の曲げ内側に、厚みtがt/2≧rの関係にある曲げ補強部材10を接合し、超伝導線材1を曲げ半径R´で曲げて、限界引張ひずみを求める。
上記のようにして、限界引張ひずみおよび限界圧縮ひずみを求めることができるが、複数のMgB2フィラメント2をツイスト加工した超伝導線材1においては、断面の曲げ方向によって、MgB2フィラメント2の位置が異なる(図1参照)。
このため、ツイストしたMgB2フィラメント2の少なくとも回転対称周期に相当する長さにおいて、超伝導線材1の長さ方向の所定間隔の断面ごとに限界引張ひずみと限界圧縮ひずみを求め、それらの最小値を超伝導線材1の限界引張ひずみと限界圧縮ひずみとする。
上記の説明は、超伝導線材1が直線状で熱処理された場合について説明したが、図3A、図3B、図3Cにより、巨大なボビンに巻回した状態で熱処理する場合等の初期状態で、超伝導線材1が湾曲している場合について説明する。
以下の説明では、初期状態(ひずみがゼロ)における超伝導線材1の曲げ半径を曲げ半径Rとする。
また、曲げ補強部材10は、図3A、図3B、図3Cに示すように、超伝導線材1に加わる曲げモーメントの外側になるように、超伝導線材1に接合される。
図3A、図3B、図3Cは、初期状態の曲げ半径Rの超伝導線材1(破線)と、口出し部30の曲がり部における曲げ半径R´の超伝導線材1(実線)との関係を示す図である。図の両側の矢印付き円弧は、超伝導線材1に加わる曲げモーメントを示している。
図3Aは、初期状態の超伝導線材1と同じ曲げ方向に、曲げ半径Rを曲げ半径R´に小さく曲げる場合を示している。つまり、曲げ半径R>曲げ半径R´にする場合である。
この場合の曲げ半径R´の超伝導線材1に生じているひずみは、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径R´に曲げた際に生じるひずみより、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径Rに曲げた際に生じるひずみ量だけ小さくなる。したがって、超伝導線材1の許容ひずみまで曲げた際の曲げ半径は、直線状態の超伝導線材1から曲げた場合よりも、小さくなる。
つまり、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径Rに曲げた際に生じる圧縮ひずみをε0、引張ひずみをε0としたとすると、初期状態の曲げ半径Rとしたことによる限界圧縮ひずみと限界引張ひずみは、ε0分増加したとみなせる。
そこで、式(6)に基づいて曲げ補強部材10の厚みtを算出する際に、ε0分増加した見掛けの限界圧縮ひずみと限界引張ひずみにより厚みtを算出する。
図3Bは、初期状態の超伝導線材1と同じ曲げ方向に、曲げ半径Rを曲げ半径R´に大きくする場合を示している。つまり、曲げ半径R<曲げ半径R´にする場合である。
この場合、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径Rの超伝導線材1に曲げた際に生じるひずみと、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径R´の超伝導線材1に曲げた際に生じるひずみと、の差のひずみを曲げ断面の圧縮ひずみと引張ひずみして、式(6)に基づいて、曲げ補強部材10の厚みtを算出する。
図3Cは、初期状態の超伝導線材1を、反対の曲げ方向に、曲げ半径Rを曲げ半径R´に曲げる場合を示している。
この場合には、超伝導線材1を、曲げ半径Rから直線状態に曲げ、さらに、曲げ半径R´に曲げると考えると、曲げ半径Rから直線状態に曲げる際に生じるひずみと、直線状態から曲げ半径R´に曲げる際に生じるひずみと、が加算される状態となる。
つまり、直線状態の超伝導線材1を曲げ半径Rに曲げた際に生じる圧縮ひずみをε0、引張ひずみをε0としたとすると、初期状態の曲げ半径Rとしたことにより限界圧縮ひずみと限界引張ひずみは、ε0分減少したとみなせる。
そこで、式(6)に基づいて、曲げ補強部材10の厚みtを算出する際に、ε0分減少した見掛けの限界圧縮ひずみと限界引張ひずみにより厚みtを算出する。
以上の実施形態では、図1に示したように、MgB2フィラメント2が超伝導線材1の軸心から均等な距離に配置されている場合について説明したが、MgB2フィラメント2の配置は、これに限定されない。例えば、超伝導線材1と同軸に2重に配置されていてもよい。また、MgB2フィラメント2の配置中心が、超伝導線材1の軸心に偏心するように、MgB2フィラメント2が配置されていてもよい。
MgB2フィラメント2が図1と異なる配置状態である場合でも、超伝導線材1の曲げによりMgB2フィラメント2に生じる最大引張ひずみは、超伝導線材1の曲げ中立線から最もはなれた位置となる。したがって、超伝導線材1の中心から最も離れたMgB2フィラメント2の配置距離を、MgB2フィラメント2の配置半径rとして、式(6)に基づいて、曲げ補強部材10の厚みtを算出すればよい。
つまり、実施形態の超伝導コイル100は、口出し部30における超伝導線材1の曲がり部に、所定のMgB2フィラメント2の限界圧縮ひずみ、限界引張ひずみ、および超伝導線材1の曲げ中立線からのMgB2フィラメント2の配置距離により定まる曲げ方向の厚みtを有する曲げ補強部材10を接合する。
また、本実施形態では、丸断面を持つ超伝導線材1を示したが、これは線材形状を丸断面に限定するものではなく、矩形断面を持つ超伝導線材1であってもよい。この場合でも、曲げ中立面(中立線)からのMgB2フィラメント2の配置距離に基づいて、曲げ補強部材10の厚みtを算出すればよい。
また、MgB2フィラメント2に限らず、他の粉体の超伝導体によるフィラメントから成る超伝導線材1であってもよい。
ここで、曲げ補強部材10について説明する。
MgB2フィラメント2を含む超伝導線材1を巻回した超伝導コイル100は、液体ヘリウム等の冷媒を用いた浸漬冷却、または冷凍機からの伝導冷却を用いて、超伝導線材1を超伝導転移温度以下に保っている。
このため、曲げ補強部材10は、熱伝導率の優れた無酸素銅により作成することが望ましい。無酸素銅の曲げ補強部材10を超伝導線材1にハンダ付けすることで、冷凍機から超伝導線材1までの伝導冷却パスを強化し、口出し部30における熱的安定性を向上させる。
つぎに、図4により、板形状の曲げ補強部材10とは異なる、凹字型形状の曲げ補強部材12について説明する。
図4の凹字型形状の曲げ補強部材12によれば、超伝導線材1の上方から被せる形で設置できるため、作業性が向上する。さらに、曲げ内側と曲げ外側の両方から超伝導線材1を固定することにより、中立線20の位置精度が高まる。
ここで、凹字型形状の曲げ補強部材12の断面形状を説明する。
曲げ補強部材12は、超伝導線材1の挿入溝(幅2r0)の曲げ内側(圧縮側)に、曲げ方向の厚みが所定値aの厚みの壁が設けられ、超伝導線材1の挿入溝の曲げ外側(引張側)に、上記の板形状の曲げ補強部材10に相当する厚みtと所定値aとを合算した厚みの壁を設けている。
これにより、曲げ補強部材12と超伝導線材1とを接合した際の曲げ断面の中立線20と、超伝導線材1の中心21との距離差は、t/2となり、MgB2フィラメント2の最大圧縮ひずみεCと最大引張ひずみεTと関係は、図2Aと図2Bと同様となる。
なお、曲げ補強部材12の高さは適宜設定すればよい。
つぎに、図5により、実施形態のソレノイド状の超伝導コイル100における口出し部30の構成を説明する。
巻線部31へ巻回した超伝導線材1は、巻線部31と同様に円筒座標系におけるθ方向(方位角方向)に向いた状態で、口出し部30に向かう。
そして、超伝導線材1は、固定冶具32によりボビン33に固定され、つぎに、曲げ補強部材12が接合された超伝導線材1が、曲げ冶具34に沿って押し付けて、固定される。これにより、口出し部30で、θ方向に向いた状態の超伝導線材1は、円筒座標系におけるz方向(ソレノイドの高さ方向)に曲げられる。必要に応じて曲げ補助治具35を設置して曲げ補強部材12の片方の端部を固定し、曲げ補強部材12が不意に曲げ外側に広がることを防いでもよい。
これにより、超伝導コイル100の外形寸法が円筒座標系におけるr方向(半径方向)に広がることを抑制できる。
なお、超伝導コイル100を伝導冷却する場合には、曲げ補強部材12を無酸素銅で作製し、ボビン33に伝導冷却銅板40を接続して、超伝導線材1の伝導冷却パスを作るようにする。
つぎに、実施形態の超伝導コイル100を適用したMRI装置300の構成を図6により説明する。
超伝導コイル100は、接続する永久電流スイッチ108と共に、冷凍容器109に格納され、液体ヘリウム等の冷媒により冷却されるか、または、冷凍機により伝導冷却されている。超伝導コイル100と永久電流スイッチ108とがつくる回路を流れる永久電流は、超伝導コイル100の内側の測定対象物110の位置に時間安定性の高い静磁場を発生させる。この静磁場強度が高いほど,核磁気共鳴周波数が高くなり,周波数分解能が向上する。
超伝導コイル100と測定対象物110との間に設けられた傾斜磁場コイル111は、接続する傾斜磁場用アンプ112から必要に応じて時間変化する電流を供給され,測定対象物110の位置に空間的に分布を持つ静磁場を発生させる。
さらに、測定対象物110にRF(Radio Frequency)アンテナ113が設けられ、RFアンテナ113とRF送受信機114を用いて測定対象物110に核磁気共鳴周波数の磁場を印加して反応信号を測定することで、測定対象物110の断面画像を取得する。
実施形態のMRI装置300では、超伝導コイル100と永久電流スイッチ108とがつくる回路のコイル口出し部における超伝導線材の曲がり部(図6の黒丸部)の曲げ半径を小さくできるので、MRI装置300を小型化できる。また、冷凍容器109が小型化できるので、液体ヘリウム等の冷媒の貯留量を少なくすることができる。
なお、図6に示した実施形態のMRIの構成は一例であり、図6の構成に限定するものではない。
また、実施形態のMRI装置300と同様の構成を用いてNMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)装置でも実施可能である。
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
1 超伝導線材
2 MgB2フィラメント(超伝導フィラメント)
3 金属母材
4 絶縁材
10、12 曲げ補強部材
11 超伝導線材
20 中立線
30 口出し部
31 巻線部
32 固定冶具
33 ボビン
34 曲げ冶具
35 曲げ補助治具
40 伝導冷却銅板
100 超伝導コイル
108 永久電流スイッチ
109 冷凍容器
110 測定対象物
111 傾斜磁場コイル
112 傾斜磁場用アンプ
113 RFアンテナ
114 RF送受信機
300 MRI装置
r 超伝導フィラメントの配置半径
0 超伝導線材の半径
R、R´、R 曲げ半径
t 厚み
εC 最大圧縮ひずみ
εT 最大引張ひずみ

Claims (12)

  1. 複数の超伝導フィラメントが配置された超伝導線材が巻回された超伝導コイルであって、
    前記超伝導コイルの口出し部における前記超伝導線材の曲がり部に、所定の前記超伝導フィラメントの圧縮ひずみ、引張ひずみ、および前記超伝導線材の曲げ中立線からの前記超伝導フィラメントの配置距離により定まる曲げ方向の厚みを有する曲げ補強部材を接合した
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  2. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記曲げ補強部材の厚みの半分は、前記超伝導フィラメントの配置距離より小さい
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  3. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記曲げ補強部材を前記曲がり部の曲げ方向の外側に接合する
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  4. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記超伝導線材における前記超伝導フィラメントの配置距離としての超伝導フィラメントの配置半径をr、所定の前記圧縮ひずみをC、所定の前記引張ひずみをTとしたときに、前記曲げ補強部材の曲げ方向の厚みtは、
    t=2r×(C−T)/(C+T)
    を満たすことを特徴とする超伝導コイル。
  5. 請求項4に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記Cは、前記超伝導線材の限界圧縮ひずみであり、
    前記Tは、前記超伝導線材の限界引張ひずみである
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  6. 請求項4に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記圧縮ひずみが安全率を乗じた前記超伝導線材の限界圧縮ひずみ値以下の値であるか、および前記引張ひずみが安全率を乗じた前記超伝導線材の限界引張ひずみ値以下の値であるかの少なくともいずれかである
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  7. 請求項4に記載の超伝導コイルにおいて、
    0.9×2r×(C−T)/(C+T)<t<1.1×2r×(C−T)/(C+T)
    である
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  8. 請求項7に記載の超伝導コイルにおいて、
    0.65 < t/2r < 0.78
    であることを特徴とする超伝導コイル。
  9. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記曲げ補強部材は、前記超伝導線材が挿入される溝を有する凹字型形状であり、
    前記曲げ補強部材の中心が、前記超伝導線材の中心より曲げ方向の外側に位置するように接合する
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  10. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記曲げ補強部材は、無酸素銅である
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  11. 請求項1に記載の超伝導コイルにおいて、
    前記超伝導フィラメントはMgB2フィラメントである
    ことを特徴とする超伝導コイル。
  12. 請求項1から11のいずれかに記載された超伝導コイル
    を備えたことを特徴とするMRI装置。
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