以下、本実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1に示す動弁装置1は車両用エンジン等の内燃機関に内蔵されている。内燃機関の全体構造については周知のものであるため、図示を省略して簡単に説明する。
動弁装置1が搭載される内燃機関は、シリンダ内にピストンを摺動可能に配置し、燃料(ガソリン等)と空気の混合気の燃焼によってピストンを往復動させて、クランクシャフトの回転動作として出力する。シリンダの燃焼室には吸気ポートと排気ポートが接続しており、吸気ポートを通じて混合気生成用の外気が流入し、燃焼後の排気ガスが排気ポートを経て外部へ排出される。燃焼室への吸気ポートの接続部分に、開閉動作可能な吸気バルブが設けられ、燃焼室への排気ポートの接続部分に、開閉動作可能な排気バルブが設けられている。外気を取り入れるタイミングで吸気バルブが開かれ、排気ガスを排出するタイミングで排気バルブが開かれる。
図1に示すように、本実施の形態の動弁装置1は、吸気バルブ10の開閉動作を行わせるものである。なお、本発明はこの実施の形態に限られず、排気バルブの開閉動作を行わせる動弁装置に適用してもよい。吸気バルブ10は、バルブステム11の下端にバルブフェイス12を有し、図示を省略するバルブガイドを介して、バルブステム11が延びる方向に進退可能に支持されている。バルブステム11の上端近くに設けたリテーナ13と、内燃機関の内部に固定されるスプリングシート14との間に、バルブスプリング15が配置されている。バルブスプリング15によって、吸気バルブ10はバルブフェイス12が吸気ポートと燃焼室の間を閉じる方向に付勢されている。
吸気バルブ10の近傍には、軸16aを中心として揺動可能なロッカーアーム16が設けられている。ロッカーアーム16のアーム部16bがバルブステム11の上端に当接している。ロッカーアーム16の揺動に応じて吸気バルブ10が進退動作を行う。
図1に示すように、動弁装置1は、カムシャフト17上に支持されるカム20を有している。以下の説明中では、カムシャフト17が延びる方向を軸方向とする。カムシャフト17の軸方向は、ロッカーアーム16の軸16aが延びる方向と平行である。クランクシャフト(図示略)が回転すると、チェーンやベルトを介した機構(図示略)によって動力が伝達されてバルブステム11が回転する。クランクシャフトが2回転する間にカムシャフト17が1回転する。
カムシャフト17は、カム20に形成された軸方向に貫通する孔に挿通されている。カムシャフト17には外径方向に突出するガイドキー17aが設けられ、カム20の内側には軸方向に延びるガイド溝20aが形成されている。ガイドキー17aとガイド溝20aの係合によって、カム20はカムシャフト17に対して、回転方向に一体であり、且つ軸方向に移動可能に支持されている。なお、カムシャフト17とカム20を結合させる構造はガイドキー17a及びガイド溝20a以外でもよく、例えばインボリュートスプライン等を用いることも可能である。内燃機関を運転してクランクシャフトから動力が伝達されると、カムシャフト17及びカム20は図1から図4中の矢印F方向に回転する。このカム20の回転方向を進行方向Fとする。
カム20は、軸方向に隣り合う位置関係の第1カムロブ21と第2カムロブ22を有している。第1カムロブ21と第2カムロブ22の周面にはカム面が形成されており、カム20の軸方向位置の変化に応じて、第1カムロブ21のカム面と第2カムロブ22のカム面が択一的にロッカーアーム16のアーム部16bに対して上方から当接する。つまり、第1カムロブ21又は第2カムロブ22とバルブステム11とがアーム部16bを上下から挟む関係になっている(図2参照)。
本実施の形態では、1気筒に2つの吸気バルブ10が設けられており、これに対応してカム20は、1気筒あたり2つの第1カムロブ21と2つの第2カムロブ22を備えている。しかし、本発明におけるバルブやカムロブの数はこれに限定されない。
図示を省略するが、カムシャフト17とカム20の間には、軸方向でのカム20の位置を定める係止機構が設けられている。係止機構は、第1カムロブ21がロッカーアーム16のアーム部16bに当接する位置と、第2カムロブ22がロッカーアーム16のアーム部16bに当接する位置とに、カム20を保持させる。例えば、カムシャフト17の半径方向に移動可能な球状体と、球状体をカムシャフト17の半径方向に付勢する付勢部材と、軸方向位置を異ならせてカム20の内面に形成した2箇所の凹部とによって、係止機構を構成することができる。付勢部材による付勢力を受ける球状体が凹部に対して係合することにより、軸方向へのカム20の移動に抵抗が加わり、上述した2つの位置のいずれかにカム20が保持される。
動弁装置1は、カム20を軸方向に移動させる切替手段を有している。切替手段は、カム20に設けた切替用筒部23と、切替用筒部23の近傍に設けたアクチュエータ40とからなる。
切替用筒部23は、第1カムロブ21及び第2カムロブ22とは軸方向に位置を異ならせて設けられている円筒状の構造体であり、その外周面23aに対して凹設されるガイド溝24を有している。切替用筒部23を平面状に展開した状態を図3に示す。ガイド溝24は、軸方向に離間して対向する一対のガイド面25とガイド面26を有している。
ガイド面25は、カム20の円周方向に沿って形成される第1領域25A及び第2領域25Bと、第1領域25Aと第2領域25Bの間に位置する被押圧部25Cとを有している。第1領域25Aと第2領域25Bは軸方向にオフセットしており、被押圧部25Cはカム20の円周方向及び軸方向に対する傾きを有する曲線形状になっている。
ガイド溝24はさらに、ガイド面25における第1領域25Aと被押圧部25Cの間を繋ぐ接続部25Dを有している。接続部25Dの構成を図4に示した。接続部25Dの壁面は、第1領域25A及び被押圧部25Cに対して、カム20の軸方向へ凹んだ凹み部として形成されている。より詳しくは、接続部25Dの壁面は、第1領域25A側に位置するストレート領域25D1と、被押圧部25C側に位置するヘリカル領域25D2とを有している。ストレート領域25D1は、カム20の円周方向に沿って延びる非傾斜部であり、第1領域25Aの壁面と略平行である。ヘリカル領域25D2は、カム20の円周方向及び軸方向に対して傾斜する傾斜部であり、概ね被押圧部25Cの壁面の延設方向に沿って延びている。
切替用筒部23は、第1領域25Aと接続部25Dのストレート領域25D1との境界部分に、カム20の半径方向に延びる嵌合孔27を有し、被押圧部25Cと接続部25Dのヘリカル領域25D2との境界部分に、カム20の半径方向に延びる嵌合孔28を有する。嵌合孔27、28の一部はガイド溝24側に開口(連通)しており、この開口の縁部に鈎状の抜止部27a、28aが形成されている。
ガイド面26は、ガイド面25に対して軸方向に対称な形状である。すなわち、ガイド面26は、カム20の円周方向に沿って形成される第1領域26A及び第2領域26Bと、第1領域26Aと第2領域26Bの間に位置する被押圧部26Cとを有している。第1領域26Aと第2領域26Bは軸方向にオフセットしており、被押圧部26Cはカム20の円周方向及び軸方向に対する傾きを有する曲線形状になっている。被押圧部26Cの傾きは、被押圧部25Cの傾きとは逆方向である。また、ガイド面26における第1領域26Aと被押圧部25Cの間を繋ぐ接続部26Dが形成されている。
図4に示すように、接続部26Dの壁面は、第1領域26A及び被押圧部26Cに対して、カム20の軸方向へ凹んだ凹み部として形成されている。より詳しくは、接続部26Dの壁面は、第1領域26A側に位置するストレート領域26D1と、被押圧部26C側に位置するヘリカル領域26D2とを有している。ストレート領域26D1は、カム20の円周方向に沿って延びる非傾斜部であり、第1領域26Aの壁面と略平行である。ヘリカル領域26D2は、カム20の円周方向に対して傾斜する傾斜部であり、概ね被押圧部26Cの壁面の延設方向に沿って延びている。
切替用筒部23は、第1領域26Aと接続部26Dのストレート領域26D1との境界部分に、カム20の半径方向に延びる嵌合孔29を有し、被押圧部26Cと接続部26Dのヘリカル領域26D2との境界部分に、カム20の半径方向に延びる嵌合孔30を有する。嵌合孔29、30の一部はガイド溝24側に開口(連通)しており、この開口の縁部に鈎状の抜止部29a、30aが形成されている。
図5及び図6に示すように、ガイド面25の接続部25Dに緩衝部材31が設けられる。緩衝部材31は、長手方向をカム20の円周方向に向け、厚み方向をカム20の軸方向に向けた板バネであり、長手方向の一端と他端には、半円状に湾曲した嵌合部31aと嵌合部31bが形成されている。
嵌合部31aを嵌合孔27に挿入させ、嵌合部31bを嵌合孔28に挿入させて、緩衝部材31が切替用筒部23に取り付けられる。図5に示すように、嵌合孔27と嵌合孔28には、カム20の半径方向でガイド溝24の底面と略同じ高さにある底面が形成されている。この嵌合孔27と嵌合孔28のそれぞれの底面に対して嵌合部31aと嵌合部31bが当て付くまで、緩衝部材31を挿入させる。そして、図5に示す締結ピン33を嵌合孔27と嵌合孔28に挿入して固定させることによって、緩衝部材31が切替用筒部23に固定される。嵌合部31aと嵌合部31bがそれぞれ抜止部27aと抜止部28aに係合することで、カム20の軸方向への緩衝部材31の移動が規制される。
図5に示すように、緩衝部材31のうち嵌合部31aと嵌合部31bにはそれぞれ、締結ピン33の頭部33aが嵌合する切欠部31eが形成されており、頭部33aと切欠部31eの嵌合によって、嵌合部31aと嵌合部31bが半径方向に抜け止めされる。なお、緩衝部材31を取り付けた状態の各締結ピン33の頭部33aの頂面は、切替用筒部23の外周面23aと略面一になり、締結ピン33はカム20の半径方向には突出しない。
図6(A)に示すように、切替用筒部23に取り付けた状態の緩衝部材31は、嵌合部31aと嵌合部31bの間の板状の制御ピン接触部31cが接続部25Dに沿って延びている。制御ピン接触部31cのうち、嵌合部31a側の端部は、ガイド面25の第1領域25Aに連続しており、嵌合部31b側の端部は、ガイド面25の被押圧部25Cに連続している。これらの連続部分(第1領域25Aや被押圧部25Cと緩衝部材31の境界部分)では、第1領域25A及び被押圧部25Cの壁面と制御ピン接触部31cとの間に、ほとんど段差がない。また、制御ピン接触部31cの両端部分には、半円状に湾曲する嵌合部31aと嵌合部31bが形成されており、この制御ピン接触部31cの両端の湾曲形状が上記の連続部分に位置する。従って、接続部25Dに沿って配置された緩衝部材31の制御ピン接触部31cが、接続部25Dの前後に位置する第1領域25A及び被押圧部25Cと滑らかに続いている。
図6(A)に示すように、緩衝部材31を切替用筒部23に取り付けた状態では、制御ピン接触部31cは、第1領域25Aと被押圧部25Cの間を短絡する(ガイド溝24の幅方向の内側に入り込む)ように延びており、接続部25Dのストレート領域25D1やヘリカル領域25D2の壁面と制御ピン接触部31cとの間に軸方向の隙間を有している。
また、図7(A)に示すように、制御ピン接触部31cの半径方向の外縁部31dは、切替用筒部23の外周面23aと略同じ高さ位置(半径方向位置)にある。言い換えれば、緩衝部材31は、ガイド溝24の深さの範囲内に配置されている。
図5及び図6に示すように、ガイド面26の接続部26Dに緩衝部材32が設けられる。緩衝部材32は、長手方向をカム20の円周方向に向け、厚み方向をカム20の軸方向に向けた板バネであり、長手方向の一端と他端には、半円状に湾曲した嵌合部32aと嵌合部32bが形成されている。緩衝部材32は、緩衝部材31に対して軸方向に対称な形状である。
嵌合部32aを嵌合孔29に挿入させ、嵌合部32bを嵌合孔30に挿入させて、緩衝部材32が切替用筒部23に取り付けられる。嵌合孔29と嵌合孔30の底面(図示略)に対して嵌合部32aと嵌合部32bが当て付くまで、緩衝部材32を挿入させる。そして、締結ピン34を嵌合孔29と嵌合孔30に挿入して固定させることによって、緩衝部材32が切替用筒部23に固定される。嵌合部32aと嵌合部32bがそれぞれ抜止部29aと抜止部30aに係合することで、カム20の軸方向への緩衝部材32の移動が規制される。
緩衝部材32のうち嵌合部32aと嵌合部32bにはそれぞれ、締結ピン34の頭部34aが嵌合する切欠部(図示略)が形成されており、頭部34aと切欠部の嵌合によって、嵌合部32aと嵌合部32bが半径方向に抜け止めされる。なお、緩衝部材32を取り付けた状態の各締結ピン34の頭部34aの頂面は、切替用筒部23の外周面23aと略面一になり、締結ピン34はカム20の半径方向には突出しない。
図6(A)に示すように、切替用筒部23に取り付けた状態の緩衝部材32は、嵌合部32aと嵌合部32bの間の板状の制御ピン接触部32cが接続部26Dに沿って延びている。制御ピン接触部32cのうち、嵌合部32a側の端部は、ガイド面26の第1領域26Aに連続しており、嵌合部32b側の端部は、ガイド面26の被押圧部26Cに連続している。これらの連続部分(第1領域26Aや被押圧部26Cと緩衝部材32の境界部分)では、第1領域26A及び被押圧部26Cの壁面と制御ピン接触部32cとの間に、ほとんど段差がない。また、制御ピン接触部32cの両端部分には、半円状に湾曲する嵌合部32aと嵌合部32bが形成されており、この制御ピン接触部32cの両端の湾曲形状が上記の連続部分に位置する。従って、接続部26Dに沿って配置された緩衝部材32の制御ピン接触部32cが、接続部26Dの前後に位置する第1領域26A及び被押圧部26Cと滑らかに続いている。
図6(A)に示すように、緩衝部材32を切替用筒部23に取り付けた状態では、制御ピン接触部32cは、第1領域26Aと被押圧部26Cの間を短絡する(ガイド溝24の幅方向の内側に入り込む)ように延びており、接続部26Dのストレート領域26D1やヘリカル領域26D2の壁面と制御ピン接触部32cとの間に軸方向の隙間を有している。
また、図7(A)に示すように、制御ピン接触部32cの半径方向の外縁部32dは、切替用筒部23の外周面23aと略同じ高さ位置(半径方向位置)にある。言い換えれば、緩衝部材32は、ガイド溝24の深さの範囲内に配置されている。
アクチュエータ40は、本体部41の下部に2つの制御ピン42と制御ピン43を有する。制御ピン42と制御ピン43は軸方向に並んで配置されており、カム20の半径方向に延びている(図2参照)。アクチュエータ40は、本体部41から突出する位置と本体部41側に引き込まれる位置とに、制御ピン42と制御ピン43を個別に進退移動させることが可能である。アクチュエータ40おいて制御ピン42と制御ピン43を進退移動させる手段は、油圧や電動等を用いることができる。
制御ピン42や制御ピン43が本体部41側に引き込まれている状態では、ガイド溝24から離間している。制御ピン42や制御ピン43が突出してガイド溝24に挿入されると、カム20の回転に応じて、ガイド溝24のガイド面25(緩衝部材31を含む)やガイド面26(緩衝部材32を含む)の形状に基づく軸方向への力が加わる。この軸方向への移動力が、上述した係止機構の保持力を上回ることで、カム20がカムシャフト17に対して軸方向に移動する。
より詳しくは、ガイド溝24は、ガイド面25の第1領域25Aとガイド面26の第1領域26Aが形成されている部分で、軸方向の幅が最も大きく、被押圧部25Cと被押圧部26Cが第2領域25Bと第2領域26Bに接続する部分で、軸方向の幅が最も小さくなっている。制御ピン42と制御ピン43はそれぞれ、ガイド溝24の幅が最も大きい部分に対して半径方向に挿入可能で、ガイド溝24の幅が最も小さい部分には、半径方向に挿入できない位置関係で配置されている。
第2カムロブ22がアーム部16bに当接する状態では、カム20の軸方向において、ガイド面25の第1領域25Aが制御ピン42の近傍に位置する。ここでアクチュエータ40を駆動して制御ピン42を突出させると、第1領域25Aと制御ピン42の回転方向の位相が一致している状態では、切替用筒部23の外周面23a等のカム20上の構造物に妨げられずに、制御ピン42がガイド溝24に挿入される。
ガイド溝24に挿入された制御ピン42は、軸方向でガイド面25の第1領域25Aの近傍に位置する。そして、この状態でカム20が進行方向Fに回転すると、第1領域25Aに続いて位置する緩衝部材31の制御ピン接触部31cが、制御ピン42に接触する。上述したように、第1領域25Aと制御ピン接触部31cの境界部分は滑らかに連続しているので、制御ピン42はスムーズに緩衝部材31への当接状態に移行できる。
制御ピン接触部31cは、第1領域25Aに対して、ガイド溝24の幅方向の中央側に突出するように傾斜した形状である。そのため、進行方向Fへのカム20の回転に伴って、制御ピン接触部31cが制御ピン42によって押圧されて軸方向への力が発生する。緩衝部材31は、カム20を軸方向への移動させるために要する荷重(カム20の軸方向位置を保持する不図示の係止機構による保持力等)よりも小さい荷重で軸方向に弾性変形するように設定されている。
従って、制御ピン42から軸方向への力を受けると、図6(B)に示すように緩衝部材31が軸方向に変形して、接続部25D(ストレート領域25D1、ヘリカル領域25D2)の壁面と制御ピン接触部31cとの隙間が無くなる。すなわち、凹み形状である接続部25Dに制御ピン接触部31cが嵌る状態になる。緩衝部材31の厚みは、第1領域25Aと被押圧部25Cに対する接続部25Dの段差の大きさと略同じであるため、制御ピン42によって押圧されて変形した状態の制御ピン接触部31cは、第1領域25A及び被押圧部25Cの壁面と略面一の関係になる。
制御ピン接触部31cがストレート領域25D1とヘリカル領域25D2の壁面に接触すると、緩衝部材31の変形が完了し、制御ピン42が緩衝部材31を軸方向に押圧する力が、切替用筒部23にも伝達されるようになる。その結果、カム20が軸方向のうち図1、図3及び図4に示す矢印S1方向に移動する。
さらにカム20が進行方向Fに回転すると、制御ピン42が接触する対象が緩衝部材31から被押圧部25Cになる。制御ピン42との接触が解除されると、緩衝部材31は変形を解消して図6(A)に示す形状に戻る。上述したように、制御ピン接触部31cと被押圧部25Cの境界部分は滑らかに連続しているので、制御ピン42はスムーズに被押圧部25Cへの接触状態に移行できる。そして、制御ピン42が被押圧部25Cに接触する状態では、カム20の円周方向に対して傾斜する被押圧部25Cが制御ピン42で押圧されることにより、引き続きカム20が軸方向における矢印S1方向に移動する。
制御ピン42が第2領域25Bの回転位相に達した時点で、ガイド面25を軸方向へ押圧する力が解除される。この段階で、カム20は第1カムロブ21をアーム部16bに当接させる軸方向位置に達する。つまり、制御ピン42は、アーム部16bに当接する部分を第2カムロブ22から第1カムロブ21に切り替えさせるときに突出される。カムロブの切替動作が完了したら、アクチュエータ40は制御ピン42を本体部41側に引き上げて、ガイド溝24から制御ピン42を離脱させる。
第1カムロブ21がアーム部16bに当接する状態では、カム20の軸方向において、ガイド面26の第1領域26Aが制御ピン43の近傍に位置する。ここでアクチュエータ40を駆動して制御ピン43を突出させると、第1領域26Aと制御ピン43の回転方向の位相が一致している状態では、切替用筒部23の外周面23a等のカム20上の構造物に妨げられずに、制御ピン43がガイド溝24に挿入される。
ガイド溝24に挿入された制御ピン43は、軸方向でガイド面26の第1領域26Aの近傍に位置する。そして、この状態でカム20が進行方向Fに回転すると、第1領域26Aに続いて位置する緩衝部材32の制御ピン接触部32cが、制御ピン43に接触する。上述したように、第1領域26Aと制御ピン接触部32cの境界部分は滑らかに連続しているので、制御ピン43はスムーズに緩衝部材32への接触状態に移行できる。
制御ピン接触部32cは、第1領域26Aに対して、ガイド溝24の幅方向の中央側に突出するように傾斜した形状である。そのため、進行方向Fへのカム20の回転に伴って、制御ピン接触部32cが制御ピン43によって押圧されて軸方向への力が発生する。緩衝部材32は、カム20を軸方向への移動させるために要する荷重(カム20の軸方向位置を保持する不図示の係止機構による保持力等)よりも小さい荷重で軸方向に弾性変形するように設定されている。
従って、制御ピン43から軸方向への力を受けると、緩衝部材32が軸方向に変形して、接続部26D(ストレート領域26D1、ヘリカル領域26D2)の壁面と制御ピン接触部32cとの隙間が無くなる。すなわち、凹み形状である接続部26Dに制御ピン接触部32cが嵌る状態になる。緩衝部材32が弾性変形した状態は図示を省略しているが、図6(B)の緩衝部材31と同様に(緩衝部材31とは軸方向で略対称の形態で)変形される。緩衝部材32の厚みは、第1領域26Aと被押圧部26Cに対する接続部26Dの段差の大きさと略同じであるため、制御ピン43によって押圧されて変形した状態の制御ピン接触部32cは、第1領域26A及び被押圧部26Cの壁面と略面一の関係になる。
制御ピン接触部32cがストレート領域26D1とヘリカル領域26D2の壁面に接触すると、緩衝部材32の変形が完了し、制御ピン43が緩衝部材32を軸方向に押圧する力が、切替用筒部23にも伝達されるようになる。その結果、カム20が軸方向のうち図1、図3及び図4の矢印S2方向に移動する。
さらにカム20が進行方向Fに回転すると、制御ピン43が接触する対象が緩衝部材32から被押圧部26Cになる。制御ピン43との接触が解除されると、緩衝部材32は変形を解消して図6(A)に示す形状に戻る。上述したように、制御ピン接触部32cと被押圧部26Cの境界部分は滑らかに連続しているので、制御ピン43はスムーズに被押圧部26Cへの接触状態に移行できる。そして、制御ピン43が被押圧部26Cに接触する状態では、カム20の円周方向に対して傾斜する被押圧部26Cが制御ピン43で押圧されることにより、引き続きカム20が軸方向における矢印S2方向に移動する。
制御ピン43が第2領域26Bの回転位相に達した時点で、ガイド面26を軸方向へ押圧する力が解除される。この段階で、カム20は第2カムロブ22をアーム部16bに当接させる軸方向位置に達する。つまり、制御ピン43は、アーム部16bに当接する部分を第1カムロブ21から第2カムロブ22に切り替えさせるときに突出される。カムロブの切替動作が完了したら、アクチュエータ40は制御ピン43を本体部41側に引き上げて、ガイド溝24から制御ピン43を離脱させる。
このように、ガイド溝24の幅方向中心に対して対称な構成のガイド面25、26と緩衝部材31、32を設けて、制御ピン42と制御ピン43を交互にガイド溝24に挿入することで、カム20を軸方向で正逆にスライドさせて、使用するカムロブ21、22を切り替えることができる。
第1カムロブ21と第2カムロブ22は互いのカム形状(カム面の軌跡)が異なっている。図2に示すように、第1カムロブ21の最大外径は第2カムロブ22の最大外径よりも小さく、第1カムロブ21の方が第2カムロブ22よりも吸気バルブ10に対する押圧量が小さい。従って、第1カムロブ21によるバルブリフト量(吸気バルブ10の開度)が、第2カムロブ22によるバルブリフト量(吸気バルブ10の開度)よりも小さい。
以上の動弁装置1は次のように動作する。吸気バルブ10が閉じた状態でカム20が回転して、第1カムロブ21又は第2カムロブ22のカム面が被動作部であるアーム部16bを下方に押圧すると、ロッカーアーム16がアーム部16bを下げる方向に揺動し、バルブスプリング15の付勢力に抗してアーム部16bがバルブステム11を押し込む。これによりバルブリフト動作が行われる。バルブリフト動作により、バルブフェイス12が燃焼室側に開いて吸気ポートと燃焼室が通じる。カム20の回転位置が変化して、第1カムロブ21又は第2カムロブ22のカム面によるアーム部16bの押圧が解除されると、バルブスプリング15の付勢力によってバルブステム11が上方へ移動され、吸気バルブ10が閉じた状態(バルブフェイス12が吸気ポートと燃焼室の間を塞ぐ状態)になる。
アクチュエータ40を駆動して、制御ピン42を突出させることで第1カムロブ21を用いて吸気バルブ10の動作制御を行う状態になり、制御ピン43を突出させることで第2カムロブ22を用いて吸気バルブ10の動作制御を行う状態になる。このように異なるカム形状のカムロブ21、22に切り替えて、吸気バルブ10のバルブリフト量を可変にすることで、内燃機関の性能向上を実現することができる。
ところで、動弁装置1におけるカムロブの切り替えは、ガイド溝24に対して制御ピン42や制御ピン43をカム20の半径方向に挿入して行わせる。そのため、カムロブの切り替え時に、制御ピン42や制御ピン43をスムーズにガイド溝24に挿入でき、制御ピン42、43や切替用筒部23での荷重や騒音を抑制することが求められる。
上述したように、ガイド面25、26の第1領域25A、26Aと制御ピン42、43の回転方向の位相が一致している状態では、カム20上の構造物に妨げられずに、制御ピン42、43をガイド溝24にスムーズに挿入させることができる。そのため、第1領域25A、26Aに対応するカム20の回転位相で制御ピン42、43を突出させるように、カム20の回転とアクチュエータ40の動作を同期させることが望ましい。
しかし、カム20の回転と同期させずに(同期させる手段を備えずに)制御ピン42、43の突出動作を行わせる場合や、制御上のエラー等によってカム20の回転と制御ピン42、43の突出動作を適切に同期させられない場合も想定される。このような場合には、第1領域25A、26Aとは異なる回転方向の位相で制御ピン42、43の突出が行われる可能性がある。
被押圧部25C、26Cのようにガイド溝24の幅が狭くなっている箇所と、制御ピン42、43との回転方向の位相が一致する状態では、制御ピン42、43を突出させると、制御ピン42、43の先端が切替用筒部23の外周面23aに当接し、ガイド溝24への挿入が規制される(図7(B)参照)。そして、カム20の進行方向Fへの回転により、第1領域25A、26Aと制御ピン42、43の回転方向の位相が一致した段階で、制御ピン42、43が突出量を大きくしてガイド溝24に挿入される。なお、図7(B)では制御ピン42を突出させた場合を示しているが、制御ピン43を突出させて切替用筒部23の外周面23aに当接させた場合も同様である。
図7(B)のように、切替用筒部23の外周面23aに対し、制御ピン42、43の先端が広い範囲で対向する場合には、カム20の半径方向に突出移動する制御ピン42、43の移動力を外周面23aで確実に受けて、制御ピン42、43を傾かせたりせずに安定させることができる。従って、制御ピン42、43や切替用筒部23の耐久性に影響が生じにくく、接触部分の荷重や接触に伴う騒音等も比較的小さく抑えられる。
これに対し、制御ピン42、43の先端のエッジ部分と、ガイド溝24のエッジ部分がカム20の半径方向に対向する状態(回転方向の位相)で、制御ピン42、43の突出動作を行うと、当該エッジ部分での衝突によって、制御ピン42、43と切替用筒部23に局所的な負荷がかかりやすくなる。その結果、衝突部分での過大な荷重によって、制御ピン42、43やガイド溝24に摩耗や損傷が生じたり、大きな騒音が生じたりするおそれを考慮する必要がある。また、ガイド溝24のエッジ部分によって制御ピン42、43が不規則に弾かれて、カム20の動作が不安的になるおそれを考慮する必要がある。このような現象は、ガイド面25、26の第1領域25A、26Aよりも僅かにガイド溝24の幅(ガイド面25とガイド面26の軸方向の間隔)が狭められた領域(本実施の形態の接続部25D、26Dに対応する領域)で生じやすい。
本実施の形態では、ガイド溝24のガイド面25及びガイド面26のうち、第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cとの間の接続部25D、26Dに、緩衝部材31、32を設けている。緩衝部材31、32の制御ピン接触部31c、32cは、制御ピン42、43がガイド溝24に未挿入の状態で、接続部25D、26Dに対してガイド溝24の幅方向の中央側にやや張り出した構成である。
そのため、図7(A)に示すように、接続部25Dに対応する回転方向の位相で制御ピン42が突出された場合、制御ピン42の先端面が制御ピン接触部31cの外縁部31dに当接して、カム20の半径方向への制御ピン42の移動力を安定して確実に受けることができる。これにより、ガイド溝24のエッジ部分と制御ピン42のエッジ部分が衝突することを防止でき、当該衝突時に発生する過大な荷重や騒音を防いで、機構の耐久性や車両の乗員の快適性を向上させることができる。緩衝部材31は、カム20の半径方向に加わる力では座屈等を生じにくく、突出する制御ピン42を確実に受け止めることができる。
図7(A)に示す状態でカム20が進行方向Fに回転すると、制御ピン42の先端が緩衝部材31の外縁部31dに摺接する。やがて、制御ピン42が被押圧部25Cの位置まで達すると、切替用筒部23の外周面23aが制御ピン42の先端を支える状態になる(図7(B)参照)。この段階で、制御ピン42の先端と外周面23aとの軸方向への重なり量がある程度大きくなっているため、制御ピン42は外周面23aへの安定した当接を維持する。そして、カム20のさらなる回転によって、制御ピン42が第1領域25Aの位置まで達すると、制御ピン42の突出が許されてガイド溝24に挿入される。
このように、緩衝部材31は、制御ピン42のエッジ部分がガイド溝24のエッジ部分に衝突を生じ得る回転方向の位相で、突出された制御ピン42を支えて、ガイド溝24への制御ピン42の進入をブロックする。そして、カム20の回転に伴って、切替用筒部23の外周面23aに制御ピン42の支持を受け渡す。
図7(A)は、制御ピン42を緩衝部材31で受ける場合を示したが、制御ピン43を緩衝部材32で受ける場合の動作も同様である。制御ピン43の先端が緩衝部材32の外縁部32dに当接して、制御ピン43のエッジ部分がガイド溝24のエッジ部分に衝突することを防ぐ。そして、緩衝部材31と同様の効果が得られる。
以上のように、本実施の形態の動弁装置1では、ガイド溝24のガイド面25及びガイド面26の途中部分である接続部25D、26Dに緩衝部材31、32を設けたことにより、制御ピン42、43とガイド溝24との衝突時に発生する荷重や騒音を軽減し、機構の耐久性や車両の乗員の快適性を向上させることができる。
特に、制御ピン42、43がガイド溝24に不完全に嵌る状態になりやすい部分で、制御ピン42、43とガイド溝24の互いのエッジ部分の局所的な衝突による荷重の発生を、緩衝部材31、32によって軽減できる。そのため、制御ピン42、43とガイド溝24の摩耗を効果的に抑制して、カムロブ切替用の機構の耐久性を大幅に向上させることができる。また、緩衝部材31、32やガイド溝24に過大な荷重が加わりにくいので、アクチュエータ40やカム20を小型軽量化しやすくなり、内燃機関の高回転化が可能になる。
緩衝部材31、32の制御ピン接触部31c、32cは、カム20の円周方向で、ガイド面25、26の接続部25D、26Dに沿う形状に形成されている。これにより、ガイド溝24に挿入された制御ピン42、43がガイド面25、26に沿って移動するときに、制御ピン接触部31c、32cは、制御ピン42、43がガイド溝24から受ける荷重を緩和しながら、制御ピン42、43を被押圧部25C、26Cに向けてスムーズに誘導する案内板として機能し、円滑で安定性の高い動作の実現に寄与する。
緩衝部材31、32は、制御ピン42、43から軸方向へ押圧する力を受けたときに、カム20を軸方向への移動させるために要する荷重(カム20の軸方向位置を保持する不図示の係止機構による保持力等)よりも小さい荷重で変形を完了する。つまり、制御ピン42、43が緩衝部材31、32を軸方向に押圧すると、緩衝部材31、32が先に変形してから、ガイド溝24の壁面に力が伝達される。これにより、緩衝部材31、32の変形によって瞬間的な荷重伝達(制御ピン42、43との急激な衝突)を緩和しながら、緩衝部材31、32の変形完了後には、遅滞なく制御ピン42、43からガイド溝24に押圧力を伝達して、カム20の軸方向移動を適時的に行わせることができる。
緩衝部材31、32の変形によって瞬間的な荷重伝達を緩和する構成は、カム20の回転方向に対する接続部25D、26Dや被押圧部25C、26Cの傾斜角が大きい場合の有効性が高い。カム20が高速回転する状態で、このような大きい傾斜角の壁面に対して制御ピン42、43が接触すると、衝撃が大きくなりやすい。これに対し、第1領域25A、26Aに続くガイド面25、26の傾斜領域の導入部分である接続部25D、26Dに緩衝部材31、32を設けることで、当該傾斜領域の傾斜角が大きい場合でも、制御ピン42、43が接触する際の衝撃を効果的に抑制できる。
緩衝部材31、32はシンプルな構造の板状部材で形成されているため、軽量に構成できる。また、板状の緩衝部材31、32は、制御ピン42、43を被押圧部25C、26Cに向けてスムーズに誘導する効果に優れている。従って、カム20の軽量化と、制御ピン42、43でカム20を軸方向に移動させるときのスムーズな動作の両立が可能になる。また、シンプルな構造の緩衝部材31、32は、部品コストを低く抑えて導入することができる。
このような板状の緩衝部材31、32は、制御ピン42、43により押圧されて変形が完了したときに、凹状の接続部25D、26Dを埋めるような形状(厚み)に設定している(図6(B)参照)。これにより、制御ピン接触部31c、32cの壁面が、その前後に位置するガイド面25、26(第1領域25A、26Aや被押圧部25C、26C)の壁面とほとんど段差無く連続する状態になり、制御ピン42、43を被押圧部25C、26Cに向けてより一層スムーズに誘導することができる。
第1領域25A、26Aから被押圧部25C、26Cに至る制御ピン42、43の移動軌跡M(第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cを滑らかに繋いだ軌跡)を、図3に一点鎖線で示した。緩衝部材31、32は、制御ピン42、43が非接触の状態(図6(A))で、ガイド面25、26からガイド溝24の内側(幅方向の中央側)に突出しており、制御ピン接触部31c、32cが制御ピン42、43の移動軌跡Mと重なっている。言い換えれば、緩衝部材31、32は、ガイド溝24内の制御ピン42、43の移動軌跡の幅を狭めるように、ガイド面25、26の壁面に対してカム20の軸方向にオフセットして配置されている。
このように緩衝部材31、32を構成及び配置することで、接続部25D、26Dに対応する回転方向の位相で制御ピン42、43の挿入動作が行われた場合に、緩衝部材31、32の外縁部31d、32dによって、制御ピン42、43の挿入を確実に規制できる(図7(A)参照)。これにより、制御ピン42、43の先端のエッジ部分とガイド溝24(接続部25D、26D)のエッジ部分との衝突による双方の摩耗を防止できる。また、接続部25D、26Dでの制御ピン42、43の突然の嵌合が阻止されることで、カム20が急激に軸方向移動を行うことが防がれる。これにより、カム20の挙動を安定させ、吸気バルブ10の確実な動作を行わせることができる。
なお、制御ピン42、43が、ガイド溝24に僅かでも挿入された状態(図7(A)に示す位置よりもガイド溝24内に入り込んだ状態)で接続部25D、26Dに達した場合には、緩衝部材31、32の外縁部31d、32dではなく、制御ピン接触部31c、32cの側面に対して制御ピン42、43の側面が接触する。この場合は、緩衝部材31、32が接続部25D、26Dの壁面側に押圧されて変形し、ガイド溝24への制御ピン42、43の挿入を許容する。
続いて、動弁装置1における緩衝部材の変形例を説明する。図8は第1の変形例、図9は第2の変形例、図10は第3の変形例、図11は第4の変形例を示している。これらの変形例において、上述した実施の形態と共通する箇所については、同じ符号を付して説明を省略する。
図8に示す第1の変形例の緩衝部材50は、カム20の半径方向における外縁部分の構成を除いて、上述した緩衝部材31と同様である。緩衝部材50は、制御ピン接触部31cの半径方向の外縁部分に、テーパ面51を有している。テーパ面51は、ガイド溝24の幅方向の外側に向けて拡がる形状である。より詳しくは、カム20の半径方向でガイド溝24の底部側から外径側(開口側)に向けて進むにつれて、ガイド溝24の幅方向の中心からの距離が大きくなる傾斜形状として、テーパ面51が形成されている。
図8(A)は、アクチュエータ40の制御ピン42を突出させたときに、制御ピン42の先端側のエッジ部分がテーパ面51に接触した状態を示している。制御ピン42の突出方向に対するテーパ面51の傾斜によって、制御ピン接触部31cに対して、ガイド溝24の幅方向の外側に押し込む分力が発生する。
図8(B)に示すように、この分力によって、制御ピン接触部31cが接続部25Dの壁面に近づく方向に変形し、ガイド溝24への制御ピン42(特にエッジ部分)の進入を許す状態になる。そして、制御ピン接触部31cに沿って、図8(C)に示すガイド溝24の最奥位置まで制御ピン42を挿入させることができる。
このように、テーパ面51は、ガイド溝24への挿入動作を行う制御ピン42が接触したときに、カム20の軸方向で接続部25Dの壁面側に緩衝部材50を押圧する分力を発生させる分力発生部として機能する。そして、半径方向の外縁部にテーパ面51を有する緩衝部材50を用いることで、接続部25Dに対応する回転方向の位相においても、制御ピン42がガイド溝24の幅方向の中央寄りに位置する場合には、制御ピン42の移動力によって緩衝部材50を退避させて、制御ピン42をガイド溝24に挿入することができる。剛体である切替用筒部23とは異なり、緩衝部材50はカム20の軸方向に変形可能であるため、状況に応じて緩衝部材50を撓ませて、制御ピン42の挿入に伴う負荷を逃がすことができる。
なお、図8では、ガイド面25側に設ける緩衝部材50を例として示したが、ガイド面26側に設ける緩衝部材(上記実施の形態の緩衝部材32に相当)に、テーパ面51と同様の構成を設けてもよい。
図9に示す第1の変形例の緩衝部材60は、カム20の半径方向における外縁部分の構成を除いて、上述した緩衝部材31と同様である。緩衝部材60は、切替用筒部23の外周面23aよりも外径側に突出する外径突出部61、62を有している。外径突出部61は、緩衝部材60の長手方向のうち、嵌合部31aの一部と、これに続く制御ピン接触部31cの一部の範囲(すなわち、ガイド面25の第1領域25A側)に形成されている。外径突出部62は、緩衝部材60の長手方向のうち、嵌合部31bの一部と、これに続く制御ピン接触部31cの一部(すなわち、ガイド面25の被押圧部25C側)に形成されている。
なお、外径突出部61、62は緩衝部材60の長手方向の少なくとも一部(好ましくは両端付近)にあればよい。制御ピン接触部31cの長手方向の全体に亘って外径突出部61、62が連続するように構成してもよいし、外径突出部61と外径突出部62の間に、切替用筒部23の外周面23aと同じ高さ位置の部位を設けてもよい。
緩衝部材60の長手方向で、切替用筒部23の抜止部27a(嵌合部31a付近の軸方向移動を規制する部分)と緩衝部材60が重なる範囲を、図9にラップ範囲L1として示した。また、切替用筒部23の抜止部28a(嵌合部31b付近の軸方向移動を規制する部分)と緩衝部材60が重なる範囲を、図9にラップ範囲L2として示した。
ラップ範囲L1では、緩衝部材60の外縁部63は、カム20の回転の進行方向Fに進むにつれて高さが低くなる(突出量が小さくなる)。ラップ範囲L1の途中の交差ポイントP1で、切替用筒部23の外周面23aと外縁部63の高さ位置が一致する。交差ポイントP1よりも進行方向Fに進んだ側では、外縁部63は、切替用筒部23の外周面23aよりも低くなる(嵌合孔27の内側に入り込む)。交差ポイントP1において、外縁部63と外周面23aは鋭角に交差する。
ラップ範囲L2では、緩衝部材60の外縁部63は、カム20の回転の進行方向Fとは反対方向に進むにつれて高さが低くなる(突出量が小さくなる)。ラップ範囲L2の途中の交差ポイントP2で、切替用筒部23の外周面23aと外縁部63の高さ位置が一致する。交差ポイントP2よりも進行方向Fの反対方向に進んだ側では、外縁部63は、切替用筒部23の外周面23aよりも低くなる(嵌合孔28の内側に入り込む)。交差ポイントP2において、外縁部63と外周面23aは鋭角に交差する。
仮に、緩衝部材の外縁部が、切替用筒部23の外周面23aと同じ高さ位置になるように設計した場合、部品精度のばらつき等によって、実際の外縁部の高さ位置が、外周面23aよりも低くなったり、逆に高くなったりする可能性がある。緩衝部材の外縁部の高さ位置が外周面23aよりも低いと、制御ピン42を突出させたときに、制御ピン42のエッジ部分がガイド溝24のエッジ部分に衝突することを防止できなくなってしまう。緩衝部材の外縁部の高さ位置が外周面23aよりも高いと、緩衝部材と外周面23aとの間に段差が生じ、カム20の回転時に当該段差に制御ピン42が衝突して、制御ピン42や緩衝部材が破損するおそれがある。
ここで、緩衝部材60に外径突出部61、62を設けることによって、部品精度に多少のばらつきが生じたとしても、外縁部63の高さ位置が、切替用筒部23の外周面23aよりも低くなることを防ぐことができる。これにより、制御ピン42を突出動作させたときに、制御ピン42のエッジ部分がガイド溝24のエッジ部分に衝突することを防いで、制御ピン42を確実に緩衝部材60の外縁部63に当接させることができる。
外径突出部61、62はさらに、嵌合部31aや嵌合部31bを切替用筒部23に取り付ける締結ピン33(図9には表れていない)が、緩衝部材60よりも外径側に突出することも防止する。これにより、締結ピン33への制御ピン42の衝突も防止できる。
また、ラップ範囲L1、L2において、外縁部63の高さを緩衝部材60の長手方向端部に向けて漸減させるように形成したことで、制御ピン42の衝突や引っかかりの原因となる段差が、緩衝部材60の端部に存在しなくなる。そして、外周面23aに対して外縁部63を鋭角に交差させることで、外周面23aと外縁部63の間で制御ピン42をスムーズに移行(摺接)させることができる。従って、緩衝部材60の突出量を確保して半径方向での制御ピン42との確実な当接を行わせながら、カム20の円滑な回転動作を実現できる。
外縁部63の高さを漸減させる構成は、緩衝部材60の長手方向の一端側にのみ設けることも可能である。例えば、カム20が進行方向Fに回転するときには、制御ピン42の位置はラップ範囲L1側からラップ範囲L2側に向けて変化する。そのため、通常の内燃機関の運転を考慮した場合には、この制御ピン42の位置変化の始点側にあるラップ範囲L1でのみ、外縁部63の高さを漸減させるように構成しても十分な効果が得られる。逆に、内燃機関の製造時やメンテナンス時に、カム20を進行方向Fとは逆に回転させることがある場合には、ラップ範囲L2が、カム20の逆方向回転での制御ピン42の位置変化の始点側になるため、ラップ範囲L2で外縁部63の高さを漸減させるようにするとよい。
なお、図9では、ガイド面25側に設ける緩衝部材60を例として示したが、ガイド面26側に設ける緩衝部材(上記実施の形態の緩衝部材32に相当)に、緩衝部材60と同様の構成を設けてもよい。
以上に説明した緩衝部材31、32、50、60はいずれも、単体の板バネで形成されており、部品点数が少なくシンプル且つ軽量で、低コストに得られるという利点がある。しかし、緩衝部材の構成はこれに限定されない。単体の板バネ以外で緩衝部材を構成した変形例を図10と図11に示す。
図10に示す第3の変形例における緩衝部材70は、カム20の半径方向に延びる軸71を中心として揺動可能な揺動部材72と、揺動部材72をガイド溝24の内側(幅方向の中心側)に向けて付勢する付勢部材73とで構成されている。揺動部材72は、ガイド溝24の内側に向く被接触面72aを有する。ガイド面25側の緩衝部材70と、ガイド面26側の緩衝部材70は、カム20の軸方向で揺動部材72及び付勢部材73を対称に配置したものである。以下では、ガイド面25側の緩衝部材70とガイド面26側の緩衝部材70をまとめて説明する。
ガイド面25、26は、第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cの間を繋ぐ接続部に、揺動部材72を収容可能な収容凹部74、75を有している。軸71は、収容凹部74、75のうち第1領域25A、26A側の端部に隣接して配置されている。揺動部材72は、軸71を中心とする揺動によって、ガイド溝24の内側(幅方向の中心側)への突出量を変化させる。軸71から遠い揺動部材72の先端側ほど、揺動させたときのガイド溝24の内側への突出量の変化が大きくなる。
付勢部材73は、切替用筒部23内に形成した収容孔76内に配置された圧縮バネであり、付勢部材73の一端が収容孔76の底部に当接し、他端が揺動部材72のうち被接触面72aとは反対の裏面側に当接する。付勢部材73は揺動部材72を、ガイド溝24の内側へ突出させる方向に付勢する。
図10は、アクチュエータ40の制御ピン42、43(図10には表れていない)が揺動部材72に対して非接触の状態を示している。この状態では、付勢部材73の付勢力によって揺動部材72は、第1領域25A、26Aから被押圧部25C、26Cに至る制御ピン42、43の移動軌跡Mよりもガイド溝24の内側に、被接触面72aを突出させている。
ガイド面25、26の第1領域25A、26Aに対応する回転方向の位相で制御ピン42、43がガイド溝24に挿入された場合、カム20の回転に伴って、制御ピン42、43が揺動部材72の被接触面72aに接触する。被接触面72aのうち、第1領域25A、26A側の端部付近は、制御ピン42、43の非接触状態で第1領域25A、26Aの壁面に段差無く連続する形状に設定されており、制御ピン42、43を被接触面72aに対して円滑に接触開始させることができる。
制御ピン42、43と被接触面72aの接触により、揺動部材72に対してカム20の軸方向へ押圧する力が加わる。付勢部材73の付勢力は、カム20を軸方向への移動させるために要する荷重(カム20の軸方向位置を保持する不図示の係止機構による保持力等)よりも小さい。そのため、付勢部材73を圧縮させながら、揺動部材72がガイド溝24の幅方向の外側に向けて軸71を中心に揺動する。この揺動部材72の揺動と付勢部材73の圧縮が、緩衝部材70における変形である。
揺動部材72が収容凹部74、75の壁面に当接すると、それ以上の揺動部材72の揺動及び付勢部材73の圧縮(すなわち、緩衝部材70の変形)が完了する。この状態で、揺動部材72の被接触面72aは、第1領域25A、26Aや被押圧部25C、26Cの壁面と略面一の関係になり、制御ピン42、43の移動軌跡Mに沿う形状になる。緩衝部材70の変形完了により、制御ピン42、43が揺動部材72の被接触面72aを軸方向に押圧する力が、切替用筒部23にも伝達されるようになる。その結果、カム20が軸方向に移動され、ロッカーアーム16のアーム部16b(図10には表れていない)に当接するカムロブの切り替えが行われる。
ガイド面25、26の第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cの間の接続部に対応する回転方向の位相で、制御ピン42、43がガイド溝24に向けて突出した場合、制御ピン42、43の先端が揺動部材72の上面(半径方向の外縁部)に当接する。これにより、制御ピン42、43のエッジ部分とガイド溝24のエッジ部分が衝突することを防止でき、当該衝突による摩耗や損傷、騒音の発生等を軽減できる。
図11に示す第4の変形例における緩衝部材80は、カム20の軸方向に移動可能なスライド部材81と、スライド部材81をガイド溝24の内側(幅方向の中心側)に向けて付勢する付勢部材82とで構成されている。スライド部材81は、ガイド溝24の内側に向く被接触面81aを有する。ガイド面25側の緩衝部材80と、ガイド面26側の緩衝部材80は、カム20の軸方向でスライド部材81及び付勢部材82を対称に配置したものである。以下では、ガイド面25側の緩衝部材80とガイド面26側の緩衝部材80をまとめて説明する。
ガイド面25、26は、第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cの間を繋ぐ接続部に、スライド部材81を収容可能な収容凹部83、84を有している。収容凹部83、84は、第1領域25A、26A側の端部と、被押圧部25C、26C側の端部にそれぞれ、カム20の軸方向に延びるガイド面83a、84aを有している。スライド部材81は、ガイド面83a、84aの案内を受けてカム20の軸方向にスライドし、ガイド溝24の内側(幅方向の中心側)への突出量を変化させる。
付勢部材82は、収容凹部83、84内に配置し波形のバネであり、収容凹部83、84の側壁面83b、84bとスライド部材81(被接触面81aとは反対の裏面側)との間に挿入されている。付勢部材82はスライド部材81を、ガイド溝24の内側へ突出させる方向に付勢する。
図11は、アクチュエータ40の制御ピン42、43(図11には表れていない)がスライド部材81に対して非接触の状態を示している。この状態では、付勢部材82の付勢力によってスライド部材81は、第1領域25A、26Aから被押圧部25C、26Cに至る制御ピン42、43の移動軌跡Mよりもガイド溝24の内側に、被接触面81aを突出させている。
ガイド面25、26の第1領域25A、26Aに対応する回転方向の位相で制御ピン42、43がガイド溝24に挿入された場合、カム20の回転に伴って、制御ピン42、43がスライド部材81の被接触面81aに接触する。被接触面81aのうち、第1領域25A、26A側の端部付近は、制御ピン42、43の非接触状態で第1領域25A、26Aの壁面に段差無く連続する形状に設定されており、制御ピン42、43を被接触面81aに対して円滑に接触開始させることができる。
制御ピン42、43と被接触面81aの接触により、スライド部材81に対してカム20の軸方向へ押圧する力が加わる。付勢部材82の付勢力は、カム20を軸方向への移動させるために要する荷重(カム20の軸方向位置を保持する不図示の係止機構による保持力等)よりも小さい。そのため、付勢部材82が扁平形状に近づくように圧縮させながら、スライド部材81がガイド溝24の幅方向の外側に向けてスライドする。このスライド部材81のスライドと付勢部材82の圧縮が、緩衝部材80における変形である。
スライド部材81と収容凹部83、84の側壁面83b、84bとに挟まれた付勢部材82がそれ以上弾性変形できなくなると、スライド部材81のスライドが規制されて、緩衝部材80の変形が完了する。この状態で、スライド部材81の被接触面81a(第1領域25A、26A側の端部付近を除く)は、第1領域25A、26Aや被押圧部25C、26Cの壁面と略面一の関係になり、制御ピン42、43の移動軌跡Mに沿う形状になる。緩衝部材80の変形完了により、制御ピン42、43がスライド部材81の被接触面81aを軸方向に押圧する力が、切替用筒部23にも伝達されるようになる。その結果、カム20が軸方向に移動され、ロッカーアーム16のアーム部16b(図11には表れていない)に当接するカムロブの切り替えが行われる。
ガイド面25、26の第1領域25A、26Aと被押圧部25C、26Cの間の接続部に対応する回転方向の位相で、制御ピン42、43がガイド溝24に向けて突出した場合、制御ピン42、43の先端がスライド部材81の上面(半径方向の外縁部)に当接する。これにより、制御ピン42、43のエッジ部分とガイド溝24のエッジ部分が衝突することを防止でき、当該衝突による摩耗や損傷、騒音の発生等を軽減できる。
以上から分かるように、本発明における緩衝部材は、制御ピン42、43が接触する部分が撓むことで変形する態様(緩衝部材31、32、50、60)と、制御ピン42、43が接触する部分(揺動部材72、スライド部材81)とは別に設けた部位(付勢部材73、付勢部材82)が撓む態様(緩衝部材70、80)のいずれも含んでいる。
なお、本発明は上記実施の形態や各変形例に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態や各変形例において、添付図面に図示されている構成や制御等については、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
上記実施の形態及び変形例は、吸気バルブ10の動作制御に適用しているが、排気バルブを動作させる動弁装置にも本発明を適用可能である。
上記実施の形態及び変形例は、カムロブ切り替えによってバルブのリフト量を変化させる可変バルブリフト機構に適用したものであるが、カムの軸方向移動によりカムロブを切り替える機構であれば、カムロブ切り替えでバルブの動作タイミングを変化させる可変バルブタイミング機構等にも適用が可能である。
本発明の動弁装置を備える内燃機関は、車両用のエンジンには限定されない。用途に関わりなく、同様の構成を備える内燃機関全般に適用が可能である。