JP2021014158A - 係留システムの設置方法および係留用浮体の設置方法 - Google Patents

係留システムの設置方法および係留用浮体の設置方法 Download PDF

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Abstract

【課題】錨の水平位置を精度良く求める。【解決手段】係留システム3は、水底に配置された錨32と、錨32に接続された係留ライン33とを備え、係留用浮体2を水上に係留する。当該係留システム3の設置方法は、上述のように、錨32に接続された係留ライン33に対して試験用浮体により張力を付与して錨32を移動させ、錨32の移動が停止された後、係留ライン33に所定の試験張力を付与する工程(ステップS112)と、試験用浮体の水平位置、試験水域の水深、上記試験張力、錨32と試験用浮体5との間の係留ライン33の長さ、および、係留ライン33の仕様に基づいて、錨32の水平位置をカテナリー理論を利用した演算により求める工程(ステップS113)と、を備える。これにより、錨32の水平位置を精度良く求めることができる。【選択図】図1

Description

本発明は、係留用浮体を水上に係留する係留システムの設置方法、および、係留用浮体の設置方法に関する。
近年、浮体式の洋上風力発電設備が実用化されている。当該発電設備では、例えば、錨および係留ライン(例えば、高把駐力アンカーおよびチェーン等)を有する係留システムにより、浮体が水上に係留される。また、実際に浮体が係留されるよりも前に、係留システムの把駐力試験が行われる。当該把駐力試験では、水底に位置する錨に対して、所定の張力を係留ラインを介して所定時間だけ作用させ、錨の位置が変化していないことを確認する。
一般的に、錨の位置の測定は、特許文献1に開示されているように、遠隔操作型の無人潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)に搭載された水中カメラにより、錨または係留ラインに取り付けられたブイ等を観察することにより行われる。
一方、特許文献2では、錨泊中の船舶において走錨の発生を船員に知らせる錨泊監視システムが開示されている。当該錨泊監視システムでは、船体に設けられたGPS装置により取得した投錨時の船体位置および現在の船体位置に基づいて、投錨位置と現在の船体位置との直線距離が算出される。また、水深および風圧力等に基づいて、チェーンのカテナリ長(すなわち、海底に横たわらずに舷側から懸垂されている部分の長さ)が求められる。そして、上記直線距離とカテナリ長とに基づいて、海底に横たわっているチェーンの長さが求められ、当該長さが閾値以下になると警報が発される。
また、特許文献3では、バージ上の複数点にウインチを設け、各ウインチから延びるワイヤの先端部をバージ周囲の海底に配置した錨に接続し、各ウインチの巻き込みおよび繰り出し操作によってワイヤの長さを調節することにより、バージを目標位置に移動させる操船制御装置が開示されている。当該操船制御装置では、海中にてたるんでいるワイヤの形状(すなわち、カテナリ曲線)が、バージから錨までの水平距離、水深およびワイヤの張力に基づいてカテナリ演算により算出され、当該ワイヤ形状を利用してワイヤの操作量および操作速度が算出される。
特許第6316354号公報 特開2005−140549号公報 特許第3664807号公報
ところで、上述の把駐力試験では、試験開始の際の引張(すなわち、錨を水底に把駐させるための引張)により、錨が引張開始前の位置から移動して水底に潜り込んでいる場合がある。このため、特許文献1のような水中カメラにより錨を観察することは容易ではない。また、係留ラインに取り付けられたブイの位置を水中カメラに観察して錨の位置を推定する場合、ブイは、潮流等により必ずしも係留ラインの鉛直上方に位置するとは限らないため、錨の位置の推定精度はあまり高くない。さらには、上記測定においてROVから出力される位置情報はROV自身の位置であり、錨またはブイに対するROVの相対位置関係は不明であるため、錨の位置の推定精度はさらに低下するおそれがある。なお、特許文献2および特許文献3では、錨の位置が既知であるものとして走錨監視またはバージ操船を行う技術であるため、錨の位置を求める技術には適用できない。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、係留システムを設置する際に、錨の水平位置を精度良く求めることを目的としている。
請求項1に記載の発明は、水底に配置された錨と、前記錨に接続された係留ラインとを備え、係留用浮体を水上に係留する係留システムの設置方法であって、a)錨に接続された係留ラインに対して試験用浮体により張力を付与して前記錨を移動させ、前記錨の移動が停止された後、前記係留ラインに所定の試験張力を付与する工程と、b)前記試験用浮体の水平位置、試験水域の水深、前記試験張力、前記錨と前記試験用浮体との間の前記係留ラインの長さ、および、前記係留ラインの仕様に基づいて、前記錨の水平位置をカテナリー理論を利用した演算により求める工程とを備える。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の係留システムの設置方法であって、前記b)工程における前記演算において、前記試験用浮体の舷側から前記錨へと延びる前記係留ラインの微小部分の水平長さである微小水平長ΔXを、前記係留ラインの平均断面積A、前記微小部分のヤング率E、前記微小部分への作用張力T、前記微小部分の下端部と水平方向との成す角度φ、および、前記微小部分の長さΔSiを用いて、ΔX=(1+(Ti−1/(A×E)))×cosφi−1×ΔS
により求め、前記微小水平長ΔXを前記係留ラインに沿って前記舷側から前記錨まで積分することにより、前記舷側と前記錨との間の水平距離を求める。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の係留システムの設置方法であって、前記b)工程における前記演算は、潮流に起因して前記係留ラインに作用する張力にも基づいて行われる。
請求項4に記載の発明は、係留用浮体の設置方法であって、c)請求項1ないし3のいずれか1つに記載の係留システムの設置方法において求められた前記錨の水平位置に基づいて、前記係留ラインと係留用浮体とを接続する工程を備える。
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の係留用浮体の設置方法であって、前記c)工程は、c1)前記錨の水平位置に基づいて前記係留ラインの長さを調節する工程と、c2)前記c1)工程よりも後で、前記係留ラインと前記係留用浮体とを接続する工程とを備える。
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の係留用浮体の設置方法であって、前記係留システムは、前記錨に近接して前記水底に設置された他の錨と、前記係留ラインに沿って延びるとともに前記他の錨に接続された他の係留ラインとをさらに備え、d)請求項1ないし3のいずれか1つに記載の係留システムの設置方法と同様の方法により求められた前記他の錨の水平位置に基づいて、前記他の係留ラインと前記係留用浮体とを接続する工程を備える。
請求項7に記載の発明は、請求項4ないし6のいずれか1つに記載の係留用浮体の設置方法であって、前記係留用浮体は、水面に浮かぶ浮体本体と、前記浮体本体上に立設する風力発電用の風車とを備える。
本発明では、錨の水平位置を精度良く求めることができる。
一の実施の形態に係る浮体構造物を示す側面図である。 浮体構造物を示す平面図である。 浮体構造物の設置の流れを示す図である。 浮体構造物の設置の流れを示す図である。 浮体構造物の設置の流れを示す図である。 錨、係留ラインおよび試験用浮体を示す側面図である。 錨、係留ラインおよび試験用浮体を示す平面図である。 錨、係留ラインおよび試験用浮体を示す側面図である。 錨、係留ラインおよび試験用浮体を示す平面図である。 錨位置算出装置の構成を示す図である。
図1は、本発明の一の実施の形態に係る浮体構造物1を示す側面図である。図2は、浮体構造物1を示す平面図である。浮体構造物1は、水面91に浮かぶ構造物である。図1および図2に示す例では、浮体構造物1は、水底92に係留されて風力発電を行う浮体式の水上風力発電システムである。浮体構造物1が海に設置される場合、水面91および水底92は、海面および海底である。この場合、浮体構造物1は洋上風力発電システムとも呼ばれる。
浮体構造物1は、係留用浮体2と、係留システム3とを備える。係留用浮体2は、浮体本体21と、風車22とを備える。浮体本体21は、水面に浮かぶ構造物である。図1および図2に示す例では、浮体本体21は略直方体状である。浮体本体21は、平面視において略矩形であり、例えば略正方形である。浮体本体21は、例えば鉄筋コンクリート製である。浮体本体21の平面視における外形は、例えば、1辺が約50mの略正方形である。また、浮体本体21の深さは約10mであり、浮体本体21の喫水は約5mである。
風車22は、浮体本体21上に立設する風力発電用の構造物である。風車22は、複数のブレード23と、ナセル24と、支柱25とを備える。複数(例えば、3枚)のブレード23は、略水平な回転軸を中心としてナセル24に回転可能に取り付けられる。複数のブレード23およびナセル24は、略上下方向に延びる支柱25により、浮体本体21の上面よりも上側にて支持される。風車22では、複数のブレード23が風を受けて回転することにより、複数のブレード23の回転軸に接続された発電機(図示省略)により発電が行われる。例えば、風車22のロータ径は約100mであり、支柱25の高さは約70m〜80mである。風車22の定格出力は、例えば5MW(メガワット)である。
係留システム3は、係留用浮体2を水上に係留する。係留システム3は、水底92に配置された錨32と、錨32および浮体本体21に接続された係留ライン33とを備える。錨32は、好ましくは超高把駐力アンカーである。図2では、便宜上、錨32を黒丸にて示す(後述する図7および図9においても同様)。係留ライン33は、好ましくは係留チェーンである。図1および図2では、図示の都合上、係留用浮体2に比べて係留ライン33の長さを短く描いている。なお、錨32は、高把駐力アンカー以外の種類のアンカーであってもよい。係留ライン33は、係留チェーンと係留索(例えば、係留ワイヤ)とが接続されたものであってもよく、係留索のみにより構成されてもよい。
係留システム3は、複数組の錨32および係留ライン33を備える。1組の錨32および係留ライン33を「係留システム要素31」呼ぶと、図2に例示する係留システム3は、9つの係留システム要素31を備える。図2に示す例では、当該9つの係留システム要素31のうち、浮体本体21を中心とする周方向(以下、単に「周方向」とも呼ぶ。)において近接する各3つの係留システム要素31が、浮体本体21から図2中の左側、右上側および右下側に延びる。当該各3つの係留システム要素31は、周方向において約120°間隔で配置される。各3つの係留システム要素31において、周方向に隣接する係留ライン33の成す角度は、例えば約3°である。当該角度は、例えば、1°〜15°の範囲で変更可能である。また、各3つの係留システム要素31において、周方向に隣接する錨32間の距離は、好ましくは10m以上であり、例えば約20〜40mである。なお、係留システム3に含まれる係留システム要素31の数は、1であってもよく、2以上の範囲で様々に変更されてもよい。
次に、図3ないし図5を参照しつつ、浮体構造物1の設置方法について説明する。浮体構造物1が設置される際には、まず、浮体構造物1の設置水域において、係留用浮体2が配置されていない状態で、係留システム3が設置される(図3:ステップS11)。具体的には、まず、係留システム3の複数の係留システム要素31(すなわち、複数組の錨32および係留ライン33)が、それぞれの敷設予定位置に敷設される(図4:ステップS111)。続いて、各係留システム要素31について、後述する把駐力試験が実施され、係留システム要素31が所定の把駐力を有していることが確認される(ステップS112)。その後、ステップS112の把駐力試験において位置が固定された錨32について、後述する方法により水平位置(すなわち、平面視における位置)が求められる(ステップS113)。ステップS111〜S113が終了した係留システム要素31は、把駐力試験が実施された位置にて、敷設された状態のままとされる。係留システム3の全ての係留システム要素31についてステップS111〜S113が完了することにより、係留システム3の設置が終了する。
次に、係留用浮体2が、設置水域の設置予定位置に搬送され、各係留システム要素31の係留ライン33と接続される(図3:ステップS12)。これにより、係留用浮体2が、係留システム3により設置予定位置に係留されて設置される。ステップS12における各係留システム要素31と係留用浮体2との接続は、ステップS113において求められた錨32の水平位置に基づいて行われる。
具体的には、各係留システム要素31において、錨32の水平位置、係留用浮体2の設置予定位置、設置水域(錨32が敷設される領域も含む。)の水深、および、係留ライン33のたるみ等に基づいて、錨32から係留用浮体2までの係留ライン33の必要長さを既知の方法により求める。そして、係留ライン33の全長から当該必要長さを減算して得られた差に略等しい余剰長さだけ、係留ライン33の錨32とは反対側の端部を切除することにより、係留ライン33の長さが調節される(図5:ステップS121)。当該余剰長さは、例えば、係留ライン33の全長から当該必要長さを減算して得られた差以下の範囲で、切除される係留ライン33の鎖環(すなわち、リンク)の個数が最大となるように決定される。そして、ステップS121の終了後、係留ライン33の端部が浮体本体21の上面側縁部に設けられた係留具(例えば、ボラード)に接続されることにより、係留ライン33と係留用浮体2とが接続される(ステップS122)。これにより、係留用浮体2が、上述の設置予定位置に設置される。
次に、図6ないし図10を参照しつつ、ステップS11における係留システム3の設置方法の詳細について説明する。以下では、1つの係留システム要素31の設置方法について説明する。図6および図7はそれぞれ、当該係留システム要素31(すなわち、錨32および係留ライン33)並びに試験用浮体5の側面図および平面図である。試験用浮体5は、例えば、全長が約110mの作業台船である。他の係留システム要素31の設置方法も、以下に説明する方法と同様である。
ステップS111では、錨32および係留ライン33が、試験用浮体5により敷設予定位置まで搬送され、水底92へと沈められて敷設される。敷設予定位置の水深は、例えば、40m〜100mである。係留ライン33の錨32とは反対側の端部である上端部は、試験用浮体5の舷側55を介して(詳細には、舷側55に設けられたデッキエンドローラ等を介して)、試験用浮体5の甲板上に設けられたウインドラス等の巻き取り機構51に接続されている。図6および図7に示す例では、係留ライン33の上端部は、試験用浮体5の船首側(すなわち、図6中の左側)の甲板上に設けられた巻き取り機構51に接続されている。また、係留ライン33の上端部は、制鎖器(チェーンストッパーとも呼ばれる。)により甲板上に固定される。これにより、係留ライン33の繰り出し等が制限される。係留ライン33の下端部に接続されている錨32は、試験用浮体5の船首から前方に離間した位置にて水底92に載置されている。
試験用浮体5の甲板上には、巻き取り機構51よりも船尾側に反力用巻き取り機構52が設けられている。反力用巻き取り機構52には、予め、チェーン等の反力用ライン53の上端部が接続されている。反力用ライン53は、反力用巻き取り機構52から試験用浮体5の舷側を介して後方へと延びており、水底92の反力用錨54に接続されている。反力用ライン53の下端部に接続されている反力用錨54は、試験用浮体5の船尾から後方に離間した位置にて水底92に設置されている。反力用錨54は、例えば、超高把駐力アンカーである。図7に示す例では、2組の反力用ライン53および反力用錨54が、反力用巻き取り機構52に接続されている。なお、2組の反力用ライン53は、試験用浮体5に近い位置にて1本にまとめられている。
反力用錨54は、予め、反力用巻き取り機構52により反力用ライン53が巻き取られることにより、試験用浮体5に近づく方向に水底92を引きずられ、水底92に潜り込んで水底92に固定されている。このため、反力用巻き取り機構52により反力用ライン53が巻き取られると、反力用錨54は移動せず、試験用浮体5に反力用錨54による反力が付与され、試験用浮体5が後方(すなわち、反力用錨54に近づく方向)へと水面91を移動する。
ステップS111の把駐力試験では、まず、反力用巻き取り機構52により反力用ライン53が巻き取られることにより、試験用浮体5が後方(すなわち、船尾側)へと移動する。また、必要に応じて、巻き取り機構51により係留ライン33が巻き取られる。このように、錨32に接続された係留ライン33に対して試験用浮体5により張力が付与されることにより、錨32は、係留ライン33および試験用浮体5と共に後方(すなわち、錨32から係留ライン33が延びる方向)に引っ張られて、水底92を移動する。錨32は、水底92に潜り込んで水底92に固定される。これにより、錨32の水平位置が固定される。
錨32が水底92に固定されると、反力用巻き取り機構52により反力用ライン53がさらに巻き取られる。また、必要に応じて、巻き取り機構51により係留ライン33が巻き取られる。これにより、図8の側面図に示すように、反力用錨54と試験用浮体5とを接続する反力用ライン53、および、錨32と試験用浮体5とを接続する係留ライン33のたるみが減少し、試験用浮体5の水平位置がおよそ固定される。図9の平面図では、図8に対応する試験用浮体5の位置を実線にて示し、図7に示す把駐力試験開始時の試験用浮体5の位置(すなわち、後方への移動前の試験用浮体5の位置)を二点鎖線にて示す。図8では、把駐力試験開始時の試験用浮体5、錨32および係留ライン33等の位置を二点鎖線にて示す。
図8に示す状態では、係留ライン33には、所定の試験張力が付与されている。当該試験張力は、例えば、錨32の最大荷重である。当該試験張力は、試験用浮体5上に設けられたロードセル等により測定される。そして、係留ライン33に対する上記試験張力の付与が所定の試験時間(例えば、15分間)継続され、錨32の水平位置が維持され、かつ、係留ライン33に破断等の損傷が生じていないことが確認される。そして、当該確認により、1組の錨32および係留ライン33(すなわち、係留システム要素31)が所定の係留性能を有していることが認められ、ステップS112の把駐力試験が終了する。錨32の水平位置が維持されている(すなわち、錨32の移動が生じていない)ことの確認は、例えば、遠隔操作型の無人潜水機(ROV:Remotely Operated Vehicle)に搭載された水中カメラを介しての目視により行われる。
ステップS112が終了すると、試験用浮体5に設けられた錨位置算出装置56に、上述の試験張力、および、試験張力が係留ライン33に付与されている状態における試験用浮体5の水平位置が入力される。試験用浮体5の水平位置は、例えば、試験用浮体5に設けられたGPS(Global Positioning System)により取得される。試験用浮体5の水平位置は、例えば、DGPS(Differential GPS)により取得されてもよい。錨位置算出装置56へのデータの入力は、錨位置算出装置56の操作員が手作業で行ってもよく、上述のロードセルおよびGPS等からの無線通信等によるデータ送信により実現されてもよい。
錨位置算出装置56は、例えば、図10に示す通常のコンピュータである。当該コンピュータは、プロセッサ81と、メモリ82と、入出力部83と、バス84とを備える。バス84は、プロセッサ81、メモリ82および入出力部83を接続する信号回路である。メモリ82は、プログラムおよび各種情報を記憶する。プロセッサ81は、メモリ82に記憶されるプログラム等に従って、メモリ82等を利用しつつ様々な処理(例えば、数値計算や画像処理)を実行する。入出力部83は、操作者からの入力を受け付けるキーボード85およびマウス86、並びに、プロセッサ81からの出力等を表示するディスプレイ87を備える。
錨位置算出装置56では、上述の把駐力試験が行われる試験水域の水深(すなわち、錨32が敷設された位置における水深)、錨32と試験用浮体5との間の係留ライン33の長さ、および、係留ライン33の仕様等が、メモリ82に予め記憶されている。試験水域の水深は、例えば、超音波を利用した音響測深機等により測定される。錨32と試験用浮体5との間の係留ライン33の長さは、係留ライン33の全長から、試験用浮体5上に巻き上げられている(すなわち、試験用浮体5に引き込まれている)係留ライン33の長さを減算することにより求められる。係留ライン33の上記仕様には、例えば、係留ライン33の平均断面積、および、係留ライン33の長手方向の各位置におけるヤング率が含まれる。
錨位置算出装置56では、上述の試験用浮体5の水平位置(すなわち、把駐力試験終了時の試験用浮体5の水平位置)、試験水域の水深、試験張力、錨32と試験用浮体5との間の係留ライン33の長さ、および、係留ライン33の上記仕様等に基づいて、カテナリー理論を利用した演算が行われる。これにより、ステップS113に示すように、錨32の水平位置(すなわち、把駐力試験終了時の錨32の水平位置)が求められる。
具体的には、錨位置算出装置56は、以下のカテナリー計算を行うことにより錨32の水平位置Xを求める。まず、試験用浮体5の舷側55から錨32へと延びる係留ライン33の微小部分の水平長さである微小水平長ΔXを、
ΔX=(1+(Ti−1/(A×E)))×cosφi−1×ΔS・・・(数1)
により求める。
数1中のAは、係留ライン33の平均断面積であり、Eは係留ライン33の上記微小部分のヤング率であり、Tは当該微小部分への作用張力であり、φは当該微小部分の下端部と水平方向との成す角度であり、ΔSは当該微小部分の長手方向の長さ(すなわち、当該微小部分が延びる方向の長さ)である。係留ライン33の平均断面積A、および、微小部分のヤング率Eは、係留ライン33の仕様として既知である。係留ライン33の舷側55における作用張力Tは、上述の試験張力である。微小部分の長さΔSは、予め定められた値である。cosφは、微小水平長ΔXを微小部分の長さΔSで除算した値である。
錨位置算出装置56では、上述の数1に示す微小水平長ΔXが、係留ライン33に沿って舷側55から錨32まで積分されることにより、舷側55と錨32との間の水平距離Xが求められる。ステップS11における係留システム3の設置方法では、複数の係留システム要素31のそれぞれについて、ステップS111〜S113が実施されることにより、錨32および係留ライン33の把駐力試験が行われ、把駐力試験終了時の錨32の水平位置が求められる。
以上に説明したように、係留システム3は、水底に配置された錨32と、錨32に接続された係留ライン33とを備え、係留用浮体2を水上に係留する。当該係留システム3の設置方法は、上述のように、錨32に接続された係留ライン33に対して試験用浮体5により張力を付与して錨32を移動させ、錨32の移動が停止された後、係留ライン33に所定の試験張力を付与する工程(ステップS112)と、試験用浮体5の水平位置、試験水域の水深、上記試験張力、錨32と試験用浮体5との間の係留ライン33の長さ、および、係留ライン33の仕様に基づいて、錨32の水平位置をカテナリー理論を利用した演算により求める工程(ステップS113)と、を備える。
上述のように、把駐力試験終了時の錨32の水平位置を、ROVに搭載された水中カメラによる観察により求めようとすると、錨32が水底92に潜り込んで視認できない等の問題がある。また、係留ライン33に取り付けられたブイを観察しようとしても、ブイと係留ライン33および錨32との相対位置が潮流等により変化するため、錨32の水平位置を精度良く求めることができないという問題がある。さらに、ROVに搭載された水中カメラにより錨32を視認可能である場合であっても、ROVと錨32との相対位置関係が不明であるため、錨32の水平位置を精度良く求めることができないという問題がある。これに対し、上述の係留システム3の設置方法では、比較的高精度に測定可能または取得可能な試験張力や係留ライン33の仕様等の上記値を用いて錨32の水平位置が求められるため、把駐力試験終了時の錨32の水平位置を精度良く求めることができる。
係留システム3の設置方法では、好ましくは、ステップS113における演算において、試験用浮体5の舷側55から錨32へと延びる係留ライン33の微小部分の水平長さである微小水平長ΔXは、上述の数1により求められる。微小水平長ΔXを求める際には、係留ライン33の平均断面積A、当該微小部分のヤング率E、当該微小部分への作用張力T、当該微小部分の下端部と水平方向との成す角度φ、および、当該微小部分の長さΔSが用いられる。そして、微小水平長ΔXを係留ライン33に沿って舷側55から錨32まで積分することにより、舷側55と錨32との間の水平距離が求められる。これにより、係留ライン33の仕様(例えば、係留チェーンの呼び径)が、係留ライン33の長手方向の途中で変化する場合であっても、当該変化による影響を考慮して、錨32の水平位置をさらに精度良く求めることができる。
係留システム3の設置方法では、ステップS113における演算は、潮流に起因して係留ライン33に作用する張力にも基づいて行われることが好ましい。これにより、把駐力試験終了時の錨32の水平位置をさらに精度良く求めることができる。潮流に起因する張力を考慮する場合、上述の数1では、係留ライン33の舷側55における作用張力Tは、上記試験張力と、潮流に起因して試験用浮体5に生じる前後方向(すなわち、試験用浮体5の船首尾方向)の力との合計である。
上述の係留用浮体2の設置方法は、ステップS112〜S113の係留システム3の設置方法において求められた錨32の水平位置に基づいて、係留ライン33と係留用浮体2とを接続する工程(ステップS12)を備える。これにより、係留用浮体2と錨32との相対位置関係を精度良く把握した状態で係留用浮体2を設置することができる。このため、係留用浮体2の設置後に係留ライン33に作用する張力が、設計最大張力よりも大きくなることを抑制することができる。その結果、係留用浮体2の係留の安全性を向上することができる。
上述のように、ステップS12は、錨32の水平位置に基づいて係留ライン33の長さを調節する工程(ステップS121)と、ステップS121よりも後で、係留ライン33と係留用浮体2とを接続する工程(ステップS122)とを備えることが好ましい。これにより、係留用浮体2に接続される係留ライン33の長さを精度良く調節することができるため、係留用浮体2の設置後に係留ライン33に作用する張力が、設計最大張力よりも大きくなることをより一層抑制することができる。その結果、係留用浮体2の係留の安全性をさらに向上することができる。
上述のように、係留システム3は、好ましくは、上記一の錨32に近接して水底92に設置された他の錨32と、上記一の係留ライン33に沿って延びるとともに当該他の錨32に接続された他の係留ライン33とをさらに備え、当該一の錨32に関するステップS112〜S113と同様の方法により求められた当該他の錨32の水平位置に基づいて、当該他の係留ライン33と係留用浮体2とを接続する工程を備える。これにより、係留用浮体2と当該他の錨32との相対位置関係を精度良く把握した状態で、当該他の係留ライン33を係留用浮体2に接続することができる。その結果、上述の一の錨32および一の係留ライン33と、上述の他の錨32および他の係留ライン33との干渉(例えば、係留ライン33同士の接触)を防止または抑制することができる。
上述のように、係留用浮体2は、水面91に浮かぶ浮体本体21と、浮体本体21上に立設する風力発電用の風車22とを備えることが好ましい。上述の係留用浮体2の設置方法では、既述の通り、係留ライン33に作用する張力が設計最大張力よりも大きくなることを抑制することができるため、当該係留用浮体2の設置方法は、係留ライン33に対して比較的大きな張力が作用する風力発電用の係留用浮体2の設置に特に適している。
上述の係留システム3の設置方法および係留用浮体2の設置方法では、様々な変更が可能である。
例えば、係留用浮体2では、浮体本体21および風車22の大きさ、形状および構造は様々に変更されてよい。例えば、浮体本体21の平面視における形状は、略六角形または略八角形であってもよい。これにより、浮体本体21の抗力係数が小さくなり、潮流等により浮体本体21に生じる力が低減される。また、浮体本体21の喫水等も適宜変更されてよい。風車22では、ブレード23の数は、1枚、2枚または4枚以上であってもよい。また、風車22は、上述のような水平軸型風車(すなわち、横軸風車)には限定されず、ダリウス型風車等の垂直軸型風車(すなわち、縦軸風車)であってもよい。
係留用浮体2は、必ずしも風力発電用の風車22を有する必要はなく、風力発電以外の目的に利用されてもよい。
上述のように、係留システム3では、係留システム要素31の数は様々に変更されてよい。例えば、係留システム3では、略120°間隔にて周方向に配置される各3つの係留システム要素31に代えて、周方向おいて近接する各2つの係留システム要素31が、略120°間隔に配置されてもよい。あるいは、係留システム3は3つの係留システム要素31を備え、当該3つの係留システム要素31が略120°間隔にて周方向に配置されてもよい。
係留システム3の設置方法におけるステップS113では、錨32の水平位置は、カテナリー理論を利用した演算により求められるのであれば、必ずしも、数1にて求めた微小水平長ΔXを積分するカテナリー計算により求められる必要はない。例えば、係留ライン33の延びる方向に関して、水平方向の座標Xと、上下方向の座標Yとの関係を、
Y=a・cosh(X/a)・・・(数2)
により表し、係数aを、上記把駐力試験の諸条件から既知の方法にて決定することにより、把駐力試験終了時の錨32の水平位置が求められてもよい。係数aは、例えば、
a=(So−Vo)/(2・Vo)・・・(数3)
により決定されてもよい。数3中のSoは、試験用浮体5の舷側55から錨32までの係留ライン33の長さであり、Voは、試験用浮体5の舷側55から水底92までの上下方向の距離(すなわち、水深と乾舷との合計)である。
係留システム3の設置方法では、試験用浮体5に付与される反力は、必ずしも反力用錨54等によるものである必要はなく、例えば、試験用浮体5に接続されたタグボート等により試験用浮体5が船尾方向に引っ張られることにより、試験用浮体5に反力が付与されてもよい。
試験用浮体5は、必ずしも作業台船である必要はなく、例えば、揚重作業船である起重機船またはクレーン付台船、あるいは、築造作業船であるスパッド台船または自己昇降式台船(SEP)等が試験用浮体5として利用されてもよい。
係留システム3の設置方法では、係留ライン33は、必ずしも試験用浮体5の巻き取り機構51に直接的に接続される必要はなく、例えば、試験用浮体5に接続された他の係留ラインに、張力測定用の治具等を介して接続されてもよい。この場合、当該係留ライン33は、他の係留ラインおよび張力測定用の治具等を介して試験用浮体5に間接的に接続される。ステップS112の把駐力試験では、試験用浮体5により当該他の係留ラインに張力が付与されることにより、係留ライン33にも張力が付与され、錨32が移動する。
係留用浮体2の設置方法では、係留ライン33の長さ調節(例えば、鎖環の切除)は必ずしも行われる必要はない。例えば、ステップS113にて求められた錨32の水平位置に基づいて、係留ライン33の長さ調節を行う代わりに、係留用浮体2の水平位置を設置予定位置からずらし、その後、係留ライン33が係留用浮体2に接続されてもよい。具体的には、例えば、錨32の水平位置が想定よりも係留用浮体2の設置予定位置に近い場合、係留用浮体2を錨32から離れる方向へと移動した後に、係留ライン33が係留用浮体2に接続される。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
2 係留用浮体
3 係留システム
5 試験用浮体
21 浮体本体
22 風車
32 錨
33 係留ライン
55 舷側
91 水面
92 水底
S11〜S12,S111〜S113,S121〜S122 ステップ

Claims (7)

  1. 水底に配置された錨と、前記錨に接続された係留ラインとを備え、係留用浮体を水上に係留する係留システムの設置方法であって、
    a)錨に接続された係留ラインに対して試験用浮体により張力を付与して前記錨を移動させ、前記錨の移動が停止された後、前記係留ラインに所定の試験張力を付与する工程と、
    b)前記試験用浮体の水平位置、試験水域の水深、前記試験張力、前記錨と前記試験用浮体との間の前記係留ラインの長さ、および、前記係留ラインの仕様に基づいて、前記錨の水平位置をカテナリー理論を利用した演算により求める工程と、
    を備えることを特徴とする係留システムの設置方法。
  2. 請求項1に記載の係留システムの設置方法であって、
    前記b)工程における前記演算において、前記試験用浮体の舷側から前記錨へと延びる前記係留ラインの微小部分の水平長さである微小水平長ΔXを、前記係留ラインの平均断面積A、前記微小部分のヤング率E、前記微小部分への作用張力T、前記微小部分の下端部と水平方向との成す角度φ、および、前記微小部分の長さΔSiを用いて、
    ΔX=(1+(Ti−1/(A×E)))×cosφi−1×ΔS
    により求め、
    前記微小水平長ΔXを前記係留ラインに沿って前記舷側から前記錨まで積分することにより、前記舷側と前記錨との間の水平距離を求めることを特徴とする係留システムの設置方法。
  3. 請求項1または2に記載の係留システムの設置方法であって、
    前記b)工程における前記演算は、潮流に起因して前記係留ラインに作用する張力にも基づいて行われることを特徴とする係留システムの設置方法。
  4. 係留用浮体の設置方法であって、
    c)請求項1ないし3のいずれか1つに記載の係留システムの設置方法において求められた前記錨の水平位置に基づいて、前記係留ラインと係留用浮体とを接続する工程を備えることを特徴とする係留用浮体の設置方法。
  5. 請求項4に記載の係留用浮体の設置方法であって、
    前記c)工程は、
    c1)前記錨の水平位置に基づいて前記係留ラインの長さを調節する工程と、
    c2)前記c1)工程よりも後で、前記係留ラインと前記係留用浮体とを接続する工程と、
    を備えることを特徴とする係留用浮体の設置方法。
  6. 請求項4または5に記載の係留用浮体の設置方法であって、
    前記係留システムは、
    前記錨に近接して前記水底に設置された他の錨と、
    前記係留ラインに沿って延びるとともに前記他の錨に接続された他の係留ラインと、
    をさらに備え、
    d)請求項1ないし3のいずれか1つに記載の係留システムの設置方法と同様の方法により求められた前記他の錨の水平位置に基づいて、前記他の係留ラインと前記係留用浮体とを接続する工程を備えることを特徴とする係留用浮体の設置方法。
  7. 請求項4ないし6のいずれか1つに記載の係留用浮体の設置方法であって、
    前記係留用浮体は、
    水面に浮かぶ浮体本体と、
    前記浮体本体上に立設する風力発電用の風車と、
    を備えることを特徴とする係留用浮体の設置方法。
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