JP2021011608A - 軌道輪及び転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【課題】寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができるとともに、軌道面における割れを抑制することができる軌道輪を提供する。【解決手段】軌道輪は、鋼製であり、軌道面を有する。軌道輪は、軌道面において、焼き入れ硬化層を備える。焼き入れ硬化層は、オーステナイト相と、マルテンサイト相とを含む。焼き入れ硬化層におけるオーステナイト相の体積比率をX、マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅をY、基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる軌道面からの深さをδとした場合、軌道面からの深さが6δまでの位置において、X<14.1かつ0.054×Y−0.019×X>0.130との関係を満たす。焼き入れ硬化層の深さは、軌道輪の肉厚の1/2倍以下である。【選択図】図1
Description
本発明は、軌道輪及び転がり軸受に関する。
転がり軸受の軌道輪は、一般的に、オーステナイト相を含んでいる。転がり軸受が高温環境下で長時間使用されると、オーステナイト相が、フェライト相及び炭化物相に分解する。オーステナイトの結晶構造は面心立方格子であり、フェライトの結晶構造は体心立方構造である。そのため、オーステナイト相がフェライト相及び炭化物相に分解する際に、体積変化が生じる。軌道輪が転がり軸受の内輪である場合、このような体積変化に起因して、軸とのはめあい代が減少する。その結果、内輪にクリープが引き起こされ、軸受の早期損傷の原因となる。
転がり軸受には、大きな静的荷重が加えられる場合がある。軌道輪の静的負荷容量が十分ではない場合、このような静的荷重により、軌道面に圧痕が生じることがある。軌道面に生じた圧痕は、回転精度の悪化、異音の原因となる。このように、転がり軸受の軌道輪には、機械的性質として、形状安定性及び静的荷重容量が要求されている。
さらに、転がり軸受の軌道輪に過大なフープ応力が作用する場合、当該フープ応力に起因して、軌道面に割れが発生するおそれがある。
なお、例えば特開2013−124416号公報(特許文献1)には、軸受部品の寸法安定性を改善するための軸受部品の製造方法が記載されている。特許文献1に記載の軸受部品の製造方法においては、寸法安定性を改善するため、浸炭窒化処理が行われている。
従来から、転がり軸受の軌道輪の機械的性質は、軌道輪を構成している鋼の金属組織と関連性があることは知られている。しかしながら、良好な寸法安定性及び静的負荷容量を得るために軌道輪がどのような金属組織を有すればよいのかについては、明らかにされていない。また、転がり軸受の軌道輪において過大なフープ応力に起因した割れを防止するためには、軌道面に圧縮応力を付与することが有効であるが、そのために軌道輪に対してどのような熱処理を行えばよいのかについて、十分に明らかにされていない。
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができるとともに、軌道面における割れを抑制することができる軌道輪及び転がり軸受を提供するものである。
本発明の一態様に係る軌道輪は、鋼製であり、軌道面を有する。軌道輪は、軌道面において、焼き入れ硬化層を備える。焼き入れ硬化層は、オーステナイト相と、マルテンサイト相とを含む。焼き入れ硬化層におけるオーステナイト相の体積比率をX、マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅をY、基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる軌道面からの深さをδとした場合、軌道面からの深さが6δまでの位置において、X<14.1かつ0.054×Y−0.019×X>0.130との関係を満たす。焼き入れ硬化層の深さは、軌道輪の肉厚の1/2倍以下である。
上記の軌道輪において、軌道面からの深さが6δ以上の位置においてX<14.1との関係を満たしていてもよい。上記の軌道輪において、X線はCrKα線であってもよい。上記の軸受部品において、鋼はJIS規格に定められたSUJ2鋼材であってもよい。
本発明の一態様に係る転がり軸受は、外輪と、内輪とを備える。内輪は、外輪の内側に配置される。外輪及び内輪のうちの少なくとも1つは、上記の軌道輪である。
本発明の一態様に係る転がり軸受によると、転がり軸受の寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができる。
本発明の一態様に係る軌道輪によると、軌道輪の寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができるとともに、軌道面における割れを抑制することができる。本発明の一態様に係る転がり軸受によると、軌道輪の寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができるとともに、軌道面における割れを抑制することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さないものとする。
(実施形態に係る軌道輪)
以下に、実施形態に係る軌道輪の構成について説明する。
実施形態に係る軌道輪は、例えば転がり軸受の内輪10である。実施形態に係る軌道輪は、転がり軸受の外輪であってもよいが、以下においては、内輪10を実施形態に係る軌道輪の例として説明を行う。
以下に、実施形態に係る軌道輪の構成について説明する。
実施形態に係る軌道輪は、例えば転がり軸受の内輪10である。実施形態に係る軌道輪は、転がり軸受の外輪であってもよいが、以下においては、内輪10を実施形態に係る軌道輪の例として説明を行う。
図1は、内輪10の平面図である。図2は、図1のII−IIにおける断面図である。図1及び2に示されるように、内輪10は、上面10aと、底面10bと、内周面10cと、外周面10dとを有している。
上面10a及び底面10bは、内輪10の中心軸に沿う方向における端面を構成している。底面10bは、内輪10の中心軸に沿う方向における上面10aの反対面である。内周面10cは、上面10a及び底面10bに連なっている。内周面10cは、周方向に沿って延在している。内周面10cは、径方向において、内側(内輪10の中心軸側)を向いている。
外周面10dは、上面10a及び底面10bに連なっている。外周面10dは、周方向に沿って延在している。外周面10dは、径方向において、外側(内輪10の中心軸とは反対側)を向いている。外周面10dは、径方向における内周面10cの反対面である。外周面10dは、軌道面10daを有している。
内輪10は、鋼製である。内輪10を構成している鋼は、例えば軸受鋼である。内輪10を構成している鋼は、JIS規格(JIS G 4805:2008)に定められた高炭素クロム軸受鋼であることが好ましい。内輪10を構成している鋼は、JIS規格に定められたSUJ2鋼材であることがさらに好ましい。
内輪1は、肉厚Wを有している。肉厚Wは、径方向における内周面10cと外周面10dとの間の距離である。内輪10を構成している鋼は、外周面10d(軌道面10da)から1/2×Wの深さまで焼き入れられている。焼き入れられた鋼により構成されている内輪10の部分を、以下においては、焼き入れ硬化層11ということがある。焼き入れ硬化層11の深さは、肉厚Wの1/2倍以下である。なお、焼き入れ硬化層11の深さは、硬さが45HRCとなる位置である。焼き入れ硬化層11の硬さは、JIS規格(JIS Z 2245:2016)に定められたロックウェル硬さ試験法にしたがって測定される。
焼き入れ硬化層11は、オーステナイト相と、マルテンサイト相とを含んでいる。オーステナイト相は、後述する加熱工程S21においてオーステナイト化した鋼材の部分のうち、後述する冷却工程S22においてマルテンサイト相とならなかったものである。すなわち、このオーステナイト相は、いわゆる残留オーステナイトである。
基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる軌道面10daからの深さを、δとする。焼き入れ硬化層11の軌道面10daからの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率は、14.1パーセント未満になっている。すなわち、焼き入れ硬化層11におけるオーステナイト相の体積比率をX(単位:パーセント)とした場合に、X<14.1との関係が満たされている。好ましくは、焼き入れ硬化層11の軌道面10daからの深さが6δ以上となる位置において、X<14.1との関係が満たされている。
鋼中におけるオーステナイト相の体積比率の測定に際しては、第1に、内輪10の鏡面研磨が行われる。鋼中におけるオーステナイト相の体積比率の測定に際しては、第2に、上記の鏡面研磨面の腐食が行われる。オーステナイト相の体積比率の測定に際しては、第3に、内輪10の腐食された鏡面研磨面のSEM(Scanning Electron Microscope)観察が行われる。そして、腐食された鏡面研磨面のSEM画像に対して画像解析を行うことにより、鋼中におけるオーステナイト相の面積比率が算出され、鋼中のオーステナイト相の面積比率が、鋼中のオーステナイト相の体積比率と見做される。
基本動定格荷重負荷は、JIS規格(JIS B 1518)にしたがって定められている。また、基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる軌道面10daからの深さ(δ)は、ヘルツ接触を仮定することにより算出することができる。
焼き入れ硬化層11の軌道面10daからの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率をX(単位:パーセント)、マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅をY(単位:°)とした場合、0.054×Y−0.019×X>0.130との関係が満たされている。なお、軌道面10daからの深さが6δ以上となる位置においては、0.054×Y−0.019×X>0.130との関係を満たされていなくてもよい。
マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅は、例えば株式会社リガク製のMSF−3Mを用いて測定される。マルテンサイト相の{211}面の回折ピークの測定に用いられるX線は、CrKα線であってもよい。
鋼に対してX線回折を行った際、X線の回折強度は、マルテンサイト相の{211}面に対応する所定の角度において、ピーク値を示す。そして、当該所定の角度から離れるにつれて、X線の回折強度は、当該ピーク値から減少していく。当該所定の角度より角度が大きい側においてX線の回折強度が当該ピークの1/2となる角度と、当該所定の角度より角度が小さい側においてX線の回折強度が当該ピークの1/2となる角度との差が、鋼中のマルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅となる。
焼き入れ硬化層11における炭化物面積率は、8パーセント以上12パーセント以下であることが好ましい。なお、焼き入れ硬化層11における炭化物面積率は、鋼中におけるオーステナイト相の面積比率の測定と同様の方法により測定される。
軌道面10daにおける圧縮残留応力は、500MPa以上である。軌道面10daにおける圧縮残留応力は、700MPa以上であってもよく、800MPa以上であってもよい。軌道面10daにおける残留応力は、軌道面10daにある焼き入れ硬化層11を電解研磨により50μmの深さまで除去するとともに、除去後の表面に対してX線回折を行うことにより、測定される。
(実施形態に係る転がり軸受)
以下に、実施形態に係る転がり軸受(以下「転がり軸受100」とする)の構成について説明する。
図3は、転がり軸受100の平面図である。図4は、図3のIV−IVにおける断面図である。図3及び4に示されるように、転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、転動体30と、保持器40とを有している。内輪10は、上記のとおり、実施形態に係る軌道輪である。外輪20は、上面20aと、底面20bと、内周面20cと、外周面20dとを有している。
以下に、実施形態に係る転がり軸受(以下「転がり軸受100」とする)の構成について説明する。
図3は、転がり軸受100の平面図である。図4は、図3のIV−IVにおける断面図である。図3及び4に示されるように、転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、転動体30と、保持器40とを有している。内輪10は、上記のとおり、実施形態に係る軌道輪である。外輪20は、上面20aと、底面20bと、内周面20cと、外周面20dとを有している。
上面20a及び底面20bは、外輪20の中心軸に沿う方向における端面を構成している。底面20bは、外輪20の中心軸に沿う方向における上面20aの反対面である。内周面20cは、上面20a及び底面20bに連なっている。内周面20cは、周方向に沿って延在している。内周面20cは、径方向において、内側(外輪20の中心軸側)を向いている。内周面20cは、軌道面20caを有している。外輪20は、内周面20cが外周面10dと対向するように、内輪10の外側に配置されている。
外周面20dは、上面20a及び底面20bに連なっている。外周面20dは、周方向に沿って延在している。外周面20dは、径方向において、外側(外輪20の中心軸とは反対側)を向いている。外周面20dは、径方向における内周面20cの反対面である。
外輪20は、鋼製である。外輪20を構成している鋼は、例えば軸受鋼である。外輪20を構成している鋼は、JIS規格に定められる高炭素クロム軸受鋼であることが好ましい。外輪20を構成している鋼は、JIS規格に定められるSUJ2鋼材であることがさらに好ましい。
外輪20は、実施形態に係る軌道輪である。すなわち、外輪20は、軌道面20caにおいて焼き入れ硬化層を有している。焼き入れ硬化層において、オーステナイト相の体積比率をX(単位:パーセント)、マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅をY(単位:°)、基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる軌道面20caからの深さをδとした場合に、軌道面20caからの深さが6δまでの位置において、X<14.1かつ0.054×Y−0.019×X>0.130との関係が満たされている。焼き入れ硬化層の深さは、外輪20の肉厚の1/2倍以下である。
転動体30は、軌道面10da及び軌道面20caに転動自在に接している。転動体30は、球状の形状を有している。転動体30は、例えば、JIS規格に定められたSUJ2等の高炭素クロム軸受鋼により形成されている。保持器40は、外周面10dと内周面20cとの間に配置されている。転動体30は、保持器40により、周方向における間隔が一定範囲内となるように保持されている。
上記においては、内輪10及び外輪20の双方が実施形態に係る軌道輪であるとして説明を行ったが、内輪10及び外輪20の一方は、実施形態に係る軌道輪でなくてもよい。
(実施形態に係る軸受部品の製造方法)
以下に、内輪10の製造方法について説明する。
図5は、内輪10の製造方法を示す工程図である。図5に示すように、内輪10の製造方法は、準備工程S1と、焼き入れ工程S2と、焼き戻し工程S3と、後処理工程S4を有している。焼き入れ工程S2は準備工程S1の後に行われ、焼き戻し工程S3は焼き入れ工程S2の後に行われる。後処理工程S4は、焼き戻し工程S3の後に行われる。
以下に、内輪10の製造方法について説明する。
図5は、内輪10の製造方法を示す工程図である。図5に示すように、内輪10の製造方法は、準備工程S1と、焼き入れ工程S2と、焼き戻し工程S3と、後処理工程S4を有している。焼き入れ工程S2は準備工程S1の後に行われ、焼き戻し工程S3は焼き入れ工程S2の後に行われる。後処理工程S4は、焼き戻し工程S3の後に行われる。
準備工程S1においては、上記の各工程が実施されることにより内輪10となる加工対象物が準備される。加工対象物は、鋼製のリング状部材である。加工対象物を構成する鋼は、例えば軸受鋼である。加工対象物を構成している鋼は、JIS規格に定められる高炭素クロム軸受鋼であることが好ましい。加工対象物を構成している鋼は、JIS規格に定められるSUJ2鋼材であることがさらに好ましい。
焼き入れ工程S2においては、加工対象物を構成する鋼に対する焼き入れが行われる。焼き入れ工程S2は、加熱工程S21と冷却工程S22とを有している。加熱工程S21においては、加工対象物の加熱が行われる。加熱工程S21においては、加工対象物は、加工対象物を構成する鋼のA1点以上の温度(加熱温度)まで加熱される。
加熱工程S21における加工対象物の加熱は、例えばシングルターンコイルを用いた誘導加熱により行われる。誘導加熱は、加工対象物の外周面から行われる。加熱工程S21においては、加工対象物が加熱温度まで昇温された後、当該加熱温度で所定時間(以下においては、保持時間という)保持される。
保持時間が長くなるにつれて、又は加熱温度が高くなるにつれて、加熱工程S21において加工対象物を構成する鋼材の母材中に固溶する炭素量が多くなる。そのため、保持時間及び加熱温度を制御することにより、焼き入れ硬化層11における炭化物面積率を制御することができる。
マルテンサイト相における炭素の固溶量が大きくなるにしたがい、マルテンサイト結晶のC軸が伸びることになるため、{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅が大きくなる傾向にある。焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト相における炭素の固溶量は、保持時間を長くするほど、又は加熱温度を高くするほど多くなる傾向にある。
そのため、保持時間及び加熱温度を制御することにより、焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト相の{211}面の回折ピークの半値幅を制御することができる。
保持時間が長くなるほど、又は加熱温度が高くなるほど、加熱工程S21において鋼材中のフェライト相のより多くの部分が、オーステナイト相に変態する傾向にある。鋼材中のフェライト相のより多くの部分がオーステナイト相に変態するほど、残留オーステナイト相が多くなる傾向がある。そのため、保持時間及び加熱温度を制御することにより、焼き入れ硬化層11中のオーステナイト相の体積比率を制御することができる。
このように、焼き入れ硬化層11中のオーステナイト相の体積比率及び焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト相の{211}面の回折ピークの半値幅は、例えば、加熱工程S21における加熱温度及び保持時間を制御することにより所望の値を得ることができる。
冷却工程S22においては、加工対象物の冷却が行われる。より具体的には、冷却工程S22においては、加工対象物は、加熱温度から加工対象物を構成する鋼のMS点以下の温度(以下においては、冷却温度という)まで冷却される。冷却工程S22における加工対象物の冷却は、従来周知の任意の冷媒を用いて行われる。加工対象物の冷却に用いられる冷媒は、例えば油又は水である。
なお、冷却工程S22における冷却温度及び冷却速度は、焼き入れ硬化層11中におけるマルテンサイト相の量(別の観点からいえば、焼き入れ硬化層11中におけるオーステナイト相の残留量)に影響する。したがって、冷却温度及び冷却速度を制御することによっても、焼き入れ硬化層11中のオーステナイト相の体積比率及び焼き入れ硬化層11中のマルテンサイト相の{211}面の回折ピークの半値幅を制御することができる。
焼き戻し工程S3においては、焼き入れ硬化層11が焼き戻される。焼き入れ硬化層11に対する焼き戻しは、加工対象物をA1点未満の温度(以下においては、焼き戻し温度という)で所定時間(以下においては、焼き戻し時間という)保持することにより行われる。
焼き戻し工程S3においては、冷却工程S22によってもマルテンサイト相にならなかったオーステナイト相が、フェライト相と炭化物相とに分解される。このオーステナイト相のフェライト相及び炭化物相へと分解される量は、焼き戻し温度及び焼き戻し時間を制御することにより、焼き入れ硬化層11中のオーステナイト相の体積比率を制御することができる。
後処理工程S4においては、加工対象物に対する後処理が行われる。後処理工程S4においては、例えば、加工対象物の洗浄、加工対象物に対する研削、研磨等の機械加工等が行われる。以上により、内輪10の製造が行われる。
(寸法変化率及び静的荷重容量の評価)
以下に、実施例(実施例1〜実施例4)及び比較例(比較例1〜比較例5)に対して行った寸法変化率及び静的荷重容量の評価試験について説明する。
以下に、実施例(実施例1〜実施例4)及び比較例(比較例1〜比較例5)に対して行った寸法変化率及び静的荷重容量の評価試験について説明する。
<鋼材の組成>
表1には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に用いられた鋼材の組成が示されている。なお、表1に示されていないが、鉄(Fe)は鋼材の残部を構成している。表1に示すように、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に用いられた鋼材は、JIS規格に定められたSUJ2鋼材である。
表1には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に用いられた鋼材の組成が示されている。なお、表1に示されていないが、鉄(Fe)は鋼材の残部を構成している。表1に示すように、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に用いられた鋼材は、JIS規格に定められたSUJ2鋼材である。
<試料の形状及び寸法>
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、リング状部材である。このリング状部材の寸法は、外径60.3mm、内径53.7mm、幅15.3mmである。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、リング状部材である。このリング状部材の寸法は、外径60.3mm、内径53.7mm、幅15.3mmである。
<熱処理条件>
表2には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に対して行われた熱処理の熱処理条件が示されている。表2に示すように、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5においては、加熱工程S21における加熱温度は、900℃、950℃又は1000℃とされた。
表2には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5に対して行われた熱処理の熱処理条件が示されている。表2に示すように、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5においては、加熱工程S21における加熱温度は、900℃、950℃又は1000℃とされた。
実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5においては、焼き入れ工程S2及び焼き戻し工程S3は、炭化物面積率が、4パーセント、8パーセント又は12パーセントとなるように行われた。
<寸法変化率評価試験方法>
寸法変化率の評価試験においては、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、外径60mm、内径54mm、幅15mmの寸法の試験片に研磨された。この研磨後、各試験片は、大気中において、230℃で2時間保持された。この保持の後、各試験片の寸法変化率が測定された。寸法変化率は、試験片毎に、互いに90°異なる2箇所の位置で測定された。寸法変化率は、各々の実施例及び比較例について、3個の試験片の平均値とされた。寸法変化率が6×10−4以下である場合「OK」と評価し、6×10−4を超えている場合を「NG」と評価した。
寸法変化率の評価試験においては、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、外径60mm、内径54mm、幅15mmの寸法の試験片に研磨された。この研磨後、各試験片は、大気中において、230℃で2時間保持された。この保持の後、各試験片の寸法変化率が測定された。寸法変化率は、試験片毎に、互いに90°異なる2箇所の位置で測定された。寸法変化率は、各々の実施例及び比較例について、3個の試験片の平均値とされた。寸法変化率が6×10−4以下である場合「OK」と評価し、6×10−4を超えている場合を「NG」と評価した。
<静的負荷容量評価試験方法>
静的負荷容量評価試験においては、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、ワイヤカットにより6mm×15mm×3mmの試験片に成型された後、鏡面研磨を施すことにより、試験片とされた。静的負荷容量評価試験は、鏡面研磨が施された各試験片の6mm×15mmの面に、3/8インチのセラミックス製のボールを一定荷重で押し付けた際に塑性変形によって生じる圧痕の深さを測定することにより行った。セラミックス製のボールを押し付ける際の荷重は、471Nである。なお、この荷重は、ヘルツ接触のPmaxが4GPaである場合に相当する。圧痕の深さは、寸法変化率は、各々の実施例及び比較例について、3個の試験片の平均値とされた。圧痕の深さが0.20μm以下である場合を「OK」と評価し、0.20μmを超えている場合を「NG」と評価した。
静的負荷容量評価試験においては、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5は、ワイヤカットにより6mm×15mm×3mmの試験片に成型された後、鏡面研磨を施すことにより、試験片とされた。静的負荷容量評価試験は、鏡面研磨が施された各試験片の6mm×15mmの面に、3/8インチのセラミックス製のボールを一定荷重で押し付けた際に塑性変形によって生じる圧痕の深さを測定することにより行った。セラミックス製のボールを押し付ける際の荷重は、471Nである。なお、この荷重は、ヘルツ接触のPmaxが4GPaである場合に相当する。圧痕の深さは、寸法変化率は、各々の実施例及び比較例について、3個の試験片の平均値とされた。圧痕の深さが0.20μm以下である場合を「OK」と評価し、0.20μmを超えている場合を「NG」と評価した。
なお、寸法変化率評価試験及び静的負荷容量評価試験の結果と、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5の金属組織との関係を評価するため、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5について、オーステナイト相の体積比率及びマルテンサイト相の半値幅の測定を行った。オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、表面からの深さが6δまでの位置において、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1の関係を満たしている場合に「OK」と評価し、この関係を満たしていない場合に「NG」と評価した。
<試験結果>
表3には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5についての寸法変化率評価試験及び静的負荷容量評価試験の結果が示されている。
表3には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5についての寸法変化率評価試験及び静的負荷容量評価試験の結果が示されている。
表3に示すように、実施例1〜実施例4については、寸法変化率評価試験の結果及び静的負荷容量評価試験の結果が、いずれも「OK」であった。他方で、比較例1〜比較例5については、寸法変化率評価試験結果及び静的負荷容量評価試験の結果の少なくともいずれか一方が、「NG」であった。
また、表3には、実施例1〜実施例4及び比較例1〜比較例5において、オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、表面からの深さが6δまでの位置において、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1との関係を満たしているか否かが示されている。
表3に示すように、実施例1〜実施例4については、表面からの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1との関係を満たしている一方、比較例1〜比較例5については、この関係が満たされていなかった。
この比較結果から、表面からの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1との関係を満たしている場合には、軌道輪の寸法安定性及び静的負荷容量が改善されることが明らかにされた。
(残留応力の評価)
以下に、実施例(実施例5、実施例6)及び比較例(比較例6、比較例7)に対して行った残留応力の評価試験について説明する。
以下に、実施例(実施例5、実施例6)及び比較例(比較例6、比較例7)に対して行った残留応力の評価試験について説明する。
<試料の詳細>
実施例5、実施例6、比較例6及び比較例7は、外径が100mm、内径が80mm、幅が20mmのリング状部材である。すなわち、このリング状部材の肉厚は、10mmである。実施例5、実施例6、比較例6及び比較例7に対しては、外周面側から高周波焼き入れが行われるとともに、180℃で2時間、大気中において保持することにより、焼き戻しが行われた。
実施例5、実施例6、比較例6及び比較例7は、外径が100mm、内径が80mm、幅が20mmのリング状部材である。すなわち、このリング状部材の肉厚は、10mmである。実施例5、実施例6、比較例6及び比較例7に対しては、外周面側から高周波焼き入れが行われるとともに、180℃で2時間、大気中において保持することにより、焼き戻しが行われた。
表4には、実施例5、実施例6、比較例6及び比較例7の詳細が示されている。表4に示されるように、上記の焼き入れ及び焼き戻しは、内周面からの深さが2mmまでの位置において、X<14.1かつ0.054×Y−0.019×X>0.130との関係が満たされるように行われた。
実施例5の焼き入れ硬化層の深さは、3mm(肉厚の0.3倍)とされた。実施例6の焼き入れ硬化層の深さは、5mm(肉厚の0.5倍)とされた。比較例6の焼き入れ硬化層の深さは、7mm(肉厚の0.7倍)とされた。比較例7の焼き入れ硬化層の深さは、10mm(肉厚の1倍)とされた。
表5には、外周面における残留応力の測定結果が示されている。表5中において、引っ張りの残留応力は+符号で示されており、圧縮の残留応力は−符号で示されている。表5に示されるように、実施例5及び実施例6の外周面における残留圧縮応力が500MPa以上であった一方、比較例6の外周面における残留圧縮応力は500MPa未満であり、比較例7の外周面には引っ張りの残留応力が生じていた。
この比較結果から、焼き入れ硬化層の深さを軌道輪の肉厚の1/2倍以下とすることにより、軌道面に500MPa以上の残留圧縮応力が加わることが明らかにされた。
(実施形態に係る軸受部品、転がり軸受及び軸受部品の製造方法の効果)
上記のとおり、実施形態に係る軌道輪においては、軌道面からの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1との関係を満たしていることにより、軌道輪の寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができる。
上記のとおり、実施形態に係る軌道輪においては、軌道面からの深さが6δまでの位置において、オーステナイト相の体積比率(X)及びマルテンサイト相の半値幅(Y)が、0.054×Y−0.019×X>0.130かつX>14.1との関係を満たしていることにより、軌道輪の寸法安定性及び静的負荷容量を改善することができる。
また、上記のとおり、実施形態に係る軌道輪においては、さらに、焼き入れ硬化層の深さを軌道輪の肉厚の1/2倍以下とすることにより、軌道面に500MPa以上の圧縮残留応力が加わるため、フープ応力による軌道面の割れを抑制することができる。
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
上記の実施形態は、軌道輪及び軌道輪を用いた転がり軸受に特に有利に適用される。
10 内輪、10a 上面、10b 底面、10c 内周面、10d 外周面、10da 軌道面、11 焼き入れ硬化層、20 外輪、20a 上面、20b 底面、20c 内周面、20ca 軌道面、20d 外周面、30 転動体、40 保持器、100 転がり軸受、S1 準備工程、S2 焼き入れ工程、S21 加熱工程、S22 冷却工程、S3 焼き戻し工程、S4 後処理工程、W 肉厚。
Claims (5)
- 軌道面を有する鋼製の軌道輪であって、
前記軌道面において焼き入れ硬化層を備え、
前記焼き入れ硬化層は、オーステナイト相と、マルテンサイト相とを含み、
前記焼き入れ硬化層における前記オーステナイト相の体積比率をX、前記マルテンサイト相の{211}面におけるX線の回折ピークの半値幅をY、基本動定格荷重負荷時にミゼス相当応力が最大となる前記軌道面からの深さをδとした場合に、前記軌道面からの深さが6δまでの位置において、X<14.1かつ0.054×Y−0.019×X>0.130との関係を満たし、
前記焼き入れ硬化層の深さは、前記軌道輪の肉厚の1/2倍以下である、軌道輪。 - 前記軌道面からの深さが6δ以上の位置においてX<14.1との関係を満たす、請求項1に記載の軌道輪。
- 前記X線は、CrKα線である、請求項1又は請求項2に記載の軌道輪。
- 前記鋼は、JIS規格に定められたSUJ2鋼材である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の軌道輪。
- 外輪と、
前記外輪の内側に配置される内輪とを備え、
前記外輪及び前記内輪のうちの少なくとも1つは、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の前記軌道輪である、転がり軸受。
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JP2019126242A JP2021011608A (ja) | 2019-07-05 | 2019-07-05 | 軌道輪及び転がり軸受 |
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- 2019-07-05 JP JP2019126242A patent/JP2021011608A/ja active Pending
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