JP2021011453A - 抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】抗がん剤の副作用として生じる手足症候群等の皮膚障害の治療及び予防に有効な手段を提供すること。【解決手段】本発明は、アゾール系抗真菌薬を有効成分として含有する、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤を提供する。【選択図】図2

Description

本発明は、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤に関する。
近年、抗がん剤として、がんの発生や増殖に関与するシグナル分子を標的にした分子標的薬が開発され、臨床応用されている。従来型の抗がん剤のような副作用は軽減する一方、特にマルチキナーゼ阻害薬、抗上皮細胞増殖因子受容体 (EGFR) 抗体薬及びEGFRチロシンキナーゼ阻害薬は副作用として皮膚障害が高頻度に認められる(非特許文献1)。具体的には、手足症候群、ニキビのようなざ瘡様皮疹、乾燥、爪囲炎等が出現し、痛みやかゆみ、外見の変化等、がん治療中の患者のQuality of Life (QOL)を著しく低下させる。手足症候群等の皮膚障害は、分子標的薬の他、フルオロウラシルやペグ化リポソーム型ドキソルビシン、カペシタビン等の従来の化学療法剤においても発生するが(特許文献1、2)、分子標的薬では特に発生頻度が高く、重篤度も高いため大きな問題となっている。
手足症候群は分子標的薬による治療開始後早期にみられることが多く、また治療継続に関わる重篤な副作用である(非特許文献2)。さらに、手足症候群等の皮膚障害が出ている患者群では、皮膚障害がなかった患者群と比較して抗腫瘍効果が高く生存期間が長くなる傾向が認められたという報告もあり、皮膚障害の症状をうまくコントロールしながら、分子標的薬の投与期間を長くして抗腫瘍効果を最大限にすることが、治療上重要となっている(非特許文献3)。
ソラフェニブ等のマルチキナーゼ阻害薬は、血管内皮増殖因子受容体 (VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体 (PDGFR)、Raf、c-KIT、FLT-3等、腫瘍細胞増殖や血管新生に関わる複数のリン酸化酵素 (キナーゼ) を阻害することにより、がん細胞の増殖を抑制する。これらの薬剤の特徴的な副作用は手足症候群であり、症状は手掌や足底部に生じる発赤、浮腫、過角化 (角質増生)、知覚異常、疼痛、重症例では水疱や出血も認められ、最終的には歩行困難や把握困難等日常生活動作も著しく制限される (非特許文献4、5)。しかしながら、手足症候群の発生メカニズムの詳細は不明であり、予防法も確立されておらず、皮膚に対する物理的刺激の軽減、尿素やサリチル酸を含む皮膚軟化剤による角質処理、保湿剤やステロイドの使用等の対症療法しかないのが現状である(非特許文献6)。
手足症候群の手掌及び足底の病理組織学的所見は、表皮の有棘層〜顆粒層に表皮角化細胞の壊死が帯状に認められ、角層は過角化(角質増生)及び不全角化が見られるなど、表皮角化細胞に対する障害及び角化異常が確認される(非特許文献4)。また、エクリン汗腺の異常、毛細血管の拡張や血管周囲へのリンパ球浸潤等も報告されている(非特許文献4)。マルチキナーゼ阻害薬による手足症候群の原因として、手掌足底部のエクリン汗腺の導管上皮に発現しているc-KITやPDGFRの阻害反応による発症や、抗VEGF作用によって毛細血管が希薄化し、上記の阻害反応により線維芽細胞及び内皮細胞の増殖を抑制することで血管予備能を減弱させ、手掌足底のような好発部位への摩擦や外傷により発症しやすくなるという説があるが、はっきりしたエビデンスは無い(非特許文献4、7)。
手足症候群の治療剤に関する特許文献の例としては、痛風等の治療に長年使用されているアロプリノールを用いて、5-FU等のフルオロピリミジン化学療法によって誘発される手足症候群を治療又は予防する発明を開示する特許文献1、特定の抗コリン薬を用いて抗がん剤投与に起因する手足症候群を治療又は予防する発明を開示する特許文献2及び3、フェニルブチレート等のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いて分子標的薬により生じる手足症候群等の皮膚の副作用を治療する発明を開示する特許文献4がある。
しかしながら、アゾール系抗真菌薬を手足症候群等の皮膚障害の治療に用いることを開示ないし示唆する文献は存在しない。
特表2009-542581号公報 特開2011-225553号公報 特許第4761000号公報 特表2012-530076号公報
Heidary et al, J Am Acad Dermatol, 58: 545-570, 2008 Lee et al, Br J Dermatol, 161: 1045-1051, 2009 Vincenzi et al, Oncologist, 15: 85-92, 2010 Lacouture et al, Ann Oncol, 19: 1955-1961, 2008 Autier et al, Arch Dermatol, 144: 886-892, 2008 Chu et al, Acta Oncol, 47: 176-186, 2008 Lammie et al, J Histochem Cytochem, 42: 1417-1425, 1994
重篤な皮膚障害が抗がん剤の副作用として生じてしまうと、患者のQOLを著しく低下させる上、がんへの治療効果が十分に得られている場合であってもその抗がん剤による治療を断念せざるを得なくなることがある。皮膚障害を治療及び予防できれば、良好な治療効果が得られているがん患者において、QOLを保ちながら当該抗がん剤治療を継続することができるが、上述したように現状では対症療法しかない。抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療及び予防に有効な手段が依然として求められている。
従って、本発明の目的は、抗がん剤の副作用として生じる手足症候群等の皮膚障害の治療及び予防に有効な手段を提供することにある。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、驚くべきことに、アゾール系抗真菌薬が抗がん剤処理により低下した表皮角化細胞の生存率を回復させる作用があること、従って抗がん剤の副作用として生じる皮膚障害の治療及び予防に有効であることを見出し、本願発明を完成した。
すなわち、本発明は、アゾール系抗真菌薬を有効成分として含有する、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤を提供する。
本発明の剤は、抗がん剤処理により低下した表皮角化細胞の生存率を回復させる作用があり、特に分子標的薬で発生頻度が高く問題とされている手足症候群等の皮膚障害に対して治療及び予防効果を発揮できる。
ソラフェニブによる細胞障害に対するイトラコナゾールの細胞保護作用を正常ヒト表皮角化細胞(NHEKs)の単層培養系で検討した結果である。(A) 3種のマルチキナーゼ阻害薬(ソラフェニブ、レゴラフェニブ、レンバチニブ)の細胞障害性を調べた結果である。(B) イトラコナゾール単独(0.1, 1, 10 μM)で処理したNHEKsの生存率である。(C) ソラフェニブ(7μM)及びイトラコナゾール(0.1, 1, 10 μM)で処理したNHEKsの生存率である。***P < 0.001 (vs. vehicle (-)), †††P < 0.001 (vs. 7 μM ソラフェニブ単独)。 ソラフェニブによる細胞障害に対する各種アゾール系抗真菌薬の細胞保護作用を正常ヒト表皮角化細胞(NHEKs)の単層培養系で検討した結果である。(A) 各種アゾール系抗真菌薬(1μM)を単独で処理したNHEKsの生存率である。**P < 0.01 (vs. Vehicle), ***P < 0.001 (vs. Vehicle)。(B) ソラフェニブ(7μM)及び各種アゾール系抗真菌薬(1μM)で処理したNHEKsの生存率である。***P < 0.001 (vs. Sorafenib (-))。P < 0.05, ††P < 0.01, †††P < 0.001, n.s 非有意 (vs. 7 μM ソラフェニブ単独(Vehicle))。 ソラフェニブによる細胞障害に対するイトラコナゾールの細胞保護作用を培養三次元ヒト表皮モデルで検討した結果である。(A) イトラコナゾール単独(10 μM)で処理した培養三次元ヒト表皮モデルの細胞生存率である。(B) 各濃度のソラフェニブ(20, 30, 40, 50 μM)で処理した培養三次元ヒト表皮モデルの細胞生存率である。***P < 0.001, **P < 0.01 (vs. vehicle (-))。(C) ソラフェニブ(40μM)及びイトラコナゾール(5, 10μM)で処理した培養三次元ヒト表皮モデルの細胞生存率である。***P < 0.001 (vs. vehicle (-)), †††P < 0.001 (vs. 40 μM ソラフェニブ単独)。
本発明の抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤は、その有効成分としてアゾール系抗真菌薬を含有する。
アゾール系抗真菌薬は、分子内にトリアゾール環を有するトリアゾール系と、分子内にイミダゾール環を有するイミダゾール系に大別される。トリアゾール系抗真菌薬としては、イトラコナゾール、エフィナコナゾール、フルコナゾール、ボリコナゾール、ラブコナゾール、ホスラブコナゾール(ラブコナゾールのプロドラッグ)、ホスフルコナゾール(フルコナゾールのプロドラッグ)、ポサコナゾール等が知られている。イミダゾール系抗真菌薬としては、ルリコナゾール、イソコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ラノコナゾール、オキシコナゾール、スルコナゾール、ネチコナゾール、ビホナゾール、ミコナゾール、エコナゾール等が知られている。これらの化合物の製造方法も公知である。本発明におけるアゾール系抗真菌薬という語には、上記の具体例を含む化合物のフリー体の他、薬学的に許容される各種化合物の塩、並びに各種化合物及びその薬学的に許容される塩の溶媒和物も包含される。
本発明で用いるアゾール系抗真菌薬は特に限定されないが、好ましい例として、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ルリコナゾール、エフィナコナゾール、イソコナゾール、ラノコナゾール、スルコナゾール、クロトリマゾール及びビホナゾール、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種;又は、イトラコナゾール、ケトコナゾール、エフィナコナゾール、イソコナゾール、ラノコナゾール及びクロトリマゾール、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種;又は、イトラコナゾール、エフィナコナゾール、イソコナゾール及びラノコナゾール、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができ、中でもとりわけイトラコナゾールを好ましく用いることができる。もっとも、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
薬学的に許容される塩は、酸付加塩、塩基付加塩、アミノ酸付加塩等の、薬学的に許容されるいずれの塩であってもよい。酸付加塩の具体例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、及びリン酸塩等の無機酸塩、並びに、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩(メシル酸塩)、ベンゼンスルホン酸塩、及びパラトルエンスルホン酸塩(トシル酸塩)等の有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアンモニウム塩等の無機塩基塩、並びにトリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、及びジイソプロピルアンモニウム塩等の有機塩基塩を挙げることができる。アミノ酸付加塩の具体例としては、グリシン、フェニルアラニン、リジン、アスパラギン酸、グルタミン酸等のアミノ酸の付加塩を挙げることができる。いずれの塩も、化学合成分野において公知の方法により製造することができる。
溶媒和物の具体例としては、水和物及びエタノール和物等を挙げることができるが、これらに限定されず、医薬として許容される溶媒との溶媒和物であればいかなるものであってもよい。アゾール系抗真菌薬に属するイトラコナゾール等の化合物及びそれらの塩の溶媒和物は、化学合成分野において公知の方法により製造することができる。
本発明において、皮膚障害という語には、発赤、紅斑、浮腫、出血、疼痛、そう痒、炎症、知覚異常、発疹、皮膚落屑、角層剥離、水疱等の、抗がん剤の副作用として皮膚に生じる様々な障害が包含される。本発明の剤が対象とする皮膚障害の典型例として、手足症候群を挙げることができる。
本発明において、皮膚障害の治療又は予防という語には、抗がん剤投与により既に発生した皮膚障害を治癒、緩和ないし軽減させること、及び、抗がん剤投与による皮膚障害の発生を抑制することが包含される。
本発明で対象とする皮膚障害は、抗がん剤投与により生じる皮膚障害である。抗がん剤の種類は特に限定されず、分子標的薬の他、分子標的薬には分類されない抗がん剤も含め、副作用として皮膚障害を生じ得る各種の抗がん剤が包含される。
分子標的薬に属する抗がん剤の典型例として、チロシンキナーゼ等のキナーゼを標的とするキナーゼ阻害薬、及び、がん細胞で発現する分子や腫瘍部で高発現している分子を標的とした抗体医薬が挙げられる。
キナーゼ阻害薬には、EGFR、Her2、ALK、MET、JAK等のチロシンキナーゼを標的とするチロシンキナーゼ阻害薬、MEKやBRAF等のチロシンキナーゼ以外のキナーゼを標的とする阻害薬、さらには、これらの特定のキナーゼを標的とする阻害薬に加え、複数のキナーゼを阻害するマルチキナーゼ阻害薬が包含される。公知のキナーゼ阻害薬の具体例を挙げると、チロシンキナーゼ阻害薬としては、ゲフィニチブ(イレッサ(登録商標))、エルロチニブ(タルセバ(登録商標))、イマチニブ(グリベック(登録商標))、ラパチニブ(タイケルブ(登録商標))、チバンチニブ等が知られている。チロシンキナーゼ以外のキナーゼ阻害薬としては、Vemurafenib、Dabrafenib等のBRAFキナーゼ阻害薬、Trametinib等のMEK阻害薬が挙げられる。マルチキナーゼ阻害薬としては、ソラフェニブ(ネクサバール(登録商標))、レゴラフェニブ(スチバーガ(登録商標))、レンバチニブ(レンビマ(登録商標))等が挙げられる。キナーゼ阻害薬は、各化合物のフリー体の他、各化合物の薬学的に許容される塩、又は、各化合物若しくはその薬学的に許容される塩の溶媒和物の形態で用いることができる。キナーゼ阻害薬に属する化合物の薬学的に許容される塩、溶媒和物の例は上記と同様であり、化学合成分野において公知の方法により製造することができる。
抗体医薬の例としては、セツキシマブ(アービタックス(登録商標))、パニツムマブ(ベクティビックス(登録商標))、リツキシマブ(リツキサン(登録商標))、アレムツズマブ(マブキャンパス(登録商標))、トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))等を挙げることができる。
分子標的薬以外の抗がん剤の例としては、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン等のプラチナ製剤(DNA合成阻害);フルオロウラシル、ゲムシタビン等のピリミジン系薬剤(DNA合成阻害);イリノテカン、トポテカン等のカンプトテシン系薬剤(DNA合成阻害);エトポシド等のエピポドフィロトキシン系薬剤(DNA合成阻害);ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン等のビンカアルカロイド系薬剤(細胞分裂阻害);ドキソルビシン、エピルビシン、ピラルビシン等のアントラサイクリン系薬剤(DNA合成阻害);パクリタキセル、ドセタキセル等のタキサン系薬剤(アポトーシス誘導剤);シクロホスファミド、イホスファミド等のアルキル化剤(DNA合成阻害)等の低分子抗がん剤を挙げることができる。
本発明の1つの態様において、抗がん剤は分子標的薬である。分子標的薬は、例えばキナーゼ阻害薬であってよい。キナーゼ阻害薬の好ましい例として、ソラフェニブ、レゴラフェニブ及びレンバチニブ、並びにこれらの薬学的に許容される塩(例えば、ソラフェニブトシル酸塩、レンバチニブメシル酸塩)及び溶媒和物(例えば、レゴラフェニブ水和物)からなる群より選択される少なくとも1種、とりわけソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩を挙げることができる。もっとも、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
抗がん剤投与により生じる皮膚障害に対する治療又は予防効果は、例えば、表皮角化細胞等の皮膚培養細胞を用いて、抗がん剤処理により低下した細胞生存率を回復させる作用があるかどうかによって評価することができる。下記実施例に記載されるように、単層培養細胞にて評価することもできるし、培養三次元ヒト表皮モデルを用いて評価することもできる。顆粒層の非薄化、表皮上層の有棘細胞の肥大、基底層の肥厚は手足症候群の組織学的特徴であり(Heidary et al, J Am Acad Dermatol, 58, 545-570, 2008.)、これらの組織学的特徴は抗がん剤処理後の培養三次元ヒト表皮モデルでも確認されることが知られており、実際に、当該モデルを用いて手足症候群の治療薬を探索した報告もある(Yamamoto et al, Biol Pharm Bull, 40, 1530-1536, 2017.; 山本和宏, 医療薬学, 43, 237-244, 2017.)。
アゾール系抗真菌薬は、哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ヒツジ又はヒト等)、特にヒトに対して投与した場合に、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤として用いることができる。
本発明の皮膚障害の治療又は予防剤の投与経路は特に限定されない。皮膚障害が生じた患部に塗布又は注射により局所投与してもよいし、経口又は非経口で全身投与してもよい。非経口投与の経路としては、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、直腸内投与等が挙げられる。具体的な投与経路に応じて適当な剤形に調製すればよく、例えば、塗布による局所投与の場合には軟膏、クリーム剤、ローション剤、外用液剤、ゲル剤等、患部への注射による局所投与の場合には注射剤、経口による全身投与の場合はカプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤を含む)、錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等、非経口による全身投与の場合は注射剤、点滴剤、注入剤、坐剤等の剤形に調製すればよい。
上記のような剤形の製剤の調製は、製剤分野で一般的に用いられている公知の製造方法に従って行なうことができる。必要に応じて、製剤分野において一般的に用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、甘味剤、界面活性剤、懸濁化剤、乳化剤等を含有させて製造することができる。上記に例示した公知のアゾール系抗真菌薬の製剤としては、軟膏、クリーム剤、外用液剤等の局所塗布用の製剤や、静注剤、注射剤、経口錠剤等の製剤が既に真菌感染症に対して臨床使用されている。
本発明の剤の投与量は、患者の年齢や体重、皮膚障害の状態、部位、用いるアゾール系抗真菌薬の種類、投与経路等によって適宜選択することができる。例えば、体重約60 kgの成人に対する1日当たりの有効成分量として、塗布による局所投与の場合には1μg〜100g程度、経口投与の場合には0.1μg〜1g程度、静脈注射による全身投与の場合には0.1μg〜1g程度であってよい。1日の投与は1回でも良いし、数回に分けて投与してもよい。毎日投与してもよいし、数日おきに投与してもよい。本発明の剤の投与期間は、皮膚障害の一定の治療効果が得られるまで(皮膚障害が消失、又は生活に支障が出ないレベルに軽減するまで)としてもよいし、皮膚障害の治療効果が得られた後にも予防的に投与を継続してもよい。抗がん剤投与の開始後、皮膚障害が発生する前に予防的に投与してもよく、例えば、抗がん剤投与期間にわたって本発明の剤を投与し続けてもよい。
本発明の抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤は、その治療若しくは予防効果の補完又は増強あるいは投与量の低減のために、他の薬剤と適量配合又は併用して使用しても構わない。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
1.マルチキナーゼ阻害薬による細胞障害に対するアゾール系抗真菌薬の細胞保護作用(正常ヒト表皮角化細胞;単層培養系)
正常ヒト表皮角化細胞 (NHEKs) (Lonza)の単層培養系を用いて、マルチキナーゼ阻害薬による細胞障害と、該細胞障害に対するアゾール系抗真菌薬の作用を検討した。
1−1.マルチキナーゼ阻害薬の細胞障害性
NHEKs 1×104個/wellを96 wellマイクロプレートに播種し、翌日に各濃度 (1, 3, 5, 7, 10μM) のマルチキナーゼ阻害薬を添加、24時間後にCell counting kit-8 (同仁化学) を用いて細胞増殖・生存率を評価した。マルチキナーゼ阻害薬として、ソラフェニブ (Santa Cruz, sc-220125), レゴラフェニブ (TCI, R0142), レンバチニブ (ナミキ商事, HY-10981) を用いた。
結果を図1Aに示す。いずれのマルチキナーゼ阻害薬もNHEKsの細胞生存率を用量依存的に抑制した。ソラフェニブとレゴラフェニブは同等の細胞障害性を有していた (10μMの細胞生存率20 %以下)。一方、レンバチニブの細胞障害性は比較的弱い傾向にあった (10μMの細胞生存率は約60 %)。
1−2.イトラコナゾールの細胞保護作用
1−1と同様にNHEKsを播種後、翌日に各濃度 (0.1, 1, 10μM) のイトラコナゾール (Sigma, I-6657) を添加、24時間後にCell counting kit-8を用いて細胞増殖・生存率を評価した。ソラフェニブによる細胞障害に対するイトラコナゾールの効果を調べる実験では、イトラコナゾールを添加して37℃で30分静置した後、7 μM ソラフェニブを添加し、24時間後にCell counting kit-8を用いて細胞増殖・生存率を評価した。図1Bの統計処理はOne-way ANOVA (Dunnett's multiple comparison test)、図1Cの統計処理はOne-way ANOVA (Tukey's multiple comparison test)を行った。
図1Bは、イトラコナゾール単独で処理したNHEKsの生存率である。イトラコナゾール単剤による細胞障害は認められなかった。
図1Cは、ソラフェニブによる細胞障害に対するイトラコナゾールの効果を調べた結果である。7 μM ソラフェニブを添加後、NHEKsの細胞生存率は約20 %まで減少した。しかし、イトラコナゾールの存在下では、イトラコナゾールの用量依存的に細胞生存率は回復した。これらのデータは、ソラフェニブによる皮膚細胞障害に対してイトラコナゾールが治療及び予防的効果を有することを示唆している。
1−3.各種アゾール系抗真菌薬の細胞保護作用
1−1と同様にNHEKsを播種後、翌日に1μMの各アゾール系抗真菌薬を添加、24時間後にCell counting kit-8を用いて細胞増殖・生存率を評価した。ソラフェニブによる細胞障害に対する各アゾール系抗真菌薬の効果を調べる実験では、アゾール系抗真菌薬を添加して37℃で1時間静置した後、7 μM ソラフェニブを添加し、24時間後にCell counting kit-8を用いて細胞増殖・生存率を評価した。キットによる細胞増殖評価の際は、細胞を洗浄してからWST-8試薬を添加した。統計処理は、図2Aの統計処理はOne-way ANOVA(Dunnett's multiple comparison test)、図2Bの統計処理はOne-way ANOVA (Tukey's multiple comparison test)を行った。
図2Aは、アゾール系抗真菌薬単独で処理したNHEKsの生存率である(2回の実験の平均値)。一部の抗真菌薬で有意な生存率上昇が見られたが、いずれの抗真菌薬も単剤による細胞障害は認められなかった。
図2Bは、ソラフェニブによる細胞障害に対する各種アゾール系抗真菌薬の効果を調べた結果である(2回の実験の平均値)。7 μM ソラフェニブを添加後、NHEKsの細胞生存率は約20 %まで減少した。イトラコナゾール以外のアゾール系抗真菌薬も、細胞生存率を有意に回復させる作用、ないしは生存率を回復させる傾向が認められた。これらのデータは、イトラコナゾール以外のアゾール系抗真菌薬にも、ソラフェニブによる皮膚細胞障害に対して治療及び予防的効果があることを示唆している。
2.ソラフェニブによる細胞障害に対するイトラコナゾールの細胞保護作用(培養三次元ヒト表皮モデル; 三次元器官培養)
培養三次元ヒト表皮モデル (EPI-200, クラボウ) を用いて試験を行なった。1試験あたり表皮モデル3個とし、再現性を確認するため同様の試験を2〜3回行った。図3Bの統計処理はOne-way ANOVA (Dunnett's multiple comparison test)、図3Cの統計処理はOne-way ANOVA (Tukey's multiple comparison test)を行った。
2−1.培養三次元ヒト表皮モデルに対するイトラコナゾールの作用
表皮モデルは37℃で一晩前培養後、翌日、表皮モデルの基底層側の培地を10 μM イトラコナゾールを含む培地に交換、37℃で96時間培養後にMTTアッセイで解析した。
結果を図3Aに示す。イトラコナゾール単剤による細胞障害はほとんど認められなかった。
2−2.培養三次元ヒト表皮モデルに対するソラフェニブの細胞障害
2−1と同様に前培養後、翌日表皮モデルの基底層側の培地を各濃度 (20, 30, 40, 50 μM) のソラフェニブを含む培地に交換、37℃で96時間培養後にMTTアッセイで解析した。
結果を図3Bに示す。ソラフェニブの用量依存的に細胞生存率が減少した。
2−3.培養三次元ヒト表皮モデルに対するソラフェニブの細胞障害とイトラコナゾールの作用
2−1と同様に前培養後、翌日表皮モデルの基底層側の培地に各濃度 (5, 10 μM) のイトラコナゾールを加えて、37℃で1時間静置後、40 μM ソラフェニブと各濃度 (5, 10 μM)のイトラコナゾールの両方を含む培地に交換、37℃で96時間培養後にMTTアッセイで解析した。
結果を図3Cに示す。40 μM ソラフェニブを添加後、表皮モデルの細胞生存率は約30 %まで減少した。しかし、イトラコナゾールの存在下では、イトラコナゾールの用量依存的に細胞生存率は回復した。培養三次元ヒト表皮モデルは、ソラフェニブ処理によって、手足症候群に類似した細胞障害を示す。本モデルで確認されたアゾール系抗真菌薬による細胞生存率の回復は、抗がん剤投与により生じる手足症候群等の皮膚障害に対し、アゾール系抗真菌薬が治療及び予防効果を有することを証明している。
本発明のアゾール系抗真菌薬を有効成分として含有する、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤は、抗がん剤投与により生じる皮膚障害を治療又は予防することができるため、医療分野等において有用である。

Claims (8)

  1. アゾール系抗真菌薬を有効成分として含有する、抗がん剤投与により生じる皮膚障害の治療又は予防剤。
  2. 前記アゾール系抗真菌薬が、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ルリコナゾール、エフィナコナゾール、イソコナゾール、ラノコナゾール、スルコナゾール、クロトリマゾール及びビホナゾール、並びにこれらの薬学的に許容される塩からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1記載の剤。
  3. 前記アゾール系抗真菌薬がイトラコナゾールである、請求項1又は2記載の剤。
  4. 前記抗がん剤投与により生じる皮膚障害が手足症候群である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の剤。
  5. 前記抗がん剤が分子標的薬である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。
  6. 前記分子標的薬がキナーゼ阻害薬である、請求項5記載の剤。
  7. 前記キナーゼ阻害薬が、ソラフェニブ、レゴラフェニブ及びレンバチニブ、並びにこれらの薬学的に許容される塩及び溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項6記載の剤。
  8. 前記キナーゼ阻害薬が、ソラフェニブ又はその薬学的に許容される塩である、請求項6又は7記載の剤。
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