以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、一実施形態に係る電子機器の使用態様を説明する図である。すなわち、図1は、一実施形態に係る電子機器によって被検者が生体情報を測定している様子を示す図である。
図1に示すように、一実施形態に係る電子機器1は、例えば被検者の手首のような箇所を被検部位として、被検者の生体情報を測定することができる。図1に示す例において、電子機器1は、被検者の左手首の被検部位に載置された状態にある。図1に示す例において、電子機器1は、被検者の左手の掌から肘側に向かう途中の手首部分を被検部位として、当該被検部位に載置された状態にある。
また、図1に示す例において、電子機器1は、被検者の右手の人差し指によって被検部位側に押さえつけられている。第1実施形態に係る電子機器1は、図1に示すように、被検部位側に押さえつけられている状態で、被検者の生体情報を測定する。被検者が電子機器1を被検部位側に押さえつける指は、右手の人差し指に限定されない。電子機器1は、適度な押圧力で被検部位側に押さえつけられることができれば、任意の態様で押圧されてよい。
電子機器1は、被検者の被検部位に載置されることにより、当該被検部位における脈動を検出することができる。ここで、被検者の被検部位とは、例えば被検者の尺骨動脈又は橈骨動脈が皮下に存在する部位としてよい。また、被検者の被検部位とは、被検者の尺骨動脈又は橈骨動脈が皮下に存在する部位に限定されず、被検者の脈動が検出可能な部位であれば任意の部位としてもよい。図1は、被検者の手首の皮下において橈骨動脈が配置された部位を被検部位として、電子機器1が当該被検部位に載置された状態を示している。
電子機器1の筐体のサイズは、特に限定されないが、持ち運ぶ際の利便性及び/又は測定の容易性などを考慮して、比較的小型としてよい。例えば、電子機器1の筐体は、図1に示すような平面視において、2cm乃至4cm四方のサイズとしてよい。一例として、電子機器1の筐体は、図1に示すような平面視において、3.5cm四方のサイズとしてもよい。電子機器1の筐体は、2cm乃至4cm四方のサイズ以外でもよい。つまり、電子機器1の大きさは、最大で、平面視において一辺が4cmの正方形の内部に納まる大きさとしてよい。電子機器1の筐体は、三角形、四角形その他の多角形、円、楕円などの形状を任意に組み合わせた形状としてもよい。
図2は、図1に示した電子機器1を側方から見た状態を、被検者の手首の断面とともに示す図である。
図2に示すように、電子機器1は、下部筐体11及び上部筐体12を含んで構成される。下部筐体11及び/又は上部筐体12は、例えば、セラミック、鉄その他の金属、樹脂、プラスチック又はアルミのような材料によって形成されてよい。下部筐体11及び/又は上部筐体12は、硬質かつ軽量の材料によって形成されてよい。下部筐体11及び/又は上部筐体12の素材は特に限定されないが、測定装置としての機能を果たす程度の強度を有してよい。また、下部筐体11及び/又は上部筐体12の素材は、重量が過度に大きいものではなく、比較的軽量のものとしてよい。
後述のように、下部筐体11と上部筐体12とは、互いにある程度自由に動くことができる。すなわち、電子機器1において、下部筐体11が固定された状態でも、上部筐体12はある程度自由に動くことができる。また、電子機器1において、上部筐体12が固定された状態でも、下部筐体11はある程度自由に動くことができる。
また、図2に示すように、電子機器1は、被検者の被検部位に接触する部分として、脈あて部14を備えている。脈あて部14は、例えば、セラミック、鉄その他の金属、樹脂、プラスチック又はアルミのような材料によって形成されてよい。脈あて部14は、硬質かつ軽量の材料によって形成されてよい。脈あて部14の素材は特に限定されない。脈あて部14の素材は、下部筐体11及び/又は上部筐体12と同様に、測定装置としての機能を果たす程度の強度を有し、比較的軽量のものとしてよい。
一実施形態において、脈あて部14は、被検者の被検部位に直接もしくは間接に接触してよい。一般的な被検者の手首の表面は、図2に示すように、曲面的な形状を有する。このため、電子機器1における下部筐体11の底面(Z軸正方向側の面)の一部を被検者の手首に接触させると、当該底面の他の部分は被検者の手首から浮いた状態になり得る。そこで、脈あて部14は、図2に示すように、例えば楔形のような形状としてもよい。このようにすれば、下部筐体11の底面の一部(例えば図2に示すSの部分)が被検者の手首に接触した状態で、脈あて部14を被検者の被検部位に適切に当接させることができる。脈あて部14の形状は、楔形のようなものに限定されず、被検者の被検部位に適切に当接させることができる任意の形状としてよい。
図2に示すように、電子機器1の上部筐体12は、押圧部16を備えている。押圧部16は、電子機器1において、被検者の指先などによって押圧される箇所を示す。すなわち、被検者などは、押圧部16を見る(又は触る)ことによって、指先などによって押圧部16を押圧すべきことを認識することができる。図2に示すように、押圧部16は、上部筐体12の上面(Z軸負方向側の面)側に形成されてよい。図2に示す例においては、押圧部16は、上部筐体12の上面の中心部よりもやや下方向(Y軸負方向)の位置に形成されている。しかしながら、押圧部16は、例えば上部筐体12の上面のほぼ中心に形成するなど、電子機器1が生体情報を測定する態様に応じて、種々の位置に形成されてよい。
また、図2に示す例においては、押圧部16は、上部筐体12の上面側に形成された浅い凹部として示してある。しかしながら、押圧部16の形状は凹部に限定されない。例えば、押圧部16は、上部筐体12の上面側に形成された浅い凸部などとして形成してもよい。また、押圧部16は、例えば、上部筐体12の上面(Z軸負方向側の面)側に塗料などでペイントされた単なるマークとしてもよい。押圧部16は、電子機器1において、被検者の指先などによって押圧される箇所を示すものであれば、任意に構成してよい。
電子機器1は、被検者の手首などの被検部位に載置されて、押圧部16が被検者の指先などによって押圧されることにより、図1に示したような生体情報の測定時の状態になる。電子機器1が被検者の手首などの被検部位に載置される際は、脈あて部14が被検者の被検部位に当接するように位置決めされてよい。この時、脈あて部14が、例えば被検者の尺骨動脈又は橈骨動脈が皮下に存在する部位に当接するように位置決めされてよい。
図3及び図4は、電子機器1の外観を示す斜視図である。図3は、図1に示した電子機器1を、Z軸の正方向の視点から見た状態を示す斜視図である。図4は、図3に示した電子機器1を、Y軸を中心として180度回転させた状態を示す斜視図である。
図3に示すように、電子機器1は、外観上、下部筐体11及び上部筐体12を備えている。また、上述のように、下部筐体11は脈あて部14を備え、上部筐体12は押圧部16を備えている。
さらに、電子機器1は、図3に示すように、報知部20と、スイッチ30とを備えている。
報知部20は、被検者などに例えば生体情報の測定結果などの情報を報知する。報知部20は、図3に示すように、例えば発光ダイオード(LED)などによる発光部としてよい。また、報知部20は、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、有機ELディスプレイ(OELD:Organic Electro-Luminescence Display)、又は無機ELディスプレイ(IELD:Inorganic Electro-Luminescence Display)等の表示デバイスとしてもよい。これらのような表示デバイスを報知部20として採用すれば、例えば、被検者の糖代謝又は脂質代謝の状態のような、比較的詳細な情報を表示することもできる。
図3は、報知部20が3つの発光部(20a,20b,及び20c)によって構成される例を示している。図3において、報知部20aは、例えば、生体情報の測定結果が比較的低い旨を示す発光部としてよい。また、報知部20bは、例えば、生体情報の測定結果が中間的である(例えば許容範囲にある)旨を示す発光部としてよい。また、報知部20cは、例えば、生体情報の測定結果が比較的低い旨を示す発光部としてよい。図3は、報知部20が3つの発光部によって構成される例を示しているが、報知部20を構成する発光部は任意の数としてよい。また、報知部20を構成する発光部は、例えば発光の色又は点滅の回数など、各種の態様によって、被検者に例えば生体情報の測定結果などの情報を報知してもよい。
報知部20は、生体情報の測定結果などの情報のみならず、例えば電子機器1の電源のオン/オフ、又は、生体情報の測定中か否かなどのような情報を、被検者に報知してもよい。この時、報知部20は、例えば生体情報の測定結果などの情報を報知する際とは異なる態様の発光によって、電子機器1の電源のオン/オフ、又は、生体情報の測定中か否かなどのような情報を報知してもよい。
一実施形態において、報知部20は、発光部によって構成されていなくてもよい。例えば、報知部20は、スピーカ又はブザーのような音出力部によって構成されてもよい。この場合、報知部20は、各種の音又は音声などによって、被検者などに例えば生体情報の測定結果などの情報を報知してよい。
また、一実施形態において、報知部20は、例えばバイブレータ又は圧電素子のような触感呈示部によって構成されてもよい。この場合、報知部20は、各種の振動又は触感フィードバックなどによって、被検者などに例えば生体情報の測定結果などの情報を報知してよい。
スイッチ30は、例えば電子機器1の電源のオン/オフを切り替えるスイッチとしてよい。また、スイッチ30は、例えば電子機器1に生体情報の測定を開始させるスイッチとしてもよい。測定を開始するためのスイッチとしてもよい。図3は、スイッチ30がスライドスイッチによって構成される例を示している。しかしながら、スイッチ30は、例えば押しボタンスイッチなど、任意のスイッチによって構成されてよい。例えば、スイッチ30が押しボタンスイッチによって構成される場合、スイッチ30が押される回数及び/又は押されている時間などに基づいて、電子機器1の各種の動作を対応させてよい。
図4に示すように、電子機器1の下部筐体11は、脈あて部14を備えている。脈あて部14は、上述のように、電子機器1によって被験者の生体情報を測定する際に、被検者の被検部位に適切に当接させる部材である。したがって、脈あて部14は、例えば被検者の尺骨動脈又は橈骨動脈が皮下に存在する部位に適切に当接するような大きさとしてよい。例えば、脈あて部14は、図4に示すように、X軸方向の幅が1cm乃至1.5cm程度としてもよい。脈あて部14は、X軸方向の幅が1cm乃至1.5cm程度以外でもよい。
図5は、電子機器1の断面を、被検者の手首の断面とともに示す図である。図5は、図3及び図4に示すA−A線に沿った断面を示す図である。図5に示す被検者の手首は、図2に示したものと同様である。
図5に示すように、電子機器1は、下部筐体11及び上部筐体12を備えている。下部筐体11の被検部位側には、脈あて部14が設置されている。ここでは、脈あて部14は、被検者の橈骨動脈が皮下に存在する部位に当接している。図5に示すように、下部筐体11は、Z軸の負方向側に開口部を有する。また、上部筐体12は、Z軸の正方向側に開口部を有する。図5に示す例において、下部筐体11の開口部は、上部筐体12の開口部よりも小さなサイズにして、下部筐体11の開口部を上部筐体12の開口部に挿入した構成にしてある。しかしながら、上部筐体12の開口部を下部筐体11の開口部よりも小さなサイズにして、上部筐体12の開口部を下部筐体11の開口部に挿入した構成にしてもよい。下部筐体11と上部筐体12とは、互いに干渉せずにある程度自由に動くことができるように構成してよい。
図5に示すように、下部筐体11の内部には、基板40が配置されている。また、上部筐体12の内部には、上述の報知部20が配置されている。
基板40は、各種電子部品などを配置することができる一般的な回路基板としてよい。基板40のZ軸負方向側の面には、バッテリホルダ42が配置されている。このバッテリホルダは、バッテリ60を固定するための部材である。バッテリ60は、例えばCR2032のようなボタン型電池(コイン型電池)など、任意の電源としてよい。また、バッテリ60は、例えば充電可能な蓄電池としてもよい。バッテリ60は、例えばリチウムイオン電池並びにその充電及び放電のための制御回路等を適宜備えてもよい。バッテリ60は、電子機器1の各機能部に電力を供給してよい。
基板40のZ軸負正向側の面には、各種電子部品を配置してよい。図5に示す例において、基板40のZ軸負正向側の面には、スイッチ30、センサ50、制御部52、記憶部54、及び通信部56が配置されている。
センサ50は、例えば角速度センサを含み、被検部位から脈動を検出して脈波を取得する。センサ50は、被検者の脈波に基づく脈あて部14の変位を検出してもよい。また、センサ50は、例えば、加速度センサとしてもよいし、ジャイロセンサのようなセンサとしてもよい。また、センサ50は、角速度センサとしてもよい。センサ50については、さらに後述する。
図5に示すように、センサ50は基板40に固定される。また、基板40は、下部筐体11の内部に固定される。さらに、下部筐体11の外部には脈あて部14が固定される。このため、脈あて部14の動きは、下部筐体11、及び基板40を経て、センサ50に伝達される。したがって、センサ50は、脈あて部14、下部筐体11、及び基板40を介して、被検者の被検部位における脈動を検出することができる。
図5に示す例において、センサ50は、下部筐体11の内部に接した状態で配置されている。しかしながら、一実施形態において、センサ50は、下部筐体11の内部に接しない状態で配置されてもよい。例えば、センサ50は、脈あて部14、下部筐体11、及び基板40の少なくともいずれかの動きが伝達される任意の構成としてもよい。
制御部52は、電子機器1の各機能ブロックをはじめとして、電子機器1の全体を制御及び管理するプロセッサである。また、制御部52は、取得された脈波から、脈波の伝播現象に基づく指標を算出するプロセッサである。制御部52は、制御手順を規定したプログラム及び脈波の伝播現象に基づく指標を算出するプログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサで構成され、かかるプログラムは、例えば記憶部54等の記憶媒体に格納される。また、制御部52は、算出した指標に基づいて、被検者の糖代謝又は脂質代謝等に関する状態を推定する。制御部52は、報知部20へのデータの報知を行ったりする。
記憶部54は、プログラム及びデータを記憶する。記憶部54は、半導体記憶媒体、及び磁気記憶媒体等の任意の非一過的(non-transitory)な記憶媒体を含んでよい。記憶部54は、複数の種類の記憶媒体を含んでよい。記憶部54は、メモリカード、光ディスク、又は光磁気ディスク等の可搬の記憶媒体と、記憶媒体の読み取り装置との組み合わせを含んでよい。記憶部54は、RAM(Random Access Memory)等の一時的な記憶領域として利用される記憶デバイスを含んでよい。記憶部54は、各種情報及び/又は電子機器1を動作させるためのプログラム等を記憶するとともに、ワークメモリとしても機能する。記憶部54は、例えばセンサ50により取得された脈波の測定結果を記憶してもよい。
通信部56は、外部装置と有線通信又は無線通信を行うことにより、各種データの送受信を行う。通信部56は、例えば、健康状態を管理するために被検者の生体情報を記憶する外部装置と通信を行い、電子機器1が測定した脈波の測定結果、及び/又は電子機器1が推定した健康状態を、当該外部装置に送信する。通信部56は、例えばBluetooth(登録商標)又はWi−Fiなどに対応した通信モジュールとしてもよい。
スイッチ30、センサ50、制御部52、記憶部54、及び通信部56の配置は、図5に示す例に限定されない。例えば、前述の機能部は、基板40の任意の位置に配置してよい。また、前述の機能部は、基板40の同一面における配置に限定されず、基板40の両面のいずれかに適宜配置してよい。また、報知部20の配置も、図5に示す例に限定されない。例えば、報知部20は、上部筐体12に配置されるのではなく、基板40若しくはバッテリホルダ42又は下部筐体11に配置されてもよい。この場合、例えば、上部筐体12のいずれかの箇所に孔を穿設して、例えば発光部とする報知部20が発する光が視認できるようにしてもよい。また、例えば下部筐体11又は上部筐体12におけるいずれかの箇所に導光板を設置して、例えば発光部とする報知部20が発する光が下部筐体11又は上部筐体12の外部からでも視認できるようにしてもよい。
電子機器1が外部機器と有線又は無線により接続される場合、例えば報知部20、スイッチ30、制御部52、記憶部54、及び通信部56などの機能部の少なくとも一部は、適宜、外部機器に備えてもよい。
図5に示すように、電子機器1において、下部筐体11と上部筐体12とは、弾性部材70によって互いに接続されている。図5に示す例においては、上部筐体12とバッテリホルダ42とが、弾性部材70によって互いに接続されている。しかしながら、弾性部材70は、例えば上部筐体12と、基板40又は下部筐体11となどを互いに接続してもよい。一実施形態において、弾性部材70は、下部筐体11側の任意の部材と、上部筐体12側の任意の部材とを互いに接続してよい。弾性部材70は、互いに直交する3つの軸(例えば、Y軸、Y軸、Z軸)のうちの少なくともいずれか1つの軸に沿って変形可能な弾性部材であるとしてよい。弾性部材70は、3次元で変形可能な部材である。
弾性部材70は、例えば、ばね、樹脂、又はスポンジ等のような、適度な弾性を有する任意の弾性体を含んで構成してよい。弾性部材70は、例えば、所定の弾性を有する所定の厚さのシリコンシートを形成したものとしてもよい。弾性部材70については、さらに後述する。弾性部材70と、上部筐体12とは、接着剤又は両面テープなどで接着してよい。また、弾性部材70と、下部筐体11、基板40、又はバッテリホルダ42とは、接着剤又は両面テープなどで接着してよい。ここで、弾性部材70と他の部材との接着は、弾性部材70の変形に与える影響が少なくなるようにしてよい。すなわち、弾性部材70と他の部材とを接着したとしても、弾性部材70は適度に変形することができるように構成してよい。
このように、一実施形態に係る電子機器1は、押圧部16と、センサ50と、弾性部材70と、を備える。押圧部16は、被検者の被検部位側に押圧される。図5において、被検者は例えば矢印Pの方向に、押圧部16を押圧してよい。センサ50は、被検者の被検部位における脈動を検出する。弾性部材70は、センサ50と押圧部16との間に介在する。
図5に示すように、電子機器1が被検者の被検部位に載置された状態において、脈あて部14は、被検者の被検部位、すなわち被検者の橈骨動脈上の皮膚に接触している。また、押圧部16は、例えば被検者の右手の指などによって、被検部位側すなわち矢印Pの方向に押圧される。さらに、押圧部16(上部筐体12)とセンサ50との間に配置される弾性体140の弾性力により、(下部筐体11及び脈あて部14とともに)センサ50は、被検者の被検部位側に付勢される。また、弾性体140の弾性力により付勢される脈あて部14は、被検者の橈骨動脈上の皮膚に接触している。この場合、脈あて部14は、被検者の橈骨動脈の動き、すなわち脈動に応じて変位する。このため、脈あて部14に連動するセンサ50も、被検者の橈骨動脈の動きすなわち脈動に応じて変位する。例えば、図5に示すように、押圧部16が被検者によって矢印Pの方向に押圧された状態で、軸Sを中心として、矢印Dに示すような方向に変位することができる。ここで、軸Sは、下部筐体11の底面が被検者の手首に接する部分としてよい。この場合、矢印Pの方向に押圧される位置(すなわち押圧部16の位置)は、XY平面上において、軸Sと脈あて部14(被検部位)との間の位置としてよい。
本実施形態において、脈あて部14に連動するセンサ50は、弾性部材70を介して上部筐体12(押圧部16)に結合されている。このため、センサ50は、弾性部材70の柔軟性によって、ある程度自由な可動域を与えられる。また、弾性部材70の柔軟性によって、センサ50の動きは妨げられにくくなる。さらに、弾性部材70は、適度な弾性を有することにより、被検者の被検部位における脈動に追従して変形する。したがって、本実施形態に係る電子機器1において、センサ50は、被検者の被検部位における脈動を敏感に検出することができる。さらに、本実施形態に係る電子機器1は、脈波に追従して変位することで、被験者のうっ血を無くし、苦痛を無くすことができる。このように、本実施形態では、弾性部材70は、被検者の被検部位における脈動に応じて変形可能であるようにしてよい。また、弾性部材70は、センサ50が被検者の被検部位における脈動を検出可能な程度に弾性変形するようにしてもよい。
以上説明したように、一実施形態に係る電子機器1は、小型かつ軽量な測定機器として機能し得る。一実施形態に係る電子機器1は、携帯性に優れるのみならず、被検者の生体情報を極めて簡単に測定することができる。また、一実施形態に係る電子機器1は、他の外部機器などと連携せずとも、電子機器1の単独で生体情報を測定することができる。また、この場合、他のケーブルなどのような付属物を形態する必要もない。したがって、一実施形態に係る電子機器1によれば、利便性を高めることができる。
本実施形態において、センサ50は、例えば、ジャイロセンサ(ジャイロスコープ)のような、物体の角度(傾き)、角速度、及び角加速度の少なくともいずれかを、複数の軸について検出するセンサとしてもよい。この場合、センサ50は、被検者の被検部位における脈動に基づく複雑な動きを、複数の軸についてのそれぞれのパラメータとして検出することができる。また、センサ50は、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサとを組み合わせた6軸センサとしてもよい。
図6は、電子機器1の使用態様の一例を示す図である。図6は、図1に示した状況を拡大して示す図である。
例えば、図6に示すように、電子機器1に内蔵されたセンサ50は、α軸、β軸、及びγ軸の3軸のそれぞれを中心とする回転運動を検出してよい。α軸は、例えば、被検者の橈骨動脈にほぼ直交する方向に沿う軸としてよい。また、β軸は、例えば、被検者の橈骨動脈にほぼ平行な方向に沿う軸としてよい。また、γ軸は、例えば、α軸及びβ軸の双方にほぼ直交する方向に沿う軸としてよい。
このように、本実施形態では、センサ50は、被検者の被検部位における脈動を、所定の軸を中心とする回転運動の一部として検出してもよい。また、センサ50は、被検者の被検部位における脈動を、少なくとも2軸の回転運動として検出してもよく、3軸の回転運動として検出してもよい。本開示において、「回転運動」とは、必ずしも円の軌道上を1周以上変位するような運動でなくてもよい。例えば、本開示において、回転運動とは、例えば円の軌道上における1周に満たない部分的な変位(例えば弧に沿うような変位)としてもよい。
図6に示すように、本実施形態に係る電子機器1は、例えば3軸のそれぞれを中心とする回転運動を、センサ50によって検出することができる。したがって、本実施形態に係る電子機器1は、センサ50によって検出された複数の結果を合算するなどして合成することにより、被検者の脈波の検出感度を高めることができる。このような合算などの演算は、例えば制御部52によって行ってもよい。この場合、制御部52は、センサ50が検出した脈動に基づく脈波の指標を算出してよい。
例えば、図6に示す例において、α軸及びβ軸を中心とするセンサ50の回転運動に基づく信号強度の時間変化は、それぞれ被検者の脈波に基づく顕著なピークを有している。このため、制御部52は、例えばα軸、β軸、及びγ軸についての検出結果をそれぞれ合算することにより、被検者の脈波の検出精度を高めることができる。したがって、本実施形態に係る電子機器1によれば、被検者が脈波を測定する際の有用性を向上することができる。
一実施形態において、電子機器1の制御部52は、センサ50が検出した脈動に基づく脈波の指標を算出してもよい。この場合、制御部52は、センサ50が少なくとも2軸の回転運動(例えば3軸の回転運動)として検出した結果を合成(例えば合算)してもよい。本実施形態に係る電子機器1によれば、複数の方向の脈波信号を検出することができる。このため、本実施形態に係る電子機器1によれば、複数の軸についての検出結果を合成することで、1つの軸についての検出結果に比べて、信号強度が高まる。したがって、本実施形態に係る電子機器1によれば、SN比の良好な信号を検出することができ、検出感度を高めることができ、安定した測定が可能となる。
また、図6に示したγ軸についての検出結果において、被検者の脈波に基づくピークは、他のα軸又はβ軸についての検出結果に比べて顕著に現れないことも想定される。このように、γ軸についての検出結果のように信号レベルが低い検出結果を、他の軸についての検出結果に合算すると、SN比が低下することもあり得る。また、信号レベルが低い検出結果は、ほとんどがノイズ成分と見なせる場合もある。このような場合、信号レベルが低い検出結果は、良好な脈波成分を含んでいないこともある。そこで、本実施形態において、制御部52は、複数の軸についての検出結果のうち、検出結果が所定の閾値に満たない軸がある場合、その軸の検出結果を合算しなくてもよい。
例えば、ある被検者の脈動を、α軸、β軸、及びγ軸のそれぞれを中心とする回転運動として、センサ50によって検出した場合を想定する。この結果として、α軸、β軸、γ軸についての検出結果におけるピーク値は、それぞれ所定の閾値を超えているものとする。このような場合、制御部52は、α軸についての検出結果、β軸についての検出結果、及びγ軸についての検出結果の全てを合算したものを、センサ50が検出した脈動に基づく脈波の指標として算出してもよい。
一方、例えば、ある被検者の脈動を検出した結果として、α軸及びβ軸についての検出結果におけるピーク値は、それぞれ所定の閾値を超えているものとする。しかしながら、γ軸についての検出結果におけるピーク値は、所定の閾値を超えていないものとする。このような場合、制御部52は、α軸についての検出結果及びβ軸についての検出結果のみを合算したものを、センサ50が検出した脈動に基づく脈波の指標として算出してもよい。
このような処理を行う場合、制御部52は、各軸についての検出結果を合算に含むか否かの基準となる閾値は、それぞれの軸について別個に設定してもよいし、それぞれの軸について同じものを決定してもよい。いずれの場合も、各軸についての検出結果において、被検者の脈動がそれぞれ適切に検出されるような閾値を、適宜設定してよい。
このように、本実施形態に係る電子機器1において、制御部52は、センサ50が少なくとも2軸の回転運動として検出した結果のうち、所定の閾値以上の成分を有するもののみを合成してもよい。このため、本実施形態に係る電子機器1によれば、検出結果のSN比の低下を抑制することができる。したがって、本実施形態に係る電子機器1によれば、被検者が脈波を測定する際の有用性を向上することができる。
また、上述のように、複数の軸についての検出結果を合算する際に、それぞれの軸についての検出結果を単にこのまま合算すると、不都合が生じることも想定される。これは、被検者の脈動の向きと、センサ50との位置関係によって、センサ50による検出される結果の極性が整合しないことに起因すると想定される。例えば、センサ50を用いて被検者の右手の脈動を検出した場合と、左手の脈動を検出した場合とで、ある軸についての検出結果の極性が逆転することも想定される。
例えば、被検者の脈動を検出した場合、ある軸についての検出結果において、ほぼ周期的に上向きのピークが検出されるとする。しかしながら、同時に、他の軸についての検出結果において、逆に、ほぼ周期的に下向きのピークが検出されることも想定される。このように、複数の軸についての検出結果において極性が逆転する場合、このまま単に合算すると、ピークが打ち消し合って良好な結果が得られないことも想定される。
そこで、本実施形態において、制御部52は、複数の軸についての検出結果において極性が逆転する場合、少なくとも1つの軸についての検出結果の極性を反転させてから、他の軸についての検出結果と合算してもよい。例えば、制御部52は、2つの軸についての検出結果において極性が逆転する場合、一方の軸についての検出結果の極性を他方の軸に合わせて反転させてよい。
このように、本実施形態に係る電子機器1において、制御部52は、センサ50が少なくとも2軸の回転運動として検出した結果を、それぞれの極性が揃うようにしてから合成してもよい。本実施形態に係る電子機器1によれば、被検者の脈波の検出精度を高めることができる。したがって、本実施形態に係る電子機器1によれば、被検者が脈波を測定する際の有用性を向上することができる。
上述のように、少なくとも1つの軸についての検出結果の極性を反転させることにより、複数の軸についての検出結果の極性を揃える処理を行う場合、それぞれの検出結果における極性の向きを判定する必要がある。このような極性の向きの判定は、種々の手法で行うことができる。例えば、制御部52は、各軸についての検出結果のピークが信号強度の正方向側に向いているか、又は負方向側に向いているかを判定してもよい。また、例えば制御部52は、各軸についての検出結果のピークが、信号の平均値よりも大きいか小さいかを判定してもよい。また、少なくとも1つの軸についての検出結果の極性を反転させる際には、制御部52は、極性を反転させる検出結果にマイナス1を乗算してもよい。
さらに、制御部52は、上述のように検出結果の極性を適宜反転させた後、当該検出結果の全体に所定値を加減してから、他の軸についての検出結果に合算してもよい。また、制御部52は、複数の軸についての検出結果を合算する前に、それぞれの軸についての検出結果に適宜重み付けなどをしたり、それぞれの軸についての検出結果を適宜補正したりしてもよい。
図7は、電子機器1の概略構成を示す機能ブロック図である。電子機器1は、報知部20と、スイッチ30と、センサ50と、制御部52と、記憶部54と、通信部56と、バッテリ60とを備える。これらの機能部については既に説明したとおりである。
図8は、電子機器1を用いて手首で取得された脈波の一例を示す図である。図8は、脈動を検知するセンサ50として、角速度センサを用いた場合について示してある。図8は、角速度センサで取得された角速度を時間積分したものであり、横軸は時間、縦軸は角度を表す。取得された脈波は、例えば被検者の体動が原因のノイズを含む場合があるので、DC(Direct Current)成分を除去するフィルタによる補正を行い、脈動成分のみを抽出してもよい。
取得された脈波から、脈波に基づく指標を算出する方法を、図8を用いて説明する。脈波の伝播は、心臓から押し出された血液による拍動が、動脈の壁又は血液を伝わる現象である。心臓から押し出された血液による拍動は、前進波として手足の末梢まで届き、その一部は血管の分岐部、血管径の変化部等で反射され反射波として戻ってくる。脈波に基づく指標は、例えば、前進波の脈波伝播速度PWV(Pulse Wave Velocity)、脈波の反射波の大きさPR、脈波の前進波と反射波との時間差Δt、脈波の前進波と反射波との大きさの比で表されるAI(Augmentation Index)等である。
図8に示す脈波は、利用者のn回分の脈拍であり、nは1以上の整数である。脈波は、心臓からの血液の駆出により生じた前進波と、血管分岐又は血管径の変化部から生じた反射波とが重なりあった合成波である。図8において、脈拍毎の前進波による脈波のピークの大きさをPFn、脈拍毎の反射波による脈波のピークの大きさをPRn、脈拍毎の脈波の最小値をPSnで示す。また、図8において、脈拍のピークの間隔をTPRで示す。
脈波に基づく指標とは、脈波から得られる情報を定量化したものである。例えば、脈波に基づく指標の一つであるPWVは、上腕と足首等、2点の被検部位で測定された脈波の伝播時間差と2点間の距離とに基づいて算出される。具体的には、PWVは、動脈の2点における脈波(例えば上腕と足首)を同期させて取得し、2点の距離の差(L)を2点の脈波の時間差(PTT)で除して算出される。例えば、脈波に基づく指標の一つである反射波の大きさPRは、反射波による脈波のピークの大きさPRnを算出してもよいし、n回分を平均化したPRaveを算出してもよい。例えば、脈波に基づく指標の一つである脈波の前進波と反射波との時間差Δtは、所定の脈拍における時間差Δtnを算出してもよいし、n回分の時間差を平均化したΔtaveを算出してもよい。例えば、脈波に基づく指標の一つであるAIは、反射波の大きさを前進波の大きさで除したものであり、AIn=(PRn−PSn)/(PFn−PSn)で表わされる。AInは脈拍毎のAIである。AIは、例えば、脈波の測定を数秒間行い、脈拍毎のAIn(n=1〜nの整数)の平均値AIaveを算出し、脈波に基づく指標としてもよい。
脈波伝播速度PWV、反射波の大きさPR、前進波と反射波との時間差Δt、及びAIは、血管壁の硬さに依存して変化するため、動脈硬化の状態の推定に用いることができる。例えば、血管壁が硬いと、脈波伝播速度PWVは大きくなる。例えば、血管壁が硬いと、反射波の大きさPRは大きくなる。例えば、血管壁が硬いと、前進波と反射波との時間差Δtは小さくなる。例えば、血管壁が硬いと、AIは大きくなる。さらに、電子機器1は、これらの脈波に基づく指標を用いて、動脈硬化の状態を推定できると共に、血液の流動性(粘性)を推定することができる。特に、電子機器1は、同一被検者の同一被検部位、及び動脈硬化の状態がほぼ変化しない期間(例えば数日間内)において取得された脈波に基づく指標の変化から、血液の流動性の変化を推定することができる。ここで血液の流動性とは、血液の流れやすさを示し、例えば、血液の流動性が低いと、脈波伝播速度PWVは小さくなる。例えば、血液の流動性が低いと、反射波の大きさPRは小さくなる。例えば、血液の流動性が低いと、前進波と反射波との時間差Δtは大きくなる。例えば、血液の流動性が低いと、AIは小さくなる。
本実施形態では、脈波に基づく指標の一例として、電子機器1が、脈波伝播速度PWV、反射波の大きさPR、前進波と反射波との時間差Δt、及びAIを算出する例を示したが、脈波に基づく指標はこれに限ることはない。例えば、電子機器1は、脈波に基づく指標として、後方収縮期血圧を用いてもよい。
図9は、算出されたAIの時間変動を示す図である。本実施の形態では、脈波は、角速度センサ131を備えた電子機器1を用いて約5秒間取得された。制御部52は、取得された脈波から脈拍毎のAIを算出し、さらにこれらの平均値AIaveを算出した。本実施の形態では、電子機器1は、食事前及び食事後の複数のタイミングで脈波を取得し、取得された脈波に基づく指標の一例としてAIの平均値(以降AIとする)を算出した。図9の横軸は、食事後の最初の測定時間を0として、時間の経過を示す。図9の縦軸は、その時間に取得された脈波から算出されたAIを示す。被検者は安静の状態で、脈波は橈骨動脈上で取得された。
電子機器1は、食事前、食事直後、及び食事後30分毎に脈波を取得し、それぞれの脈波に基づいて複数のAIを算出した。食事前に取得された脈波から算出されたAIは約0.8であった。食事前に比較して、食事直後のAIは小さくなり、食事後約1時間でAIは最小の極値となった。食事後3時間で測定を終了するまで、AIは徐々に大きくなった。
電子機器1は、算出されたAIの変化から、血液の流動性の変化を推定することができる。例えば血液中の赤血球、白血球、血小板が団子状に固まる、又は粘着力が大きくなると、血液の流動性は低くなる。例えば、血液中の血漿の含水率が小さくなると、血液の流動性は低くなる。これらの血液の流動性の変化は、例えば、後述する糖脂質状態、又は熱中症、脱水症、低体温等の被検者の健康状態によって変化する。被検者の健康状態が重篤化する前に、被検者は、本実施の形態の電子機器1を用いて、自らの血液の流動性の変化を知ることができる。図9に示す食事前後のAIの変化から、食事後に血液の流動性は低くなり、食事後約1時間で最も血液の流動性は低くなり、その後徐々に血液の流動性が高くなったことが推定できる。電子機器1は、血液の流動性が低い状態を「どろどろ」、血液の流動性が高い状態を「さらさら」と表現して報知してもよい。例えば、電子機器1は、「どろどろ」「さらさら」の判定を、被検者の実年齢におけるAIの平均値を基準にして行ってもよい。電子機器1は、算出されたAIが平均値より大きければ「さらさら」、算出されたAIが平均値より小さければ「どろどろ」と判定してもよい。電子機器1は、例えば、「どろどろ」「さらさら」の判定は、食事前のAIを基準にして判定してもよい。電子機器1は、食事後のAIを食事前のAIと比較して「どろどろ」度合いを推定してもよい。電子機器1は、例えば、食事前のAIすなわち空腹時のAIとして、被検者の血管年齢(血管の硬さ)の指標として用いることができる。電子機器1は、例えば、被検者の食事前のAIすなわち空腹時のAIを基準として、算出されたAIの変化量を算出すれば、被検者の血管年齢(血管の硬さ)による推定誤差を少なくすることができるので、血液の流動性の変化をより精度よく推定することができる。
図10は、算出されたAIと血糖値の測定結果を示す図である。脈波の取得方法及びAIの算出方法は、図9に示した実施の形態と同じである。図10の右縦軸は血中の血糖値を示し、左縦軸は算出されたAIを示す。図10の実線は、取得された脈波から算出されたAIを示し、点線は測定された血糖値を示す。血糖値は、脈波取得直後に測定された。血糖値は、テルモ社製の血糖測定器「メディセーフフィット」を用いて測定された。食事前の血糖値と比べて、食事直後の血糖値は約20mg/dl上昇している。食事後約1時間で血糖値は最大の極値となった。その後、測定を終了するまで、血糖値は徐々に小さくなり、食事後約3時間でほぼ食事前の血糖値と同じになった。
図10に示す通り、食前食後の血糖値は、脈波から算出されたAIと負の相関がある。血糖値が高くなると、血液中の糖により赤血球及び血小板が団子状に固まり、又は粘着力が強くなり、その結果血液の流動性は低くなることがある。血液の流動性が低くなると、脈波伝播速度PWVは小さくなることがある。脈波伝播速度PWVが小さくなると、前進波と反射波との時間差Δtは大きくなることがある。前進波と反射波との時間差Δtが大きくなると、前進波の大きさPFに対して反射波の大きさPRは小さくなることがある。前進波の大きさPFに対して反射波の大きさPRが小さくなると、AIは小さくなることがある。食事後数時間内(本実施の形態では3時間)のAIは、血糖値と相関があることから、AIの変動により、被検者の血糖値の変動を推定することができる。また、あらかじめ被検者の血糖値を測定し、AIとの相関を取得しておけば、電子機器1は、算出されたAIから被検者の血糖値を推定することができる。
食事後に最初に検出されるAIの最小極値であるAIPの発生時間に基づいて、電子機器1は被検者の糖代謝の状態を推定できる。電子機器1は、糖代謝の状態として、例えば血糖値を推定する。糖代謝の状態の推定例として、例えば食事後に最初に検出されるAIの最小極値AIPが所定時間以上(例えば食後約1.5時間以上)経ってから検出される場合、電子機器1は、被検者が糖代謝異常(糖尿病患者)であると推定できる。
食事前のAIであるAIBと、食事後に最初に検出されるAIの最小極値であるAIPとの差(AIB−AIP)に基づいて、電子機器1は被検者の糖代謝の状態を推定できる。糖代謝の状態の推定例として、例えば(AIB−AIP)が所定数値以上(例えば0.5以上)の場合、被検者は糖代謝異常(食後高血糖患者)であると推定できる。
図11は、算出されたAIと血糖値との関係を示す図である。算出されたAIと血糖値とは、血糖値の変動が大きい食事後1時間以内に取得されたものである。図11のデータは、同一被検者における異なる複数の食事後のデータを含む。図11に示す通り、算出されたAIと血糖値とは負の相関を示した。算出されたAIと血糖値との相関係数は0.9以上であり、非常に高い相関を示した。例えば、図11に示すような算出されたAIと血糖値との相関を、あらかじめ被検者毎に取得しておけば、電子機器1は、算出されたAIから被検者の血糖値を推定することもできる。
図12は、算出されたAIと中性脂肪値の測定結果を示す図である。脈波の取得方法及びAIの算出方法は、図9に示した実施形態と同じである。図12の右縦軸は血中の中性脂肪値を示し、左縦軸はAIを示す。図12の実線は、取得された脈波から算出されたAIを示し、点線は測定された中性脂肪値を示す。中性脂肪値は、脈波取得直後に測定した。中性脂肪値は、テクノメディカ社製の脂質測定装置「ポケットリピッド」を用いて測定された。食事前の中性脂肪値と比較して、食事後の中性脂肪値の最大極値は約30mg/dl上昇している。食事後約2時間後に中性脂肪は最大の極値となった。その後、測定を終了するまで、中性脂肪値は徐々に小さくなり、食事後約3.5時間でほぼ食事前の中性脂肪値と同じになった。
これに対し、算出されたAIの最小極値は、食事後約30分で第1の最小極値AIP1が検出され、食事後約2時間で第2の最小極値AIP2が検出された。食事後約30分で検出された第1の最小極値AIP1は、前述した食後の血糖値の影響によるものであると推定できる。食事後約2時間で検出された第2の最小極値AIP2は、食事後約2時間で検出された中性脂肪の最大極値とその発生時間がほぼ一致している。このことから、食事から所定時間以降に検出される第2の最小極値AIP2は中性脂肪の影響によるものであると推定できる。食前食後の中性脂肪値は、血糖値と同様に、脈波から算出されたAIと負の相関があることがわかった。特に食事から所定時間以降(本実施の形態では約1.5時間以降)に検出されるAIの最小極値AIP2は、中性脂肪値と相関があることから、AIの変動により、被検者の中性脂肪値の変動を推定することができる。また、あらかじめ被検者の中性脂肪値を測定し、AIとの相関を取得しておけば、電子機器1は、算出されたAIから被検者の中性脂肪値を推定することができる。
食事後所定時間以降に検出される第2の最小極値AIP2の発生時間に基づいて、電子機器1は被検者の脂質代謝の状態を推定できる。電子機器1は、脂質代謝の状態として、例えば脂質値を推定する。脂質代謝の状態の推定例として、例えば第2の最小極値AIP2が食事後所定時間以上(例えば4時間以上)経ってから検出される場合、電子機器1は、被検者が脂質代謝異常(高脂血症患者)であると推定できる。
食事前のAIであるAIBと、食事後所定時間以降に検出される第2の最小極値AIP2との差(AIB−AIP2)に基づいて、電子機器1は被検者の脂質代謝の状態を推定できる。脂質代謝異常の推定例として、例えば(AIB−AIP2)が0.5以上の場合、電子機器1は、被検者が脂質代謝異常(食後高脂血症患者)であると推定できる。
また、図10乃至図12で示した測定結果から、本実施の形態の電子機器1は、食事後に最も早く検出される第1の最小極値AIP1及びその発生時間に基づいて、被検者の糖代謝の状態を推定することができる。さらに、本実施の形態の電子機器1は、第1の最小極値AIP1の後で所定時間以降に検出される第2の最小極値AIP2及びその発生時間に基づいて、被検者の脂質代謝の状態を推定することができる。
本実施形態では脂質代謝の推定例として中性脂肪の場合を説明したが、脂質代謝の推定は中性脂肪に限られない。電子機器1が推定する脂質値は、例えば総コレステロール、善玉(HDL:High Density Lipoprotein)コレステロール及び悪玉(LDL:Low Density Lipoprotein)コレステロール等を含む。これらの脂質値も、上述の中性脂肪の場合と同様の傾向を示す。
図13は、AIに基づいて血液の流動性並びに糖代謝及び脂質代謝の状態を推定する手順を示すフロー図である。図13を用いて、実施の形態に係る電子機器1による血液の流動性、並びに糖代謝及び脂質代謝の状態の推定の流れを説明する。
図13に示すように、電子機器1は、初期設定として、被検者のAI基準値を取得する(ステップS101)。AI基準値は、被検者の年齢から推定される平均的なAIを用いてもよいし、事前に取得された被検者の空腹時のAIを用いてもよい。また、電子機器1は、ステップS102〜S108において食前と判断されたAIをAI基準値としてもよいし、脈波測定直前に算出されたAIをAI基準値としてもよい。この場合、電子機器1は、ステップS102〜S108より後にステップS101を実行する。
続いて、電子機器1は、脈波を取得する(ステップS102)。例えば電子機器1は、所定の測定時間(例えば、5秒間)に取得された脈波について、所定の振幅以上が得られたか否かを判定する。取得された脈波について、所定の振幅以上が得られたら、ステップS103に進む。所定の振幅以上が得られなかったら、ステップS102を繰り返す(これらのステップは図示せず)。ステップS102において、例えば電子機器1は、所定の振幅以上の脈波を検出すると、自動で脈波を取得する。
電子機器1は、ステップS102で取得された脈波から、脈波に基づく指標としてAIを算出し記憶部54に記憶する(ステップS103)。電子機器1は、所定の脈拍数(例えば、3拍分)毎のAIn(n=1〜nの整数)から平均値AIaveを算出して、これをAIとしてもよい。あるいは、電子機器1は、特定の脈拍におけるAIを算出してもよい。
AIは、例えば脈拍数PR、脈圧(PF−PS)、体温、被検出部の温度等によって補正を行い算出してもよい。脈拍とAI及び脈圧とAIは共に負の相関があり、温度とAIとは正の相関があることが知られている。補正を行う際は、例えばステップS103において、電子機器1はAIに加え脈拍、脈圧を算出する。例えば、電子機器1は、センサ50に温度センサを搭載し、ステップS102における脈波の取得の際に、被検出部の温度を取得してもよい。事前に作成された補正式に、取得された脈拍、脈圧、温度等を代入することにより、AIは補正される。
続いて、電子機器1は、ステップS101で取得されたAI基準値とステップS103で算出されたAIとを比較して、被検者の血液の流動性を推定する(ステップS104)。算出されたAIがAI基準値より大きい場合(YESの場合)、血液の流動性は高いと推定され、電子機器1は例えば血液の流動性が高いことをと報知する(ステップS105)。算出されたAIがAI基準値より大きくない場合(NOの場合)、血液の流動性は低いと推定され、電子機器1は例えば血液の流動性が低いことを報知する(ステップS106)。
続いて、電子機器1は、糖代謝及び脂質代謝の状態を推定するか否かを被検者に確認する(ステップS107)。ステップS107で糖代謝及び脂質代謝を推定しない場合(NOの場合)、電子機器1は処理を終了する。ステップS107で糖代謝及び脂質代謝を推定する場合(YESの場合)、電子機器1は、算出されたAIが食前、食後いずれかに取得されたものかを確認する(ステップS108)。食後ではない(食前)場合(NOの場合)、ステップS102に戻り、次の脈波を取得する。食後の場合(YESの場合)、電子機器1は、算出されたAIに対応する脈波の取得時間を記憶する(ステップS109)。続いて脈波を取得する場合(ステップS110のNOの場合)、ステップS102に戻り、次の脈波を取得する。脈波測定を終了する場合(ステップS110のYESの場合)ステップS111以降に進み、電子機器1は被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態の推定を行う。
続いて、電子機器1は、ステップS104で算出された複数のAIから、最小極値とその時間を抽出する(ステップS111)。例えば、図12の実線で示すようなAIが算出された場合、電子機器1は、食事後約30分の第1の最小極値AIP1、及び食事後約2時間の第2の最小極値AIP2を抽出する。
続いて、電子機器1は、第1の最小極値AIP1とその時間から、被検者の糖代謝の状態を推定する(ステップS112)。さらに、電子機器1は、第2の最小極値AIP2とその時間から、被検者の脂質代謝の状態を推定する(ステップS113)。被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態の推定例は、前述の図12と同様であるので省略する。
続いて、電子機器1は、ステップS112及びステップS113の推定結果を報知し(ステップS114)、図13に示す処理を終了する。報知部20は、例えば「糖代謝は正常です」、「糖代謝異常が疑われます」、「脂質代謝は正常です」、「脂質代謝異常が疑われます」等の報知を行う。この場合、報知部20は、例えば発光部が点灯又は点滅することにより、前述のような報知を行ってもよい。また、報知部20は「病院で受診しましょう」、「食生活を見直しましょう」等のアドバイスを報知してもよい。そして、電子機器1は、図13に示す処理を終了する。
本実施形態において、電子機器1は、脈波に基づく指標から被検者の血液の流動性並びに糖代謝及び脂質代謝の状態を推定できる。このため、電子機器1は、非侵襲かつ短時間で被検者の血液の流動性並びに糖代謝及び脂質代謝の状態を推定できる。
本実施形態において、電子機器1は、脈波に基づく指標の極値とその時間から、糖代謝の状態の推定と、脂質代謝の状態の推定とを行うことができる。このため、電子機器1は、非侵襲かつ短時間で被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態を推定できる。
本実施形態において、電子機器1は、例えば、食事前(空腹時)の脈波に基づく指標を基準にして、被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態を推定できる。このため、短期的に変化しない血管径又は血管の硬さ等を考慮せずに、被検者の血液の流動性及び糖代謝及び脂質代謝の状態を正確に推定できる。
本実施形態において、電子機器1は、脈波に基づく指標と血糖値、脂質値とのキャリブレーションを取っておけば、被検者の血糖値、脂質値を非侵襲かつ短時間に推定することができる。
図14は、第1実施形態に係るシステムの概略構成を示す模式図である。図14に示したシステムは、電子機器1と、サーバ151と、携帯端末150と、通信ネットワークを含んで構成される。図14に示したように、電子機器1で算出された脈波に基づく指標は、通信ネットワークを通じてサーバ151に送信され、被検者の個人情報としてサーバ151に保存される。サーバ151では、被検者の過去の取得情報、及び/又は様々なデータベースと比較することにより、被検者の血液の流動性並びに糖代謝及び脂質代謝の状態を推定する。サーバ151はさらに被検者に最適なアドバイスを作成する。サーバ151は、被検者が所有する携帯端末150に推定結果及びアドバイスを返信する。携帯端末150は受信した推定結果及びアドバイスを携帯端末150の表示部から報知する、というシステムを構築することができる。電子機器1の通信機能を利用することで、サーバ151には複数の利用者からの情報を収集することができるため、さらに推定の精度が上がる。また、携帯端末150を報知手段として用いるため、電子機器1は報知部20が不要となり、さらに小型化される。また、被検者の血液の流動性並びに糖代謝及び脂質代謝の状態の推定をサーバ151で行うために、電子機器1の制御部52の演算負担を軽減できる。また、被検者の過去の取得情報をサーバ151で保存できるために、電子機器1の記憶部54の負担を軽減できる。そのため、電子機器1はさらに小型化、簡略化が可能となる。また、演算の処理速度も向上する。
本実施形態に係るシステムはサーバ151を介して、電子機器1と携帯端末150とを通信ネットワークで接続した構成を示したが、本発明に係るシステムはこれに限定されるものではない。サーバ151を用いずに、電子機器1と携帯端末150を直接通信ネットワークで接続して構成してもよい。
本開示を完全かつ明瞭に開示するために特徴的な実施例に関し記載してきた。しかし、添付の請求項は、上記実施形態に限定されるべきものでなく、本明細書に示した基礎的事項の範囲内で当該技術分野の当業者が創作しうるすべての変形例及び代替可能な構成を具現化するように構成されるべきである。
例えば、上述の実施形態においては、センサ50として角速度センサを備える場合について説明したが、電子機器1の形態はこれに限ることはない。センサ50は、発光部と受光部を含む光学脈波センサを備えていてもよいし、圧力センサを備えていてもよい。また、電子機器1が生体情報を測定する被検部位は、被検者の手首に限らない。首、足首、太もも、耳等、動脈上にセンサ50が配置されていればよい。
例えば、上述の実施形態においては、脈波に基づく指標の第1の極値及び第2の極値とこれらの時間とに基づいて、被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態を推定したが、電子機器1が実行する処理はこれに限ることはない。一方の極値しか表れない場合、極値が表れない場合もあり、電子機器1は、算出された脈波に基づく指標の時間変動の全体傾向(例えば積分値、フーリエ変換等)に基づいて、被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態を推定してもよい。また、電子機器1は、脈波に基づく指標の極値を抽出するのではなく、脈波に基づく指標が所定の値以下になった時間範囲に基づいて、被検者の糖代謝及び脂質代謝の状態を推定してもよい。
例えば、上述の実施形態においては、食事前後の血液の流動性を推定する場合について説明したが、電子機器1が実行する処理はこれに限ることはない。電子機器1は、運動前後及び運動中の血液の流動性を推定してもよいし、入浴前後及び入浴中の血液の流動性を推定してもよい。
上述の実施形態において、電子機器1が脈波を測定すると説明したが、脈波は必ずしも電子機器1により測定されなくてもよい。例えば、電子機器1は、コンピュータ又は携帯電話機等の情報処理装置と有線又は無線で接続され、センサ50で取得された角速度の情報を情報処理装置に送信してもよい。この場合、情報処理装置が、角速度の情報に基づいて脈波を測定してもよい。情報処理装置は、糖代謝及び脂質代謝の推定処理等を実行してもよい。各種情報処理を電子機器1に接続された情報処理装置が実行する場合、電子機器1は、制御部52、記憶部54、報知部20等を備えていなくてもよい。また、電子機器1が有線により情報処理装置に接続されている場合、電子機器1は、バッテリ60を有さず、情報処理装置から電力が供給されてもよい。
また、上述の実施形態において、電子機器1は、四角い形状の下部筐体11及び上部筐体12によって構成される例を説明した。しかしながら、電子機器1の筐体の形状は四角型でなくてもよい。例えば、一実施形態において、電子機器1は、円盤型又は三角型などのような下部筐体11及び上部筐体12によって構成されてもよい。一実施形態において、電子機器1は、センサ50が弾性部材70を介して被検部位側に押圧されるような各種の構成としてよい。
また、電子機器1の上部筐体12に備えられる押圧部16も、種々の構成としてよい。例えば図15に示す電子機器2のように、つまみ型の押圧部16’を備えてもよい。図15に示すような形状の押圧部16’によれば、被検者は、例えば測定開始時に被検部位に対して電子機器1を位置決めする際に、親指と人差し指などによって押圧部16’の凸部を摘んで保持することができる。被検者は、電子機器1を位置決めした後、親指と人差し指などによって押圧部16’の凸部を摘んだ状態を維持することもできるし、押圧部16’の凹部を押圧してもよい。
また、電子機器1の制御部52は、脈波の指標から、糖脂質代謝、血糖値及び脂質値のうちの少なくともいずれか1つを推定するとしてよい。また、電子機器1は、被験者のダイエットの進行状況を監視するダイエットモニタ、若しくは、被験者の血糖値を監視する血糖計として機能してもよい。
ここで、上述の実施形態に係る電子機器の変形例について、さらに説明する。図16は、上述の実施形態に係る電子機器の変形例の断面を示す図である。図16に示すように、電子機器3は、互いに組み合わされる筐体12’と筐体11’とを備えている。電子機器3において、筐体12’が、筐体11’に押し付けられることにより、弾性部材70がゆがみ、突起12’aが筐体11’に接する。そして、筐体11’は、突起12’aを支点として回転する。つまり、電子機器3において、所定の回転軸として作用する突起12’aは、押圧部16を備える上部筐体12’の端部付近であって、センサ50を含む下部筐体11’の端部付近にある。