JP2021001580A - 内燃機関の制御方法および制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】暖機過程で生じるフラッシュボイリングに起因したPNの悪化を回避し、燃費とPN特性との両立を図る。【解決手段】シリーズハイブリッド車用の内燃機関の運転を行う動作点として、3つの動作域OPA1,OPA2,OPA3が予め設定されている。各動作域の最高出力側に、各動作域を代表する代表動作点OP1,OP2,OP3が設定されている。運転中は、各々の代表動作点における燃料噴射弁の先端部温度を推定し、フラッシュボイリングが発生する下限温度と比較することで、動作域を選択する。フラッシュボイリングが生じないときは、燃費に優れた第1の動作域OPA1を選択し、その代表動作点OP1の推定温度が下限温度以上となったら、第2の動作域OPA2へ変更する。【選択図】図5
Description
この発明は、燃焼室内に燃料を噴射する筒内噴射式の内燃機関の制御方法および制御装置に関する。
例えば、内燃機関が駆動する発電機によって発電し、発電した電力を用いて電動機を駆動することで走行を行うシリーズハイブリッド車両においては、内燃機関を任意の動作点(負荷と回転速度との組み合わせ)で運転することができる。特許文献1には、このようなシリーズハイブリッド車両における内燃機関を、燃費等の点で最良のものとして選択された目標動作点で運転することが開示されている。
同様に、変速比を連続的に変更できる無段変速機(CVT)を備えた車両にあっても、車速に対し変速比を適宜に制御することで、内燃機関を任意の動作点で運転することができる。
本発明者の研究によれば、筒内噴射用の燃料噴射弁において、噴孔直前における燃料温度がある温度よりも高いと、高温高圧の燃料が噴孔を通して低い圧力に晒されたときに、燃料の瞬間的な沸騰つまり「フラッシュボイリング」が生じ、これに伴い排気に含まれる排気微粒子の性能指標の一つであるPN(Particulate Number)の増加が生じることが判明した。つまり、フラッシュボイリングが生じると、噴孔を出た瞬間に燃料の少なくとも一部が気化して膨張するので、噴孔から細い円錐状に噴出する個々の噴霧が太く拡がろうとする。この結果、噴射終了時に発生する燃料噴射弁の先端部(噴孔出口周辺)における燃料液膜の付着(換言すれば燃料による燃料噴射弁先端部の濡れ)が増え、PNの増加が生じる。
特許文献1では、このような燃料噴射弁でのフラッシュボイリングによるPNの悪化が何ら考慮されていない。
この発明に係る内燃機関の制御方法ないし制御装置は、
ある出力に対し負荷と回転速度との組み合わせが異なるものとして動作域を予め複数設定し、
これらの動作域の各々の最大出力側に、互いに等出力である各動作域の代表動作点を予め設定し、
運転中に各代表動作点について燃料噴射弁の先端部における燃料温度を推定し、
現在運転中の動作域における代表動作点の推定温度が、フラッシュボイリングによる排気微粒子増加を生じうる温度として設定された所定の下限温度以上であれば、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる隣接の動作域に、運転を行うべき動作域を変更し、
この動作域の中の要求出力に対応した動作点において内燃機関を運転する。
ある出力に対し負荷と回転速度との組み合わせが異なるものとして動作域を予め複数設定し、
これらの動作域の各々の最大出力側に、互いに等出力である各動作域の代表動作点を予め設定し、
運転中に各代表動作点について燃料噴射弁の先端部における燃料温度を推定し、
現在運転中の動作域における代表動作点の推定温度が、フラッシュボイリングによる排気微粒子増加を生じうる温度として設定された所定の下限温度以上であれば、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる隣接の動作域に、運転を行うべき動作域を変更し、
この動作域の中の要求出力に対応した動作点において内燃機関を運転する。
ある動作域とこれよりも低回転速度・高負荷側となる隣接の動作域とでは、等出力の各々の動作点における燃料噴射弁の先端温度を比較したときに、一般に、低回転速度・高負荷側の動作点の方が燃料噴射弁の先端温度が低くなる。そのため、代表動作点の推定温度が所定の下限温度以上となった動作域よりも低回転速度・高負荷側の動作域に動作点をシフトさせることで、燃料噴射弁の先端温度が下限温度未満となり得る。代表動作点は、各動作域の中の最大出力側つまり燃料噴射弁の先端温度が高くなる側に設定されているので、代表動作点の推定温度が下限温度未満であれば、当該動作域の中で要求出力に応じて運転している限りは、燃料噴射弁の先端温度が下限温度を越えることは少ない。
従って、フラッシュボイリングの発生ひいては、このフラッシュボイリングに伴うPNの増加が抑制される。
この発明によれば、フラッシュボイリングによるPNの増加を避けるようにして内燃機関の動作域が選択されるので、燃費とPN性能との両立が図れる。
以下、この発明をシリーズハイブリッド車の内燃機関の制御に適用した一実施例について説明する。
図1は、一実施例のシリーズハイブリッド車の構成を概略的に示している。このシリーズハイブリッド車は、主に発電機として動作する発電用モータジェネレータ1と、この発電用モータジェネレータ1を電力要求に応じて駆動する発電用内燃機関として用いられる内燃機関2と、主にモータとして動作して駆動輪3を駆動する走行用モータジェネレータ4と、発電した電力を一時的に蓄えるバッテリ5と、バッテリ5とモータジェネレータ1,4との間で電力変換を行うインバータ装置6と、を備えて構成されている。内燃機関2が発電用モータジェネレータ1を駆動することによって得られた電力は、インバータ装置6を介してバッテリ5に蓄えられる。走行用モータジェネレータ4は、バッテリ5の電力を用いてインバータ装置6を介して駆動制御される。走行用モータジェネレータ4の回生時の電力は、やはりインバータ装置6を介してバッテリ5に蓄えられる。なお、インバータ装置6は、発電用モータジェネレータ1用のインバータと走行用モータジェネレータ4用のインバータとを含んで構成されている。
インバータ装置6は、車両の走行制御を司る車両側コントローラ7によって制御される。つまり、車両側コントローラ7によるインバータ装置6の制御を介してモータジェネレータ1,4の動作が制御される。車両側コントローラ7には、車両のアクセルペダル開度や車速、ブレーキ操作量等の信号が入力され、かつバッテリ5の充電状態(いわゆるSOC)を示す信号が入力されている。なお、充電状態(SOC)は、バッテリ5の端子電圧等に基づいて検出される。
また、内燃機関2は、エンジンコントローラ8によって制御される。このエンジンコントローラ8と車両側コントローラ7とは車両内ネットワーク9を介して接続されており、互いに信号の授受を行っている。発電用モータジェネレータ1を駆動する内燃機関2は、このエンジンコントローラ8を介して、バッテリ5の充電状態(SOC)等を含む車両側からの電力要求に応じて運転される。つまり、車両のアクセルペダル開度や車速等に応じて車両側コントローラ7からエンジンコントローラ8が電力要求を受けると、その電力要求に応じて内燃機関2が制御される。なお、車両側コントローラ7とエンジンコントローラ8とが一つのコントローラとして統合された構成であってもよい。
図2は、内燃機関2のシステム構成を示している。この内燃機関2は、例えば4ストロークサイクルの火花点火内燃機関であって、燃焼室13の天井壁面に、一対の吸気弁14および一対の排気弁15が配置されているとともに、これらの吸気弁14および排気弁15に囲まれた中央部に点火プラグ16が配置されている。
上記吸気弁14によって開閉される吸気ポート25の下方には、燃焼室13内に燃料を直接に噴射する燃料噴射弁26が配置されている。この燃料噴射弁26は、駆動パルス信号が印加されることによって開弁する電磁式ないし圧電式の噴射弁であって、駆動パルス信号のパルス幅に実質的に比例した量の燃料を噴射する。
上記吸気ポート25に接続された吸気通路24のコレクタ部28上流側には、エンジンコントローラ8からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ29が介装されている。スロットルバルブ29の上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ30が配設されており、さらに上流側に、エアクリーナ31が配設されている。
また、排気ポート27に接続された排気通路35には、三元触媒からなる触媒装置36が介装されており、その上流側に、空燃比を検出する空燃比センサ38が配置されている。
上記エンジンコントローラ8には、上記のエアフロメータ30、空燃比センサ38のほか、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ42、冷却水温を検出する水温センサ43、等のセンサ類の検出信号が入力されており、さらに、上述した車両側コントローラ7から車速信号やアクセルペダル開度信号、発電要求信号などが入力されている。エンジンコントローラ8は、これらの入力信号に基づき、燃料噴射弁26による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ16による点火時期、スロットルバルブ29の開度、等を最適に制御している。特に、発電用モータジェネレータ1の発電効率を含め、内燃機関2の燃費やPN性能が最良となるように、特定の動作点にできるだけ近付くように内燃機関2の負荷および回転速度が制御される。
次に、燃料噴射弁26の噴孔で生じるフラッシュボイリングについて説明する。燃焼室13に臨んで配置される燃料噴射弁26の噴孔直前における燃料温度(換言すれば燃料噴射弁26の先端部の温度)がある温度よりも高いと、高温高圧の燃料が噴孔を通して低い圧力に晒されたときに、燃料の瞬間的な沸騰つまりフラッシュボイリングが生じる。このフラッシュボイリングが生じると、噴孔を出た瞬間に燃料の少なくとも一部が気化して膨張するので、噴孔から細い円錐状に噴出する個々の噴霧が太く拡がろうとする。この結果、噴射終了時に発生する燃料噴射弁の先端部(噴孔出口周辺)における燃料液膜の付着(燃料による燃料噴射弁26先端部の濡れ)が増え、PNの増加が生じる。
図3は、燃料噴射弁26の先端部温度(ここでは先端部における燃料温度と同義である)とこの先端部における燃料液膜の付着の大小との相関を示している。先端部における燃料液膜の付着の大小は、実質的にPNの大小を示している。図示するように、燃料噴射弁26の先端部温度がある下限温度Tf0を越えると、液膜付着が急に増加し、ひいてはPNが増加する。従って、燃料噴射弁26の先端部温度がこの下限温度Tf0以上の温度のときにフラッシュボイリングが発生すると言える。一方、燃料噴射弁26の先端部温度がさらに高いある上限温度Tf1を越えると、噴孔付近に付着する燃料液膜は急に減少し、PNの増加は見られなくなる。これは、上限温度Tf1を越えると、燃料の瞬間的な沸騰であるフラッシュボイリングが生じたとしても、燃料噴射弁26先端部の温度も高くなっていることから、噴孔出口周辺の燃料液膜が速やかに蒸発するためである。そのため、上限温度Tf1よりも高い温度域ではフラッシュボイリングに起因するPNの悪化は生じない。
このような特性から、PN抑制のためには、燃料噴射弁26の先端部温度が下限温度Tf0と上限温度Tf1との間にある状況をなるべく回避することが望ましい、と言える。なお、実際にフラッシュボイリングが発生するか否かは、噴孔出口側の圧力つまり燃焼室13の圧力にも影響を受ける。
図4は、内燃機関2の動作点を規定する内燃機関2の回転速度と負荷とをパラメータとした燃料噴射弁26の先端部温度の特性を示している。図示するように、燃料噴射弁26の先端部温度は、負荷が中負荷よりもやや高負荷側で、かつ回転速度が高い動作点において最も高温となる。そして、この最も高温となる動作点から回転速度の低下方向、負荷の上昇方向、負荷の低下方向のいずれの方向にも温度が低下していく等高線状の特性を示す。なお、先端部温度の値そのものは冷却水温や外気温あるいは燃料配管を通して燃料噴射弁26へ供給される燃料の温度等によって高低変化するが、動作点により異なる温度分布の傾向としては概ね一定である。
次に、内燃機関2の運転を行う動作点および動作域について説明する。なお、動作域とは、多数の動作点の集合、より詳しくは要求出力が異なる多数の動作点が出力変化に対して不連続とならないように集められた集合、である。
図5は、一例として、予め設定された3つの動作域OPA1,OPA2,OPA3を示している。各々の動作域OPA1,OPA2,OPA3は、各々の動作域を代表する動作点として代表動作点OP1,OP2,OP3を含んでいる。なお、図5には、図4に示した等高線状の温度特性を併せて記載してある。
第1の動作域OPA1の代表動作点OP1は、燃費および排気微粒子特性の上で最も好ましい動作点として選択された動作点であり、燃料噴射弁26の先端部温度が最も高くなる領域の付近にある。第1の動作域OPA1は、この代表動作点OP1を最大出力側の位置に含み、かつ、負荷および回転速度が最も低いアイドル点付近から出力変化に応じて動作点が連続的に連なるように設定されている。つまり、図5の上では、第1の動作域OPA1は、右上がりの傾斜に沿って拡がった形となり、代表動作点OP1から出力が低下すると左下方向へ動作点が移動することとなる。なお、このように出力が異なる多数の動作点が連続してなる動作域OPA1,OPA2,OPA3は、1本の線として設定することも理論的に可能ではあるが、実際には、同じ出力変化であっても他の条件により多少異なる動作点を通ることが好ましい場合があるので、図示例では、多少の幅を有する領域として設定されており、模式的に細長い楕円形に示してある。
従って、フラッシュボイリングに伴うPNの増加がない場合には、第1の動作域OPA1が好ましい動作域であり、内燃機関2は、基本的にこの第1の動作域OPA1の中で運転される。典型的には、発電した電力をバッテリ5に蓄えられる範囲内であれば、内燃機関2を第1の代表動作点OP1付近で運転することが可能である。
第2の動作域OPA2は、第1の動作域OPA1よりも低回転速度・高負荷側に設定された動作域である。第2の動作域OPA2の代表動作点OP2は、第1の動作域OPA1の代表動作点OP1と等出力となる動作点であり、かつ第1の動作域OPA1の代表動作点OP1よりも低回転速度・高負荷側にある。第2の動作域OPA2は、この代表動作点OP2を最大出力側の位置に含み、かつ、負荷および回転速度が最も低いアイドル点付近から出力変化に応じて動作点が連続的に連なるように設定されている。換言すれば、第2の動作域OPA2は、第1の動作域OPA1の多数の動作点を、等出力のまま低回転速度・高負荷側へ移動させてなる多数の動作点の集合となる。
同様に、第3の動作域OPA3は、第2の動作域OPA2よりもさらに低回転速度・高負荷側に設定された動作域である。第3の動作域OPA3の代表動作点OP3は、第1の動作域OPA1の代表動作点OP1および第2の動作域OPA2の代表動作点OP2と等出力となる動作点であり、かつ第2の動作域OPA2の代表動作点OP2よりも低回転速度・高負荷側にある。第3の動作域OPA3は、この代表動作点OP3を最大出力側の位置に含み、かつ、負荷および回転速度が最も低いアイドル点付近から出力変化に応じて動作点が連続的に連なるように設定されている。換言すれば、第3の動作域OPA3は、第2の動作域OPA2の多数の動作点を、等出力のまま低回転速度・高負荷側へ移動させてなる多数の動作点の集合となる。
図5に併せて示した図4の等高線状の温度特性から明らかなように、第2の動作域OPA2の代表動作点OP2における燃料噴射弁26の先端部温度は第1の動作域OPA1の代表動作点OP1における温度よりも低くなり、第3の動作域OPA3の代表動作点OP3における燃料噴射弁26の先端部温度は第2の動作域OPA2の代表動作点OP2における温度よりもさらに低くなる。
なお、これら複数の動作域OPA1,OPA2,OPA3は、図示例のように一部が重複していてもよく、あるいは互いに重複する動作点を含まないように設定されていてもよい。また、図示例では3つの動作域OPA1,OPA2,OPA3を例示したが、さらに多数の動作域を設けることも可能である。これらの動作域OPA1,OPA2,OPA3および代表動作点OP1,OP2,OP3の情報は、例えばエンジンコントローラ8のメモリに格納されている。
内燃機関2の運転中は、上記のように予め設定されている複数の動作域OPA1,OPA2,OPA3の中から、フラッシュボイリングの発生を回避するようにいずれか一つが選択され、内燃機関2は、選択された動作域の中で運転される。例えば、発電用モータジェネレータ1の回転数制御とスロットルバルブ29の開度制御とを伴って、特定の動作点で運転される。
図6は、エンジンコントローラ8において実行される動作域選択の処理の流れを示すフローチャートである。このフローチャートに示すルーチンは、内燃機関2の運転中に微小時間毎あるいは各気筒の燃焼サイクル毎などに繰り返し実行されるものであって、ステップ1では、各々の代表動作点OP1,OP2,OP3について燃料噴射弁26の先端部における燃料温度を推定する。以下では、これらの各代表動作点OP1,OP2,OP3についての推定温度を、第1の代表動作点温度Top1、第2の代表動作点温度Top2、第3の代表動作点温度Top3、と呼ぶ。
例えば、燃料噴射弁26の先端部の燃料温度に相関するパラメータとして、冷却水温、燃料噴射量(これはサイクル当たりの投入熱量に相当する)、機関回転速度、機関負荷、空燃比、等があり、少なくとも冷却水温を含むいくつかのパラメータを用いて燃料温度を推定する。図7〜図10は、各々のパラメータと燃料温度との関係を示しており、冷却水温が高いほど、また燃料噴射量や負荷が大であるほど、燃料温度が高くなる。また回転速度が高いほど単位時間当たりの熱量が大となるので、回転速度が高いほど燃料温度が高いものとして推定される。また、空燃比がリッチであると燃焼温度が低下するため、空燃比がリッチであるほど燃料温度が低いものとして推定される。1つの例では、冷却水温と燃料噴射量(あるいは負荷)とから予め作成したマップを用いて燃料温度の基本値を求め、機関回転速度および空燃比によってこの基本値を補正することで、燃料温度が推定される。
ここで、代表動作点温度Top1,Top2,Top3の推定は、多くの場合は、実際の内燃機関2の動作点が代表動作点OP1,OP2,OP3から外れた運転条件下でなされる。そのため、1つの例では、初めに、現実に運転している動作点の下での燃料噴射弁26の先端部の燃料温度を上記のようにいくつかのパラメータを用いて推定(あるいは実際に検出してもよい)し、次に、この現実の動作点と代表動作点OP1,OP2,OP3との間の温度の関係(図4参照)に基づき上記の推定した燃料温度を補正する形で、代表動作点温度Top1,Top2,Top3を求めることができる。
他の例では、代表動作点OP1,OP2,OP3を確定することで、各代表動作点OP1,OP2,OP3の下でのいくつかのパラメータ(例えば、機関回転速度、負荷、燃料噴射量等)が既知の値となるので、そのときの冷却水温および空燃比などのパラメータと組み合わせて、代表動作点温度Top1,Top2,Top3を推定することができる。
燃料噴射弁26の先端部の燃料温度を直接に検出する熱電対等の温度検出手段を具備する場合には、いずれかの代表動作点OP1,OP2,OP3で内燃機関2が実際に運転されているときに温度検出を行い、同じ代表動作点について推定した燃料温度が上記の実際に検出した燃料温度に近付くように燃料温度の推定演算の学習補正を行うことができる。例えば、図7〜図10に示す相関を修正することで、推定温度を実温度に近付けることができる。このような学習補正により、以降の温度推定の精度が向上する。
ステップ1に続くステップ2では、推定された第1の代表動作点温度Top1を上述したフラッシュボイリングの下限温度Tf0と比較する。第1の代表動作点温度Top1が下限温度Tf0未満であれば、ステップ3へ進み、第1の動作域OPA1を選択する。
図11は、第1の動作域OPA1が選択されている状態を示す。これは、基本的に冷却水温が低い冷機状態に相当する。内燃機関2の運転は、この第1の動作域OPA1の中で行われ、典型的には、燃費および排気微粒子特性の上で最も好ましい代表動作点OP1もしくはその近傍で運転される。勿論、要求出力が低い場合には、第1の動作域OPA1の中で代表動作点OP1よりも低出力側の動作点で運転される。高出力側に位置する代表動作点OP1で下限温度Tf0未満であることから、第1の動作域OPA1の中のいずれの動作点でもフラッシュボイリング発生の懸念はない。等高線状の温度特性から明らかなように、代表動作点OP1よりも低出力側の動作点では、代表動作点OP1での温度よりも低い温度となる。
ステップ2で第1の代表動作点温度Top1がフラッシュボイリングの下限温度Tf0以上であれば、ステップ4へ進み、第2の代表動作点温度Top2をフラッシュボイリングの下限温度Tf0と比較する。第2の代表動作点温度Top2が下限温度Tf0未満であれば、ステップ5へ進み、第2の動作域OPA2を選択する。
図12は、第2の動作域OPA2が選択されている状態を示す。これは、基本的に冷却水温が冷機状態からやや上昇した条件に相当する。内燃機関2の運転は、この第2の動作域OPA2の中で行われる。例えば、最も好ましい動作点である代表動作点OP1に比較的近い動作点として主に代表動作点OP2で運転される。第2の動作域OPA2は、第1の動作域OPA1に対して、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる動作域である。この第2の動作域OPA2に運転を行うべき動作域を変更することで、どの動作点においても燃料噴射弁26の先端部の燃料温度が下限温度Tf0以上となる虞がなく、フラッシュボイリングの発生が回避される。
ステップ4で第2の代表動作点温度Top2がフラッシュボイリングの下限温度Tf0以上であれば、ステップ6へ進み、第3の代表動作点温度Top3をフラッシュボイリングの下限温度Tf0と比較する。第3の代表動作点温度Top3が下限温度Tf0未満であれば、ステップ7へ進み、第3の動作域OPA3を選択する。
図13は、第3の動作域OPA3が選択されている状態を示す。これは、基本的に冷却水温が暖機完了温度近くまで上昇した条件に相当する。内燃機関2の運転は、この第3の動作域OPA3の中で行われる。例えば、代表動作点OP3あるいは第3の動作域OPA3の中で燃費特性に優れた動作点の近傍で内燃機関2が運転される。第3の動作域OPA3は、第2の動作域OPA2に対して、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる動作域である。第2の動作域OPA2でフラッシュボイリング発生の懸念が生じたときに第3の動作域OPA3に運転を行うべき動作域を変更することで、フラッシュボイリングの発生が回避される。
ステップ6で第3の代表動作点温度Top3がフラッシュボイリングの下限温度Tf0以上であれば、ステップ8へ進み、第1の動作域OPA1を選択する。この実施例では、第3の動作域OPA3が最も低回転速度・高負荷側にある最終動作域であり、この最終動作域の代表動作点温度Top3が下限温度Tf0以上である場合には、それ以上に温度低下を図ることができないので、逆に高温側となる燃費に優れた第1の動作域OPA1に戻すのである。
図14は、ステップ8により第1の動作域OPA1が選択されている状態を示す。この図は、図11と同様に描かれているが、第1の動作域OPA1の各動作点における燃料噴射弁26の先端部温度は、図11での対応する動作点における燃料噴射弁26の先端部温度よりも高い。これは、基本的に冷却水温が十分に高くなっている状態に相当する。
第3の代表動作点温度Top3が下限温度Tf0以上となるような条件下では、多くの場合、第1の動作域OPA1における第1の代表動作点温度Top1は、上述した上限温度Tf1以上となる。このように上限温度Tf1を越えていれば、上述したようにフラッシュボイリング発生に伴うPNの悪化は生じない。従って、少なくとも第1の動作域OPA1の代表動作点OP1もしくはその近傍の動作点で運転していれば、良好な燃費としつつPNの抑制が図れる。
ここで、ステップ6として、第1の代表動作点温度Top1が上限温度Tf1未満であることを加重条件とし、第3の代表動作点温度Top3が下限温度Tf0未満でかつ第1の代表動作点温度Top1が上限温度Tf1未満である場合に第3の動作域OPA3を選択(ステップ7)し、第3の代表動作点温度Top3が下限温度Tf0以上、あるいは、第1の代表動作点温度Top1が上限温度Tf1以上である場合は、第1の動作域OPA1を選択(ステップ8)するようにしてもよい。
あるいは、ステップ6として、単に第1の代表動作点温度Top1が上限温度Tf1未満であるかどうかを判定し、第1の代表動作点温度Top1が上限温度Tf1未満であれば第3の動作域OPA3を選択(ステップ7)し、上限温度Tf1以上であれば第1の動作域OPA1を選択(ステップ8)するようにしてもよい。
燃料噴射弁26の先端部の燃料温度が実際にどの程度であるかは内燃機関2の冷却系の構成や燃料噴射弁26の構成等によって当然異なるものとなるが、基本的に、冷機始動後、内燃機関2の運転が十分な時間(例えば数分程度)継続されたとすると、図4のように燃料温度が最も高くなる傾向にある代表動作点OP1での代表動作点温度Top1(同動作点OP1で実際に運転しているときの温度ならびに推定温度)は、PNの悪化が消滅する上限温度Tf1以上となる。そのため、最終の第3の動作域OPA3に留まらずに第1の動作域OPA1を選択することで、燃費の向上とともにPNの抑制が図れる。
従って、冷機始動から内燃機関2が十分に暖機されて代表動作点温度Top1が上限温度Tf1以上となるまでの挙動としては、冷機始動直後に第1の動作域OPA1が選択され、その後、温度上昇に伴い、第1の動作域OPA1→第2の動作域OPA2→第3の動作域OPA3→第1の動作域OPA1、と変化していくこととなる。このように、PNの悪化を生じる温度域となる動作域を回避しつつ動作域を変更していくことで、PN特性と燃費との両立が図れる。
特に、シリーズハイブリッド車では内燃機関2は電力要求に応じて始動および停止が繰り返されるので、暖機過程におけるフラッシュボイリングによる過渡的なPNの悪化が顕著となる。上記実施例では、このような繰り返しの暖機過程におけるPNの悪化を確実に抑制できる。
ところで、フラッシュボイリングは、一種の減圧沸騰であるから、フラッシュボイリングが生じるか否かは噴孔を通して燃料が出る燃焼室内の圧力(つまり筒内圧)にも依存する。フラッシュボイリングが生じる下限温度Tf0は、筒内圧が低いほど低い温度となる。同様に、筒内圧が低いほど燃料液膜が蒸発し易いので、フラッシュボイリングによるPNの悪化が消滅する上限温度Tf1も筒内圧が低いほど低い温度となる。
従って、このような筒内圧の影響を考慮して、代表動作点温度Top1,Top2,Top3と比較する下限温度Tf0や上限温度Tf1を補正するようにしてもよい。例えば、3つの代表動作点OP1,OP2,OP3では、燃料噴射時の筒内圧がそれぞれ異なるものとなるが、それぞれの負荷および回転速度が確定していることから、それぞれの筒内圧はおおよそ既知の値となる。従って、それぞれの筒内圧に基づき、各代表動作点温度Top1,Top2,Top3と比較する下限温度Tf0および上限温度Tf1をそれぞれ補正することができる。大気圧等による補正をさらに加えてもよい。
但し、本発明では、それぞれの代表動作点OP1,OP2,OP3で実際にフラッシュボイリングが発生するか否かを必ずしも厳密に判定する必要はないので、筒内圧を考慮しなくてもよい。
以上、この発明をシリーズハイブリッド車用の内燃機関2に適用した実施例を説明したが、この発明はこのような発電用の内燃機関に限らず、動作点をある程度の範囲で任意に制御できる内燃機関であれば広く適用することができる。例えば、変速比を連続的に変更できる無段変速機(CVT)を備えた車両にあっても、車速に対し変速比を適宜に制御することで、内燃機関を任意の動作点で運転することができる。
1…発電用モータジェネレータ
2…内燃機関
8…エンジンコントローラ
26…燃料噴射弁
43…水温センサ
2…内燃機関
8…エンジンコントローラ
26…燃料噴射弁
43…水温センサ
Claims (7)
- 燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、かつ、負荷と回転速度とから規定される動作点が所定の動作域内に保たれるように運転される内燃機関の制御方法において、
ある出力に対し負荷と回転速度との組み合わせが異なるものとして上記動作域を予め複数設定し、
これらの動作域の各々の最大出力側に、互いに等出力である各動作域の代表動作点を予め設定し、
運転中に各代表動作点について上記燃料噴射弁の先端部における燃料温度を推定し、
現在運転中の動作域における代表動作点の推定温度が、フラッシュボイリングによる排気微粒子増加を生じうる温度として設定された所定の下限温度以上であれば、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる隣接の動作域に、運転を行うべき動作域を変更し、
この動作域の中の要求出力に対応した動作点において内燃機関を運転する、
内燃機関の制御方法。 - 最も高回転速度・低負荷側にある第1の動作域の代表動作点は、燃費および排気微粒子特性の上で最も好ましい動作点として選択された動作点であり、
当該第1の動作域の代表動作点の推定温度が上記下限温度未満であれば、当該第1の動作域で運転を行う、
請求項1に記載の内燃機関の制御方法。 - 最も低回転速度・高負荷側にある最終動作域の代表動作点の推定温度が上記下限温度以上であれば、運転を行うべき動作域を上記第1の動作域に変更する、
請求項2に記載の内燃機関の制御方法。 - 現在運転中の動作域よりも相対的に高回転速度・低負荷側にある動作域の代表動作点の推定温度が、フラッシュボイリングによる排気微粒子増加が終了する温度として設定された所定の上限温度よりも高いときは、当該動作域に、運転を行うべき動作域を変更する、
請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。 - 各代表動作点での上記燃料噴射弁の先端部における燃料温度を、少なくとも冷却水温を1つのパラメータとして推定する、
請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の制御方法。 - 内燃機関がいずれかの代表動作点で運転しているときに上記燃料噴射弁の先端部における燃料温度を検出し、
同じ代表動作点について推定した燃料温度が検出した燃料温度に近付くように、燃料温度推定演算を学習補正する、
請求項5に記載の内燃機関の制御方法。 - 燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射弁を備え、かつ、負荷と回転速度とから規定される動作点が所定の動作域内に保たれるように運転される内燃機関の制御装置において、
ある出力に対し負荷と回転速度との組み合わせが異なるものとして上記動作域が予め複数設定されているとともに、これらの動作域の各々の最大出力側に、互いに等出力である各動作域の代表動作点が予め設定されており、
運転中に各代表動作点について上記燃料噴射弁の先端部における燃料温度を推定し、
現在運転中の動作域における代表動作点の推定温度が、フラッシュボイリングによる排気微粒子増加を生じうる温度として設定された所定の下限温度以上であれば、等出力の動作点が相対的に低回転速度・高負荷側となる隣接の動作域に、運転を行うべき動作域を変更し、
この動作域の中の要求出力に対応した動作点において内燃機関を運転する、
内燃機関の制御装置。
Priority Applications (1)
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JP2019115994A JP2021001580A (ja) | 2019-06-24 | 2019-06-24 | 内燃機関の制御方法および制御装置 |
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JPWO2020240244A1 (ja) * | 2019-05-24 | 2020-12-03 |
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- 2019-06-24 JP JP2019115994A patent/JP2021001580A/ja active Pending
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