JP2021001333A - フィルム用樹脂組成物及びそれを用いたエチレン系フィルム - Google Patents

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晋 青木
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Abstract

【課題】 光沢、透明性、衝撃強度、ヒートシール性、耐ピンホール性に優れるフィルム又はそのようなフィルムを与える樹脂組成物を提供する。【解決手段】 エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)を必須構成単位として含む共重合体(P)中の、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されてなり、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G*=0.1MPaにおける位相角δが、50度〜75度であることを特徴とするアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物、それを用いて成形されたフィルムである。【選択図】 なし

Description

本発明は、新規エチレン系アイオノマーを用いたフィルム用樹脂組成物、及びそれを用いたエチレン系フィルムに関するものである。さらに詳しくは、高剛性、高強度、高透明性、高光沢度、低温ヒートシール性の少なくとも一項目が優れたエチレン系フィルムに関する。
従来、フィルム形成用のエチレン系重合体としては、高圧ラジカル重合法により得られる、枝分れ分岐鎖を多数有する低密度ポリエチレン(LDPE)や、触媒重合法により得られる線状の低密度ポリエチレン(LLDPE又はメタロセンPE)が知られているが、前者は成形加工性が優れているものの、強度が低く、後者は強度が優れているものの成形加工性が低く、これらを全て満たすことは難しい。
一方、エチレン系アイオノマーは、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体をベース樹脂とし、ナトリウムや亜鉛等の金属イオンで分子間結合した樹脂である(特許文献1)。強靭で弾性に富み、かつ柔軟性があり、耐摩耗性、及び透明性等の特徴がある。
現在、市販されているエチレン系アイオノマーとしては、Dupont社が開発したエチレン−メタクリル酸共重合体のナトリウム塩や亜鉛塩「Surlyn(登録商標)」、及び、三井・ダウポリケミカル社が販売している「ハイミラン(登録商標)」等が知られている。
これら現在市販されているエチレン系アイオノマーに用いられるベース樹脂のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体には、いずれも、エチレンと不飽和カルボン酸等の極性基含有モノマーを、高圧ラジカル重合法により重合した極性基含有オレフィン共重合体が用いられている。高圧ラジカル重合法は、比較的極性基含有モノマーの種類を選ばずに安価に重合可能であるという利点がある。しかし、この、高圧ラジカル重合法で製造される極性基含有オレフィン共重合体の分子構造は、図1に示すイメージ図のように、多くの長鎖分岐及び短鎖分岐を不規則に有する多分岐型の分子構造であり、強度的には不十分であるという欠点がある。
一方、従来より触媒を用いた重合方法を用いて、図2に示すイメージ図のように、分子構造が直鎖状の極性基含有オレフィン共重合体を製造する方法が模索されていたが、極性基含有モノマーは一般的に触媒毒となるため重合が難しく、実際に、工業的に安価で安定的な方法で、所望の物性を有する極性基含有オレフィン共重合体を得ることは長年難しいとされていた。
しかしながら近年、本願出願人等により開発された新触媒及び新製造方法を用いることにより、分子構造が実質的に直鎖状の極性基含有オレフィン共重合体を、工業的に安価で安定的に得る方法が提案されている。
そして、エチレン系アイオノマーのベース樹脂となる極性基含有オレフィン共重合体の製造方法として、後周期遷移金属触媒を用い、エチレンとアクリル酸t−ブチルの共重合体を製造し、得られた極性基含有オレフィン共重合体を熱又は酸処理を行うことでエチレン−アクリル酸共重合体に変性した後、金属イオンと反応させ二元アイオノマーを製造することに成功したことが本願出願人等により報告されている(特許文献2)。
米国特許第3264272号明細書 特開2016−79408号公報
フィルムにおいては、各種用途において要求される度合いが異なるものの、一般に、強度が高く、剛性と強度のバランスが良く、透明性が高いこと、光沢性があること、またヒートシール時の強度、低温ヒートシール性等が、それぞれ、又は組み合わせて求められている。しかしながら、従来のポリエチレン樹脂では、これら物性のうちどれか一つを飛躍的に向上した形で満たすものや、組み合わせて十分に満たすものを得ることは、従来の技術では難しい状況にあった。また、従来の多分岐型の分子構造を有するエチレン系アイオノマーを用いたフィルムも、常温から低温域における衝撃に対する耐性が十分ではなく、本発明者らが見出したところによると、耐屈曲性能に乏しく、ピンホールの発生が忌避される包装用途などにおいては不十分である。
本願は、かかる従来技術の状況に鑑み、フィルムの光沢、透明性、引張強度、突き刺し強度、耐ピンホール性、ヒートシール強度、常温域から低温域での衝撃強度に優れるフィルムとフィルム用樹脂組成物を提供することを目的とする。
上記課題の解決のため本発明者らが検討を重ねた結果、特定のアイオノマー樹脂を用いたフィルム用樹脂組成物をフィルム成形することで、フィルムに求められる物性に対し予想以上に格段に優れた効果を有することを見出した。
該エチレン系アイオノマーは、ベース樹脂が実質的に直鎖状の分子構造を有すると共にアイオノマーとしての機能も有する、従来にはない新規のエチレン系アイオノマーであり、その物性等は従来の多分岐型の分子構造を有するエチレン系アイオノマーとは大きく異なり、特有の特性及び適した用途についても未知である。本発明は、実質的に直鎖状のエチレン系アイオノマーを含む樹脂組成物をフィルム成形して得られたエチレン系フィルムが、従来のエチレン系樹脂フィルムの性能の域を超えて、フィルムに求められる物性の改良に関し優れた効果を有することを見出したことに基づくものである。
すなわち、本発明は以下の[1]〜[19]で示されるとおりである。
[1]エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、
カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)を必須構成単位として含む共重合体(P)中の、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されてなり、
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度〜75度であることを特徴とするアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物である。
[2]エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、
カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)と、前記構造単位(A)と前記構造単位(B)以外の、分子構造中に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する化合物である構造単位(C)を必須構成単位として含む共重合体(P)中の、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されてなり、
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度〜75度であることを特徴とするアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物である。
[3]前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、下記一般式(1)で表される非環状モノマー又は下記一般式(2)で表される環状モノマーであることを特徴とする、前記[2]に記載のフィルム用樹脂組成物である。

[一般式(1)中、T〜Tはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基であり、
は、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基である。]

[一般式(2)中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R及びR10、並びに、R11及びR12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
[4]前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、前記一般式(1)で表される非環状モノマーであることを特徴とする、[3]に記載のフィルム用樹脂組成物である。
[5]前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、前記一般式(2)で表される環状モノマーであることを特徴とする、[3]に記載のフィルム用樹脂組成物である。
[6]前記共重合体(P)の13C−NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり50個以下であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[7]前記共重合体(P)の13C−NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[8]前記共重合体(P)が、共重合体中に前記構造単位(B)を2〜20mol%(前記共重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)含むことを特徴とする、[1]〜[7]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[9]前記共重合体(P)が、共重合体中に前記構造単位(C)を0.001mol%〜20.0mol%(前記共重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)含むことを特徴とする、[1]〜[8]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[10]前記構造単位(A)が、エチレンに由来する構造単位であることを特徴とする、[1]〜[9]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[11]前記金属イオンが、周期表1族の金属イオンであることを特徴とする、[1]〜[10]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[12]前記金属イオンが、周期表12族の金属イオンであることを特徴とする、[1]〜[10]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[13]前記共重合体(P)が周期表第8〜11族の遷移金属を含む遷移金属触媒を用いて製造された前駆体共重合体を加水分解して得られた共重合体であることを特徴とする、[1]〜[12]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物である。
[14]前記遷移金属触媒がリンスルホン酸又はリンフェノール配位子とニッケル又はパラジウムからなる遷移金属触媒であることを特徴とする、[13]に記載のフィルム用樹脂組成物である。
[15]前記[1]〜[14]のいずれかに記載のフィルム用樹脂組成物を用いて成形されたエチレン系フィルムである。
[16]エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、−20℃におけるフィルムインパクトが20J/mm以上であり、かつ、MD方向における引張弾性率が、150MPa以上であることを特徴とする、エチレン系フィルムである。
[17]エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、シール温度120℃、シール圧力0.2MPa、シール時間1秒、下部シールバー温度60℃におけるヒートシール強度が、10N/15mm以上であることを特徴とする、エチレン系フィルムである。
[18]エチレン系樹脂を樹脂成分とするインフレーションフィルムであって、厚さ30μmに成形したときの、ヘイズが2%以下であることを特徴とする、エチレン系フィルムである。
[19]エチレン系樹脂を樹脂成分とするインフレーションフィルムであって、厚さ30μmに成形したときの、グロス(20°)が、120%以上であることを特徴とする、エチレン系フィルムである。
実質的に直鎖状構造であるアイオノマーを用いた本発明のフィルムは、既存のポリエチレン又は多分岐構造を有するアイオノマー樹脂からなるフィルムに比べ、光沢、透明性、常温に加えて低温環境下での衝撃強度、ヒートシール性、耐ピンホール性に優れる。
高圧ラジカル重合法で製造される極性基含有オレフィン共重合体の多分岐型の分子構造のイメージ図である。図中の丸印は極性基を表す。 分子構造が直鎖状の極性基含有オレフィン共重合体のイメージ図である。図中の丸印は極性基を表す。 比較例1〜9、実施例1〜16の摩耗量と屈曲回数を示したグラフである。 比較例10〜13、実施例17〜20のインフレーションフィルムのヒートシール強度評価結果を示したグラフである。 比較例10〜13、実施例17〜19の23℃におけるフィルムインパクトとMD方向の引張弾性率の評価結果を示したグラフである。 比較例10〜13、実施例17〜20の−20℃におけるフィルムインパクトとMD方向の引張弾性率の評価結果を示したグラフである。 比較例10〜13、実施例17〜20、参考例(OPPフィルム)のフィルムの、ヘイズの値を示したグラフである。 比較例10〜13、実施例17〜20、参考例(OPPフィルム)のフィルムの、グロスの値を示したグラフである。
本発明はエチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)とを必須構成単位として、さらに場合により分子構造中に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する化合物である構造単位(C)を構成単位として含み、これらが実質的に直鎖状に共重合、好ましくはランダム共重合した共重合体(P)をベース樹脂とし、該構造単位(B)のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されていることを特徴とするアイオノマーを用いたフィルムである。
以下、本発明に関わるアイオノマー、アイオノマーを用いたフィルム及び、その用途などについて、項目毎に詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。また、本明細書において数値範囲を示す「〜」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。また、本明細書において、共重合体とは、少なくとも一種の単位(A)と、少なくとも一種の単位(B)とを含む、二元系以上の共重合体を意味する。
また、本明細書において、アイオノマーとは、前記構造単位(A)と、前記構造単位(B)の少なくとも一部が金属含有カルボン酸塩に変換されている構造単位(B’)とを含み、更に前記構造単位(B)を含んでいてもよい、2元系以上の共重合体のアイオノマーを意味する。
1.アイオノマー
本発明のアイオノマーは、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)とを必須構成単位として、さらに場合により分子構造中に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する化合物である構造単位(C)を構成単位として含み、これらが実質的に直鎖状に共重合、好ましくはランダム共重合した共重合体(P)をベース樹脂とし、該構造単位(B)のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されていることを特徴とする。
(1)構造単位(A)
構造単位(A)はエチレンに由来する構造単位及び炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
本発明に関わるα−オレフィンは構造式:CH=CHR18で表される、炭素数3〜20のα−オレフィンである(R18は炭素数1〜18の炭化水素基であり、直鎖構造であっても分岐を有していてもよい)。α−オレフィンの炭素数は、より好ましくは、3〜12である。
構造単位(A)の具体例として、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、及び4−メチル−1−ペンテン等が挙げられ、エチレンであってもよい。エチレンとしては、石油原料由来の他、植物原料由来等の非石油原料由来のエチレンを用いることができる。
また、構造単位(A)は、一種類であってもよいし、複数種であってもよい。
二種の組み合わせとしては、例えば、エチレン−プロピレン、エチレン−1−ブテン、エチレン−1−ヘキセン、エチレン−1−オクテン、プロピレン−1−ブテン、プロピレン−1−ヘキセン、及びプロピレン−1−オクテン等が挙げられる。
三種の組み合わせとしては、例えば、エチレン−プロピレン−1−ブテン、エチレン−プロピレン−1−ヘキセン、エチレン−プロピレン−1−オクテン、プロピレン−1−ブテン−ヘキセン、及びプロピレン−1−ブテン−1−オクテン等が挙げられる。
本発明においては、構造単位(A)としては、好ましくは、エチレンを必須で含み、必要に応じて1種以上の炭素数3〜20のα−オレフィンをさらに含んでもよい。
構造単位(A)中のエチレンは、構造単位(A)の全molに対して、65〜100mol%であってもよく、70〜100mol%であってもよい。
耐衝撃性の点から前期構造単位(A)が、エチレンに由来する構造単位であってもよい。
(2)構造単位(B)
構造単位(B)は、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位である。なお、構造単位(B)は、カルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位と同じ構造であることを表し、後述の製造方法において述べるように、必ずしもカルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーを用いて製造されたものでなくてもよい。
カルボキシル基を有するモノマーに由来する構造単位としては例えば、具体的にはアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ノルボルネンジカルボン酸、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸などの不飽和カルボン酸が挙げられ、ジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位としては例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、3,6−エポキシ−1,2,3,6−テトラヒドロフタル酸無水物、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−9−エン−4,5−ジカルボン酸無水物、2,7−オクタジエン−1−イルコハク酸無水物などの不飽和ジカルボン酸無水物が挙げられる。
カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位として、工業的入手の容易さの点から好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物が挙げられ、特にアクリル酸であってもよい。
また、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位は、一種類であってもよいし、複数種であってもよい。
なお、ジカルボン酸無水物基は空気中の水分と反応して開環し、一部がジカルボン酸となる場合があるが、本発明の主旨を逸脱しない範囲においてならば、ジカルボン酸無水物基が開環していてもよい。
(3)その他の構造単位(C)
本発明に用いる共重合体(P)としては、構造単位(A)と構造単位(B)のみからなる二元共重合体と、構造単位(A)と構造単位(B)と、それら以外の構造単位(C)をさらに含む多元共重合体を用いることができるが、構造単位(A)及び構造単位(B)で示される構造単位以外の構造単位(C)をさらに含む、多元共重合体であってもよい。構造単位(C)を与えるモノマーは、構造単位(A)及び、構造単位(B)を与えるモノマーに包含されるものでなければ、任意のモノマーを使用できる。構造単位(C)を与えるモノマーは、分子構造中に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する化合物であれば限定されないが、例えば後掲の一般式(1)で表される非環状モノマーや一般式(2)で表される環状モノマーなどが挙げられる。
構造単位(A)と構造単位(B)のみからなる二元共重合体に比べて、構造単位(C)成分を含む三元以上の多元共重合体をアイオノマーのベース樹脂として用いることにより、融点や結晶化度が低いアイオノマーを得られることができ、フィルム化した際に、飛躍的に剛性と靱性のバランスが良くなり、透明性やグロスも格段に優れ、低温ヒートシール性に優れたフィルムを得ることができる。構造単位(C)は、1種類のモノマーに基づくものでもよく、2種類以上のモノマーを組み合わせて用いてもよい。
・非環状モノマー

[一般式(1)中、T〜Tはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基であり、
は、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基である。]
本発明のアイオノマーにおいては、T及びT2は水素原子であってもよく、Tは水素原子又はメチル基であってもよく、Tは炭素数2〜20のエステル基であってもよい。
〜Tに関する炭化水素基、置換アルコキシ基、置換エステル基、アルコキシ基、アリール基、エステル基、シリル基が有する炭素骨格は、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。
〜Tに関する炭化水素基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
〜Tに関する置換アルコキシ基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
〜Tに関する置換エステル基の炭素数は、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
〜Tに関するアルコキシ基の炭素数は、下限値が1以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
〜Tに関するアリール基の炭素数は、下限値が6以上であればよく、上限値は20以下であればよく、11以下であってもよい。
〜Tに関するエステル基の炭素数は、下限値が2以上であればよく、上限値は20以下であればよく、10以下であってもよい。
〜Tに関するシリル基の炭素数は、下限値が3以上であればよく、上限値は18以下であればよく、12以下であってもよい。シリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリn−プロピルシリル基、トリイソプロピルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、メチルジフェニルシリル基、及びトリフェニルシリル基等が挙げられる。
本発明のアイオノマーにおいては、製造の容易さの点から、T及びT2は水素原子であってもよく、Tは水素原子又はメチル基であってもよく、T〜Tが、いずれも水素原子であってもよい。
また、耐衝撃性の点から、Tは炭素数2〜20のエステル基であってもよい。
非環状モノマーとしては、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル等を含むTが炭素数2〜20のエステル基である場合等が挙げられる。
が炭素数2〜20のエステル基である場合、非環状モノマーとしては、構造式:CH=C(R21)CO(R22)で表される化合物が挙げられる。ここで、R21は、水素原子又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。R22は、炭素数1〜20の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有してもよい。さらに、R22内の任意の位置にヘテロ原子を含有してもよい。
構造式:CH=C(R21)CO(R22)で表される化合物として、R21が、水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基である化合物が挙げられる。また、R21が水素原子であるアクリル酸エステル又はR21がメチル基であるメタクリル酸エステルが挙げられる。
構造式:CH=C(R21)CO(R22)で表される化合物の具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。
具体的な化合物として、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル(nBA)、アクリル酸イソブチル(iBA)、アクリル酸t−ブチル(tBA)、及びアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられ、特にアクリル酸n−ブチル(nBA)、アクリル酸イソブチル(iBA)、及びアクリル酸t−ブチル(tBA)であってもよい。
なお、非環状モノマーは、一種類であってもよいし、複数種であってもよい。
・環状モノマー

[一般式(2)中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R及びR10、並びに、R11及びR12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
環状モノマーとしては、ノルボルネン系オレフィン等が挙げられ、ノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ノルボルナジエン、テトラシクロドデセン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン、などの環状オレフィンの骨格を有する化合物等が挙げられ、2−ノルボルネン(NB)、及び、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン等であってもよい。
(4)共重合体(P)
本発明で用いるアイオノマーのベース樹脂となる共重合体(P)は、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)とを必須構成単位として含み、さらに場合により前記(A)及び(B)以外の任意の構造単位(C)を含み、これら各構造単位が実質的に直鎖状に共重合、好ましくはランダム共重合していることを特徴とする。「実質的に直鎖状」とは、共重合体が分岐を有していないか又は分岐構造が現れる頻度が小さく、共重合体を直鎖状とみなしうる状態であることを指す。具体的には、後述する条件下で共重合体の位相角δが50度以上である状態を指す。
本発明に関わる共重合体(P)は、構造単位(A)及び、構造単位(B)をそれぞれ1種類以上含有し、合計2種以上のモノマー単位を含むことが必要であり、前記(A)及び(B)以外の任意の構造単位(C)を含んでいてもよいが、そのような構造単位(C)を含んだ多元共重合体であることが好ましい。
本発明に関わる共重合体の構造単位と構造単位量について説明する。
エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン(A)、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー(B)、並びに(A)及び(B)以外の任意のモノマー(C)それぞれ1分子に由来する構造を、共重合体中の1構造単位と定義する。
そして、共重合体中の構造単位全体を100mol%とした時に各構造単位の比率をmol%で表したものが構造単位量である。
・エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン(A)の構造単位量:
本発明に関わる構造単位(A)の構造単位量は、下限が60.0mol%以上、好ましくは70.0mol%以上、より好ましくは80.0mol%以上、さらに好ましくは85.0mol%以上、さらにより好ましくは90.0mol%以上、特に好ましくは91.2mol%以上であり、上限が97.9mol%以下、好ましくは97.5mol%以下、より好ましくは97.0mol%以下、さらに好ましくは96.5mol%以下から選択される。
エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン(A)に由来する構造単位量が60.0mol%よりも少なければ共重合体の靱性が劣り、97.9mol%よりも多ければ共重合体の結晶化度が高くなり、透明性が悪くなる場合がある。
・カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー(B)の構造単位量:
本発明に関わる構造単位(B)の構造単位量は、下限が2.0mol%以上、好ましくは2.9mol%以上であり、より好ましくは5.2mol%以上、上限が20.0mol%以下、好ましくは15.0mol%以下、より好ましくは10.0mol%以下、さらに好ましくは8.0mol%以下、特に好ましくは6.0mol%以下、最も好ましくは5.6mol%以下から選択される。
カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー(B)に由来する構造単位量が2.0mol%よりも少なければ、共重合体の極性の高い異種材料との接着性が充分ではなく、20.0mol%より多ければ共重合体の充分な機械物性が得られない場合がある。
更に、用いられるカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーは単独でもよく、2種類以上を合わせて用いてもよい。
・任意のモノマー(C)の構造単位量:
本発明のアイオノマーの構成要素に前記(A)又は(B)以外の任意のモノマー(C)が含まれる場合、本発明に関わる構造単位(C)の構造単位量は、下限が0.001mol%以上、好ましくは0.010mol%以上、より好ましくは0.020mol%以上、さらに好ましくは0.1mol%以上、さらにより好ましくは1.9mol%以上であり、特に好ましくは2.0mol%以上であり、上限が20.0mol%以下、好ましくは15.0mol%以下、より好ましくは10.0mol%以下、さらに好ましくは5.0mol%以下、特に好ましくは3.6mol%以下から選択される。
任意のモノマー(C)に由来する構造単位量が0.001mol%以上であると、共重合体の柔軟性が充分となりやすく、20.0mol%以下であると共重合体の充分な機械物性が得られやすい。
更に、用いられる任意のモノマーは単独でもよく、2種類以上を合わせて用いてもよい。
・共重合体中のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び任意のモノマーの構造単位量の測定方法:
本発明に関わる共重合体中のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び任意のモノマーの構造単位量はH−NMRスペクトルを用いて求められる。H−NMRは以下の方法によって測定する。
試料200〜250mgをo−ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定する。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・ジャパン(株)のAV400M型NMR装置を用いて120℃で行う。
H−NMRはパルス角4.5°、パルス間隔1.8秒、積算回数を256回以上として測定する。化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのメチルプロトンのピークを0.088ppmとして設定し、他のプロトンによるピークの化学シフトはこれを基準とする。
多元共重合体の炭素1,000個当たりの分岐数:
本発明の多元共重合体においては、弾性率を高くし、充分な機械物性を得る点から、13C−NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり、上限が50個以下であってもよく、5個以下であってもよく、1個以下であってもよく、0.5個以下であってもよく、下限は、特に限定されず、少なければ少ないほどよい。またエチル分岐数が炭素1,000個当たり、上限が3.0個以下であってもよく、2.0個以下であってもよく、1.0個以下であってもよく、0.5個以下であってもよく、下限は、特に限定されず、少なければ少ないほどよい。さらにブチル分岐数が炭素1,000個当たり、上限が7.0個以下であってもよく、5.0個以下であってもよく、3.0個以下であってもよく、0.5個以下であってもよく、下限は、特に限定されず、少なければ少ないほどよい。
多元共重合体中のカルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び非環状モノマーに由来する構造単位量、及び分岐数の測定方法:
本発明の多元共重合体中のカルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び非環状モノマーに由来する構造単位量、及び炭素1,000個当たりの分岐数は13C−NMRスペクトルを用いて求められる。13C−NMRは以下の方法によって測定する。
試料200〜300mgをo−ジクロロベンゼン(CCl)と重水素化臭化ベンゼン(CBr)の混合溶媒(CCl/CBr=2/1(体積比))2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定試料とする。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・ジャパン(株)のAV400M型NMR装置を用いて120℃で行う。
13C−NMRは、試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定する。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とする。
得られた13C−NMRにおいて、多元共重合体が有するモノマー又は分岐に特有のシグナルを同定し、その強度を比較することで、多元共重合体中の各モノマーの構造単位量、及び分岐数を解析することができる。モノマー又は分岐に特有のシグナルの位置は公知の資料を参照することもできるし、試料に応じて独自に同定することもできる。このような解析手法は、当業者にとって一般的に行いうるものである。
・重量平均分子量(Mw)と分子量分布(Mw/Mn):
本発明に関わる共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下限が通常1,000以上であり、好ましくは6,000以上であり、より好ましくは10,000以上であり、上限が通常2,000,000以下であり、好ましくは1,500,000以下であり、更に好ましくは1,000,000以下であり、特に好適なのは800,000以下であり、最も好ましくは100,000以下である。
Mwが1,000未満では共重合体の機械的強度や耐衝撃性などの物性が充分ではなく、Mwが2,000,000を超えると共重合体の溶融粘度が非常に高くなり、共重合体の成形加工が困難となる場合がある。
本発明に関わる共重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、通常1.5〜4.0、好ましくは1.6〜3.5、更に好ましくは1.9〜2.3の範囲である。Mw/Mnが1.5未満では共重合体の成形を始めとして各種加工性が充分でなく、4.0を超えると共重合体の機械物性が劣るものとなる場合がある。
また、本明細書においては(Mw/Mn)を分子量分布パラメーターと表現することがある。
本発明に関わる共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって求められる。また、分子量分布パラメーター(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって、更に数平均分子量(Mn)を求め、MwとMnの比、Mw/Mnを算出するものである。
本発明に関わるGPCの測定方法の一例は以下の通りである。
(測定条件)
使用機種:ウォーターズ社製150C
検出器:FOXBORO社製MIRAN1A・IR検出器(測定波長:3.42μm)
測定温度:140℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
流速:1.0mL/分
注入量:0.2mL
(試料の調製)
試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
(分子量(M)の算出)
標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは例えば、東ソー社製の、(F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000)の銘柄、昭和電工製単分散ポリスチレン(S−7300、S−3900、S−1950、S−1460、S−1010、S−565、S−152、S−66.0、S−28.5、S−5.05、の各0.07mg/ml溶液)などである。各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式、又は溶出時間と分子量の対数値を4次式で近似したものなどを用いる。分子量(M)への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαには以下の数値を用いる。
ポリスチレン(PS):K=1.38×10−4、α=0.7
ポリエチレン(PE):K=3.92×10−4、α=0.733
ポリプロピレン(PP):K=1.03×10−4、α=0.78
・融点(Tm、℃):
本発明に関わる共重合体の融点は、示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度によって示される。最大ピーク温度とは、DSC測定において、縦軸に熱流(mW)、横軸に温度(℃)をとった際に得られる吸熱曲線に複数ピークが示された場合、そのうちベースラインからの高さが最大であるピークの温度の事を示し、ピークが1つだった場合には、そのピークの温度の事を示している。
融点は50℃〜140℃であることが好ましく、60℃〜138℃であることが更に好ましく、70℃〜135℃であることが最も好ましい。この範囲より低ければ耐熱性が充分ではなく、この範囲より高い場合は接着性が劣るものとなる場合がある。
融点は、例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のDSC(DSC7020)を使用し、試料約5.0mgをアルミパンに詰め、10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間等温保持後、10℃/分で20℃まで降温し、20℃で5分間等温保持後、再度、10℃/分で200℃まで昇温させる際の吸収曲線より求めることができる。
・共重合体の分子構造:
本発明に関わる共重合体の分子鎖末端は、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンの構造単位(A)であってもよく、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)であってもよく、(A)及び(B)以外の任意の構造単位(C)であってもよい。
また、本発明に関わる共重合体は、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンの構造単位(A)、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)、及び任意のモノマーの構造単位(C)のランダム共重合体、ブロック共重合体、並びにグラフト共重合体等が挙げられる。これらの中では、構造単位(B)を多く含むことが可能なランダム共重合体であってもよい。
一般的な三元系の共重合体の分子構造例(1)を下記に示す。
ランダム共重合体とは、下記に示した分子構造例(1)のエチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンの構造単位(A)とカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)と任意のモノマーの構造単位(C)とが、ある任意の分子鎖中の位置においてそれぞれの構造単位を見出す確率が、その隣接する構造単位の種類と無関係な共重合体である。
下記のように、共重合体の分子構造例(1)は、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンの構造単位(A)とカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)と任意のモノマーの構造単位(C)とが、ランダム共重合体を形成している。
なお、グラフト変性によってカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)を導入した共重合体の分子構造例(2)も参考に掲載すると、エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンの構造単位(A)及び任意のモノマーの構造単位(C)とが共重合された共重合体の一部が、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)にグラフト変性される。
また、共重合体におけるランダム共重合性は種々の方法により確認することが可能であるが、共重合体のコモノマー含量と融点との関係からランダム共重合性を判別する手法が特開2015−163691号公報及び特開2016−079408号公報に詳しく述べられている。上記文献から共重合体の融点(Tm、℃)が−3.74×[Z]+130(ただし、[Z]はコモノマー含量/mol%である)よりも高い場合はランダム性が低いと判断できる。
ランダム共重合体である本発明に関わる共重合体は示差走査熱量測定(DSC)により観測される融点(Tm、℃)と、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーの構造単位(B)及び任意のモノマーの構造単位(C)の合計の含有量[Z](mol%)とが下記の式(I)を満たすことが好ましい。
50<Tm<−3.74×[Z]+130・・・(I)
共重合体の融点(Tm、℃)が−3.74×[Z]+130(℃)よりも高い場合はランダム共重合性が低い為、衝撃強度など機械物性が劣り、融点が50℃よりも低い場合は耐熱性が劣る場合がある。
さらに本発明に関わる共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造されたものであることが好ましい。
なお、高圧ラジカル重合法プロセスによる重合、金属触媒を用いた重合など、製造方法によって共重合体の分子構造は異なることが知られている。
この分子構造の違いは製造方法を選択する事によって制御が可能であるが、例えば、特開2010−150532号公報に記載されている様に、回転式レオメータで測定した複素弾性率によっても、その分子構造を推定する事ができる。
・複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ:
本発明の共重合体においては、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50〜75度であることを特徴とする。位相角δの下限は50度以上であってもよく、51度以上であってもよく、54度以上であってもよく、56度以上であってもよく、58度以上であってもよく、位相角δの上限は75度以下であってもよく、70度以下であってもよい。
より具体的には、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ(G=0.1MPa)が50度以上である場合、多元共重合体の分子構造は直鎖状の構造であって、長鎖分岐を全く含まない構造か、機械的強度に影響を与えない程度の少量の長鎖分岐を含む構造を示す。
また、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δ(G=0.1MPa)が50度より低い場合、多元共重合体の分子構造は長鎖分岐を過多に含む構造を示し、機械的強度が劣るものとなる。
回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δは、分子量分布と長鎖分岐の両方の影響を受ける。しかし、Mw/Mn≦4、より好ましくはMw/Mn≦3である多元共重合体に限れば長鎖分岐の量の指標になり、その分子構造に含まれる長鎖分岐が多いほどδ(G=0.1MPa)値は小さくなる。なお、多元共重合体のMw/Mnが1.5以上であれば、当該分子構造が長鎖分岐を含まない構造である場合でもδ(G=0.1MPa)値が75度を上回ることはない。
複素弾性率の測定方法は、以下の通りである。
試料を厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持する。その後、試料を表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作成する。試料からなるプレス板を直径25mm円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定する。
・プレート:φ25mm パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10−2〜1.0×10 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G(Pa)の常用対数logGに対して位相角δをプロットし、logG=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G=0.1MPa)とする。測定点の中にlogG=5.0に相当する点がないときは、logG=5.0前後の2点を用いて、logG=5.0におけるδ値を線形補間で求める。また、測定点がいずれもlogG<5であるときは、logG値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG=5.0におけるδ値を補外して求める。
・共重合体の製造について
本発明に関わる共重合体は、その分子構造を直鎖状とする観点から、遷移金属触媒の存在下で製造されたものであることが好ましい。
・重合触媒
本発明に関わる共重合体の製造に用いる重合触媒の種類は、構造単位(A)、構造単位(B)、及び任意の構造単位(C)を共重合することが可能なものであれば特に限定されないが、例えば、キレート性配位子を有する第5〜11族の遷移金属化合物が挙げられる。
好ましい遷移金属の具体例としては、バナジウム原子、ニオビウム原子、タンタル原子、クロム原子、モリブデン原子、タングステン原子、マンガン原子、鉄原子、白金原子、ルテニウム原子、コバルト原子、ロジウム原子、ニッケル原子、パラジウム原子、銅原子などが挙げられる。これらの中で好ましくは、第8〜11族の遷移金属であり、さらに好ましくは第10族の遷移金属であり、特に好ましくはニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)である。これらの金属は、単一であっても複数を併用してもよい。
キレート性配位子は、P、N、O、及びSからなる群より選択される少なくとも2個の原子を有しており、二座配位(bidentate)又は多座配位(multidentate)であるリガンドを含み、電子的に中性又は陰イオン性である。Brookhartらによる総説に、キレート性配位子の構造が例示されている(Chem.Rev.,2000,100,1169)。
キレート性配位子としては、好ましくは、二座アニオン性P、O配位子が挙げられる。二座アニオン性P、O配位子として例えば、リンスルホン酸、リンカルボン酸、リンフェノール、リンエノラートが挙げられる。キレート性配位子としては、他に、二座アニオン性N、O配位子が挙げられる。二座アニオン性N、O配位子として例えば、サリチルアルドイミナートやピリジンカルボン酸が挙げられる。キレート性配位子としては、他に、ジイミン配位子、ジフェノキサイド配位子、及びジアミド配位子等が挙げられる。
キレート性配位子から得られる金属錯体の構造は、置換基を有してもよいアリールホスフィン化合物、アリールアルシン化合物又はアリールアンチモン化合物が配位した下記構造式(a)又は(b)で表される。


[構造式(a)、及び構造式(b)において、
Mは、元素の周期表の第5〜11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
は、酸素、硫黄、−SO−、又は−CO−を表す。
は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
53及びR54は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
55は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
56及びR57は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR52、CO52、COM’、C(O)N(R51、C(O)R52、SR52、SO52、SOR52、OSO52、P(O)(OR522−y(R51、CN、NHR52、N(R52、Si(OR513−x(R51、OSi(OR513−x(R51、NO、SOM’、POM’、P(O)(OR52M’又はエポキシ含有基を表す。
51は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
52は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、R56とR57が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、若しくは硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。この時、環員数は5〜8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
は、Mに配位したリガンドを表す。
また、R53とLが互いに結合して環を形成してもよい。]
より好ましくは、重合触媒となる錯体は、下記構造式(c)で表される遷移金属錯体である。

[構造式(c)において、
Mは、元素の周期表の第5〜11族のいずれかに属する遷移金属、即ち前述したような種々の遷移金属を表す。
は、酸素、硫黄、−SO−、又は−CO−を表す。
は、炭素又はケイ素を表す。
nは、0又は1の整数を表す。
は、リン、砒素又はアンチモンを表す。
53及びR54は、それぞれ独立に、水素又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
55は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、又は炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基を表す。
58、R59、R60及びR61は、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、炭素数1ないし30のヘテロ原子を含有してもよい炭化水素基、OR52、CO52、COM’、C(O)N(R51、C(O)R52、SR52、SO52、SOR52、OSO52、P(O)(OR522−y(R51、CN、NHR52、N(R52、Si(OR513−x(R51、OSi(OR513−x(R51、NO、SOM’、POM’、P(O)(OR52M’又はエポキシ含有基を表す。
51は、水素又は炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
52は、炭素数1ないし20の炭化水素基を表す。
M’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、4級アンモニウム又はフォスフォニウムを表し、xは、0から3までの整数、yは、0から2までの整数を表す。
なお、R58〜R61から適宜選択された複数の基が互いに連結し、脂環式環、芳香族環、又は酸素、窒素、若しくは硫黄から選ばれるヘテロ原子を含有する複素環を形成してもよい。このとき、環員数は5〜8であり、該環上に置換基を有していても、有していなくてもよい。
は、Mに配位したリガンドを表す。
また、R53とLが互いに結合して環を形成してもよい。]
ここで、キレート性配位子を有する第5〜11族の遷移金属化合物の触媒としては、代表的に、いわゆる、SHOP系触媒及びDrent系触媒等の触媒が知られている。
SHOP系触媒は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがニッケル金属に配位した触媒である(例えば、WO2010−050256号公報を参照)。
また、Drent系触媒は、置換基を有してもよいアリール基を有するリン系リガンドがパラジウム金属に配位した触媒である(例えば、特開2010−202647号公報を参照)。
・共重合体の重合方法:
本発明に関わる共重合体の重合方法は限定されない。
重合方法としては、媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが挙げられる。
重合形式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、又は連続重合のいずれの形式でもよい。
また、リビング重合を行ってもよいし、連鎖移動を併発しながら重合を行ってもよい。
更に、重合の際には、いわゆるchain shuttling agent(CSA)を併用し、chain shuttling反応や、coordinative chain transfer polymerization(CCTP)を行ってもよい。
具体的な製造プロセス及び条件については、例えば、特開2010−260913号公報、特開2010−202647号公報等に開示されている。
・共重合体へのカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の導入方法:
本発明に関わる共重合体へのカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の導入方法は特に限定されない。本発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の方法によりカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を導入することができる。
カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の導入方法は、例えば、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するコモノマーを直接共重合する方法や、カルボキシル基を生じる官能基を有する他のモノマーを共重合した後、変性によりカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を導入する方法などが挙げられる。
変性によりカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を導入する方法としては、例えばカルボン酸を導入する場合、前駆体としてのアクリル酸エステルを共重合した後に加水分解し、カルボン酸に変化する方法や、前駆体としてのアクリル酸t−ブチルを共重合した後、加熱分解によりカルボン酸に変化させる方法等が挙げられる。
上記、加水分解又は加熱分解する際に、反応を促進させる添加剤として、従来公知の酸・塩基触媒を使用してもよい。酸・塩基触媒としては特に制限されないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸水素ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属、アルカリ土類金属の炭酸塩、モンモリロナイトなどの固体酸、塩酸、硝酸、硫酸などの無機酸、ギ酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸などを適宜用いることが出来る。
反応促進効果、価格、装置腐食性等の観点から水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸がより好ましい。
(5)アイオノマー
本発明に関わるアイオノマーは、前記共重合体(P)中の、構造単位(B)のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換された、実質的に直鎖状構造を有するアイオノマーである。なお、アイオノマーは、後述のとおりアイオノマーベース樹脂に金属塩を作用させることにより得られ、その際に重合体の分子鎖を切断するような反応は通常起こらない。このため、コモノマーのモル比、分岐の程度、ランダム性等の構造に関するパラメーターは、通常はアイオノマーベース樹脂とアイオノマーとの間で保存されている。
・アイオノマーの構造
本発明に関わるアイオノマーは本発明に関わる共重合体と同様に実質的に直鎖状構造を有することから、回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50〜75度であることを特徴とする。位相角δの下限は51度以上であってもよく、位相角δの上限は64度以下であってもよい。
位相角δ(G=0.1MPa)が50度より低い場合、アイオノマーの分子構造は長鎖分岐を過多に含む構造を示し、機械的強度が劣るものとなる。前述のとおり、Mw/Mn≦4であれば位相角δの値は長鎖分岐の量の指標になる。アイオノマーのMw/Mnが1.5以上であれば、当該分子構造が長鎖分岐を含まない構造である場合でもδ(G=0.1MPa)値が75度を上回ることはない。
・アイオノマーの融点(Tm、℃)
本発明に関わるアイオノマーの融点(Tm、℃)は、50℃〜140℃であることが好ましく、60℃〜138℃であることが更に好ましく、70℃〜135℃が最も好ましい。この範囲より低ければ耐熱性が充分ではなく、この範囲より高い場合は接着性が劣るものとなる場合がある。
本願発明に関わるアイオノマーのうち、構造単位(A)と構造単位(B)のみからなる二元共重合体をベースとするアイオノマーは、融点が90℃以上、好ましくは95℃以上、更に好ましくは100℃以上を示し、三元以上の多元系共重合体をベースとするアイオノマーの融点は、100℃未満、好ましくは95℃未満、更に好ましくは90℃未満を示す。
・金属イオン
本発明に関わるアイオノマーに含まれる金属イオンは、特に限定されず、従来公知のアイオノマーに用いられる金属イオンを含むことができる。金属イオンとしては、中でも、周期表1族、2族、又は12族の金属イオンであることが好ましく、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+及びZn2+からなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。特に好ましくは、Li、Na、K、Mg2+、Ca2+、及びZn2+、更に好ましくは、Na、及びZn2+からなる群から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
これらの金属イオンを必要に応じて2種以上混合して含むことができる。
・中和度(mol%)
金属イオンの含有量としては、ベースポリマーとしての共重合体中のカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部又は全部を中和する量を含むことが好ましく、好ましい中和度(平均中和度)としては、5〜95mol%、より好ましくは10〜90mol%、さらに好ましくは20〜80mol%である。
なお、中和度は、共重合体中のカルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基に含まれ得るカルボキシ基の合計mol量に対する、金属イオンの価数×mol量の合計mol量の割合から求めることができる。
ジカルボン酸無水物基はカルボン酸塩を形成する際に、開環してジカルボン酸となるため、ジカルボン酸無水物基1molにつき、2molのカルボキシ基を有するものとして前記カルボキシ基の合計mol量を求める。また、例えばZn2+等の二価の金属イオンは、1molにつき、2molのカルボキシ基と塩を形成できるものとして、2×mol量により中和度の分子の合計mol量を算出する。
中和度が高いと、アイオノマーの引張強度及び引張破壊応力が高く、引張破壊ひずみが小さくなるが、アイオノマーのメルトフローレート(MFR)が小さくなる傾向がある。一方、中和度が低いと、適度なMFRのアイオノマーが得られるが、引張弾性率及び引張破壊応力は低く、引張破壊ひずみが高くなる傾向がある。
・アイオノマーの製造方法
本発明に関わるアイオノマーは、上述のとおりの共重合体へのカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の導入方法によって得たエチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸の共重合体を、周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属塩により処理し金属含有カルボン酸塩に変換する変換工程を経ることにより得てもよい。また、本発明に関わるアイオノマーはエチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸エステル共重合体を加熱し、該共重合体中の少なくとも一部のエステル基を、周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換する加熱変換工程を経ることにより得てもよい。
重合体にカルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を導入してからアイオノマーを製造する場合、その製造方法は、例えば、以下のとおりである。すなわち、エチレン/メタクリル酸(MAA)共重合体などの金属イオンを捕捉する物質と金属塩を場合により加熱して混練することで金属イオン供給源を作製し、ついでアイオノマーベース樹脂に当該金属イオン供給源を所望の中和度となる量投入し、混練することで得ることができる。
また、加熱変換工程においては、(i)エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸エステル共重合体を加熱し、加水分解又は加熱分解によりエチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸共重合体にした後、周期表1族、2族、又は12族の金属イオンを含有する化合物と反応させることで、該エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸共重合体中のカルボン酸を該金属含有カルボン酸塩に変換してもよく、また、(ii)エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸エステル共重合体を加熱し、該共重合体のエステル基を加水分解又は加熱分解させながら、周期表1族、2族、又は12族の金属イオンを含有する化合物と反応させることで、前記エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸エステル共重合体中のエステル基部分を前記金属含有カルボン酸塩に変換してもよい。
金属イオンを含有する化合物は、周期表1族、2族、又は12族の金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、重炭酸塩、酢酸塩、ギ酸塩などであってもよい。
金属イオンを含有する化合物は、粒状あるいは微粉状で反応系に供給してもよく、水や有機溶媒に溶解又は分散させた後、反応系に供給してもよく、エチレン/不飽和カルボン酸共重合体やオレフィン共重合体をベースポリマーとするマスターバッチを作製し、反応系に供給してもよい。反応を円滑に進行させるためにはマスターバッチを作製し、反応系に供給する方法が好ましい。
さらにまた、金属イオンを含有する化合物との反応はベント押出機、バンバリーミキサー、ロールミルの如き種々の型の装置により、溶融混練することによって行ってもよく、反応はバッチ式でも連続法でもよい。反応によって副生する水及び炭酸ガスを脱気装置により排出することにより、円滑に反応を行うことができることからベント押出機のような脱気装置付きの押出機を用い連続的に行うことが好ましい。
金属イオンを含有する化合物との反応に際し、反応を促進させるために、少量の水を注入してもよい。
エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィン/不飽和カルボン酸エステル共重合体を加熱する温度は、エステルがカルボン酸になる温度であればよく、加熱温度が低すぎる場合はエステルがカルボン酸に変換されず、高すぎる場合には脱カルボニル化や共重合体の分解が進む場合がある。従って、本発明の加熱温度は、好ましくは80℃〜350℃、より好ましくは100℃〜340℃、更に好ましくは150℃〜330℃、更により好ましくは200℃〜320℃の範囲で行われる。
反応時間は加熱温度やエステル基部分の反応性等により変わるが、通常1分〜50時間であり、より好ましくは2分〜30時間であり、更に好ましくは2分〜10時間であり、よりさらに好ましくは2分〜3時間であり、特に好ましくは3分〜2時間である。
上記工程において、反応雰囲気下に特に制限はないが、一般に不活性ガス気流下で行われるほうが好ましい。不活性ガスの例としては、窒素、アルゴン、二酸化炭素雰囲気が使用できる。少量の酸素や空気の混入があってもよい。
上記工程で用いる反応器としては、特に制限は無いが、共重合体を実質的に均一に攪拌できる方法であれば何ら限定されず、攪拌器を装備したガラス容器やオートクレーブ(AC)を用いてもよいし、ブラベンダープラストグラフ、一軸あるいは二軸押出機、強力スクリュー型混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等の従来知られているいかなる混練機も使用することができる。
アイオノマーベース樹脂に対し金属イオンが導入され、アイオノマーとなったかどうかは、得られた樹脂のIRスペクトルを測定してカルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来するピークの減少を調べることによって確認することができる。中和度も同じく、前述のモル比からの計算のほか、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来するピークの減少と、カルボン酸塩基のカルボニル基に由来するピークの増加を調べることによって、確認することができる。
<アイオノマー物性>
本発明に用いるアイオノマー、特にフィルム用途に好適なフィルム用アイオノマーとしては、後述する実施例1〜20の欄に記載した測定条件下において、下記物性のいずれか又はそれらを組み合わせて有するものである。
・MFR:
本発明のアイオノマーにおいては、温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が、0.01〜30g/10分であり、好ましくは0.1〜15g/10分であり、より好ましくは0.5〜20g/10分である。
アイオノマーのMFRがこの範囲であると、フィルム成形が容易である。
・引張弾性率:
本発明のアイオノマーにおいては、引張弾性率が20MPa以上、好ましくは20〜350MPaであり、好ましくは20〜300MPaである。
アイオノマーの引張弾性率がこの範囲であると、フィルムとしたときの密着性が良好となる。また、弾性率の面での設計が困難となることなくアイオノマーを製造することができる。
・引張衝撃強さ:
本発明のアイオノマーにおいては、引張衝撃強さが100KJ/m以上、好ましくは引張衝撃強さが700KJ/m以上であり、更に好ましくは800KJ/m以上である。
三元系以上の多元系共重合体をベースとしたアイオノマーにおいて、特に引張衝撃強度が700KJ/m以上を達成するアイオノマーを得ることができる。アイオノマーの引張衝撃強さがこの範囲であると、フィルムが大変形を伴う擦れ等があっても、破損する恐れが小さくなる。引張衝撃強さの上限は当業者にとって用いられる材料から得られる範囲において特に制限はない。
・摩耗試験における摩耗量:
本発明のアイオノマーにおいては、摩耗試験における摩耗量が10mg未満であり、好ましくは9mg以下である。摩耗試験の条件は後述するとおりである。
摩耗試験における摩耗量がこの範囲であると、繰り返しの擦れ・圧縮の力が加わった際にも、フィルム表面に破損が起こりにくくなる。
・ヘイズ:
本発明のアイオノマーにおいては、ヘイズが0.1〜30%であり、好ましくは0.1〜20%である。
アイオノマーのヘイズが30%以下であれば、透明性が低下することなく、環境、用途を制限されることなく使用出来るため好ましい。
・添加剤
本発明に関わるアイオノマーには、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、従来公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、着色剤、顔料、架橋剤、発泡剤、核剤、難燃剤、導電材、及び、充填材等の添加剤を配合してもよい。
・樹脂組成物
フィルム(シートを含む)などの成形品に用いるフィルム用樹脂組成物として、本発明のアイオノマーは単独で用いてもよく、他の樹脂成分を配合した樹脂組成物として用いてもよい。以下、本発明において、成形品に用いられる場合の「アイオノマーを含む樹脂組成物」というときは、アイオノマー樹脂単独、又は他の樹脂成分や添加剤等を配合した組成物を包含する。本発明のアイオノマー樹脂組成物において配合可能な他の樹脂成分としては、アイオノマーと相溶性があり、フィルム用樹脂組成物として本発明の効果を損なわないものであれば特に制限されない。例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エステル共重合体、他のアイオノマー等を挙げることができる。また、2種類以上の材料を複合して用いることもできる。これら樹脂成分の配合量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。
本願発明のフィルム用樹脂組成物は、本願に係る特定のアイオノマーを含むことを特徴とし、好ましくは1〜100重量%の範囲から、任意にその目的とするフィルム用途や他の諸条件との組み合わせでその含有量を選択しうる。
フィルム用樹脂材料として、本願に係る特定のアイオノマーを用いる場合には、樹脂組成物中の含有量として、該フィルム用樹脂材料は、本発明のアイオノマーを10重量%以上含有するものであることが好ましく、30重量%以上含有するものがより好ましく、50重量%以上含有するものがさらに好ましく、60重量%以上含有するものであることが特に好ましい。上限値は100重量%以下から90重量%以下、70重量%以下、50重量%以下、もしくは40重量%以下から任意に選択しうる。
樹脂組成物中の本願発明に係る特定のアイオノマーを含む含有量が高いほど、該アイオノマーを用いたことによる優れた物性等を十分に発揮することが可能となるが、他の加工性や要求する物性、コストといった観点から配合量は任意に選択することができる。
また、他のフィルム用樹脂材料の改質剤としての使用であれば、樹脂組成物中の含有量として、該フィルム用樹脂材料は、本発明のアイオノマーを1重量%以上、好ましくは3重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは20重量%以上含むことができる。
本発明で用いられるアイオノマーには、必要に応じて、添加又は配合される各種の添加剤及び重合体成分を、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等で加熱混練し、ペレット化してもよい。
2.成形品(フィルム)
本発明の一実施態様は、前記アイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物を用いて成形されたフィルム状の成形品、すなわち、エチレン系フィルムに関する。ここでエチレン系フィルムとは、いわゆるエチレンモノマーを主成分とした樹脂により得られるフィルムをいう。
フィルムの厚さとしては、その用途に応じて任意に選択しうるが、通常、1〜500μm程度、好ましくは5〜200μm、更に好ましくは10〜100μmである。本明細書においては、厚みが上記範囲外であっても、厚みが残り2軸方向の長さに比して十分に小さく、厚み方向を持たない面を専らその利用に供するものをフィルム(フィルム状成形品)として表す。本発明の成形品は、フィルム状であればその面の部分は四辺形、円形、三角形など任意の形状をとることができる。好ましくは屈曲可能である。従って、本願発明の「フィルム」とは、狭義のフィルム(厚みが250μm未満)だけではなく、厚みが250μm以上の狭義のシートや、テープ等も含む意味である。
ただし、本発明のアイオノマーを含む樹脂組成物より成形されたフィルムの最大の特徴が、高い光学物性と共に高剛性、高強度を示す点に鑑みると、特にフィルム厚みが薄い方が、本願発明のフィルムの高強度や透明性等の飛躍的な効果が顕著に表れやすい。そのため、1〜100μm、好ましくは1〜50μm、1〜30μmが好ましく、配合量や用途によっては大幅に厚みを減らすことにより、1〜10μm、究極的には1〜5μmの範囲にすることも可能である。
本発明のアイオノマーを含有する樹脂組成物をフィルム状に成形することで、フィルム成形体を得ることができる。フィルム又はシートの製造方法は当業者に公知の方法を用いることができる。各種のインフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、カレンダー成形法等が挙げられる。本発明のアイオノマーを含有する樹脂組成物は、特にこのように、薄く長尺に成形するフィルム化工程を経ることにより、アイオノマー共重合体単体からは予想外の飛躍的な効果を発揮したフィルムを得ることができる。
たとえば、インフレーション成形法を用いる場合、環状ダイを備えた公知のインフレーション成形機を使用することができる。
環状ダイの温度は70〜220℃とすることが好ましい。また、インフレーションフィルム成形の過程における吹き出しエアリングは特に制限されないが、複数の吹き出しスリットを有するものが好ましい。インフレーションフィルム成形の過程におけるブローアップ比は、好ましくは0.3〜10の範囲であり、より好ましくは1〜8の範囲である。バブルの安定性を増すために公知のバブル内部冷却装置を用いることもできる。
本発明のアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物を用いて成形されたエチレン系フィルムは、従来の一般的なエチレン系樹脂を用いたエチレン系フィルムでは達しえなかった、未到達の領域の、飛躍的な物性性能を少なくとも1以上、又は兼ね備えて有するエチレン系フィルムである。
すなわち、高剛性、高強度、高透明性、高光沢性、低温ヒートシール性といった、いずれか又はそれらを兼ね備えた下記性能を有するフィルムである。
・高剛性及び高強度(靱性)
本発明の一態様は、エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、−20℃におけるフィルムインパクトが20J/mm以上である。かつ、MD方向における引張弾性率が、150MPa以上であるエチレン系フィルムである。
好ましくは23℃におけるフィルムインパクトが30J/mm以上であり、フィルムインパクトが40J/mm以上、更には50J/mm以上であり、−20℃におけるフィルムインパクトは20J/mm以上、さらに好ましくは22J/mm以上、更には30J/mm以上、更には40J/mm以上である。一方、MD方向における引張弾性率は、好ましくは200MPa以上、更には250MPa以上である。
図5及び6に示すように、フィルムには剛性と靱性のバランスが重要であるが、本発明によれば、両者を共に適度にバランスが取れて高い値を示す上に低温域である−20℃でもそのバランスが良好であり、今まで得られていなかった領域の物性を備えたエチレン系フィルムが得られる。
・高ヒートシール強度
本発明の一態様は、エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、シール温度120℃、シール圧力0.2MPa、シール時間1秒、下部シールバー温度60℃におけるヒートシール強度が、10N/15mm以上であるエチレン系フィルムである。
より好ましくは、シール温度100℃、シール圧力0.2MPa、シール時間1秒、下部シールバー温度60℃におけるヒートシール強度が、6N/15mm以上、さらに好ましくは前期条件におけるヒートシール強度が7N/15mm以上であるエチレン系フィルムである。
・高透明性
本発明の一態様は、エチレン系樹脂を樹脂成分とするエチレン系フィルム、特にインフレーション成形して得られるインフレーションフィルムにおいて、厚さ30μmに成形したときの、ヘイズが2%以下のエチレン系フィルムである。特に好ましくは、前記条件でのヘイズが、1%以下、更に好ましくは0.5%以下のエチレン系フィルムである。
・高光沢性
本発明の一態様は、エチレン系樹脂を樹脂成分とするエチレン系フィルム、特にインフレーション成形して得られるインフレーションフィルムにおいて、厚さ30μmに成形したときの、グロス(20°)が120%以上のエチレン系フィルムである。特に好ましくは、前記条件でのグロスが、130%以上のエチレン系フィルムである。
本実施形態のフィルムは、従来のエチレン系樹脂又はアイオノマーを用いるエチレン系フィルムとして公知の用途、又はエチレン系フィルムは従来使用していなかった他のフィルム材の用途、例えばOPPフィルム代替用フィルムとして単層、又は他の材料と積層して用いることができる。
例えば、フィルム、シート、テープなどの各種用途が挙げられ、フィルムとしては、農業用フィルム、食品用フィルム、電子材料用フィルム、工業用フィルムが挙げられ、包装用フィルムとしては種々の包装材、例えば食品包装材、医療用包装材、電子材料用包装材、工業材料包装材等として用いることができる。例えば、重量物又は、液体を含む内容物を包装するためのフィルムとして好適に用いることができる。
その他半導体用粘着テープ又はフィルム、マーキングフィルム、衛生材料、プロテクトフィルム、シーラントフィルム、鋼線被覆材料、クリーンルームカーテン、壁紙、マット、床材、フレコン内袋、コンテナー、靴、バッテリーセパレーター、透湿フィルム、防汚フィルム、防塵フィルム、PVC代替フィルム、OPP代替フィルム等が挙げられる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における物性の測定と評価は、以下に示す方法によって実施した。また、表中のno dataは未測定を意味し、not detectedは検出限界未満を意味する。
<測定と評価>
(1)重量平均分子量(Mw)及び分子量分布パラメーター(Mw/Mn)の測定
重量平均分子量(Mw)はゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって求めた。また、分子量分布パラメーター(Mw/Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)によって、更に数平均分子量(Mn)を求め、MwとMnの比、Mw/Mnによって算出した。測定は下記の手順及び条件に従って行った。
1)試料の前処理
試料にカルボン酸基が含まれる場合は、例えばジアゾメタンやトリメチルシリル(TMS)ジアゾメタンなどを用いたメチルエステル化などのエステル化処理を行い測定に用いた。また、試料にカルボン酸塩基が含まれる場合は酸処理を行い、カルボン酸塩基をカルボン酸基へと変性した後、上記のエステル化処理を行い測定に用いた。
2)試料溶液の調製
4mLバイアル瓶に試料3mg及びo−ジクロロベンゼン3mLを秤り採り、スクリューキャップ及びテフロン(登録商標)製セプタムで蓋をした後、センシュー科学製SSC−7300型高温振とう機を用いて150℃で2時間振とうを行った。振とう終了後、不溶成分がないことを目視で確認した。
3)測定
ウォーターズ社製Alliance GPCV2000型に昭和電工製高温GPCカラムShowdex HT−G×1本及び同HT−806M×2本を接続し、溶離液にo−ジクロロベンゼンを使用し、温度145℃、流量:1.0mL/分下にて測定を行った。
4)較正曲線
カラムの較正は、昭和電工製単分散ポリスチレン(S−7300、S−3900、S−1950、S−1460、S−1010、S−565、S−152、S−66.0、S−28.5、S−5.05、の各0.07mg/ml溶液)、n−エイコサン及びn−テトラコンタンの測定を上記と同様の条件にて行い、溶出時間と分子量の対数値を4次式で近似した。なお、ポリスチレン分子量(MPS)とポリエチレン分子量(MPE)の換算には次式を用いた。
PE=0.468×MPS
(2)カルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び非環状モノマー由来の構造単位量と炭素1,000個当たりの分岐数の測定方法
本発明の多元共重合体中のカルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び非環状モノマーに由来する構造単位量、及び炭素1,000個当たりの分岐数は13C−NMRスペクトルを用いて求められる。13C−NMRは以下の方法によって測定した。
試料200〜300mgをo−ジクロロベンゼン(CCl)と重水素化臭化ベンゼン(CBr)の混合溶媒(CCl/CBr=2/1(体積比))2.4ml及び化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定試料とした。
NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・ジャパン(株)のAV400M型NMR装置を用いて120℃で行った。
13C−NMRは、試料の温度120℃、パルス角を90°、パルス間隔を51.5秒、積算回数を512回以上、逆ゲートデカップリング法で測定した。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンの13Cシグナルを1.98ppmに設定し、他の13Cによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
1)試料の前処理
試料にカルボン酸塩基が含まれる場合は酸処理を行うことにより、カルボン酸塩基をカルボキシ基へと変性した後に測定に用いた。また試料にカルボキシ基が含まれる場合は、例えばジアゾメタンやトリメチルシリル(TMS)ジアゾメタンなどを用いたメチルエステル化などのエステル化処理を適宜行ってもよい。
2)カルボキシ基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマー、及び非環状モノマー由来の構造単位量の算出
<E/tBA>
tBAのt−ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C−NMRスペクトルの79.6〜78.8に検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6〜78.8
I(E)=(I180.0〜135.0+I120.0〜5.0−I(tBA)×7)/2
<E/tBA/nBA>
tBAのt−ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C−NMRスペクトルの79.6〜78.8ppm、nBAのブトキシ基のメチレンシグナルは、64.1〜63.4ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(nBA)+I(E)〕
nBA総量(mol%)=I(nBA)×100/〔I(tBA)+I(nBA)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(nBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6〜78.8
I(nBA)=I64.1〜63.4
I(E)=(I180.0〜135.0+I120.0〜5.0−I(nBA)×7−I(tBA)×7)/2
<E/tBA/iBA>
tBAのt−ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C−NMRスペクトルの79.6〜78.8ppm、iBAのイソブトキシ基のメチレンシグナルは70.5〜69.8ppm、イソブトキシ基のメチルシグナルは19.5〜18.9ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(iBA)+I(E)〕
iBA総量(mol%)=I(iBA)×100/〔I(tBA)+I(iBA)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(iBA)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6〜78.8
I(iBA)=(I70.5〜69.8+I19.5〜18.9)/3
I(E)=(I180.0〜135.0+I120.0〜5.0−I(iBA)×7−I(tBA)×7)/2
<E/tBA/NB>
tBAのt−ブチルアクリレート基の四級炭素シグナルは、13C−NMRスペクトルの79.6〜78.8ppm、NBのメチン炭素シグナルは41.9〜41.1ppmに検出される。これらのシグナル強度を用い、以下の式からコモノマー量を算出した。
tBA総量(mol%)=I(tBA)×100/〔I(tBA)+I(NB)+I(E)〕
NB総量(mol%)=I(NB)×100/〔I(tBA)+I(NB)+I(E)〕
ここで、I(tBA)、I(NB)、I(E)はそれぞれ、以下の式で示される量である。
I(tBA)=I79.6〜78.8
I(NB)=(I41.9〜41.1)/2
I(E)=(I180.0〜135.0+I120.0〜5.0−I(NB)×7−I(tBA)×7)/2
なお、各モノマーの構造単位量が不等号を含む「<0.1」で示されている場合、多元共重合体中の構成単位として存在しているが有効数字を考慮して0.1mol%未満の量であることを意味する。
3)炭素1,000個当たりの分岐数の算出
多元共重合体には、主鎖に分岐が単独で存在する孤立型と、複合型(主鎖を介して分岐と分岐が対面した対面タイプ、分岐鎖中に分岐のあるbranched−branchタイプ、及び連鎖タイプ)が存在する。
以下は、エチル分岐の構造の例である。なお、対面タイプの例において、Rはアルキル基を表す。
炭素1,000個当たりの分岐数は、以下の式のI(分岐)項に、下記のI(B1)、I(B2)、I(B4)のいずれかを代入し求める。B1はメチル分岐、B2はエチル分岐、B4はブチル分岐を表す。メチル分岐数はI(B1)を用い、エチル分岐数はI(B2)を用い、ブチル分岐数はI(B4)を用いて求める。
分岐数(個/炭素1,000個当たり)=I(分岐)×1000/I(total)
ここで、I(total)、I(B1)、I(B2)、I(B4)は以下の式で示される量である。
I(total)=I180.0〜135.0 +I120.0〜5.0
I(B1)=(I20.0〜19.8+I33.2〜33.1+I37.5〜37.3)/4
I(B2)=I8.6〜7.6 +I11.8〜10.5
I(B4)=I14.3〜13.7 −I32.2〜32.0
ここで、Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。例えばI180.0〜135.0は180.0ppmと135.0ppmの間に検出した13Cシグナルの積分強度を示す。
帰属は、非特許文献Macromolecules 1984, 17, 1756-1761、Macromolecules 1979,12,41を参考にした。
なお、各分岐数が不等号を含む「<0.1」で示されている場合、多元共重合体中の構成単位として存在しているが有効数字を考慮して0.1mol%未満の量であることを意味する。また、not detectedは検出限界未満を意味する。
(3)赤外吸収スペクトル
試料を180℃にて3分間溶融し、圧縮成形して、厚さ50μm程度のフィルムを作製する。このフィルムをフーリエ変換赤外分光分析により分析して、赤外吸収スペクトルを得た。
製品名:FT/IR−6100 日本分光株式会社製
測定手法:透過法
検出器:TGS(Triglycine sulfate)
積算回数:16〜512回
分解能:4.0cm−1
測定波長:5000〜500cm−1
(4)複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δの測定
1)試料の準備、測定
試料を厚さ1.0mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで溶融樹脂中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約1.0mmの試料からなるプレス板を作製した。試料からなるプレス板を直径25mmの円形に加工したものをサンプルとし、動的粘弾性特性の測定装置としてRheometrics社製ARES型回転式レオメータを用い、窒素雰囲気下において以下の条件で動的粘弾性を測定した。
・プレート:φ25mm(直径) パラレルプレート
・温度:160℃
・歪み量:10%
・測定角周波数範囲:1.0×10−2〜1.0×10 rad/s
・測定間隔:5点/decade
複素弾性率の絶対値G(Pa)の常用対数logGに対して位相角δをプロットし、logG=5.0に相当する点のδ(度)の値をδ(G=0.1MPa)とした。測定点の中にlogG=5.0に相当する点がないときは、logG=5.0前後の2点を用いて、logG=5.0におけるδ値を線形補間で求めた。また、測定点がいずれもlogG<5であるときは、logG値が大きい方から3点の値を用いて2次曲線でlogG=5.0におけるδ値を補外して求めた。
(5)融点(Tm、℃):
融点は、示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線のピーク温度によって示される。測定にはエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のDSC(DSC7020)を使用し、次の測定条件で実施した。
試料約5.0mgをアルミパンに詰め、10℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後に10℃/分で30℃まで降温させた。30℃で5分間保持した後、再度、10℃/分で昇温させる際の吸収曲線のうち、最大ピーク温度を融点Tmとし、融解吸熱ピーク面積から融解熱(ΔH)を求め、その融解熱を高密度ポリエチレン(HDPE)の完全結晶の融解熱293J/gで除することにより、結晶化度(%)を求めた。
(6)メルトフローレート(MFR)
MFRは、JIS K−7210(1999年)の表1−条件7に従い、温度190℃、荷重21.18N(=2.16kg)の条件で測定した。
(7)ヘイズ測定方法
JIS K 7136に準拠してヘイズを測定した。
試料のプレス板調整方法
試料を、寸法:50mm×60mm、厚さ0.5mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで試料中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、3分間保持した。その後、表面温度25℃のプレス機に移し替え、4.9MPaの圧力で3分間保持することで冷却し、厚さが約0.5mmのプレス板を作製した。
(8)引張試験
試料をJIS K7151(1995年)に記載の方法(冷却方法A)で厚さ1mmのシートを作製し、これを打抜いて作製したJIS K7162(1994年)に記載の5B形小型試験片を用いて、JIS K7161(1994年)に従って温度23℃の条件下において引張試験を行い、引張弾性率、引張破壊応力及び引張破壊ひずみを測定した。なお、試験速度は10mm/分とした。
(9)引張衝撃強さ
1)引張衝撃強さ試験サンプルの作製方法
試料を、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで試料を溶融すると共に試料中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、5分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。状態調節後のプレス板からASTM D1822 Type−Sの形状の試験片を打ち抜き、引張衝撃強さ試験サンプルとした。
2)引張衝撃強さ試験条件
上記試験片を用い、JIS K 7160−1996のB法を参考として引張衝撃強さを測定した。なお、JIS K 7160−1996と異なるのは、試験片の形状のみである。その他測定条件等に関しては、JIS K 7160−1996に準じた方法で試験を実施した。
(10)摩耗量の測定
1)摩耗試験サンプルの作製方法
試料を、寸法:150mm×150mm、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで試料を溶融すると共に試料中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、3分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。状態調節後のプレス板を直径約115mmの円形に切り抜き、中心に直径約6.5mmの穴をあけ、摩耗試験サンプルとした。
2)摩耗試験条件
上記試験片を用い、JIS K 7204−1999に準拠し下記条件で摩耗損失量(mg)を測定した。
・装置:テーバー摩耗試験機(ロータリーアブレーションテスタ)_(株)東洋精機製作所製
・摩耗輪:CS−17
・回転数:60回転/min
・試験回数:1000回転
・荷重:4.9N
(11)耐屈曲回数の測定
1)屈曲試験サンプルの作製方法
試料を、寸法:150mm×150mm、厚さ1mmの加熱プレス用モールドに入れ、表面温度180℃の熱プレス機中で5分間予熱後、加圧と減圧を繰り返すことで試料を溶融すると共に試料中の残留気体を脱気し、更に4.9MPaで加圧し、3分間保持した。その後、4.9MPaの圧力をかけた状態で、10℃/分の速度で徐々に冷却し、温度が室温付近まで低下したところでモールドから成形板を取り出した。得られた成形板を温度23±2℃、湿度50±5℃の環境下で48時間以上、状態調節した。状態調節後のプレス板を幅15mm、長さ約110mmに切断し屈曲試験サンプルとした。
2)屈曲試験条件
上記試験片を用い、JIS P 8115−2001を参考に下記条件で耐屈曲回数を測定した。なお、JIS P 8115−2001と異なるのは、試験片の材質と荷重のみである。その他測定条件等に関しては、JIS P 8115−2001に準じた方法で試験を実施した。
・装置:MIT耐折疲労試験機_(株)東洋精機製作所製
・荷重:29.4N
・折り曲げ速度:175回/min
・折り曲げ角度:135°
・折り曲げクランプの屈曲半径:0.38mm
<フィルムの作成方法>
(比較例10〜13、実施例17)
口径50mmφ単軸押出機にダイ口径75mmφ、リップ幅3mmのダイを取り付け、押出機、及びダイの設定温度を190℃に設定した条件で、ブロー比2.0でインフレーション成形を行い、比較例10〜13、実施例9に示す30μmの厚さのフィルムを得た。このフィルムについて物性評価を行った結果を表7に示した。
<フィルムのヘイズ評価方法>
JIS K 7136に準拠してヘイズを測定した。
<フィルムのグロス評価方法>
JIS Z8741を参考にフィルムのグロスを測定した。
<フィルムの引張弾性率の測定方法>
JIS K 7127に準拠しMD、TD方向を測定した。
<フィルムの衝撃強度評価方法>
・23℃及び−20℃におけるフィルムインパクト
東洋精機製作所製フィルムインパクトテスター(FILM・IMPACT・TESTER:以下、単に「試験機」という)を用い、単位フィルム厚みあたりの貫通破壊に要した仕事量を測定した。具体的には、試験フィルムを23℃−50%の雰囲気に保存し、状態調節を行った後、試験機に試験フィルムを直径50mmのホルダーにて固定し、1/2インチ(約13.0mm)の半球型金属を試験フィルムの内層面から貫通部で打撃させ、貫通破壊に要した仕事量を測定した。その時、荷重は除去し、最大目盛り(仕事量)が3.0Jとなるようにした。そして、仕事量をフィルム厚みで除した値を、23℃におけるフィルムインパクト値とした。
上記と同様に、同じく東洋精機製作所製の恒温槽を具備した試験機を用い、フィルムを固定している保持部分、及びフィルムが−20℃となるように調整した条件で貫通破壊に要した仕事量を測定した。その時、上記同様に荷重は除去し、最大目盛り(仕事量)が3.0Jとなるようにした。そして、仕事量をフィルム厚みで除した値を、−20℃におけるフィルムインパクト値とした。
<フィルムの突刺し強度評価方法>
フィルムを固定し、フィルムに直径1.0mm、先端形状半径0.5mmの半円形の針を毎分50±0.5mmの速度で突刺し、針が貫通するまでの最大荷重(N)を測定した。
<フィルムの耐ピンホール性評価方法>
ゲルボフレックス装置(テスター産業製)にて、フィルムを3000回屈曲させた。その後、ピンホール数を測定した。
<フィルムのヒートシール強度>
インフレーション成形フィルムを2枚重ね、厚さ12μmのPETフィルムを介した上で、下方シールバーの温度を60℃、上方シールバーの温度は80〜150℃とし、シール時圧力を2.0MPa、1.0秒のシール時間でヒートシールを行い、15mm幅の180度剥離強度を測定した。測定結果を表8及び図2に示す。
<金属錯体の合成>
(1)B−27DM/Ni錯体の合成
B−27DM/Ni錯体は、国際公開第2010/050256号に記載された合成例4に従い、下記の2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファノ−6−ペンタフルオロフェニルフェノール配位子(B−27DM)を使用した。国際公開第2010/050256号の実施例1に準じて、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(0)(Ni(COD)と称する)を用いて、B−27DMとNi(COD)とが1対1で反応したニッケル錯体(B−27DM/Ni)を合成した。
(2)B−423/Ni錯体の合成
1)配位子B−423:2−ビス(2,6−ジメトキシフェニル)ホスファノ−6−(2,6−ジイソプロピルフェニル)フェノールの合成

以下のスキームに従って配位子B−423を合成した。
なお、以降の化学式中、−OMOMとはメトキシメトキシ基(−OCHOCH)を表す。
(i)化合物2の合成
特許文献WO2010/050256に従って合成した。
(ii)化合物3の合成
化合物2(2.64g、10.0mmol)のTHF(5.0ml)溶液にi−PrMgCl(2M、5.25ml)を0℃で加えた。反応混合物を25℃で1時間撹拌した後、PCl(618mg、4.50mmol)を−78℃で加えた。
反応混合物を25℃まで3時間かけて昇温し、黄色懸濁液を得た。溶媒を減圧留去し、黄色固体を得た。この混合物を精製することなく、次の反応に用いた。
(iii)化合物5の合成
化合物4(30g、220mmol)のTHF(250ml)溶液にn−BuLi(2.5M、96ml)を0℃で加え、30℃で1時間撹拌した。この溶液にB(OPr)(123g、651mmol)を−78℃で加え、30℃で2時間撹拌して白色懸濁液を得た。塩酸(1M)を加えてpH=6〜7に調整し、有機層を濃縮して混合物を得た。得られた混合物を石油エーテル(80ml)で洗浄し、化合物5を26g得た。
(iv)化合物7の合成
化合物5(5.00g、27.5mmol)、化合物6(4.42g、18.3mmol)、Pd(dba)(168mg、0.183mmol)、s−Phos(2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル)(376mg、0.916mmol)、KPO(7.35g、34.6mmol)を反応容器に量りとり、トルエン(40ml)を加えた。この溶液を110℃で12時間反応させ、黒色懸濁液を得た。HO(50ml)を加え、EtOAc(55ml×3)で抽出した。有機層を食塩水(20ml)で洗浄してNaSOで脱水した。有機層を濾過して溶媒を減圧留去した後、シリカゲルカラムで精製することにより1.3gのオイル状物質を得た。
(v)化合物8の合成
化合物7(6.5g、22mmol)のTHF(40ml)溶液にn−BuLi(2.5M、9.15ml)を0℃で滴下し、30℃に昇温して1時間撹拌した。この反応溶液を−78℃に冷却してCuCN(2.1g,23mmol)を加え、30℃で1時間撹拌した。反応溶液を−78℃に冷却して化合物3(6.7g、20mmol)のTHF(40ml)溶液を加え、30℃で12時間撹拌して白色の懸濁液を得た。懸濁液にHO(50ml)を加えると白色沈殿が生じた。白色沈殿を濾過で回収してジクロロメタン(20ml)に溶解させ、アンモニア水(80ml)を加えて3時間撹拌した。生成物をジクロロメタン(50ml×3)で抽出してNaSOで脱水した後、濃縮して黄色のオイル状物質を得た。このオイル状物質をシリカゲルカラムで精製し、化合物8を2.9g得た。
(vi)B−423の合成
化合物8(2.9g、4.8mmol)のジクロロメタン(20ml)溶液にHCl/EtOAc(4M、50ml)を0℃で加え、30℃で2時間撹拌して淡黄色溶液を得た。溶媒を減圧留去した後、ジクロロメタン(50ml)を加えた。飽和NaHCO水溶液(100ml)で洗浄し、B−423を2.5g得た。
得られた配位子B−423のNMR帰属値を以下に示す。
[NMR]
H NMR(CDCl、δ、ppm):7.49(t、1H)、7.33(t、1H)、7.22(m、4H)、6.93(d、1H)、6.81(t、1H)、6.49(dd、4H)、6.46(br、1H)、3.56(s、12H)、2.63(sept、2H)、1.05(d、6H)、1.04(d、6H);
31P NMR(CDCl、δ、ppm):−61.6(s).
2)B−423/Ni錯体の合成
B−423/Ni錯体は、B−423配位子を使用し、国際公開第2010/050256号の実施例1に準じて、ビスアセチルアセトナトニッケル(II)(Ni(acac)と称する)を用いて、B−423とNi(acac)とが1対1で反応したニッケル錯体(B−423/Ni)を合成した。
<(製造例1〜製造例10):アイオノマーベース樹脂前駆体の製造>
遷移金属錯体(B−27DM/Ni錯体又はB−423/Ni錯体)を用いて、エチレン/アクリル酸tBu/アクリル酸エステル共重合体、及びエチレン/アクリル酸tBu/ノルボルネン共重合体を製造した。特開2016−79408号公報に記載された製造例1又は製造例3を参考に共重合体の製造を行い、金属触媒種、金属触媒量、トリオクチルアルミニウム(TNOA)量、トルエン量、コモノマー種、コモノマー量、エチレン分圧、重合温度、重合時間など、適宜変更した製造条件を表1、得られたアイオノマーベース樹脂前駆体の物性を表2に示す。但し、表中のno dataは未測定を意味し、not detectedは検出限界未満を意味する。
<(樹脂1、樹脂2、樹脂10):アイオノマーベース樹脂の製造−1>
内容積1.6mの攪拌翼付きSUS316L製のオートクレーブに、得られた製造例1、製造例2、製造例10の共重合体のうちいずれか1種を100kgとパラトルエンスルホン酸一水和物を2.0kg、トルエンを173L投入し、105℃で4時間撹拌した。イオン交換水173Lを投入し撹拌、静置した後、水層を抜き出した。以後、抜き出した水層のpHが5以上となるまで、イオン交換水の投入と抜き出しを繰り返し行った。残った溶液を42mmφベント装置付二軸押出機(L/D=45.5)に投入し、ベントを真空に引くことで溶媒を留去した。さらに押出機先端のダイスから連続的にストランドの形で押出される樹脂を水中で冷却しカッターで切断することにより樹脂のペレットを得た。
得られた樹脂のIRスペクトルにおいて、tBu基に由来する850cm−1付近のピークの消失及び、エステルのカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピークの減少と、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークの増加を観測した。
これにより、t-Buエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認し、アイオノマーベース樹脂1、樹脂2、樹脂10を得た。得られた樹脂の物性を表3に示す。但し、表中のno dataは未測定を意味し、not detectedは検出限界未満を意味する。
<(樹脂3〜樹脂9):アイオノマーベース樹脂の製造−2>
容量500mlセパラブルフラスコに、得られた製造例3〜製造例9の共重合体を40gとパラトルエンスルホン酸一水和物を0.8g、トルエンを185ml投入し、105℃で4時間撹拌した。イオン交換水185mlを投入し撹拌、静置した後、水層を抜き出した。以後、抜き出した水層のpHが5以上となるまで、イオン交換水の投入と抜き出しを繰り返し行った。残った溶液から溶媒を減圧留去し、恒量になるまで乾燥を行なった。
得られた樹脂のIRスペクトルにおいて、tBu基に由来する850cm−1付近のピークの消失及び、エステルのカルボニル基に由来する1730cm−1付近のピークの減少と、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークの増加を観測した。
これにより、t-Buエステルの分解及びカルボン酸の生成を確認し、アイオノマーベース樹脂3〜樹脂9を得た。得られた樹脂の物性を表3に示す。以下の表において、「AA」「NB」「iBA」「nBA」はそれぞれ、ベース樹脂中に含有されている構造単位としての「アクリル酸」「ノルボルネン」「アクリル酸イソブチル」「アクリル酸n−ブチル」の略号である。但し、表中のno dataは未測定を意味し、not detectedは検出限界未満を意味する。
<(I−1、I−3〜6、I−8〜I−14、I−16):アイオノマーの製造−1>
1)Naイオン供給源の作製
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型に、エチレン/メタクリル酸(MAA)共重合体(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を22gと炭酸ナトリウムを18g投入し、180℃、40rpmで3分間混練することでNaイオン供給源を作製した。
2)Znイオン供給源の作製
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型に、エチレン/メタクリル酸(MAA)共重合体(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を21.8gと酸化亜鉛を18gとステアリン酸亜鉛を0.2g投入し、180℃、40rpmで3分間混練することでZnイオン供給源を作製した。
3):アイオノマーの作製
容量60mlの小型ミキサーを取り付けた東洋精機(株)製ラボプラストミル:ローラミキサR60型に、樹脂1〜樹脂9を40g投入し、160℃、40rpmで3分間混練し溶解させた。その後、Naイオン供給源又はZnイオン供給源を所望の中和度となるように投入し、250℃、40rpmで5分間混練を行った。
得られた樹脂のIRスペクトルにおいて、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークが減少し、カルボン酸塩基のカルボニル基に由来する1560cm−1付近のピークが増加していた。カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークの減少量から所望の中和度のアイオノマーが作製できていることを確認した。得られたアイオノマーのプレスシート物性を表5、表6に示す。
<(I−2、I−7、I−15、I−17):アイオノマーの製造−2>
1)Naイオン供給源の作製
東芝機械製26mmφベント装置付き二軸押出機(L/D=64)に、エチレン/メタクリル酸(MAA)共重合体(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を55wt%、炭酸ナトリウムを45wt%の配合比率となるように連続的に投入し、バレル設定温度150℃、スクリュー回転数150rpmの混練条件で、混練中に発生するガス及び水を真空ポンプにてベント部分より除去しながら押出を行った。さらに押出機先端のダイスから連続的にストランドの形で押出される樹脂を水中で冷却しカッターで切断することによりNaイオン供給源のペレットを得た。
2)Znイオン供給源の作製
東芝機械製26mmφベント装置付き二軸押出機(L/D=64)に、エチレン/メタクリル酸(MAA)共重合体(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:Nucrel N1050H)を55wt%、炭酸ナトリウムを45wt%の配合比率となるように連続的に投入し、バレル設定温度150℃、スクリュー回転数150rpmの混練条件で、混練中に発生するガス及び水を真空ポンプにてベント部分より除去しながら押出を行った。さらに押出機先端のダイスから連続的にストランドの形で押出される樹脂を水中で冷却しカッターで切断することによりNaイオン供給源のペレットを得た。
3):アイオノマーの作製
東芝機械製26mmφベント装置付き二軸押出機(L/D=65)に、樹脂1、樹脂2、樹脂10のいずれか一つとNaイオン供給源又はZnイオン供給源を所定の中和度となるような配合比率で連続的に投入し、バレル設定温度200℃、スクリュー回転数150rpmの混練条件で、投入樹脂量100部に対して4部の割合で水を注入しつつ、混練中に発生するガス及び水を真空ポンプにてベント部分より除去しながら押出を行った。さらに押出機先端のダイスから連続的にストランドの形で押出される樹脂を水中で冷却しカッターで切断することによりアイオノマーのペレットを得た。
得られた樹脂のIRスペクトルにおいて、カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークが減少し、カルボン酸塩基のカルボニル基に由来する1560cm−1付近のピークが増加していた。カルボン酸(二量体)のカルボニル基に由来する1700cm−1付近のピークの減少量から所望の中和度のアイオノマーが作製できていることを確認した。得られたアイオノマーI−2、I−7、I−15のプレスシート物性を表5、I−2、I−7、I−15、I−17のインフレーションフィルムの物性を表7に示す。
比較例として用いた原材料について説明する。
(比較例1〜4、比較例10〜12、14、15):既存ポリエチレン
比較例1(PE−1)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックHD、チーグラー・ナッタ系高密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:HS430P、MFR=0.8g/10分、密度=0.955g/cmのエチレン・ブテン−1共重合体
比較例2(PE−2)
日本ポリエチレン(株)製、商品名カーネル、メタロセン系線状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:KF360T、MFR=3.5g/10分、密度=0.898g/cmのエチレン・プロピレン・1−ヘキセン共重合体
比較例3(PE−3)
日本ポリエチレン(株)製、商品名カーネル、メタロセン系線状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:KF560T、MFR=16.5g/10分、密度=0.898g/cmのエチレン・プロピレン・1−ヘキセン共重合体
比較例4(PE−4)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックLD、高圧ラジカル法低密度ポリエチレン、グレード名:LF405M、MFR=2.0g/10分、密度=0.919g/cm
比較例10(PE−5)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックLL、チーグラー・ナッタ系線状低密度ポリエチレン、グレード名:UF421、MFR=0.9g/10分、密度=0.926g/cmのエチレン・1−ブテン共重合体
比較例11(PE−6)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ハーモレックス、メタロセン系線状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:NF324A、MFR=1.0g/10分、密度=0.906g/cmのエチレン・1−ヘキセン共重合体
比較例12(PE−7)
日本ポリエチレン(株)製、商品名カーネル、メタロセン系線状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:KS240T、MFR=2.2g/10分、密度=0.880g/cmのエチレン・プロピレン・1−ヘキセン共重合体
比較例14(PE−8)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ノバテックLL、チーグラー・ナッタ系線状低密度ポリエチレン、グレード名:UF641、MFR=2.1g/10分、密度=0.927g/cmのエチレン・1−ブテン共重合体
比較例15(PE−9)
日本ポリエチレン(株)製、商品名ハーモレックス、メタロセン系線状低密度ポリエチレン、エチレン・α−オレフィン共重合体、グレード名:NF444N、MFR=2.0g/10分、密度=0.912g/cmのエチレン・1−ヘキセン共重合体
PE−1〜4のプレスシートの物性を表4、PE−5〜9のインフレーションフィルムの物性を表7に示す。
(比較例5〜7、比較例13):E/MAAベース二元アイオノマー(HIM−1〜3)
エチレンとメタクリル酸とメタクリル酸Naの共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造されたアイオノマー樹脂(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:HIMILAN HIM1605(HIM−1)、HIM1707(HIM−2)、HIM1555(HIM−3))を参考アイオノマーとして用いた。これらのアイオノマーは位相角δが46〜49°であり、長鎖分岐を過多に含む構造である。プレスシート物性を表4、インフレーションフィルムの物性を表7に示す。
(比較例8、9):E/MAAベース二元アイオノマー(HIM−4、5)
エチレンとメタクリル酸とメタクリル酸Zn共重合体であって、高圧ラジカル法プロセスによって製造されたアイオノマー樹脂(三井・ダウポリケミカル(株)製 銘柄:HIMILAN HIM1652(HIM−4)、HIM1706(HIM−5))を参考アイオノマーとして用いた。これらのアイオノマーは位相角δが41°又は45°であり、長鎖分岐を過多に含む構造である。プレスシート物性を表4に示す。
<評価1:プレスシート物性について>
・透明性
表4〜6のヘイズの値が透明性の評価指標である。ヘイズ値は曇り度を示す値であり、この値が低いほど透明性に優れる。各実施例のプレスシートは比較例1〜4のどれよりも低く、かつ既存アイオノマーのフィルム(比較例5〜9)とほぼ同等かそれ以下のヘイズ値であった。既存ポリエチレン、既存アイオノマーよりも本発明のアイオノマーが透明性に優れることが見て取れる。
・衝撃強度
表4〜6における引張弾性率と引張衝撃強度の値を見る。既存のポリエチレンにおいては剛性の評価指標である引張弾性率の増加とともに引張衝撃強度は低下していく傾向にあることが見て取れる。このことを鑑みて比較例5〜9の既存アイオノマーの引張弾性率と引張衝撃強度の値を見ていくと、既存ポリエチレンよりも引張弾性率あたりの強度が高いことが見て取れるが、本発明のアイオノマー、特に実施例1〜8においては比較例5〜9よりも高い引張弾性率でありながら同等ないしそれ以上の引張衝撃強度を有し、剛性と強度のバランスに優れることがわかる。実施例9〜16は、既存のアイオノマーと比較して引張弾性率が同等ないしそれ以下の数値であり、総じて引張衝撃強度が高いことがわかる。したがって本発明のアイオノマーは柔軟性と強度に優れた材料であるということも見て取れる。
・耐ピンホール性
表4〜6における摩耗量と屈曲回数の値を見る。図3は各プレスシートの摩耗量を横軸、屈曲回数を縦軸にとったグラフである。耐ピンホール性を評価するにあたっては、摩耗量が小さく、屈曲回数が大きい値であることが望ましい。この両条件を満たすことで、実使用環境における屈曲や摩耗への耐久性が高い、ひいてはピンホールの生じにくい材料であることが言える。比較例1〜9と実施例1〜16を見ていくと、実施例1〜16に関しては比較例1〜9のプロットよりも左上に位置する。したがって本発明のアイオノマーは摩耗量が小さく、かつ屈曲回数が多いことが見て取れ、耐ピンホール性に優れることが言える。
<評価2:フィルム物性について>
・光学物性
表7のヘイズ値、グロス値を見る。ヘイズ値は曇り度の評価指標であり、その数値が低いほど透明性に優れることを意味しており、一般的に10%を下回る場合に透明性に優れると判断される。一方グロス値はフィルムの光沢の評価指標であり、その数値が高いほど光沢に優れることを意味している。表7を見ると、実施例17〜20のヘイズ値、グロス値は比較例10〜13、比較例14、15に比べて大幅に優れていることがわかる。本発明のフィルムが有する透明性は、エチレン系樹脂フィルムとしてはほぼ未到達の領域であり、透明性が高いフィルムとして知られている20μmのOPPフィルム(ポリプロピレン延伸フィルム)のヘイズ値1.2%、グロス値135.5%と比べても、より優れている。
・衝撃強度
表7の引張弾性率、フィルムインパクトの値を見る。引張弾性率はフィルムの剛性を表す評価指標であり、フィルムインパクトの値はフィルムの衝撃強度を表す評価指標である。比較例10〜12、比較例14、15の傾向から、剛性の低下、ひいては柔軟性の上昇に伴って衝撃強度は向上していく傾向が見て取れる。この傾向を鑑みながら、一般的な線状ポリエチレンと既存アイオノマーを比較すると、比較例13の剛性は比較例10の1.6倍、衝撃強度は2.5倍の数値を示し、既存の線状低密度ポリエチレンに比べ既存のアイオノマーは剛性と強度のバランスが良いことがわかる。次に、既存アイオノマーと本発明のアイオノマーを比較する。実施例17〜19のフィルムは既存のアイオノマーと同様にポリエチレンフィルムより優れた剛性を保ちつつ、衝撃強度は1.25〜3.3倍と大きな差があることが見て取れる。特に実施例17が示す強度レベルは比較例12に示している非常に柔軟性の高いメタロセン系ポリエチレンも上回る強度であることから、本発明のアイオノマーで作成したフィルムが既存のポリエチレン、アイオノマーで作成したフィルムと比較して剛性と強度のバランスに非常に優れることが見て取れる。
続いて、同じく表7の−20℃におけるフィルムインパクトの値を見ると、比較例13〜15のフィルムは17〜19J/mmであり、20J/mmを超えない一方で、実施例17〜20のフィルムは28.0〜35.0J/mmであり、1.5〜2.0倍程度高い強度を示す。このことから、本発明のアイオノマーは常温に加え、低温域でも衝撃強度に優れることがわかる。
・突き刺し強度
表7の突き刺し強度の値を見る。突き刺し強度は鋭利な先端がフィルムを貫通するために必要な力を表す評価指標である。実施例17〜20の本発明のアイオノマーを比較例10〜12の既存ポリエチレンと比較すると2.4〜3.8倍、比較例13の既存アイオノマーと比較して1.0〜1.6倍程度高い数値を示している。このことから本発明のアイオノマーで作成したフィルムは既存のポリエチレン、アイオノマーで作成したフィルムと比較して突き刺しに対する強度に優れることが見て取れる。
・耐ピンホール性能
表7のゲルボフレックスの値を見る。この数値はフィルムを複数回屈曲させた際にピンホールがいくつ発生するのかを表す評価指標であり、その数値が低いほどピンホールの発生が少なく耐ピンホール性に優れると評価できる。比較例10と比較例14から言えることは、同じLLDPEでありながらピンホールの数は比較例14の方が多い。このことから190℃よりも低温な160℃で成形すると耐ピンホール性には不利であることがわかる。これを踏まえて、比較例10〜12、比較例14、15と比較例13を見ると、既存アイオノマーは190℃で成形されているにも関わらず耐ピンホール性の観点からは既存PEと同等あるいは劣る性能であることがわかる。ここで、実施例17〜19を見ると、本発明のアイオノマーは190℃での成形時はもちろん、160℃の成形時にもピンホールの数は0個である点で既存アイオノマーよりも優れた性能を持つ。実施例20のフィルムについては、同じ160℃で成形したLLDPEよりもピンホールは少なく、有利な条件であるところの190℃で成形した既存アイオノマーと同等程度のピンホール数であるため、より高性能あるいは同程度の性能であることがわかり、本願で紹介する他の物性と総合的に考えれば、既存PEやアイオノマーよりも優れた物性を持つことがわかる。
・ヒートシール強度
表8及び図4に示すヒートシール強度の値を見る。これはフィルム同士を所定の温度、一定の圧力で溶融圧着した部分が引張破断する際の強度を示す評価指標である。一般的に、ヒートシール強度はその強度が高いことはもちろん、より低温でシールした際に高い強度が得られることが望ましい。実施例17〜20が示す通り、本発明のアイオノマーで作成したフィルムは90℃〜150℃の温度範囲で最もシール強度が高いことが見て取れる。
上記で説明したように、プレスシート物性及びインフレーションフィルムの物性から、本発明のアイオノマーからなるフィルムが光沢、透明性、衝撃強度、突き刺し強度、耐ピンホール性、ヒートシール強度に優れる。
・剛性と靱性のバランスについて
表7及び図5に示す剛性(引張弾性率)と、靱性(引張衝撃強度)のバランスを見る。両者は共に適度にバランスが取れて高い値をとることが必要であり、図5において、右上側が良好な方向を示す。
比較例10〜12、比較例14、15に示す、従来の直鎖状の低密度ポリエチレン(LLDPE)や、比較例13に示す多分岐構造ベースのアイオノマー樹脂を用いたフィルムは、剛性又は靭性のいずれかが不十分である。これら比較例に比べて、本願の実施例17〜20の直鎖状の構造を有するアイオノマーを用いたフィルムは、従来にない領域の剛性−靱性を有するエチレン系樹脂フィルムであることが示されている。
・透明性及び光沢度について
表7及び図6に示す、透明性の比較は、ヘイズの値により行う。ヘイズ値が小さい方が透明性は高い。比較例10〜12、比較例14、15に示す、従来の直鎖状の低密度ポリエチレン(LLDPE)や、比較例13に示す多分岐構造ベースのアイオノマー樹脂を用いたフィルムに比べて、本願の実施例17〜20の直鎖状の構造を有するアイオノマーを用いたフィルムは、30μmの厚さに成形した際の、ヘイズ値が0.2%〜1.2%という、飛躍的に優れたヘイズを有するエチレン系樹脂フィルムであることが示されている。この領域の透明性を有するエチレン系樹脂フィルムとしては、ほぼ未到達の領域であり、透明性が高いフィルムとして知られている20μmのOPPフィルム(ポリプロピレン延伸フィルム)の値1.2%と比べても、より優れている。
表7及び図7に示す、光沢度の比較は、グロス値により行う。グロス値が大きい方が光沢度は高い。比較例10〜12、比較例14、15に示す、従来の直鎖状の低密度ポリエチレン(LLDPE)や、比較例13に示す多分岐構造ベースのアイオノマー樹脂を用いたフィルムに比べて、本願の実施例17〜20の直鎖状の構造を有するアイオノマーを用いたフィルムは、30μmの厚さに成形した際の、グロス値が137.8〜145.4%と、飛躍的に優れたグロス値を有するエチレン系樹脂フィルムであることが示されている。この領域の光沢度を有するエチレン系樹脂フィルムとしては、ほぼ未到達の領域であり、光沢度が高いフィルムとして知られている20μmのOPPフィルム(ポリプロピレン延伸フィルム)の値135.5%と比べても、より優れている。
本発明のアイオノマーを用いたフィルムは、既存ポリエチレンや既存アイオノマーを用いて作成したフィルムと比較して、フィルムの光沢、透明性、引張強度、衝撃強度、突き刺し強度、耐ピンホール性、ヒートシール強度に優れる。本発明のフィルムは、包装用フィルムとして用いることができ、種々の包装材、例えば食品包装材、医療用包装材、工業材料包装材等として好適に用いることができる。

Claims (19)

  1. エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、
    カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)を必須構成単位として含む共重合体(P)中の、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されてなり、
    回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度〜75度であることを特徴とするアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物。
  2. エチレン及び/又は炭素数3〜20のα−オレフィンに由来する構造単位(A)と、
    カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基を有するモノマーに由来する構造単位(B)と、前記構造単位(A)と前記構造単位(B)以外の、分子構造中に炭素−炭素二重結合を1つ以上有する化合物である構造単位(C)を必須構成単位として含む共重合体(P)中の、カルボキシル基及び/又はジカルボン酸無水物基の少なくとも一部が周期表1族、2族、又は12族から選ばれる少なくとも1種の金属イオンを含有する金属含有カルボン酸塩に変換されてなり、
    回転式レオメータで測定した複素弾性率の絶対値G=0.1MPaにおける位相角δが、50度〜75度であることを特徴とするアイオノマーを含むフィルム用樹脂組成物。
  3. 前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、下記一般式(1)で表される非環状モノマー又は下記一般式(2)で表される環状モノマーであることを特徴とする、請求項2に記載のフィルム用樹脂組成物。

    [一般式(1)中、T〜Tはそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基であり、
    は、水酸基で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数2〜20のエステル基で置換された炭素数3〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜20のエステル基、炭素数炭素数3〜20のシリル基、ハロゲン原子、又は、シアノ基からなる群より選択される置換基である。]

    [一般式(2)中、R〜R12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R及びR10、並びに、R11及びR12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R又はR10と、R11又はR12とは、互いに環を形成していてもよい。
    また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R〜Rは、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
  4. 前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、前記一般式(1)で表される非環状モノマーであることを特徴とする請求項3に記載のフィルム用樹脂組成物。
  5. 前記共重合体(P)中の前記構造単位(C)が、前記一般式(2)で表される環状モノマーであることを特徴とする請求項3に記載のフィルム用樹脂組成物。
  6. 前記共重合体(P)の13C−NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり50個以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  7. 前記共重合体(P)の13C−NMRにより算出されるメチル分岐数が、炭素1,000個当たり5個以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  8. 前記共重合体(P)が、共重合体中に前記構造単位(B)を2〜20mol%(前記共重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  9. 前記共重合体(P)が、共重合体中に前記構造単位(C)を0.001mol%〜20.0mol%(前記共重合体を構成する全構成単位の合計を100mol%とする)含むことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  10. 前記構造単位(A)が、エチレンに由来する構造単位であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  11. 前記金属イオンが、周期表1族の金属イオンであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  12. 前記金属イオンが、周期表12族の金属イオンであることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  13. 前記共重合体(P)が周期表第8〜11族の遷移金属を含む遷移金属触媒を用いて製造された前駆体共重合体を加水分解して得られた共重合体であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物。
  14. 前記遷移金属触媒がリンスルホン酸又はリンフェノール配位子とニッケル又はパラジウムからなる遷移金属触媒であることを特徴とする、請求項13に記載のフィルム用樹脂組成物。
  15. 請求項1〜14のいずれか1項に記載のフィルム用樹脂組成物を用いて成形されたエチレン系フィルム。
  16. エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、−20℃におけるフィルムインパクトが20J/mm以上であり、かつ、MD方向における引張弾性率が、150MPa以上であることを特徴とする、エチレン系フィルム。
  17. エチレン系樹脂を樹脂成分とするフィルムであって、厚さ30μmに成形して測定した際の、シール温度120℃、シール圧力0.2MPa、シール時間1秒、下部シールバー温度60℃におけるヒートシール強度が、10N/15mm以上であることを特徴とする、エチレン系フィルム。
  18. エチレン系樹脂を樹脂成分とするインフレーションフィルムであって、厚さ30μmに成形したときの、ヘイズが2%以下であることを特徴とする、エチレン系フィルム。
  19. エチレン系樹脂を樹脂成分とするインフレーションフィルムであって、厚さ30μmに成形したときの、グロス(20°)が、120%以上であることを特徴とする、エチレン系フィルム。
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