以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
なお、本発明における放射線には、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。以下の実施形態では、放射線の一例としてX線を用いた装置を説明する。したがって、以下では、放射線、放射線画像、放射線エネルギー、放射線スペクトル、放射線量、放射線発生装置、放射線撮像装置、放射線撮像システムとして、それぞれX線、X線画像、X線エネルギー、X線スペクトル、X線量、X線発生装置、X線撮像装置、X線撮像システムとして説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る、放射線撮像システムの一例としてのX線撮像システムの構成例を示すブロック図である。第1実施形態のX線撮像システムは、X線発生装置101、X線制御装置102、撮像制御装置103、X線撮像装置104を備える。
X線発生装置101は、X線を発生し、被写体を曝射する。X線制御装置102は、X線発生装置101におけるX線の発生を制御する。撮像制御装置103は、例えば、1つまたは複数のプロセッサー(CPU)とメモリを有し、プロセッサーがメモリに格納されたプログラムを実行してX線画像の取得及び画像処理を行う。なお、撮像制御装置103による画像処理を含む各処理は、専用のハードウエアにより実現されてもよいし、ハードウエアとソフトウエアの協働により実現されてもよい。X線撮像装置104は、X線を可視光に変換する蛍光体105と、可視光を検出する二次元検出器106を有する。二次元検出器は、X線量子を検出する画素20をX列×Y行のアレイ状に配置したセンサであり、画像情報を出力する。
撮像制御装置103は、上述したプロセッサーにより放射線画像を処理する画像処理装置として機能する。取得部131、補正部132、信号処理部133、画像処理部134は、画像処理装置としての機能構成例を示している。取得部131は、被写体に放射線を照射して撮影を行うことで得られた互いに異なる複数の放射線エネルギーに対応した複数の放射線画像を取得する。補正部132は、取得部131により取得された複数の放射線画像を補正してエネルギーサブトラクション処理で用いられる複数の画像を生成する。また、補正部132は、線量に依存して生じる誤差、被写体の厚みに依存して生じる誤差、および放射線のエネルギーに依存して生じる誤差のうちの少なくとも何れかを低減するための補正を行う。補正部132の詳細については後述する。信号処理部133は、補正部132により生成された複数の画像を用いて物質特性画像を生成する。物質特性画像とは、例えば骨と軟部組織というように物質を分離して表す物質分離画像、実効原子番号とその面密度を表す物質識別画像など、エネルギーサブトラクション処理において取得される画像である。信号処理部133の詳細は後述する。画像処理部134は、取得された物質特性画像を用いて、仮想単色X線画像を生成する。画像処理部134の詳細は後述する。
図2は、第1実施形態に係る画素20の等価回路図である。画素20は、光電変換素子201と、出力回路部202とを含む。光電変換素子201は、典型的にはフォトダイオードでありうる。出力回路部202は、増幅回路部204、クランプ回路部206、サンプルホールド回路部207、選択回路部208を含む。
光電変換素子201は、電荷蓄積部を含み、該電荷蓄積部は、増幅回路部204のMOSトランジスタ204aのゲートに接続されている。MOSトランジスタ204aのソースは、MOSトランジスタ204bを介して電流源204cに接続されている。MOSトランジスタ204aと電流源204cとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ204bは、そのゲートに供給されるイネーブル信号ENがアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
図2に示す例では、光電変換素子201の電荷蓄積部およびMOSトランジスタ204aのゲートが共通のノードを構成していて、このノードは、電荷蓄積部に蓄積された電荷を電圧に変換する電荷電圧変換部として機能する。即ち、電荷電圧変換部には、電荷蓄積部に蓄積された電荷Qと電荷電圧変換部が有する容量値Cとによって定まる電圧V(=Q/C)が現れる。電荷電圧変換部は、リセットスイッチ203を介してリセット電位Vresに接続されている。リセット信号PRESがアクティブレベルになると、リセットスイッチ203がオンして、電荷電圧変換部の電位がリセット電位Vresにリセットされる。
クランプ回路部206は、リセットした電荷電圧変換部の電位に応じて増幅回路部204によって出力されるノイズをクランプ容量206aによってクランプする。つまり、クランプ回路部206は、光電変換素子201で光電変換により発生した電荷に応じてソースフォロア回路から出力された信号から、このノイズをキャンセルするための回路である。このノイズはリセット時のkTCノイズを含む。クランプは、クランプ信号PCLをアクティブレベルにしてMOSトランジスタ206bをオン状態にした後に、クランプ信号PCLを非アクティブレベルにしてMOSトランジスタ206bをオフ状態にすることによってなされる。クランプ容量206aの出力側は、MOSトランジスタ206cのゲートに接続されている。MOSトランジスタ206cのソースは、MOSトランジスタ206dを介して電流源206eに接続されている。MOSトランジスタ206cと電流源206eとによってソースフォロア回路が構成されている。MOSトランジスタ206dは、そのゲートに供給されるイネーブル信号EN0がアクティブレベルになるとオンしてソースフォロア回路を動作状態にするイネーブルスイッチである。
光電変換素子201で光電変換により発生した電荷に応じてクランプ回路部206から出力される信号は、光信号として、光信号サンプリング信号TSがアクティブレベルになることによってスイッチ207Saを介して容量207Sbに書き込まれる。電荷電圧変換部の電位をリセットした直後にMOSトランジスタ206bをオン状態とした際にクランプ回路部206から出力される信号は、クランプ電圧である。ノイズ信号は、ノイズサンプリング信号TNがアクティブレベルになることによってスイッチ207Naを介して容量207Nbに書き込まれる。このノイズ信号には、クランプ回路部206のオフセット成分が含まれる。スイッチ207Saと容量207Sbによって信号サンプルホールド回路207Sが構成され、スイッチ207Naと容量207Nbによってノイズサンプルホールド回路207Nが構成される。サンプルホールド回路部207は、信号サンプルホールド回路207Sとノイズサンプルホールド回路207Nとを含む。
駆動回路部が行選択信号をアクティブレベルに駆動すると、容量207Sbに保持された信号(光信号)がMOSトランジスタ208Saおよび行選択スイッチ208Sbを介して信号線21Sに出力される。また、同時に、容量207Nbに保持された信号(ノイズ)がMOSトランジスタ208Naおよび行選択スイッチ208Nbを介して信号線21Nに出力される。MOSトランジスタ208Saは、信号線21Sに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。同様に、MOSトランジスタ208Naは、信号線21Nに設けられた不図示の定電流源とソースフォロア回路を構成する。MOSトランジスタ208Saと行選択スイッチ208Sbによって信号用選択回路部208Sが構成され、MOSトランジスタ208Naと行選択スイッチ208Nbによってノイズ用選択回路部208Nが構成される。選択回路部208は、信号用選択回路部208Sとノイズ用選択回路部208Nとを含む。
画素20は、隣接する複数の画素20の光信号を加算する加算スイッチ209Sを有してもよい。加算モード時には、加算モード信号ADDがアクティブレベルになり、加算スイッチ209Sがオン状態になる。これにより、隣接する画素20の容量207Sbが加算スイッチ209Sによって相互に接続されて、光信号が平均化される。同様に、画素20は、隣接する複数の画素20のノイズを加算する加算スイッチ209Nを有してもよい。加算スイッチ209Nがオン状態になると、隣接する画素20の容量207Nbが加算スイッチ209Nによって相互に接続されて、ノイズが平均化される。加算部209は、加算スイッチ209Sと加算スイッチ209Nを含む。
また、画素20は、感度を変更するための感度変更部205を有してもよい。画素20は、例えば、第1感度変更スイッチ205aおよび第2感度変更スイッチ205'a、並びにそれらに付随する回路素子を含みうる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになると、第1感度変更スイッチ205aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第1付加容量205bの容量値が追加される。これによって画素20の感度が低下する。第2変更信号WIDE2がアクティブレベルになると、第2感度変更スイッチ205'aがオンして、電荷電圧変換部の容量値に第2付加容量205'bの容量値が追加される。これによって画素201の感度が更に低下する。このように画素20の感度を低下させる機能を追加することによって、より大きな光量を受光することが可能となり、ダイナミックレンジを広げることができる。第1変更信号WIDEがアクティブレベルになる場合には、イネーブル信号ENwをアクティブレベルにして、MOSトランジスタ204aに変えてMOSトランジスタ204'aをソースフォロア動作させてもよい。
X線撮像装置104は、二次元検出器106から以上のような画素回路の出力を読み出し、不図示のAD変換器でデジタル値に変換した後、撮像制御装置103に画像を転送する。
次に、上述した構成を備えた第1実施形態のX線撮像システムの動作について説明する。図3は、第1実施形態に係るX線撮像システムにおいてエネルギーサブトラクションに提供するための、互いにエネルギーの異なる複数のX線画像を得る場合のX線撮像装置104の駆動タイミングを示す。図3中の波形は横軸を時間として、X線の曝射、同期信号、光電変換素子201のリセット、サンプルホールド回路207、信号線21からの画像の読み出しのタイミングを示している。
リセット信号により光電変換素子201のリセットが行われてからX線が曝射される。X線の管電圧は理想的には矩形波となるが、管電圧の立ち上がりと立下りには有限の時間がかかる。特に、パルスX線で曝射時間が短い場合は、管電圧はもはや矩形波とはみなせず、X線301〜303に示すような波形となる。立ち上がり期のX線301、安定期のX線302、立下り期のX線303ではそれぞれX線のエネルギーが異なる。したがって、サンプルホールドによって区切られる期間の放射線に対応したX線画像を得ることにより、互いにエネルギーが異なる複数種類のX線画像が得られる。
X線撮像装置104は、立ち上がり期のX線301が曝射された後に、ノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、さらに安定期のX線302が曝射された後に信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207Nには立ち上がり期のX線301の信号(R1)が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302の信号(B)の和(R1+B)が保持されている。従って、安定期のX線302の信号に対応した画像304が読み出される。
次に、X線撮像装置104は、立下り期のX線303の曝射と、画像304の読み出しとが完了してから、再び信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、光電変換素子201のリセットを行い、再びノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207NにはX線が曝射されていない状態の信号が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302と立下り期のX線303の信号(R2)の和(R1+B+R2)が保持されている。従って、立ち上がり期のX線301の信号と安定期のX線302の信号と立下り期のX線303の信号に対応した画像306が読み出される。その後、画像306と画像304の差分を計算することで、立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303の和に対応した画像305が得られる。この計算は、X線撮像装置104で行われてもよいし、撮像制御装置103で行われてもよい。
サンプルホールド回路207及び光電変換素子201のリセットを行うタイミングは、X線発生装置101からX線の曝射が開始されたことを示す同期信号307を用いて決定される。X線の曝射開始を検出する方法としては、X線発生装置101の管電流を測定し、電流値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定する構成を用いることができるがこれに限られるものではない。例えば、光電変換素子201のリセットが完了した後、画素20を繰り返して読み出し、画素値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定することによりX線の曝射開始を検出する構成が用いられてもよい。あるいは、例えば、X線撮像装置104に二次元検出器106とは異なるX線検出器を内蔵し、その測定値が予め設定された閾値を上回るか否かを判定することによりX線の曝射開始を検出する構成が用いられてもよい。いずれの方式の場合も、X線の曝射開始を示す同期信号307の入力から予め指定した時間が経過した後に、信号サンプルホールド回路207Sのサンプリング、ノイズサンプルホールド回路207Nのサンプリング、光電変換素子201のリセットが行われる。
以上のようにして、パルスX線の安定期に対応した画像304と、立ち上がり期と立下り期の和に対応した画像305が得られる。これら二枚のX線画像を形成する際に曝射されたX線のエネルギーは互いに異なるため、これらX線画像間で演算を行うことでエネルギーサブトラクション処理を行うことができる。
図4は、第1実施形態に係るX線撮像システムにおいてエネルギーサブトラクションに提供するための、互いにエネルギーの異なる複数のX線画像を得る、図3とは異なるX線撮像装置104の駆動タイミングを示す。図3とは、X線発生装置101の管電圧を能動的に切り替えている点で異なる。
まず、光電変換素子201のリセットが行われた後、X線発生装置101は低エネルギーのX線401の曝射を行う。この状態で、X線撮像装置104は、ノイズサンプルホールド回路207Nによりサンプリングを行う。その後、X線発生装置101は、管電圧を切り替えて高エネルギーのX線402の曝射を行う。この状態で、X線撮像装置104は、信号サンプルホールド回路207Sによりサンプリングを行う。その後、X線発生装置101は、管電圧を切り替えて低エネルギーのX線403の曝射を行う。X線撮像装置104は、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207Nには低エネルギーのX線401の信号(R1)が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402の信号(B)の和(R1+B)が保持されている。従って、高エネルギーのX線402の信号に対応した画像404が読み出される。
次に、X線撮像装置104は、低エネルギーのX線403の曝射と、画像404の読み出しとが完了してから、再び信号サンプルホールド回路207Sでサンプリングを行う。その後、X線撮像装置104は、光電変換素子201のリセットを行い、再びノイズサンプルホールド回路207Nでサンプリングを行い、信号線21Nと信号線21Sの差分を画像として読み出す。このとき、ノイズサンプルホールド回路207NにはX線が曝射されていない状態の信号が保持され、信号サンプルホールド回路207Sには低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402と低エネルギーのX線403の信号(R2)の和(R1+B+R2)が保持されている。従って、低エネルギーのX線401の信号と高エネルギーのX線402の信号と低エネルギーのX線403の信号に対応した画像406が読み出される。
その後、画像406と画像404の差分を計算することで、低エネルギーのX線401と低エネルギーのX線403の和に対応した画像405が得られる。この計算は、X線撮像装置104で行われてもよいし、撮像制御装置103で行われてもよい。同期信号407については、図3と同様である。このように、管電圧を能動的に切り替えながら画像を取得することで、図3の方法に比べて低エネルギーと高エネルギーの放射線画像の間のエネルギー差をより大きくすることが出来る。
次に、撮像制御装置103によるエネルギーサブトラクション処理について説明する。第1実施形態におけるエネルギーサブトラクション処理は、補正部132による補正処理、信号処理部133による信号処理、画像処理部134による画像処理の3段階に分かれている。以下、それぞれの処理について説明する。
(補正処理の説明)
補正処理は、X線撮像装置104から取得された複数の放射線画像を処理してエネルギーサブトラクション処理における後述の信号処理で用いられる複数の画像を生成する処理である。図5(a)に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理のための補正処理を示す。まず、取得部131は、X線撮像装置104にX線を曝射しない状態での撮像を行わせ、図3または図4に示した駆動で画像を取得する。この駆動により2枚の画像が読み出される。以下、1枚目の画像(画像304または画像404)をF_ODD、2枚目の画像(画像306または画像406)をF_EVENとする。F_ODDとF_EVENは、X線撮像装置104の固定パターンノイズ(FPN:Fixed Pattern Noise)に対応する画像である。
次に、取得部131は、被写体がない状態でX線撮像装置104にX線を曝射して撮像を行わせ、図3又は図4に示した駆動によりX線撮像装置104から出力されるゲイン補正用の画像を取得する。この駆動により、上記と同様に2枚の画像が読み出される。以下、1枚目のゲイン補正用の画像(画像304または画像404)をW_ODD、2枚目のゲイン補正用の画像(画像306または画像406)をW_EVENとする。W_ODDとW_EVENは、X線撮像装置104のFPNとX線による信号の和に対応する画像である。補正部132は、W_ODDからF_ODDを、W_EVENからF_EVENを減算することで、X線撮像装置104のFPNが除去された画像WF_ODDとWF_EVENを得る。これをオフセット補正と呼ぶ。
WF_ODDは安定期のX線302に対応する画像であり、WF_EVENは立ち上がり期のX線301、安定期のX線302、立下り期のX線303の和に対応する画像である。従って、補正部132は、WF_EVENからWF_ODDを減算することで、立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303の和に対応する画像を得る。このように、複数枚の画像の減算により、サンプルホールドによって区切られる特定の期間のX線に対応した画像を得る処理を色補正と呼ぶ。立ち上がり期のX線301と立下り期のX線303のエネルギーは、安定期のX線302のエネルギーに比べて低い。従って、色補正により、WF_EVENからWF_ODDを減算することで、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Lowが得られる。また、WF_ODDから、被写体がない場合の高エネルギー画像W_Highが得られる。
次に、取得部131は、被写体がある状態でX線撮像装置104にX線を曝射して撮像を行わせ、図3または図4に示した駆動によりX線撮像装置104から出力される画像を取得する。このとき2枚の画像が読み出される。以下、1枚目の画像(画像304または画像404)をX_ODD、2枚目の画像(画像306または画像406)をX_EVENとする。補正部132は、被写体がない場合と同様のオフセット補正および色補正を行うことで、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Lowと、被写体がある場合の高エネルギー画像X_Highを得る。
ここで、被写体の厚みをd、被写体の線減弱係数をμ、被写体がない場合の画素20の出力をI
0、被写体がある場合の画素20の出力をIとすると、以下の[数1]式が成り立つ。
[数1]を変形すると、以下の[数2]式が得られる。[数2]の右辺は被写体の減弱率を示す。被写体の減弱率は0〜1の間の実数である。
従って、補正部132は、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Lowを、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Lowで除算することで、低エネルギーにおける減弱率の画像Lを得る。同様に、補正部132は、被写体がある場合の高エネルギー画像X_Highを、被写体がない場合の高エネルギー画像W_Highで除算することで、高エネルギーにおける減弱率の画像Hを得る。このように、被写体ありの状態で得られた放射線画像に基づいて得られた画像を被写体なしの状態で得られた放射線画像に基づいて得られた画像で除算することにより減弱率の画像を取得する処理をゲイン補正と呼ぶ。以上が、第1実施形態の補正部132による補正処理(但し、後述の、線量依存補正を除く)の説明である。
(信号処理の説明)
図5(b)に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理の信号処理のブロック図を示す。信号処理部133は、補正部132から得られる複数の画像を用いて物質特性画像を生成する。以下では、骨の厚さの画像Bと軟部組織の厚さの画像Sからなる物質分離画像の生成を説明する。信号処理部133は、以下の処理により図5(a)に示した補正によって得られた低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、骨の厚さの画像Bと軟部組織の厚さの画像Sを求める。
まず、X線フォトンのエネルギーをE、エネルギーEにおけるフォトン数をN(E)、骨の厚さをB、軟部組織の厚さをS、エネルギーEにおける骨の線減弱係数をμ
B(E)、エネルギーEにおける軟部組織の線減弱係数をμ
S(E)、減弱率をI/I
0とすると、以下の[数3]式が成り立つ。
エネルギーEにおけるフォトン数N(E)は、X線のスペクトルである。X線のスペクトルは、シミュレーション又は実測により得られる。また、エネルギーEおける骨の線減弱係数μB(E)とエネルギーEおける軟部組織の線減弱係数μS(E)は、それぞれNIST(National Institute of Standards and Technology)などのデータベースから得られる。したがって、[数3]によれば、任意の骨の厚さB、軟部組織の厚さS、X線のスペクトルN(E)における減弱率I/I0を計算することが可能である。
ここで、低エネルギーのX線におけるスペクトルをN
L(E)、高エネルギーのX線におけるスペクトルをN
H(E)とすると、以下の[数4]の各式が成り立つ。なお、Lは低エネルギーの減弱率の画像における画素値、Hは高エネルギーの減弱率の画像における画素値である。
[数4]の非線形連立方程式を解くことで、骨の厚みBと軟部組織の厚みSが求まる。非線形連立方程式を解く代表的な方法として、ここではニュートンラフソン法を用いた場合について説明する。まず、ニュートンラフソン法の反復回数をm、m回目の反復後の骨の厚みをBm、m回目の反復後の軟部組織の厚みをSmとしたとき、m回目の反復後の高エネルギーの減弱率Hm、m回目の反復後の低エネルギーの減弱率Lmは以下の[数5]で表される。
また、厚みが微小に変化したときの減弱率の変化率を、以下の[数6]で表す。
このとき、m+1回目の反復後の骨の厚みB
m+1と軟部組織の厚みS
m+1を、高エネルギーの減弱率Hと低エネルギーの減弱率Lを用いて、以下の[数7]で表す。
2x2の行列の逆行列は、行列式をdetとすると、クラメルの公式より以下の[数8]で表される。
従って、[数7]に[数8]を代入すると、以下の[数9]が求まる。
以上のような計算を繰り返すことで、m回目の反復後の高エネルギーの減弱率Hmと実測した高エネルギーの減弱率Hの差分が限りなく0に近づいていく。低エネルギーの減弱率Lについても同様である。これによって、m回目の反復後の骨の厚みBmが骨の厚みBに収束し、m回目の軟部組織の厚みSmが軟部組織の厚みSに収束する。以上のようにして、[数4]に示した非線形連立方程式を解くことができる。従って、全ての画素について[数4]を計算することで、低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、骨の厚さの画像B、軟部組織の厚さの画像Sを得ることができる。
なお、第1実施形態では、骨の厚さBと軟部組織の厚さSを算出していたが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、水の厚さWと造影剤の厚さIを算出してもよい。すなわち、任意の二種類の物質の厚さに分解してもよい。また、図5(a)に示した補正によって得られた低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、実効原子番号Zの画像と面密度Dの画像を求めてもよい。実効原子番号Zとは混合物の等価的な原子番号のことであり、面密度Dとは被写体の密度[g/cm3]と被写体の厚み[cm]の積である。
また、第1実施形態では、ニュートンラフソン法を用いて非線形連立方程式を解いていた。しかしながら本発明はこのような形態に限定されない。例えば、最小二乗法や二分法などの反復解法を用いてもよい。また、第1実施形態では非線形連立方程式を反復解法で解いていたが、本発明はこのような形態に限定されない。様々な組み合わせの高エネルギーの減弱率Hと低エネルギーの減弱率Lに対する骨の厚みBや軟部組織の厚みSを事前に求めてテーブルを生成し、このテーブルを参照することで骨の厚みBや軟部組織の厚みSを高速に求める構成を用いても良い。
(画像処理の説明)
図5(c)に、第1実施形態に係るエネルギーサブトラクション処理の画像処理のブロック図を示す。第1実施形態の画像処理部134は、図5(b)に示した信号処理によって得られた骨の厚さの画像B、軟部組織の厚さの画像Sから、仮想単色X線画像を得る画像処理を行う。仮想単色X線画像とは、単一のエネルギーのX線を照射した場合に得られることが想定される画像のことである。例えば、仮想単色X線のエネルギーをE
Vとしたとき、仮想単色X線画像Vは以下の[数10]で求められる。
仮想単色X線画像は、エネルギーサブトラクションと三次元再構成を組み合わせたDual Energy CTで利用されている。このとき、仮想単色X線画像のCNR(Contrast−to−Noise Ratio)を向上させるために、仮想単色X線のエネルギーEVを変更する。例えば、骨の線減弱係数μB(E)は、軟部組織の線減弱係数μS(E)に比べて大きい。しかしながら、仮想単色X線のエネルギーEVが大きくなるほどその差は小さくなる。従って、骨画像のノイズによる仮想単色X線画像のノイズ増加が抑制される。一方で、仮想単色X線のエネルギーEVが小さくなるほど、μB(E)とμS(E)の差が大きくなるため、仮想単色X線画像のコントラストが大きくなる。すなわち、仮想単色X線画像のエネルギーEVには適切な値が存在する。
なお、第1実施形態では骨の厚さBと軟部組織の厚さSから仮想単色X線画像を生成していたが、本発明はこのような形態に限定されない。上述したように、実効原子番号Zと面密度Dを算出してから、実効原子番号Zと面密度Dを用いて仮想単色X線画像を生成してもよい。また、複数のエネルギーEVで生成した複数の仮想単色X線画像を合成することで、合成X線画像を生成してもよい。合成X線画像とは、任意のスペクトルのX線を照射した場合に得られることが想定される画像のことである。
また、第1実施形態の画像処理では仮想単色X線画像を生成していたが、本発明はこのような形態に限定されない。骨の厚さの画像Bや軟部組織の厚さの画像Sをそのまま表示してもよい。また、骨の厚さの画像Bや軟部組織の厚さの画像Sに、リカーシブフィルタ等の時間方向のフィルタや、ガウシアンフィルタ等の空間方向のフィルタをかけるなどして得られた画像を表示するようにしてもよい。また、造影剤を注入する前後の低エネルギーの画像(減弱率)と高エネルギーの画像(減弱率)を用いて、骨のDSA画像(Digital Subtraction Angiography)を得て、これを表示するようにしてもよい。すなわち、本実施形態における画像処理とは、信号処理後の画像に対して任意の演算を行う処理であると言える。
なお、DSA画像は、例えば次のようにして取得される。まず、造影剤を注入する前に、X線撮影を行って低エネルギーにおける減弱率の画像LMと高エネルギーにおける減弱率の画像HMを得る。そして、画像LMと画像HMから骨の厚さのマスク画像BMと軟部組織の厚さのマスク画像SMを求める。次に、造影剤を注入した後に撮影した低エネルギーにおける減弱率のライブ画像LLと高エネルギーにおける減弱率のライブ画像HLから、骨の厚さのライブ画像BLと軟部組織の厚さのライブ画像SLを求める。骨の厚さのライブ画像BLから骨の厚さのマスク画像BMを引くことで骨のDSA画像BDSAが得られる。
以上、本実施形態の補正処理、信号処理、画像処理について説明した。次に、補正部132により実行される、推定値に生じる誤差を低減する処理について説明する。図5(a)〜図5(c)を用いて説明したように、第1実施形態におけるエネルギーサブトラクション処理は、補正処理、信号処理、画像処理の3ステップで構成される。このとき、[数4]を解くことで求めた骨の厚みBや軟部組織の厚みSを、厚みの推定値とする。また、定規等で計測した厚みを、厚みの真値とする。補正と信号処理が適切に行われれば、厚みの推定値と厚みの真値は一致するはずである。しかしながら本発明者らが検討を行ったところ、上記のエネルギーサブトラクション処理により得られた厚みの推定値は、厚みの真値に必ずしも一致しないことが判明した。厚みの推定値と真値の誤差が大きくなると、画像処理後の画像にアーチファクトが生じるなどの課題がある。
本発明者らが検討を行った結果、誤差の原因として、散乱線、減弱率の線量依存、減弱率の厚み依存と減弱率のスペクトル依存などがあることが判明した。本実施形態においては、説明を簡略化するため、散乱線については除去または補正済であるものとし、それ以外の原因による誤差を低減する方法を説明する。すなわち、補正部132は、線量に依存して生じる誤差、被写体の厚みに依存して生じる誤差、および放射線のエネルギーに依存して生じる誤差のうちの少なくとも何れかを低減するように、複数の画像を生成する過程(図5(a))で得られる画像の各画素の画素値または減弱率を補正する処理を含む。なお、第1実施形態では減弱率の線量依存に係る補正を説明する。減弱率の厚みおよびスペクトルへの依存に係る補正については、第2実施形態で説明する。
図6(a)に、第1実施形態に係る減弱率の線量依存を示す。減弱率I/I0は、[数3]で表される。ここで、X線発生装置101の管電圧を一定にしたまま管電流や曝射時間を調節する、あるいはX線発生装置101とX線撮像装置104の距離を調節するなどして、スペクトルN(E)をα倍(0<α)にする。この場合、[数3]の右辺の分母と分子が共にα倍になって相殺される。すなわち、減弱率I/I0は、線量が変化しても一定になると考えられる。しかしながら、管電圧やフィルタ等を変えず、すなわちスペクトルを変えずに線量のみを変化させながら減弱率を測定したところ、図6(a)のように、減弱率が線量の変化に対して一定にならないことが判明した。
図6(b)に、第1実施形態に係るX線撮像装置104から得られる画素値の線量依存を示す。X線撮像装置104の画素20から読み出された画素値は、理想的には線量に比例した値となるはずである。しかしながら、管電圧やフィルタ等を変えず、すなわちスペクトルを変えずに線量を変化させながら画素値を測定したところ、図6(b)のように、画素値の測定値が理想の直線から外れることが判明した。このようなX線撮像装置104の積分非直線性誤差(INL:Integral Non−Linearity)は、図6(a)のように減弱率が一定にならないことの一因である。
第1実施形態では、補正部132が、図6(b)における測定値が理想の直線(所定の直線)に近づくように補正を行うことにより、線量の変化に対して減弱率が一定になるようにする。以下、このような補正を線量依存補正と呼ぶ。図6(c)に、第1実施形態に係る線量依存補正の補正係数を示す。第1実施形態では、画素の測定値に対して図6(c)のような補正係数をかけることで、線量依存補正によって、図6(b)の測定値が理想の直線に近づき、図6(a)における減弱率が一定に近づく。例えば、画素の測定値をx(画素値x)としたとき、画素値xの補正係数をg(x)とすると、補正後の画素値f(x)は以下の[数11]で表される。
画素値の補正係数g(x)としては、例えば、画素値の測定値xの二次関数で近似することが考えられる。すなわち、基準となる画素値をzとすると、画素値の補正係数g(x)は以下の[数12]で表される。[数12]より、基準となる画素値zにおける補正係数g(z)は1となる。なお、二次関数で近似したときの係数aおよび係数bは、図6(b)の線量と画素値の関係から求めることができる。
なお、第1実施形態では画素値の補正係数g(x)を二次関数で近似する例を示したが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、画素値の補正係数g(x)を指数関数または対数などを用いて近似してもよいし、補正後の画素値f(x)を三次関数で近似するなどしてもよい。すなわち、補正後の画素値f(x)や画素値の補正係数g(x)を任意の関数で近似してもよい。また、線量と測定値の関係を複数点測定し、それらを補間して求めてもよい。
また、補正後の画素値f(x)や補正係数g(x)を近似する関数に関して、二次元検出器106の画素毎に関数を変えてもよいし、二次元検出器106を複数の領域に分割して領域ごとで共通の関数を用いるようにしてもよい。ただし、計算を簡略化する観点から、二次元検出器106の全ての画素で共通の関数を用いるのが好ましい。また、画素値の測定値xを入力すると補正後の画素値f(x)を返すようなテーブルを用いて補正を行うように構成してもよい。
なお、図6(b)に示した線量と画素値の関係を測定する方法としては、X線発生装置101の管電流又は曝射時間を変更しながら撮影を行い、画素値を得る構成が用いられ得る。線量は管電流と曝射時間の積に比例するので、図6(b)における理想の直線は、ある管電流と曝射時間で撮影したときの測定値と原点とを結ぶ直線となる。また、線量を変更する方法として、X線発生装置101から管電流一定で連続X線を曝射しながら、二次元検出器106の撮影間隔(露出時間)を変更して撮影する構成も好適に用いられる。この場合、線量は管電流と撮影間隔の積に比例するものとして、理想の直線を算出する。
補正係数g(x)を求める方法は、図6(b)に示した線量と画素値の関係を測定する方法に限定されない。例えば、図6(a)に示すような、被写体を置いたときの減弱率と線量の関係を測定し、減弱率が線量によらず一定になるような補正係数g(x)を定義するようにしてもよい。
次に、エネルギーサブトラクション処理における線量依存補正の実行タイミングを説明する。以下では、特に、図3や図4で示したように、サンプルホールドを用いて撮影を行う構成へ上述した本実施形態の線量依存補正を適用する場合を説明する。すなわち、1ショットの放射線の曝射の間に複数回のサンプルホールドを行って得られた複数枚の放射線画像を取得して、エネルギーサブトラクション処理に提供する複数の画像を生成する構成における、線量依存補正の実行のタイミングについて説明する。
図7(a)に、第1実施形態に係る補正処理の動作例を示す。まず、図5(a)に示したエネルギーサブトラクション処理における補正処理と同様に、オフセット補正と色補正を行い、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Lowと被写体がない場合の高エネルギー画像W_Highを得る。同様に、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Lowと被写体がない場合の高エネルギー画像X_Highを得る。撮像制御装置103は、オフセット補正と色補正を経て得られたこれらの画像に対して、図6(c)で示した線量依存補正を行う。こうして、線量依存補正後の、被写体がない場合の低エネルギー画像W_Low'と被写体がない場合の高エネルギー画像W_High'、被写体がある場合の低エネルギー画像X_Low'と被写体がある場合の高エネルギー画像X_High'が得られる。
その後、線量依存補正後の画像を用いて図5(a)で説明したゲイン補正を行うことで、低エネルギーにおける減弱率の画像Lと、高エネルギーにおける減弱率の画像Hが得られる。色補正後の画像に対して線量依存補正を行うことで、低エネルギーにおける減弱率Lと、高エネルギーにおける減弱率Hが線量に依存しなくなる(または依存性が低減する)。そのため、図5(b)に示した信号処理によって算出される骨の厚みBや軟部組織の厚みSの推定値が、真値に近づくことが期待される。
なお、図7(a)では、色補正の実行後に線量依存補正を行っている(オフセット補正→色補正→線量依存補正→ゲイン補正の順番で処理が行われている)が、これに限られるものではない。例えば、図7(b)に示されるように、色補正の実行前に線量依存補正を行う(オフセット補正→線量依存補正→色補正→ゲイン補正の順番で処理を行う)ようにしてもよい。
図7(b)において、WF_ODDは高エネルギーのX線402に対応する画像であり、WF_EVENは低エネルギーのX線401、高エネルギーのX線402、低エネルギーのX線403の和に対応する画像である。したがって、低エネルギーのX線に対応する画像405を得るには、WF_EVENからWF_ODDを減算すること、すなわち色補正を行う必要がある。図7(b)では、色補正に先立って線量依存補正が行われる。WF_EVENとWF_ODDには線量依存があるため、図7(b)に示されるように線量依存補正を行ってから色補正を行うことも好ましい処理順である。このとき、WF_EVENとWF_ODD、XF_EVENとXF_ODDに対する線量依存補正の関数と係数を変えてもよい。ただし、計算を簡略化するという観点からは、WF_EVEN、WF_ODD、XF_EVEN、XF_ODDで共通の関数と係数を用いて線量依存補正を行う構成が好ましい。
<第2実施形態>
第1実施形態では、減弱率の線量依存性を補正する線量依存補正を説明した。第2実施形態では、減弱率の厚みに依存する誤差およびスペクトルに依存する誤差に対する補正について補正説明する。なお、X線撮像システム及びそれを構成する各装置の構成は第1実施形態と同様である。
図8(a)に、減弱率の厚み依存の例を示す。第1実施形態(図6(a)〜図6(c))に示した線量依存補正を行うことで、線量が変化しても減弱率が一定に保たれるようになる。しかしながら、管電圧やフィルタ等を変えず、すなわちスペクトルを変えずに被写体の厚みを変化させながら減弱率を測定したところ、図8(a)のように、減弱率の測定値が理想の曲線または直線から外れることが判明した。このような誤差の原因として、[数3]で示した減弱率の計算を行う際に用いるスペクトルN(E)や、エネルギーEにおける骨の線減弱係数μB(E)、エネルギーEにおける軟部組織の線減弱係数μS(E)が実際の値からずれていることが挙げられる。
このような誤差を防ぐために、スペクトルN(E)はスペクトロメータなどを用いて実測した値を用いることが望ましい。しかしながら、X線撮像装置104の外装にX線が吸収されてスペクトルN(E)が変化したり、蛍光体105で一部のX線が透過することでスペクトルN(E)が変化したりするなどの課題がある。したがって、誤差を防ぐために、X線撮像装置104におけるX線の吸収や透過を考慮したスペクトルN(E)を用いることが望ましい。本願発明者が検討を行ったところ、以上に示したスペクトルN(E)の修正を行っても依然として許容できない誤差が存在する場合があることが判明した。
そこで、第2実施形態の補正部132は、被写体の厚みに対する減弱率の変化が上記の所定の曲線または直線に一致するように減弱率の画像における各画素の減弱率を補正することにより、厚み依存性の補正を行う。例えば、図8(b)に、第2実施形態に係る厚み依存の補正係数を示す。第2実施形態では、減弱率の測定値に対して図8(b)のような補正係数をかけることで、図8(a)における減弱率の測定値が理想の曲線または直線に近づくように補正される。例えば、減弱率の測定値をyとしたとき、減弱率の補正係数をi(y)とすると、補正後の減弱率h(y)は以下の[数13]で表される。
減弱率の補正係数i(y)としては、減弱率の測定値yの二次関数で近似する構成が好適に用いられるが、これに限られるものではない。例えば、線量依存補正と同様、補正後の減弱率h(y)や減弱率の補正係数i(y)を任意の関数で近似してもよい。また、二次元検出器106の画素毎に関数を変えてもよいし、二次元検出器106を複数の領域に分けて領域ごとで共通の関数を用いるようにしてもよい。ただし、計算を簡略化するためには、二次元検出器106の全ての画素で共通の関数を用いる構成が好ましい。
次に、減弱率のスペクトル依存性に対する補正について説明する。図9(a)に、減弱率のスペクトル依存を示す。第1実施形態(図6(a)〜図6(c))で説明した線量依存補正を行うことで、線量が変化しても減弱率が一定に保たれるようになる。しかしながら、被写体の厚みを変えず、X線の管電圧を変えることでスペクトルN(E)の平均エネルギーを変化させながら減弱率を測定したところ、図9(a)のように、減弱率の測定値が理想の曲線または直線から外れることが判明した。このような誤差の原因は、図8(a)に関して上述した通りである。
そこで、第2実施形態の補正部132は、放射線の平均エネルギーに対する減弱率の変化が所定の曲線または直線に一致するように、減弱率の画像における各画素の減弱率を補正するエネルギー依存性の補正を行う。図9(b)に、第2実施形態に係るスペクトル依存の補正係数を示す。第2実施形態では、減弱率の測定値に対して図9(b)のような補正係数をかけることで、図9(a)における減弱率の測定値が理想の曲線または直線に近づくように補正を行う。例えば、減弱率の測定値をy、スペクトルN(E)の平均エネルギーをeとしたとき、減弱率の補正係数をk(e)とすると、補正後の減弱率j(e)は以下の[数14]で表される。
減弱率の補正係数k(e)は線量依存補正と同様、任意の関数で近似してよい。また、二次元検出器106の画素毎に関数を変えてもよいし、二次元検出器106の領域ごとで共通の関数を用いるようにしてもよい。ただし、計算を簡略化するためには、二次元検出器106の全ての画素で共通の関数を用いる構成が好ましい。
以上、第2実施形態では、説明を簡略化するために、厚み依存性とスペクトル依存性を独立に補正する方法を示した。しかしながらこのような形態に限られるものではない。例えば、骨の厚みBと軟部組織の厚みSとスペクトルN(E)ごとに減弱率を実測し、理想の減弱率の曲線に一致するような補正係数l(B,S,N(E))を求め、補正係数l(B,S,N(E))を減弱率の測定値に適用して補正するようにしてもよい。ここで、理想の減弱率の曲線は、例えば、物質特性画像において分離または識別される被写体(上記では骨、軟部組織)について、当該被写体の減弱係数と厚みとX線エネルギーに対応したX線スペクトルとから算出される減弱率の曲線である。減弱係数、X線スペクトルは公知のデータベースから取得可能である。なお、このとき、全ての骨の厚みBと軟部組織の厚みSとスペクトルN(E)ごとに補正係数l(B,S,N(E))を求めると、データ量が膨大となる。従って、複数の条件で取得した補正係数から補間によってその間の条件における補正係数を求めるようにしてもよい。以上に示した処理を、減弱率の補正と呼ぶものとする。
また、上記では、減弱率の測定値に対して図8(b)のような補正係数をかけることで、図8(a)における減弱率の測定値が理想の曲線または直線に近づくように補正を行う方法を示した。しかしながら本発明はこのような形態に限定されない。例えば、減弱率の測定値と計算値が一致するようにスペクトルN(E)を変形するようにしてもよい。すなわち、あるスペクトルN(E)において、複数種類の材質について、材質ごとに厚みの異なる複数の被写体を撮影し、測定された減弱率と[数2]または[数3]によって算出される減弱率が一致するように、放射線のスペクトルを変形するようにしてもよい。或いは、所定の材質、所定の厚みの被写体を異なる複数のX線エネルギーで撮影し、測定された減弱率と[数2]または[数3]によって算出される減弱率が一致するように、放射線のスペクトルを変形するようにしてもよい。これらの場合、変形された放射線スペクトルは撮像制御装置103により保持され、信号処理で用いられることになる。したがって、上述したようなゲイン補正後の画像に対して補正を行う処理は不要となり、第1実施形態で説明した補正処理(図7(a)、図7(b))を行った後に図5(b)に示される信号処理を実行すればよく、その信号処理において、変形されたスペクトルN(E)が用いられることになる。なお、放射線スペクトルを変形するための減弱率の測定において、第1実施形態で説明した、線量依存の誤差を補正する補正処理(図7(a)、図7(b))を行って減弱率画像を得ることが好ましい。
図10に、第2実施形態に係る撮像制御装置103が行う補正処理の動作例を示す。図7(b)で示したように、オフセット補正→線量依存補正→色補正→ゲイン補正の順番で補正が行われる。なお、図7(a)に示した順番(オフセット補正→色補正→線量依存補正→ゲイン補正)が用いられてもよい。図10ではさらに、ゲイン補正の後に減弱率の補正(減弱率の厚み依存および減弱率のスペクトル依存の補正)が行われ減弱率の画像H,Lがそれぞれ減弱率の画像H'、L'となる。減弱率の補正を行うことで、低エネルギーにおける減弱率Lと、高エネルギーにおける減弱率Hが厚みやスペクトルに依存しなくなる(または、依存性が低減する)ため、図5(b)に示した信号処理によって算出した骨の厚みBや軟部組織の厚みSの推定値が、真値に近づくことが期待される。
<第3実施形態>
第1実施形態、第2実施形態では、センサ出力やスペクトルを補正する方法について説明した。第3実施形態、第4実施形態では、X線発生装置101とX線撮像装置104の間の被写体以外の構成物による放射線(X線)の吸収が、構成物の個体ばらつきにより生じる誤差を低減する校正方法を提案する。X線吸収に影響する構成物の例として、第3実施形態では、X線を可視光に変換する蛍光体105を例示して説明する。第3実施形態に係る撮像システムの構成および画素20の等価回路図は、第1実施形態(図1、図2)と同様である。
図11(a)は、第3実施形態におけるX線撮影の状態を示す。X線発生装置101とX線撮像装置104との間に被写体1101が配置された状態でX線発生装置101からX線を照射することで、被写体110のX線画像が得られる。X線撮像装置104には、X線を可視光に変換する蛍光体105が配されており、蛍光体105によるX線の吸収が、エネルギーサブトラクション処理の精度に影響を及ぼす。X線発生装置101から曝射されたX線のエネルギーEにおけるスペクトルをN
0(E)、蛍光体105のエネルギーEにおける蛍光体の線減弱係数をμ
C(E)、厚さをd
C、充填率をP
Cとすると、以下の[数15]に示される式が成り立つ。
[数15]のX線スペクトルN(E)は、蛍光体105のX線吸収を考慮したスペクトルであり、X線スペクトルN0(E)と蛍光体105のX線吸収に関わるパラメータから得られる。X線発生装置101から照射されるX線のX線スペクトルN0(E)は、シミュレーション又は実測により得られる。また、蛍光体105のエネルギーEにおける線減弱係数μC(E)、厚さdC、充填率PCは設計値から得られる。さらに、エネルギーEにおける任意の物質の線減弱係数μ(E)は、NISTなどのデータベースから得られる。したがって、任意の物質の厚さD、X線のスペクトルN(E)における減弱率I/I0を計算することが可能である。なお、[数15]については、簡単のため線源弱係数のみを用いているが、実際の計算ではエネルギー吸収係数を考慮した方がより精度の高い結果が得られる。蛍光体105を透過しなかったX線([数15]によって示されるX線)がすべてセンサ出力に変換されるわけではない。したがって、センサ出力に変換されないX線を考慮すること、すなわちエネルギー吸収係数を考慮することで、精度向上が期待される。
図11(b)に、第3実施形態における補正係数を取得するための構成を示す。X線発生装置101とX線撮像装置104の間に校正用の試料1102が配置されている。このとき、X線の線減弱係数、密度、厚さが既知の試料1102を用いれば、[数3]をもとに試料1102の減弱率I/I0の計算値が得られる。また、図11(b)の構成で実際にX線撮影を行い、X線画像を取得することで試料1102の減弱率I/I0の実測値が得られる。
図11(c)に減弱率I/I0の実測の例を示す。取得されたX線画像1121は画素20の数に応じた、X列×Y行の2次元情報である。X線画像1121内の領域1122はX線が試料1102を透過してX線撮像装置104に入射した領域1124の一部であり、領域1123はX線が試料1102を透過せずにX線撮像装置104に入射した領域1125の一部である。このとき、領域1122内の画素20の出力平均値I、領域1123内の画素20の出力平均値I0を求めることで、減弱率I/I0の実測値が得られる。なお、減弱率I/I0を得るまでに、第1実施形態で説明したようなオフセット補正、色補正、線量依存補正、第2実施形態で説明したような厚み依存補正、エネルギー依存補正が行われてもよい。
以上のようにして試料1102について得られた減弱率I/I0の計算値と実測値は、一般には一致しない。減弱率の計算値に、蛍光体105の個体ばらつきによる誤差要因が含まれるためである。そこで、試料1102の減弱率I/I0の計算値と実測値が一致するような、蛍光体105の線減弱係数μC'(E)、厚さdC'、充填率PC'を求める。線減弱係数μC'(E)、厚さdC'、充填率PC'は、例えば、試料1102の減弱率I/I0の計算値と実測値の差分をもとに求めてもよいし、反復法で計算値を実測値に収束させて求めてもよい。
図12に、第3実施形態による補正処理のフローチャートを示す。S1201において、取得部131は、試料1102のX線画像として、図11(c)に示したようなX線画像1121を取得する。S1202において、補正部132は、X線画像1121の領域1122と領域1123の画素値を用いて減弱率(I/I0)を求め、実測値として保持する。一方、補正部132は、S1203において[数15]で使用されるパラメータ(線減弱係数μC(E)、厚さdC、充填率PC)の設計値を取得する。そして、補正部132は、S1204において、S1203で取得したパラメータと[数15]を用いて減弱率(I/I0)を計算する。
S1205において、補正部132は、S1202で取得された減弱率の実測値とS1204で取得された減弱率の計算値との差を計算する。そして、S1206において、補正部132は、S1205で計算された差に基づいて、対象物質(本例では蛍光体105)のパラメータの設計値に対する誤差を計算する。S1207において、補正部132は、S1206で算出された誤差を蛍光体105のパラメータに反映することにより、補正された線減弱係数μC'(E)、厚さdC'、充填率PC'を得る。蛍光体105のこれらの補正されたパラメータは、設計値に対する個体ばらつきが補正されたものである。従って、これら補正されたパラメータを[数15]に代入することで、蛍光体105の固体ばらつきが補正されたスペクトルN(E)が得られる。こうして得られたスペクトルN(E)を用いて[数4]を解くことで、算出した骨の厚みBや軟部組織の厚みSの推定値が、真値に近づくことが期待される。
S1208において、取得部131は、複数の異なるX線エネルギーにより被写体を撮影した複数のX線画像を取得し、補正部132は、例えば図7(a)、(b)で説明した処理を行って複数の異なるX線エネルギーに対応した複数の減弱率画像を得る。S1209において、信号処理部133は、S1207で生成された補正されたパラメータと[数15]を用いて、補正後のX線スペクトルN(E)を生成し、補正後のX線スペクトルN(E)を用いてエネルギーサブトラクション処理を行う。こうして、補正されたX線スペクトルを用いたエネルギーサブトラクション処理により物質分離演算が行われ、例えば、骨と軟部組織の厚み画像が得られる。
なお、減弱率I/I0の実測値(および計算値)のデータは、必要に応じてパターンを変えて複数取得するようにしてもよい。パターンを変える例としては、X線発生装置101で照射するX線のエネルギーを変える、試料1102の材料を変える、試料1102の厚みを変えること等があげられる。また、第3実施形態では、蛍光体105のX線吸収にかかわる3つのパラメータ(μC(E)、dC、PC)を補正する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、補正の対象となるパラメータはそれら3つのパラメータのうちの1つまたは2つであってもよいし、補正の対象となるパラメータをユーザが任意に選択できるようにしてもよい。例えば、蛍光体の厚み(dC)のみを補正するようにしてもよい。補正対象となるパラメータが増える程、必要な減弱率I/I0の実測値(および計算値)の数が増加するため、物質の設計ばらつきが小さく減弱率への影響が小さいパラメータは補正対象から除くようにしてもよい。また、質量減弱係数、密度といったX線の減弱に影響する他のパラメータを補正してもよい。
なお、設計値(μC(E)、dC、PC)と補正後の値(μC'(E)、dC'、PC')の差分ΔμC(E)、厚さΔdC、充填率ΔPCを補正値としたとき、それら補正値の絶対値(補正範囲)は設計ばらつきの範囲に制限するのが好ましい。補正値が非現実的な値をとることが防止されるからである。
また、第3実施形態では、試料1102の減弱率I/I0の実測値を取得する際に、X線画像1121に試料ありの領域1124、試料なしの領域1125を設け、各領域内において平均値を算出する方法を用いたが、これに限定されるものではない。例えば、試料ありの画像、試料なしの画像をそれぞれ取得するように撮影を複数回に分けて行うようにしてもよい。また、このとき、補正値を画素20ごとに取得し、画素単位で上述したパラメータの補正を行うようにしてもよい。このとき、補正値はX列×Y行の2次元情報となり、対象物体(本例では蛍光体105)の面内のばらつきも補正できる。
<第4実施形態>
第3実施形態では、蛍光体によるX線の吸収を考慮する構成を説明した。第4実施形態では、さらに、撮影の際に、放射線撮像装置101とX線撮像装置104(蛍光体105)の間に、被写体以外にX線を吸収する構成として、付加フィルタおよび/または散乱線除去用のグリッドが存在する場合について説明する。第4実施形態に係る撮像システムのブロック図および、画素20の等価回路図は、第1実施形態(図1、図2)と同様である。
図13(a)に、第4実施形態におけるX線撮影の構成例を示す。X線発生装置101とX線撮像装置104の間に被写体1101が配置される。また、X線発生装置101には付加フィルタ1301が装着されており、X線撮像装置104には散乱線除去用のグリッド1302が装着されている。付加フィルタ1301には、AlやCuといった金属性フィルタが好適に用いられ、低エネルギーのX線領域をカットする。グリッド1302は被写体1101で発生し得る散乱線を除去する。X線発生装置101から曝射されたX線のスペクトルをN
0(E)とし、付加フィルタ1301とグリッド1302を透過した後のX線のスペクトルをN'(E)とする。また、フィルタの厚さをd
F、グリッドの厚さをd
G、エネルギーEにおける骨の線減弱係数をμ
F(E)、エネルギーEにおけるグリッドの線減弱係数をμ
G(E)とすると、蛍光体105に到達するX線に関して、以下の[数16]の式が成り立つ。
さらに、蛍光体105の厚さをd
C、エネルギーEにおける蛍光体の線減弱係数をμ
C(E)、充填率をP
Cとすると、以下の[数17]の式が成り立つ。[数17]のX線スペクトルN(E)は、付加フィルタ1301、グリッド1302、蛍光体105のX線吸収を考慮したスペクトルである。
[数16]、[数17]により得られたX線スペクトルN(E)を用いて、第3実施形態と同様に[数4]の非線形連立方程式を解くことで骨の厚みBや軟部組織の厚みSが得られる。図13(a)の構成において[数4]を解くことにより得られる骨や軟部組織の厚みの推定値は、真値との間に誤差が生じる。第3実施形態で説明したような蛍光体105の個体ばらつきに加え、付加フィルタ1301、グリッド1302の個体ばらつきが含まれるためである。
図13(b)に、第4実施形態における補正係数取得の構成を示す。X線発生装置101とX線撮像装置104の間に試料1102が配置される。試料1102には、X線の源弱係数や密度、厚さが既知の物質が用いられる。補正処理の流れは第3実施形態(図12)と同様である。補正部132は、付加フィルタ1301、グリッド1302、蛍光体105および試料1102の設計値(パラメータ)を用いて[数4]、[数16]、[数17]をもとに試料1102の減弱率I/I0の計算値を得る(S1203、S1204)。また、補正部132は、図13(b)の構成でX線撮影を行い、X線画像を取得することで試料1102の減弱率I/I0の実測値を得る(S1201、S1202)。
補正部132は、第3実施形態と同様の方法で、補正後のパラメータを求める(S1205〜S1207)。補正後のパラメータは、例えば、蛍光体105の線減弱係数μC'(E)、厚さdC'、充填率PC'、付加フィルタ1301の線減弱係数μF'(E)、厚さdF'、グリッド1302の線減弱係数μG'(E)、厚さdG'である。信号処理部133は、これら補正後のパラメータを[数16]、[数17]に代入して得られたスペクトルN(E)を用いて[数4]を解くことで、骨の厚みB、軟部組織の厚みSの推定値を得る(S1208、S1209)。このように、補正されたX線スペクトルN(E)を用いてエネルギーサブトラクション処理を行うことにより、算出された骨の厚みBや軟部組織の厚みSの推定値が、真値に近づくことが期待される。
以上、第4実施形態ではX線撮影の付属品として付加フィルタとグリッドを装着した場合について説明したが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、付加フィルタとグリッドのいずれか一方のみが装着されてもよいし、さらに別の付属部品が追加されてもよい。また、被写体を除き、X線発生装置101と蛍光体105の間にX線を吸収し得る物体がある場合は、その物体を補正対象としてもよい。そのような物体としては、例えば、X線撮像装置の外装部品などがあげられる。
<第5実施形態>
第3、第4実施形態では、センサ出力である減弱率I/I0をもとに、被写体以外の構成(物体)のX線吸収に関わるパラメータを校正し、X線スペクトルを補正した。第5実施形態では、複数のX線エネルギーに対応した複数の減弱率画像を用いたエネルギーサブトラクション処理の処理結果をもとに、上記校正を行う。第5実施形態に係る撮像システムのブロック図および、画素20の等価回路図は、第1実施形態(図1、図2)と同様である。
第5実施形態による補正係数取得のための構成は、第3実施形態(図11(b))と同様である。すなわち、X線発生装置101とX線撮像装置104の間に校正用の試料1102が配置される。ここで、試料1102は、骨と軟部組織の部分(または、それらと同等のX線減弱係数を有する材料)のみで構成されており、各部分の厚みは既知である。図11(b)の構成でX線撮影を行い、X線画像を取得することで校正用の試料1102の減弱率I/I0の実測値が得られる。この状態で、高エネルギーにおける減弱率画像(高エネルギー画像)と低エネルギーにおける減弱率画像(低エネルギー画像)を得ることで、試料1102における骨の厚さの画像Bと軟部組織の厚さの画像Sを得ることができる。こうして得られた画像B、画像Sと試料1102の実際の各部分の厚みは、X線スペクトルNH(E)、NL(E)の誤差によって一致しない。そのため、X線スペクトルの校正を行う必要がある。第3、第4実施形態の校正方法では、減弱率I/I0の実測値とX線スペクトルから計算される値が一致するようにX線スペクトルを変形した。しかしながら、減弱率の誤差が小さくなっても厚み誤差(エネルギーサブトラクション処理の結果の誤差)が小さくならない場合がある。
第5実施形態では、図14に示すような処理でX線スペクトルの校正を行う。図14は、第5実施形態による補正処理を示すフローチャートである。S1401,S1402において、取得部131は、図11(b)の構成において複数の異なるX線エネルギーでX線撮影された複数のX線画像を取得する。補正部132は、取得部131が取得した複数の異なるX線エネルギーに対応した複数のX線画像から、高エネルギーの減弱率画像(高エネルギー画像)と低エネルギーの減弱率画像(低エネルギー画像)を生成する。S1403において、処理部133は、S1401とS1402で取得された高エネルギー画像と低エネルギー画像を用いてエネルギーサブトラクション処理を行い、試料1102の骨の厚みBと軟部組織の厚みSを計算する。S1404において、補正部132は、厚みBおよび厚みSの計算値と、試料1102の厚みBおよび厚みSの実測値との誤差を計算する。そして、S1405において、S1404で計算される誤差が小さくなるようにX線スペクトルNH(E)、NL(E)を補正する。
次に、S1406において、取得部131、補正部132は、被写体1101のX線画像を撮影して異なる複数のエネルギーに対応した複数のX線画像を取得し、これらに基づいて複数の異なるエネルギーに対応した複数の減弱率画像を取得する。S1407において、処理部133は、補正されたスペクトルNH(E)、NL(E)を用いて物質分離を行う。以上の処理によって、被写体1101について、より真値に近い分離結果が得られると考えられる。
S1405におけるX線スペクトルの補正方法の一例を示す。X線源であるX線発生装置101とセンサであるX線撮像装置104との間に、減弱係数μ(E)、厚みdの想定していない物体が挟まっていると仮定する。この場合、元のX線スペクトルをN(E)とすると、校正後のX線スペクトルNc(E)との間に以下の[数18]が成り立つ。
Nc(E)を用いて試料1102の厚みB、厚みSを計算し、それぞれの計算値と実測値との誤差が小さくなるようなμ(E)、dを求める。このような処理を、
第5実施形態では、X線源とセンサ間に減弱係数と厚みが未知の物質が挟まっているという物理モデルをもとにスペクトルの校正を行った。しかしながら本発明はこのような形態に限定されない。ランダムにスペクトルを変形しても良いし、実効原子番号及び面密度の定まった特定の物質が挟まっていると仮定しても良い。
スペクトル校正における最適化の手順ついて説明する。まず、実効原子番号Z、面密度Dの物質の値をランダムに決定する。この時、Z、Dは現実的な値をとるように制限するのがよい。次に、決定したZ、Dをもとに、高、低エネルギーのスペクトルを式(17)に従って変形する。次に、変形したスペクトルをもとにZ、Dを計算し、実測とのRMSE(Root Mean Square Error)を求める。以上のようなスペクトルの変形を既定の回数繰り返し、最もRMSが小さいスペクトルを求める。以上を既定の回数繰り返すことで、複数のスペクトルを求め、それらのスペクトルを平均する。平均されたスペクトルを校正前スペクトルとして、同様の手順を既定の回数繰り返す。以上の処理により、スペクトルの最適化を行う。なお、本発明は上述の形態に限定されるものではない。例えば、原子番号Zおよび厚みDは必ずしも現実的な値をとる必要はないし、必ずしもスペクトルの変形が繰り返されなくてもよい。
第5実施形態におけるスペクトルN(E)は[数15]に示す通り、蛍光体105のX線吸収を考慮したスペクトルを示しており、撮影を行った際の構成をもとに、X線発生装置101から発生するX線のスペクトルを変形させた値を用いている。本実施形態ではスペクトルN(E)を変形する場合について述べたが、本発明はこのような形態に限定されず、スペクトル変形に使用したパラメータを補正しても良い。例えば、蛍光体の厚みdCや充填率PCを補正するようにしても良い。
<第6実施形態>
第5実施形態においては、一個のX線フォトンが蛍光体に吸収されたときに生じるセンサ出力は、X線フォトンのエネルギーEに比例するものとしていた。すなわち、X線からセンサ出力への変換効率にはエネルギー依存がないと仮定されていた。第6実施形態では、センサの変換効率のエネルギー依存を考慮した場合の補正について説明する。第6実施形態に係る撮像システムのブロック図および、画素20の等価回路図は、第1実施形態(図1、図2)と同様である。
X線フォトンのエネルギーをE、X線のスペクトルをN(E)、センサ出力の変換効率をC(E)、任意物質の厚さをD、任意物質の線減弱係数をμ(E)、減弱率をI/I
0とすると、以下の[数19]に示される式が成り立つ。
[数19]で、N1(E)=C(E)N(E)とすれば、[数3]と同じ形になる。従って、第5実施形態で用いられた試料1102をX線撮影して得られた高エネルギー画像と低エネルギー画像について第1実施形態と同様の計算(エネルギーサブトラクション処理)を行うことで、試料1102の厚みB、Sが得られる。この計算によって得られた試料1102の厚みB、Sと、試料1102の実際の厚みB、Sとの誤差をもとにして変換効率C(E)を校正できる。
C(E)の校正方法について説明する。校正前の変換効率C(E)はC(E)=1とみなすことができる。これを適当な関数でフィッティングすることで校正する。例えば、C(E)=aE+bとする。変数a、bをランダムに決定して厚みB、Sを計算し、実際の厚みB、SとのRMSE(Root Mean Square Error)を求める。以上を既定の回数繰り返してRMSEが最も小さいa、bを求めることで校正された変換効率Cc(E)が得られる。処理部133は、被写体1101のX線画像を撮影して、校正された変換効率Cc(E)を用いて物質分離を行う。こうして、Cc(E)N(E)を校正されたX線スペクトルとして用いてエネルギーサブトラクション処理を行うことによって、被写体1101について、より真値に近い分離結果(厚みB、厚みS)が得られることが期待される。
なお、第6実施形態ではC(E)を一次関数と仮定してB,SのRMSEをもとに校正を行ったが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、C(E)の関数は二次関数や自然対数などの線形和でもよい。また、B、SのRMSEではなく、実測値と径産地との間の差分や相対誤差をもとにC(E)の校正が行われても良い。また、第6実施形態では、B、Sの計算値と実測値の誤差をもとにC(E)を補正する場合について述べたが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、Bのみの厚みをもとに補正しても良いし、C(E)だけでなく、N(E)を同時に補正しても良い。
なお、第1〜第6実施形態では、エネルギーサブトラクション処理により骨の厚さBと軟部組織の厚さSを算出していたが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、水の厚さWと造影剤の厚さIが算出されてもよい。すなわち、本発明は、任意の二種類の物質の厚さへの分解に適用され得る。また、低エネルギーにおける減弱率の画像Lと高エネルギーにおける減弱率の画像Hから、エネルギーサブトラクション処理により実効原子番号Zの画像と面密度Dの画像を計算する構成でもよい。実効原子番号Zとは混合物の等価的な原子番号のことであり、面密度Dとは被写体の密度[g/cm3]と被写体の厚み[cm]の積である。さらに、画像処理部134は、実効原子番号Zと面密度Dを用いて仮想単色X線画像を生成してもよい。また、画像処理部134は、複数のエネルギーEVで生成した複数の仮想単色X線画像を合成することで、合成X線画像を生成してもよい。合成X線画像とは、任意のスペクトルのX線を照射した場合に得られることが想定される画像のことである。
また、上記の第1〜第6実施形態では、X線撮像装置104として蛍光体を用いた間接型のX線センサを用いた。しかしながら本発明はこのような形態に限定されない。例えばCdTe等の直接変換材料を用いた直接型のX線センサを用いてもよい。すなわち、X線センサは、間接型・直接型のどちらでもよい。また、第1、第2実施形態では、例えば、図4の動作においてX線発生装置101の管電圧を変化させていた。しかしながら本発明はこのような形態に限定されない。X線発生装置101のフィルタを時間的に切り替えるなどして、X線撮像装置104に曝射されるX線のエネルギーを変化させるようにしてもよい。すなわち、X線撮像装置104へ曝射されるX線のエネルギーを変更させる方法は、どのような方法は、何等限定されない。また、第2実施形態では、第1実施形態による線量依存補正の実施が前提になっているが、これに限られるものではない。第2実施形態で説明した減弱率の補正のみを行うようにしてもよい。また、厚み依存性に対する補正とエネルギー依存性に対する補正の一方のみを実行する構成であってもよい。
また、第1〜第6実施形態では、X線のエネルギーは2つであったが、これに限定されるものではない。X線のエネルギーが3つ以上の場合についても、例えば、図10に示したように、オフセット補正→線量依存補正→色補正→ゲイン補正→減弱率の補正の順番で補正を行う構成を適用できる。すなわち、3つ以上のX線エネルギーから得られるX線画像についても上記実施系他の処理が適用可能である。
また、図10では、図7(b)による補正処理順を適用しているが、図7(a)に示した補正処理順(オフセット補正→色補正→線量依存補正→ゲイン補正→減弱率の補正)が適用されてもよい。また、第1〜第6実施形態では、X線のエネルギーを変化させることで異なるエネルギーの画像を得ていたが、本発明はこのような形態に限定されない。例えば、複数の蛍光体105および二次元検出器106を重ねることで、X線の入射方向に対して前面の二次元検出器と背面の二次元検出器から異なるエネルギーの画像を得る、積層型の構成としてもよい。この場合、補正部132による色補正は不要となる。
また、第1〜第6実施形態では、X線撮影システムの撮像制御装置103を用いてエネルギーサブトラクション処理を行っていた。しながらこの本発明はこのような形態に限定されない。例えば、撮像制御装置103で取得した画像を別のコンピュータに転送して、エネルギーサブトラクション処理を行ってもよい。例えば、取得した画像を医療用のPACSを介して別のパソコンに転送し、エネルギーサブトラクション処理を行ってから表示する構成としてもよい。すなわち、上記実施形態で説明した補正処理を行う装置は、撮影装置とセットでなくてよい(画像ビューアでもよい)。
<他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサーがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。