本発明は、簡素な展開図で表現可能な曲面からなるねじれた外観の構造体に関する。
一般的な箱の基本形状は角柱である。中でも直方体は、簡素な展開図で表現可能で、構造が安定で、直交する三軸方向に充填できるため有用である。一方、他の基本形状(例えば、反角柱)が使われることは少なく、多様性に乏しい。また、箱の形状は平坦な面からなる多面体がほとんどであり、曲面体が少ない。箱などで曲面を作り出す方法も限定され、直線状の辺を曲線状にすることによって本来平坦な面を曲面に変えている。
そこで、本発明は、簡素な展開図で表現可能で、角柱や反角柱とは異なる基本形状を有し、本質的に曲面体であり、二軸方向にねじれた外観をもち、箱、容器、玩具、建築物等として利用可能な意匠性の高い構造体を提供する。
〔1〕構造体であって、基本的な展開図が合同で回転対称的な凸多角形2つをずらして共有辺でつないだ二次元的な形状で表現され、その展開図を辺に沿って連結して得られる三次元的な形状を特徴とするもので、可展面としての曲面を有し、二軸方向にねじれた外観の構造体。基本的な展開図がとても簡素である。角柱や反角柱とは異なる基本形状を有する。多面体ではなく曲面体が得られる。
〔2〕前記の構造体は、凸多角形の頂点を主頂点とし、各主頂点は3価で他の主頂点に連結する2本の主辺と主頂点とは異なりかつ構造体の中心または対称的な位置に配置された副頂点に連結する1本の副辺を有し、各副頂点は3価で主頂点と連結する1本の副辺と他の副頂点に連結する2本の副辺を有し、副辺が構造体の対称的な位置に配置されていることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。主辺と副辺が構造体の稜線を形成する。主辺は構造体の基本骨格を形成し、副辺はデザイン性を高めるのに役立つ。副辺の設計により、上面と下面をほぼ平坦にすると、箱や容器等として利用しやすい。
〔3〕前記の構造体は、凸多角形が正多角形であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。均整の取れた優美な外観の構造体が得られる。
〔4〕前記の構造体は、基本的な展開図にフラップと折れ線を加えて組み立てられる箱であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。箱の場合、フラップは構造体を安定化させる、開け口を形成する等の用途に用いる。折れ線は、主辺や副辺に沿って設けられる
〔5〕前記の構造体は、その形に成型して得られる容器であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
〔6〕前記の構造体は、構造体の回転対称軸を軸として流体中で回転することを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
本発明では、次のような効果が得られる。
(1)簡素な展開図で表現可能な、可展面からなる曲面体である。
(2)反角柱とは異なる基本形状で、二軸方向にねじれた外観の構造体である。
(3)意匠性の高い箱、容器、建築物等として利用できる。
(4)流体中で回転する構造体やぎこちなく転がる構造体が得られる。
ねじれ構造体(正方形型)の斜視図
正方形型ねじれ構造体とペンローズの正方形
正方形型ねじれ構造体の基本的な展開図と種類
正多角形型ねじれ構造体の基本的な展開図と断面図
長方形型ねじれ構造体の基本的な展開図
正方形型および長方形型ねじれ構造体の設計例
直線状および曲線状の辺を含む正方形型ねじれ構造体の設計例
フラップ等を含む正方形型ねじれ箱の展開図の例
流体中で回転する正方形型ねじれ構造体の例
ぎこちなく転がる長方形型ねじれ構造体の例
この発明は、数々の基礎形状の多面体を調べている過程で発想されたものである。特に、およそ球状の多面体のうち、頂点の価数が3価と4価で四角形だけからなる多面体の一種からヒントを得て、それを発展させたものである。ただし、本発明の構造体は多面体ではなく、可展面からなる曲面体である。
構造体の展開図はとても簡素であるが、それから得られる三次元的な形状は複雑である。これは、角柱や反角柱とは異なる基本形状である。二軸方向にねじれ、均整のとれた優美な外観の構造体である。上面と下面がほぼ平坦な構造体は、準安定的に水平面上に静置することができるため、箱、容器、建築物等の構造体として利用可能である。特に、正方形型・長方形型・正六角形型ねじれ構造体はその形状が空間充填立体に似ているため、箱や容器として収納等に有用である。さらに、ねじれ構造により特有な動きが生み出される。風車のように回転する構造体や、ぎこちなく転がる構造体が得られ、玩具や部品等としても利用可能である。
図1は、正方形型のねじれ構造体の斜視図である。構造体の稜線である辺を実線(見える部分)と破線(隠れた部分)で示した。構造体は多面体ではなく曲面体である。構造体は規則的に大きくねじれた外観を有する。上面と下面の中央領域はやや平坦であり、構造体を準安定的に置くことができる。それに対して、周辺領域はうねるように大きく曲がっている。構造体を横から見ると、辺が下面の頂点から上面の頂点につながり、その辺を軸として2つの面がくの字型に会合し、緩やかに旋回するように湾曲する。これが規則的に繰り返される。
この構造体は反角柱と似ているように見えるが、構造が異なる。反角柱は多面体であり、1)辺は全て直線状で、2)面は全て平坦で、3)頂点は4価で、4)ねじれは一軸(左右軸)方向で、5)ねじれを構成する面は三角形である。一方、ねじれ構造体は曲面体であり、1)辺が曲線状になり、2)面が湾曲し、3)頂点は3価で、4)ねじれは二軸方向で(左右軸と上下軸)、5)ねじれを構成する面は湾曲した四角形または五角形である。ただし、後述のように、ねじれ構造体の極限的な形状として反角柱が得られる。
図2の左に、正方形型のねじれ構造体を真上から見た平面図とその稜線を示した(実線:見える部分、破線:隠れた部分)。上面と下面の中央領域(この例では中央の正方形の領域)がねじれた位置にある。中央領域は、ほぼ平面的であるが、角の部分が傾斜している。周囲領域は、外側に向かってより傾斜しており、場所によって傾斜角度が変化する。後述の展開図で直線状の辺が、立体ではその多くが曲線状となる。これは、展開図の辺を曲線状にすることで作り出される曲面体とは本質的に異なる。図2の右に、不可能図形であるペンローズの正方形とその稜線を示した。ねじれ構造体と比較すると、周囲領域が似ているが、内側の辺の連結が異なっていることが分かる。
図3は、正方形型ねじれ構造体の基本的な展開図を示す。基本的な展開図とは、初等幾何学で見られる展開図であり、フラップ等を含まない二次元的な形状の展開図またはそれと同等の展開図を言う。同等の展開図とは、例えば立方体が11種類の異なる展開図で表現できるように、同じ形を表している展開図を指す。
ねじれ構造体の基本的な展開図は、合同で回転対称的な凸多角形2つが共有辺でずれてつながった形をしている。正方形型ねじれ構造体の場合は、凸多角形の形状が正方形である。これは、一般的な角柱の展開図よりも簡素である。
2つの合同な凸多角形のつなぎ方には、幾つかのタイプがある。図では、上方向にずらしたもの(中央上)、下方向にずらしたもの(左上)、また、辺の中点までずらしたもの(右上)の3種類を示した。また、その下に、それから得られる立体構造の平面図を示している。左と中央の展開図は、2つの凸多角形を同じ幅だけ共有辺に沿って反対方向にずらしたものであり、これらは展開図が鏡像であるとともに、それから得られる立体も鏡像体(キラル)となる。紙等で模型を作る場合、同じ展開図であっても、山折りまたは谷折りで鏡像体が得られる。一方、右の展開図の場合、その鏡像も同じ立体構造を表現し、鏡像体がない。また、この場合、上面と下面の中央領域がなくなる。
図4のように、ねじれ構造体は四角形に限らず、五角形、六角形等と拡張することができる。ねじれ構造体の断面を見ると、周囲領域が“く”の字型をしている。くの字の折れ曲がった部分が側面の稜線であり、そこで上下の二つの面が会合する。その面はおよそ同じ角度を保ちながら稜線の軸を中心に旋回するように湾曲する。およその角度δは二面角の式を用いて、正方形型では90度、正五角形型では76.3度、正六角形型では70.5度となる(正三角形型の場合は180度となる)。
ねじれ構造体は正多角形型だけに限らず、辺の長さを変えて設計することもできる。図5では長方形型ねじれ構造体の基本展開図を示している。長方形型のように、辺の長さが変わっても構造体の中央領域はおよそ平坦であるが、縦横比が大きくなると対角線方向にしなりはじめる(中央領域の角付近が傾斜している)。
図6に、正方形型および長方形型ねじれ構造体のより詳しい展開図を示す。
合同な凸n角形(nは4以上の整数)の場合は、主要な頂点(主頂点)が2n個あり、これがねじれ構造体の骨格を作る頂点となる。ただし、展開図において2つの凸多角形の頂点が組み立ての際に重ならない位置に配置する必要がある。四角形型ねじれ構造体の場合、主頂点は8個である(図の[1]から[8])。また、主頂点を結ぶ辺(主辺)は2n本ある。四角形型ねじれ構造体の場合、主辺は8本(展開図の実線)ある。
主頂点に加えて、副次的な頂点(副頂点)を展開図の凸多角形のの中心または対称的な位置に取ることができる。副頂点は構造体の形状をよりデザイン的にするのに有用である。図6の例では、副頂点が上面と下面に各4つの計8個ある(図の[a]から[h])。各々の副頂点は、基本的には3価であり、1つの主頂点と連結し(例:[a]→[2])、他の2つの副頂点と連結する(例:[a]→[b]および[a]→[d])。この操作で得られる副次的な辺(副辺)は、直線状でも曲線状でもよく、構造体の対称的な位置に配置する。図6の例では、副辺が直線状で上面と下面に各8本の計16本ある(展開図の破線)。
前述の中央領域および周囲領域は、副辺を用いて定義することができる。構造体の上面についてみると、中央領域は副頂点[a][b][c][d]で囲まれた領域であり、周辺領域は中央領域より外側の領域である。
正方形型ねじれ構造体を例にとり、その構造の特徴を示す。基本的な展開図において、共有辺に沿った凸多角形のずれ幅をA、中央領域の幅をBとすると、正方形の辺の長さXは2A+Bである。ここで、副辺を主辺と平行にとると、その幅はAであり、1つの主頂点と2つの副辺が直線上に並び(例:主頂点[2]と副頂点[a][d]が直線上に並ぶ)、中央領域は正方形になる。この場合、近似的に、ねじれ箱の高さH、ねじれ角度(上下の中央領域の傾斜角度)εは次のようになる。
長方形型ねじれ構造体はより複雑になる。中央領域はより湾曲する。上面の主頂点(図では[2][4][6][8])を対角的に結ぶ2つの測地線は長さが異なり、長い測地線の方向に中央領域がしなる(例:測地線[2]-[6]よりも測地線[4]-[8]が長い)。また、中央領域の長辺側と短辺側における高さが異なり、長辺側が高い。これらは長辺と短辺の長さの比が大きくなるほど顕著になる。
図7では、正方形型ねじれ構造体を例にとり、副頂点の位置を対称性を保ちながら変えたものである。上の図は副辺が直線状の例である。この場合、中央領域はほぼ平坦な正方形の面、周辺領域は湾曲した五角形の面になる。一方、下の図は副辺が曲線状の例である。この場合、中央領域は双曲状の四角形、周辺領域の湾曲した面は線分と弧の辺からなる五角形になる。中央領域の各辺の中点を結ぶ部分はほぼ平坦で、角の部分が傾斜する。
各々の副頂点をそれと連結している主頂点に近づけてゆくと(例えば、[a]→[2]、[b]→[4]、[c]→[6]、[d]→[8]等)、その極限として反角柱を得る。このとき、ねじれ構造体の側面を構成する面が平坦な三角形になるとともに、主頂点が4価になる。
図1から図10に記載されたねじれ構造体は、実際に、紙やプラスチックシートを用いて試作されたものである。
ねじれ構造体は、その基本的な展開図から曲面が形成される。例えば、紙やプラスチックシートなどの通常平坦で可撓性があり伸縮しにくい素材でねじれ構造体を作ると、曲面の形成にともなってひずみが蓄えられる。つまり、このような素材で構造体を作ると、面が平坦な多面体型の箱と比べて構造が不安定化する。そのため、構造を十分な強度で維持する工夫(接着、係合等)が必要になる。
一方、容器であれば(例えばプラスチック製など)、鋳型を作り、射出成型等の方法で作製するとよい。最初からねじれた形状で成型されるため、それに伴うひずみの生成はない。また、建造物であれば、主辺と副辺にあたる骨格を作れば、全体で支え合う形になる。補強のためには、構造を三角分割または四角分割するように副次的な骨格を設ければよい。
図8に、紙やプラスチックシート等の素材を折り曲げて箱とする場合の展開図の例を示す。この展開図は、基本的な展開図にフラップ等を加えたものである。左上の展開図は、接着剤等を一切使うことなく、折れ線に沿って曲げて組み立てると安定した正方形型ねじれ構造体ができる(山折りまたは谷折りで鏡像体ができる)。この場合、構造を安定化させているのは、箱の角部分(主頂点近傍)を支えるコーナーフラップ[10]と側面を支えるサイドフラップ[11]である。構造をさらに安定化させる必要がある場合、接着(左下、接着フラップ[12]を接着面とする例)や掛合(右上、掛合片[T]をスリット[S]に差し込む例)等の方法を使うことができる。
ねじれ構造体は回転対称の立体であり、多くの場合、鏡像体を有する。紙等で構造体を作ると風車の様になる。実際に、構造体の回転対称軸に軸をつけて息を吹きかけると回転する。図9に、流体中での正方形型ねじれ構造体の動きを示した。この例では、左側から右側に向かう流れに対して、ねじれ構造体は時計回りに回転する。鏡像体であれば、反対方向に回転する。簡単には、構造体の平面図において中央領域が傾斜している方向に回転する。
動きに関わるもう一つの例を挙げる。図10は、長方形型ねじれ構造体の特殊な例であり、図6における中央領域の縦幅Cを0としたもである(B>C、Y=2A)。この構造体を斜面に置くと進行方向を小刻みに変えながらぎこちなく転がる。
δ:側面の角度
ε:ねじれ角度
H:箱の高さ
1〜8:主頂点
a〜h:副頂点
X:四角形の横幅
Y:四角形の縦幅
A:2つの四角形のずれ幅
B:中央領域の横幅
C:中央領域の縦幅
10:コーナーフラップ
11:サイドフラップ
12:接着フラップ
S:スリット
T:掛合片
本発明は、簡素な展開図で表現可能な曲面からなるねじれた外観の構造体に関する。
一般的な箱の基本形状は角柱である。中でも直方体は、簡素な展開図で表現可能で、構造が安定で、直交する三軸方向に充填できるため有用である。一方、他の基本形状(例えば、反角柱)が使われることは少なく、多様性に乏しい。また、箱の形状は平坦な面からなる多面体がほとんどであり、曲面体が少ない。箱などで曲面を作り出す方法も限定され、直線状の辺を曲線状にすることによって本来平坦な面を曲面に変えている。
そこで、本発明は、簡素な展開図で表現可能で、角柱や反角柱とは異なる基本形状を有し、本質的に曲面体であり、二軸方向にねじれた外観をもち、箱、容器、玩具、建築物等として利用可能な意匠性の高い構造体を提供する。
〔1〕構造体であって、その三次元的な形状は、合同で回転対称的な凸多角形2つをずらして共有辺でつないだ二次元的な形状の展開図を辺に沿って連結することで得られ、展開図における凸多角形の頂点を主頂点とし、各主頂点は3価で他の主頂点に連結する2本の主辺と主頂点とは異なりかつ構造体の中心または対称的な位置に配置された副頂点に連結する1本の副辺を有し、原則として各副頂点は3価で主頂点と連結する1本の副辺と他の副頂点に連結する2本の副辺を有し、副辺が構造体の対称的な位置に配置されていることを特徴とする、可展面としての曲面を有し、二軸方向にねじれた外観の構造体。展開図がとても簡素である。角柱や反角柱とは異なる基本形状を有する。多面体ではなく曲面体が得られる。主辺と副辺が構造体の稜線を形成する。主辺は構造体の基本骨格を形成し、副辺はデザイン性を高めるのに役立つ。副辺の設計により、上面と下面をほぼ平坦にすると、箱や容器等として利用しやすい。
〔2〕前記の構造体は、展開図における凸多角形が正多角形であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。均整の取れた優美な外観の構造体が得られる。
〔3〕前記の構造体は、展開図にフラップと折れ線を加えて組み立てられる箱であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。箱の場合、フラップは構造体を安定化させる、開け口を形成する等の用途に用いる。折れ線は、主辺や副辺に沿って設けられる。
〔4〕前記の構造体は、その形に成型して得られる容器であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
〔5〕前記の構造体は、構造体の回転対称軸を軸として流体中で回転することを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
本発明では、次のような効果が得られる。
(1)簡素な展開図で表現可能な、可展面からなる曲面体である。
(2)反角柱とは異なる基本形状で、二軸方向にねじれた外観の構造体である。
(3)意匠性の高い箱、容器、建築物等として利用できる。
(4)流体中で回転する構造体やぎこちなく転がる構造体が得られる。
ねじれ構造体(正方形型)の斜視図
正方形型ねじれ構造体とペンローズの正方形
正方形型ねじれ構造体の展開図と種類
正多角形型ねじれ構造体の展開図と断面図
長方形型ねじれ構造体の展開図
正方形型および長方形型ねじれ構造体の設計例
直線状および曲線状の辺を含む正方形型ねじれ構造体の設計例
フラップ等を含む正方形型ねじれ箱の展開図の例
流体中で回転する正方形型ねじれ構造体の例
ぎこちなく転がる長方形型ねじれ構造体の例
この発明は、数々の基礎形状の多面体を調べている過程で発想されたものである。特に、およそ球状の多面体のうち、頂点の価数が3価と4価で四角形だけからなる多面体の一種からヒントを得て、それを発展させたものである。ただし、本発明の構造体は多面体ではなく、可展面からなる曲面体である(可展面:伸縮させずに平面上に展開できる曲面)。
構造体の展開図はとても簡素であるが、それから得られる三次元的な形状は複雑である。これは、角柱や反角柱とは異なる基本形状である。二軸方向にねじれ、均整のとれた優美な外観の構造体である。上面と下面がほぼ平坦な構造体は、準安定的に水平面上に静置することができるため、箱、容器、建築物等の構造体として利用可能である。特に、正方形型・長方形型・正六角形型ねじれ構造体はその形状が空間充填立体に似ているため、箱や容器として収納等に有用である。さらに、ねじれ構造により特有な動きが生み出される。風車のように回転する構造体や、ぎこちなく転がる構造体が得られ、玩具や部品等としても利用可能である。
図1は、正方形型のねじれ構造体の斜視図である。構造体の稜線である辺を実線(見える部分)と破線(隠れた部分)で示した。構造体は多面体ではなく曲面体である。構造体は規則的に大きくねじれた外観を有する。ねじれは左右方向と上下方向に対して見られる。左右方向(水平方向)については、構造体の中心を貫く上下軸を回転軸として、構造体の中央領域の上面と下面が反対方向にねじれている。上下方向(鉛直方向)については、構造体の中心から構造体の対辺または対角方向に延ばした水平面上にある軸を回転軸として、構造体の周囲領域の上面と下面がねじれている。(正方形型ねじれ構造体の場合、対辺的または対角的な位置にある周囲領域の上面と下面が反対方向にねじれている)。上面と下面の中央領域はやや平坦であり、構造体を準安定的に置くことができる。それに対して、周囲領域はうねるように大きく曲がっている。構造体を横から見ると、辺が下面の頂点から上面の頂点につながり、その辺を軸として2つの面がくの字型に会合し、緩やかに旋回するように湾曲する。これが規則的に繰り返される。
この構造体は反角柱と似ているように見えるが、構造が異なる。反角柱は多面体であり、1)辺は全て直線状で、2)面は全て平坦で、3)頂点は4価で、4)ねじれは一軸方向で(左右軸)、5)ねじれを構成する面は三角形である。一方、ねじれ構造体は曲面体であり、1)辺が曲線状になり、2)面が湾曲し、3)原則として頂点は3価で、4)ねじれは二軸方向で(左右軸と上下軸)、5)ねじれを構成する面は湾曲した四角形または五角形である。ただし、後述のように、ねじれ構造体の極限的な形状として反角柱が得られる。
図2の左に、正方形型のねじれ構造体を真上から見た平面図とその稜線を示した(実線:見える部分、破線:隠れた部分)。上面と下面の中央領域(この例では中央の正方形の領域)がねじれた位置にある。中央領域は、ほぼ平面的であるが、角の部分が傾斜している。周囲領域は、外側に向かってより傾斜しており、場所によって傾斜角度が変化する。後述の展開図で直線状の辺が、立体ではその多くが曲線状となる。これは、展開図の辺を曲線状にすることで作り出される曲面体とは本質的に異なる。図2の右に、不可能図形であるペンローズの正方形とその稜線を示した。ねじれ構造体と比較すると、周囲領域が似ているが、内側の辺の連結が異なっていることが分かる。
図3は、正方形型ねじれ構造体の展開図を示す。展開図は、立体の三次元的な形状を平面上に展開することで二次元的な形状として表現したものである。これは、初等幾何学で見られる展開図のことであり、フラップ等の付加的な要素を含まないものである。例えば、立方体の展開図は、6つの合同な正方形の平面配置で示される。ただし、ここでいう展開図は、同じ三次元的な形状を表現している同等な展開図を含む。例えば、立方体が11種類の異なる展開図で表現できるように、同じ形を表している展開図を同等とする。
ねじれ構造体の展開図は、合同で回転対称的な凸多角形2つが共有辺でずれてつながった形をしている。ここで、合同とは形と大きさが同じで重なり合う図形のことである。回転対称とは回転対称軸を回転軸として図形を360/n度(nは2以上の整数)回転させたとき元の図形と重なり合う対称性を意味する(n回対称と呼ぶ)。凸多角形とは全ての内角が180度未満である多角形であり、各辺は直線状の線分で構成される。正方形型ねじれ構造体の展開図の場合、凸多角形の形状が正方形であり(内角は全て90度で4回対称)、2つの合同な正方形がずれて共有する辺においてつながった形をしている。これは、一般的な角柱の展開図よりも簡素である。
2つの合同な凸多角形のつなぎ方には、幾つかのタイプがある。図では、上方向にずらしたもの(中央上)、下方向にずらしたもの(左上)、また、辺の中点までずらしたもの(右上)の3種類を示した。また、その下に、それから得られる立体構造の平面図を示している。左と中央の展開図は、2つの凸多角形を同じ幅だけ共有辺に沿って反対方向にずらしたものであり、これらは展開図が鏡像であるとともに、それから得られる立体も鏡像体(キラル)となる。紙等で模型を作る場合、同じ展開図であっても、山折りまたは谷折りで鏡像体が得られる。一方、右の展開図の場合、その鏡像も同じ立体構造を表現し、鏡像体がない。また、この場合、上面と下面の中央領域がなくなる。
図4のように、ねじれ構造体は四角形型に限らず、五角形型、六角形型等と拡張することができる。ねじれ構造体の断面を見ると、周囲領域が“く”の字型をしている。くの字の折れ曲がった部分が側面の稜線であり、そこで上下の二つの面が会合する。その面はおよそ同じ角度を保ちながら稜線の軸を中心に旋回するように湾曲する。およその角度δは二面角の式を用いて、正方形型では90度、正五角形型では76.3度、正六角形型では70.5度となる(正三角形型の場合は180度となる)。
ねじれ構造体は正多角形型だけに限らず、辺の長さを変えて設計することもできる。図5では長方形型ねじれ構造体の基本展開図を示している。長方形型のように、辺の長さが変わっても構造体の中央領域はおよそ平坦であるが、縦横比が大きくなると対角線方向にしなりはじめる(中央領域の角付近が傾斜している)。
図6に、正方形型および長方形型ねじれ構造体のより詳しい展開図を示す。
合同な凸n角形(nは4以上の整数)の場合は、主要な頂点(主頂点)が2n個あり、これがねじれ構造体の骨格を作る頂点となる。ただし、展開図において2つの凸多角形の頂点が組み立ての際に重ならない位置に配置する必要がある。四角形型ねじれ構造体の場合、主頂点は8個である(図の[1]から[8])。また、主頂点を結ぶ辺(主辺)は2n本ある。四角形型ねじれ構造体の場合、主辺は8本(展開図の実線)ある。
主頂点に加えて、副次的な頂点(副頂点)を展開図の凸多角形の中心または対称的な位置に取ることができる。副頂点は構造体の形状をよりデザイン的にするのに有用である。図6の例では、副頂点が上面と下面に各4つの計8個ある(図の[a]から[h])。原則として、各々の副頂点は3価であり、1つの主頂点と連結し(例:[a]→[2])、他の2つの副頂点と連結する(例:[a]→[b]および[a]→[d])。この操作で得られる副次的な辺(副辺)は、直線状でも曲線状でもよく、構造体の対称的な位置に配置する。図6の例では、副辺が直線状で上面と下面に各8本の計16本ある(展開図の破線)。ただし、「原則として」と述べたのは、副頂点に関して特殊なケースがあるからである。正方形型ねじれ構造体の特殊な例として、図3右のように、4つの3価の副頂点が合わさって1つの4価の副頂点になることがある(その副頂点は4本の副辺を有し、4つの主頂点と連結する)。あるいは、長方形型ねじれ構造体の特殊な例として、図10のように、2つの3価の副頂点が合わさって1つの3価の副頂点になることがある(その副頂点は3本の副辺を有し、2つの主頂点と1つの他の副頂点と連結する)。
前述の中央領域および周囲領域は、副辺を用いて定義することができる。構造体の上面についてみると、中央領域は副頂点[a][b][c][d]で囲まれた領域であり、周囲領域は中央領域より外側の領域である。
正方形型ねじれ構造体を例にとり、その構造の特徴を示す。展開図において、共有辺に沿った凸多角形のずれ幅をA、中央領域の幅をBとすると、正方形の辺の長さXは2A+Bである。ここで、副辺を主辺と平行にとると、その幅はAであり、1つの主頂点と2つの副辺が直線上に並び(例:主頂点[2]と副頂点[a][d]が直線上に並ぶ)、中央領域は正方形になる。この場合、近似的に、ねじれ箱の高さH、ねじれ角度(上下の中央領域の傾斜角度)εは次のようになる。
長方形型ねじれ構造体はより複雑になる。中央領域はより湾曲する。上面の主頂点(図では[2][4][6][8])を対角的に結ぶ2つの測地線は長さが異なり、長い測地線の方向に中央領域がしなる(例:測地線[2]-[6]よりも測地線[4]-[8]が長い)。また、中央領域の長辺側と短辺側における高さが異なり、長辺側が高い。これらは長辺と短辺の長さの比が大きくなるほど顕著になる。
図7では、正方形型ねじれ構造体を例にとり、副頂点の位置を対称性を保ちながら変えたものである。上の図は副辺が直線状の例である。この場合、中央領域はほぼ平坦な正方形の面、周囲領域は湾曲した五角形の面になる。一方、下の図は副辺が曲線状の例である。この場合、中央領域は双曲状の四角形、周囲領域の湾曲した面は線分と弧の辺からなる五角形になる。中央領域の各辺の中点を結ぶ部分はほぼ平坦で、角の部分が傾斜する。
各々の副頂点をそれと連結している主頂点に近づけてゆくと(例えば、[a]→[2]、[b]→[4]、[c]→[6]、[d]→[8]等)、その極限として反角柱を得る。このとき、ねじれ構造体の側面を構成する面が平坦な三角形になるとともに、主頂点が4価になる。
図1から図10に記載されたねじれ構造体は、実際に、紙やプラスチックシートを用いて試作されたものである。
ねじれ構造体は、その展開図から曲面が形成される。例えば、紙やプラスチックシートなどの通常平坦で可撓性があり伸縮しにくい素材でねじれ構造体を作ると、曲面の形成にともなってひずみが蓄えられる。つまり、このような素材で構造体を作ると、面が平坦な多面体型の箱と比べて構造が不安定化する。そのため、構造を十分な強度で維持する工夫(接着、掛合等)が必要になる。
一方、容器であれば(例えばプラスチック製など)、鋳型を作り、射出成型等の方法で作製するとよい。ねじれ構造体の形状の三次元データは、展開図を基に形成された立体の3Dスキャンや、展開図を基にした3Dモデリング等によって得ることができる。容器の場合は、最初からねじれた外観で成型されるため、それに伴うひずみの生成はない。また、建造物であれば、主辺と副辺にあたる骨格を作れば、全体で支え合う形になる。補強のためには、構造を三角分割または四角分割するように副次的な骨格を設ければよい。
図8に、紙やプラスチックシート等の素材を折り曲げて箱とする場合の付加的な要素を含む展開図の例を示す。これは、展開図に付加的な要素としてフラップ等を加えたものである。左上の付加的な要素を含む展開図は、接着剤等を一切使うことなく、折れ線に沿って曲げて組み立てると安定した正方形型ねじれ構造体ができる(山折りまたは谷折りで鏡像体ができる)。この場合、構造を安定化させているのは、箱の角部分(主頂点近傍)を支えるコーナーフラップ[10]と側面を支えるサイドフラップ[11]である。構造をさらに安定化させる必要がある場合、接着(左下、接着フラップ[12]を接着面とする例)や掛合(右上、掛合片[T]をスリット[S]に差し込む例)等の方法を使うことができる。
ねじれ構造体は回転対称の立体であり、多くの場合、鏡像体を有する。紙等で構造体を作ると風車の様になる。実際に、構造体の回転対称軸に軸をつけて息を吹きかけると回転する。図9に、流体中での正方形型ねじれ構造体の動きを示した。この例では、左側から右側に向かう流れに対して、ねじれ構造体は時計回りに回転する。鏡像体であれば、反対方向に回転する。簡単には、構造体の平面図において中央領域が傾斜している方向に回転する。
動きに関わるもう一つの例を挙げる。図10は、長方形型ねじれ構造体の特殊な例であり、図6における中央領域の縦幅Cを0としたものである(B>C、Y=2A)。この構造体を斜面に置くと進行方向を小刻みに変えながらぎこちなく転がる。
δ:側面の角度
ε:ねじれ角度
H:箱の高さ
1〜8:主頂点
a〜h:副頂点
X:四角形の横幅
Y:四角形の縦幅
A:2つの四角形のずれ幅
B:中央領域の横幅
C:中央領域の縦幅
10:コーナーフラップ
11:サイドフラップ
12:接着フラップ
S:スリット
T:掛合片
本発明は、簡素な展開図で表現可能な曲面からなるねじれた外観の構造体に関する。
一般的な箱の基本形状は角柱である。中でも直方体は、簡素な展開図で表現可能で、構造が安定で、直交する三軸方向に充填できるため有用である。一方、他の基本形状(例えば、反角柱)が使われることは少なく、多様性に乏しい。また、箱の形状は平坦な面からなる多面体がほとんどであり、曲面体が少ない。箱などで曲面を作り出す方法も限定され、直線状の辺を曲線状にすることによって本来平坦な面を曲面に変えている。
そこで、本発明は、簡素な展開図で表現可能で、角柱や反角柱とは異なる基本形状を有し、本質的に曲面体であり、二軸方向にねじれた外観をもち、箱、容器、玩具、建築物等として利用可能な意匠性の高い構造体を提供する。
〔1〕構造体であって、その三次元的な形状は、合同で回転対称的な凸多角形2つをずらして共有辺でつないだ二次元的な形状の展開図を辺に沿って連結することで得られ、展開図における凸多角形の頂点を主頂点とし、各主頂点は3価で他の主頂点に連結する2本の主辺と主頂点とは異なりかつ展開図における凸多角形の回転対称的な位置に配置された副頂点に連結する1本の副辺を有し、各副頂点は3価で主頂点と連結する1本の副辺と他の副頂点に連結する2本の副辺を有し、副辺が展開図における凸多角形の回転対称的な位置に配置されていることを特徴とする、可展面としての曲面を有し、二軸方向にねじれた外観の構造体。展開図がとても簡素である。角柱や反角柱とは異なる基本形状を有する。多面体ではなく曲面体が得られる。主辺と副辺が構造体の稜線を形成する。主辺は構造体の基本骨格を形成し、副辺はデザイン性を高めるのに役立つ。副辺の設計により、上面と下面をほぼ平坦にすると、箱や容器等として利用しやすい。
〔2〕前記の構造体は、展開図における凸多角形が正多角形であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。均整の取れた優美な外観の構造体が得られる。
〔3〕前記の構造体は、展開図にフラップと折れ線を加えて組み立てられる箱であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。箱の場合、フラップは構造体を安定化させる、開け口を形成する等の用途に用いる。折れ線は、主辺や副辺に沿って設けられる。
〔4〕前記の構造体は、展開図を組み立てて得られる三次元的な形状に成型された容器であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
〔5〕前記の構造体は、構造体の回転対称軸を回転軸として、回転軸方向の流れに対して流体中で回転することを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
本発明では、次のような効果が得られる。
(1)簡素な展開図で表現可能な、可展面からなる曲面体である。
(2)反角柱とは異なる基本形状で、二軸方向にねじれた外観の構造体である。
(3)意匠性の高い箱、容器、建築物等として利用できる。
(4)流体中で回転する構造体やぎこちなく転がる構造体が得られる。
ねじれ構造体(正方形型)の斜視図
正方形型ねじれ構造体とペンローズの正方形
正方形型ねじれ構造体の展開図と種類
正多角形型ねじれ構造体の展開図と断面図
長方形型ねじれ構造体の展開図
正方形型および長方形型ねじれ構造体の設計例
直線状および曲線状の辺を含む正方形型ねじれ構造体の設計例
フラップ等を含む正方形型ねじれ箱の展開図の例
流体中で回転する正方形型ねじれ構造体の例
ぎこちなく転がる長方形型ねじれ構造体の例
この発明は、数々の基礎形状の多面体を調べている過程で発想されたものである。特に、およそ球状の多面体のうち、頂点の価数が3価と4価で四角形だけからなる多面体の一種からヒントを得て、それを発展させたものである。ただし、本発明の構造体は多面体ではなく、可展面からなる曲面体である(可展面:伸縮させずに平面上に展開できる曲面)。
構造体の展開図はとても簡素であるが、それから得られる三次元的な形状は複雑である。これは、角柱や反角柱とは異なる基本形状である。二軸方向にねじれ、均整のとれた優美な外観の構造体である。上面と下面がほぼ平坦な構造体は、準安定的に水平面上に静置することができるため、箱、容器、建築物等の構造体として利用可能である。特に、正方形型・長方形型・正六角形型ねじれ構造体はその形状が空間充填立体に似ているため、箱や容器として収納等に有用である。さらに、ねじれ構造により特有な動きが生み出される。風車のように回転する構造体や、ぎこちなく転がる構造体が得られ、玩具や部品等としても利用可能である。
図1は、正方形型のねじれ構造体の斜視図である。構造体の稜線である辺を実線(見える部分)と破線(隠れた部分)で示した。構造体は多面体ではなく曲面体である。構造体は規則的に大きくねじれた外観を有する。ねじれは左右方向と上下方向に対して見られる。左右方向(水平方向)については、構造体の中心を貫く上下軸を回転軸として、構造体の中央領域の上面と下面が反対方向にねじれている。上下方向(鉛直方向)については、構造体の中心から構造体の対辺または対角方向に延ばした水平面上にある軸を回転軸として、構造体の周囲領域の上面と下面がねじれている。(正方形型ねじれ構造体の場合、対辺的または対角的な位置にある周囲領域の上面と下面が反対方向にねじれている)。上面と下面の中央領域はやや平坦であり、構造体を準安定的に置くことができる。それに対して、周辺領域はうねるように大きく曲がっている。構造体を横から見ると、辺が下面の頂点から上面の頂点につながり、その辺を軸として2つの面がくの字型に会合し、緩やかに旋回するように湾曲する。これが規則的に繰り返される。
この構造体は反角柱と似ているように見えるが、構造が異なる。反角柱は多面体であり、1)辺は全て直線状で、2)面は全て平坦で、3)頂点は4価で、4)ねじれは一軸方向で(左右軸)、5)ねじれを構成する面は三角形である。一方、ねじれ構造体は曲面体であり、1)辺が曲線状になり、2)面が湾曲し、3)頂点は3価で、4)ねじれは二軸方向で(左右軸と上下軸)、5)ねじれを構成する面は湾曲した四角形または五角形である。ただし、後述のように、ねじれ構造体の極限的な形状として反角柱が得られる。
図2の左に、正方形型のねじれ構造体を真上から見た平面図とその稜線を示した(実線:見える部分、破線:隠れた部分)。上面と下面の中央領域(この例では中央の正方形の領域)がねじれた位置にある。中央領域は、ほぼ平面的であるが、角の部分が傾斜している。周囲領域は、外側に向かってより傾斜しており、場所によって傾斜角度が変化する。後述の展開図で直線状の辺が、立体ではその多くが曲線状となる。これは、展開図の辺を曲線状にすることで作り出される曲面体とは本質的に異なる。図2の右に、不可能図形であるペンローズの正方形とその稜線を示した。ねじれ構造体と比較すると、周囲領域が似ているが、内側の辺の連結が異なっていることが分かる。
図3は、正方形型ねじれ構造体の展開図を示す。展開図は、立体の三次元的な形状を平面上に展開することで二次元的な形状として表現したものである。これは、初等幾何学で見られる展開図のことであり、フラップ等の付加的な要素を含まないものである。例えば、立方体の展開図は、6つの合同な正方形の平面配置で示される。ただし、ここでいう展開図は、同じ三次元的な形状を表現している同等な展開図を含む。例えば、立方体が11種類の異なる展開図で表現できるように、同じ形を表している展開図を同等とする。
ねじれ構造体の展開図は、合同で回転対称的な凸多角形2つが共有辺でずれてつながった形をしている。ここで、合同とは形と大きさが同じで重なり合う図形のことである。回転対称とは回転対称軸を回転軸として図形を360/n度(nは2以上の整数)回転させたとき元の図形と重なり合う対称性を意味する(n回対称と呼ぶ)。凸多角形とは全ての内角が180度未満である多角形であり、各辺は直線状の線分で構成される。正方形型ねじれ構造体の展開図の場合、凸多角形の形状が正方形であり(内角は全て90度で4回対称)、2つの合同な正方形がずれて共有する辺においてつながった形をしている。これは、一般的な角柱の展開図よりも簡素である。
2つの合同な凸多角形のつなぎ方には、幾つかのタイプがある。図では、上方向にずらしたもの(中央上)、下方向にずらしたもの(左上)、また、辺の中点までずらしたもの(右上)の3種類を示した。また、その下に、それから得られる立体構造の平面図を示している。左と中央の展開図は、2つの凸多角形を同じ幅だけ共有辺に沿って反対方向にずらしたものであり、これらは展開図が鏡像であるとともに、それから得られる立体も鏡像体(キラル)となる。紙等で模型を作る場合、同じ展開図であっても、山折りまたは谷折りで鏡像体が得られる。一方、右の展開図の場合、その鏡像も同じ立体構造を表現し、鏡像体がない。また、この場合、上面と下面の中央領域がなくなる。
図4のように、ねじれ構造体は四角形型に限らず、五角形型、六角形型等と拡張することができる。ねじれ構造体の断面を見ると、周囲領域が“く”の字型をしている。くの字の折れ曲がった部分が側面の稜線であり、そこで上下の二つの面が会合する。その面はおよそ同じ角度を保ちながら稜線の軸を中心に旋回するように湾曲する。およその角度δは二面角の式を用いて、正方形型では90度、正五角形型では76.3度、正六角形型では70.5度となる(正三角形型の場合は180度となる)。
ねじれ構造体は正多角形型だけに限らず、辺の長さを変えて設計することもできる。図5では長方形型ねじれ構造体の基本展開図を示している。長方形型のように、辺の長さが変わっても構造体の中央領域はおよそ平坦であるが、縦横比が大きくなると対角線方向にしなりはじめる(中央領域の角付近が傾斜している)。
図6に、正方形型および長方形型ねじれ構造体のより詳しい展開図を示す。
合同な凸n角形(nは4以上の整数)の場合は、主要な頂点(主頂点)が2n個あり、これがねじれ構造体の骨格を作る頂点となる。ただし、展開図において2つの凸多角形の頂点が組み立ての際に重ならない位置に配置する必要がある。四角形型ねじれ構造体の場合、主頂点は8個である(図の[1]から[8])。また、主頂点を結ぶ辺(主辺)は2n本ある。四角形型ねじれ構造体の場合、主辺は8本(展開図の実線)ある。
主頂点に加えて、副次的な頂点(副頂点)を展開図の凸多角形の回転対称的な位置に取ることができる。副頂点は構造体の形状をよりデザイン的にするのに有用である。図6の例では、副頂点が上面と下面に各4つの計8個ある(図の[a]から[h])。各々の副頂点は3価であり、1つの主頂点と連結し(例:[a]→[2])、他の2つの副頂点と連結する(例:[a]→[b]および[a]→[d])。この操作で得られる副次的な辺(副辺)は、直線状でも曲線状でもよく、展開図における凸多角形の回転対称的な位置に配置する。図6の例では、副辺が直線状で上面と下面に各8本の計16本ある(展開図の破線)。
前述の中央領域および周囲領域は、副辺を用いて定義することができる。構造体の上面についてみると、中央領域は副頂点[a][b][c][d]で囲まれた領域であり、周囲領域は中央領域より外側の領域である。
正方形型ねじれ構造体を例にとり、その構造の特徴を示す。展開図において、共有辺に沿った凸多角形のずれ幅をA、中央領域の幅をBとすると、正方形の辺の長さXは2A+Bである。ここで、副辺を主辺と平行にとると、その幅はAであり、1つの主頂点と2つの副辺が直線上に並び(例:主頂点[2]と副頂点[a][d]が直線上に並ぶ)、中央領域は正方形になる。この場合、近似的に、ねじれ箱の高さH、ねじれ角度(上下の中央領域の傾斜角度)εは次のようになる。
長方形型ねじれ構造体はより複雑になる。中央領域はより湾曲する。上面の主頂点(図では[2][4][6][8])を対角的に結ぶ2つの測地線は長さが異なり、長い測地線の方向に中央領域がしなる(例:測地線[2]-[6]よりも測地線[4]-[8]が長い)。また、中央領域の長辺側と短辺側における高さが異なり、長辺側が高い。これらは長辺と短辺の長さの比が大きくなるほど顕著になる。
図7では、正方形型ねじれ構造体を例にとり、副頂点の位置を回転対称性を保ちながら変えたものである。上の図は副辺が直線状の例である。この場合、中央領域はほぼ平坦な正方形の面、周囲領域は湾曲した五角形の面になる。一方、下の図は副辺が曲線状の例である。この場合、中央領域は双曲状の四角形、周囲領域の湾曲した面は線分と弧の辺からなる五角形になる。中央領域の各辺の中点を結ぶ部分はほぼ平坦で、角の部分が傾斜する。
各々の副頂点をそれと連結している主頂点に近づけてゆくと(例えば、[a]→[2]、[b]→[4]、[c]→[6]、[d]→[8]等)、その極限として反角柱を得る。このとき、ねじれ構造体の側面を構成する面が平坦な三角形になるとともに、主頂点が4価になる。
図1から図10に記載されたねじれ構造体は、実際に、紙やプラスチックシートを用いて試作されたものである。
ねじれ構造体は、その展開図から曲面が形成される。例えば、紙やプラスチックシートなどの通常平坦で可撓性があり伸縮しにくい素材でねじれ構造体を作ると、曲面の形成にともなってひずみが蓄えられる。つまり、このような素材で構造体を作ると、面が平坦な多面体型の箱と比べて構造が不安定化する。そのため、構造を十分な強度で維持する工夫(接着、掛合等)が必要になる。
一方、容器であれば(例えばプラスチック製など)、鋳型を作り、射出成型等の方法で作製するとよい。容器の場合は、最初からねじれた外観で成型されるため、それに伴うひずみの生成はない。また、建造物であれば、主辺と副辺にあたる骨格を作れば、全体で支え合う形になる。補強のためには、構造を三角分割または四角分割するように副次的な骨格を設ければよい。
図8に、紙やプラスチックシート等の素材を折り曲げて箱とする場合の付加的な要素を含む展開図の例を示す。これは、展開図に付加的な要素としてフラップ等を加えたものである。左上の付加的な要素を含む展開図は、接着剤等を一切使うことなく、折れ線に沿って曲げて組み立てると安定した正方形型ねじれ構造体ができる(山折りまたは谷折りで鏡像体ができる)。この場合、構造を安定化させているのは、箱の角部分(主頂点近傍)を支えるコーナーフラップ[10]と側面を支えるサイドフラップ[11]である。構造をさらに安定化させる必要がある場合、接着(左下、接着フラップ[12]を接着面とする例)や掛合(右上、掛合片[T]をスリット[S]に差し込む例)等の方法を使うことができる。
ねじれ構造体は回転対称の立体であり、多くの場合、鏡像体を有する。紙等で構造体を作ると風車の様になる。実際に、構造体の回転対称軸に軸をつけて息を吹きかけると回転する。図9に、流体中での正方形型ねじれ構造体の動きを示した。図のように、構造体の回転対称軸を回転軸として、回転軸の方向を流れの方向と同じになるように構造体を流体中に配置すると、構造体は流体中で回転する。この例では、左側から右側に向かう流れに対して、ねじれ構造体は時計回りに回転する。鏡像体であれば、反対方向に回転する。簡単には、構造体の平面図において中央領域が傾斜している方向に回転する。
動きに関わるもう一つの例を挙げる。図10は、長方形型ねじれ構造体の特殊な例であり、図6における中央領域の縦幅Cを0としたものである(B>C、Y=2A)。この構造体を斜面に置くと進行方向を小刻みに変えながらぎこちなく転がる。
δ:側面の角度
ε:ねじれ角度
H:箱の高さ
1〜8:主頂点
a〜h:副頂点
X:四角形の横幅
Y:四角形の縦幅
A:2つの四角形のずれ幅
B:中央領域の横幅
C:中央領域の縦幅
10:コーナーフラップ
11:サイドフラップ
12:接着フラップ
S:スリット
T:掛合片
 
本発明は、簡素な展開図で表現可能な曲面からなるねじれた外観の構造体に関する。
一般的な箱の基本形状は角柱である。中でも直方体は、簡素な展開図で表現可能で、構造が安定で、直交する三軸方向に充填できるため有用である。一方、他の基本形状(例えば、反角柱)が使われることは少なく、多様性に乏しい。また、箱の形状は平坦な面からなる多面体がほとんどであり、曲面体が少ない。箱などで曲面を作り出す方法も限定され、直線状の辺を曲線状にすることによって本来平坦な面を曲面に変えている。
そこで、本発明は、簡素な展開図で表現可能で、角柱や反角柱とは異なる基本形状を有し、本質的に曲面体であり、二軸方向にねじれた外観をもち、箱、容器、玩具、建築物等として利用可能な意匠性の高い構造体を提供する。
〔1〕構造体であって、その三次元的な形状は、合同で回転対称的な凸多角形2つをずらして共有辺でつないだ二次元的な形状の展開図を辺に沿って連結することで得られ、展開図における凸多角形の頂点を主頂点とし、各主頂点は3価で他の主頂点に連結する2本の主辺と主頂点とは異なりかつ展開図における凸多角形内の回転対称的な位置に配置された副頂点に連結する1本の副辺を有し、各副頂点は3価で主頂点と連結する1本の副辺と他の副頂点に連結する2本の副辺を有し、全ての副辺が展開図における凸多角形内の回転対称的な位置に配置されていることを特徴とする、可展面としての曲面を有し、二軸方向にねじれた外観の構造体。展開図がとても簡素である。角柱や反角柱とは異なる基本形状を有する。多面体ではなく曲面体が得られる。主辺と副辺が構造体の稜線を形成する。主辺は構造体の基本骨格を形成し、副辺はデザイン性を高めるのに役立つ。副辺の設計により、上面と下面をほぼ平坦にすると、箱や容器等として利用しやすい。
〔2〕前記の構造体は、展開図における凸多角形が正多角形であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。均整の取れた優美な外観の構造体が得られる。
〔3〕前記の構造体は、展開図にフラップと折れ線を加えて組み立てられる箱であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。箱の場合、フラップは構造体を安定化させる、開け口を形成する等の用途に用いる。折れ線は、主辺や副辺に沿って設けられる。
〔4〕前記の構造体は、展開図を組み立てて得られる三次元的な形状に成型された容器であることを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
〔5〕前記の構造体は、構造体の回転対称軸を回転軸として、回転軸方向の流れに対して流体中で回転することを特徴とする、〔1〕に記載の構造体。
本発明では、次のような効果が得られる。
(1)簡素な展開図で表現可能な、可展面からなる曲面体である。
(2)反角柱とは異なる基本形状で、二軸方向にねじれた外観の構造体である。
(3)意匠性の高い箱、容器、建築物等として利用できる。
(4)流体中で回転する構造体やぎこちなく転がる構造体が得られる。
ねじれ構造体(正方形型)の斜視図
正方形型ねじれ構造体とペンローズの正方形
正方形型ねじれ構造体の展開図と種類
正多角形型ねじれ構造体の展開図と断面図
長方形型ねじれ構造体の展開図
正方形型および長方形型ねじれ構造体の設計例
直線状および曲線状の辺を含む正方形型ねじれ構造体の設計例
フラップ等を含む正方形型ねじれ箱の展開図の例
流体中で回転する正方形型ねじれ構造体の例
ぎこちなく転がる長方形型ねじれ構造体の例
この発明は、数々の基礎形状の多面体を調べている過程で発想されたものである。特に、およそ球状の多面体のうち、頂点の価数が3価と4価で四角形だけからなる多面体の一種からヒントを得て、それを発展させたものである。ただし、本発明の構造体は多面体ではなく、可展面からなる曲面体である(可展面:伸縮させずに平面上に展開できる曲面)。
構造体の展開図はとても簡素であるが、それから得られる三次元的な形状は複雑である。これは、角柱や反角柱とは異なる基本形状である。二軸方向にねじれ、均整のとれた優美な外観の構造体である。上面と下面がほぼ平坦な構造体は、準安定的に水平面上に静置することができるため、箱、容器、建築物等の構造体として利用可能である。特に、正方形型・長方形型・正六角形型ねじれ構造体はその形状が空間充填立体に似ているため、箱や容器として収納等に有用である。さらに、ねじれ構造により特有な動きが生み出される。風車のように回転する構造体や、ぎこちなく転がる構造体が得られ、玩具や部品等としても利用可能である。
図1は、正方形型のねじれ構造体の斜視図である。構造体の稜線である辺を実線(見える部分)と破線(隠れた部分)で示した。構造体は多面体ではなく曲面体である。構造体は規則的に大きくねじれた外観を有する。ねじれは左右方向と上下方向に対して見られる。左右方向(水平方向)については、構造体の中心を貫く上下軸を回転軸として、構造体の中央領域の上面と下面が反対方向にねじれている。上下方向(鉛直方向)については、構造体の中心から構造体の対辺または対角方向に延ばした水平面上にある軸を回転軸として、構造体の周囲領域の上面と下面がねじれている。(正方形型ねじれ構造体の場合、対辺的または対角的な位置にある周囲領域の上面と下面が反対方向にねじれている)。上面と下面の中央領域はやや平坦であり、構造体を準安定的に置くことができる。それに対して、周辺領域はうねるように大きく曲がっている。構造体を横から見ると、辺が下面の頂点から上面の頂点につながり、その辺を軸として2つの面がくの字型に会合し、緩やかに旋回するように湾曲する。これが規則的に繰り返される。
この構造体は反角柱と似ているように見えるが、構造が異なる。反角柱は多面体であり、1)辺は全て直線状で、2)面は全て平坦で、3)頂点は4価で、4)ねじれは一軸方向で(左右軸)、5)ねじれを構成する面は三角形である。一方、ねじれ構造体は曲面体であり、1)辺が曲線状になり、2)面が湾曲し、3)頂点は3価で、4)ねじれは二軸方向で(左右軸と上下軸)、5)ねじれを構成する面は湾曲した四角形または五角形である。ただし、後述のように、ねじれ構造体の極限的な形状として反角柱が得られる。
図2の左に、正方形型のねじれ構造体を真上から見た平面図とその稜線を示した(実線:見える部分、破線:隠れた部分)。上面と下面の中央領域(この例では中央の正方形の領域)がねじれた位置にある。中央領域は、ほぼ平面的であるが、角の部分が傾斜している。周囲領域は、外側に向かってより傾斜しており、場所によって傾斜角度が変化する。後述の展開図で直線状の辺が、立体ではその多くが曲線状となる。これは、展開図の辺を曲線状にすることで作り出される曲面体とは本質的に異なる。図2の右に、不可能図形であるペンローズの正方形とその稜線を示した。ねじれ構造体と比較すると、周囲領域が似ているが、内側の辺の連結が異なっていることが分かる。
図3は、正方形型ねじれ構造体の展開図を示す。展開図は、立体の三次元的な形状を平面上に展開することで二次元的な形状として表現したものである。これは、初等幾何学で見られる展開図のことであり、フラップ等の付加的な要素を含まないものである。例えば、立方体の展開図は、6つの合同な正方形の平面配置で示される。ただし、ここでいう展開図は、同じ三次元的な形状を表現している同等な展開図を含む。例えば、立方体が11種類の異なる展開図で表現できるように、同じ形を表している展開図を同等とする。
ねじれ構造体の展開図は、合同で回転対称的な凸多角形2つが共有辺でずれてつながった形をしている。ここで、合同とは形と大きさが同じで重なり合う図形のことである。回転対称とは回転対称軸を回転軸として図形を360/n度(nは2以上の整数)回転させたとき元の図形と重なり合う対称性を意味する(n回対称と呼ぶ)。凸多角形とは全ての内角が180度未満である多角形であり、各辺は直線状の線分で構成される。正方形型ねじれ構造体の展開図の場合、凸多角形の形状が正方形であり(内角は全て90度で4回対称)、2つの合同な正方形がずれて共有する辺においてつながった形をしている。これは、一般的な角柱の展開図よりも簡素である。
2つの合同な凸多角形のつなぎ方には、幾つかのタイプがある。図では、上方向にずらしたもの(中央上)、下方向にずらしたもの(左上)、また、辺の中点までずらしたもの(右上)の3種類を示した。また、その下に、それから得られる立体構造の平面図を示している。左と中央の展開図は、2つの凸多角形を同じ幅だけ共有辺に沿って反対方向にずらしたものであり、これらは展開図が鏡像であるとともに、それから得られる立体も鏡像体(キラル)となる。紙等で模型を作る場合、同じ展開図であっても、山折りまたは谷折りで鏡像体が得られる。一方、右の展開図の場合、その鏡像も同じ立体構造を表現し、鏡像体がない。また、この場合、上面と下面の中央領域がなくなる。
図4のように、ねじれ構造体は四角形型に限らず、五角形型、六角形型等と拡張することができる。ねじれ構造体の断面を見ると、周囲領域が“く”の字型をしている。くの字の折れ曲がった部分が側面の稜線であり、そこで上下の二つの面が会合する。その面はおよそ同じ角度を保ちながら稜線の軸を中心に旋回するように湾曲する。およその角度δは二面角の式を用いて、正方形型では90度、正五角形型では76.3度、正六角形型では70.5度となる(正三角形型の場合は180度となる)。
ねじれ構造体は正多角形型だけに限らず、辺の長さを変えて設計することもできる。図5では長方形型ねじれ構造体の基本展開図を示している。長方形型のように、辺の長さが変わっても構造体の中央領域はおよそ平坦であるが、縦横比が大きくなると対角線方向にしなりはじめる(中央領域の角付近が傾斜している)。
図6に、正方形型および長方形型ねじれ構造体のより詳しい展開図を示す。
合同な凸n角形(nは4以上の整数)の場合は、主要な頂点(主頂点)が2n個あり、これがねじれ構造体の骨格を作る頂点となる。ただし、展開図において2つの凸多角形の頂点が組み立ての際に重ならない位置に配置する必要がある。四角形型ねじれ構造体の場合、主頂点は8個である(図の[1]から[8])。また、主頂点を結ぶ辺(主辺)は2n本ある。四角形型ねじれ構造体の場合、主辺は8本(展開図の実線)ある。
主頂点に加えて、副次的な頂点(副頂点)を展開図の凸多角形内の回転対称的な位置に取ることができる。副頂点は構造体の形状をよりデザイン的にするのに有用である。図6の例では、副頂点が上面と下面に各4つの計8個ある(図の[a]から[h])。各々の副頂点は3価であり、1つの主頂点と連結し(例:[a]→[2])、他の2つの副頂点と連結する(例:[a]→[b]および[a]→[d])。この操作で得られる副次的な辺(副辺)は、直線状でも曲線状でもよく、その全てについて展開図における凸多角形内の回転対称的な位置に配置する。図6の例では、副辺が直線状で上面と下面に各8本の計16本ある(展開図の破線)。
前述の中央領域および周囲領域は、副辺を用いて定義することができる。構造体の上面についてみると、中央領域は副頂点[a][b][c][d]で囲まれた領域であり、周囲領域は中央領域より外側の領域である。
正方形型ねじれ構造体を例にとり、その構造の特徴を示す。展開図において、共有辺に沿った凸多角形のずれ幅をA、中央領域の幅をBとすると、正方形の辺の長さXは2A+Bである。ここで、副辺を主辺と平行にとると、その幅はAであり、1つの主頂点と2つの副辺が直線上に並び(例:主頂点[2]と副頂点[a][d]が直線上に並ぶ)、中央領域は正方形になる。この場合、近似的に、ねじれ箱の高さH、ねじれ角度(上下の中央領域の傾斜角度)εは次のようになる。
長方形型ねじれ構造体はより複雑になる。中央領域はより湾曲する。上面の主頂点(図では[2][4][6][8])を対角
的に結ぶ2つの測地線は長さが異なり、長い測地線の方向に中央領域がしなる(例:測地線[2]-[6]よりも測地線[4]-[8]が長い)。また、中央領域の長辺側と短辺側における高さが異なり、長辺側が高い。これらは長辺と短辺の長さの比が大きくなるほど顕著になる。
図7では、正方形型ねじれ構造体を例にとり、副頂点の位置を回転対称性を保ちながら変えたものである。上の図は副辺が直線状の例である。この場合、中央領域はほぼ平坦な正方形の面、周囲領域は湾曲した五角形の面になる。一方、下の図は副辺が曲線状の例である。この場合、中央領域は双曲状の四角形、周囲領域の湾曲した面は線分と弧の辺からなる五角形になる。中央領域の各辺の中点を結ぶ部分はほぼ平坦で、角の部分が傾斜する。
各々の副頂点をそれと連結している主頂点に近づけてゆくと(例えば、[a]→[2]、[b]→[4]、[c]→[6]、[d]→[8]等)、その極限として反角柱を得る。このとき、ねじれ構造体の側面を構成する面が平坦な三角形になるとともに、主頂点が4価になる。
図1から図10に記載されたねじれ構造体は、実際に、紙やプラスチックシートを用いて試作されたものである。
ねじれ構造体は、その展開図から曲面が形成される。例えば、紙やプラスチックシートなどの通常平坦で可撓性があり伸縮しにくい素材でねじれ構造体を作ると、曲面の形成にともなってひずみが蓄えられる。つまり、このような素材で構造体を作ると、面が平坦な多面体型の箱と比べて構造が不安定化する。そのため、構造を十分な強度で維持する工夫(接着、掛合等)が必要になる。
一方、容器であれば(例えばプラスチック製など)、鋳型を作り、射出成型等の方法で作製するとよい。容器の場合は、最初からねじれた外観で成型されるため、それに伴うひずみの生成はない。また、建造物であれば、主辺と副辺にあたる骨格を作れば、全体で支え合う形になる。補強のためには、構造を三角分割または四角分割するように副次的な骨格を設ければよい。
図8に、紙やプラスチックシート等の素材を折り曲げて箱とする場合の付加的な要素を含む展開図の例を示す。これは、展開図に付加的な要素としてフラップ等を加えたものである。左上の付加的な要素を含む展開図は、接着剤等を一切使うことなく、折れ線に沿って曲げて組み立てると安定した正方形型ねじれ構造体ができる(山折りまたは谷折りで鏡像体ができる)。この場合、構造を安定化させているのは、箱の角部分(主頂点近傍)を支えるコーナーフラップ[10]と側面を支えるサイドフラップ[11]である。構造をさらに安定化させる必要がある場合、接着(左下、接着フラップ[12]を接着面とする例)や掛合(右上、掛合片[T]をスリット[S]に差し込む例)等の方法を使うことができる。
ねじれ構造体は回転対称の立体であり、多くの場合、鏡像体を有する。紙等で構造体を作ると風車の様になる。実際に、構造体の回転対称軸に軸をつけて息を吹きかけると回転する。図9に、流体中での正方形型ねじれ構造体の動きを示した。図のように、構造体の回転対称軸を回転軸として、回転軸の方向を流れの方向と同じになるように構造体を流体中に配置すると、構造体は流体中で回転する。この例では、左側から右側に向かう流れに対して、ねじれ構造体は時計回りに回転する。鏡像体であれば、反対方向に回転する。簡単には、構造体の平面図において中央領域が傾斜している方向に回転する。
動きに関わるもう一つの例を挙げる。図10は、長方形型ねじれ構造体の特殊な例であり、図6における中央領域の縦幅Cを0としたものである(B>C、Y=2A)。この構造体を斜面に置くと進行方向を小刻みに変えながらぎこちなく転がる。
δ:側面の角度
ε:ねじれ角度
H:箱の高さ
1〜8:主頂点
a〜h:副頂点
X:四角形の横幅
Y:四角形の縦幅
A:2つの四角形のずれ幅
B:中央領域の横幅
C:中央領域の縦幅
10:コーナーフラップ
11:サイドフラップ
12:接着フラップ
S:スリット
T:掛合片