本発明は、本発明は道路測量情報の活用と道路維持管理と防災について、道路路面や道路附属物に関するダイナミックマッピング情報(高精度三次元地図情報)から災害を想定・監視し、道路管理者を支援できる災害予測による支援方法に関する。
道路災害に関する定期的な管理の体制としては、日常の点検を行う道路パトロールの他に、平成8年に実施された道路防災総点検を発端とする道路防災カルテ点検がある。このうち、道路パトロールは、管理対象道路について車両で目視巡回するもので、毎日または数日おきに管理区間を巡回して道路面の劣化や、付属物の破損、交通標識の視認性等、様々な事項について巡視・情報収集している。
一方、道路防災カルテ点検は道路に係わる岩盤崩壊や落石、地すべり等の災害についての監視を目的として、道路周辺の斜面や道路路面から見えない箇所を中心に専門技術者による踏査を行うもので、国道については年に1回程度の頻度で行われることが一般的であるが、地方自治体が管理する道路については、その限りではなく、道路管理者によって頻度が異なる状況である。
一部の自治体では、道路パトロールから得られる落石情報をGIS上で整理し、災害対策を検討する材料として活用しているものや、例えば、特許文献1のように、道路パトロール車両に加速度検出装置を設置して道路の凹凸を検知し、舗装メンテナンス情報や、特許文献2に示される道路標識の認識情報などを用いた道路パトロール支援サービスを活用しているものがあるが、地すべりや斜面崩壊などの災害については道路防災カルテ点検のような専門技術者の点検に頼っている状況である。
また、近年のIoT技術を反映して、通信機能を内蔵した計測器で地盤の状況を計測し、計測データを遠隔収集・解析する管理手法なども開発されているが、防災カルテ点検の全箇所をIoT化するには設置と維持管理コストが膨大となるため、活動度が高い災害や、特に重要な箇所以外での採用は難しい。
以上のような道路管理の状況とは異なる社会の動きとして、自動運転技術の開発がある。自動運転技術については、自動運転機能を有した車両だけでなく、自動運転のための高精度三次元地図が必要不可欠な技術とされている。この高精度三次元地図は、一度作成したら道路や附属物の構造が変更されるまで更新されない道路台帳とは異なり、頻繁に更新することを前提としていることからダイナミックマップと呼ばれている。頻繁に地図情報を更新することで交通事故や交通渋滞などのトラブルを回避できるため、世界各地で効率的な地図の更新方法が研究されている。この地図の更新に関しては、レーザー測距儀、車載カメラ、ミリ波レーダーなど、様々な技術を用いての測量技術が開発されている。これらの測量技術は、これまで道路トンネルや橋梁などのメンテナンスでも用いられてきた経緯もあり、高精度三次元地図の作成と更新は、道路施設の保全や防災への応用も期待されている。
しかしながら、従来、道路防災カルテ点検で専門技術者が点検している着目点(監視地点)は、道路からの死角となっていることが多いため、車両から直接監視することができない。このため地すべりや斜面崩壊などといった災害に対する詳細三次元道路地図測量等の有用性についてはあまり検討されていない状況である。
特開2015−176540号公報
特開2017−111469号公報
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、道路や道路附属物等の三次元情報を活用して道路に係わる地盤の災害を監視し、道路管理に必要な情報を提供できる災害予測による支援方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の災害予測による支援方法は、少なくとも道路路面又は道路附属物のいずれかの三次元情報を取得する情報取得工程と、道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、そのパターンに応じて区分された道路管理単位で、前記情報取得工程で取得した前記三次元情報を整理することで少なくとも前記道路路面又は前記道路附属物のいずれかの状態を取得し、道路に発生する災害を予測する災害予測工程とを含むことを特徴とする。
請求項2に記載の災害予測による支援方法の前記情報取得工程では前記道路附属物の三次元情報を取得することを特徴とする。
請求項3に記載の災害予測による支援方法の前記災害予測工程では、前記情報取得工程で取得した道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴を、災害を評価する要素として予測を行うことを特徴とする。
請求項4に記載の災害予測による支援方法の前記災害予測工程で予測された前記道路に発生しうる災害について、道路管理者の判断を反映させて、災害の種類又は規模の少なくともいずれかを確定させるために必要な情報又は調査を導き出す追加調査選択工程を行うことを特徴とする。
請求項5に記載の災害予測による支援方法の前記災害予測工程では、前記道路路面若しくは前記道路附属物の設計値、又は、過去に取得した前記道路路面若しくは前記道路附属物の三次元情報の少なくともいずれか1つと、前記情報取得工程で取得した三次元情報とを比較して差分情報を取得するとともに、この差分情報から少なくとも前記道路路面又は前記道路附属物のいずれかの変状を抽出する変状抽出工程を行うとともに、前記変状抽出工程で抽出した変状及び前記道路路面若しくは前記道路附属物の少なくともいずれかの状態に基づいて道路に発生する災害を予測することを特徴とする。
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1に記載された発明においては、取得した三次元情報を活用し、この三次元情報から道路路面等の状態を取得することにより、広い範囲の道路について災害の予兆監視を行うことができる。
(2)また、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を予測することができる。
(3)請求項2に記載された発明も前記(1)〜(2)と同様な効果が得られるとともに、道路附属物の三次元情報を取得することにより、より精度良く災害を予測することができる。
(4)請求項3に記載された発明も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を予測することができる。
(5)請求項4に記載された発明も前記(1)〜(4)と同様な効果が得られるとともに、専門技術者の現地踏査を経て行われていた追加調査発注作業について、災害予測工程の結果を踏まえて道路管理者の判断を反映して調査手法を絞り込むことで、速やかに災害対策を講じることができる。
(6)また、災害の種類と規模が特定されると、代表的な対策工種と対策工費を特定の専門技術者に相談することなく、道路管理者が予算を算出することができる。
(7)災害の種類と規模等の活動の程度が特定できるので、道路の重要性や、交通量、通行止めになった場合の孤立集落の有無などと併せて対策工の優先順位を導き出すことができ、道路管理者の業務を支援することができる。
図1乃至図10は本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
図11は本発明の第2の実施形態を示す説明図である。
第1実施形態の災害予測による支援方法の工程図。
本発明で分類する災害種を示す分類表。
情報取得工程から災害予測工程までの工程を示した概要図。
道路路面及び道路附属物の説明図。
道路管理単位となる道路横断地形大分類を示す説明図。
道路横断地形の細分類の一例を示す説明図。
災害を抽出するために整理する変状の大分類を示した説明図。
変状の大分類のうち、道路幅員の拡大・縮小に関する細分類の例を示す説明図。
災害と本発明区分との関係を示した例を示す説明図。
追加調査選択工程のフローチャート。
第2実施形態の災害予測による支援方法の工程図。
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
図1乃至図10に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は道路路面2等の情報を取得して、道路に発生する災害を予測し、道路管理者等の道路の災害管理を支援できる災害予測による支援方法である。
この災害予測による支援方法1は、図1に示すように、少なくとも道路路面2又は道路附属物3のいずれか1つの情報を取得する情報取得工程4と、道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、その分類パターンに応じて区分された道路管理単位で、前記情報取得工程で取得した前記三次元情報を整理することで道路に発生する災害を予測する災害予測工程5とで構成されている。
なお、これらの工程、特に災害予測工程5においては主にコンピュータを用いて行われており、「コンピュータ」とは、PCの要素の働きを意味し、具体的には、入力・出力信号の確実な受け渡しの役目を果たすインタフェースが、例えば出力としてのマイクロプロセッサからの制御信号を、確実に外部の操作用機器、警報機器、表示機器、スピーカー、測定機器等へ情報を伝達することをいう。したがって、特許請求の範囲及び明細書の「コンピュータを用いる」の用語は、便宜上用いられているに過ぎないので、情報取得、ログ情報、抽出等の各用語は、シーケンス制御で一般的に理解されているように、制御系の外部からの命令信号を受け取り、それを処理する命令処理部、道路路面、道路附属物等の識別情報、該識別情報に紐づけされた道路に関する凹凸、幅員、区画線、路肩縁、段差、低壁状物等の関連情報を格納する記憶部、制御信号のレベルを増幅すると共に、安全対策を講じて操作信号を出力する操作部、さら_GoBack_GoBackには、制御対象の制御状態を所要の信号で検出して出力する検出部等をあわせた概念であり、発明の課題を達成するために必要なPCの要素が含まれている。
ここで、「道路路面2」とは、車道だけではなく、路肩や道路周辺の歩道も含む。また、橋梁やトンネル等の車道や歩道等も含まれるものである。
「道路附属物3」とは、例えば図4に示すように、道路付近に設けられている側溝、車線等の表示、低壁状物や高壁状物を含むもので、低壁状物とは、道路近傍に設置されている縁石やガードレール・フェンスに相当するもので、高壁状物とは、擁壁または擁壁と落石防護柵が組み合わされた構造物を想定している。
低壁状物は、高精度三次元地図において地物化された情報、又は、更新測量情報のうち、道路台帳に記載されガードレール座標付近の鉛直方向の点群またはポリゴンなどの測量座標群又は、道路から最も近い鉛直方向の測量座標群のうち、80cm程度の高さのものを低壁状物として評価する。
高壁状物は、擁壁本体が傾いた場合には、相当の土圧が背面に発生している場合と考えられるが、ブロック積み擁壁などの場合は、背面の盛土が緩むとハラミ出しが生じるため、応力の指標や、盛土健全度の指標となる。
また、「道路附属物3」にはこのような人工物だけではなく、道路周辺の凹所、斜面等の自然又は形成された地形(例えば法面等)等も含まれ、これらの地形等の情報も取得対象となり得る。
さらに、災害予測の対象となる「道路」とは、道路路面2やその周囲の地形、道路路面2の地下部分等、変位や崩壊、陥没等が道路路面2に影響を与える地盤を含むものである。
次に発生しうる災害の具体例を図2及び以下に示す。
差分量の大きい凸変位が卓越する「崩壊」、路面での凸変位、凹変位と併せて道路や道路附属物の水平変位が累積する「すべり」、凹変状が卓越する「沈下」、測量データだけでは絞り込みが難しい「その他」の大分類がある。
詳細には、「崩壊」は、小分類として、岩盤崩壊、斜面崩壊、落石、盛土崩壊などに分類される。このうち、岩盤崩壊は道路防災カルテ並びに安定度調査表のデータを参照することによって落石と区別することができる。斜面崩壊は、高壁状物の差分情報並びに道路の凸変状の分布、凸形状の平滑度などを勘案することで抽出することができる。落石は、主に道路の凸変状の分布、平滑度を基本に、道路パトロールからの情報を組み合わせることで抽出することができる。道路より上の盛土崩壊については、道路の横断形状と道路の凸変状の分布、平滑度の組み合わせで抽出することができる。道路下の盛土崩壊については、道路幅員の変化や道路の凹変状などから候補として絞り込むことができるが、測量データからだけでは沈下との区別が難しいため道路管理者からの情報を勘案する必要がある。
「すべり」は、地すべりと盛土すべりに分類されるが、地山か盛土かは道路横断地形から絞り込む。すべりについては、水平方向の変位が伴うため、道路幅員の増減、道路線形の局所的な変位が重要な抽出要素となるほか、凸片状や凹変状の累積拡大の有無も抽出要素となる。
「沈下」は、道路全体に沈下する自然地盤沈下や盛土沈下があるほか、路肩付近から路床材、路体材の細粒分が流失して生じるものや、舗装下に空洞が発生して生じる陥没などがある。これらは、道路横断地形と道路凹変状の分布から抽出することができ、道路台帳から得られる横断水路の有無や、地形図から読み取ることができる谷地形の有無などにより抽出精度を上げることができる。
「その他」は、測量データのみでは区分が難しいものであるため、道路パトロールや道路防災カルテ、安定度調査などの情報が不可欠である。なお、土石流や植生の影響による災害、膨潤性地盤等の地盤自体の影響による災害については、この「その他」に分類される。
情報取得工程4は、好ましい実施形態では、道路路面2及び道路附属物3の両方の情報も取得する。具体的には、レーザー測距儀、車載カメラ、ミリ波レーダーなど、様々な技術を用いて道路路面2及び道路附属物3の三次元情報を測量し、測量した三次元情報が示す地物の静的姿勢を取得している。また、この情報取得工程4で取得する三次元情報には、高精度三次元地図を作成するための三次元情報も含まれる。
また、道路台帳等に記載された情報を本工程で三次元情報として取得してもよい。このような道路台帳には、特に道路附属物3等の高精度三次元地図には反映されない擁壁や法面等の三次元情報が含まれており、このような情報を用いることにより災害予測工程5において精度よく道路路面2や道路附属物3の状態を取得することができ、災害予測することができる。
取得した三次元情報は、記憶装置等にテーブル状態でデータベース化して保存することが望ましい。過去に取得した三次元情報についてもテーブル状態でデータベース化して保存することにより、現在の道路路面2等の三次元情報から取得できる状態だけでなく、道路路面2、道路附属物3の三次元情報の経時変化を容易に比較することができる。
なお、この情報取得工程4では、測量に限らず他の公知の測定方法により測定された三次元情報を取得してもよい。
ここで、「静的姿勢」とは、道路又は道路附属物の位置、幅、長さ、高さ、傾き等を言うものであり、静的姿勢を比較し差分を取得する場合には、これらの姿勢を示す値を比較し、差分を取得する。
この情報取得工程4で取得する道路路面2や道路附属物3の情報は、現状では高精度三次元地図作成のために別途行われたものを流用するしかないが、自動運転車両が一般化することで、道路パトロール車両に測量装置が搭載されれば、自動での測量(情報取得)が可能である。道路管理者が特に着目する箇所については、道路から視認できる箇所にレーザー測量用反射版を設置し、監視箇所を登録することで安価に監視することが可能となる。特に、これまで目視でしか管理できなかった落石防護柵やポケット式ロックネット裏の堆砂について機械的に監視・管理することが可能となる。
災害予測工程5は、このようにして取得した三次元情報から道路路面2や道路附属物3の状態(変状を含む)を取得し、今後発生しうる災害を予測する工程である。
本工程において災害を予測するために発生しうる災害種を絞り込む際に、測量により測定した三次元情報や道路台帳、地形図等から、図5や図6に示すような道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、その分類パターンに応じて道路管理単位として区分して、道路横断地形の幾何学的な特徴を抽出し、道路横断地形の幾何学的な特徴ごとに道路管理単位として区分して情報を整理する。
具体的には、この道路管理単位に応じて、その道路横断地形において統計的に発生しやすい災害を図2に示す分類から判断するとともに、取得した三次元情報(測量データ)だけでなく、道路台帳から得られる横断水路やガードレールなどの道路附属物の情報、道路防災点検で作成された道路防災カルテ、安定度調査表等の情報も整理し、の三次元情報から取得された道路路面2及び道路附属物3の状態を取得する。
ここで、道路路面2及び道路附属物3の状態とは、三次元情報(道路台帳等から取得した情報も含む)に加え道路路面2や道路附属物3の変状まで含んだ概念であり、三次元情報や道路横断地形に基づいて道路路面2等の状態が取得される。道路路面2等の状態の例としては、低壁状物の傾倒や道路路面2の亀裂、段差等である。ところで、このような変状は三次元情報のみから取得できるものや三次元情報の差分を取得することで評価できる変状とがあり、より予測精度を向上させるために三次元情報の差分を取得して、その差分情報から変状を評価する変状抽出工程を災害予測工程5を行う際に行ってもよい。
なお、情報取得工程4において三次元情報を取得する際に、道路横断地形の幾何学的な特徴ごとに道路管理単位として区分して三次元情報を取得してもよい。
このように道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、道路路面2や道路附属物3の三次元情報を取得し整理することにより、道路路面2の敷設方向と直行する方向の災害を絞り込み予測できるとともに、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を絞り込むことができる。
ところで、特に道路附属物3については、道路路面2からの死角となっていることが多いため、車両から直接監視することができず、このため地すべりや斜面崩壊などといった災害に対しての予測が困難であったが、道路附属物3の三次元情報を取得し、道路附属物3の状態を取得することによりこれらの道路路面2を含む道路に発生する災害をより早く、かつ、精度良く予測することができ、道路管理の維持に寄与することができる。そのため、道路附属物3の三次元情報のみを取得して、道路附属物3の状態を取得し、災害予測工程5を行ってもよい。
この道路横断形状の幾何学的な特徴として、大分類としては、図5に示したような平坦、凸、凹で示される程度のものであるが、道路台帳から詳細な情報を拾うことで、図6に示すように道路外側の凸地形凹地系をスロープや擁壁などに細分することができる。このような細分を行うことで、道路横断地形の幾何学的な特徴を、災害を評価する要素として予測し、災害種をより絞り込むことが可能である。
その後、この道路管理単位において発生しやすい災害種を抽出し、道路路面2等の状態の情報と前述の発生しやすい災害種を整理し、今後発生しうる災害を絞り込み予測する。このような情報を整理し災害を絞り込む際には、測定した三次元情報や道路台帳、道路防災カルテ、安定度調査表、道路パトロール日報等を参照することができる。
図5は道路を横断方向に見た場合の地形を簡略化して表し、大きく分類したものである。道路より高い地形を凸、道路より低い地形を凹で表現している。
平坦は、道路の両側が平坦地で、平野や台地などに代表される地形をあらわしている。道路下の地盤は造成された可能性が高い。郊外では周囲より道路の方が若干高いことが多いが、造成地では、周囲の宅地より道路の方が若干低いことが多い。
両凹は、主に盛土上の道路の場合が多いが、自然堤防や砂嘴などの場合は自然地盤であることもある。また山岳地では稜線道路が相当し、地盤が岩盤であることもある。
両凸は、道路の両側が高くなっている地形で、山岳地の両切土などが主に対応する。切土のり面の場合、のり尻を擁壁としている場合も多い。一方、場合によっては未固結地盤や盛土を横切るために両側を擁壁として土留している場合もある。
片凸片平は、山地と平地との境界付近でよく見られる断面地形である。盛土造成地に近接した道路でも見られる。
片平片凹は、沿岸部や河川沿い、高原などに多い地形であるが、平野部においても、道路に水路が近接している場合もこの分類に含まれる。
片凸方凹は、一般に片切片盛と呼ばれる道路が代表的で、山間地や海岸部の斜面を掘削し、掘削面谷側を掘削土で盛土して平坦面を確保したものが多い。したがって、凸部は自然地盤で、凹部が盛土であることが一般的であるが、希に大規模盛土の道路として、凹側も盛土であることもある。盛土の場合はゆるいのり面である場合か、擁壁となっていることが多い。崩れやすい地質が分布する場合には、自然地盤であっても、緩い勾配で切土のり面が成されている場合もあるので、詳細を検討する場合には、詳細な地形図や現地踏査による追加情報が必要である。
トンネル他は、山岳トンネルやシールドトンネル、沈埋トンネル、ボックスカルバートなどの構造物内の道路区間を表す。トンネル坑口付近はC.両凸やD.片凸片平等に分類される。トンネル内よりも、トンネル坑口斜面などが岩盤崩壊や落石などの災害が多く、注意が必要である。
橋梁他は、橋梁やボックスカルバート上の道路などを想定している。橋梁区間は道路災害よりも構造物劣化が主体であるが、橋台付近は細粒分流失による道路面の沈下・陥没が生じることが少なくない。
図6は、図5で示した道路横断地形を詳細に区分したものである。道路起点側から終点側に向かった横断面として、向かって左側がL、右側がRである。L1R2などの記号の数字は、0:平坦、1:凹、2:凸を示している。また詳細区分図中の(FF)や(SwF)などの記号は、LRそれぞれの形態を示しており、F:平地、S:のり面、Sw:擁壁付のり面、W:擁壁を意味している。詳細地形図や、現地踏査などが実施された場合には、LRそれぞれの地質分類について情報を追加していくことにより、将来的な管理精度を高めることができる。
道路路面2や道路附属物3の変状から予測される災害の具体例としては、前述の通りであり、これらの状態についてしきい値を設定し、そのしきい値を超えた場合等に災害発生の危険性が高いと予測する。
ところで、しきい値から災害種を絞り込む際には、道路パトロールからの情報を追加して修正を行うことが望ましく、測量情報による道路災害解析結果と道路管理者からの情報を統合することにより、道路パトロールに従来の現場作業を追加することなく道路管理レベルを向上させることができる。
例えば、災害予測工程5で確定した災害種の結果を反映して、道路の凸形状を舗装と堆積物に区分する参考値である点群データの分散値のしきい値を見直し、見直した結果を道路管理単位に情報として収納する。これは地域、施工時期、地質に応じて舗装面の凹凸や道路に堆積する落石や土砂の粒径は傾向が異なるため、道路管理単位毎にしきい値を管理するためである。
また、岩盤崩壊、斜面崩壊、落石、地すべりについて道路面の凸形状を評価する平滑度のしきい値を検証し、過去のしきい値と併せて統計処理を行い、舗装面の最大値、堆砂の最小値などをしきい値として更新する。このようにしきい値を更新することにより、災害予測工程5において、より高精度で災害発生の予測をすることができる。
絞り込んだ災害種を、さらに詳細に絞り込み、災害種、災害範囲、動態観測の必要性、地下情報の必要性などを判断していくことで、道路路面2等の状態(変状)の原因である災害について、その種類と、対策に必要な規模、活動の程度などを特定するための調査手法が導かれるようになっている。
道路路面2等の状態から災害を予測する場合の具体例としては、道路幅員の拡大・減少は道路に生じた水平方向の変位を示すもので、幅員が拡大する場合には、拡大方向路面下の地盤が緩んでいることが原因と想定される。また、盛土の崩壊や沈下、すべりなどが想定される。
一方、幅員が減少する場合には道路外側から圧迫する応力が働いていると想定され、地すべりの可能性が高い。道路幅員の拡大・減少についての細分類について示した例としては、道路幅員の拡大・減少は、道路片側の拡大・現象のLR分の4通りと、道路両側の拡大・減少の2通りの計6通りが想定される。
図8に示すように、道路幅員の拡大は道路外側に引っ張られるような沈下や崩壊によるもので、道路幅員の減少は道路外からの地すべりなどによる圧力によることが多い。他の大分類項目についても、同様に細分類を行っている。
道路斜線の局所的な湾曲・変位は、道路幅員の拡大・減少で想定される災害が道路を横断して発生していることを意味している。地すべりのような変位速度の遅い場合には舗装面は湾曲することが多いが、短時間に変位が発生したり、累積変位量が大きい場合にはせん断面を作って変位する。
道路面の凸形状は、道路面の隆起、または道路への転石や崩壊土砂の堆砂を表すもので、凸形状部分の平滑度が高い場合には舗装の隆起、低い場合には堆砂の可能性が高い。道路面の凸形状と道路横断地形と組み合わせると、山側で舗装の隆起が見られる場合には地すべりの可能性があり、谷側で舗装の隆起が見られる場合には、輪荷重による舗装面の変形、舗装の補修などの災害要因以外の原因が候補となる。また、片凸片凹のような横断地形で、山側・谷側両方に堆砂しているような場合には周辺で斜面崩壊が進行している可能性があり、後述の低壁状物の傾倒や、高壁状物の傾倒などと併せて絞り込むことができる。
道路面の凹形状は、道路の局所的な沈下・陥没を示すもので、片凸片凹のような横断地形で、谷側路側帯部分で凹が発達する場合には、谷側での崩壊、地すべり、細粒分流失による沈下などが候補となり、谷側斜面がのり面か、擁壁かによって更に災害を絞り込むことができる。また、道路中央部など局所的に凹形状が生じる場合には、空洞の潜在が候補となり、道路台帳から引用する横断水路の情報や、山側の谷地形の分布などを道路簡易単位にあらかじめ整理しておくことで、空洞化を絞り込むことができる。
道路の線状凸段差は、道路に生じる線状の段差のうち、施工計画高さより上がる場合を示す。この変状(状態)の場合、地すべり末端や、地すべり側部に相当する可能性が高い。道路の舗装時期や舗装材料の違いで段差が拡大することもあるため、最終的には踏査で確認することが肝要である。
道路線状凹段差は、道路に生じる線状の段差のうち、施工計画高さより下がる場合を示す。このような場合、地すべり頭部に相当する可能性が高い。これについても、道路の舗装時期や舗装材料の違いで段差が拡大することもあるため、最終的には踏査で確認することが肝要である。
低壁状物の傾倒は、道路縁石とガードレールを想定したもので、路側帯外側で、鉛直方向に検出される点群データとして得られる。元々鉛直方向に設置された構造物は、押された方向または引っ張られた方向に傾く性質を持つ。構想物に加わる力としては、落石の衝突、崩壊土砂による圧迫、山側からの地すべりによる圧迫、地盤沈下・陥没による引張り、谷側斜面の崩壊や地すべりによる引張りなどが考えられる。
片凸片凹地形において、山側から大きな落石があった場合には、谷側のガードレールに衝突して凹みが生じる。この凹状態と、道路幅員の拡大・減少、道路線形、道路面の凸形状などを組み合わせて落石の発生を候補とする。車両の衝突によっても同様の変形は発生するため、道路パトロールでの確認が必要である。
また、谷側に道路幅員が拡大しているような場合に、ガードレールが谷側に傾いている場合には谷側斜面の崩壊または地すべりが想定される。また、同様に谷側に道路幅員が拡大している場合でも、ガードレールが内側に傾く場合には、道路面が沈下していることを示しており、盛土沈下や地盤沈下が想定される。
高壁状物の傾倒は、擁壁の変状という状態を想定している。擁壁に生じる変状としては、背後からの圧力のってはらみ出しが生じる場合、落石や崩壊土砂によって、擁壁上の落石防護柵が変形する場合などがある。擁壁の背後が斜面の場合には、擁壁の傾きは地すべり、斜面崩壊、落石などによるものと絞り込むことが出来る。また、擁壁背後が盛土であった場合には、細粒分流失による盛土の緩みが想定され、擁壁の倒壊が懸念される。
一方、高壁状物の傾きを示す点群データは、擁壁本体だけでなく、擁壁付近の堆砂も反映する。擁壁付近に土砂が山城に堆積すると、見かけ上山側への勾配を示すことになるが、差分値としては道路側に突出したものとなるため、道路側への傾倒と同じ扱いとなる。
図9は、L側が谷で、R側が山地形での片凸片凹となる道路横断地形の幾何学的特徴を有する道路管理区分において、三次元情報から抽出した道路の変状と道路災害との対応を示した例である。
L側の盛土のり面で崩壊が発生した場合、崩壊頭部では引張りが発生してガードレールが傾き、低壁状物傾倒L2R0が相当する。また引張りが道路路肩を沈下させ、環状凹RL01に相当する。また、引張りによってL側車線幅員が拡大するため、幅員拡大L2R0が相当する。
道路下で盛土と岩盤の境界がある場合、その境界付近で盛土側が沈下し、道路に線状の凹段差LL02が生じる。岩盤部分が変位するような地すべりが無い場合、車線の変位は生じないため車線変位ST00が相当する。R側の路肩に、山側からの崩壊土砂が溢れて堆積している場合、その形状としては環状凸RR01が相当する。
図9に示した例では、擁壁や落石防護柵は傾いていないが、崩壊土砂が擁壁上に滞積している。この場合、測量データは高壁状物の一部が道路側に変位したように捉えられるため、高壁状物傾倒L0R1が相当する。
このように、路上からの測量では、L側盛土斜面で発生している崩壊や、R側切土のり面で発生している崩壊を直接測量し把握することはできないが、本発明方法により道路路面2および道路附属物3の形態を整理することにより道路周辺で発生している災害を推測することが可能である。
本実施形態では、災害予測工程5後に、災害予測工程5で災害が発生すると予測された道路について、三次元情報等から推測される道路路面2もしくは道路周辺で生じている可能性のある崩壊、すべり、沈下、その他の災害について、道路管理者の判断を反映させて、災害の種類・規模を確定させるために必要な情報または調査方法(調査等の要否も含む)を導き出す追加調査選択工程6を行う。
どのような調査等を選択する必要があるかを決定する場合、例えば、図10に示すようなフローチャートによって決定される。道路路面2等に発生しうる災害については、前記災害予測工程5によって予測されているため、道路管理者が追加調査の発注に必要な項目を図10のフローチャートにしたがって選択する。
従来、専門技術者の現地踏査を経て行われていた追加調査発注作業について、災害予測工程5の結果を踏まえて道路管理者の判断を反映して調査手法を絞り込むことで、速やかに災害対策を講じることができる。
また、災害の種類と規模が特定されると、代表的な対策工種と対策工費を特定の専門技術者に相談することなく、道路管理者が予算を算出することが可能である。また活動の程度がわかれば、道路の重要性や、交通量、通行止めになった場合の孤立集落の有無などと併せて対策工の優先順位を導き出すことができ、道路管理者の業務を支援することができる。
ところで、このような追加調査選択工程6を行う場合、道路管理者の判断が必要となるが、この判断についてしきい値等を用いて再現性を得られるように構成することが望ましく、更に好適には、コンピュータを用いてプログラムにより必要な調査を選択する追加調査選択工程6とすることが望ましい。
また、前述したように蓄積した三次元情報から差分を取得して、変状抽出工程を行う場合には、例えば、少なくとも以前測量等により取得した過去情報、又は前記道路路面2や前記道路附属物3の設計値のいずれか1つと、今回の情報取得工程4で取得した静的姿勢等の三次元情報とを比較して差分情報を取得する。
この他にも高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報(ダイナミックマッピング情報)から差分情報を取得して、この差分情報を使用してもよい。
このような高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報の差分情報は、前記情報取得工程4で取得された三次元情報から取得してもよいし、高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報が蓄積されているデータベース等から差分情報のみを本工程で取得してもよい。
また、前述の過去情報(過去に取得した三次元情報)から取得した差分情報と、高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報から取得した差分情報の両方を併用して変状を抽出してもよい。
この時、本実施形態では、道路路面2又は道路附属物3の高さを基準として単数又は複数の座標群に区分されて取得された三次元情報に基づいて、前記座標群ごとに差分情報を取得するができる。
既存(過去)の高精度三次元地図の情報(三次元情報)や設計値と、新たに取得された三次元情報との差分を記憶装置等に蓄積することで、変位等の変状が累積する箇所、または変位幅が大きな箇所等を抽出することができる。
道路幅員の拡大・減少、道路区画線の局所的な湾曲・変位、道路面の凸形状、道路面の凹形状、道路の線状凸段差、道路線状凹段差、低壁状物の傾倒、高壁状物の傾倒等が考えられる。例えば道路幅員についての差分情報が正の値であれば道路幅員が拡大しており、逆に差分情報が負の値であれば、道路幅員が減少していると抽出できる。
これらの変状のうち、道路幅員の拡大・減少並びに車線の局所的な湾曲・変位については、地図情報として地物化された道路線形・幅員の三次元情報が利用してその変状を抽出することができる。
なお、ここで「抽出」の意義について付言すると、抽出とは、一般的に「抜き出すこと。引き出すこと。複数の物の中から目的にかなう物を取り出す。」という意味であるが、本発明の課題との関係では、前述した道路路面2、道路附属物3に関する識別情報を検索キーとして用いて差分情報等を検索し、変状を抽出できるようにしてもよい。
道路の凹凸形状や、段差は、前回測量時の道路面との差分として抽出して変状を抽出できるが、その差分情報が舗装面の変形であるか、堆積土砂による凸形状であるかは区分されていないため、点群に紐付けられた色情報や、測量時の点群座標またはポリゴン頂点座標等の三次元座標の分散を用いて求められる凸面の平滑度等が変状を分類する際の指標とすることができる。
ところで、将来自動運転の普及を目指して整備が進められている高精度三次元地図では、できる限り頻繁な更新を前提に開発が進められている。この更新情報を蓄積・解析することで道路の三次元的な変化を示す。
本発明では、道路線形の座標変化を水平変位成分、道路路面の凹凸の分布を鉛直変位成分、道路附属物3の傾きを応力方向成分として解析し、道路パトロールや道路防災カルテ点検の情報と統合することで道路災害の予兆を検知し、IoT機器を用いることなく変状の監視を行うことが可能となる。
変状抽出工程を災害予測工程5の中で行うことにより、より詳細に道路路面2や道路附属物3の状態を取得することができる。
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図11に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
図11に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、道路路面2又は道路附属物3の少なくともいずれかの三次元情報を、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報から取得する情報取得工程4Aを行う災害予測による支援方法1Aにしても、前記第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報を活用することにより、道路に対する防災を目的とした調査・測量を別途行うことなく、広い範囲の道路について変状の進行状況や災害の予兆監視を行うことができる。
本実施形態において、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報から取得する三次元情報として、前記第1の実施形態のように、道路路面又は前記道路附属物の静的姿勢を取得してもよく、道路路面2や道路附属物3の高さを基準として単数又は複数の座標群に区分して前記座標群ごとに情報を取得してもよい。
また、今後、日本国内に網の目のように張り巡らされた道路について高精度三次元地図が整理されることによって、高速道路、国道、県道、市町村道、農道など、道路管理者の垣根を越えた災害監視が可能となり、道路防災の枠を超えた地域防災としての機能を果たすことができ、道路管理者と自動運転事業者が災害情報や対策工事情報を共有することにより、交通事故や渋滞の減少に寄与することができる。
本発明は道路を管理・維持する産業や道路についての防災をする産業等で利用される。
1、1A:災害予測による支援方法、
2:道路路面、 3、3A:道路附属物、
4、4A:情報取得工程、 5:災害予測工程、
6:追加調査選択工程。
本発明は、本発明は道路測量情報の活用と道路維持管理と防災について、道路路面や道路附属物に関するダイナミックマッピング情報(高精度三次元地図情報)から災害を想定・監視し、道路管理者を支援できる災害予測方法に関する。
道路災害に関する定期的な管理の体制としては、日常の点検を行う道路パトロールの他に、平成8年に実施された道路防災総点検を発端とする道路防災カルテ点検がある。このうち、道路パトロールは、管理対象道路について車両で目視巡回するもので、毎日または数日おきに管理区間を巡回して道路面の劣化や、付属物の破損、交通標識の視認性等、様々な事項について巡視・情報収集している。
一方、道路防災カルテ点検は道路に係わる岩盤崩壊や落石、地すべり等の災害についての監視を目的として、道路周辺の斜面や道路路面から見えない箇所を中心に専門技術者による踏査を行うもので、国道については年に1回程度の頻度で行われることが一般的であるが、地方自治体が管理する道路については、その限りではなく、道路管理者によって頻度が異なる状況である。
一部の自治体では、道路パトロールから得られる落石情報をGIS上で整理し、災害対策を検討する材料として活用しているものや、例えば、特許文献1のように、道路パトロール車両に加速度検出装置を設置して道路の凹凸を検知し、舗装メンテナンス情報や、特許文献2に示される道路標識の認識情報などを用いた道路パトロール支援サービスを活用しているものがあるが、地すべりや斜面崩壊などの災害については道路防災カルテ点検のような専門技術者の点検に頼っている状況である。
また、近年のIoT技術を反映して、通信機能を内蔵した計測器で地盤の状況を計測し、計測データを遠隔収集・解析する管理手法なども開発されているが、防災カルテ点検の全箇所をIoT化するには設置と維持管理コストが膨大となるため、活動度が高い災害や、特に重要な箇所以外での採用は難しい。
以上のような道路管理の状況とは異なる社会の動きとして、自動運転技術の開発がある。自動運転技術については、自動運転機能を有した車両だけでなく、自動運転のための高精度三次元地図が必要不可欠な技術とされている。この高精度三次元地図は、一度作成したら道路や附属物の構造が変更されるまで更新されない道路台帳とは異なり、頻繁に更新することを前提としていることからダイナミックマップと呼ばれている。頻繁に地図情報を更新することで交通事故や交通渋滞などのトラブルを回避できるため、世界各地で効率的な地図の更新方法が研究されている。この地図の更新に関しては、レーザー測距儀、車載カメラ、ミリ波レーダーなど、様々な技術を用いての測量技術が開発されている。これらの測量技術は、これまで道路トンネルや橋梁などのメンテナンスでも用いられてきた経緯もあり、高精度三次元地図の作成と更新は、道路施設の保全や防災への応用も期待されている。
しかしながら、従来、道路防災カルテ点検で専門技術者が点検している着目点(監視地点)は、道路からの死角となっていることが多いため、車両から直接監視することができない。このため地すべりや斜面崩壊などといった災害に対する詳細三次元道路地図測量等の有用性についてはあまり検討されていない状況である。
特開2015−176540号公報
特開2017−111469号公報
本発明は以上のような従来の欠点に鑑み、道路や道路附属物等の三次元情報を活用して道路に係わる地盤の災害を監視し、道路管理に必要な情報を提供できる災害予測方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の災害予測方法は、少なくとも道路路面又は道路附属物のいずれかの三次元情報を取得し、コンピュータの記憶装置に記憶する情報取得工程と、道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、そのパターンに応じて区分された道路管理単位で、前記情報取得工程で取得した前記三次元情報を整理することで少なくとも前記道路路面又は前記道路附属物のいずれかの状態を取得し、道路に発生する災害を予測する災害予測工程とを含み、前記災害予測工程は、前記コンピュータを用いて行われることを特徴とする。
請求項2に記載の災害予測方法の前記情報取得工程では前記道路附属物の三次元情報を取得することを特徴とする。
請求項3に記載の災害予測方法の前記災害予測工程では、前記情報取得工程で取得した道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴を、災害を評価する要素として予測を行うことを特徴とする。
請求項4に記載の災害予測方法の前記災害予測工程で予測された前記道路に発生しうる災害について、道路管理者の判断を反映させて、災害の種類又は規模の少なくともいずれかを確定させるために必要な情報又は調査を導き出す追加調査選択工程を行うことを特徴とする。
請求項5に記載の災害予測方法の前記災害予測工程では、前記道路路面若しくは前記道路附属物の設計値、又は、過去に取得した前記道路路面若しくは前記道路附属物の三次元情報の少なくともいずれか1つと、前記情報取得工程で取得した三次元情報とを比較して差分情報を取得するとともに、この差分情報から少なくとも前記道路路面又は前記道路附属物のいずれかの変状を抽出する変状抽出工程を行うとともに、前記変状抽出工程で抽出した変状及び前記道路路面若しくは前記道路附属物の少なくともいずれかの状態に基づいて道路に発生する災害を予測することを特徴とする。
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)請求項1に記載された発明においては、取得した三次元情報を活用し、この三次元情報から道路路面等の状態を取得することにより、広い範囲の道路について災害の予兆監視を行うことができる。
(2)また、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を予測することができる。
(3)請求項2に記載された発明も前記(1)〜(2)と同様な効果が得られるとともに、道路附属物の三次元情報を取得することにより、より精度良く災害を予測することができる。
(4)請求項3に記載された発明も前記(1)〜(3)と同様な効果が得られるとともに、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を予測することができる。
(5)請求項4に記載された発明も前記(1)〜(4)と同様な効果が得られるとともに、専門技術者の現地踏査を経て行われていた追加調査発注作業について、災害予測工程の結果を踏まえて道路管理者の判断を反映して調査手法を絞り込むことで、速やかに災害対策を講じることができる。
(6)また、災害の種類と規模が特定されると、代表的な対策工種と対策工費を特定の専門技術者に相談することなく、道路管理者が予算を算出することができる。
(7)災害の種類と規模等の活動の程度が特定できるので、道路の重要性や、交通量、通行止めになった場合の孤立集落の有無などと併せて対策工の優先順位を導き出すことができ、道路管理者の業務を支援することができる。
図1乃至図10は本発明の第1の実施形態を示す説明図である。
図11は本発明の第2の実施形態を示す説明図である。
第1実施形態の災害予測方法の工程図。
本発明で分類する災害種を示す分類表。
情報取得工程から災害予測工程までの工程を示した概要図。
道路路面及び道路附属物の説明図。
道路管理単位となる道路横断地形大分類を示す説明図。
道路横断地形の細分類の一例を示す説明図。
災害を抽出するために整理する変状の大分類を示した説明図。
変状の大分類のうち、道路幅員の拡大・縮小に関する細分類の例を示す説明図。
災害と本発明区分との関係を示した例を示す説明図。
追加調査選択工程のフローチャート。
第2実施形態の災害予測方法の工程図。
以下、図面に示す本発明を実施するための形態により、本発明を詳細に説明する。
図1乃至図10に示す本発明を実施するための第1の形態において、1は道路路面2等の情報を取得して、道路に発生する災害を予測し、道路管理者等の道路の災害管理を支援できる災害予測方法である。
この災害予測方法1は、図1に示すように、少なくとも道路路面2又は道路附属物3のいずれか1つの情報を取得する情報取得工程4と、道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、その分類パターンに応じて区分された道路管理単位で、前記情報取得工程で取得した前記三次元情報を整理することで道路に発生する災害を予測する災害予測工程5とで構成されている。
なお、これらの工程、特に災害予測工程5においては主にコンピュータを用いて行われており、「コンピュータ」とは、PCの要素の働きを意味し、具体的には、入力・出力信号の確実な受け渡しの役目を果たすインタフェースが、例えば出力としてのマイクロプロセッサからの制御信号を、確実に外部の操作用機器、警報機器、表示機器、スピーカー、測定機器等へ情報を伝達することをいう。したがって、特許請求の範囲及び明細書の「コンピュータを用いる」の用語は、便宜上用いられているに過ぎないので、情報取得、ログ情報、抽出等の各用語は、シーケンス制御で一般的に理解されているように、制御系の外部からの命令信号を受け取り、それを処理する命令処理部、道路路面、道路附属物等の識別情報、該識別情報に紐づけされた道路に関する凹凸、幅員、区画線、路肩縁、段差、低壁状物等の関連情報を格納する記憶部、制御信号のレベルを増幅すると共に、安全対策を講じて操作信号を出力する操作部、さらには、制御対象の制御状態を所要の信号で検出して出力する検出部等をあわせた概念であり、発明の課題を達成するために必要なPCの要素が含まれている。
ここで、「道路路面2」とは、車道だけではなく、路肩や道路周辺の歩道も含む。また、橋梁やトンネル等の車道や歩道等も含まれるものである。
「道路附属物3」とは、例えば図4に示すように、道路付近に設けられている側溝、車線等の表示、低壁状物や高壁状物を含むもので、低壁状物とは、道路近傍に設置されている縁石やガードレール・フェンスに相当するもので、高壁状物とは、擁壁または擁壁と落石防護柵が組み合わされた構造物を想定している。
低壁状物は、高精度三次元地図において地物化された情報、又は、更新測量情報のうち、道路台帳に記載されガードレール座標付近の鉛直方向の点群またはポリゴンなどの測量座標群又は、道路から最も近い鉛直方向の測量座標群のうち、80cm程度の高さのものを低壁状物として評価する。
高壁状物は、擁壁本体が傾いた場合には、相当の土圧が背面に発生している場合と考えられるが、ブロック積み擁壁などの場合は、背面の盛土が緩むとハラミ出しが生じるため、応力の指標や、盛土健全度の指標となる。
また、「道路附属物3」にはこのような人工物だけではなく、道路周辺の凹所、斜面等の自然又は形成された地形(例えば法面等)等も含まれ、これらの地形等の情報も取得対象となり得る。
さらに、災害予測の対象となる「道路」とは、道路路面2やその周囲の地形、道路路面2の地下部分等、変位や崩壊、陥没等が道路路面2に影響を与える地盤を含むものである。
次に発生しうる災害の具体例を図2及び以下に示す。
差分量の大きい凸変位が卓越する「崩壊」、路面での凸変位、凹変位と併せて道路や道路附属物の水平変位が累積する「すべり」、凹変状が卓越する「沈下」、測量データだけでは絞り込みが難しい「その他」の大分類がある。
詳細には、「崩壊」は、小分類として、岩盤崩壊、斜面崩壊、落石、盛土崩壊などに分類される。このうち、岩盤崩壊は道路防災カルテ並びに安定度調査表のデータを参照することによって落石と区別することができる。斜面崩壊は、高壁状物の差分情報並びに道路の凸変状の分布、凸形状の平滑度などを勘案することで抽出することができる。落石は、主に道路の凸変状の分布、平滑度を基本に、道路パトロールからの情報を組み合わせることで抽出することができる。道路より上の盛土崩壊については、道路の横断形状と道路の凸変状の分布、平滑度の組み合わせで抽出することができる。道路下の盛土崩壊については、道路幅員の変化や道路の凹変状などから候補として絞り込むことができるが、測量データからだけでは沈下との区別が難しいため道路管理者からの情報を勘案する必要がある。
「すべり」は、地すべりと盛土すべりに分類されるが、地山か盛土かは道路横断地形から絞り込む。すべりについては、水平方向の変位が伴うため、道路幅員の増減、道路線形の局所的な変位が重要な抽出要素となるほか、凸片状や凹変状の累積拡大の有無も抽出要素となる。
「沈下」は、道路全体に沈下する自然地盤沈下や盛土沈下があるほか、路肩付近から路床材、路体材の細粒分が流失して生じるものや、舗装下に空洞が発生して生じる陥没などがある。これらは、道路横断地形と道路凹変状の分布から抽出することができ、道路台帳から得られる横断水路の有無や、地形図から読み取ることができる谷地形の有無などにより抽出精度を上げることができる。
「その他」は、測量データのみでは区分が難しいものであるため、道路パトロールや道路防災カルテ、安定度調査などの情報が不可欠である。なお、土石流や植生の影響による災害、膨潤性地盤等の地盤自体の影響による災害については、この「その他」に分類される。
情報取得工程4は、好ましい実施形態では、道路路面2及び道路附属物3の両方の情報も取得する。具体的には、レーザー測距儀、車載カメラ、ミリ波レーダーなど、様々な技術を用いて道路路面2及び道路附属物3の三次元情報を測量し、測量した三次元情報が示す地物の静的姿勢を取得している。また、この情報取得工程4で取得する三次元情報には、高精度三次元地図を作成するための三次元情報も含まれる。
また、道路台帳等に記載された情報を本工程で三次元情報として取得してもよい。このような道路台帳には、特に道路附属物3等の高精度三次元地図には反映されない擁壁や法面等の三次元情報が含まれており、このような情報を用いることにより災害予測工程5において精度よく道路路面2や道路附属物3の状態を取得することができ、災害予測することができる。
取得した三次元情報は、記憶装置等にテーブル状態でデータベース化して保存することが望ましい。過去に取得した三次元情報についてもテーブル状態でデータベース化して保存することにより、現在の道路路面2等の三次元情報から取得できる状態だけでなく、道路路面2、道路附属物3の三次元情報の経時変化を容易に比較することができる。
なお、この情報取得工程4では、測量に限らず他の公知の測定方法により測定された三次元情報を取得してもよい。
ここで、「静的姿勢」とは、道路又は道路附属物の位置、幅、長さ、高さ、傾き等を言うものであり、静的姿勢を比較し差分を取得する場合には、これらの姿勢を示す値を比較し、差分を取得する。
この情報取得工程4で取得する道路路面2や道路附属物3の情報は、現状では高精度三次元地図作成のために別途行われたものを流用するしかないが、自動運転車両が一般化することで、道路パトロール車両に測量装置が搭載されれば、自動での測量(情報取得)が可能である。道路管理者が特に着目する箇所については、道路から視認できる箇所にレーザー測量用反射版を設置し、監視箇所を登録することで安価に監視することが可能となる。特に、これまで目視でしか管理できなかった落石防護柵やポケット式ロックネット裏の堆砂について機械的に監視・管理することが可能となる。
災害予測工程5は、このようにして取得した三次元情報から道路路面2や道路附属物3の状態(変状を含む)を取得し、今後発生しうる災害を予測する工程である。
本工程において災害を予測するために発生しうる災害種を絞り込む際に、測量により測定した三次元情報や道路台帳、地形図等から、図5や図6に示すような道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、その分類パターンに応じて道路管理単位として区分して、道路横断地形の幾何学的な特徴を抽出し、道路横断地形の幾何学的な特徴ごとに道路管理単位として区分して情報を整理する。
具体的には、この道路管理単位に応じて、その道路横断地形において統計的に発生しやすい災害を図2に示す分類から判断するとともに、取得した三次元情報(測量データ)だけでなく、道路台帳から得られる横断水路やガードレールなどの道路附属物の情報、道路防災点検で作成された道路防災カルテ、安定度調査表等の情報も整理し、の三次元情報から取得された道路路面2及び道路附属物3の状態を取得する。
ここで、道路路面2及び道路附属物3の状態とは、三次元情報(道路台帳等から取得した情報も含む)に加え道路路面2や道路附属物3の変状まで含んだ概念であり、三次元情報や道路横断地形に基づいて道路路面2等の状態が取得される。道路路面2等の状態の例としては、低壁状物の傾倒や道路路面2の亀裂、段差等である。ところで、このような変状は三次元情報のみから取得できるものや三次元情報の差分を取得することで評価できる変状とがあり、より予測精度を向上させるために三次元情報の差分を取得して、その差分情報から変状を評価する変状抽出工程を災害予測工程5を行う際に行ってもよい。
なお、情報取得工程4において三次元情報を取得する際に、道路横断地形の幾何学的な特徴ごとに道路管理単位として区分して三次元情報を取得してもよい。
このように道路周辺を含む道路横断地形の幾何学的な特徴をパターン化し、道路路面2や道路附属物3の三次元情報を取得し整理することにより、道路路面2の敷設方向と直行する方向の災害を絞り込み予測できるとともに、道路横断形状の幾何学的な特徴により発生しやすい災害を絞り込むことができる。
ところで、特に道路附属物3については、道路路面2からの死角となっていることが多いため、車両から直接監視することができず、このため地すべりや斜面崩壊などといった災害に対しての予測が困難であったが、道路附属物3の三次元情報を取得し、道路附属物3の状態を取得することによりこれらの道路路面2を含む道路に発生する災害をより早く、かつ、精度良く予測することができ、道路管理の維持に寄与することができる。そのため、道路附属物3の三次元情報のみを取得して、道路附属物3の状態を取得し、災害予測工程5を行ってもよい。
この道路横断形状の幾何学的な特徴として、大分類としては、図5に示したような平坦、凸、凹で示される程度のものであるが、道路台帳から詳細な情報を拾うことで、図6に示すように道路外側の凸地形凹地系をスロープや擁壁などに細分することができる。このような細分を行うことで、道路横断地形の幾何学的な特徴を、災害を評価する要素として予測し、災害種をより絞り込むことが可能である。
その後、この道路管理単位において発生しやすい災害種を抽出し、道路路面2等の状態の情報と前述の発生しやすい災害種を整理し、今後発生しうる災害を絞り込み予測する。このような情報を整理し災害を絞り込む際には、測定した三次元情報や道路台帳、道路防災カルテ、安定度調査表、道路パトロール日報等を参照することができる。
図5は道路を横断方向に見た場合の地形を簡略化して表し、大きく分類したものである。道路より高い地形を凸、道路より低い地形を凹で表現している。
平坦は、道路の両側が平坦地で、平野や台地などに代表される地形をあらわしている。道路下の地盤は造成された可能性が高い。郊外では周囲より道路の方が若干高いことが多いが、造成地では、周囲の宅地より道路の方が若干低いことが多い。
両凹は、主に盛土上の道路の場合が多いが、自然堤防や砂嘴などの場合は自然地盤であることもある。また山岳地では稜線道路が相当し、地盤が岩盤であることもある。
両凸は、道路の両側が高くなっている地形で、山岳地の両切土などが主に対応する。切土のり面の場合、のり尻を擁壁としている場合も多い。一方、場合によっては未固結地盤や盛土を横切るために両側を擁壁として土留している場合もある。
片凸片平は、山地と平地との境界付近でよく見られる断面地形である。盛土造成地に近接した道路でも見られる。
片平片凹は、沿岸部や河川沿い、高原などに多い地形であるが、平野部においても、道路に水路が近接している場合もこの分類に含まれる。
片凸方凹は、一般に片切片盛と呼ばれる道路が代表的で、山間地や海岸部の斜面を掘削し、掘削面谷側を掘削土で盛土して平坦面を確保したものが多い。したがって、凸部は自然地盤で、凹部が盛土であることが一般的であるが、希に大規模盛土の道路として、凹側も盛土であることもある。盛土の場合はゆるいのり面である場合か、擁壁となっていることが多い。崩れやすい地質が分布する場合には、自然地盤であっても、緩い勾配で切土のり面が成されている場合もあるので、詳細を検討する場合には、詳細な地形図や現地踏査による追加情報が必要である。
トンネル他は、山岳トンネルやシールドトンネル、沈埋トンネル、ボックスカルバートなどの構造物内の道路区間を表す。トンネル坑口付近はC.両凸やD.片凸片平等に分類される。トンネル内よりも、トンネル坑口斜面などが岩盤崩壊や落石などの災害が多く、注意が必要である。
橋梁他は、橋梁やボックスカルバート上の道路などを想定している。橋梁区間は道路災害よりも構造物劣化が主体であるが、橋台付近は細粒分流失による道路面の沈下・陥没が生じることが少なくない。
図6は、図5で示した道路横断地形を詳細に区分したものである。道路起点側から終点側に向かった横断面として、向かって左側がL、右側がRである。L1R2などの記号の数字は、0:平坦、1:凹、2:凸を示している。また詳細区分図中の(FF)や(SwF)などの記号は、LRそれぞれの形態を示しており、F:平地、S:のり面、Sw:擁壁付のり面、W:擁壁を意味している。詳細地形図や、現地踏査などが実施された場合には、LRそれぞれの地質分類について情報を追加していくことにより、将来的な管理精度を高めることができる。
道路路面2や道路附属物3の変状から予測される災害の具体例としては、前述の通りであり、これらの状態についてしきい値を設定し、そのしきい値を超えた場合等に災害発生の危険性が高いと予測する。
ところで、しきい値から災害種を絞り込む際には、道路パトロールからの情報を追加して修正を行うことが望ましく、測量情報による道路災害解析結果と道路管理者からの情報を統合することにより、道路パトロールに従来の現場作業を追加することなく道路管理レベルを向上させることができる。
例えば、災害予測工程5で確定した災害種の結果を反映して、道路の凸形状を舗装と堆積物に区分する参考値である点群データの分散値のしきい値を見直し、見直した結果を道路管理単位に情報として収納する。これは地域、施工時期、地質に応じて舗装面の凹凸や道路に堆積する落石や土砂の粒径は傾向が異なるため、道路管理単位毎にしきい値を管理するためである。
また、岩盤崩壊、斜面崩壊、落石、地すべりについて道路面の凸形状を評価する平滑度のしきい値を検証し、過去のしきい値と併せて統計処理を行い、舗装面の最大値、堆砂の最小値などをしきい値として更新する。このようにしきい値を更新することにより、災害予測工程5において、より高精度で災害発生の予測をすることができる。
絞り込んだ災害種を、さらに詳細に絞り込み、災害種、災害範囲、動態観測の必要性、地下情報の必要性などを判断していくことで、道路路面2等の状態(変状)の原因である災害について、その種類と、対策に必要な規模、活動の程度などを特定するための調査手法が導かれるようになっている。
道路路面2等の状態から災害を予測する場合の具体例としては、道路幅員の拡大・減少は道路に生じた水平方向の変位を示すもので、幅員が拡大する場合には、拡大方向路面下の地盤が緩んでいることが原因と想定される。また、盛土の崩壊や沈下、すべりなどが想定される。
一方、幅員が減少する場合には道路外側から圧迫する応力が働いていると想定され、地すべりの可能性が高い。道路幅員の拡大・減少についての細分類について示した例としては、道路幅員の拡大・減少は、道路片側の拡大・現象のLR分の4通りと、道路両側の拡大・減少の2通りの計6通りが想定される。
図8に示すように、道路幅員の拡大は道路外側に引っ張られるような沈下や崩壊によるもので、道路幅員の減少は道路外からの地すべりなどによる圧力によることが多い。他の大分類項目についても、同様に細分類を行っている。
道路斜線の局所的な湾曲・変位は、道路幅員の拡大・減少で想定される災害が道路を横断して発生していることを意味している。地すべりのような変位速度の遅い場合には舗装面は湾曲することが多いが、短時間に変位が発生したり、累積変位量が大きい場合にはせん断面を作って変位する。
道路面の凸形状は、道路面の隆起、または道路への転石や崩壊土砂の堆砂を表すもので、凸形状部分の平滑度が高い場合には舗装の隆起、低い場合には堆砂の可能性が高い。道路面の凸形状と道路横断地形と組み合わせると、山側で舗装の隆起が見られる場合には地すべりの可能性があり、谷側で舗装の隆起が見られる場合には、輪荷重による舗装面の変形、舗装の補修などの災害要因以外の原因が候補となる。また、片凸片凹のような横断地形で、山側・谷側両方に堆砂しているような場合には周辺で斜面崩壊が進行している可能性があり、後述の低壁状物の傾倒や、高壁状物の傾倒などと併せて絞り込むことができる。
道路面の凹形状は、道路の局所的な沈下・陥没を示すもので、片凸片凹のような横断地形で、谷側路側帯部分で凹が発達する場合には、谷側での崩壊、地すべり、細粒分流失による沈下などが候補となり、谷側斜面がのり面か、擁壁かによって更に災害を絞り込むことができる。また、道路中央部など局所的に凹形状が生じる場合には、空洞の潜在が候補となり、道路台帳から引用する横断水路の情報や、山側の谷地形の分布などを道路簡易単位にあらかじめ整理しておくことで、空洞化を絞り込むことができる。
道路の線状凸段差は、道路に生じる線状の段差のうち、施工計画高さより上がる場合を示す。この変状(状態)の場合、地すべり末端や、地すべり側部に相当する可能性が高い。道路の舗装時期や舗装材料の違いで段差が拡大することもあるため、最終的には踏査で確認することが肝要である。
道路線状凹段差は、道路に生じる線状の段差のうち、施工計画高さより下がる場合を示す。このような場合、地すべり頭部に相当する可能性が高い。これについても、道路の舗装時期や舗装材料の違いで段差が拡大することもあるため、最終的には踏査で確認することが肝要である。
低壁状物の傾倒は、道路縁石とガードレールを想定したもので、路側帯外側で、鉛直方向に検出される点群データとして得られる。元々鉛直方向に設置された構造物は、押された方向または引っ張られた方向に傾く性質を持つ。構想物に加わる力としては、落石の衝突、崩壊土砂による圧迫、山側からの地すべりによる圧迫、地盤沈下・陥没による引張り、谷側斜面の崩壊や地すべりによる引張りなどが考えられる。
片凸片凹地形において、山側から大きな落石があった場合には、谷側のガードレールに衝突して凹みが生じる。この凹状態と、道路幅員の拡大・減少、道路線形、道路面の凸形状などを組み合わせて落石の発生を候補とする。車両の衝突によっても同様の変形は発生するため、道路パトロールでの確認が必要である。
また、谷側に道路幅員が拡大しているような場合に、ガードレールが谷側に傾いている場合には谷側斜面の崩壊または地すべりが想定される。また、同様に谷側に道路幅員が拡大している場合でも、ガードレールが内側に傾く場合には、道路面が沈下していることを示しており、盛土沈下や地盤沈下が想定される。
高壁状物の傾倒は、擁壁の変状という状態を想定している。擁壁に生じる変状としては、背後からの圧力のってはらみ出しが生じる場合、落石や崩壊土砂によって、擁壁上の落石防護柵が変形する場合などがある。擁壁の背後が斜面の場合には、擁壁の傾きは地すべり、斜面崩壊、落石などによるものと絞り込むことが出来る。また、擁壁背後が盛土であった場合には、細粒分流失による盛土の緩みが想定され、擁壁の倒壊が懸念される。
一方、高壁状物の傾きを示す点群データは、擁壁本体だけでなく、擁壁付近の堆砂も反映する。擁壁付近に土砂が山城に堆積すると、見かけ上山側への勾配を示すことになるが、差分値としては道路側に突出したものとなるため、道路側への傾倒と同じ扱いとなる。
図9は、L側が谷で、R側が山地形での片凸片凹となる道路横断地形の幾何学的特徴を有する道路管理区分において、三次元情報から抽出した道路の変状と道路災害との対応を示した例である。
L側の盛土のり面で崩壊が発生した場合、崩壊頭部では引張りが発生してガードレールが傾き、低壁状物傾倒L2R0が相当する。また引張りが道路路肩を沈下させ、環状凹RL01に相当する。また、引張りによってL側車線幅員が拡大するため、幅員拡大L2R0が相当する。
道路下で盛土と岩盤の境界がある場合、その境界付近で盛土側が沈下し、道路に線状の凹段差LL02が生じる。岩盤部分が変位するような地すべりが無い場合、車線の変位は生じないため車線変位ST00が相当する。R側の路肩に、山側からの崩壊土砂が溢れて堆積している場合、その形状としては環状凸RR01が相当する。
図9に示した例では、擁壁や落石防護柵は傾いていないが、崩壊土砂が擁壁上に滞積している。この場合、測量データは高壁状物の一部が道路側に変位したように捉えられるため、高壁状物傾倒L0R1が相当する。
このように、路上からの測量では、L側盛土斜面で発生している崩壊や、R側切土のり面で発生している崩壊を直接測量し把握することはできないが、本発明方法により道路路面2および道路附属物3の形態を整理することにより道路周辺で発生している災害を推測することが可能である。
本実施形態では、災害予測工程5後に、災害予測工程5で災害が発生すると予測された道路について、三次元情報等から推測される道路路面2もしくは道路周辺で生じている可能性のある崩壊、すべり、沈下、その他の災害について、道路管理者の判断を反映させて、災害の種類・規模を確定させるために必要な情報または調査方法(調査等の要否も含む)を導き出す追加調査選択工程6を行う。
どのような調査等を選択する必要があるかを決定する場合、例えば、図10に示すようなフローチャートによって決定される。道路路面2等に発生しうる災害については、前記災害予測工程5によって予測されているため、道路管理者が追加調査の発注に必要な項目を図10のフローチャートにしたがって選択する。
従来、専門技術者の現地踏査を経て行われていた追加調査発注作業について、災害予測工程5の結果を踏まえて道路管理者の判断を反映して調査手法を絞り込むことで、速やかに災害対策を講じることができる。
また、災害の種類と規模が特定されると、代表的な対策工種と対策工費を特定の専門技術者に相談することなく、道路管理者が予算を算出することが可能である。また活動の程度がわかれば、道路の重要性や、交通量、通行止めになった場合の孤立集落の有無などと併せて対策工の優先順位を導き出すことができ、道路管理者の業務を支援することができる。
ところで、このような追加調査選択工程6を行う場合、道路管理者の判断が必要となるが、この判断についてしきい値等を用いて再現性を得られるように構成することが望ましく、更に好適には、コンピュータを用いてプログラムにより必要な調査を選択する追加調査選択工程6とすることが望ましい。
また、前述したように蓄積した三次元情報から差分を取得して、変状抽出工程を行う場合には、例えば、少なくとも以前測量等により取得した過去情報、又は前記道路路面2や前記道路附属物3の設計値のいずれか1つと、今回の情報取得工程4で取得した静的姿勢等の三次元情報とを比較して差分情報を取得する。
この他にも高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報(ダイナミックマッピング情報)から差分情報を取得して、この差分情報を使用してもよい。
このような高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報の差分情報は、前記情報取得工程4で取得された三次元情報から取得してもよいし、高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報が蓄積されているデータベース等から差分情報のみを本工程で取得してもよい。
また、前述の過去情報(過去に取得した三次元情報)から取得した差分情報と、高精度三次元地図を更新するために取得される三次元情報から取得した差分情報の両方を併用して変状を抽出してもよい。
この時、本実施形態では、道路路面2又は道路附属物3の高さを基準として単数又は複数の座標群に区分されて取得された三次元情報に基づいて、前記座標群ごとに差分情報を取得するができる。
既存(過去)の高精度三次元地図の情報(三次元情報)や設計値と、新たに取得された三次元情報との差分を記憶装置等に蓄積することで、変位等の変状が累積する箇所、または変位幅が大きな箇所等を抽出することができる。
道路幅員の拡大・減少、道路区画線の局所的な湾曲・変位、道路面の凸形状、道路面の凹形状、道路の線状凸段差、道路線状凹段差、低壁状物の傾倒、高壁状物の傾倒等が考えられる。例えば道路幅員についての差分情報が正の値であれば道路幅員が拡大しており、逆に差分情報が負の値であれば、道路幅員が減少していると抽出できる。
これらの変状のうち、道路幅員の拡大・減少並びに車線の局所的な湾曲・変位については、地図情報として地物化された道路線形・幅員の三次元情報が利用してその変状を抽出することができる。
なお、ここで「抽出」の意義について付言すると、抽出とは、一般的に「抜き出すこと。引き出すこと。複数の物の中から目的にかなう物を取り出す。」という意味であるが、本発明の課題との関係では、前述した道路路面2、道路附属物3に関する識別情報を検索キーとして用いて差分情報等を検索し、変状を抽出できるようにしてもよい。
道路の凹凸形状や、段差は、前回測量時の道路面との差分として抽出して変状を抽出できるが、その差分情報が舗装面の変形であるか、堆積土砂による凸形状であるかは区分されていないため、点群に紐付けられた色情報や、測量時の点群座標またはポリゴン頂点座標等の三次元座標の分散を用いて求められる凸面の平滑度等が変状を分類する際の指標とすることができる。
ところで、将来自動運転の普及を目指して整備が進められている高精度三次元地図では、できる限り頻繁な更新を前提に開発が進められている。この更新情報を蓄積・解析することで道路の三次元的な変化を示す。
本発明では、道路線形の座標変化を水平変位成分、道路路面の凹凸の分布を鉛直変位成分、道路附属物3の傾きを応力方向成分として解析し、道路パトロールや道路防災カルテ点検の情報と統合することで道路災害の予兆を検知し、IoT機器を用いることなく変状の監視を行うことが可能となる。
変状抽出工程を災害予測工程5の中で行うことにより、より詳細に道路路面2や道路附属物3の状態を取得することができる。
[発明を実施するための異なる形態]
次に、図11に示す本発明を実施するための異なる形態につき説明する。なお、これらの本発明を実施するための異なる形態の説明に当って、前記本発明を実施するための第1の形態と同一構成部分には同一符号を付して重複する説明を省略する。
図11に示す本発明を実施するための第2の形態において、前記本発明を実施するための第1の形態と主に異なる点は、道路路面2又は道路附属物3の少なくともいずれかの三次元情報を、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報から取得する情報取得工程4Aを行う災害予測方法1Aにしても、前記第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報を活用することにより、道路に対する防災を目的とした調査・測量を別途行うことなく、広い範囲の道路について変状の進行状況や災害の予兆監視を行うことができる。
本実施形態において、自動運転のために更新される高精度三次元地図測量情報から取得する三次元情報として、前記第1の実施形態のように、道路路面又は前記道路附属物の静的姿勢を取得してもよく、道路路面2や道路附属物3の高さを基準として単数又は複数の座標群に区分して前記座標群ごとに情報を取得してもよい。
また、今後、日本国内に網の目のように張り巡らされた道路について高精度三次元地図が整理されることによって、高速道路、国道、県道、市町村道、農道など、道路管理者の垣根を越えた災害監視が可能となり、道路防災の枠を超えた地域防災としての機能を果たすことができ、道路管理者と自動運転事業者が災害情報や対策工事情報を共有することにより、交通事故や渋滞の減少に寄与することができる。
本発明は道路を管理・維持する産業や道路についての防災をする産業等で利用される。
1、1A:災害予測方法、
2:道路路面、 3、3A:道路附属物、
4、4A:情報取得工程、 5:災害予測工程、
6:追加調査選択工程。