JP2020172637A - 波形発光を示すホウ素含有発光体 - Google Patents

波形発光を示すホウ素含有発光体 Download PDF

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Abstract

【課題】可視光の範囲において波形となる発光特性を示す新規なホウ素発光体の提供。【解決手段】骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シートやその積層シート等を含み、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す発光体。この発光体は、前記原子層シート等と無機塩との複合体を含む。【選択図】図18

Description

本発明は、ホウ素を含有した発光体、およびホウ素を含有した無機塩との複合体からなる発光体に関する。
ホウ素はこれまで光・電子機能物質に利用されてきた。ホウ素を利用した発光材料としてBODIPY(boron−dipyrromethene)が有名である。BODIPYはBF2ユニットとジピロメテンが結合した構造を母体骨格とするホウ素化合物で、量子収率や吸収・蛍光波長が外部環境に依存しないこと、鋭い励起・発光スペクトルを有すること、ストークスシフトが小さいことが特徴として挙げられる。
一方でホウ素は、HとBからなるホウ素クラスターが構築され体系的に研究されてきた。B410、B59、B1014に代表される水素化ホウ素クラスターは、気相中でB26を適切な条件下で熱分解することで合成されたが(非特許文献1)、水素化ホウ素クラスターに特有なクラスター構成反応も開発されている。クラスター構成反応はKHと反応させた水素化ホウ素クラスターイオンが他の水素化ホウ素ユニットと反応し、高次の水素化ホウ素イオンが合成される液相反応であり、この反応を用いて多様な水素化ホウ素クラスター群が合成されている(非特許文献2)。
このように気相合成から液相合成へと研究が発展する中で、近年ではホウ素クラスターの光学特性に関する研究も報告されてきた。Volkovらは、B1012クラスターにピリジンやアルキル基を結合したB1012「Py(X)」2が535〜580nmで発光することを報告した(非特許文献3)。LipiakらはB108クラスターにピリジン鎖を結合することで合成した1,10−(c715OPy)2−closo−B108が480nmで発光することを明らかにし、理論計算によりケージ構造のボロンクラスターに局在化するHOMOとピリジン鎖に局在するLUMO間の電荷移動による発光だと示した(非特許文献4)。
発光体は、量子ドットやランタノイド、酵素系発光物質など様々な物質があり、グラフェンナノリボン、酸化グラフェン、遷移金属ダイカルコゲナイト、フォスフォレンなども知られている。ホウ素を用いた無機質ベースの発光材料では、ホウ素元素ブロックを基盤とした固体発光性材料や(非特許文献5)、ホウ素シートでは六方晶チッ化ホウ素の単層からの量子発光(非特許文献6)が報告されている。
本発明者らは、KBH4から単原子構造を持つ積層結晶を合成し、それが二次元物質による液晶性を発現できることを見出しているが(特許文献1)、発光を示す現象については解明されていなかった。
PCT/JP2019/003380
J. Vac. Sci. Technol.A, 1997, 15, 2181-2189. Inorg. Chim. Acta, 1999, 289, 1-10. J. Appl. Spectrosc., 2000, 67, 864-870. Mol. Cryst. Liq. Crys. A, 1995, 260, 315-332. 化学と工業 vol. 71-4 April 2018 pp317-319 NATURE NANOTECHNOLOGY, VOL 11, JANUARY 2016, 37-41.
本発明者によって見出された新規なホウ素層状結晶と、それに共通する合成法によって得られたアモルファスホウ素物質から、主に可視光の範囲において波形となる発光特性を示すことが確認された。このような波形の発光特性を示すホウ素発光体は従来知られておらず、上記新たな知見に基づき本発明を完成するに至った。
すなわち本開示によれば、以下の発明が提供される。
[1]骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シートを含み、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
[2]更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である[1]の原子層シートを含む発光体。
[3]MBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)の酸化生成物である[1]または[2]の原子層シートを含む発光体。
[4]骨格組成がB53である[1]〜[3]のいずれかの原子層シートを含む発光体。
[5]前記骨格がホウ素−ホウ素結合を有する3回対称性を有する[4]の原子層シートを含む発光体。
[6]前記骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含む[4]または[5]の原子層シートを含む発光体。
[7]前記構成要素Yが、末端部位および/または欠損部位である[6]の原子層シートを含む発光体。
[8]前記構成要素Yが、B−OHを含むホウ素酸化物部位である[6]または[7]の原子層シートを含む発光体。
[9]X線光電子分光測定において、190.5〜193.0eVと、192.5〜194.0eVに各々B−1s準位に由来するピークを有する[6]〜[8]の原子層シートを含む発光体。
[10]前記X線光電子分光測定において、190.5〜193.0eVのピークが前記構成要素Xに対応している[9]の原子層シートを含む発光体。
[11]IR測定において、B−O伸縮に由来する2種類のピークを1300〜1500cm-1付近に有し、かつBO−H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する[6]〜[10]のいずれかの原子層シートを含む発光体。
[12]前記IR測定において、B−O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが前記構成要素Xに対応している[11]の原子層シートを含む発光体。
[13]前記原子層シートと、無機塩との複合体である[1]〜[12]のいずれかの発光体。
[14][1]〜[13]のいずれかの複数の原子層シートと、前記原子層シート間の金属イオンとを含む積層シートを含む発光体。
[15]前記積層シートと、無機塩との複合体である[14]の発光体。
[16]前記金属イオンがアルカリ金属イオンである[14]の積層シートを含む発光体。
[17]アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である[15]の積層シートを含む発光体。
[18][14]〜[17]のいずれかの積層シートを含む結晶、または結晶の粉砕物を含む発光体。
[19]前記結晶、または結晶の粉砕物と、無機塩との複合体である[18]の発光体。
[20]有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製する工程と、
前記溶液を、酸素を含む雰囲気に曝す工程とを含む、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートを含む発光体の製造方法。
[21]前記原子層シートおよび/または積層シートと、無機塩とを複合化する工程を更に含む、[20]の発光体の製造方法。
[22]MBH4(Mはアルカリ金属を示す。)を含む溶液の酸化によって得られ、結晶、または結晶の粉砕物を含み、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
[23]前記結晶または結晶の粉砕物と、無機塩との複合体である、[22]の発光体。
[24]少なくともホウ素、酸素、水素、アルカリ金属を構成元素として含み、
X線光電子分光測定において、190.7〜191.6eV付近にB−1s準位に由来するピークの頂点を有し、
非結晶状態であり、
波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
[25]IR測定において、B−O伸縮に由来するピークを1312〜1490cm-1付近に有し、BH4 -に由来するピークを2208〜2420付近および1119〜1143cm-1付近に有する、[24]の発光体。
[26]MBH4(Mはアルカリ金属を示す。)を含む溶液の酸化によって得られ、
非結晶状態であり、
波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
[27]アルカリ金属塩を含む、[24]〜[26]のいずれかの発光体。
実施例において合成した針状結晶の写真である。 X線構造解析によるホウ素層状結晶の構造を示した図であり、(a)は層状断面、(b)と(c)は平面の結晶構造を示す。 X線構造解析によるホウ素層状結晶の構造を示した図であり、(a)はホウ素原子層の単位格子の推定構造、(b)は末端・欠損部位の単位格子の推定構造、(c)はB−B結合とB−O結合の距離を示している。 ホウ素層状結晶(上)とB(OH)3(下)のIRスペクトルである。 (a)ホウ素層状結晶と(b)B23およびKBH4のXPSスペクトルである。 (a)はX線単結晶構造解析における面指数分析、(b)はキャピラリー中のホウ素層状結晶のXRDパターンを示す。 ホウ素層状結晶、B(OH)3およびB23の(a)紫外−可視吸収スペクトル、(b)近赤外吸収スペクトルである。 (a)はホウ素層状結晶のSEM像、(b)はホウ素層状結晶から機械的圧力によって剥離したナノシートのSEM像である。 ホウ素層状結晶から剥離したナノシートのAFM像である。 ホウ素層状結晶から剥離したナノシートのAFM像と高さプロファイルである。 ホウ素層状結晶をクラウンエーテルにより溶解しHOPG基板にキャストしたナノシートのAFM像である。 ホウ素層状結晶から剥離したナノシートの(a)STEM像と(b)高分解TEM像である。 ホウ素層状結晶から剥離したナノシートの格子パターンの高分解TEM像である。 KBH4およびNaBH4から得られた粉末発光体の発光スペクトルである。 NaBH4から得られた粉末発光体の励起スペクトルである。 粉末発光体と粉末発光体ろ液の発光スペクトルである。 (a)はホウ素層状結晶の発光体の発光スペクトルと励起スペクトル、(b)は発光する結晶粉砕物の写真である。 (a)〜(c)はDMF溶液に溶解したホウ素層状結晶をKBr基板上にドロップキャストする様子を説明する模式図と写真、(d)はKBr基板上のホウ素層状物質と粉末発光体の発光スペクトルである。 K結晶(KBH4を含む溶液の酸化により生成した結晶)をDMFに溶解し、TEMグリット上にドロップキャストして得られたK結晶のSTEM像である。 K結晶をDMFに溶解し、TEMグリット上にドロップキャストして得られたK結晶のEDS分析の結果である。 (a)はサンプル調整、(b)は基板依存性を示す発光スペクトル測定結果である。 発光の基板依存性において、発光ピ−クの位置は基板の種類に依存している結果である。 前駆体溶液中にD2Oを加えて合成した波形発光体の発光スペクトルである。 ホウ素層状結晶と粉末発光体のIRスペクトルである((a)はKBH4由来、(b)はNaBH4由来)、(c)はB-O収縮に由来するピ−クを拡大したものでKBH4由来(上)、NaBH4由来(下))。 粉末発光体のラマンスペクトルである。 ホウ素層状結晶と粉末発光体のXPS測定の結果(左)とKBH4由来粉末発光体のB−1s準位に由来するピークの観察結果(右)とホウ素層状結晶のXRD測定の結果(中)である。 粉末発光体のXRD測定の結果である。 粉末発光体のSEM−EDS測定の結果である。 粉末発光体のTEM−EDS測定の結果である。 粉末発光体の有機溶媒への溶解性を測定した結果である。 粉末発光体をクリプタンドやクラウンエーテルを加えて溶解した結果を示す。 粉末発光体溶解液の11B NMR測定の結果である。 非発光体のサンプルにMeODを加え11B NMR測定を行った結果である。 粉末発光体溶解液の11H NMR測定の結果である。 粉末発光体とクリプタンドにより有機溶液化した発光体の発光スペクトルである。 粉末発光体の合成において、反応系へ塩自体を添加した場合の発光スペクトルである。 (a)はサンプル調整、(b)は波形発光体溶液やその溶液をKBr基板にドロップキャストした発光スペクトル測定結果である。 NaBH4由来の粉末発光体の発光寿命を測定した結果である。 NaBH4由来の粉末発光体の低温での発光測定の結果である。 NaBH4由来の粉末発光体の低温での発光寿命を測定した結果である。 (a)はKBH4由来の粉末発光体とNaBH4由来の粉末発光体における発光寿命、(b)はKBH4由来の粉末発光体の時間分解発光スペクトルの測定結果である。 KBH4由来の粉末発光体の低温での発光挙動を測定した結果を示し、(a)は発光スペクトル(b)は励起スペクトルである。 KBH4由来の粉末発光体の低温での発光挙動を測定した結果を示し、(a)は発光寿命、(b)は時間分解発光スペクトルである。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明において、「原子層シート」は、ホウ素および酸素を主構成原子とする単原子層のシートであり、独立した単層シートの他、積層シート中の部分的な構成要素として存在する単層シート、独立した単層シートに電荷のバランスを保つ金属イオンが結合した金属イオン含有単層シート等も含む。本明細書では、ホウ素原子層シート、ナノシート等とも表記している。「積層シート」は、この原子層シートと、当該原子層シート間の金属イオンとを含む層状物質であり、本明細書では、ホウ素層状結晶等とも表記している。
ボロフェンはホウ素単体からなるシート状物質であるが、ホウ素が作る三角形の格子と、sp2ホウ素からなる六角形の空孔の比率によってその構造と安定性が議論される。三角形格子が存在するのは、一般的にホウ素の単体およびクラスターが、多中心結合による三角格子を単位ユニットとして安定な構造を形成するためであるとされている。本発明において「ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された」とは、ボロフェン等のホウ素含有原子層シートにおける従来の結合様式の議論に沿う形で、二次元の結合態様を表現したものである。
(原子層シート)
本発明における原子層シートは、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化され、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である。ある態様では、更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である。これらの特定は、原子層シートがMBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)の酸化生成物である場合に基づいて、また従来のホウ酸はホウ素−酸素結合のみで、高分子化(重合)した場合は三次元的になり原子層シ−トにならないことを考慮している。酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)は、1.2以下、1.0以下、0.8以下であってよい。また0.1以上、0.3以上であってよい。アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)は、0.8以下、0.6以下、0.4以下であってよい。また0.01以上、0.05以上、0.1以上であってよい。
以上のような本発明における原子層シートのうち、その一つの例として、骨格組成がB53である原子層シートについて説明する。
<組成がB53である原子層シート>
上記において、原子層シートの「骨格」とは、組成がB53である図2(b)と(c)、図3(a)と(c)に示すような規則的な構造を持つ部位であり、主に末端部位や欠損部位以外のシート部分を占める。
この原子層シートは骨格組成がB53である。図2(b)と(c)、図3(a)と(c)に示すように、ホウ素と酸素から成る原子層であり、酸素と結合したホウ素同士が歪んだ六角形を作るように結合しながら、二次元状に広がった平面を形成している。
ホウ素原子は、結晶の単位構造において六角形の頂点を占めるものと、六角形の各辺を占めるものとに分類される。六角形の各辺を占めるものは、交互に辺の内側、外側に位置している。従って骨格は、ホウ素−ホウ素結合の3回対称性を有する。
酸素原子は、ホウ素原子による六角形の各辺で、3つのホウ素原子の隣接する2つのホウ素原子による2箇所のうち、1箇所を占有している(図2(b)と(c)、図3(a)と(c)において、便宜のために2箇所共に酸素原子を示しているが、図2(c)に示すようにその占有率は0.5である。)。
ホウ素−ホウ素の結合距離は、1.6Åから1.9Åの間にあり、X線構造解析による値は1.784Åである。この結合距離はボロフェンに存在する2種類のホウ素−ホウ素結合の距離の平均値に近い値であり、単結合として報告されている値と酸素架橋として報告されている値の中間の値である。
ホウ素−酸素の結合距離は、X線構造解析による値は六角形の辺に位置するホウ素で1.339Å、六角形の頂点に位置するホウ素で1.420Åである。
この原子層シートは、骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含む。典型的な態様において、構成要素Yは、末端部位および/または欠損部位である。
典型的な態様において、構成要素Yは、B−OHを含むホウ素酸化物部位である。構成要素Yは、その構造が3価のB23やB(OH)3に類似する部位であり(図3(b))、骨格部位とはB−Oの結合状態が異なる。この原子層シートを含むホウ素層状結晶の測定による同定によれば、次のとおりである。
IR測定(赤外吸収スペクトル)において、B−O伸縮に由来する2種類のピークを1300〜1500cm-1付近に有し、かつBO−H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する。B−O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが構成要素Xに対応している。具体的には、B−O領域のピークのうち、低波数側(1350cm-1付近)のピークが構成要素Xのホウ素シートに対応し、B(OH)3で見られるB−O伸縮ピークと位置が類似する高波数側(1420cm-1付近)のピークが構成要素Yに対応する。3100cm-1付近におけるBO−H伸縮由来のピークも構成要素Yに対応する。
X線光電子分光測定において、190.5〜193.0eVと、192.5〜194.0eVに各々B−1s準位に由来するピークを有する。190.5〜193.0eVのピークが構成要素Xに対応している。具体的には、構成要素Xに対応するピークはホウ素が3価の状態であるB23(193.3eV)と比較すると、やや低エネルギー側であることから、3価までの完全な酸化は進行していない。構成要素Xに対応するピークは2成分に分離可能であり、それぞれ構成要素Xのホウ素シート中の2種類のホウ素、すなわち結晶の単位構造において六角形の頂点を占めるものと、六角形の各辺を占めるものに対応している。最も酸化側の192.5〜194.0eVのピークは、3価のホウ素を持つB23と一致し、構成要素Yに対応している。
紫外−可視吸収スペクトルにおいて、250nm以下の紫外領域に吸収を持ち、近赤外吸収スペクトルにおいて、1000〜2500nmの近赤外領域にB−OやBO−Hの振動構造に由来するバンドを含む吸収を持つ。
以上のように、この原子層シートは、骨格部位である構成要素Xは組成がB53であり、B−OHを含むホウ素酸化物部位である構成要素Yはその構造が3価のB23やB(OH)3に類似する。この原子層シートにおいて、これらの構成要素X、Yを含むシート全体における酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)は、1.5未満であり、1.2以下、1.0以下であってよい。また0.6以上であり、0.7以上であってよい。
(積層シート)
本発明における積層シートは、以上に説明したような複数の原子層シートと、当該原子層シート間の金属イオンとを含む。原子層シートは、以上に説明したとおりのものであり、骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化され、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である。また本発明における結晶は、この積層シートを含む。
本発明における積層シートにおいて、原子層シート間の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等が挙げられる。アルカリ土類金属イオンとしては、例えば、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属イオン、特にカリウムイオンは好ましい態様である。アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)は、1未満である。
組成がB53である原子層シートの場合、図2(a)は積層シートの一例として参照される。この積層シートは、ホウ素と酸素を主原子とする原子層シートと、金属イオンが交互に積層する層状構造をなす。典型的な態様において、金属イオンは、積層面内において、原子層シートの単位構造におけるホウ素原子の六角形の内部に位置する。その結晶は、後述の製造方法では、ロッド状の単結晶として得られる。この針状の単結晶を含む典型的な態様では、結晶の伸長方向と積層方向であるc軸方向が一致し、伸長方向に沿って原子層シートが積層している。この積層シート(および結晶)は、積層シートの層間結合が脆弱で、機械的に圧力をかけることで、c軸方向(伸長方向)と垂直な方向に対し容易にへき開できる。例えば、結晶に対してHOPG基板を上から押し付けることで結晶をへき開し、表面に付着した結晶片のナノシートが積み重なる様子を観測することができる。
(積層シートの剥離物の製造方法)
本発明における積層シート(および結晶)は、この積層シートと、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種とを、有機溶媒を含む溶媒中に添加し、積層シートを剥離することができる。本発明における積層シートは、ファンデルワールス力で積層するグラファイトなどと異なり、アニオン性のホウ素シートとカチオン性の金属イオンのイオン性相互作用により積層しているため、クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種で層間の金属イオン捕捉することで、金属イオンを有機溶媒中に溶出させ、シート構造を保持したまま積層シートを剥離することができる。
剥離物は、単層の原子層シートを含む。例えば、上記方法によって得られた溶液をHOPG基板上に接触させ、溶媒を除去することによって、HOPG表面に付着した結晶片を単層シートもしくはそれに近いナノシートとして観察することができる。
上記方法において、有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、非プロトン性中極性溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム(トリクロロメタン)、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、2−ブタノン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチル等のエステル類等)を含むことが好ましい。
また、これらの非プロトン性中極性溶媒と共に、それらと相溶する、非プロトン性高極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1−メチル−2−ピロリジノン等)、非プロトン性低極性溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等)、プロトン性溶媒(メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ヘキサノール、デカノール等のアルコール類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、ニトロメタン等)を混合した溶媒であってもよい。また、有機溶媒を含む溶媒としては、水を含むものであってもよい。
上記方法において、クラウンエーテルは、(−CH2−CH2−O−)nで表される大環状のエーテルであり、例えば、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6、ジアザ−18−クラウン−6等が挙げられる。クリプタンドは、2つ以上の環からなるかご状の多座配位子であり、例えば、[2.2.2]クリプタンド等が挙げられる。
クラウンエーテルおよびクリプタンドから選ばれる少なくとも1種の添加量は、特に限定されないが、積層シートに対して過剰となる量が好ましい。
本発明における積層シート(および結晶)は、非プロトン性高極性溶媒に溶解することによっても、積層シートを剥離することができる。得られた溶液をHOPG基板上に接触させ、溶媒を除去することによって、HOPG表面に付着した結晶片を単層シートもしくはそれに近いナノシートとして観察することができる。非プロトン性高極性溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1−メチル−2−ピロリジノン等が挙げられる。
(原子層シート、積層シートの製造方法)
本発明における原子層シートや積層シートのような、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートは、例えば、有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製し、この溶液を、酸素を含む雰囲気に曝すことによって製造することができる。酸素を含む雰囲気に曝す工程では、原子層シートや積層シートの結晶を成長させることができる。
MBH4のアルカリ金属イオンMとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。これらの中でも、カリウムイオンは好ましい態様である。
MBH4の濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.5〜10mM、より好ましくは1〜2mMである。
不活性ガスとしては、MBH4との反応性を有しないものであれば特に限定されないが、例えば、アルゴン等の希ガス、窒素等が挙げられる。例えば、グローブボックスのような大気中の酸素を遮断し得る環境下で、MBH4との反応性を有しない不活性ガスに置換して、有機溶媒を含む溶媒中にMBH4を添加し溶液を調製する。
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、非プロトン性中極性溶媒(アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム(トリクロロメタン)、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、2−ブタノン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、デカン酸メチル、ラウリル酸メチル、アジピン酸ジイソブチル等のエステル類等)を含むことが好ましい。また、これらの非プロトン性中極性溶媒と共に、それらと相溶する、非プロトン性高極性溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ジヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、1−メチル−2−ピロリジノン等)、非プロトン性低極性溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素類等)、プロトン性溶媒(メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、1,1−ジメチル−1−エタノール、ヘキサノール、デカノール等のアルコール類、ギ酸、酢酸等のカルボン酸類、ニトロメタン等)を混合した溶媒であってもよい。また、有機溶媒を含む溶媒としては、水を含むものであってもよい。
酸素を含む雰囲気としては、特に限定されないが、大気下に解放することは好ましい態様である。
酸素を含む雰囲気に曝した後、一旦加熱してもよい。加熱温度としては、特に限定されないが、30〜40℃が好ましい。加熱時間は、30分〜2時間が好ましい。
酸素を含む雰囲気に曝した後、当該雰囲気において静置することが好ましい。酸素を含む雰囲気に曝す温度と時間は、特に限定されないが、結晶を十分に成長させる点等から、上記加熱した場合はその後、温度は室温(15〜25℃)が好ましく、時間は3日間〜1ケ月が好ましい。
(原子層シート、積層シート、結晶のホウ素発光体)
本発明の原子層シートからなる発光体は、以上に説明した原子層シートであって、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す。また積層シートからなる発光体は、複数の原子層シートと、原子層シート間の金属イオンとを含む。結晶のホウ素発光体は、積層シートを含む結晶、または結晶の粉砕物からなる。
この発光体は、主に紫外領域の吸収帯からの励起によって、400〜800nmという広い範囲でスペクトル線幅の狭い複数ピークの発光を示す。例えば、結晶を粉末化して一部構造を崩壊し、あるいは非プロトン性高極性溶媒に溶解することによって積層シートを剥離した条件では発光が良好に観測されるが、これらの条件に限定されない。
(原子層シート、積層シート、結晶のホウ素発光体と無機塩との複合体からなる発光体)
本発明において無機塩との複合体からなる発光体は、上記の原子層シート、積層シート、または結晶もしくはその粉砕物と、無機塩が複合してなる発光体であり、無機塩は特に限定されない。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウムなどを使用してよい。無機塩の形態は、粒子状、基板状など様々な形態が考えられる。複合体の形成方法は、特に限定されないが、原子層シート、積層シート、または結晶もしくはその粉砕物に無機塩を混合したものや、原子層シート、積層シート、または結晶もしくはその粉砕物をDMFなどの溶媒に溶かし、無機塩にドロップキャストしたものであってもよい。
(非結晶のホウ素発光体)
別の観点において、本発明の発光体は、非結晶状態であり、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す。その化学組成は、少なくともホウ素、酸素、水素、アルカリ金属を構成元素として含むこと、およびX線光電子分光測定において、190.7〜191.6eV付近にB−1s準位に由来するピークの頂点を有することが上記ホウ素層状結晶とは異なる特徴である。X線光電子分光測定によるピークの頂点は、上記原子層シートからなる発光体に比べて還元側にある。またIR測定において、B−O伸縮に由来するピークを1312〜1490cm-1付近に有し、BH4 -に由来するピークを2208〜2420付近および1119〜1143cm-1付近に有することが上記ホウ素層状結晶とは異なる特徴である。BH4 -に由来するピークは非結晶状態の発光体の特徴である。
この非結晶状態の発光体は、主に紫外領域の吸収帯からの励起によって、400〜800nmという広い範囲でスペクトル線幅の狭い複数ピークの発光を示す。
この非結晶状態の発光体 (以後粉末発光体)は、例えば、MBH4(Mはアルカリ金属を示す。)を含む溶液の酸化によって得られる。アルカリ金属は、ナトリウムやカリウムが好ましい。その合成において上記ホウ素層状結晶とは異なる点は、不活性ガス雰囲気下でMBH4を添加し溶液を調製し、この溶液を、酸素を含む雰囲気に曝す際に、例えば酸化を促進するため50℃程度で加熱することが挙げられる。
本発明の発光体は、発光試薬、有機EL材料、発光ダイオ−ドやその他にも様々な産業への利用が期待できる。
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
1.ホウ素層状単結晶
1−1.結晶の合成
アルゴンガス雰囲気のグローブボックス中において、CHCl3:MeCN=1:1の溶媒中に、KBH4のMeOH溶液(5.0mg/mL)を添加した。KBH4の濃度は1.4mMとした。
得られた溶液を大気下に解放した後、30〜40℃で1時間加熱した。その後、室温で2週間静置した。
静置後、最長で約2cmの針状結晶の生成を確認した(図1)。
1−2.単結晶X線構造解析
得られた針状結晶の単結晶X線構造解析を行った。
単結晶XRD測定を行ない構造を解析した結果、ホウ素と酸素から成る原子層と、カリウムイオンが交互に積層する層状構造が得られた(図2(a))。ホウ素と酸素の層では、酸素と結合したホウ素同士が歪んだ六角形を作るように結合しながら、二次元状に広がった原子層シートを形成していることがわかった(図2(b)、(c))。また、このホウ素原子層は歪のない完全平面であることがわかった。
占有率はKが1、六角形の頂点部のBが1、六角形の辺上のBが0.635、Oが0.5となっている。OはBが作る六角形の各辺で2箇所のうち1箇所を占有していると考えられる(図2(c))。組成はホウ素シートに末端部位が必ず存在することを考慮して決定した(後述 図3(a)、(b))。
ホウ素−ホウ素の結合距離1.784Åはボロフェンに存在する2種類のホウ素−ホウ素結合の距離(1.876Å、1.614Å)の平均値に近い値となった。また結晶内B−Bは、単結合の1.61Å(Z. Anorg. Allg. Chem. 2017, 643, 517)と酸素架橋の1.824Å(Inorg. Chem. 2015, 54, 2910)の中間の値となった(図3(c))。
ホウ素シートとその末端・欠損部位では、B−Oの結合状態が異なることが予想されるため、IR測定によるホウ素層状結晶中での結合状態の評価を試みた(図4)。その結果、B−O伸縮が見られる1300〜1500cm-1付近に2種類のピークが得られた(図4)。このB−O領域のピークのうち、高波数側(1420cm-1)のブロードなピークが、B(OH)3で見られるB−O伸縮ピークと位置が類似しているため、B−O領域の2種類のピークのうち高エネルギー側のピークが末端・欠損部位に由来し、低波数側(1350cm-1)のシャープなピークが骨格に由来すると考えられる。また、3100cm-1付近にBO−H伸縮由来のピークが観測されたことから、末端部位にB−OH結合が存在することがわかった。以上より、ホウ素層状結晶中に、ホウ素原子層シートとその末端・欠損としてB(OH)3類似部位の存在が示唆された。
1−3.XPS測定による酸化状態の評価と末端部位の定量
XPS測定を行ない、ホウ素の酸化状態を評価した(図5)。測定の結果、原料のKBH4ではB 1s由来のピークが185.6eVに出現するのに対し、ホウ素層状結晶ではピークトップが約6eV高エネルギー側にシフトしており、結晶の生成に伴うホウ素の酸化が示唆された(図5(a)、(b))。一方、Bが3価の状態であるB23(193.3eV)と比較すると、やや低エネルギー側であることから、3価までの完全な酸化は進行していなことがわかった(図5(a)、(b))。
さらに、得られたホウ素層状結晶のブロードなピークは3成分に分離可能であることがわかった(図5(a))。ピーク分離の結果、最も酸化側のピーク3が3価のホウ素を持つB23と一致し、ピーク1と2がそれよりも還元側に位置していることがわかった。よって、ピーク3がB(OH)3類似末端部位に対応し、ピーク1と2がそれぞれホウ素シート中の2種類のホウ素に対応していると考えられる。これらのピークの面積比から、ホウ素シートと末端部位の存在比を算出した結果、単位格子の比で3.1:1.0となることがわかった。
単結晶X線構造解析から、ホウ素層状結晶の面指数付けを行なった結果、結晶の伸長方向と積層方向であるc軸方向が一致していることがわかり、伸長方向に沿ってホウ素原子層が積層していることがわかった(図6(a))。
結晶の伸長方向は粉末XRD測定からも確認することができる。キャピラリー中でのホウ素層状結晶の粉末XRD測定を行ない、得られた回折パターンと結晶構造から計算される回折パターンのシミュレーションとの比較を行なった(図6(b))。ホウ素層状結晶はロッド状の形状であるため、キャピラリー中では管に対して結晶の伸長方向が平行になるように配向する。そしてX線は回転するキャピラリーに対して垂直方向から入射するため、結晶の伸長方向の回折線はほとんど観測されないことが予想された。測定の結果、(100)や(110)、(200)といったa、b軸成分のみを含む面の回折ピークが、シミュレーションと一致する回折角で観測された一方で、c軸成分を含むピークはほとんど出現せず、層間隔である(001)の非常に弱い回折ピークが観測されたのみであった。このことから、積層方向が結晶の伸長方向に一致することが確認され、ロッド状の結晶がホウ素原子層の積層によって形成されていることが判明した。
1−4.ホウ素層状結晶の吸収スペクトル
ホウ素層状結晶の吸収スペクトルの測定を行なった(図7)。固体拡散反射用セルを用いることで、結晶状態で拡散反射スペクトルの測定を行ない、Kubelka−Munk変換を行なうことで吸収スペクトルを得た。測定の結果、250nm以下の紫外領域に吸収を観測した(図7(a))。この吸収端からバンドギャップを算出した結果、ホウ素層状結晶が約5.4eVのバンドギャップを持つ半導体であることがわかった。
また、長波長領域でのスペクトル測定の結果、ホウ素層状結晶が1000〜2500nm(4000〜10000cm-1)の近赤外領域において吸収を持つことがわかった(図7(b))。近赤外領域においては、B23やB(OH)3でもホウ素層状結晶と異なる波長で吸収が見られることから、これらはB−OやO−Hの振動構造に由来する吸収であると考えられる。
1−5.SEMによる形状観察とホウ素層状結晶の力学特性
ホウ素層状単結晶の形状をより詳細に調べるためにFE−SEM観察を行なった結果、結晶が六角柱のロッド形状であることが確認された(図8(a))。ロッドの側面の部分を拡大すると、結晶の伸長方向に沿って層状構造が発達している様子が観察でき、単結晶の縞模様が層状構造に由来するものであることがわかった。
このホウ素層状結晶にスパーテル等で機械的に圧力をかけることで、伸長方向と垂直な方向に対し容易にへき開できることがわかった。へき開した結晶をSEMで観察した結果、層構造の崩壊によるナノシートの部分的な生成が確認された(図8(b))。また、一部ではミクロンオーダーの非常に平滑なナノシート表面が見られた。こうした機械的剥離の容易性から、ホウ素層状結晶の層間結合が非常に弱いことが示唆された。
1−6.AFMによるナノシート観察
ホウ素層状結晶の機械的剥離により容易にナノシートが生成することが判明したため、AFMによるナノシートの表面観察を行なった(図9、図10)。ホウ素層状結晶に対してHOPG基板を上から押し付けることで結晶をへき開し、表面に付着した結晶片をAFMで直接観察した(図9(a))。ナノシートが歪んだ部分や、完全に水平でない部分が多いが、一部でほぼ水平なナノシートが積み重なる様子を観測した(図9(b))。シート部分と下地のHOPG部分で位相が明確に異なることから、ホウ素シートであると判断した。形状像の最も厚さの小さいシートで高さを実測した結果、シートが平面な完全な平坦ではないためばらつきが出てはいるが、平均約2.0nm程度の厚さであることがわかった(図10)。以上から、これらのシートが単層から数層程度の非常に薄いシートであると考えられる。このようにAFM観察の結果、複数枚積層したシートが確認され、最も薄い箇所で高さ約0.9nmの単層シートの観察に成功した。シートの高さが最も薄い箇所で高さが約0.9nmであり、AFM測定による単層グラフェンの高さが0.8nm(Science, 2004, 306, 666.)であることと相関している。
次に、クラウンエーテルおよびクリプタンドによるホウ素層状結晶の溶解、単層化を試みた。CHCl3:MeCN=1:1の溶媒中に、結晶を分散し、18−クラウン−6エーテルまたはクリプタンドを過剰としてホウ素層状単結晶を溶解した。この溶液をHOPG基板にキャストし、クロロホルムで洗浄し、過剰の18−クラウン−66エーテルまたはクリプタンドを除去した。単層シートの観察を試みた。AFMでは、表面に付着した結晶片をAFMで観察、HOPG基板上に単層シートと思われる高さ約0.9nmのナノシートが観察され(図11 18−クラウン−66エーテルを使用)、STMでも同様に高さ約0.7nm程度シートの観察に成功した。これらの結果から、クラウンエーテル等によるホウ素層状結晶の単層化の達成が示唆された。
1−7.TEMによるナノシート観察
TEM観察によりナノシートの形状・表面観察も行なった。AFMサンプルの調製方法と同様であり、ホウ素層状結晶の上からマイクロメッシュ付きのTEMグリッドを押し付けることで結晶をへき開し、グリッド表面に付着したシートをTEMで観察した(図12(a):STEM像、図12(b)および図13:高分解TEM像)。その結果、STEMではシートの積層構造とナノシートが直接観察され(図12(a))、高分解TEMではグリッドのメッシュよりコントラストの弱い非常に薄いシートの観測に成功した(図12(b))。観察箇所の中の最も薄いシートで約15層程度であることが確認された。
さらに、これらのシートの高倍率観察により、格子を観測することにも成功した(図13)。一部のシート表面からは六角状の回折点が得られ、ホウ素シートと同じ六方対称性が観測された。また、一部では間隔が0.343nmの格子も観測された。これはホウ素層状結晶の層間隔の0.347nmと一致していることから、原子層の積層を実測していることがわかった。これらのことから、機械剥離により非常に薄いナノシートへ剥離可能であると実証され、ホウ素層状結晶の層間相互作用が弱いことが示された。
2.ホウ素発光体
2−1.ホウ素層状結晶と粉末発光体の合成
KBH4から、ホウ素層状結晶と粉末発光体を合成した。
まず嫌気下で、CH3CNとCHCl3の1:1溶液に、KBH4のメタノール溶液を加えて撹拌した(KBH4の濃度は結晶: 4.6 mM、粉末発光体: 4 mM)。その後結晶の場合、大気下で静置して加熱し(35℃、1時間)、ろ過した濾液を放置すると結晶が次第に生成した。粉末発光体の場合、撹拌しながら加熱する(50℃、1時間)と波形発光を示す粉末発光体が生成した(図14)。
NaBH4を用いても、同様の操作により波形発光を示す粉末発光体が得られた(図14)。この粉末発光体は、400〜800 nmという広い範囲でスペクトル線幅の狭い複数ピークの発光を示した。それぞれのピークトップの波長はNaBH4の場合でλem = 443, 465, 488, 514, 542, 573, 607, 644, 686, 733 nmであった。また構成元素をNaからKに変えることで、発光ピークの短波長シフトが観測された。波形発光のそれぞれの発光波長に対する励起スペクトル(NaBH4の場合)を図15に示す。いずれもピークトップは280 nm付近で、波長ごとで励起スペクトルに差はみられず、波形発光のそれぞれの発光は、共通の電子遷移により励起されていることが示唆された。
また、発光するサンプルは白色固体が生成していることを見出した。発光サンプルのろ液は発光しないこと、サンプルを静置し白色固体がセルの底に沈殿すると波形発光が観測されなくなり、その後超音波をかけて分散させることで波形発光が再び観測される現象から、白色固体が波形発光体であることが分かった(図16)。
ホウ素層状結晶は、上記スキームで生成しているが溶媒としてCH3CNのみを用いる合成法の方が収率良く合成できるため、以降ではこの方法で合成した結晶を用いた。
2−2.ホウ素層状結晶からの発光化
KBH4を含む溶液の酸化により生成した結晶(K結晶)を粉末化して一部構造を崩壊することで、波形発光を示すかどうかを検証した。K結晶に超音波をかけて粉砕し、ろ過後に乳鉢ですり潰したサンプルで発光を観測した。一見粉末発光体と同様の波形発光のように見えるが、これまでの粉末発光体の波形発光よりも波長間隔がかなり広い。また、短波長側と長波長側で半値幅が異なる(図17(a左))。
波形発光の各発光波長における励起スペクトルの測定を行なった結果、これまで観測されていた粉末発光体の励起スペクトルのピークトップが260〜280 nmであったのに対して、K結晶では、それぞれ200 nm以下にピークトップを持つことが判明した(図17(a右))。これは、230 nm以下の短波長領域に強い吸収を持つK結晶の吸収スペクトル測定の結果とも一致するものであり、これまで観測されていた粉末発光体の波形発光とは異なるものであることがわかった。後日すりつぶしなしの結晶でも同様な検討を行い、同様な結果を得た。
200 nmで励起した際のK結晶による発光は、目視で観察すると白色に見えることが判明した(図17(b))。
K結晶をDMFに溶かし、KBrの塩を含む基板上にドロップキャストし発光特性を検討したところ、KBH4由来の粉末発光体と同様な波形発光が観察された(図18(d))。
K結晶をDMFに溶かし、TEMグリット上にドロップキャストしSTEM測定したところ、シート状のサンプル(Boron Sheet)が観察された(図19)。
上記TEMグリット上にドロップキャストし、得られたボロン結晶のEDS分析をしたところ、Bのピークを確認した(図20)。
2−3.ホウ素層状結晶と無機塩との複合による発光
ホウ素層状結晶のDMF溶液をKBr基板上にキャストすると波形発光が現れる。この発光の基板依存性を調べた。KBrとNaCl、石英ガラスの各基板に上記溶液をキャストしたサンプルを用意した(図21(a))。それぞれの発光スペクトル測定を行った結果、KBrかNaClを基板としたサンプルのみ波形発光が観測された(図21(b))。これにより、波形発光の有無は基板の種類に依存することが分かった。また、KBrとNaClを基板とするサンプルとを比較すると、発光のピーク位置が異なっていた。これらはそれぞれKBH4由来、NaBH4由来の波形発光体と同様の位置であった(図22)。したがって、結晶溶液を無機塩にキャストした際に発する波形発光は、結晶に含まれるカリウムイオンではなく無機塩側のカチオンに起因することが分かった。
2−4.粉末発光体の合成条件検討
NaBH4はアセトニトリルにも溶解性を持つ。MeOHをアセトニトリルに変更して発光体の合成を試みた(NaBH4の濃度は変更なし)。発光強度は弱いが、波形発光の観測に成功した。
CHCl3が必須かどうかを検証するために、反応溶媒をCHCl3 : MeCN = 1 : 1からMeCNのみへと変更して波形発光体を合成した。強度は弱いが、波形発光の観測に成功した。
MeCN以外でも発光体が生成するかを確認するために、反応溶媒をCHCl3 : MeCN からCHCl3 : THFに変更して発光体を合成した。MeCNをTHFに変更しても波形発光の観測に成功した。MeCNも波形発光体合成に必須ではない。発光体が生成するかどうかは、BH4 -の溶解度によって決定されている可能性が示唆された。
つまり、CHCl3やMeOHは必須ではないが、あった方が波形発光体の生成が促進されることが判明した(特にCHCl3)。反応に関与しているか、溶解度を調節する役割を担っていると考えられる。
波形発光が末端のB-OHの振動に起因している可能性を検証するために、前駆体溶液中(CHCl3 : MeCN = 1 : 1)に0.025 % の濃度でD2Oを加え、波形発光体の合成を試みた。末端がO-HからO-Dに変化することで、発光波長が変化すると予想した。発光強度は弱いが、これまでと同じ波長・間隔での波型発光を観測した(図23)。このことから、波形発光がB-OH結合の振動由来ではないことが判明した。
2−5.ホウ素層状結晶と粉末発光体の各種スペクトル測定
(IRスぺクトル)
ホウ素層状結晶と粉末発光体のIRスペクトル測定を行った(図24(a)、(b))。粉末発光体にはKBrを用いてペレット化することで粉末発光体KBr錠剤を作成した。KBH4を用いた(図24(a)(c))では、K結晶と粉末発光体ではB-Oに由来するピークなどが同様の位置に現れた。しかし、BH4 -に由来するピークが結晶では見られなかったのに対して、粉末発光体では原料より高波数側にシフトして検出された。発光体には1630 cm-1, 3500 cm-1付近のOHに由来する振動のほかに、1130 cm-1, 2230 cm-1付近のBH4 -に由来するピークが観測された。このことから、粉末発光体にはBH4 -の構造が存在することが分かった。その一方で非発光体にはBH4 -に由来するピークは観測されず、OHに由来するピークが大きいことが分かった。また非発光体では1900 cm-1以下に複数のピークが存在したことから、様々な結合が存在することが示唆された。
KBH4とNaBH4由来粉末発光体のIRスペクトルは(図24(a)、(b))、どちらも原料と同様のBH4 -に由来するピークを示したが、その最大ピ−ク位置がKBH4由来で27〜43 cm-1、NaBH4由来で2〜10 cm-1高波数側にシフトした。粉末発光体では、BH4 -の構造を維持しながらB-Hの距離が小さくなっていると考えられる。また、KBH4由来の方がNaBH4由来粉末発光体より高波数側にBH4 -のピークを示した。さらに、波型発光の強度が弱まるにつれBH4 -のピークが小さくなり、このこともBH4 -が波形発光に寄与していることを示唆した。
また粉末発光体のRamanスペクトル測定を行ったところ、IRと同様に原料ともBH4 -に由来するピークを示したが、BH4 -由来と思われるピークが高波数シフトしていた(図25)。
(XPS測定)
ホウ素層状結晶と粉末発光体のXPS測定を行った(図26左)。発光体をカーボンテープにつけ測定を行った。その結果、ホウ素層状結晶中のBの酸化状態が粉末発光体より還元側にあることが分かった。また、KBH4由来粉末発光体のB−1s準位に由来するピークを観察したところ、190.7〜191.6eV付近にピークの頂点を有していた(図26右)。
(XRDスペクトル測定)
ホウ素層状結晶と粉末発光体のXRDスペクトルを測定した。結晶では、図6(b)にも示したとおりピークが得られ、結晶の同定に成功した(図26中)。粉末発光体(K)ではKCl塩のピークが得られ、KClの存在が示唆された(図27)。
2−6.粉末発光体のSEM / TEM-EDS
粉末発光体のSEM / TEM-EDS測定を行った。KBH4とNaBH4由来の粉末発光体のSEM観察を行うと、一辺が1-5 μmほどの直方体状の粒子が集まった様子が見られた(図28(a))。粒子の形状は直方体状のものが多いが、角が丸く球のような構造も見られた。EDS測定を行うと、KBH4由来粉末発光体には全体的にKとClが分布しており(図28(b))、KとClがほぼ1:1で含まれる粒子と、極端にKの比率が大きい粒子が存在した(図28(c))。さらにTEM-EDS測定から、KとClがほぼ1 : 1で存在する直方体状の粒子に、Bがその1.7倍程度存在することが分かった(図29)。以上より粉末発光体にはKClが含まれており、KClにKやBからなる物質が付加していることが示唆された。
波形発光する物質でマイクロ球体という均一な球状の化合物が知られている。マイクロ球体は発光する際、光が球体内部に閉じ込められ球の円周で伝播し位相の一致した波長で共鳴することで、鋭い波形の発光を起こす。しかし、SEM測定の結果、発光の有無によらずサンプルは同様の形状であり、約5 μm から100 nmの様々な形と大きさの粒子が混在していることが確認された。このことから波形発光は粒子の形状に起因しないことが示された。
2−7.粉末発光体の元素分析
原料に含まれる元素はB, Na, H, C, N, Clのみであるため、これらの元素を誘導結合プラズマ発光分光分析 (発光ICP測定)と有機元素分析を用いて測定したところ、粉末発光体はBの割合が少なくClが多いことが分かった(表1)。質量%の合計が100以下であるのは、合成時に大気中の水もしくは酸素と反応したことによる酸素が粉末発光体に含まれたと考えられる。
2−8.粉末発光体の溶解性
まず、粉末発光体の溶解性等を調べた。サンプルは、上記において最適化した方法で作成し、ろ過により得た。得られた白色個体をペレット化し、発光測定を行うことで、固体が溶媒に分散している状態と同じ発光波長で波形発光することを確認した。
この発光固体はCH3CN, CHCl3, THF等の非プロトン性の有機溶媒には溶解せず、一方でプロトン性溶媒であるMeOH, H2Oには気泡を発生させながら溶解した(図30)。また、CH3CN, CHCl3の分散溶液は波形発光を保持するのに対し、THF分散液やMeOH, H2Oの溶解液は全て波形発光が消失した。さらに、粉末発光体を溶解させた後は固体化しても発光が再現しなかった。このことから溶解により発光成分が分解していることが示唆された。
2−9.粉末発光体の溶液化検討
上記において示したように、粉末発光体はMeOHで分解した。そこで分解させない溶液化を検討した。
溶液化検討の指針として、粉末発光体に存在するNaの有機分子による捕捉を考えた。そこでクリプタンドやクラウンエーテルに分子に着目した。これらはNaやKイオンを捕捉しNa化合物を有機溶媒に溶解できる。これらを用いて粉末発光体の有機溶液化を狙った。
実際に、粉末発光体をクロロホルムに分散したのちにクリプタンドやクラウンエーテルをそれぞれ加えると、分散していた固体が溶解することが分かった(図31)。
この溶解を利用しNMR測定を行った。粉末発光体と非発光体をそれぞれCDCl3に分散させた後、2,2,2-cryptandを加えることで粉末発光体溶解液を調整し、11B NMR測定を行った(図32)。その結果、粉末発光体にのみ-40〜-44 ppm付近にピークを観測した。このピークは白丸で示される5本に分裂したピークと黒丸で示した小さなピークの2種から成ることが分かった。白丸のピークはカップリングの分裂幅とピーク位置からBH4 -であることが分かり、6.3.8で示したIRの結果を支持した。一方で、黒丸のピークは等価な4本の小さな分裂が1:3:3:1の比で大きく分裂している。Bはその核スピンI =3/2によりBが隣接した1つのBとカップリングするとき、2×1×3/2 + 1 = 4から、等価な4本に分裂する。このことから、黒丸で示されるピークは、3つの等価なHと1つのBに結合したBであると考えられる。構造には至っていないが、B-B結合を有するホウ素クラスターであることが示唆された。
また、この非発光体のサンプルにMeODを加え11B NMR測定を行ったところ(図33)、2.97 ppmにNaB(OMe)4に由来するピークを観測したことから、非発光体ではブロード化することでピークが観測できていないことが分かった。
同様に1H NMRを測定した。粉末発光体にのみ0 ppm付近にBと結合することで等価な4本に分裂するBH4 -由来のピークを検出し、IR測定の結果を支持した(図34)。また、2.4~3.7 ppmにクリプタンド由来のピークを観測した。結果をクリプタンドのみ、およびBPh4 -をアニオンとするNa内包クリプタンドの測定結果と比較した。クリプタンドとピーク位置がシフトしたことから発光体のクリプタンドはNaを内包していることが示された。またBPh4 -をアニオンとするNa内包クリプタンドの値とも異なることが分かった。これはホウ素化合物であるカウンターアニオンとの相互作用によるものと考えられる。
クリプタンドにより達成した粉末発光体の有機溶液化により、溶液中では消光し固体状態でのみ光る物質であることが分かった(図35)。固体状態でのみ光る物質は知られており、凝集誘起発光 (Aggregation-Induced Emission Enhancement : AIEE)が有名である。AIEEは、溶液中では発光しない、もしくは量子収率が低い一方で、固体状態や貧溶媒中で分子を凝集させることで高効率に発光する現象である。AIEEを示す分子は、分子内に回転できる結合などの構造変化を起こす部位を含んでおり、溶液状態では励起エネルギーが分子内構造変化により無輻射失活するが、凝集させることで構造変化が抑制され無輻射失活しにくくなると考えられている。本物質はこれに相当した現象である可能性が示唆される。
2−10.粉末発光体合成への塩の添加
反応系へ無機塩自体の添加を試みた。溶媒のCH3CNに、NaCl、KCl、KBF4など塩をBに対して0.6当量添加して前記の方法を用いた。その結果、NaCl、KCl、KBrを添加した系から粉末発光体の合成に成功した。特にNaClやKClでは、塩を添加すると波形発光強度は大きくなり、大気下で消光しにくくなった(図36(a))。粉末発光体中の無機塩は発光体の安定化に寄与すると考えられる。また、塩の添加/無添加により波形発光のピーク位置が異なった。これらはNaBH4由来粉末発光体の発光ピーク位置とも異なっていた(図36(b))。しかしピークトップの間隔は変わらないことから、発光の波形は無機結晶の格子振動によるものではないと考えられる。
2−11.波形発光体溶液からの発光
ホウ素層状結晶のDMF溶液をKBr基板上にドロップキャストすると波形発光が現れた。波形発光体が無機塩上で起こる可能性が示唆されていたため、波形発光体溶液の無機塩へのドロップキャストを試みた。サンプル調整(37(a))後、それぞれのサンプルの発光測定を行った。波形発光体溶液は、CH3CNにKBH4のメタノール溶液を加え、大気下で加熱することで得た(37(a) solution)。この溶液は波形発光を示さなかった(図37(b) solution図))が、KBr基板にキャストすると、KBrを含む波形発光体と同様の位置に波形のピークを示した(図37(b) KBr図))。なお、この発光は波形発光体溶液から溶媒を除いて得られる波形発光体のスペクトル(図37(b) white solid図))とはピーク位置が異なり、基板となる無機塩の種類の波形発光への寄与が示された。
以上の結果より、波形発光には必ずしもKClなどの無機塩が必要ではないが、添加する無機塩やキャストする無機塩により、波形発光のエネルギーが変わることが示唆された。更に無機塩の有無と発光の安定性との相関が示唆された。
2−12.粉末発光体の発光特性解析
NaBH4由来の粉末発光体の量子収率測定
ペレット化した粉末発光体の量子収率測定を発光絶対量子収率測定装置により測定した。その結果、量子収率は2 %であることが分かった。
NaBH4由来の粉末発光体の発光寿命測定
粉末発光体の発光寿命測定をペレット化したサンプルを用いて行った。各ピークに相当する発光寿命はいずれも7.2 〜7.5 nsの1成分であることが分かった(図38)。
NaBH4由来の粉末発光体の低温測定
発光特性の解析のため、低温度での発光スペクトルを測定した。ペレット化した粉末発光体をクライオスタット装置に導入し、298 Kと77 Kでの発光測定を行った(図39(a)、(b))。粉末発光体を冷却することで、i)発光強度の増大、ii)発光半値幅の減少、iii)発光波長の短波長シフトが観測された。各温度での発光スペクトルのピーク面積から77 Kでの量子収率が6 %程度と見積もられた。
さらに、77 Kでの発光寿命測定から、各発光波長の寿命はいずれも8.7〜8.9 nsの1成分であることが分かり、冷却によるiv)寿命の増大が観測された(図40)。
これら寿命の変化は、冷却による構造緩和の減少に起因すると考えている。冷却により周辺環境の再配向が起きにくくなることで、構造緩和による安定化が小さくなり発光スペクトルが短波長シフトしたと考察できる。
また、各温度の量子収率φと発光寿命τから発光の速度定数 (kf)と無輻射失活 (knr)を求めた。量子収率と発光寿命は以下の関係がある。
これら式から298 Kと77 Kの各温度におけるkfはそれぞれ、3×106 s-1, 7×106 s-1と見積もられ、knrは1×108 s-1, 1×108 s-1となった。このことから、粉末発光体は冷却によりknrが変化しない一方でkfが増加することが分かった。温度によりknrが変化しないことから、粉末発光体は298 Kでも構造が固まっており、回転や振動による熱失活が少ない分子であると考えられる。これは粉末発光体が固体状態であることからも妥当である。冷却によりkfが増加したのは、冷却により励起状態での構造変化とそこで得られる安定化が少なくなり、波動関数の重なりが大きくなったためだと考えられる。
カチオン依存性
KBH4波形発光体とNaBH4波形発光体では、発光スペクトルの形や波長に大きな変化がないことから、カチオンをNaからKにすることで発光分子の構造ではなく周辺環境が変化したと考えられる。周辺環境の変化により、KBH4波形発光体では基底状態が安定化、または構造緩和による安定化が起こりにくくなることで、励起スペクトルと発光スペクトルが短波長シフトしたと示唆された。また、各発光波長のエネルギー差がNaとKで変化がないことから、この振動にはカチオンが関与していないことが見出された。
カチオンの交換に伴い発光寿命も大きく変化した。NaBH4波形発光体では寿命7.2〜7.5 nsの1成分の発光であったが、KBH4波形発光体では1〜3 nsの短寿命成分と41〜45 nsの長寿命成分の2成分の発光を観測した(図41(a))。このKBH4波形発光体のnsオーダーの時間分解発光スペクトルの測定から、短寿命発光は波形型発光とは独立の短波長側に存在する不純物によるものであり、41〜45 nsの長寿命成分が波形発光成分由来であることが見出された(図41(b))。このことから、波形発光体はカチオンをNaからKにすることで大幅な長寿命化が起こることが分かった。
Kイオンへの変更による長寿命化は、発光分子間でのエネルギー相互作用によると考えた。KBH4波形発光体では、励起状態準位と近いエネルギー位置に相互作用できる準位が存在していると考えられる。すなわち、励起した電子は他のエネルギー準位に遷移して平衡状態となるために寿命が長くなる。カチオンをKとすることで周辺環境が変わり、そのようなエネルギー準位を持つ構造が生じたと考えられる。KBH4波形発光体の量子収率がNaBH4波形発光体と比べて低いのも、このエネルギー相互作用間での無輻射失活が増えたためと考察できる。
さらに、KBH4波形発光体の低温度での発光挙動を調べた。ペレット化した波形発光体をクライオスタット装置に導入し、298 Kと77 Kでの発光測定を行った(図42(a))。波形発光体を冷却することで、i)発光強度の増大、ii)発光半値幅の減少、iii)発光波長の短波長シフトが観測された(図42(b))。また、各発光波長の励起スペクトルのピークトップは270 nm付近で298 Kの時と比較して長波長側にシフトした。これら変化はNaBH4波形発光体での考察と同様、冷却による構造緩和の減少に起因すると考えられる。
また、冷却することで大幅な長寿命化を観測した。77 Kでの発光寿命測定より、2〜4 nsの短寿命成分と75〜77 nsの長寿命成分の2成分の発光を観測した。nsオーダーの時間分解発光スペクトルの測定から、短寿命発光は波形発光とは独立の短波長側に存在する不純物によるものであり、75〜77 nsの長寿命成分が波形発光成分由来であることが見出された(図43(a))。このことからNaBH4波形発光体では7.4→8.8 nsの小さな変化であったが、KBH4波形発光体だと45→76 nsの大幅な変化となることが分かった(図43(b))。
この原因として、KBH4波形発光体は発光分子間でのエネルギー相互作用により、NaBH4波形発光体と比べて無輻射失活するパスが増えているために、冷却による熱失活の減少の効果が大きいと考えられる。

Claims (27)

  1. 骨格元素にホウ素と酸素を有し、ホウ素−ホウ素結合を有する非平衡結合によりネットワーク化された、酸素とホウ素のモル比率(酸素/ホウ素)が1.5未満である原子層シートを含み、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
  2. 更にアルカリ金属イオンを含み、アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である請求項1に記載の原子層シートを含む発光体。
  3. MBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)の酸化生成物である請求項1または2に記載の原子層シートを含む発光体。
  4. 骨格組成がB53である請求項1〜3のいずれか一項に記載の原子層シートを含む発光体。
  5. 前記骨格がホウ素−ホウ素結合を有する3回対称性を有する請求項4に記載の原子層シートを含む発光体。
  6. 前記骨格部位である構成要素Xと、それ以外の構成要素Yとを含む請求項4または5に記載の原子層シートを含む発光体。
  7. 前記構成要素Yが、末端部位および/または欠損部位である請求項6に記載の原子層シートを含む発光体。
  8. 前記構成要素Yが、B−OHを含むホウ素酸化物部位である請求項6または7に記載の原子層シートを含む発光体。
  9. X線光電子分光測定において、190.5〜193.0eVと、192.5〜194.0eVに各々B−1s準位に由来するピークを有する請求項6〜8のいずれか一項に記載の原子層シートを含む発光体。
  10. 前記X線光電子分光測定において、190.5〜193.0eVのピークが前記構成要素Xに対応している請求項9に記載の原子層シートを含む発光体。
  11. IR測定において、B−O伸縮に由来する2種類のピークを1300〜1500cm-1付近に有し、かつBO−H伸縮に由来するピークを3100cm-1付近に有する請求項6〜10のいずれか一項に記載の原子層シートを含む発光体。
  12. 前記IR測定において、B−O伸縮に由来する2種類のピークのうち低波数側のピークが前記構成要素Xに対応している請求項11に記載の原子層シートを含む発光体。
  13. 前記原子層シートと、無機塩との複合体である請求項1〜12のいずれか一項に記載の発光体。
  14. 請求項1〜13のいずれか一項に記載の複数の原子層シートと、前記原子層シート間の金属イオンとを含む積層シートを含む発光体。
  15. 前記積層シートと、無機塩との複合体である請求項14に記載の発光体。
  16. 前記金属イオンがアルカリ金属イオンである請求項14に記載の積層シートを含む発光体。
  17. アルカリ金属イオンとホウ素のモル比率(アルカリ金属イオン/ホウ素)が1未満である請求項15に記載の積層シートを含む発光体。
  18. 請求項14〜17のいずれか一項に記載の積層シートを含む結晶、または結晶の粉砕物を含む発光体。
  19. 前記結晶、または結晶の粉砕物と、無機塩との複合体である請求項18に記載の発光体。
  20. 有機溶媒を含む溶媒中に、不活性ガス雰囲気下でMBH4(Mはアルカリ金属イオンを示す。)を添加し溶液を調製する工程と、
    前記溶液を、酸素を含む雰囲気に曝す工程とを含む、ホウ素と酸素を含む原子層シートおよび/または積層シートを含む発光体の製造方法。
  21. 前記原子層シートおよび/または積層シートと、無機塩とを複合化する工程を更に含む、請求項20に記載の発光体の製造方法。
  22. MBH4(Mはアルカリ金属を示す。)を含む溶液の酸化によって得られ、結晶、または結晶の粉砕物を含み、波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
  23. 前記結晶または結晶の粉砕物と、無機塩との複合体である、請求項22に記載の発光体。
  24. 少なくともホウ素、酸素、水素、アルカリ金属を構成元素として含み、
    X線光電子分光測定において、190.7〜191.6eV付近にB−1s準位に由来するピークの頂点を有し、
    非結晶状態であり、
    波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
  25. IR測定において、B−O伸縮に由来するピークを1312〜1490cm-1付近に有し、BH4 -に由来するピークを2208〜2420付近および1119〜1143cm-1付近に有する、請求項24に記載の発光体。
  26. MBH4(Mはアルカリ金属を示す。)を含む溶液の酸化によって得られ、
    非結晶状態であり、
    波長400〜800nmの範囲のうち少なくとも一部において波形発光を示す、発光体。
  27. アルカリ金属塩を含む、請求項24〜26のいずれか一項に記載の発光体。
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