本発明は、さし木栽培を行う際に樹木の枝を切断して形成したさし穂から発根させるのに好適なさし穂の発根装置に関する。
スギやヒノキ、コウヨウザン等の林業用樹種を植林する際には、樹木から切断した枝をさし穂として土にさしつけて育成するさし木栽培技術が行われている。さし木苗による植林では、例えば、30〜40cm程度の長さで樹木から葉付きの枝を切断して形成したさし穂を、培土が入れられたさし床に植えて、40〜70cm程度まで成長させて規格化した規格苗を育てて、規格苗を植林地に運搬し植えて植林を行う場合が多い。近時では、さし木苗の植林地への活着しやすさ、さし木苗の栽培管理の効率化等から、発根したさし穂の根に土を固定させて根鉢状態になるように栽培した根鉢付きの規格苗を形成することが勧められており、全国的にも広く利用されている。さし穂の根鉢付きの規格苗を形成する際には、例えば、さし穂をさし床等の土に植えて発根させ、発根したさし穂を一旦、土から掘り起こし、その後、所定の育苗用容器に土とともに発根したさし穂を植えて所定期間栽培していた。しかしながら、従来のようにさし穂を土にさして発根させる方法では、さし穂の発根部分が土中で見えないことから発根状況を簡単には把握できないとともに、土にさしつけたり発根後には土から掘り起こしたりする必要があり作業者の労力が大きい上、野外環境下では気象条件等により育成管理が難しく発根率が安定しにくい等の問題が生じている。特に林業に携わる業者の高齢化が進み後継者不足が問題となっている昨今では、さし木苗栽培にかかる重労働な作業は、大きな課題となっている。
一方、例えば、特許文献1には、土を使用しないで植物を空気中で発根させる装置が提案されている。特許文献1では、密閉されたチャンバーと、植物のさし穂の発根部分をチャンバーの中に延びるように保持するようにチャンバーに設けられた複数のさし穂保持用部材と、チャンバーの中に植物の栄養成分の水溶液をさし穂の発根部分に間欠的に噴霧する装置と、を含むものであり、そしてチャンバーに設けられる複数のさし穂保持用部材は、水平な上部パネルに形成された上向きの複数の円筒形環状であり、その中央部に孔が設けられ、各孔にさし穂が挿入され、円筒形環状のさし穂保持部形成部材は上部にさし穂保持用のリムを有し、チャンバーは円筒形環状の内側の縁と上部パネルとの境界部が滑らかな形状に形成されたものが提案されている。
しかしながら、特許文献1のチャンバーでは、発根部分のみに散水させるようにさし穂を保持させるためや異物がチャンバー内に浸入するのを防止するために、円筒形環状のさし穂保持用部材の中央の孔が小さく形成されていることから、スギやヒノキ等の樹木から切断して形成したさし穂のように枝の径が太くかつ太さもまちまちであり、横から分岐した枝や葉を有するさし穂の場合には、さし穂をスムーズにさして所定の位置で支持することが困難ないし不可能であった。すなわち、特許文献1では、円筒形環状の孔よりも小さな太さのさし穂では、さし穂がゆるくて支持できずに所定の深さの発根部分の位置にあわせることができないとともに、孔よりも大きい太さのものや下部に分岐した枝が付いたさし穂では、円筒形環状の孔に挿入させることができないことから、所定の太さのさし穂のみにしか利用できないものである上、孔に対応する所定の太さのさし穂であっても小さい孔への挿入操作に手間取るおそれが高く、かつ挿入深さの確認が必要なため作業が煩雑で困難なものであった。同時に、さし穂の保持用部材の孔に挿入したり取り出したりする際にさし穂を傷付けてしまうおそれが高く、さらには、いちいちさし穂保持用部材へのさし穂の挿入深さを確認しながら挿入する必要があるので作業も煩雑であった。さらに、複雑な形状の円筒形環状チャンバーを含む装置構造が複雑で、製造コストが高いものであった。さらに、さし穂の発根部分のみに散水する構造であるので、葉からの蒸散を抑制するための手段を別途講じる必要があるため本チャンバーのみでは安定的かつ効率的な発根が期待できず、樹木のさし穂を発根させるのには実用性が低い問題があった。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、樹木から形成したさし穂の支持操作の際や発根誘導に向けて管理する期間、発根後の装置からの離脱操作等の各作業を低労力で、かつさし穂を傷づけることなくスムーズに行える上、高い発根率で安定的にさし穂の発根を促進できるとともに容易に管理できる発根装置を、簡単な構造で低コストで製造できる実用性が高いさし穂の発根装置を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、閉鎖空間12と、閉鎖空間12内に設けられ林業用樹種の樹木から葉を有した枝部分を切断して形成したさし穂100全体が空気中に露出するように該さし穂100を立てて支持する支持手段であって、複数のさし穂100を隣接して立てて支持させる支持手段14と、支持手段14で支持したさし穂100の葉及び枝を含む略全体に常に水が付着している状態を保持するように所定の時間間隔で該さし穂全体にわたって散水する散水手段16と、を含むさし穂の発根装置10から構成される。
また、支持手段14は、平面状に多数配置されさし穂100の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された挿入開口20と、挿入開口20から下部側に連通しさし穂100を立てた状態で上から散水された水分がさし穂100の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された断面直径を有する縦長空隙22と、を有する立体形状のパレット状育成装置24を含むこととしてもよい。
また、支持手段14は、挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂100の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構52、52aを含むこととしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、支持体に支持されて挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100の下端を受ける下端受部30を含むこととしてもよい。
また、下端受部30は上下高さ位置を調整可能に設けられていることとしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含むこととしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含む挿入開口部28と、間隔を置いて下方に配置した下端受部30と、挿入開口部28と下端受部30との中間に縦長空隙22を形成するように装置全体を立体形状に支持する支持体32と、を有することとしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、上端を開口(20)し内部に縦長空隙22としての挿入空間を形成した複数の筒状体46を有するパレットケース体50からなることとしてもよい。
また、挿入開口20及び挿入開口20に連通する縦長空隙22の断面直径P2は、さし穂の枝胴部の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上であることとしてもよい。
本発明のさし穂の発根装置によれば、閉鎖空間と、閉鎖空間内に設けられ林業用樹種の樹木から葉を有した枝部分を切断して形成したさし穂全体が空気中に露出するように該さし穂を立てて支持する支持手段であって、複数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段と、支持手段で支持したさし穂の葉及び枝を含む略全体に常に水が付着している状態を保持するように所定の時間間隔で該さし穂全体にわたって散水する散水手段と、を含むことから、さし穂を土に植え付けずに空気中に露出した状態で支持しながらさし穂全体に散水させながら、さし穂からの発根を良好に誘導させることができ、土を用いる必要がないので低労力かつスムーズに行える上、さし穂の発根誘導を高い発根率で安定的に行えるとともに、簡易に管理できる発根装置を提供することができる。さらに、構造を比較的単純化して製造することができ、簡単で低コストで製造することができる。
また、支持手段は、平面状に多数配置され、さし穂の枝胴部の太さより十分に大きく形成された挿入開口と、挿入開口から下部側に連通しさし穂を立てた状態で上から散水された水分がさし穂の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部の太さより十分に大きく形成された断面直径を有する縦長空隙と、を有する立体形状のパレット状育成装置を含む構成とすることにより、例えば、ある程度の太さがあって主軸から枝葉が伸びたり太さやサイズが異なって形成される樹木のさし穂であっても、さし穂の支持手段への支持操作や発根したさし穂の支持手段からの離脱操作等を、極めて簡便な操作で、さし穂を傷つけることなく、スムーズかつ容易にさし穂を取り扱うことができる。また、さし穂全体への散水を確実に行って、さし穂から良好に発根させることができる。
また、支持手段は、挿入開口から縦長空隙内に差し入れられ立てられたさし穂が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構を含む構成とすることにより、さし穂の下部の横移動を確実に規制して、支持手段による支持状態をより確実なものとして、さし穂が不意に倒れるのを確実に防止でき、さし穂を立てた状態を保持しながら散水を行え、さし穂の下部から良好に発根させることができる。
また、パレット状育成装置は、支持体に支持されて挿入開口から縦長空隙内に差し入れられ立てられたさし穂の下端を受ける下端受部を含む構成とすることにより、さし穂を立てた状態を良好に保持でき、さし穂の下部から良好に発根させることができる。
また、下端受部は上下高さ位置を調整可能に設けられている構成とすることにより、例えば、さし穂の挿入開口への挿入又は離脱、及び発根状況を含むさし穂の管理作業を作業者が楽な姿勢で作業できる高さや、散水装置による散水が適切な位置となるようにさし穂の支持位置を調整設定することができ、低労力で効率良く作業や発根管理を行うことができる。
また、パレット状育成装置は、平面状に挿入開口を多数形成した多孔ネットを含む構成とすることにより、多数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段を、簡単な構造で低コストで具体的に実現することができる。さらに、さし穂の挿入開口から挿入した下部分が外部から見えやすく、さし穂の蒸れによる腐朽も良好に防止できる上、発根状況等の管理やさし穂全体の水滴の付着状況程度を含むさし穂の状態管理等も行いやすい。
また、パレット状育成装置は、平面状に挿入開口を多数形成した多孔ネットを含む挿入開口部と、間隔を置いて下方に配置した下端受部と、挿入開口部と下端受部との中間に縦長空隙を形成するように装置全体を立体形状に支持する支持体と、を有する構成とすることにより、多数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段を、簡単な構造で低コストで具体的に実現することができる。さらに、さし穂の挿入開口から挿入した下部分が外部から見えやすく、さし穂の蒸れによる腐朽も良好に防止できる上、発根状況等の管理やさし穂全体の水滴の付着状態等を含むさし穂の状態管理等も行いやすい。
また、パレット状育成装置は、上端を開口し内部に縦長空隙としての挿入空間を形成した複数の筒状体を有するパレットケース体からなる構成とすることにより、複数のさし穂を隣接して支持できるパレット状育成装置や移動限界機構を有する構成を、簡単な構造で、低コストで製造することができるとともに、各筒状体で分割された空間にさし穂を挿入して、それぞれのさし穂を確実に立てた状態で保持しながら発根誘導することができ、管理も行いやすく、スムーズに発根させることができる。
また、挿入開口及び挿入開口に連通する縦長空隙の断面直径は、さし穂の枝胴部の断面直径に対して少なくとも3倍以上であることにより、樹木のさし穂の挿入開口及び縦長空隙へ挿入して支持させる操作や、発根したさし穂を離脱させる操作等を、さし穂を傷つけることなく極めて簡便な操作で、スムーズかつ容易に行える挿入開口及び縦長空隙の構成を具体的に実現することができる。
本発明の第1の実施形態に係るさし穂の発根装置の概略説明図である。
図1のさし穂の発根装置の支持手段の斜視説明図である。
図1のさし穂の発根装置でさし穂から発根した状態を説明する要部説明図である。
図1のさし穂の発根装置の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
図1のさし穂の発根装置を利用してさし穂から発根させた実施例での発根率のグラフである。
本発明の第2の実施形態に係るさし穂の発根装置の支持手段の概略説明図である。
図6の支持手段の断面説明図である。
図7の支持手段の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
図7のさし穂の発根装置の支持手段の他の実施例の概略説明図である。
本発明の第3の実施形態に係るさし穂の発根装置の支持手段の概略説明図である。
図10のさし穂の発根装置の支持手段の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
以下添付図面を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の実施形態について説明する。本発明に係るさし穂の発根装置は、例えば、スギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の針葉樹、ポプラ、ユーカリ等の広葉樹を含む種々の林業用樹種をさし木して苗を栽培する方法において、さし穂から発根させる工程を、土に植え付けることなく空気中に露出した状態で良好に発根を誘導させることができるさし穂の発根誘導装置又はさし穂栽培装置である。図1、図2、図3に示すように、本実施形態のさし穂の発根装置10は、閉鎖空間12と、閉鎖空間12内に設けられたさし穂100を空気中に立てて支持する支持手段14と、支持手段で支持したさし穂全体に散水する散水手段16と、を含む。すなわち、本実施形態では、さし穂の発根装置10は、土を用いず空気中にさし穂を支持手段で支持した状態で発根を促進させる。本実施形態では、さし穂の発根装置で発根操作する対象のさし穂100は、例えば、林業用として植林、造林に利用されるスギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の林業用樹種であり、親木である樹木から葉を有した枝部分を切断して形成されており、さし穂の長さが10〜40cm程度、主軸となる枝胴部102の太さは3〜10mm程度に設定される。なお、樹木の種類やその他栽培状況等に応じて対象のさし穂のサイズは適宜設定されることとしてもよい。
閉鎖空間12は、例えば、ビニルハウス18や温室等によって形成され、外気から閉鎖された屋内の栽培空間である。図1に示すように、閉鎖空間12は、例えば、複数のさし穂100を隣接して設置できる栽培空間を形成できるとともに、さし穂100の支持手段14や散水装置16の少なくとも散水部分等の構成設備を設置できうる大きさであれば任意でよい。閉鎖空間12は、例えば、太陽光をある程度遮光して栽培空間内を暗く保持できるように、天面側に遮光率50%程度の遮光膜19が設けられている。閉鎖空間12は、気密されていなくてもよいが、風雨をさえぎるとともに、温度や湿度等をある程度管理できる程度に外気から隔世されていると好適である。また、閉鎖空間12の高さは任意でよく、例えば、人が出入りできる程度の大きさで設けられていてもよいし、さし穂の生長高さ程度の大きさで形成してもよく、同時に管理するさし穂の数等に応じて平面広さを任意に設定してもよい。
支持手段14は、栽培空間である閉鎖空間12内に設けられ、さし穂全体が空気中に露出するように該さし穂を立てて支持する支持手段である。図1、図2に示すように、本実施形態では、支持手段14は、複数のさし穂100を隣接して立てて支持させうるように設けられている。具体的には、支持手段14は、平面状に多数配置されさし穂100の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された挿入開口20と、挿入開口20から下部側に連通するとともにさし穂の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された断面大きさを有する縦長空隙22と、を有する立体形状のパレット状育成装置24を含む。
本実施形態では、挿入開口20の大きさP1は、例えば、図4に示すように、さし穂の枝胴部の太さ(すなわち断面直径R)が3〜10mm程度であるのに対して、30〜120mm程度の大きさで形成されている。すなわち、さし穂の枝胴部の太さ(断面直径R):挿入開口20の大きさ(P1)は、1:3〜1:40倍程度に設定される。挿入開口20の大きさP1は、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上であると好適である。同時に、縦長空隙22の断面大きさは、さし穂100を立てた状態で上から散水された水分がさし穂の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部102の太さより十分に大きく形成されている。このように挿入開口20をさし穂の枝胴部より十分に大きく形成させると同時に縦長空間20の断面大きさ(又は横断面直径)をさし穂の枝胴部より十分に大きく形成させたことにより、後述の散水手段16によって散水した際にさし穂全体に水が付着しやすいとともに、さし穂の横に分岐した枝や葉を有して太さや長さが種々の異なるサイズで形成される林業用樹種のさし穂を、挿入開口に挿入操作したり発根後に引き抜いたりする際に、ある程度ラフな操作でもさし穂を傷付けることもなくスムーズにかつスピーディに作業を行うことができる。なお、縦長空隙22の断面大きさ、すなわち縦長空隙22の断面直径は、挿入開口20の大きさと略同じ大きさ程度か、広く又は若干小さく設けられていてもよい。
本実施形態では、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含む挿入開口部28と、該挿入開口部28に対して間隔Dを置いて下方に配置した下端受部30と、挿入開口部28と下端受部30との中間に縦長空隙22を形成するようにパレット状育成装置24全体を立体形状に支持する支持体32と、を有する。図1、図2に示すように、挿入開口部28は、例えば、上記のようにさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きな間隙の孔を形成するように格子状に細い金属線を平面視矩形状に組み付けて構成された多孔ネット26を含む。なお、多孔ネット26は、例えば、平板等にさし穂の枝胴部よりも大きな挿入開口を複数個設けて構成してもよい。多孔ネット26により挿入開口20が複数設けられているが、例えば、複数のさし穂は、一平方メートルあたり50〜500本程度の密度となるような隣接間隔で挿入させて支持させるとよい。
下端受部30は、例えば、複数の支持脚34からなる下端受部用の支持体に支持されており、多孔ネット26の挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100の下端を受ける。下端受部30は、例えば、平面視矩形状で上記の多孔ネットと同様に設けられた第2の多孔ネット36であって、4つの支持脚34で水平状に支持された第2の多孔ネット36と、該第2の多孔ネット36の上面側に孔を閉鎖するように敷設され遮水マット38と、を有する。なお、下端受部30は、上記の構成に限らず、例えば、板体や、さし穂の下端の太さよりも小さな孔が形成されたネットや、ある程度立体形状に設けられたフレームや台、その他の組合せ構造等、その他任意の構造でもよい。また、例えば、支持脚34を伸縮構造や下端受部30を支持する高さ位置を変更可能に設けることにより、下端受部30は上下高さ位置を調整可能に設ける構成としてもよい。
挿入開口部28と下端受部30との中間に設置される支持体32は、例えば、直方体状のブロック体等からなり、下端受部30の4つの隅部位置近傍に載置されており、該ブロック体の上端面に挿入開口部28の隅部位置を載せて支持し、挿入開口部28と下端受部30との間に所定の高さの縦長空隙22を形成している。なお、本実施形態では、縦長空隙22は、挿入開口部26の複数の挿入開口20に対して、一つの連続した空間で形成されている。支持体32の高さすなわち縦長空隙22の高さは、例えば、10〜30cm程度に設定されている。よって、支持体32によって立体形状に組み付けられた挿入開口部28と下端受部30において挿入開口22からさし穂を挿入させると、さし穂100は、挿入開口20の上方にある程度突出する状態で、該さし穂の中間位置が多孔ネット26で受けられるような状態で立てて支持される。なお、挿入開口部28と下端受部30との間隙Dすなわち縦長空隙22の高さは、例えば、間隙Dが小さすぎたり、大きすぎるとさし穂を立てて支持できなくなるので、さし穂の上端又は中間位置が挿入開口部分で受けて該さし穂を立てて支持できるような高さに設定すると良い。例えば、さし穂の挿入開口22から縦長空隙内に挿入された部分の長さ:挿入開口から上部に突出した部分の長さが、1:0〜1:4程度、好適には、1:0〜1:3.4程度に設定されているとよい。なお、支持体32は、ブロック体の態様に限らず、例えば、挿入開口部を下から支持し得る柱体やネット状のフレーム枠状の支持構成や上方から挿入開口部を吊支する構成等、その他任意の構造でも良い。また、パレット状育成装置24は、下端受部30を設けずに、例えば、ブロック体等を地面に載置し、そのブロック体の上に挿入開口部26を設置して、地面に挿入開口20から挿入したさし穂の下端を受けさせて立てて支持する構成等としてもよい。また、パレット状育成装置24は、後述の実施形態のようなパレットケース体50からなることとしてもよい。
散水手段18は、閉鎖空間12内で支持手段14で支持したさし穂100の葉及び枝を含む略全体に常に水が付着している状態を保持するように所定の時間間隔で該さし穂全体にわたって散水する散水手段である。本実施形態では、散水手段18は、例えば、給水圧送装置40によって水に高圧をかけて圧送し、パイプ42を介して接続された複数の散水ノズル44からミスト状の水をさし穂100に向けて散布する従来周知のスプリンクラー装置からなる。散水手段18は、上記のように支持手段14のさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きく設けられる挿入開口22や縦長空隙22の構造と相俟って、さし穂全体に散水し、かつ常にさし穂の略全体に水を付着させやすい構成となっている。単にさし穂の発根部分のみに散水するよりも、葉枝を含むさし穂全体に散水し、かつさし穂の略全体に水が付着している状態を保持する方が、さし穂を乾燥させにくく、発根率を向上することができることが本発明者らの実験によりわかっている。さし穂全体に散水すると、葉部分にも水を付着させることにより蒸散を防止し、さし穂中の水分を常時保持することができ、さし穂が枯死するのを防止しながら良好に発根を促進できると推測される。なお、さし穂の略全体とは、例えば、さし穂の表面積の3分の2以上の部分であり、さし穂の表面積の3分の2以上に水が付着している状態を保持するように、散水手段により散水すると好適である。散水手段18による詳細な散水の例としては、例えば、散水手段18であるスプリンクラー装置は、各散水ノズル44が散布するミスト状の水の粒径が0.05m以上〜5mm以下の大きさに設定されており、毎分0.5リットル以上から6リットル以下の容量の水を散水して、1つの散水ノズルである範囲の複数のさし穂に散水できるように設定される。散水ノズル44は、支持手段によって支持されている全てのさし穂に散水できるように、複数個が互いに離隔して並設されている。散水ノズル44の設置位置は、例えば、さし穂全体に散水できるように支持手段14の挿入開口部28の位置から上方に30cm以上、500cm以下の高さ位置に設置されている。なお、散水ノズル44は、地上側に設置し、横方向又は上方向等に噴射してさし穂に散水することとしてもよい。散水手段18による散水は、例えば、1日4回以上、1回当たり1分以上30分以内の時間で、間欠的に散水する。このようにしてさし穂の略全体に水が付着している状態を保持すると良い。なお、当然ながら、閉鎖空間内の温度、湿度を含む環境条件やその他の環境状況によって、散水量や散水回数を適宜調整して、さし穂の水の付着状態を保持することとしてもよい。
次に、上記実施形態に係るさし穂の発根装置の作用、実施例及びさし穂の発根方法について説明する。例えば、林業用樹種であるスギの樹木から葉を有した枝部分を、長さ30〜40cm程度の長さで切断してさし穂を形成する。なお、さし穂の切断面を薬剤処理したり基部側の側枝等を適宜処理しておいてもよい。ビニルハウス等により形成した閉鎖空間12に設置した支持手段14の挿入開口20からさし穂を縦長空隙22内に挿入し、さし穂が略垂直状態となるように立てかけて支持する。この支持操作は、挿入開口及び縦長空隙がさし穂より十分に大きいサイズで設定されているので、さし穂を傷付けることなく、スムーズかつスピーディに立てて支持させることができる。支持手段14により、さし穂を支持させた状態で、散水手段18により、常にさし穂の略全体に水が付着した状態が保持されるように、所定の時間間隔での散水を繰り返して、発根を誘導させる。常時、さし穂の水の付着状態を保持することにより、例えば、2〜4ヶ月程度で、図3に示すように、さし穂100の下部側から発根する。さし穂全体は空気中に露出しているので、発根状態を目視で簡単に、しかも確実に確認することができる。本実施形態の発根装置により発根させたさし穂は、挿入開口20から引き抜かれて、例えば、所定の育苗容器に土が入れられた栽培空間に植え付けられて根鉢状態の規定苗を製造する工程に移行される。さし穂を引き抜く作業においても、挿入開口及び縦長空隙がさし穂より十分に大きい大きさで設定されているので、さし穂の枝や根を傷付けにくく、しかも低労力でスムーズかつスピーディに行うことができる。このようにして、本実施形態のさし穂の発根装置では、樹木から切断して形成したさし穂を、土に植え付けることなく、空気中に露出して支持させた状態で、常にさし穂の略全体に水が付着しているように散水によって管理することで、良好に発根を誘導することができる。
次に、上記の本実施形態に係るさし穂の発根装置を用いてさし穂を発根した実施例について説明する。発根率が異なるスギの品種15種類(系統名クローンA〜クローンO)について、本実施形態のさし穂の発根装置を用いて発根誘導させた際の発根状況を4ヶ月にわたり観測し、発根装置を用いたさし穂の発根率と、従来のように露地で培地にさし穂を植え付けて発根した場合のさし穂の発根率を比較した。本実施形態のさし穂の発根装置では、閉鎖空間を縦×横が2510cm×825cm程度の平面広さで、高さが210cm〜400cmとなる空間を形成する三角屋根型のビニルハウスで形成した。観測期間中の閉鎖空間内の平均温度は23.9度、平均湿度が94.0%であった。さし穂は、52cm×33cmに20本(さしつけ密度が一平方メートルあたり約115本程度)となるように、支持手段の多孔ネットの多数の挿入開口に挿入して支持させる。散水手段によるさし穂への散水量は、1回の散水ごとに毎分1リットル/m2程度で3分程度散水するのを、1日17回繰り返して散水を行った。図5は、上記設定で各スギの品種のさし穂の発根誘導を20本について行った際の4ヶ月後の発根率の比較グラフを示している。すなわち、発根率=発根したさし穂の本数/観測したさし穂の全本数(20本)で算出した。図5のグラフに示すように、全てのスギの品種において、実施例である発根装置を用いたものの発根率の方が、比較例である露地栽培での発根率よりも高い発根率でさし穂の発根誘導を行えることが分かる。本実施例ではスギの15品種について、本発明の発根装置を用いた方が露地栽培よりも発根率が上昇することが確認できたが、ヒノキやコウヨウザン等のその他の林業用樹種についても良好に発根させることができることが実験により確認できている。また、マツ等の針葉樹、ポプラやユーカリ等の広葉樹についても、本実施形態のさし穂の発根装置を用いて、上記したスギ等と同様に良好に発根できると推測され、針葉樹及び広葉樹を含む種々の樹木のさし穂の発根誘導への実用的な利用を期待できる。
次に、図6、図7、図8を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の第2の実施形態について説明する。上記した第1実施形態と同一構成、同一部材には、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。上記実施形態同様に、本実施形態のさし穂の発根装置は、閉鎖空間12と、支持手段14と、散水手段16と、を備えている。本実施形態では、上記実施形態と比較して、閉鎖空間12、散水手段16の構成は同じであるが、支持手段14の構成が異なっている。図6、図7、図8は、支持手段14の構成を示している。図6、図7に示すように、支持手段14は、パレット状育成装置24bを含むが、パレット状育成装置24bは、本実施形態では、上端を開口し内部に縦長空隙22としての挿入空間を形成した複数の筒状体46を有するパレットケース体50からなる。パレットケース体50は、例えば、プラスチック等の合成樹脂から形成されており、各筒状体46の開口からフランジ状に張出すように設けられた連結部48を介して、上端側どうしを連結して一体的に設けられている。各筒状体46は、上端の開口を挿入開口20とし、下端に向けて断面径が小さくなるテーパ状に設けられており、開口に連通する内部の挿入空間を縦長空隙22としている。筒状体46は、例えば、縦長空隙22内に水が貯まることないように、底部に通水できるような孔が開口(図示せず)されており、さし穂を空気中に露出した状態を保持しながら支持できる。各筒状体46には、例えば、通水性や通気性等をよくするために側壁に縦長のスリットや孔等を形成することとしてもよい。なお、筒状体の底部の孔の大きさは、さし穂の枝を通過させない程度の大きさに設定されており、底部は、さし穂の下端を受ける下端受部30を有している。さらに、筒状体46は、側壁により縦長空隙22を隔世していることから、底部と側壁とが協働してその縦長空隙22に挿入されたさし穂の下端を含む下部側の横方向の移動限界を規制しうる。すなわち、筒状体は側壁に連設された底部により構成される下端受部30を有しており、該下端受部30を有する支持手段14は、挿入開口22から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂100の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構52を含む。図8に示すように、それぞれの筒状体では、挿入開口22の大きさは、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して3倍以上に設定されている。同時に、挿入開口22に連通する縦長空隙22の断面直径P2も、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上に設定されている。本実施形態でも上記実施形態同様に、樹木から切断して形成したさし穂を土に植え付けることなく、空気中に露出した状態で散水しながら、良好に発根を誘導することができる等の作用効果を奏することができる。
さらに、図9は、上記の支持手段14を構成するパレット状育成装置24がパレットケース体50を有する態様の他の実施例を示している。図9の例では、パレットケース体50は、例えば、各筒状部46の底部は、さし穂100の枝の太さよりも大きな径の開口が形成されている。パレットケース体50の下端には、パレットケース体の平面面積よりも大きな底壁であって、さし穂の枝の太さよりも小さな径の孔が多数貫通されて通水機能を有する底壁が形成されるとともに上面開口した孔付き容器54が設置されている。よって、支持手段14のパレット状育成装置24は、孔付き容器54の底壁の上にパレットケース体50が載置されて組み付けて構成されており、孔付き容器54の底壁がさし穂の下端を受ける下端受部30を構成している。さらに、本実施形態では、複数個のパレット状育成装置24は、棚装置60を介して上下の高さを異ならせた複数位置で段状に配置されている。棚装置60は、例えば、支柱56の上下中間位置の高さが異なる位置に複数の(図9上では、3つの)棚部材58が固定されており、各棚部材58上に上述のパレット状育成装置24cが設置されている。すなわち、本実施形態では、支持手段14は、複数のパレット状育成装置24と、それらのパレット状育成装置24を上下に段状に配置させる棚装置60と、を含む。棚部材58は、水を上下に通過させ得るように、多孔ネットから構成されている。このように棚装置60の複数段にパレット状育成装置24cを配置させた状態で、上方から散水装置で水を散水すると、最上段から最下段までの全てのパレット状育成装置24に支持したさし穂に効果的に散水しながら、発根を誘導させることができる。さらに、図9の例では、棚部材58は、支柱56に対して固定する高さ位置を調整可能に設けられており、パレット状育成装置の個数やさし穂の高さ等に応じて、パレット状育成装置の下端受部30の上下高さ位置を調整可能なように設けられている。図9の実施形態では、複数のさし穂を支持する支持手段を上下に立体的に並べて配置させることにより、上記実施形態のものよりも、単位面積当たりに同時に発根誘導するさし穂の設置量をより多く設置することができ、発根効率の上昇及び管理の利便性を向上させる。
次に、図10、図11を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の第3の実施形態について説明する。上記した第1実施形態と同一構成、同一部材には、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。第1実施形態同様に、本実施形態のさし穂の発根装置は、閉鎖空間12と、支持手段14と、散水手段16と、を備えている。本実施形態では、上記実施形態と比較して、閉鎖空間12、散水手段16の構成は同じであるが、支持手段14の構成が異なっている。図10、図11は、支持手段14の要部の構成を示している。本実施形態では、図10、図11に示すように、支持手段14は、第1実施形態と略同じ構成のパレット状育成装置24を含むが、該パレット状育成装置24は、例えば、挿入開口部28である挿入開口20が形成された多孔ネット26と下端受部30との間の上下中間位置に配置された移動規制用ネット39を有している。なお、図10では、移動規制用ネット39は、外側の輪郭線のみを図示しており、内側の多数の網目は省略している。移動規制用ネット39は、多孔ネット26と略同じようにさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きな開口41を形成するように格子状に細い金属線を平面視矩形状に組み付けて構成された多孔ネットからなる。移動規制用ネット39は、多孔ネット26と平行状に配置されるとともに、該ネット39に形成される多数の開口41が平面的に上方の多孔ネット26の挿入開口20と同じ位置となる位置に設定されて、それらの開口20、41どうしが上下方向に略直線状に連通されるようになっている。これによって、図11に示すように、挿入開口20から空隙22に挿入されたさし穂の枝胴部102は、該挿入開口20と下端受部30との間の中間位置で、移動規制用ネット39の開口枠部分によって横方向に移動させるのを規制されて該さし穂の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定し、該さし穂の正しい立て支持状態が保持される。すなわち、移動規制用ネット39は、下端受部30よりも上方位置で、さし穂の挿入開口から挿入した下部側の横方向の移動限界を規定しうる移動限界機構52aを構成している。例えば、移動規制用ネット39は、下端受部30の隅部に設けられた直方体ブロック状の下部側支持体32aの上に、該移動規制用ネット39の隅部を載置して、下端受部30の上方に支持されている。さらに、移動規制用ネット39の隅部を挟み固定するように、該隅部の上に直方体ブロック状の上部側支持体32bが載置されるとともに、該上部側支持体32bの上に多孔ネット26の隅部が載置されて、該移動規制用ネット39の上方に該多孔ネット26が支持されている。本実施形態でも上記実施形態同様に、樹木から切断して形成したさし穂を土に植え付けることなく、空気中に露出した状態で散水しながら、良好に発根を誘導することができる等の作用効果を奏することができる。さらに加えて、本実施形態では、ネット39によりさし穂の下部側の横移動を確実に規制して、支持手段による支持状態をより確実なものとして、さし穂が不意に倒れるのを確実に防止でき、さし穂を立てた状態を保持しながら良好に発根させることができる。
以上説明した本発明のさし穂の発根装置は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
本発明のさし穂の発根装置は、スギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の針葉樹、ポプラ、ユーカリ等の広葉樹等を含む林業用樹種をさし木して植林する際にさし木苗の製造時の発根工程で好適に利用できる。
10 さし穂の発根装置
12 閉鎖空間
14 支持手段
16 散水手段
20 挿入開口
22 縦長空隙
24 パレット状育成装置
26 多孔ネット
28 挿入開口部
30 下端受部
32 支持体
34 支持脚
46 筒状体
50 パレット状ケース体
52,52a 移動限界機構
本発明は、さし木栽培を行う際に樹木の枝を切断して形成したさし穂から発根させるのに好適なさし穂の発根装置に関する。
スギやヒノキ、コウヨウザン等の林業用樹種を植林する際には、樹木から切断した枝をさし穂として土にさしつけて育成するさし木栽培技術が行われている。さし木苗による植林では、例えば、30〜40cm程度の長さで樹木から葉付きの枝を切断して形成したさし穂を、培土が入れられたさし床に植えて、40〜70cm程度まで成長させて規格化した規格苗を育てて、規格苗を植林地に運搬し植えて植林を行う場合が多い。近時では、さし木苗の植林地への活着しやすさ、さし木苗の栽培管理の効率化等から、発根したさし穂の根に土を固定させて根鉢状態になるように栽培した根鉢付きの規格苗を形成することが勧められており、全国的にも広く利用されている。さし穂の根鉢付きの規格苗を形成する際には、例えば、さし穂をさし床等の土に植えて発根させ、発根したさし穂を一旦、土から掘り起こし、その後、所定の育苗用容器に土とともに発根したさし穂を植えて所定期間栽培していた。しかしながら、従来のようにさし穂を土にさして発根させる方法では、さし穂の発根部分が土中で見えないことから発根状況を簡単には把握できないとともに、土にさしつけたり発根後には土から掘り起こしたりする必要があり作業者の労力が大きい上、野外環境下では気象条件等により育成管理が難しく発根率が安定しにくい等の問題が生じている。特に林業に携わる業者の高齢化が進み後継者不足が問題となっている昨今では、さし木苗栽培にかかる重労働な作業は、大きな課題となっている。
一方、例えば、特許文献1には、土を使用しないで植物を空気中で発根させる装置が提案されている。特許文献1では、密閉されたチャンバーと、植物のさし穂の発根部分をチャンバーの中に延びるように保持するようにチャンバーに設けられた複数のさし穂保持用部材と、チャンバーの中に植物の栄養成分の水溶液をさし穂の発根部分に間欠的に噴霧する装置と、を含むものであり、そしてチャンバーに設けられる複数のさし穂保持用部材は、水平な上部パネルに形成された上向きの複数の円筒形環状であり、その中央部に孔が設けられ、各孔にさし穂が挿入され、円筒形環状のさし穂保持部形成部材は上部にさし穂保持用のリムを有し、チャンバーは円筒形環状の内側の縁と上部パネルとの境界部が滑らかな形状に形成されたものが提案されている。
しかしながら、特許文献1のチャンバーでは、発根部分のみに散水させるようにさし穂を保持させるためや異物がチャンバー内に浸入するのを防止するために、円筒形環状のさし穂保持用部材の中央の孔が小さく形成されていることから、スギやヒノキ等の樹木から切断して形成したさし穂のように枝の径が太くかつ太さもまちまちであり、横から分岐した枝や葉を有するさし穂の場合には、さし穂をスムーズにさして所定の位置で支持することが困難ないし不可能であった。すなわち、特許文献1では、円筒形環状の孔よりも小さな太さのさし穂では、さし穂がゆるくて支持できずに所定の深さの発根部分の位置にあわせることができないとともに、孔よりも大きい太さのものや下部に分岐した枝が付いたさし穂では、円筒形環状の孔に挿入させることができないことから、所定の太さのさし穂のみにしか利用できないものである上、孔に対応する所定の太さのさし穂であっても小さい孔への挿入操作に手間取るおそれが高く、かつ挿入深さの確認が必要なため作業が煩雑で困難なものであった。同時に、さし穂の保持用部材の孔に挿入したり取り出したりする際にさし穂を傷付けてしまうおそれが高く、さらには、いちいちさし穂保持用部材へのさし穂の挿入深さを確認しながら挿入する必要があるので作業も煩雑であった。さらに、複雑な形状の円筒形環状チャンバーを含む装置構造が複雑で、製造コストが高いものであった。さらに、さし穂の発根部分のみに散水する構造であるので、葉からの蒸散を抑制するための手段を別途講じる必要があるため本チャンバーのみでは安定的かつ効率的な発根が期待できず、樹木のさし穂を発根させるのには実用性が低い問題があった。
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、樹木から形成したさし穂の支持操作の際や発根誘導に向けて管理する期間、発根後の装置からの離脱操作等の各作業を低労力で、かつさし穂を傷づけることなくスムーズに行える上、高い発根率で安定的にさし穂の発根を促進できるとともに容易に管理できる発根装置を、簡単な構造で低コストで製造できる実用性が高いさし穂の発根装置を提供することにある。
上記課題を解決するために本発明は、閉鎖空間12と、閉鎖空間12内に設けられ林業用樹種の樹木から葉を有した枝部分を切断して形成したさし穂100全体が空気中に露出するように該さし穂100を立てて支持する支持手段であって、複数のさし穂100を隣接して立てて支持させる支持手段14と、所定の時間間隔で支持手段14で支持したさし穂100全体にわたって散水して該さし穂100の葉及び枝を含む略全体に水を付着させる散水手段16と、を含むさし穂の発根装置10から構成される。
また、支持手段14は、平面状に多数配置されさし穂100の枝胴部102の太さより大きく形成された挿入開口20と、挿入開口20から下部側に連通しさし穂100を立てた状態で上から散水された水分がさし穂100の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部102の太さより大きく形成された断面直径を有する縦長空隙22と、を有する立体形状のパレット状育成装置24を含むこととしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、支持体に支持されて挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100の下端を受ける下端受部30を含むこととしてもよい。
また、下端受部30は上下高さ位置を調整可能に設けられていることとしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含むこととしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含む挿入開口部28と、該挿入開口部28に対して間隔を置いて下方に配置した下端受部30と、挿入開口部28と下端受部30との中間に縦長空隙22を形成するように装置全体を立体形状に支持する支持体32と、を有することとしてもよい。
また、パレット状育成装置24は、上端を開口(20)し内部に縦長空隙22としての挿入空間を形成した複数の筒状体46を有するパレットケース体50からなることとしてもよい。
また、挿入開口20及び挿入開口20に連通する縦長空隙22の断面直径P2は、さし穂の枝胴部の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上であることとしてもよい。
また、支持手段14は、挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂100の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構52、52aを含むこととしてもよい。
本発明のさし穂の発根装置によれば、閉鎖空間と、閉鎖空間内に設けられ林業用樹種の樹木から葉を有した枝部分を切断して形成したさし穂全体が空気中に露出するように該さし穂を立てて支持する支持手段であって、複数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段と、支持手段で支持したさし穂の葉及び枝を含む略全体に常に水が付着している状態を保持するように所定の時間間隔で該さし穂全体にわたって散水する散水手段と、を含むことから、さし穂を土に植え付けずに空気中に露出した状態で支持しながらさし穂全体に散水させながら、さし穂からの発根を良好に誘導させることができ、土を用いる必要がないので低労力かつスムーズに行える上、さし穂の発根誘導を高い発根率で安定的に行えるとともに、簡易に管理できる発根装置を提供することができる。さらに、構造を比較的単純化して製造することができ、簡単で低コストで製造することができる。
また、支持手段は、平面状に多数配置され、さし穂の枝胴部の太さより十分に大きく形成された挿入開口と、挿入開口から下部側に連通しさし穂を立てた状態で上から散水された水分がさし穂の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部の太さより十分に大きく形成された断面直径を有する縦長空隙と、を有する立体形状のパレット状育成装置を含む構成とすることにより、例えば、ある程度の太さがあって主軸から枝葉が伸びたり太さやサイズが異なって形成される樹木のさし穂であっても、さし穂の支持手段への支持操作や発根したさし穂の支持手段からの離脱操作等を、極めて簡便な操作で、さし穂を傷つけることなく、スムーズかつ容易にさし穂を取り扱うことができる。また、さし穂全体への散水を確実に行って、さし穂から良好に発根させることができる。
また、支持手段は、挿入開口から縦長空隙内に差し入れられ立てられたさし穂が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構を含む構成とすることにより、さし穂の下部の横移動を確実に規制して、支持手段による支持状態をより確実なものとして、さし穂が不意に倒れるのを確実に防止でき、さし穂を立てた状態を保持しながら散水を行え、さし穂の下部から良好に発根させることができる。
また、パレット状育成装置は、支持体に支持されて挿入開口から縦長空隙内に差し入れられ立てられたさし穂の下端を受ける下端受部を含む構成とすることにより、さし穂を立てた状態を良好に保持でき、さし穂の下部から良好に発根させることができる。
また、下端受部は上下高さ位置を調整可能に設けられている構成とすることにより、例えば、さし穂の挿入開口への挿入又は離脱、及び発根状況を含むさし穂の管理作業を作業者が楽な姿勢で作業できる高さや、散水装置による散水が適切な位置となるようにさし穂の支持位置を調整設定することができ、低労力で効率良く作業や発根管理を行うことができる。
また、パレット状育成装置は、平面状に挿入開口を多数形成した多孔ネットを含む構成とすることにより、多数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段を、簡単な構造で低コストで具体的に実現することができる。さらに、さし穂の挿入開口から挿入した下部分が外部から見えやすく、さし穂の蒸れによる腐朽も良好に防止できる上、発根状況等の管理やさし穂全体の水滴の付着状況程度を含むさし穂の状態管理等も行いやすい。
また、パレット状育成装置は、平面状に挿入開口を多数形成した多孔ネットを含む挿入開口部と、間隔を置いて下方に配置した下端受部と、挿入開口部と下端受部との中間に縦長空隙を形成するように装置全体を立体形状に支持する支持体と、を有する構成とすることにより、多数のさし穂を隣接して立てて支持させる支持手段を、簡単な構造で低コストで具体的に実現することができる。さらに、さし穂の挿入開口から挿入した下部分が外部から見えやすく、さし穂の蒸れによる腐朽も良好に防止できる上、発根状況等の管理やさし穂全体の水滴の付着状態等を含むさし穂の状態管理等も行いやすい。
また、パレット状育成装置は、上端を開口し内部に縦長空隙としての挿入空間を形成した複数の筒状体を有するパレットケース体からなる構成とすることにより、複数のさし穂を隣接して支持できるパレット状育成装置や移動限界機構を有する構成を、簡単な構造で、低コストで製造することができるとともに、各筒状体で分割された空間にさし穂を挿入して、それぞれのさし穂を確実に立てた状態で保持しながら発根誘導することができ、管理も行いやすく、スムーズに発根させることができる。
また、挿入開口及び挿入開口に連通する縦長空隙の断面直径は、さし穂の枝胴部の断面直径に対して少なくとも3倍以上であることにより、樹木のさし穂の挿入開口及び縦長空隙へ挿入して支持させる操作や、発根したさし穂を離脱させる操作等を、さし穂を傷つけることなく極めて簡便な操作で、スムーズかつ容易に行える挿入開口及び縦長空隙の構成を具体的に実現することができる。
本発明の第1の実施形態に係るさし穂の発根装置の概略説明図である。
図1のさし穂の発根装置の支持手段の斜視説明図である。
図1のさし穂の発根装置でさし穂から発根した状態を説明する要部説明図である。
図1のさし穂の発根装置の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
図1のさし穂の発根装置を利用してさし穂から発根させた実施例での発根率のグラフである。
本発明の第2の実施形態に係るさし穂の発根装置の支持手段の概略説明図である。
図6の支持手段の断面説明図である。
図7の支持手段の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
図7のさし穂の発根装置の支持手段の他の実施例の概略説明図である。
本発明の第3の実施形態に係るさし穂の発根装置の支持手段の概略説明図である。
図10のさし穂の発根装置の支持手段の挿入開口周辺の要部拡大説明図である。
以下添付図面を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の実施形態について説明する。本発明に係るさし穂の発根装置は、例えば、スギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の針葉樹、ポプラ、ユーカリ等の広葉樹を含む種々の林業用樹種をさし木して苗を栽培する方法において、さし穂から発根させる工程を、土に植え付けることなく空気中に露出した状態で良好に発根を誘導させることができるさし穂の発根誘導装置又はさし穂栽培装置である。図1、図2、図3に示すように、本実施形態のさし穂の発根装置10は、閉鎖空間12と、閉鎖空間12内に設けられたさし穂100を空気中に立てて支持する支持手段14と、支持手段で支持したさし穂全体に散水する散水手段16と、を含む。すなわち、本実施形態では、さし穂の発根装置10は、土を用いず空気中にさし穂を支持手段で支持した状態で発根を促進させる。本実施形態では、さし穂の発根装置で発根操作する対象のさし穂100は、例えば、林業用として植林、造林に利用されるスギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の林業用樹種であり、親木である樹木から葉を有した枝部分を切断して形成されており、さし穂の長さが10〜40cm程度、主軸となる枝胴部102の太さは3〜10mm程度に設定される。なお、樹木の種類やその他栽培状況等に応じて対象のさし穂のサイズは適宜設定されることとしてもよい。
閉鎖空間12は、例えば、ビニルハウス18や温室等によって形成され、外気から閉鎖された屋内の栽培空間である。図1に示すように、閉鎖空間12は、例えば、複数のさし穂100を隣接して設置できる栽培空間を形成できるとともに、さし穂100の支持手段14や散水装置16の少なくとも散水部分等の構成設備を設置できうる大きさであれば任意でよい。閉鎖空間12は、例えば、太陽光をある程度遮光して栽培空間内を暗く保持できるように、天面側に遮光率50%程度の遮光膜19が設けられている。閉鎖空間12は、気密されていなくてもよいが、風雨をさえぎるとともに、温度や湿度等をある程度管理できる程度に外気から隔世されていると好適である。また、閉鎖空間12の高さは任意でよく、例えば、人が出入りできる程度の大きさで設けられていてもよいし、さし穂の生長高さ程度の大きさで形成してもよく、同時に管理するさし穂の数等に応じて平面広さを任意に設定してもよい。
支持手段14は、栽培空間である閉鎖空間12内に設けられ、さし穂全体が空気中に露出するように該さし穂を立てて支持する支持手段である。図1、図2に示すように、本実施形態では、支持手段14は、複数のさし穂100を隣接して立てて支持させうるように設けられている。具体的には、支持手段14は、平面状に多数配置されさし穂100の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された挿入開口20と、挿入開口20から下部側に連通するとともにさし穂の枝胴部102の太さより十分に大きく形成された断面大きさを有する縦長空隙22と、を有する立体形状のパレット状育成装置24を含む。
本実施形態では、挿入開口20の大きさP1は、例えば、図4に示すように、さし穂の枝胴部の太さ(すなわち断面直径R)が3〜10mm程度であるのに対して、30〜120mm程度の大きさで形成されている。すなわち、さし穂の枝胴部の太さ(断面直径R):挿入開口20の大きさ(P1)は、1:3〜1:40倍程度に設定される。挿入開口20の大きさP1は、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上であると好適である。同時に、縦長空隙22の断面大きさは、さし穂100を立てた状態で上から散水された水分がさし穂の葉及び枝胴部全体を伝うようにさし穂の枝胴部102の太さより十分に大きく形成されている。このように挿入開口20をさし穂の枝胴部より十分に大きく形成させると同時に縦長空間20の断面大きさ(又は横断面直径)をさし穂の枝胴部より十分に大きく形成させたことにより、後述の散水手段16によって散水した際にさし穂全体に水が付着しやすいとともに、さし穂の横に分岐した枝や葉を有して太さや長さが種々の異なるサイズで形成される林業用樹種のさし穂を、挿入開口に挿入操作したり発根後に引き抜いたりする際に、ある程度ラフな操作でもさし穂を傷付けることもなくスムーズにかつスピーディに作業を行うことができる。なお、縦長空隙22の断面大きさ、すなわち縦長空隙22の断面直径は、挿入開口20の大きさと略同じ大きさ程度か、広く又は若干小さく設けられていてもよい。
本実施形態では、パレット状育成装置24は、平面状に挿入開口20を多数形成した多孔ネット26を含む挿入開口部28と、該挿入開口部28に対して間隔Dを置いて下方に配置した下端受部30と、挿入開口部28と下端受部30との中間に縦長空隙22を形成するようにパレット状育成装置24全体を立体形状に支持する支持体32と、を有する。図1、図2に示すように、挿入開口部28は、例えば、上記のようにさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きな間隙の孔を形成するように格子状に細い金属線を平面視矩形状に組み付けて構成された多孔ネット26を含む。なお、多孔ネット26は、例えば、平板等にさし穂の枝胴部よりも大きな挿入開口を複数個設けて構成してもよい。多孔ネット26により挿入開口20が複数設けられているが、例えば、複数のさし穂は、一平方メートルあたり50〜500本程度の密度となるような隣接間隔で挿入させて支持させるとよい。
下端受部30は、例えば、複数の支持脚34からなる下端受部用の支持体に支持されており、多孔ネット26の挿入開口20から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100の下端を受ける。下端受部30は、例えば、平面視矩形状で上記の多孔ネットと同様に設けられた第2の多孔ネット36であって、4つの支持脚34で水平状に支持された第2の多孔ネット36と、該第2の多孔ネット36の上面側に孔を閉鎖するように敷設された遮水マット38と、を有する。なお、下端受部30は、上記の構成に限らず、例えば、板体や、さし穂の下端の太さよりも小さな孔が形成されたネットや、ある程度立体形状に設けられたフレームや台、その他の組合せ構造等、その他任意の構造でもよい。また、例えば、支持脚34を伸縮構造や下端受部30を支持する高さ位置を変更可能に設けることにより、下端受部30は上下高さ位置を調整可能に設ける構成としてもよい。
挿入開口部28と下端受部30との中間に設置される支持体32は、例えば、直方体状のブロック体等からなり、下端受部30の4つの隅部位置近傍に載置されており、該ブロック体の上端面に挿入開口部28の隅部位置を載せて支持し、挿入開口部28と下端受部30との間に所定の高さの縦長空隙22を形成している。なお、本実施形態では、縦長空隙22は、挿入開口部26の複数の挿入開口20に対して、一つの連続した空間で形成されている。支持体32の高さすなわち縦長空隙22の高さは、例えば、10〜30cm程度に設定されている。よって、支持体32によって立体形状に組み付けられた挿入開口部28と下端受部30において挿入開口22からさし穂を挿入させると、さし穂100は、挿入開口20の上方にある程度突出する状態で、該さし穂の中間位置が多孔ネット26で受けられるような状態で立てて支持される。なお、挿入開口部28と下端受部30との間隙Dすなわち縦長空隙22の高さは、例えば、間隙Dが小さすぎたり、大きすぎるとさし穂を立てて支持できなくなるので、さし穂の上端又は中間位置が挿入開口部分で受けて該さし穂を立てて支持できるような高さに設定すると良い。例えば、さし穂の挿入開口22から縦長空隙内に挿入された部分の長さ:挿入開口から上部に突出した部分の長さが、1:0〜1:4程度、好適には、1:0〜1:3.4程度に設定されているとよい。なお、支持体32は、ブロック体の態様に限らず、例えば、挿入開口部を下から支持し得る柱体やネット状のフレーム枠状の支持構成や上方から挿入開口部を吊支する構成等、その他任意の構造でも良い。また、パレット状育成装置24は、下端受部30を設けずに、例えば、ブロック体等を地面に載置し、そのブロック体の上に挿入開口部26を設置して、地面に挿入開口20から挿入したさし穂の下端を受けさせて立てて支持する構成等としてもよい。また、パレット状育成装置24は、後述の実施形態のようなパレットケース体50からなることとしてもよい。
散水手段18は、閉鎖空間12内で支持手段14で支持したさし穂100の葉及び枝を含む略全体に常に水が付着している状態を保持するように所定の時間間隔で該さし穂全体にわたって散水する散水手段である。本実施形態では、散水手段18は、例えば、給水圧送装置40によって水に高圧をかけて圧送し、パイプ42を介して接続された複数の散水ノズル44からミスト状の水をさし穂100に向けて散布する従来周知のスプリンクラー装置からなる。散水手段18は、上記のように支持手段14のさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きく設けられる挿入開口22や縦長空隙22の構造と相俟って、さし穂全体に散水し、かつ常にさし穂の略全体に水を付着させやすい構成となっている。単にさし穂の発根部分のみに散水するよりも、葉枝を含むさし穂全体に散水し、かつさし穂の略全体に水が付着している状態を保持する方が、さし穂を乾燥させにくく、発根率を向上することができることが本発明者らの実験によりわかっている。さし穂全体に散水すると、葉部分にも水を付着させることにより蒸散を防止し、さし穂中の水分を常時保持することができ、さし穂が枯死するのを防止しながら良好に発根を促進できると推測される。なお、さし穂の略全体とは、例えば、さし穂の表面積の3分の2以上の部分であり、さし穂の表面積の3分の2以上に水が付着している状態を保持するように、散水手段により散水すると好適である。散水手段18による詳細な散水の例としては、例えば、散水手段18であるスプリンクラー装置は、各散水ノズル44が散布するミスト状の水の粒径が0.05m以上〜5mm以下の大きさに設定されており、毎分0.5リットル以上から6リットル以下の容量の水を散水して、1つの散水ノズルである範囲の複数のさし穂に散水できるように設定される。散水ノズル44は、支持手段によって支持されている全てのさし穂に散水できるように、複数個が互いに離隔して並設されている。散水ノズル44の設置位置は、例えば、さし穂全体に散水できるように支持手段14の挿入開口部28の位置から上方に30cm以上、500cm以下の高さ位置に設置されている。なお、散水ノズル44は、地上側に設置し、横方向又は上方向等に噴射してさし穂に散水することとしてもよい。散水手段18による散水は、例えば、1日4回以上、1回当たり1分以上30分以内の時間で、間欠的に散水する。このようにしてさし穂の略全体に水が付着している状態を保持すると良い。なお、当然ながら、閉鎖空間内の温度、湿度を含む環境条件やその他の環境状況によって、散水量や散水回数を適宜調整して、さし穂の水の付着状態を保持することとしてもよい。
次に、上記実施形態に係るさし穂の発根装置の作用、実施例及びさし穂の発根方法について説明する。例えば、林業用樹種であるスギの樹木から葉を有した枝部分を、長さ30〜40cm程度の長さで切断してさし穂を形成する。なお、さし穂の切断面を薬剤処理したり基部側の側枝等を適宜処理しておいてもよい。ビニルハウス等により形成した閉鎖空間12に設置した支持手段14の挿入開口20からさし穂を縦長空隙22内に挿入し、さし穂が略垂直状態となるように立てかけて支持する。この支持操作は、挿入開口及び縦長空隙がさし穂より十分に大きいサイズで設定されているので、さし穂を傷付けることなく、スムーズかつスピーディに立てて支持させることができる。支持手段14により、さし穂を支持させた状態で、散水手段18により、常にさし穂の略全体に水が付着した状態が保持されるように、所定の時間間隔での散水を繰り返して、発根を誘導させる。常時、さし穂の水の付着状態を保持することにより、例えば、2〜4ヶ月程度で、図3に示すように、さし穂100の下部側から発根する。さし穂全体は空気中に露出しているので、発根状態を目視で簡単に、しかも確実に確認することができる。本実施形態の発根装置により発根させたさし穂は、挿入開口20から引き抜かれて、例えば、所定の育苗容器に土が入れられた栽培空間に植え付けられて根鉢状態の規定苗を製造する工程に移行される。さし穂を引き抜く作業においても、挿入開口及び縦長空隙がさし穂より十分に大きい大きさで設定されているので、さし穂の枝や根を傷付けにくく、しかも低労力でスムーズかつスピーディに行うことができる。このようにして、本実施形態のさし穂の発根装置では、樹木から切断して形成したさし穂を、土に植え付けることなく、空気中に露出して支持させた状態で、常にさし穂の略全体に水が付着しているように散水によって管理することで、良好に発根を誘導することができる。
次に、上記の本実施形態に係るさし穂の発根装置を用いてさし穂を発根した実施例について説明する。発根率が異なるスギの品種15種類(系統名クローンA〜クローンO)について、本実施形態のさし穂の発根装置を用いて発根誘導させた際の発根状況を4ヶ月にわたり観測し、発根装置を用いたさし穂の発根率と、従来のように露地で培地にさし穂を植え付けて発根した場合のさし穂の発根率を比較した。本実施形態のさし穂の発根装置では、閉鎖空間を縦×横が2510cm×825cm程度の平面広さで、高さが210cm〜400cmとなる空間を形成する三角屋根型のビニルハウスで形成した。観測期間中の閉鎖空間内の平均温度は23.9度、平均湿度が94.0%であった。さし穂は、52cm×33cmに20本(さしつけ密度が一平方メートルあたり約115本程度)となるように、支持手段の多孔ネットの多数の挿入開口に挿入して支持させる。散水手段によるさし穂への散水量は、1回の散水ごとに毎分1リットル/m2程度で3分程度散水するのを、1日17回繰り返して散水を行った。図5は、上記設定で各スギの品種のさし穂の発根誘導を20本について行った際の4ヶ月後の発根率の比較グラフを示している。すなわち、発根率=発根したさし穂の本数/観測したさし穂の全本数(20本)で算出した。図5のグラフに示すように、全てのスギの品種において、実施例である発根装置を用いたものの発根率の方が、比較例である露地栽培での発根率よりも高い発根率でさし穂の発根誘導を行えることが分かる。本実施例ではスギの15品種について、本発明の発根装置を用いた方が露地栽培よりも発根率が上昇することが確認できたが、ヒノキやコウヨウザン等のその他の林業用樹種についても良好に発根させることができることが実験により確認できている。また、マツ等の針葉樹、ポプラやユーカリ等の広葉樹についても、本実施形態のさし穂の発根装置を用いて、上記したスギ等と同様に良好に発根できると推測され、針葉樹及び広葉樹を含む種々の樹木のさし穂の発根誘導への実用的な利用を期待できる。
次に、図6、図7、図8を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の第2の実施形態について説明する。上記した第1実施形態と同一構成、同一部材には、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。上記実施形態同様に、本実施形態のさし穂の発根装置は、閉鎖空間12と、支持手段14と、散水手段16と、を備えている。本実施形態では、上記実施形態と比較して、閉鎖空間12、散水手段16の構成は同じであるが、支持手段14の構成が異なっている。図6、図7、図8は、支持手段14の構成を示している。図6、図7に示すように、支持手段14は、パレット状育成装置24bを含むが、パレット状育成装置24bは、本実施形態では、上端を開口し内部に縦長空隙22としての挿入空間を形成した複数の筒状体46を有するパレットケース体50からなる。パレットケース体50は、例えば、プラスチック等の合成樹脂から形成されており、各筒状体46の開口からフランジ状に張出すように設けられた連結部48を介して、上端側どうしを連結して一体的に設けられている。各筒状体46は、上端の開口を挿入開口20とし、下端に向けて断面径が小さくなるテーパ状に設けられており、開口に連通する内部の挿入空間を縦長空隙22としている。筒状体46は、例えば、縦長空隙22内に水が貯まることないように、底部に通水できるような孔が開口(図示せず)されており、さし穂を空気中に露出した状態を保持しながら支持できる。各筒状体46には、例えば、通水性や通気性等をよくするために側壁に縦長のスリットや孔等を形成することとしてもよい。なお、筒状体の底部の孔の大きさは、さし穂の枝を通過させない程度の大きさに設定されており、底部は、さし穂の下端を受ける下端受部30を有している。さらに、筒状体46は、側壁により縦長空隙22を隔世していることから、底部と側壁とが協働してその縦長空隙22に挿入されたさし穂の下端を含む下部側の横方向の移動限界を規制しうる。すなわち、筒状体は側壁に連設された底部により構成される下端受部30を有しており、該下端受部30を有する支持手段14は、挿入開口22から縦長空隙22内に差し入れられ立てられたさし穂100が正しい立て支持状態を保持し得るようにさし穂100の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定する移動限界機構52を含む。図8に示すように、それぞれの筒状体では、挿入開口22の大きさは、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して3倍以上に設定されている。同時に、挿入開口22に連通する縦長空隙22の断面直径P2も、さし穂の枝胴部102の断面直径Rに対して少なくとも3倍以上に設定されている。本実施形態でも上記実施形態同様に、樹木から切断して形成したさし穂を土に植え付けることなく、空気中に露出した状態で散水しながら、良好に発根を誘導することができる等の作用効果を奏することができる。
さらに、図9は、上記の支持手段14を構成するパレット状育成装置24がパレットケース体50を有する態様の他の実施例を示している。図9の例では、パレットケース体50は、例えば、各筒状部46の底部は、さし穂100の枝の太さよりも大きな径の開口が形成されている。パレットケース体50の下端には、パレットケース体の平面面積よりも大きな底壁であって、さし穂の枝の太さよりも小さな径の孔が多数貫通されて通水機能を有する底壁が形成されるとともに上面開口した孔付き容器54が設置されている。よって、支持手段14のパレット状育成装置24は、孔付き容器54の底壁の上にパレットケース体50が載置されて組み付けて構成されており、孔付き容器54の底壁がさし穂の下端を受ける下端受部30を構成している。さらに、本実施形態では、複数個のパレット状育成装置24は、棚装置60を介して上下の高さを異ならせた複数位置で段状に配置されている。棚装置60は、例えば、支柱56の上下中間位置の高さが異なる位置に複数の(図9上では、3つの)棚部材58が固定されており、各棚部材58上に上述のパレット状育成装置24cが設置されている。すなわち、本実施形態では、支持手段14は、複数のパレット状育成装置24と、それらのパレット状育成装置24を上下に段状に配置させる棚装置60と、を含む。棚部材58は、水を上下に通過させ得るように、多孔ネットから構成されている。このように棚装置60の複数段にパレット状育成装置24cを配置させた状態で、上方から散水装置で水を散水すると、最上段から最下段までの全てのパレット状育成装置24に支持したさし穂に効果的に散水しながら、発根を誘導させることができる。さらに、図9の例では、棚部材58は、支柱56に対して固定する高さ位置を調整可能に設けられており、パレット状育成装置の個数やさし穂の高さ等に応じて、パレット状育成装置の下端受部30の上下高さ位置を調整可能なように設けられている。図9の実施形態では、複数のさし穂を支持する支持手段を上下に立体的に並べて配置させることにより、上記実施形態のものよりも、単位面積当たりに同時に発根誘導するさし穂の設置量をより多く設置することができ、発根効率の上昇及び管理の利便性を向上させる。
次に、図10、図11を参照しつつ本発明のさし穂の発根装置の第3の実施形態について説明する。上記した第1実施形態と同一構成、同一部材には、同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。第1実施形態同様に、本実施形態のさし穂の発根装置は、閉鎖空間12と、支持手段14と、散水手段16と、を備えている。本実施形態では、上記実施形態と比較して、閉鎖空間12、散水手段16の構成は同じであるが、支持手段14の構成が異なっている。図10、図11は、支持手段14の要部の構成を示している。本実施形態では、図10、図11に示すように、支持手段14は、第1実施形態と略同じ構成のパレット状育成装置24を含むが、該パレット状育成装置24は、例えば、挿入開口部28である挿入開口20が形成された多孔ネット26と下端受部30との間の上下中間位置に配置された移動規制用ネット39を有している。なお、図10では、移動規制用ネット39は、外側の輪郭線のみを図示しており、内側の多数の網目は省略している。移動規制用ネット39は、多孔ネット26と略同じようにさし穂の枝胴部の太さよりも十分に大きな開口41を形成するように格子状に細い金属線を平面視矩形状に組み付けて構成された多孔ネットからなる。移動規制用ネット39は、多孔ネット26と平行状に配置されるとともに、該ネット39に形成される多数の開口41が平面的に上方の多孔ネット26の挿入開口20と同じ位置となる位置に設定されて、それらの開口20、41どうしが上下方向に略直線状に連通されるようになっている。これによって、図11に示すように、挿入開口20から空隙22に挿入されたさし穂の枝胴部102は、該挿入開口20と下端受部30との間の中間位置で、移動規制用ネット39の開口枠部分によって横方向に移動させるのを規制されて該さし穂の下端を含む下部の横方向の移動限界を規定し、該さし穂の正しい立て支持状態が保持される。すなわち、移動規制用ネット39は、下端受部30よりも上方位置で、さし穂の挿入開口から挿入した下部側の横方向の移動限界を規定しうる移動限界機構52aを構成している。例えば、移動規制用ネット39は、下端受部30の隅部に設けられた直方体ブロック状の下部側支持体32aの上に、該移動規制用ネット39の隅部を載置して、下端受部30の上方に支持されている。さらに、移動規制用ネット39の隅部を挟み固定するように、該隅部の上に直方体ブロック状の上部側支持体32bが載置されるとともに、該上部側支持体32bの上に多孔ネット26の隅部が載置されて、該移動規制用ネット39の上方に該多孔ネット26が支持されている。本実施形態でも上記実施形態同様に、樹木から切断して形成したさし穂を土に植え付けることなく、空気中に露出した状態で散水しながら、良好に発根を誘導することができる等の作用効果を奏することができる。さらに加えて、本実施形態では、ネット39によりさし穂の下部側の横移動を確実に規制して、支持手段による支持状態をより確実なものとして、さし穂が不意に倒れるのを確実に防止でき、さし穂を立てた状態を保持しながら良好に発根させることができる。
以上説明した本発明のさし穂の発根装置は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
本発明のさし穂の発根装置は、スギ、ヒノキ、マツ、コウヨウザン等の針葉樹、ポプラ、ユーカリ等の広葉樹等を含む林業用樹種をさし木して植林する際にさし木苗の製造時の発根工程で好適に利用できる。
10 さし穂の発根装置
12 閉鎖空間
14 支持手段
16 散水手段
20 挿入開口
22 縦長空隙
24 パレット状育成装置
26 多孔ネット
28 挿入開口部
30 下端受部
32 支持体
34 支持脚
46 筒状体
50 パレット状ケース体
52,52a 移動限界機構