JP2020159784A - 感知装置の使用前処理方法及び感知装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】有機溶剤を含む試料液を流路形成部材と圧電センサーとの間の流路に供給して、前記試料液中の感知対象物を感知するにあたり、試料液の漏出を抑制して安定した計測を行うこと。【解決手段】弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成され、圧電振動子を含む配線基板の一面側の領域を覆うことにより、圧電振動子の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するための流路形成部材を用い、感知装置の使用前処理として、圧電センサーと前記流路形成部材とを積み重ねた状態で前記カバー体内に収容し、前記本体部を組み立てる組み立て工程と、前記流路形成部材を前記圧電センサーに押し当てる方向に力が加わるように、前記本体部を押圧しながら当該本体部を加熱することにより、前記流路形成部材を前記圧電センサーに密着させる密着工程と、を実施する。【選択図】図2
Description
本発明は、圧電振動子の発振周波数に基づいて、試料液に含まれる感知対象物を感知するための感知装置の使用前処理方法及び感知装置に関する。
試料流体中の感知対象物を感知する方法として、QCM(Quartz Crystal Microbalance)を利用した感知センサーが知られている。QCMは励振電極の表面に、例えば感知対象物と結合する膜が設けられた水晶振動子を用い、試料溶液中の感知対象物の吸着による質量負荷を、水晶振動子の周波数の変化として捉えて、感知対象物の有無や定量を行うものである。
QCMは、例えば血液中あるいは血清中の微量なタンパク質を感知するバイオセンサーとして利用されているが、本発明者は、QCMシステムを用いて、有機溶剤を含む試料液に含まれる微量な成分(有機溶剤分子自体や、有機溶剤に含まれる他の成分)を検出することを検討している。QCMシステムでは、試料流体をセンサーの測定領域に供給する供給流路を備えており、供給流路は例えばシリコンゴムにより形成されている。このため、有機溶剤の種類と流路の材質によっては、試料流体を長時間供給し続けたり、繰り返し供給する場合には、流路が有機溶剤により変形し、計測に支障をきたすおそれがある。また、流路が変形しない場合であっても、低粘性や高い濡れ性を呈する溶剤については、流路の微小な隙間から漏出し、正確な計測ができない懸念がある。
特許文献1には、QCMを利用したバイオセンサーにおいて、信頼性の高い測定を行うために、感知センサーの測定領域に、有機溶剤を供給して除去することにより、前記測定領域を気相にして発振周波数を測定する技術が記載されている。この技術は、気化しやすい有機溶剤を洗浄処理などで一時的にセンサーに供給する例であり、試料液自体が有機溶剤を含む場合については言及されていない。また、特許文献2には、弾性表面波構造素子からなる質量感応性センサーにおいて、パリレン層を備える技術が記載されているが、パリレン層は接続線材の保護に用いられるものである。このように、特許文献1及び特許文献2には、上記の問題を解決する技術は開示されていない。
本発明はこのような事情の下になされたものであり、有機溶剤を含む試料液を流路形成部材と圧電センサーとの間の流路に供給して、前記試料液中の感知対象物を感知するにあたり、試料液の漏出を抑制して安定した計測を行うことができる技術を提供する。
感知装置の使用前処理方法において、
前記感知装置は、
凹部と導電路とが形成された配線基板と、圧電片の両面に、前記導電路と電気的に接続される励振電極が設けられると共に、その一面側の励振電極に、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施された圧電振動子と、を備え、前記励振電極により形成される振動領域が前記凹部を塞いだ状態となるように、前記配線基板上に前記圧電振動子を配置した圧電センサーと、
弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成され、前記圧電振動子を含む前記配線基板の一面側の領域を覆うことにより、前記圧電振動子の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するための流路形成部材と、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを収容すると共に、前記流路に向けて前記試料液を供給する供給路が形成されたカバー体と、を含む本体部を備えることと、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを積み重ねた状態で前記カバー体内に収容し、前記本体部を組み立てる組み立て工程と、
前記流路形成部材を前記圧電センサーに押し当てる方向に力が加わるように、前記本体部を押圧しながら当該本体部を加熱することにより、前記流路形成部材を前記圧電センサーに密着させる密着工程と、を含むことと、を特徴とする。
前記感知装置は、
凹部と導電路とが形成された配線基板と、圧電片の両面に、前記導電路と電気的に接続される励振電極が設けられると共に、その一面側の励振電極に、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施された圧電振動子と、を備え、前記励振電極により形成される振動領域が前記凹部を塞いだ状態となるように、前記配線基板上に前記圧電振動子を配置した圧電センサーと、
弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成され、前記圧電振動子を含む前記配線基板の一面側の領域を覆うことにより、前記圧電振動子の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するための流路形成部材と、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを収容すると共に、前記流路に向けて前記試料液を供給する供給路が形成されたカバー体と、を含む本体部を備えることと、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを積み重ねた状態で前記カバー体内に収容し、前記本体部を組み立てる組み立て工程と、
前記流路形成部材を前記圧電センサーに押し当てる方向に力が加わるように、前記本体部を押圧しながら当該本体部を加熱することにより、前記流路形成部材を前記圧電センサーに密着させる密着工程と、を含むことと、を特徴とする。
本発明によれば、有機溶剤耐性を有する薄膜がコーティングされた流路形成部材を含む本体部を加熱しながら、当該流路形成部材を圧電センサーに押し当てるので、流路形成部材と圧電センサーとの密着性が向上し、安定した計測を行うことができる。
図1及び図2に本発明の感知装置の第1の実施形態を示す。当該感知装置は、本体部をなすセンサーユニット2と、センサーユニット2に取り付けられた圧電センサーである水晶センサー7と、を備えている。 センサーユニット2は、支持体21、配線基板3、圧電振動子をなす水晶振動子4、流路形成部材5及び上側カバー体24が下側からこの順番に積層されて構成されている。支持体21は例えばアルミニウム(Al)などの金属製であり、その表面側には、水晶センサー7と流路形成部材5とを嵌合し、保持するための支持体凹部22が形成されている。この支持体21と上側カバー体24とによりカバー体25が構成される。
水晶センサー7は、配線基板3上に水晶振動子4を設けて構成されている。この水晶振動子4は、図3に示すように、圧電片である例えば円盤状の水晶片41の両面に、励振電極42、43を設けて構成されている。この例では図3(b)に示すように裏面側の励振電極43Aと第2の励振電極43Bとを互いに離間してX方向に並ぶように配置すると共に、図3(a)に示すように表面側には前記2つの励振電極43A、43Bに対する励振電極である共通電極42を配置している。従って、第1の励振電極43Aと共通電極42とにより第1の振動領域4Aが、第2の励振電極43Bと共通電極42とにより第2の振動領域4Bが、夫々形成される。配線基板3には、図1及び図2に示すように、水晶片41に対応する位置に凹部31が設けられると共に、導電路32〜34が形成されている。
水晶振動子4上の共通電極42において第1の励振電極43Aに対応する第1の領域の一面(表面)側には、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施されている。図3及び図4では、前記処理が施された部位を処理層46として示している。有機溶剤を含む試料液中の感知対象物は、有機溶剤自体であってもよいし、有機溶剤に含まれる別の物質であってもよい。また、前記感知対象物を感知するための処理としては、感知対象物との接触や反応、結合により質量が付加される処理が施される。この処理としては、例えば試料液中の有機溶剤が感知対象物である場合には、有機溶剤と接触することにより膨潤する樹脂薄膜を形成する処理や、有機溶剤と結合反応する化学物質の塗布膜を形成する処理などが例示できる。
有機溶剤中の別の成分が感知対象物である例としては、有機溶剤中に分散した生体成分や、有機溶剤中に分散したナノ金属粒子などを挙げることができる。この場合には、前記感知対象物を感知するための処理としては、例えば前記生体成分と結合する抗体膜を形成する処理や、前記ナノ金属粒子と結合する分子膜を形成する処理などが例示できる。
一方、共通電極42において第2の励振電極43Bに対応する第2の領域には、 前記感知対象物を感知するための処理が施されておらず、データ処理時に温度変化等に起因する第1の領域の発振周波数の外乱部分をキャンセルする役割を果たしている。
一方、共通電極42において第2の励振電極43Bに対応する第2の領域には、 前記感知対象物を感知するための処理が施されておらず、データ処理時に温度変化等に起因する第1の領域の発振周波数の外乱部分をキャンセルする役割を果たしている。
流路形成部材5は、水晶振動子4を含む配線基板3の一面側の領域を覆うことにより、水晶振動子4の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するものである。流路形成部材5は配線基板3に対応した形状に作成され、その裏面側の中央部には、水晶片41の形状に合わせて円形の凹部52が形成されている。この凹部52は、水晶振動子4の前記第1の振動領域及び第2の振動領域を含む領域よりもやや大きく設定され、流路形成部材5が配線基板3に当接することで、凹部52内に前記領域が収まるようになっている。
凹部52の天井面は、水晶振動子4の一面側と隙間を介して対向する対向面であり、この対向面と水晶振動子4との間の領域、即ち水晶振動子4の振動領域に臨む領域に、試料液を流通させる流路50が形成される。流路形成部材5には、図1に示すY方向において、流路50の一端側と他端側に、当該流路50に液体を供給するための供給流路53と、流路50から液体を排出するための排出流路54とが、夫々形成されている。
流路形成部材5は、弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜55をコーティングして構成される。弾性樹脂としては、例えばゴム状のシリコン樹脂(以下「シリコンゴム」という)などが用いられ、このシリコンゴムの硬度は20以下であることが好ましい。有機溶剤耐性を有する薄膜としては、例えばポリパラキシリレン(パリレンN、「パリレン」は登録商標、以下同じ。)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、フッ素樹脂を用いることができる。
この例では、コーティングする薄膜55がパリレンである場合を例にして説明する。パリレンは、図4に示す一般式により示され、有機溶剤や無機溶剤、界面活性剤などに対する耐蝕性や耐熱性に優れた性質を備えることが知られている。例えばパリレンよりなる薄膜は、シリコンゴムにより流路形成部材5を作成した後、流路形成部材5の表面全体に、原料として例えばジパラキシリレンを用い、例えば真空蒸着やCVD(化学的気相成長法)にて例えば厚さ3μm〜10μm程度に形成される。パリレンとしては、ポリモノクロロパラキシリレン(パリレンC)、ポリジクロロパラキシリレン(パリレンD)、ポリテトラフルオロパラキシリレン(パリレンHT)等を用いてもよい。
カバー体25の上側カバー体24は例えばポリアセタール樹脂により形成され、この上側カバー体24には、図1及び図2に示すように、流路形成部材5の供給流路53に連通し、流路形成部材5の流路50に向けて試料液を供給する供給路241と、流路形成部材5の排出流路54に連通し、流路形成部材5の流路50から試料液を排出する排出路242と、が夫々設けられる。図1及び図2において26は液体供給管、27は液体排出管である。
この感知装置では、発振回路ユニット6を、センサーユニット2に差し込むことにより、図5に示すように前記配線基板3の接続端子部と電気的に接続される。水晶センサー7をセンサーユニット2に接続したときには、第1の励振電極43A及び第2の励振電極43Bは、配線基板3の導電路32、34を介して、2つの発振回路6A、6Bに夫々接続される。また、共通電極42は配線基板3の導電路33を介して発振回路6A、6Bのアース側に接続される。配線基板3の端部領域には、各導電路32、33、34と夫々接続される接続端子35、36、37が形成されている。
発振回路ユニット6の後段には、測定回路部61及びデータ処理部62が設けられている。前記測定回路部61は 、発振周波数を計測する機能を有するものであり、データ処理部62は、計測された周波数の時系列 データを記憶したり当該時系列データを表示したりする部位であって、例えばパーソナルコンピュータからなる。水晶振動子4の第1の振動領域4A及び第2の振動領域4Bの発振周波数は測定回路部61に取り込まれ、データ処理部62にて第1の振動領域4Aにおける発振周波数と第2の振動領域4Bにおける発振周波数との差分の時系列データが求められる。
続いて、このような感知装置の使用前処理方法について、図6を参照して説明する。先ず図6(a)に示すように、水晶センサー7と流路形成部材5とを積み重ねた状態で支持体21に収納し、上側カバー体24により覆うことにより、センサーユニット2を組み立てる組み立て工程を実施する。これにより、流路形成部材5の下面が水晶片41を配線基板3に押圧した状態で固定される。
次いで、流路形成部材5を水晶センサー7に押し当てる方向に力が加わるように、センサーユニット2を押圧しながら、センサーユニット2を加熱することにより、流路形成部材5を水晶センサー7に密着させる密着工程を実施する。この密着工程では、例えば図6(b)に示すように、例えば100℃に加熱された加熱板71上にセンサーユニット2を載置し、センサーユニット2を加熱板71に押し当てる方向に押圧しながら、例えば5分間加熱する。カバー体25の底板である支持体21は金属により構成されているので、加熱板71の熱は熱伝導により支持体21を介して上側カバー体24に移動し、カバー体25が加熱されると共に、カバー体25の内部の流路形成部材5も加熱される。
こうして、流路形成部材5を構成するシリコンゴムの熱可塑性を利用して、加熱により流路形成部材5を軟化させた状態で、センサーユニット2を上方側から押圧する。このように、流路形成部材5に熱と荷重をかけることにより、流路形成部材5と水晶振動子4や上側カバー体24との接続面に形成される微小な隙間が押し潰され、これら接続面における両者の密着性が向上する。流路形成部材5を水晶センサー7に押し当てる方向に力が加わるように、センサーユニット2を押圧する手法としては、作業者がセンサーユニット2の上部から下方側に向けて押圧してもよいし、センサーユニット2の上部に例えば500g〜1000g、好ましくは700g程度の重りを乗せて、所定時間の間、常に一定の力で押圧するようにしてもよい。
上述の密着工程を実施した後、試料液の供給を開始する前に、センサーユニット2の温度を室温まで低下させる温度低下工程を実施する。この温度低下工程は、例えばセンサーユニット2を、加熱板71から外すと共に、重りや作業者による押圧を停止して、センサーユニット2の外表面の温度が例えば25℃以下になるまで、例えば30分程度待機することにより行う。
こうして、センサーユニット2の温度が室温まで低下した後、センサーユニット2に発振回路ユニット6を接続し、図6(c)に示すように、試料液をセンサーユニット2に供給して、試料液中の感知対象物を感知する工程を実施する。この工程では、例えば最初に、緩衝液を液体供給管26、供給路241、供給流路53を介してセンサーユニット2内の流路50へ供給する。緩衝液は、流路50を満たして通流していき、排出流路54、排出路242を介して液体排出管27から図示しない液排出系へ排出される。
一方、水晶センサー7の第1の振動領域4A及び第2の振動領域4Bは夫々発振回路6A、6Bにより発振し、その発振周波数が図示しないスイッチ部の切り替えにより時分割で測定回路部61に取り込まれる。そして、測定回路部61により得られた周波数信号の周波数が安定した後、試料液を液体供給管26を介してセンサーユニット2に供給する。試料液は流路50へと流入して流路50内部に広がり、水晶振動子4上の共通電極42が形成された面へ到達する。試料液中の感知対象物は、第1の振動領域4Aの共通電極42上の処理層46に対してのみ付着する。
このとき試料液中の感知対象物は、その濃度に応じて水晶センサー7の処理層46に付着し、水晶センサー7の第1の振動領域4Aの発振周波数が低下する。従って、データ処理部62では、第1の振動領域4Aにおける周波数の低下分Δf1を取得する。これに対して第2の振動領域4Bには処理層が形成されていないので、周波数に変化がないはずであるが、温度変化等の外乱があった場合にはその周波数が変化する。この変化分をΔf2とし、データ処理部62において、Δf2からΔf1を差し引くことにより、外乱による周波数の変化分がキャンセルされ、感知対象物の量に応じた周波数の変化分が求められる。そして、例えば前記差分と試料液中の感知対象物の濃度との関係式を取得しておき、当該関係式と測定により得られた差分とから、 試料液中の感知対象物の濃度を求めるようにしてもよい。こうして、試料液中の感知対象物の存在の有無の感知や、感知対象物の定量が行われる。
上述の実施形態によれば、弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成された流路形成部材を用い、感知装置の使用前処理として、流路形成部材5を水晶センサー7に密着させる密着工程を実施しているので、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物の感知に対して、安定した計測を行うことができる。即ち、従来のように、水溶液中の生体物質などを感知対象物とするバイオセンサーでは、流路形成部材をシリコンゴムにより形成しても、試料液による流路形成部材の変形や侵食のおそれがなく、流路形成部材と水晶センサー7との密着性が高いため、試料液の漏出などの問題は生じていなかった。しかしながら、有機溶剤の多くは、流路形成部材5の材質によっては変形や溶解、侵食を招き、計測に支障をきたす懸念がある。また、流路形成部材5の変形等を招かなくても、低粘性や高い濡れ性を持つものについては、ごく微小な隙間から漏出することがあり、正確な計測ができない場合がある。
特にシリコンゴムは有機溶剤耐性が高くなく、多くの有機溶剤で変形しやすいため、有機溶剤に対して耐性のあるパリレンなどの薄膜をコーティングする必要がある。しかしながら、このコーティングの際に、流路形成部材5の硬度が50程度まで硬化し、表面が乾いた状態に変化する。この状態で、センサーユニット2を組み立て、流路形成部材5を水晶センサー7に押圧すると、流路形成部材5の表面に極めて細かい皺状の凹凸が形成され、両者の間に微小な隙間が形成された状態となる。この結果、流路形成部材5と水晶センサー7や、流路形成部材5と上側カバー体24との間の密着性が低くなり、例えば酢酸ブチルなどの有機溶剤を含む試料液として供給すると、流路形成部材5と水晶センサー7や上側カバー体24との間から液漏れが発生するという「新たな課題」が見出された。そこで、既述のように、感知装置にて試料液中の感知対象物の感知を行う前に、センサーユニット2の組み立て工程と、流路形成部材5を水晶センサー7に密着させる密着工程と、を含む使用前処理を実施している。
この使用前処理では、弾性樹脂よりなる流路形成部材5を加熱により軟化させた状態で水晶センサー7に対して押圧しているので、流路形成部材5と水晶センサー7との間の微小な隙間が押し潰され、両者の密着性が向上する。また、軟化した流路形成部材5を押圧しているので、水晶センサー7に応力がかかり特性が劣化したり、水晶片41が破損するおそれがない。この結果、有機溶剤を含む試料液を流路形成部材と圧電センサーとの間の流路に供給して、感知対象物の感知を行うにあたり、有機溶剤による流路形成部材の変形や、試料液の漏出を抑制して、安定した計測を行うことができる。
続いて、本発明の感知装置の第2の実施形態について、図7及び図8を参照して説明する。この例における感知装置は、測定部81と、測定部81に形成された差込口82に着脱自在に接続される感知センサー8と、を備えている。測定部81の上面には、例えば発振回路の出力周波数、或いは感知対象物の検出の有無等を表示する表示部83が設けられている。
感知センサー8は本体部をなすものであり、上側カバー体841と下側ケース842とで構成されるカバー体84を備え、下側ケース842は樹脂により構成されている。上側カバー体841の上面側には、試料液を注入するための液受け部85が形成されている。図7及び図8中、符号86は、凹部861と不図示の導電路とが形成された配線基板であり、配線基板86における長さ方向の一端側には、差込口82に差し込まれる差込部862が形成されている。
配線基板86の上には、圧電振動子をなす水晶振動子87が設けられている。水晶振動子87は、例えば円板状の水晶片871を備え、この水晶片871の一面側及び他面側には、夫々2つの励振電極872、873が、互いに隙間を介して離間するように設けられている。そして、一面側の励振電極872の一方には、有機溶媒を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施されている。
配線基板86の上面側には流路形成部材9が設けられ、この流路形成部材9は、その下面側に水晶振動子87の表面との間に試料液の流路90を区画形成するための囲み部91を備えている。流路形成部材9には、流路90の前端と後端とに夫々開口し、流路形成部材5を厚さ方向に貫通する貫通孔92、93が夫々穿設され、これら貫通孔92、93には、夫々多孔質の部材で構成された入口側毛細管部材921と出口側毛細管部材931が着脱自在に設けられている。この例では、流路形成部材9及び囲み部91は、例えばシリコンゴムなどの弾性樹脂により構成され、流路形成部材9及び囲み部91の表面全体には、既述のパリレンなどの有機溶剤耐性を有する薄膜がコーティングされている。なお、図示の便宜上、図8の流路形成部材9及び囲み部91には、薄膜でコーティングした状態を示していないが、例えば図2の流路形成部材5を覆う薄膜55と同様のコーティングがされている。
入口側毛細管部材921は、その上端が後述する上側カバー体841に形成された液受け部85に露出し、下端が流路90内に進入するように設けられており、この例ではカバー体84に形成される供給路に相当する。出口側毛細管部材931は、一端側が流路90内に進入するように配置され、他端側は廃液流路94の一端側に挿入される。廃液流路94の他端側は毛細管シート951と吸収体952とにより構成された廃液吸収部95に接続されている。図8中、符号96はケース体、97は支持部材である。
このような感知装置の使用前処理方法について簡単に説明すると、先ず、配線基板86上に水晶振動子87を配置した圧電センサーと、流路形成部材9とを積み重ねた状態でカバー体84内に収容し、感知センサー(本体部)8を組み立てる工程を実施する。次いで、流路形成部材9を圧電センサーに押し当てる方向に力が加わるように、感知センサー8を押圧しながら加熱することにより流路形成部材9を圧電センサーに密着させる密着工程を実施する。密着工程は、感知センサー8のカバー体84を加熱板71に載置して行い、加熱板71上に載置されたカバー体84に重りを乗せて押圧するようにしてもよい。
こうして密着工程を実施した後、感知センサー8の温度を室温まで低下させる温度低下工程を実施してから、感知センサー8を測定部81に差し込んで、試料液中の感知対象物の感知を行う。測定部81内には発振回路が設けられており、感知センサー8が測定部81に差し込まれると、これらが電気的に接続され、例えば発振回路が2つの発振領域に切り替えて接続される。液受け部85に、試料液を注入すると、試料液は入口側毛細管部材921に吸収されて通流し、流路90内を濡れ拡がって出口側毛細管部材931に到達する。そして、出口側毛細管部材931に吸収され、廃液流路94へと排出される。
この感知装置においても、有機溶媒を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施された励振電極では、感知対象物の付着量に応じて、発振周波数が低下するので、参照用の発振周波数との差分を取得することにより、感知対象物の量に応じた周波数の変化分が求められる。こうして、試料液中の感知対象物の存在の有無の感知や、感知対象物の定量が行われる。
この実施形態によれば、弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成された流路形成部材9を用い、感知装置の使用前処理として、流路形成部材9を圧電センサーに密着させる密着工程を実施しているので、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するにあたり、安定した計測を行うことができる。なお、下側ケース842が薄いため、下側ケース842を樹脂により構成しても、感知センサー8を加熱した際の流路形成部材9の加熱に問題はない。
以上において、上述の第1の実施形態及び第2の実施形態では、流路形成部材5、9は、カバー体25、84から取り出し、水晶センサーから取り外すことによって繰り返し使用可能である。このように水晶センサーから取り外された流路形成部材5、9は、使用するたびに、前記組み立て工程及び密着工程を実施する。また、上述の第1の実施形態及び第2の実施形態では、水晶センサーが2つの励振電極を備えたツインセンサーである場合を例にして説明したが、本発明は、1つの励振電極が形成された圧電センサーにも適用可能である。さらに、本発明における密着工程は、例えば本体部を恒温槽内に収容して、本体部に重りを乗せて押圧しながら加熱することにより実施してもよい。
1 感知装置
8 感知センサ
3、86 配線基板
31、861 凹部
4、87 水晶振動子
46 処理層
43、872、873 励振電極
44 共通電極
6 発振回路
71 加熱板
8 感知センサ
3、86 配線基板
31、861 凹部
4、87 水晶振動子
46 処理層
43、872、873 励振電極
44 共通電極
6 発振回路
71 加熱板
Claims (8)
- 感知装置の使用前処理方法において、
前記感知装置は、
凹部と導電路とが形成された配線基板と、圧電片の両面に、前記導電路と電気的に接続される励振電極が設けられると共に、その一面側の励振電極に、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施された圧電振動子と、を備え、前記励振電極により形成される振動領域が前記凹部を塞いだ状態となるように、前記配線基板上に前記圧電振動子を配置した圧電センサーと、
弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成され、前記圧電振動子を含む前記配線基板の一面側の領域を覆うことにより、前記圧電振動子の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するための流路形成部材と、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを収容すると共に、前記流路に向けて前記試料液を供給する供給路が形成されたカバー体と、を含む本体部を備えることと、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを積み重ねた状態で前記カバー体内に収容し、前記本体部を組み立てる組み立て工程と、
前記流路形成部材を前記圧電センサーに押し当てる方向に力が加わるように、前記本体部を押圧しながら当該本体部を加熱することにより、前記流路形成部材を前記圧電センサーに密着させる密着工程と、を含むことと、を特徴とする感知装置の使用前処理方法。 - 前記密着工程を実施した後、前記試料液の供給を開始する前に、前記本体部の温度を室温まで低下させる温度低下工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の感知装置の使用前処理方法。
- 前記薄膜は、ポリパラキシリレン、ダイヤモンドライクカーボン、フッ素樹脂からなるコーティング材料群から選択されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載の感知装置の使用前処理方法。
- 前記カバー体は、金属製の底板を含み、前記密着工程では、前記カバー体を加熱板上に載置することにより、前記本体部を加熱することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一つに記載の感知装置の使用前処理方法。
- 前記密着工程では、前記加熱板上に載置された前記カバー体に重りを載せることにより、前記押圧を行うことを特徴とする請求項4に記載の感知装置の使用前処理方法。
- 前記流路形成部材は、前記カバー体から取り出して前記圧電センサーから取り外すことにより繰り返し使用可能であり、前記流路形成部材を使用するたびに、前記組み立て工程及び前記密着工程を実施することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一つに記載の感知装置の使用前処理方法。
- 感知対象物を感知するための感知装置において、
凹部と導電路とが形成された配線基板と、圧電片の両面に、前記導電路と電気的に接続される励振電極が設けられると共に、その一面側の励振電極に、有機溶剤を含む試料液中の感知対象物を感知するための処理が施された圧電振動子と、を備え、前記励振電極により形成される振動領域が前記凹部を塞いだ状態となるように、前記配線基板上に前記圧電振動子を配置した圧電センサーと、
弾性樹脂の表面に、有機溶剤耐性を有する薄膜をコーティングして構成され、前記圧電振動子を含む前記配線基板の一面側の領域を覆うことにより、前記圧電振動子の一面側との間に前記試料液を流通させる流路を形成するための流路形成部材と、
前記圧電センサーと前記流路形成部材とを収容すると共に、前記流路に向けて前記試料液を供給する供給路が形成されたカバー体と、を備えたことを特徴とする感知装置。 - 前記薄膜は、ポリパラキシリレン、フッ素樹脂からなるコーティング材料群から選択されたものであることを特徴とする請求項7に記載の感知装置。
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021131633A1 (ja) * | 2019-12-27 | 2021-07-01 | 富士フイルム株式会社 | 管理方法、測定方法、測定装置、水晶振動子センサ、および、セット |
JP7413292B2 (ja) | 2021-01-25 | 2024-01-15 | 日本電波工業株式会社 | 感知センサ |
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