JP2020153661A - 生物学的検体の品質評価方法およびそのためのマーカー - Google Patents

生物学的検体の品質評価方法およびそのためのマーカー Download PDF

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Takeshi Tomonaga
毅 朝長
白水 崇
Takashi Shiromizu
崇 白水
義男 小寺
Yoshio Kodera
義男 小寺
七里 眞義
Masayoshi Shichiri
眞義 七里
晃一郎 湯地
Koichiro Yuji
晃一郎 湯地
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National Institutes of Biomedical Innovation Health and Nutrition
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Abstract

【課題】保存されている血清・血漿検体の品質に影響を評価できるタンパク質・ペプチドマーカーを同定し、定量プロテオミクスを用いて、高精度かつ迅速に評価できる測定法を提供する。【解決手段】単離されている生物学的検体の品質を評価するための方法であって、該検体を酵素で処理することによって生成される特定タンパク質由来のペプチドを指標とする、該方法。【選択図】図1

Description

本発明は一般に、血液試料、血漿試料、血清試料等の生物学的検体の品質を評価する分野に関する。詳細には、本発明は保存生物学的検体がその生物学的評価に耐え得るかの信頼性を評価する方法、その評価に使用されるマーカー、その評価をするためのキットに関する。
オーダーメイド医療を実現化するには、数多くの疾患を対象とした検体を体系的に収集し、疾患と遺伝子やタンパク質との関係を網羅的に解析する必要がある。そのために、日本では2003年にバイオバンクジャパン(BBJ:東京都港区白金台4-6-1)が設立された。BBJは、2003年以来、多因子疾患を中心に、51疾患、26万人、42万症例を収集・解析し、世界最大級の疾患バイオバンクを構築してきた。登録症例は、5,837項目のクリーニング済み情報を有し、平均追跡率95%、平均追跡期間約10年に及ぶ生存情報を含む。試料のDNA・血清・組織は、全ゲノムシークエンシング・メタボローム・プロテオーム等のオミックス解析に応用可能な実績を有し、試料配布実績はDNA 約16,000 検体、血清約10,000 検体である。しかしながら、これまでこの世界最大規模のバイオバンク検体が有効に活用されてきたとは言い難い。その理由の一つとして、検体の品質管理、特にDNAに比べて採取・保存の影響を受けやすいタンパク質の品質管理がなされていなかったことがあげられる。
バイオバンクジャパン等の保存機関に保存されている検体の品質管理のために、その品質を評価するには、採取直後または保存前と、保存後との2者の検体比較が必要である。しかし、バイオバンクジャパン等では、保存後の検体が保管されているのみであり、採取直後の検体は存在し得ない。そのため、保存後の検体のみで品質評価を実施する必要がある。
これまでバイオバンクジャパン等に保存されている生物学的検体中のタンパク質の品質評価の指標やその測定方法については国際標準というものはなく、いくつかの文献が散見されるのみである(特許文献1、非特許文献1〜3)。しかし、これらの測定方法は、生物学的検体中のタンパク質の品質評価に十分であるとは言い難い。
特表2017-512996公報
Rai AJ et al., HUPO Plasma Proteome Project specimen collection and handling: Towards the standardization of parameters for plasma proteome samples. Proteomics, 5:3262-3277 (2005) Elliott P et al., The UK Biobank sample handling and storage protocol for the collection, processing and archiving of human blood and urine. International Journal of Epidemiology, 37:234-244 (2008) Hubel A et al., Storage of Human Biospecimens: Selection of the Optimal Storage Temperature. BIOPRESERVATION AND BIOBANKING, 12:1-11 (2014)
従って、バイオバンクジャパン等に保存されている検体の品質評価を実施するための、信頼性ある新たな指標が必要である。そこで本発明者らは、保存されている血清・血漿検体の品質評価マーカーの開発と測定法の確立を最先端のプロテオミクス技術を用いて行った。保存されている血液、血清、血漿検体の品質に影響を及ぼす要因として、採血から遠心分離までの時間、保存の時間および温度の保存条件や凍結融解の回数などが考えられるが、それらの影響を評価できるタンパク質・ペプチドマーカーを同定し、定量プロテオミクスを用いて、高精度かつ迅速に評価できる測定法の確立を目指した。
上記の通り、バイオバンクジャパン等では、採取直後の検体が存在しないため、保存後の検体のみで品質評価を実施する必要がある。そして、保存後の検体のみでその品質を評価する場合、検体におけるある指標の差異が保存条件や遠心分離までの時間等により生じたのか、あるいは個体差により生じたのか等の解釈が問題となっている。
即ち、元来、血液中のタンパク質の量は個体差があるため、保存検体の品質評価のために検体におけるタンパク質の量的変化を指標にした場合、それが品質劣化によるものか、それとも個体差、即ち個体間変動、個体内変動によるものかの区別がつかない。そこで、本発明者らは、タンパク質を酵素処理して生成されるペプチドの中に、保存条件等の影響を受けて量的・質的変化を起こす不安定なものと、まったく影響を受けない安定なものが存在することを見出し、それらペプチドの量的変化に着目した。ここに、本発明者らは初めて、検体において安定である安定ペプチドと不安定である変動ペプチドの比を取ることによって、検体の品質評価が可能であることを見出し、本発明を完成した。
したがって、本発明は、以下の態様を含む。
<バイオバンクから入手される検体の品質を評価する方法>
[1]
単離されている生物学的検体の品質を評価するための方法であって、該検体を酵素で処理することによって生成される特定タンパク質由来のペプチドを指標とする、該方法。
[2]
ペプチドが、酵素処理済み検体における同一の特定タンパク質由来のペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こす変動ペプチド、および変化を起こさない安定ペプチドである、[1]記載の方法。
[3]
変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率を指標とする、[1]または[2]記載の方法。
[4]
酵素処理をトリプシンによって行う、[1]〜[3]のいずれか記載の方法。
[5]
生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、[1]〜[4]のいずれか記載の方法。
[6]
同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチドが、以下の表1に並列して示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せのなかから選ばれる、[1]〜[5]のいずれか記載の方法:
<安定、変動ペプチドの選別方法>
[7]
単離されている生物学的検体の品質を評価できる、検体中に存在するタンパク質由来のペプチドを選別する方法であって、
1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取し、
2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷し、
3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断し、
4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドをそれぞれ、変動ペプチドおよび安定ペプチドと同定し、
5)同一の特定タンパク質に由来する1または複数の変動ペプチドと1または複数の安定ペプチドとの組合せを特定し、
6)特定した組合せの少なくとも1つを、生物学的検体の品質を評価できるマーカーとする、該方法。
[8]
工程1)において、ヒトの健常者から生物学的検体を採取する、[7]記載の方法。
[9]
酵素処理をトリプシンによって行う、[7]または[8]記載の方法。
[10]
生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、[7]〜[9]のいずれか記載の方法。
[11]
品質に影響を及ぼす要因が、採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間のなかから選ばれる、[7]〜[10]のいずれか記載の方法。
<安定、変動ペプチドの製造方法>
[12]
単離されている生物学的検体の品質を評価できるマーカーを製造する方法であって、
1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取し、
2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷し、
3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断し、
4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドを同定し、
5)同定されたペプチドを、生物学的検体の品質評価マーカーとする、該方法。
[13]
工程1)において、ヒトの健常者から生物学的検体を採取する、[12]記載の方法。
[14]
酵素処理をトリプシンによって行う、[12]または[13]記載の方法。
[15]
生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、[12]〜[14]のいずれか記載の方法。
[16]
品質に影響を及ぼす要因が、採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間のなかから選ばれる、[12]〜[15]のいずれか記載の方法。
<バイオバンクから入手される検体の品質評価に使用するペプチドの組合せに関連する発明>
[17]
[6]記載の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せ。
[18]
[6]記載の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せにおける、単離されている生物学的検体の品質を評価できるマーカーとしての使用。
[19]
[6]記載の表1で示される品質評価マーカーの安定同位体の少なくとも1つの組合せを含有する、単離されている生物学的検体の品質を評価するためのキット。
現在、国内外で個別化医療や精密医療(プレシジョンメディスン)の重要性が叫ばれているが、その実現のためには多施設で収集された多検体での解析が必須であり、バイオバンクの必要性は日に日に増している。実際、日本各地の大学医学部附属病院でバイオバンクが設立され、多くの検体が収集され始めている。そこに保管されている血液や尿検体が有効利用されるためには、検体の品質評価は欠かせない。今回我々が見出した検体の品質評価方法、品質評価マーカー、品質評価マーカーの製造方法等の発明は、国内外を問わず、検体の品質管理に大きな威力を発揮する。本発明によれば、検体ごとの個体差に依存せず、客観的な評価結果を得ることができる。
図1は、本発明の品質評価マーカーを同定する解析の概略を示す。 図2-1〜図2-3は、保存温度・期間により変動がみられた血清中ペプチドのSRM/MRM法による検証結果を示す。実線が変動ペプチドの相対定量値の推移を示し、破線が安定ペプチドの相対定量値の推移を示す。 図3-1〜図3-4は、保存温度・期間により変動がみられた血漿中ペプチドのSRM/MRM法による検証結果を示す。実線が変動ペプチドの相対定量値の推移を示し、破線が安定ペプチドの相対定量値の推移を示す。 図4は、採血から遠心分離までの時間で変動の見られた血清中ペプチドのSRM/MRM法による検証結果を示す。実線が変動ペプチドの相対定量値の推移を示し、破線が安定ペプチドの相対定量値の推移を示す。 図5は、採血から遠心分離までの時間で変動のみられた血漿中ペプチドのSRM/MRM法による検証結果を示す。実線が変動ペプチドの相対定量値の推移を示し、破線が安定ペプチドの相対定量値の推移を示す。 図6は、血漿中、室温、1週間以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図7-1、図7-2、図7-3および図7-4は、血漿中、4℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図8-1および図8-2は、血漿中、-30℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図9-1および図9-2は、血漿中、-80℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図10は、血清中、室温、1週間以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図11-1および図11-2は、血清中、4℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図12-1および図12-2は、血清中、-30℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図13-1および図13-2は、血清中、-80℃、6カ月以内の保存条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図14は、血漿中、凍結融解後における品質評価マーカーを、ショットガン定量解析により選択した結果を示す。 図15は、血清中、凍結融解後における品質評価マーカーを、ショットガン定量解析により選択した結果を示す。
本発明は、単離されている生物学的検体の品質を評価するための方法であって、該検体を酵素で処理することによって生成される特定タンパク質由来のペプチドを指標とする、該方法、具体的には、ペプチドが、酵素処理済み検体における同一の特定タンパク質由来のペプチドのなかで変動ペプチドおよび安定ペプチドである、該方法、より具体的には、変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率を指標とする、該方法に関する。
本明細書に使用されている「生物学的検体の品質を評価」とは、生物学的検体の品質が劣化していないかを調べ、信頼を担保して利用できるかを評価する方法を意味する。品質評価は、品質が劣化した検体を用いた検査結果によって生じる誤診を防ぐ意味から、その重要性は高い。ここで「生物学的検体の品質」とは、生物学的検体の使用目的に対して検体が利用可能であるかまたは利用可能でないかという生物学的検体の特性を指す。生物学的検体の使用目的は、例えばゲノム解析、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、ペプチドーム解析、メタボローム解析等の解析によって、種々の病気の早期診断、病態の把握、治療指針の決定を行うことである。
本明細書に使用されている「生物学的検体」とは、ヒトまたは、ペットや家畜等の動物から得られる、血液、血清、血漿、尿、組織、唾液、リンパ液、組織液(組織間液、細胞間液、乾湿液)、体腔液(関節液、脳脊髄液、漿膜腔液、眼房水)より選択される、生体由来の検体を意味する。保存機関に保存されているものとして、現状、実際に多いのは、ヒト由来の血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液である。好ましくは、血液、血清、血漿、尿、組織または脳脊髄液が生物学的検体として使用され、血液がより好ましく、その液体成分である血清または血漿であることがさらに好ましい。血清および血漿の調製方法としては従来の既知の方法を用いることができる。
本明細書に使用されている「単離されている」とは、保存されていると同義であり、生体における検体と区別する意味である。検体が保存されている機関としては、バイオバンクジャパン(東京都港区)、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(仙台市青葉区星陵町 1-1)、ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(東京都新宿区戸山1-21-1)等の保存機関等があるが、これら機関に限定されない。例えば、本発明は、病院、診療所、検査機関等に保存されている生物学的検体等、いずれの検体にも適用できる。
本明細書に使用されている「酵素処理」または「酵素で処理する」とは、酵素を使用してタンパク質をペプチド断片に消化することを指し、酵素としては、例えば配列特異的プロテアーゼなどを挙げることができる。配列特異的プロテアーゼとは、特定のペプチド結合を切断するプロテアーゼを指し、例えば、トリプシン、ペプシン、キモトリプシン、グルタミルエンドペプチダーゼ、リシルエンドペプチダーゼ等を挙げることができる。本発明の酵素処理としては、トリプシンまたはトリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの組合せによって行うことが好ましい。
本明細書に使用されている「特定タンパク質由来のペプチド」とは、タンパク質を酵素によって消化処理することにより生成されるペプチドを意味する。
本明細書に使用されている「ペプチドを指標とする」とは、ペプチド本体の種類、その存在量、ペプチドが複数種類ある場合はその存在比率を意味し、後述する「変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率」も含む。ペプチド本体の種類、その存在量、ペプチドが複数種類ある場合はその存在比率は例えば、質量分析によりペプチドを定性的および/または定量的に変化量を測定することにより確認できる。また、これらは、抗体を用いるELISA法により確認することもできる。
本明細書に使用されている「同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチド」とは、それぞれ、同一の特定タンパク質由来のペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチド、および変化を起こさないペプチドを指し、当該量的および/または質的変化は、例えば質量分析によりペプチドを定性的および定量的に測定することにより確認される。また、量的および/または質的変化は、抗体を用いるELISA法により確認されてもよい。同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチドは、生物学的検体を酵素処理することによって得られる消化ペプチド群より選択される。
本明細書に使用されている「変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率」とは、同一の特定タンパク質に由来する変動ペプチドと安定ペプチドにおいて、安定ペプチドに対する変動ペプチドの割合、すなわち変動ペプチドの量/安定ペプチドの量を意味する。存在比率は例えば、質量分析によりペプチドを定性的および/または定量的に変化量を測定することにより確認できる。また、これらは、抗体を用いるELISA法により確認することもできる。
生物学的検体の品質が劣化していない、即ちその品質が保証されていると判断する存在比率の閾値は、変動ペプチドと安定ペプチドの組合せ、すなわち品質評価マーカーに応じて変わる。変動ペプチドと安定ペプチドの存在比率(変動ペプチドの量:安定ペプチドの量)が閾値内に収まっている場合、その生物学的検体の品質は劣化していないと評価され、閾値から外れている場合、品質が劣化していると評価することができる。当該品質評価マーカーにおける、品質が劣化していない存在比率の閾値は、例えば0.77:1〜1.3:1(変動ペプチドの量:安定ペプチドの量)が挙げられ、この閾値内に収まっていれば、その検体の品質は劣化していない、と評価できる。
本明細書に使用されている「品質評価マーカー」とは、1または複数の変動ペプチドと1または複数の安定ペプチドを組み合わせたペプチドであって、生物学的検体の品質評価に用いられるマーカーである。例えば、表1に並列して示される変動ペプチドおよび安定ペプチドの組合せが挙げられる。
単離されている生物学的検体の品質を評価する、特定タンパク質由来のペプチドを指標とする本発明の方法において、そのペプチドの分析には、選択反応モニタリング(Selected reaction monitoring, SRM)と多重反応モニタリング(Multiple reaction monitoring, MRM)を組み合わせた質量分析法SRM/MRM法が好適である。質量分析計を用いるSRM/MRM法は、数百種類にも及ぶ複数のペプチドを同時に定量できるため、例えば、表1に並列して示される変動ペプチドおよび安定ペプチドをすべて一度に定量できる。定量された同一タンパク質内の変動ペプチドと安定ペプチドの組み合わせを使って比を計算したときに、その値が1に近ければ近いほど、そのタンパク質は安定であると推測できる。そのようなタンパク質が多ければ多いほど、定量に用いた検体の品質が良好であると言える。
以下、変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率を指標とする評価について例示する。
例えば、変動ペプチドと安定ペプチドの品質評価マーカーの組み合わせが50ある場合、それらの品質評価マーカーのペプチドをすべて一度にSRM/MRM法で定量し、変動ペプチドと安定ペプチドの存在比率を計算する。その比が例えば0.77〜1の間にある品質評価マーカーの組み合わせの数が多ければ多いほど、その検体の品質は良好である(保存状態がよい)と評価する。例えば50のうち30、好ましくは50ないしは40、より好ましくは50ないしは45の組み合わせで0.77〜1の間の比率であれば、その検体の品質は良好であると評価する。逆に、その比率が0.77未満の組み合わせの数が多ければ多いほど、例えば50のうち30、好ましくは50ないしは40、より好ましくは50ないしは45の場合、その検体の品質は悪い(保存状態が悪い)と評価する。
本発明は、別の態様として、単離されている生物学的検体の品質を評価できる、検体中に存在するタンパク質由来のペプチドを選別する方法であって、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こす不安定なペプチド、および変化を起こさない安定なペプチドを同定する方法を提供する。「品質に影響を及ぼす要因」とは例えば、保存温度・期間等の保存条件、遠心分離までの時間が挙げられる。「量的および/または質的変化を起こす」とは、量的および/または質的に変化し、定量値が低下または増加することを意味する。「量的および/または質的変化を起こさない」とは、量的および/または質的に変化せず、定量値が一定または略一定であることを意味する。不安定なペプチドは、本発明において「変動ペプチド」と称される。ペプチドが不安定になる要因としては、例えば、プロテアーゼによる分解や修飾による質量数の変化等を挙げることができる。また、安定なペプチドは、特定の不安定なペプチドが由来するタンパク質と同じタンパク質に由来するペプチド群から選択されるペプチドであって、保存条件等により量的および/または質的変化を起こさないペプチドである。安定なペプチドは、本発明において「安定ペプチド」と称される。
本発明のように、生物学的検体の品質を評価するために「変動ペプチド」と「安定ペプチド」を選別するのは、生物学的検体の品質を不安定なペプチドのみの定量値により評価しようとした場合、ペプチドの定量値が保存温度・期間、遠心分離までの時間等の保存条件によって変動したのか、検体を採取した対象体の個体差、即ち個体間変動、個体内変動によるものかを判別できないため、目的とする生物学的検体の品質を評価することができないからである。より具体的には、バイオバンクに保存されている血清中のあるペプチドの定量値が健常者の平均値より低い場合、保存開始時の定量値が不明であるため、定量値が保存中に減少したのか、あるいは当該検体を採取した被験者において健常者の平均値より低い値しか有していなかったかを区別することができない。しかして、安定なペプチドをコントロールとして用いれば、定量値の減少が保存の影響なのか、被験者の個体差なのか、区別ができる。なぜなら、安定なペプチドの定量値は保存前と保存後で変わらないはずなので、保存前の状態を反映している。つまりは、安定なペプチドが健常者の平均値と同レベルである一方で、不安定なペプチドが減少した場合は、不安定なペプチドの定量値の低下は保存の影響であると判断できる。そこで、安定ペプチドをコントロールとして用いることにより、安定なペプチドが保存後においても健常者の平均値と同じ定量値であった場合、不安定なペプチドの定量値の低下は保存によるもの判断できる。一方、保存後において安定なペプチドと不安定なペプチドの定量値がともに健常者の平均値より低い一定の値である場合、不安定なペプチドの定量値の低下は個体差によるものと判断できる。
本発明に係る変動ペプチドと安定ペプチドの組合せの各々は、同一の特定のタンパク質に由来するペプチドから構成される。特定の組合せの変動ペプチドと安定ペプチドが同一のタンパク質に由来することにより、生物学的検体中タンパク質の個体差の影響を受けることなく、生物学的検体の品質を評価することができる。
本明細書に使用されている「品質に影響を及ぼす要因」とは、検体の量および/または質に変化を引き起こす因子を指し、例えば、検体の保存条件を挙げることができる。検体の保存条件としては、例えば、検体の保存温度、保存期間、遠心分離等の検体保存のための検体採取から調製までの時間、検体の凍結融解の回数等が挙げられる。検体の保存温度としては、例えば室温(20〜30℃)、冷蔵(0〜10℃)、冷凍(-20〜-40℃)、超低温(-60〜-90℃)、液体窒素中等を挙げることができ、好ましくは25℃±2℃、4℃±3℃、-30℃±5℃、-80℃±8℃および液体窒素中である。保存期間としては、例えば、0分間、5分間、10分間、15分間、30分間、40分間、60分間、90分間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間、2日間、4日間、7日間、2週間、4週間、6週間、8週間、3ヵ月間、4ヵ月間、6ヵ月間、12ヵ月間、18ヵ月間、24ヵ月間、30ヵ月間、36ヵ月間等を挙げることができる。検体保存のための検体採取から調製までの時間としては、0分間、5分間、10分間、15分間、30分間、40分間、60分間、90分間、2時間、3時間、4時間、6時間、8時間、12時間、24時間等を挙げることができる。検体の凍結融解回数としては、例えば0回、1回、2回、3回、4回、5回、6回、8回、10回等を挙げることができる。
本発明において、ペプチドの量的および/または質的変化を検出・定量する方法としては、変動ペプチドおよび安定ペプチドを特異的に検出できる任意の方法であり得、例えば質量分析法を挙げることができる。質量分析法とは、ペプチド試料を、イオン源を用いて気体状のイオンとし(イオン化)、分析部において、真空中で運動させ電磁気力を用いて、あるいは飛行時間差によりイオン化したペプチド試料を質量電荷比に応じて分離し、検出できる質量分析計を用いた測定方法のことをいい、イオン源を用いてイオン化する方法としては、EI法、CI法、FD法、FAB法、MALDI法、ESI法等の方法を適宜選択することができ、また、分析部において、イオン化したペプチド試料を分離する方法としては、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間(TOF)型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型等の分離方法を適宜選択することができる。また、2以上の質量分析法を組み合わせたタンデム型質量分析(MS/MS)やトリプル四重極型質量分析を利用することができる。また、試料がリン酸化したペプチドを含む試料の場合、質量分析計への試料導入前に、試料を鉄イオン固定化アフィニティークロマトグラフィー(Fe-IMAC)を用いて濃縮することができる。また、液体クロマトグラフ(LC)やHPLCにより、本発明に係る変動ペプチドおよび安定ペプチドを分離・精製して試料とすることができる。また、検出部やデータ処理方法も適宜選択することができる。質量分析法を用いて変動ペプチドおよび安定ペプチドを質量分析法で検出・定量する場合、当該ペプチドと同一のアミノ酸配列からなる、濃度が既知の安定同位体で標識したペプチドを内部標準とすることができる。当該安定同位体標識ペプチドとしては、本発明に係る変動ペプチドおよび安定ペプチドにおけるアミノ酸の1つ以上が、15N、13C、18O、および2Hのいずれか1以上を含む安定同位体標識ペプチドであれば、アミノ酸の種類、位置、数などは適宜選択することができ、当該安定同位体標識ペプチドは、安定同位元素により標識されたアミノ酸を用いてF-moc法(Amblard., et al. Methods Mol Biol.298:3-24(2005))等の適当な手段で化学合成することができるが、iTRAQ(登録商標)試薬、ICAT(登録商標)試薬、ICPL(登録商標)試薬、NBS(登録商標)試薬、Tandem Mass Tag(TMT)(登録商標)試薬等の標識試薬を用いて作製することもできる。
本発明の一実施態様において、ペプチドの量的および/または質的変化を検出・定量する質量分析法は、安定同位体標識の合成ペプチドを用いるSRM/MRM法である。選択反応モニタリング(Selected reaction monitoring, SRM)は、トリプル四重極型質量分析計を用いた定量分析法であり、液体クロマトグラフと連結した分析システムを使用する。複数の分子を測定の対象にする場合は多重反応モニタリング(Multiple reaction monitoring, MRM)と呼ばれる。選択反応モニタリング(SRM)と多重反応モニタリング(MRM)を組み合わせた質量分析法は、高い定量性と選択性を有して試料中の対象とするタンパク質を定量することができる。
本発明の別の一実施態様において、ペプチドの量的および/または質的変化を検出・定量する質量分析法は、同位体タグまたは同重体タグを用いる分析法である。同位体タグとしては、例えばジメチル標識試薬、ICAT(登録商標)試薬、ICPL(登録商標)試薬、NBS(登録商標)試薬等を挙げることができ、同重体タグとしては、例えばTMT試薬(登録商標)、iTRAQ(登録商標)試薬等を挙げることができる。同位体タグまたは同重体タグを用いる分析法により、血清および血漿中のタンパク質由来のペプチドを網羅的に解析することができる。本発明のまた別の一実施態様において、当該分析方法は、一定の基準を満たすものを、生物学的検体の品質評価に用いることができる変動ペプチドと安定ペプチドの組合せ(品質評価マーカー)の候補として選別するのに有用であり、選別した変動ペプチドと安定ペプチドの組合せを更に上記SRM/MRM法により生物学的検体の品質評価に用いることができるかを検証して品質評価マーカーを絞り込み得る。
本発明の一実施態様において、ペプチドの量的および/または質的変化を検出・定量する方法は、質量分析の前に生物学的検体からペプチドを得る前処理の工程を含み得る。前処理としては、例えば生物学的検体からのタンパク質抽出、タンパク質のペプチドへの酵素等による消化、ペプチドの脱塩・濃縮等を挙げることができる。
本明細書に使用されている「キット」は、変動ペプチドおよび安定ペプチドの組合せ、すなわち品質評価マーカーに対応する安定同位体標識ペプチド、ならびにタンパク質可溶化試薬およびタンパク質消化試薬、酵素処理試薬等を別々または単一容器中に備える。また、キットは生物学的検体の品質を評価するための方法の説明書を備え得る。好ましくは、本発明のキットは、品質評価マーカーの安定同位体標識ペプチドを含み、当該安定同位体標識ペプチドは、本明細書に記載のようなペプチドの量的および/または質的変化を検出・定量する質量分析法に適したペプチドであり得る。
本発明はある態様において、単離されている生物学的検体の品質を評価できる、検体中に存在するタンパク質由来のペプチドを選別する方法を提供する。当該方法は、
1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取する工程、
2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷する工程、
3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断する工程、
4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドをそれぞれ、変動ペプチドおよび安定ペプチドと同定する工程、
5)同一の特定タンパク質に由来する1または複数の変動ペプチドと1または複数の安定ペプチドとの組合せを特定する工程、および
6)特定した組合せの少なくとも1つを、生物学的検体の品質評価マーカーとする工程を含み得る。
本発明の一実施態様において、1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取する工程は、血液、血清、血漿、尿および組織から選択される生物学的検体の採取を含む。ヒトを含む動物には、ヒトの他、イヌ、ネコ等の愛玩動物およびウシ、ブタ等の家畜が含まれる。具体的には、ヒトであり、好ましくはヒトの健常者である。また、好ましくは、生物学的検体は血清または血漿である。
本発明の一実施態様において、2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷する工程は、品質に影響を及ぼす要因として、上記の採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間および凍結融解の回数を含み得る。
本発明の一実施態様において、3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断する工程は、トリプシンまたはトリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの組合せによる酵素処理を含み、好ましくは、酵素処理はトリプシンによる。
本発明の一実施態様において、4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドをそれぞれ、変動ペプチドおよび安定ペプチドと同定する工程、および5)同一の特定タンパク質に由来する1または複数の変動ペプチドと1または複数の安定ペプチドとの組合せを特定する工程は、本明細書に記載される同位体タグまたは同重体タグを用いる質量分析法および安定同位体標識の合成ペプチドを用いるSRM/MRM法による同定を含み得る。好ましい実施態様において、変動ペプチドおよび安定ペプチドを同定する工程は、TMTラベル化またはジメチル標識を用いてペプチドを網羅的な解析(ショットガン定量プロテオミクス)を行い、一定の基準に基づいて変動ペプチドおよび安定ペプチド候補を選択し、続いてターゲットプロテオミクス(SRM/MRM解析)に適した変動ペプチドおよび安定ペプチド候補を選択し、更に安定同位体標識ペプチドを用いてSRM/MRM解析を行うことを含み得る。
ショットガン定量プロテオミクス結果からの変動ペプチド候補のペプチドの選択基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)コントロール検体(保存開始時の検体)の定量値に対して各条件の定量値が1.3倍以上変動する;
(2)(1)の変動を有するペプチドのうち、その変動が複数の被験者中の一定の数の被験者に共通する、例えば、被験者10人中7から8人、被験者8人中5から6人、被験者4人中3人で共通して生じる;
(3)定量値が時間経過に従って変動する。
好ましい実施態様において、定量値の変動は、2.0倍以上、1.7倍以上、1.5倍以上、または1.3倍以上であり得る。ショットガン定量プロテオミクスではある程度網羅的にペプチドが選択されるため、適当な数のペプチドに絞るため、1.3倍以上ではなく、1.5倍以上、1.7倍以上、2.0倍以上の定量値変動を適宜、採用する。
SRM/MRM解析に適したペプチドの選択基準としては基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)タンパク質に固有の配列を有するペプチドである;
(2)トリプシンによる切断ミスを含まない;
(3)同一タンパク質の中にショットガン定量プロテオミクスで変動の少ないペプチド(安定ペプチド)が同定されている。なお、上述の基準の(1)および(2)の間に、「定量に不適切な修飾を含むアミノ酸(メチオニン)を含まない;」なる基準を加えることも任意である。
本発明の一実施態様において、6)特定した組合せの少なくとも1つを、生物学的検体の品質評価マーカーとする工程は、SRM/MRM解析によるマーカー候補の検証を含み得る。好ましい実施態様において、品質評価マーカーとする工程は、先の工程5)で選択される変動ペプチドおよび安定ペプチド候補をSRM/MRM解析し、一定の基準を満たすペプチドを品質評価マーカーとする工程であり得る。
SRM/MRM解析による品質評価マーカーにおける変動ペプチドの選択基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)コントロール検体(保存開始時の検体)の定量値に対して各条件の定量値が1.3倍以上変動する;
(2)(1)の変動を有するペプチドのうち、その変動が複数の被験者中の一定の数の被験者に共通する、例えば、被験者10人中7から8人、被験者8人中5から6人、被験者4人中3人で共通して生じる。
好ましい実施態様において、定量値の変動は、2.0倍以上、1.7倍以上、1.5倍以上、または1.3倍以上であり得る。
本発明の一実施態様において、上記のようにして得られる生物学的検体の品質評価マーカーは例えば、同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチドとして、上記の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せであり得る。
本発明はある態様において、単離されている生物学的検体の品質評価マーカーを製造する方法を提供する。当該方法は、
1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取する工程、
2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷する工程、
3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断する工程、
4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドを同定する工程、および
5)同定されたペプチドを、生物学的検体の品質評価マーカーとする工程を含み得る。
本発明の一実施態様において、1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取する工程は、血液、血清、血漿、尿および組織から選択される生物学的検体の採取を含む。ヒトを含む動物には、ヒトの他、イヌ、ネコ等の愛玩動物およびウシ、ブタ等の家畜が含まれる。具体的には、ヒトであり、好ましくはヒトの健常者である。また、好ましくは、生物学的検体は血清および血漿である。
本発明の一実施態様において、2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷する工程は、品質に影響を及ぼす要因として、上記の採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間および凍結融解の回数を含み得る。
本発明の一実施態様において、3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断する工程は、トリプシンまたはトリプシンとリシルエンドペプチダーゼとの組合せによる酵素処理を含み、好ましくは、酵素処理はトリプシンによる。
本発明の一実施態様において、4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチド(変動ペプチド)および変化を起こさないペプチド(安定ペプチド)を同定する工程は、本明細書に記載される同位体タグまたは同重体タグを用いる質量分析法および安定同位体標識の合成ペプチドを用いるSRM/MRM法による同定を含み得る。好ましい実施態様において、変動ペプチドおよび安定ペプチドと同定する工程は、TMTラベル化またはジメチル標識を用いてペプチドを網羅的な解析(ショットガン定量プロテオミクス)を行い、一定の基準に基づいて変動ペプチドおよび安定ペプチド候補を選択し、続いてターゲットプロテオミクス(SRM/MRM解析)に適した変動ペプチドおよび安定ペプチド候補を選択し、更に安定同位体標識ペプチドを用いてSRM/MRM解析を行うことを含み得る。
ショットガン定量プロテオミクス結果からの変動ペプチド候補のペプチドの選択基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)コントロール検体(保存開始時の検体)の定量値に対して各条件の定量値が1.3倍以上変動する;
(2)(1)の変動を有するペプチドのうち、その変動が複数の被験者中の一定の数の被験者に共通する、例えば、被験者10人中7から8人、被験者8人中5から6人、被験者4人中3人で共通して生じる;
(3)定量値が時間経過に従って変動する。
好ましい実施態様において、定量値の変動は、2.0倍以上、1.7倍以上、1.5倍以上、または1.3倍以上であり得る。ショットガン定量プロテオミクスではある程度網羅的にペプチドが選択されるため、適当な数のペプチドに絞るため、1.3倍以上ではなく、1.5倍以上、1.7倍以上、2.0倍以上の定量値変動を適宜、採用する。
SRM/MRM解析に適したペプチドの選択基準としては基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)タンパク質に固有の配列を有するペプチドである;
(2)トリプシンによる切断ミスを含まない;
(3)同一タンパク質の中にショットガン定量プロテオミクスで変動の少ないペプチド(安定ペプチド)が同定されている。なお、上述の基準の(1)および(2)の間に、「定量に不適切な修飾を含むアミノ酸(メチオニン)を含まない;」なる基準を加えることも任意である。
本発明の一実施態様において、5)同定されたペプチドを、生物学的検体の品質評価マーカーとする工程は、SRM/MRM解析によるマーカー候補の検証を含み得る。好ましい実施態様において、品質評価マーカーとする工程は、先の工程5)で選択される変動ペプチドおよび安定ペプチド候補をSRM/MRM解析し、一定の基準を満たすペプチドを品質評価マーカーとする工程であり得る。
SRM/MRM解析による品質評価マーカーにおける変動ペプチドの選択基準としては以下のいずれか1つ以上を満たすことが挙げられる:
(1)コントロール検体(保存開始時の検体)の定量値に対して各条件の定量値が1.3倍以上変動する;
(2)(1)の変動を有するペプチドのうち、その変動が複数の被験者中の一定の数の被験者に共通する、例えば、被験者10人中7から8人、被験者8人中5から6人、被験者4人中3人で共通して生じる。
好ましい実施態様において、定量値の変動は、2.0倍以上、1.7倍以上、1.5倍以上、または1.3倍以上であり得る。ショットガン定量プロテオミクスである程度絞ったペプチド群に対して行うSRM/MRM解析では、定量値変動1.3倍以上とすることで、広くペプチドを選択することができる。
本発明の一実施態様において、上記のようにして製造される生物学的検体の品質評価マーカーは例えば、同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチドとして、上記の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せであり得る。本発明の品質評価マーカーは上記各工程にて説明した条件の変動によって製造される他の品質評価マーカーを含むものであり、表1記載の品質評価マーカーに限定されないことに留意すべきである。
本発明者らは、品質評価マーカーを選別・製造するために、まず、健常者4名の血清と血漿を遠心分離までの時間、保存温度および期間ならびに凍結融解の回数を変化させて、影響を受ける不安定ペプチドの同定を、ショットガン定量プロテオミクスを用いて行った。遠心分離までの時間は15分から6時間まで、保存温度および期間は室温、4℃、-30℃、-80℃、液体窒素で数時間から6か月まで、凍結融解の回数は1回から5回までの、遠心分離条件、保存条件および凍結融解条件の影響を検討した。
その結果、血清おおよび血漿の網羅的プロテオーム解析により約6千種類のペプチドが同定され、そのうち遠心分離条件、保存条件および凍結融解条件の影響を受ける不安定なペプチドが数百種類同定された。それらのペプチドが由来するタンパク質には安定なペプチド群が存在した。
次に、それらの品質評価マーカーの候補ペプチドについて、SRM/MRM法を用いたターゲットプロテオミクスにより検証を行った。その結果、遠心分離までの時間や保存条件の影響を受けて量的および/または質的変化を生じる変動ペプチドおよび量的および/または質的変化を生じない安定ペプチドとして合計98種類が特定された。
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示であることに留意すべきである。
健常者4名から血清および血漿を採取し、各種保存条件(保存温度、保存期間、採血から遠心分離までの時間、凍結融解回数)に置いた後に回収した。当該血清および血漿検体について、2種類のショットガン定量プロテオミクスにより品質評価マーカーの候補ペプチドの探索を行い、保存温度・期間および採血から遠心分離までの時間毎にマーカー候補ペプチドを変動したペプチドの中から選択した。また選択されたマーカー候補のペプチドについて、ターゲットプロテオミクス(安定同位体標識ペプチドを用いるSRM/MRM法)による検証実験を行い、同定されたマーカー候補ペプチドが検体の各保存条件間で確かに変動しているかまたは安定であるかを確認した。品質評価マーカーを同定した解析の概略を図1に示す。
実施例1:血清・血漿検体のショットガン定量プロテオミクス1
実施例1.1:血清および血漿検体の回収条件ならびに検体からのタンパク質抽出および消化
健常者4名分の血液を採取し、それぞれ血清・血漿として分離後、保存温度および保存期間の条件毎に検体を回収した。また、採血後の遠心分離までの時間別検体もそれぞれ回収する。検体の回収条件を表2に示す。
血清・血漿検体からのタンパク質抽出および消化
各条件で保存された血清・血漿検体からのタンパク質抽出および消化酵素によるペプチド断片への消化は、相間移動抽出法(PTS法:Phase transfer surfactant)により行った(参考文献4)。以下に、その手順を示す。各検体をMPEX PTS試薬(GL Science, Tokyo, Japan)で溶解した後、95℃で10分間インキュベートを行い、ジチオトレイトールを終濃度5mMまたはTCEPを終濃度33.3mMで加え30分間還元反応を行い、さらにヨードアセトアミドを終濃度20mMまたは53mMで加えてアルキル化反応を行った。その後、検体に1%(w/w)トリプシン(proteomics grade; Roche Mannheim, Germany)または2%(w/w)リシルエンドペプチダーゼ(和光純薬工業、大阪、日本)と2%(w/w)トリプシン(Promega Corporation, Madison, USA)を加えて、抽出したタンパク質を12時間37℃にて消化させた。消化後、等量の酢酸エチルと終濃度1%の三フルオロ酢酸を加えてボルテックスし、液中の界面活性剤を有機相に分離した。遠心分離後、ペプチドを含んだ水相を回収し、Stage Tipsによる脱塩を行い、消化ペプチドを得た(参考文献5)。
実施例1.2:消化ペプチドのTMTラベル法を用いたショットガン比較定量分析
実施例1.1で調製した消化ペプチドはTandem Mass Tag(TMT)試薬(Thermo Scientific, Bremen, Germany)により安定同位体標識を行った後、C18-SCX StageTipカラムによって7分画した(参考文献6)。その後、各分画をLC-MS/MSによるショットガン定量プロテオーム解析を行った。LC-MS/MS装置の構成は以下のとおりであった。質量分析器:Q-Exactive mass spectrometer(Thermo Scientific, Bremen, Germany)、液体クロマトグラフィー:UltiMate 3000 Nano-flow high-performance LC(HPLC)system(Dionex, Sunnyvale, CA)、オートサンプラー:HTC-PAL autosampler(CTC Analytics, Zwingen, Switzerland)。また、試料の質量分析器への導入は、内径75μm長さ300mmのニードルに1.9μmのC18-AQ樹脂を封入した自作の分析カラムを用いた。LCの移動相は、移動相A(0.1%ギ酸および2%アセトニトリル)および移動相B(0.1%ギ酸および90%アセトニトリル)により構成された。試料を緩衝液Aに溶解させ、トラップカラム(0.075 x 20mm, Acclaim PepMap RSLC Nano-Trap Column; Thermo Scientific)にロードした後、LCの流速280nL/minにて、移動相は120分で5〜35%Bの勾配で展開された。Q-ExactiveによるFull MS測定条件は以下のとおりであった。スキャンレンジ:350-1800m/z、分解能:70000、イオン積算:3 x 106。またMS/MS測定条件は以下のとおりであった。Top10プリカーサーイオン、インジェクションタイム:120ms、分解能:35000、MS/MSイオン選択閾値:5 x 104カウント、分離幅:3.0Da。測定RAWデータファイルの解析は、MaxQuantソフトウェア(Ver 1.5.1.2)により行った。検索エンジンにはAndromeda、UniProtヒトタンパク質データベースを用いた。同定タンパク質の閾値は、プリカーサー質量誤差範囲を7ppm、断片イオン質量誤差範囲を0.01Daに設定した。同定タンパク質およびペプチドは、リバースデータベースに対する1%未満の偽陽性率(FDR)で判定した。
実施例1.3:消化ペプチドのジメチルラベル法を用いたショットガン比較定量分析
実施例1.1で調製した各試料の消化ペプチドは2つに分け、一方を安定同位体標識ジメチル化試薬(DM-H)を用いて、他方を非標識のジメチル化試薬(DM-L)を用いて標識(参考文献7)した。使用したジメチル標識用試薬は、ホルムアルデヒドP/N 252549(シグマアルドリッチ, St.Louis, USA)、安定同位体標識ホルムアルデヒドP/N 596388(シグマアルドリッチ)、シアノ水素化ホウ酸ナトリウムP/N 714435(シグマアルドリッチ)、シアノ重水素化ホウ酸ナトリウムP/N SC258163(シグマアルドリッチ)であった。その後、比較対象の全試料を混合したDM-Hを内部標準として各試料のDM-Lに混合した。その後、終濃度5%でアセトニトリルを加え、続いて終濃度1%でTFAを加えて液中の界面活性剤を沈殿させて上清を試料として回収してLC-MS/MS用試料とした。LC-MS/MS装置の構成は以下のとおりであった。質量分析器:LTQ-Orbitrap Discoverer(Thermo Scientific)、液体クロマトグラフィー:ナノスペースSI-2システム(資生堂, 東京)。また、試料の質量分析器への導入は、内径2.0mm、長さ50mmのカプセルパックC18 MGIII-Hカラム(資生堂)を用いた。LCの移動相は、移動相A(0.01%ギ酸)、および移動相B(0.01%ギ酸および90%アセトニトリル)により構成された。試料は移動相の流速200μL/min、0〜27%(70分)、27〜55%(14分)の勾配で展開された。LTQ-Orbitrap DiscovererによるFull MS測定条件は以下のとおりであった。スキャンレンジ:400-2000m/z、分解能:30000、イオン積算 5 x 105。またMS/MS測定条件は以下のとおりであった。Top5プリカーサーイオン、最大イオンタイム:200ms、イオン積算:105、イオン選択閾値:103、分離幅:2Da。測定RAWデータファイルの同定解析は、Proteome Discoverer V3.1(Thermo Scientific)上のSEQUEST Search(Thermo Scientific)により行い、データベースはUniProtヒトタンパク質データベースを用いた。同定タンパク質の閾値は、プリカーサー質量誤差範囲を3ppm、断片イオン質量誤差範囲を0.8Daに設定した。同定タンパク質およびペプチドは、Proteome Discovererの標準設定で1%未満の儀陽性率(FDR)で判定した。Full MSスペクトルを対象とした比較解析は、LC-MS解析ソフトウェアSkyline Ver.3.6(MacCoss Lab.)を使用した。事前に同様の測定を反復して同定したペプチドライブラリーを用いてXIC(extracted-ion chromatogram)による比較解析を行った。
(実施例1の結果)
ショットガン定量プロテオミクスによる品質評価マーカーの探索
健常者4名より採取した血清・血漿検体を保存温度、保存期間、採血から遠心分離までの時間の条件別に置いたのちにTMT法およびジメチル標識法によるショットガン定量プロテオーム解析で条件別の変動ペプチドを探索した。各検体の定量値は、4名それぞれのコントロール検体(採血直後に消化した試料)のピーク面積を1とした相対ピーク面積(Peak Area Ratio)として算出した。血清・血漿のすべての保存条件で、合計272検体からペプチドを回収し、安定同位体標識を行った(TMTラベル化:48セット x 7分画の合計336 run、ジメチル標識56セットの327run)。合計663runの解析の結果、トータルで5905ペプチド(865タンパク質)を同定した。
ショットガン定量解析結果からのマーカー候補ペプチドの選択
定量値を算出したすべての同定ペプチドから、マーカー候補となるペプチドを選択した。全定量ペプチドの中から条件毎にコントロール(0時間)検体との相対定量値が1.5倍以上変動しているものを変化があったペプチドとし、その変化が4人中3人で共通して変化しているものを候補ペプチドとした。さらに、時間経過の途中でペプチド量の変化が一貫していないペプチドについては、候補から排除した。これらの候補ペプチドは、血清と血漿毎に選択し、保存温度・期間と採血後遠心分離までの時間のそれぞれの条件毎にも選択した。これらの条件を満たすマーカー候補は、738ペプチド(196タンパク質)あった。
実施例2:LC-SRM/MRM解析
SRM/MRM解析の方法は以前に報告された方法に従って行った(参考文献8)。PTS法により消化したペプチドを0.1%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む2%のアセトニトリル溶液に溶解させ、内部標準として標的ペプチドと同じ配列を有する合成安定同位体標識ペプチド(SpikeTide L; JPT Peptide Technologies, Berlin, Germany)を加えた。その後これを、ナノフローLCを連結したトリプル四重極質量分析計を用いて分析した。装置の構成は以下の通りであった。トリプル四重極質量分析計:TSQ-Vantage(Thermo Fisher Scientific, Bremen, Germany)、ナノフローLC:Paradigm MS2(Michrom BioResources, Auburn, CA)、オートサンプラー:HTC-PAL autosampler(CTC Analytics, Zwingen, Switzerland)。試料の質量分析器への導入は、内径75μm長さ100mmのニードルに1.9μmのC18-AQ樹脂を封入した自作の分析カラムを用いた。LCの移動相は、緩衝液A(0.1%ギ酸および2%アセトニトリル)およびB(0.1%ギ酸および90%アセトニトリル)により構成された。試料を緩衝液Aに溶解させ、トラップカラム(0.075 x 20 mm, Acclaim PepMap RSLC Nano-Trap Column; Thermo Scientific)にロードした後、LCの流速280nL/minにて、移動相は45分で5〜35%Bの勾配で展開された。SRMモードでの解析は以下の条件で行った。Q1 Peak Width:0.7 FWHM、Cycle time:1 sec、Collision Gass Pressure:1.8 mTorr。衝突エネルギーはSRMトランジションごとに最適化され、各トランジションの強度はピーク時間幅5分のスケジュールモードで測定した。
SRM/MRM標的ペプチドの選択とトランジション評価
バイオマーカー候補タンパク質の標的ペプチドとして、ショットガンプロテオミクスにより同定されたペプチドからSRM/MRM解析に適した配列を持つペプチドを選別した。選択の基準は、以下の通りであった。(1)タンパク質に固有の配列である、(2)定量に不適切な修飾を含むアミノ酸(メチオニン)を含まない、(3)トリプシンによる切断ミスを含まない。また、各々のペプチドのSRM/MRM測定のトランジション(親イオンと娘イオンのm/zの組合せ)は、Skylineソフトウェアソフトウェア(MacCoss Lab)を用いて、ショットガンプロテオミクスのMS/MSスペクトルライブラリから作成した。選択されたペプチドの測定トランジションは、ペプチドあたり強度の強い8トランジションをまず選択し、プール血清から調製したペプチドに対して選択したペプチドのSRM解析を行い、最終的に信号対雑音比(S/N)が>10であるトランジションが3つ以上あるペプチドを選択した。さらに選択したトランジションが正しく標的ペプチドを検出できているかどうかの確認は、内在性標的ペプチドのシグナルと内部標準として添加した標的ペプチドと同配列の安定同位体標識ペプチド(Stable isotope-labeled peptide; SI-ペプチド)との、トランジションにおけるピーク面積比の類似性により判定した。この類似性はSkylineソフトウェアで「dotp」によって表わされる。そして、dotp>0.9を内在性ペプチド検出の閾値にセットした。SI-ペプチドは、同位元素で標識されたC末端Arg13C6;15N4またはLys 13C6;15N2重いペプチドとして合成された(SpikeTide L, JPT Peptide Technologies, Berlin, Germany)(crude purity)。
内部標準ペプチドを用いた標的ペプチドの定量
SRM/MRMによる標的ペプチドの定量値は、内部標準として各試料に添加したSI-ペプチドと内在性の標的ペプチドのピーク面積比(Peak Area Ratio)として算出した。質量分析計での測定の結果出力されたRAWデータファイルはSkylineソフトウェア(フリーウェア; MacCoss Lab.)を用いて解析し、ピークエリアの検出とエリア比を算出した。
(実施例2の結果)
SRM/MRM解析用マーカー候補ペプチドの選択
次に、検体条件によって選ばれたマーカー候補ペプチドの中から、SRM/MRM解析に適したペプチドの絞り込みを行った。選択基準は、ペプチド配列がタンパク質に固有のものであり、メチオニンを含まず、トリプシンによる切断ミスを含まない配列とした。また、同一タンパク質の中にショットガン定量プロテオーム解析において変動が少なかったペプチド(安定ペプチド)が同定されているものを候補とした。安定ペプチドについても変動ペプチド候補と同様の選択基準を満たすものを選択した。同一タンパク質の中で変動ペプチド候補と安定ペプチド候補が複数同定されたものについては、同定のピーク強度がより強いものを選んだ。これらの基準から選ばれた安定ペプチドおよび変動ペプチドの候補数は合計356ペプチドであった。
SRM/MRM解析でのマーカー候補の検証
選択した356ペプチドについて、ショットガン定量プロテオーム解析での結果をSRM/MRM法にて検証した。選択したペプチドと同じ配列を有する安定同位体標識ペプチドを合成し、ショットガン定量プロテオーム解析と同様に4人分の血清・血漿検体に対して合成ペプチドミックスを内部標準として添加した。その後、保存条件毎の検体についてSRM/MRM解析を行い、それぞれの検体の定量値を、ショットガン定量プロテオーム解析と同様にコントロール検体の定量値と比較した。SRM/MRM法での変動ペプチド候補の検証の基準は、定量値の変動が1.3倍以上であり、かつ4人中3人で共通しているものとした。また同時に、安定ペプチドについても定量値が変動していないことを確認し、同一タンパク質において、変動ペプチドと安定ペプチドの組合せがともに検証できたものを品質評価マーカーとした。これらの基準を満たしたマーカー候補は、各保存温度における保存で変動するペプチドとしては血清で14組(表3-1、表3-2および表3-3ならびに図2-1、図2-2および図2-3)、血漿で32組(表4-1、表4-2、表4-3および表4-4ならびに図3-1、図3-2、図3-3および図3-4)あった。さらに採血から遠心分離までの時間で変動するペプチドとしては血清で12組(表5および図6)、血漿で9組(表6および図5)あった。これらすべての保存条件で検証されたペプチドは、合計で100ペプチド(34タンパク質)であった。なお、保存条件間で重複したペプチドは1と数えた。
実施例3:血清・血漿検体のショットガン定量プロテオミクス2
以下の表の回収条件である点以外は、実施例1に記載の手法に実質的に従い、品質評価マーカーの候補ペプチドを選択した。
得られた結果は以下の表の通りである。各種条件下、品質評価マーカーをショットガン定量解析により選択した結果を示す図番号も同時に示す。
実施例4:品質評価マーカーを用いる生物学的検体の品質評価
バイオバンクジャパン等の保存機関に保存されている血漿または血清等の生物学的検体の品質を評価するため、表3−1から表6および表8-1から表11に記載している品質評価マーカーの1つまたはそれ以上の組合せを用いる。入手した血漿または血清検体に対し、SRM/MRM解析を用い、表3-1から表6および表8-1から表11に記載している品質評価マーカーペプチドの定量を行う。
表3-1から表3-3のSerum_Tempまたは表4-1から表4-4のPlasma_Temp(血清または血漿の保存状態の品質評価マーカー)の変動ペプチドと安定ペプチドの品質評価マーカーの組み合わせはそれぞれ21種類、29種類ある。それらの品質評価マーカーのペプチドをすべて一度にSRM/MRM解析を行い、変動ペプチドと安定ペプチドの比を計算する。その比が0.77〜1の間にある品質評価マーカーの組み合わせの数が多ければ多いほど、その検体の品質は良好であると評価される。逆に、その比が0.77未満の組み合わせの数が多ければ多いほど、その検体の品質は悪いと評価される。
さらに、表5のSerum_CTまたは表6のPlasma_CT(血清または血漿の採血から遠心分離までの時間のマーカー)の変動ペプチドと安定ペプチドの品質評価マーカーの組み合わせはそれぞれ12種類、8種類ある。それらの品質評価マーカーのペプチドをすべて一度にSRM/MRM解析を行い、変動ペプチドと安定ペプチドの比を計算する。その比が0.77〜1.3の間にある品質評価マーカーの組み合わせの数が多ければ多いほど、その検体の遠心分離までの時間は短いといえる。逆に、その比が0.77未満または1.3以上の組み合わせの数が多ければ多いほど、その検体の遠心分離までの時間は長いといえる。
参考文献
1. Rai AJ et al., HUPO Plasma Proteome Project specimen collection and handling: Towards the standardization of parameters for plasma proteome samples. Proteomics, 5:3262-3277 (2005).
2. Elliott P et al., The UK Biobank sample handling and storage protocol for the collection, processing and archiving of human blood and urine. International Journal of Epidemiology, 37:234-244 (2008).
3. Hubel A et al., Storage of Human Biospecimens: Selection of the Optimal Storage Temperature. BIOPRESERVATION AND BIOBANKING, 12:1-11 (2014).
4. Masuda, T., Tomita, M. & Ishihama, Y. Phase transfer surfactant-aided trypsin digestion for membrane proteome analysis. J. Proteome Res. 7, 731-740 (2008).
5. Rappsilber, J., Mann, M. & Ishihama, Y. Protocol for micro-purification, enrichment, pre-fractionation and storage of peptides for proteomics using StageTips. Nat. Protoc. 2, 1896-1906 (2007).
6. Adachi, J. et al. Improved proteome and phosphoproteome analysis on a cation exchanger by a combined acid and salt gradient. Anal. Chem. 88, 7899-7903 (2016).
7. J. L. Hsu, S. Y. Huang, N. H. Chow, S. H. Chen. Stable-isotope dimethyl labeling for quantitative proteomics. Anal. Chem. 75, 6843-6852, 2003.
8. Kume, H. et al. Discovery of colorectal cancer biomarker candidates by membrane proteomic analysis and subsequent verification using selected reaction monitoring (SRM) and tissue microarray (TMA) analysis. Mol. Cell. Proteomics 13, 1471-1484 (2014).
個別化医療や精密医療(プレシジョンメディスン)を適切に実現するためには、バイオバンクジャパン等の多くの施設に収集されている多検体の解析が必須である。そこに保管されている検体が有効利用されるためには、検体の品質評価は欠かせない。今回我々が見出した検体の品質評価方法、品質評価マーカー、品質評価マーカーの製造方法等の発明は、国内外を問わず、検体の品質管理に大きな威力を発揮する。将来的に、国内の臨床検査会社がその測定を国内外から受託することで、日本の医薬品産業の国際的競争力が強化され、医療経済の活性化につながると考えられる。

Claims (19)

  1. 単離されている生物学的検体の品質を評価するための方法であって、該検体を酵素で処理することによって生成される特定タンパク質由来のペプチドを指標とする、該方法。
  2. ペプチドが、酵素処理済み検体における同一の特定タンパク質由来のペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こす変動ペプチド、および変化を起こさない安定ペプチドである、請求項1記載の方法。
  3. 変動ペプチドおよび安定ペプチドの存在比率を指標とする、請求項1または2記載の方法。
  4. 酵素処理をトリプシンによって行う、請求項1から3までのいずれか記載の方法。
  5. 生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、請求項1から4までのいずれか記載の方法。
  6. 同一の特定タンパク質由来の変動ペプチドおよび安定ペプチドが、以下の表1に並列して示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せのなかから選ばれる、請求項1から5までのいずれか記載の方法:
  7. 単離されている生物学的検体の品質を評価できる、検体中に存在するタンパク質由来のペプチドを選別する方法であって、
    1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取し、
    2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷し、
    3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断し、
    4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドをそれぞれ、変動ペプチドおよび安定ペプチドと同定し、
    5)同一の特定タンパク質に由来する1または複数の変動ペプチドと1または複数の安定ペプチドとの組合せを特定し、
    6)特定した組合せの少なくとも1つを、生物学的検体の品質評価マーカーとする、該方法。
  8. 工程1)において、ヒトの健常者から生物学的検体を採取する、請求項7記載の方法。
  9. 酵素処理をトリプシンによって行う、請求項7または8記載の方法。
  10. 生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、請求項7から9までのいずれか記載の方法。
  11. 品質に影響を及ぼす要因が、採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間のなかから選ばれる、請求項7から10までのいずれか記載の方法。
  12. 単離されている生物学的検体の品質評価マーカーを製造する方法であって、
    1)ヒトを含む動物から生物学的検体を採取し、
    2)採取した生物学的検体に、その品質に影響を及ぼす要因を負荷し、
    3)要因を負荷した試料を酵素で処理し、試料中に存在するタンパク質をペプチドに分断し、
    4)得られたペプチドのなかで、品質に影響を及ぼす要因によって量的および/または質的変化を起こすペプチドおよび変化を起こさないペプチドを同定し、
    5)同定されたペプチドを、生物学的検体の品質評価マーカーとする、該方法。
  13. 工程1)において、ヒトの健常者から生物学的検体を採取する、請求項12記載の方法。
  14. 酵素処理をトリプシンによって行う、請求項12または13記載の方法。
  15. 生物学的検体が血液、血清、血漿、尿、組織、脳脊髄液のなかから選ばれる、請求項12から14までのいずれか記載の方法。
  16. 品質に影響を及ぼす要因が、採血から遠心分離までの時間、保存温度、保存期間のなかから選ばれる、請求項12から15までのいずれか記載の方法。
  17. 請求項6記載の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せ。
  18. 請求項6記載の表1で示される品質評価マーカーの少なくとも1つの組合せにおける、単離されている生物学的検体の品質を評価できるマーカーとしての使用。
  19. 請求項6記載の表1で示される品質評価マーカーの安定同位体の少なくとも1つの組合せを含有する、単離されている生物学的検体の品質を評価するためのキット。
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