以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
まず方向について定義する。+x方向、−x方向、+y方向及び−y方向は、後述する基板Sub(図2参照)の一面と略平行な方向である。+x方向は、後述する磁気記録層20が延びる方向であり、後述する第2電極60から第1電極50へ向かう方向である。−x方向は、+x方向と反対の方向である。+x方向と−x方向を区別しない場合は、単に「x方向」と称する。x方向は、第2方向の一例である。+y方向は、x方向と直交する一方向である。−y方向は、+y方向と反対の方向である。+y方向と−y方向を区別しない場合は、単に「y方向」と称する。y方向は、第3方向の一例である。+z方向は、後述する基板Subから磁壁移動素子100へ向かう方向である。−z方向は、+z方向と反対の方向である。+z方向と−z方向を区別しない場合は、単に「z方向」と称する。z方向は、第1方向の一例である。また本明細書で「x方向に延びる」とは、例えば、x方向、y方向、及びz方向の各寸法のうち最小の寸法よりもx方向の寸法が大きいことを意味する。他の方向に延びる場合も同様である。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態にかかる磁気記録アレイの構成図である。磁気記録アレイ200は、複数の磁壁移動素子100と、複数の第1配線Cm1〜Cmnと、複数の第2配線Wp1〜Wpnと、複数の第3配線Rp1〜Rpnと、複数の第1スイッチング素子110と、複数の第2スイッチング素子120と、複数の第3スイッチング素子130とを備える。磁気記録アレイ200は、例えば、磁気メモリ、積和演算器、ニューロモーフィックデバイスに利用できる。
<第1配線、第2配線、第3配線>
第1配線Cm1〜Cmnは、共通配線である。共通配線は、データの書き込み時及び読み出し時の両方で用いられる配線である。第1配線Cm1〜Cmnは、基準電位と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。基準電位は、例えば、グラウンドである。第1配線Cm1〜Cmnは、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに設けられてもよいし、複数の磁壁移動素子100に亘って設けられてもよい。
第2配線Wp1〜Wpnは、書き込み配線である。第2配線Wp1〜Wpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。第3配線Rp1〜Rpnは、読み出し配線である。第3配線Rp1〜Rpnは、電源と1つ以上の磁壁移動素子100とを電気的に接続する。電源は、使用時に磁気記録アレイ200の一端に接続される。
<第1スイッチング素子、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子>
図1に示す第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130は、複数の磁壁移動素子100のそれぞれに接続されている。磁壁移動素子100にスイッチング素子が接続されたものを半導体装置と称する。第1スイッチング素子110は、磁壁移動素子100のそれぞれと第1配線Cm1〜Cmnとの間に接続されている。第2スイッチング素子120は、磁壁移動素子100のそれぞれと第2配線Wp1〜Wpnとの間に接続されている。第3スイッチング素子130は、磁壁移動素子100のそれぞれと第3配線Rp1〜Rpnとの間に接続されている。
第1スイッチング素子110及び第2スイッチング素子120をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第1配線Cm1〜Cmnと第2配線Wp1〜Wpnとの間に書き込み電流が流れる。第1スイッチング素子110及び第3スイッチング素子130をONにすると、所定の磁壁移動素子100に接続された第1配線Cm1〜Cmnと第3配線Rp1〜Rpnとの間に読み出し電流が流れる。
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、電流の流れを制御する素子である。第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、例えば、トランジスタ、オボニック閾値スイッチ(OTS:Ovonic Threshold Switch)のように結晶層の相変化を利用した素子、金属絶縁体転移(MIT)スイッチのようにバンド構造の変化を利用した素子、ツェナーダイオード及びアバランシェダイオードのように降伏電圧を利用した素子、原子位置の変化に伴い伝導性が変化する素子である。
第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120、第3スイッチング素子130のいずれかは、同じ配線に接続された磁壁移動素子100で、共用してもよい。例えば、第1スイッチング素子110を共有する場合は、第1配線Cm1〜Cmnの上流に一つの第1スイッチング素子110を設ける。例えば、第2スイッチング素子120を共有する場合は、第2配線Wp1〜Wpnの上流に一つの第2スイッチング素子120を設ける。例えば、第3スイッチング素子130を共有する場合は、第3配線Rp1〜Rpnの上流に一つの第3スイッチング素子130を設ける。
図2は、第1実施形態に係る磁気記録アレイ200の要部の断面図である。図2は、図1における一つの磁壁移動素子100を磁気記録層20のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。図2は、便宜上、一つの磁壁移動素子100にフォーカスし、磁壁移動素子100に接続された3つのトランジスタTrを図示している。図2に示す磁壁移動素子100は、後述する磁気記録層20が第1強磁性層10より基板Subの近くに位置するトップピン構造である。
図2に示す第1スイッチング素子110、第2スイッチング素子120及び第3スイッチング素子130は、トランジスタTrである。トランジスタTrは、ゲート電極Gと、ゲート絶縁膜GIと、基板Subに形成されたソース領域S及びドレイン領域Dと、を有する。基板Subは、例えば、半導体基板である。
トランジスタTrのそれぞれと磁壁移動素子100とは、導電部90,91、電極92を介して、電気的に接続されている。導電部90,91及び電極92は、導電性を有する材料を含む。導電部90は、z方向に延びる。導電部90は、絶縁層80の開口部に形成されたビア配線である。導電部91は、導電部90と電極92とを繋ぐ配線である。電極92は、磁壁移動素子100に読み出し電流を流すための電極である。
磁壁移動素子100とトランジスタTrとは、導電部90,91及び電極92を除いて、絶縁層80によって電気的に分離されている。絶縁層80は、多層配線の配線間や素子間を絶縁する絶縁層である。絶縁層80は、例えば、酸化シリコン(SiOx)、窒化シリコン(SiNx)、炭化シリコン(SiC)、窒化クロム、炭窒化シリコン(SiCN)、酸窒化シリコン(SiON)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ジルコニウム(ZrOx)等である。
「磁壁移動素子」
図3は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100の断面図である。図4は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100の平面図である。磁壁移動素子100は、第1強磁性層10と磁気記録層20と非磁性層30と第1構造体40と第1電極50と第2電極60とを有する。図3は、磁壁移動素子100を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面(図4におけるA−A面)で切断した断面図である。磁壁移動素子100の一例は、記憶素子である。
「第1強磁性層」
第1強磁性層10は、非磁性層30に面する。第1強磁性層10は、一方向に配向した磁化M10を有する。第1強磁性層10の磁化M10は、所定の外力が印加された際に磁気記録層20の磁化よりも配向方向が変化しにくい。所定の外力は、例えば外部磁場により磁化に印加される外力や、スピン偏極電流により磁化に印加される外力である。第1強磁性層10は、磁化固定層、磁化参照層と呼ばれることがある。磁化M10は、例えば、z方向に配向する。
以下、磁化がz軸方向に配向した例を用いて説明するが、磁気記録層20及び第1強磁性層10の磁化はx軸方向に配向してもよいし、xy面内のいずれかの方向に配向していてもよい。磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より磁壁移動素子100の消費電力、動作時の発熱が抑制される。また磁化がz方向に配向する場合は、磁化がxy面内に配向する場合より同じ強度のパルス電流を印加した際における磁壁27の移動幅が小さくなる。一方で、磁化がxy面内のいずれかに配向する場合は、磁化がz方向に配向する場合より磁壁移動素子100の磁気抵抗変化幅(MR比)が大きくなる。
第1強磁性層10は、強磁性体を含む。第1強磁性層10を構成する強磁性材料としては、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。第1強磁性層10は、例えば、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feである。
第1強磁性層10を構成する材料は、ホイスラー合金でもよい。ホイスラー合金はハーフメタルであり、高いスピン分極率を有する。ホイスラー合金は、XYZ又はX2YZの化学組成をもつ金属間化合物であり、Xは周期表上でCo、Fe、Ni、あるいはCu族の遷移金属元素または貴金属元素であり、YはMn、V、CrあるいはTi族の遷移金属又はXの元素種であり、ZはIII族からV族の典型元素である。ホイスラー合金として例えば、Co2FeSi、Co2FeGe、Co2FeGa、Co2MnSi、Co2Mn1−aFeaAlbSi1−b、Co2FeGe1−cGac等が挙げられる。
第1強磁性層10の膜厚は、第1強磁性層10の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、1.5nm以下とすることが好ましく、1.0nm以下とすることがより好ましい。第1強磁性層10の膜厚を薄くすると、第1強磁性層10と他の層(非磁性層30)との界面で、第1強磁性層10に垂直磁気異方性(界面垂直磁気異方性)が付加され、第1強磁性層10の磁化がz方向に配向しやすくなる。
第1強磁性層10の磁化容易軸をz方向とする(垂直磁化膜にする)場合は、第1強磁性層10をCo、Fe、Niからなる群から選択された強磁性体とPt、Pd、Ru、Rhからなる群から選択された非磁性体との積層体とすることが好ましく、Ir、Ruからなる群から選択された中間層を積層体のいずれかの位置に挿入することがより好ましい。強磁性体と非磁性体を積層すると垂直磁気異方性を付加することができ、中間層を挿入することによって第1強磁性層10の磁化がz方向に配向しやすくなる。
第1強磁性層10の非磁性層30と反対側の面に、スペーサ層を介して、反強磁性層を設けてもよい。第1強磁性層10、スペーサ層、反強磁性層は、シンセティック反強磁性構造(SAF構造)となる。シンセティック反強磁性構造は、非磁性層を挟む二つの磁性層からなる。第1強磁性層10と反強磁性層とが反強磁性カップリングするとことで、反強磁性層を有さない場合より第1強磁性層10の保磁力が大きくなる。反強磁性層は、例えば、IrMn,PtMn等である。スペーサ層は、例えば、Ru、Ir、Rhからなる群から選択される少なくとも一つを含む。
「磁気記録層」
磁気記録層20は、x方向に延びる。磁気記録層20は、第2強磁性層の一例である。磁気記録層20は、例えば、z方向からの平面視で、x方向が長軸、y方向が短軸の矩形である。磁気記録層20は、非磁性層30を挟んで、第1強磁性層10と対向する磁性層である。磁気記録層20は、第1電極50と第2電極60とに亘って、形成される。
磁気記録層20は、内部の磁気的な状態の変化により情報を磁気記録可能な層である。磁気記録層20は、内部に第1磁区28と第2磁区29とを有する。第1磁区28の磁化M28と第2磁区29の磁化M29とは、例えば、反対方向に配向する。第1磁区28と第2磁区29との境界が磁壁27である。磁気記録層20は、磁壁27を内部に有することができる。図2に示す磁気記録層20は、第1磁区28の磁化M28が+z方向に配向し、第2磁区29の磁化M29が−z方向に配向している。
磁壁移動素子100は、磁気記録層20の磁壁27の位置によって、データを多値又は連続的に記録できる。磁気記録層20に記録されたデータは、読み出し電流を印加した際に、磁壁移動素子100の抵抗値変化として読み出される。
磁気記録層20における第1磁区28と第2磁区29との比率は、磁壁27が移動すると変化する。第1強磁性層10の磁化M10は、例えば、第1磁区28の磁化M28と同じ方向(平行)であり、第2磁区29の磁化M29と反対方向(反平行)である。磁壁27が+x方向に移動し、z方向からの平面視で第1強磁性層10と重畳する部分における第1磁区28の面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は低くなる。反対に、磁壁27が−x方向に移動し、z方向からの平面視で第1強磁性層10と重畳する部分における第2磁区29の面積が広くなると、磁壁移動素子100の抵抗値は高くなる。
磁壁27は、磁気記録層20のx方向に書き込み電流を流す、又は、外部磁場を印加することによって移動する。例えば、磁気記録層20の+x方向に書き込み電流(例えば、電流パルス)を印加すると、電子は電流と逆の−x方向に流れるため、磁壁27は−x方向に移動する。第1磁区28から第2磁区29に向って電流が流れる場合、第2磁区29でスピン偏極した電子は、第1磁区28の磁化M28を磁化反転させる。第1磁区28の磁化M28が磁化反転することで、磁壁27が−x方向に移動する。
磁気記録層20は、磁性体により構成される。磁気記録層20を構成する磁性体は、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を用いることができる。具体的には、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Feが挙げられる。
磁気記録層20は、Co、Ni、Pt、Pd、Gd、Tb、Mn、Ge、Gaからなる群から選択される少なくとも一つの元素を有することが好ましい。磁気記録層20に用いられる材料として、例えば、CoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜、MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料が挙げられる。MnGa系材料、GdCo系材料、TbCo系材料等のフェリ磁性体は飽和磁化が小さく、磁壁を移動するために必要な閾値電流が小さくなる。またCoとNiの積層膜、CoとPtの積層膜、CoとPdの積層膜は、保磁力が大きく、磁壁の移動速度が遅くなる。
「非磁性層」
非磁性層30は、第1強磁性層10と磁気記録層20との間に位置する。非磁性層30は、磁気記録層20の一面に積層される。
非磁性層30は、例えば、非磁性の絶縁体、半導体又は金属からなる。非磁性の絶縁体は、例えば、Al2O3、SiO2、MgO、MgAl2O4、およびこれらのAl、Si、Mgの一部がZn、Be等に置換された材料である。これらの材料は、バンドギャップが大きく、絶縁性に優れる。非磁性層30が非磁性の絶縁体からなる場合、非磁性層30はトンネルバリア層である。非磁性の金属は、例えば、Cu、Au、Ag等である。非磁性の半導体は、例えば、Si、Ge、CuInSe2、CuGaSe2、Cu(In,Ga)Se2等である。
非磁性層30の厚みは、20Å以上であることが好ましく、30Å以上であることがより好ましい。非磁性層30の厚みが厚いと、磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)が大きくなる。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、1×105Ωμm2以上であることが好ましく、1×106Ωμm2以上であることがより好ましい。磁壁移動素子100の抵抗面積積(RA)は、一つの磁壁移動素子100の素子抵抗と磁壁移動素子100の素子断面積(非磁性層30をxy平面で切断した切断面の面積)の積で表される。
「第1構造体」
第1構造体40は、磁気記録層20に接する。図3に示す第1構造体40は、磁気記録層20の非磁性層30と反対側の面に接する。
第1構造体40のx方向の幅は、例えば、第1強磁性層10及び非磁性層30のx方向の幅より広い。第1構造体40の+x方向の第1側面40s1は、例えば、非磁性層30の+x方向の第1側面30s1より第1電極50側に位置する。第1構造体40の−x方向の第2側面40s2は、例えば、非磁性層30の−x方向の第2側面30s2より第2電極60側に位置する。第1側面30s1、40s1及び第2側面30s2、40s2がz方向に対してx方向に傾斜する場合は、非磁性層30と磁気記録層20との境界における非磁性層30の±x方向の端部と、第1構造体40と磁気記録層20との境界における第1構造体40の±x方向の端部と、の位置関係で比較する。
第1構造体40のy方向の幅は、例えば、第1強磁性層10、磁気記録層20及び非磁性層30のy方向の幅より広い(図4参照)。第1構造体40の+y方向の第3側面40s3は、例えば、非磁性層30の+y方向の第3側面30s3及び磁気記録層20の+y方向の第3側面20s3より+y方向に位置する。第1構造体40の−y方向の第4側面40s4は、例えば、非磁性層30の−y方向の第4側面30s4及び磁気記録層20の−y方向の第4側面20s4より−y方向に位置する。第3側面20s3、30s3、40s3及び第4側面20s4、30s4、40s4がz方向に対してy方向に傾斜する場合は、第1構造体40と磁気記録層20との境界における磁気記録層20又は第1構造体40の±y方向の端部と、非磁性層30と磁気記録層20との境界における非磁性層30の±y方向の端部と、の位置関係で比較する。
また第1構造体40の第3側面40s3は、例えば、第1電極50及び第2電極60の+y方向の第3側面50s3、60s3より+y方向に位置する。また第1構造体40の第4側面40s4は、例えば、第1電極50及び第2電極60の−y方向の第4側面50s4、60s4より−y方向に位置する。
第1構造体40のz方向の厚みh1は、例えば、0.5nm以上20nm以下である。第1構造体40のz方向の厚みh1が0.5nm以上20nm以下であれば、第1部分41において後述するスピンホール効果が効率的に生じ、磁壁27を移動させる臨界電流密度が増大することを防げる。
第1構造体40は、第1部分41と第2部分42とを有する。図3及び図4に示す第1部分41及び第2部分42はy方向に延び、x方向に交互に配置されている。
第1部分41は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。スピンホール効果の詳細は、後述する。
第1部分41の主成分は、非磁性の重金属であることが好ましい。重金属は、イットリウム(Y)以上の比重を有する金属を意味する。非磁性の重金属は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。非磁性の重金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。第1部分41は、例えば、Hf、Ta、Wである。
第2部分42は、第1部分41と異なる材料からなる。第2部分42は、導体でも、半導体でも、絶縁体でもよい。第2部分42は、例えば、絶縁層80と同じ材料からなる。
「第1電極、第2電極」
第1電極50及び第2電極60は、磁気記録層20と電気的に接続される。磁気記録層20は、第1電極50及び第2電極60と直接接続されていてもよいし、間に層を介して接続されていてもよい。また図2に示すように第1電極50及び第2電極60は、第1構造体40と異なる面に設けられてもよいし、図5に示すように第1電極50及び第2電極60は、第1構造体40と同一面に設けられてもよい。また導電部90が磁気記録層20と直接接続される場合は、第1電極50及び第2電極60を有さなくてもよい。第1電極50及び第2電極60は、絶縁層80の内部にある。第1電極50は、磁気記録層20と第1スイッチング素子110とを電気的に繋ぐ(図2参照)。第2電極60は、磁気記録層20と第2スイッチング素子120とを電気的に繋ぐ(図2参照)。第1電極50の少なくとも一部は、z方向において磁気記録層20と重なる。第2電極60の少なくとも一部は、z方向において磁気記録層20と重なる。
第1電極50及び第2電極60をz方向から見た際の平面視形状は、特に問わない。例えば、図4に示す第1電極50及び第2電極60は、z方向からの平面視で矩形である。第1電極50及び第2電極60は、円形でも楕円形でもよい。
第1電極50及び第2電極60は、例えば、磁性体を含む。第1電極50及び第2電極60は、例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属、これらの金属を1種以上含む合金、これらの金属とB、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とが含まれる合金等を含む。第1電極50及び第2電極60は、例えば、Co−Fe、Co−Fe−B、Ni−Fe等である。第1電極50及び第2電極60は、SAF構造でもよい。第1電極50及び第2電極60は、磁性体を含まなくてもよい。
第1電極50は、例えば、一方向に配向した磁化M50を有する。第2電極60は、例えば、磁化M50と異なる方向に配向した磁化M60を有する。磁化M50は例えば−z方向に配向し、磁化M60は例えば+z方向に配向する。第1電極50及び第2電極60は、磁気記録層20のx方向の端部の磁化を所定の方向に配向させる。
磁壁移動素子100の第1強磁性層10、磁気記録層20、第1電極50及び第2電極60のそれぞれの磁化の向きは、例えば磁化曲線を測定することにより確認できる。磁化曲線は、例えば、MOKE(Magneto Optical Kerr Effect)を用いて測定できる。MOKEによる測定は、直線偏光を測定対象物に入射させ、その偏光方向の回転等が起こる磁気光学効果(磁気Kerr効果)を用いることにより行う測定方法である。
磁気記録アレイ200の製造方法について説明する。磁気記録アレイ200は、各層の積層工程と、各層の一部を所定の形状に加工する加工工程により形成される。各層の積層は、スパッタリング法、化学気相成長(CVD)法、電子ビーム蒸着法(EB蒸着法)、原子レーザデポジッション法等を用いることができる。各層の加工は、フォトリソグラフィー等を用いて行うことができる。
まず基板Subの所定の位置に、不純物をドープしソース領域S、ドレイン領域Dを形成する。次いで、ソース領域Sとドレイン領域Dとの間に、ゲート絶縁膜GI、ゲート電極Gを形成する。ソース領域S、ドレイン領域D、ゲート絶縁膜GI及びゲート電極GがトランジスタTrとなる。
次いで、トランジスタTrを覆うように絶縁層80を形成する。また絶縁層80に開口部を形成し、開口部内に導電体を充填することで導電部90が形成される。第1配線Cm、第2配線Wp、第3配線Rpは、絶縁層80を所定の厚みまで積層した後、絶縁層80に溝を形成し、溝に導電体を充填することで形成される。
第1構造体40は、例えば、以下の手順で作製する。まず、絶縁層80を所定の厚みまで積層した後、絶縁層80の表面にy方向に延びる溝を形成する。第1部分41を構成する材料で溝を充填すると、第1部分41が形成される。隣接する第1部分41の間に残存した絶縁層80は第2部分42となる。
また第1構造体40は、以下の手順で作製してもよい。まず、絶縁層80を所定の厚みまで積層した後、第1部分41を構成する材料で形成された第1膜を積層する。次いで、第1膜の表面に、y方向に延びる溝を形成する。溝は、第1膜と異なる材料で充填される。第1膜の残存した部分は第1部分となり、溝を第1膜と異なる材料で充填した部分は第2部分となる。
次いで、第1構造体40及び絶縁層80の一面に、強磁性層、非磁性層、強磁性層を順に積層し、所定の形状に加工することで、磁気記録層20、非磁性層30、第1強磁性層10が形成される。
第1実施形態に係る磁壁移動素子100は、磁壁27の移動を精確に制御でき、データの書き込み及び読み出しの信頼性に優れる。以下、その理由について説明する。
図6は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100の動作を説明するための断面図である。図6は、磁壁移動素子100を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面(図4におけるA−A面)で切断した断面図である。磁壁移動素子100にデータを書き込む際、第1電極50と第2電極60との間に電流Iが流れる。第1部分41は導体であり、電流Iの一部は、第1部分41に分流する。
第1部分41は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる。スピンホール効果は、電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の流れ方向と直交する方向にスピン流が誘起される現象である。スピンホール効果は、運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で、通常のホール効果と共通する。通常のホール効果は、磁場中で運動する荷電粒子の運動方向がローレンツ力によって曲げられる。これに対し、スピンホール効果は磁場が存在しなくても、電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)でスピンの移動方向が曲げられる。
第1部分41には、電流Iから分流した電流I1が流れる。一方向に配向した第1スピンS1と、第1スピンS1と反対方向に配向した第2スピンS2とは、スピンホール効果によって、それぞれ電流と直交する方向に曲げられる。例えば、+y方向に配向した第1スピンS1が+z方向に曲げられ、−y方向に配向した第2スピンS2が−z方向に曲げられる。
非磁性体(強磁性体ではない材料)は、スピンホール効果により生じる第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しい。図6において、+z方向に向かう第1スピンS1の電子数と−z方向に向かう第2スピンS2の電子数とは等しい。第1スピンS1と第2スピンS2は、スピンの偏在を解消する方向に流れる。第1スピンS1及び第2スピンS2のy方向への移動において、電荷の流れは互いに相殺されるため、電流量はゼロとなる。電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
第1スピンS1の電子の流れをJ↑、第2スピンS2の電子の流れをJ↓、スピン流をJSと表すと、JS=J↑−J↓で定義される。スピン流JSは、z方向に生じる。第1構造体40は、磁気記録層20に面する。そのため、第1構造体40の第1部分41から磁気記録層20にスピンが注入される。
注入されたスピンは、磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルを変化させる。磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルは、スピンが注入される第1部分41に面する部分と、スピンが注入されない第2部分42に面する部分とで異なる。磁気記録層20の第1部分41に面する部分と第2部分42に面する部分とで、磁壁27の移動しやすさは変化する。例えば、磁気記録層20の第1部分41に面する部分は、第2部分42に面する部分より磁壁27が動きにくくなる。
磁気記録層20内にポテンシャル差が生じると、磁壁27の動作が段階的になる。磁壁27は、例えば、磁気記録層20に印加するパルス電流の印加回数によって位置が制御される。磁壁27の動作が段階的になると、パルス電流の出力値に多少のばらつきが生じた場合でも、磁壁27の位置がばらつきにくくなり、磁壁27の位置を精確に制御できる。
磁壁移動素子100は、磁壁27の位置によりz方向の抵抗値が変化する。磁壁移動素子100は、z方向の抵抗値で、データを出力する。すなわち、磁壁27の位置を精確に制御できれば、磁壁移動素子100の信頼性が向上する。
[第2実施形態]
図7は、第2実施形態に係る磁壁移動素子101の第1構造体の平面図である。第2実施形態に係る磁壁移動素子101は、第1構造体40Aの構成が第1実施形態に係る磁壁移動素子100の第1構造体40と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1構造体40Aは、第1部分43と第2部分44とを有する。図7に示す第1構造体40Aは、z方向からの平面視で、第1部分43が第2部分44の中に互いに離間して複数配置されている。
第1部分43は、例えば、z方向から見てそれぞれ4つの辺を有する。第1部分43の各辺を接続する角部Ed1は、それぞれ湾曲している。第1部分43は、z方向から見て、角が湾曲した四角形である。第1領域R1と第2領域R2との間に急激なポテンシャル差が生じると、磁気記録層20内において磁壁移動に必要な電流密度に過度な差が生まれる場合があり、磁壁27の移動が不安定になる場合がある。磁壁27の移動が不安定になると、磁壁移動素子101が誤動作する可能性がある。角部Ed1が湾曲していると、第1部分43内の角部Ed1付近においてスピン流の発生が抑制される。その結果、第1領域R1と第2領域R2との境界において、スピン流の発生量が段階的に変化し(スピン流の発生量に面内分布(ばらつき)が生じ)、磁気記録層20内における急激なポテンシャル変化を抑制し、安定かつ精確な磁壁移動が可能になる。
第1構造体40Aは、x方向に所定の間隔で複数の領域に区分できる。所定の間隔は任意であり、例えば、磁壁移動素子101がデータを多値で段階的に記録する場合は、一つの磁壁移動素子101が記録できるデータのビット数に合わせる。各領域において第1部分43が占める面積率は、領域ごとに異なる。隣接する領域より第1部分43が占める面積率が大きい領域を第1領域R1と称し、隣接する領域より第1部分43が占める面積率が小さい領域を第2領域R2と称する。第1部分43が占める面積率は、例えば、第1領域R1のそれぞれで実質的に等しく、第2領域R2のそれぞれで実質的に等しい。実質的に等しいとは、それぞれの領域における第1部分43が占める面積が、平均値に対して20%以内のブレを許容することを意味する。
第1領域R1及び第2領域R2は、例えば、y方向に延びる。第1領域R1と第2領域R2とは、x方向に交互に配列している。第1領域R1と第2領域R2とは、例えば、x方向に実質的に周期的に配列している。実質的に周期的に配列とは、隣接する第1領域R1間の距離のずれが、第1領域R1間の平均距離の10%以内であることを意味する。第1構造体40Aのx方向の幅、y方向の幅、z方向の厚みは、第1実施形態に係る第1構造体40と同様である。
第1領域R1は、例えば、第1部分43と第2部分44とを有する。第1領域R1において第1部分43が占める面積率は、例えば、第2部分44が占める面積率より大きい。第1領域R1において第1部分43が占める面積率は、例えば、50%以上であり、好ましくは75%以上であり、より好ましくは90%以上である。第1部分43は、例えば、図7に示すようにy方向に延びる2つの部分である。第2部分44は、例えば、第1部分43以外の部分である。第1部分43を構成する材料は、第1実施形態における第1部分41と同様である。
第2領域R2は、例えば、第1部分43と第2部分44とを有する。x方向に第1領域R1と第2領域R2とは重なる。第2領域R2における第1部分43は、例えば、第1領域R1における第1部分43とx方向に重なる。第2領域R2において第1部分43が占める面積率は、例えば、第2部分44が占める面積率より小さい。第2領域R2において第1部分43が占める面積率は、例えば、50%未満であり、好ましくは25%未満であり、より好ましくは10%未満である。第1部分43は、例えば、図7に示すように第2部分44の中に点在する2つの部分である。第2部分44は、例えば、第1部分43以外の部分である。第2部分44を構成する材料は、第1実施形態における第2部分42と同様に、第1部分43と異なる。
第1部分43は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる。注入されたスピンは、磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルを変化させる。磁気記録層20の第1領域R1に面する部分と、第2領域R2に面する部分とでは、注入されるスピンの量が異なる。磁気記録層20の第1領域R1に面する部分は、第2領域R2に面する部分より多くのスピンが注入される。
磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルは、磁気記録層20の第1領域R1に面する部分と第2領域R2に面する部分とで異なる。磁気記録層20の第1領域R1に面する部分と第2領域R2に面する部分とで、磁壁27の移動しやすさは変化する。例えば、磁気記録層20の第1領域R1に面する部分は、第2領域R2に面する部分より磁壁27が動きにくくなる。
第2実施形態に係る磁壁移動素子101は、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子101はデータの信頼性に優れる。また領域ごとに、磁気的なポテンシャルの調整が可能となり、磁壁27の位置をより精確に制御できる。
第2実施形態に係る磁壁移動素子101の一例について詳述したが、第2実施形態に係る磁壁移動素子101は、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
(第1変形例)
図8は、第1変形例に係る磁壁移動素子101Aの第1構造体40Bの平面図である。第1構造体40Bは、z方向からの平面視で、第2部分44が第1部分43内に互いに離間して複数配置されている点が、図7に示す第1構造体40Aと異なる。その他の構成は同様であり、説明を省く。
第1構造体40Bにおける第1領域R1は、第1部分43からなる。第1構造体40Bにおける第1領域R1は、第2部分44を有してもよい。第1領域R1において第1部分43が占める面積率は、例えば、第2部分44が占める面積率より大きいことが好ましい。
第1構造体40Bにおける第2領域R2は、例えば、第1部分43と第2部分44とを有する。第2部分44は、例えば、z方向から見てそれぞれ4つの辺を有する。第2部分44の各辺を接続する角部Ed2は、それぞれ湾曲している。第2部分44は、z方向から見て、角が湾曲した四角形である。角部Ed2が湾曲していると、磁気記録層20内における急激なポテンシャル変化を抑制し、安定かつ精確な磁壁移動が可能になる。第2領域R2において第1部分43が占める面積率は、例えば、第2部分44が占める面積率より大きい。第2部分44は、例えば、図8に示すようにy方向に延びる2つの部分である。第1部分43は、例えば、第1部分43以外の部分である。
磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルは、磁気記録層20の第1領域R1に面する部分と第2領域R2に面する部分とで異なる。第1変形例に係る磁壁移動素子101Aは、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子101Aのデータの信頼性に優れる。
(第2変形例)
図9は、第2変形例に係る磁壁移動素子101Bの第1構造体40Cの平面図である。第1構造体40Cは、第1部分43の形状、配置等が、図7に示す第1構造体40Aと異なる。その他の構成は同様であり、説明を省く。
第1構造体40Cは、隣接する領域より第1部分43が占める面積率が大きい第1領域R1と、隣接する領域より第1部分43が占める面積率が小さい領域を第2領域R2とに区分される。
第1構造体40Cにおける第1領域R1のそれぞれは、第1部分43の構成がそれぞれ異なる。第1構造体40Bにおける第2領域R2は、第2部分44からなる。
最も−x方向に位置する第1領域R1Aは、2つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。第1部分43は、z方向から見てそれぞれ4つの辺を有する。4つの辺のうち隣接する第1部分43とy方向に対向する第1面43Aと第2面43Bとは、x方向に対してy方向に傾斜している。第1面43Aと第2面43Bとがx方向に対してy方向に傾斜している点が、図7に示す第1領域R1と異なる。1つの第1部分43の第1点p1からx方向に下した垂線PL1は、隣接する第1部分43と重なる。また1つの第1部分43の第2点p2からx方向に下した垂線PL2は、隣接する第1部分43と重なる。第1点p1は、第1部分43の角であり、第1面43Aの最も+y方向に位置する部分である。第2点p2は、第1部分43の角であり、第2面43Bの最も−y方向に位置する部分である。第1面43Aと第2面43Bとがx方向に対してy方向に傾斜していることで、第1面43A及び第2面43Bの第1点p1及び第2点p2付近に発生するスピン流が抑制される。第1領域R1と第2領域R2との境界において、スピン流の発生量が段階的に変化し(スピン流の発生量に面内分布(ばらつき)が生じ)、磁気記録層20内における急激なポテンシャル変化を抑制し、安定かつ精確な磁壁移動が可能になる。
−x方向から2番目に位置する第1領域R1Bは、2つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。1つの第1部分43の第1点p1からx方向に下した垂線PL1が、隣接する第1部分43と重ならず、別の第1部分43の第2点p2からx方向に下した垂線PL2が、隣接する第1部分43と重ならない点が、第1領域R1Aと異なる。その他の構成は、第1領域R1Aと同じである。垂線PL1、PL2が隣接する第1部分43と重ならない部分では、第1部分43で発生したスピン流が磁壁移動層20に減衰して流れ込む。この減衰により、第1領域R1と第2領域R2との境界において、スピン流の発生量が段階的に変化する。(スピン流の発生量に面内分布(ばらつき)が生まれる)。その結果、磁気記録層20内における急激なポテンシャル変化を抑制し、安定かつ精確な磁壁移動が可能になる。
−x方向から3番目に位置する第1領域R1Cは、3つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。第1領域R1Cは、第1領域R1C内に位置する第1部分43の数が3つである点が、図7に示す第1領域R1と異なる。第1領域R1Cは、第1部分43が3つの場合の一例であり、第1部分43の数は問わない。第1部分43の数を設定することで、第1領域R1と第2領域R2との境界におけるスピン流の発生量の違いを自由に設計できる。
−x方向から4番目に位置する第1領域R1Dは、3つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。第1部分43は、z方向から見てそれぞれ4つの辺を有する四角形である。4つの辺のうち隣接する第1部分43とy方向に対向する第1面43Aと第2面43Bとは、x方向に対してy方向に傾斜している。第1面43Aと第2面43Bとの傾斜方向が第1領域R1Aにおける第1部分43と異なる。第1部分43の数、及び、第1面43Aと第2面43Bの傾斜角を設定することで、第1領域R1と第2領域R2との境界におけるスピン流の発生量の違いを自由に設計できる。
−x方向から5番目に位置する第1領域R1Eは、3つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。第1部分43は、z方向から見てそれぞれ4つの辺を有する四角形である。4つの辺のうち隣接する第1部分43とy方向に対向する第1面43Aと第2面43Bとは、x方向に対してy方向に傾斜している。第1面43Aと第2面43Bとが平行ではない点が、第1領域R1Dと異なる。第1面43Aと第2面43Bの傾斜角をそれぞれ設定することで、第1領域R1と第2領域R2との境界におけるスピン流の発生量の違いを自由に設計できる。
最も+x方向に位置する第1領域R1Fは、2つの第1部分43と、第1部分43以外の第2部分44とを有する。2つの第1部分43の角部Ed1が湾曲していない点が、図7に示す第1領域R1と異なる。第1部分43の形状は、z方向からの平面視で、湾曲した角部を有する四角形に限られず、円形、楕円形、四角形でもよい。角部Ed1が湾曲していないことで、第1領域R1と第2領域R2との間に急激なポテンシャル差を生み出し、磁壁27の動きを制限する位置の位置精度を向上できる。
図9では、第1構造体40Cにおける第1領域R1のそれぞれが異なる構成の場合を例示したが、第1領域R1のそれぞれが全て第1領域R1A,R1B,R1C,R1D,R1E,R1Fのいずれかであってもよい。図9で例示したように、第1部分43、第2部分44の形状、数、構造等は、特に問わない。
第2変形例に係る磁壁移動素子101Bは、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じる。磁気記録層20内にポテンシャル差を生み出すことができれば、図9で例示したように、第1部分43、第2部分44の形状、数、構造等は、特に問わない。第2変形例に係る磁壁移動素子101Bは、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御でき、データの信頼性に優れる。
[第3実施形態]
図10は、第3実施形態に係る磁壁移動素子102の断面図である。図10は、磁壁移動素子102を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第3実施形態に係る磁壁移動素子102は、第1構造体40Dの構成が第1実施形態に係る磁壁移動素子100の第1構造体40と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1構造体40Dは、第1部分41と第2部分45とを有する。第1部分41及び第2部分45はy方向に延び、x方向に交互に配置されている。第1構造体40Dのx方向の幅、y方向の幅、z方向の厚みは、第1実施形態に係る第1構造体40と同様である。
第1部分41及び第2部分45は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる機能を有する金属、合金、金属間化合物、金属硼化物、金属炭化物、金属珪化物、金属燐化物のいずれかを含む。第1部分41及び第2部分45の主成分は、非磁性の重金属であることが好ましい。
第1部分41は、例えば、第3族、第4族、第5族及び第6族のいずれかに属する金属元素を主として有する。第1部分41は、例えば、Hf、Ta、Wである。第2部分45は、例えば、第8族、第9族、第10族、第11族及び第12族のいずれかに属する金属元素を主として有する。第2部分45は、例えば、Ir、Pt、Auである。第1部分41と第2部分45とは、スピンホール角の極性が異なる。第1部分41は例えば正の極性を示し、第2部分45は例えば負の極性を示す。
「スピンホール角の極性」は、第1スピンS1と第2スピンS2とがスピンホール効果によって曲げられる方向を示す。スピンホール効果は、第1スピンS1と第2スピンS2とを互いに反対方向に曲げる。第1スピンS1は、+z方向に曲げられる場合と−z方向に曲げられる場合とがある。例えば、第1スピンS1が+z方向に曲げられる場合、第1部分41は正の極性を有する。
また「スピンホール角」は、スピンホール効果の強さの指標の一つであり、第1部分41又は第2部分45を流れる電流に対して発生するスピン流の変換効率を示す。スピンホール角の絶対値が大きいほど、多くの第1スピンS1又は第2スピンS2が磁気記録層20に注入される。
磁壁移動素子102にデータを書き込む際、第1電極50と第2電極60との間に電流Iが流れる。第1部分41及び第2部分45は導体であり、電流Iの一部は、第1部分41及び第2部分45に分流する。
第1部分41及び第2部分45には、電流Iから分流した電流I2が流れる。第1部分41及び第2部分45は、電流が流れる際のスピンホール効果によってスピン流を発生させる。第1部分41と第2部分45とは、スピンホール角の極性が異なる。第1部分41から磁気記録層20へ注入されるスピン(第1スピンS1)の向きと、第2部分45から磁気記録層20へ注入されるスピン(第2スピンS2)の向きと、は異なる。
異なる向きのスピンが注入されることで、磁気記録層20内に磁気的なポテンシャルの差が生じる。第3実施形態に係る磁壁移動素子102は、第2部分45が第1部分41と異なる向きのスピンを注入するため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100より磁気記録層20内に生じる磁気的なポテンシャルの差が大きくなる。そのため、第3実施形態に係る磁壁移動素子102は、磁壁27の位置をより精確に制御でき、データの信頼性に優れる。
[第4実施形態]
図11は、第4実施形態に係る磁壁移動素子103の断面図である。図11は、磁壁移動素子103を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第4実施形態に係る磁壁移動素子103は、第1導電部70を有する点が第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1導電部70は、第1構造体40の磁気記録層20と反対側に接する。第1導電部70は、第1構造体40の第1部分41とそれぞれ電気的に接続されている。第1導電部70は、例えば、x方向に延びる配線である。第1導電部70は、例えば、第1部分41と同様の材料からなる。第1導電部70と第1部分41とは、例えば、同じ材料により構成されている。
磁壁移動素子103にデータを書き込む際、第1電極50と第2電極60との間に電流Iが流れる。第1部分41及び第1導電部70は導体であり、電流Iの一部は、第1部分41及び第1導電部70に分流する。
第1部分41及び第1導電部70には、電流Iから分流した電流I3が流れる。第1部分41は、互いに第1導電部70により接続されている。そのため、電流I3の電流量は、第1部分41が互いに接続されていない場合(第1実施形態に係る磁壁移動素子100)に第1部分41に分流する電流I1の電流量より大きい。
第1部分41を流れる電流の電流密度が大きいと、スピンホール効果は強く発現する。第1部分41を流れる電流I3の電流量が増えることで、多くのスピンが磁気記録層20に注入される。
第4実施形態に係る磁壁移動素子103は、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子101はデータの信頼性に優れる。
[第5実施形態]
図12は、第5実施形態に係る磁壁移動素子104の断面図である。図12は、磁壁移動素子104を磁気記録層21のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第5実施形態に係る磁壁移動素子104は、第1強磁性層11、磁気記録層21、非磁性層31、第1構造体40Eの構成が第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1強磁性層11は、磁化M11を有し、x方向に2つの側面11sを有する。非磁性層31は、x方向に2つの側面31sを有する。磁気記録層21は、z方向の表面に、第1面21sを有する。側面11s、31s及び第1面21sは、z方向に対してx方向に傾斜している。側面11s、31s及び第1面21sの接線は、z方向に対してx方向に傾斜する。側面11s、31s及び第1面21sは、例えば、連続する。例えば、xz平面において、側面11s、31s及び第1面21sを、連続する直線又は曲線で漸近線を描ける場合は、連続的に変化しているとみなせる。側面11s、31s及び第1面21sは、イオンミリング、フォトリソグラフィー等で加工される。側面11s、31s及び第1面21sは、z方向に対してx方向に傾斜する場合がある。
第1構造体40Eは、第1部分46と第2部分47とを有する。第1部分46及び第2部分47はy方向に延び、x方向に交互に配置されている。第1部分46及び第2部分47を構成する材料は、第1実施形態に係る第1部分41及び第2部分42と同様である。
第1部分46及び第2部分47のx方向の側面46s、47sは、z方向に対してx方向に傾斜している。図12に示す第1部分46は、xz切断面における形状が、上底の長さが下底の長さより短い台形である。図12に示す第2部分47は、xz切断面における形状が、下底の長さが上底の長さより短い台形である。スピンは、第1部分46の第1面46tから磁気記録層20に注入される。第1部分46のxz切断面における形状が、上底の長さが下底の長さより短い台形の場合、第1部分46で生じたスピンは下底側から上底側に向って集中する。注入されるスピンが局所的に集中することで、磁壁27の動きを磁気記録層20のピンポイントで制御できる。
第1部分46は磁気記録層20と接する第1面46tを有し、第2部分47は磁気記録層20と接する第2面47tを有する。第1面46tと第2面47tとはz方向に同じ高さ位置にある。第1面46tと第2面47tとは、第1構造体40Eの表面を化学機械研磨(CMP)すると、平坦化する。
第5実施形態に係る磁壁移動素子104においても、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子104はデータの信頼性に優れる。
第5実施形態に係る磁壁移動素子104の一例について詳述したが、第5実施形態に係る磁壁移動素子104は、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
(第3変形例)
図13は、第3変形例に係る磁壁移動素子104Aの断面図である。図13は、磁壁移動素子104Aを磁気記録層21のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第3変形例にかかる磁壁移動素子104は、第1部分46Aの磁気記録層21と接する第1面46Atが、第2部分47の磁気記録層21と接する第2面47tに対して突出している点が、図12に示す磁壁移動素子104と異なる。その他の構成は同様であり、説明を省く。
第1構造体40Eは、第1部分46Aと第2部分47とを有する。第1部分46Aは、+z方向の第1面46Atが+z方向に向かって突出している点が、図12に示す第1部分46と異なる。その他の構成は、図12に示す第1部分46と同様である。
第1面46Atは、第2面47tに対して突出している。そのため、磁壁移動素子104Aにおける第1部分46Aと磁気記録層21との接触面積は、磁壁移動素子104における第1部分46と磁気記録層21との接触面積より広い。スピンは、第1面46Atを介して磁気記録層21に注入される。第1面46Atの面積が広くなると、磁気記録層21にスピンを注入しやすくなる。
また磁気記録層21のz方向の厚みは、第1部分46とz方向に重なる位置と、第2部分47とz方向に重なる位置と、で異なる。すなわち、磁気記録層21のz方向の厚みは、x方向の位置によって異なる。磁気記録層21内の磁気的なポテンシャルは、磁気記録層21の形状によっても変化する。従って、磁気記録層21内の磁気的なポテンシャルは、第1部分46Aから注入されるスピンによる効果と、磁気記録層21の形状に伴う効果を受けて、x方向の位置によって変化する。
第3変形例に係る磁壁移動素子104Aは、磁気記録層21内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子104Aはデータの信頼性に優れる。
(第4変形例)
図14は、第4変形例に係る磁壁移動素子104Bの断面図である。図14は、磁壁移動素子104Bを磁気記録層21のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第4変形例にかかる磁壁移動素子104Bは、第1部分46Bの磁気記録層21と接する第1面46Btが、第2部分47の磁気記録層21と接する第2面47tに対して凹んでいる点が、図12に示す磁壁移動素子104と異なる。その他の構成は同様であり、説明を省く。
第1構造体40Eは、第1部分46Bと第2部分47とを有する。第1部分46Bは、+z方向の第1面46Btが−z方向に向かって凹んでいる点が、図12に示す第1部分46と異なる。その他の構成は、図12に示す第1部分46と同様である。
第1面46Btは、第2面47tに対して窪んでいる。そのため、磁壁移動素子104Bにおける第1部分46Bと磁気記録層21との接触面積は、磁壁移動素子104における第1部分46と磁気記録層21との接触面積より広い。また磁気記録層21のz方向の厚みは、第1部分46とz方向に重なる位置と、第2部分47とz方向に重なる位置と、で異なる。従って、磁気記録層21内の磁気的なポテンシャルは、第1部分46Bから注入されるスピンによる効果と、磁気記録層21の形状に伴う効果を受けて、x方向の位置によって変化する。
第4変形例に係る磁壁移動素子104Bは、磁気記録層21内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子104Bはデータの信頼性に優れる。
(第5変形例)
図15は、第5変形例に係る磁壁移動素子104Cの断面図である。図15は、磁壁移動素子104Cを磁気記録層21のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第5変形例にかかる磁壁移動素子104Bは、第1部分46C及び第2部分47Cの形状が、図12に示す磁壁移動素子104と異なる。その他の構成は同様であり、説明を省く。
第1構造体40Eは、第1部分46Cと第2部分47Cとを有する。第1部分46Cは、xz切断面において、上底の長さが下底の長さより長い台形である点が、図12に示す第1部分46と異なる。第2部分47Cは、xz切断面において、上底の長さが下底の長さより短い台形である点が、図12に示す第2部分47と異なる。
第1部分46Cは磁気記録層20と接する第1面46Ctを有し、第2部分47Cは磁気記録層20と接する第2面47Ctを有する。z方向から見て、第1面46Ctの面積は、第2面47Ctの面積より広い。第1面46Ctの面積が広くなると、磁気記録層21にスピンを注入しやすくなる。
第5変形例に係る磁壁移動素子104Cは、磁気記録層21内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子104Cはデータの信頼性に優れる。
また第5変形例に係る磁壁移動素子104Cは、第1面46Ctと第2面47Ctとがz方向に同じ高さ位置にある。第1面46Ctは、第3変形例と同様に第2面47Ctに対して突出していてもよく、第4変形例と同様に第2面47Ctに対して窪んでいてもよい。
[第6実施形態]
図16は、第6実施形態に係る磁壁移動素子105の断面図である。図16は、磁壁移動素子105を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。第6実施形態に係る磁壁移動素子105は、第1構造体40Fを構成する第1部分41、41Aのx方向の幅が一定ではない点が、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1構造体40Fは、第1部分41、41Aと第2部分42とを有する。第1部分41Aは、z方向に第1強磁性層10と重なる位置にある。第1部分41Aは、その他の第1部分41よりx方向の幅が広い。第1部分41、41Aと第2部分42のz方向の厚みは、それぞれ異なってもよい。
磁気抵抗変化は、非磁性層を挟む二つの強磁性層の磁化の相対角の変化により生じる。磁壁移動素子105のz方向の抵抗値は、第1強磁性層10とz方向に重なる位置における磁気記録層20の磁化状態が変化することで、変動する。磁壁27がz方向において第1強磁性層10と重ならない位置で移動しても、磁壁移動素子105のz方向の抵抗値は変化しない。換言すると、磁壁27の動きを最も制御すべき箇所は、磁気記録層20においてz方向において第1強磁性層10と重なる部分である。
第1部分41Aは、第1部分41より磁気記録層20との接触面積が広く、多くのスピンを磁気記録層20へ注入する。その結果、磁壁27は、第1部分41Aに面する部分において、第1部分41に面する部分より動きにくくなる。その結果、磁壁27は、磁壁移動素子105の抵抗値変化に影響を及ぼしにくい領域(第1部分41Aに面する部分より第1電極50又は第2電極60側)に至りにくくなる。また磁壁27の移動範囲を規定することで、磁壁移動素子105の抵抗値変化の範囲を指定できる。
また第6実施形態に係る磁壁移動素子105は、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子105はデータの信頼性に優れる。
「第7実施形態」
図17は、第7実施形態にかかる磁壁移動素子106の断面図である。図17は、磁壁移動素子106を磁気記録層20のy方向の中心を通るxz平面で切断した断面図である。磁壁移動素子106は、磁気記録層20と非磁性層30との間に、第3強磁性層75を備える点が、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第3強磁性層75は、磁性体を含む。第3強磁性層75は、磁気記録層20の磁気状態を反映する。第3強磁性層75を構成する磁性体は、第1強磁性層10と同様のものを用いることができる。
第3強磁性層75は、磁気記録層20と互いに隣り合う。第3強磁性層75と磁気記録層20との間に中間層を有してもよい。中間層は、例えば、Ruである。
第3強磁性層75の磁化M78、M79は、磁気記録層20の磁化M28、M29と磁気結合している。第3強磁性層75は、磁気記録層20の磁気状態を反映する。第3強磁性層75と磁気記録層20とが強磁性カップリングする場合は、第3強磁性層75の磁気状態は磁気記録層20の磁気状態と同一になる。第3強磁性層75と磁気記録層20とが反強磁性カップリングする場合は、第3強磁性層75の磁気状態は磁気記録層20の磁気状態と反対になる。第3強磁性層75の内部には、第1磁区78と第2磁区79とが形成される。
磁壁移動素子106の磁気抵抗変化(MR比)は、非磁性層30を挟む2つの磁性体(第1強磁性層10と第3強磁性層75)の磁気状態の変化により生じる。第3強磁性層75は、第1強磁性層10との間で、コヒーレントトンネル効果を得やすい材料を含むことが好ましい。一方で、磁気記録層20は、磁壁27の移動速度が遅くなる材料を含むことが好ましい。
第1実施形態にかかる磁壁移動素子100において、磁気記録層20は、非磁性層30を挟む2つの磁性体の一方である。磁壁移動素子100において、磁気記録層20は、磁壁27の移動速度が遅く、かつ、磁壁移動素子100のMR比を向上できる材料により構成されていることが好ましい。これに対し、第7実施形態に係る磁壁移動素子106において、磁気記録層20は、非磁性層30を挟む2つの磁性体ではない。磁壁移動素子106の場合、磁気記録層20を構成する材料は、磁壁移動素子106のMR比への影響が少ない。したがって、磁壁移動素子106は、磁気記録層20の材料選択の自由度が高い。
また第7実施形態に係る磁壁移動素子106は、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子106はデータの信頼性に優れる。
「第8実施形態」
図18は、第8実施形態にかかる磁壁移動素子107の平面図である。図19は、第8実施形態にかかる磁壁移動素子107を+y方向から見た側面図である。磁壁移動素子107は、第1構造体40が磁気記録層20の側面に接している点が、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と異なる。その他の構成は、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様であり、説明を省く。
第1構造体40が磁気記録層20の側面に位置する場合でも、第1部分41に電流が分流するため、第1部分41から磁気記録層20にスピンが注入される。注入されたスピンは、磁気記録層20内の磁気的なポテンシャルを変化させる。その結果、磁気記録層20の第1部分41に面する部分と第2部分42に面する部分とで、磁壁27の移動しやすさは変化する。
従って、第8実施形態に係る磁壁移動素子107は、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子107はデータの信頼性に優れる。
[第9実施形態]
図20は、第9実施形態にかかる磁気記録アレイ201の要部の断面図である。図21は、第9実施形態にかかる磁壁移動素子108の断面図である。図20及び図21は、磁気記録層20のy方向の幅の中心を通るxz平面で切断した断面である。図20は、便宜上、一つの磁壁移動素子108にフォーカスし、磁壁移動素子108に接続された3つのトランジスタTrを図示している。磁壁移動素子108は、磁気記録層20より第1強磁性層10が基板Subの近くに位置するボトムピン構造である。図2に示す磁気記録アレイ200及び図3に示す磁壁移動素子100と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省く。
ボトムピン構造の磁気記録アレイ201は、以下の手順で作製される。まず基板Sub上に3つのトランジスタTr、第1配線Cm、第2配線Wp及び第3配線Rpを絶縁層80を介して形成する。そして、絶縁層80の一面に、第1強磁性層10、非磁性層30及び磁気記録層20を順に積層し、それぞれの層を所定の形状に加工する。そして第1強磁性層10、非磁性層30及び磁気記録層20の周囲を更に絶縁層80で覆う。磁気記録層20及び絶縁層80の表面を平坦化した後、第1電極50及び第2電極60を形成する。また磁気記録層20の+z方向の位置に第1構造体40を形成することで、磁気記録アレイ201が得られる。
第9実施形態に係る磁壁移動素子108においても、磁気記録層20内にポテンシャル差が生じるため、第1実施形態に係る磁壁移動素子100と同様に、磁壁27の位置を精確に制御できる。したがって、磁壁移動素子108はデータの信頼性に優れる。
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、第1実施形態から第10実施形態における特徴的な構成をそれぞれ組み合わせてもよい。また各実施形態における変形例を他の実施形態に適用してもよい。