JP2020144070A - 角層メラニン観察方法 - Google Patents
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特許文献8には、コンゴレッド色素で染色し、染色した角層細胞を偏光顕微鏡によって鑑別する皮膚の鑑別方法が記載されている。
すなわち、本発明は角層中のメラニン顆粒のみを観察可能な、角層試料の調製方法及び調製した試料を用いた皮膚角層のメラニンの状態を評価する方法、及びその観察結果を用いた、ヒト皮膚のメラニン量を測定する方法を提供することを課題とする。
(1)角層試料を、次亜塩素酸化合物及び/または界面活性剤の溶液で処理し、メラニン以外の角層成分を透明化することを特徴とする顕微鏡観察用角層試料の調製方法。
(2)角層試料がテープストリッピング法によって採取されたものである(1)に記載の調製方法。
(3)次亜塩素酸化合物が次亜塩素酸ナトリウムである(1)または(2)に記載の調製方法。
(4)界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである(1)〜(3)のいずれかに記載の調製方法。
(5)次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.4質量%以上である(3)に記載の調製方法。
(6)ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が2.5〜20質量%である(4)に記載の調製方法。
(7)(1)〜(6)に記載のいずれかの方法で調製された角層試料を顕微鏡観察することによって皮膚角層のメラニン顆粒の状態を評価する評価方法。
(8)(1)〜(6)に記載のいずれかの方法で調製された角層試料の顕微鏡観察画像を白黒の二値データ化し、黒のデータの画素(ピクセル)数値を求めることにより角層中メラニン量を測定する方法。
(9)(1)〜(6)に記載のいずれかの方法で調製された角層試料の顕微鏡観察試料から得たメラニン顆粒量のデータに基づき、皮膚の状態を解析する方法。
また本発明の方法で得られた顕微鏡観察用試料は、角層中のメラニン顆粒のみが原型を保っており、その他の組織は均一化され、また透明化されているため、メラニン顆粒の観察が極めて容易である。したがって、角層中におけるメラニンの状態を容易に観察可能であり、正確に評価できる。また観察画像を二値化することで、メラニンのみを画素数として容易に計測でき、これを基準として角層中のメラニン量を測定し、解析することができる。
(工程1)角層剥離手段を用いて、皮膚より角層試料を採取する。
(工程2)工程1で採取した角層試料を、剥離面を上方にして透明板に貼り付けたのち、次亜塩素酸類溶液または界面活性剤溶液を滴下した後、一定時間静置する。
(工程3)工程2で得られた角層試料を水によって洗浄する。
(工程4)工程3で洗浄した角層試料を風乾後顕微鏡観察試料とする。
(工程5)工程4で得られた顕微鏡観察試料を顕微鏡観察して目視評価する。
(工程6)デジタルカメラで撮影した観察画像をデータとして取得する。
(工程7)工程6で取得した観察画像を、画像処理によって白黒の二値化データに変換し、白黒の面積データを取得する。
(工程8)黒データのピクセル値をメラニン顆粒データとする。
テープストリッピング法は、粘着性テープを皮膚に貼り付けた後、剥がして皮膚の表層を回収する方法である。
粘着剤としては、天然ゴム、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、シリコーンゴム、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体等の合成ゴム、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル酸エステル共重合体等の合成樹脂等が用いられている。テープストリッピング法に用いる粘着テープは市販されており、これを使用しても良い。
なお、本発明に使用する次亜塩素酸塩含有水溶液は、市販の洗濯用塩素系漂白剤溶液を使用することもできる。
SDSは水溶液又はPBS等の緩衝液に溶解させて用いる。水溶液中のSDS濃度は、2.5〜20質量%、好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは10質量%である。前記次亜塩素酸塩水溶液と混合した混合溶液であっても良い。水溶液の媒体としては、純水、イオン交換水、蒸留水、水道水、生理食塩水、PBS等が挙げられる。
なお、SDS水溶液の使用量は、角層試料の全面がSDS水溶液で濡れるように滴下する必要がある。通常試験試料当たり0.5〜1mlを滴下し、試験試料がSDS水溶液に充分浸潤させる。
こうして、肌の状態の指標となるメラニンを直接観察することで、肌性、肌質、肌色、シミの状態等を評価することができる。
<試験1>
本試験においては、本発明の方法によって角層中のメラニンを直接観察した試験例を示す。
1.試験方法
皮膚の角層剥離用粘着テープとして2.5cm×2.5cmの角質チェッカー(アサヒバイオメッド社)を用いた。
被験者の女性頸部より前記の角質チェッカーを用いて、テープストリッピング法により角層を採取した。
採取した角層を透明スライドガラス上にメンディングテープを用いて貼り付け、次亜塩素酸塩水溶液として市販の塩素系漂白剤(キッチンハイター:次亜塩素酸ナトリウム6質量%含有)を滴下した。室温で5分間静置した後に精製水洗浄後、風乾させ、これを観察試料として40倍の対物レンズを用いて顕微鏡で観察を行った。また比較のため、採取した角層試料(次亜塩素酸塩処理を行なわなかった試料)を同様の条件で顕微鏡観察を行った。
次亜塩素酸塩水溶液を滴下した角層試料は、メラニンの黒点以外、観察画面の背景が均一の状態に変化し、メラニン顆粒以外は透明化した。一方比較対照の角層試料は、角層を構成する細胞壁や細胞構造が画面全体様々な濃淡で観察されて、メラニン顆粒の判別が困難であった。
図1に、採取した角層の観察画像(処理前)および次亜塩素酸塩水溶液(塩素系漂白剤)を滴下した処理を行った角層試料(処理後)の観察画像を示す。右図(処理後)の画像中で、周囲の均一な背景中より濃く出現している顆粒状のスポットは、下記の試験2で確認したようにメラニン顆粒であった。
試験1で観察された顆粒がメラニン顆粒であるか同定するために、角層中のメラニン顆粒をフォンタナマッソン法により染色した。
1.試験方法
試験1と同様に採取した角層試料に、メラニン染色のため5%硝酸銀を含むフォンタナアンモニア銀液(武藤化学株式会社)を滴下した。12時間室温に静置して、メラニン顆粒を選択的に染色した。染色後、精製水で洗浄し、顕微鏡観察を行い、メラニン顆粒の観察画像を撮影した。
顕微鏡観察を行った後、さらにこの角層試料に上記試験1と同様に次亜塩素酸塩水溶液を滴下した。室温で5分間静置した後に精製水洗浄後、風乾させ、これを観察試料として再度顕微鏡で観察を行った。
図2に示すとおり、フォンタナアンモニア銀液によりメラニン顆粒が黒色に染色される。しかし同時に角層試料中のタンパク質や細胞壁なども染色された(図2処理前画像)。
一方、この試料を、これに次亜塩素酸塩水溶液を滴下処理することで、メラニン顆粒がより顕著に確認できるようになった(図2の処理画像参照)。次亜塩素酸塩水溶液処理は、メラニン顆粒には影響がないことが確認された。
したがって、試験1で確認された顆粒はメラニン顆粒であると考えられた。
本発明の適用性を確認するため、複数の被験者を対象に試験を行った。
1.試験方法
粘着テープとして2.5cm×2.5cmの角質チェッカー(アサヒバイオメッド社)を用いて、肌の色調や状態の異なる4名の被験者から、前腕内側部よりテープストリッピングにより角層試料を採取、観察用に透明スライドグラスに試料を貼り付けた。
採取した4名の被験者の角層の観察用スライドグラスを、それぞれID:1、ID:2、ID:3、ID:4と試料名を付した。この試料について、顕微鏡で観察しデジタルカメラで観察画像を撮影した。ついで、この観察試料に上記試験1と同様に次亜塩素酸塩水溶液を滴下した。室温で5分間静置した後に精製水洗浄後、風乾させ、これをメラニン顆粒観察試料とした。
メラニン顆粒観察試料を用いて顕微鏡観察を行なうと同時に、デジタルカメラで撮影を行った。
デジタルカメラで撮影した画像データをコンピュータに取り込み、ImageJを用いて、画像処理を行った。
取得した画像をImageJにてグレースケール画像(0〜256諧調)に変換した。このうち顆粒以外の背景部分を削除して面積を求めるために、背景の諧調を測定した。その結果4画像の平均は147であった。より厳密に背景ノイズを排除するために、しきい値を135に設定し画像を2値化し、メラニン顆粒の画像のみを抽出した。本抽出画像より、1500×1500pixelsの画像に含まれるメラニン顆粒の総画素数(pixels)を求めた。
この画素数出力をメラニン量とした。
採取した角層試料の顕微鏡観察画像を図3、次亜塩素酸塩水溶液で処理した角層試料の観察画像を図4、二値化データ処理後の観察画像を図5に示した。図3では顆粒以外の角層構造部分も観察されるが、図4に示す次亜塩素酸塩水溶液処理後では角層構造はわずかに観察されるものの、メラニン顆粒が主に観察され、ID1、4、2、3の順にメラニン顆粒が多いことがわかった。さらに、図5に示すように、しきい値を設定して画像を二値化することで、角層構造は認識されず、メラニン顆粒のみが抽出された画像を得た。
ID:1 11086pixels、 0.49%
ID:2 1489pixels、 0.07%
ID:3 1203pixels、 0.05%
ID:4 3201pixels、 0.14%
次亜塩素酸塩水溶液とその他水溶液による比較試験
1.試験方法
試験1で採取した角層試料を用いて、その他の水溶液の効果を比較した。
・試験に用いた水溶液
蒸留水(H2O)、40%尿素水溶液(Urea:MP Biomedicals,Inc.)、30質量%過酸化水素水(H2O2:富士フィルム和光純薬株式会社)、次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩素系漂白剤)、10質量%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液(MP Biomedicals,Inc.)、1N水酸化ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社)、12M塩酸(富士フィルム和光純薬株式会社)をそれぞれ角層試料に滴下し、室温で15分静置した。その後、精製水で洗浄し、風乾後顕微鏡観察を行った。
図6に観察画像を示した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩素系漂白剤)、SDS10質量%水溶液を滴下した試料画像が、メラニンの黒点以外、観察画面の背景が均一の状態に変化し、メラニン顆粒以外は透明化した。一方他の角層試料は、角層を構成する細胞壁や細胞構造が画面全体様々な濃淡で観察されて、メラニン顆粒の判別が困難であった。
試験4で効果が確認されたSDSならびに次亜塩素酸塩の適切な濃度を検討した。
1.試験方法
試験1で採取した角層試料を用いて、次亜塩素酸塩及びSDSの最適濃度を検討した。
次亜塩素酸塩として、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(富士フィルム和光純薬株式会社)を濃度100質量%より精製水にて3倍公比にて希釈した7段階の濃度の水溶液、SDS水溶液を20%より精製水にて2倍公比にて希釈した7段階の濃度の水溶液を調製した。これらの水溶液及び精製水を、それぞれ角層に滴下し、室温で15分静置後、精製水にて洗浄し、顕微鏡下にて観察を行った。
図7にSDSを用いた場合の画像、図8に次亜塩素酸ナトリウムの顕微鏡観察画像を示した。SDSは5質量%以上の濃度で、次亜塩素酸ナトリムは1.2質量%以上の濃度で、メラニン顆粒が観察しやすい状態になった。
なお、SDS2.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム0.4質量%では、やや観察しにくいものの、メラニン顆粒が明瞭に観察された。この濃度以下では効果がなかった。
したがって、SDSの濃度は2.5質量%、次亜塩素酸ナトリウムの濃度は0.4質量%が境界値であると考えられた。
Claims (9)
- 角層試料を、次亜塩素酸化合物及び/または界面活性剤の溶液で処理し、メラニン以外の角層成分を透明化することを特徴とする顕微鏡観察用角層試料の調製方法。
- 角層試料がテープストリッピング法によって採取されたものである請求項1に記載の調製方法。
- 次亜塩素酸化合物が次亜塩素酸ナトリウムである請求項1または2に記載の調製方法。
- 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウムである請求項1〜3のいずれかに記載の調製方法。
- 次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.4質量%以上である請求項3記載の調製方法。
- ドデシル硫酸ナトリウムの濃度が2.5〜20質量%である請求項4に記載の調製方法。
- 請求項1〜6に記載のいずれかの方法で調製された角層試料を顕微鏡観察することによって皮膚角層のメラニン顆粒の状態を評価する評価方法。
- 請求項1〜6に記載のいずれかの方法で調製された角層試料の顕微鏡観察画像を白黒の二値データ化し、黒のデータの画素(ピクセル)数値を求めることにより角層中メラニン量を測定する方法。
- 請求項1〜6に記載のいずれかの方法で調製された角層試料の顕微鏡観察用試料から得たメラニン顆粒量のデータに基づき、皮膚の状態を解析する方法。
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