JP2020125395A - 熱可塑性樹脂シート - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた耐火性を発揮することが可能な熱可塑性樹脂シートを提供する。【解決手段】本発明の熱可塑性樹脂シートは、熱膨張性黒鉛と、樹脂成分とを含有する熱可塑性樹脂シートであって、400℃で30分間燃焼させた際の残渣の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)が6以下の熱可塑性樹脂シートである。【選択図】なし

Description

本発明は熱可塑性樹脂シートに関する。
建築分野では、防火のために、建具、柱、壁材等の建築材料に耐火材が用いられる。耐火材としては、樹脂に、難燃剤、無機充填剤などに加えて、熱膨張性黒鉛が配合された耐火シート(熱可塑性樹脂シート)等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。このような熱可塑性樹脂シートは、加熱により膨張して燃焼残渣が耐火断熱層を形成し、耐火断熱性能を発現する。
熱膨張性黒鉛を含有する熱可塑性樹脂シートは、例えば、建築物の開口部に設けられるドア、窓などの建具と、これらを包囲するドア枠、窓枠などの枠との隙間に設けられ、火災時には該シートが厚み方向に膨張して、建具と枠材の隙間を閉塞し、延焼を防止することができる。
特開2017−141463号公報
ところが、熱膨張性黒鉛を含む熱可塑性樹脂シートを用いた場合であっても、火災時において、長期間経過すると、建具と枠との隙間を閉塞し難くなる場合があることが分かった。この原因について、発明者らの検討によると次のようにことが明らかとなった。
火災時においては、出火から長時間経過すると、熱により建具の反りが進行していく。この場合、建具の反りの方向は、熱可塑性樹脂シートの厚み方向と垂直の方向(シートの平面方向)であることが多い。建具の反りが生じた場合、熱可塑性樹脂シートの厚み方向の膨張倍率が大きく、平面方向の膨張倍率が小さいと、建具の反りにより生じる枠との隙間を効果的に閉塞することが難しくなることが明らかとなった。
そこで、本発明は、上記したような建具の反りなどによって生じる隙間を閉塞しやすくするため、平面方向に膨張しやすい熱可塑性樹脂シートを提供することを目的とする。
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者は、熱膨張性黒鉛と、樹脂成分とを含有する熱可塑性樹脂シートにおいて、燃焼させた際の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)を一定値以下にすることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]熱膨張性黒鉛と、樹脂成分とを含有する熱可塑性樹脂シートであって、400℃で30分間燃焼させた際の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)が6以下である、熱可塑性樹脂シート。
[2]歪み1%、周波数1Hzで測定した動的粘弾性のtanδピーク温度が100℃以下である、上記[1]に記載の熱可塑性樹脂シート。
[3]樹脂成分100質量部に対して可塑剤を50質量部以上含有する、上記[1]又は[2]に記載の熱可塑性樹脂シート。
[4]前記可塑剤が、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
[5]前記熱膨張性黒鉛のアスペクト比が20以下である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
[6]さらに比重が2.5以上の無機充填剤を含有する、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
[7]前記樹脂成分がポリ塩化ビニル系樹脂である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
本発明によれば、平面方向に膨張しやすく、建具の反りなどが生じた場合であっても、優れた耐火性を発揮することが可能な熱可塑性樹脂シートを提供することができる。
耐火試験に用いた試験片を模式的に示した図である。
[熱可塑性樹脂シート]
本発明の熱可塑性樹脂シートは、熱膨張性黒鉛と、樹脂成分とを含有する熱可塑性樹脂シートであって、400℃で30分間燃焼させた際の残渣の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)が6以下である。
なお、本明細書では、400℃で30分間燃焼させた際の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)を単に膨張倍率の比ともいう。
(膨張倍率)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、膨張倍率の比が6以下である。熱可塑性樹脂シートの膨張倍率の比が6を超えると、平面方向の膨張倍率が小さく、平面方向に生じる隙間に追従して膨張することができず、建具の反りなどが生じた場合に、優れた耐火性を発揮することができない。耐火性を高める観点から、熱可塑性樹脂シートの膨張倍率の比は、好ましくは5以下であり、より好ましくは4.5以下である。また、火災時に建具の反りなどが生じる場合は、平面方向に膨張しやすい熱可塑性樹脂シートが耐火性の観点から好ましいが、より耐火性を向上させる観点から、熱可塑性樹脂シートは、厚み方向と平面方向にバランスよく膨張することがより好ましい。そのため、耐火性を高める観点から、厚み方向の膨張倍率も一定以上は確保しておくことが好ましく、そのため、膨張倍率の比は、3以上であることが好ましい。
熱可塑性樹脂シートの厚み方向の膨張倍率は、好ましくは5.0〜30.0倍であり、より好ましくは7.5〜20.0倍である。これら下限値以上であると、火災時に熱可塑性樹脂シートが厚み方向にも膨張しやすく、厚み方向と平面方向にバランスよく膨張する熱可塑性樹脂シートを得やすくなる。これら上限値以下であると、膨張倍率の比を上記した所望の値に調整しやすくなり、平面方向に膨張しやすいことで、建具の反りなどが生じても隙間を閉塞しやすい熱可塑性樹脂シートを得やすくなる。
熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率は、好ましくは1.5〜9.0倍であり、より好ましくは2.0〜7.0倍である。これら下限値以上であると、膨張倍率の比を上記した所望の値に調整しやすくなり、平面方向に膨張しやすいことで、建具の反りなどが生じても隙間を閉塞しやすい熱可塑性樹脂シートを得やすくなる。これら上限値以下であると、厚み方向と平面方向にバランスよく膨張する熱可塑性樹脂シートを得やすくなる。
熱可塑性樹脂シートの厚み方向の膨張倍率、平面方向の膨張倍率、膨張倍率の比は、後述する熱膨張性黒鉛のアスペクト比、粒径、配合量、熱可塑性樹脂シートに任意に配合される可塑剤の種類などにより調節することができる。
熱可塑性樹脂シートの厚み方向の膨張倍率は、熱可塑性樹脂シートを試験片として400℃で30分間加熱して、以下の式で求める。
厚さ方向の膨張倍率=加熱後の試験片残渣の厚さ/加熱前の試験片の厚さ
加熱後の試験片残渣の厚さは、試験片残渣において、最も厚い部分の長さをいう。
熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率は、熱可塑性樹脂シートを試験片として400℃で300分間加熱して、以下の式で求める。
平面方向の膨張倍率=(加熱後の試験片残渣のX方向の長さ/加熱前の試験片のX方向の長さ)×(加熱後の試験片残渣のY方向の長さ/加熱前の試験片のY方向の長さ)
X方向とは試験片又は試験片残渣の長手方向を意味し、Y方向とはX方向と直交する方向であり、試験片又は試験片残渣の幅方向を意味する。試験片又は試験片残渣の面が正方形の場合は、該正方形における任意に選択した一辺に沿う方向を長手方向とし、長手方向に直交する方向を幅方向とすればよい。
試験片残渣のX,Y方向の長さは、X,Y方向において、最も長い部分の長さをいう。
熱可塑性樹脂シートの厚さは特に限定されないが、耐火性及び取扱い性の観点から、0.2〜10mmが好ましく、0.5〜3.0mmがより好ましい。
(tanδピーク温度)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、歪み1%、周波数1Hzで測定した動的粘弾性のtanδピーク温度が100℃以下であることが好ましい。100℃以下であることにより、上記した膨張倍率の比を所望の範囲に調整しやすくなり、火災時に建具の反りなどが生じた場合などにおいても、平面方向に膨張しやすいため、隙間を閉塞しやすく、耐火性の良好な熱可塑性樹脂シートとなる。これは、tanδピーク温度が100℃以下である場合には、加熱時の樹脂成分の流動性が高く、熱可塑性樹脂シート中の樹脂成分が平面方向に広がりやすいからと推察される。熱可塑性樹脂シートのtanδピーク温度は、好ましくは90℃以下であり、より好ましくは80℃以下であり、そして好ましくは0℃以上である。
本発明において、tanδピーク温度は、動的粘弾性測定装置を用いて、せん断法にて、歪み1%、周波数1Hzで測定して得られた損失正接の最大値を示す温度である。
(熱膨張性黒鉛)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、熱膨張性黒鉛を含有する。熱膨張性黒鉛は、加熱時に膨張する従来公知の物質であり、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の原料粉末を、強酸化剤で酸処理してグラファイト層間化合物を生成させたものである。強酸化剤としては、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸、濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等が挙げられる。熱膨張性黒鉛は炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
熱膨張性黒鉛は中和処理されてもよい。つまり、上記のように強酸化剤などで処理して得られた熱膨張性黒鉛を、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和してもよい。
本発明における熱膨張性黒鉛は、アスペクト比が20以下であることが好ましい。アスペクト比が20以下であることにより、熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率が高くなりやすく、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。熱膨張性黒鉛のアスペクト比は、より好ましくは18以下であり、更に好ましくは15以下であり、そして好ましくは5以上である。
熱膨張性黒鉛のアスペクト比は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法(長径)と最小寸法(短径)を測定し、これらの比(最大寸法/最小寸法)の平均値として求める。
熱膨張性黒鉛の平均粒径は、熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率を高くして、膨張倍率を上記した所望の範囲に調整しやすくする観点から、好ましくは50〜500μmであり、より好ましくは100〜400μmである。なお、熱膨張性黒鉛の平均粒径は、10個以上(例えば50個)の熱膨張性黒鉛を対象にして、最大寸法の平均値として求める。
上記した熱膨張性黒鉛の最小寸法及び最大寸法は、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて測定することができる。
熱可塑性樹脂シート中の熱膨張性黒鉛の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上、より好ましくは40質量部以上、更に好ましくは60質量部以上であり、そして好ましくは300質量部以下、より好ましくは200質量部以下、更に好ましくは130質量部以下である。これら下限値以上であると、熱可塑性樹脂シートの厚み方向及び平面方向の膨張倍率が高まり、耐火性が向上する。これら上限値以下であると、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
(樹脂成分)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、樹脂成分を含有する。樹脂成分は、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリ(1−)ブテン樹脂、ポリペンテン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂(PVC)、ノボラック樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソブチレン等の熱可塑性樹脂を含む。
熱可塑性樹脂の中でも、熱可塑性樹脂シートの耐火性を良好とする観点から、ポリ塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が好ましく、ポリ塩化ビニル樹脂がより好ましい。
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルモノマーの単独重合体、塩化ビニルモノマーと塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体、塩化ビニルモノマー以外の重合体又は共重合体に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。
なお、本発明においては、ポリ塩化ビニル系樹脂の塩素化物である塩素化ポリ塩化ビニル系樹脂も、ポリ塩化ビニル系樹脂に含まれるものとする。
ポリ塩化ビニル樹脂の重合度は500〜2,000が好ましく、800〜1500がより好ましい。このような範囲であると、樹脂成分の流動性が高まり、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、非架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよいし、また、高温架橋型のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂であってもよい。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体のけん化物、エチレン−酢酸ビニルの加水分解物などのようなエチレン−酢酸ビニル変性体樹脂も用いることができる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂は、JIS K 6730「エチレン・酢酸ビニル樹脂試験方法」に準拠して測定される酢酸ビニル含量が好ましくは8〜50質量%、より好ましくは12〜35質量%である。酢酸ビニル含量をこれら下限値以上とすることで、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の結晶性が低下し、流動性が高まることで、熱可塑性樹脂シートの膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。また、酢酸ビニル含量をこれら上限値以下とすることで、熱可塑性樹脂シートの機械的強度が良好となる。
エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂の数平均分子量は8000〜40000が好ましく、10000〜35000がより好ましい。数平均分子量をこのような範囲とすることにより、樹脂成分の流動性が高まり、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
樹脂成分は上記した熱可塑性樹脂以外にも、エラストマー、ゴムなどを含んでもよい。
エラストマーとしてはオレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、エステル系エラストマー、アミド系エラストマー等が挙げられる。
ゴムとしては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多加硫ゴム、非加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等のゴム等が挙げられる。
樹脂成分全量基準に対して、熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%である。
(可塑剤)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、可塑剤を含有することが好ましい。熱可塑性樹脂シートが可塑剤を含有することにより、樹脂成分が流動しやすくなり、平面方向の膨張倍率が高まりやすくなる。そのため、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。
可塑剤は、樹脂成分の流動性を高め、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくする観点から、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
アジピン酸系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、アジピン酸系ポリエステルなどが挙げられる。
これらの中でも、アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、アジピン酸系ポリエステルなどが好ましい。
上記したアジピン酸系ポリエステルの分子量は好ましくは500〜3,000であり、より好ましくは600〜2,800であり、更に好ましくは1,000〜2,500である。
リン酸系可塑剤としては、例えば、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクロロエチルホスフェート、トリス(2−クロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(2,3−ジブロモプロピル)ホスフェート、トリス(ブロモクロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、トリス(2エチルヘキシル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートなどが好ましい。
エポキシ系可塑剤としては、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどが挙げられる。
熱可塑性樹脂シート中の可塑剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは60質量部以上、更に好ましくは70質量部以上であり、そして好ましくは150質量部以下であり、より好ましくは120質量部以下であり、更に好ましくは100質量部以下である。可塑剤の含有量がこれら下限値以上であると、熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率が高くなり、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。可塑剤の含有量がこれら上限値以下であると、平面方向の流動性が高くなりすぎることを防止し、熱膨張性樹脂シートの厚み方向と平面方向との膨張倍率のバランスを適切にすることができる。
(無機充填材)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、無機充填材を含有してもよい。無機充填材を含有することにより、熱可塑性樹脂シートの耐火性及び機械的物性が向上する。
無機充填材の種類は、特に制限されないが、比重が2.5以上のものが好ましい。比重が2.5以上の無機充填材を用いると、熱可塑性樹脂シートの平面方向の膨張倍率が高まりやすくなり、膨張倍率の比を上記した所望の範囲に調整しやすくなる。これは、比重が2.5以上の無機充填材は、その重量により、高温時に熱可塑性樹脂シートの平面方向に樹脂成分を流動させ易くするためと考えられる。
無機充填材の比重は2.6以上が好ましく、そして8以下が好ましい。
比重が2.5以上の無機充填材としては、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム等のカルシウム塩、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化ケイ素などが挙げられる。無機充填剤は一種単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
無機充填剤の平均粒径は、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。なお、無機充填剤の粒径は、SEM(走査型電子顕微鏡像)を観察して粒径分布を求め、そこから得られる体積基準粒度分布において、小粒径側からの通過分積算50%の粒子径を平均粒径として求める。
熱可塑性樹脂シート中の無機充填材の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは5〜200質量部であり、より好ましくは10〜150質量部であり、更に好ましくは15〜80質量部である。
(難燃剤)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、難燃剤を含有してもよい。難燃剤を含有することで、耐火性がより向上する。難燃剤としては、無機リン系難燃剤、有機リン系難燃剤などのリン系難燃剤、含窒素難燃剤、臭素系難燃剤などが挙げられる。これらの中でも、リン系難燃剤、含窒素難燃剤が好ましい。
リン系難燃剤としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、及びリン酸マグネシウム等のリン酸金属塩、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸金属塩、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリメタリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレムなどが挙げられる。
含窒素難燃剤としては、例えば、メラミンシアヌレート、イソシアヌル酸、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、塩酸グアニジン、硝酸グアニジン、硫酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン、テトラホウ酸グアニジン、炭酸グアニジンなどが挙げられる。
臭素系難燃剤としては、例えば、テトラブロモシクロオクタン、ヘキサブロモシクロドデカン、トリスジブロモプロピルホスフェート、デカブロムジフェニルオキサイド、オクタブロモジフェニルオキサイド、臭素化ビスフェノールA系難燃剤、臭素化ビスフェノールS系難燃剤などが挙げられる。
難燃剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
熱可塑性樹脂シート中の難燃剤の含有量は、樹脂成分100質量部に対して、好ましくは10〜200質量部であり、より好ましくは20〜150質量部であり、更に好ましくは50〜100質量部である。
本発明の熱可塑性樹脂シートは、上記以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、その物性を損なわない範囲で、フェノール系、アミン系、イオウ系等の酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等の各種添加剤が挙げられる。
(熱可塑性樹脂シートの製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂シートは例えば下記のようにして製造することができる。
まず、所定量の熱膨張性黒鉛、樹脂成分、並びに必要に応じて配合される可塑剤、難燃剤、無機充填材、及びその他の成分を、混練ロールなどの混練機で混練して、耐火性樹脂組成物を得る。
次に、得られた耐火性樹脂組成物を、例えば、プレス成形、カレンダー成形、押出成形等、公知の成形方法によりシート状に成形することで熱可塑性樹脂シートを得ることができる。
(積層シート)
本発明の熱可塑性樹脂シートは、他のシート部材や粘着剤層が積層され積層シートを構成してもよい。積層シートは、例えば、基材と、基材の片面又は両面に積層される熱可塑性樹脂シートとを備える。基材は通常、織布又は不織布である。織布又は不織布に使用される繊維としては、特に限定はされないが、不燃性材料又は準不燃材料が好ましく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、セルロース繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維、グラファイト繊維、熱硬化性樹脂繊維等が好ましい。
上記積層シートは、例えば、耐火性樹脂組成物を基材の上にシート状に成形して得ることができる。
また、積層シートは、熱可塑性樹脂シートと粘着剤層を備えるものであってもよい。粘着剤層は、例えば、熱可塑性樹脂シートの片面又は両面に積層されてもよい。
さらに、積層シートは、熱可塑性樹脂シートと、基材と、粘着剤層とを備えてもよい。そのような積層シートは、基材の一方の面に熱可塑性樹脂シート、他方の面に粘着剤層が設けられてもよいし、基材の一方の面の上に、熱可塑性樹脂シート及び粘着剤層がこの順に設けられてもよい。粘着剤層は、例えば、離型紙に塗工した粘着剤を積層シートに転写することで形成できる。
本発明の熱可塑性樹脂シートは、耐火材として使用できるものである。具体的には、一戸建住宅、集合住宅、高層住宅、高層ビル、商業施設、公共施設等の各種の建具、自動車、電車などの各種車両、船舶、航空機などに使用できるが、これらの中では建具に使用されることが好ましい。建具としては、具体的には、壁、梁、柱、床、レンガ、屋根、板材、窓、障子、扉、ドア、戸、ふすま、欄間、配線、配管などに使用することができるが、これらに限定されない。本発明の熱可塑性樹脂シートは、特に、窓、扉、ドアなどの建具の隙間に適用することで、火災等の際に炎が隙間を通過して侵入するのを防止することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
[評価方法]
(1)tanδピーク温度
熱可塑性樹脂シートのtanδピーク温度は、動的粘弾性測定装置(レオメトリック社製「ARES」)を用いて、せん断法にて、歪み1%、周波数1Hz、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
(2)膨張倍率
熱可塑性樹脂シートの厚み方向の膨張倍率及び平面方向の膨張倍率は、以下のとおり測定した。
実施例及び比較例の熱可塑性樹脂シートから作製した試験片(長手方向30mm、幅方向30mm、厚さ1.6mm)をステンレス製の板(98mm角・厚み0.3mm)の底面に設置し、電気炉に供給し、400℃で30分間燃焼させた。その後、加熱後の試験片残渣の厚みと、加熱後の試験片残渣のX,Y方向の長さを測定し、以下の式により求めた。
厚み方向の膨張倍率=(加熱後の試験片残渣の厚み)/(加熱前の試験片の厚み)
平面方向の膨張倍率=(加熱後の試験片残渣のX方向の長さ/加熱前の試験片のX方向の長さ)×(加熱後の試験片残渣のY方向の長さ/加熱前の試験片のY方向の長さ)
なお、試験片残渣の厚みは、試験片残渣において最も厚い部分の厚さをいう。
試験片残渣のX,Y方向の長さは、X,Y方向において、最も長い部分の長さをいう。
(3)耐火試験
各実施例、比較例で得られた熱可塑性樹脂シートを用いて耐火試験を行った。耐火試験は、各実施例及び比較例の熱可塑性樹脂シートを建具に貼付することにより、加熱後に建具の反りが生じた場合でも、反りにより生じる隙間を閉塞可能かどうか評価する観点から行った。具体的には、以下のとおり、耐火試験を行った。
耐火試験に用いた試験体10(図1に模式図を示す)を次の通り作製した。エーアンドエーマテリアル社製の厚さ50mmのケイ酸カルシウム板を1180mm×90mmに1枚切り出しケイ酸カルシウム板11を作製した、エーアンドエーマテリアル社製の厚さ25mmのケイ酸カルシウム板を1180mm×420mmのサイズに2枚切り出し、ケイ酸カルシウム板12A及び12Bを作製した。ケイ酸カルシウム板11の表面に図示しない2mmの鉄板を四隅及び各辺の中点およびその四隅と中点の中点をビスで止め補強をした。ケイ酸カルシウム板12A及び12Bのそれぞれの側面前部に厚さ1.6mm、幅10mm、長さ1180mmの熱可塑性樹脂シート14をステーブルガンを用い、鉄針にて貼り付けた。鉄針の固定位置は中央部ならびに両端およびその中点、及び中点と端部の中点にて固定した。鉄枠13の中央に補強をしたケイ酸カルシウム板11を配置し、10mmの間隔を空け、両側に熱可塑性樹脂シート14を貼り付けたケイ酸カルシウム板12A及び12Bを中央のケイ酸カルシウム板11に熱可塑性樹脂シート14が対向するように配置した。配置した3枚のケイ酸カルシウム板の上部及び下部を図示しないコの字状の厚さ2mmの鉄板により鉄枠13に固定し、試験体10とした。この試験体を耐火炉内で、ISO834の標準加熱曲線に従い、温度を調整し、かつ、炉圧を20Paの設定で耐火試験を実施した。耐火試験中の試験体を観察した。
評価基準
〇・・加熱45分の時点で非加熱面から目視し、炎が見える状態にならなかったもの
×・・加熱45分の時点で非加熱面から目視し、炎が見える状態になったもの
(実施例1〜40、比較例1、2)
下記表1〜5に示す配合にて、樹脂成分、熱膨張性黒鉛、可塑剤、難燃剤、及び無機充填材をロールに投入して150℃で5分間混練して、耐火性樹脂組成物を得た。得られた耐火性樹脂組成物を、150℃で3分間プレス成形して、厚さ1.6mmの熱可塑性樹脂シートを得た。各実施例、比較例で使用した各成分は下記のとおりである。
(1)樹脂成分
・ポリ塩化ビニル樹脂、信越化学工業株式会社製「TK−1000」、平均重合度1030
(2)熱膨張性黒鉛、エアウォーター社製「SS-3N」 アスペクト比18.5
(3)可塑剤
(3−1)アジピン酸系可塑剤
・アジピン酸ビス(2−エチルヘキシル)、株式会社ジェイ・プラス製「DOA」
・アジピン酸ジイソノニル、株式会社ジェイ・プラス製「DINA」
・アジピン酸ジイソデシル、株式会社ジェイ・プラス製「DIDA」
・アジピン酸ビス(2−ブトキシエチル)、株式会社ジェイ・プラス製「D931」
・アジピン酸系ポリエステル(分子量800)、株式会社ジェイ・プラス製「D620」
・アジピン酸系ポリエステル(分子量1800)、株式会社ジェイ・プラス製「D623N」
・アジピン酸系ポリエステル(分子量2200)、株式会社ジェイ・プラス製「D645」
(3−2)リン酸系可塑剤
・トリメチルホスフェート、大八化学工業株式会社製「TMP」
・トリエチルホスフェート、大八化学工業株式会社製「TEP」
・トリブチルホスフェート、大八化学工業株式会社製「TBP」
・トリス(2−エチルヘキシルホスフェート)、大八化学工業株式会社製「TOP」
・トリクレジルホスフェート、大八化学工業株式会社製「TCP」
・トリキシレニルホスフェート、大八化学工業株式会社製「TXP」
・クレジルジフェニルホスフェート、大八化学工業株式会社製「CDP」
・2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、大八化学工業株式会社製「#41」
(3−3)エポキシ系可塑剤
・エポキシ化大豆油、株式会社ADEKA製「アデカサイザー O−130P」
・エポキシ化アマニ油、株式会社ADEKA製「アデカサイザー O−180A」
・エポキシ化脂肪酸オクチルエステル「アデカサイザー D−32」
・エポキシ化脂肪酸アルキルエステル「アデカサイザー D−55」
(3−4)その他の可塑剤
・フタル酸ビス2−エチルヘキシル、株式会社ジェイ・プラス製「DOP」
・フタル酸ジイソデシル、株式会社ジェイ・プラス製「DIDP」
(4)難燃剤
・亜リン酸アルミニウム、太平化学工業株式会社「APA100」
・ポリリン酸アンモニウム、クラリアントケミカルズ社「AP422」
・メラミンシアヌレート、日産化学工業社「MC」
・有機リン酸エステル、帝人株式会社「FCX−210」
(5)無機充填材
・炭酸カルシウム、白石カルシウム「BF300」 比重2.7
・酸化亜鉛、堺化学工業株式会社「酸化亜鉛1種」 比重5.7
以上の実施例に示すように、熱膨張性黒鉛を含み、かつ膨張倍率の比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)が一定値以下の本発明の熱可塑性樹脂シートは、耐火性試験の結果が良好であり耐火性に優れていた。これに対して、膨張倍率の比が本発明の範囲外の熱可塑性樹脂シートは、耐火性試験の結果が悪く、耐火性に劣っていた。
10 試験片
11 ケイ酸カルシウム板
12A、12B ケイ酸カルシウム板
13 鉄枠
14 熱可塑性樹脂シート

Claims (7)

  1. 熱膨張性黒鉛と、樹脂成分とを含有する熱可塑性樹脂シートであって、400℃で30分間燃焼させた際の厚み方向の膨張倍率と平面方向の膨張倍率との比(厚み方向の膨張倍率/平面方向の膨張倍率)が6以下である、熱可塑性樹脂シート。
  2. 歪み1%、周波数1Hzで測定した動的粘弾性のtanδピーク温度が100℃以下である、請求項1に記載の熱可塑性樹脂シート。
  3. 樹脂成分100質量部に対して可塑剤を50質量部以上含有する、請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂シート。
  4. 前記可塑剤が、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、及びエポキシ系可塑剤からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
  5. 前記熱膨張性黒鉛のアスペクト比が20以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
  6. さらに比重が2.5以上の無機充填剤を含有する、請求項1〜5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
  7. 前記樹脂成分がポリ塩化ビニル系樹脂である、請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂シート。
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