JP2020115792A - 幹細胞の製造方法、及び癌細胞化のリスク低減方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明の目的は、遺伝子導入を伴うことなく、簡便に幹細胞を製造する方法を提供することである。【解決手段】前記課題は、本発明の体細胞を、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、又は癌細胞のJDP2遺伝子をRNA干渉による抑制する工程を含む、幹細胞の製造方法によって解決することができる。【選択図】なし

Description

本発明は、幹細胞の製造方法、及び癌細胞化のリスク低減方法に関する。本発明によれば、幹細胞を容易に作製することができる。また、幹細胞が癌を形成するリスクを低減することが可能である。
近年、生体外での培養により、細胞を所望の組織や器官を分化させ、そして治療に利用する再生医療が注目されつつある。しかしながら、ヒトにおいては、受精胚を破壊して作製される胚性幹細胞(embryonic stem cell:ES細胞)は、倫理面で問題がある。また、他家ES細胞を移植医療に用いる場合、移植後の免疫性拒絶反応が起きることがある。
一方、人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)は、4因子(OCT−3/4、SOX2、KLF4、c−MYC)を、体細胞に導入することにより誘導される細胞であり、ES細胞に似た形質及び遺伝子発現様式を有する。iPS細胞は、マウスやヒトの線維芽細胞に、レトロウイルスベクター(特許文献1、非特許文献1、2)、又はプラスミド(非特許文献3)を用いて、4因子を細胞に導入することによって得られる。
iPS細胞は、ES細胞が有する倫理面の問題及び免疫性拒絶反応の問題を解決できる。しかしながら、ES細胞及びiPS細胞ともに、その細胞生物学的特徴として、癌細胞に特異的な癌遺伝子(c−MYC等)が発現し、テラトーマ形成能力を有している。更に、c−MYCを強制発現させた場合、ヒト上皮様細胞が初期化されて、容易に発癌性の高い幹細胞様細胞に誘導されるとの報告がある(非特許文献4)。従って、ES細胞やiPS細胞を再生医療に応用する場合には、これらの細胞の癌化を抑制することが必須となる。
一方、iPS細胞作製時に、上記4因子と共に、p53遺伝子の抑制剤を併用することにより作製効率を上げる試みが行われている(非特許文献5)。また、発癌遺伝子c−Junは、体細胞の初期化を妨げるとの報告(非特許文献6)が有る。
本発明者らは、上記iPS細胞の報告がなされる以前に、羊膜由来ヒト幹細胞の樹立方法について報告している(特許文献2、非特許文献7〜9)。当該方法により樹立されたヒト幹細胞は、生体内培養系又は生体外培養系における分化転換制御メカニズムの解明、並びに分子生物学及び発生学の研究材料として有用であり、更には臓器移植用の臓器作製用細胞材料としても有用である。また、本発明者らは、iPS細胞樹立法を簡便化して、OCT−4プラスミドベクターの単独導入による、ウシiPS細胞の作製に成功している(非特許文献10)。
更に多能性幹(PS)細胞を、遺伝物質を用いず、分子量の小さな蛋白質を使用して化学的に初期化する方法により作製する試みが行われている(非特許文献11)。そこでは、細胞の生命活動上後成的な修飾が行われる際に重要な役割を果たす、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)や、DNAメチル基転移酵素(DNMT)に対する低分子インヒビターがiPS細胞への初期化誘導剤として使われている(非特許文献12)。
特許第5098028号公報 特開2005−151907号公報
Takahashi K, Yamanaka S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell 126, 663-676 (2006). Takahashi K, et al., Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 131, 861-872 (2007). Okita K, et al., Generation of mouse induced pluripotent stem cells without viral vectors. Science 322, 949-953 (2008). Poli V, et al., MYC-driven epigenetic reprogramming favours the onset of tumorigenesis by inducing a stem-like state. Nature communications 9, 1024(2018). Krizhanovsky V, Lowe SW. Stem cells: the promises and perils of p53. Nature 460, 1085-1086 (2009). Lin J, et al., The oncogene c-Jun impedes somatic cell reprogramming. Nat Cell Biol 17, 856-867 (2015). Saito S, et al., Derivation and induction of the differentiation of animal ES cells as well as human pluripotent stem cells derived from fetal membrane. Hum Cell 18,135-141 (2005). Saito S, et al., Human amnion-derived cells as a reliable source of stem cells. Curr Mol Med 12, 1340-1349 (2012). Lin YC, et al., Role of tumor suppressor genes in the cancer-associated reprogramming of human induced pluripotent stem cells. Stem Cell Research & Therapy 5, 58-66 (2014). Wang SW, et al., Androgen receptor-mediated apoptosis in bovine testicular induced pluripotent stem cells in response to phthalate esters. Cell Death & Disease 4, e907 (2013). Hou PP, et al., Pluripotent stem cell induced from mouse somaticcells by small-molecule compounds. Science 341, 651-654 (2013). Lu JY, et al., Application of eigenome-modifying small moleculesin induced pluripotent stem cells. Med Res Rev 33, 790-822 (2013).
従来のiPS細胞の作製においては、遺伝子を核酸断片として細胞に導入する。従って、対象細胞において、前記核酸断片がランダムにゲノムに挿入されるリスク、又は特異的なインテグレーションのリスクが存在する。すなわち、iPS細胞は、癌細胞化する可能性があり、再生医療への応用を阻む要因となっていた。
本発明の目的は、遺伝子導入を伴うことなく、簡便に幹細胞を製造する方法を提供することである。また、本発明の目的は、幹細胞の癌細胞化のリスクを低減する方法を提供することである。
本発明者は、簡便な幹細胞の製造方法、及び幹細胞の癌細胞化のリスクを低減する方法ついて、鋭意研究した結果、驚くべきことに、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いること、又はJDP2遺伝子のRNA干渉により、幹細胞を製造できること、及び幹細胞の癌細胞化のリスクを低減できることを見出した。
具体的には、ヒドロキサム酸を添加した培地中で細胞を浮遊培養又は接着培養を7日〜14日間続けると、高率で幹細胞に誘導できた。幹細胞はSTAT3及びGATA4を発現していた。また誘導された幹細胞の癌細胞化が抑制されていた。更に、JDP2遺伝子のmRNA相補的低分子RNAベクターを含む溶液に細胞を分散させ、前記細胞分散液を入れた電極容器に直流パルスを通電することにより、細胞の初期化が起こった。その後、浮遊培養又は接着培養を10日〜14日間続けると、数%の割合で多能性幹細胞に誘導できた。それらの幹細胞はSTAT3、及びGATA4を発現していた。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]体細胞を、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法、
[2]前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、スベロイルビスヒドロキサム酸、トリコスタチンA、酪酸、バルプロ酸、アピシジン、オキサムフラチン(Oxamflatin)、又はスプリトマイシン(Splitomicin)である、[1]に記載の幹細胞の製造方法、
[3]前記幹細胞が、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する、[1]又は[2]に記載の幹細胞の製造方法、
[4][1]〜[3]のいずれかの製造方法による癌細胞化のリスク低減方法、
[5]癌細胞のJDP2遺伝子をRNA干渉による抑制する工程を含む、幹細胞の製造方法、
[6]前記RNA干渉が、癌細胞にJDP2遺伝子のmRNAの相補的低分子RNAベクターを導入することによって実施される、[5]に記載の幹細胞の製造方法、
[7]前記幹細胞が、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する、[5]又は[6]に記載の幹細胞の製造方法、及び
[8][1]〜[3]及び[5]〜[7]のいずれかに記載の製造方法によって得られる幹細胞、
に関する。
本発明の幹細胞の製造方法によれば、遺伝子導入を伴うこと無く、体細胞又は癌細胞から幹細胞を誘導することができる。また、本発明の癌細胞化のリスク低減方法によれば、細胞が癌細胞化することを抑制することができる。
ヒト肝癌細胞HepG2のJDP2遺伝子の電気刺激処置を伴うmRNA転写抑制による幹細胞様コロニーの顕微鏡写真(倍率100倍)である。 HepG2細胞のJDP2遺伝子転写抑制により誘導された幹細胞様細胞において、幹細胞マーカー(OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、GATA4)に対する抗体を反応させた結果を示す顕微鏡写真(倍率100倍)である。 HepG2細胞由来幹細胞様細胞を免疫不全マウスに移植して形成されたテラトーマ組織標本の顕微鏡写真である。(A)は外胚葉由来組織の顕微鏡写真(倍率400倍)、(B)は中胚葉由来組織の顕微鏡写真(倍率200倍)、(C)は内胚葉由来組織の顕微鏡写真(倍率200倍)をそれぞれ示す。 HepG2細胞の実施例1におけるグループ(1)及び(2)の細胞を免疫不全マウスに移植後、形成された4頭中2頭のテラトーマの写真である。 ヒト繊維芽細胞NHDFのヒドロキサム酸処理後、誘導された幹細胞様コロニーの顕微鏡写真(倍率100倍)である。(A)は処理前の細胞、(B)は幹細胞様形態を示す。 NHDF細胞をヒドロキサム酸処理することにより誘導された幹細胞様細胞において幹細胞マーカー(OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、GATA4)に対する抗体を反応させた結果を示す顕微鏡写真(倍率100倍)である ヒトNHDF細胞由来幹細胞様細胞を免疫不全マウス睾丸に移植し、30日後に摘出した睾丸の写真である(A)。対象としてマウスES細胞を同免疫不全マウスに移植後、摘出したテラトーマを形成した睾丸の写真である(B)。 ヒトNHDF細胞由来幹細胞様細胞から体外培養により分化させた胚葉体組織標本の顕微鏡写真(倍率400倍)である。(A)は外胚葉組織(神経膠様)、(B)は中胚葉組織(消化管内皮様)、(C)は内胚葉組織(肝細胞様)、(D)は胚葉体(倍率100倍)写真をそれぞれ示す。 ヒト羊膜細胞のヒドロキサム酸処理により誘導された幹細胞様コロニーの顕微鏡写真である(倍率100倍)。 ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞において、幹細胞マーカー(OCT4、SOX2、KLF4、c−MYC、STAT3、GATA4)の発現をRT−PCR解析により確認した電気泳動写真である。 ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞のアルカリフォスファターゼ染色を示す顕微鏡写真(倍率40倍)である。 ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞から分化させた外胚葉組織(神経様細胞)、中胚葉組織(血球前駆細胞)及び内胚葉組織(肝細胞様細胞)、に対して各種マーカー蛋白質に対する抗体を反応させた結果を示す顕微鏡写真(倍率200倍)である。(A)〜(C)は、神経様細胞に対して、ネスチン抗体(A)、GFAP抗体(B)、又はTuji1抗体(C)を反応させた結果を示す。(D)は、血球前駆細胞に対してCD45抗体を反応させた結果を示し、(E)は、幹細胞様細胞に対して、α−フェトプロテイン抗体を反応させた結果を示す。 ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞を免疫不全マウス睾丸に移植し、35日後に摘出した睾丸の写真である(A)。対照としてマウスES細胞を同免疫不全マウスに移植後、摘出したテラトーマを形成した睾丸の写真である(B)。
《幹細胞の製造方法:実施態様1》
本発明の幹細胞の製造方法は、体細胞を、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含む培地で培養する工程を含む。
(体細胞)
本発明の幹細胞の製造方法に用いる体細胞は、動物の体細胞である限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば外胚葉由来組織の体細胞、中胚葉由来組織の体細胞、又は内胚葉由来組織の体細胞が挙げられる。具体的には、線維芽細胞、上皮細胞(皮膚表皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、又は腸管粘膜上皮細胞)、表皮細胞、歯肉細胞(歯肉線維芽細胞、又は歯肉上皮細胞)、歯髄細胞、白色脂肪細胞、皮下脂肪、内臓脂肪、筋肉、血液細胞又は羊膜由来細胞などが挙げられ、好ましくは線維芽細胞、表皮細胞(ケラチノサイト)、羊膜由来細胞などが挙げられる。また、間葉系幹細胞、造血幹細胞、脂肪組織由来間質細胞、脂肪組織由来間質幹細胞、神経幹細胞、精子幹細胞などの組織幹細胞(体性幹細胞)を体細胞として用いてもよく、又はそれらから分化誘導された組織前駆細胞、繊維芽細胞、上皮細胞、リンパ球、又は筋肉細胞を体細胞として用いてもよい。更に、間葉系幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、腸幹細胞、皮膚幹細胞、毛包幹細胞、色素細胞幹細胞などの体性幹細胞から分化誘導し、あるいは脱分化させ、あるいはリプログラミングさせて作成した体細胞を用いてもよい。
体細胞が由来する動物は、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。体細胞が由来する動物としては、例えばヒト又はヒト以外の動物(例えば、哺乳類)が挙げられる。ヒト以外の動物としては、例えばマウス若しくはラットなどの齧歯類、ウシ若しくはヒツジなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、イヌ若しくはネコなどの食肉類等、又はサル若しくはチンパンジーなどの霊長類;等の任意の哺乳類が挙げられるが、好ましくはヒト又はヒト以外の霊長類である。
前記繊維芽細胞は、公知の方法により、動物個体から採取して培養したものであってよい。例えば、培養繊維芽細胞は、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press (1994)等に記載の方法により作製することができる。また、繊維芽細胞は、既存の細胞株であってもよい。繊維芽細胞の細胞株は、例えば、理化学研究所細胞バンク等から入手してもよく、市販のものを用いてもよい。
本明細書において「羊膜由来細胞」とは、羊膜から採取した細胞である。羊膜由来細胞は、羊膜から採取した細胞を、初代培養した繊維芽細胞であってもよい(特許文献2、非特許文献4〜6参照)。羊膜由来細胞は、液体窒素保管器中で凍結保存されたものであってもよい。羊膜由来細胞は、好ましくは霊長類由来の細胞である。
(ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤)
本発明の幹細胞の製造方法においては、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤の存在下で、体細胞を培養する。ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤は、特に限定されるものではないが、スベロイルビスヒドロキサム酸、トリコスタチンA、酪酸、バルプロ酸、アピシジン、オキサムフラチン(Oxamflatin)、又はスプリトマイシン(Splitomicin)が挙げられる。
(スベロイルビスヒドロキサム酸)
スベロイルビスヒドロキサム酸は、分子量204.2の下記式(1)
(C16)で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるスベロイルビスヒドロキサム酸の濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは50μM〜1mMである。また、スベロイルビスヒドロキサム酸の濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
(トリコスタチンA)
トリコスタチンAは、下記式(2)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるトリコスタチンAの濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、トリコスタチンAの濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。トリコスタチンAは、クラスIおよびIIほ乳類ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)ファミリーに属する酵素を選択的に阻害する。
(酪酸)
酪酸は、下記式(3)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時における酪酸の濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、酪酸の濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
(バルプロ酸)
バルプロ酸は、下記式(4)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるバルプロ酸の濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、バルプロ酸の濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
(アピシジン)
アピシジンは、下記式(5)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるアピシジンの濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、アピシジンの濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
(スプリトマイシン)
スプリトマイシンは、下記式(6)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるスプリトマイシンの濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、スプリトマイシンの濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
(オキサムフラチン)
オキサムフラチンは、下記式(7)
で表される化合物である。本発明の製造方法の培養時におけるオキサムフラチンの濃度は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば5μM〜50μMであり、好ましくは5μM〜50μMである。また、オキサムフラチンの濃度は、例えば1μg/mL〜10μg/mLであり、好ましくは10μg/mL〜200μg/mLである。
本発明の製造方法における体細胞の培養方法は、幹細胞の培養方法として通常実施されているものであれば、特に限定されるものではない。培地としては、幹細胞の培養に用いられているものを、限定せずに使用することができるが、例えばDMEM培地、又はMEM−α培地を用いることができる。更に、牛胎児血清(FCSまたはFBS)、牛新生児血清(NBCS)、ヒト血清、血清代替物、白血病阻害因子(LIF)、骨形成蛋白因子4(BMP4)、及びインスリン成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。すなわち、MEM−α培地又はDMEM培地等の公知の培地に、前記成分を添加した培地を好適に用いることができる。培地中の前記各成分の濃度は、幹細胞の培養に通常用いられる濃度とすればよく、例えばFCS、FBS、NBCS、ヒト血清、血清代替物の濃度としては5〜10%(V/V)、LIF、BMP4、IGFBP3の濃度としては5〜20ng/mLが挙げられる。
培養期間は、幹細胞が製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、3〜30日であり、好ましくは7〜20日であり、更に好ましくは10〜14日である。細胞の増殖に応じて2〜6日おきに、適宜、継代、又は培地交換を行ってもよい。
培養温度も、特に限定されるものではないが、例えば35〜38℃であり、好ましくは36.5〜37.5℃であり、より好ましくは約37℃である。また、CO濃度条件としては、例えば4〜6%であり、好ましくは約5%である。
培養の形態も、特に限定されるものではないが、浮遊培養が挙げられる。例えば、公知の方法であるポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリHEMA)を培養皿に塗布することで、細胞を接着させずに培養することが可能である(Kuroda et al., PNAS USA 107, 8639-8643, 2010)。具体的には、エチルアルコール40mL中に60mgのポリHEMAを溶解したものを、直径3.5cm培養皿に800μL宛注入し、クリーンベンチの中で一晩乾燥させた後、細胞浮遊用培養皿として用いることができる。
また、本発明の製造方法における培養は、接着培養によって行うこともできる。
ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を用いる幹細胞の培養方法の具体例を以下に記載する。体細胞を、細胞接着性を阻害するためにポリHEMAを塗布した培養容器(例えば直径3.5cm培養皿等)に播種する。培地として、スベロイルビスヒドロキサム酸を100μg/mLの濃度で添加した幹細胞用培地等を用い培養する。細胞は培養皿に接着すること無く、浮遊状態のまま増殖し、3〜4日後には細胞数が10個以上の細胞塊を形成する。適時培地交換を行い(例えば1〜2日に1度)、更に培養を継続する。細胞塊の直径が、数100μmまで拡大し、ES細胞由来の胚葉体の様に中心部分の細胞が黒色化する前に、接着性を有する通常の培養容器に移し替える。以降は培養を継続して、ES様細胞コロニーが多数出現した時点で、トリプシン処理により、細胞を培養皿から剥離させ、遠心分離により細胞を回収する。回収した細胞は再び浮遊培養を続けてもよく、接着培養を継続してもよい。培養を繰り返すことにより、ES様細胞の形態を有するコロニーが多数出現する。これらのES細胞様細胞は、幹細胞の特徴を有し、多分化能を有する幹細胞である。
(幹細胞マーカー)
本発明の製造方法によって得られた幹細胞は、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する。
OCT4(Octamer-binding transcription factor 4)は、POU5F1(POU domain, class 5, transcription factor 1)とも呼ばれるヒトのタンパク質である。Oct−4はPOU(Pit−Oct−Unc)ドメインをもつPOUファミリーのホメオドメイン転写因子であり、未分化肺性幹細胞の自己複製に関与し、多能性の維持に関与していると考えられている。
Sox2はSoxB1ファミリーに属する転写因子であり、ES細胞やTS細胞、更には神経幹細胞などで幹細胞性の維持に機能していることが知られている。
c−MYCは、山中らがiPS細胞を誘導するために用いた因子の一つであり、ある種の遺伝子の転写を抑制する。また、c−MYCは細胞増殖や細胞の成長の促進に不可欠な役割を示す。
KLF4は、ジンク・フィンガー転写因子であり、ヒト及びマウスの多能性幹細胞の作成のための因子として用いられる。
STAT3は、自己再生および幹細胞の生存及び増殖に関与していることが知られている。
GATA4は、骨格筋幹細胞の分化及び増殖を制御すると考えられている。
本発明の製造方法によって得られた幹細胞は、前記の少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現しており、多分化能を有する幹細胞であると考えられる。
(分化誘導)
本発明の製造方法によって得られた幹細胞は、所望の細胞に分化誘導することができる。幹細胞を分化誘導する方法は、分化を示す細胞に応じて、適宜公知の方法を選択することができる。
例えば、浮遊培養法により幹細胞に胚葉体様細胞塊を形成させた後、FGF2及びEGF等を含むDMEM培地等で接着培養することにより、アストロサイト細胞マーカー及び神経細胞マーカーであるGFAP又はネスチンに対する抗体に陽性反応を示す神経細胞に分化させることができる。
また、同様に幹細胞に胚葉体様細胞塊を形成させた後、FCS及び/又はアスコルビン酸等を含むDMEM培地等で接着培養することにより、心筋マーカーであるMYL2、GATA4、NKX2.5等に対する各抗体に陽性反応を示す心筋細胞に分化させることができる。
また、幹細胞に胚葉体様細胞塊を形成させた後、FBS、Actin−A等を含むDMEM培地等で接着培養することにより、α‐フェトプロテイン抗体又はHNF−4α等に対する抗体に陽性反応を示す肝細胞に分化させることができる。
(癌細胞化のリスク低減方法)
本発明の幹細胞の製造方法によって、癌細胞化のリスクを低減することができる。
本発明の癌細胞化のリスク低減方法によって得られた癌細胞化リスク低減化幹細胞は、(a)正常2倍体の核型を有する。(b)未分化状態で30回以上、好ましくは40回以上の継代が可能である。(c)アルカリフォスファターゼ活性を有し、OCT4、SOX2、KLF4、c−MYC、STAT3、GATA4及びSSEA−3の、少なくとも1種、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上を発現する。(d)異種動物胚に細胞を移植すると作成されたキメラ胚の一部の組織・器官に発達する能力を有する。(e)体外培養条件下で、少なくとも2胚葉由来、好ましくは3胚葉由来の細胞群を形成する。(f)免疫不全マウスへの移植によって、テラトーマを形成しない傾向が強い。
前記(a)〜(f)の性質を有するか否かは、後述の公知の方法により確認可能である。
本発明の製造方法によれば、細胞の癌細胞化リスクを抑制することができる。そのため、本発明により癌細胞化が抑制された細胞は、再生医療用の材料細胞として、好適に用いることができる。更に、抗癌剤の新薬開発において重要な課題の一つであるヒストンの化学的修飾機構の解析に資することが可能である。更に、例えば損傷した軟骨再生のための基質細胞として、また美容液基材としての活用も期待できる。
本発明の製造方法及び癌細胞化のリスク低減方法によれば、一般的iPS細胞の作製法とは異なり、細胞への遺伝子導入処置を伴わないため、特別な施設を必要としない利点がある。また遺伝子導入処理を伴わないために、誘導した幹細胞における癌細胞化リスクが低減化され、安全な幹細胞を製造することが可能である。本発明による幹細胞は、STAT3、及び/又はGATA4幹細胞マーカーを発現している。そこで事前に繊維芽細胞等からSTAT3、GATA4抗体陽性の細胞をFACS Sorter等を用いて選別し、それら選別細胞を用いて本実施形態による幹細胞への誘導を行えば、より一層効率的な幹細胞を製造する方法となり得る。また、本発明によれば、癌細胞化のリスクが低減化された幹細胞株を樹立出来る為、所望の、種々の遺伝子の発現を抑制された幹細胞株や、その逆に、所望の遺伝子を導入することによる遺伝子導入された幹細胞株を製造することも可能である。
《幹細胞の製造方法:実施態様2》
本発明の幹細胞の製造方法は、癌細胞のJDP2遺伝子をRNA干渉による抑制する工程を含む。
(癌細胞)
本発明の幹細胞の製造方法に用いる癌細胞は、動物の癌細胞である限りにおいて、特に限定されるものではなく、例えば膀胱癌細胞、乳癌細胞、大腸癌細胞、直腸癌細胞、腎臓癌細胞、肝臓癌細胞、肺癌細胞、小細胞肺癌細胞、食道癌細胞、胆嚢癌細胞、卵巣癌細胞、膵臓癌細胞、胃癌細胞、子宮頸部癌細胞、甲状腺癌細胞、前立腺癌細胞、扁平上皮癌細胞、皮膚癌細胞、十二指腸癌細胞、腟癌細胞、又は脳腫瘍細胞が挙げられる。
また、癌細胞は各組織由来の癌細胞を、個人から採取し培養したものであってよく、既存の樹立された細胞株でもよい。癌細胞の細胞株は、例えば、理化学研究所細胞バンク等から入手してもよく、市販のものを用いてもよい。
癌細胞が由来する動物は、特に限定されず、例えばヒト又はヒト以外の動物(例えば、哺乳類)が挙げられる。ヒト以外の動物としては、例えばマウス若しくはラットなどの齧歯類、ウシ若しくはヒツジなどの偶蹄類、ウマなどの奇蹄類、イヌ若しくはネコなどの食肉類等、又はサル若しくはチンパンジーなどの霊長類;等の任意の哺乳類が挙げられるが、好ましくはヒト又はヒト以外の霊長類である。
(JDP2遺伝子)
本発明の幹細胞の製造方法によって、干渉される癌細胞のJDP2遺伝子は、c−Jun遺伝子のファミリー遺伝子であり、JDP2タンパク質をコードする核酸である。JDP2遺伝子から転写されるmRNAから翻訳されるJDP2タンパク質の合成を抑制することによって、癌細胞から幹細胞を誘導することができる。
干渉されるJDP2遺伝子は動物によって異なる。JDP2遺伝子及び蛋白質配列情報は、GenBank等の公知のデータベースから得ることができる。例えば、ヒトのJDP2遺伝子のヌクレオチド配列は、GenBankにおいてアクセッション番号NM−001135047.1として登録されている。ヒトのJDP2遺伝子配列を配列番号1に示す。それぞれの動物のJDP2遺伝子の発現が、RNA干渉によって抑制され、癌細胞から幹細胞が誘導される。
(RNA干渉)
本発明の幹細胞の製造方法におけるRNA干渉は、癌細胞から幹細胞を製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスヌクレオチド、又はアプタマー(以下、これらを纏めて「RNA干渉用分子」と称することがある)を含む。
これらのRNA干渉用分子により、JDP2遺伝子の発現が抑制される。抑制されるJDP2遺伝子は、前記の通り動物ごとに異なっている。従って、RNA干渉用分子は、それぞれの動物由来のJDP2遺伝子の配列に従って、設計されることが好ましい。すなわち、癌細胞がヒト由来である場合、ヒトのJDP2遺伝子のRNA配列から設計されることが好ましい。用いるRNA干渉用分子は、1種類でもよいが、2種類以上、又は3種類以上のRNA干渉用分子を混合して用いることによって、幹細胞の製造の効率を向上させることができる。
(RNA干渉用分子の癌細胞への導入)
RNA干渉用分子の癌細胞への導入は、公知のトランスフェクションによって実施することができる。例えば、トランスフェクション試薬によって導入してもよく、エレクトロポレーションによって導入してもよい。トランスフェクション試薬としては、例えばLipofectamineを用いることができる。
(RNA干渉分子用ベクター)
RNA干渉分子用ベクター(例えば、相補的低分子RNAベクター)は、RNAの核酸配列を決定すれば、本発明の属する技術分野で公知の方法によって調製することができる。得られたRNA干渉分子用ベクターを癌細胞内に導入することによって、癌細胞内で、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、アンチセンスヌクレオチド、又はアプタマーなどを発現させ、JDP2遺伝子の発現を抑制することができる。
(エレクトロポレーション)
以下に、RNA干渉用分子の癌細胞への導入方法の1つであるエレクトロポレーションについて説明するが、導入方法はエレクトロポレーションに限定されるものではない。
エレクトロポレーションにより、RNA干渉用分子を細胞に導入するが、同時に癌細胞に電気刺激を付与することができる。電気刺激を与えることにより、効率的に幹細胞を製造することができる。エレクトロポレーション装置は、例えば、in vitro遺伝子導入用に市販されているものを用いてもよく、自ら製作したものを用いてもよい。その規格は特に限定されないが、例えば短矩パルス方式で1ボルト刻みの電圧設定が可能なものが好ましい。また、エレクトロポレーション装置は、パルス幅、パルス間隔、パルス回数を、それぞれ0.1〜999ミリ秒、0.1〜999ミリ秒、1〜99回に設定可能なものが好ましい。
本発明の製造方法においては、癌細胞に電気刺激を与えることにより、癌細胞における細胞骨格形成が一時的に阻害され、細胞初期化を誘導すると考えられる。以下に具体的なエレクトロポレーションの操作を記載する。
例えば、癌細胞を1〜5×10細胞/mL濃度で、電気刺激用溶液200〜400μLに分散し、RNA干渉用分子(例えば、JDP2遺伝子RNA干渉ベクター)を含む溶液(例えば、1μg/μL濃度)を5〜20μL添加した後、キュベット電極容器に移し替える。キュベット電極容器をエレクトロポレーション装置に接続し、パルス幅0.1〜100ミリ秒、パルス間隔1〜100ミリ秒、パルス回数1〜20回で、1〜200ボルトの電圧を印加する。また、前記の電気刺激処置は、1回に限定されず、例えば2〜5回程度、好ましくは3回程度繰り返してもよい。電気刺激処置を繰り返す場合、電気刺激処置間の間隔としては、例えば、1〜15分間隔が挙げられ、5〜10分間が好ましい。
JDP2遺伝子のRNA干渉、及び細胞幹細胞誘導のための電気刺激処置の具体例としては、後述の実施例で用いられたもの等が挙げられる。例えば細胞分散液とJDP2遺伝子RNA干渉ベクター溶液の入ったキュベット電極容器をエレクトロポレーション装置に接続し、直流電流を電圧20ボルト、パルス幅50ミリ秒、パルス間隔50ミリ秒、パルス回数10回の設定で、キュベット電極に印加する。その後、10〜15分間隔で3〜5回、同様の電気刺激を反復することが例示される。このよう処理により癌細胞の幹細胞化及び後述の癌細胞化のリスクの低減を同時に行うことができる。
前記エレクトロポレーションにより、癌細胞にRNA干渉及び幹細胞誘導の電気刺激を与えた後は、通常用いられる幹細胞の培養条件等を用いて、癌細胞を培養すればよい。これにより、癌細胞由来幹細胞を得ることができる。
培養に用いる培地は、幹細胞の培養に用いられているものを、限定せずに使用することができるが、例えばDMEM培地、又はMEM−α培地を用いることができる。更に、牛胎児血清(FCSまたはFBS)、牛新生児血清(NBCS)、ヒト血清、血清代替物、白血病阻害因子(LIF)、骨形成蛋白因子4(BMP4)、及びインスリン成長因子結合タンパク質3(IGFBP3)からなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。すなわち、MEM−α培地又はDMEM培地等の公知の培地に、前記成分を添加した培地を好適に用いることができる。培地中の前記各成分の濃度は、幹細胞の培養に通常用いられる濃度とすればよく、例えばFCS、FBS、NBCS、ヒト血清、血清代替物の濃度としては5〜10%(V/V)、LIF、BMP4、IGFBP3の濃度としては5〜20ng/mLが挙げられる。
培養期間は、幹細胞が製造できる限りにおいて、特に限定されるものではないが、例えば、3〜30日であり、好ましくは7〜20日であり、更に好ましくは10〜14日である。細胞の増殖に応じて2〜6日おきに、適宜、継代、又は培地交換を行ってもよい。
培養温度も、特に限定されるものではないが、例えば35〜38℃であり、好ましくは36.5〜37.5℃であり、より好ましくは約37℃である。また、CO濃度条件としては、例えば4〜6%であり、好ましくは約5%である。
電気刺激後の癌細胞の培養方法の具体例を以下に記載するが、この培養方法に限定されるものではない。細胞に電気刺激を与えた後、細胞をキュベット電極容器等から取り出し、適切な培養容器(例えば、プラスチック径3.5cm皿等)に入れた幹細胞用培地等に播種し、前記のような培養条件下で培養する。電気刺激後に前記のような培養を行うことにより、細胞はES細胞様の細胞コロニーを形成する。
適時培地交換を行い(例えば1〜2日に1度)、ES細胞様の小コロニー(細胞数10程度)が出現するまで培養を継続する。ES細胞様細胞コロニーが複数(例えば5以上)出現した時点で、トリプシン処理により細胞を培養皿から剥離させ、遠心分離により細胞を回収する。回収した細胞は、幹細胞培養用培地等で再培養を行う。この再培養を3〜4回繰返すことにより、特徴的なES細胞様細胞コロニーの集団が多数出現するようになる。前記ES細胞様細胞コロニーを形成する細胞は、幹細胞の特徴を有し、多分化能を有する幹細胞である。
電気刺激後の細胞の培養方法は、前記方法に限定されず、遺伝子導入後のiPS細胞の培養に用いられる方法等を特に制限なく用いることができる。例えば、培養には、幹細胞の培養に一般的に用いられるフィーダー細胞を用いてもよい。フィーダー細胞としては、例えば、マウス胎児繊維芽細胞(例えばMEF細胞、STO細胞、又はSNL細胞など)等が挙げられる。但し、電気刺激後の細胞は、約1〜2日に1度培地の交換を行いながらコンフルエントになるまで培養を行うことにより、フィーダー細胞のサポートを必要とせずに、細胞死を招くことなく継代培養を続けることができる。
(幹細胞マーカー)
本発明の製造方法で得られた幹細胞は、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する。OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4は前記「《幹細胞の製造方法:実施態様1》」の項で説明したものと同じである。
(癌幹細胞の細胞化学的特徴)
本発明の幹細胞の製造方法によって、得られた幹細胞の細胞化学的特徴を説明する。
前記幹細胞は、(a)未分化状態で30回以上、好ましくは40回以上の継代が可能である。(b)アルカリフォスファターゼ活性を有し、OCT4、SOX2、KLF4、c−MYC、STAT3、GATA4及びSSEA−3の少なくとも1種、好ましくは2種以上、より好ましくは3種以上を発現する。(c)免疫不全マウスへの移植によりテラトーマを形成し、当該テラトーマ内に少なくとも2胚葉、好ましくは3胚葉を形成する。(d)体外培養条件下で、少なくとも2胚葉由来、好ましくは3胚葉由来の細胞群を形成する。前記(b)は、細胞が未分化状態であることを示し、前記(c)及び(d)は、細胞が多分化能を有することを示す。前記(a)〜(d)の性質を有するか否かは、公知の方法により確認可能である。
例えば、前記(b)については、特開2002−176973号公報に記載の方法、Wang S W, et al., Cell Death & Disease 4, e907 (2013)に記載の方法を用いて確認することができる。
また、前記(c)については、例えば、以下の様に実施することができる。例えば10%牛血清代替物含有の培地(例、DMEM培地等)中に、例えば1×10個細胞/mLの濃度で細胞を分散させ、免疫不全マウスの側腹皮下に前記細胞分散液を数mL注入する(例、1mL)。約1ヶ月後、形成されたテラトーマを摘出し、組織学的解析により、テラトーマ内に三胚葉が形成されているか否かを確認する。
また、前記(a)については、30代以上継代を行い、継代細胞が前記(b)の性質を維持しているかどうかを確認すればよい。本実施形態の製造方法により製造された幹細胞は、通常30代以上(好ましくは40代以上)の継代が可能である。なお、本明細書において、「継代」とは、細胞がほぼコンフルエントな状態に達した時点で、細胞の一部(例えば1/3〜1/5)を、別の培養容器に入った同様の培地に移し替え、再びコンフルエントな状態まで細胞を増殖させることを意味する。本明細書においては、前記一連の操作を継代数として1回と規定する。なお、通常1回の継代で、細胞は3〜6回の細胞分裂を行い得る。
本実施形態の製造方法により製造される癌細胞由来幹細胞は、多分化能を有するため、様々な細胞初期化を誘導する、組織に分化誘導させることが出来る。分化細胞は再生医療用材料として、用いることができる。また癌細胞の悪性化と初期化メカニズムの分子医学、発生学上の解析に有用な研究材料を提供し得る。更に、JDP2の発現抑制剤を開発し、抗癌剤として臨床に応用出来る可能性がある。
《幹細胞》
本発明の幹細胞は、本発明の実施態様1又は実施態様2の幹細胞の製造方法によって得ることができる。前記幹細胞は、癌細胞化のリスクが低減されており、従来の幹細胞とは異なる性質を有していると考えられる。また、従来の幹細胞とは細胞科学的特徴も異なっていると考えられる。
《作用》
本発明において、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤によって、幹細胞が製造されるメカニズムは、明確に解析されたわけではないが、以下のように推定することができる。
ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)の阻害剤は、体細胞の初期化を誘導するものと推定される。更に、得られた幹細胞に抗癌性を付与しているものと考えられる。
また、本発明において、癌細胞のJDP2遺伝子を抑制することによって、幹細胞が製造されるメカニズムは、明確に解析されたわけではないが、以下のように推定することができる。
発癌遺伝子c−Junが、細胞の初期化に関与しており、特にJDP2遺伝子が細胞の初期化に関与し、その発現を抑制することにより、細胞を幹細胞に誘導できたものと推定される。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
《実施例1》ヒト肝癌株細胞HepG2へのJDP2RNA干渉による幹細胞への誘導の確認
凍結保存中のヒト肝癌細胞株HepG2(理研細胞銀行より入手)を融解後、10%FCS(Gibco, Life Technologies)と抗生物質(Gibco, Life Technologies)とを加えたMEMα培地(Gibco, Life Technologies)を5.0mL入れた径10cm皿(Greiner Bio-One)上で、37℃、5%COの条件下で増殖培養を行い、実験に用いる材料とした。
培養開始後4〜5日経過して、コンフルエントに達した時点で、0.25%トリプシン液(Gibco, Life Technologies)で7〜8分間処理し、遠心後、約5×10細胞/mLの濃度で、合成を依頼したJDP2のRNA干渉用ベクター3種(Santa Cruz Biotechnology)を含む溶液(1μg/mL)を20μL加えたDMEM液200μL中で分散し、混和させた。その後、前記混和液をキュベット電極容器に移し替えた。なお、JDP2干渉用のRNA配列(A、B及びC)はそれぞれ以下の通りである。
A.
・センス:GGAUGGAACUCAGAAUGAAtt(配列番号2)
・アンチセンス:UUCAUUCUGAGUUCCAUCCtt(配列番号3)
B.
・センス:GAUGCCGGAACAAGAAGAAtt(配列番号4)
・アンチセンス:UUCUUCUUGUUCCGGCAUCtt(配列番号5)
C.
・センス:GCUUUCAACUGCACAUGUUtt(配列番号6)
・アンチセンス:AACAUGUGCAGUUGAAAGCtt(配列番号7)
前記混和液の入ったキュベット電極をエレクトロポレーション装置(CUY21、Bex)に接続し、20ボルト電圧、50ミリ秒パルス幅、50ミリ秒パルス間隔、10回パルス回数の設定でパルス電流を発生させた。その後、細胞を同一のキュベット電極に入れたまま、10分間の間隔で3回、同様設定で電気刺激処置を反復した。10%FCSと抗生物質を含有し、更に10ng/mL−LIF(Sigma)、10μg/mL−BMP4(Sigma)、及び10μg/mL−IGFBP3(Sigma)を加えたMEMα培地を、フィーダー細胞の被覆の無い、3.5cm径皿(Iwaki)に1.5mL入れ、当該皿上で前記刺激処置後の細胞を播種後、37℃、5%CO条件下で培養を開始した。
1日1回培地交換を行いながら培養を継続すると、培養開始後7〜10日程で、培養皿上に、細胞数10〜20程度のコロニーが多数出現した(全体の数パーセント)。皿中の大多数は、HepG2細胞特有の上皮様形態細胞であるが、細胞コロニーを形成する細胞の増殖性はそれらを上回っている為、継代培養を3〜4回繰返すことにより、電気刺激処置後約14日間でコロニーを形成する細胞が優勢となった。これらのコロニーは、幹細胞特有の形態、つまり細胞同士が密着して集まり、細胞の殆どの面積を細胞核が占有し、細胞質の割合が極端に少ない、典型的なES様細胞の形態を示す幹細胞様コロニーであった。前記幹細胞様コロニーの顕微鏡写真を図1に示す。
上記の様に樹立したHepG2細胞由来幹細胞様細胞に関して、幹細胞として必須の多能性並びに未分化性の有無を、継代数20の細胞を用いて、細胞免疫学かつ分子生物学的解析により解析した。具体的には前記幹細胞様細胞は、幹細胞マーカーであるOCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4の各抗体に対し陽性反応を示した(図2)。
更に、多能性の証明として、継代数20の細胞を免疫不全マウスの生体内に移植し、テラトーマ内に三胚葉由来組織学的解析を形成する能力の確認を行った。HepG2由来幹細胞によるテラトーマの形成を調べた。即ち、免疫不全SCIDマウスの側腹皮下組織に、約1×10個ずつの細胞を1mLの10%FCS含有DMEM培地に拡散させて注入した。なお、継代数の違いで2区分として、グループ1及び2の2区分けとした。
表中の値は各グループ2頭ずつに形成されたテラトーマの大きさの平均値を示す。
各グループ2頭ずつとして、合計4頭のSCIDマウスにHepG2由来JDP2RNA干渉幹細胞様細胞の移植を行った。移植後30日でテラトーマを摘出し、テラトーマの組織検査を行った。グループ(1)のテラトーマ標本には、外胚葉由来としてケラチノサイト、中胚葉由来として血管内皮様組織、内胚葉由来として消化管組織の形成が認められ、グループ(1)の細胞の多能性が確認された(図3)。また、グループ1及び2共に、テラトーマの形成が確認された(図4)。
《実施例2》ヒト繊維芽細胞のヒドロキサム酸添加培養による幹細胞への誘導及び癌細胞化リスクの低減性の確認
凍結保存中のヒト繊維芽細胞NHDF(クラボウより購入)を融解後、実施1の場合と同様、10%FCS(Gibco)と抗生物質―抗菌剤(Gibco)とを加えたMEMα(Gibco)を5.0mL入れた径10cm培養皿(Greiner)上で、37℃、5%COの条件下で培養し、実験に用いる細胞材料とした。
培養開始後6〜7日経過し、コンフルエントに達した時点でトリプシン処理を行い、遠心分離にて細胞を回収した。細胞を接着させず、浮遊培養を行うためポリHEMA(Sigma)600mgをエチルアルコール40mL中で溶解させ、800μL宛径3.5cmの培養皿(Nunc, Thermo Scientific)に塗布し、一晩乾燥させた。スベロイルビスヒドロキサム酸(Cosmo Bio)を100μg/mL濃度で含有させた、実施例1の幹細胞樹立用培地、つまり10%FCS、抗生物質を含有し、更に10ng/mL−LIF(Sigma)、及び10ng/mL−BMP4(Sigma)、及び10ng/mL−IGFBP3(Sigma)を加えたMEMα培地に上記の回収されたNHDF細胞を、約5×10個細胞/mLの濃度で、2mLの培地に分散させた後、ポリHEMA塗布培養皿に播種し、37℃、5%COの条件下で培養を開始した。
細胞は培養皿に接着せずに浮遊状態のまま増殖し、3〜4日後には細胞数が10個以上の細胞塊を多数形成した。更に培養を継続し、細胞塊の直径が500〜60μmに到達した時点で、遠心分離により胚葉体様細胞塊を回収し、ポリHEMA無処理の3.5cm培養皿(Iwaki)で上記と同様の培地、培養条件で接着培養を継続すると、ヒドロキサム酸処理開始後14日間程で、実施例1で見られた幹細胞様コロニーが多数出現した(図5)。当該コロニーの継代培養を数代行うことにより、幹細胞誘導処理(ヒドロキサム酸との共培養)開始後約3〜4週間で幹細胞様株を樹立できた。なお、ヒドロキサム酸との共培養処理は幹細胞様コロニーが多数出現した時点で(開始後約14日間前後)、適宜停止した。その後は無添加にて通常の幹細胞培地で培養を継続した。
上記の様にして、樹立されたNHDF細胞由来幹細胞様細胞の幹細胞としての多能性と未分化性の有無を、継代数18の細胞を用いて、細胞免疫学的に解析した。具体的には、前記幹細胞様細胞は、幹細胞マーカーであるOCT4、SOX−2、c−MYC、KLF4、STAT3、GATA4の各抗体に対して陽性反応を示した(図6)。
更に、多能性の保持の有無、並びに癌形成力の有無を確認する為の解析を、以下の様に行った。即ち継代数18のNHDF細胞由来幹細胞様細胞を、免疫不全SCIDマウスの睾丸内組織に、約1×10個細胞を1mLの10%FCS含有DMEM培地に拡散して注入した。比較対照の為、マウスTT2ES細胞を同程度の細胞数にして、反対側の睾丸に移植した。約1ヶ月後、睾丸を摘出したところ、NHDF細胞由来幹細胞を移植した睾丸にテラトーマ形成が認められなかった一方、TT2マウスES細胞移植の睾丸はテラトーマが形成された(図7)。従って本幹細胞様細胞は、癌形成リスクの低減化が明瞭に確認された。
更に、上記ヒトNHDF細胞の多分化能力の解析を、浮遊培養法により胚葉体様細胞塊を形成させてから、組織学的に行った。即ち、継代数20の細胞を、トリプシン処理により単一細胞に分散させ、遠心分離により細胞を回収した。その後、回収した細胞を約1×10個細胞/mLの濃度で、前述した浮遊培養法と同様にポリHEMAを処理し、細胞非接着性とした3.5cm培養皿(Corning)において浮遊培養により、細胞を胚葉体構造に誘導した。
《神経細胞への分化誘導》
FCS1%、FGF2及びEGFを各々10μg/mL濃度で含有するDMEM培地で、上記幹細胞様細胞に浮遊培養を施した。開始後3〜4日で胚葉体が形成され(図8D)、更に10日〜14日間培養を継続して、得られた胚葉体を組織学的に解析したところ、外胚葉組織である神経膠様細胞の形成が認められた(図8A)。
《内皮細胞への分化誘導》
上記と同様の手法で、血管内皮細胞増殖因子(VEGF, Sigma)を50ng/mLで含有し、FCS10%を添加したDMEM培地で14日〜20日間浮遊培養を行った。得られた胚葉体は消化管内皮様細胞(中胚葉組織)の形成が認められた(図8B)。
《肝細胞への分化誘導》
更に上記と同様の手法で、FGF4(Sigma)、HGF(Sigma)を10μg/mL濃度で含有し、FCSを10%添加したDMEM培地で14日間培養することにより、内胚葉組織である肝細胞様細胞の形成が認められた(図8C)。
上記の結果により、上記NHDF幹細胞様細胞は体外培養系で多分化能力を示すことが証明された。
《実施例3》ヒト羊膜細胞のヒドロキサム酸添加培養による幹細胞への誘導並びに癌細胞化リスク低減性の確認
凍結保存中のヒト羊膜由来繊維芽細胞を融解後、実施例1及び2に既述した方法と同様に増殖培養を行い、実験に用いる細胞材料とした。コンフルエントに達したヒト羊膜由来初代細胞を0.25%トリプシン処理し、遠心分離により細胞を回収した。得られた細胞を約1×10個細胞/mLの濃度で実施例2と同条件の設定で、スベロイルビスヒドロキサム酸(Cosmo Bio)を100μg/mL濃度で含有し、更に10%FCS(Gibco)、抗生物質−抗菌剤(Gibco)、10ng/mL−LIF(Sigma)、10μg/mL−BMP4(Sigma)及び10ng/mL−IGFBP3(Sigma)を加えたMEMα培地(Gibco)2mLに分散させた後、ポリHEMA塗布培養皿(3.5cm、Nunc)に播種し、37℃、5%COの条件下で培養を開始した。
細胞は浮遊状態のまま増殖を続け、培養開始後7〜8日で直径500〜600μmの胚葉体様細胞塊が多数出現した。実施例2と同様に、遠心分離により上記胚葉体様細胞塊を回収し、ポリHEMA無処理の3.5cm培養皿(Nunc)で、上記と同様の培地、培養条件で培養を継続すると、ヒドロキサム酸処理開始後10〜14日程で幹細胞様コロニーが出現した(図9)。当該コロニーの継代培養を数代行うことにより、幹細胞誘導処理培養の開始後約3週間で幹細胞様細胞株を樹立した。ヒドロキサム酸との共培養処理は、実施例2と同様幹細胞様コロニーが出現した時点で停止した。
前記幹細胞様細胞は、幹細胞としての細胞生物学的特徴を有することが確認された。即ち、前記幹細胞様細胞は、(1)幹細胞マーカー遺伝子OCT4、SOX2、KLF4、c−MYC、STAT3、及びGATA4の発現が陽性であることがRT−PCR法にて確認され(図10)、(2)アルカリフォスファターゼ活性が陽性であることが確認された(図11)。更に(3)継代数15の細胞で、正常核型(46XX)であることを確認した。以上により、上記羊膜由来幹細胞様細胞が、幹細胞の特徴を備えていることが証明された。
上記ヒト羊膜由来幹細胞様細胞の多分化能力の解析は、以下の様に行った。継代数15のヒト羊膜由来幹細胞を、特開2005−151907号公報に記載の方法に準じ、EGF(Sigma)、FGF2(Sigma)、及びFGF9(Sigma)をそれぞれ20ng/mL濃度で含有するMEMα(Gibco)培地で、14〜21日間接着培養し、その結果、アストロサイトマーカー及び神経幹細胞マーカーであるGFAP,ネスチン、又はTuji1各抗体に陽性反応を示す神経細胞への分化が確認された(外胚葉への分化を示す能力、図12A)。
更に、上記ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞を、VEGF(Sigma)を50ng/mL濃度で含有し且つFCS10%を添加したMEMα培地で14〜21日間培養を開始した。その結果、血球系の形態を示す細胞コロニーが出現し、それらの形態を示す血球細胞は血球マーカーであるCD45に対する抗体に陽性反応を示した(中胚葉への分化能力、図12B)。
一方、上記ヒト羊膜由来幹細胞様細胞を、FGF4(Sigma)、及びHGF(Sigma)を20ng/mL濃度で含有し、且つFCS10%を添加したMEMα培地で14日間培養することにより、α−フェトプロテイン抗体に陽性の肝細胞様形態が認められた(内胚葉への分化能力、図12C)。
以上の結果により、ヒト羊膜細胞由来幹細胞様細胞が、体外培養系で多分化能力を有することが確認された。なお、上記で使用した各種抗体のうち、α−フェトプロテインをコスモバイオより購入した以外は全てSigmaより購入した。抗体は、Fluorescein isothiocyanate(FITC)標識されたものを用いた。
更に、多能性の保持の有無並びに癌形成リスク低減化力の有無を確認する為の解析を、実施例2に準じた方法で行った。即ち、継代数15の羊膜由来幹細胞様細胞を、免疫不全SCIDマウスの睾丸組織内に約1×10個細胞/mL濃度として、1mLの10%FBS含有DMEM培地に拡散させて注入した。対照としてマウスTT2ES細胞を同程度の細胞数として反対側睾丸に移植した。約30日後、睾丸を摘出したところ、ヒト羊膜細胞由来幹細胞を移植した睾丸にはテラトーマ形成が殆ど認められなかったのに対し、TT2マウスES細胞を移植された睾丸にはテラトーマ形成が確認された(図13)。この結果により、本幹細胞様細胞には、癌形成リスクの低減化が明らかに認められた。
以上の結果より、ヒト羊膜幹細胞様細胞は、培養条件下で多分化能力を有しつつ、癌形成リスク低減性のある幹細胞であることが明らかとなった。
本発明の製造方法により製造された幹細胞は、臨床応用分野のみならず、細胞医学、薬学、工学、農学、獣医学各分野の研究発展に非常に有益である。また、本発明の製造方法により製造された幹細胞は、生体内もしくは生体外培養系における細胞の分化転換制御メカニズムの解明や、生殖医学、分子生物学、発生学の研究材料としても利用可能である。
一方、本発明の製造方法により製造された幹細胞は、所望の分化細胞に分化誘導後、体外培養系を用いた種々の医療用細胞として、又は組織、もしくは器官の再生医療用材料として、好適に用いられ得る。また、本発明の癌細胞化リスク低減化法により、癌細胞化リスクが低減された幹細胞は、再生医療用基盤材料や化粧品用素材として使用することができる。更に、JDP2遺伝子の発現抑制剤を開発し、新規抗癌剤として臨床に応用することができる。

Claims (8)

  1. 体細胞を、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤を含む培地で培養する工程を含む、幹細胞の製造方法。
  2. 前記ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤が、スベロイルビスヒドロキサム酸、トリコスタチンA、酪酸、バルプロ酸、アピシジン、オキサムフラチン(Oxamflatin)、又はスプリトマイシン(Splitomicin)である、請求項1に記載の幹細胞の製造方法。
  3. 前記幹細胞が、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する、請求項1又は2に記載の幹細胞の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項の製造方法による癌細胞化のリスク低減方法。
  5. 癌細胞のJDP2遺伝子をRNA干渉による抑制する工程を含む、幹細胞の製造方法。
  6. 前記RNA干渉が、癌細胞にJDP2遺伝子のmRNAの相補的低分子RNAベクターを導入することによって実施される、請求項5に記載の幹細胞の製造方法。
  7. 前記幹細胞が、OCT4、SOX2、c−MYC、KLF4、STAT3、及びGATA4からなる群から選択される少なくとも1つの幹細胞マーカーを発現する、請求項5又は6に記載の幹細胞の製造方法。
  8. 請求項1〜3及び5〜7のいずれか一項に記載の製造方法によって得られる幹細胞。
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