JP2020097906A - ベーンポンプ - Google Patents
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Abstract
【課題】ベーンポンプの始動性を向上させる。【解決手段】複数のスリット50が放射状に形成されたロータ5と向かい合うサイドプレート4に、スリット50の背圧室502にベーン6を突出させる背圧を供給する第2の吸入側背圧溝452及び第2の吐出側背圧溝462を形成すると共に、第2の吸入側背圧溝452及び第2の吐出側背圧溝462よりも径方向外側に第2の延設溝492を形成する。ベーン6の先端部が内周カム面3aの拡大領域3b及び縮小領域3cに突き当てられてロータ5が回転する通常動作状態では、第2の延設溝492及び複数のスリット50を介して第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462とが連通し、スリット50からのベーン6の突出量が所定値以下でロータ5が回転する不完全動作状態では、第2の延設溝を介する第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462との連通がスリット50内のベーン6により遮断される。【選択図】図5
Description
本発明は、複数のベーンを収容する複数のスリットが放射状に設けられたロータの回転により、吸入ポートから吸入した流体を吐出ポートから吐出するベーンポンプに関する。
従来、複数のベーンを保持するロータが内周カム面を有するカムリング内で回転することにより、吸入ポートから吸入した作動油を吐出ポートから吐出するベーンポンプが、各種の油圧機器の作動のために用いられている。複数のベーンは、ロータに放射状に設けられたスリットに収容されてロータの径方向に移動可能であり、ロータの外周面と内周カム面との間に複数のポンプ室を画成する。このようなベーンポンプには、カムリングの内周カム面が楕円状に形成され、カムリング内のロータ室に第1及び第2の吸入ポートならびに第1及び第2の吐出ポートが開口したものがある(例えば、特許文献1,2参照)。
このようなロータ1回転当たり2度のポンプ作用が行われるベーンポンプでは、ロータが複数のベーンと共に回転することにより、第1の吸入ポートに吸入した作動油を第1の吐出ポートから吐出する第1の圧力遷移行程と、第2の吸入ポートに吸入した作動油を第2の吐出ポートから吐出する第2の圧力遷移行程とを同時に行う。そして、第1の吐出ポート及び第2の吐出ポートからそれぞれ別々の供給対象に作動油を供給することが可能である。
また、特許文献1,2に記載のベーンポンプは、スリットからベーンを押し出してベーンの先端を内周カム面に押し付けるために、ロータを軸方向に挟む側板に、スリットの奥側(ロータの中心部側)の基端部に連通すると共に吐出ポートに接続された背圧溝が形成されている。ベーンは、スリットの基端部に供給される背圧によってスリットから押し出され、先端部が内周カム面に押し付けられる。
ところで、上記のように構成されたベーンポンプが例えば自動車の自動変速機を動作させるために用いられる場合には、トルクコンバータに連結されてロータが回転駆動されるため、ロータの回転軸が水平方向となる。このため、例えば自動車の駐車中に、ロータの回転軸よりも上方に位置するベーンが自重によってスリットの奥側に移動してしまう場合がある。このように一部のベーンがスリットの奥側に移動してしまうと、例えばロータの回転が高速になってベーンが遠心力によってスリットから飛び出すようになるまでは、ポンプ作用が不十分なままとなり、始動性が低下してしまう。このような始動性の低下は、作動油の粘性が高くなる例えば−30℃以下の極低温時において顕著になる。
特許文献2に記載のベーンポンプでは、ベーンポンプの始動性を向上させるため、ロータの回転軸よりも下方に位置する第1の吐出ポートから流体を吐出する第1の圧力遷移行程を行うベーンの背圧の一部を、ロータの回転軸よりも上方に位置する第2の吸入ポートから流体を吸入するポンプ室を画成するベーンの背圧として用いるように構成されている。具体的には、第1の圧力遷移行程を行うベーンに背圧を供給する背圧溝が、第1の吸入ポートの内側に設けられた深溝と、第1の吐出ポートの内側に設けられた浅溝と、深溝と浅溝とを連通させる連通溝と、浅溝における連通溝とは反対側の端部からロータの回転方向に延出された延出溝とからなり、延出溝が第2の吸入ポートの内側まで延出されている。深溝には、第1の吐出ポートの圧力が背圧導入路を介して導入される。浅溝には、ポンプ室から第1の吐出ポートに流体を吐出する際に内方に移動するベーンによってスリットから押し出された流体が供給される。スリットから浅溝に供給された流体は、浅溝を介してロータの回転方向の後方側の他のスリットに供給されて背圧を増大させるほか、延出溝を介して第2の吸入ポートの内側に位置するスリットにも供給され、当該スリットに収容されたベーンを突出させる。
特許文献2に記載のものでは、延出溝を長くし過ぎると、回転方向の後方側の他のスリットに供給される流体の量が減少し、これらのスリットの背圧が低下してベーンの先端部と内周カム面との間のシール性が低下してしまうため、第2の吸入ポートから流体を吸入するポンプ室を画成するベーンの全てに延出溝から背圧を供給することができず、始動性の向上になお改善の余地があった。
そこで、本発明は、第1の圧力遷移行程を行うベーンの背圧をロータの回転軸よりも上方に位置する第2の吸入ポートから流体を吸入するポンプ室を画成するベーンの背圧として用いなくとも、始動性をさらに向上させることができるベーンポンプを提供することを目的とする。
本発明は、上記の目的を達成するため、複数のスリットが放射状に形成されると共に前記複数のスリットのそれぞれの基端部に背圧室が設けられ、中心軸線を回転中心として一定の回転方向に回転するロータと、前記複数のスリットのそれぞれに少なくとも一部が収容され、前記背圧室に供給される背圧によって前記スリットから前記ロータの径方向外方に押し出される力を受ける複数のベーンと、前記ロータを軸方向に挟む一対の側板と、前記スリットから突出した前記ベーンの先端部が突き当てられる内周カム面を有するカムリングとを備え、前記複数のベーンによって前記ロータの外周面と前記内周カム面との間に複数のポンプ室が画成され、前記ロータの回転による前記ポンプ室の容積変化によって吸入ポートに吸入した流体を吐出ポートから吐出するベーンポンプであって、前記内周カム面は、前記回転方向に沿って前記中心軸線からの距離が徐々に拡大する拡大領域と、前記回転方向に沿って前記中心軸線からの距離が徐々に縮小する縮小領域とを有し、前記一対の側板のうち少なくとも何れか一方の側板には、前記内周カム面の前記拡大領域に対向する前記背圧室に前記吐出ポートの吐出圧を導く吸入側背圧溝、前記内周カム面の前記縮小領域に対向する複数の前記背圧室同士を連通させる吐出側背圧溝、及び前記吸入側背圧溝及び前記吐出側背圧溝よりも径方向外側に形成されて前記回転方向の所定範囲に延在する延設溝が形成され、前記ベーンの先端部が前記内周カム面の前記拡大領域及び前記縮小領域に突き当てられて前記ロータが回転する通常動作状態では、前記延設溝及び複数の前記スリットを介して前記吸入側背圧溝と前記吐出側背圧溝とが連通し、前記スリットからの前記ベーンの突出量が所定値以下で前記ベーンの先端部が前記内周カム面の前記拡大領域及び前記縮小領域に突き当てられずに前記ロータが回転する不完全動作状態では、前記延設溝を介する前記吸入側背圧溝と前記吐出側背圧溝との連通が前記スリット内の前記ベーンにより遮断される、ベーンポンプを提供する。
本発明によれば、ベーンポンプの始動性を向上させることが可能となる。
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
本発明の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
図1は、本発明の実施の形態に係るベーンポンプの概略の構成を示す構成図である。図2は、図1のA−A線におけるベーンポンプの断面図である。図3(a)はベーンポンプのサイドプレート及びカムリングを示す平面図であり、図3(b)はロータを示す平面図である。図4(a)はサイドプレートを示す斜視図であり、図4(b)はハウジング蓋体22を示す斜視図である。
このベーンポンプ1は、例えば自動車の駆動源(エンジン)の出力回転を車速等に応じて変速する自動変速機に用いられ、自動変速機の動作のためのアクチュエータに流体としての作動油を供給する。
(ベーンポンプの構成)
ベーンポンプ1は、ポンプハウジング2と、ポンプハウジング2に収容されたカムリング3及びサイドプレート4と、カムリング3の内側に回転可能に配置されたロータ5と、ロータ5と共に回転する複数の平板状のベーン6と、ロータ5に相対回転不能に連結されたポンプ軸7とを備えている。
ベーンポンプ1は、ポンプハウジング2と、ポンプハウジング2に収容されたカムリング3及びサイドプレート4と、カムリング3の内側に回転可能に配置されたロータ5と、ロータ5と共に回転する複数の平板状のベーン6と、ロータ5に相対回転不能に連結されたポンプ軸7とを備えている。
ポンプ軸7は、エンジンのクランクシャフトに連結されたポンプインペラ、ポンプインペラと同軸配置されたタービンランナ、及びポンプインペラとタービンランナの間に配置されたステータからなるトルクコンバータの出力部材であるタービンランナに連結された駆動軸からチェーン又はギヤ機構を介して回転力を受けて回転する。ロータ5の中心軸線Cは、ポンプ軸7の回転軸線と一致し、水平方向に延びている。ロータ5は中心軸線Cを回転中心として、ポンプ軸7と共に一定の方向(図1に示す矢印B方向)に回転する。以下、ロータ5の中心軸線Cに平行な方向を軸方向という。
ポンプハウジング2は、図2に示すように、収容空間20が形成されたハウジング本体21と、ハウジング本体21における収容空間20の開口を閉塞するハウジング蓋体22とを有し、ハウジング本体21とハウジング蓋体22とがボルト23により締結されている。ハウジング本体21及びハウジング蓋体22は、例えばアルミ系金属材料(アルミニウム合金)からなり、ダイキャスト成形されている。図1では、ハウジング蓋体22の図示を省略して収容空間20の内部を示している。
収容空間20には、カムリング3及びサイドプレート4が収容されている。サイドプレート4は、収容空間20の底面20a側に配置され、カムリング3は、サイドプレート4とハウジング蓋体22との間に配置されている。カムリング3及びサイドプレート4は、例えば鉄系金属材料からなり、焼結によって成形されている。ロータ5は、サイドプレート4とハウジング蓋体22との間に配置されている。サイドプレート4及びハウジング蓋体22は、ロータ5を軸方向に挟む本発明の一対の側板に相当する。
ハウジング本体21には、図示しない吸入通路から作動油が導入される第1及び第2の導入部211,212(図1参照)が収容空間20に連通して形成されている。また、ハウジング本体21には、収容空間20の底面20aに開口する第1及び第2の吐出通路213,214(図2参照)が形成されている。ベーンポンプ1は、オイルの貯留部から第1及び第2の導入部211,212に供給された作動油を、圧力を高めて第1及び第2の吐出通路213,214から供給対象に供給する。ポンプハウジング2は、図1に示す下側が鉛直方向の下方となるように配置される。
ポンプ軸7は、ハウジング蓋体22に形成された挿通孔220及びサイドプレート4に形成された挿通孔40に挿通され、一端部がハウジング本体21に形成された止まり穴210に収容されている。ハウジング蓋体22の挿通孔220には、挿通孔220の内周面とポンプ軸7の外周面との間を封止するシール部材81が配置されている。また、ポンプ軸7は、ハウジング蓋体22の挿通孔220に収容された軸受82、及びハウジング本体21の止まり穴210に収容された軸受83により、回転自在に支持されている。
カムリング3は、図3(a)に示すように、軸方向から見た外周面が円形状であり、内周面が楕円形状である。この内周面は、ベーン6の先端部が突き当てられる内周カム面3aである。内周カム面3aに囲まれたカムリング3の内部には、ロータ5が配置されるロータ室30が形成されている。内周カム面3aは、ロータ5の回転方向に沿って中心軸線Cからの径方向の距離が徐々に拡大する一対の拡大領域3bと、ロータ5の回転方向に沿って中心軸線Cからの距離が徐々に縮小する一対の縮小領域3cとを有している。
カムリング3には、一対の貫通孔31,31が形成されている。この一対の貫通孔31,31には、ハウジング本体21における収容空間20の底面20aに立設された一対のピン215,215がそれぞれ挿通されている。また、一対のピン215,215は、サイドプレート4に形成された一対の貫通孔400,400に挿通されている。これにより、カムリング3及びサイドプレート4は、ポンプハウジング2に対して相対回転不能とされている。
サイドプレート4には、図3(a)及び図4(a)に示すように、第1の吸入ポート41、第2の吸入ポート42、第1の吐出ポート43、及び第2の吐出ポート44が形成されている。これらの吸入ポート41,42、及び吐出ポート43,44は、カムリング3の内周カム面3aと共にロータ室30の内面を形成するサイドプレート4の平面4aから軸方向に窪んで形成され、ロータ室30に開口している。第1の吐出ポート43は、ロータ5の回転方向の前方側の端部(図3(a)における左端)に、ロータ5の回転方向と逆向きに開口面積を徐々に縮小して延在する第1のひげ溝431を有している。また、第2の吐出ポート44は、ロータ5の回転方向の前方側の端部(図3(a)における右端)に、ロータ5の回転方向と逆向きに開口面積を徐々に縮小して延在する第2のひげ溝441を有している。
第1の吸入ポート41は、第1の導入部211に連通し、第2の吸入ポート42は、第2の導入部212に連通している。第1及び第2の導入部211,212には、外部から作動油が導入される。第1の吐出ポート43は、第1の吐出通路213に連通し、第2の吐出ポート44は、第2の吐出通路214に連通している。第1及び第2の吐出通路213,214は、異なる供給対象への配管に接続される。ベーンポンプ1が自動車に搭載された状態において、第1の吐出ポート43はロータ5の中心軸線Cよりも下方に位置し、第2の吐出ポート44はロータ5の中心軸線Cよりも上方に位置する。
ロータ5は、カムリング3の内周カム面3aに外周面5aが対向するように、ロータ室30内に回転可能に配置されている。ロータ5は、例えば鉄系の金属からなる粉末を焼成した焼結体からなる円板状である。ロータ5の中心部には、ポンプ軸7が嵌合する嵌合孔51が形成されている。本実施の形態では、ポンプ軸7のスプライン嵌合部71がロータ5の嵌合孔51にスプライン嵌合している。ロータ5は、ポンプ軸7に対して相対回転不能であり、ポンプ軸7と共に回転する。
また、ロータ5には、図3(b)に示すように、外周面5aに開口する複数(本実施の形態では12個)のスリット50が放射状に形成されている。スリット50は、ロータ5を軸方向に貫通している。それぞれのスリット50には、ベーン6の少なくとも一部が収容されている。スリット50は、ベーン6の厚みよりも僅かに大きな幅に形成されたガイド部501と、ガイド部501よりも幅広に形成された丸孔である背圧室502とを有している。
背圧室502は、スリット50の内径側の基端部(ロータ5の中心側の端部)に設けられている。ベーン6は、スリット50のガイド部501に案内されてロータ5の径方向に移動可能である。ベーン6は、背圧室502に導入される圧力によってスリット50からロータ5の径方向外方に押し出される力(背圧)を受け、先端部が内周カム面3aに突き当てられる。背圧室502に背圧を供給するための構造については後述する。
ロータ室30内には、複数のベーン6によってロータ5の外周面5aと内周カム面3aとの間に複数のポンプ室Pが画成される。ここで、画成とは、区画して形成することをいう。ベーン6は、その先端部が内周カム面3aの拡大領域3bに突き当てられてロータ5と共に回転することによりスリット50からの突出量が大きくなり、また先端部が内周カム面3aの縮小領域3cに突き当てられてロータ5と共に回転することによりスリット50からの突出量が小さくなる。このベーン6の動きによってポンプ室Pの容積が変化する。ポンプ室Pの容積が大きくなる過程では、ポンプ室P内に第1の吸入ポート41又は第2の吸入ポート42から作動油が導入され、ポンプ室Pの容積が小さくなる過程では、ポンプ室P内に吸入された作動油が第1の吐出ポート43又は第2の吐出ポート44から排出される。
次に、スリット50の背圧室502に背圧を発生させるための構造について説明する。本実施の形態では、この構造として、ロータ5と軸方向に向かい合うサイドプレート4の平面4aに、第1及び第2の吸入側背圧溝451,452、第1及び第2の吐出側背圧溝461,462、第1及び第2の連通溝471,472、第1及び第2の延出溝481,482、ならびに第1及び第2の延設溝491,492が形成されている。
第1及び第2の吸入側背圧溝451,452は、内周カム面3aの拡大領域3bに対向するベーン6の背圧室502に第1及び第2の吐出ポート43,44の吐出圧を導く。これらのベーン6は、その先端部が背圧室502の背圧によって内周カム面3aの拡大領域3bに押し付けられる。第1の吸入側背圧溝451は、第1の吸入ポート41の内側に形成され、サイドプレート4に設けられた第1の背圧導入路401(図2に示す)によって第1の吐出通路213に連通している。第2の吸入側背圧溝452は、第2の吸入ポート42の内側に形成され、サイドプレート4に設けられた第2の背圧導入路402(図2に示す)によって第2の吐出通路214に連通している。図2では、第1及び第2の背圧導入路401,402を破線で示している。
第1及び第2の吐出側背圧溝461,462は、内周カム面3aの縮小領域3cに対向する複数のベーン6が収容されているスリット50のそれぞれの背圧室502同士を連通させる。第1の吐出側背圧溝461は、第1の吐出ポート43の内側に形成され、内周カム面3aの縮小領域3cに対向する複数のベーン6がそれぞれ収容されている複数のスリット50の背圧室502同士を連通させる。また、第1の吐出側背圧溝461は、ロータ5の回転方向における第1の吸入側背圧溝451の後方に、第1の吸入側背圧溝451と間隔をあけて形成されている。
第2の吐出側背圧溝462は、第2の吐出ポート44の内側に形成され、内周カム面3aの縮小領域3cに対向する複数のベーン6のそれぞれの背圧室502同士を連通させる。また、第2の吐出側背圧溝462は、ロータ5の回転方向における第2の吸入側背圧溝452の後方に、第2の吸入側背圧溝452と間隔をあけて形成されている。
第1の連通溝471は、第1の吸入側背圧溝451と第1の吐出側背圧溝461とを連通させている。第2の連通溝472は、第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462とを連通させている。サイドプレート4の径方向における第1の連通溝471の幅は、第1の吸入側背圧溝451の幅や第1の吐出側背圧溝461の幅よりも狭く形成されており、第1の吸入側背圧溝451と第1の吐出側背圧溝461との間の作動油の流れを規制する絞りとして機能する。同様に、サイドプレート4の径方向における第2の連通溝472の幅は、第2の吸入側背圧溝452の幅や第2の吐出側背圧溝462の幅よりも狭く形成されており、第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462との間の作動油の流れを規制する絞りとして機能する。
第1の延出溝481は、第1の吐出側背圧溝461における第1の吸入側背圧溝451とは反対側の端部からロータ5の回転方向に延出されている。第2の延出溝482は、第2の吐出側背圧溝462における第2の吸入側背圧溝452とは反対側の端部からロータ5の回転方向に延出されている。
第1の延設溝491は、第1の吸入側背圧溝451、第1の吐出側背圧溝461、及び第1の連通溝471よりも径方向外側に形成され、ロータ5の回転方向の所定範囲に延在している。第1の延設溝491は、ロータ5の回転方向における一端部491aが内周カム面3aの拡大領域3bの径方向内側に形成されると共に、ロータ5の回転方向における他端部491bが内周カム面3aの縮小領域3cの径方向内側に形成されている。また、第1の延設溝491は、一端部491aが第1の吸入側背圧溝451の径方向外側に形成されると共に、他端部491bが第1の吐出側背圧溝461の径方向外側に形成されている。
同様に、第2の延設溝492は、第2の吸入側背圧溝452、第2の吐出側背圧溝462、及び第2の連通溝472よりも径方向外側に形成され、ロータ5の回転方向の所定範囲に延在している。第2の延設溝492は、ロータ5の回転方向における一端部492aが内周カム面3aの拡大領域3bの径方向内側に形成されると共に、ロータ5の回転方向における他端部492bが内周カム面3aの縮小領域3cの径方向内側に形成されている。また、第2の延設溝492は、一端部492aが第2の吸入側背圧溝452の径方向外側に形成されると共に、他端部492bが第2の吐出側背圧溝462の径方向外側に形成されている。
本実施の形態では、第1の連通溝471における作動油の流路面積が第1の延設溝491における作動油の流路面積よりも小さい。また、第2の連通溝472における作動油の流路面積が第2の延設溝492における作動油の流路面積よりも小さい。これにより、第1及び第2の連通溝471,472が絞りとして十分に機能する。
また、本実施の形態では、ハウジング蓋体22のロータ室30側の平面22aに、第1及び第2の凹部241,242、第1及び第2の吸入側背圧溝251,252、第1及び第2の吐出側背圧溝261,262、第1及び第2の連通溝271,272、第1及び第2の延出溝281,282、ならびに第1及び第2の延設溝291,292が形成されている。第1及び第2の凹部241,242は、サイドプレート4の第1及び第2の吐出ポート43,44と軸方向に向かい合う。
また、ハウジング蓋体22の第1及び第2の吸入側背圧溝251,252はサイドプレート4の第1及び第2の吸入側背圧溝451,452に、第1及び第2の吐出側背圧溝261,262はサイドプレート4の第1及び第2の吐出側背圧溝461,462に、第1及び第2の連通溝271,272はサイドプレート4の第1及び第2の連通溝471,472に、第1及び第2の延出溝281,282はサイドプレート4の第1及び第2の延出溝481,482に、また第1及び第2の延設溝291,292はサイドプレート4の第1及び第2の延設溝491,492に、それぞれ軸方向に向かい合うと共にロータ5のスリット50を介して連通する。
これにより、ロータ5がサイドプレート4の第1及び第2の吐出ポート43,44や各溝451,452,461,462,471,472,481,482,491,492の作動油の圧力によって軸方向一方側に受ける力と、ハウジング蓋体22第1及び第2の凹部241,242や各溝251,252,261,262,271,272,281,282,291,292の作動油の圧力によって軸方向他方側に受ける力とがバランスし、ロータ5の回転が円滑化される。
ところで、ポンプ軸7は、前述のようにトルクコンバータを介して伝達されるエンジンの駆動力によって回転するので、エンジンが停止するとロータ5の回転も停止する。このとき、中心軸線Cよりも上方に位置するベーン6は、自重によってスリット50の奥側に移動してしまう場合がある。この状態からロータ5が回転を開始したとき、ベーン6に適切な背圧が供給されないと、前述のように始動時に、第2の吐出ポート44に向かう縮小領域3cにおいて十分な圧力が発生せず、始動性が低下してしまう。なお、始動性とは、ロータ5の回転開始後に速やかにロータ5の回転数に応じた作動油の吐出量を得られる性能をいう。
そこで、本発明者は鋭意検討し、サイドプレート4の第2の連通溝472の流路面積を狭くし、第2の吐出側背圧溝462から第2の吸入側背圧溝452への作動油の流量を減らすことを考えた。第2の吐出側背圧溝462から第2の吸入側背圧溝452への作動油の流量を減らせば、内周カム面3aの縮小領域3cに突き当たってスリット50の奥側に移動するベーン6の動きによってスリット50の背圧室502から排出された作動油が第2の吐出側背圧溝462を介して回転方向後方に隣り合うスリット50の背圧室502に導入され、当該スリット50に収容されたベーン6が内周カム面3aに向かって押し出される。つまり、スリット50の奥側に移動するベーン6の動きによってスリット50の背圧室502から排出された作動油が第2の吸入側背圧溝452に逃げてしまうことが抑制され、回転方向後方に隣り合うスリット50に収容されたベーン6を押し出す背圧が高められる。
これにより、スリット50から少しでもベーン6が突出していれば、そのベーン6がスリット50の奥側に移動することによって回転方向後方側の他のベーン6がスリット50から押し出され、この積み重ねによって速やかに全てのベーン6が内周カム面3aの拡大領域3b及び縮小領域3cに突き当てられてロータ5が回転する通常動作状態となる。しかし、単に第2の吐出側背圧溝462から第2の吸入側背圧溝452への作動油の流量を減らしただけでは、通常動作状態において第2の吐出側背圧溝462の圧力が高くなりすぎ、ベーン6の先端部が内周カム面3aの縮小領域3cに強く押し当てられてベーン6と内周カム面3aとの間に発生する摩擦抵抗力が大きくなってしまう。
そこで、本実施の形態では、第2の延設溝492を形成することにより、通常動作状態において第2の延設溝492によって第2の連通溝472をバイパスし、第2の吐出側背圧溝462から第2の吸入側背圧溝452に作動油が流れるようにした。また、第2の延設溝492を、第2の吸入側背圧溝452、第2の吐出側背圧溝462、及び第2の連通溝472の径方向外側に形成することにより、スリット50からのベーン6の突出量が十分でない場合には、ベーン6によって第2の延設溝492と第2の吸入側背圧溝452及び第2の吐出側背圧溝462との連通が遮断されるようにした。
つまり、本実施の形態では、ベーン6の先端部が内周カム面3aの拡大領域3b及び縮小領域3cに突き当てられてロータ5が回転する通常動作状態では、第2の延設溝492及び複数のスリット50を介して第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462とが連通する。また、スリット50からのベーン6の突出量が所定値以下でベーン6の先端部が内周カム面3aの拡大領域3b及び縮小領域3cに突き当てられずにロータ5が回転する不完全動作状態では、第2の延設溝492を介する第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462との連通がスリット50内のベーン6により遮断される。
これにより、不完全動作状態では、第2の吐出側背圧溝462における作動油による背圧によってスリット50からのベーン6の突出が促され、通常動作状態では、第2の吐出側背圧溝462の圧力が過度に高くなることが抑制される。
また、本実施の形態では、第1の吸入側背圧溝451、第1の吐出側背圧溝461、及び第1の連通溝471よりも径方向外側に、第1の延設溝491がロータ5の回転方向の所定範囲にわたって形成されているので、この第1の延設溝491によっても、上記の第2の延設溝492と同様の作用及び効果が得られる。つまり、駐車時等において中心軸線Cよりも上方でスリット50の奥側に移動したベーン6が十分に突出しないままロータ5と共に回転して中心軸線Cよりも下方に移動した際にも、上記と同様にしてベーン6の突出が促される。
またさらに、本実施の形態では、第1の延設溝491と向かい合うようにハウジング蓋体22に第1の延設溝291が形成され、第2の延設溝492と向かい合うように、ハウジング蓋体22に第2の延設溝292が形成されているので、この第1の延設溝491及び第2の延設溝292も上記と同様に作用する。
図5(a)は、不完全動作状態における一部のベーン6の動きを模式的に示す説明図である。図5(b)は、通常動作状態における一部のベーン6の動きを模式的に示す説明図である。図5(a),(b)では、各部における作動油の圧力を色の濃さで表しており、圧力が高い部分ほど濃い色で作動油の圧力を示している。また、図5(a),(b)では、図面下方がロータ5の径方向内方にあたり、ベーン6のスリット50内での移動方向を矢印で示している。
不完全動作状態では、ロータ5の周方向(図5(a),(b)では左右方向)に延在する第2の延設溝492における作動油の流動がスリット50内のベーン6によって遮られ、第2の吐出側背圧溝462と第2の吸入側背圧溝452とが第2の連通溝472のみによって連通している。このため、スリット50の奥側に移動するベーン6(図5(a)に示すベーン6A)の動きによってスリット50の背圧室502から排出された作動油が第2の吸入側背圧溝452に逃げてしまうことが抑制され、回転方向後方に隣り合うスリット50に収容されたベーン6(図5(a)に示すベーン6B)を押し出す背圧が高められる。これにより、当該ベーン6(6B)のスリット50からの突出が促される。
一方、通常動作状態では、図5(b)に示すように、第2の連通溝472の他、複数のスリット50(図5(b)に示すスリット50A,50B)及び第2の延設溝492によって形成される経路によっても、第2の吐出側背圧溝462と第2の吸入側背圧溝452とが連通する。これにより、第2の吐出側背圧溝462の圧力が高くなり過ぎず、ベーン6の先端部が適切な力で内周カム面3aの縮小領域3cに押し当てられる。
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、一部のベーン6のスリット50からの突出量が不十分な状態でロータ5が回転する不完全動作状態では、第2の延設溝492を介する第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462との連通がスリット50内のベーン6により遮断される。これにより、第2の吐出側背圧溝462における作動油による背圧によってスリット50からのベーン6の突出が促され、始動性が向上する。また、通常動作状態では、第2の延設溝492及び複数のスリット50を介して第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462とが連通するので、ベーン6の先端部が内周カム面3aの縮小領域3cに強く押し当てられてベーン6と内周カム面3aとの間に発生する摩擦抵抗力が過度に大きくなってしまうこともない。
以上説明した実施の形態によれば、一部のベーン6のスリット50からの突出量が不十分な状態でロータ5が回転する不完全動作状態では、第2の延設溝492を介する第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462との連通がスリット50内のベーン6により遮断される。これにより、第2の吐出側背圧溝462における作動油による背圧によってスリット50からのベーン6の突出が促され、始動性が向上する。また、通常動作状態では、第2の延設溝492及び複数のスリット50を介して第2の吸入側背圧溝452と第2の吐出側背圧溝462とが連通するので、ベーン6の先端部が内周カム面3aの縮小領域3cに強く押し当てられてベーン6と内周カム面3aとの間に発生する摩擦抵抗力が過度に大きくなってしまうこともない。
また、本実施の形態では、第2の延設溝492の一端部492aが内周カム面3aの拡大領域3bの内側かつ第2の吸入側背圧溝452の径方向外側に形成されると共に、第2の延設溝492の他端部492bが内周カム面3aの縮小領域3cの内側かつ第2の吐出側背圧溝462の径方向外側に形成されているので、通常動作状態において第2の吐出側背圧溝462の圧力が過大となってしまうことが確実に抑制される。
またさらに、本実施の形態では、第1の吸入側背圧溝451、第1の吐出側背圧溝461、及び第1の連通溝471よりも径方向外側に、第1の延設溝491がロータ5の回転方向の所定範囲にわたって形成されているので、この第1の延設溝491によっても、上記の第2の延設溝492と同様の作用及び効果が得られる。
(付記)
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、これらの実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、車両への搭載時に中心軸線Cよりも下方に位置するベーン6を突出させるために、絞りとして機能する第1の連通溝471の径方向外側に第1の延設溝491を形成した場合について説明したが、第1の連通溝471の流路面積を拡大し、第1の延設溝491を省略してもよい。このように構成しても、比較的始動性が低下しやすい第2の吐出ポート44に作動油を供給するポンプ室Pを画成するベーン6を速やかにスリット50から突出させることができ、始動性が向上する。
また、上記実施の形態では、2吐出タイプのベーンポンプに本発明を適用した場合について説明したが、これに限らず、ロータ室に吸入ポート及び吐出ポートがそれぞれ一つずつ開口する1吐出タイプのベーンポンプにも、本発明を適用することが可能である。
1…ベーンポンプ
3a…内周カム面
4…サイドプレート(側板)
41…第1の吸入ポート
42…第2の吸入ポート
43…第1の吐出ポート
44…第2の吐出ポート
451,452…第1及び第2の吸入側背圧溝
461,462…第1及び第2の吐出側背圧溝
471,472…第1及び第2の連通溝
491,492…第1及び第2の延設溝
5…ロータ
50…スリット
502…背圧室
6…ベーン
3a…内周カム面
4…サイドプレート(側板)
41…第1の吸入ポート
42…第2の吸入ポート
43…第1の吐出ポート
44…第2の吐出ポート
451,452…第1及び第2の吸入側背圧溝
461,462…第1及び第2の吐出側背圧溝
471,472…第1及び第2の連通溝
491,492…第1及び第2の延設溝
5…ロータ
50…スリット
502…背圧室
6…ベーン
Claims (3)
- 複数のスリットが放射状に形成されると共に前記複数のスリットのそれぞれの基端部に背圧室が設けられ、中心軸線を回転中心として一定の回転方向に回転するロータと、
前記複数のスリットのそれぞれに少なくとも一部が収容され、前記背圧室に供給される背圧によって前記スリットから前記ロータの径方向外方に押し出される力を受ける複数のベーンと、
前記ロータを軸方向に挟む一対の側板と、
前記スリットから突出した前記ベーンの先端部が突き当てられる内周カム面を有するカムリングとを備え、
前記複数のベーンによって前記ロータの外周面と前記内周カム面との間に複数のポンプ室が画成され、前記ロータの回転による前記ポンプ室の容積変化によって吸入ポートに吸入した流体を吐出ポートから吐出するベーンポンプであって、
前記内周カム面は、前記回転方向に沿って前記中心軸線からの距離が徐々に拡大する拡大領域と、前記回転方向に沿って前記中心軸線からの距離が徐々に縮小する縮小領域とを有し、
前記一対の側板のうち少なくとも何れか一方の側板には、前記内周カム面の前記拡大領域に対向する前記背圧室に前記吐出ポートの吐出圧を導く吸入側背圧溝、前記内周カム面の前記縮小領域に対向する複数の前記背圧室同士を連通させる吐出側背圧溝、及び前記吸入側背圧溝及び前記吐出側背圧溝よりも径方向外側に形成されて前記回転方向の所定範囲に延在する延設溝が形成され、
前記ベーンの先端部が前記内周カム面の前記拡大領域及び前記縮小領域に突き当てられて前記ロータが回転する通常動作状態では、前記延設溝及び複数の前記スリットを介して前記吸入側背圧溝と前記吐出側背圧溝とが連通し、
前記スリットからの前記ベーンの突出量が所定値以下で前記ベーンの先端部が前記内周カム面の前記拡大領域及び前記縮小領域に突き当てられずに前記ロータが回転する不完全動作状態では、前記延設溝を介する前記吸入側背圧溝と前記吐出側背圧溝との連通が前記スリット内の前記ベーンにより遮断される、
ベーンポンプ。 - 前記延設溝は、前記回転方向における一端部が前記拡大領域の径方向内側に形成されると共に他端部が前記縮小領域の径方向内側に形成されている、
請求項1に記載のベーンポンプ。 - 前記延設溝は、前記回転方向における一端部が前記吸入側背圧溝の径方向外側に形成されると共に他端部が前記吐出側背圧溝の径方向外側に形成されている、
請求項1又は2に記載のベーンポンプ。
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-
2018
- 2018-12-18 JP JP2018236389A patent/JP2020097906A/ja active Pending
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