JP2020094254A - かしめ性に優れた高強度無方向性電磁鋼板 - Google Patents

かしめ性に優れた高強度無方向性電磁鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】コア加工後の時効硬化熱処理を必要とせず、また、打ち抜き積層する際の固定力が低下しないかしめ性に優れた無方向性電磁鋼板を提案する。【解決手段】質量%で、Si:2.0%〜4.0%、Cu:0.5%〜3.0%を含有し、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.005%以下、S:0.010%以下、P:0.03%以下、N:0.005%以下であり、析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度1×104〜1×107個/μm3で含有し、Cu粒子の無析出帯の平均幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下である、無方向性電磁鋼板。【選択図】図1

Description

本発明は、かしめ性に優れた高強度無方向性電磁鋼板に関する。
高効率モータの代表である磁石埋込型モータ(IPMモータ)は、高速回転時に磁石埋め込み部が遠心力で変形して壊れる可能性があり、高強度のコア素材が求められる。コア素材には、コストパフォーマンスに優れた無方向性電磁鋼板が広く用いられている。コア素材として用いられる無方向性電磁鋼板には、高強度以外に低鉄損、加工性といった特性も求められる。
そこで従来より、無方向性電磁鋼板の鉄損及び強度の両立を目的とした種々の技術が提案されている。例えば、Cuの時効析出硬化を利用して強度を向上させる技術が提案されている(特許文献1〜4)。
特開2005−344156号公報 特許第4932782号公報 特許第5000136号公報 特許第4341476号公報
しかしながら、Cuの時効析出硬化を利用した高強度モータコアは、コア積層加工後にCu析出のための時効硬化熱処理が必要であり、大量生産される熱処理設備では、コア強度品質が安定しない課題があった。
また、高強度無方向性電磁鋼板を打ち抜き積層する際、生産性の高いかしめ方式により積層鋼板を固定する方法が採用されている。しかしながら、高強度無方向性電磁鋼板を積層してかしめ方式で固定した積層コアにあっては、打ち抜き積層する際の固定力(かしめ性、かしめ強度)が低下して、モータ製造工程の途中で積層コアが分解して生産性が低下する恐れがあった。
本発明では、コア加工後の時効硬化熱処理を必要とせず、また、打ち抜き積層する際の固定力が低下しないかしめ性に優れた無方向性電磁鋼板を提案する。
本発明者らは、コア素材となる無方向性電磁鋼板を高強度で且つコア積層加工時のかしめ性に優れた状態で需要家に提供するため、Cuの析出状態を適切に制御することで、以下の知見を得た。
従来は、高強度化のためCuの平均粒径を10nm未満にすることが有効とされていた。本発明では、高強度化とかしめ性の両立のために、粒界およびその近傍でのCuの析出状態を以下のように制御する。
(1)結晶粒界上にCu粒子(長径0.05μm以上)を分散させる。
(2)Cu粒子の無析出帯の幅を、粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下とする。
(1)、(2)に示すようなCu粒子の析出状態を実現すると、強度とかしめ性を高度に両立することが可能となる。そのメカニズムは、無析出帯が粒界周辺に形成することにより、かしめ部の成形加工が安定化して、かしめ強度が向上する。Cu粒子が微細に析出した粒内は転位が動きにくく、変形しにくいのに対し、粒界近傍は転位発生源となり、容易に転位が活動して成形加工が安定すると考えられる。
本発明は、上記知見に基づくものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]
質量%で、Si:2.0%〜4.0%、Cu:0.5%〜3.0%を含有し、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.005%以下、S:0.010%以下、P:0.03%以下、N:0.005%以下であり、
析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度1×10〜1×10個/μmで含有し、
Cu粒子の無析出帯の平均幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下である、無方向性電磁鋼板。
[2]
平均結晶粒径が10〜100μm、「無析出帯の平均幅/平均結晶粒径」が0.002〜0.1である、[1]に記載の無方向性電磁鋼板。
[3]
結晶粒界上のCu粒子の長径の平均径が50〜500nm、個数密度が1〜10個/μmである、[1]または[2]に記載の無方向性電磁鋼板。
[4]
さらに、質量%で、Nb:0.01%〜0.30%、B:0.0005%〜0.0500%のどちらか一方あるいは両方を含有する、[1]〜[3]に記載の無方向性電磁鋼板。
[5]
さらに、質量%で、Ni:3.0%以下を含有する、[1]〜[5]に記載の無方向性電磁鋼板。
本発明によれば、コア加工後の時効硬化熱処理を必要とせず、また、打ち抜き積層する際の固定力が低下しないかしめ性に優れた無方向性電磁鋼板が得られる。
本発明の実施例に係る無方向性電磁鋼板の顕微鏡写真である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(化学組成)
本発明の無方向性電磁鋼板は、質量%で、Si:2.0%〜4.0%、Cu:0.5%〜3.0%を含有し、Mn:0.03.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.005%以下、S:0.010%以下、P:0.03%以下、N:0.005%以下、Nb:0.30%以下、B:0.0500%以下、Ni:3.0%以下、Cr:3.0%以下、Sn:0.50%以下、Sb:0.10%以下、Se:0.015%以下、Ti:0.015%以下、Ca:0.020%以下、Mg:0.020%以下、La:0.020%以下、Ce:0.020%以下である。
Si:2.0%〜4.0%
Siは鋼の固有抵抗を高めて渦電流を減らし、鉄損を低下せしめるとともに、抗張力を高めるが、添加量が2.0%未満ではその効果が小さい。一方、Siが4.0%を超えると鋼を脆化させ、さらに製品の磁束密度を低下させる。
Mn:3.0%以下
Mnは鋼の強度を高めるため積極的に添加してもよいが、高強度化の主たる手段として微細金属相を活用する本発明鋼では、この目的のためには特に必要としない。固有抵抗を高めまたは硫化物を粗大化させ結晶粒成長を促進することで鉄損を低減させる目的で添加するが、過剰な添加は磁束密度を低下させるので、3.0%以下とする。
Al:3.0%以下
Alは通常、脱酸剤として添加されるが、Alの添加を抑えSiにより脱酸を図ることも可能である。脱酸の効果とAlNの粗大化を促進するには、0.1%以上必要である。積極的に添加しAlNの粗大化を促進するとともに固有抵抗増加により鉄損を低減させることもできるが、3.0%を超えると脆化が問題になるため、上限を3.0%以下とする。
Cu:0.5%〜3.0% 本発明の無方向性電磁鋼板において、フェライト結晶中に析出したCu粒子は、鉄損を悪化させずに強度を上げることができる。Cu含有量が0.5%未満では、この作用効果を十分に得られない。一方、Cu含有量が3.0%超では、粗大な析出物が形成され、鉄損が増大する。
本発明の無方向性電磁鋼板は、任意添加元素としてさらに質量%で、Nb:0.01%〜0.30%、B:0.0005%〜0.0500%のどちらか一方あるいは両方を含有しても良い。また、さらに、質量%で、Ni:3.0%以下を含有しても良い。
Nb:0.01%〜0.30%
Nbは、熱間脆化を抑制する。その効果を得るためには、Nbを0.01%以上含有することが好ましい。一方、Nb含有量が0.30%超では、Nbそのものが脆化を引き起こしやすい。
B:0.0005%〜0.0500%
Bは結晶粒界に偏折し、Pの粒界偏折による脆化を抑制する効果があるが、本発明鋼では従来の固溶強化主体の高強度電磁鋼板のように脆化が特に問題とはならないことからこの目的での添加は重要ではない。むしろ固溶Bによる集合組織への影響により磁束密度を向上させる目的で添加する。また、Alの含有量が低い鋼種において、窒化物を粗大化して無害化する。そのためには、Bを0.0005%以上含有することが好ましい。一方、0.0500%を超えると著しく脆化するため、上限を0.0500%とする。
Ni:3.0%以下
Niは、Cu添加に伴う鋳造性の悪化を回避させることができる。またNiは、強度の向上に寄与する。しかし、Ni含有量が3.0%超では、圧延時に割れが発生しやすくなる。
さらに、本発明に係る無方向性電磁鋼板は、磁気特性を含めた各種特性の改善を目的として、Feの一部に代えて、他の任意元素を意図的に添加してもよい。意図的に添加される元素としては、磁気特性を含めた各種特性の改善を目的とする元素がある。例えば、次の元素が挙げられる。各数値は、各元素が公知の目的で添加される場合の上限値の例であるが、これを超える量であっても、上述の通り本発明の効果を損なわない範囲で添加が可能である。
質量%で、
Cr:3.0%以下、
Sn:0.50%以下、
Sb:0.10%以下、
Se:0.015%以下、
Ti:0.015%以下、
Ca:0.020%以下、
Mg:0.020%以下、
La:0.020%以下、
Ce:0.020%以下。
これら元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値が0%でもよい。また言うまでもないが、公知でない効果を狙って元素が添加される場合であっても、含有により本発明の効果が失われていないのであれば、その元素は本発明における任意添加元素と判断する。上記した任意添加元素はあくまでも例示であり、本発明の無方向性電磁鋼板は、その効果が失われない限り、他の元素を任意添加元素として含有することができる。
本発明の無方向性電磁鋼板は、必須成分として、Si、Cuを含有し、さらに、任意元素を必要に応じて含有し、残部は、Feおよび不純物からなる。不純物として、次のような元素が例示される。
C:0.005%以下
Cは磁気特性を劣化させる場合があるので0.005%以下とすることが好ましい。一方、加工硬化能を高め、時効熱処理前に実施する加工による転位密度を効果的に増加させる効果もある。製造コストの観点からは溶鋼段階で脱ガス設備によりC量を低減しておくことが有利で、0.003%以下とすれば磁気時効抑制の効果が著しく、高強度化の主たる手段として炭化物等の非金属析出物を用いない本発明においては0.002%以下とすることがさらに好ましく、0.0015%以下がさらに好ましい。0%であっても構わない。
S:0.010%以下
Sは硫化物を形成し磁気特性、特に鉄損を劣化させる場合があるので、Sの含有量はできるだけ低いことが好ましく0%であっても構わない。本発明では0.01%以下が好ましく、さらに好ましくは0.004%以下、さらに好ましくは0.002%以下、さらに好ましくは0.001%以下である。
P:0.03%以下
Pは固溶体強化により抗張力を高める効果の著しい元素であるが、この目的ではあえて添加する必要はない。0%であっても構わない。一方、添加により加工硬化能を高め、時効熱処理前に実施する加工による転位密度を効果的に増加させる効果もある。0.03%を超えると脆化が激しく、工業的規模での熱延、冷延等の処理が困難になるため、上限を0.03%とすることが好ましく、さらに好ましくは0.01%以下である。
N:0.005%以下、
NはCと同様に磁気特性を劣化させるので0.005%以下とすることが好ましい。含有により加工硬化能を高め、時効熱処理前に実施する加工による転位密度を効果的に増加させる効果もある。特に本発明ではAlとの強い窒化物の生成を避けるためNは低い方が好ましく、0.0027%以下とすれば磁気時効や微細な窒化物形成による特性劣化の抑制効果は顕著で、さらに好ましくは0.0022%、さらに好ましくは0.0015%以下、0%であっても構わない。
なお、C、S、P、Nは不純物の例示であり、これらに限られない。不純物には、鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から不可避的に混入する元素も含む。また、所望の効果を狙って意図的に添加される任意元素ではなくても、その含有により、本発明の効果を失わない元素は、不純物として含有することができる。不純物の合計含有量の上限の目途としては、10%程度が挙げられる。
なお、上記化学組成は、鋼板を構成する化学組成である。測定試料となる鋼板が、表面に絶縁皮膜等を有している場合は、これを除去した後に測定する必要がある。
電磁鋼板の絶縁皮膜等を除去する方法としては、例えば次のものがある。まず、絶縁皮膜等を有する電磁鋼板を、NaOH:10質量%+HO:90質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、HSO:10質量%+HO:90質量%の硫酸水溶液に、80℃で3分間、浸漬する。その後、HNO:10質量%+HO:90質量%の硝酸水溶液によって、常温で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、後述の絶縁皮膜が除去された鋼板を得ることができる。
電磁鋼板中の各元素の含有量は、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS法)により測定することができる。具体的には、まず、測定対象となる電磁鋼板を準備する。当該電磁鋼板の一部を切子状にして秤量し、これを測定用試料とする。当該測定用試料を酸に溶解し酸溶解液とし、残渣は濾紙回収して別途アルカリ等に融解し、融解物を酸で抽出して溶液化する。当該溶液と前記酸溶解液とを混合し、必要に応じて希釈することにより、ICP−MS測定用溶液とすることができる。
(金属組織)
本発明の無方向性電磁鋼板は、析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度10〜10個/μmで含有し、結晶粒界上に長径0.05μm以上のCu粒子が分散し、Cu粒子の無析出帯の平均幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下である。
析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度1×10〜1×10個/μm
析出領域のCu粒子については、平均径2〜20nm、1×10〜1×10個/μmの個数密度で析出している必要がある。平均径が2nm未満では、個々の析出物の強化能が小さくなるため、十分な鋼板強度を得ることが困難となる。一方、平均径が20nmを超えると、Cu含有量が限られるため、個数密度を十分に高めることができなくなり、十分な鋼板強度を得ることが困難となる。個数密度が1×10個/μm未満では十分な鋼板強度を得ることが困難となる。一方、1×10個/μmを超えるとコア部材を製造する際の打ち抜き性が悪化する。
Cu粒子の無析出帯の平均幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下
粒界に沿って形成されるCu粒子の無析出帯の平均幅を0.1μm以上、3.0μm以下の範囲とすることにより、かしめ強度が向上する。この理由は明確ではないが、かしめ性の低下はかしめ加工の不安定性(加工後形状のばらつき)が原因と考えられ、本発明鋼板はかしめ加工の加工後の形状を安定化させているものと考えている。つまり、加工により発生する転位の移動の障害となるCu粒子が存在しない無析出帯を粒界近傍に形成することにより、粒界が転位の発生源として有効に作用することになり材料の変形が進行しやすくなると考えられる。これにより、加工後の形状が安定し、かしめ性が向上すると考えられる。結果として、本発明鋼板は、Cu粒子が微細に析出した粒内は転位が動きにくく、変形しにくいため、高強度となるとともに、粒界近傍では転位発生源となり、容易に転位が活動して安定した成形性、つまり良好なかしめ性を両立する鋼板となる。
本発明の無方向性電磁鋼板はさらに平均結晶粒径が10〜100μmであることが好ましい。この範囲そのものは、公知のCu添加高強度無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径と異なるものではないが、無析出帯が存在する本発明では、無析出帯の領域の大きさと関連して比較的重要な意味を持つ。
粒径が小さすぎる状況で、本発明で規定するような平均幅を有する無析出帯を形成してしまうと結晶粒の内部領域となる析出領域が小さくなり、鋼板の強度を確保することが困難となる。このため平均結晶粒径の下限を10μmとする。一方で粒径が非常に大きな状況で、無析出帯を形成して本発明効果を発現させるには、無析出帯の幅を広くする必要があるが、無析出帯は後述するように仕上焼鈍での冷却過程などでのCu拡散および析出挙動を利用して形成を制御しているため、幅を過剰に広くするのは生産性の面で不利となる。このため平均結晶粒径の上限を100μmとする。好ましくは15〜80μm、さらに好ましくは20〜60μmである。
平均結晶粒径は、JIS G0551(2013)の鋼のフェライト結晶粒度試験方法に記載された切断法で結晶粒の平均断面積を求め、求めた面積と等価な円の直径を、平均結晶粒径とする。
本発明はさらに無析出帯の平均幅と平均結晶粒径の比「無析出帯の平均幅/平均結晶粒径」が0.002〜0.1であることが好ましい。この比は、結晶組織における無析出帯の存在割合に準じた値となる。
この比が0.002未満では本発明効果を十分に得ることができない。一方で、無析出帯の存在比率を過剰に高めることは生産性が低下する懸念があることに加え、0.1を超えると、効果が飽和するだけでなく、析出領域の面積が少なくなり十分な強度を確保することも困難になる。好ましくは0.002〜0.07、さらに好ましくは0.005〜0.05である。
結晶粒界上のCu粒子の長径の平均径が50〜500nm、個数密度が1〜10個/μm
結晶粒界上に分散したCu粒子と母相との界面は、上記の転位発生源としての作用をより高めるように作用していると推察される。本発明の無方向性電磁鋼板では、結晶粒界上に所定長さのCu粒子が適度な密度で分散していることが望ましく、例えば、結晶粒界上のCu粒子の長径の平均径が50〜500nm、個数密度が1〜10個/μmである。結晶粒界上に形成されるCu粒子は結晶粒界に沿って延伸した形状になりやすいため、長径は結晶粒界に略平行な方向の大きさとなることが多い。
本発明でのCu析出に関する各種数値は以下の方法で決定する。鋼板より機械研磨、電解研磨およびFIBを用いて、結晶粒界を含むTEM用の薄膜試料を作成する。作成した薄膜試料において、結晶粒界を含む視野をTEMで観察する。さらにTEM−EDSを用いて、視野中のCu析出物を特定する。
そして、結晶粒内において、周囲(半径)100nm以内の領域にCu粒子が存在しない領域を「無析出領域」とし、周囲(半径)100nm以内の領域にCu粒子が存在する領域を「析出領域」とする。この際の注意点としては、粒界上もしくは粒界に接して存在するCu粒子については「無析出領域」の判定においては無視することである。
そして、結晶粒界に接して、または結晶粒界をまたいで形成されている「無析出領域」を結晶粒界に沿った「帯状」の領域として決定する。本発明ではこの帯状の領域を「無析出帯」と判定する。「無析出帯」は結晶粒界を含む領域であり、また上記の注意点にも関係するが、「粒界上のCu粒子」が占有する領域も「無析出帯」である。ここでの注意点は、結晶粒界に接しておらず、「析出領域」に取り囲まれた「無析出領域」は「無析出帯」にはなり得ないことである。
そして、連続した1μm以上の析出領域について少なくとも10視野の観察を行うことで、観察領域内(析出領域)のCu粒子の平均径と個数密度を求める。また、結晶粒界に沿った連続した5μmの長さについて少なくとも10視野の観察を行い、結晶粒界に沿った無析出帯の幅を求める。この際、無析出帯が存在しない領域の幅は0(ゼロ)とする。観察した結晶粒界における無析出帯の幅の平均値を本発明における「無析出帯の平均幅」とする。
さらに上記の無析出帯の平均幅を算出した視野内で、結晶粒界上に存在するCu粒子について、長径の平均値を求めるとともに、個数密度を得る。
実用的に必要とされるかしめ強度の絶対値は、コアの形状(大きさ)や取扱い状態によって異なり、必要とされるかしめ強度を満足するように、かしめの形状や個数、配置などが決定されている。つまり、鋼板において絶対値で規定される物性値が求められるものではない。
本発明においては、かしめ強度を、特定の形態のコアを作成しこれを引き剥がす際の荷重で評価する。ただし、この荷重は鋼板の強度や板厚などによっても変化するため、本発明効果はその絶対値で評価されるものではなく、板厚を同一とした際の、強度とのバランスで評価されるものである。詳細については実施例で説明する。
(製造方法)
本発明の無方向性電磁鋼板は、前記成分を含む鋼を溶製し、連続鋳造で鋼スラブとし、ついで熱間圧延、冷間圧延および仕上げ焼鈍することによって製造することができる。例えば熱間圧延の製造条件については、スラブ加熱温度として1000〜1250℃、仕上温度として800〜1000℃、巻取り温度として400〜850℃が挙げられる。この熱延板をさらに熱延板焼鈍として、900〜1150℃で120秒以下の処理を施してもよい。その後、例えば冷延率80〜95%の冷間圧延を施し、冷間圧延による加工組織を再結晶させるため、850〜1100℃で120秒以下の仕上焼鈍を実施する。ここで挙げた条件は公知の標準的な条件である。
また、これらの工程に加え絶縁皮膜の形成や脱炭工程など行っても構わない。また鋳造については200mm程度の厚さのスラブを得る通常の工程ではなく、急冷凝固法による薄帯の製造や熱延工程を省略する薄スラブ法などの工程によって製造しても問題ない。
本発明で特徴的な特異な金属相を鋼板内に形成するには、鋼中のCuの固溶からCu粒子の析出過程にかけて、以下のような熱履歴を経ることが効果的である。
本発明鋼は、基本的には冷延後の鋼板を熱処理する過程でCu粒子を析出させるものであることから、該熱履歴の制御対象となるのは、冷延後の組織を再結晶させる仕上焼鈍工程での冷却過程、鋼板を打ち抜いたコア部材に対する歪取り焼鈍での冷却過程、Cu析出のみを目的とした特別な過時効処理が考えられる。
この熱履歴の特徴は、Cuが平衡状態として十分に固溶しうる温度域からの冷却を適切に制御することであり、(1)冷却を開始する温度、(2)冷却過程の比較的高温域での滞留時間、(3)冷却過程の比較的低温域での滞留時間、(4)冷却過程での応力、の4点がポイントとなる。以下、これらについて説明する。なお、以下では熱処理中の原子挙動を含めた現象(メカニズム)を含めて説明しているが、これについてはあくまでも現時点で妥当と考えている予想であり、完全に確立されたものでないことを断っておく。
まず、冷却を開始する温度である。この温度はCuが平衡状態として十分に固溶する温度であることが好ましい。本発明鋼の成分であれば、800℃以上となる。詳細は後述するが、本発明の特徴的なCu粒子分布は、大きな過飽和状態で固溶させたCuを温度上昇過程で急速に析出させるのでなく、平衡状態で固溶したCuを温度下降過程で準平衡的に析出させることで形成しやすい。好ましくは900℃以上である。一方、この温度が高すぎると結晶組織が過度に粗大化して、無析出帯の存在頻度、すなわち前述の無析出帯の平均幅と平均結晶粒径の比を高めることが困難となる。このため、1100℃以下、さらには1050℃以下とすることが好ましい。
次に、上記Cu固溶温度からの冷却過程である。この冷却過程で固溶したCuは拡散し、安定状態となるべく準平衡状態で析出を開始する。その際、比較的高温域ではCuは母相のFe結晶の原子配列が乱れた状況にある結晶粒界で安定化しやすい。粒界近傍で固溶していたCuは温度降下に伴いFe相の結晶粒界に移動するため、粒界近傍にはCu濃度が低下した領域が形成される。この温度域は結晶粒内でCuが析出するまでには低い温度域ではなく、かつ結晶粒界に濃度勾配を形成するには十分に低い温度域であり、さらには結晶粒界までの濃度低下領域を形成する程度にCuが十分な距離を拡散できるには十分に高い温度域である必要がある。本発明鋼板のCu含有量であれば、この温度域は700〜800℃の温度域に相当する。本発明ではこの温度域を「温度域A」と呼称することがあり、本発明での特徴的なCu粒子分布、特に特徴的な無析出帯を形成するには、冷却過程での温度域Aでの滞留時間を8秒以上とすることが好ましい。さらに好ましくは10秒以上、さらには13秒以上である。一方で滞留時間が過度になると、低濃度領域は拡がるが濃度勾配がなだらかになり実質的に固溶Cuの分布が均一化してしまう。このため、無析出帯の幅が不用意に広くなるばかりでなく、明確な無析出帯が形成されなくなり発明効果を不明瞭にする。このため、温度域Aでの滞留時間は25秒以下、好ましくは18秒以下とすべきである。温度域Aで適切な時間滞留させることで、Fe相結晶粒内でのCu粒子の析出を抑制した状態で、Fe相結晶粒界近傍域で固溶Cuが結晶粒界に偏析し、結晶粒界に沿ったCu濃度低下領域を形成する。この領域が最終的に本発明が規定する無析出帯となる。また、結晶粒界に偏析したCuの濃化量が十分に高い場合、さらなる温度降下に伴い、Fe相結晶粒の結晶粒界上に比較的粗大なCu粒子として析出する。
次に、Fe相結晶粒内でのCu粒子の析出ステージについて説明する。上記冷却過程で鋼板温度が700℃より低温になるとFe相結晶粒内にCu粒子が析出するようになる。実用的な冷却速度であれば、低温域になるほど微細なCu粒子が高い数密度で析出し、温度域としては、450〜650℃の温度域に相当する。本発明ではこの温度域を「温度域B」と呼称することがあり、主として前記「析出領域」でのCu粒子の析出形態を制御する温度域である。450℃以下ではFe相内での固溶Cuの拡散が不十分となり、Cu粒子が過度に微細になり高強度化に寄与しにくくなるとともにCu粒子を十分に析出させることができないため、鋼板強度の確保が困難となる。650℃以上では、Cu粒子が粗大化して鋼板強度の確保が困難となるばかりでなく、上記の温度域Aでの現象との明確な区別ができなくなる。「析出領域」に適切な形態でCu粒子を分布させるには、温度域Bでの滞留時間を40秒以上とすることが好ましい。さらに好ましくは55秒以上である。また、前記温度域Aでの滞留時間との関係で、温度域Bでの滞留時間は温度域Aでの滞留時間の2倍超とすることが好ましい。これにより、温度域Aで制御される無析出帯と温度域Bで制御される微細Cuが分散する析出領域を好ましいバランスで配置して、強度とかしめ性の高いレベルで両立させることが可能となる。この温度域での滞留時間が10秒以下では強度に寄与するCu粒子はほとんど析出しない。滞留時間の上限は特に限定するものではないが、過度に長時間になるとCu粒子が粗大化し強化機能が低下することにもなりかねず、また生産性が低下することにもなるので、120秒以下にとどめるべきである。
なお、上記冷却条件において、800℃超、650〜700℃、450℃未満の温度域についてはあえて制御条件を特定しない。これは、これらの温度域が、本発明の特徴である無析出帯および析出領域の形成への影響が小さくなり、その上下の温度域と比較すると組織変化への影響が滞留する温度域となるためである。これらの温度域での滞留条件を特殊なものとすることを除外するものではないが、上記温度域Aまたは温度域Bの冷却につながるものであれば良い。
例えば650〜700℃の温度域であれば、温度範囲が50℃であることを考慮すると、温度範囲が100℃である温度域Aの最短滞留時間の半分である4秒から、温度範囲が200℃である温度域Bの最長滞留時間の1/4である30秒としても良い。同様に仕上焼鈍の最高到達温度を1000℃とすれば、冷却過程での800℃までの滞留時間は温度域Aと同程度(8〜25秒)としても良い。また450℃未満で冷却終了(例えば50℃)までの滞留時間は、温度域Bと同程度(40〜120秒)としても構わないが、低い温度域で滞留させることのメリットは小さいので、滞留時間が30秒以下、さらには10秒以下、さらには水冷などにより5秒以下となるよう急速に冷却しても構わない。
さらに本発明の特徴的なCu粒子分布に影響を及ぼすのは、上記温度域Aおよび温度域Bに滞留中に鋼板に負荷されている張力である。この張力はCu粒子の拡散および析出挙動、特に母相であるFe相結晶の結晶粒界近傍でのわずかな転位形成も含むと考えられる応力状態に影響し、Cu粒子の分布状態の制御に好ましく作用する。特に温度域Aと関連する無析出帯の形成に有利となる。好ましくは温度域A、さらに好ましくは温度域Bにおいて、2MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上の張力を負荷した状態で上記の時間だけ滞留させる。上限は特に限定しないが、熱処理中の鋼板の不用意な変形を回避するには10MPa程度にとどめるべきである。
以上のようにして製造された本発明の無方向性電磁鋼板は、析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度1×10〜1×10個/μmで含有し、Cu粒子の無析出帯の幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下となる。その結果、引張強度TSが680MPa以上、好ましくは700MPa以上の高強度を有し、かつ、かしめ強度が50N以上となる。このため、本発明の無方向性電磁鋼板は、例えばモータの構成部材として必要な所定の形状に加工した後、そのまま(時効処理をすることなく)製品として利用することが可能となる。
以上、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法について説明したが、本発明鋼板は、上記製造法により限定されるものではない。上記製造法は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された構成を有し同様な作用効果を奏するのであれば、上記以外の製造法で製造された鋼板であっても本発明の技術的範囲に包含される。
(実施例1)
表1に示す各成分(質量%)を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼種Aを真空溶解し、50kgのインゴットを作製した。その後、熱間鍛造にて、40×100×200mmの試験片を作成し、熱間圧延にて、2mm厚の熱延鋼板を作成した。さらに熱延板の焼鈍を、900℃60s均熱後、水冷にて実施した。そして、酸洗により脱スケールし、冷間圧延によって0.30mm厚さとした。得られた冷延板について、発明例1では、仕上げ焼鈍を、950℃20s均熱し、冷却中において800−700℃の温度域Aの滞留時間を13秒とした。一方、比較例1では、仕上げ焼鈍を、950℃20s均熱し、50℃/sで冷却した。800−700℃の温度域Aの滞留時間を2秒とし、500℃2hで時効熱処理を行った。
発明例1および比較例1で製造された無方向性電磁鋼板は、いずれも磁気特性:B50=1.60T、鉄損W10/400=18W/kgであり、ほぼ同じ特性であった。一方、発明例1で製造された無方向性電磁鋼板の強度特性:降伏点YP=600MPa、引張強度TS=750MPa、El=15%であるのに対して、比較例1で製造された無方向性電磁鋼板の強度特性:降伏点YP=600MPa、引張強度TS=750MPa、El=10%であった。
かしめ強度は以下のように評価した。製造した鋼板から、外径45mm、内径33mm、径方向の幅6mmの円環状であり、さらに6mmの幅の中央かつ圧延方向を基準として90°おき(0、90、180、270°)の4箇所に3mmφの丸平かしめを計4個配置した、かしめ付きリング状部材を順送金型にて連続打抜きし、これを積厚30mmまで積層してコアを作製し、最上面および最下面の鋼板を接着剤でつかみ具に固定し、つかみ具を積層方向に引張ってこれを引き剥がす。積層したリング状部材間で引き剥がす際の荷重をかしめ強度とする。
発明例1で製造された無方向性電磁鋼の素材から作製したコアは、かしめ強度は60Nであり、十分なかしめ強度が得られた。一方、比較例1で製造された無方向性電磁鋼板の素材から作製したコアのかしめ強度は、30Nであった。
発明例1で製造された無方向性電磁鋼板の顕微鏡写真を図1に示す。Cu析出については、粒界に長径0.10μmのCu粒子が分散していた。また、無析出帯は、粒界を挟んで幅0.3μmの範囲に確認された。
(実施例2)
表2に示す各成分(質量%)を含有し、残部はFeおよび不可避不純物からなる鋼種A〜Gを真空溶解し、50kgのインゴットを作製した。その後、熱間鍛造にて、40×100×200mmの試験片を作成し、熱間圧延にて、2mm厚の熱延鋼板を作成した。さらに熱延板の焼鈍を、900℃60s均熱後、水冷にて実施した。そして、酸洗により脱スケールし、冷間圧延によって0.30mm厚さとした。得られた各鋼種A〜Gの冷延板について、表3に示す条件で仕上げ焼鈍を行った。仕上げ焼鈍における冷却開始温度(Tmax(℃))、「温度域A(700〜800℃)」の滞留時間(滞留A(秒))、「温度域B(450〜650℃)」の滞留時間(滞留B(秒))、温度域Aおよび温度域Bに滞留中に鋼板に負荷されている張力(張力(MPa))を表3に示す。なお、試験No.39〜55については、かしめ付きリング状部材を順送金型にて連続打抜きした後、さらに、表3に示す条件で部材加工後熱処理を行った。表3に示す部材加工後熱処理の各項目の内容は、仕上げ焼鈍と同様である。
試験No.1〜55について、各測定結果を表4に示す。なお、かしめ強度の評価において、「−」は、鋼板形状が悪く、かしめ強度の測定が不能であったことを示す。
試験No.1〜5、8〜18、21、23、33〜39、41は本発明例であり、引張強度TSが680MPa以上の高強度を有し、かつ、かしめ強度が50N以上となった。一方、試験No.6、7、19、20、22、24〜32、40、42〜55は比較例であり、引張強度TSが680MPa以上、かしめ強度が50N以上のいずれかを満足することができなかった。

Claims (5)

  1. 質量%で、Si:2.0%〜4.0%、Cu:0.5%〜3.0%を含有し、Mn:3.0%以下、Al:3.0%以下、C:0.005%以下、S:0.010%以下、P:0.03%以下、N:0.005%以下であり、
    析出領域において、平均径2〜20nmのCu粒子を、個数密度1×10〜1×10個/μmで含有し、
    Cu粒子の無析出帯の平均幅が粒界を挟んで0.1μm以上、3.0μm以下である、無方向性電磁鋼板。
  2. 平均結晶粒径が10〜100μm、「無析出帯の平均幅/平均結晶粒径」が0.002〜0.1である、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
  3. 結晶粒界上のCu粒子の長径の平均径が50〜500nm、個数密度が1〜10個/μmである、請求項1または2に記載の無方向性電磁鋼板。
  4. さらに、質量%で、Nb:0.01%〜0.30%、B:0.0005%〜0.0500%のどちらか一方あるいは両方を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
  5. さらに、質量%で、Ni:3.0%以下を含有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の無方向性電磁鋼板。
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