以下の記載および図では、本発明の特定の実施形態を記載する。しかしながら、本発明は記載される実施形態に限定されず、いくつかの実施形態は、以下に記載される特徴のうちのすべてを含むわけではない可能性があることが理解されるであろう。しかしながら、添付の特許請求の範囲に記載の本発明のより広範な趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な修正および変更を行うことができることは明らかであろう。
図1aは、試料101の連結された分離/質量分析による分析のための例示的なシステム100を概略的に例示する。システム100は、分離デバイス110、質量分析計130、質量トレース分析システム150、質量修正モジュール160、およびさらなる処理モジュール170を備えるものとして示される。
分離デバイス110は、導入された試料101をその複数の成分(または分析物)に分離するように構成される。特に、分離デバイス110は、通常、導入された試料101の1121、1122、・・・112nの成分(または分析物)を分離パラメータ(または次元)関数として分離デバイス110から溶出(または放出または別様に発出)させるように構成される。分離パラメータ(複数可)は、溶出パラメータとしても考えることができ、特に分離デバイスは、クロマトグラフまたはクロマトグラフィーカラムを含む。分析物は、典型的には、質量流(またはイオン流)として分離デバイス110によって放出され、次に、以下に簡単に記載されるように、質量分析計130に導入(または注入)され得る。この質量流は、様々な分析物の連続するフローであり得るか、または分析物が試料101から分離される速度に応じて脈動され得ることが理解されるであろう。
例えば、分離デバイス110は、当該技術分野で一般に知られている種類の液体(またはガス)クロマトグラフィーであり得る。この例では、溶出パラメータは保持時間であろう。換言すると、成分がクロマトグラフを通過するのに必要な持続時間(例えば、デバイスに注入される試料と質量分析計130に提供される成分との間の時間)。液体(およびガス)クロマトグラフは当該技術分野においてよく知られているため、本明細書にはさらに記載されないであろう。
別の例では、分離デバイス110は、質量分析撮像(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI)または二次イオン質量分析(SIMS)撮像など)で使用される種類の撮像デバイスであり得る。これらの例では、試料101は、通常イオン化ビーム(イオンビームまたはレーザーなど)によってスキャンされる表面を含む。典型的には、イオン化ビームは、ビームが集束される試料101の表面上の位置から成分(複数可)112を発出(または放出)させる。ビームが試料101をスキャンすると、成分112がスキャン経路の関数として放出される。このように、分離パラメータは、試料101の表面上の座標であり得るか、またはビームのスキャン順序を示すパラメータであり得る(ラスタスキャンにおけるピクセルなど)。質量分析撮像は当該技術分野においてよく知られているため、本明細書にはさらに記載されないであろう。
クロマトグラフィーおよび撮像の多くの変形例の他に、イオン移動度、示差イオン移動度分離、電気泳動、結合剤のアレイ(の要素)に結合することによる分離を含む、多くの他の分離デバイスおよび方法が当該技術分野で知られている。
分離デバイス110は、質量分析計130に連結される。特に、分離デバイス110は、放出された成分を質量分析計130に提供するように構成される。これらの成分112は、典型的には注入によって、質量分析計130に導入される。質量分析計130は、注入された成分112をイオン化(および任意選択的にフラグメント化)するように配列され得る。代替的に、分離デバイス110によって提供される成分112は、すでにイオン化されている場合がある。分離デバイス110がイオン移動度分離器または撮像デバイス(MALDIデバイスなど)である例について、成分112は、分離デバイス110によってイオン化されることが多いであろう。このように、分離デバイス110が質量分析計130のイオン源であり得ることが理解されるであろう。
質量分析計130は、イオン化フラグメント(または成分112)の質量対電荷比(すなわち、m/z値)に対して相対的存在量(または強度)の質量スペクトル132を生成するように配列される。質量スペクトル132は、以下にさらに詳細に簡単に記載される。質量スペクトル132の生成は、それらのm/z値に従ってイオン化された成分の分離または選択を伴う場合があり、その後、イオンおよび/またはイオン化フラグメントのこれらの分離されたグループによって生じる信号(複数可)の測定を伴い得る。イオン化された成分の分離または選択は、特定のm/z値のイオンが、これらのイオンが振動する特定の軌道を有するという点で生じる可能性がある。この振動のために、周波数ωを有し、特定のm/z値を割り当てることができる特徴的なイオン信号を検出することができる。質量分析計の操作は、当該技術分野においてよく知られており、本明細書にはさらに記載されない。当業者であれば、質量分析計130が任意の種類からなり得ることを理解するであろう。例えば、質量分析計は、イオントラップを含む質量分析計(線形イオントラップ分析計)、飛行時間(TOF)質量分析計、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計(FT−ICRMS)、静電イオントラップ質量分析計(その例はOrbitrap(商標)質量分析計である)のうちのいずれか1つであり得る。
成分112は、典型的には、質量分析計130によって分離パラメータの関数として受容される。このように、質量分析計130は、溶出パラメータの同じ値で(または同じ範囲の値内で)放出された成分112を同時に(またはほぼ同時に)受容することが理解されるであろう。その結果、質量分析計130は、分離パラメータの関数として質量スペクトル132を生成するように配列される。換言すると、各質量スペクトル132は、溶出パラメータのそれぞれの値について生成される。より具体的には、各質量スペクトル132は、溶出パラメータのそれぞれの値で放出される成分112の質量スペクトル132として(またはこれを表す)考えることができる。各質量スペクトル132は、m/zの全範囲にわたる完全な強度対m/zプロットという意味では完全な質量スペクトルである必要はない。例えば、質量スペクトル132は、本明細書に述べるように、1つ以上のm/z対強度データ点を含み得る。質量スペクトル132は、対象となる特定のm/z範囲に限定され得る。極端な場合、質量スペクトル132は、対象となる特定のm/z範囲内に重心のみを含み得る。
したがって、質量スペクトル132は、少なくとも強度(または存在量)、m/z(または質量)、および溶出パラメータの次元でデータセットを形成することが理解されるであろう。したがって、質量分析計130は、質量分析データ(または連結された分離/質量分析データ)131を作成するように配列される。質量分析データ131は、分離パラメータのそれぞれの値についてそれぞれ得られた複数の質量スペクトル132を含む。
実際、いくつかの飛行時間質量分析計などのいくつかのデバイスは、分離パラメータに関してプロットされる質量スペクトル132の順序付けられたセットとして質量分析データ131を提供しない場合がある。実際、質量分析データは、分離パラメータの関連する値を含む、m/z強度値対の流れであり得る。
例えば、ハダマール変換飛行時間機器または同様に操作されるデバイスは、分離次元のパラメータの判定のためのデコンボリューションを必要とする質量到着時間の配列を提供することができる。
このような質量分析データは、上記に記載されるように、質量スペクトル132が、単に、対象となる次元(または存在量)を有するデータセット、分離パラメータの所与の値(または値の範囲)でのm/z(または質量)として考えられ得るため、依然として質量スペクトル132を含むと言われる可能性があることが理解されるであろう。
所与の成分112は、分離パラメータpの範囲にわたって分離デバイス110から放出し得ることが理解されるであろう。典型的には、この範囲にわたって、成分112の存在量はピークまで上昇し、次に下降し得る。しかしながら、質量分析撮像などのいくつかの場合では、成分の存在量においてはっきりとした不連続性がある場合がある。これは、例えば、上記に記載されるように、成分がビームによってスキャンされた試料101表面のはっきりと画定される領域にのみ存在することであり得る。
それ故、質量分析データ131における各質量スペクトル132(または質量スペクトルデータセット132)において、いくつかのm/z強度ピーク(典型的には重心として表される)、すなわち、単一の質量スペクトル132に関する強度値における極大値が存在するであろう。しかしながら、いくつかの分離パラメータ強度ピーク、すなわち、その特定のm/z値を有する特定の成分についての質量分析データ131における分離パラメータに関する強度の極大値が存在するであろう。
2つ以上の成分が放出される分離パラメータの範囲は重複する可能性がある。例えば、クロマトグラフでは、所与の成分が保持時間の期間にわたって溶出し得る。考察を容易にするために、以下の記載において、実施例は、典型的には、クロマトグラムの使用を伴うシナリオを参照して提供されるであろう。しかしながら、本考察はこれらの実施例に限定されるものではなく、溶出および溶出パラメータを伴う考察は、放出および分離パラメータ(または上記に記載のそれらの他の代替物)という用語が代わりに使用され得るより一般的な分離デバイスに等しく当てはまることが理解されるであろう。
例えば図1aに示されるように、第1の成分1121は、溶出パラメータに関して最初に溶出するべきである。第1の成分1121が溶出パラメータに関する溶出を完了する前に、第2の成分1122が溶出し始める。したがって、第1の成分1121および第2の成分1122の両方が同時に溶出し、したがって質量分析計130に同時に注入される溶出パラメータの範囲が存在する。この範囲の溶出パラメータp2の値について生成される質量スペクトル132p2は、第1の成分1121および第2の成分1122の両方についてのm/z強度ピークを含むであろう。
反対に、図1aに示されるように、第3の成分1123は、溶出パラメータに関して3番目に溶出するべきであり、他の成分112も溶出しない。したがって、第3の成分1123が溶出する範囲の溶出パラメータp3の値について生成される第2の質量スペクトル132p3は、第3の成分1123のみについてのm/z強度ピークを含むであろう。
分析システム150は、質量分析計130によって生成された質量分析データ131を受信するように配列される。分析システム150は、図2に関してより詳細に簡単に記載されるコンピュータシステム200などの1つ以上のコンピュータシステムであり(またはこれらを含み)得る。分析システム150は、受信された質量分析データにおける質量スペクトル132に基づいて1つ以上の質量トレース152を生成するように配列される。
図1cに示される例示的な質量トレース152Aなどの質量トレース152は、典型的には、試料101から溶出された成分112の特定のイオンフラグメントについて、溶出パラメータの関数としてのm/z強度(または相対的存在量)ピーク(または重心)のセットを含む。各質量スペクトル132は典型的には溶出パラメータのそれぞれの異なる値に対応しているため、質量トレース152における各重心は、それぞれの異なる質量スペクトル132から生じる。
質量トレース152の1つの特定の例は、分離デバイス110がクロマトグラムである場合、当該技術分野でよく知られている抽出されたイオンクロマトグラムである。
質量修正モジュール160は、生成された質量トレース152を受信するように配列される。質量修正モジュール160は、生成された質量トレース152について質量601を計算(または判定または別様に生成)するように配列される。質量は、特定の質量トレース152のイオンフラグメントの修正された(または実際の)質量(または質量対電荷比m/z)として理解され得る。計算(または判定)された質量は、質量修正モジュール160によって修正された質量モジュール652の一部として出力され得る。質量修正モジュール160は、コンピュータシステム200などの1つ以上のコンピュータシステム上で実装され(またはこれらを使用し)得る。質量修正モジュール160は、分析システム150の一部として実装され得る。
イオン種の修正された(または実際の)質量対電荷比m/zはイオン種の物理的質量対電荷比m/zである(またはその近似値である)。このような実際の質量対電荷比は、m/z空間に偏向が生じない場合に観察され得る。例えば、これは、イオン種が質量対電荷比を測定するために質量分析器において分析された唯一の種であるように、イオン種がフィルタ処理された(質量分析計における四重極フィルタなどによって)場合に達成され得る。
さらなる処理モジュール170は、生成された質量トレース152および/または修正された質量トレース652および/または判定された質量601を受容するように配列される。次に、さらなる処理モジュール170は、溶出された化合物112および/または試料101の構造および組成に関する情報を同定するために、生成された質量トレース152および/または修正された質量トレース652および/または判定された質量601に対してさらなる処理技術を行うように配列される。
質量トレースは、以前には疑われていない分析物を検出するためのデータの再検査、潜在的な異性体の強調表示、疑われる共溶出物質、および対象となる化合物のきれいなクロマトグラムの提供などのプロセスに有用であることが多い。
Thermo Scientific製のCompound Discoverer and Proteome Discovererソフトウエア製品を含む、正確な質量トレース152に依存する、当該技術分野で知られている多数のそのような処理技術がある。Proteome and Compound Discoverer製品において、質量トレース152は、データにおける関連するイベントを判定(または同定)するイベント(またはピーク)検出アルゴリズムについての入力として使用することができる。次に、これらのイベントは、クロマトグラフ整列、異なるクロマトグラフ実験における同様のイベントの比較を含む様々な異なるプロセスのために(例えば、異なる試料中の特定のタンパク質の関連する量および/または存在もしくは不存在の判定のために)、かつ異なる条件下で形成された医薬製品の代謝産物の関連する量の判定のために使用することができる。
改善された質量トレースにより、典型的には、クロマトグラフピークをより正しく認識することができる。次に、これにより、ペプチドをより正しく同定および定量化することができる。これは、多くのシナリオ、例えば、より良好な相対タンパク質定量を得ることができる示差発現実験において重要である。異なる環境下でどのタンパク質の存在量が変化するかを判定することは、最終的に、疾患の状態または治療に対する応答とのタンパク質の相関の同定の助けとなる。したがって、結果として、質量トレースの判定の改善によって、患者の健康状態の診断を改善することができる。実際、正確な質量トレースの判定がなければ、“Current challenges in software solutions for mass spectrometry−based quantitative proteomics” by Cappadona et al.in Amino Acids(2012)43:1087−1108に記載のように、治療に重要な信号がデータ評価プロセスにおいて早期に回復不能に失われる可能性がある。
質量トレース152の別の使用は、Biller,J.E.and Biemann,K.(1974)“Reconstructed Mass Spectra,A Novel Approach for the Utilization of Gas Chromatograph−Mass Spectrometer Data”,Analytical Letters,7:7,515−528に示されている。ここで、質量トレースを使用して、GC−MSにおいてフラグメントイオンをそれらのそれぞれの親と相関させる。同様の方法が米国特許第9,312,110号で考察されており、ここで親イオンは、別々に得られた完全なMSスペクトル中に存在し、フラグメントイオンは、イオンの解離について多くの既知の方法によって生成され得るMS2スペクトルにおいて得られる。
質量分析撮像質量分析撮像の場合、質量トレース152を処理して、試料の表面上の別々の領域を同定することができる。質量トレース上で視覚的撮像(ウォーターシェッド法など)による既知の方法を使用して、領域を分離することができる。追加的に、例えば同じ試料の光学顕微鏡または電子顕微鏡に由来し得る外部情報に基づいて、領域分離を誘導することが可能である。
図1bは、質量スペクトル132の例示的なグラフィック表示を示す。
質量スペクトル132は、1つ以上のm/z測定値(または質量対電荷比)132−1i(iは単に1〜nの値をとる指標である)を含む。各m/z測定値は、それぞれのイオン種に対応しており、それぞれのイオン種の絶対要素電荷によって分割されるそれぞれのイオン種の分子質量に等しい可能性がある。質量スペクトル132は、1つ以上の強度値132−2iを含み、それぞれのm/z測定値132−1iについて現れる各強度値132−2iを有する。各強度値132−2iは、それぞれのm/z測定値132−1iに対応するイオン種の相対的存在量と相関している。各強度値132−2iは、それぞれのm/z測定値に対応するイオン種の相対的存在量と比例し得る。
質量スペクトル132などの実験的質量スペクトルは、破線で示される連続プロット、および垂直実線で示される重心プロットの形態でプロットされ(または表され)得る。破線で示されるピークの幅は、2つの異なるイオン種を近似したm/z比と区別する能力である、質量分解能の限界を表す。
しかしながら、質量スペクトル132はグラフの形態でプロット(または保存)される必要はないことが理解されるであろう。実際、質量スペクトル132は任意の好適な形態で表すことができる。例えば、質量スペクトル132は、1つ以上の強度値132−2iおよび1つ以上のm/z測定値132−1iを含むリストとして表すことができる。いくつかの場合、質量スペクトル132は、単に、重心(または極大値)のリストとして表される場合があり、各重心はm/z測定値および強度値対として表され得る。
質量分析データからこのような重心を得るために当該技術分野で一般に使用される多くの技術があるため、本明細書ではこれらをさらに考察しないであろう。しかしながら、本明細書に記載の技術は、質量スペクトル132を形成する重心のリスト上で、または好適な技術を使用して強度最大値(または重心)を同定する生質量スペクトル132上で行うことができることが理解されるであろう。
図1cは、システム100によって生成され得るような2つの例示的な質量トレース152A、152Bを示す。
図1cでは、各重心のm/z測定値対質量スペクトル132の溶出パラメータの値として質量スペクトル132からの重心(または強度ピーク)をプロットするグラフ197を示す。当該重心は、視覚化を容易にするために、点を囲む円の直径によって示される各重心の強度の一部を形成する。見られ得るように、グラフ197に存在する、それぞれm/z値AおよびBの周りに中心がある重心の2つの明確な配列がある。これらは、2つの化合物の溶出を表しており、1つはAのm/zシグネチャー値を有し、もう1つはBのm/zシグネチャー値を有する。見られ得るように、典型的には質量分析計の固有の正確性によって生じる溶出パラメータに関するm/z測定値のわずかな変動がある。この正確性は、質量分析計に存在するイオン数と比較して変化する可能性があり、それ自体が所与の化合物の溶出を越えて上昇および下降する傾向がある。
対象となるm/z値Aについての質量トレース152A、および対象となるm/z値Bについての質量トレース152Bの両方について、それぞれの質量トレース152A、152Bは、これらの重心に対する溶出パラメータの値に対して、対象となるそれぞれのm/z値の周りの重心の強度のプロットである。分離技術がクロマトグラフィー技術である場合、溶出パラメータは保持時間であり、質量トレースは対象となるm/z値について抽出されたイオンクロマトグラムであろう。
m/z測定値のわずかな変動を説明するために、先行技術の質量トレース抽出技術は、典型的には、図1cに示されるように、対象となるm/z値のいずれかの側で、特定の範囲Δ内のm/z値を有する重心のうちのすべてを含むことによって質量トレースを形成する。この範囲(典型的には2Δ)は、質量窓(または質量窓幅)としてよく知られており、予め定義されるか、ユーザもしくはソフトウエアアーキテクトによって頻繁に特定されるか、または他の情報からプログラムで判定されるかのいずれかである。具体的には、質量窓は、質量分析計型および/または解像度設定に基づいて生成され得る。換言すると、質量窓は、質量分析計によって報告されるm/z測定値の正確性が有限であるという事実を考慮して使用され、1つの質量スペクトルから次の質量スペクトルへのm/z測定値の変動を生じる。
しかしながら、同じスペクトルにおける2つの隣接する重心のm/z測定値が偏向され得ることがこれより観察されている。典型的には、重心は、互いに向かって偏向される(または場合によっては重心のうちの1つ、典型的にはより弱い重心が他の重心に向かって偏向される)。しかしながら、偏向は質量分析器内のイオンの相互作用の一般的な効果に起因しているため、重心はいくつかの場合に互いに離れるように偏向され得る。いずれの場合も、これにより、対象となるm/z値Bについての重心に関するグラフ197に見られ得るように、重心のうちのいくつかが、対象となるm/z値の周りの質量窓Aの外側に偏向される可能性がある。これは、こうした重心が依然として質量窓内の重心と同じ溶出化合物について対象となるm/z値Bに関連するという事実に関わらずそうである。
これは、質量トレース152B′および152B′′などの誤った質量トレースの生成をもたらす。ここで、質量窓の外側の重心の喪失に起因して、2つの別々の質量トレースが生成される。これらの2つの誤った質量トレースのそれぞれが、溶出パラメータに関して関連するそれぞれの強度のピーク(またはイベント)を有する。この例では、第1のピークは、真の質量トレース152Bのピークと同じ溶出パラメータの値に位置する。しかしながら、第1のピークの形状は真のピークの形状とは異なる。この形状の差が、誤った第2のピークと組み合されて、この質量トレースをもたらした溶出化合物の同定を防止することができる。いくつかの場合、2つの誤ったピークの異常な切頂形状のために、それらは単に分析システムによって削除され、溶出化合物の同定を防止することができる。代替的に、2つの誤ったピークは、溶出された化合物の誤分類をもたらす可能性があり、例えば、さらなる分析は、2つの誤ったピークが2つの別々に溶出する化合物の結果であったと想定することができる。
上記に記載の隣接する重心の偏向により、重心が先行技術の質量トレース抽出技術の質量窓Aの範囲から外れている場合であっても、偏向により依然として、生成された質量トレースが不正確であり得る。
例えば、図1dでは、グラフ197−1を概略的に示す。このグラフは、以下を除いて、図1cに示されるグラフ197と同じである。グラフ197−1では、それぞれm/z値CおよびDの周りに中心がある重心の2つの明確な配列がある。これらは、特定の化合物の溶出の2つの異なるイオン成分(またはフラグメント)を表し、1つはm/z値Cを有し、もう1つはm/z値Dを有する。m/z値Dの周りに中心がある重心で見られ得るように、典型的には質量分析計の固有の正確性によって生じる溶出パラメータに関して測定されたm/z値のわずかな変動がある。
図197−1に見られ得るように、m/z値Cに関する重心は、m/z値Dに関する重心に向かって偏向される。これは、図1cに対する上記に記載の偏向と同じ理由のために生じる。図1dの本発明のシナリオでは、偏向は、同じ溶出化合物の他のイオンフラグメント(特定の同位体置換体などにおける)に起因しており、これは自動合体と称される場合があり、すなわち、同じ溶出化合物のイオンフラグメントが質量分析計において合体し、それによりフラグメントイオンの一方または両方についてm/z測定値におけるシフトを生じさせる。同様に、図1cに関して上記に記載のシナリオは、ヘテロ合体である場合があり、すなわち、重複する溶出時間での異なる溶出化合物のイオン(またはイオンフラグメント)が、質量分析計において合体しており、それにより一方または両方のイオン(またはイオンフラグメント)についてm/z測定値におけるシフトを生じさせる。
図1dでは、対象となるm/z値Cについての質量トレース152C、および対象となるm/z値Dについての質量トレース152Dも概略的に示す。それぞれの質量トレース152C、152Dは、以前に、これらの重心に対する溶出パラメータの値に対して、対象となるそれぞれのm/z値の周りの重心の強度のプロットである。
しかしながら、先行技術の方法では、質量トレース152Cについての成分のm/z値は以下のいずれかとして計算される。
・m/z値Cに関する質量トレースの最も強い重心のm/z測定値、または
・m/z値Cに関する質量トレースの重心のm/z測定値の平均(average)(平均(mean)など)。
これより理解されるように、m/z値Cに関する重心の偏向は、このような先行技術の方法によって計算されたm/z値における誤差を導く。具体的には、先行技術では、重心のm/z測定値は、1〜2ppm内まで正確であると予想される。以下に簡単に示されるように、重心のm/z測定値の記載される偏向は、30ppmもの大きさであり得る。したがって、これは、影響を受けた質量トレースについてのm/z値の先行技術による計算では有意な誤差をもたらす可能性がある。
図2は、コンピュータシステム200の例を概略的に例示する。システム200はコンピュータ202を備える。コンピュータ202は、記憶媒体204、メモリ206、プロセッサ208、インターフェース210、ユーザ出力インターフェース212、ユーザ入力インターフェース214、およびネットワークインターフェース216を備え、これらはすべて1つ以上の通信バス218を介して一緒に連結されている。
記憶媒体204は、ハードディスクドライブ、磁気ディスク、光学ディスク、ROMなどのうちの1つ以上など、任意の形態の不揮発性データ記憶デバイスであり得る。記憶媒体204は、プロセッサ208によって実施可能な操作システムを記憶することができる。プロセッサ208による操作システムの実施には、関数計算するコンピュータ202が必要とされ得る。記憶媒体204は、1つ以上のコンピュータプログラム(またはソフトウエアまたは命令またはコード)も記憶することができる。
メモリ206は、データおよび/またはコンピュータプログラム(またはソフトウエアまたは命令またはコード)を記憶するのに好適な任意のランダムアクセスメモリ(記憶ユニットまたは揮発性記憶媒体)であり得る。
プロセッサ208は、1つ以上のコンピュータプログラム(記憶媒体204および/またはメモリ206に記憶されたものなど)を実施するのに好適な任意のデータ処理ユニットであってもよく、それらのうちのいくつかは、本発明の実施形態によるコンピュータプログラムであり得るか、またはプロセッサ208により実施されたときに、プロセッサ208に本発明の実施形態による方法を実行させ、本発明の実施形態によるシステムであるようにシステム200を構成するコンピュータプログラムであり得る。プロセッサ208は、単一のデータ処理ユニット、または平行して、別々に、もしくは互いに協調して動作する複数のデータ処理ユニットを備え得る。プロセッサ208は、本発明の実施形態についてデータ処理動作を実行する際に、記憶媒体204および/またはメモリ206にデータを記憶し、かつ/またはそこからデータを読み取ることができる。
インターフェース210は、コンピュータ202の外部の、またはそこから取り外し可能なデバイス222に対するインターフェースを提供するための任意のユニットであり得る。デバイス222は、データ記憶デバイス、例えば、光学ディスク、磁気ディスク、固体記憶デバイスなどのうちの1つ以上であり得る。デバイス222は、処理能力を有する場合があり、例えば、デバイスはスマートカードであり得る。したがって、インターフェース210は、プロセッサ208から受信する1つ以上の命令に従ってデバイス222からのデータにアクセスし得るか、またはそこにデータを提供し得るか、またはそれとインターフェース接続し得る。
ユーザ入力インターフェース214は、システム200のユーザまたは操作者からの入力を受信するように配列される。ユーザは、ユーザ入力インターフェース214に接続されるか、またはこれと通信する、マウス(または他のポインティングデバイス)226および/またはキーボード224などのシステム200の1つ以上の入力デバイスを介してこの入力を提供し得る。しかしながら、ユーザは、1つ以上の追加的または代替的な入力デバイス(タッチスクリーンなど)を介してコンピュータ202に入力を提供し得ることが理解でされるであろう。コンピュータ202は、その後プロセッサ208がアクセスおよび処理するようにメモリ206内のユーザ入力インターフェース214を介した入力デバイスから受信される入力を記憶し得るか、またはプロセッサ208がそれに応じてユーザ入力に対して応答することができるようにプロセッサ208に直接伝達し得る。
ユーザ出力インターフェース212は、システム200のユーザまたは操作者へのグラフィック/視覚的出力を提供するように配列される。それ故、プロセッサ208は、ユーザ出力インターフェース212に命令して、所望のグラフィック出力を表す画像/映像信号を形成し、ユーザ出力インターフェース212に接続されるシステム200のモニタ(またはスクリーンもしくは表示ユニット)220にこの信号を提供するように配列され得る。
最後に、ネットワークインターフェース216は、1つ以上のデータ通信ネットワークからデータをダウンロードし、かつ/またはそこにデータをアップロードするコンピュータ202についての機能性を提供する。
図2に例示され、上記に記載されるシステム200のアーキテクチャは、単なる例示であり、異なるアーキテクチャを有する(例えば、図2に示されるよりも少ない構成要素を有するか、または図2に示されるよりも追加的および/もしくは代替的な構成要素を有する)他のコンピュータシステム200を本発明の実施形態において使用することができることが理解されるであろう。例として、コンピュータシステム200は、パーソナルコンピュータ、サーバーコンピュータ、ラップトップ、携帯電話、タブレット、他のモバイルデバイスもしくは家庭用電気デバイス、クラウドコンピューティングリソース、ネットワーク接続デバイスなどのうちの1つ以上を備え得る。
図3aは、システム100で使用され得るものなど、例示的な分析システム150の論理的配列を概略的に例示する。分析システム150は、受信機モジュール310、質量トレース生成(または抽出)モジュール320、および質量トレース処理モジュール330を備える。
受信機モジュール310は、質量分析データ131を受信するように配列される。典型的には、受信機モジュール310は、分析システム150に連結(または接続)された質量分析計から質量分析データを受信するように配列される。しかしながら、受信機モジュール310は、データ記憶デバイス、クラウドコンピューティングサービス、試験データ生成プログラムなどを含む任意の好適な供給源から質量分析データ131を受信するように配列され得ることが理解されるであろう。以前に記載のように、質量分析データ131は、溶出パラメータ(保持時間など)に応じて質量分析計130によって生成される複数(または一連)の質量スペクトル132を含む。
質量トレース生成モジュール320は、受信された質量スペクトル130に基づいて1つ以上の質量トレース152を抽出する(または得る)ように配列される。具体的には、質量トレース生成モジュール320は、受信された質量分析データ131の質量スペクトルから、3つ以上の強度ピークの、溶出パラメータに従って順序付けられた配列を同定するように配列される。配列の同定の一部として、質量トレース生成モジュール320は、通常、質量スペクトル132から初期強度ピークを選択するように配列される。初期強度ピークは、対象となるm/z値(または範囲)に基づいて選択され得る。このような対象となるm/z値(または範囲)は、ユーザによって、質量分析データ131の他の分析によって、試料101の既知の特性に基づいてなど、多くの異なる方法で特定され得ることが理解されるであろう。以下に簡単に記載のように、初期強度ピークは、質量分析データ131のサンプリングに基づいて選択され得る。初期強度ピークに始まって、質量トレース生成モジュール320は、質量トレースに従う(またはこれを追跡する)ことによって配列のさらなる強度ピークを溶出パラメータの関数として選択するように配列される。換言すると、質量トレース生成モジュール320は、強度ピークの配列の各さらなる強度ピークについて、配列における隣接するすでに選択されている強度ピークに基づいて当該さらなる強度ピークを選択するように配列される。
質量トレース処理モジュール330は、抽出された1つ以上の質量トレース152を提供するように配列される。通常、質量トレース処理モジュール330は、重心の配列の強度を溶出パラメータの関数としてプロットするように配列される。このようなプロットはグラフィック表示に限定されるものではなく、座標(またはプロット点)のリスト、溶出パラメータの関数として強度ピークの配列の強度を表す1つ以上のパラメータ化された曲線などのうちのいずれかを含み得る。
図3bは、分析システム150によって実行(または実装)され得る質量分析データ131から質量トレース152を得るための方法350を概略的に例示する。
ステップ360は、溶出パラメータのそれぞれの値についてそれぞれ得られた複数の質量スペクトル132を含む、質量分析データ131を受信する受信機モジュール310を含む。
ステップ370は、受信された質量スペクトル132に基づいて質量トレース152を抽出する質量トレース生成モジュール320を含む。ステップ370は、複数の質量スペクトル132から3つ以上の強度ピークの配列を同定する質量トレース生成モジュール320を含み、強度ピークの配列は溶出パラメータに従って順序付けられる。具体的には、初期m/z測定値の初期強度ピークは質量スペクトル132から選択される。強度ピークの配列のそれぞれの他の強度ピークについて、当該強度ピークは、強度ピークの配列における隣接する強度ピークのm/z測定値に基づいて選択される。
ステップ380は、抽出された質量トレース152を提供する質量トレース処理モジュール330を含む。提供するステップは、質量トレース152の表示、質量トレース152の記憶、質量トレース152の送信(下流システムまたは処理方法などへの)などのうちの任意の1つ以上を含み得る。
ステップ370および380は、例えば対象となる異なるm/z値について複数の質量トレース152を抽出するために、同じ質量分析データ131について繰り返すことができることが理解されるであろう。ステップ370は複数の質量トレース152を抽出するために繰り返すことができ、ステップ380は抽出された質量トレース152に関して単一の時間で行うことができることも理解されるであろう。
典型的には、ステップ370は、強度ピークを有する複数の質量スペクトルの第1の(または溶出パラメータに関しては初期)質量スペクトル132における各強度ピークについて行われる。換言すると、質量トレース152は、このような第1の質量スペクトル132における各強度ピークについて開始される。次に、質量スペクトルは、通常、順次、既存の抽出された質量トレースの一部を形成しない任意のさらなる強度ピークについて開始された新規の質量トレースとみなされ、すなわち、ステップ370はまた、既存の質量トレース152の一部でない後続の質量スペクトルにおける各強度ピークについても行われる。このように、可能な限り多くの質量トレース152が抽出され、質量トレースにおけるすべての強度ピークが質量トレースに含まれるものとみなされることを確実にすることができる。
図4は、図3bに示される方法において使用するための質量トレース生成ステップ370の例示的な実装を概略的に例示するフロー図である。
ステップ410は、質量スペクトル132の初期m/z測定値の初期強度ピークを選択することを含む。多くの場合、上記に記載のように、ステップ370は、同じ質量分析データ131について複数回行われる。具体的には、所与の質量スペクトル132について、質量トレース152を抽出する試みは、質量スペクトル132の各強度ピーク(または重心)について行われ得る。それ故、初期強度ピークは、単に、このように選択され得る。追加的または代替的に、対象となる1つ以上のm/z値は、ユーザによって特定され得る。初期強度ピークは、対象となる1つ以上のm/z値に基づいて選択され得る。例えば、対象となるm/z値に最も近似するm/z測定値を有する強度ピークを選択することができる。また、ステップ410では、初期強度ピークのm/z測定値に基づいて、m/z予想値を設定する。典型的には、m/z予想値は、初期強度ピークのm/z測定値に等しく設定する。
質量トレースを生成する目的のために初期ピークを選択するための多くの既知の方法があることが理解されるであろう。典型的には、予め判定される強度閾値を使用し、閾値を越えた強度ピークを選択する。有益なことに、ピークピッキングはピーク相を使用することができ、スペクトルのノイズ背景に関して閾値が動的に判定され、背景情報は保存される。このような方法は、米国特許第7,962,301号に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。追加的または代替的に、例えば、FT/MS機器について、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第7,987,060号において示されているように、質量分析器の特性を利用して偽陰性率を減少させることができる。
ステップ420は、m/z予想値のm/z範囲(または質量許容差)内のm/z測定値を有する次の質量スペクトル132において1つ以上の強度ピークを選択することを含む。典型的には、ステップ420は、次の質量スペクトル132における1つ以上の強度ピークがm/z予想値の所定の範囲内にm/z測定値を有するかどうかを判定(または同定)することを含む。このm/z範囲は、以前に記載されている質量窓であり(またはこれを含み)得る。このように、所定の範囲がステップ370にわたって一定であり得ることが理解されるであろう。代替的に、所定の範囲は、以下に簡単に記載されるように、ステップ370にわたって変化し得る。ステップ420で1つ超の強度ピークが同定される場合、ステップ420は強度ピークのうちのすべてを選択することを含み得る。代替的に、ステップ420は、強度ピークの配列において含むべき強度ピークのうちの1つを選択することを含み得る。このような選択は、対象となるm/z予想値に最も近似するm/z測定値を有する強度ピークを選択することを含み得る。代替的に、選択は、1つ以上の隣接する質量トレース152の強度のm/z予想値(複数可)に基づいている場合がある。例えば、現在の質量トレース152のm/z予想値よりも隣接する質量トレース152のm/z予想値により近似するm/z測定値を有する強度ピークは削除され得る。次に、残りの同定された強度ピークから、対象となるm/z予想値に最も近似するm/z測定値を有する強度ピークを選択し得る。同定された強度ピークのうちのすべてがこのように削除されている場合、制御流は、以下に簡単に記載される分岐が「ない」ように移動する。
m/z予想値の所定の範囲内にm/z測定値を有する次の質量スペクトル132における1つ以上の強度ピークが選択される場合、次に制御流はステップ430に移動する。
ステップ430は、ステップ420で選択される強度ピークを強度ピークの配列に含むことを含む。1つ超の強度ピークがステップ420によって選択される場合、選択される強度ピークに基づく平均強度ピークが強度ピークの配列に含まれ得る。追加的または代替的に、すべての選択されるピークが質量トレースに含まれ得る。
ステップ440は、ステップ430で強度ピークの配列に含まれる強度ピークの少なくともm/z測定値に基づいてm/z予想値を更新することを含む。いくつかの場合、m/z予想値は、ステップ430で強度ピークの配列に含まれる強度ピークのm/z測定値に設定することができる。典型的には、m/z予想値は、配列における以前の強度ピークのm/z測定値の平均に基づいて(または平均であるように、または平均に比例するように)更新される。平均は、予め定義される数の以前の強度ピークのm/z測定値のみが含まれる窓付き平均であり得る。追加的または代替的に、平均は、強度によって加重された平均など、加重平均であり得る。
ステップ440の後、次に、制御流はステップ420に戻るように移動する。したがって、ステップ420で同定された強度ピークは、強度ピークの配列における隣接する強度ピークの少なくともm/z測定値に基づいて同定されることが理解されるであろう。
ステップ420の後に、ステップ420で強度ピークが選択されていない場合、次に、制御流はステップ450に移動する。
ステップ450は、質量トレース152を終了するべきかどうかを判定することを含む。典型的には、質量トレース152は、所定の数の連続した質量スペクトルについて、ステップ420で強度ピークが選択されていない場合に終了されるであろう。典型的には、これは、質量トレースに関連する化合物の溶出が完了したことを示している。他の終了基準を使用することもできることが理解されるであろう。終了基準には、分離次元における所定の、および/または動的に判定される基準が含まれ得る。終了基準は、全トレースの長さ(分離次元において)が分離次元における複数の平均予想ピーク幅を上回る場合を含み得る。この場合、新規トレースの初期強度ピークとして使用される最新の強度ピークにより新規トレースを開くことが得策であり得ることが理解されるであろう。撮像シナリオでは、何列もスキャンを行うことができることが理解されるであろう。ここで、ある列の端でトレースを終了することができる。終了基準は、配列の一部としてすでに選択されている強度ピークの数に依存している可能性があり、例えば、質量トレースが長いほど、所定の数が大きくなり得る。このように、より長い質量トレースは、より短い質量トレースよりも間隙または喪失した強度ピークの許容度が高い可能性があることが理解されるであろう。
ステップ450で、質量トレースを終了するべきではないと判定された場合、次に、制御流はステップ420に移動し、配列における次の質量スペクトルについて実行される。ステップ450で、終了基準がステップ420で強度ピークが選択されるとすぐに終了される質量トレースを必要とする場合、ステップ450を省略することができることが理解されるであろう。この場合、ステップ370は、ステップ420で強度ピークを選択しなければ直ちに終了されるであろう。
図5は、図4に記載の質量トレース生成ステップ370の例示的な実装の変形例を概略的に例示するフロー図である。図4の上記の考察は以下の点を除いて図5にも当てはまる。
ステップ545は、m/z範囲(または質量窓)を更新することを含む。m/z範囲は、質量分析計の分解能、m/z予想値、配列において以前に選択されている強度ピークの強度、信号対ノイズ比などのうちのいずれか(または任意の組み合わせ)に基づいて(これに比例するように、またはこの関数に基づいて)更新され得る。典型的には、m/z範囲は、m/z予想値に関して0.1ppm未満には更新されないであろう。いくつかの例では、m/z範囲は、同じ質量スペクトルにおける近隣の(または隣接する)ピーク(すなわち、m/z次元において隣接するピーク)に依存し(またはこれらに基づいて判定され)得ることが理解されるであろう。例えば、近隣のピークが、m/z次元において近隣のピークに向かう「誘引」を引き起こすのに十分m/z予想値に近似している場合、次に、当該質量窓を調節して、当該予測される「誘引」を考慮することができる。このような調節は、質量窓を広げること、および/または質量窓を近隣のピークに向かってシフトすることを含み得る。すべての質量トレースにおいて質量の変動を追跡することによって、質量窓は、自動的に観察される傾向に基づいて調節することができる。例えば、質量窓は、質量および/または強度に機能的に依存し得る。具体的には、より低い信号対ノイズ比を有する質量分析計により検出されるより低いイオンは、ノイズの影響に起因して、より高い質量変動性を示すことが理解されるであろう。したがって、m/z範囲は、信号対ノイズ比に応じて逆に作成され得る。
ステップ410は、上記のステップ545と同様の方法で初期強度ピークのm/z測定値に基づいてm/z範囲を設定することを含み得ることが理解されるであろう。
図5に示される方法の例示的な実装では、以下の基準およびパラメータを使用することができる。
・ステップ410および440で設定されるm/z予想値は、配列における以前に選択されている4つの強度ピークの平均m/z測定値である平均mzに等しい。配列において4つ未満の強度ピークが以前に選択されている場合、配列において以前に選択されている強度ピークのうちのすべてが使用される。
・質量許容差は、tol_amu=MININUM(2avg_mz/res*2/3,1.5*avg_mz/1e6)である。1.5の因数は、典型的には、0.1〜100の値と置き換えることができる。0.1に近似する値は、超高解像度のFTMSに最も好適であり、100辺りの値は、飛行時間質量分析計に最も好適であろう。resは、強度ピークの半値全幅(FWHM)値に対するm/z測定値の比、すなわち、res=m/z/FWHMに等しいように設定される。
・質量トレースを終了するべきか否かを判定するための所定の数(または最大間隙長)は、maxGapLen=MAXIMUM(len/3,10)であり、式中、lenは、試験が適用された場合の配列における強度ピークの数である。最大maxGapLen(ここでは10として設定されている)は動的に判定され得ることが理解されるであろう。具体的には、最大maxGapLenは、機器の種類、信号対ノイズ比、観察された(または予め設定された)クロマトグラフのピーク幅などのうちのいずれかに基づいて動的に判定することができる。典型的には、合理的な範囲は3〜10のどこかであるか、または使用される分離方法における平均ピーク幅である。
例示的な方法を以下に与えられる疑似コードによって例示する。
FOR EACH(質量スペクトル(溶出パラメータの小さい順))
FOR EACH(アクティブ質量トレース(質量の小さい順))
FOR EACH(質量スペクトルの重心(質量の小さい順))
IF(質量重心はavg_mz−1/2 tol_amu未満である)
一致するものは見つからない:重心を初期強度ピークとして新規質量トレースに追加する
CONTIMUE(次の質量重心に続く)
ELSE IF(質量重心はavg_mz+1/2*tol_amuを上回る)
一致するものは見つからない:重心を初期強度ピークとして新規質量トレースに追加する
BREAK(次の自動トレースに続く)
ELSE
このまたは次の質量トレースが現在の質量重心に対する、より小さい一致を有するかどうかを確認する。質量重心をより小さい距離で質量トレースに割り当てる
END 重心
IF(質量重心が現在の質量トレースに割り当てられない)
質量トレースに間隙(ゼロ質量重心)を追加する
IF(maxGapLen点に達した)
質量トレースを終了し、提供する
終了された質量トレース
END 質量トレース
END 質量スペクトル
図3b、4、および5に関して上記に記載される方法は、理解を容易にするために、ある時間で単一の質量トレースを抽出するという観点から論理的に記載される。これは、質量トレースの種類によって質量トレースとして考慮され得る。しかしながら、本発明はそのような実装に限定されるものではないことが理解されるであろう。代替的に、上記の方法は重心の種類によって重心として実装され得る。換言すると、質量トレース150の2つ以上(またはすべて)が平行して抽出され得る。
重心の種類によるこのような重心の一例では、質量スペクトル132は分離パラメータの順に考慮され得る。所与の質量スペクトル132について、質量スペクトル132の各重心は、アクティブ質量トレース152(終了されていない質量トレース152)の各々について、ステップ420ごとに試験され得る。所与の質量トレースについて重心が選択されると、その質量トレース152(ステップ430ごとに)およびm/z予想値に重心が追加され、任意選択的に、その質量トレース152についてm/z範囲が更新される。任意のアクティブ質量トレース152について重心が選択されない場合、次に、初期強度ピークとして当該重心を使用して、新規質量トレース152が開始され得る。いったん質量スペクトル132に対する重心のうちのすべてが考慮されると、次に、新規重心が追加されていないアクティブ質量トレース152に終了基準が適用される。終了基準を満たす任意の質量トレースはさらに考慮されず、質量トレース処理モジュール330に提供され得る。次に、次の質量スペクトルにおける重心について(分離パラメータの順で)このプロセスが繰り返される。
上記の考察は、分離パラメータの任意の特定の方向(または感覚)で強度ピークを選択することに限定されないことが理解されるであろう。分離パラメータの1つの点の値にある初期強度ピーク、および分離パラメータの後続の値にあるその後に選択される強度ピークを視覚化することが直接的であるが、分離パラメータの高い値で初期強度ピークを選択し、分離パラメータに関して後方に進むさらなるピークを選択することが可能である。分離パラメータ値から任意の方向に移動するさらなるピークを選択することができることも理解されるであろう。例えば、質量分析撮像において、質量トレースは、試料の表面上の対角線に沿って進み得る。
追加的または代替的に、質量トレースは、分離パラメータに関して所与の初期強度ピークから前方および後方の両方に進み得る。実際、いったん平均質量(または質量中心)が判定されると、質量トレースを後方に再び進ませることが有益であり得るこれは、有益なことに、初期強度ピークの選択を改善することができ、別様に質量トレースの一部とはみなされない上記のピークの質量トレースへの包含をもたらし得る。また、クロマトグラフピークは経時的に左右対称になる傾向はないが、経時的に前方に移動するときと同じ選択および終了基準を使用することが依然として適切であり得ることも理解されるであろう。
図6aは、システム100で使用され得るものなど、例示的な質量修正モジュール160の論理的配列を概略的に例示する。質量修正モジュール160は、質量トレース受信機モジュール602、外挿モジュール604、および出力モジュール608を備える。質量修正モジュール160は、コンピュータシステム200など、コンピュータシステム(複数可)上で、またはこの一部として実装され得ることが理解されるであろう。
質量トレース受信機モジュール602は、質量流の所与のイオン種について質量トレース152を得る(または受信する)ように配列される。典型的には、質量トレース受信機モジュール602は、分析システム150から質量トレース152を受信するように配列される。しかしながら、受信機モジュール602は、データ記憶デバイス、クラウドコンピューティングサービス、試験データ生成プログラムなどを含む任意の好適な供給源から質量トレース152を受信するように配列され得ることが理解されるであろう。
外挿モジュールは、質量トレース152について質量(または修正された質量)601を判定(または計算または別様に推定)するように配列される。これは、質量トレース152によって観察されるイオン種の質量として理解することができる。質量601は、以下により詳細に簡単に記載されるように、信号ゼロに向かう質量トレース152の初期ピークのセットのm/z測定値を外挿することによって判定される。
上記に考察される強度の量は、典型的には、質量分析計に提供される質量流のイオン種の相対的存在量(またはイオン数)の尺度であることが理解されるであろう。いくつかの場合、この強度は、質量分析計の質量分析器構成要素によって生成される信号に比例している。このような場合、強度は、所与の強度ピークについて質量分析器におけるm/z測定値のイオン数に比例している。
しかしながら、いくつかの場合(静電捕捉型質量分析器を用いるなど)質量分析器に注入された質量流からのイオン数を、多くとも質量流からの最大イオン数が所与のスキャンについて注入されるように制御される(自動利得制御などを通して)。これは、例えば、注入が行われる期間を変化させることによって行うことができる。このような場合、強度は、質量流の総イオン数が注入されたイオンの最大数を下回る所与の強度ピークについて質量分析器におけるm/z測定値のイオン数にのみ比例している。
しかしながら、両方の場合において、質量分析器によって生成された信号(典型的には、以下に簡単に記載されるような信号対ノイズ比)は、所与の強度ピークについて質量分析器におけるm/z測定値のイオン数に比例している。
このように、強度ピークのセットにおける強度ピークはそれぞれ、当該強度ピークについて信号を提供することが理解されるであろう。これは、信号を含む強度ピークによって達成することができる。追加的または代替的に、強度ピークは、注入が行われる期間および好ましくはノイズ強度などの強度に基づいて信号を判定することを可能にする追加のデータを含み得る。
出力モジュール608は、判定された質量601を出力として提供するように配列される。出力モジュール608は、以下により詳細に簡単に記載されるように、質量601に基づいて生成されるイオン種についての修正された質量トレース652を提供するように配列され得る。
図6bは、質量修正モジュール160によって実行(または実装)され得る、質量トレース152について質量中心を判定するための方法600を概略的に例示する。
ステップ610は、質量流の所与のイオン種について質量トレース152を得る質量トレース受信機モジュール602を含む。質量トレース152は、図3〜5に関して以前に考察される通りであり、強度ピークのセットを含み、各強度ピークは、それぞれのm/z測定値およびそれぞれの強度を有する。強度ピークのセットは、通常、以下に簡単に考察されるように、分離(または溶出)パラメータに従って順序付けられる強度ピークの配列として形成され、所与の分離イベントについて強度ピークに対応している。質量トレース152は、図3a、3b、4、および5に関して上記に記載の例示的な質量トレース生成システム150のうちのいずれかなど、質量トレース生成システム150から得られ(受信され)得る。追加的または代替的に、質量トレース152のうちのいくつかまたはすべてが、記憶媒体204などの記憶媒体から得られ得る。質量トレース152のうちのいくつかまたはすべては、クラウドコンピューティングシステム、ネットワーク記憶デバイスなどの遠隔システムから受信され得る。質量トレース152の生成と方法600のステップのうちの1つ以上との間に有意な時間が経過し得ることが理解されるであろう。
分離イベントは、通常、分離デバイス110における特定の化合物の溶出である。例えば、質量トレース152が抽出されたイオンクロマトグラムである場合、分離イベントは、クロマトグラフイベント、すなわち、特定の保持時間での特定の化合物の溶出であり、そのようなイベントに対して、化合物のm/z値は相関している。イベントは、分離パラメータの関数としての質量トレースの強度のピークとしてのイベント検出アルゴリズム、すなわち、最大値(典型的には極大値)によって同定することができる。この最大値が生じる分離パラメータの値は、分離パラメータの中心と称され得る。追加的または代替的に、分離パラメータの中心は、ピーク領域の均等分配が与えられる分離パラメータの値として設定され得る。より高い次元では、これは幾何学的中心と等価であり得る。このような手法は、予め定義される特定のモデルまたはピーク形状に適合しないピークに対して特に有用であり得ることが理解されるであろう。これは、撮像質量分析においても当てはまる場合が多い。
強度ピークのセットは、通常、所与の分離イベントについての分離パラメータの開始値と分離イベントについての分離パラメータの終値との間に生じる強度ピークを含む。さらに、質量トレース152が抽出されたイオンクロマトグラムである例では、強度ピークのセットは、溶出が開始された保持時間と溶出が完了した保持時間との間の強度ピークを含み得る。強度最大値に対応する保持時間の値は、分離パラメータ(この場合、保持時間)の中心であろう。
ステップ610は、イベント検出アルゴリズムを適用することによって質量トレース152の複数の強度ピークから強度ピークのセットを同定することを含み得る。上記の考察から理解されるように、イベントは、質量トレースの強度のピークとして同定され得る。代替的に、ピークをイベントとして分類する前にこのような質量トレースの強度ピークについて満たされるべき他の条件を必要とするイベント検出アルゴリズムを使用することができる。例えば、イベント検出アルゴリズムは、最小領域、モデルピークおよびまたは予想される統計的変動への最小適合性、ならびに分離パラメータの同じ(またはほぼ同じ)値を含む1つ以上のピークとの共溶出のうちの任意の1つ以上を有するピークを必要とし得る。
ピークおよび/またはイベントを検出するための多くの既知の方法があることを当業者であれば理解するであろう。一例では、ガウス形態曲線
は、好適な適合アルゴリズム(最小二乗適合など)を使用して質量トレース152に適合される。このような適合は、質量トレースのクロマトグラフピークの強度Hに、ピーク幅Wと一緒に、ピークの溶出パラメータ中心RTを与えるであろう。
ピーク適合の概観は、Data Handling in Science and Technology;Chapters 8 and 11;Volume 21,(1998);Data Analysis and Signal Processing in Chromatography;Edited by Attila Felingerに提供されており、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。イベントまたはピークについての分離(または溶出)パラメータ中心は、上記に記載のものなど、イベントの一部またはピーク検出アルゴリズムとして判定され得る。例えば、“Quantification and deconvolution of asymmetric LC−MS peaks using the bi−Gaussian mixture model and statistical model selection”by Yu and Peng in BMC Bioinformatics.2010 Nov 12(その全体が参照により本明細書に組み込まれる)は、二重ガウスモデルをXICに適合させることによるピーク検出およびその後のピーク中心の判定(溶出パラメータ中心など)を示唆している。このような方法は、同じ質量トレース(またはXIC)に存在し得る複数のピークを検出するために使用され得る方法の一例でもある。このようなイベント検出アルゴリズムは当該技術分野においてよく知られていることを考慮して、本明細書にさらに詳細には考察されないであろう。
ステップ620は、質量トレース152について質量中心601を判定(または計算または別様に推定)する外挿モジュール604を含む。質量601は、信号ゼロ(またはゼロイオン数)に向かう質量トレースの強度ピークのセットのm/z測定値を外挿することによって判定される。このように、判定された質量は、信号ゼロ(またはゼロイオン数)に向かう強度ピークのセットの測定された質量の外挿として理解することができる。質量601は、質量トレースが生成された質量スペクトルからのイオン種のm/z値を表している。それ故、質量トレース152について判定される質量601は、質量トレースにおいて検出された成分イオン(またはフラグメント成分イオン)についての有効なm/z(または質量)値である。この手法によって判定される質量の修正は、制御実験によって確認されており、質量フィルタによって成分イオンをフィルタ処理することと、質量分析器において単離された成分のm/z値を分析することと、を含む。
m/z測定値を外挿するために、ステップ620は、強度ピークのセットのm/z測定値および対応する信号値に対して回帰分析(線形回帰など)を行うことを含み得る。これは、回帰関数(または曲線)を強度ピークの測定された質量値および信号値対に適合させることによって行うことができる。このような回帰関数は、m/z測定値を信号値に関連付ける。この回帰関数は、回帰関数の1つ以上のパラメータを変化させることによって強度ピークのセットによって提供されるm/z測定値および対応する信号値に適合され得る。典型的には、線形(または第1次多項式)関数は、回帰関数として使用され得る。このような回帰関数は以下の形態をとるだろう。
M(S)=aS+b
式中、M(S)は信号Sの関数としてのm/z測定値であり、aおよびbはパラメータである。しかしながら、任意の好適なN次多項式関数は、回帰関数として使用され得ることが理解されるであろう。最小二乗適合アルゴリズム、最小絶対偏差アルゴリズム、最大尤度型推定などのうちのいずれかなど、使用され得る回帰計算技術における多くのよく知られている適合技術がある。回帰分析、特に線形回帰はよく知られているので、本明細書でさらにこれを考察しないものとする。
理解されるように、上記に記載の適合のために必要とされる強度ピークの最小値は、回帰関数に依存する。例えば、線形回帰関数は2つ以上の強度ピークに適合され得、第2次多項式は3つ以上の強度ピークに適合され得るなどである。線形回帰関数の場合、5つ以上、好ましくは7つ以上の強度ピークが特に信頼可能な結果をもたらすことが観察されている。
このように、信号ゼロでの回帰関数の値は、イオン種の判定された質量601を提供し、それについて質量トレースが観察されている。これは、回帰関数(または曲線)の切片と称され得る。信号ゼロは、質量分析計130における質量トレースによって観察される観察されたイオン種のゼロイオンに対応する信号値である。理解されるように、質量分析器によって作成される信号値は、典型的には、信号対ノイズ比である。しかしながら、信号の値は、絶対信号値と背景ノイズとの間の差、絶対信号および測定された背景ノイズ対などのうちのいずれかなど、他の方法で表され得ることが理解されるであろう。代替的に、信号は、絶対強度および対応する予想される背景ノイズ測定値(または推定値)を含み得る。同様に、信号ゼロの値は信号の性質に依存し得ることが理解されるであろう。例えば、信号ゼロの値は、質量分析計130について予想される背景ノイズに対応し得る。代替的に、信号ゼロの値は、ゼロに等しい(またはほぼ等しい)などであり得る。以下に明らかになるように、結果として生じる適合回帰関数も、ステップ620の一部として提供され得る。
上記に考察されるように、いくつかの場合、強度自体が信号に比例するだろう。このような場合、外挿における信号値の代わりに、強度値自体を使用することができる。代替的に、いくつかの配列で上記に考察されるように、強度は信号に一貫して比例するわけではない。例えば、いくつかの静電イオン捕捉分析計を高イオン強度で用いて、特定のイオン最大量のみを質量分析器に注入することができる。これは、典型的には、高イオン強度での注入時間を減少させることによって達成される。結果として、高イオン強度では、結果として生じる質量トレースにおける強度ピークは、一定の(またはほぼ一定の)イオン数で作成されるため、これらの強度ピークについて一定の(またはほぼ一定の)信号対ノイズ比が報告されている。
いくつかの実施形態では、このような場合、強度ピークのセットは、強度が信号に比例するこうした強度ピークのみを含み得ることが理解されるであろう。これが本当であれば、外挿における信号値の代わりに強度値を使用することができる。
任意選択的なステップ630は、外挿モジュール604によって判定される質量601について信頼測定値を判定(または計算または別様に推定)することを含み得る。信頼測定値は、判定される質量についての信頼区間であり(またはこれを含み)得る。信頼測定値は、ステップ620の回帰分析についての適合尺度の有益な部分であり得る(またはこれを含み得るか、またはこれに基づき得る)。例えば、信頼度尺度は、ゼロ強度での回帰関数の値についての信頼区間であり得る。
追加的または代替的に、任意選択的なステップ630は、ステップ620で判定された質量601が許容可能であるか否かを示す1つ以上の品質試験を行うことを含み得る。品質試験は、m/z予想値の分散(または再現性)に基づいて実行され得る。いずれの偏向も被らない質量トレース152について、質量トレース152の強度ピークのm/z測定値における分散があると予想されることが理解されるであろう。このような分散は、質量分析計130によって作成されたm/z測定値の正確性が有限であるために生じる質量分析計の測定誤差に起因している場合がある。m/z予想値の分散は、質量分析計130の正確性および/または質量分析計の質量スキャンにおいて使用されるパラメータに基づく理論的推定値に基づいて判定され得る。m/z予想値の分散は、測定された信号および測定値の条件に相関している可能性がある。m/z予想値の分散は、質量トレース152と同じ分離質量分析実験で作成される他の質量トレース152に基づいて計算することができる。m/z予想値の分散を計算する例示的な方法を以下に簡単に提供する。
別の品質試験は、調査される質量トレースのイオン種の質量の2つ以上の別々の推定値の比較に基づいてもよい。別々の推定値は、強度ピークのそれぞれのサブセットに基づいてもよい。このような試験の例を以下に簡単に記載する。別の品質試験は、線形回帰によって達成される標準偏差を、測定された質量から判定される質量の観察される偏差と比較することである。観察される偏差が線形回帰の標準偏差よりも少なくとも2倍、好ましくは3倍高い場合、判定される質量について信頼が与えられない。
1つ以上の品質試験の結果は、1つ以上のそれぞれの信頼値(または表示)としてステップ630によって出力され得る。信頼値は、対応する品質試験をパスしたかどうかを示し得る。それ故、各信頼値は、それぞれの試験に従って、質量601が許容可能であるかどうかを示し得る。
任意選択的なステップ635は、修正された質量トレース652を生成する出力モジュール608を含む。任意選択的なステップ630が存在する場合、修正された質量トレース652は、質量601が許容可能であることを示す1つ以上の品質試験に応じて生成され得る。当該生成は、ステップ620で提供された結果として生じる適合回帰関数に基づいて実行され得る。具体的には、当該生成の一部として、質量トレース152における強度ピークのm/z値は、上記に考察される質量偏向を補償するようにシフトされる。具体的には、質量トレース152における強度ピークのm/z値は、判定されるm/z値601に等しく設定され得る。
代替的に、当該生成は、当該強度ピークのそれぞれの信号値で適合回帰関数の値だけ質量トレース152における各強度ピークのm/z値をシフトすることを含み得る。このように、回帰関数と質量601との差が、質量トレース152のピーク(または強度ピークの質量値)から有効に減算されることが理解され得る。
1つを超える品質試験がある場合、生成された質量トレース152を生成するために、試験のうちのすべてまたは所定数の試験もしくは試験のサブセットをパスすることが必要とされ得る。
このような修正は、それが典型的には、機器の正確性、環境効果などの他の現象のために生じる強度ピークのm/z測定値における変動を依然として保持しながら、所与の質量トレースからすべてではないがほとんどの偏向効果を除去することを可能にするという点で有益であることが理解されるであろう。これは、合体の偏向効果によって導入される任意の誤差を減少させながら、このような変動を使用し得る他の分析を依然として実行することができることを意味する。
質量トレース152が単一の質量中心測定値を提供される(先行技術の質量トレース測定技術で当てはまるような)例では、単一の質量中心測定ステップ635は、単一の質量中心測定値のみを修正することを含み得る。これは、ステップ620で判定される質量601と質量中心測定値を置き換えることによって達成することができる。代替的に、単一の質量中心測定値は、信号ゼロの適合回帰関数の質量値に基づいてシフトされ得る。
ステップ640は、判定された質量601を出力モジュール608による質量トレース152についてのm/z値として提供することを含む。任意選択的なステップ630が存在する場合、判定された質量601は、質量601が許容可能であることを示す信頼値に応じて提供され得る。ステップ640は、信頼度尺度、および/またはステップ630の品質試験により、ステップ620で判定された質量が許容可能でないことが示された場合に、質量601が許容可能でない(または信頼可能でない)という表示を提供することを含み得る。ステップ640は、判定された質量601について信頼区間を提供することを含み得る。ステップ640は、修正された質量トレース652を出力として提供することを含み得る。例えば、修正された質量トレース652および/または判定された質量601は、さらなる処理モジュール170に提供され得る。
上記の考察において、質量トレース152は、図3aおよび3bで考察される例示的な分析システム150を使用して生成される。しかしながら、本明細書の以前に記載されているように、質量トレース152は、既知の先行技術の方法によって同定される質量トレース152であり得ることが理解されるであろう。例えば、分析システム150は、図1cに関して上記に記載の技術を使用して質量トレースを同定することができる。このような先行技術の方法は、通常、所与の分離イベントについて分離パラメータに対する強度の質量トレースプロットを提供する。しかしながら、このような質量トレースプロットを使用して、複数の質量スペクトル132から対応する強度ピークのセットを同定することができ、それにより強度ピークのセットを含む質量トレース152を得ることができることが理解されるであろう。このように、方法600は、質量トレースを得る先行技術の方法と共に使用することができる。
同様に、上記の方法600は分析システム150によって実行することができることも理解されるであろう。例えば、質量修正モジュール160は、分析システム150のモジュールであり得る。
理解されるように、図6aおよび6bに関して上記に記載のシステムおよび方法は、図1dに関して記載される自動合体のために、強度ピークの測定された質量の偏向について結果として生じる判定された質量で補償を行うことを可能にする。これは、同じ溶出化合物のイオンフラグメントが質量分析計において合体し、それによりフラグメントイオンの一方または両方についてm/z測定値におけるシフトを生じさせる場合である。上記のシステムおよび方法は、ヘテロ合体の形態にも適用可能であり、強度ピークの測定された質量の偏向について結果として生じる判定された質量において再び補償を行うことを可能にする。具体的には、本システムおよび方法は、ほぼ同時に溶出する2つの異なる溶出化合物のイオン(またはイオンフラグメント)が質量分析計において合体し、それによりイオン(またはイオンフラグメント)の一方または両方についてm/z測定値におけるシフトを生じさせる場合に適用可能である。
方法600の一部として、質量トレース152を分析(または別様に検査)して、質量トレース152において質量偏向(合体など)が存在するかどうかを同定することができることが理解されるであろう。理解されるように、このような偏向を同定し得る多数の方法がある。例えば、所定の閾値を超える質量トレース152に沿った質量変化により質量偏向を同定することができる。追加的または代替的に、所定の閾値を超える質量トレース152)における質量についての標準偏差により質量偏向を同定することができる。典型的には、測定値について予想され得るよりも3倍より大きい(またはそれ以上)の標準偏差は質量偏差を示し、好ましくは、測定値について予想され得るよりも2倍より大きい(またはそれ以上)の標準偏差は質量偏差を示す。場合によっては、ステップ620は、質量トレースにおける質量偏向の同定に応じて実行され得る。例えば、質量偏向が同定されない場合、本方法はステップ620の前に終了することができる。
方法600は、質量トレースにおいて質量偏向が存在するかどうかを同定するための分析を用いずに、質量トレースに対して実行することができることが理解されるであろう。
図7は、方法600と共に使用され得る質量中心について信頼測定値を判定するための変形ステップ630を概略的に例示する。
ステップ710は、強度ピークのセットを強度ピークの2つ以上のサブセットに分割することを含む。ステップ710における分割は、強度ピークに対応する分離イベントに基づいている可能性がある。例えば、強度ピークのセットは、イベントの分離パラメータ中心に基づいて分割することができる。それ故、強度ピークの第1のサブセットは、分離パラメータ中心を下回る(またはこれ以下の)分離パラメータの値を有する強度ピークのうちのいくつかまたはすべてを含み(またはこれらから形成され)得る。同様に、強度ピークの第2のサブセットは、分離パラメータ中心を上回る(またはこれ以上の)分離パラメータの値を有する強度ピークのうちのいくつかまたはすべてを含み(またはこれらから形成され)得る。
換言すると、このセットにおける強度ピークは、分離パラメータについての開始値、分離パラメータについての終値、および分離パラメータ中心(または頂点)値を有する分離イベントに対応し得る。次に、第1のサブセットは、開始値と分離パラメータ中央値との間の分離パラメータの値で測定された強度ピークを含み得る。第2のサブセットは、分離パラメータ中央値と終値との間の分離パラメータの値で測定された強度ピークを含み得る。
ステップ720は、信号ゼロに向かう第1のサブセットの測定された質量の外挿としてイオン種の質量の第1の推定値を判定することを含む。
同様に、ステップ730は、信号ゼロに向かう第2のサブセットの測定された質量の外挿としてイオン種の質量中心の第2の推定値を判定することを含む。
ステップ620と同じ方法で、ステップ720およびステップ730の両方を実行することができる。このように、上記のステップ620の考察は、ステップ720にも類似的に当てはまり、ここでは質量の代わりにイオン種の質量の第1の推定値を用い、強度ピークのセットの代わりに強度ピークの第1のサブセットの強度ピークのセットを用いる。同様に、上記のステップ620の考察は、ステップ730にも類似的に当てはまり、ここでは質量の代わりにイオン種の質量の第2の推定値を用い、強度ピークのセットの代わりに強度ピークの第2のサブセットの強度ピークのセットを用いる。
ステップ740は、質量の第1の推定値と質量の第2の推定値との比較に基づいて判定された質量601についての信頼値を判定することをさらに含む。質量601が許容可能であることを示す信頼値は、質量の第1の推定値および質量の第2の推定値が一致する(または同じであるか、または特定の範囲の偏差内にある)場合に得られ得る。質量の第1の推定値および質量の第2の推定値は、それらが互いの所定の閾値内にある場合に(またはそれらの絶対値差が閾値を下回る場合に)一致するものと判定され得る。閾値は、質量の第1の推定値および/または質量の第2の推定値を判定するために使用される回帰分析に依存し得る。閾値は、標準偏差または分析のための別の信頼度尺度に基づいている場合がある。追加的または代替的に、閾値は、対応する回帰分析によって判定される質量の第2の推定値についての標準偏差(または別の信頼度尺度)に基づいている場合がある。
追加的または代替的に、信頼値は、ステップ720から得られる質量の第1の推定値について適合された回帰関数(以下で第1の適合回帰関数と称される)と、ステップ730から得られる質量の第2の推定値について適合された回帰関数(以下で第2の適合回帰関数と称される)との類似性に基づいて判定することができる。信頼値は、第1の適合回帰関数と第2の適合回帰関数との間の差の平均二乗値に基づいている場合がある。例えば、質量601が許容可能であることを示す信頼値は、第1の適合回帰関数と第2の適合回帰関数との間の差が所定の閾値を下回る場合に得られ得る。同様に、質量中心601が許容可能でないことを示す信頼値は、第1の適合回帰関数と第2の適合回帰関数との間の差が所定の閾値を上回る場合に得られ得る。2つの関数間の差は任意の数の異なる好適な方法で計算することができ、これらは、別々に、または組み合わせて、以下の基準:平均絶対偏差、平均二乗偏差、中央偏差、所定の信号値における差(信号ゼロなど)、関数間の傾斜の差などを含み得ることが理解されるであろう。典型的には、5ppm未満の標準偏差は許容可能な質量601を示す。
一例では、以下のプロトコルを使用して信頼値を判定することができる。
・第1の適合回帰関数について、範囲RangeLeftは、RangeLeft=[MassLeft−StdevLeft,MassLeft+StdevLeft]として構築され、式中、MassLeftは、質量の第1の推定値であり、StdevLeftは、適合のために使用される強度ピークの第1のサブセットにおける第1の適合回帰関数と強度ピークのm/z測定値との間の標準偏差である。
・第2の適合回帰関数について、範囲RangeRightは、RangeRight=[MassRight−StdevRight,MassRight+StdevRight]として構築され、式中、MassRightは、質量中心の第2の推定値であり、StdevRightは、適合のために使用される強度ピークの第2のサブセットにおける第2の適合回帰関数と強度ピークのm/z測定値との間の標準偏差である。
・次に、RangeLeftおよびRangeRightが重複する場合、質量中心が許容可能であることを示す信頼値が得られる。別様に、質量中心が許容可能でないことを示す信頼値が得られる。
第1および第2の適合回帰関数の類似性に基づく信頼値の計算は、イベントがクロマトグラフピークであり、異なるm/z値での同じ溶出からの他のイオン種との相互作用のために強度ピークの偏向が生じる特定の対象についてのものであることが理解されるであろう。ここでは、偏向が保持時間の中心の周りで左右対称になるという大きな期待がある。
図6bに関して上記に記載の方法600の変形例では、ステップ620は、ステップ710に関して上記に記載のイベントの分離パラメータ中心に基づいて強度ピークのセットを分割することを含み得る。具体的には、ピークは強度ピークの2つのサブセットに分割され得る。強度ピークの第1のサブセットは、分離パラメータ中心を下回る(またはこれ以下の)分離パラメータの値を有する強度ピークを含む(またはこれらから形成される)。同様に、強度ピークの第2のサブセットは、分離パラメータ中心を上回る(またはこれ以上の)分離パラメータの値を有する強度ピークを含む(またはこれらから形成される)。このように、質量の判定は、信号ゼロに向かう強度ピークのサブセットのうちの1つのm/z測定値を外挿することを伴い得ることが理解されるであろう。
これは、サブセットのうちの1つの強度ピークが、対象となる化合物の溶出の直後または直前に溶出するさらなる化合物からのヘテロ合体の対象であるときに特に有益であり得る。このように、外挿は、強度ピークの他のサブセットを使用し得る。これは、さらなる化合物の溶出によって引き起こされるヘテロ合体について説明を行う必要なく、存在し得る自動合体に関して補償することができるため有益であり得る。
外挿が行われ得るサブセットの選択は、質量トレース152の分離イベントとさらなる化合物についての分離イベントとの比較に基づいて行われ得る。具体的には、典型的には、さらなる化合物の分離イベントと最小重複を有するサブセットが選択されるであろう。
代替的に、それぞれの外挿は、第1のサブセットおよび第2のサブセットの両方について行われる場合があり、それぞれの質量の作成は、上記のステップ720および730の方法で行われ得る。次に、最低標準偏差を有するそれぞれの質量は、イオン種についての質量として選択され得る。代替的に、イオン種についての質量は、強度ピークの第1のサブセットから、かつ強度ピークの第2のサブセットから判定されるそれぞれの質量、および両方のサブセットを含む強度ピークのセットから判定される質量を含む質量群から選択され得る。さらに、最低標準偏差を有する質量が、次に、イオン種についての質量として選択され得る。
図8は、例えば図6bのステップ630の一部として実行され得るような、m/z予想値の分散(または質量再現性)を判定するための方法800を概略的に例示する。
ステップ810は、所与の試料101の分離/質量分析による分析の一部として質量分析計によって作成された質量スペクトル132から得られるモデル質量トレース152を含む。モデル質量トレース152は、典型的には、所定の閾値を超えるいくつかの強度ピークを含み、かつ/または所定の閾値を超える信号(または強度)を有する質量トレース152であるだろう。典型的には、1つ超の質量トレース152がこれらの基準を満たす場合、最大強度ピークを有する質量トレース152がモデル質量トレース152として選択される。一例では、最大数の強度ピークを有し、20個よりも大きい中央(または絶対)信号(信号対ノイズ比として)も有するモデル質量トレース152がモデル質量トレース152として選択され得る。この例では、質量トレース152が中央信号基準を満たさない場合、最も高い信号を有する質量トレースがモデル質量トレースとして選択され得る。具体的には、最も高い信号を有する質量トレースがモデル質量トレースとして選択され得る。
ステップ820は、モデル質量トレース152をフィルタ処理して所定の範囲外のm/z値を有する強度ピークを除去することを含む。典型的には、所定の範囲は、モデル質量トレース152における強度ピークのm/z平均値上に中心がある。範囲の幅は、モデル質量トレース152に基づいている場合がある。例えば、モデル質量トレース152についてm/z平均値から離れた2つ超の標準偏差を有するm/z測定値を有する強度ピークは除去され得る。
この範囲がモデル質量トレース152に基づいて判定される場合、ステップ820は、任意の結果として生じる範囲の変化を考慮して強度ピークが除去されるため、反復することができる。このような場合、反復についての終了基準がある場合がある。ステップ820は、モデル質量トレースに残っているピーク数が特定の閾値に達するまで繰り返すことができる。追加的または代替的に、ステップ820は、閾値数のピーク未満が最新の反復において除去されるまで反復され得る。いずれかまたは両方の場合、閾値は、モデル質量トレース152の元の長さに基づいている場合がある。
特定の例では、ステップ820は以下のいずれかまで反復され得る。
・モデル質量トレース152における強度ピーク数がモデル質量トレース152における元の強度ピーク数の半分未満になるか、または
・最も直近のステップ820の反復においてモデル質量トレース152から除去される強度ピーク数がモデル質量トレース152における元の強度ピーク数の5%未満になる。
ステップ830は、フィルタ処理されたモデル質量トレース152における強度ピークのm/z値についての分散を計算することを含む。
図9aは、実験的質量トレース(A1)の強度ピークについての保持時間(RT)に対するm/z測定値のプロット1092、および同じ強度ピークについての保持時間に対する信号対ノイズ比のプロット1094の両方を含むグラフ1090を示す。これらの強度ピークは、ペプチドの電荷状態z=5のイオンが調査される、Q Exactive(商標)HF LC−MS/MSシステムによる実験に由来している。このペプチドは、タンパク質ウシ血清アルブミンの消化によって作り出された。。グラフ1090は、上記に考察される信号対ノイズ比に対するm/z測定値の偏向の依存度を明確に示す。
図9bは、同じLC−MS/MS実験についての強度ピークのさらなる実験グラフ900を示す。実験グラフ900は、保持時間に対する測定された質量(正確な質量とラベルされる)としてプロットされる実験の所与の質量スキャンにおける強度ピークのプロットである。各強度ピークは、プロット900上の円としてプロットされ、円の陰影は強度ピークの強度に比例しており、円が暗いほど、対応するピークがより強い。したがって、見られ得るように、強度ピークは、およそ52.75の保持時間で最大値に向かって漸進的により強くなり、その後、漸進的により弱くなる。実験グラフ900は、上記に考察される図1dのグラフ197の通りであり、グラフ197の考察は、個々で等しく当てはまる実験グラフ900に等しく当てはまる。
52.77の保持時間でこの実験において生成される質量スペクトル132の質量スペクトルプロット950も図9bに示す。質量スペクトルプロット950は、上記に考察される図1bの質量スペクトルプロットの通りであり、質量スペクトルプロットの考察は、ここで等しく当てはまる連続プロット950の考察に等しく当てはまる。連続プロット950では、強度は相対的存在量として示される。
連続プロットグラフ900は、5つの質量トレースA0、A1、A2、A3、A4を示す。各質量トレースは、強度ピークのセットを含む。質量トレースA0、A1、A2、A3、A4は、対応する質量トレースA0、A1、A2、A3、A4についてそれぞれの点線の境界の内側の強度ピークのセットとしてグラフ上に示される。質量トレースA0、A1、A2、A3、A4は、図3〜5に関して上記に記載の方法を使用して同定されている。A1とマークされたピークは、図9aのグラフ1090にプロットされた強度ピークに対応している。
見られ得るように、質量トレースA0、A1、A2、A3、A4の各々が、同じ溶出イベントからのそれぞれのイオンに対応している。溶出イベントについての保持時間の中心は、およそ52.75秒である。質量トレースA2は、測定された質量値においていかなる偏向も示していない。他の質量トレースA0、A1、A3、A4はすべて、質量トレースA2の測定された質量値に向かる測定された質量値の偏向を示している。具体的には、測定された質量値の偏向が偏向された強度ピークの強度の増加と共に増加することがグラフ900から見られ得る。
図9cは、図9bに示される質量トレースA1からの強度ピークのm/z値対強度プロット970を示す。適合回帰関数975もプロット970に示される。適合回帰関数975は、図6bを参照して上記に記載の方法600を使用して生成されている。この例では、使用される回帰関数は、第1次多項式を含む。適合回帰関数975は、方法600のステップ620に関して上記に記載のような最小二乗適合アルゴリズムの使用を通して得られた。適合回帰関数975は以下の通りである。M(S)=−0.000025+742.72409。この場合、ゼロイオンに対応する信号ゼロは、S=0である。したがって、質量トレースA1について修正されたm/z値は、742.72409として得られる。
このように、質量トレースA1の最も強い強度ピークのm/z値は、本発明の方法を使用して得られる修正されたm/z値と比較して、およそ0.022mu(30ppmの誤差)で偏向されることが見られ得る。これは、先行技術で想定される1〜2ppmの誤差を上回っている。それ故、方法600は、質量トレースA1について報告されるm/z値に対する有意な修正を提供することが理解されるであろう。
図9dは、図9bおよび9cに示される質量トレースA1からの強度ピークのm/z値対強度プロット970を示す。
ここで、図9dの強度ピークは、図7に関して上記に記載の方法に従って処理されている。具体的には、図9dは、強度ピークが第1のサブセット(強度ピークが点として示される)および第2のサブセット(強度ピークが×印として示される)に分割されていることを示す。この例では、第1のサブセットは、イベントの開始とイベントについての保持時間の中心との間の保持時間に対応する強度ピークを含む。第2のサブセットは、イベントについての保持時間の中心とイベントの終了との間の保持時間に対応する強度ピークを含む。
それぞれ、第1および第2のサブセットに適合される、第1の適合回帰関数1072および第2の適合回帰関数1074も図9dに示されている。両方の回帰関数が第1次多項式を含む。第1の適合回帰関数1072は、M(I)=0.000021+742.72409で与えられる。第2の適合回帰関数は、M(I)=0.000021+742.72416で与えられる。見られ得るように、m/z値のそれぞれの第1および第2の推定値は、それぞれ、742.72409および742.72416である。これらは、0.07mu(または0.095ppm)内に一致する。
上記の記載では、質量スペクトルは、m/z比および強度および/または信号、特に信号対ノイズの観点で考察されている。しかしながら、質量スペクトルは、いくつかの異なる方法で、例えば、質量および相対的存在量、質量および強度、m/z比および相対的存在度などの観点で表すことができることが理解されるであろう。上記の考察は、当該技術分野で知られている質量スペクトルを表す任意の他の方法に等しく当てはまる。したがって、当業者であれば、本明細書の項m/zに関する考察を項質量に等しく適用することができ、逆も同様であることを理解するであろう。
上記に記載の分離デバイス110は、一緒に連鎖されるいくつかの異なる分離デバイス110を含み得ることが理解されるであろう。例えば、MALDIデバイスによって作成される質量流は、次にさらなる分離のためにクロマトグラフに導入される可能性があり、結果として生じる質量流は質量分析計130に提供される。
上記に記載のように、イベント検出は、モデルピークを高い頻度で使用する。これは、特定のピーク形態(例えば、ガウス分布)などの分析モデルに基づいて記載されているが、このモデルピークは一連の試料として表される方ほうがよいことが理解されるであろう。これは、質量トレースが特定の単純なモデルとは適合しないが、縮尺(および当然ながらシフト)を除いて「自己相似」であるときに特に便利であり得る。これは、モデルピーク情報が質量分析データから回収されるときに特に便利であり得る。次に、平均ピーク形状を既知のモデルのセットと比較し得、ここから1つを選択して、適切な場合、パラメータ化する。セットでのモデルのうちのいずれにも適合しない体系的な形状が見られる場合、観察された平均ピークを試料のセットとして表すことができる。品質係数(例えば、測定された点の分散対正しく縮尺されたサンプリングモデルピーク)の適合方法および判定は、大きく異なることはない。サンプリングモデルピークの線形またはより高次の補間は、試料密度の変動について調節する必要があり得る。
記載の方法は、特定の順序で実行される個々のステップとして示されていることが理解されるであろう。しかしながら、当業者であれば、これらのステップを、依然として所望の結果を達成しながら異なる順序で組み合わせるか、または実行し得ることを理解するであろう。
本発明の実施形態は、様々な異なる処理システムを使用して実装され得ることが理解されるであろう。具体的には、図およびそれらの考察は例示的なコンピューティングシステムおよび方法を提供しているが、これらは単に、本発明の様々な態様の考察における有用な参照を提供するために提示されている。本発明の実施形態は、パーソナルコンピュータ、ラップトップ、サーバーコンピュータなどの任意の好適なデータ処理デバイス上で実行することができる。当然ながら、本システムおよび方法の記載は、考察の目的のために単純化されており、本発明の実施形態について使用され得る多くの異なる種類のシステムおよび方法のうちの単なる1つである。論理ブロック間の境界は単なる例示であり、代替的な実施形態は論理ブロックもしくは要素を統合することができるか、または様々な論理ブロックもしくは要素に対する機能性を交互に分解することができることが理解されるであろう。
上述の機能性は、ハードウエアおよび/またはソフトウエアとしての1つ以上の対応するモジュールとして実装され得ることが理解されるであろう。例えば、上述の機能性は、システムのプロセッサにより実施するための1つ以上のソフトウエア構成要素として実装され得る。代替的に、上述の機能性は、1つ以上のフィールド・ブログラマブル・ゲートアレイ(FPGA)、および/または1つ以上の特定用途集積回路(ASIC)、および/または1つ以上のデジタル信号プロセッサ(DSP)、および/または他のハードウエア配列などのハードウエアとして実装され得る。本明細書に含まれるフローチャートにおいて実装されるか、または上記に記載の方法のステップは各々、対応するそれぞれのモジュールによって実装され得、本明細書に含まれるフローチャートにおいて実装されるか、または上記に記載の複数の方法のステップは、単一のモジュールによって一緒に実装され得る。
本発明の実施形態がコンピュータプログラムにより実装される限りにおいて、コンピュータプログラムを担持する記憶媒体および送信媒体が本発明の態様を形成することが理解されるであろう。コンピュータプログラムは、コンピュータにより実施された場合に本発明の実施形態を実行する1つ以上のプログラム命令またはプログラムコードを有する場合がある。本明細書で使用される場合、「プログラム」という用語は、コンピュータシステム上で実施するように設計された命令の配列であり得、サブルーチン、関数、手順、モジュール、オブジェクト方法、オブジェクト実装、実施可能アプリケーション、アプレット、サーブレット、ソースコード、オブジェクトコード、共有ライブラリ、動的リンクライブラリ、および/またはコンピュータシステム上で実施するように設計された命令の他の配列を含み得る。記憶媒体は、磁気ディスク(ハードドライブまたはフロッピーディスクなど)、光学ディスク(CD−ROM、DVD−ROM、またはブルーレイディスクなど)、またはメモリ(ROM,RAM、EEPROM、EPROM、フラッシュメモリ、または可搬型/取り外し可能なメモリデバイスなど)であり得る。送信媒体は、通信信号、データ放送、2つ以上のコンピュータ間の通信リンクなどであり得る。