以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[第1実施形態]
図1は、光導波路形成装置1を備えた電子加速器100を示す概略構成図である。図1に示される電子加速器100は、高強度に集光されたパルスレーザ光でプラズマ中に超高強度のレーザ航跡場(電場)を励起し、このレーザ航跡場により電子ビームをギガ電子ボルトの超高エネルギまで加速するレーザ駆動プラズマ電子加速器である。電子加速器100は、レーザパルス光を集光したまま長距離(例えば10cm)伝搬可能な光導波路を形成する光導波路形成装置1を備える。電子加速器100は、放電管(容器)10と、磁場形成部50と、レーザ光照射部20と、放電回路30と、コントローラ40と、を含んで構成されている。
放電管10は、所定方向Dに沿った軸線Xを中心軸とする筒状を呈している。放電管10は、例えばガラス又はセラミック等で形成された円管である。放電管10は、多価電離可能なガスが存在可能な内部空間Zを有する。放電管10の内径は、特に限定されないが、例えば1mmよりも大きくてもよい。ガスとしては、アルゴンガス又はヘリウムガス等が挙げられる。放電管10の一端側には、高電圧電極としての陽電極11が設けられている。放電管10の他端側には、グランド電極としての陰電極12と、スパーク電極としての針電極13とが設けられている。陽電極11、陰電極12及び針電極13は、放電回路30に電気的に接続されている。陰電極12は、接地されている。陽電極11及び陰電極12には、抵抗19が電気的に接続されている。放電管10は、真空容器60の内部に配置されている。
磁場形成部50は、例えばネオジウム等で形成された永久磁石である。磁場形成部50は、筒状を呈している。ここでの磁場形成部50は、円筒状を呈している。磁場形成部50は、放電管10を包囲するように設けられている。磁場形成部50は、中心軸が放電管10の中心軸(軸線X)と同軸となるように設けられている。磁場形成部50は、N極が陽電極11側に位置し且つS極が陰電極12側に位置するように設けられてもよいし、N極が陰電極12側に位置し且つS極が陽電極11側に位置するように設けられてもよい。磁場形成部50は、放電管10の内部空間Z内に所定方向Dに沿う磁場を印加する。当該磁場の強度は、例えば0.5Tである。
図2は、放電管10及び磁場形成部50の断面図である。図2に示されるように、放電管10の一端側には、陽電極保持部14が設けられている。放電管10の他端側には、陰電極保持部15及び絶縁板16が設けられている。なお、図1においては、陽電極保持部14、陰電極保持部15及び絶縁板16の図示が省略されている。
陽電極保持部14は、板状を呈している。陽電極保持部14には、貫通孔14aが形成されている。貫通孔14aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔14aの断面は、円形状を呈している。陽電極保持部14は、貫通孔14aの中心軸が放電管10の中心軸と同軸となるように設けられている。
陽電極11には、貫通孔11aが形成されている。貫通孔11aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔11aの断面は、円形状を呈している。陽電極11は、貫通孔11aの中心軸が陽電極保持部14の貫通孔14aの中心軸と同軸となるように、貫通孔14aに嵌め込まれている。貫通孔11aは、放電管10の内部空間Zと放電管10の外部とを連通させる。つまり、放電管10の内部空間Zは、貫通孔11aを介して外部に開放されている。
陰電極保持部15は、板状を呈している。陰電極保持部15には、貫通孔15aが形成されている。貫通孔15aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔15aの断面は、円形状を呈している。陰電極保持部15は、貫通孔15aの中心軸が放電管10の中心軸と同軸となるように設けられている。
陰電極12には、貫通孔12aが形成されている。貫通孔12aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔12aの断面は、円形状を呈している。陰電極12は、貫通孔12aの中心軸が陰電極保持部15の貫通孔15aの中心軸と同軸となるように、貫通孔15aに嵌め込まれている。
針電極13には、貫通孔13aが形成されている。貫通孔13aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔13aの断面は、円形状を呈している。針電極13は、貫通孔13aの中心軸が陰電極12の貫通孔12aの中心軸と同軸となるように、陰電極12に対して放電管10とは反対側に設けられている。針電極13と陰電極12との距離は、1mm〜2mm程度である。
絶縁板16は、板状を呈している。絶縁板16には、貫通孔16aが形成されている。貫通孔16aは、軸線Xを中心軸とする孔である。貫通孔16aの断面は、円形状を呈している。絶縁板16は、貫通孔16aの中心軸が陰電極12の貫通孔12aの中心軸と同軸となるように、陰電極12と針電極13との間に設けられている。貫通孔12a,16a,13aは、放電管10の内部空間Zと放電管10の外部とを連通させる。つまり、放電管10の内部空間Zは、貫通孔12a,16a,13aを介して外部に開放されている。
陰電極保持部15には、ガスを内部空間Zに導入する構成として、通路15b、バッファ部15c及びノズル(ガス導入ノズル)15dが形成されている。通路15bには、ガス供給源(図示省略)のガス導入管15fが接続されている。通路15bは、ガス導入管15fからバッファ部15cへガスを供給する流路である。ガス導入管15fには、ガスの流通を制御する電磁弁等のバルブ15g(図1参照)が設けられている。バッファ部15cは、放電管10の中心軸(軸線X)を基準として軸対称に形成されている。バッファ部15cは、陰電極12を囲う環状を呈している。バッファ部15cは、通路15bを介して供給されたガスを一時的に溜め得る空間である。
ノズル15dは、ガスを内部空間Z内に噴射(入射)させる噴口を構成する。ここでのノズル15dは、超音速ノズルである。ノズル15dは、バッファ部15cと放電管10の内部空間Zとの間に形成され、これらを連通させる。ノズル15dは、放電管10の中心軸を基準として軸対称に形成されている。ノズル15dは、陰電極12を囲う環状を呈している。ノズル15dの断面積は、バッファ部15c側から内部空間Z側に向かって漸減する。ノズル15dは、バッファ部15cに溜めたガスを内部空間Z内に軸線Xを基準として軸対称に導入する。
図1に戻り、レーザ光照射部20は、パルスレーザ光Lを内部空間Zへ集光して照射する。例えばパルスレーザ光Lは、近赤外レーザ光である。レーザ光照射部20は、レーザ光源21、集光レンズ22及びミラー23を有する。レーザ光照射部20では、レーザ光源21から出射したパルスレーザ光Lは、集光レンズ22で集光され、ミラー23で反射された後、放電管10の軸方向(所定方向D)に沿って進み、放電管10の陰電極12側から内部空間Zに入射する。ここでのレーザ光照射部20は、内部空間Zにおける放電管10の中心軸の位置に、当該軸方向に沿ってパルスレーザ光Lを照射する。レーザ光照射部20は、真空容器60の内部に配置されている。
放電回路30は、放電管10にパルス電流を流す回路である。放電回路30のインダクタンスは、例えば10μH以下である。放電回路30は、スパーク放電を実現するパルス電流(以下、「スパーク放電パルス電流」という)及び予備放電を実現するパルス電流(以下、「予備放電パルス電流」という)を放電管10に流す予備放電回路31と、主放電を実現するパルス電流(以下、「主放電パルス電流」という)を放電管10に流す主放電回路32と、を備える。
図3(a)は、予備放電パルス電流I1及び主放電パルス電流I2を模式的に例示するグラフである。予備放電パルス電流I1の電流値は、例えば数アンペア〜10アンペアであり、ここでは10アンペアである。主放電パルス電流I2の電流値は、例えば数kアンペア以下の電流値であり、ここでは、4〜5kアンペアである。図3(a)に示されるように、予備放電パルス電流I1は、主放電パルス電流I2と比較して、緩やかな立ち上がり及び立下がり並びに長時間に亘って維持される低いピークを有する。主放電パルス電流I2は、予備放電パルス電流I1と比較して、急な立ち上がり及び立ち下がり並びに高いピークを有する。
図1及び図3(a)に示されるように、予備放電回路31は、例えばアモルファスコアを用いた昇圧トランスである予備放電パルストランス31aを有する。図示するように、予備放電回路31の1次側には、半導体スイッチ(図示省略)と抵抗31bとIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)31cとコンデンサ31dとが含まれている。予備放電回路31の1次側は、接地されている。予備放電回路31の2次側には、インダクタ31eと抵抗31fとコンデンサ31gと抵抗31hとダイオード31mとが含まれている。予備放電回路31の2次側は、陽電極11、陰電極12及び針電極13に接続されている。
このような予備放電回路31は、コントローラ40からの指令に基づいて、放電管10の内部空間Z内がプラズマ状態となるように予備放電パルス電流I1を放電管10に流す。具体的には、予備放電回路31は、コントローラ40からIGBT31cへ放電開始トリガが入力された場合、まず、コンデンサ31gが充電される前に、コンデンサ31gを介して陰電極12及び針電極13にスパーク放電パルス電流を流し、陰電極12と針電極13との間でスパーク放電を生じさせる。スパーク放電とは、気体放電において音と発光を伴う放電のことをいう。その後、予備放電回路31は、陰電極12及び陽電極11に予備放電パルス電流I1を流して予備放電を開始し、放電管10の内部空間Z内のガスを予備電離させる(プラズマ状態とする)。なお、放電開始トリガの入力と予備放電パルス電流I1の立ち上がりとの間には、例えば数ns程度の第1スイッチジッタが存在している(図3(a)参照)。
主放電回路32は、例えばアモルファスコアを用いた昇圧トランスである主放電パルストランス32aを有する。図示するように、主放電回路32の1次側には、半導体スイッチ(図示省略)と抵抗32bとIGBT32cとコンデンサ32dとが含まれている。主放電回路32の1次側は、接地されている。主放電回路32の2次側は、陽電極11及び陰電極12に接続されている。
このような主放電回路32は、コントローラ40からの指令に基づいて、予備放電パルス電流I1に加えて主放電パルス電流I2を放電管10に流し、放電管10に流れているパルス電流の電流値を増大させる。具体的には、主放電回路32は、コントローラ40からIGBT32cへ主放電開始トリガが入力された場合、当該入力に応じて陰電極12及び陽電極11に主放電パルス電流I2を加えて主放電を開始する。なお、主放電開始トリガの入力と主放電パルス電流I2の立ち上がりとの間には、例えば数ns程度の第2スイッチジッタが存在している(図3(a)参照)。
コントローラ40は、例えば一以上のコンピュータ装置により構成されている。コントローラ40は、プロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、記録媒体であるRAM(Random Access Memory)又はROM(Read Only Memory)等を含んで構成される。コントローラ40は、CPU及びRAM等のハードウェア上にプログラム等を読み込ませることにより、各種の制御を実行する。コントローラ40には、マウス又はキーボード等の入力部とディスプレイ等の表示部とが接続されていてもよい。
コントローラ40は、放電管10の内部空間Z内へのガスの導入、レーザ光照射部20のパルスレーザ光Lの照射、及び、放電回路30により放電管10に流れるパルス電流を制御する。コントローラ40は、その機能的構成として、ガス導入制御部41、予備放電制御部(第1パルス電流制御部)42、主放電制御部(第2パルス電流制御部)43、及びレーザ光照射制御部44、を有する。
ガス導入制御部41は、バルブ15gへガス導入開始トリガ(第1トリガ)を出力する。これにより、バルブ15gを開にし、ノズル15dから放電管10の内部空間Z内にガスを導入させる。予備放電制御部42は、予備放電回路31のIGBT31cへ放電開始トリガ(第2トリガ)を出力する。これにより、内部空間Z内にガスが存在している間に、予備放電回路31により陰電極12及び針電極13にスパーク放電パルス電流を流して、陰電極12に対してスパーク放電させた後、内部空間Z内がプラズマ状態となるように、予備放電回路31により放電管10に所定方向Dに沿って(所定方向Dとは反対方向に)予備放電パルス電流I1を流す。
主放電制御部43は、放電開始トリガの出力後、主放電回路32のIGBT32cへ主放電開始トリガ(第3トリガ)を出力する。これにより、内部空間Z内にガスが存在し且つ放電管10に予備放電パルス電流I1が流れている間に、放電管10に流れているパルス電流の電流値について、予備放電パルス電流I1から増大させ、予備放電パルス電流I1に主放電パルス電流I2を組み合わせた電流値とする。主放電制御部43によるパルス電流の立ち上がり(電流値が増大を開始してから最大値となるまでの時間,図5参照)は、例えば0.5μs〜10μsである。パルス電流を増大させることにより、軸線Xを中心軸とする円柱状の多価電離チャネルを内部空間Z内に形成すると共に、当該多価電離チャネルをピンチ効果で収縮させ、光導波路を過渡的に内部空間Z内に形成する。
ピンチ効果及び光導波路の形成について、具体的に説明する。パルス電流を増大させることにより、放電管10の内部空間Z内で予備電離されたプラズマをさらに加熱させ、パルス電流で形成されるθ磁場(自己磁場)の磁気圧(内部空間Z内で径方向内側に作用する圧力)を増加させることにより、多価電離チャネルをピンチ効果で収縮(インプロージョン)させる。そして、高速で収縮する多価電離チャネルの前面に衝撃波を駆動させ、当該収縮がスタグネートする直前の光導波路形成時間にて、多価電離チャネルと衝撃波との相互作用により光導波路を過渡的に内部空間Z内に形成する。光導波路形成時間は、例えば100ns〜200nsである(図6参照)。
図3(b)は、光導波路が形成される時点での内部空間Zにおける電子密度分布を模式的に示すグラフである。図3(b)に示されるグラフでは、放電管10の軸方向と直交する面での電子密度分布を示している。内部空間Zにおいて過渡的に形成される光導波路は、光ファイバと同様の機能を有する。光導波路では、径方向の電子密度分布が放物凹型の分布を有し、軸方向において当該分布が一様に保たれている状態である。放物凹型の電子密度分布は、光ファイバと同様の凸型の屈折率分布を生成する。
図1に戻り、レーザ光照射制御部44は、レーザ光源21を制御し、光導波路形成時間内に内部空間Z内へパルスレーザ光Lをレーザ光源21から照射させる。これにより、過渡的に内部空間Z内に形成した光導波路にて当該パルスレーザ光Lを導波させ、パルスレーザ光Lのポンデロモーティブ力により、電子ビームを加速するレーザ航跡場を内部空間Z内に発生させる。
コントローラ40は、電子ビーム源80を制御し、電子ビーム源80から放電管10の軸方向に沿って電子ビームEを出射させる。電子ビーム源80から出射した電子ビームEは、放電管10の軸方向に沿って進み、ミラー23に形成された孔を介して当該ミラー23を通過した後、レーザ光照射部20のパルスレーザ光Lと同軸に放電管10の陰電極12側から内部空間Zに入射する。
なお、電圧波形測定器によって、放電管10に印加されている電圧波形をモニターすることができる。この場合、電圧波形測定器は、陽電極11と陰電極12との間に接続されている。電圧波形測定器としては、例えばオシロスコープを用いることができる。電圧波形測定器によれば、多価電離チャネルの出現時のインピーダンス上昇により現れる当該電圧波形の上昇のピークタイミングをモニターすることができる。コントローラ40は、当該電圧波形の上昇のピークタイミングに基づくことで、多価電離チャネルが出現する上記光導波路形成時間を決定することが可能となる。
次に、電子加速器100を用いて光導波路を形成して電子ビームを加速する方法について、図4〜図6を参照しつつ説明する。
まず、放電管10の内部空間Z内にガスを導入する(ステップS1)。ステップS1では、コントローラ40のガス導入制御部41によりバルブ15gにガス導入開始トリガを入力し、当該入力に応じてバルブ15gを開にし、ノズル15dにより放電管10の内部空間Z内に所定量のガスをパルス的に噴射(入射)する。ガスは、ノズル15dを介して、軸線Xを基準として軸対称に内部空間Z内に噴射される。ガスは、ノズル15dを介して、所定方向Dに沿って超音速で流れるように内部空間Z内に噴射される。内部空間Z内に噴射されたガスは、内部空間Z内において、1cm/μs程度の速度で所定方向Dに沿って進む。
放電回路30の予備放電回路31によりスパーク放電させる(ステップS2)。ステップS2では、コントローラ40の予備放電制御部42によりIGBT31cに放電開始トリガを入力し、当該入力に応じて内部空間Z内にガスが存在している間に、陰電極12に対して予備放電回路31によりスパーク放電させる。
放電回路30の予備放電回路31により予備放電を開始する(ステップS3)。ステップS3では、内部空間Z内にガスが存在している間に、予備放電回路31により放電管10に予備放電パルス電流I1を流す。これにより、内部空間Z内を一様な1価電離したプラズマ状態とする(予備電離する)。
放電回路30の主放電回路32により主放電を開始する(ステップS4)。ステップS4では、コントローラ40の主放電制御部43によりIGBT32cに主放電開始トリガを入力し、当該入力に応じて内部空間Z内にガスが存在し且つ放電管10に予備放電パルス電流I1が流れている間に、主放電回路32により予備放電パルス電流I1に加えて主放電パルス電流I2を放電管10に流す。これにより、放電管10に流れているパルス電流の電流値Iallを、時間経過とともに増大させ、内部空間Z内に多価電離チャネルを形成する(ステップS5)。時間経過とともに増大するパルス電流の電流値Iallで形成されるθ磁場(自己磁場)の磁気圧で、多価電離チャネルを収縮させる(ステップS6)。
図6は、パルス電流の電流値Iall及び多価電離チャネルの径Rの時間変化を示すグラフである。図6に示されるように、放電管10に流れているパルス電流の電流値Iallが増大すると共に、多価電離チャネルの径Rが小さくなる。多価電離チャネルの収縮がスタグネートする時刻の直前の時刻t1から時刻t2に亘る光導波路形成時間にて、光導波路を過渡的に内部空間Z内に形成する。これと共に、この光導波路形成時間内の時刻t3にて、TW(テラワット)超級の高強度なパルスレーザ光Lをレーザ光源21から出射させ、当該パルスレーザ光Lを内部空間Z内へその中心軸に沿って照射する(ステップS7)。光導波路に当該パルスレーザ光Lを導波させ、レーザ航跡場を内部空間Z内に発生させる(ステップS8)。なお、多価電離チャネルは、収縮がスタグネートした後、膨張ないし崩れる。
なお、図6の点線は、高速放電回路によってパルス電流を立ち上げた場合のパルス電流I3と多価電離チャネルの径rとの時間変化を示している。高速放電回路によってパルス電流を立ち上げた場合、パルス電流の立ち上がりは、10ns程度であり、光導波路形成時間は、1ns〜2ns程度である。
コントローラ40のレーザ光照射制御部44により、光導波路形成時間内に内部空間Z内へ電子ビームEを電子ビーム源80から出射させ、内部空間Z内に発生させたレーザ航跡場に電子ビームEを入射させる(ステップS9)。当該電子ビームEは、レーザ航跡場により加速され、放電管10の陽電極11側から出射される(ステップS10)。
以上、本実施形態では、放電管10の内部空間Z内がプラズマ状態となった後に、放電管10に流れているパルス電流の電流値が増大され、ピンチ効果による多価電離チャネルの収縮が開始される。これにより、多価電離チャネルの収縮の初期における擾乱(電子の密度及び電気導電度等の不均一)が少なくなり、多価電離チャネルを安定的に収縮させることができる。また、内部空間Z内には、磁場形成部50により所定方向Dに沿う磁場が印加される。これにより、内部空間Z内においては、当該磁場が磁気絶縁効果によって所定方向Dに沿って電子をガイドする(電子が磁場に巻き付く)ように作用し、電子ひいてはパルス電流が所定方向Dに沿って流れやすくなる。そのため、当該パルス電流を増大させることで生じるピンチ効果による多価電離チャネルの収縮(それに寄与するθ磁場の分布)を所定方向D回りで均一化でき、多価電離チャネルを安定的に収縮させることができる。以上により、例えば高速放電回路を用いてパルス電流を高速に立ち上げなくても、光導波路を安定的に形成することができる。パルス電流を高速に立ち上げることに起因して、光導波路形成時間(光導波路の寿命)が放電回路30の第1スイッチジッタ及び第2スイッチジッタよりも小さくなることを抑制することができる。その結果、光導波路とパルスレーザ光Lとを容易且つ正確に同期させることができ、光導波路にてパルスレーザ光Lを確実に導波させることが可能となる。
多価電離チャネルの収縮過程における流体的不安定性について説明する。図7(a)及び図7(b)に示されるように、放電管10に流れているパルス電流の電流値Iallが増大すると、パルス電流で形成されるθ磁場Bθの磁気圧が増加し、多価電離チャネルCがピンチ効果によって収縮する。多価電離チャネルCの収縮過程においては、収縮の初期における擾乱が成長し、多価電離チャネルCの流体的不安定性が大きくなった結果、例えば、図7(c)及び図7(d)に示されるように、多価電離チャネルCが、収縮過程においてくびれ等の発生によってちぎれ(崩壊)てしまう場合がある。又は、例えば、図7(e)及び図7(f)に示されるように、多価電離チャネルCが、収縮過程において屈曲等の発生によってちぎれてしまう場合がある。これに対して、本実施形態では、上述したように、多価電離チャネルCを安定的に収縮させることができ、光導波路を安定的に形成することができる。
本実施形態によれば、高速放電回路のような低インダクタンス化が不要となる。例えば低インダクタンス化のための立体回路が不要となる。放電回路30を非立体回路とし、構造を単純化できると共に、放電回路30の寿命を長くすることができる。
本実施形態では、放電回路30により所定方向Dに沿って放電管10に予備放電パルス電流I1及び主放電パルス電流I2を流す。磁場形成部50で印加された磁場の方向に沿って予備放電パルス電流I1及び主放電パルス電流I2が流れることから、当該磁場によって電子をガイドする作用を効果的に発揮させることができる。所定方向Dに沿って流れる主放電パルス電流I2を増大させることで生じるピンチ効果による多価電離チャネルの収縮を均一化できる。多価電離チャネルを安定的に収縮させることができ、光導波路を安定的に形成することができる。
本実施形態では、放電回路30により放電管10に予備放電パルス電流I1を流す前に、放電管10の内部空間Z内にガスを導入し、ガスは、ノズル15dを介して、軸線Xを基準として軸対称に内部空間Zに導入される。これにより、内部空間Z内におけるガスの分布が軸線Xを基準として軸対称となるように、内部空間Z内にガスを導入することができる。多価電離チャネルの収縮の初期における擾乱が少なくなり、多価電離チャネルを安定的に収縮させ、光導波路を安定的に形成することができる。
本実施形態では、パルス電流の立ち上がりは、0.5μs〜10μsである。パルス電流の立ち上がりが遅いほど、光導波路形成時間は長くなる(図6参照)。このことから、パルス電流の立ち上がりを0.5μs〜10μsと遅くすることで、光導波路形成時間を100ns〜200nsと十分に長くすることができる。ひいては、光導波路形成時間を、放電回路30の第1スイッチジッタ(例えば数ns)及び第2スイッチジッタ(例えば数ns)よりも長くすることができる。すなわち、本実施形態では、「第1スイッチジッタ及び第2スイッチジッタ<<光導波路形成時間」を実現することができる。光導波路とパルスレーザ光Lとを容易且つ正確に同期させることができ、光導波路にてパルスレーザ光Lを確実に導波させることが可能となる。
なお、パルス電流の立ち上がりが0.5μsよりも小さいと、多価電離チャネルの収縮が速くなり、光導波路形成時間が放電回路30の第1スイッチジッタ及び第2スイッチジッタよりも小さくなるおそれが顕著となる。一方で、パルス電流の立ち上がりが10μsよりも大きいと、多価電離チャネルの収縮が遅くなり、光導波路が形成される前に多価電離チャネルが崩れてしまうおそれが顕著となる。そこで、本実施形態では、パルス電流の立ち上がりを0.5μs〜10μsに設定している。
本実施形態では、予備放電回路31により放電管10に予備放電パルス電流I1を流す前に、予備放電回路31により放電管10に設けられた陰電極12に対してスパーク放電させる。スパーク放電により、紫外光等の放射線を発生させて、内部空間Z内のガスに照射することができる。具体的には、陰電極12及び針電極13にスパーク放電パルス電流を流してスパーク放電を生じさせると、陰電極12及び針電極13の近傍のガスが電離して、スパーク放電時の電子と衝突することにより紫外光等の放射線が発生する。当該紫外光が内部空間Z内のガスに照射されると、放電管10に予備放電パルス電流I1が流れやすくなる。これにより、ステップS3で予備放電パルス電流I1の立ち上がりのタイミングのばらつきを低減し、内部空間Z内がプラズマ状態となるタイミングを安定化することが可能となる。予備放電パルス電流I1の立ち上がりが主放電パルス電流I2の立ち上がりの後になることが抑制され、放電管10の内部空間Z内が確実にプラズマ状態となった後に、放電管10に流れているパルス電流の電流値を増大させ、ピンチ効果による多価電離チャネルの収縮を開始させることができる。これにより、多価電離チャネルの収縮の初期における擾乱を確実に少なくすることができる。多価電離チャネルを安定的に収縮させることができ、光導波路を安定的に形成することができる。また、ステップS3で内部空間Z内がプラズマ状態となるタイミングを安定化することで、放電開始トリガと主放電開始トリガとのタイミングの差を容易に設定することができる。
本実施形態では、放電管10は、所定方向Dに沿った軸線Xを中心軸とする筒状を呈しており、磁場形成部50は、放電管10を包囲するように設けられた永久磁石である。これにより、放電管10の内部空間Z内に、所定方向Dに沿う磁場を簡易且つ確実に印加することができる。
本実施形態では、ガス導入開始トリガの入力に応じて、放電管10の内部空間Z内にガスを導入し、放電開始トリガの入力に応じて、内部空間Z内にガスが存在している間に、放電管10に設けられた陰電極12に対して予備放電回路31によりスパーク放電させた後、内部空間Z内がプラズマ状態となるように、予備放電回路31により放電管10に予備放電パルス電流I1を流し、主放電開始トリガの入力に応じて、内部空間Z内にガスが存在し且つ放電管10に予備放電パルス電流I1が流れている間に、主放電回路32により予備放電パルス電流I1に加えて主放電パルス電流I2を放電管10に流すことにより、放電管10に流れているパルス電流の電流値Iallを増大させる。これにより、光導波路を安定的に形成すると共に、光導波路にてパルスレーザ光Lを確実に導波させることを具体的に実現することができる。
本実施形態によれば、次の作用効果も奏される。本実施形態では、予備放電回路31のスイッチとして半導体スイッチが用いられている。このため、高電圧スイッチが用いられている場合に比べて、第1スイッチジッタを小さくすることができる。同様に、主放電回路32のスイッチとして半導体スイッチが用いられている。このため、高電圧スイッチが用いられている場合に比べて、第2スイッチジッタを小さくすることができる。
本実施形態では、放電管10の内部空間Z内がプラズマ状態となるように、予備放電回路31により放電管10に予備放電パルス電流I1を流している。このため、放電管10に主放電パルス電流I2が流れやすくなり、第2スイッチジッタを小さくすることができる。
本実施形態では、電圧波形測定器により、放電管10に印加されている電圧波形をモニターしている。多価電離チャネル出現時のインピーダンス上昇に起因して、放電管10に印加されている電圧波形に上昇のピークタイミングが現れることが見出されるため、当該電圧波形をモニターすることで、多価電離チャネルが出現する光導波路形成時間を、カメラ等を用いずに精度よく決定することができる。したがって、電圧波形の上昇ピークタイミングから光導波路形成時間を予め決定し、当該光導波路形成時間にパルスレーザ光Lを照射することで、パルスレーザ光Lと光導波路とを容易且つ正確に同期させ、光導波路にてパルスレーザ光Lを確実に導波させることが可能となる。
本実施形態では、内径が大きい放電管10を使用可能であり、放電管10にパルスレーザ光Lが当たって放電管10が損傷してしまうおそれが少ない。光導波路は、高強度のパルスレーザ光Lを、従来に対して1/100〜1/1000の規模で長距離伝播させることができる。勾配の大きな屈折率構造の光導波路を形成することができる。予備放電を実施することから、放電管10に電流を均一に流すことができる。
なお、本実施形態において、電子加速器100におけるコントローラ40のレーザ光照射制御部44以外の構成が、光導波路形成装置1を構成する(図1参照)。上記ステップS1からステップS7の光導波路の形成までが、光導波路形成方法を構成する。上記ステップS1からステップS3までが、第1ステップを構成する。上記ステップS4からステップS7の光導波路の形成までが、第2ステップを構成する。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態に係る軟X線レーザ照射装置(X線レーザ照射装置)を説明する。本実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
図8は、光導波路形成装置1を備えた軟X線レーザ照射装置200を示す概略構成図である。軟X線レーザ照射装置200は、レーザ駆動により軟X線レーザを照射する装置である。軟X線レーザ照射装置200において、レーザ光源21が出射するパルスレーザ光は、例えば赤外レーザ光である。軟X線レーザ照射装置200は、コントローラ40(図1参照)に代えて、レーザ光照射制御部244を機能的構成として有するコントローラ240を備える。
レーザ光照射制御部244は、内部空間Z内へパルスレーザ光Lをレーザ光源21から照射させる。これにより、第1実施形態と同様に過渡的に内部空間Z内に形成した光導波路においてパルスレーザ光Lを導波させ、軟X線レーザを発振する反転分布状態を内部空間Z内に形成できる。その結果、自然放出により発生した光が増幅し、軟X線レーザが放電管10の陽電極11側から出射される。
以上、本実施形態では、反転分布状態を形成させるパルスレーザ光Lを、過渡的に形成した光導波路にて確実に導波することができる。なお、本実施形態では、放電管10の内部空間Z内に種光を入射させることにより軟X線レーザを放電管10から出射してもよい。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態に係る散乱X線発生装置を説明する。本実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点を説明し、重複する説明は省略する。
図9は、光導波路形成装置1を備えた散乱X線発生装置300を示す概略構成図である。散乱X線発生装置300は、コンプトン散乱を利用して散乱X線を発生させる装置である。散乱X線発生装置300において、レーザ光源21が出射するパルスレーザ光は、例えば可視レーザ光である。散乱X線発生装置300は、電子ビームEをパルスレーザ光Lと衝突するように放電管10の内部空間Z内へ照射する電子ビーム源380をさらに備える。電子ビーム源380は、放電管10の陽電極11側から、電子ビームEを内部空間Z内へ入射する。散乱X線発生装置300は、コントローラ40(図1参照)に代えて、散乱X線用照射制御部344を機能的構成として有するコントローラ340を備える。
散乱X線用照射制御部344は、内部空間Z内へパルスレーザ光Lをレーザ光源21から照射させると共に電子ビームEを電子ビーム源380から照射させる。これにより、第1実施形態と同様に過渡的に内部空間Z内に形成した光導波路において、パルスレーザ光Lと電子ビームEとを導波させて衝突させ、コンプトン散乱により散乱X線を発生させる。
以上、本実施形態では、コンプトン散乱により散乱X線を発生させるパルスレーザ光L及び電子ビームEを、過渡的に形成した光導波路にて確実に導波することができる。
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記の各数値には、設計上、計測上又は製造上等の誤差が含まれていてもよい。
上記実施形態では、磁場形成部50が永久磁石である例を示したが、磁場形成部50は、例えばコイル磁石等の電磁石であってもよい。この場合でも、放電管10の内部空間Z内に、所定方向Dに沿う磁場を簡易且つ確実に印加することができる。磁場形成部50が電磁石である場合、光導波路形成方法は、上記ステップS1又は上記ステップS4の前から内部空間Z内に磁場を印加するステップを更に備えてもよい。つまり、光導波路形成方法では、第1ステップ又は第2ステップの前から、内部空間Z内に磁場が印加されてもよい。この場合、内部空間Z内に、適切なタイミングで磁場を印加することができる。磁場は、少なくとも上記ステップS4の前から、内部空間Z内に印加されればよい。つまり、磁場は、少なくとも第2ステップにおいて内部空間Z内に印加されればよい。
上記実施形態では、陰電極12に対してスパーク放電させる例を示したが、陽電極11に対してスパーク放電させてもよい。この場合、針電極13は、陽電極11に対して放電管10とは反対側に設けられている。予備放電制御部42は、予備放電回路31により陽電極11及び陰電極12の何れかに対してスパーク放電させる。
上記実施形態では、陰電極12に対してスパーク放電させる例を示したが、スパーク放電に代えて、例えばレーザ光を内部空間Z内に照射してもよい。
上記実施形態において、放電管10の内壁面の形状は特に限定されない。例えば図10(a)に示される上記実施形態のように、放電管10の内壁面は、放電管10の軸線と平行な直線状に延びる形状を呈していてもよい。この場合、多価電離チャネルの収縮過程では、放電管10の一端側(図示右側)及び他端側(図示左側)から外部に、多価電離チャネルを構成するプラズマPが吹き出す。具体的には、多価電離チャネルの収縮過程においては、内部空間Zから陽電極11の貫通孔11a(詳細は図2参照)を介して、軸方向における一端側に向かう方向に沿ってプラズマPが吹き出すと共に、内部空間Zから陰電極12の貫通孔12a,16a,13a(詳細は図2参照)を介して、軸方向における他端側に向かう方向に沿ってプラズマPが吹き出す。放電管10の一端側及び他端側から吹き出すプラズマPの分布は等しい。
また、例えば図10(b)に示されるように、放電管10の内壁面は、放電管10の軸線に対して傾斜する方向に延びるテーパ形状を呈していてもよい。具体的には、放電管10の内壁面は、他端側から一端側に行くに従って内径が大きくなるように延び、放電管10の一端側の内径は、放電管10の他端側の内径よりも大きくてもよい。これにより、多価電離チャネルの収縮過程では、内部空間Zから外部に吹き出すプラズマPの分布を変えることができる。具体的には、多価電離チャネルの収縮過程においては、放電管10の一端側からのプラズマPの吹き出しが、放電管10の他端側からのプラズマPの吹き出しに比べて大きくなる。吹き出したプラズマPは放電管10内に入力されるパルスレーザ光Lの集光状態を悪化させるため、放電管10の他端側からのプラズマPの吹き出しを減らすことにより、放電管10の他端側付近でのパルスレーザ光Lの集光状態の悪化を防ぐことができる。なお、図10(a)及び図10(b)においては、陽電極11及び陰電極12の図示が簡略化されている。
上記実施形態では、ガスを放電管10の内部空間Z内に導入する例を示したが、ガスは、予め放電管10の内部空間Z内に封入されていてもよい。この場合、放電管10の内部空間Zは、放電管10の外部に開放されていない。放電管10の内部空間Zは、密封されている。
上記実施形態では、内部空間Z内に導入されるガスの種類及び密度、並びに、放電管10に流すパルス電流の電流値に基づいて、光導波路形成時間を決定(制御)してもよい。ガスの種類及び密度、並びに、放電管10に流すパルス電流の電流値といったパラメータにより、ピンチ効果の影響を把握できる。よって、これらのパラメータに基づくことで、光導波路形成時間を精度よく定めることができる。決定した光導波路形成時間にパルスレーザ光Lを照射することで、パルスレーザ光Lと光導波路とを容易且つ正確に同期させ、光導波路にてパルスレーザ光Lを確実に導波させることが可能となる。
上記実施形態では、容器として放電管10を用いたが、容器としては放電管10に特に限定されず、種々の容器を用いることができる。上記実施形態において、陽電極11、陰電極12及び針電極13の周囲には、例えば冷却水によって各電極を冷却するための冷却装置が設けられていてもよい。
本発明の光導波路形成装置が適用される装置は、上記に限定されるものではない。本発明の光導波路形成装置は、光導波路を利用する種々の装置に適用してもよく、例えば動的電子顕微鏡に適用してもよい。