以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず初めに、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル及びコールドスプレー装置の用途を用いて形成されたバルブシート膜を備えるエンジン1について説明する。図1は、エンジン1の断面図であり、主にシリンダヘッド周りの構成を示している。
エンジン1は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上部に組み付けたシリンダヘッド12とを備える。このエンジン1は、例えば、4気筒のガソリンエンジンであり、シリンダブロック11は、図面奥行き方向に配列した4つのシリンダ11aを有する。各シリンダ11aは、図中の上下方向に往復移動するピストン13を収容している。各ピストン13は、コネクティングロッド13aを介して、図面奥行き方向に延びるクランクシャフト14と連結している。
シリンダヘッド12のシリンダブロック11に対する取付面12aには、各シリンダ11aに対応する位置に、各気筒の燃焼室15を構成する4つの燃焼室上壁部12bが設けられている。燃焼室15は、燃料と吸入空気との混合気を燃焼するための空間であり、シリンダヘッド12の燃焼室上壁部12bと、ピストン13の頂面13bと、シリンダ11aの内周面とで構成されている。
シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の一方の側面12cとを連通する吸気用のポート(以下、吸気ポートという)16を備えている。吸気ポート16は、屈曲した略円筒形状をしており、側面12cに接続したインテークマニホールド(図示せず)からの吸入空気を燃焼室15内へ供給する。燃焼室15に供給された空気は、図示しないインジェクタから供給されたガソリンと混合されて混合気が生成される。
また、シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の他方の側面12dとを連通する排気用のポート(以下、排気ポートという)17を備えている。排気ポート17は、吸気ポート16と同様に屈曲した略円筒形状をしており、燃焼室15での混合気の燃焼によって生じた排気を、側面12dに接続したエキゾーストマニホールド(図示せず)へ排出する。なお、本実施形態のエンジン1は、マルチバルブタイプのエンジンであり、1つのシリンダ11aに対し、吸気ポート16と排気ポート17とを2つずつ備えている。
シリンダヘッド12は、燃焼室15に対して吸気ポート16を開閉する吸気バルブ18と、燃焼室15に対して排気ポート17を開閉する排気バルブ19とを備える。吸気バルブ18及び排気バルブ19は、丸棒状のバルブステム18a、19aと、バルブステム18a、19aの先端に設けた円盤状のバルブヘッド18b、19bとを備えている。バルブステム18a、19aは、シリンダヘッド12に組み付けた略円筒形状のバルブガイド18c、19cにスライド自在に挿通されている。これにより、吸気バルブ18及び排気バルブ19は、燃焼室15に対し、バルブステム18a、19aの軸方向に沿って移動自在とされている。
図2に、燃焼室15と、吸気ポート16及び排気ポート17との連通部分を拡大して示している。吸気ポート16は、燃焼室15との連通部分に略円形の開口部16aを備える。この開口部16aの環状縁部に、吸気バルブ18のバルブヘッド18bと当接する環状のバルブシート膜16bを備える。吸気バルブ18は、バルブステム18aの軸方向に沿って上方に移動した場合に、バルブヘッド18bの上面がバルブシート膜16bに当接して吸気ポート16を閉塞する。また、吸気バルブ18は、バルブステム18aの軸方向に沿って下方に移動した場合に、バルブヘッド18bの上面とバルブシート膜16bとの間に隙間を形成して吸気ポート16を開放する。
排気ポート17は、吸気ポート16と同様に、燃焼室15との連通部分に略円形の開口部17aを備えており、この開口部17aの環状縁部に、排気バルブ19のバルブヘッド19bと当接する環状のバルブシート膜17bを備えている。排気バルブ19は、バルブステム19aの軸方向に沿って上方に移動した場合に、バルブヘッド19bの上面がバルブシート膜17bに当接して排気ポート17を閉塞する。また、排気バルブ19は、バルブステム19aの軸方向に沿って下方に移動した場合に、バルブヘッド19bの上面とバルブシート膜17bとの間に隙間を形成して排気ポート17を開放する。
たとえば、4サイクルのエンジン1は、ピストン13の下降時に吸気バルブ18のみが開き、吸気ポート16からシリンダ11a内に混合気が導入される。なお、筒内噴射方式、いわゆる、直噴方式のエンジンでは、インジェクタからシリンダ11a内にガソリンが噴射され、吸気ポート16からシリンダ11a内に空気が導入されて混合気が生成される。続いて吸気バルブ18および排気バルブ19が閉じた状態でピストン13が上昇してシリンダ11a内の混合気を圧縮し、ピストン13が略上死点に達したときに図示しない点火プラグにより点火して混合気が爆発する。この爆発によりピストン13は下死点まで下降し、連結されたクランクシャフト14を介して爆発を回転力に変換する。ピストン13が下死点に達し、再び上昇を開始すると、排気バルブ19のみが開き、シリンダ11a内の排気を排気ポート17へ排出する。エンジン1は、以上のサイクルを繰り返し行うことにより出力を発生する。
バルブシート膜16b、17bは、シリンダヘッド12の開口部16a、17aの環状縁部にコールドスプレー法によって直接形成されている。コールドスプレー法とは、原料粉末の融点又は軟化点よりも低い温度の作動ガスを超音速流とし、作動ガス中に搬送ガスによって搬送された原料粉末を投入してノズル先端より吐出し、固相状態のまま基材に衝突させ、原料粉末の塑性変形により皮膜を形成するものである。このコールドスプレー法は、材料を溶融させて基材に付着させる溶射法に比べ、大気中で酸化のない緻密な皮膜が得られ、材料粒子への熱影響が少ないので熱変質が抑えられ、成膜速度が速く、厚膜化が可能であり、付着効率が高いといった特性を有する。特に成膜速度が速く、厚膜が可能なことから、エンジン1のバルブシート膜16b、17bのような構造材料としての用途に適している。
バルブシート膜16b、17bの形成に用いる原料粉末としては、鋳物用アルミ合金よりも硬質で、バルブシートに必要な耐熱性、耐磨耗性及び熱伝導性が得られる金属であることが好ましく、例えば、上述した析出硬化型銅合金を用いることが好ましい。また、析出硬化型銅合金としては、ニッケル及びケイ素を含むコルソン合金や、クロムを含むクロム銅、ジルコニウムを含むジルコニウム銅等を用いてもよい。さらに、例えば、ニッケル、ケイ素及びクロムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型合金、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金等を適用することもできる。
また、複数種類の原料粉末、例えば、第1の原料粉末と第2の原料粉末とを混合してバルブシート膜16b、17bを形成してもよい。この場合、第1の原料粉末には、鋳物用アルミ合金よりも硬質で、バルブシートに必要な耐熱性、耐磨耗性及び熱伝導性が得られる金属を用いることが好ましく、例えば、上述した析出硬化型銅合金を用いることが好ましい。また、第2の原料粉末としては、第1の原料粉末よりも硬質な金属を用いることが好ましい。この第2の原料粉末には、例えば、鉄基合金、コバルト基合金、クロム基合金、ニッケル基合金、モリブデン基合金等の合金や、セラミックス等を適用してもよい。また、これらの金属の1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
第1の原料粉末と、第1の原料粉末よりも硬質な第2の原料粉末とを混合して形成したバルブシート膜は、析出硬化型銅合金のみで形成したバルブシート膜よりも優れた耐熱性、耐磨耗性を得ることができる。このような効果が得られるのは、第2の原料粉末により、シリンダヘッド12の表面に存在する酸化皮膜が除去されて新生界面が露出形成され、シリンダヘッド12と金属皮膜との密着性が向上するためと考えられる。また、第2の原料粉末がシリンダヘッド12にめり込むことによるアンカー効果により、シリンダヘッド12と金属皮膜との密着性が向上するためとも考えられる。さらには、第1の原料粉末が第2の原料粉末に衝突したときに、その運動エネルギの一部が熱エネルギに変換され、あるいは第1の原料粉末の一部が塑性変形する過程で発生する熱により、第1の原料粉末として用いた析出硬化型銅合金の一部における析出硬化がより促進されるためとも考えられる。
次に、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル及びコールドスプレー装置について説明する。図3は、本実施形態に係るコールドスプレー装置2の概略構成を示している。従来のコールドスプレー装置は、金属製の機械部品や構造部品の補修等に用いられ、比較的大きな面積への成膜に利用されることが多かった。これに対し、本実施形態のコールドスプレー装置2は、シリンダヘッド12のバルブシート膜16b、17bのように、面積が比較的小さな部位への成膜に適用するために、従来のコールドスプレー装置よりも小型化したコールドスプレー用ノズルを備えている。
本実施形態のコールドスプレー装置2は、作動ガス及び搬送ガスを供給するガス供給部21と、バルブシート膜16b、17bの原料粉末を供給する原料粉末供給部22と、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて超音速流として噴射するコールドスプレーガン23とを備える。ガス供給部21、原料粉末供給部22及びコールドスプレーガン23は、本発明に係るガス供給手段、原料粉末供給手段及び噴射手段に相当する。
ガス供給部21は、圧縮ガスボンベ21a、作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cを備える。作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cは、それぞれ圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gを備えている。圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gは、圧縮ガスボンベ21aからの作動ガス及び搬送ガスの圧力及び流量の調整に供される。
作動ガスライン21bには、電力源21hにより加熱されるヒータ21iを設置している。作動ガスは、ヒータ21iによって原料粉末の融点又は軟化点より低い温度に加熱した後、コールドスプレーガン23のチャンバ23a内に導入される。チャンバ23aには、圧力計23bと温度計23cが設置され、圧力及び温度のフィードバック制御に供される。
一方、原料粉末供給部22は、原料粉末供給装置22aと、これに付設される計量器22b及び原料粉末供給ライン22cを備えている。圧縮ガスボンベ21aからの搬送ガスは、搬送ガスライン21cを通り、原料粉末供給装置22aに導入される。計量器22bにより計量された所定量の原料粉末は、原料粉末供給ライン22cを経て、チャンバ23a内に搬送される。
コールドスプレーガン23は、その先端部に本実施形態のコールドスプレー用ノズル25を備える。コールドスプレーガン23は、搬送ガスによりチャンバ23a内に搬送された原料粉末Pを、作動ガスにより超音速流としてノズル25の先端から吐出する吐出通路25aを備えている。コールドスプレーガン23は、原料粉末Pを固相状態又は固液共存状態で基材24に衝突させて皮膜24aを形成する。本実施形態では、基材24としてシリンダヘッド12を適用し、このシリンダヘッド12の開口部16a、17aの環状縁部にコールドスプレー法によって原料粉末Pを噴射することにより、バルブシート膜16b、17bを形成している。
次に、本実施形態のコールドスプレー用ノズル25について説明する。本実施形態に係るノズル25は、図4に示すように、コンバージェント部251と、ダイバージェント部252という2つの部品によって構成されている。コンバージェント部251及びダイバージェント部252は、本発明に係る第1ノズル本体及び第2ノズル本体に相当する。
コンバージェント部251は、略円筒形状をしており、ステンレス鋼、工具鋼及び超硬合金などの金属や、ガラス材などで形成されている。ガラス材としては、特に限定されず、ケイ酸ガラス、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が例示されるが、耐摩耗性ガラス、具体的にはケイ酸ガラス又はケイ酸アルカリガラスが好ましく用いられる。
コンバージェント部251は、略円筒形状をした本体部内に、吐出通路25aを構成する圧縮部251aが設けられている。圧縮部251aは、先端側に向かうにしたがって内径が徐々に小さくなるように、内周面がテーパー状にされた円錐形状をしている。圧縮部251aは、後端側から供給された作動ガスの圧力を高めるために設けられている。
コンバージェント部251の本体部の後端側には、チャンバ23aと接続されるフランジ部251bが設けられている。フランジ部251bは、本体部よりも大きな径を有する円筒形状をしている。詳しくは図示しないが、フランジ部251bは、外周を覆うジャケットによりチャンバ23aに取り付けられ、ジャケット内でチャンバ23aと圧接される。
コンバージェント部251の本体部の先端側の外周には、略円柱形状をした第1挿入部251cが設けられている。この第1挿入部251cは、コンバージェント部251と、ダイバージェント部252との結合に利用される。
ダイバージェント部252は、略円筒形状をしており、コンバージェント部251と同様に、ステンレス鋼、工具鋼及び超硬合金などの金属や、ガラス材などで形成されている。ダイバージェント部252は、略円筒形状をした本体部内に、吐出通路25aを構成する膨張部252aが設けられている。膨張部252aは、先端側に向かうにしたがって内径が徐々に大きくなるように、内周面がテーパー状にされた円錐形状をしている。膨張部252aは、コンバージェント部251の圧縮部251aよりも先端側に配置されて、圧縮部251aと連通し、圧縮部251aにより高められた作動ガスの圧力を開放して、超音速まで加速させる。
ダイバージェント部252の本体部の後端側には、略円柱形状をした第1凹部252bが設けられている。この第1凹部252bは、コンバージェント部251と、ダイバージェント部252との結合に利用される。
コンバージェント部251と、ダイバージェント部252は、第1挿入部251cが第1凹部252bに挿入されることにより結合されている。また、第1挿入部251cと、第1凹部252bとは、インロー結合されている。ここで、インロー結合とは、凹部と凸部に代表されるように、2つの部材を隙間なく嵌合させることにより、互いの相対的な位置を規定し、嵌合後にガタを生じないような結合をいう。
例えば、第1挿入部251cの外径C1はφ11.2mm、その外径公差は+0.02〜+0.04mmとなっている。また、第1凹部252bの内径D1は、例えば、φ11.3mm、その内径公差は−0.01〜−0.03mmとなっている。このような寸法及び公差でインロー結合することにより、第1挿入部251cと第1凹部252bとの間に生じる隙間は、0.015〜0.035mmという非常に微小なものとなる。したがって、コンバージェント部251とダイバージェント部252とを、互いに相対的に位置を規定しながら、嵌合後にガタが生じないように結合することができる。
また、ノズル25を、コンバージェント部251とダイバージェント部252という2部品で構成することにより、加工が困難な圧縮部251aと膨張部252aと別々に形成することができるので、圧縮部251aと膨張部252aとが一部品に設けられていた従来のノズルに比べて形成が容易である。したがって、圧縮部251aと膨張部252aとの加工精度を向上させることができ、製造コストの低下と、リードタイムの短縮とを図ることも可能である。
また、インロー結合により、コンバージェント部251とダイバージェント部252との組み立て時のアライメント調整なども不要となるので、組立工程の簡略化が可能である。さらに、原料粉末Pを吐出する際にコンバージェント部251が熱膨張することにより、第1挿入部251cと第1凹部252bとのインロー結合が締り嵌めになる。したがって、作動ガスの漏れや、作動ガスの圧力によるコンバージェント部251とダイバージェント部252との分離などを防ぐことができる。また、上述したジャケット内で冷媒を流してノズル25を冷却するような場合には、第1挿入部251cと第1凹部252bとのインロー結合部から冷媒がノズル25内に流れ込むような不具合は発生しない。
また、コンバージェント部251とダイバージェント部252とを分離することもできるので、吐出通路25a内に付着した原料粉末Pを除去する際のメンテナンス性がより高まる。さらに、吐出通路25a内に対する原料粉末Pの付着がひどい場合には、例えば、ダイバージェント部252のみを新しい部品に交換することもできるので、従来よりも低コストにノズル25の性能を維持することができる。
また、図5に拡大して示すように、ダイバージェント部252の膨張部252aの後端側の内径D2は、コンバージェント部251の圧縮部251aの先端側の内径C2よりも大きくされている。これにより、圧縮部251aと膨張部252aとの接続部に段差が生じないので、原料粉末Pが段差に当たって付着、堆積するのを防ぐことが可能である。
さらに、コンバージェント部251の第1挿入部251cの外径をC1(公差下限)、圧縮部251aの先端側の内径をC2(公差上限)とし、ダイバージェント部252の第1凹部252bの内径をD1(公差上限)、膨張部252aの後端側の内径をD2(公差下限)としたときに、圧縮部251aの先端側の内径C2と、膨張部252aの後端側の内径D2との関係は、下記式1を満たすようになっている。すなわち、第1挿入部251cの外径C1が公差下限で、第1凹部252bの内径D1が公差上限となり、第1挿入部251cと第1凹部252bとの間の隙間が最大になったとしても、圧縮部251aと膨張部252aとの接続部に段差が生じないように設定されている。
(D2−C2)>(D1−C1)・・・(1)
なお、上述した第1挿入部251cと第1凹部252bの寸法及び公差は、一例であり、コンバージェント部251及びダイバージェント部252の寸法に応じて、インロー結合となるような公差を適宜設定することが望ましい。
次に、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル25及びコールドスプレー装置2を利用して、シリンダヘッド12に対するバルブシート膜16b、17bを形成する手順にについて説明する。図6は、本実施形態のバルブシート膜16b、17bの形成方法における、シリンダヘッドの加工工程を示す工程図である。この図に示すように、本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法は、鋳造工程(ステップS1)と、切削工程(ステップS2)と、成膜工程(ステップS3)と、仕上工程(ステップS4)とを備える。
鋳造工程S1では、砂中子がセットされた金型に鋳物用アルミ合金を流し込み、本体部に吸気ポート16や排気ポート17等が形成されたシリンダヘッド粗材を鋳造成形する。吸気ポート16及び排気ポート17は砂中子で形成され、燃焼室上壁部12bは金型で形成される。
図7は、鋳造工程S1で鋳造成形したシリンダヘッド粗材3を、シリンダブロック11への取付面12a側から見た斜視図である。シリンダヘッド粗材3は、4つの燃焼室上壁部1bと、各燃焼室上壁部12bに2つずつ設けられた吸気ポート16及び排気ポート17等を備える。各燃焼室上壁部12bの2つの吸気ポート16、及び2つの排気ポート17は、シリンダヘッド粗材3内で1本に集合され、シリンダヘッド粗材3の両側面に設けた開口にそれぞれ連通している。
図8Aは、図7のVIII−VIII線に沿うシリンダヘッド粗材3の断面図であり、吸気ポート16を示している。吸気ポート16には、シリンダヘッド粗材3の燃焼室上壁部12b内に露呈された円形の開口部16aが設けられている。
次の切削工程S2では、シリンダヘッド粗材3にエンドミルやボールエンドミル等によるフライス加工を施し、図8Bに示すように、吸気ポート16の開口部16aに環状バルブシート部16cを形成する。環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bのベース形状となる環状溝であり、開口部16aの外周に形成される。本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法では、環状バルブシート部16cにコールドスプレー法により原料粉末を吐出して皮膜を形成し、この皮膜を基にしてバルブシート膜16bを形成する。そのため、環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bよりも一回り大きなサイズで形成されている。
成膜工程S3では、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル及びコールドスプレー装置を利用し、シリンダヘッド粗材3の環状バルブシート部16cに原料粉末を吐出してバルブシート膜16bを形成する。より具体的には、この成膜工程S3では、環状バルブシート部16cと、コールドスプレー装置のコールドスプレー用ノズルとを同じ姿勢で一定距離に保ちながら、原料粉末が環状バルブシート部16cの全周に吹き付けられるように、シリンダヘッド粗材3とコールドスプレー用ノズルとを一定速度で相対移動する。
この実施形態では、例えば、図9に示すワーク回転装置4を利用して、固定配置されたコールドスプレー装置のコールドスプレー用ノズル(以下、ノズルともいう)25に対し、シリンダヘッド粗材3を移動する。ワーク回転装置4は、シリンダヘッド粗材3を保持するワークテーブル41と、チルトステージ部42と、XYステージ部43と、回転ステージ部44とを備える。
チルトステージ部42は、ワークテーブル41を支持し、ワークテーブル41を水平方向に配したA軸の周りで回動させて、シリンダヘッド粗材3を傾けるステージである。XYステージ部43は、チルトステージ部42を支持するY軸ステージ43aと、Y軸ステージ43aを支持するX軸ステージ43bとを備える。Y軸ステージ43aは、水平方向に配したY軸に沿ってチルトステージ部42を移動する。X軸ステージ43bは、水平面上においてY軸に直交するX軸に沿って、Y軸ステージ43aを移動する。これにより、XYステージ部43は、シリンダヘッド粗材3をX軸及びY軸に沿って任意の位置に移動する。回転ステージ部44は、その上面にXYステージ部43を支持する回転テーブル44aを有し、この回転テーブル44aを回転することにより、シリンダヘッド粗材3を略垂直方向のZ軸の周りで回転する。
ノズル25の先端は、チルトステージ部42の上方で、回転ステージ部44のZ軸の近傍に固定配置されている。ワーク回転装置4は、図8Cに示すように、チルトステージ部42により、バルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Cが垂直になるようにワークテーブル41を傾ける。また、ワーク回転装置4は、XYステージ部43により、バルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Cが回転ステージ部44のZ軸に一致するようにシリンダヘッド粗材3を移動する。この状態で、ノズル25から環状バルブシート部16cに原料粉末Pを吐出しながら、回転ステージ部44によりシリンダヘッド粗材3をZ軸周りで回転することにより、環状バルブシート部16cの全周に皮膜を形成する。
ワーク回転装置4は、シリンダヘッド粗材3がZ軸の周りで1回転してバルブシート膜16bの形成が終了すると、回転ステージ部44の回転を一旦停止する。この回転停止中に、XYステージ部43は、次にバルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Cが回転ステージ部44のZ軸に一致するように、シリンダヘッド粗材3を移動する。ワーク回転装置4は、XYステージ部43によるシリンダヘッド粗材3の移動終了後、回転ステージ部44の回転を再開させ、次の吸気ポート16にバルブシート膜16bを形成する。以降、この動作を繰り返すことにより、シリンダヘッド粗材3の全ての吸気ポート16及び排気ポート17にバルブシート膜16b、17bが形成される。なお、吸気ポート16と排気ポート17との間でバルブシート膜の形成対象が切り替わる際には、チルトステージ部42によってシリンダヘッド粗材3の傾きが変更される。
仕上工程S4では、バルブシート膜16b、17bと、吸気ポート16及び排気ポート17の仕上加工が行われる。バルブシート膜16b、17bの仕上加工では、ボールエンドミルを用いたフライス加工によりバルブシート膜16b、17bの表面を切削し、バルブシート膜16bを所定形状に整える。
また、吸気ポート16の仕上加工では、開口部16aから吸気ポート16内にボールエンドミルを挿入し、図8Dに示す加工ラインPLに沿って吸気ポート16の開口部16a側の内周面を切削する。加工ラインPLは、吸気ポート16内に原料粉末Pが飛散して付着した余剰皮膜SFが比較的厚く形成される範囲、より具体的には、余剰皮膜SFが吸気ポート16の吸気性能に影響を及ぼす程度に厚く形成される範囲である。
このように、仕上工程S4により、鋳造成形による吸気ポート16の表面荒れが解消されるとともに、被覆工程S3で形成された余剰皮膜SFを除去することができる。図8Eに、仕上工程S4後の吸気ポート16を示す。
なお、排気ポート17は、吸気ポート16と同様に、鋳造成形による排気ポート17内への小径部の形成、切削加工による環状バルブシート部17cの形成、環状バルブシート部17cへのコールドスプレー、仕上加工を経てバルブシート膜17bが形成される。そのため、排気ポート17に対するバルブシート膜17bの形成手順については、詳しい説明を省略する。
シリンダヘッド12のバルブシートには、燃焼室15内におけるバルブからの叩き入力に耐え得る高い耐熱性及び耐磨耗性と、燃焼室15の冷却のための高い熱伝導性とが要求される。これらの要求に対し、例えば、析出硬化型銅合金の粉末により形成したバルブシート膜16b、17bによれば、鋳物用アルミ合金で形成したシリンダヘッド12よりも硬く、耐熱性及び耐磨耗性に優れたバルブシートを得ることができる。
また、バルブシート膜16b、17bは、シリンダヘッド12に直接形成しているので、ポート開口部に別部品のシートリングを圧入して形成する従来のバルブシートに比べ、高い熱伝導性を得ることができる。さらには、別部品のシートリングを利用する場合に比べ、冷却用のウォータジャケットとの近接化を図ることができる他、吸気ポート16及び排気ポート17のスロート径の拡大、ポート形状の最適化によるタンブル流の促進などの副次的効果も得ることができる。
なお、上記の実施形態では、ダイバージェント部252を1部品で構成したが、図10に示すコールドスプレー用ノズル25Aのように、ダイバージェント部252Aを、吐出通路25aの方向において連結された複数のサブノズル253、254により構成してもよい。サブノズル253とサブノズル254とは、サブノズル253の後端側に設けられた略円柱状の第2凹部253aに、サブノズル254の先端側に設けられた略円柱状の第2挿入部254aが挿入されてインロー結合している。また、サブノズル254と、コンバージェント部251は、サブノズル254の後端側に設けられた略円柱状の第2凹部254cに、コンバージェント部251の第1挿入部251cが挿入されてインロー結合している。
また、サブノズル253の膨張部253bの後端側の内径は、サブノズル254の膨張部254bの先端側の内径よりも大きくされている。さらに、サブノズル254の膨張部254bの後端側の内径は、コンバージェント部251の圧縮部251aの先端側の内径よりも大きくされている。
また、膨張部253bの後端側の内径と、膨張部254bの先端側の内径との関係は、第2挿入部254aの外径が公差下限で、第2凹部253aの内径が公差上限のときでも、膨張部253bと膨張部254bとの接続部に段差が生じないように設定されている。さらに、膨張部254bの後端側の内径と、圧縮部251aの先端側の内径との関係は、第1挿入部251cの外径が公差下限で、第2凹部254cの内径が公差上限のときでも、膨張部254bと圧縮部251aとの接続部に段差が生じないように設定されている。
このように、ダイバージェント部252Aを複数のサブノズル253、254によって構成することにより、例えば、サブノズル253のみ、あるいはサブノズル254のみを新しい部品に交換することができるので、ダイバージェント部を一部品で構成する場合よりも低コストにノズル25Aの性能を維持することができる。なお、本実施形態では、サブノズルを2つにしたが、ノズル25Aの長さに応じて、3つ以上にしてもよい。
以上で説明したように、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル25及びコールドスプレー装置2によれば、コールドスプレー用ノズル25を、筒状の本体部内に圧縮部251aを有し、本体部の先端側の外周に略円柱状の第1挿入部251cを有するコンバージェント部(第1ノズル本体)251と、筒状の本体部の後端側に略円柱状の第1凹部252bを有し、本体部内に膨張部252aを有するダイバージェント部(第2ノズル本体)252とによって構成している。これにより、加工が困難な圧縮部251aと膨張部252aと別々に形成することができるので、圧縮部251aと膨張部252aとが一部品に設けられていた従来のノズルに比べ、ノズルの形成が容易になる。したがって、圧縮部251aと膨張部252aとの加工精度を向上させることができ、製造コストの低下と、リードタイムの短縮とを図ることも可能である。
また、第1挿入部251cと、第1凹部252bとをインロー結合しているので、コンバージェント部251とダイバージェント部252との組み立て時のアライメント調整なども不要となり、組立工程の簡略化が可能である。さらに、原料粉末Pを吐出する際にコンバージェント部251が熱膨張することにより、第1挿入部251cと第1凹部252bとのインロー結合が締り嵌めになる。したがって、作動ガスの漏れや、作動ガスの圧力によるコンバージェント部251とダイバージェント部252との分離などを防ぐことができる。
また、コンバージェント部251とダイバージェント部252とをインロー結合することにより、必要時には分離することもできるので、吐出通路25a内に付着した原料粉末Pを除去する際のメンテナンス性がより高まる。さらに、吐出通路25a内に対する原料粉末Pの付着がひどい場合には、例えば、ダイバージェント部252のみを新しい部品に交換することもできるので、従来よりも低コストにノズル25の性能を維持することができる。
また、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル25及びコールドスプレー装置2によれば、膨張部252aの後端側の内径が、圧縮部251aの先端側の内径よりも大きくされているので、圧縮部251aと膨張部252aとの接続部に、原料粉末Pが段差に当たって付着、堆積するような段差が生じることはない。
さらに、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル25及びコールドスプレー装置2によれば、コンバージェント部251の第1挿入部251cの外径をC1(公差下限)、圧縮部251aの先端側の内径をC2(公差上限)とし、ダイバージェント部252の第1凹部252bの内径をD1(公差上限)、膨張部252aの後端側の内径をD2(公差下限)としたときに、圧縮部251aの先端側の内径C2と、膨張部252aの後端側の内径D2との関係が、(D2−C2)>(D1−C1)を満たすようになっている。すなわち、第1挿入部251cの外径C1が公差下限で、第1凹部252bの内径D1が公差上限となり、第1挿入部251cと第1凹部252bとの間の隙間が最大になったとしても、圧縮部251aと膨張部252aとの接続部に段差が生じることはない。
また、本実施形態に係るコールドスプレー用ノズル25及びコールドスプレー装置2によれば、ダイバージェント部252Aを、吐出通路25aの方向において連結された複数のサブノズル253、254により構成し、複数のサブノズル253、254は、略円柱状の第2挿入部254aと、略円柱状の第2凹部253aとのインロー結合により連結されているので、例えば、サブノズル253のみ、あるいはサブノズル254のみを新しい部品に交換することができ、ダイバージェント部を一部品で構成する場合よりも低コストにノズル25Aの性能を維持することができる。