JP2022067932A - 金属膜及びその成膜方法 - Google Patents

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良次 熨斗
Ryoji Noshi
秀信 松山
Hidenobu Matsuyama
博久 柴山
Hirohisa Shibayama
恒吉 鎌田
Tsuneyoshi Kamata
直也 田井中
Naoya Tainaka
俊夫 荻谷
Toshio Ogiya
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Abstract

【課題】耐摩耗性と密着性がともに優れた金属膜及びその成膜方法を提供する。【解決手段】基材4の表面に形成された金属膜5であって、軟質材料51と硬質材料52とを主成分として含み、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なり、基材4に対して膜の厚さ方向に近い膜部分53に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率が、前記基材4に対して膜の厚さ方向に遠い膜部分54に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率より大きい。【選択図】 図8

Description

本発明は、金属膜及びその成膜方法に関し、特にコールドスプレー法により成膜される金属膜及びコールドスプレー法による成膜方法に関するものである。
エンジンバルブの着座部に、コールドスプレー法により金属等の原料粉末を吹き付けることにより、優れた高温耐磨耗性を有するバルブシートを形成する摺動部材の製造方法が知られている(特許文献1)。
国際公開第2017/022505号パンフレット
この種のエンジンのバルブシートには、吸排気バルブの繰り返し衝突に対する耐摩耗性と、基材との密着性が要求される。バルブシートの耐摩耗性を向上させるには、コールドスプレーの原料粉末に硬質材料を用いればよいが、材料が硬いと塑性変形し難くなり、基材との密着性が低下する。逆にバルブシートの密着性を向上させるには、コールドスプレーの原料粉末に軟質材料を用いればよいが、耐摩耗性が低下する。このように、コールドスプレー法において耐摩耗性と密着性とはトレードオフの関係にあり、これらを両立させるのは困難であった。
本発明が解決しようとする課題は、耐摩耗性と密着性がともに優れた金属膜及びその成膜方法を提供することである。
本発明は、軟質材料と硬質材料とを主成分として含む原料粉末を、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なるように、コールドスプレー法を用いて、基材の表面に金属膜を形成することによって、上記課題を解決する。
本発明によれば、基材に近い膜部分を軟質材料リッチにするとともに基材から遠い膜部分を硬質材料リッチにすることで、耐摩耗性と密着性がともに優れた金属膜を得ることができる。
本発明に係る金属膜及びその成膜方法を適用したバルブシート膜を含むシリンダヘッドを示す断面図である。 図1のバルブ周辺の拡大断面図である。 本発明に係る成膜方法に使用されるコールドスプレー装置の一実施の形態を示す構成図である。 本発明に係る成膜方法を用いてシリンダヘッドを製造する手順を示す工程図である。 本発明に係る金属膜及びその成膜方法を適用したバルブシート膜を含むシリンダヘッド粗材の斜視図である。 図5のVI-VI線に沿う吸気ポートを示す断面図である。 図6Aの吸気ポートに切削工程で環状バルブシート部を形成した状態を示す断面図である。 図6Bの吸気ポートにバルブシート膜を形成する状態を示す断面図である。 バルブシート膜が形成された吸気ポートを示す断面図である。 図4の仕上工程後の吸気ポートを示す断面図である。 膜に含まれる硬質材料の重量比率に対する耐摩耗性と密着性の関係を示すグラフである。 本発明に係る金属膜の一実施の形態のバルブシート膜を示す断面図である。 図8のバルブシート膜を成膜する手順を示す平面図(その1)である。 図8のバルブシート膜を成膜する手順を示す平面図(その2)である。 ノズルの移動速度が低速である場合の成膜状態を示す模式図である。 ノズルの移動速度が高速である場合の成膜状態を示す模式図である。 本発明に係る成膜方法に用いられるコールドスプレー装置の他の実施の形態を示す構成図である。 図11のコールドスプレー装置を用いた成膜方法を示す側面図である。 本発明に係る金属膜の他の実施の形態のバルブシート膜を示す断面図及び成分比率を示すグラフである。 本発明に係る金属膜のさらに他の実施の形態のバルブシート膜を示す断面図及び成分比率を示すグラフである。 本発明に係る金属膜のさらに他の実施の形態のバルブシート膜を示す断面図及び成分比率を示すグラフである。 本発明に係る金属膜のさらに他の実施の形態のバルブシート膜を示す平面図である。 本発明に係る成膜方法に用いられるコールドスプレー装置のさらに他の実施の形態を示す構成図である。
以下、本発明の一実施の形態を図面に基づいて説明する。初めに、本発明に係る金属膜及びその成膜方法を適用して好ましい、バルブシート膜を備える内燃機関1について説明する。図1は、内燃機関1の断面図であり、主にシリンダヘッド周りの構成を示す。
内燃機関1は、シリンダブロック11と、シリンダブロック11の上部に組み付けられたシリンダヘッド12とを備える。この内燃機関1は、例えば、直列4気筒のガソリンエンジンであり、シリンダブロック11は、図面奥行き方向に配列された4つのシリンダ11aを有する。各シリンダ11aは、図中の上下方向に往復移動するピストン13を収容し、各ピストン13は、コネクティングロッド13aを介して、図面奥行き方向に延びるクランクシャフト14と連結している。
シリンダヘッド12のシリンダブロック11への取付面12aであって、各シリンダ11aに対応する位置には、各気筒の燃焼室15を構成する4つの凹部12bが形成されている。燃焼室15は、燃料と吸入空気との混合気を燃焼させるための空間であり、シリンダヘッド12の凹部12bと、ピストン13の頂面13bと、シリンダ11aの内周面とで構成される。
シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の一方の側面12cとを連通する吸気ポート16を備える。吸気ポート16は、屈曲した略円筒形状とされ、側面12cに接続したインテークマニホールド(不図示)からの吸入空気を燃焼室15内へ案内する。また、シリンダヘッド12は、燃焼室15と、シリンダヘッド12の他方の側面12dとを連通する排気ポート17を備える。排気ポート17は、吸気ポート16と同様に屈曲した略円筒形状とされ、燃焼室15で生じた排気を、側面12dに接続したエキゾーストマニホールド(不図示)へ排出する。なお、本実施形態の内燃機関1は、1つのシリンダ11aに対し、吸気ポート16と排気ポート17とを2つずつ備える。
シリンダヘッド12は、燃焼室15に対して吸気ポート16を開閉する吸気バルブ18と、燃焼室15に対して排気ポート17を開閉する排気バルブ19とを備える。吸気バルブ18及び排気バルブ19のそれぞれは、丸棒状のバルブステム18a,19aと、バルブステム18a,19aの先端に設けられた円盤状のバルブヘッド18b,19bと、を備える。バルブステム18a,19aは、シリンダヘッド12に組み付けた略円筒形状のバルブガイド18c,19cにスライド自在に挿通されている。これにより、吸気バルブ18及び排気バルブ19のそれぞれは、燃焼室15に対し、バルブステム18a,19aの軸方向に沿って移動自在となる。
図2に、燃焼室15と、吸気ポート16及び排気ポート17との連通部分を拡大して示す。吸気ポート16は、燃焼室15との連通部分に略円形の開口部16aを備える。この開口部16aの環状縁部(バルブの着座部)に、吸気バルブ18のバルブヘッド18bと当接する環状のバルブシート膜16bが形成されている。そして、吸気バルブ18が、バルブステム18aの軸方向に沿って上方に移動すると、バルブヘッド18bの上面がバルブシート膜16bに当接して吸気ポート16を閉塞する。逆に、吸気バルブ18が、バルブステム18aの軸方向に沿って下方に移動すると、バルブヘッド18bの上面とバルブシート膜16bとの間に隙間が形成されて吸気ポート16を開放する。
排気ポート17は、吸気ポート16と同様に燃焼室15との連通部分に略円形の開口部17aを備え、この開口部17aの環状縁部(バルブの着座部)に、排気バルブ19のバルブヘッド19bと当接する環状のバルブシート膜17bが形成されている。そして、排気バルブ19が、バルブステム19aの軸方向に沿って上方に移動すると、バルブヘッド19bの上面がバルブシート膜17bに当接して排気ポート17を閉塞する。逆に、排気バルブ19が、バルブステム19aの軸方向に沿って下方に移動すると、バルブヘッド19bの上面とバルブシート膜17bとの間に隙間が形成されて排気ポート17を開放する。なお、吸気ポート16の開口部16aの直径は、排気ポート17の開口部17aの直径より大きく設定されている。
4サイクルの内燃機関1においては、ピストン13の下降時に吸気バルブ18のみを開き、これにより吸気ポート16からシリンダ11a内に混合気を導入する(吸気行程)。続いて、吸気バルブ18および排気バルブ19を閉じた状態とし、ピストン13を略上死点まで上昇させてシリンダ11a内の混合気を圧縮する(圧縮行程)。そして、ピストン13が略上死点に達したときに、点火プラグにより圧縮した混合気に点火することで当該混合気が爆発する。この爆発によりピストン13は下死点まで下降し、連結されたクランクシャフト14を介して爆発を回転力に変換する(燃焼・膨張行程)。最後に、ピストン13が下死点に達し、再び上昇を開始すると、排気バルブ19のみを開き、シリンダ11a内の排気を排気ポート17へ排出する(排気行程)。内燃機関1は、以上のサイクルを繰り返し行うことにより出力を発生する。
バルブシート膜16b,17bは、シリンダヘッド12の開口部16a,17aの環状縁部、すなわちバルブの着座部に、コールドスプレー法によって直接形成したものである。コールドスプレー法とは、原料粉末の融点又は軟化点よりも低い温度の作動ガスを超音速流とし、作動ガス中に搬送ガスによって搬送された原料粉末を投入してノズル先端より噴射し、固相状態のまま基材に衝突させ、原料粉末の塑性変形により皮膜を形成するものである。このコールドスプレー法は、材料を溶融させて基材に付着させる溶射法に比べ、大気中で酸化のない緻密な皮膜が得られ、材料粒子への熱影響が少ないので熱変質が抑えられ、成膜速度が速く、厚膜化が可能であり、付着効率が高いといった特性を有する。特に成膜速度が速く、厚膜が可能なことから、内燃機関1のバルブシート膜16b,17bのような構造材料としての用途に適している。
図3は、上記のバルブシート膜16b,17bの形成に用いられるコールドスプレー装置2を模式的に示した図である。本例のコールドスプレー装置2は、作動ガス及び搬送ガスを供給するガス供給部21と、バルブシート膜16b,17bの原料粉末を供給する原料粉末供給部22と、原料粉末をその融点以下の作動ガスを用いて超音速流として噴射するスプレーガン23と、ノズル23dを冷却する冷媒循環回路27と、を備える。
ガス供給部21は、圧縮ガスボンベ21a、作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cを備える。作動ガスライン21b及び搬送ガスライン21cは、それぞれ圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gを備える。圧力調整器21d、流量調節弁21e、流量計21f及び圧力ゲージ21gは、圧縮ガスボンベ21aからの作動ガス及び搬送ガスのそれぞれの圧力及び流量の調整に供される。
作動ガスライン21bには、テープヒータなどのヒータ21iが設置され、当該ヒータ21iは、電力源21hから電力供給線21j,21jを介して電力が供給されることにより、作動ガスライン21bを加熱する。作動ガスは、ヒータ21iによって原料粉末の融点又は軟化点より低い温度に加熱された後、スプレーガン23のチャンバ23a内に導入される。チャンバ23aには、圧力計23bと温度計23cが設置され、それぞれの信号線23g,23hを介して検出された圧力値と温度値がコントローラ(不図示)に出力され、圧力及び温度のフィードバック制御に供される。
一方、原料粉末供給部22は、原料粉末供給装置22aと、これに付設される計量器22b及び原料粉末供給ライン22cを備える。圧縮ガスボンベ21aからの搬送ガスは、搬送ガスライン21cを通り、原料粉末供給装置22aに導入される。計量器22bにより計量された所定量の原料粉末は、原料粉末供給ライン22cを経て、チャンバ23a内に搬送される。
スプレーガン23は、搬送ガスによりチャンバ23a内に搬送された原料粉末Pを、作動ガスにより超音速流としてノズル23dの先端から噴射し、固相状態又は固液共存状態で基材4に衝突させて金属膜5を形成する。本実施形態では、基材4としてシリンダヘッド12を適用し、このシリンダヘッド12の開口部16a,17aの環状縁部にコールドスプレー法によって原料粉末Pを噴射することにより、金属膜5としてバルブシート膜16b,17bを形成する。
ノズル23dは、その内部に水などの冷媒が流れる流路(不図示)を備える。ノズル23dは、その先端に、流路へ冷媒を導入する冷媒導入部23eを備え、その基端に、流路内の冷媒を排出する冷媒排出部23fを備える。ノズル23dは、冷媒導入部23eから流路に冷媒を導入し、流路内に冷媒を流し、冷媒排出部23fから冷媒を排出することにより、ノズル23dを冷却する。
ノズル23dの流路に冷媒を循環させる冷媒循環回路27は、冷媒を貯留するタンク271と、上述した冷媒導入部23eに接続された導入管274と、導入管274に接続され、タンク271とノズル23dとの間で冷媒を流動させるポンプ272と、冷媒を冷却する冷却器273と、冷媒排出部23fに接続された排出管275と、を備える。冷却器273は、例えば、熱交換機等からなり、ノズル23dを冷却して温度が上昇した冷媒を空気や水、ガスなどの冷媒との間で熱交換させて、冷媒を冷却する。
冷媒循環回路27は、ポンプ272によってタンク271に貯留された冷媒を吸引し、冷却器273を介して冷媒導入部23eに冷媒を供給する。冷媒導入部23eに供給された冷媒は、ノズル23d内の流路を先端側から後端側に向かって流動し、その間にノズル23dと熱交換することでノズル23dを冷却する。流路の後端側まで流れた冷媒は、冷媒排出部23fから排出管275に排出され、タンク271に戻る。このように、冷媒循環回路27は、冷媒を冷却しながら循環させてノズル23dを冷却するので、ノズル23dの噴射通路への原料粉末Pの付着を抑制することができる。原料粉末Pについては後述する。
本実施形態のコールドスプレー装置2は、バルブシート膜16b,17bが形成されるシリンダヘッド12を基台45に固定する一方、スプレーガン23のノズル23dの先端を、シリンダヘッド12の開口部16a,17aの環状縁部に沿って回転させることで原料粉末を噴射する。シリンダヘッド12は回転させないので、大きい占有スペースは不要になるとともに、シリンダヘッド12に比べてスプレーガン23の方が、慣性モーメントが小さいので、回転の過渡特性や応答性に優れる。ただし、本発明の金属膜及びその成膜方法は、基材であるシリンダヘッド12とノズル23dとが相対的に移動すればよいので、スプレーガン23のノズル23dを固定する一方、シリンダヘッド12を回転及び揺動させてもよいし、スプレーガン23のノズル23dとともに、シリンダヘッド12を回転及び揺動させてもよい。
次に、バルブシート膜16b、17bを備えるシリンダヘッド12の製造方法を説明する。図4は、本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法におけるバルブ部位の加工工程を示す工程図である。同図に示すように、本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法は、鋳造工程S1と、切削工程S2と、被覆工程S3と、仕上工程S4とを備える。なお、バルブ部位以外の加工工程は、説明の簡略化のため省略する。
鋳造工程S1では、砂中子がセットされた金型に鋳物用アルミ合金を流し込み、本体部に吸気ポート16や排気ポート17等が形成されたシリンダヘッド粗材3を鋳造成形する。ここで、シリンダヘッド粗材3とは、最終製品としてのシリンダヘッド12に加工される前の製造途中にある半製品をいう。吸気ポート16及び排気ポート17は砂中子で形成され、凹部12bは金型で形成される。図5は、鋳造工程S1で鋳造成形したシリンダヘッド粗材3を、シリンダブロック11への取付面12a側から見た斜視図である。シリンダヘッド粗材3は、4つの凹部12bと、各凹部12bに2つずつ設けた吸気ポート16及び排気ポート17を備える。各凹部12bの2つの吸気ポート16及び2つの排気ポート17は、シリンダヘッド粗材3内で1本に集合し、シリンダヘッド粗材3の両側面に設けた開口にそれぞれ連通している。
図6Aは、図5のVI-VI線に沿うシリンダヘッド粗材3の断面図であり、吸気ポート16を示す。吸気ポート16には、シリンダヘッド粗材3の凹部12b内に露呈された円形の開口部16aが設けられている。
次の切削工程S2では、シリンダヘッド粗材3にエンドミルやボールエンドミル等によるフライス加工を施し、図6Bに示すように、吸気ポート16の開口部16aに環状バルブシート部16cを形成する。図6Bは、図6Aの吸気ポートに切削工程で環状バルブシート部を形成した状態を示す断面図である。環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bのベース形状となる環状溝であり、開口部16aの外周に形成される。本実施形態のシリンダヘッド12の製造方法では、環状バルブシート部16cにコールドスプレー法によって原料粉末Pを噴射して皮膜を形成し、この皮膜を基にしてバルブシート膜16bに加工する。そのため、環状バルブシート部16cは、バルブシート膜16bよりも一回り大きなサイズで形成されている。
被覆工程S3では、シリンダヘッド粗材3の環状バルブシート部16cに、本実施形態のコールドスプレー装置2を利用して原料粉末Pを噴射し、バルブシート膜16bを形成する。より具体的には、この被覆工程S3では、図6Cに示すように、環状バルブシート部16cと、スプレーガン23のノズル23dとを同じ姿勢で一定距離に保ちながら、原料粉末Pが環状バルブシート部16cの全周に吹き付けられるように、シリンダヘッド粗材3を固定する一方で、スプレーガン23を回転させる。図6Cは、図6Bの吸気ポート16にバルブシート膜16bを形成する状態を示す断面図である。
スプレーガン23のノズル23dの先端は、基台に固定されたシリンダヘッド12の上方で、産業用ロボットのハンドに保持されている。基台又は産業用ロボットは、バルブシート膜16bが形成される吸気ポート16の中心軸Zが垂直になって、スプレーガン23の回転軸に重なるようにシリンダヘッド12又はスプレーガン23の位置を設定する。この状態でノズル23dから環状バルブシート部16cに原料粉末Pを吹き付けながら、スプレーガン23を回転軸周りに回転させることにより、環状バルブシート部16cの全周に皮膜を形成する。
この被覆工程S3が実施されている間、ノズル23dは、冷媒循環回路27から供給された冷媒を、冷媒導入部23eから流路に導入する。冷媒は、ノズル23dの内部に形成された流路の先端側から後端側に向かって流れる間にノズル23dを冷却する。流路の後端側まで流れた冷媒は、冷媒排出部23fによって流路から排出されて回収される。
スプレーガン23が回転軸の周りに1回転してバルブシート膜16bの形成が終了すると、スプレーガン23の回転を一旦停止する。この回転停止中に、スプレーガン23が装着された産業用ロボットは、次にバルブシート膜16bが形成される別の吸気ポート16の中心軸Zが産業用ロボットの基準軸に一致するように、スプレーガン23を移動する。そして、産業用ロボットによるスプレーガン23の移動終了後、スプレーガン23の回転を再開し、次の吸気ポート16にバルブシート膜16bを形成する。以降、この動作を繰り返すことにより、シリンダヘッド粗材3の全ての吸気ポート16及び排気ポート17にバルブシート膜16b、17bが形成される。
図4に戻り、仕上工程S4では、バルブシート膜16b,17bと、吸気ポート16及び排気ポート17の仕上加工が行われる。バルブシート膜16b,17bの仕上加工では、ボールエンドミルを用いたフライス加工によりバルブシート膜16b,17bの表面を切削し、バルブシート膜16bを所定形状に整える。また、吸気ポート16の仕上加工では、開口部16aから吸気ポート16内にボールエンドミルを挿入し、図6Dに示す加工ラインPLに沿って吸気ポート16の開口部16a側の内周面を切削する。図6Dは、バルブシート膜16bが形成された吸気ポートを示す断面図である。加工ラインPLは、吸気ポート16内に原料粉末Pが飛散して付着した余剰皮膜SFが比較的厚く形成される範囲、より具体的には、余剰皮膜SFが吸気ポート16の吸気性能に影響を及ぼす程度に厚く形成される範囲である。
このように、仕上工程S4により、鋳造成形による吸気ポート16の表面荒れが解消されるとともに、被覆工程S3で形成された余剰皮膜SFを除去することができる。図6Eは、図4の仕上工程後の吸気ポート16を示す断面図である。なお、排気ポート17は、吸気ポート16と同様に、鋳造成形による排気ポート17内への小径部の形成、切削加工による環状バルブシート部の形成、環状バルブシート部へのコールドスプレー、仕上加工を経てバルブシート膜17bが形成される。そのため、排気ポート17に対するバルブシート膜17bの形成手順については、詳しい説明を省略する。
さて、シリンダヘッド12のバルブシートには、燃焼室15内におけるバルブからの叩き入力に耐え得る高い耐熱性、耐磨耗性及び密着性と、燃焼室15の冷却のための高い熱伝導性とが要求される。バルブシート膜16b,17bの形成に用いる原料粉末Pとしては、シリンダヘッド12を構成する鋳物用アルミ合金よりも硬質で、バルブシートに必要な耐熱性、耐磨耗性、密着性及び熱伝導性が得られる金属であることが好ましい。ここで、バルブシートに必要とされる性能のうち、耐摩耗性を高めるためには、原料粉末に硬質材料を用いればよいが、材料が硬いと塑性変形し難くなり、基材との密着性が低下する。逆にバルブシートの密着性を向上させるには、原料粉末に軟質材料を用いればよいが、材料が軟らかいと耐摩耗性が低下する。このように、コールドスプレー法において耐摩耗性と密着性とはトレードオフの関係にあり、これらの特性を両立させるのは難しい。
そこで本実施形態の金属膜及びその成膜方法では、コールドスプレー法による原料粉末Pに、軟質材料と硬質材料とを主成分として含む材料を用い、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なるように成膜する。すなわち、密着性が必要とされる部位は軟質材料リッチとなるように成膜する一方、耐摩耗性が必要とされる部位は硬質材料リッチとなるように成膜する。これにより、耐摩耗性と密着性とがともに優れたバルブシート膜16b,17bを得ることができる。
本実施形態の軟質材料として、銅又は銅合金を用いることが好ましい。銅合金として、析出硬化型銅合金を例示することができる。析出硬化型銅合金として、ニッケル及びケイ素を含むコルソン合金や、クロムを含むクロム銅、ジルコニウムを含むジルコニウム銅等を用いてもよい。さらに、例えば、ニッケル、ケイ素及びクロムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金、ニッケル、ケイ素、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型合金、クロム及びジルコニウムを含む析出硬化型銅合金等を適用することもできる。本実施形態の軟質材料は、硬質材料に比べて平均硬度が実質的に軟らかい、主成分としての材料を意味する。本実施形態の軟質材料は、単独で成膜した場合のビッカース硬さが500HV未満、好ましくは100~400HVの材料である。
また本実施形態の硬質材料として、上述した軟質材料に比べて平均硬度が実質的に硬い、主成分としての材料を意味する。本実施形態の硬質材料としては、鉄又は鉄基合金、コバルト又はコバルト基合金、クロム又はクロム基合金、ニッケル又はニッケル基合金、モリブデン又はモリブデン基合金等を例示することができる。また、SKD(ダイス鋼)、SKH(ハイス鋼)、Fe-Mo-Si合金粉を例示することができる。ダイス鋼と称されるSKD材は、SK材にCr,Mo及びVを添加した材料であり、SKD61材の成分はJIS4404に記載されているが、代表的な成分としてはFe-0.4C-1.0Si-0.4Mn-5.2Cr-1.3Mo-0.9Vである(数字は重量%)。また、ハイス鋼と称されるSKH材は、単グルテン系とモリブデン系の2種類があり、SKH51材の成分はJIS4403に記載されているが、代表的な成分としては、Fe-0.9C-0.3Si-0.4Mn-4.2Cr-5.0Mo-2.0V-6.5Wである(数字は重量%)。これらの硬質材料は、その1種を単独で、または2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。本実施形態の硬質材料は、単独で成膜した場合のビッカース硬さが500HV以上、好ましくは600~1000HVの材料である。
本実施形態の金属膜は、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なるように成膜されている。なお、膜の厚さ方向とは、膜の断面において、基材4との界面から膜表面に至る上下方向を意味する。また、膜の延在方向とは、膜の平面視において、膜が二次元的に延在する方向を意味する。図8及び図13A~図13Cに示す実施形態の金属膜5が、膜の厚さ方向に硬質材料と軟質材料の重量比率を変えた例であり、図15に示す実施形態の金属膜5が、膜の延在方向に硬質材料と軟質材料の重量比率を変えた例である。
図8は、本発明に係る金属膜5の一実施の形態を示す断面図、図13A~図13Cは、本発明に係る金属膜5の他の実施の形態を示す断面図及び成分比率を示すグラフである。図8において、バルブシート膜16b,17bなどの金属膜5は、シリンダヘッド12などの基材4の表面にコールドスプレー法で成膜されている。図8において、黒い丸印は硬質材料52を示し、それ以外の膜部分は軟質材料51であることを示している。そして、図8に示す金属膜5は、基材4に対して金属膜5の厚さ方向に近い膜部分53に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率が、基材4に対して金属膜5の厚さ方向に遠い膜部分54に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率より大きい。つまり、図8に示す実施形態では、金属膜5に含まれる軟質材料51と硬質材料52の重量比率が、膜の厚さ方向によって異なり、特に基材4に近い膜部分53が軟質材料リッチとされ、基材4から遠い膜部分54(換言すれば膜表面に近い部分)が硬質材料リッチとされている。
図8に示す実施形態の金属膜5と、図13A~図13Cに示す実施形態の金属膜5とは、その成膜方法が異なり、図8に示す金属膜5は重ね吹きにより成膜した複数層からなる膜であるのに対し、図13A~図13Cに示す金属膜は1回吹きにより成膜した単層からなる膜である。ただし、図13A~図13Cに示す実施形態の金属膜5も、基材4に対して金属膜5の厚さ方向に近い膜部分53に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率が、基材4に対して金属膜5の厚さ方向に遠い膜部分54に含まれる軟質材料51の硬質材料52に対する重量比率より大きい。つまり、図13A~図13Cに示す実施形態においても、金属膜5に含まれる軟質材料51と硬質材料52の重量比率が、膜の厚さ方向によって異なり、特に基材4に近い膜部分53が軟質材料リッチとされ、基材4から遠い膜部分54(換言すれば膜表面に近い部分)が硬質材料リッチとされている。
図7は、コールドスプレー法により成膜した金属膜に含まれる硬質材料の重量比率に対する耐摩耗性と密着性の関係を示すグラフである。硬質材料52の重量比率とは、金属膜5に含まれる硬質材料の重量を、金属膜5に含まれる硬質材料52の重量と軟質材料51の重量との和で除算した百分率をいう。同図に示すように、原料粉末Pに軟質材料51と硬質材料52とが含まれる場合、硬質材料52の重量比率が小さいほど金属膜5の耐摩耗性が低く、硬質材料52の重量比率が増加するに従い金属膜5の耐摩耗性は高くなる。これに対し、硬質材料52の重量比率が大きいほど基材4との密着性が低く、硬質材料52が減少するに従い金属膜5の密着性は高くなる。厳密には、硬質材料52が減少するに従い金属膜5の密着性は高くなり、ピークを迎えたのち低下する。換言すれば、原料粉末Pに軟質材料51と硬質材料52とが含まれる場合、硬質材料リッチの膜であるほど耐摩耗性に優れる反面、密着性に劣り、軟質材料リッチの膜であるほど密着性に優れる反面、耐摩耗性に劣ることが理解される。
図8及び図13A~図13Cに示す実施形態の金属膜5は、基材4に近い膜部分53が軟質材料リッチとされ、基材4から遠い膜部分54(換言すれば膜表面に近い部分)が硬質材料リッチとされている。すなわち、基材4との密着性に寄与する基材4に近い膜部分53が密着性に優れた軟質材料リッチとされ、吸気バルブ18や排気バルブ19からの叩き入力による耐摩耗性に寄与する表面に近い膜部分54が耐摩耗性に優れた硬質材料リッチとされている。これにより、耐摩耗性と密着性の両性能を両立させることができる。
次に、図8及び図13A~図13Cに示す実施形態の金属膜5のように、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なるように成膜する方法を説明する。図9A及び図9Bは、図8の金属膜5からなるバルブシート膜16b,17bを成膜する手順を示す平面図であり、図9Aは、バルブシート膜16b,17bの下層を成膜する場合を示し、図9Bは、バルブシート膜16b,17bの上層を成膜する場合を示す。
バルブシート膜16b,17bなどの金属膜5を、重ね吹きして複数層からなる膜に成膜する場合、原料粉末Pの噴射中の密度を層に応じて変えることで、硬質材料と軟質材料の重量比率を制御することができる。図10Aは、コールドスプレー装置2のノズル23dの移動速度が低速である場合の成膜状態を示す模式図、図10Bは、ノズル23dの移動速度が高速である場合の成膜状態を示す模式図であり、軟質材料51と硬質材料52からなる原料粉末Pを示す。ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量とノズル23dの移動速度とにより、原料粉末Pの噴射中の密度が決定される。したがって、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量を一定にした場合、ノズル23dの移動速度が相対的に低速であるときは、図10Aに示すように、硬質材料と軟質材料とを含む原料粉末Pの噴射中の密度(単位体積当たりの重量)が大きくなり、逆にノズル23dの移動速度が相対的に高速であるときは、図10Bに示すように、硬質材料と軟質材料とを含む原料粉末Pの噴射中の密度が小さくなる。
ここで、ノズル23dから噴射した原料粉末Pが基材4の表面に付着するメカニズムを調べたところ、以下のとおりである。すなわち、硬質材料52の粉末は、軟質材料51の粉末に比べて硬いことから、基材4に衝突した際に跳ね返る確率が大きい。しかしながら、図10Aに示すように、原料粉末Pの密度が大きく硬質材料52の粉末の廻りに多くの軟質材料51の粉末が存在すると、硬質材料52の粉末が跳ね返ろうとしても廻りの軟質材料51の粉末によって抑え込まれる。その結果、跳ね返って基材4に付着しない硬質材料52が少なくなり、相対的に硬質材料リッチになる。これに対して、図10Bに示すように、原料粉末Pの密度が小さく硬質材料52の粉末の廻りに多くの軟質材料51の粉末が存在しないと、硬質材料52の粉末が跳ね返ろうとしたときにこれを廻りの軟質材料51の粉末によって抑え込むことができない。その結果、跳ね返って基材4に付着しない硬質材料52が多くなり、相対的に軟質材料リッチになる。
このように、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量を一定にした場合、ノズル23dの移動速度が相対的に低速であるときは、図10Aに示すように、硬質材料リッチになり、逆にノズル23dの移動速度が相対的に高速であるときは、図10Bに示すように、軟質材料リッチになる。そのため、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量を一定にした状態で、図9Aに示すようにバルブシート膜16b,17bの下層を成膜する場合には、ノズル23dの移動速度を相対的に高速VHIGHに設定し、図9Bに示すようにバルブシート膜16b,17bの上層を成膜する場合には、ノズル23dの移動速度を相対的に低速VLOWに設定する(VHIGH>VLOW)。これにより、図8に示す金属膜5を成膜することができる。
なお、既述したとおり、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量とノズル23dの移動速度とにより、原料粉末Pの噴射中の密度が決定されるので、ノズル23dの移動速度を一定にした場合、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量が相対的に多いときは、図10Aに示すように、硬質材料リッチになり、逆にノズル23dからの原料粉末Pの吐出量が相対的に少ないときは、図10Bに示すように、軟質材料リッチになる。そのため、ノズル23dの移動速度を一定にした状態で、図9Aに示すようにバルブシート膜16b,17bの下層を成膜する場合には、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量を相対的に少ない値に設定し、図9Bに示すようにバルブシート膜16b,17bの上層を成膜する場合には、ノズル23dからの原料粉末Pの吐出量を相対的に多い値に設定してもよい。これによっても、図8に示す金属膜5を成膜することができる。
なお、図9A及び図9Bに示す金属膜5の成膜方法は、2回の重ね吹きにより2層からなる金属膜5を成膜したが、3回以上の重ね吹きにより3層以上からなる金属膜5を成膜してもよい。この場合、各層をそれぞれ異なる移動速度/吐出量に設定してもよいし、同じ移動速度/吐出量の層を含んでもよい。
図9A及び図9Bに示す金属膜5の成膜方法は、重ね吹きにより複数層からなる金属膜5を成膜する方法であるが、次に、図13A~図13Cに示す金属膜5のように、単層からなる金属膜5を成膜する方法を説明する。図11は、この成膜方法に用いられるコールドスプレー装置2の他の実施の形態を示す要部構成図であり、図3に示すコールドスプレー装置2と異なる構成を主として示し、共通する部材は図3の記載を援用する。また、図12は、図11のコールドスプレー装置2を用いた成膜方法を示す側面図である。
図11に示すコールドスプレー装置2は、軟質材料51の粉末を収容してノズル23dに供給する原料粉末供給装置221a及び原料粉末供給ライン221cと、硬質材料52の粉末を収容してノズル23dに供給する原料粉末供給装置222a及び原料粉末供給ライン222cとを備える。2つの原料粉末供給ライン221c,222cは、原料粉末供給ライン22cとなって合流し、ノズル23dのチャンバ23aに軟質材料51の粉末と硬質材料52の粉末を案内する。2つの原料粉末供給ライン221c,222cが合流する原料粉末供給ライン22cの内部には仕切22dが設けられ、軟質材料51の粉末と硬質材料52の粉末は、混合しない状態でチャンバ23aに導かれる。なお、仕切22dを設けることでチャンバ23aに至るまで軟質材料51の粉末と硬質材料52の粉末との混合が阻止されるが、多少の混合は許容できる場合など、必要に応じて仕切22dを省略してもよい。
ノズル23dのチャンバ23aに供給された軟質材料51の粉末と硬質材料52の粉末は、その界面において若干混合しながらノズル23dの先端から噴射する。このとき、噴射した原料粉末Pの円錐パターンは、図11に示すように、その半分P1が軟質材料51の粉末が多いパターンとなり、残りの半分P2が硬質材料52の粉末が多いパターンとなる。そのため、図12に示すように、噴射した原料粉末Pの移動方向Xの前側半分P1を軟質材料リッチにするとともに、後側半分P2を硬質材料リッチにしながら、1回吹きにて金属膜を成膜すれば、噴射した原料粉末Pが先に基材4に付着する金属膜5の下側が軟質材料リッチになり、その上に堆積されるにつれ硬質材料リッチになる。
図13Aは、図11に示すコールドスプレー装置2を用いて、図12に示すように金属膜5を成膜した場合のバルブシート膜16b,17bを示す断面図及び成分比率を示すグラフである。この方法によれば、基材4に近い膜部分53が軟質材料リッチとされ、基材4から遠い膜部分54(換言すれば膜表面に近い部分)が硬質材料リッチとされた、単層からなるバルブシート膜16b,17bを得ることができる。すなわち、基材4との密着性に寄与する基材4に近い膜部分53が密着性に優れた軟質材料リッチとされ、吸気バルブ18や排気バルブ19からの叩き入力による耐摩耗性に寄与する表面に近い膜部分54が耐摩耗性に優れた硬質材料リッチとされた単層膜を成膜することができる。これにより、耐摩耗性と密着性の両性能を両立させることができる。
金属膜5の厚さ方向に対して硬質材料のリッチ度合及び軟質材料のリッチ度合は特に限定されない。図13Aに示す実施形態の金属膜5は、左のグラフに示すように、膜内の成分比率が、界面において硬質材料が0%、軟質材料が100%であり、表面において硬質材料が100%、軟質材料が0%であり、その間はそれぞれ直線的に変化する。これに対し、図13Bに示す実施形態の金属膜5は、左のグラフに示すように、膜内の成分比率が、界面において硬質材料が0%、軟質材料が100%であり、表面において硬質材料が100%、軟質材料が0%であり、その間はそれぞれ曲線的に変化する。また、図13Cに示す実施形態の金属膜5は、左のグラフに示すように、膜内の成分比率が、界面において硬質材料が25%、軟質材料が75%であり、表面において硬質材料が90%、軟質材料が10%であり、その間はそれぞれ直線的に変化する。
本発明の金属膜及びその成膜方法は、膜の厚さ方向だけでなく、膜の延在方向によって、膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率を異なるように成膜してもよい。図14は、本発明に係る金属膜5のさらに他の実施の形態のバルブシート膜16b,17bを示す平面図である。図14は、1つの燃焼室を構成する1つの凹部12bを平面視で示したものであり、2つの吸気ポート16のそれぞれにバルブシート膜16bが成膜され、2つの排気ポート17のそれぞれにバルブシート膜17bが成膜されている。
ここで、本実施形態のバルブシート膜16b,17bは、点火プラグSPに近い円周部分に含まれる硬質材料の軟質材料に対する重量比率が、点火プラグSPから遠い円周部分に含まれる硬質材料の軟質材料に対する重量比率より大きい構成とされている。たとえば、図14の左下に示すバルブシート膜16bのように、点火プラグSPに近い円周部分C2は硬質材料リッチとされ、点火プラグSPから遠い円周部分C1は軟質リッチとされている。点火プラグSPに近いバルブシート膜16b,17bの円周部分C2は、点火プラグSPから遠いバルブシート膜16b,17bの円周部分C1に比べて、相対的に高温状態で、吸気バルブ18や排気バルブ19からの叩き入力がされるため、本実施形態のように構成することで、より高い耐摩耗性が付与される。
図15は、本発明に係る成膜方法に用いられるコールドスプレー装置のさらに他の実施の形態を示す構成図であり、図14に示すバルブシート膜16b,17bの成膜に用いられるコールドスプレー装置2である。ノズル23dより上流側の構成は、図11に示すコールドスプレー装置2と同じであるため、その記載をここに援用する。本実施形態のコールドスプレー装置2は、ノズル23dから噴射される原料粉末Pのパターンが、図15の下図に示すようにドーナツ状とされている点が、図11のコールドスプレー装置2と異なる。また、本実施形態のコールドスプレー装置2は、図6Cに示すようにノズル23dを環状バルブシート部16cに沿って回転させながら原料粉末Pを噴射するのではなく、ノズル23dを吸気ポート16や排気ポート17に対面させて動かさず(回転方向の位置は設定する)、ドーナツ状の原料粉末Pを1吹きすることでバルブシート膜16b,17bを成膜する。これにより、噴射した原料粉末Pのドーナツ状パターンの半分P1が軟質材料51の粉末が多いパターンとなり、残りの半分P2が硬質材料52の粉末が多いパターンとなるところ、点火プラグSPに近い円周部分C2を硬質材料リッチとし、点火プラグSPから遠い円周部分C1を軟質リッチとすることができる。
以上、本実施形態の金属膜及びその成膜方法によれば、膜の厚さ方向について、基材4に近い膜部分53を軟質材料リッチにするとともに基材4から遠い膜部分54を硬質材料リッチにすることで、耐摩耗性と密着性がともに優れた金属膜を得ることができる。
また、本実施形態の金属膜及びその成膜方法によれば、膜の延在方向について硬質材料と軟質材料の重量比率を異なるように成膜することで、適宜箇所の耐熱性及び密着性を高めることができる。
1…内燃機関
11…シリンダブロック
11a…シリンダ
12…シリンダヘッド
12a…取付面
12b…凹部
12c,12d…側面
13…ピストン
13a…コネクティングロッド
13b…頂面
14…クランクシャフト
15…燃焼室
16…吸気ポート
16a…開口部
16b…バルブシート膜
16c…環状バルブシート部
17…排気ポート
17a…開口部
17b…バルブシート膜
18…吸気バルブ
18a…バルブステム
18b…バルブヘッド
18c…バルブガイド
19…排気バルブ
19a…バルブステム
19b…バルブヘッド
19c…バルブガイド
2…コールドスプレー装置
21…ガス供給部
21a…圧縮ガスボンベ
21b…作動ガスライン
21c…搬送ガスライン
21d…圧力調整器
21e…流量調節弁
21f…流量計
21g…圧力ゲージ
21h…電力源
21i…ヒータ
22…原料粉末供給部
22a,221a,222a…原料粉末供給装置
22b…計量器
22c,221c,222c…原料粉末供給ライン
22d…仕切
23…スプレーガン
23a…チャンバ
23b…圧力計
23c…温度計
23d…ノズル
23e…冷媒導入部
23f…冷媒排出部
23g,23h…信号線
27…冷媒循環回路
271…タンク
272…ポンプ
273…冷却器
274…導入管
275…排出管
3…シリンダヘッド粗材
4…基材
5…金属膜
51…軟質材料
52…硬質材料
SP…点火プラグ

Claims (12)

  1. 基材の表面に形成された金属膜であって、軟質材料と硬質材料とを主成分として含み、
    膜に含まれる硬質材料と軟質材料の重量比率が、膜の厚さ方向及び/又は膜の延在方向によって異なる金属膜。
  2. 前記基材に対して膜の厚さ方向に近い膜部分に含まれる軟質材料の硬質材料に対する重量比率が、前記基材に対して膜の厚さ方向に遠い膜部分に含まれる軟質材料の硬質材料に対する重量比率より大きい請求項1に記載の金属膜。
  3. 前記金属膜は、エンジンのバルブシートを構成し、
    点火プラグに近い円周部分に含まれる硬質材料の軟質材料に対する重量比率が、前記点火プラグから遠い円周部分に含まれる硬質材料の軟質材料に対する重量比率より大きい請求項1に記載の金属膜。
  4. 前記軟質材料が銅又は銅合金であり、前記硬質材料がコバルト、コバルト合金、SKD(ダイス鋼)、SKH(ハイス鋼)又はFe-Mo-Si合金粉である請求項1~3のいずれか一項に記載の金属膜。
  5. 膜に含まれる軟質材料の硬質材料に対する重量比率が相対的に大きい膜部分のビッカース硬さが、500HV未満であり、膜に含まれる軟質材料の硬質材料に対する重量比率が相対的に小さい膜部分のビッカース硬さが、500HV以上である請求項4に記載の金属膜。
  6. 基材の表面に、軟質材料と硬質材料とを主成分として含む原料粉末をコールドスプレー法によりノズルを介して噴射し、金属膜を成膜する方法であって、
    目的とする金属膜を成膜する間の、原料粉末の噴射中の密度を、部位に応じて変える成膜方法。
  7. 目的とする金属膜を成膜する間の、前記ノズルの移動速度を、部位に応じて変える請求項6に記載の成膜方法。
  8. 前記基材に対して膜の厚さ方向に近い膜部分を成膜する場合の移動速度が、前記基材に対して膜の厚さ方向に遠い膜部分を成膜する場合の移動速度より大きい請求項7に記載の成膜方法。
  9. 前記基材がエンジンバルブの着座部であり、前記ノズルを当該着座部に沿って相対的に移動させながら複数層の金属膜からなるバルブシートを前記着座部に形成する場合において、
    前記着座部に近い層を成膜する場合のノズルの移動速度が、前記着座部から遠い層を成膜する場合のノズルの移動速度より大きい請求項7又は8に記載の成膜方法。
  10. 基材の表面に、軟質材料と硬質材料とを含む原料粉末をコールドスプレー法によりノズルを介して噴射し、金属膜を成膜する方法であって、
    前記ノズルの内部の移動方向の前側部分に前記軟質材料を供給するとともに後側部分に前記硬質材料を供給し、噴射した原料粉末の移動方向の前側を軟質材料リッチにするとともに後側を硬質材料リッチにしながら、金属膜を成膜する成膜方法。
  11. 前記基材がエンジンバルブの着座部であり、前記ノズルを当該着座部に沿って相対的に移動させながら単層の金属膜からなるバルブシートを前記着座部に形成する請求項10に記載の成膜方法。
  12. 前記軟質材料が銅又は銅合金であり、前記硬質材料がコバルト又はコバルト合金である請求項6~11のいずれか一項に記載の成膜方法。
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