JP2020054250A - 目的タンパク質の製造方法、組換え細胞の溶解方法及び組換え細胞 - Google Patents

目的タンパク質の製造方法、組換え細胞の溶解方法及び組換え細胞 Download PDF

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Abstract

【課題】外部刺激により自己溶菌する組換え細胞を用いた目的タンパク質の製造方法、上記組換え細胞の溶解方法及び上記組換え細胞を提供すること。【解決手段】目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、上記組換え細胞を溶解する工程、並びに上記目的タンパク質を回収する工程、を含み、上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現している、目的タンパク質の製造方法。【選択図】なし

Description

本発明は、目的タンパク質の製造方法、組換え細胞の溶解方法及び組換え細胞に関する。具体的には、組換え細胞の溶菌工程を含む目的タンパク質の製造方法、組換え細胞の溶解方法及び自己溶菌することを特徴とする組換え細胞に関する。
細菌等の組換え細胞を利用して目的タンパク質を製造する方法において、溶菌タンパク質を細菌等の組換え細胞にて発現させることで、自己溶菌により菌体を破壊し、目的タンパク質を回収するという手法が知られており、例えば、ペプチドグリカンの分解を触媒するエンドリシンと細胞膜に孔を作るホリンを組み合わせた手法が報告されている(非特許文献1)。非特許文献1には、構成的プロモーターにより発現が制御されるエンドリシンと誘導性プロモーターにより発現が制御されるホリンを大腸菌において発現させ、ホリンが宿主細菌の細胞膜に重合して穿孔し、そのホリンがつくる孔を通ってエンドリシンがペリプラズムに漏出し、ペプチドグリカンが分解されて溶菌する方法が記載されている。
Wu Jie、"Part:BBa_K1378032"、[online]、2014年9月28日、Registry of Standard Biological Parts、[2018年9月3日検索]、インターネット(URL:http://parts.igem.org/Part:BBa_K1378032)
しかしながら、より簡易な溶菌方法としては、ホリン等他の分子による補助を必要としない溶菌方法とすることが望ましい。また、他の分子に依存せず、溶菌のタイミングの制御がより簡易な溶菌方法とすることが望ましい。
したがって、本発明は、外部刺激により自己溶菌する組換え細胞を用いた目的タンパク質の製造方法、上記組換え細胞の溶解方法及び上記組換え細胞を提供することを目的とする。
本発明は、例えば、以下の各発明に関する。
[1]
目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、上記組換え細胞を溶解する工程、並びに
上記目的タンパク質を回収する工程、
を含み、
上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、
上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現している、
目的タンパク質の製造方法。
[2]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、[1]に記載の方法。
[3]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]
上記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現している、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]
上記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御されている、[4]に記載の方法。
[6]
細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現する組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、組換え細胞を溶解する工程を含み、
上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、
上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現している、
組換え細胞を溶解する方法。
[7]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、[6]に記載の方法。
[8]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]
上記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現している、[6]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
上記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御されている、[9]に記載の方法。
[11]
細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現し、物理的又は化学的な外部刺激を与えられることにより自己溶解することを特徴とする、組換え細胞であって、
上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御され、
上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現し、
誘導性プロモーターにより発現が制御されるホリンを含まない、細胞。
[12]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、[11]に記載の細胞。
[13]
上記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、[11]又は[12]に記載の細胞。
[14]
上記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現する、[11]〜[13]のいずれかに記載の細胞。
[15]
上記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御される、[14]に記載の細胞。
本発明によれば、外部刺激により自己溶菌する組換え細胞を用いた目的タンパク質の製造方法、上記組換え細胞の溶解方法及び上記組換え細胞を提供することができる。外部刺激により自己溶菌する組換え細胞を用いることで、目的タンパク質の製造プロセスを簡略化することができる。また、外部刺激による溶菌であるため、溶菌のタイミングをコントロールできる。
実施例1で用いたペプチドグリカン分解酵素発現ベクター(配列1)及び染色体への挿入状態の模式図である。各数値は配列1における位置を示し、各矢印は遺伝子の転写の方向を示す。 誘導24時間後におけるコントロールのSSPの生産量(g/L)を100%とした場合の、G11株の誘導0時間後及び誘導24時間後における生産性(%)を示すグラフである。 培養終了後(誘導24時間後)の菌体溶液のDCWを100%とした場合の、各処理後のDCWの割合を示すグラフである。 各処理後の粒子径を測定した結果を示すグラフである。横軸は粒子径であり、縦軸はある粒子径の集団が全粒子体積に占める割合を示す。 実施例2で用いた核酸分解酵素発現ベクターの模式図である。 実施例2で用いたmRFP1発現ベクターの模式図である。 溶菌における核酸分解酵素の効果を示す電気泳動写真である。左から1〜4番目のレーンはCZ1 BL21 pSAompA2nucSのサンプル(NucS)、左から5〜8のレーンはCZ1 BL21 pSAompA1mRFP1のサンプル(コントロール)を示す。また、0、5、10、20(分)はそれぞれクロロホルムを加えた後のインキュベート時間を示す。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
一実施形態に係る目的タンパク質の製造方法は、目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、上記組換え細胞を溶解する工程、並びに上記目的タンパク質を回収する工程、
を含む。ここで、上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現している。
また、一実施形態に係る組換え細胞を溶解する方法は、細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現する組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、組換え細胞を溶解する工程を含む。ここで、上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現している。
(目的タンパク質)
目的タンパク質とは、タンパク質発現方法により発現させた後、回収等して利用することを目的とするタンパク質のことを意味する。目的タンパク質としては、工業規模での製造が好ましい任意のタンパク質を挙げることができ、例えば、工業用に利用できるタンパク質、医療用に利用できるタンパク質、及び構造タンパク質等を挙げることができる。工業用又は医療用に利用できるタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、及び完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体等を挙げることができる。構造タンパク質の具体例としては、フィブロイン(例えば、スパイダーシルク、カイコシルク等)、ケラチン、コラ−ゲン、エラスチン、レシリン、及びこれらタンパク質の断片、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。
本明細書においてフィブロインは、天然由来のフィブロインと改変フィブロインとを含む。本明細書において「天然由来のフィブロイン」とは、天然由来のフィブロインと同一のアミノ酸配列を有するフィブロインを意味し、「改変フィブロイン」とは、天然由来のフィブロインとは異なるアミノ酸配列を有するフィブロインを意味する。
フィブロインは、クモ糸フィブロインであってよい。クモ糸フィブロインには、天然クモ糸フィブロイン、及び天然クモ糸フィブロインに由来する改変フィブロインが含まれる。天然クモ糸フィブロインとしては、例えば、クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。
フィブロインは、例えば、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態に係るフィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)モチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)モチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2〜27である。(A)モチーフのアミノ酸残基数は、2〜20、4〜27、4〜20、8〜20、10〜20、4〜16、8〜16、又は10〜16の整数であってよい。また、(A)モチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)モチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10〜200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2〜300の整数を示し、10〜300の整数であってもよい。複数存在する(A)モチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
天然由来のフィブロインとしては、例えば、式1:[(A)モチーフ−REP]、又は式2:[(A)モチーフ−REP]−(A)モチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質を挙げることができる。天然由来のフィブロインの具体例としては、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
ケラチン由来のタンパク質として、例えば、カプラ・ヒルクス(Capra hircus)のタイプIケラチン等を挙げることができる。
コラーゲン由来のタンパク質としては、例えば、式3:[REP2]pで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式3中、pは5〜300の整数を示す。REP2は、Gly−X−Yから構成されるアミノ酸配列を示し、X及びYはGly以外の任意のアミノ酸残基を示す。複数存在するREP2は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。
エラスチン由来のタンパク質としては、例えば、NCBIのGenBankのアクセッション番号AAC98395(ヒト)、I47076(ヒツジ)、NP786966(ウシ)等のアミノ酸配列を有するタンパク質を挙げることができる。
レシリン由来のタンパク質としては、例えば、式4:[REP3]qで表されるドメイン配列を含むタンパク質(ここで、式4中、qは4〜300の整数を示す。REP3はSer−J−J−Tyr−Gly−U−Proから構成されるアミノ酸配列を示す。Jは任意アミノ酸残基を示し、特にAsp、Ser及びThrからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。Uは任意のアミノ酸残基を示し、特にPro、Ala、Thr及びSerからなる群から選ばれるアミノ酸残基であることが好ましい。複数存在するREP4は、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。)を挙げることができる。
(細菌溶解活性を有するポリペプチド)
細菌溶解活性を有するポリペプチドは、周囲環境から細胞内容物を分離する障壁を破壊する活性を有するポリペプチドであり、例えば、細胞壁分解能を有するポリペプチド及び外膜分解能を有するポリペプチド等が含まれる。細胞壁分解能を有するポリペプチドは、例えば、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチド等が含まれる。細菌溶解活性を有するポリペプチドは、さらに細胞結合活性を有していてもよい。細胞結合活性とは、細胞へ付着、結合、若しくはインテグレートできるアミノ酸配列を有することである。細菌溶解活性を有するポリペプチドは、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドであることが好ましい。
ペプチドグリカンは、N−アセチル又はN−グリコリルムラミン酸とD−アミノ酸を含むことを特徴とする糖ペプチドのポリマーで、細菌の細胞壁成分として菌の形状の保持に重要な働きをしている。本明細書において使用するペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは、ペプチドグリカンを溶解するのに適当であるポリペプチドを指す。ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは、以下の活性の少なくとも1つを含む:エンドペプチダーゼ、N−アセチル−ムラモイル−L−アラニン−アミダーゼ(アミダーゼ)、N−アセチル−ムラミダーゼ(リゾチーム若しくは溶解性トランスグリコシラーゼ)、及びN−アセチル−グルコサミニダーゼ。ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドとしては、例えば、ファージ若しくはプロファージにコードされる、いわゆる「エンドリシン」、細菌によりコードされる関連した細胞壁溶解酵素、いわゆる「オートリシン」、バクテリオシン等の他の細菌ペプチドグリカン溶解酵素、病原性因子若しくは他の抗菌ポリペプチド(例えば、リゾスタフィン、ALE−1リシン、ムタノリシン、エンテロリシン)に由来するものが挙げられる。ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドが、エンドリシン、オートリシン、他の細菌ペプチドグリカン溶解酵素、病原性因子若しくは抗菌ポリペプチドに由来するものからなる群から選択されることが好ましい。加えて、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは、酵素的に不活性であり、かつ宿主細菌の細胞壁に結合する領域を含有してもよい。
ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは、エンドリシン、アミダーゼ、トランスグリコシラーゼ、エンドペプチダーゼ、オートリシン、細胞壁ヒドロラーゼ、及びリゾチームからなる群から選択されることが好ましく、エンドリシンであることがより好ましい。
ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは好ましくは、アミダーゼ_5(バクテリオファージペプチドグリカンヒドロラーゼ、pfam05382)、アミダーゼ_2(N−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼ、pfam01510)、アミダーゼ_3(N−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼ、pfam01520)、Transgly(トランスグリコシラーゼ、pfam00912)、ペプチダーゼ_M23(ペプチダーゼファミリーM23、pfam01551)、エンドリシン_オートリシン(CD00737)、ヒドロラーゼ_2(細胞壁ヒドロラーゼ、pfam07486)、CHAP(アミダーゼ、pfam05257)、トランスグリコシラーゼ(トランスグリコシラーゼ様ドメイン、pfam06737)、MtlB(膜結合型溶解性ムレイントランスグリコシラーゼB、COG2951)、MtlA(膜結合型溶解性ムレイントランスグリコシラーゼA、COG2821)、MtlE(膜結合型溶解性ムレイントランスグリコシラーゼE、COG0741)、バクテリオファージ_λ_リゾチーム(N−アセチルムラミン酸とN−アセチルグルコサミンとの間の結合の溶解、CD00736)、ペプチダーゼ_M74(ペニシリン非感受性ムレインエンドペプチダーゼ、pfam03411)、SLT(トランスグリコシラーゼSLT、pfam01464)、Lys(C型リゾチーム/α−ラクトアルブミンファミリー、pfam00062)、COG5632(N−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼ、COG5632)、MepA(ムレインエンドペプチダーゼ、COG3770)、COG1215(グリコシルトランスフェラーゼ、COG1215)、AmiC(N−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼ、COG0860)、Spr(細胞壁結合型ヒドロラーゼ、COG0791)、バクテリオファージ_T4様_リゾチーム(N−アセチルムラミン酸とN−アセチルグルコサミンとの間の結合の溶解、cd00735)、LT_GEWL(溶解性トランスグリコシラーゼ(LT)及びガチョウ卵白リゾチーム(GEWL)ドメイン、cd00254)、ペプチダーゼ_S66(LD−カルボキシペプチダーゼ、pfam02016)、グリコ_ヒドロ_70(グリコシルヒドロラーゼファミリー70、pfam02324)、グリコ_ヒドロ_25(グリコシルヒドロラーゼファミリー25)、VanY(D−アラニル−D−アラニンカルボキシペプチダーゼ、pfam02557)、及びLYZ2(リゾチームサブファミリー2、smart 00047)から構成される群より選択される少なくとも1つの酵素活性ドメインを含む。
なお、ここでpfam、COG、CD及びsmartから始まるアクセッション番号は、それぞれPFAM(http://pfam.sanger.ac.uk/)、COG(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/COG/)、NCBI(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/)及びSMART(http://smart.embl−heidelberg.de/)のデータベースに登録された番号を示す。
ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは好ましくは、SH3_5(細菌SH3ドメイン、pfam08460)、SH3_4(細菌SH3ドメイン、pfam06347)、SH3_3(細菌SH3ドメイン、pfam08239)、SH3b(細菌SH3ドメインホモログ、smart00287)、LysM(細胞壁分解に関与する種々の酵素において見出されるLysMドメイン、pfam01476及びcd00118)、PG_結合_1(推定上のペプチドグリカン結合ドメイン、pfam01471)、PG_結合_2(推定上のペプチドグリカン結合ドメイン、pfam08823)、MtlA(ムレイン分解トランスグリコシラーゼ由来のペプチドグリカン結合ドメイン、pfam03462)、Cpl−7(Cpl−7リゾチームのC末端ドメイン、pfam08230)、CW_結合_1(推定上の細胞壁結合リピート、pfam01473)、LytB(推定上の細胞壁結合ドメイン、COG2247)、及びLytE(LysMリピート、COG1388)から構成される群より選択される少なくとも1つの細胞壁に結合する領域を含む。
ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドには、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドとの融合タンパク質や、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドに公知のタンパク質タグ、公知のシグナル配列等が付加されてなるタンパク質も包含される。また、ペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドは、正常に機能する限り、公知のタンパク質の一部であってもよい。
エンドリシンは、dsDNAファージの後期遺伝子領域にコードされ、及び溶解性増殖サイクルの終わりに産生される細胞壁溶解酵素である。同様の酵素はまた、細菌ゲノム中に組み込まれたプロファージゲノム内でも見出される。それらの機能は内側からの細菌ペプチドグリカンの分解であり、宿主細胞の溶解及びファージ子孫の放出をもたらす。ペプチドグリカン内の異なる標的結合に従い、エンドリシンは5つのクラスに分類することができる:両方ともグリコシダーゼであり、かつグリカン鎖の2つのβ−1,4−グリコシド結合の1つをそれぞれ切断する(i)N−アセチル−β−D−ムラミダーゼ(リゾチームとしても公知である)及び(ii)N−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ;(iii)ムラミダーゼと同様の結合を切断するが、異なる機構による溶解性トランスグリコシラーゼ;(iv)グリカンとペプチド部分との間を切るN−アセチルムラモイル−L−アラニンアミダーゼ;及び(v)ペプチド部分内部を切断するエンドペプチダーゼ。溶解性トランスグリコシラーゼを除くすべてのエンドリシンはヒドロラーゼである。同様の酵素活性はまた、それ自身の細胞壁又は密接に関連した細菌の細胞壁を溶解する細菌酵素、いわゆるオートリシン、及びバクテリオシンなどの他の細菌細胞壁溶解ポリペプチドにおいても見出される。細菌オートリシンは、細胞壁リモデリング、細胞分裂、形質転換において、又は病原性因子として重要な役割を果たす細胞壁溶解酵素である。それらは一緒にペプチドグリカン溶解酵素としてまとめることができる。
本実施形態において、組換え細胞は細胞質において細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している。組換え細胞は、細胞質以外において細菌溶解活性を有するポリペプチドをさらに発現していてもよい。細胞質以外において発現する細菌溶解活性を有するポリペプチドとしては、例えば、内膜及び外膜にアンカーされるλファージの溶菌因子であるRz(i−spanin、GenBankのGeneID:2703481)及びRz1(o−spanin、GenBankのGeneID:5739319)が挙げられる。細胞溶解活性を有するポリペプチドとしてλファージの溶菌因子であるRを用いる場合には、Rz及び/又はRz1を共発現させることでRのみを発現させる場合と比較して溶菌がより促進される。
(組換え細胞)
本実施形態に係る組換え細胞は、目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している。組換え細胞は、目的タンパク質、細菌溶解活性を有するポリペプチド又は両方を発現するように組換え操作をした細胞を意味する。本実施形態に係る組換え細胞は、例えば、目的タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現カセット、及び細菌溶解活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現カセットを導入することで宿主を形質転換することにより得ることができる。また、本実施形態に係る組換え細胞は、例えば、目的タンパク質をコードする核酸配列と、細菌溶解活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列と、核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現カセットを導入することで宿主を形質転換することにより得ることもできる。また、本実施形態に係る組換え細胞は、例えば、細菌溶解活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列と、核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現カセットを、目的タンパク質を発現する細胞に導入することで形質転換することにより得ることもできる。以下、発現カセットが導入された宿主細胞を、本明細書においては「組換え細胞」ともいう。
発現カセットを宿主細胞に導入する方法としては、例えば、発現カセットを導入した発現ベクターを宿主細胞に形質転換させる方法、及び上記発現ベクター又は本発現カセットを宿主細胞のゲノムDNAに直接組み込む方法が挙げられる。目的タンパク質の発現カセット、細菌溶解活性を有するポリペプチドの発現カセット、及び後述する核酸分解酵素の発現カセットは宿主細胞のゲノムDNAに組み込むことが好ましい。
発現カセットを導入した発現ベクターを宿主細胞に形質転換させる方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、プラスミドを用いて発現ベクターを宿主細胞に形質転換させることが挙げられる。例えば、上記方法により発現カセットを大腸菌に導入することで、組換え大腸菌を製造することができる。
上記発現ベクターあるいは発現カセットを宿主細胞のゲノムDNAへ組み込む方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、λファージの2重鎖切断修復における組換え機構を応用したλred法、Red/ET相同組換え法、pUT−mini Tn5を用いたトランスポゾン活性を利用した転移法が挙げられる。また、例えば、バイオメダル社の「トランスポゾンによる遺伝子導入キット:pUTmini−Tn5 Kit」等を用い、キットに記載の方法に準じて、発現カセットを宿主細胞のゲノムDNAに組み込むことができる。
宿主細胞としては、細菌溶解活性を有するポリペプチドによる細菌溶解の影響を利用する目的から、細菌等の原核生物の細胞を使用することが好ましい。
細菌等の原核生物の宿主細胞としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。原核生物の好ましい例としては、例えば、大腸菌、バチルス・ズブチリス、シュードモナス、コリネバクテリウム、及びラクトコッカス等を挙げることができる。
エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ BL21(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ BL21(DE3)(ライフテクノロジーズ社)、エシェリヒア・コリ BLR(DE3)(メルクミリポア社)、エシェリヒア・コリ DH1、エシェリヒア・コリ GI698、エシェリヒア・コリ HB101、エシェリヒア・コリ JM109、エシェリヒア・コリ K5(ATCC 23506)、エシェリヒア・コリ KY3276、エシェリヒア・コリ MC1000、エシェリヒア・コリ MG1655(ATCC 47076)、エシェリヒア・コリ No.49、エシェリヒア・コリ Rosetta(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ TB1、エシェリヒア・コリ Tuner(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ Tuner(DE3)(ノバジェン社)、エシェリヒア・コリ W1485、エシェリヒア・コリ W3110(ATCC 27325)、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli) XL1−Blue、エシェリヒア・コリ XL2−Blue等を挙げることができる。宿主細胞は、大腸菌(Escherichia coli)であることが好ましい。
上記宿主細胞への発現カセットの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA,69,2110 (1972)〕、プロトプラスト法(特開昭63−248394号公報)、又はGene,17,107(1982)やMolecular & General Genetics,168,111(1979)に記載の方法等を挙げることができる。
ブレビバチルス属に属する微生物の形質転換は、例えば、Takahashiらの方法(J.Bacteriol.,1983,156:1130−1134)や、Takagiらの方法(Agric.Biol.Chem.,1989,53:3099−3100)、又はOkamotoらの方法(Biosci.Biotechnol.Biochem.,1997,61:202−203)により実施することができる。
発現カセットを導入するベクター(以下、単に「ベクター」ともいう。)の種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。ベクターとしては、例えば、pBTrp2、pBTac1、pBTac2(いずれもベーリンガーマンハイム社より市販)、pKK233−2(Pharmacia社製)、pSE280(Invitrogen社製)、pGEMEX−1(Promega社製)、pQE−8(QIAGEN社製)、pKYP10(特開昭58−110600号公報)、pKYP200〔Agric.Biol.Chem.,48,669(1984)〕、pLSA1〔Agric.Biol.Chem.,53,277(1989)〕、pGEL1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4306(1985)〕、pBluescript II SK(−)(Stratagene社製)、pTrs30〔Escherichiacoli JM109/pTrS30(FERM BP−5407)より調製〕、pTrs32〔Escherichia coli JM109/pTrS32(FERM BP−5408)より調製〕、pGHA2〔Escherichia coli IGHA2(FERM B−400)より調製、特開昭60−221091号公報〕、pGKA2〔Escherichia coli IGKA2(FERM BP−6798)より調製、特開昭60−221091号公報〕、pTerm2(米国特許4686191号、米国特許4939094号、米国特許5160735号)、pSupex、pUB110、pTP5、pC194、pEG400〔J.Bacteriol.,172,2392(1990)〕、pGEX(Pharmacia社製)、pETシステム(Novagen社製)等を挙げることができる。
宿主細胞として大腸菌を用いる場合は、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold等を好適なベクターとして挙げることができる。
ブレビバチルス属に属する微生物に好適なベクターの具体例として、枯草菌ベクターとして公知であるpUB110、又はpHY500(特開平2−31682号公報)、pNY700(特開平4−278091号公報)、pHY4831(J.Bacteriol.,1987,1239−1245)、pNU200(鵜高重三、日本農芸化学会誌1987,61:669−676)、pNU100(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1989,30:75−80)、pNU211(J.Biochem.,1992,112:488−491)、pNU211R2L5(特開平7−170984号公報)、pNH301(Appl.Environ.Microbiol.,1992,58:525−531)、pNH326、pNH400(J.Bacteriol.,1995,177:745−749)、pHT210(特開平6−133782号公報)、pHT110R2L5(Appl.Microbiol.Biotechnol.,1994,42:358−363)、又は大腸菌とブレビバチルス属に属する微生物とのシャトルベクターであるpNCO2(特開2002−238569号公報)等を挙げることができる。
発現ベクターが非組込みベクターの場合、さらに自己複製配列(ARS)を含むことが好ましい。これにより細胞内における発現ベクターの安定性を向上させることができる(Myers、A.M.、et al.(1986)Gene 45:299−310)。
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
プロモーターは、下流遺伝子の転写を調節するために細胞転写因子と特異的に相互作用するDNA配列の任意のアレイであり得る。特定のプロモーターの選択は、対象となるタンパク質を発現するためにどの細胞型が使用されるかに依存する。転写調節配列は宿主微生物からのものであり得る。種々の態様において、構成的プロモーター又は誘導性プロモーターが宿主細胞における使用に選択される。宿主細胞に応じて、公知でかつ宿主細胞の機能を操作し得る構成的プロモーター及び誘導性プロモーターを用いることができる。
組換え技術で広く利用されるプロモーターとして、例えば大腸菌(Escherichia coli)のlac及びtrpオペロン、tacプロモーター、バクテリオファージpLプロモーター、バクテリオファージT7プロモーター及びSP6プロモーター、β−アクチン・プロモーター、インスリン・プロモーター、バキュロウイルス・ポリヘドリン及びp10プロモーターが利用され得る。
本明細書において、構成的プロモーターとは、常に一定レベルで転写を行なっているプロモーターをいう。構成的プロモーターには、IPTG等に代表される誘導物質を用いて誘導することなく、プロモーターの下流に配置された遺伝子を発現させることができるプロモーターが含まれる。さらに、定常的・連続的に活性である誘導性プロモーターは、同様に構成的プロモーターとして作用することができるため、本明細書においては構成的プロモーターに含まれる。例えば、クロストリジウム・アセトブティリキュムからのhydA遺伝子のプロモーターのように環境pHにより発現が調節されるプロモーター、及び温度調節プロモーターも構成的プロモーターに含まれる。
構成的プロモーターとしては、例えば、バクテリオファージ・ラムダのintプロモーター、pBR322のβ−ラクタマーゼ遺伝子配列のblaプロモーター、クロストリジウムのhydA又はthlA、ストレプトマイセス・コエリコロル(Streptomyces coelicolor)hrdB、又はwhiE、pPR325のクロラムフェニコール・アセチル・トランスフェラーゼ遺伝子配列のCATプロモーター、ブドウ球菌(Staphylococcal)構成的プロモーターblaZ、人工的に構築された構成的プロモーター(Mutalik,V.K. et. al Nat Methods 2013 10(4) 354−360 Precise and reliable gene expression via standard transcription and translation initiation elements.)等が挙げられる。
また、特定の細胞培養条件下などの制御様式で下流遺伝子の発現を調節する誘導性プロモーターを使用してもよい。原核生物誘導性プロモーターの例は、バクテリオファージの主要な右及び左プロモーターのtrp、recA、lacZ、AraC、及び大腸菌のgalプロモーター、枯草菌のα−アミラーゼ(Ulmanen Ett at., J. Bacteriol. 162:176−182, 1985)及びσ−D特異的プロモーター(Gilman et al., Gene sequence 32:11−20(1984))、バチルスのバクテリオファージのプロモーター(Gryczan, In: The Molecular Biology of the Bacilli, Academic Press, Inc., NY (1982))、ストレプトマイセスのプロモーター(Ward et at., MoI. Gen. Genet. 203:468−478, 1986)などを含む。例示的な原核生物プロモーターは、Glick(J. Ind. Microtiot. 1 :277−282, 1987);Cenatiempo(Biochimie 68:505−516, 1986);及びGottesrnan(Ann. Rev. Genet. 18:415−442, 1984)に概説される。
本実施形態において、組換え細胞は、構成的プロモーターにより発現が制御される細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している。構成的プロモーターは、細菌溶解活性を有するポリペプチドをコードする遺伝子配列のORFの上流に局在させることができ、構成的であることから、誘導物質による遺伝子発現誘導を行わなくても、目的の遺伝子を効率的に発現させることができる。宿主において構成的プロモーター活性を呈するのであれば、上記例示したプロモーターに限らず使用できる。
(核酸分解酵素)
核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)は、研究室スケールから工業スケールまで、多種多様な場面で使用されている。例えば、ヌクレアーゼを用いれば、その核酸分解活性により細胞抽出液の粘性を下げることができる。そこで、細胞抽出液中のタンパク質その他の目的物質を単離及び精製する際に、ヌクレアーゼを用いれば、プロセス時間の短縮、目的物質の収量向上、遠心分離法による分画の改善(ペレットと上清との分離性)、溶液の円滑なろ過(特に限外ろ過)、クロマトグラフィー工程の効率向上などが期待できる。また、核酸が非特異的に吸着するウイルスやインクルージョンボディなどを単離及び精製する際にヌクレアーゼを用いれば、これらの収率を向上させることが期待できる。さらに、生体試料を解析するためのELISA、クロマトグラフィー、2D−PAGEやフットプリント解析などのサンプル調製にヌクレアーゼを用いれば、不要な核酸による測定誤差を回避できる。
核酸分解酵素(ヌクレアーゼ)としては、RNAを分解するリボヌクレアーゼ(Rnase)とDNAを分解するデオキシリボヌクレアーゼ(Dnase)、並びにRNA及びDNAを分解するヌクレアーゼ等が挙げられる。また、エンドヌクレアーゼ(endonuclease)及びエキソヌクレアーゼ(exonuclease)の両方が含まれる。エキソヌクレアーゼは、5’又は3’末端から順にヌクレオチドをはずしていく酵素であり、エンドヌクレアーゼは、ヌクレオチド鎖の途中を切断する酵素である。ヌクレアーゼにはホスホジエステル結合のどちら側を分解するかで、次の2つがある。DNaseの場合、一本鎖を切断する酵素と、二本鎖を切断する酵素がある。DNaseとしては、例えば、好熱菌由来のTaqI、大腸菌ペリプラズムのEndA、及びウシ膵臓由来のDNaseI遺伝子等が挙げられる。本実施形態においては、デオキシリボヌクレアーゼをコードする遺伝子を含むことが好ましい。
一実施形態に係る目的タンパク質の製造方法及び組換え細胞の溶解方法において、溶菌後の目的タンパク質溶液のゲル化を抑制するため、組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現していることが好ましい。また、組換え細胞が、膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現していることがより好ましい。菌にとっては毒物質である核酸分解酵素を細胞質ではなく、細胞質外に分泌させる、又は細胞のペリプラズム若しくは内膜上に発現させることにより、核酸分解酵素による菌体の生育阻害を最小限に抑制でき、結果として目的タンパク質の収量を向上させることができる。
元々細胞質外に分泌される性質を持つ核酸分解酵素としては、例えば、E. coliのEndA、Staphylococcus aureus由来のミクロコッカスヌクレアーゼが挙げられる。細胞質に保持される性質を持つ核酸分解酵素は、膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列を付加することにより、ペリプラズム又は内膜上で発現させることが好ましい。
シグナル配列(シグナルペプチド)は、原核生物の原形質膜(又は大腸菌のようなグラム陰性菌の内膜)を通してか、真核細胞の小胞体膜を通して、共翻訳的又は翻訳後にポリペプチドの細胞質外への輸送を方向づける能力を機能的な特徴とし得る。(シグナルペプチドが大腸菌のような宿主細胞のペリプラズムにターゲティングするように制御する。)
シグナル配列は、宿主で機能するものであれば、特に制限されない。具体的には、酵母のα因子シグナル配列、E.coliのTorAシグナル配列、E.coliのSufIシグナル配列、E.coliのPelBシグナル配列、E.coliのOmpAシグナル配列、Bacillus subtilisのPhoDシグナル配列、B.subtilisのLipAシグナル配列、Arthrobacter globiformisのIMDシグナル配列が挙げられる(WO2013/118544)。
内膜結合配列は、細胞膜又は内膜へ結合する機能を持つ配列である。例えば、脂質と結合することができる配列であってもよく、膜タンパク質と結合することができる配列であってもよく、膜結合の機能を持つシグナルアンカー配列であってもよい。
核酸分解酵素は、膜通過シグナル配列又は内膜結合配列を含む核酸分解能を有するポリペプチドを発現させるための発現カセットを宿主細胞に導入することで、宿主細胞のペリプラズム又は内膜上に発現させることができる。例えば、核酸分解酵素をコードするヌクレオチド配列を、本明細書中で述べるシグナル配列(膜通過シグナル配列又は内膜結合配列)をコードする配列に作動可能に連結させることで、宿主細胞のペリプラズム又は内膜上に発現させることができる。
また、宿主細胞の中には、膜通過シグナル配列又は内膜結合配列を含む核酸分解酵素をコードする核酸配列を有する(ただし発現はしていない)ものも存在する。宿主細胞に元々含まれている核酸分解酵素を以下「内在性の」核酸分解酵素ともいう。例えば、宿主細胞のゲノムに存在する(内在性の)膜通過シグナル配列又は内膜結合配列を含む核酸分解酵素をコードするポリヌクレオチドの上流に、プロモーター配列を導入することにより、膜通過シグナル配列又は内膜結合配列が付加された核酸分解酵素を発現させることもできる。上記プロモーター配列を導入することで、内在性の膜通過シグナル配列又は内膜結合配列を含む核酸分解酵素を宿主細胞のペリプラズム又は内膜上に発現させることができる。
プロモーター配列を宿主細胞のゲノムに存在する(内在性の)核酸分解能を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの上流に導入する方法としては、公知の方法を使用することができ、例えば、λファージの2重鎖切断修復における組換え機構を応用したλred法、Red/ET相同組換え法、導入するプロモーターとしては、上記の内在性ポリペプチドを発現させることができるプロモーターであれば、本明細書中に記載されたプロモーターを含むいかなるプロモーターも使用することができるが、どのような発現系とも容易に組み合わせることができるため、構成的プロモーターが好ましい。
グラム陰性細菌は、それらの二重膜を横断するタンパク質の能動輸送のために数多くの系を進化させてきた。これらの分泌経路は、例えば、形質膜と外膜の両方を横断する1ステップトランスロケーションのためのABC(I型)経路、Path/Fla(III型)経路、及びPath/Vir(IV型)経路;形質膜を横断するトランスロケーションのためのSec(II型)、Tat、MscL及びHolins経路;及び形質膜と外膜を横切る2ステップトランスロケーションのためのSecプラスフィンブリアル・アッシャー・ポーリン(fimbrial usher porin)(FUP)経路、Secプラス自己輸送体(autotransporter)(AT)経路、Secプラス2パートナー分泌(TPS)経路、Secプラスメイン・ターミナル・ブランチ(main terminal branch)(MTB)経路、及びTatプラスMTB経路を含む。
前記3つのタンパク質系(I型、III型及びIV型)は、1つのエネルギー共役工程において、両方の膜を横断してタンパク質を分泌する。4つの系(Sec、Tat、MscL及びHolins)は、内膜のみを横断して分泌し、他の4つの系(MTB、FUP、AT及びTPS)は外膜のみを横断して分泌する。本実施形態においては、ペリプラズムに輸送される、すなわちII型分泌系を用いることが好ましい。
膜通過シグナル配列又は内膜結合配列を付加した核酸分解酵素の発現カセットは、細胞内で膜通過シグナル配列が付加される核酸分解酵素を発現可能なポリヌクレオチドである限り特に制限されない。該発現カセットの典型例としては、プロモーター、及び該プロモーターの制御下に配置されたレポータータンパク質コード配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。
膜通過シグナル配列又は内膜結合配列が連結された少なくとも一つの核酸分解酵素発現カセットを細胞に導入する方法は、特に制限されず、例えば、発現ベクターを使用した方法等当業者に周知の方法を用いることができる。
発現ベクターは、例えば、該DNAを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。また、発現ベクターは、所望によりターミネーター、リプレッサー、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性相補遺伝子等の選択マーカー、宿主で機能し得る複製起点などを含有することができる。
核酸分解酵素の発現を制御するプロモーターとしては、宿主細胞中で機能するものであれば制限されない。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター、T7プロモーター等の大腸菌又はファージ等に由来するプロモーター、Ptrpを2つ直列させたプロモーター(Ptrp×2)、tacプロモーター、lacT7プロモーター、lacT7.1プロモーター、lacT7.2プロモーター、lacT7.3プロモーター、lacT7.4プロモーター、lacT7.5プロモーター、let Iプロモーターのように人為的に設計改変されたプロモーター、araBADプロモーター、rhaBADプロモーター、xylFプロモーター、xylAプロモーター、phoAプロモーター、cstAプロモーター及びcstA−lacZプロモーター、ヘキソースキナーゼ等の解糖系の遺伝子のプロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal 1プロモーター、gal 10プロモーター、ヒートショックポリペプチドプロモーター、MFα1 プロモーター、CUP 1プロモーター、pGAPプロモーター、pGCW14プロモーター、AOX1プロモーター、MOXプロモーター等を用いることができる。人工的に構築された構成的プロモーター(Mutalik,V.K. et. al,Nat Methods 2013 10(4)354−360)を用いることもできる。核酸分解酵素は構成的プロモーターにより発現が制御されていることが好ましい。
(物理的又は化学的な外部刺激)
物理的又は化学的な外部刺激は、細胞の内膜を傷つけることができれば、特に限定されない。物理的な外部刺激としては、例えば、超音波破砕装置、フレンチプレス及びホモジェナイザー等による破砕、凍結融解及び低浸透圧が挙げられる。また、化学的な外部刺激としては、例えば、タンパク質の抽出試薬を用いた方法、界面活性剤処理、酵素処理等の方法を組み合わせた処理等が挙げられる。
細菌溶解活性を有するポリペプチドが外部刺激によりペリプラズムに漏出し、自己溶菌が引き起こされることが好ましい。したがって、細胞の外膜や細胞壁を直接的に破壊するのではなく、細胞の内膜を中心に傷つけることが可能である、例えば以下の(1)〜(3)のいずれかによる外部刺激が好ましい。以下の(1)〜(3)は、さらに安価かつ簡便である。
(1)細胞を含む液にキレート剤、界面活性剤又はクロロホルムを添加する方法
(2)細胞を凍結融解することで内膜を傷つける方法
(3)低浸透圧にする方法
細胞を含む液としては、例えば、培養液をそのまま用いてもよく、遠心等により細胞を濃縮・懸濁した液を用いてもよい。
キレート剤としては、例えば、EDTA、クエン酸が挙げられる。界面活性剤としては、例えば、Triton−X100、及びSDS等が挙げられる。細胞を含む液に、例えば、EDTA及びTritonの混合溶液を用いてもよい。キレート剤、界面活性剤及びクロロホルムの添加量は、細胞の内膜を傷つける濃度であれば特に制限されず、適宜調整することができる。
細胞を凍結融解する方法は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、−20℃で凍結した後に37℃で融解する方法が挙げられる。凍結融解は一回行ってもよく、複数回繰り返し行ってもよい。
低浸透圧にする方法は、当業者に公知の方法により行うことができる。低浸透圧は、例えば、培養液を(10倍に)希釈する、遠心の後に水に懸濁する等の方法であってよい。
(組換え細胞を溶解する工程)
組換え細胞を溶解する工程は、目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることを含む。細菌溶解活性を有するポリペプチドは組換え細胞の細胞質において発現する。物理的又は化学的な外部刺激を組換え細胞に与えることで、組換え細胞の内膜に傷がつき、細菌溶解活性を有するポリペプチドが内膜外に漏出し、上記ポリペプチドの細菌溶解活性により組換え細胞の溶解(自己溶菌)が引き起こされる。細菌溶解活性を有するポリペプチドがペリプラズムに漏出し、自己溶菌が引き起こされることが好ましい。また、組換え細胞の溶解は、目的タンパク質が所望の量得られたタイミングで行われることが望ましい。
細胞が溶解しているか否かは、例えば、溶菌処理の前後で乾燥菌体重量(dry cell weight、DCW)が減少している場合に細胞が溶解していると判断することができる。また、粒子径が減少している場合に細胞が溶解していると判断することもできる。
(目的タンパク質を回収する工程)
目的タンパク質を回収する方法は、通常用いられている方法で行うことができる。目的とするタンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、組換え細胞が溶解した溶解液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用することで、精製標品を得ることができる。
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル−トヨパール(東ソー)、DEAE−トヨパール(東ソー)、セファデックスG−150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
また、目的とするタンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に組換え細胞が溶解した無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる沈殿画分として目的とするタンパク質の不溶体を回収することができる。回収した目的とするタンパク質の不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により目的とするタンパク質の精製標品を得ることができる。
また、培養上清から目的とするタンパク質を回収することもできる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
(自己溶解することを特徴とする組換え細胞)
一実施形態に係る組換え細胞は、細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現し、物理的又は化学的な外部刺激を与えられることにより自己溶解することを特徴とする。ここで、上記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御され、上記ポリペプチドは上記組換え細胞の細胞質において発現し、上記細胞は誘導性プロモーターにより発現が制御されるホリンを含まない。
上記組換え細胞は、誘導性プロモーターにより発現が制御されるホリンを含まない。誘導性プロモーターについては上述したとおりである。上記組換え細胞は、誘導性プロモーターによりホリン遺伝子の転写が制御され、結果としてホリンの発現が制御される態様を含まない。
上記組換え細胞の他の構成については、目的タンパク質の製造方法及び組換え細胞の溶解方法に関して上述したとおりである。
[実施例1]
<ペプチドグリカン分解酵素(エンドリシン)発現ベクター>
本実施例では、ペプチドグリカン分解酵素としてλファージのRを、ヌクレアーゼとして大腸菌のendonuclease I(endA遺伝子がコードする、配列番号2)を用いた。Rを細胞質、endonuclease Iをペリプラズムでそれぞれ発現させることで、内膜により、それぞれのターゲットであるペプチドグリカン及び染色体DNAから隔てられた状態となる。具体的なコンストラクトは図1に示す。Rz(i−spanin)及びRz1(o−spanin)は内膜及び外膜にアンカーされるλファージの溶菌因子であり、Rのみを発現した場合よりも溶菌が促進される。溶菌モジュールは[転写プロモーター]−R−Rz−Rz1というカセットを構成的プロモーター(P3プロモーター)の下流に組み込んで作製した。マーカーとしてカナマイシンを連結し、ゲノムに挿入した後は部位特異的組み換えによってマーカーのみを除去できるよう、マーカーの両端にFLPリコンビナーゼによって認識されるFRT配列を挿入した。
上記カセットの両端に大腸菌ゲノムと相同の配列を持たせ、ゲノム上のendA遺伝子のプロモーターと構造遺伝子の間に、相同組み換えによってこのカセットを挿入することで、溶菌モジュールとペリプラズムにおいて発現する核酸分解酵素が、上記プロモーターによって制御される株を構築した。上記構造はBW25113株で最初に構築した後、BL21 star(DE3)にP1 transductionで導入した。
プロモーターとして構成的プロモーター(P3プロモーター)を、耐性マーカーとしてカナマイシン耐性遺伝子を用いたコンストラクトを配列1に示した。
(配列1に関連する遺伝子情報)
P3プロモーター:aaaaaatttatttgcttattaatcatccggctcgtataatgtgtgga(配列番号3)
R:atggtagaaatcaataatcaacgtaaggcgttcctcgatatgctggcgtggtcggagggaactgataacggacgtcagaaaaccagaaatcatggttatgacgtcattgtaggcggagagctatttactgattactccgatcaccctcgcaaacttgtcacgctaaacccaaaactcaaatcaacaggcgccggacgctaccagcttctttcccgttggtgggatgcctaccgcaagcagcttggcctgaaagacttctctccgaaaagtcaggacgctgtggcattgcagcagattaaggagcgtggcgctttacctatgattgatcgtggtgatatccgtcaggcaatcgaccgttgcagcaatatctgggcttcactgccgggcgctggttatggtcagttcgagcataaggctgacagcctgattgcaaaattcaaagaagcgggcggaacggtcagagagattgatgtatga(配列番号4)
Rz:atgagcagagtcaccgcgattatctccgctctggttatctgcatcatcgtctgcctgtcatgggctgttaatcattaccgtgataacgccattacctacaaagcccagcgcgacaaaaatgccagagaactgaagctggcgaacgcggcaattactgacatgcagatgcgtcagcgtgatgttgctgcgctcgatgcaaaatacacgaaggagttagctgatgctaaagctgaaaatgatgctctgcgtgatgatgttgccgctggtcgtcgtcggttgcacatcaaagcagtctgtcagtcagtgcgtgaagccaccaccgcctccggcgtggataatgcagcctccccccgactggcagacaccgctgaacgggattatttcaccctcagagagaggctgatcactatgcaaaaacaactggaaggaacccagaagtatattaatgagcagtgcagatag(配列番号5)
Rz1: atgctaaagctgaaaatgatgctctgcgtgatgatgttgccgctggtcgtcgtcggttgcacatcaaagcagtctgtcagtcagtgcgtgaagccaccaccgcctccggcgtggataatgcagcctccccccgactggcagacaccgctgaacgggattatttcaccctcagagagaggctga(配列番号6)
<目的タンパク質発現カセットの導入>
上記のペプチドグリカン分解酵素発現ベクターを導入した大腸菌BL21 star(DE3)におけるmanX遺伝子を、T7プロモーター下流にスパイダーシルクタンパク質(Spider Silk Protein;SSP、配列番号1)遺伝子を結合したSSP発現ユニットと置き換えた。
<目的タンパク質の生産及び溶菌>
上述のように、BL21 star(DE3)株をベースとしたG11株を作製した。G11株は、図1のコンストラクトに配列1を含んでいる。
上記形質転換大腸菌G11株を、2mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液を100mLのシード培養用培地(表1)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまで約15時間のフラスコ培養を行い、シード培養液を得た。
当該シード培養液を500mLの生産培地(表2)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養の間、培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持した。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455g/1L、Yeast Extract 120g/1L)を0.1mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持しながら、培養を行った。その後、1Mのイソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1mMになるよう添加し、SSP(目的のタンパク質)を発現誘導させた。IPTG添加後24時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後24時間の培養液から調製した菌体を用いてSDS−PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドを定量し、目的とするタンパク質の発現を確認した。
誘導24時間後におけるコントロール(他の株と同様のSSPを発現するが、ペプチドグリカン分解酵素を発現するベクターは導入されていない)のSSPの生産量(g/L)を100%とした場合の、G11株の誘導0時間後及び誘導24時間後における生産性(%)を算出した。結果を図2に示す。G11株の誘導24時間後におけるタンパク質の生産性はコントロールと比較して低下しておらず、溶菌モジュールの存在により、目的タンパク質の生産が悪影響を受けないことが分かった。
(外部刺激)
回収した培養液を遠心処理した後、上清を捨てて、所定の濃度にした試薬溶液を加え、菌体ペレットを懸濁した。この際、元の体積になるように試薬溶液を加えている。外部刺激としては、終濃度1%のTriton及び100mM EDTAの混合溶液を用い、反応のため3時間放置した。また、ホモジェナイザー処理は60MPaの圧力で行なった。
(溶菌の確認)
菌体の溶菌の確認は、乾燥菌体重量(dry cell weight、DCW)の増減に基づき判断した。基準となるコントロール株(他の株と同様のSSPを発現するが、ペプチドグリカン分解酵素を発現するベクターは導入されていない)を用意して、溶菌処理の前後でDCWがコントロール株よりも減少していることを溶菌の指標とした。また、粒子径を測定することで溶菌の程度を確認した。粒子は、細胞及び細胞残渣若しくは断片を含み得る。
DCWは具体的には以下のように求めた。5mL分の菌体が懸濁されたサンプル溶液を回収し、遠心(20℃、3,000g、15分)した後、上清を捨てた。5mLの0.9% NaClを菌体ペレットに加えて、懸濁し、同条件で遠心した。再び上清を除いた菌体ペレットを凍結後、凍結乾燥機により72時間乾燥させた。これを精密電子天秤により計量し、事前に計量した容器の重さを除くことで乾燥菌体重量[g/L]を求めた。DCWはSSPの生産量も反映されるため、SSPの量を除いたDCWで株間の溶菌の程度を評価した。
培養終了後(誘導24時間後)の菌体溶液のDCWを基準として、それに対する各処理後のDCWの割合を算出した。結果を図3に示す。
また、各処理後の粒子径を測定した結果を図4に示す。横軸は粒子径であり、縦軸はある粒子径の集団が全粒子体積に占める割合を示す。0.65μm以下でグラフが切れているのは測定下限値に由来する。
上記DCW及び細胞系の結果から、EDTA及びTritonの混合溶液を用いた場合には、コントロール株をホモジェナイザーで処理した場合と同程度か、それ以上の効果が得られることが示された。
[実施例2]
CZモジュール(P3プロモーター−RRzRz1−endA)をBL21 star(DE3)株に導入して作製したCZ1を、核酸分解酵素発現ベクターで形質転換した(CZ1 BL21 pSAompA2nucS)。また、比較として、nucSに代えて、periplasmicに発現するmRFP1を用いた発現ベクターで形質転換した株も作製した(CZ1 BL21 pSAompA1mRFP1)。各発現ベクターの詳細を以下に示す。
<核酸分解酵素発現ベクター>
本実施例では、核酸分解酵素としてStreptomyces属細菌由来のnucSの構造遺伝子を用い、大腸菌ompA遺伝子由来のシグナルペプチドを融合した分泌型タンパク質が、構成的プロモーターによって転写させる遺伝子を構築した。
具体的には、pSAum(pSC101 ori アンピシリン耐性プラスミド)を骨格とし、大腸菌ompAのシグナルペプチド部分と、人工合成したnucSの構造遺伝子をPCRによって増幅、単離し、Gibson assembly法によって結合した。これをpSC101由来プラスミドに導入して核酸分解酵素発現ベクターを作製した。(図5)
(核酸分解酵素発現ベクターに関連する遺伝子情報)
構成的プロモーター(P3):
aaaaaatttatttgcttattaatcatccggctcgtataatgtgtgga(配列番号7)
ompAシグナルペプチド:
atgaaaaagacagctatcgcgattgcagtggcactggctggtttcgctaccgtagcgcaggcc(配列番号8)
nucS(core):
gcacttcctacacccgtgtcggccgctactgctaggggatatttggcttcattgaaggtagcaccagagaatagaacagggtataaacgggatctttttccccactggataacccaatccgggacctgcaataccagggagacggtactgaagagggatggaactaatgttgttacagatgctgcgtgcgcagccacttcgggttcgtggtactccccttttgatggggccacatggacggctgcatcagacgtagacatcgaccatcttgttccgttggcggaggcgtgggattcaggcgcgtcagcctggactaccgctcaacgacaggcctttgcgaacgatctaactagaccacagttactcgctgtcacagatacagtaaatcagtctaaaggagataaggaccctgctgagtggatgcccccgagggcggcctatcactgcacgtatgtaagagcatgggtacaagtcaagtactactatgggctatcggtggacaccgccgagaaaactgccctaacgaatcgtcttgctggttgttaa(配列番号9)
<mRFP1発現ベクター>
上記核酸分解酵素発現ベクターと同様にmRFP1発現ベクターを作製した(図6)。
(mRFP1発現ベクターに関連する遺伝子情報)
構成的プロモーター(P3):
aaaaaatttatttgcttattaatcatccggctcgtataatgtgtgga(配列番号10)
ompAシグナルペプチド:
atgaaaaagacagctatcgcgattgcagtggcactggctggtttcgctaccgtagcgcaggcc(配列番号11)
mRFP1:
gcttcctccgaagacgttatcaaagagttcatgcgtttcaaagttcgtatggaaggttccgttaacggtcacgagttcgaaatcgaaggtgaaggtgaaggtcgtccgtacgaaggtacccagaccgctaaactgaaagttaccaaaggtggtccgctgccgttcgcttgggacatcctgtccccgcagttccagtacggttccaaagcttacgttaaacacccggctgacatcccggactacctgaaactgtccttcccggaaggtttcaaatgggaacgtgttatgaacttcgaagacggtggtgttgttaccgttacccaggactcctccctgcaagacggtgagttcatctacaaagttaaactgcgtggtaccaacttcccgtccgacggtccggttatgcagaaaaaaaccatgggttgggaagcttccaccgaacgtatgtacccggaagacggtgctctgaaaggtgaaatcaaaatgcgtctgaaactgaaagacggtggtcactacgacgctgaagttaaaaccacctacatggctaaaaaaccggttcagctgccgggtgcttacaaaaccgacatcaaactggacatcacctcccacaacgaagactacaccatcgttgaacagtacgaacgtgctgaaggtcgtcactccaccggtgcttaa(配列番号12)
下記のように、溶菌における核酸分解酵素の効果を検討した。
上記形質転換株を培養したLB培養液を0.1mLとり、15,000rpmで1分間遠心した。遠心後のペレットを0.01mLのbuffer(10mM Tris pH7.5,5mM MgCl2,100mM KCl)に懸濁した。懸濁液にクロロホルムを一滴加えた後、37度で0、5、10及び20分間インキュベートした。0.1mLのTE+0.09% SDS、5% glycerol、0.005% BPBを加えて反応を停止させた。0.01mLをアガロースゲル(0.7%/TAE)を用いて電気泳動した後、EtBr染色によりバンドを確認した。
結果を図7に示す。左から1〜4番目のレーンはCZ1 BL21 pSAompA2nucSのサンプル(NucS)、左から5〜8のレーンはCZ1 BL21 pSAompA1mRFP1のサンプル(コントロール)を示す。0、5、10、20(分)はそれぞれクロロホルムを加えた後のインキュベート時間を示す。クロロホルムを加えて5分間及び10分間インキュベートしたNucSのサンプルは、同時間インキュベートしたコントロールのサンプルと比較して、より多くの核酸が分解されていることが示された。

Claims (15)

  1. 目的タンパク質及び細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現している組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、前記組換え細胞を溶解する工程、並びに
    前記目的タンパク質を回収する工程、
    を含み、
    前記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、
    前記ポリペプチドは前記組換え細胞の細胞質において発現している、
    目的タンパク質の製造方法。
  2. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御されている、請求項4に記載の方法。
  6. 細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現する組換え細胞に、物理的又は化学的な外部刺激を与えることにより、組換え細胞を溶解する工程を含み、
    前記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御されており、
    前記ポリペプチドは前記組換え細胞の細胞質において発現している、
    組換え細胞を溶解する方法。
  7. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、請求項6に記載の方法。
  8. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、請求項6又は7に記載の方法。
  9. 前記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現している、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
  10. 前記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御されている、請求項9に記載の方法。
  11. 細菌溶解活性を有するポリペプチドを発現し、物理的又は化学的な外部刺激を与えられることにより自己溶解することを特徴とする、組換え細胞であって、
    前記ポリペプチドは構成的プロモーターにより発現が制御され、
    前記ポリペプチドは前記組換え細胞の細胞質において発現し、
    誘導性プロモーターにより発現が制御されるホリンを含まない、細胞。
  12. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがペプチドグリカン分解能を有するポリペプチドである、請求項11に記載の細胞。
  13. 前記細菌溶解活性を有するポリペプチドがエンドリシンである、請求項11又は12に記載の細胞。
  14. 前記組換え細胞が、細胞質外に分泌される核酸分解酵素、又は膜通過シグナル配列若しくは内膜結合配列が付加された核酸分解酵素をさらに発現する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の細胞。
  15. 前記核酸分解酵素が構成的プロモーターにより発現が制御される、請求項14に記載の細胞。
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