JP2020050642A - T細胞を活性化するための組成物 - Google Patents

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啓誠 川鍋
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Abstract

【課題】CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための組成物を提供することを課題とする。【解決手段】乳酸菌の菌体外多糖を含む、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための組成物を提供する。乳酸菌の好ましい例は、Lactobacillus属細菌(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073 R-1である。【選択図】なし

Description

本発明は、T細胞を活性化するための、乳酸菌の培養物を含有する組成物に関する。
免疫系は自然免疫と獲得免疫に大別され、自然免疫の手助けによる獲得免疫の活性化が、病原体の排除やがん細胞に対する傷害などには重要である。この特異的で強力な免疫機構は、抗原に対してT細胞が活性化することで引き起こされる。T細胞の活性化を簡便に促進することができれば、非常に有用である。
特許文献1は、ラクトバチルス・リューテリ(Lactobacillus reuteri)株を用いる哺乳類における免疫機能の改善方法を開示する。詳細には、ラクトバチルス・リューテリ株の細胞を含むそしゃく錠剤を28日間摂取した被験者からの回腸生検材料において、有意に高い量のCD4+細胞が存在したとの実験結果に基づき、そのような菌株の細胞を含有する製品を提案する。また特許文献2は、バシラス・コアギュランス(Bacillus coagulans)細菌や、該細菌の断片等を微生物病原体に感染した被験体へ投与する工程を含む、被験体において微生物病原体に対する免疫応答を増強する方法を開示する。詳細には、5億CFUのバシラス・コアギュランスGBI−30、ATCC PTA−6086を含有する1カプセルを生存可能な30日間毎日消費した被検体において、IL−8産生やIFN−γ産生が変化したこと等に基づき、バシラス・コアギュランス細菌を含む組成物を、病原体に対する免疫応答を増強するために用いることを提案している。
一方、乳酸菌は、その醗酵過程で種々の物質を産生するが、その一つが菌体外多糖(Exopolysaccharides; EPS)である。乳酸菌のEPSにはいくつかの生理活性、例えば、自己免疫疾患予防作用(特許文献3)、NK細胞活性化作用(特許文献4)、肺炎球菌感染予防作用(特許文献5)、疲労感の改善作用(特許文献6)、抗インフルエンザ薬による獲得免疫機能低下抑制作用(特許文献7)が知られている。
特表2006-506371号公報 特表2012-525428号公報 特開2000-247895号公報 特開2005-194259号公報 国際公開WO2015/133638 国際公開WO2017/183595 国際公開WO2011/065300
T細胞の活性化による感染症やがんの治療は、従来の細胞毒性作用を示す抗癌剤治療、外科的切除、放射線治療と比較して患者の負担は少ないと考えられる。そして食経験のある物質を有効成分とし、T細胞を活性化することができる組成物があれば望ましいことはいうまでもない。またT細胞が活性化されたことを、簡易に測定できる方法があれば、一層望ましい。
本発明者らは、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1で発酵したヨーグルト、または該乳酸菌により産生される菌体外多糖(Exopolysaccharide:EPS)により、次の知見を得た。
・抗原反応を模したモデルマウスで、EPSの摂取により、脾臓内のCD4+T細胞およびCD8+T細胞の活性化率(CD69発現率)がいずれも増加した。さらに、腫脹したリンパ節内のT細胞を刺激した際に、産生されるIFN−γが顕著に増加した。
・健常高齢者を対象にした臨床試験で、ヨーグルトの摂取により、末梢血中のCD4+TEM細胞およびCD8+TEMRA細胞のいずれも活性化率(CD69発現率)が向上した。また、CD8+T細胞についてはTEM細胞からTEMRA細胞への成熟も認められた。
また、血液検体から末梢血単核細胞(PBMC)を分離してフローサイトメーターでT細胞のCD69発現率を測定するだけで、抗原に対するT細胞の活性化を簡便に判定できることを見出した。リンパ節におけるCD69分子の発現は、T細胞が抗原を認識して活性化する際に一過性に上昇し、活性化マーカーとして広く用いることができる、というのが免疫学の常識であるが、本発明者らは、血液中T細胞のCD69分子の発現も、リンパ節における抗原への反応を反映しており、リキッドバイオプシーとして有用であることを見出した。
このような知見に基づき、本発明を完成した。本発明は、以下を提供する。
[1] 乳酸菌の菌体外多糖を含む、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための組成物。
[2] CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高めるための、1に記載の組成物。
[3] CD69発現率が、被験者に由来する末梢血T細胞の分析値に基づく値である、2に記載の組成物。
[4] CD8+TEMからCD8+TEMRAへの成熟を促進するための、1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
[5] 乳酸菌が、ラクトバチルス属に分類されるものである、1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
[6] 乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスに分類されるものである、1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
[7] 発酵乳である、1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
[8] 感染症またはがんの発症リスクを低減するための 非医療的方法であって、有効量の乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に摂取させ、対象におけるCD4+T細胞、およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高める工程を含む、方法。
[9] 乳酸菌の菌体外多糖を用いる、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高める方法(ヒトに対する医療行為を除く。)。
また、本発明は、以下も提供する。
[10]乳酸菌の菌体外多糖、またはこれを含む組成物を対象に(経口)投与する(摂取させる)工程を含む、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための方法。
[11]CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための組成物の製造における、乳酸菌の菌体外多糖の使用。
[12]CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方の活性化方法において使用するための、乳酸菌の菌体外多糖、またはそれを含む組成物。
[13]乳酸菌の菌体外多糖、またはそれを含む組成物を対象に(経口)投与する(摂取させる)工程を含む、対象におけるCD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方の活性化方法。
[15]乳酸菌の菌体外多糖、またはそれを含む組成物を対象に(経口)投与する(摂取させる)工程を含む、対象におけるCD69発現率を向上させる、非治療的方法。
[16]乳酸菌の菌体外多糖と医薬として許容可能な添加物を配合する工程を含む、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方の活性化のための組成物の製造方法。
本発明はまた、以下も提供する。
[17]末梢血T細胞のCD69の、バイオマーカーとしての使用。
[18]抗原特異的な活性化の指標としての、17に記載の方法。
[19]抗原特異的な免疫活性化の検査のための方法であって、末梢血T細胞におけるCD69を分析する工程を含む、方法。
本発明によれば、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方の活性化を効果的に促進できる。
本発明の組成物の摂取・投与により、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方の活性化を効果的に促進できるために、対象において腫瘍の増殖抑制や病原菌排除の促進が期待できる。
本発明により、血液中T細胞のCD69の、リキッドバイオプシーとしての用途が提供される。
A:EPSを経口投与したマウスのリンパ節T細胞刺激時のIFN−γ産生、B:EPSを経口投与したマウスの脾臓細胞のCD69発現率。 A:発酵乳を摂取した対象の末梢血CD8+T細胞におけるTEMの存在比率、B:発酵乳を摂取した対象の末梢血CD8+T細胞におけるTEMRAの存在比率、C:発酵乳を摂取した対象の末梢血CD4+TEMにおけるCD69発現率、D:発酵乳を摂取した対象の末梢血CD8+TEMRAにおけるCD69発現率(点線:対照群、実線:発酵乳群)。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、乳酸菌の産生する菌体外多糖(EPS)を有効成分とする組成物に関する。より詳細には、EPSを有効成分とし、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方(以下、「CD4+/CD8+T細胞」という。)を活性化するための組成物に関する。
[有効成分]
本発明の組成物は、有効成分として乳酸菌のEPSを含む。
乳酸菌とは、ブドウ糖を資化して対糖収率で50%以上の乳酸を生産する微生物の総称で、生理学的性質としてグラム陽性菌の球菌または桿菌で、運動性なし、多くの場合胞子形成能なし(バシラス・コアギュランスのように胞子形成能のある乳酸菌もある。)、カタラーゼ陰性などの特徴を有しているものである。乳酸菌は古来、発酵乳等を介して世界各地で食されており、極めて安全性の高い微生物といえる。乳酸菌は、複数の属に分類される。本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)属に分類されるラクトバチルス属乳酸菌により産生されたものである。
本発明の組成物に用いられるEPSは、目的の効果を有する限り、特に限定されない。乳酸菌が産生するEPSは、構造的に、ホモ多糖であるものとヘテロ多糖であるもの(例えば、ガラクトースとグルコースから構成されるもの)に分類され、リン酸化や硫酸化などの修飾を受けている場合もあるが、いずれも本発明の組成物の有効成分として用いることができる。好ましいEPSの例の一つは、中性多糖体、および中性多糖体にリン酸基が付加した酸性多糖体の少なくとも一方を含むものである。このようなEPSは、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)や、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)によって産生されることが知られている。本発明に用いられるEPSは、一種でもよく、2種以上の組み合わせであってもよい。
本発明の組成物に用いられる特に好ましいEPSを産生する乳酸菌の例は、ラクトバチルス属乳酸菌である。ラクトバチルス属乳酸菌としては、例えば、ブルガリクス種、カゼイ種、アシドフィルス種、プランタラム種などが挙げられる。これらのラクトバチルス属乳酸菌の中でも、本発明では、ブルガリクス種に分類される乳酸菌(ブルガリクス菌とも称する)であることが好ましい。さらに、ラクトバチルス属乳酸菌の中でも、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)に分類されるものであることがより好ましい。特に好ましい態様においては、乳酸菌は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1073 R−1菌(受託番号:FERM BP−10741)(「ブルガリクス菌R−1株」と称することがある。)である。すなわち、本発明の組成物に用いられるEPSの特に好ましい例の一つは、ブルガリクス菌R−1株が産生するEPSである。
ブルガリクス菌R−1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許生物寄託センター(IPOD,NITE)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8 122号室)にブタペスト条約に基づき、国際寄託されている(寄託者:株式会社 明治、寄託日:2006年11月29日、受託番号:FERM BP−10741)。
本発明の組成物に含まれる乳酸菌のEPSは、乳酸菌発酵物として含まれていてもよい。乳酸菌発酵物には、乳酸菌による発酵物自体のほか、その処理物が含まれる。乳酸菌発酵物自体には、例えば発酵乳(具体的には、ヨーグルト等)が含まれる。処理物には、例えば、粗精製物、発酵物をろ過、遠心分離、または膜分離で除菌して得られた培養濾液や培養上清液、培養濾液・培養上清液を濃縮した濃縮物、濃縮物の乾燥物が含まれる。
乳酸菌のEPSの調製方法は従来技術を利用することができ、より詳細な条件が必要な場合は、本明細書の実施例等を参照することができる。また、乳酸菌のEPSを乳酸菌発酵物として調製する場合は、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを発酵物中に産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。発酵の際の条件、例えば、原料乳、発酵温度、発酵時間は、用いる乳酸菌がEPSを産生することができれば特に制限されず、当業者であれば、適宜設定することができる。
[用途]
本発明の組成物は、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方(CD4+/CD8+T細胞)を活性化するために用いることができる。本発明に関し、CD4+/CD8+T細胞の活性化を促進するというときは、特に記載した場合を除き、抗原特異的なCD4+/CD8+T細胞の活性化を促進することをいう。CD4+/CD8+T細胞の活性化を促進することには、CD4+/CD8+T細胞においてCD69発現率を高めること、CD8+TEMからCD8+TEMRAへの成熟の進行を促進することが含まれる。
本発明の組成物は、CD4+/CD8+T細胞においてCD69発現率を高めることができる。CD69は、T細胞やB細胞を抗原で刺激すると数時間以内に発現が上昇するために、初期の活性化マーカー分子として、リンパ球の活性化の指標となる。CD69発現率とは、全当該細胞に占めるCD69を発現している細胞の割合をいう。蛍光標識した抗CD69抗体を用いてフローサイトメーターによる検出を行い、全当該細胞における標識細胞の割合として測定できる。CD69発現率、および後述するTEMおよびTEMRAの存在比率の評価において、CD3陽性かつCD4陽性の単核細胞をCD4+T細胞とすることができ、CD3陽性かつCD8陽性の単核細胞をCD8+T細胞とすることができる。
本発明の組成物によるCD69発現率の向上は、脾臓においても確認でき、また末梢血においても確認できる。そのため、CD69発現率は、被験者に由来する末梢血T細胞の分析値に基づく値とすることができる。分析とは、分析対象分子の、存在の有無、および存在する場合はその程度(量)のいずれかを測定することをいう。本発明者らの検討によると、本発明に係るEPSの摂取は、マウスのリンパ節内T細胞のIFN−γ産生を高めるとともに、脾臓においてCD69の発現率を向上させる効果を有した。EPSの摂取はまた、ヒトにおいては末梢血中のT細胞のCD69の発現率を向上する効果を有した。そのためヒトにおける末梢血中のT細胞のCD69の発現率向上の際には、リンパ節内T細胞のIFN−γ産生の向上と脾臓でのCD69の発現率の向上が起こっているはずであり、末梢血中のT細胞のCD69の発現率向上は抗原への反応性の向上を反映していると考えられる。すなわち、血中T細胞のCD69発現率を測定することは、内視鏡や針を使って組織を採取する従来の生検(バイオプシー)に代えて、より採取容易な体液(例えば、血液)を用いて診断や治療効果予測のための技術(リキッドバイオプシー)としても有用である。
本発明の組成物は、CD8+T細胞のTEMからTEMRAへの成熟を促進することができる。すなわち、CD8+TEMRAの存在比率を高めることができる。ヒトのCD8+T細胞は表面マーカーおよび機能(サイトカイン産生や細胞傷害)によって、さらに分類することができる。詳細には、ナイーブT細胞(TN)(CCR7+CD45RA+)、セントラルメモリーT細胞(TCM)(CCR7+CD45RA−)、エフェクターメモリーT細胞(TEM)(CCR7−CD45RA−)、CD45RA+エフェクターメモリーT細胞(TEMRA)(CCR7−CD45RA+)である。TEMRAは、メモリーT細胞のサブセットの中で,分化・成熟の進んだものであるため、より活性化された状態であるといえる。なおCD45RAとCD45ROはアイソフォームであり、CD45RAは、場合によりCD45ROと読み替えることができる。末梢血T細胞リンパ球は、2つの異なるポピュレーション、CD45RA−CD45RO+とCD45RA+CD45RO−に分けることができる。CD45RAはまた、髄質胸腺細胞及びナイーブ/休止期の末梢CD4+リンパ球に発現する。CD45ROは皮質胸腺細胞、CD4+メモリーT細胞サブセット、及び活性化T細胞に発現する。CD45ROは、単球と顆粒球にも弱く発現する。
CD8+TEMとは、CD45RO陽性CCR7陰性であるCD8+T細胞をいう。CD8+TEMRAとは、CD45RO陰性CCR7陰性であるCD8+T細胞をいう。
なお、CD8+TEM存在比率、およびCD8+TEMRA存在比率は、全CD8+T細胞(CD3陽性CD8陽性)におけるTEM細胞(CD45RO陽性CCR7陰性)およびTEMRA細胞(CD45RO陰性CCR7陰性)比率として定義することができる。CD4+T細胞についても同様である。
CD4+/CD8+T細胞の活性化による効果には、例えば、病原体による感染症に対して、感染のリスクを低減する、発症のリスクを低減する、感染した対象において、病原体の増殖を抑制する、病原体や病原体に感染した細胞を殺傷する、がんの発症のリスクを低減する、がん細胞の増殖を抑制する、がん細胞を殺傷する、がんを治癒させる、がんが転移・再発するのを防ぐことが含まれる。病原体の例は、各種の、ウイルス、細菌、真菌、マイコプラズマ、寄生虫等である。がんの例は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がん、尿路上皮がん、メルケル細胞がん等である。本発明の組成物は、これらのいずれに対するCD4+/CD8+T細胞の活性化に関しても、用いることができる。
本発明の組成物は、CD4+/CD8+T細胞の活性化が、感染症やがんの処置のための他の療法と一緒に行われる場合であっても、用いることができる。そのような他の療法には、薬物による療法、手術、放射線治療、他の免疫療法(例えば、サイトカイン療法、免疫賦活剤の投与、免疫細胞移植、等)、健康食品やサプリメントの摂取、運動療法等がある。
なお、本発明の組成物に係る用途からは、次のものを除いてもよい:
・EPSを有効成分とする、抗原で免疫された脾臓細胞を抗原およびEPSを含む培地で培養した際のインターフェロン−γ(IFN−γ)の産生促進に基づく、細胞性免疫活性化組成物;
・CD4αβT細胞、CD8αβT細胞、γδT細胞、Th17細胞、およびILC3細胞からなる群より選択される少なくとも一つの細胞による、IFN−γ産生を促進させるための組成物。
[組成物]
(食品組成物等)
本発明の組成物は、食品組成物または医薬組成物とすることができる。食品および医薬品は、特に記載した場合を除き、ヒトのためのもののみならず、ヒト以外の動物のためのものを含む。食品は、特に記載した場合を除き、一般食品、機能性食品、栄養組成物を含み、また治療食(治療の目的を果たすもの。医師が食事箋を出し、それに従い栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの。)、食事療法食、成分調整食、介護食、治療支援用食品を含む。食品は、特に記載した場合を除き、固形物のみならず、液状のもの、例えば飲料、ドリンク剤、流動食、およびスープを含む。機能性食品とは、生体に所定の機能性を付与できる食品をいい、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)、機能性表示食品、栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセル、液剤等の各種の剤型のもの)、美容食品(例えば、ダイエット食品)等の、健康食品の全般を包含している。また、本発明において「機能性食品」とは、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含している。
(対象)
本発明の組成物は、CD4+/CD8+T細胞の活性化が好ましい対象に、摂取させる・投与するのに適している。このような対象には、乳幼児、子ども、成人(15歳以上)、中高年者、高齢者(65歳以上)、病中病後の者、妊婦、産婦、男性、女性が含まれる。また本発明の組成物は、有効成分が食経験の長いEPSであるため、長期間の摂取に適しているため、日常生活における病気になりにくい体づくりが重要な高齢者に、特に適している。
(投与経路)
本発明の組成物は、それを非経口的に、例えば経管的(胃瘻、腸瘻)に投与してもよいし、経鼻的に投与してもよいし、経口的に投与してもよいが、経口的に投与することが好ましい。
(有効成分の含有量・用量)
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSの含有量は、目的の効果が発揮される量であればよい。組成物は、その被験体の年齢、体重、症状等の種々の要因を考慮して、その投与量または摂取量を適宜設定することができるが、一日量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.1 mg以上とすることができ、0.6 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましく、3 mg以上とすることが特に好ましい。一日量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、500 mg以下とすることができ、300 mg以下とすることが好ましく、250 mg以下とすることが特に好ましい。
1投与または1食あたり、すなわち一回量あたりの乳酸菌のEPSの量は、例えば0.03 mg以上とすることができ、0.2 mg以上とすることが好ましく、1 mg以上とすることがより好ましい。一回量あたりのEPSの量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、200 mg以下とすることができ、100 mg以下とすることが好ましく、70 mg以下とすることがより好ましく、30 mg以下とすることが特に好ましい。
本発明の組成物における、乳酸菌のEPSを発酵乳のような組成物として用いる場合、組成物としての一日量は、例えば30 g以上とすることができ、50 g以上とすることが好ましく、60 g以上とすることがより好ましく、100 g以上とすることが特に好ましい。発酵乳としての一日量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば1500 g以下とすることができ、1200 g以下とすることが好ましく、900 g以下とすることがより好ましく、600 g以下とすることがより好ましい。
組成物としての一回量は、例えば10 g以上とすることができ、20 g以上とすることが好ましく、30 g以上とすることがより好ましい。組成物としての一回量の上限値は、下限値がいずれの場合であっても、例えば500 g以下とすることができ、400 g以下とすることが好ましく、200 g以下とすることがより好ましく、125 g以下とすることが特に好ましい。
組成物は、一日1回の投与・摂取としてもよいし、一日複数回、例えば食事毎の3回の投与としてもよい。組成物は、食経験豊富な乳酸菌のEPSを有効成分としている。そのため、本発明の組成物は、繰り返し、または長期間にわたって摂取してもよく、例えば3日以上、好ましくは1週間以上、より好ましくは4週間以上、特に好ましくは1カ月以上、続けて投与・摂取することができる。
(他の成分、添加剤)
本発明の組成物は、食品または医薬品として許容可能な他の有効成分や栄養成分を含んでいてもよい。そのような成分の例は、アミノ酸類(例えば、リジン、アルギニン、グリシン、アラニン、グルタミン酸、ロイシン、イソロイシン、バリン)、糖質(グルコース、ショ糖、果糖、麦芽糖、トレハロース、エリスリトール、マルチトール、パラチノース、キシリトール、デキストリン)、電解質(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム)、ビタミン(例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビオチン、葉酸、パントテン酸およびニコチン酸類)、ミネラル(例えば、銅、亜鉛、鉄、コバルト、マンガン)、抗生物質、食物繊維、タンパク質、脂質等である。
また組成物は、食品または医薬として許容される添加物をさらに含んでいてもよい。そのような添加物の例は、不活性担体(固体や液体担体)、賦形剤、界面活性剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解補助剤、懸濁化剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、緩衝剤、pH調整剤、乳化剤、安定剤、甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、天然物である。より具体的には、水、他の水性溶媒、製薬上で許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、水溶性デキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、クエン酸、乳酸、りんご酸、酒石酸、リン酸、酢酸、果汁、野菜汁等である。
(剤型・形態)
本発明の医薬組成物は、経口投与に適した、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤等の固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液体製剤、ジェル剤、エアロゾル剤等の任意の剤型にすることができる。
本発明の食品組成物は、固体、液体、混合物、懸濁液、粉末、顆粒、ペースト、ゼリー、ゲル、カプセル等の任意の形態に調製されたものであってよい。また、本発明に係る食品組成物は、乳製品、サプリメント、菓子、飲料、ドリンク剤、調味料、加工食品、惣菜、スープ等の任意の形態にすることができる。より具体的には、本発明の組成物は、乳飲料、清涼飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、タブレット、チーズ、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品等の形態とすることができ、また飲料や食品に混合して摂取するための、顆粒、粉末、ペースト、濃厚液等の形態とすることができる。
(その他)
本発明の組成物の製造において、乳酸菌のEPSの配合の段階は、適宜選択することができる。乳酸菌のEPSの特性を著しく損なわない限り配合の段階は特に制限されない。例えば、製造の初期の段階に、原材料に混合して配合することができる。あるいは、本発明の組成物を発酵乳として実施する場合は、EPSを産生する乳酸菌をスターターとして原料乳に添加し、発酵させ、EPSを産生させることで、EPSを含む発酵乳が製造できる。
本発明の組成物には、CD4+/CD8+T細胞の活性化のために用いることができる旨を表示することができ、また特定の対象に対して摂取を薦める旨を表示することができる。表示は、直接的にまたは間接的にすることができ、直接的な表示の例は、製品自体、パッケージ、容器、ラベル、タグ等の有体物への記載であり、間接的な表示の例は、ウェブサイト、店頭、パンフレット、展示会、メディアセミナー等のセミナー、書籍、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、郵送物、電子メール、音声等の、場所または手段による、広告・宣伝活動を含む。
以下、実施例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲は、これら実施例に限定されるものではない。
<EPS(菌体外多糖体)の調製>
実施例1においては、10質量%脱脂粉乳培地でLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1を培養して得た培養物中のEPSを精製した。すなわち、37℃で18時間培養した培養物に、終濃度10質量%になるようトリクロロ酢酸を加えて変性タンパク質を除去し、冷エタノールを加えて4℃で2時間静置してEPSを含む沈殿物を得た。これを、透析膜(分画分子量6,000 - 8,000)を用いてMilliQ水に対して透析し、核酸とタンパク質を酵素分解した後、再度エタノール沈殿を行って沈殿物を得た。これをMilliQ水に溶解し、再度透析を行った後に凍結乾燥を行ってEPSを精製した。
<発酵乳の調製>
実施例2においては、生乳、脱脂粉乳、クリーム、砂糖、ステビアを含む混合物に、Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusOLL1073R-1とサーモフィラス菌をスターターとして添加して発酵させ、発酵乳を製造した。また、臨床試験のプラセボとして、pHや酸度を合わせて発酵乳と識別不可能に調整した酸性乳飲料を用いた。
<実施例1>
C57BL/6Nマウス、メス、6週齢(日本チャールスリバー)の計12匹を、対照群(n=6)とEPS群(n=6)に群分けした。対照群には蒸留水を、EPS群には上記EPS水溶液(250μg/ml)をそれぞれ400μl/匹強制経口投与した。経口投与は解剖前日まで毎日1回実施した。経口投与を開始した3週間後に、次に示す免疫組成物(T細胞に抗原特異的な免疫反応を起こさせる)をマウス全匹の右フットパッドに皮下投与した。組成は、TiterMax Gold (TiterMax社) 25μl、H-2Db human gp100 peptide (配列KVPRNQDWL、MBL社) 5μl、I-AbHBc helper peptide (配列TPPAYRPPNAPIL、MBL社) 5μl、PBS 15μlの計50μl/匹をよくエマルジョン化したのち用いた。免疫組成物の投与1週間後にマウス全匹を安楽殺し、腫脹している右膝窩リンパ節および脾臓を採取した。それぞれの器官を処理して得た細胞懸濁液を試験に用いて両群を比較した。なお、H-2Db human gp100 peptideは、細胞傷害性T細胞(CTL)に抗原特異的な刺激を入れることができるため、サイトカインの産生、細胞表面抗原の発現、細胞傷害性活性を確認する際の刺激、抗原特異的CTLの誘導などに使用できる試薬である。また、I-AbHBc helper peptideは、CD4陽性T細胞に抗原特異的な刺激を入れることができるため、サイトカインの産生、抗原特異的CTLの誘導補助などに使用できる試薬である。
生細胞数1×106cells/mlに調整したリンパ節細胞を1μg/mlの抗マウスCD3抗体(日本BD社)でT細胞を刺激培養(37℃, CO2濃度:5%, 48時間)し、培養上清のIFN-γ濃度をELISA法で測定(OptEIAkit、日本BD社)した。その結果、対照群と比較してEPS群のリンパ節細胞は有意に(p<0.001)高いIFN-γ産生を示した(図1A)。この結果は、EPSの摂取によって、抗原反応を模したリンパ節においてT細胞が活性化し、サイトカイン産生能が高まったことを意味する。
生細胞数1×106cells/匹に調整した脾臓細胞を蛍光標識した抗マウスCD3抗体、抗マウスCD4抗体、抗マウスCD8抗体、抗マウスCD69抗体(いずれも日本BD社)を含む抗体MIXで染色し、フローサイトメーター(FACS Verse、日本BD社)を用いてCD4+T細胞およびCD8+T細胞のCD69発現率を測定した。その結果、対照群と比較してEPS群の脾細胞は、CD4+T細胞(p=0.045)およびCD8+T細胞(p=0.002)のいずれも、CD69発現率が有意に高かった(図1B)。
このことから、上記EPSの摂取によって、マウスの脾臓においてCD69発現T細胞が増加し、リンパ節におけるT細胞の活性化が起きたことが分かった。
<実施例2>
65歳以上(65 - 81歳)の健常高齢者男女24名を、対照群(n=12)と発酵乳群(n=12)に群分けし、プラセボ対照二重盲検群間比較試験を実施した。対照群にはプラセボを、発酵乳群には上記発酵乳をそれぞれ112ml(119g)毎日摂取させ、摂取前後の末梢血をBDバキュテイナ CPT 単核球分離用採血管(日本BD社)で処理し、得たPBMC(末梢血単核細胞)を試験に用いて両群を比較した。
細胞数1×106cells/検体に調整したPBMCを抗ヒトCD3抗体、抗ヒトCD8抗体、抗ヒトCD45RO抗体、抗ヒトCCR7抗体、抗ヒトCD69抗体(いずれも日本BD社)を含む抗体MIXで染色し、フローサイトメーター(FACS Verse、日本BD社)を用いてCD4+TEMおよびCD4+TEMRA存在比率、CD8+TEMおよびCD8+TEMRA存在比率、CD4+TEMおよびCD8+TEMRAのCD69発現率を測定した。その結果、対照群と比較して発酵乳群の末梢血CD8+T細胞はTEMからTEMRAへの成熟の進行が認められた(図2A, 図2B)。また、CD4+TEMのCD69発現率は有意に(p=0.030)増加し、CD8+TEMRAのCD69発現率も増加傾向(p=0.088)が認められた(図2C, 図2D)。なお、CD4+TEM存在比率、およびCD4+TEMRA存在比率は、全CD4+T細胞(CD3陽性CD4陽性)におけるTEM細胞(CD45RO陽性CCR7陰性)およびTEMRA細胞(CD45RO陰性CCR7陰性)比率と定義した。CD8+T細胞についても同様とした。また、CD4+TEMのCD69発現率は、全CD4+TEM細胞(CD3陽性CD4陽性、かつCD45RO陽性CCR7陰性)におけるCD69陽性細胞比率と定義した。CD8+TEMRAのCD69発現率についても同様とした。
この結果は、上記発酵乳の摂取によって、抗原に対してT細胞が高い反応性を示してより強く活性化しただけでなく、CD8+T細胞に対しては自身の分化・成熟を促進する影響もあったことを意味する。
さらに、本試験で用いた発酵乳に含まれるEPSは、リンパ節においてIFN-γの産生を促進させる効果を有することが分かっていることや(実施例1)、抗原に対して特異的に誘導されるTEM細胞がより成熟型のTEMRA細胞に分化したことから(実施例2)、本試験における血液中T細胞のCD69の発現は、抗原への反応性を反映していると考えられる。通常、ヒトにおいてリンパ節内のT細胞のCD69発現を調べるのは難しいが、実施例1、2の結果から、血中T細胞のCD69の発現を調べるだけで(リキッドバイオプシー)、抗原に対するT細胞の反応を調べることができると分かった。

Claims (9)

  1. 乳酸菌の菌体外多糖を含む、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方を活性化するための組成物。
  2. CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高めるための、請求項1に記載の組成物。
  3. CD69発現率が、被験者に由来する末梢血T細胞の分析値に基づく値である、請求項2に記載の組成物。
  4. CD8+TEMからCD8+TEMRAへの成熟を促進するための、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
  5. 乳酸菌が、ラクトバチルス属に分類されるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
  6. 乳酸菌が、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスに分類されるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
  7. 発酵乳である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
  8. 感染症またはがんの発症リスクを低減するための非医療的方法であって、有効量の乳酸菌の菌体外多糖を含む組成物を対象に摂取させ、対象におけるCD4+T細胞、およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高める工程を含む、方法。
  9. 乳酸菌の菌体外多糖を用いる、CD4+T細胞およびCD8+T細胞の少なくとも一方におけるCD69発現率を高める方法(ヒトに対する医療行為を除く。)。
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