JP2020043782A - ナノピンセット、ナノピンセット中間体、コーティング剤、ピンセットキット、ナノピンセットの製造方法、およびナノピンセット中間体の製造方法 - Google Patents

ナノピンセット、ナノピンセット中間体、コーティング剤、ピンセットキット、ナノピンセットの製造方法、およびナノピンセット中間体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】疎水性試料である生物試料などを適切にハンドリングすることができるナノピンセットの提供。【解決手段】ナノピンセット1は、一対のアーム13a,13b、一対の静電アクチュエータ14a,14b、一対の支持部17a,17b、一対の連結部18a,18b、一対のアーム支持部19a,19b、および台座11を備えている。静電アクチュエータ14aには、固定電極15aおよび可動電極16aが設けられ、静電アクチュエータ14bには固定電極15bおよび可動電極16bが設けられている。アームの先端には双性イオン構造を有する被覆層が形成された把持部130a,130bを備える。双性イオン構造を有する被覆層は、細胞等の疎水性試料の非特異的吸着を抑制し、かつ高い水分保持力を備える。【選択図】図1

Description

本発明は、ナノピンセット、ナノピンセット中間体、コーティング剤、ピンセットキット、ナノピンセットの製造方法、およびナノピンセット中間体の製造方法に関する。
従来、ミクロンオーダーの試料をハンドリングするナノピンセットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ナノピンセットには、一対のアームとそれらを駆動するアクチュエータとが半導体微細加工技術により形成されており、アームをアクチュエータで開閉動作させることで試料の把持・開放が行われる。
例えば、液中の細胞などをハンドリングする場合、アーム先端を液中に浸して細胞を把持するのでアームに液が付着し、付着した液中の不純物や、その液に付着した異物などが汚れとしてアーム表面に残るという問題がある。そのため、特許文献1に記載のナノピンセットでは、アームの表面に撥水性の化学吸着単分子膜を形成して液の付着を抑制して、アームが汚れるのを防止している。
特開2008−110436号公報
しかしながら、細胞をアームで把持した場合、細胞がアーム表面に吸着されて把持した細胞をアームからリリースすることができない等、従来のナノピンセットでは生物試料を適切にハンドリングできないという課題があった。
本発明の第1の態様によるナノピンセットは、開閉自在な一対のアームと、前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、前記アームの各々には、双性イオン構造を有する被覆層が形成された把持部が設けられている。
本発明の第2の態様によるコーティング剤は、前記態様のナノピンセットの前記被覆層を形成するためのコーティング剤であって、双性イオン構造を有する分子を含む。
本発明の第3の態様によるコーティング剤は、第1の態様ナノピンセットの把持部に被覆層を形成するためのコーティング剤であって、双性イオン構造を有する分子を含み、把持部の基材表面に形成した金膜と結合するチオール基を有する。
本発明の第4の態様によるナノピンセットの製造方法は、把持部を有する開閉自在な一対のアーム、および前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセット中間体を準備し、前記ナノピンセット中間体の前記把持部の基材の表面に金属膜を形成し、双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を、前記把持部の前記金属膜の表面に塗布し、前記双性イオン構造を有する被覆層を形成する。
本発明の第5の態様によるナノピンセット中間体は、把持部を有する開閉自在な一対のアームと、前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、前記把持部の基材表面には、双性イオン構造を有する被覆層を形成させるための表面開始剤が形成されている。
本発明の第6の態様によるナノピンセット中間体の製造方法は、把持部を有する開閉自在な一対のアーム、および前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセットを準備し、双性イオン構造を有するモノマーの重合を開始させるための表面開始剤を準備し、前記把持部の基材表面を前記表面開始剤で被覆する。
本発明の第7の態様によるナノピンセットの製造方法は、前記態様によるナノピンセット中間体を準備し、双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を前記把持部に塗布し、前記表面開始剤で被覆されている前記把持部の表面において、前記表面開始剤を起点として前記双性イオン構造を有する被覆層を形成する。
本発明の第8の態様によるピンセットキットは、上記第2および第3の態様のいずれかの態様のコーティング剤と、前記第5の態様のナノピンセット中間体とを備える。
本発明によれば、被把持対象物のナノピンセットへの非特異的吸着が抑制され、かつ高い水分保持力を備えた把持部を有するナノピンセットが提供できる。このナノピンセットにより生物試料などを適切にハンドリングすることができる。
図1は、ナノピンセットの一実施の形態を示す図である。 図2は、把持部の詳細を示す図である。 図3は、被覆層に用いられるコーティング剤の一例を示す図である。 図4は、ナノピンセットによる生物試料のハンドリングの一例を説明する図である。 図5は、双性イオン分子のコーティングによる非特異的吸着の抑制効果を説明する図である。 図6は、MPC,SBMAおよびCBMAの分子構造を示す図である。 図7は、双性イオン構造のバリエーションを示す図である。 図8は、双性イオン構造の他のバリエーションを示す図である。 図9は、双性イオン構造を有する被覆層の形態を示す図である。 図10は、双性イオン構造における正電荷および負電荷の配置を示す図である。 図11は、MPC−SH合成における3種類の産物を示す図である。 図12は、SBMA―SH合成における3種類の産物を示す図である。 図13は、表面開始剤(BiBOE)の合成手順を示す図である。 図14は、表面開始剤(BiBOE)を用いて形成されたPSBMAを示す図である。
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1はナノピンセットの一実施の形態を示す図であり、ナノピンセット1の平面図である。図1に示すナノピンセット1は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)ウエハから半導体微細加工技術を利用して一体で作製される。SOIウエハは、2枚のSi単結晶板の一方にSiO層を形成し、SiO層を介して貼り合わせたものである。
ナノピンセット1は、一対のアーム13a,13b、一対の静電アクチュエータ14a,14b、一対の支持部17a,17b、一対の連結部18a,18b、一対のアーム支持部19a,19b、および台座11を備えている。静電アクチュエータ14aには、固定電極15aおよび可動電極16aが設けられ、静電アクチュエータ14bには固定電極15bおよび可動電極16bが設けられている。
左右対称形状となっているアーム13aに関する静電アクチュエータ14aとアーム13bに関する静電アクチュエータ14bとは、同様の構造を有している。固定電極15aおよび可動電極16aは、いずれも櫛歯形状を有しており、互いの櫛歯同士が隙間を介して噛み合うような状態で対向配置されている。固定電極15aは台座11上に形成されている。一方、可動電極16aは、細いビーム状の支持部17aによって台座11に弾性的に固定されている。固定電極15bおよび可動電極16bも同様の構造となっている。
アーム13a,13bは、それぞれ細いビーム状のアーム支持部19a,19bを介して台座11に弾性的に固定されている。アーム13aと可動電極16aとは連結部18aによって連結され、アーム13bと可動電極16bとは連結部18bによって連結されている。
図示左側のアーム13aには端子12cが接続され、固定電極15aには端子12aが接続され、可動電極16aには端子12bが接続されている。一方、図示右側のアーム13bには端子12dが接続され、可動電極16bには端子12eが接続され、固定電極15bには端子12fが接続されている。端子12a,12b,12e,12f,12gは電圧を印加するための端子である。端子12c,12dは、アーム13a,13b間に作用する電気量などを検出するために設けられている。そのため、アーム13a,13bは、それぞれ可動電極16a,16bとは絶縁されている。また、端子12gは、台座11が浮遊電極となるのを防止するためのアース端子である。
固定電極15aと可動電極16aとの間に電圧を印加すると、可動電極16aが固定電極15aに近づく方向(図示右方向)に動くことにより、アーム13aがアーム13bに近づく方向(図示右方向)に駆動される。電圧印加を解除すると、アーム13aは元の位置へ復帰する。右側のアーム13bについては動作が反転するだけであり、同様に、可動電極16bが固定電極15bに近づく方向(図示左方向)に動くことにより、アーム13bがアーム13aに近づく方向(図示左方向)に駆動される。その結果、把持部130aと把持部130bとの間に微小物体を把持したり、把持した微小物体をリリースしたりすることができる。
なお、SOI(silicon on insulator)基板を用いてナノピンセット1を形成する製造方法については周知であるので(例えば、特開2006−26825号公報等)、ここでは説明を省略する。ナノピンセット1の形成に用いる基板としては、SOI基板の他に、ガラス基板上に単結晶シリコン層を有する基板や、アモルファスシリコン基板やポリシリコン基板上にSOI層を有する基板なども用いることができる。いずれの場合も、シリコン層にアーム13a,13b等が形成される。実施の形態では、アーム13a,13bの基材はシリコンである。
図2は、アーム13a,13bの先端部分に形成された把持部130a,130bの詳細を示す図である。アーム13a,13bの先端部分の厚さを階段状に薄くして、図2に示すような形状の把持部130a,130b(ハッチングを施した部分)を形成する。後述するように、アーム13a,13bの少なくとも把持部130a,130bの表面には、双性イオン構造の被覆(コーティング)が施されている。明細書において、被覆は被覆層と呼ぶこともできる。
例えば、細胞等の生物試料を把持する把持部130a,130bの長さLは試料に比べて長く設定され、幅Wおよび厚さtは試料寸法と同程度となるように設定される。把持部130a,130bの寸法の一例を記すと、長さLは100μm、厚さtは1〜25μm、幅Wは1〜30μmである。
[被覆層形成用のコーティング剤]
次に、把持部130a,130bに被覆層を形成するためのコーティング剤について説明する。本実施の形態では、双性イオン構造を有する被覆層が把持部130a,130bの表面に形成される。この被覆層は、ナノピンセット1で細胞等の生物試料をハンドリングする際のハンドリング性能向上のために形成されたものである。
図3は、被覆層として用いられるコーティング剤の一例を示す図である。コーティング剤300には、末端にチオール基(SH基)を有する2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(2-methacryloyloxylethylphosphorylcholine:MPC)が用いられる。以下では、末端にチオール基(SH基)を有する2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)のことをMPC−SHと称することにする。MPC−SHはAu(金)との結合力が高いことが知られているので、本例では、把持部130a,130bの表面には金膜301が形成されている。図3に示すMPC−SHでは、符号310で示す部分が負イオンに対応し、符号320で示す部分が正イオンに対応する。この双性イオン構造の部分に静電作用により水分子が結合し、水和構造となる。
なお、このような双性イオン構造を有する分子(モノマーおよびポリマー)を、以下では双性イオン分子(双性イオンモノマーおよび双性イオンポリマー)と呼ぶことにする。したがって、双性イオン構造を有する被覆層は、把持部130a,130bの基材表面に双性イオン分子を含む膜である。
MPC−SHを含む溶液中に金膜301が形成された把持部130a,130bを浸すと、MPC−SHのSH基が金膜301と反応してAu−S結合を形成する。金膜301上に結合したMPC−SHは、分子間の引力相互作用により自発的に高い配向性をもって単分子層を形成する。この単分子層が被覆層330である。このような単分子層は、自己組織化単分子層(Self-Assembled Monolayer:SAM)と呼ばれる。
なお、把持部130a,130bの表面に金膜を形成する際、例えば、把持部表面にクロム膜を形成してから金膜を形成すると、金膜を把持部に直接形成する場合に比べて金膜が剥離し難い。また、SH基のS(硫黄)はAu(金)と強い結合をするので把持部130a,130bの表面に形成される金属膜は金膜が好ましいが、金属膜は必ずしも金に限定される訳ではなく、ニッケル等を用いても構わない。金属膜としてニッケル膜を用いる場合も結合性官能基としてチオール基(SH基)を用いることができる。また、末端の結合性官能基としてチオール基(SH基)を用いたが、把持部表面の材料に応じた末端構成の双性イオン分子を用いても良い。
図4は、ナノピンセット1による生物試料のハンドリングの一例を説明する図である。図4に示す例では、容器28内の細胞281を、ナノピンセット1を用いて別の容器29に搬送する場合を示した。容器28内には緩衝液280が入っており、細胞281はその緩衝液280内に浸かっている。搬送先の容器29内にも緩衝液280が入っている。
まず、ナノピンセット1のアーム13a,13bを、開状態のまま容器28の直上に移動させる。次いで、ナノピンセット1を図示下側に下げ、アーム13a,13bの把持部130a,130b間に細胞281が位置するようにナノピンセット1を移動させる。その後、アーム13a,13bを閉じて細胞281を把持部130a,130bにより把持する。細胞281を把持したならば、ナノピンセット1を図示上方に上昇させて細胞281を容器28の緩衝液280から空気中に出し、その後、容器29の緩衝液280中まで搬送する。把持部130a,130bにより把持された細胞281が容器29の緩衝液280内に搬送されたならば、アーム13a,13bを開いて細胞281を緩衝液280中にリリースする。
ところで発明者等は、ナノピンセットにより生物試料を搬送する場合の以下のような課題を見出した。従来のナノピンセットのようにアームの表面に撥水性膜が形成されていると、細胞等の疎水性試料が非特異的な吸着によって把持部表面に付着し、把持部130a,130bを開いても生物試料をリリースできないという知見を得た。ナノピンセットの把持部での現象ではないが、基板表面への生物試料の非特異的吸着に関しては、ポリエチレングリコールや双性イオン分子を基板表面に形成することで、非特異的吸着を抑制することが知られている。
図5は、双性イオン分子のコーティングによる非特異的吸着抑制効果を説明する図である。図5(a)は、非特異的吸着によりタンパク質50が基板51に吸着される機構を説明する図である。電荷を持つ物質の表面では反対電荷を持つ対イオンが引き付けられ、その周囲に水分子が水和した構造を取っている。負に帯電した親水性の基板51上には反対電荷を持つナトリウムイオン52が結合し、その周囲に水分子53が水和している。また、タンパク質50の負に帯電した部分にはナトリウムイオン52が結合し、正に帯電した部分には塩素イオン54が結合し、それらの周囲に水分子53が水和している。基板表面(負に帯電)にタンパク質50の正に帯電した部分が近接すると、それぞれの表面に結合していた対イオン(ナトリウムイオン52、塩素イオン54)とともに水分子53も追い出され、結果として基板51の表面にタンパク質50が非特異的に吸着する。
一方、図5(b)では、基板51の表面は被覆層330を構成する双性イオン分子55によって覆われ、双性イオン分子55の正電荷および負電荷の部分に水分子53が水和した構造を取る。この場合、基板表面に図5(a)の場合と同様のタンパク質50が近接しても対イオンの交換が起こらないため、基板表面に水分子53が安定に水和した状態を維持できる。その結果、タンパク質50の非特異的な吸着が抑制される。このような非特異的吸着の抑制効果は、双性イオン分子55がポリマーであってもモノマーであっても得られる。
ポリエチレングリコールの場合は、炭化水素が長く繋がった鎖の間に酸素原子が定期的に並んでおり、ポリエチレングリコールの周囲に水分子が水素結合により水和した構造となる。そのため、双性イオン分子の場合と同様に非特異的吸着を抑制する効果がある。本発明者は、ポリエチレングリコールおよび双性イオン分子のそれぞれの場合について、ナノピンセット1の把持部130a,130bにコーティングし、それにより生物試料が把持部130a,130bから容易にリリースされることを確認した。
ところで、ナノピンセットを用いた生物試料の搬送においては、非特異的吸着とは別の新たな問題が生じることを発明者は見出した。図4に示すように、細胞281を容器28から別の容器29に搬送する場合には、把持した細胞281をいったん緩衝液280から空気中に出さなければならない。その際に、細胞281の周囲に水分が無いと細胞281が死んでしまうので、細胞281が乾燥状態になるのを防止する必要がある。すなわち、細胞281の周囲に緩衝液280がある状態で搬送することが必須とされる。
図2において説明したように、ナノピンセット1の把持部130a,130bは微小構造であるため、細胞281を把持した把持部130a,130bの部分に緩衝液80を保持し難い。すなわち、把持部130a,130bを緩衝液280から引き出した際に、把持部130a,130bの緩衝液280が容器28内の緩衝液面側に持って行かれてしまい、把持部側に残留することができないものと考えられる。
把持部130a,130bの被覆層に用いるコーティング剤としてポリエチレングリコールを用いた場合には、非特異的吸着が抑制できるようになってリリースが可能になったが、把持部130a,130bを緩衝液280から空気中に出した際に把持した細胞281の周囲に緩衝液280が十分に保持されず、細胞281が乾燥状態となって死んでしまうという問題が発生した。一方、図3のように双性イオン構造の被覆層330を把持部130a,130bに形成した場合には、非特異的吸着の抑制とともに、把持部130a,130bを空気中に出した際に細胞281が死んでしまうのを防止することができた。
ポリエチレングリコールの場合も双性イオン分子の場合も水分子と水和した構造となるが、ポリエチレングリコールの場合には水素結合により水和しており、双性イオン分子の場合には静電的相互作用により水和した構造となっている点が異なる。水分子との間の相互作用は水素結合よりも静電的相互作用のほうが強いので、双性イオン分子のほうが水分子をより強く引き付けている。その結果、非特異的吸着の抑制効果についても、また、把持部130a,130bを緩衝液280から空気中に出した際の水分保持量(緩衝液保持量)についても、双性イオン分子をコーティングしたほうが優れていると考えられる。このように、双性イオン分子をナノピンセット1の把持部130a,130bにコーティングすることで、生物試料のハンドリング性能(リリース特性および水分保持特性)に優れたナノピンセット1を提供することができる。
なお、図2において説明したように、把持部130a,130bの幅Wおよび厚さtは試料寸法と同程度となるように設定され、長さLは、試料に比べて長く設定されている。試料を把持部130a,130bで把持する場合、図4に示すように試料は把持部130a,130bの先端部分で把持される。その際、長さLの把持部130a,130bの全体が緩衝液280に浸かるとは限らない。本実施の形態では長さLの把持部130a,130b全体にコーティングを行うようにしたが、必ずしも長さL全体にコーティングをする必要はなく、細胞が接触する可能性のある領域、例えば、把持部先端からL/2程度の範囲にコーティングを施すようにしても良い。把持部全面に双性イオン分子をコーティングせず、細胞を把持する対向する一対の面にのみ双性イオン分子をコーティングしてもよい。
上述した実施の形態では、双性イオン分子としてMPCを用いる場合について説明したが、MPCに限らず種々の双性イオン分子をコーティング剤として利用することができる。代表的な双性イオンモノマーとしては、MPCの他に図6に示すようなSBMA(sulfobetaine methacrylate)およびCBMA(Carboxybetaine methacrylate)等がある。
分子中における双性イオン構造のバリエーションは多数あるが、一例としては図7,8に示すようなものがある。非特異的吸着の抑制作用は一律ではなく、双性イオンの構造により差がある。図7および図8のI〜XXIVは以下の通りである。
・IおよびXIVはammoniophosphates (phosphobetaines or lecithin analogues) である。
・II, IVおよびXVはammoniophosphonates (phosphonobetaines) である。
・IIIはammoniophosphinates(phosphinobetaines) である。
・VおよびXVIはammoniosulfonates (sulfobetaines) である。
・VIおよびXVIIはammoniosulfatesである。
・VII, X, XI, XVIIIおよびXXIはammoniocarboxylates (carbo- or carboxybetaines) である。
・VIIIはammoniosulfonamidesである。
・IXはammoni-sulfon-imidesである。
・Xはguanidiniocarboxylates (asparagineanalogs) である。
・XIはpyridiniocarboxylatesである。
・XIIはammonio(alkoxy)dicyanoethenolatesである。
・XIIIはammonioboronatesである。
・XIXはsulfoniocarboxylatesである。
・XXはphosphoniosulfonatesである。
・XXIはphosphoniocarboxylatesである。
・XXIIはsquaraine dyesである。
・XXIIIおよびXXIVはoxypyridine betainesである。
図9は、双性イオン構造を有する被覆層の形態を示す図である。図9において(a),(b)はモノマーを用いて双性イオン構造の被覆層を形成する場合を示しており、(c)および(d)は双性イオン構造のポリマーによる被覆層を形成する場合を示している。図9(a)は、上述したMPCのような双性イオンモノマーをコーティングする場合であって、それぞれの分子内に双性イオンを有している。図9(a)に示す例では、正イオンが隣の分子の負イオンと電気的に相互作用して、分子が折れ曲がった構造になっている。
図9(b)は正電荷を有する分子と負電荷を有する分子とを組み合わせて基板表面にコーティングする場合であって、表面全体としては正電荷と負電荷とがほぼ均等に分布している。この場合、正電荷を有する分子と負電荷を有する分子が対を成す双性イオンのような構造であり、本明細書ではこのような構成も双性イオン構造と呼ぶことにする。このような構成の双性イオン構造を形成する場合、例えば、正電荷を有するモノマーとしては、2-aminoethyl methacrylate (AEMA)、2-(N,N-dimethylamino)ethyl methacrylate (DMAEMA)、2-(methacryloyloxy)ethyl trimethylammonium chloride (MTAC)、(3-acrylamidopropyl) trimethylammonium chloride (APTAC)などが用いられ、負電荷を有するモノマーとしては、3-sulfopropyl methacrylate potassium salt (SPMK)、2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid (AMPS)、 methacrylic acid (MA)、sodium methacrylate (NaMA)、acrylic acid (AA)、sodium acrylate (NaAA)などが用いられる。
図9(c)は、MPC等の双性イオンモノマーをラジカル重合反応したポリマーを
形成して双性イオン構造とする場合であり、基板表面にポリマーがブラシ状(polymer brushと呼ばれる)に形成されている。図9(d)は、正電荷を有するモノマーと負電荷を有するモノマーとを組み合わせてポリマー化して双性イオン構造とする場合である。図9(c),(d)のような双性イオンポリマーにおいては、双性イオン構造に関しては図10のA〜Kに示すような構造が可能である。図9(c)は構造Cの場合であり、図9(d)は構造Eの場合である。図10に示すいずれの構造であっても上述した効果(非特異的吸着の抑制効果、高い水分保持力)が得られる。
さらに、基板表面に双性イオンポリマーを含む双性イオン構造の被覆層を形成する際に、直鎖状のポリマー分子間を架橋することでゲル化することも可能である。このような双性イオン構造を三次元的な網目状構造とすることでより高い水分保持力が期待される。
なお、把持部130a,130bにどのような種類の被覆層が形成されているかは、質量分析や赤外分光、NMR等により確認することができる。
(実施例1)
図3に示したMPCをナノピンセット1にコーティングする場合の、コーティング剤(MPC−SH)の合成方法およびコーティングの手順について説明する。
(1A)MPC−SHの合成
・MPCを1.55g (5.25mmol)、および、1,6-ヘキサンジチオール(1,6-hexanedithiol)を1.184g (7.88 mmol)を丸底フラスコへ入れ、それに窒素ガスのバブリングにより脱酸素処理を行ったクロロホルム 10.5mlを加えて撹拌し、両試薬(MPCおよび1,6-ヘキサンジチオール)を溶解する。
・上記溶液にジイソプロピルアミン(diisopropylamine)を 29.4 μl (0.2 mmol)添加し、窒素ガス雰囲気下、室温で24時間撹拌する。
・反応溶液を過剰量のアセトンに添加して白色沈殿を生じさせ、上澄みを捨てて白色沈殿をアセトンで2回洗浄し、バキュームドライを1時間行って乾燥させる。
・乾燥させたものに超純水を100ml加えて溶解し、溶解したものを凍結乾燥させる。
このような手順で得られる産物は、図11の(1)〜(3)で示す3種類である。
(1B)コーティング手順
・(1A)で合成した産物を超純水に溶解して10 mM溶液を調製した。なお、3種類の産物の含有率が不明のため、産物がすべて(1)であると仮定して濃度計算を行った。
・上記溶液に、金膜301を形成したナノピンセット1の把持部130a,130bを1〜2分間浸漬する。
・その後、把持部130a,130bを超純水に1分間浸漬し、風乾により乾燥させる。
・図11に示した3種類の産物の内、(1)のMPC−SHと、(2)のMPC−SHのダイマーとが把持部130a,130bに形成された金膜301の表面に自己組織化単分子層(SAM)として形成される。(2)の分子は、(1)のMPC−SHのチオール基の部分がS−Sの二重結合を作ってダイマー化したものであり、S−Sの二重結合の部分のSを金膜301の表面に結合させることができる。
(実施例2)
実施例2では、MPCのコーティングに代えて、SBMAのコーティングを同様の方法で行った。
(2A)SBMA―SHの合成
・SBMAを1.4g (5 mmol) 、および、1,6-ヘキサンジチオールを1.125g (7.5 mmol)を 丸底フラスコへ入れ、それに窒素ガスのバブリングにより脱酸素処理を行ったメタノール 10.5mlを加えて撹拌し、両試薬(SBMAおよび1,6-ヘキサンジチオール)を溶解する。
・上記溶液にジイソプロピルアミンを 29.4 μl (0.2 mmol)添加し、窒素ガス雰囲気下、室温で24時間撹拌する。
・反応溶液を過剰量のアセトンに添加して白色沈殿を生じさせ、上澄みを捨てて白色沈殿をアセトンで2回洗浄し、バキュームドライを1時間行って乾燥させる。
・乾燥させたものに超純水を100ml加えて溶解し、溶解したものを凍結乾燥させる。
このような手順で得られる産物は、図12の(1)〜(3)で示す3種類である。
(2B)コーティング手順
・(2A)で合成した産物を超純水に溶解して10 mM溶液を調製した。なお、3種類の産物の含有率が不明のため、産物がすべて(1)であると仮定して濃度計算を行った。
・上記溶液に、金膜301を形成したナノピンセット1の把持部130a,130bを1〜2分間浸漬する。
・その後、把持部130a,130bを超純水に1分間浸漬し、風乾により乾燥させる。
・図12に示した3種類の産物の内、(1)のSBMA−SHと、(2)のSBMA−SHのダイマーとが把持部130a,130bに形成された金膜301の表面に自己組織化単分子層(SAM)として形成される。(2)の分子は、(1)のSBMA−SHのチオール基の部分がS−Sの二重結合を作ってダイマー化したものであり、S−Sの二重結合の部分のSを金膜301の表面に結合させることができる。
(実施例3)
実施例3では、双性イオンポリマーを含む双性イオン構造の被覆層を形成するコーティングについて説明する。ここでは、把持部130a,130bの金膜301の表面にポリマーブラシ(polymer brush)を合成するための表面開始剤をコーティングし、その表面開始剤を起点に双性イオンポリマーを形成する。
ここでは、表面開始剤としてビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィド(Bis[2-(2’-bromoisobutyryloxy)ethyl] disulfide)を例に説明する。
(3A)表面開始剤(ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィド)の合成
ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドは、図13に示すように、2-メルカプトエタノール (2-mercaptoethanol)からビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド(Bis(2-hydroxyethyl) disulfide)を合成し、そのビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドからビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドを合成するという手順で合成される。
(3A−1)ビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドの合成
・2-メルカプトエタノールを7.8g (100 mmol)秤量し、それを超純水25mlに溶解させる。
・30% H溶液 8.5mlを超純水10mlで希釈する。
・上述の2-メルカプトエタノール溶液をスターラーで撹拌しながら上記希釈したH溶液を添加し、室温で1時間撹拌する。
・攪拌した上記溶液を分液ロートに移し、酢酸エチル50mlで抽出する処理を3回行う。
・上記3回分の酢酸エチル相を一つにまとめて硫酸マグネシウムで脱水処理を行い、硫酸マグネシウムをろ過で除去した後に、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去する。
・その後、バキュームドライで一晩(約16時間)乾燥させる。
(3A−2)ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドの合成
・(3A−1)で合成されたビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィドに関して、3.09gを50mlチューブに秤量し、それにトリエチルアミン(Triethylamine:EtN)を5.05g添加した後にテトラヒドロフラン(Tetrahydrofurane:THF)を50ml加えて溶解する。
・上記溶液に窒素ガスを30min通気し、溶存酸素を除去する。
・9.3gの2-ブロモイソブチリルブロミド(2-bromoisobutyryl bromide:BiBB)を10mlのTHFに溶解し、それを200mlフラスコへ移す。
・フラスコの2-ブロモイソブチリルブロミド溶液をon iceで激しく撹拌しながら上記のビス(2-ヒドロキシエチル)ジスルフィド溶液を添加し、on iceで10分間撹拌した後、室温でさらに16時間撹拌する。
・攪拌後の溶液に超純水200mlを添加し、それを分液ロートに移し、酢酸エチル50mlで抽出する処理を3回行う。
・上記3回分の酢酸エチル相を一つにまとめ、1% NaHCO3溶液 50mlおよび超純水50mlでwashし、酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水した後に硫酸マグネシウムをろ過で除去し、ロータリーエバポレーターで溶媒を留去する。
・シリカゲルカラムクロマトグラフィーでジクロロメタン(dichloromethane)を溶出液として精製する。
・ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した後に、バキュームドライで一晩(約16時間)乾燥させる。
(3B)表面開始剤のナノピンセット1の把持部へのコーティング
把持部130a,130bには予め金膜301が形成されている。
・上記(3A−2)で合成されたビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドを4.52mg秤量し、それを1 mlのエタノール(EtOH)またはN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し10 mM溶液を調製する。
・金膜301が形成された把持部130a,130bを上記10 mM溶液に浸漬し、室温で5時間静置する。
・その後、エタノールで把持部130a,130bを洗浄し、風乾にて乾燥させる。
ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドのS原子は金膜301の金原子と結合し、ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドが金膜301の表面に固定される(図14参照)。
(3C)表面開始剤を起点とする双性イオンポリマーの合成
ここでは、SBMAを用いた双性イオンポリマーの合成について説明する。手順は以下のとおりである。
・SBMA 1.67g、臭化ナトリウム(NaBr) 0.62gを、超純水2mlおよびメタノール(MeOH)2mlを加えて溶解する。
・臭化銅(II) (CuBr2) 22.34mg、Tris[2-(dimethylamino)ethyl]amine (Me6TREN) 230.4mgをMeOH 5mlに溶解し、20mM CuBr2+200mM Me6TRENストック溶液を調製する。
・L-アスコルビン酸 (L-AA) 0.44gを超純水 50mlに溶解し、50 mMストック溶液を調製する。
・上記のSBMA+NaBr溶液に20mM CuBr2+200mM Me6TRENストック溶液 750μlを添加し、混合した後、50mM L-AA溶液 150μlを添加する。
・上記溶液をバス型ソニケーターで超音波処理しながら窒素ガスを5min通気し、溶存酸素を除去する。
・溶存酸素を除去した上記溶液に表面開始剤をコーティングしたナノピンセットの担持部を浸漬し、密閉容器に入れて、容器内部の空気を窒素ガスで置換し、室温で一晩(約16時間)静置する。
・その後、ナノピンセット担持部を 1M NaBr溶液、超純水で2回ずつ洗浄し、風乾にて乾燥させる。
図14に示すように、表面開始剤ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドのBrとCとの間にSBMAをラジカル重合反応させることでPSBMAが形成される。PSBMAの分子の長さは添加するモノマーの量および反応時間で制御することができる。MPCやCBMAに関してもSBMAの場合と同様に、把持部表面に形成された表面開始剤ビス[2-(2'-ブロモイソブチリルオキシ)エチル]ジスルフィドを起点とする重合反応を行うことで、基板表面からモノマーを積み重ねるようにしてポリマー化することができる。
把持部130a,130bへのコーティング処理は、例えば、ナノピンセット製造工程の最終工程で行われ、コーティング処理済みのナノピンセットが生物試料対応のナノピンセットを製品としてユーザに提供することができる。
コーティング未処理状態のナノピンセット、または、金膜に表面開始剤がコーティングされた状態のナノピンセットをナノピンセット中間体の製品として出荷し、ユーザにて上述したコーティング処理を施して生物試料対応のナノピンセットとして使用することもできる。コーティング処理を必要とされるユーザ向けにコーティング処理キット、例えば、上述したコーティング剤を含むコーティング処理に必要な機材や、コーティング剤を単独で提供するようにしても良い。
以上説明した実施の形態、実施例のナノピンセット1の作用効果をまとめると次の通りである。
(1)ナノピンセット1は、開閉自在な一対のアーム13a,13bと、一対のアーム13a,13bの開閉動作を行わせる駆動部としての静電アクチュエータ14a,14bとを有する。アーム13a,13bの各々には、双性イオン構造を有する被覆層330が形成された把持部130a,130bが形成されている。被覆330は把持部表面の被覆層である。
このように構成されたナノピンセット1を被把持対象である細胞などの培養液中に浸漬すると、その把持部130a,130bの表面において、図5(b)に示すように、被覆層330の双性イオン構造の部分は静電相互作用により水分子53が水和した構造となる。このような作用により、非特異的吸着を抑制する効果と高い水分保持力という効果を得ることができる。その結果、細胞などの生物試料をナノピンセット1でハンドリングした際に、把持部130a,130bに生物試料が非特異的に吸着されたり、生物試料が乾燥したりするのを防止することができ、生物試料ハンドリング性に優れたナノピンセットを提供することができる。
(2)被覆層を構成する双性イオン構造の一例は、正電荷と負電荷を有する分子からなり、たとえば、被覆層は、図9(a)に示すように双性イオンモノマー、または、図9(c)に示すように双性イオンポリマーを含む双性イオン構造から構成される。
被覆層を構成する双性イオン構造の他の例は、正電荷を有する分子と負電荷を有する分子とを含む双性イオン構造である。たとえば、図9(b)のように正電荷を有する分子と負電荷を有する分子とを複数含んで構成されている。なお、図9(d)は、正電荷を有する分子と負電荷を有する分子とを含む双性イオン構造を有するポリマーである。
被覆層330として双性イオン構造を有するポリマー、例えば、PMPCやPSBMAを用いることができる。双性イオン構造のポリマーは、図9(a)、(b)に示す双性イオン構造を有する被膜330に比べて保水能力が高いので、非特異的吸着抑制効果および水分保持効果をより高めることができる。
(3)図3に示すように把持部130a,130bの表面に金属膜、たとえば金膜301を形成し、末端にチオール基(SH基)を有する双性イオン分子、例えば、MPC−SHを含むコーティング剤を用いて金膜301の表面に被覆層330を形成することができる。
すなわち、ナノピンセットの把持部130a,130bの基材表面と被覆層330との間には金属膜3001が形成されており、被覆層330は、金属膜301と結合する原子を含んで形成されている。 請求項5把持部130a,130bの表面には金膜が形成されている場合、コーティング剤は、末端に金膜の金原子と結合する硫黄原子を有する双性イオン構造の分子を含むと、結合力を強くすることができる。
これにより、Au−S結合によって双性イオン分子の末端を把持部表面に確実に固定させることができる。
(4)ナノピンセット1の被覆層330を形成するためのコーティング剤は、双性イオン構造を有する分子を含み、また、把持部基材表面に金膜が形成されている場合、金膜と結合するチオール基を有する材料から選択される。
(5)実施の形態のナノピンセット1の製造方法は、把持部130a,130bを有する開閉自在な一対のアーム13a,13b、および一対のアーム13a,13bの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセット中間体を準備し、ナノピンセット中間体の把持部130a,130bの基材の表面に金属膜を形成し、双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を、把持部130a,130bの金属膜の表面に塗布し、双性イオン構造を有する被覆層330を形成する。
(6)把持部130a,130bに双性イオンポリマーを被覆層330として形成する場合には、把持部の表面に重合反応用の表面開始剤をコーティングしたナノピンセット中間体を製造する。
すなわちナノピンセット中間体は、把持部130a,130bを有する開閉自在な一対のアーム13a、13bと、一対のアーム13a,13bの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、把持部130a,130bの基材表面には、双性イオン構造のモノマーを重合させるための表面開始剤が形成されている。
このようなナノピンセットの中間体の把持部表面において、表面開始剤を起点として双性イオンモノマーを重合反応させて双性イオンポリマーを形成して、細胞などの生物試料のハンドリング性能に優れた生物試料などを把持するナノピンセットを提供できる。
このようにして、効果的なポリマーブラシ(polymer brush)を把持部表面に容易に形成することができる。その結果、非特異的吸着抑制効果および水分保持効果に優れたナノピンセットを得ることができる。
(7)ナノピンセット中間体の製造方法は、把持部130a,130bを有する開閉自在な一対のアーム13a,13b、および前記一対のアーム13a,13bの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセットを準備し、双性イオン構造を有するモノマーの重合を開始させるための表面開始剤を準備し、把持部130a,130bの基材表面を表面開始剤で被覆するものである。
ナノピンセット中間体の他の例は、把持部を有する開閉自在な一対のアーム13a,13bと、一対のアーム13a,13bの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、把持部130a,130bの基材表面には、双性イオン構造を有する被覆層330を形成させるための表面開始剤が形成されている。
(8)被覆層が双性イオンポリマーで構成されるナノピンセットの製造方法は、表面開始剤が把持部の表面に形成されているナノピンセット中間体を準備し、双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を、把持部130a,130bに塗布し、表面開始剤で被覆されている把持部130a,130bの表面において、表面開始剤を起点として双性イオン構造を有する被覆層330を形成する。
(9)ナノピンセットキットは、上記のコーティング剤と、上記のナノピンセット中間体とをセットとする。生物試料を扱うユーザ自身により、細胞などの生物試料の把持と解放を容易とする被覆層を有するナノピンセットを製作する。
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
1…ナノピンセット、13a,13b…アーム、14a,14b…静電アクチュエータ、53…水分子、55…双性イオン分子、130a,130b…把持部、280…緩衝液、281…細胞、300…コーティング剤、301…金膜、330…被覆層

Claims (13)

  1. 開閉自在な一対のアームと、
    前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、
    前記アームの各々には、双性イオン構造を有する被覆層が形成された把持部が設けられている、ナノピンセット。
  2. 請求項1に記載のナノピンセットにおいて、
    前記双性イオン構造は正電荷と負電荷を有する分子からなる、ナノピンセット。
  3. 請求項1に記載のナノピンセットにおいて、
    前記被覆層は正電荷を有する分子と負電荷を有する分子とを含む双性イオン構造である、ナノピンセット。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のナノピンセットにおいて、
    前記把持部の基材と前記被覆層との間には金属膜が形成され、
    前記被覆層は、前記金属膜と結合する原子を含んで形成されている、ナノピンセット。
  5. 請求項4に記載のナノピンセットにおいて、
    前記金属膜は金膜であり、
    前記原子は硫黄原子である、ナノピンセット。
  6. 請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のナノピンセットの前記被覆層を形成するためのコーティング剤であって、
    双性イオン構造を有する分子を含む、コーティング剤。
  7. 請求項5に記載のナノピンセットの前記被覆層を形成するためのコーティング剤であって、
    前記金膜と結合するチオール基を有する、コーティング剤。
  8. 把持部を有する開閉自在な一対のアーム、および前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセット中間体を準備し、
    前記ナノピンセット中間体の前記把持部の基材の表面に金属膜を形成し、
    双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を、前記把持部の前記金属膜の表面に塗布し、
    前記双性イオン構造を有する被覆層を形成する、ナノピンセットの製造方法。
  9. 請求項8に記載のナノピンセットの製造方法において、
    前記金属膜は金またはニッケルから成る膜であり、
    前記コーティング剤は、前記金属膜と結合するチオール基を含む、ナノピンセットの製造方法。
  10. 把持部を有する開閉自在な一対のアームと、
    前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部とを有し、
    前記把持部の基材表面には、双性イオン構造を有する被覆層を形成させるための表面開始剤が形成されている、ナノピンセット中間体。
  11. 把持部を有する開閉自在な一対のアーム、および前記一対のアームの開閉動作を行わせる駆動部を有するナノピンセットを準備し、
    双性イオン構造を有するモノマーの重合を開始させるための表面開始剤を準備し、
    前記把持部の基材表面を前記表面開始剤で被覆する、ナノピンセット中間体の製造方法。
  12. 請求項10に記載のナノピンセット中間体を準備し、
    双性イオン構造を有する分子を含むコーティング剤を前記把持部に塗布し、
    前記表面開始剤で被覆されている前記把持部の表面において、前記表面開始剤を起点として前記双性イオン構造を有する被覆層を形成することを備える、ナノピンセットの製造方法。
  13. 請求項6または7に記載のコーティング剤と、
    請求項10に記載のナノピンセット中間体とを備える、ピンセットキット。
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