図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
(第1実施形態)
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を図1乃至図5に示す。図1は、回転電機10の縦断面斜視図であり、図2は、回転電機10の回転軸11に沿う方向での縦断面図であり、図3は、回転軸11に直交する方向での回転電機10の横断面図(図2のIII−III線断面図)であり、図4は、図3の一部を拡大して示す断面図であり、図5は、回転電機10の分解図である。なお、図3では、図示の都合上、回転軸11を除き、切断面を示すハッチングを省略している。以下の記載では、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
回転電機10は、大別して、軸受ユニット20と、ハウジング30と、回転子40と、固定子50と、インバータユニット60とを備えている。これら各部材は、いずれも回転軸11と共に同軸上に配置され、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。本実施形態の回転電機10は、「界磁子」としての回転子40と、「電機子」としての固定子50とを有する構成となっており、回転界磁形の回転電機として具体化されるものとなっている。
軸受ユニット20は、軸方向に互いに離間して配置される2つの軸受21,22と、その軸受21,22を保持する保持部材23とを有している。軸受21,22は、例えばラジアル玉軸受であり、それぞれ外輪25と、内輪26と、それら外輪25及び内輪26の間に配置された複数の玉27とを有している。保持部材23は円筒状をなしており、その径方向内側に軸受21,22が組み付けられている。そして、軸受21,22の径方向内側に、回転軸11及び回転子40が回転自在に支持されている。軸受21,22により、回転軸11を回転可能に支持する一組の軸受が構成されている。
各軸受21,22では、不図示のリテーナにより玉27が保持され、その状態で各玉同士のピッチが保たれている。軸受21,22は、リテーナの軸方向上下部に封止部材を有し、その内部に非導電性グリース(例えば非導電性のウレア系グリース)が充填されている。また、内輪26の位置がスペーサにより機械的に保持され、内側から上下方向に凸となる定圧予圧が施されている。
ハウジング30は、円筒状をなす周壁31を有する。周壁31は、その軸方向に対向する第1端と第2端を有する。周壁31は、第1端に端面32と有するとともに、第2端に開口33を有する。開口33は、第2端の全体において開放されている。端面32には、その中央に円形の孔34が形成されており、その孔34に挿通させた状態で、ネジやリベット等の固定具により軸受ユニット20が固定されている。また、ハウジング30内、すなわち周壁31及び端面32により区画された内部スペースには、中空円筒状の回転子40と中空円筒状の固定子50とが収容されている。本実施形態では回転電機10がアウタロータ式であり、ハウジング30内には、筒状をなす回転子40の径方向内側に固定子50が配置されている。回転子40は、軸方向において端面32の側で回転軸11に片持ち支持されている。
回転子40は、中空筒状に形成された磁石ホルダ41と、その磁石ホルダ41の径方向内側に設けられた環状の磁石ユニット42とを有している。磁石ホルダ41は、略カップ状をなし、磁石保持部材としての機能を有する。磁石ホルダ41は、円筒状をなす円筒部43と、同じく円筒状をなしかつ円筒部43よりも小径の固定部(attachment)44と、それら円筒部43及び固定部44を繋ぐ部位となる中間部45とを有している。円筒部43の内周面に磁石ユニット42が取り付けられている。
なお、磁石ホルダ41は、機械強度が充分な冷間圧延鋼板(SPCC)や、鍛造用鋼、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)等により構成されている。
固定部44の貫通孔44aには回転軸11が挿通される。貫通孔44a内に配置された回転軸11に対して固定部44が固定されている。つまり、固定部44により、回転軸11に対して磁石ホルダ41が固定されている。なお、固定部44は、凹凸を利用したスプライン結合やキー結合、溶接、又はかしめ等により回転軸11に対して固定されているとよい。これにより、回転子40が回転軸11と一体に回転する。
また、固定部44の径方向外側には、軸受ユニット20の軸受21,22が組み付けられている。上述のとおり軸受ユニット20はハウジング30の端面32に固定されているため、回転軸11及び回転子40は、ハウジング30に回転可能に支持されるものとなっている。これにより、ハウジング30内において回転子40が回転自在となっている。
回転子40には、その軸方向に対向する二つの端部の一方にのみ固定部44が設けられており、これにより、回転子40が回転軸11に片持ち支持されている。ここで、回転子40の固定部44は、軸受ユニット20の軸受21,22により、軸方向に異なる2位置で回転可能に支持されている。すなわち、回転子40は、磁石ホルダ41の、その軸方向に対向する二つの端部の一方において、その軸方向に離間する二つの軸受21,22により回転可能に支持されている。そのため、回転子40が回転軸11に片持ち支持される構造であっても、回転子40の安定回転が実現されるようになっている。この場合、回転子40の軸方向中心位置に対して片側にずれた位置で、回転子40が軸受21,22により支持されている。
また、軸受ユニット20において回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22と、その逆側(図の上側)の軸受21とは、外輪25及び内輪26と玉27との間の隙間寸法が相違しており、例えば回転子40の中心寄りの軸受22の方が、その逆側の軸受21よりも隙間寸法が大きいものとなっている。この場合、回転子40の中心寄りの側において、回転子40の振れや、部品公差に起因するインバランスによる振動が軸受ユニット20に作用しても、その振れや振動の影響が良好に吸収される。具体的には、回転子40の中心寄り(図の下側)の軸受22において予圧により遊び寸法(隙間寸法)を大きくしていることで、片持ち構造において生じる振動がその遊び部分により吸収される。前記予圧は、定位置予圧、又は定圧予圧のいずれであっても良い。定位置予圧の場合、軸受21と軸受22の外輪25はいずれも保持部材23に対して、圧入、又は接着等の方法を用いて接合されている。また、軸受21と軸受22の内輪26はいずれも回転軸11に対して、圧入、又は接着等の方法を用いて接合されている。ここで軸受21の外輪25を軸受21の内輪26に対して軸方向に異なる位置に配置する事で予圧を発生させることができる。軸受22の外輪25を軸受22の内輪26に対して軸方向に異なる位置に配置する事でも予圧を発生させることができる。
また定圧予圧を採用する場合には、軸方向において、軸受22と軸受21に挟まれた領域から軸受22の外輪25に向けて予圧が発生する様に予圧用バネ、例えばウェーブワッシャ24等を軸受22と軸受21に挟まれた同領域に配置する。この場合も、軸受21と軸受22の内輪26はいずれも回転軸11に対して、圧入、又は接着等の方法を用いて接合されている。軸受21、又は軸受22の外輪25は、保持部材23に対して所定のクリアランスを介して配置される。このような構成とすることで、軸受22の外輪25には軸受21から離れる方向に予圧用バネのバネ力が作用する。そして、この力が回転軸11を伝わることで、軸受21の内輪26を軸受22の方向に押し付ける力が作用する。これにより、軸受21,22ともに、外輪25と内輪26の軸方向の位置がずれ、前述した定位置予圧と同様に2つのベアリングに予圧を掛けることができる。
なお、定圧予圧を発生させる際には、必ずしも図2に示す様に軸受22の外輪25にバネ力を印加する必要は無い。例えば、軸受21の外輪25にバネ力を印加しても良い。また軸受21,22のいずれかの内輪26を回転軸11に対して所定のクリアランスを介して配置し、軸受21,22の外輪25を保持部材23に対して圧入、又は接着等の方法を用いて接合することで、2つのベアリングに予圧を掛けても良い。
更には、軸受21の内輪26が軸受22に対して離れるように力を作用させる場合には、軸受22の内輪26も軸受21に対して離れるように力を作用させる方が良い。逆に、軸受21の内輪26が軸受22に対して近づくように力を作用させる場合には、軸受22の内輪26も軸受21に対して近づくように力を作用させる方が良い。
なお、本回転電機10を車両動力源等の目的で車両に適用する場合には、予圧を発生させる機構に対して予圧の発生方向の成分を持つ振動が加わる可能性や、予圧を印加する対象物に掛る重力の方向が変動してしまう可能性がある。その為、本回転電機10を車両に適用する場合には、定位置予圧を採用することが望ましい。
また、中間部45は、環状の内側肩部49aと環状の外側肩部49bを有する。外側肩部49bは、中間部45の径方向において内側肩部49aの外側に位置している。内側肩部49aと外側肩部49bは、中間部45の軸方向において互いに離間している。これにより、中間部45の径方向において、円筒部43と固定部44とは部分的に重複している。つまり、固定部44の基端部(図の下側の奥側端部)よりも軸方向外側に、円筒部43が突出するものとなっている。本構成では、中間部45が段差無しで平板状に設けられる場合に比べて、回転子40の重心近くの位置で、回転軸11に対して回転子40を支持させることが可能となり、回転子40の安定動作が実現できるものとなっている。
上述した中間部45の構成によれば、回転子40には、径方向において固定部44を囲みかつ中間部45の内寄りとなる位置に、軸受ユニット20の一部を収容する軸受収容凹部46が環状に形成されるとともに、径方向において軸受収容凹部46を囲みかつ中間部45の外寄りとなる位置に、後述する固定子50の固定子巻線51のコイルエンド54を収容するコイル収容凹部47が形成されている。そして、これら各収容凹部46,47が、径方向の内外で隣り合うように配置されるようになっている。つまり、軸受ユニット20の一部と、固定子巻線51のコイルエンド54とが径方向内外に重複するように配置されている。これにより、回転電機10において軸方向の長さ寸法の短縮が可能となっている。
中間部45は、回転軸11側から径方向外側に張り出すように設けられている。そして、その中間部45に、軸方向に延び、固定子50の固定子巻線51のコイルエンド54に対する接触を回避する接触回避部が設けられている。中間部45が張出部に相当する。
コイルエンド54は、径方向の内側又は外側に曲げられることで、そのコイルエンド54の軸方向寸法を小さくすることができ、固定子50の軸長を短縮することが可能である。コイルエンド54の曲げ方向は、回転子40との組み付けを考慮したものであるとよい。回転子40の径方向内側に固定子50を組み付けることを想定すると、その回転子40に対する挿入先端側では、コイルエンド54が径方向内側に曲げられるとよい。コイルエンド54の反対側のコイルエンドの曲げ方向は任意でよいが、空間的に余裕のある外側に曲げた形状が製造上好ましい。
また、磁石部としての磁石ユニット42は、円筒部43の径方向内側において、周方向に沿って極性が交互に変わるように配置された複数の永久磁石により構成されている。これにより、磁石ユニット42は、周方向に複数の磁極を有する。ただし、磁石ユニット42の詳細については後述する。
固定子50は、回転子40の径方向内側に設けられている。固定子50は、略筒状(環状)に巻回形成された固定子巻線51と、その径方向内側に配置されたベース部材としての固定子コア52とを有しており、固定子巻線51が、所定のエアギャップを挟んで円環状の磁石ユニット42に対向するように配置されている。固定子巻線51は複数の相巻線よりなる。それら各相巻線は、周方向に配列された複数の導線が所定ピッチで互いに接続されることで構成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の3相巻線と、X相、Y相及びZ相の3相巻線とを用い、それら3相の巻線を2つ用いることで、固定子巻線51が6相の相巻線として構成されている。
固定子コア52は、軟磁性材である電磁鋼板が積層された積層鋼板により円環状に形成されており、固定子巻線51の径方向内側に組み付けられている。電磁鋼板は、例えば鉄に数%程度(例えば3%)の珪素を添加した珪素鋼板である。固定子巻線51が電機子巻線に相当し、固定子コア52が電機子コアに相当する。
固定子巻線51は、径方向において固定子コア52に重複する部分であり、かつ固定子コア52の径方向外側となるコイルサイド部53と、軸方向において固定子コア52の一端側及び他端側にそれぞれ張り出すコイルエンド54,55とを有している。コイルサイド部53は、径方向において固定子コア52と回転子40の磁石ユニット42にそれぞれ対向している。回転子40の内側に固定子50が配置された状態では、軸方向両側のコイルエンド54,55のうち軸受ユニット20の側(図の上側)となるコイルエンド54が、回転子40の磁石ホルダ41により形成されたコイル収容凹部47に収容されている。ただし、固定子50の詳細については後述する。
インバータユニット60は、ハウジング30に対してボルト等の締結具により固定されるユニットベース61と、そのユニットベース61に組み付けられる複数の電気コンポーネント62とを有している。ユニットベース61は、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成されている。ユニットベース61は、ハウジング30の開口33の縁に対して固定されるエンドプレート63と、そのエンドプレート63に一体に設けられ、軸方向に延びるケーシング64とを有している。エンドプレート63は、その中心部に円形の開口65を有しており、開口65の周縁部から起立するようにしてケーシング64が形成されている。
ケーシング64の外周面には固定子50が組み付けられている。つまり、ケーシング64の外径寸法は、固定子コア52の内径寸法と同じか、又は固定子コア52の内径寸法よりも僅かに小さい寸法になっている。ケーシング64の外側に固定子コア52が組み付けられることで、固定子50とユニットベース61とが一体化されている。また、ユニットベース61がハウジング30に固定されることからすると、ケーシング64に固定子コア52が組み付けられた状態では、固定子50がハウジング30に対して一体化された状態となっている。
なお、固定子コア52は、ユニットベース61に対して接着、焼きばめ、圧入等により組み付けられているとよい。これにより、ユニットベース61側に対する固定子コア52の周方向又は軸方向の位置ずれが抑制される。
また、ケーシング64の径方向内側は、電気コンポーネント62を収容する収容空間となっており、その収容空間には、回転軸11を囲むようにして電気コンポーネント62が配置されている。ケーシング64は、収容空間形成部としての役目を有している。電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する半導体モジュール66や、制御基板67、コンデンサモジュール68を具備する構成となっている。
なお、ユニットベース61が、固定子50の径方向内側に設けられ、固定子50を保持する固定子ホルダ(電機子ホルダ)に相当する。ハウジング30及びユニットベース61により、回転電機10のモータハウジングが構成されている。このモータハウジングでは、回転子40を挟んで軸方向の一方側においてハウジング30に対して保持部材23が固定されるとともに、他方側においてハウジング30及びユニットベース61が互いに結合されている。例えば電気自動車である電動車両等においては、その車両等の側にモータハウジングが取り付けられることで、回転電機10が車両等に装着される。
ここで、上記図1〜図5に加え、インバータユニット60の分解図である図6を用いて、インバータユニット60の構成をさらに説明する。
ユニットベース61において、ケーシング64は、筒状部71と、その軸方向において対向する両端の一方(軸受ユニット20側の端部)に設けられた端面72とを有している。筒状部71の軸方向両端部のうち端面72の反対側は、エンドプレート63の開口65を通じて全面的に開放されている。端面72には、その中央に円形の孔73が形成されており、その孔73に回転軸11が挿通可能となっている。孔73には、回転軸11の外周面との間の空隙を封鎖するシール材171が設けられている。シール材171は、例えば樹脂材料よりなる摺動シールであるとよい。
ケーシング64の筒状部71は、その径方向外側に配置される回転子40及び固定子50と、その径方向内側に配置される電気コンポーネント62との間を仕切る仕切り部となっており、筒状部71を挟んで径方向内外に、回転子40及び固定子50と電気コンポーネント62とが並ぶようにそれぞれ配置されている。
また、電気コンポーネント62は、インバータ回路を構成する電気部品であり、固定子巻線51の各相巻線に対して所定順序で電流を流して回転子40を回転させる力行機能と、回転軸11の回転に伴い固定子巻線51に流れる3相交流電流を入力し、発電電力として外部に出力する発電機能とを有している。なお、電気コンポーネント62は、力行機能と発電機能とのうちいずれか一方のみを有するものであってもよい。発電機能は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生電力として外部に出力する回生機能である。
電気コンポーネント62の具体的な構成として、図4に示すように、回転軸11の周りには、中空円筒状をなすコンデンサモジュール68が設けられており、そのコンデンサモジュール68の外周面上に、複数の半導体モジュール66が周方向に並べて配置されている。コンデンサモジュール68は、互いに並列接続された平滑用のコンデンサ68aを複数備えている。具体的には、コンデンサ68aは、複数枚のフィルムコンデンサが積層されてなる積層型フィルムコンデンサであり、横断面が台形状をなしている。コンデンサモジュール68は、12個のコンデンサ68aが環状に並べて配置されることで構成されている。
なお、コンデンサ68aの製造過程においては、例えば、複数のフィルムが積層されてなる所定幅の長尺フィルムを用い、フィルム幅方向を台形高さ方向とし、かつ台形の上底と下底とが交互になるように長尺フィルムが等脚台形状に切断されることにより、コンデンサ素子が作られる。そして、そのコンデンサ素子に電極等を取り付けることでコンデンサ68aが作製される。
半導体モジュール66は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子を有し、略板状に形成されている。本実施形態では、回転電機10が2組の3相巻線を備えており、その3相巻線ごとにインバータ回路が設けられていることから、計12個の半導体モジュール66を環状に並べて形成された半導体モジュール群66Aが電気コンポーネント62に設けられている。
半導体モジュール66は、ケーシング64の筒状部71とコンデンサモジュール68との間に挟まれた状態で配置されている。半導体モジュール群66Aの外周面は筒状部71の内周面に当接し、半導体モジュール群66Aの内周面はコンデンサモジュール68の外周面に当接している。この場合、半導体モジュール66で生じた熱は、ケーシング64を介してエンドプレート63に伝わり、エンドプレート63から放出される。
半導体モジュール群66Aは、外周面側、すなわち径方向において半導体モジュール66と筒状部71との間にスペーサ69を有しているとよい。この場合、コンデンサモジュール68では軸方向に直交する横断面の断面形状が正12角形である一方、筒状部71の内周面の横断面形状が円形であるため、スペーサ69は、内周面が平坦面、外周面が曲面となっている。スペーサ69は、半導体モジュール群66Aの径方向外側において円環状に連なるように一体に設けられていてもよい。スペーサ69は、良熱伝導体であり、例えばアルミニウム等の金属、又は放熱ゲルシート等であるとよい。なお、筒状部71の内周面の横断面形状をコンデンサモジュール68と同じ12角形にすることも可能である。この場合、スペーサ69の内周面及び外周面がいずれも平坦面であるとよい。
また、本実施形態では、ケーシング64の筒状部71に、冷却水を流通させる冷却水通路74が形成されており、半導体モジュール66で生じた熱は、冷却水通路74を流れる冷却水に対しても放出される。つまり、ケーシング64は水冷機構を備えている。図3や図4に示すように、冷却水通路74は、電気コンポーネント62(半導体モジュール66及びコンデンサモジュール68)を囲むように環状に形成されている。半導体モジュール66は筒状部71の内周面に沿って配置されており、その半導体モジュール66に対して径方向内外に重なる位置に冷却水通路74が設けられている。
筒状部71の外側には固定子50が配置され、内側には電気コンポーネント62が配置されていることから、筒状部71に対しては、その外側から固定子50の熱が伝わるとともに、内側から電気コンポーネント62の熱(例えば半導体モジュール66の熱)が伝わることになる。この場合、固定子50と半導体モジュール66とを同時に冷やすことが可能となっており、回転電機10における発熱部材の熱を効率良く放出することができる。
更に、固定子巻線51への通電を行うことで回転電機を動作させるインバータ回路の一部、又は全部を構成する半導体モジュール66の少なくとも一部が、ケーシング64の筒状部71の径方向外側に配置された固定子コア52に囲まれた領域内に配置されている。望ましくは、1つの半導体モジュール66の全体が固定子コア52に囲まれた領域内に配置されている。更に、望ましくは、全ての半導体モジュール66の全体が固定子コア52に囲まれた領域内に配置されている。
また、半導体モジュール66の少なくとも一部が、冷却水通路74により囲まれた領域内に配置されている。望ましくは、全ての半導体モジュール66の全体がヨーク141に囲まれた領域内に配置されている。
また、電気コンポーネント62は、軸方向において、コンデンサモジュール68の一方の端面に設けられた絶縁シート75と、他方の端面に設けられた配線モジュール76とを備えている。この場合、コンデンサモジュール68は、その軸方向に対向した二つの端面、すなわち第1端面と第2端面を有している。コンデンサモジュール68の軸受ユニット20に近い第1端面は、ケーシング64の端面72に対向しており、絶縁シート75を挟んだ状態で端面72に重ね合わされている。また、コンデンサモジュール68の開口65に近い第2端面には、配線モジュール76が組み付けられている。
配線モジュール76は、合成樹脂材よりなり円形板状をなす本体部76aと、その内部に埋設された複数のバスバー76b,76cを有しており、そのバスバー76b,76cにより、半導体モジュール66やコンデンサモジュール68と電気的接続がなされている。具体的には、半導体モジュール66は、その軸方向端面から延びる接続ピン66aを有しており、その接続ピン66aが、本体部76aの径方向外側においてバスバー76bに接続されている。また、バスバー76cは、本体部76aの径方向外側においてコンデンサモジュール68とは反対側に延びており、その先端部にて配線部材79に接続されるようになっている(図2参照)。
上記のとおりコンデンサモジュール68の軸方向に対向する第1端面に絶縁シート75が設けられ、かつコンデンサモジュール68の第2端面に配線モジュール76が設けられた構成によれば、コンデンサモジュール68の放熱経路として、コンデンサモジュール68の第1端面および第2端面から端面72及び筒状部71に至る経路が形成される。すなわち、第1端面から端面72への経路と、第2端面から筒状部71へ至る経路が形成される。これにより、コンデンサモジュール68において半導体モジュール66が設けられた外周面以外の端面部からの放熱が可能になっている。つまり、径方向への放熱だけでなく、軸方向への放熱も可能となっている。
また、コンデンサモジュール68は中空円筒状をなし、その内周部には所定の隙間を介在させて回転軸11が配置されることから、コンデンサモジュール68の熱はその中空部からも放出可能となっている。この場合、回転軸11の回転により空気の流れが生じることにより、その冷却効果が高められるようになっている。
配線モジュール76には、円板状の制御基板67が取り付けられている。制御基板67は、所定の配線パターンが形成されたプリントサーキットボード(PCB)を有しており、そのボード上には各種ICや、マイコン等からなる制御部に相当する制御装置77が実装されている。制御基板67は、ネジ等の固定具により配線モジュール76に固定されている。制御基板67は、その中央部に、回転軸11を挿通させる挿通孔67aを有している。
なお、配線モジュール76は、軸方向に互いに対向する、すなわち、その厚み方向において互いに対向する第1面と第2面を有する。第1面は、コンデンサモジュール68に面する。配線モジュール76は、その第2面に、制御基板67を設けている。制御基板67の両面の一方側から他方側に配線モジュール76のバスバー76cが延びる構成となっている。かかる構成において、制御基板67には、バスバー76cとの干渉を回避する切欠が設けられているとよい。例えば、円形状をなす制御基板67の外縁部の一部が切り欠かれているとよい。
上述のとおり、ケーシング64に囲まれた空間内に電気コンポーネント62が収容され、その外側に、ハウジング30、回転子40及び固定子50が層状に設けられている構成によれば、インバータ回路で生じる電磁ノイズが好適にシールドされるようになっている。すなわち、インバータ回路では、所定のキャリア周波数によるPWM制御を利用して各半導体モジュール66でのスイッチング制御が行われ、そのスイッチング制御により電磁ノイズが生じることが考えられるが、その電磁ノイズを、電気コンポーネント62の径方向外側のハウジング30、回転子40、固定子50等により好適にシールドできる。
更に、半導体モジュール66の少なくとも一部が、ケーシング64の筒状部71の径方向外側に配置された固定子コア52に囲まれた領域内に配置することで、半導体モジュール66と固定子巻線51とが固定子コア52を介さずに配置されている構成に比べて、半導体モジュール66から磁束が発生したとしても、固定子巻線51に影響を与えにくい。また、固定子巻線51から磁束が発生したとしても、半導体モジュール66に影響を与えにくい。なお、半導体モジュール66の全体が、ケーシング64の筒状部71の径方向外側に配置された固定子コア52に囲まれた領域内に配置されると更に効果的である。また、半導体モジュール66の少なくとも一部が、冷却水通路74により囲まれている場合、固定子巻線51や磁石ユニット42からの発熱が半導体モジュール66に届きにくいという効果を得ることができる。
筒状部71においてエンドプレート63の付近には、その外側の固定子50と内側の電気コンポーネント62とを電気的に接続する配線部材79(図2参照)を挿通させる貫通孔78が形成されている。図2に示すように、配線部材79は、圧着、溶接などにより、固定子巻線51の端部と配線モジュール76のバスバー76cとにそれぞれ接続されている。配線部材79は、例えばバスバーであり、その接合面は平たく潰されていることが望ましい。貫通孔78は、1カ所又は複数箇所に設けられているとよく、本実施形態では2カ所に貫通孔78が設けられている。2カ所に貫通孔78が設けられる構成では、2組の3相巻線から延びる巻線端子を、それぞれ配線部材79により容易に結線することが可能となり、多相結線を行う上で好適なものとなっている。
上述のとおりハウジング30内には、図4に示すように径方向外側から順に回転子40、固定子50が設けられ、固定子50の径方向内側にインバータユニット60が設けられている。ここで、ハウジング30の内周面の半径をdとした場合に、回転子40の回転中心からd×0.705の距離よりも径方向外側に回転子40と固定子50とが配置されている。この場合、回転子40及び固定子50のうち径方向内側の固定子50の内周面(すなわち固定子コア52の内周面)から径方向内側となる領域を第1領域X1、径方向において固定子50の内周面からハウジング30までの間の領域を第2領域X2とすると、第1領域X1の横断面の面積は、第2領域X2の横断面の面積よりも大きい構成となっている。また、径方向において回転子40の磁石ユニット42及び固定子巻線51が重複する範囲で見て、第1領域X1の容積が第2領域X2の容積よりも大きい構成となっている。
なお、回転子40及び固定子50を磁気回路コンポーネントアッセンブリとすると、ハウジング30内において、その磁気回路コンポーネントアッセンブリの内周面から径方向内側となる第1領域X1が、径方向において磁気回路コンポーネントアッセンブリの内周面からハウジング30までの間の第2領域X2よりも容積が大きい構成となっている。
次いで、回転子40及び固定子50の構成をより詳しく説明する。
一般に、回転電機における固定子の構成として、積層鋼板よりなりかつ円環状をなす固定子コアに周方向に複数のスロットを設け、そのスロット内に固定子巻線を巻装するものが知られている。具体的には、固定子コアは、ヨークから所定間隔で径方向に延びる複数のティースを有しており、周方向に隣り合うティース間にスロットが形成されている。そして、スロット内に、例えば径方向に複数層の導線が収容され、その導線により固定子巻線が構成されている。
ただし、上述した固定子構造では、固定子巻線の通電時において、固定子巻線の起磁力が増加するのに伴い固定子コアのティース部分で磁気飽和が生じ、それに起因して回転電機のトルク密度が制限されることが考えられる。つまり、固定子コアにおいて、固定子巻線の通電により生じた回転磁束がティースに集中することで、磁気飽和が生じると考えられる。
また、一般的に、回転電機におけるIPM(Interior Permanent Magnet)ロータの構成として、永久磁石がd−q座標系におけるd軸に配置され、q軸にロータコアが配置されたものが知られている。このような場合、d軸近傍の固定子巻線が励磁されることで、フレミングの法則により固定子から回転子のq軸に励磁磁束が流入される。そしてこれにより、回転子のq軸コア部分に、広範囲の磁気飽和が生じると考えられる。
図7は、固定子巻線の起磁力を示すアンペアターン[AT]とトルク密度[Nm/L]との関係を示すトルク線図である。破線が一般的なIPMロータ型の回転電機における特性を示す。図7に示すように、一般的な回転電機では、固定子において起磁力を増加させていくことにより、スロット間のティース部分及びq軸コア部分の2カ所で磁気飽和が生じ、それが原因でトルクの増加が制限されてしまう。このように、当該一般的な回転電機では、アンペアターン設計値がA1で制限されることになる。
そこで本実施形態では、磁気飽和に起因する制限を解消すべく、回転電機10において、以下に示す構成を付与するものとしている。すなわち、第1の工夫として、固定子において固定子コアのティースで生じる磁気飽和をなくすべく、固定子50においてスロットレス構造を採用し、かつIPMロータのq軸コア部分で生じる磁気飽和をなくすべく、SPM(Surface Permanent Magnet)ロータを採用している。第1の工夫によれば、磁気飽和が生じる上記2カ所の部分をなくすことができるが、低電流域でのトルクが減少することが考えられる(図7の一点鎖線参照)。そのため、第2の工夫として、SPMロータの磁束増強を図ることでトルク減少を挽回すべく、回転子40の磁石ユニット42において磁石磁路を長くして磁力を高めた極異方構造を採用している。
また、第3の工夫として、固定子巻線51のコイルサイド部53において導線の固定子50における径方向厚さを小さくした扁平導線構造を採用してトルク減少の挽回を図っている。ここで、上述の磁力を高めた極異方構造によって、磁石ユニット42に対向する固定子巻線51には、より大きな渦電流が発生することが考えられる。しかしながら、第3の工夫によれば、径方向に薄い扁平導線構造のため、固定子巻線51における径方向の渦電流の発生を抑制することができる。このように、これら第1〜第3の各構成によれば、図7に実線で示すように、磁力の高い磁石を採用してトルク特性の大幅な改善を見込みつつも、磁力の高い磁石ゆえに生じ得る大きい渦電流発生の懸念も改善できるものとなっている。
さらに、第4の工夫として、極異方構造を利用し正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石ユニットを採用している。これによれば、後述するパルス制御等によって正弦波整合率を高めてトルク増強を図ることができるとともに、ラジアル磁石と比べ緩やかな磁束変化のため渦電流損(渦電流による銅損:eddy current loss)もまた更に抑制することができるのである。
以下、正弦波整合率について説明する。正弦波整合率は、磁石の表面を磁束プローブでなぞる等して計測した表面磁束密度分布の実測波形と周期及びピーク値が同じ正弦波との比較から求める事ができる。そして、回転電機の基本波である1次波形の振幅が、実測波形の振幅、即ち基本波に他の高調波成分を加えた振幅に対して、占める割合が正弦波整合率に相当する。正弦波整合率が高くなると、表面磁束密度分布の波形が正弦波形状に近づいていく。そして、正弦波整合率を向上させた磁石を備えた回転電機に対して、インバータから1次の正弦波の電流を供給すると、磁石の表面磁束密度分布の波形が正弦波形状に近い事と相まって、大きなトルクを発生させることができる。なお、表面磁束密度分布は実測以外の方法、例えばマクスウェルの方程式を用いた電磁界解析によって推定しても良い。
また、第5の工夫として、固定子巻線51を複数の素線を寄せ集めて束ねた素線導体構造としている。これによれば、素線が並列結線されているため、大電流が流せるとともに、扁平導線構造で固定子50の周方向に広がった導線で発生する渦電流の発生を、素線それぞれの断面積が小さくなるため、第3の工夫による径方向に薄くする以上に効果的に抑制することができる。そして、複数の素線を撚り合わせた構成にすることで、導体からの起磁力に対しては、電流通電方向に対して右ネジの法則で発生する磁束に対する渦電流を相殺することができる。
このように、第4の工夫、第5の工夫をさらに加えると、第2の工夫である磁力の高い磁石を採用しながら、さらにその高い磁力に起因する渦電流損を抑制しながらトルク増強を図ることができる。
以下に、上述した固定子50のスロットレス構造、固定子巻線51の扁平導線構造、及び磁石ユニット42の極異方構造について個別に説明を加える。ここではまずは、固定子50におけるスロットレス構造と固定子巻線51の扁平導線構造とを説明する。図8は、回転子40及び固定子50の横断面図であり、図9は、図8に示す回転子40及び固定子50の一部を拡大して示す図である。図10は、図11のX‐X線に沿った固定子50の横断面を示す断面図であり、図11は、固定子50の縦断面を示す断面図である。また、図12は、固定子巻線51の斜視図である。なお、図8及び図9には、磁石ユニット42における磁石の磁化方向を矢印にて示している。
図8乃至図11に示すように、固定子コア52は、軸方向に複数の電磁鋼板が積層され、かつ径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしており、回転子40側となる径方向外側に固定子巻線51が組み付けられるものとなっている。固定子コア52において、回転子40側の外周面が導線設置部(導体エリア)となっている。固定子コア52の外周面は凹凸のない曲面状をなしており、その外周面において周方向に所定間隔で複数の導線群81が配置されている。固定子コア52は、回転子40を回転させるための磁気回路の一部となるバックヨークとして機能する。この場合、周方向に隣り合う各2つの導線群81の間には軟磁性材からなるティース(つまり、鉄心)が設けられていない構成(つまり、スロットレス構造)となっている。本実施形態において、それら各導線群81の間隙56には、封止部材57の樹脂材料が入り込む構造となっている。つまり、固定子50において、周方向における各導線群81の間に設けられる導線間部材が、非磁性材料である封止部材57として構成されている。封止部材57の封止前の状態で言えば、固定子コア52の径方向外側には、それぞれ導線間領域である間隙56を隔てて周方向に所定間隔で導線群81が配置されており、これによりスロットレス構造の固定子50が構築されている。言い換えれば、各導線群81は、後述するように二つの導線(conductor)82からなり、固定子50の周方向に隣り合う各二つの導線群81の間は、非磁性材のみが占有している。この非磁性材とは、封止部材57以外に空気などの非磁性気体や非磁性液体などをも含む。なお、以下において、封止部材57は導線間部材(conductor-to-conductor member)ともいう。
なお、周方向に並ぶ各導線群81の間においてティースが設けられている構成とは、ティースが、径方向に所定厚さを有し、かつ周方向に所定幅を有することで、各導線群81の間に磁気回路の一部、すなわち磁石磁路を形成する構成であると言える。この点において、各導線群81の間にティースが設けられていない構成とは、上記の磁気回路の形成がなされていない構成であると言える。
図10に示すように、固定子巻線(すなわち電機子巻線)51は、所定の厚みT2(以下、第1寸法とも言う)と幅W2(以下、第2寸法とも言う)を有するように形成されている。厚みT2は、固定子巻線51の径方向において互いに対向する外側面と内側面との間の最短距離である。幅W2は、固定子巻線51の多相(実施例では3相:U相、V相及びW相の3相あるいはX相、Y相及びZ相の3相)の一つとして機能する固定子巻線51の一部分の固定子巻線51の周方向の長さである。具体的には、図10において、周方向に隣り合う2つの導線群81が3相の内の一つである例えばU相として機能する場合、周方向において当該2つの導線群81の端から端までの幅W2である。そして、厚みT2は幅W2より小さくなっている。
なお、厚みT2は、幅W2内に存在する2つの導線群81の合計幅寸法より小さいことが好ましい。また、仮に固定子巻線51(より詳しくは導線82)の断面形状が真円形状や楕円形状、又は多角形形状である場合、固定子50の径方向に沿った導線82の断面のうち、その断面において固定子50の径方向の最大の長さをW12、同断面のうち固定子50の周方向の最大の長さをW11としても良い。
図10及び図11に示すように、固定子巻線51は、封止材(モールド材)としての合成樹脂材からなる封止部材57により封止されている。つまり、固定子巻線51は、固定子コア52と共にモールド材によりモールドされている。なお樹脂は、非磁性体、又は非磁性体の均等物としてBs=0と看做すことができる。
図10の横断面で見れば、封止部材57は、各導線群81の間、すなわち間隙56に合成樹脂材が充填されて設けられており、封止部材57により、各導線群81の間に絶縁部材が介在する構成となっている。つまり、間隙56において封止部材57が絶縁部材として機能する。封止部材57は、固定子コア52の径方向外側において、各導線群81を全て含む範囲、すなわち径方向の厚さ寸法が各導線群81の径方向の厚さ寸法よりも大きくなる範囲で設けられている。
また、図11の縦断面で見れば、封止部材57は、固定子巻線51のターン部84を含む範囲で設けられている。固定子巻線51の径方向内側では、固定子コア52の軸方向に対向する端面の少なくとも一部を含む範囲で封止部材57が設けられている。この場合、固定子巻線51は、各相の相巻線の端部、すなわちインバータ回路との接続端子を除く略全体で樹脂封止されている。
封止部材57が固定子コア52の端面を含む範囲で設けられた構成では、封止部材57により、固定子コア52の積層鋼板を軸方向内側に押さえ付けることができる。これにより、封止部材57を用いて、各鋼板の積層状態を保持することができる。なお、本実施形態では、固定子コア52の内周面を樹脂封止していないが、これに代えて、固定子コア52の内周面を含む固定子コア52の全体を樹脂封止する構成であってもよい。
回転電機10が車両動力源として使用される場合には、封止部材57が、高耐熱のフッ素樹脂や、エポキシ樹脂、PPS樹脂、PEEK樹脂、LCP樹脂、シリコン樹脂、PAI樹脂、PI樹脂等により構成されていることが好ましい。また、膨張差による割れ抑制の観点から線膨張係数を考えると、固定子巻線51の導線の外被膜と同じ材質であることが望ましい。すなわち、線膨張係数が、一般的に他樹脂の倍以上であるシリコン樹脂は望ましくは除外される。なお、電気車両の如く、燃焼を利用した機関を持たない電気製品においては、180℃程度の耐熱性を持つPPO樹脂やフェノール樹脂、FRP樹脂も候補となる。回転電機の周囲温度が100℃未満と見做せる分野においては、この限りではない。
回転電機10のトルクは磁束の大きさに比例する。ここで、固定子コアがティースを有している場合には、固定子での最大磁束量がティースでの飽和磁束密度に依存して制限されるが、固定子コアがティースを有していない場合には、固定子での最大磁束量が制限されない。そのため、固定子巻線51に対する通電電流を増加して回転電機10のトルク増加を図る上で、有利な構成となっている。
本実施形態では、固定子50においてティースを無くした構造(スロットレス構造)を用いたことにより、固定子50のインダクタンスが低減される。具体的には、複数のティースにより仕切られた各スロットに導線が収容される一般的な回転電機の固定子ではインダクタンスが例えば1mH前後であるのに対し、本実施形態の固定子50ではインダクタンスが5〜60μH程度に低減される。本実施形態では、アウタロータ構造の回転電機10としつつも、固定子50のインダクタンス低減により機械的時定数Tmを下げることが可能となっている。つまり、高トルク化を図りつつ、機械的時定数Tmの低減が可能となっている。なお、イナーシャをJ、インダクタンスをL、トルク定数をKt、逆起電力定数をKeとすると、機械的時定数Tmは、次式により算出される。
Tm=(J×L)/(Kt×Ke)
この場合、インダクタンスLの低減により機械的時定数Tmが低減されることが確認できる。
固定子コア52の径方向外側における各導線群81は、断面が扁平矩形状をなす複数の導線82が固定子コア52の径方向に並べて配置されて構成されている。各導線82は、横断面において「径方向寸法<周方向寸法」となる向きで配置されている。これにより、各導線群81において径方向の薄肉化が図られている。また、径方向の薄肉化を図るとともに、導体領域が、ティースが従来あった領域まで平らに延び、扁平導線領域構造となっている。これにより、薄肉化により断面積が小さくなることで懸念される導線の発熱量の増加を、周方向に扁平化して導体の断面積を稼ぐことで抑えている。なお、複数の導線を周方向に並べ、かつそれらを並列結線とする構成であっても、導体被膜分の導体断面積低下は起こるものの、同じ理屈に依る効果が得られる。なお、以下において、導線群81のそれぞれ、および導線82のそれぞれを、伝導部材(conductive member)とも言う。
スロットがないことから、本実施形態における固定子巻線51では、その周方向の一周における固定子巻線51が占める導体領域を、固定子巻線51が存在しない導体非占有領域より大きく設計することができる。なお、従来の車両用回転電機は、固定子巻線の周方向の一周における導体領域/導体非占有領域は1以下であるのが当然であった。一方、本実施形態では、導体領域が導体非占有領域と同等又は導体領域が導体非占有領域よりも大きくなるようにして、各導線群81が設けられている。ここで、図10に示すように、周方向において導線82(つまり、後述する直線部83)が配置された導線領域をWA、隣り合う導線82の間となる導線間領域をWBとすると、導線領域WAは、導線間領域WBより周方向において大きいものとなっている。
固定子巻線51における導線群81の構成として、その導線群81の径方向の厚さ寸法は、1磁極内における1相分の周方向の幅寸法よりも小さいものとなっている。すなわち、導線群81が径方向に2層の導線82よりなり、かつ1磁極内に1相につき周方向に2つの導線群81が設けられる構成では、各導線82の径方向の厚さ寸法をTc、各導線82の周方向の幅寸法をWcとした場合に、「Tc×2<Wc×2」となるように構成されている。なお、他の構成として、導線群81が2層の導線82よりなり、かつ1磁極内に1相につき周方向に1つの導線群81が設けられる構成では、「Tc×2<Wc」の関係となるように構成されるとよい。要するに、固定子巻線51において周方向に所定間隔で配置される導線部(導線群81)は、その径方向の厚さ寸法が、1磁極内における1相分の周方向の幅寸法よりも小さいものとなっている。
言い換えると、1本1本の各導線82は、径方向の厚さ寸法Tcが周方向の幅寸法Wcよりも小さいとよい。またさらに、径方向に2層の導線82よりなる導線群81の径方向の厚さ寸法(2Tc)、すなわち導線群81の径方向の厚さ寸法(2Tc)が周方向の幅寸法Wcよりも小さいとよい。
回転電機10のトルクは、導線群81の固定子コア52の径方向の厚さに略反比例する。この点、固定子コア52の径方向外側において導線群81の厚さを薄くしたことにより、回転電機10のトルク増加を図る上で有利な構成となっている。その理由としては、回転子40の磁石ユニット42から固定子コア52までの距離(つまり鉄の無い部分の距離)を小さくして磁気抵抗を下げることができるためである。これによれば、永久磁石による固定子コア52の鎖交磁束を大きくすることができ、トルクを増強することができる。
また、導線群81の厚さを薄くしたことにより、導線群81から磁束が漏れても固定子コア52に回収されやすくなり、磁束がトルク向上のために有効に利用されずに外部に漏れることを抑制することができる。つまり、磁束漏れにより磁力が低下することを抑制でき、永久磁石による固定子コア52の鎖交磁束を大きくして、トルクを増強することができる。
導線82(conductor)は、導体(conductor body)82aの表面が絶縁被膜82bにより被覆された被覆導線よりなり、径方向に互いに重なる導線82同士の間、及び導線82と固定子コア52との間においてそれぞれ絶縁性が確保されている。この絶縁被膜82bは、後述する素線86が自己融着被覆線であるならその被膜、又は、素線86の被膜とは別に重ねられた絶縁部材で構成されている。なお、導線82により構成される各相巻線は、接続のための露出部分を除き、絶縁被膜82bによる絶縁性が保持されるものとなっている。露出部分としては、例えば、入出力端子部や、星形結線とする場合の中性点部分である。導線群81では、樹脂固着や自己融着被覆線を用いて、径方向に隣り合う各導線82が相互に固着されている。これにより、導線82同士が擦れ合うことによる絶縁破壊や、振動、音が抑制される。
本実施形態では、導体82aが複数の素線(wire)86の集合体として構成されている。具体的には、図13に示すように、導体82aは、複数の素線86を撚ることで撚糸状に形成されている。また、図14に示すように、素線86は、細い繊維状の導電材87を束ねた複合体として構成されている。例えば、素線86はCNT(カーボンナノチューブ)繊維の複合体であり、CNT繊維として、炭素の少なくとも一部をホウ素で置換したホウ素含有微細繊維を含む繊維が用いられている。炭素系微細繊維としては、CNT繊維以外に、気相成長法炭素繊維(VGCF)等を用いることができるが、CNT繊維を用いることが好ましい。なお、素線86の表面は、エナメルなどの高分子絶縁層で覆われている。また、素線86の表面は、ポリイミドの被膜やアミドイミドの被膜からなる、いわゆるエナメル被膜で覆われていることが好ましい。
導線82は、固定子巻線51においてn相の巻線を構成する。そして導線82(すなわち、導体82a)の各々の素線86は、互いに接触状態で隣接している。導線82は、巻線導体が、複数の素線86が撚られて形成される部位を、相内の1か所以上に持つとともに、撚られた素線86間の抵抗値が素線86そのものの抵抗値よりも大きい素線集合体となっている。言い換えると、隣接する各2つの素線86はその隣接する方向において第1電気抵抗率を有し、素線86の各々はその長さ方向において第2電気抵抗率を有する場合、第1電気抵抗率は第2電気抵抗率より大きい値になっている。なお、導線82が複数の素線86により形成されるとともに、第1電気抵抗率が極めて高い絶縁部材により複数の素線86を覆う素線集合体となっていても良い。また、導線82の導体82aは、撚り合わされた複数の素線86により構成されている。
上記の導体82aでは、複数の素線86が撚り合わされて構成されているため、各素線86での渦電流の発生が抑えられ、導体82aにおける渦電流の低減を図ることができる。また、各素線86が捻られていることで、1本の素線86において磁界の印加方向が互いに逆になる部位が生じて逆起電圧が相殺される。そのため、やはり渦電流の低減を図ることができる。特に、素線86を繊維状の導電材87により構成することで、細線化することと捻り回数を格段に増やすこととが可能になり、渦電流をより好適に低減することができる。
なお、ここでいう素線86同士の絶縁方法は、前述の高分子絶縁膜に限定されず、接触抵抗を利用し撚られた素線86間で電流を流れにくくする方法であってもよい。すなわち撚られた素線86間の抵抗値が、素線86そのものの抵抗値よりも大きい関係になっていれば、抵抗値の差に起因して発生する電位差により、上記効果を得ることができる。たとえば、素線86を作成する製造設備と、回転電機10の固定子50(電機子)を作成する製造設備とを別の非連続の設備として用いることで、移動時間や作業間隔などから素線86が酸化し、接触抵抗を増やすことができ、好適である。
上述のとおり導線82は、断面が扁平矩形状をなし、径方向に複数並べて配置されるものとなっており、例えば融着層と絶縁層とを備えた自己融着被覆線で被覆された複数の素線86を撚った状態で集合させ、その融着層同士を融着させることで形状を維持している。なお、融着層を備えない素線や自己融着被覆線の素線を撚った状態で合成樹脂等により所望の形状に固めて成形してもよい。導線82における絶縁被膜82bの厚さを例えば80μm〜100μmとし、一般に使用される導線の被膜厚さ(5〜40μm)よりも厚肉とした場合、導線82と固定子コア52との間に絶縁紙等を介在させることをしなくても、これら両者の間の絶縁性が確保することができる。
また、絶縁被膜82bは、素線86の絶縁層よりも高い絶縁性能を有し、相間を絶縁することができるように構成されていることが望ましい。例えば、素線86の高分子絶縁層の厚さを例えば5μm程度にした場合、導線82の絶縁被膜82bの厚さを80μm〜100μm程度にして、相間の絶縁を好適に実施できるようにすることが望ましい。
また、導線82は、複数の素線86が撚られることなく束ねられている構成であってもよい。つまり、導線82は、その全長において複数の素線86が撚られている構成、全長のうち一部で複数の素線86が撚られている構成、全長において複数の素線86が撚られることなく束ねられている構成のいずれかであればよい。まとめると、導線部を構成する各導線82は、複数の素線86が束ねられているとともに、束ねられた素線間の抵抗値が素線86そのものの抵抗値よりも大きい素線集合体となっている。
各導線82は、固定子巻線51の周方向に所定の配置パターンで配置されるように折り曲げ形成されており、これにより、固定子巻線51として相ごとの相巻線が形成されている。図12に示すように、固定子巻線51では、各導線82のうち軸方向に直線状に延びる直線部83によりコイルサイド部53が形成され、軸方向においてコイルサイド部53よりも両外側に突出するターン部84によりコイルエンド54,55が形成されている。各導線82は、直線部83とターン部84とが交互に繰り返されることにより、波巻状の一連の導線として構成されている。直線部83は、磁石ユニット42に対して径方向に対向する位置に配置されており、磁石ユニット42の軸方向外側となる位置において所定間隔を隔てて配置される同相の直線部83同士が、ターン部84により互いに接続されている。なお、直線部83が「磁石対向部」に相当する。
本実施形態では、固定子巻線51が分布巻きにより円環状に巻回形成されている。この場合、コイルサイド部53では、相ごとに、磁石ユニット42の1極対に対応する間隔で周方向に直線部83が配置され、コイルエンド54,55では、相ごとの各直線部83が、略V字状に形成されたターン部84により互いに接続されている。1極対に対応して対となる各直線部83は、それぞれ電流の向きが互いに逆になるものとなっている。また、一方のコイルエンド54と他方のコイルエンド55とでは、ターン部84により接続される一対の直線部83の組み合わせがそれぞれ相違しており、そのコイルエンド54,55での接続が周方向に繰り返されることにより、固定子巻線51が略円筒状に形成されている。
より具体的には、固定子巻線51は、各相2対ずつの導線82を用いて相ごとの巻線を構成しており、固定子巻線51のうち一方の3相巻線(U相、V相、W相)と他方の3相巻線(X相、Y相、Z相)とが径方向内外の2層に設けられるものとなっている。この場合、固定子巻線51の相数をS(実施例の場合は6)、導線82の一相あたりの数をmとすれば、極対ごとに2×S×m=2Sm個の導線82が形成されることになる。本実施形態では、相数Sが6、数mが4であり、8極対(16極)の回転電機であることから、6×4×8=192の導線82が固定子コア52の周方向に配置されている。
図12に示す固定子巻線51では、コイルサイド部53において、径方向に隣接する2層で直線部83が重ねて配置されるとともに、コイルエンド54,55において、径方向に重なる各直線部83から、互いに周方向逆となる向きでターン部84が周方向に延びる構成となっている。つまり、径方向に隣り合う各導線82では、固定子巻線51の端部を除き、ターン部84の向きが互いに逆となっている。
ここで、固定子巻線51における導線82の巻回構造を具体的に説明する。本実施形態では、波巻にて形成された複数の導線82を、径方向に隣接する複数層(例えば2層)に重ねて設ける構成としている。図15(a)、図15(b)は、n層目における各導線82の形態を示す図であり、図15(a)には、固定子巻線51の側方から見た導線82の形状を示し、図15(b)には、固定子巻線51の軸方向一側から見た導線82の形状を示している。なお、図15(a)、図15(b)では、導線群81が配置される位置をそれぞれD1,D2,D3,…と示している。また、説明の便宜上、3本の導線82のみを示しており、それを第1導線82_A、第2導線82_B、第3導線82_Cとしている。
各導線82_A〜82_Cでは、直線部83が、いずれもn層目の位置、すなわち径方向において同じ位置に配置され、周方向に6位置(3×m対分)ずつ離れた直線部83同士がターン部84により互いに接続されている。換言すると、各導線82_A〜82_Cでは、いずれも回転子40の軸心を中心とする同一の円上において、固定子巻線51の周方向に隣接して並ぶ7個の直線部83の両端の二つが一つのターン部84により互いに接続されている。例えば第1導線82_Aでは、一対の直線部83がD1,D7にそれぞれ配置され、その一対の直線部83同士が、逆V字状のターン部84により接続されている。また、他の導線82_B,82_Cは、同じn層目において周方向の位置を1つずつずらしてそれぞれ配置されている。この場合、各導線82_A〜82_Cは、いずれも同じ層に配置されるため、ターン部84が互いに干渉することが考えられる。そのため本実施形態では、各導線82_A〜82_Cのターン部84に、その一部を径方向にオフセットした干渉回避部を形成することとしている。
具体的には、各導線82_A〜82_Cのターン部84は、同一の円(第1の円)上で周方向に延びる部分である1つの傾斜部84aと、傾斜部84aからその同一の円よりも径方向内側(図15(b)において上側)にシフトし、別の円(第2の円)に達する頂部84b、第2の円上で周方向に延びる傾斜部84c及び第1の円から第2の円に戻る戻り部84dとを有している。頂部84b、傾斜部84c及び戻り部84dが干渉回避部に相当する。なお、傾斜部84cは、傾斜部84aに対して径方向外側にシフトする構成であってもよい。
つまり、各導線82_A〜82_Cのターン部84は、周方向の中央位置である頂部84bを挟んでその両側に、一方側の傾斜部84aと他方側の傾斜部84cとを有しており、それら各傾斜部84a,84cの径方向の位置(図15(a)では紙面前後方向の位置、図15(b)では上下方向の位置)が互いに相違するものとなっている。例えば第1導線82_Aのターン部84は、n層のD1位置を始点位置として周方向に沿って延び、周方向の中央位置である頂部84bで径方向(例えば径方向内側)に曲がった後、周方向に再度曲がることで、再び周方向に沿って延び、さらに戻り部84dで再び径方向(例えば径方向外側)に曲がることで、終点位置であるn層のD7位置に達する構成となっている。
上記構成によれば、導線82_A〜82_Cでは、一方の各傾斜部84aが、上から第1導線82_A→第2導線82_B→第3導線82_Cの順に上下に並ぶとともに、頂部84bで各導線82_A〜82_Cの上下が入れ替わり、他方の各傾斜部84cが、上から第3導線82_C→第2導線82_B→第1導線82_Aの順に上下に並ぶ構成となっている。そのため、各導線82_A〜82_Cが互いに干渉することなく周方向に配置できるようになっている。
ここで、複数の導線82を径方向に重ねて導線群81とする構成において、複数層の各直線部83のうち径方向内側の直線部83に接続されたターン部84と、径方向外側の直線部83に接続されたターン部84とが、それら各直線部83同士よりも径方向に離して配置されているとよい。また、ターン部84の端部、すなわち直線部83との境界部付近で、複数層の導線82が径方向の同じ側に曲げられる場合に、その隣り合う層の導線82同士の干渉により絶縁性が損なわれることが生じないようにするとよい。
例えば図15(a)、図15(b)のD7〜D9では、径方向に重なる各導線82が、ターン部84の戻り部84dでそれぞれ径方向に曲げられる。この場合、図16に示すように、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、曲がり部の曲率半径を相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82の曲率半径R1を、径方向外側(n+1層目)の導線82の曲率半径R2よりも小さくする。
また、n層目の導線82とn+1層目の導線82とで、径方向のシフト量を相違させるとよい。具体的には、径方向内側(n層目)の導線82のシフト量S1を、径方向外側(n+1層目)の導線82のシフト量S2よりも大きくする。
上記構成により、径方向に重なる各導線82が同じ向きに曲げられる場合であっても、各導線82の相互干渉を好適に回避することができる。これにより、良好な絶縁性が得られることとなる。
次に、回転子40における磁石ユニット42の構造について説明する。本実施形態では、磁石ユニット42が永久磁石からなり、残留磁束密度Br=1.0[T]、固有保磁力Hcj=400[kA/m]以上のものを想定している。要は、本実施形態で用いる永久磁石は、粒状の磁性材料を焼結して成型固化した焼結磁石であり、J−H曲線上の固有保磁力Hcjは400[kA/m]以上であり、かつ残留磁束密度Brは1.0[T]以上である。5000〜10000[AT]が相間励磁により掛かる場合、1極対、すなわちN極とS極の磁気的長さ、言い換えれば、N極とS極間の磁束が流れる経路のうち、磁石内を通る長さが25[mm]の永久磁石を使えば、Hcj=10000[A]となり、減磁をしないことが伺える。
また換言すれば、磁石ユニット42は、飽和磁束密度Jsが1.2[T]以上で、かつ結晶粒径が10[μm]以下であり、配向率をαとした場合にJs×αが1.0[T]以上であるものとなっている。
以下に磁石ユニット42について補足する。磁石ユニット42(磁石)は、2.15[T]≧Js≧1.2[T]であることが特徴である。言い換えれば、磁石ユニット42に用いられる磁石として、NdFe11TiN、Nd2Fe14B、Sm2Fe17N3、L10型結晶を有するFeNi磁石などが挙げられる。なお、通例サマコバと言われるSmCo5や、FePt、Dy2Fe14B、CoPtなどの構成は使うことができない。注意としては、同型の化合物、例えばDy2Fe14BとNd2Fe14Bのように、一般的に、重希土類であるディスプロシウムを利用して、ネオジウムの高いJs特性を少しだけ失いながらも、Dyの持つ高い保磁力を持たせた磁石でも2.15[T]≧Js≧1.2[T]を満たす場合があり、この場合も採用可能である。このような場合は、例えば([Nd1-xDyx]2Fe14B)と呼ぶこととする。更に、異なる組成の2種類以上の磁石、例えば、FeNiプラスSm2Fe17N3というように2種類以上の材料からなる磁石でも、達成が可能であるし、例えば、Js=1.6[T]と、Jsに余裕のあるNd2Fe14Bの磁石に、Js<1[T]の、例えばDy2Fe14Bを少量混ぜ、保磁力を増加させた混合磁石などでも達成が可能である。
また、人間の活動範囲外の温度、例えば砂漠の温度を超える60℃以上で動作されるような回転電機、例えば、夏においておけば車中温度が80℃近くなる車両用モータ用途などにおいては、特に温度依存係数の小さい、FeNi、Sm2Fe17N3の成分を含むことが望ましい。これは、人間の活動範囲内である北欧の−40℃近い温度状態から、先述の砂漠温度を超える60℃以上、又はコイルエナメル被膜の耐熱温度180〜240℃程度までのモータ動作において温度依存係数によって大きくモータ特性を異ならせるため、同一のモータドライバでの最適制御などが困難となるためである。前記L10型結晶を有するFeNi、又はSm2Fe17N3などを用いれば、Nd2Fe14Bと比べ、半分以下の温度依存係数を所持しているその特性から、モータドライバの負担を好適に減らすことができる。
加えて、磁石ユニット42は、前述した磁石配合を用いて、配向以前の微粉体状態の粒子径の大きさが10μm以下、単磁区粒子径以上としていることを特徴としている。磁石では、粉体の粒子を数百nmオーダまで微細化することにより保磁力が大きくなるため、近年では、できるだけ微細化された粉体が使用されている。ただし、細かくしすぎると、酸化などにより磁石のBH積が落ちてしまうため、単磁区粒子径以上が好ましい。単磁区粒子径までの粒子径であれば、微細化により保磁力が上昇することが知られている。なお、ここで述べてきた粒子径の大きさは、磁石の製造工程でいうところの配向工程の際の微粉体状態の粒子径の大きさである。
更に、磁石ユニット42の第1磁石91と第2磁石92の各々は、磁性粉末を高温で焼き固めた、いわゆる焼結により形成された焼結磁石である。この焼結は、磁石ユニット42の飽和磁化Jsが1.2T以上で、第1磁石91および第2磁石92の結晶粒径が10μm以下であり、配向率をαとした場合、Js×αが1.0T(テスラ)以上の条件を満足するよう行われる。また、第1磁石91と第2磁石92の各々は、以下の条件を満足するように焼結されている。そして、その製造過程において配向工程にて配向が行われることにより、等方性磁石の着磁工程による磁力方向の定義とは異なり、配向率(orientation ratio)を持つ。本実施形態の磁石ユニット42の飽和磁化Jsが1.2T以上で、第1磁石91と第2磁石92の配向率αが、Jr≧Js×α≧1.0[T]となるように高い配向率を設定されている。なお、ここで言う配向率αとは、第1磁石91又は第2磁石92の各々において、例えば、磁化容易軸が6つあり、そのうちの5つが同じ方向である方向A10を向き、残りの一つが方向A10に対して90度傾いた方向B10を向いている場合、α=5/6であり、残りの一つが方向A10に対して45度傾いた方向B10を向いている場合には、残りの一つの方向A10を向く成分はcos45°=0.707であるため、α=(5+0.707)/6となる。本実施例では焼結により第1磁石91と第2磁石92を形成しているが、上記条件が満足されれば、第1磁石91と第2磁石92は他の方法により成形してもよい。例えば、MQ3磁石などを形成する方法を採用することができる。
本実施形態においては、配向により磁化容易軸をコントロールした永久磁石を利用しているから、その磁石内部の磁気回路長を、従来1.0[T]以上を出す直線配向磁石の磁気回路長と比べて、長くすることができる。すなわち、1極対あたりの磁気回路長を、少ない磁石量で達成できる他、従来の直線配向磁石を利用した設計と比べ、過酷な高熱条件に曝されても、その可逆減磁範囲を保つことができる。また、本願発明者は、従来技術の磁石を用いても、極異方性磁石と近しい特性を得られる構成を見いだした。
なお、磁化容易軸は、磁石において磁化されやすい結晶方位のことをいう。磁石における磁化容易軸の向きとは、磁化容易軸の方向が揃っている程度を示す配向率が50%以上となる方向、又は、その磁石の配向の平均となる方向である。
図8及び図9に示すように、磁石ユニット42は、円環状をなしており、磁石ホルダ41の内側(詳しくは円筒部43の径方向内側)に設けられている。磁石ユニット42は、それぞれ極異方性磁石でありかつ極性が互いに異なる第1磁石91及び第2磁石92を有している。第1磁石91及び第2磁石92は周方向に交互に配置されている。第1磁石91は、固定子巻線51に近い部分においてN極を形成する磁石であり、第2磁石92は、固定子巻線51に近い部分においてS極を形成する磁石である。第1磁石91及び第2磁石92は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石からなる永久磁石である。
各磁石91,92では、図9に示すように、公知のd−q座標系において磁極中心であるd軸(direct-axis)とN極とS極の磁極境界である(言い換えれば、磁束密度が0テスラである)q軸(quadrature-axis)との間において磁化方向が円弧状に延びている。各磁石91,92それぞれにおいて、d軸側では磁化方向が円環状の磁石ユニット42の径方向とされ、q軸側では円環状の磁石ユニット42の磁化方向が周方向とされている。以下、更に詳細に説明する。磁石91,92のそれぞれは、図9に示すように、第1部分250と、磁石ユニット42の周方向において第1部分250の両側に位置する二つの第2部分260とを有する。言い換えれば、第1部分250は、第2部分260よりd軸に近く、第2部分260は、第1部分250よりq軸に近い。そして、第1部分250の磁化容易軸300の方向は、第2部分260の磁化容易軸310の方向よりもd軸に対してより平行となるように磁石ユニット42が構成されている。言い換えれば、第1部分250の磁化容易軸300がd軸となす角度θ11が、第2部分260の磁化容易軸310がq軸となす角度θ12よりも小さくなるように磁石ユニット42が構成されている。
より詳細には、角度θ11は、d軸において固定子50(電機子)から磁石ユニット42に向かう方向を正とした時に、d軸と磁化容易軸300とがなす角度である。角度θ12は、q軸において固定子50(電機子)から磁石ユニット42に向かう方向を正とした時に、q軸と磁化容易軸310とがなす角度である。なお角度θ11及び角度θ12共に、本実施形態では90°以下である。ここでいう、磁化容易軸300,310のそれぞれは、以下の定義による。磁石91,92のそれぞれの部分において、一つの磁化容易軸が方向A11を向き、もう一つの磁化容易軸が方向B11を向いているとした場合、方向A11と方向B11の成す角度θのコサインの絶対値(|cosθ|)を磁化容易軸300或いは磁化容易軸310とする。
すなわち、各磁石91,92のそれぞれは、d軸側(d軸寄りの部分)とq軸側(q軸寄りの部分)とで磁化容易軸の向きが相違しており、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行な方向に近い向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する方向に近い向きとなっている。そして、この磁化容易軸の向きに応じて円弧状の磁石磁路が形成されている。なお、各磁石91,92において、d軸側では磁化容易軸をd軸に平行な向きとし、q軸側では磁化容易軸をq軸に直交する向きとしてもよい。
また、磁石91,92では、各磁石91,92の周面のうち固定子50側(図9の下側)となる固定子側外面と、周方向においてq軸側の端面とが、磁束の流入流出面である磁束作用面となっており、それらの磁束作用面(固定子側外面及びq軸側の端面)を繋ぐように磁石磁路が形成されている。
磁石ユニット42では、各磁石91,92により、隣接するN,S極間を円弧状に磁束が流れるため、例えばラジアル異方性磁石に比べて磁石磁路が長くなっている。このため、図17に示すように、磁束密度分布が正弦波に近いものとなる。その結果、図18に比較例として示すラジアル異方性磁石の磁束密度分布とは異なり、磁極の中心側に磁束を集中させることができ、回転電機10のトルクを高めることができる。また、本実施形態の磁石ユニット42では、従来のハルバッハ配列の磁石と比べても、磁束密度分布の差異があることが確認できる。なお、図17及び図18において、横軸は電気角を示し、縦軸は磁束密度を示す。また、図17及び図18において、横軸の90°はd軸(すなわち磁極中心)を示し、横軸の0°,180°はq軸を示す。
つまり、上記構成の各磁石91,92によれば、d軸での磁石磁束が強化され、かつq軸付近での磁束変化が抑えられる。これにより、各磁極においてq軸からd軸にかけての表面磁束変化がなだらかになる磁石91,92を好適に実現することができる。
磁束密度分布の正弦波整合率は、例えば40%以上の値とされていればよい。このようにすれば、正弦波整合率が30%程度であるラジアル配向磁石、パラレル配向磁石を用いる場合に比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。また、正弦波整合率を60%以上とすれば、ハルバッハ配列のような磁束集中配列と比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。
図18に示すラジアル異方性磁石では、q軸付近において磁束密度が急峻に変化する。磁束密度の変化が急峻なほど、固定子巻線51に発生する渦電流が増加してしまう。また、固定子巻線51側での磁束変化も急峻となる。これに対し、本実施形態では、磁束密度分布が正弦波に近い磁束波形となる。このため、q軸付近において、磁束密度の変化が、ラジアル異方性磁石の磁束密度の変化よりも小さい。これにより、渦電流の発生を抑制することができる。
磁石ユニット42では、各磁石91,92のd軸付近(すなわち磁極中心)において、固定子50側の磁束作用面280に直交する向きで磁束が生じ、その磁束は、固定子50側の磁束作用面280から離れるほど、d軸から離れるような円弧状をなす。また、磁束作用面に直交する磁束であるほど、強い磁束となる。この点において、本実施形態の回転電機10では、上述のとおり各導線群81を径方向に薄くしたため、導線群81の径方向の中心位置が磁石ユニット42の磁束作用面に近づくことになり、固定子50において回転子40から強い磁石磁束を受けることができる。
また、固定子50には、固定子巻線51の径方向内側、すなわち固定子巻線51を挟んで回転子40の逆側に円筒状の固定子コア52が設けられている。そのため、各磁石91,92の磁束作用面から延びる磁束は、固定子コア52に引きつけられ、固定子コア52を磁路の一部として用いつつ周回する。この場合、磁石磁束の向き及び経路を適正化することができる。
以下に、回転電機10の製造方法として、図5に示す軸受ユニット20、ハウジング30、回転子40、固定子50及びインバータユニット60についての組み付け手順について説明する。なお、インバータユニット60は、図6に示すようにユニットベース61と電気コンポーネント62とを有しており、それらユニットベース61及び電気コンポーネント62の組み付け工程を含む各作業工程を説明する。以下の説明では、固定子50及びインバータユニット60よりなる組立品を第1ユニット、軸受ユニット20、ハウジング30及び回転子40よりなる組立品を第2ユニットとしている。
本製造工程は、
・ユニットベース61の径方向内側に電気コンポーネント62を装着する第1工程と、
・固定子50の径方向内側にユニットベース61を装着して第1ユニットを製作する第2工程と、
・ハウジング30に組み付けられた軸受ユニット20に、回転子40の固定部44を挿入して第2ユニットを製作する第3工程と、
・第2ユニットの径方向内側に第1ユニットを装着する第4工程と、
・ハウジング30とユニットベース61とを締結固定する第5工程と、
を有している。これら各工程の実施順序は、第1工程→第2工程→第3工程→第4工程→第5工程である。
上記の製造方法によれば、軸受ユニット20、ハウジング30、回転子40、固定子50及びインバータユニット60を複数の組立品(サブアセンブリ)として組み立てた後に、それら組立品同士を組み付けるようにしたため、ハンドリングのし易さやユニット毎の検査完結などを実現でき、合理的な組み立てラインの構築が可能となる。したがって、多品種生産にも容易に対応が可能となる。
第1工程では、ユニットベース61の径方向内側及び電気コンポーネント62の径方向外部の少なくともいずれかに、熱伝導が良好な良熱伝導体を塗布や接着等により付着させておき、その状態で、ユニットベース61に対して電気コンポーネント62を装着するとよい。これにより、半導体モジュール66の発熱をユニットベース61に対して効果的に伝達させることが可能となる。
第3工程では、ハウジング30と回転子40との同軸を維持しながら、回転子40の挿入作業を実施するとよい。具体的には、例えばハウジング30の内周面を基準として回転子40の外周面(磁石ホルダ41の外周面)又は回転子40の内周面(磁石ユニット42の内周面)の位置を定める治具を用い、その治具に沿ってハウジング30及び回転子40のいずれかをスライドさせながら、ハウジング30と回転子40との組み付けを実施する。これにより、軸受ユニット20に偏荷重を掛けることなく重量部品を組み付けることが可能となり、軸受ユニット20の信頼性が向上する。
第4工程では、第1ユニットと第2ユニットとの同軸を維持しながら、それら両ユニットの組み付けを実施するとよい。具体的には、例えば回転子40の固定部44の内周面を基準としてユニットベース61の内周面の位置を定める治具を用い、その治具に沿って第1ユニット及び第2ユニットのいずれかをスライドさせながら、これら各ユニットの組み付けを実施する。これにより、回転子40と固定子50との極少隙間間での互いの干渉を防止しながら組み付けることが可能となるため、固定子巻線51へのダメージや永久磁石の欠け等、組み付け起因の不良品の撲滅が可能となる。
上記各工程の順序を、第2工程→第3工程→第4工程→第5工程→第1工程とすることも可能である。この場合、デリケートな電気コンポーネント62を最後に組み付けることになり、組み付け工程内での電気コンポーネント62へのストレスを最小限にとどめることができる。
次に、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。図19は、回転電機10の制御システムの電気回路図であり、図20は、制御装置110による制御処理を示す機能ブロック図である。
図19では、固定子巻線51として2組の3相巻線51a,51bが示されており、3相巻線51aはU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、3相巻線51bはX相巻線、Y相巻線及びZ相巻線よりなる。3相巻線51a,51bごとに、電力変換器に相当する第1インバータ101と第2インバータ102とがそれぞれ設けられている。インバータ101,102は、相巻線の相数と同数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、各アームに設けられたスイッチ(半導体スイッチング素子)のオンオフにより、固定子巻線51の各相巻線において通電電流が調整される。
各インバータ101,102には、直流電源103と平滑用のコンデンサ104とが並列に接続されている。直流電源103は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。なお、インバータ101,102の各スイッチが、図1等に示す半導体モジュール66に相当し、コンデンサ104が、図1等に示すコンデンサモジュール68に相当する。
制御装置110は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、インバータ101,102における各スイッチのオンオフにより通電制御を実施する。制御装置110が、図6に示す制御装置77に相当する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子40の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御装置110は、インバータ101,102の各スイッチを操作する操作信号を生成して出力する。なお、発電の要求は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生駆動の要求である。
第1インバータ101は、U相、V相及びW相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
第2インバータ102は、第1インバータ101と同様の構成を有しており、X相、Y相及びZ相からなる3相において上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの直列接続体をそれぞれ備えている。各相の上アームスイッチSpの高電位側端子は直流電源103の正極端子に接続され、各相の下アームスイッチSnの低電位側端子は直流電源103の負極端子(グランド)に接続されている。各相の上アームスイッチSpと下アームスイッチSnとの間の中間接続点には、それぞれX相巻線、Y相巻線、Z相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点で互いに接続されている。
図20には、U,V,W相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理と、X,Y,Z相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理とが示されている。ここではまず、U,V,W相側の制御処理について説明する。
図20において、電流指令値設定部111は、トルク−dqマップを用い、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωに基づいて、d軸の電流指令値とq軸の電流指令値とを設定する。なお、電流指令値設定部111は、U,V,W相側及びX,Y,Z相側において共通に設けられている。なお、発電トルク指令値は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生トルク指令値である。
dq変換部112は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(3つの相電流)を、界磁方向(direction of an axis of a magnetic field,or field direction)をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
d軸電流フィードバック制御部113は、d軸電流をd軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてd軸の指令電圧を算出する。また、q軸電流フィードバック制御部114は、q軸電流をq軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてq軸の指令電圧を算出する。これら各フィードバック制御部113,114では、d軸電流及びq軸電流の電流指令値に対する偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて指令電圧が算出される。
3相変換部115は、d軸及びq軸の指令電圧を、U相、V相及びW相の指令電圧に変換する。なお、上記の各部111〜115が、dq変換理論による基本波電流のフィードバック制御を実施するフィードバック制御部であり、U相、V相及びW相の指令電圧がフィードバック制御値である。
そして、操作信号生成部116は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、第1インバータ101の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部116は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。
また、X,Y,Z相側においても同様の構成を有しており、dq変換部122は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(3つの相電流)を、界磁方向をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
d軸電流フィードバック制御部123はd軸の指令電圧を算出し、q軸電流フィードバック制御部124はq軸の指令電圧を算出する。3相変換部125は、d軸及びq軸の指令電圧を、X相、Y相及びZ相の指令電圧に変換する。そして、操作信号生成部126は、3相の指令電圧に基づいて、第2インバータ102の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部126は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。
ドライバ117は、操作信号生成部116,126にて生成されたスイッチ操作信号に基づいて、各インバータ101,102における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。
続いて、トルクフィードバック制御処理について説明する。この処理は、例えば高回転領域及び高出力領域等、各インバータ101,102の出力電圧が大きくなる運転条件において、主に回転電機10の高出力化や損失低減の目的で用いられる。制御装置110は、回転電機10の運転条件に基づいて、トルクフィードバック制御処理及び電流フィードバック制御処理のいずれか一方の処理を選択して実行する。
図21には、U,V,W相に対応するトルクフィードバック制御処理と、X,Y,Z相に対応するトルクフィードバック制御処理とが示されている。なお、図21において、図20と同じ構成については、同じ符号を付して説明を省略する。ここではまず、U,V,W相側の制御処理について説明する。
電圧振幅算出部127は、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値と、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωとに基づいて、電圧ベクトルの大きさの指令値である電圧振幅指令を算出する。
トルク推定部128aは、dq変換部112により変換されたd軸電流とq軸電流とに基づいて、U,V,W相に対応するトルク推定値を算出する。なお、トルク推定部128aは、d軸電流、q軸電流及び電圧振幅指令が関係付けられたマップ情報に基づいて、電圧振幅指令を算出すればよい。
トルクフィードバック制御部129aは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧ベクトルの位相の指令値である電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部129aでは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、第1インバータ101の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。
ちなみに、操作信号生成部130aは、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
また、X,Y,Z相側においても同様の構成を有しており、トルク推定部128bは、dq変換部122により変換されたd軸電流とq軸電流とに基づいて、X,Y,Z相に対応するトルク推定値を算出する。
トルクフィードバック制御部129bは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部129bでは、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、第2インバータ102の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。ドライバ117は、操作信号生成部130a,130bにて生成されたスイッチ操作信号に基づいて、各インバータ101,102における各3相のスイッチSp,Snをオンオフさせる。
ちなみに、操作信号生成部130bは、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
ところで、回転電機10においては、軸電流の発生に伴い軸受21,22の電食が生じることが懸念されている。例えば固定子巻線51の通電がスイッチングにより切り替えられる際に、スイッチングタイミングの微小なずれ(スイッチングの不均衡)により磁束の歪みが生じ、それに起因して、回転軸11を支持する軸受21,22において電食が生じることが懸念される。磁束の歪みは固定子50のインダクタンスに応じて生じ、その磁束の歪みにより生じる軸方向の起電圧によって、軸受21,22内での絶縁破壊が起こり電食が進行する。
この点本実施形態では、電食対策として、以下に示す3つの対策を講じている。第1の電食対策は、固定子50のコアレス化に伴いインダクタンスを低減したこと、及び磁石ユニット42の磁石磁束をなだらかにしたことによる電食抑制対策である。第2の電食対策は、回転軸を軸受21,22による片持ち構造としたことによる電食抑制対策である。第3の電食対策は、円環状の固定子巻線51を固定子コア52と共にモールド材によりモールドしたことによる電食抑制対策である。以下には、これら各対策の詳細を個々に説明する。
まず第1の電食対策では、固定子50において、周方向における各導線群81の間をティースレスとし、各導線群81の間に、ティース(鉄心)の代わりに非磁性材料よりなる封止部材57を設ける構成としている(図10参照)。これにより、固定子50のインダクタンス低減が可能となっている。固定子50におけるインダクタンス低減を図ることで、仮に固定子巻線51の通電時にスイッチングタイミングのずれが生じても、そのスイッチングタイミングのずれに起因する磁束歪みの発生を抑制し、ひいては軸受21,22の電食抑制が可能になっている。なお、d軸のインダクタンスがq軸のインダクタンス以下になっているとよい。
また、磁石91,92において、d軸側においてq軸側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされた構成とした(図9参照)。これにより、d軸での磁石磁束が強化され、各磁極においてq軸からd軸にかけての表面磁束変化(磁束の増減)がなだらかになる。そのため、スイッチング不均衡に起因する急激な電圧変化が抑制され、ひいては電食抑制に寄与できる構成となっている。
第2の電食対策では、回転電機10において、各軸受21,22を、回転子40の軸方向中央に対して軸方向のいずれか一方側に偏って配置している(図2参照)。これにより、複数の軸受が軸方向において回転子を挟んで両側にそれぞれ設けられる構成と比べて、電食の影響を軽減できる。つまり、回転子を複数の軸受により両持ち支持する構成では、高周波磁束の発生に伴い回転子、固定子及び各軸受(すなわち、回転子を挟んで軸方向両側の各軸受)を通る閉回路が形成され、軸電流により軸受の電食が懸念される。これに対し、回転子40を複数の軸受21,22により片持ち支持する構成では上記閉回路が形成されず、軸受の電食が抑制される。
また、回転電機10は、軸受21,22の片側配置のための構成に絡み、以下の構成を有する。磁石ホルダ41において、回転子40の径方向に張り出す中間部45に、軸方向に延びて固定子50に対する接触を回避する接触回避部が設けられている(図2参照)。この場合、磁石ホルダ41を経由して軸電流の閉回路が形成される場合にあっては、閉回路長を長くしてその回路抵抗を大きくすることが可能となる。これにより、軸受21,22の電食の抑制を図ることができる。
回転子40を挟んで軸方向の一方側においてハウジング30に対して軸受ユニット20の保持部材23が固定されるとともに、他方側においてハウジング30及びユニットベース61(固定子ホルダ)が互いに結合されている(図2参照)。本構成によれば、回転軸11の軸方向においてその軸方向の片側に各軸受21,22を偏って配置する構成を好適に実現することができる。また本構成では、ユニットベース61がハウジング30を介して回転軸11に繋がる構成となるため、ユニットベース61を、回転軸11から電気的に離れた位置に配置することができる。なお、ユニットベース61とハウジング30との間に樹脂等の絶縁部材を介在させれば、ユニットベース61と回転軸11とが電気的に一層離れた構成となる。これにより、軸受21,22の電食を適正に抑制することができる。
本実施形態の回転電機10では、各軸受21,22の片側配置等により、軸受21,22に作用する軸電圧が低減されている。また、回転子40と固定子50との間の電位差が低減されている。そのため、軸受21,22において導電性グリースを用いなくても、軸受21,22に作用する電位差の低減が可能になっている。導電性グリースは、一般的にカーボンなどの細かい粒子を含むため音鳴りが生じることが考えられる。この点、本実施形態では、軸受21,22において非導電性グリースを用いる構成としている。そのため、軸受21,22において音鳴りが生じる不都合を抑制できる。例えば電気自動車などの電動車両への適用時には回転電機10の音鳴り対策が必要になると考えられるが、その音鳴り対策を好適に実施することが可能となる。
第3の電食対策では、固定子巻線51を固定子コア52と共にモールド材によりモールドすることで、固定子50での固定子巻線51の位置ずれを抑制する構成としている(図11参照)。特に本実施形態の回転電機10では、固定子巻線51における周方向の各導線群81の間に導線間部材(ティース)を有していないため、固定子巻線51における位置ずれ生じる懸念が考えられるが、固定子巻線51を固定子コア52と共にモールドすることにより、固定子巻線51の導線位置にずれが抑制される。したがって、固定子巻線51の位置ずれによる磁束の歪みや、それに起因する軸受21,22の電食の発生を抑制することができる。
なお、固定子コア52を固定するハウジング部材としてのユニットベース61を、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成したため、例えばアルミ等により構成する場合に比べて、ユニットベース61への放電が抑制され、ひいては好適な電食対策が可能となっている。
その他、軸受21,22の電食対策として、外輪25及び内輪26の少なくともいずれかをセラミックス材により構成する、又は、外輪25の外側に絶縁スリーブを設ける等の構成を用いることも可能である。
第1実施形態では、前述したように第4の工夫として、極異方構造を利用し正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石ユニットを採用している。これによれば、後述するパルス制御等によって正弦波整合率を高めてトルク増強を図ることができるとともに、ラジアル磁石と比べ緩やかな磁束変化のため渦電流損もまた更に抑制することができる。
ところで、正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石ユニットとするため、磁化容易軸が円弧状に配向され、その磁化容易軸に沿って円弧状の磁石磁路が形成されている磁石を用いることが望ましい。
そして、このような磁石を用いる場合、図22(a)に示すように、径方向においてq軸と配向円弧OAとの第2交点P2まで磁石が存在するように、磁石の厚さ寸法を設計することが望ましい。なぜならば、磁石ユニットの反固定子側からの磁束漏れを抑制することができるからである。なお、配向円弧OAは、磁石の磁極境界であるq軸上に設定される中心点Oを中心とし、かつ磁石の磁極中心であるd軸と、磁石の周面のうち固定子側外面との第1交点P1を通過する円弧である。
すなわち、図22(b)に示すように、径方向においてq軸と配向円弧OAとの第2交点P2まで磁石が存在しないのであれば、磁石部の反固定子側からの磁束漏れ(実線の矢印で示す)が生じるからである。なお、図22では、磁石を直線状に展開して示しており、図の下側が固定子側、上側が反固定子側となっている。
しかしながら、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ、残留磁束密度が1.0[T]以上であるとともに、磁化容易軸に沿って円弧状の磁石磁路が形成されている磁石や、主相の結晶粒子が10[μm]よりも小さく、飽和磁束密度Jsが1.2[T]よりも大きい磁石を採用する場合、一般的に製造コストが高い。すなわち、磁石をネオジム磁石としたり、磁石にテルビウム(Tb)やジスプロシウム(Dy)等、高価なレアアースを利用したりする必要がある。このため、磁束漏れを防止するために、図22(a)のように磁石の厚さ寸法を大きくして、磁石量を多くすると、コスト面で問題が生じる。したがって、磁石の径方向における厚さ寸法は極力薄い方が望ましい。そこで、第1実施形態では、以下のように構成している。
図23は、磁石ホルダ41の円筒部43及び磁石ユニット42を直線状に展開して示しており、図の下側が固定子側(電機子側)、上側が反固定子側(反電機子側)となっている。図23に示すように、磁石ユニット42は、磁化容易軸が円弧状に配向され、その磁化容易軸に沿って円弧状の磁石磁路が形成されている磁石91,92を有している。磁石91,92の磁石磁路は、磁石91,92の磁極境界であるq軸上に設定される中心点Oを中心とし、かつ磁石91,92の磁極中心であるd軸と、磁石91,92の周面のうち固定子側外面1001a(電機子側周面)との第1交点P1を通過する配向円弧OA上の磁路を含むものである。
この配向円弧OAは、配向円弧OA上の第1交点P1における接線TA1が、d軸に平行になるように、設定されるものである。図23では、中心点Oは、q軸と固定子側外面1001aとの交点となるが、実際の磁石91,92は、図24に示すように回転子40の周方向に沿った円弧状となっている。このため、図24に示すように、磁石91,92の曲率を考慮した場合、固定子側外面1001aよりも径方向において外側に中心点Oが配置されることとなる。
そして、図23に示すように、磁石ユニット42は、軟磁性体である円筒部43の内周面に固定されている。つまり、磁石ホルダ41の円筒部43は、径方向において磁石91,92に積層されている。そして、本実施形態では、円筒部43の全部が、q軸と配向円弧OAとの第2交点P2よりも径方向において固定子側に配置されている。つまり、図22(a)に示す磁石よりも、径方向における厚さ寸法を薄くして、代わりに円筒部43を配置している。
また、第1実施形態において、円筒部43の飽和磁束密度は、2.0[T]程度とされている一方、磁石91,92の残留磁束密度は、1.0[T]程度とされている。つまり、円筒部43の飽和磁束密度の方が、磁石91,92の残留磁束密度よりも大きい。この場合、円筒部43の径方向における厚さ寸法Wscを、q軸と、磁石91,92の周面のうち反固定子側となる反固定子側周面(反電機子側周面)との第3交点P3から第2交点P2までの径方向における寸法L1よりも薄くしても、反固定子側からの磁束漏れを抑制可能となっている。
より詳しくは、磁石ユニット42の残留磁束密度をBr、円筒部43の飽和磁束密度をBs、中心点Oから第1交点P1までの距離をWh、円筒部43の径方向における厚さ寸法をWsc、とした場合に、Br×Wh≦Bs×Wscの関係を満たすように磁石91,92及び円筒部43を設計している。Br×Wh≦Bs×Wscの関係を満たすのであれば、円筒部43の厚さ寸法を、第3交点P3から第2交点P2までの径方向における厚さ寸法L1よりも薄くしても、磁束漏れを適切に抑制することができる。つまり、第1実施形態において、円筒部43の厚さ寸法を、中心点Oから第1交点P1までの距離Whの半分以上とすれば、磁束漏れを適切に抑制することができる。そこで、第1実施形態において、円筒部43の厚さ寸法Wscを、中心点Oから第1交点P1までの距離Whの半分としている。これにより、磁束漏れを適切に抑制しつつ、磁石91,92及び円筒部43の厚さを薄くすることができる。
なお、磁石91,92における径方向の厚さ寸法は、少なくとも磁化容易軸を配向して、円弧状の磁石磁路を形成可能な厚さである必要がある。また、径方向の厚さ寸法は、磁石91,92の製造可能な厚さであって、かつ、磁石91,92の強度を考慮した厚さとすることが好ましい。また、円筒部43の強度を考慮して、円筒部43の厚さ寸法Wscを、距離Whの半分よりも厚くしてもよい。
第1実施形態によれば、以下の優れた効果を有する。
正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石ユニット42を有することにより、トルク増強を図ることができるとともに、ラジアル磁石と比べ緩やかな磁束変化のため渦電流損を抑制することができる。また、トルクリプルを低減することも可能である。そして、磁石ユニット42の固有保磁力を、400[kA/m]以上とし、かつ、残留磁束密度を1.0[T]以上とする場合、正弦波に近い磁束密度分布を有する磁石ユニット42とするためには、高温下での、磁石を固くする加工(焼結工程)の前に磁化容易軸を円弧状に配向し、かつ、当該磁化容易軸に沿って円弧状の磁石磁路を形成されている磁石を用いることが望ましい。
このような磁石91,92を用いる場合、磁石ユニット42の反固定子側からの磁束漏れを抑制するためには、図22(a)に示すように、径方向においてq軸と配向円弧OAとの第2交点P2まで磁石が存在するように、磁石の厚さ寸法を設計することが望ましい。しかしながら、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ、残留磁束密度が1.0[T]以上とするような磁石ユニット42とする場合、磁石にテルビウム(Tb)やジスプロシウム(Dy)等、高価なレアアースを利用する必要があり、コスト面で問題が生じる。
そこで、第1実施形態では、図23,24に示すように、径方向において、円筒部43及び磁石91,92を積層し、円筒部43の全部を、q軸と配向円弧OAとの第2交点P2よりも径方向において固定子側(つまり、磁石ユニット42の側)に配置されるようにした。つまり、図22(a)に示す磁石よりも磁石91,92の厚さ寸法を薄くして、代わりに軟磁性体である界磁子コア部材としての円筒部43を配置した。このように磁石91,92を薄くしても、軟磁性体である円筒部43内を磁束が通過するため、磁束漏れが抑制される。つまり、d軸において、磁束密度が低下しにくくなる。以上により、磁束密度を低減させることなく、磁石量を減らすことができる。
また、配向円弧OAは、配向円弧OA上の第1交点P1における接線TA1が、d軸に平行になるように、設定されるものである。このため、当該配向円弧OAに沿って、磁化容易軸を配向し、当該磁化容易軸に沿って円弧状の磁石磁路を形成すると、d軸において磁束密度がもっとも大きくなる。すなわち、第1交点P1において、磁石磁路が固定子側外面1001aに対して直交するため、d軸において磁束密度を大きくすることができる。トルクは、d軸における磁束密度に関係するため、d軸における磁束密度を大きくすることにより、トルクを向上させることができる。
第1実施形態では、円筒部43の飽和磁束密度の方が、磁石91,92の残留磁束密度よりも大きい。この場合、磁石91,92よりも厚さ寸法が薄い軟磁性体に置き換えても、磁束漏れを適切に抑制できる。すなわち、d軸において磁束密度を大きくして、トルクを向上させることができる。このため、円筒部43の径方向における厚さ寸法Wscを、q軸と、反固定子側周面との第3交点P3から第2交点P2までの径方向における寸法L1よりも薄くしている。これにより、円筒部43と、磁石ユニット42との合計厚さを薄くすることができる。円筒部43と、磁石ユニット42との合計厚さを薄くすることにより、例えば、回転電機10を小型化することができる。若しくは、例えば、固定子50の内周面(すなわち固定子コア52の内周面)から径方向内側となる第1領域X1を大きくすることができる。つまり、回転子40よりも内側の容積を大きくすることができる。
また、Br×Wh≦Bs×Wscの関係を満たすように磁石91,92及び円筒部43を設計した。本実施形態では、円筒部43の厚さ寸法Wscを、中心点Oから第1交点P1までの距離Whの半分とした。これによれば、理論上、反固定子側からの磁束漏れを防止しつつ、厚さ寸法を薄くすることができる。すなわち、d軸において磁束密度を大きくして、トルクを向上させることができる。
以下に、他の実施形態を第1実施形態との相違点を中心に説明する。
(第2実施形態)
本実施形態では、回転子40における磁石ユニット42の極異方構造を変更しており、以下に詳しく説明する。
図25及び図26に示すように、磁石ユニット42は、ハルバッハ配列と称される磁石配列を用いて構成されている。すなわち、磁石ユニット42は、磁化方向(磁化ベクトルの向き)を径方向とする第1磁石131と、磁化方向(磁化ベクトルの向き)を周方向とする第2磁石132とを有しており、周方向に所定間隔で第1磁石131が配置されるとともに、周方向において隣り合う第1磁石131の間となる位置に第2磁石132が配置されている。第1磁石131及び第2磁石132は、例えばネオジム磁石等の希土類磁石からなる永久磁石である。
第1磁石131は、固定子50に対向する側(径方向内側)の極が交互にN極、S極となるように周方向に互いに離間して配置されている。また、第2磁石132は、各第1磁石131の隣において周方向に極性が交互となるように配置されている。これら各磁石131,132を囲うように設けられる円筒部43は、軟磁性材料よりなる軟磁性体コアであるとよく、バックコアとして機能する。なお、この第2実施形態の磁石ユニット42も、d−q座標系において、d軸やq軸に対する磁化容易軸の関係は上記第1実施形態と同じである。
また、第1磁石131の径方向外側、すなわち磁石ホルダ41の円筒部43の側には、軟磁性材料よりなる磁性体133が配置されている。例えば磁性体133は、電磁鋼板や軟鉄、圧粉鉄心材料により構成されているとよい。この場合、磁性体133の周方向の長さは第1磁石131の周方向の長さ(特に第1磁石131の外周部の周方向の長さ)と同じである。また、第1磁石131と磁性体133とを一体化した状態でのその一体物の径方向の厚さは、第2磁石132の径方向の厚さと同じである。換言すれば、第1磁石131は第2磁石132よりも磁性体133の分だけ径方向の厚さが薄くなっている。各磁石131,132と磁性体133とは、例えば接着剤により相互に固着されている。磁石ユニット42において第1磁石131の径方向外側は、固定子50とは反対側であり、磁性体133は、径方向における第1磁石131の両側のうち、固定子50とは反対側(反固定子側)に設けられている。
磁性体133の外周部には、径方向外側、すなわち磁石ホルダ41の円筒部43の側に突出する凸部としてのキー134が形成されている。また、円筒部43の内周面には、磁性体133のキー134を収容する凹部としてのキー溝135が形成されている。キー134の突出形状とキー溝135の溝形状とは同じであり、各磁性体133に形成されたキー134に対応して、キー134と同数のキー溝135が形成されている。キー134及びキー溝135の係合により、第1磁石131及び第2磁石132と磁石ホルダ41との周方向(回転方向)の位置ずれが抑制されている。なお、キー134及びキー溝135(凸部及び凹部)を、磁石ホルダ41の円筒部43及び磁性体133のいずれに設けるかは任意でよく、上記とは逆に、磁性体133の外周部にキー溝135を設けるとともに、磁石ホルダ41の円筒部43の内周部にキー134を設けることも可能である。
ここで、磁石ユニット42では、第1磁石131と第2磁石132とを交互に配列することにより、第1磁石131での磁束密度を大きくすることが可能となっている。そのため、磁石ユニット42において、磁束の片面集中を生じさせ、固定子50寄りの側での磁束強化を図ることができる。
また、第1磁石131の径方向外側、すなわち反固定子側に磁性体133を配置したことにより、第1磁石131の径方向外側での部分的な磁気飽和を抑制でき、ひいては磁気飽和に起因して生じる第1磁石131の減磁を抑制できる。これにより、結果的に磁石ユニット42の磁力を増加させることが可能となっている。本実施形態の磁石ユニット42は、言うなれば、第1磁石131において減磁が生じ易い部分を磁性体133に置き換えた構成となっている。
図27(a)、図27(b)は、磁石ユニット42における磁束の流れを具体的に示す図であり、図27(a)は、磁石ユニット42において磁性体133を有していない従来構成を用いた場合を示し、図27(b)は、磁石ユニット42において磁性体133を有している本実施形態の構成を用いた場合を示している。なお、図27(a)、図27(b)では、磁石ホルダ41の円筒部43及び磁石ユニット42を直線状に展開して示しており、図の下側が固定子側、上側が反固定子側となっている。
図27(a)の構成では、第1磁石131の磁束作用面と第2磁石132の側面とが、それぞれ円筒部43の内周面に接触している。また、第2磁石132の磁束作用面が第1磁石131の側面に接触している。この場合、円筒部43には、第2磁石132の外側経路を通って第1磁石131との接触面に入る磁束F1と、円筒部43と略平行で、かつ第2磁石132の磁束F2を引きつける磁束との合成磁束が生じる。そのため、円筒部43において第1磁石131と第2磁石132との接触面付近において、部分的に磁気飽和が生じることが懸念される。
これに対し、図27(b)の構成では、第1磁石131の固定子50とは反対側において第1磁石131の磁束作用面と円筒部43の内周面との間に磁性体133が設けられているため、その磁性体133で磁束の通過が許容される。したがって、円筒部43での磁気飽和を抑制でき、減磁に対する耐力が向上する。
また、図27(b)の構成では、図27(a)とは異なり、磁気飽和を促すF2を消すことができる。これにより、磁気回路全体のパーミアンスを効果的に向上させることができる。このように構成することで、その磁気回路特性を、過酷な高熱条件下でも保つことができる。
また、従来のSPMロータにおけるラジアル磁石と比べて、磁石内部を通る磁石磁路が長くなる。そのため、磁石パーミアンスが上昇し、磁力を上げ、トルクを増強することができる。さらに、磁束がd軸の中央に集まることにより、正弦波整合率を高くすることができる。特に、PWM制御により、電流波形を正弦波や台形波とする、又は120度通電のスイッチングICを利用すると、より効果的にトルクを増強することができる。
なお、固定子コア52が電磁鋼板により構成される場合において、固定子コア52の径方向厚さは、磁石ユニット42の径方向厚さの1/2、又は1/2よりも大きいとよい。例えば、固定子コア52の径方向厚さは、磁石ユニット42において磁極中心に設けられる第1磁石131の径方向厚さの1/2以上であるとよい。また、固定子コア52の径方向厚さは、磁石ユニット42の径方向厚さより小さいとよい。この場合、磁石磁束は約1[T]であり、固定子コア52の飽和磁束密度は2[T]であるため、固定子コア52の径方向厚さを、磁石ユニット42の径方向厚さの1/2以上にすることで、固定子コア52の内周側への磁束漏洩を防ぐことができる。
ハルバッハ構造や極異方構造の磁石では、磁路が擬似円弧状になっているため、周方向の磁束を扱う磁石厚みに比例して、その磁束を上昇させることができる。こういった構成においては、固定子コア52に流れる磁束は、周方向の磁束を超えることはないと考えられる。すなわち、磁石の磁束1[T]に対して飽和磁束密度2[T]の鉄系金属を利用した場合、固定子コア52の厚みを磁石厚みの半分以上とすれば、磁気飽和せず好適に小型かつ軽量の回転電機を提供することができる。ここで、磁石磁束に対して固定子50からの反磁界が作用するため、磁石磁束は一般的に0.9[T]以下となる。そのため、固定子コアは磁石の半分の厚みを持てば、その透磁率を好適に高く保つことができる。
以下に、上述した構成の一部を変更した変形例について説明する。
(変形例1)
上記実施形態では、固定子コア52の外周面を凹凸のない曲面状とし、その外周面に所定間隔で複数の導線群81を並べて配置する構成としたが、これを変更してもよい。例えば、図28に示すように、固定子コア52は、固定子巻線51の径方向両側のうち回転子40とは反対側(図の下側)に設けられた円環状のヨーク141と、そのヨーク141から、周方向に隣り合う直線部83の間に向かって突出するように延びる突起部142とを有している。突起部142は、ヨーク141の径方向外側、すなわち回転子40側に所定間隔で設けられている。固定子巻線51の各導線群81は、突起部142と周方向において係合しており、突起部142を導線群81の位置決め部として用いつつ周方向に並べて配置されている。なお、突起部142が「導線間部材」に相当する。
突起部142は、ヨーク141からの径方向の厚さ寸法、言い換えれば、図28に示すように、ヨーク141の径方向において、直線部83のヨーク141に隣接する内側面320から突起部142の頂点までの距離Wが、径方向内外の複数層の直線部83のうち、ヨーク141に径方向に隣接する直線部83の径方向の厚さ寸法の1/2(図のH1)よりも小さい構成となっている。言い換えれば、固定子巻線51(固定子コア52)の径方向における導線群81(伝導部材)の寸法(厚み)T1(導線82の厚みの2倍、言い換えれば、導線群81の固定子コア52に接する面320と、導線群81の回転子40に向いた面330との最短距離)の4分の3の範囲は非磁性部材(封止部材57)が占有していればよい。こうした突起部142の厚さ制限により、周方向に隣り合う導線群81(すなわち直線部83)の間において突起部142がティースとして機能せず、ティースによる磁路形成がなされないようになっている。突起部142は、周方向に並ぶ各導線群81の間ごとに全て設けられていなくてもよく、周方向に隣り合う少なくとも1組の導線群81の間に設けられていればよい。例えば、突起部142は、周方向において各導線群81の間の所定数ごとに等間隔で設けられているとよい。突起部142の形状は、矩形状、円弧状など任意の形状でよい。
また、固定子コア52の外周面では、直線部83が一層で設けられていてもよい。したがって、広義には、突起部142におけるヨーク141からの径方向の厚さ寸法は、直線部83における径方向の厚さ寸法の1/2よりも小さいものであればよい。
なお、回転軸11の軸心を中心とし、かつヨーク141に径方向に隣接する直線部83の径方向の中心位置を通る仮想円を想定すると、突起部142は、その仮想円の範囲内においてヨーク141から突出する形状、換言すれば仮想円よりも径方向外側(すなわち回転子40側)に突出しない形状をなしているとよい。
上記構成によれば、突起部142は、径方向の厚さ寸法が制限されており、周方向に隣り合う直線部83の間においてティースとして機能するものでないため、各直線部83の間にティースが設けられている場合に比べて、隣り合う各直線部83を近づけることができる。これにより、導体82aの断面積を大きくすることができ、固定子巻線51の通電に伴い生じる発熱を低減することができる。かかる構成では、ティースがないことで磁気飽和の解消が可能となり、固定子巻線51への通電電流を増大させることが可能となる。この場合において、その通電電流の増大に伴い発熱量が増えることに好適に対処することができる。また、固定子巻線51では、ターン部84が、径方向にシフトされ、他のターン部84との干渉を回避する干渉回避部を有することから、異なるターン部84同士を径方向に離して配置することができる。これにより、ターン部84においても放熱性の向上を図ることができる。以上により、固定子50での放熱性能を適正化することが可能になっている。
また、固定子コア52のヨーク141と、回転子40の磁石ユニット42(すなわち各磁石91,92)とが所定距離以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図28のH1に縛られるものではない。具体的には、ヨーク141と磁石ユニット42とが2mm以上離れていれば、突起部142の径方向の厚さ寸法は、図28のH1以上であってもよい。例えば、直線部83の径方向厚み寸法が2mmを越えており、かつ導線群81が径方向内外の2層の導線82により構成されている場合に、ヨーク141に隣接していない直線部83、すなわちヨーク141から数えて2層目の導線82の半分位置までの範囲で、突起部142が設けられていてもよい。この場合、突起部142の径方向厚さ寸法が「H1×3/2」までになっていれば、導線群81における導体断面積を大きくすることで、前記効果を少なからず得ることはできる。
また、固定子コア52は、図29に示す構成であってもよい。なお、図29では、封止部材57を省略しているが、封止部材57が設けられていてもよい。図29では、便宜上、磁石ユニット42及び固定子コア52を直線状に展開して示している。
図29の構成では、固定子50は、周方向に隣接する導線82(すなわち直線部83)の間に、導線間部材としての突起部142を有している。固定子50は、固定子巻線51が通電されると、磁石ユニット42の磁極の一つ(N極、またはS極)とともに磁気的に機能し、固定子50の周方向に延びる一部分350を有する。この部分350の固定子50の周方向への長さをWnとすると、この長さ範囲Wnに存在する突起部142の合計の幅(すなわち、固定子50の周方向への合計の寸法)をWtとし、突起部142の飽和磁束密度をBs、磁石ユニット42の1極分の周方向の幅寸法をWm、磁石ユニット42の残留磁束密度をBrとする場合、突起部142は、
Wt×Bs≦Wm×Br …(1)
となる磁性材料により構成されている。
なお、範囲Wnは、周方向に隣接する複数の導線群81であって、励磁時期が重複する複数の導線群81を含むように設定される。その際、範囲Wnを設定する際の基準(境界)として、導線群81の間隙56の中心を設定することが好ましい。例えば、図29に例示する構成の場合、周方向においてN極の磁極中心からの距離が最も短いものから順番に、4番目までの導線群81が、当該複数の導線群81に相当する。そして、当該4つの導線群81を含むように範囲Wnが設定される。その際、範囲Wnの端(起点と終点)が間隙56の中心とされている。
図29において、範囲Wnの両端には、それぞれ突起部142が半分ずつ含まれていることから、範囲Wnには、合計4つ分の突起部142が含まれている。したがって、突起部142の幅(すなわち、固定子50の周方向における突起部142の寸法、言い換えれば、隣接する導線群81の間隔)をAとすると、範囲Wnに含まれる突起部142の合計の幅は、Wt=1/2A+A+A+A+1/2A=4Aとなる。
詳しくは、本実施形態では、固定子巻線51の3相巻線が分布巻であり、その固定子巻線51では、磁石ユニット42の1極に対して、突起部142の数、すなわち各導線群81の間となる間隙56の数が「相数×Q」個となっている。ここでQとは、1相の導線82のうち固定子コア52と接する数である。なお、導線82が回転子40の径方向に積層された導線群81である場合には、1相の導線群81の内周側の導線82の数であるともいえる。この場合、固定子巻線51の3相巻線が各相所定順序で通電されると、1極内において2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石ユニット42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の合計幅寸法Wtは、突起部142(つまり、間隙56)の周方向の幅寸法をAとすると、「励磁される相数×Q×A=2×2×A」となる。
そして、こうして合計幅寸法Wtが規定された上で、固定子コア52において、突起部142が、上記(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、合計幅寸法Wtは、1極内において比透磁率が1よりも大きくなりえる部分の周方向寸法でもある。また、余裕を考えて、合計幅寸法Wtを、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法としてもよい。具体的には、磁石ユニット42の1極に対する突起部142の数が「相数×Q」であることから、1磁極における突起部142の周方向の幅寸法(合計幅寸法Wt)を、「相数×Q×A=3×2×A=6A」としてもよい。
なお、ここでいう分布巻とは、磁極の1極対周期(N極とS極)で、固定子巻線51の一極対があるものである。ここでいう固定子巻線51の一極対は、電流が互いに逆方向に流れ、ターン部84で電気的に接続された2つの直線部83とターン部84からなる。上記条件みたすものであれば、短節巻(Short Pitch Winding)であっても、全節巻(Full Pitch Winding)の分布巻の均等物とみなす。
次に、集中巻の場合の例を示す。ここでいう集中巻とは、磁極の1極対の幅と、固定子巻線51の一極対の幅とが異なるものである。集中巻の一例としては、1つの磁極対に対して導線群81が3つ、2つの磁極対に対して導線群81が3つ、4つの磁極対に対して導線群81が9つ、5つの磁極対に対して導線群81が9つのような関係であるものが挙げられる。
ここで、固定子巻線51を集中巻とする場合には、固定子巻線51の3相巻線が所定順序で通電されると、2相分の固定子巻線51が励磁される。その結果、2相分の突起部142が励磁される。したがって、磁石ユニット42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される突起部142の周方向の幅寸法Wtは、「A×2」となる。そして、こうして幅寸法Wtが規定された上で、突起部142が、上記(1)の関係を満たす磁性材料として構成されている。なお、上記で示した集中巻の場合は、同一相の導線群81に囲まれた領域において、固定子50の周方向にある突起部142の幅の総和をAとする。また、集中巻におけるWmは「磁石ユニット42のエアギャップに対向する面の全周」×「相数」÷「導線群81の分散数」に相当する。
ちなみに、ネオジム磁石やサマリウムコバルト磁石、フェライト磁石といったBH積が20[MGOe(kJ/m^3)]以上の磁石ではBd=1.0強[T]、鉄ではBr=2.0強[T]である。そのため、高出力モータとしては、固定子コア52において、突起部142が、Wt<1/2×Wmの関係を満たす磁性材料であればよい。
また、後述するように導線82が外層被膜182を備える場合には、導線82同士の外層被膜182が接触するように、導線82を固定子コア52の周方向に配置しても良い。この場合は、Wtは、0又は接触する両導線82の外層被膜182の厚さ、と看做すことができる。
図28や図29の構成では、回転子40側の磁石磁束に対して不相応に小さい導線間部材(突起部142)を有する構成となっている。なお、回転子40は、インダクタンスが低くかつ平坦な表面磁石型ロータであり、磁気抵抗的に突極性を有していないものとなっている。かかる構成では、固定子50のインダクタンス低減が可能となっており、固定子巻線51のスイッチングタイミングのずれに起因する磁束歪みの発生が抑制され、ひいては軸受21,22の電食が抑制される。
(変形例2)
上記式(1)の関係を満たす導線間部材を用いる固定子50として、以下の構成を採用することも可能である。図30では、固定子コア52の外周面側(図の上面側)に、導線間部材として歯状部143が設けられている。歯状部143は、ヨーク141から突出するようにして周方向に所定間隔で設けられており、径方向に導線群81と同じ厚み寸法を有している。歯状部143の側面は導線群81の各導線82に接している。ただし、歯状部143と各導線82との間に隙間があってもよい。
歯状部143は、周方向における幅寸法に制限が付与されており、磁石量に対して不相応に細い極歯(ステータティース)を備えるものとなっている。かかる構成により、歯状部143は、1.8T以上で磁石磁束により確実に飽和し、パーミアンスの低下によりインダクタンスを下げることができる。
ここで、磁石ユニット42において、固定子側における磁束作用面の1極あたりの表面積をSm、磁石ユニット42の残留磁束密度をBrとすると、磁石ユニット側の磁束は、例えば「Sm×Br」となる。また、各歯状部143における回転子側の表面積をSt、導線82の一相あたりの数をmとし、固定子巻線51の通電により1極内において2相分の歯状部143が励磁されるとすると、固定子側の磁束は、例えば「St×m×2×Bs」となる。この場合、
St×m×2×Bs<Sm×Br …(2)
の関係が成立するように歯状部143の寸法を制限することで、インダクタンスの低減が図られている。
なお、磁石ユニット42と歯状部143とで軸方向の寸法が同一である場合、磁石ユニット42の1極分の周方向の幅寸法をWm、歯状部143の周方向の幅寸法をWstとすると、上記式(2)は、式(3)のように置き換えられる。
Wst×m×2×Bs<Wm×Br …(3)
より具体的には、例えばBs=2T、Br=1Tであり、m=2であると想定すると、上記式(3)は、「Wst<Wm/8」の関係となる。この場合、歯状部143の幅寸法Wstを、磁石ユニット42の1極分の幅寸法Wmの1/8よりも小さくすることで、インダクタンスの低減が図られている。なお、数mが1であれば、歯状部143の幅寸法Wstを、磁石ユニット42の1極分の幅寸法Wmの1/4よりも小さくするとよい。
なお、上記式(3)において、「Wst×m×2」は、磁石ユニット42の1極分の範囲において固定子巻線51の通電により励磁される歯状部143の周方向の幅寸法に相当する。
図30の構成では、上述した図28,図29の構成と同様に、回転子40側の磁石磁束に対して不相応に小さい導線間部材(歯状部143)を有する構成となっている。かかる構成では、固定子50のインダクタンス低減が可能となっており、固定子巻線51のスイッチングタイミングのずれに起因する磁束歪みの発生が抑制され、ひいては軸受21,22の電食が抑制される。
(変形例3)
上記実施形態では、固定子巻線51を覆う封止部材57を、固定子コア52の径方向外側において各導線群81を全て含む範囲、すなわち径方向の厚さ寸法が各導線群81の径方向の厚さ寸法よりも大きくなる範囲で設ける構成としたが、これを変更してもよい。例えば、図31に示すように、封止部材57を、導線82の一部がはみ出すように設ける構成とする。より具体的には、封止部材57を、導線群81において最も径方向外側となる導線82の一部を径方向外側、すなわち固定子50側に露出させた状態で設ける構成とする。この場合、封止部材57の径方向の厚さ寸法は、各導線群81の径方向の厚さ寸法と同じ、又はその厚さ寸法よりも小さいとよい。
(変形例4)
図32に示すように、固定子50において、各導線群81が封止部材57により封止されていない構成としてもよい。つまり、固定子巻線51を覆う封止部材57を用いない構成とする。この場合、周方向に並ぶ各導線群81の間に導線間部材が設けられず空隙となっている。要するに、周方向に並ぶ各導線群81の間に導線間部材が設けられていない構成となっている。なお、空気を非磁性体、又は非磁性体の均等物としてBs=0と看做し、この空隙に空気を配置しても良い。
(変形例5)
固定子50おける導線間部材を非磁性材料により構成する場合に、その非磁性材料として、樹脂以外の材料を用いることも可能である。例えば、オーステナイト系のステンレス鋼であるSUS304を用いる等、金属系の非磁性材料を用いてもよい。
(変形例6)
固定子50が固定子コア52を具備していない構成としてもよい。この場合、固定子50は、図12に示す固定子巻線51により構成されることになる。なお、固定子コア52を具備していない固定子50において、固定子巻線51を封止材により封止する構成としてもよい。又は、固定子50が、軟磁性材からなる固定子コア52に代えて、合成樹脂等の非磁性材からなる円環状の巻線保持部を備える構成であってもよい。
(変形例7)
上記第1実施形態では、回転子40の磁石ユニット42として周方向に並べた複数の磁石91,92を用いる構成としたが、これを変更し、磁石ユニット42として円環状の永久磁石である環状磁石を用いる構成としてもよい。具体的には、図33に示すように、磁石ホルダ41の円筒部43の径方向内側に、環状磁石95が固定されている。環状磁石95には、周方向に極性が交互となる複数の磁極が設けられており、d軸及びq軸のいずれにおいても一体的に磁石が形成されている。環状磁石95には、各磁極のd軸において配向の向きが径方向となり、各磁極間のq軸において配向の向きが周方向となるような円弧状の磁石磁路が形成されている。
なお、環状磁石95では、d軸寄りの部分において磁化容易軸がd軸に平行又はd軸に平行に近い向きとなり、かつq軸寄りの部分において磁化容易軸がq軸に直交又はq軸に直交に近い向きとなる円弧状の磁石磁路が形成されるように配向がなされていればよい。
(変形例8)
本変形例では、制御装置110の制御手法の一部を変更している。本変形例では、主に、第1実施形態で説明した構成に対する相違部分について説明する。
まず、図34を用いて、図20に示した操作信号生成部116,126及び図21に示した操作信号生成部130a,130b内の処理について説明する。なお、各操作信号生成部116,126,130a,130bにおける処理は基本的には同様である。このため、以下では、操作信号生成部116の処理を例にして説明する。
操作信号生成部116は、キャリア生成部116aと、U,V,W相比較器116bU,116bV,116bWとを備えている。本実施形態において、キャリア生成部116aは、キャリア信号SigCとして三角波信号を生成して出力する。
U,V,W相比較器116bU,116bV,116bWには、キャリア生成部116aより生成されたキャリア信号SigCと、3相変換部115により算出されたU,V,W相指令電圧とが入力される。U,V,W相指令電圧は、例えば正弦波状の波形であり、電気角で位相が120°ずつずれている。
U,V,W相比較器116bU,116bV,116bWは、U,V,W相指令電圧とキャリア信号SigCとの大小比較に基づくPWM(PWM:pulse width modulation)制御により、第1インバータ101におけるU,V,W相の上アーム及び下アームの各スイッチSp,Snの操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部116は、U,V,W相指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、キャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、U,V,W相の各スイッチSp,Snの操作信号を生成する。ドライバ117は、操作信号生成部116により生成された操作信号に基づいて、第1インバータ101におけるU,V,W相の各スイッチSp,Snをオンオフさせる。
制御装置110は、キャリア信号SigCのキャリア周波数fc、すなわち各スイッチSp,Snのスイッチング周波数を変更する処理を行う。キャリア周波数fcは、回転電機10の低トルク領域又は高回転領域において高く設定され、回転電機10の高トルク領域において低く設定される。この設定は、各相巻線に流れる電流の制御性の低下を抑制するためになされる。
つまり、固定子50のコアレス化に伴い、固定子50におけるインダクタンスの低減を図ることができる。ここで、インダクタンスが低くなると、回転電機10の電気的時定数が小さくなる。その結果、各相巻線に流れる電流のリップルが増加して巻線に流れる電流の制御性が低下し、電流制御が発散する懸念がある。この制御性低下の影響は、巻線に流れる電流(例えば、電流の実効値)が高電流領域に含まれる場合よりも低電流領域に含まれる場合に顕著となり得る。この問題に対処すべく、本変形例において、制御装置110はキャリア周波数fcを変更する。
図35を用いて、キャリア周波数fcを変更する処理について説明する。この処理は、操作信号生成部116の処理として、制御装置110により、例えば所定の制御周期で繰り返し実行される。
ステップS10では、各相の巻線51aに流れる電流が低電流領域に含まれているか否かを判定する。この処理は、回転電機10の現在のトルクが低トルク領域であることを判定するための処理である。低電流領域に含まれているか否かの判定手法としては、例えば、以下の第1,第2の方法が挙げられる。
<第1の方法>
dq変換部112により変換されたd軸電流とq軸電流とに基づいて、回転電機10のトルク推定値を算出する。そして、算出したトルク推定値がトルク閾値未満であると判定した場合、巻線51aに流れる電流が低電流領域に含まれていると判定し、トルク推定値がトルク閾値以上であると判定した場合、高電流領域に含まれていると判定する。ここで、トルク閾値は、例えば、回転電機10の起動トルク(拘束トルクともいう)の1/2に設定されていればよい。
<第2の方法>
角度検出器により検出された回転子40の回転角度が速度閾値以上であると判定した場合、巻線51aに流れる電流が低電流領域に含まれている、すなわち高回転領域であると判定する。ここで、速度閾値は、例えば、回転電機10の最大トルクがトルク閾値となる場合の回転速度に設定されていればよい。
ステップS10において否定判定した場合には、高電流領域であると判定し、ステップS11に進む。ステップS11では、キャリア周波数fcを第1周波数fLに設定する。
ステップS10において肯定判定した場合には、ステップS12に進み、キャリア周波数fcを、第1周波数fLよりも高い第2周波数fHに設定する。
以上説明した本変形例によれば、各相巻線に流れる電流が高電流領域に含まれる場合よりも低電流領域に含まれる場合においてキャリア周波数fcが高く設定される。このため、低電流領域において、スイッチSp,Snのスイッチング周波数を高くすることができ、電流リップルの増加を抑制することができる。これにより、電流制御性の低下を抑制することができる。
一方、各相巻線に流れる電流が高電流領域に含まれる場合、低電流領域に含まれる場合よりもキャリア周波数fcが低く設定される。高電流領域においては、低電流領域よりも巻線に流れる電流の振幅が大きいため、インダクタンスが低くなったことに起因する電流リップルの増加が、電流制御性に及ぼす影響が小さい。このため、高電流領域においては、低電流領域よりもキャリア周波数fcを低く設定することができ、各インバータ101,102のスイッチング損失を低減することができる。
本変形例においては、以下に示す形態の実施が可能である。
・キャリア周波数fcが第1周波数fLに設定されている場合において、図35のステップS10において肯定判定されたとき、キャリア周波数fcを、第1周波数fLから第2周波数fHに向かって徐変させてもよい。
また、キャリア周波数fcが第2周波数fHに設定されている場合において、ステップS10において否定判定されたとき、キャリア周波数fcを、第2周波数fHから第1周波数fLに向かって徐変させてもよい。
・PWM制御に代えて、空間ベクトル変調(SVM:space vector modulation)制御によりスイッチの操作信号が生成されてもよい。この場合であっても、上述したスイッチング周波数の変更を適用することができる。
(変形例9)
上記各実施形態では、導線群81を構成する各相2対ずつの導線が、図36(a)に示すように並列接続されていた。図36(a)は、2対の導線である第1,第2導線88a,88bの電気的接続を示す図である。ここで、図36(a)に示す構成に代えて、図36(b)に示すように、第1,第2導線88a,88bが直列接続されていてもよい。
また、3対以上の多層導線が径方向に積層配置されていてもよい。図37に、4対の導線である第1〜第4導線88a〜88dが積層配置されている構成を示す。第1〜第4導線88a〜88dは、固定子コア52に近い方から、第1,第2,第3,第4導線88a,88b,88c,88dの順に径方向に並んで配置されている。
ここで、図36(c)に示すように、第3,第4導線88c,88dが並列接続されるとともに、この並列接続体の一端に第1導線88aが接続され、他端に第2導線88bが接続されていてもよい。並列接続にすると、その並列接続された導線の電流密度を低下させることができ、通電時の発熱を抑制できる。そのため、冷却水通路74が形成されたハウジング(ユニットベース61)に筒状の固定子巻線を組み付ける構成において、並列接続されていない第1,第2導線88a,88bがユニットベース61に当接する固定子コア52側に配置され、並列接続された第3,第4導線88c,88dが反固定子コア側に配置されている構成とする。これにより、多層導線構造における各導線88a〜88dの冷却性能を均等化することができる。
なお、第1〜第4導線88a〜88dからなる導線群81の径方向の厚さ寸法は、1磁極内における1相分の周方向の幅寸法よりも小さいものとされていればよい。
(変形例10)
回転電機10をインナロータ構造(内転構造)としてもよい。この場合、例えばハウジング30内において、径方向外側に固定子50が設けられ、その径方向内側に回転子40が設けられるとよい。また、固定子50及び回転子40の軸方向両端のうちその一方の側又はその両方の側にインバータユニット60が設けられているとよい。図38は、回転子40及び固定子50の横断面図であり、図39は、図38に示す回転子40及び固定子50の一部を拡大して示す図である。
インナロータ構造を前提とする図38及び図39の構成は、アウタロータ構造を前提とする図8及び図9の構成に対して、回転子40及び固定子50が径方向内外で逆になっていることを除いて、同様の構成となっている。簡単に説明すると、固定子50は、扁平導線構造の固定子巻線51と、ティースを持たない固定子コア52とを有している。固定子巻線51は、固定子コア52の径方向内側に組み付けられている。固定子コア52は、アウタロータ構造の場合と同様に、以下のいずれかの構成を有する。
(A)固定子50において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、1磁極における導線間部材の周方向の幅寸法をWt、導線間部材の飽和磁束密度をBs、1磁極における磁石ユニットの周方向の幅寸法をWm、磁石ユニットの残留磁束密度をBrとした場合に、Wt×Bs≦Wm×Brの関係となる磁性材料を用いている。
(B)固定子50において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、非磁性材料を用いている。
(C)固定子50において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設けていない構成となっている。
また、磁石ユニット42の各磁石91,92についても同様である。つまり、磁石ユニット42は、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされた磁石91,92を用いて構成されている。各磁石91,92における磁化方向等の詳細は既述のとおりである。磁石ユニット42において環状磁石95(図33参照)を用いることも可能である。
図40は、インナロータ型とした場合における回転電機10の縦断面図であり、これは既述の図2に対応する図面である。図2の構成との相違点を簡単に説明する。図40において、ハウジング30の内側には、環状の固定子50が固定され、その固定子50の内側には、所定のエアギャップを挟んで回転子40が回転可能に設けられている。図2と同様に、各軸受21,22は、回転子40の軸方向中央に対して軸方向のいずれか一方側に偏って配置されており、これにより、回転子40が片持ち支持されている。また、回転子40の磁石ホルダ41の内側に、インバータユニット60が設けられている。
図41には、インナロータ構造の回転電機10として別の構成を示す。図41において、ハウジング30には、軸受21,22により回転軸11が回転可能に支持されており、その回転軸11に対して回転子40が固定されている。図2等に示す構成と同様に、各軸受21,22は、回転子40の軸方向中央に対して軸方向のいずれか一方側に偏って配置されている。回転子40は、磁石ホルダ41と磁石ユニット42とを有している。
図41の回転電機10では、図40の回転電機10との相違点として、回転子40の径方向内側にインバータユニット60が設けられていない構成となっている。磁石ホルダ41は、磁石ユニット42の径方向内側となる位置で回転軸11に連結されている。また、固定子50は、固定子巻線51と固定子コア52とを有しており、ハウジング30に対して取り付けられている。
(変形例11)
インナロータ構造の回転電機として別の構成を以下に説明する。図42は、回転電機200の分解斜視図であり、図43は、回転電機200の側面断面図である。なおここでは、図42及び図43の状態を基準に上下方向を示すこととしている。
図42及び図43に示すように、回転電機200は、環状の固定子コア201及び多相の固定子巻線202を有する固定子203と、固定子コア201の内側に回転自在に配設される回転子204とを備えている。固定子203が電機子に相当し、回転子204が界磁子に相当する。固定子コア201は、多数の珪素鋼板が積層されて構成されており、その固定子コア201に対して固定子巻線202が取り付けられている。図示は省略するが、回転子204は、回転子コアと、磁石ユニットとして複数の永久磁石とを有している。回転子コアには、円周方向に等間隔で複数の磁石挿入孔が設けられている。磁石挿入孔のそれぞれには、隣接する磁極毎に交互に磁化方向が変わるように磁化された永久磁石が装着されている。なお、磁石ユニットの永久磁石は、図26で説明したようなハルバッハ配列又はそれに類する構成を有するものであるとよい。又は、磁石ユニットの永久磁石は、図9や図33で説明したような磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間において配向方向(磁化方向)が円弧状に延びている極異方性の特性を備えるものであるとよい。
ここで、固定子203は、以下のいずれかの構成であるとよい。
(A)固定子203において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、1磁極における導線間部材の周方向の幅寸法をWt、導線間部材の飽和磁束密度をBs、1磁極における磁石ユニットの周方向の幅寸法をWm、磁石ユニットの残留磁束密度をBrとした場合に、Wt×Bs≦Wm×Brの関係となる磁性材料を用いている。
(B)固定子203において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、非磁性材料を用いている。
(C)固定子203において、周方向における各導線部の間に導線間部材を設けていない構成となっている。
また、回転子204において、磁石ユニットは、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされた複数の磁石を用いて構成されている。
回転電機200の軸方向の一端側には、環状のインバータケース211が設けられている。インバータケース211は、ケース下面が固定子コア201の上面に接するように配置されている。インバータケース211内には、インバータ回路を構成する複数のパワーモジュール212と、半導体スイッチング素子のスイッチング動作により生じる電圧・電流の脈動(リップル)を抑制する平滑コンデンサ213と、制御部を有する制御基板214と、相電流を検出する電流センサ215と、回転子204の回転数センサであるレゾルバステータ216とが設けられている。パワーモジュール212は、半導体スイッチング素子であるIGBTやダイオードを有している。
インバータケース211の周縁には、車両に搭載されるバッテリの直流回路と接続されるパワーコネクタ217と、回転電機200側と車両側制御装置との間で各種信号の受け渡しに用いられる信号コネクタ218とが設けられている。インバータケース211はトップカバー219で覆われている。車載バッテリからの直流電力は、パワーコネクタ217を介して入力され、パワーモジュール212のスイッチングにより交流に変換されて各相の固定子巻線202に送られる。
固定子コア201の軸方向両側のうちインバータケース211の反対側には、回転子204の回転軸を回転可能に保持する軸受ユニット221と、その軸受ユニット221を収容する環状のリアケース222とが設けられている。軸受ユニット221は、例えば2つ一組の軸受を有しており、回転子204の軸方向中央に対して軸方向のいずれか一方側に偏って配置されている。ただし、軸受ユニット221における複数の軸受を固定子コア201の軸方向両側に分散させて設け、それら各軸受により回転軸を両持ち支持する構成であってもよい。リアケース222が車両のギアケースや変速機などの取付部にボルト締結して固定されることで、回転電機200が車両側に取り付けられるようになっている。
インバータケース211内には、冷媒を流すための冷却流路211aが形成されている。冷却流路211aは、インバータケース211の下面から環状に凹設された空間を固定子コア201の上面で閉塞して形成されている。冷却流路211aは、固定子巻線202のコイルエンドを囲むように形成されている。冷却流路211a内には、パワーモジュール212のモジュールケース212aが挿入されている。リアケース222にも、固定子巻線202のコイルエンドを囲むように冷却流路222aが形成されている。冷却流路222aは、リアケース222の上面から環状に凹設された空間を固定子コア201の下面で閉塞して形成されている。
(変形例12)
これまでは、回転界磁形の回転電機にて具体化した構成を説明したが、これを変更し、回転電機子形の回転電機にて具体化することも可能である。図44に、回転電機子形の回転電機230の構成を示す。
図44の回転電機230において、ハウジング231a,231bにはそれぞれ軸受232が固定され、その軸受232により回転軸233が回転自在に支持されている。軸受232は、例えば多孔質金属に油を含ませてなる含油軸受である。回転軸233には、電機子としての回転子234が固定されている。回転子234は、回転子コア235とその外周部に固定された多相の回転子巻線236とを有している。回転子234において、回転子コア235はスロットレス構造を有し、回転子巻線236は扁平導線構造を有している。つまり、回転子巻線236は、1相ごとの領域が径方向よりも周方向に長い扁平構造となっている。
また、回転子234の径方向外側には、界磁子としての固定子237が設けられている。固定子237は、ハウジング231aに固定された固定子コア238と、その固定子コア238の内周側に固定された磁石ユニット239とを有している。磁石ユニット239は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む構成となっており、既述した磁石ユニット42等と同様に、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされて構成されている。磁石ユニット239は、配向が行われた焼結ネオジム磁石を有しており、その固有保磁力は400[kA/m]以上、かつ残留磁束密度は1.0[T]以上となっている。
本例の回転電機230は、2極3コイルのブラシ付コアレスモータであり、回転子巻線236は3つに分割され、磁石ユニット239は2極である。ブラシ付きモータの極数とコイル数は、2:3、4:10、4:21などその用途に応じて様々である。
回転軸233にはコミュテータ241が固定されており、その径方向外側には複数のブラシ242が配置されている。コミュテータ241は、回転軸233に埋め込まれた導線243を介して回転子巻線236に電気接続されている。これらコミュテータ241、ブラシ242、導線243を通じて、回転子巻線236に対する直流電流の流入及び流出が行われる。コミュテータ241は、回転子巻線236の相数に応じて周方向に適宜分割されて構成されている。なお、ブラシ242は、そのまま電気配線を介して蓄電池などの直流電源に接続されていてもよいし、端子台などを介して直流電源に接続されていてもよい。
回転軸233には、軸受232とコミュテータ241との間に、シール材としての樹脂ワッシャ244が設けられている。樹脂ワッシャ244により、含油軸受である軸受232からしみ出た油がコミュテータ241側に流れ出ることが抑制される。
(変形例13)
回転電機10の固定子巻線51において、各導線82を、内外に複数の絶縁被膜を有する構成としてもよい。例えば、絶縁被膜付きの複数の導線(素線)を1本に束ね、それを外層被膜により覆って導線82を構成するとよい。この場合、素線の絶縁被膜が内側の絶縁被膜を構成し、外層被膜が外側の絶縁被膜を構成する。また特に、導線82における複数の絶縁被膜のうち外側の絶縁被膜の絶縁能力を、内側の絶縁被膜の絶縁能力よりも高めておくとよい。具体的には、外側の絶縁被膜の厚さを、内側の絶縁被膜の厚さよりも厚くする。例えば、外側の絶縁被膜の厚さを100μm、内側の絶縁被膜の厚さを40μmとする。又は、外側の絶縁被膜として、内側の絶縁被膜よりも誘電率の低い材料を用いるとよい。これらは少なくともいずれかが適用されればよい。なお、素線が、複数の導電材の集合体として構成されているとよい。
上記のとおり導線82における最外層の絶縁を強くすることにより、高電圧の車両用システムに用いる場合に好適なものとなる。また、気圧の低い高地などでも、回転電機10の適正な駆動が可能となる。
(変形例14)
内外に複数の絶縁被膜を有する導線82において、外側の絶縁被膜と内側の絶縁被膜とで、線膨張率(線膨張係数)及び接着強さの少なくともいずれかが異なる構成としてもよい。本変形例における導線82の構成を図45に示す。
図45において、導線82は、複数(図では4本)の素線181と、その複数の素線181を囲む例えば樹脂製の外層被膜182(外側絶縁被膜)と、外層被膜182内において各素線181の周りに充填された中間層183(中間絶縁被膜)とを有している。素線181は、銅材よりなる導電部181aと、絶縁材料よりなる導体被膜181b(内側絶縁被膜)とを有している。固定子巻線として見れば、外層被膜182により相間が絶縁される。なお、素線181が、複数の導電材の集合体として構成されているとよい。
中間層183は、素線181の導体被膜181bよりも高い線膨張率を有し、かつ外層被膜182よりも低い線膨張率を有している。つまり、導線82では、外側ほど線膨張率が高くなっている。一般的に、外層被膜182では導体被膜181bよりも線膨張係数が高いが、それらの間にその中間の線膨張率を有する中間層183を設けることにより、その中間層183がクッション材として機能し、外層側及び内層側での同時割れを防ぐことができる。
また、導線82では、素線181において導電部181aと導体被膜181bとが接着されるとともに、導体被膜181bと中間層183、中間層183と外層被膜182がそれぞれ接着されており、それら各接着部分では、導線82の外側ほど、接着強さが弱くなっている。つまり、導電部181a及び導体被膜181bの接着強さは、導体被膜181b及び中間層183の接着強さ、中間層183及び外層被膜182の接着強さよりも弱くなっている。また、導体被膜181b及び中間層183の接着強さと、中間層183及び外層被膜182の接着強さとを比較すると、後者の方(外側の方)が弱いか、又は同等であるとよい。なお、各被膜同士の接着強さの大きさは、例えば2層の被膜を引き剥がす際に要する引っ張り強さ等により把握可能である。上記のごとく導線82の接着強さが設定されていることで、発熱又は冷却による内外温度差が生じても、内層側及び外層側で共に割れが生じること(共割れ)を抑制することができる。
ここで、回転電機の発熱、温度変化は、主に素線181の導電部181aから発熱される銅損と、鉄心内から発せられる鉄損として生じるが、それら2種類の損失は、導線82内の導電部181a、又は導線82の外部より伝わるものであり、中間層183に発熱源があるわけではない。この場合、中間層183が両方に対してクッションとなり得る接着力を持つことで、その同時割れを防ぐことができる。したがって、車両用途など、高耐圧又は温度変化の大きい分野での使用に際しても、好適なる使用が可能となる。
以下に補足する。素線181は、例えばエナメル線であってもよく、かかる場合にはPA、PI、PAI等の樹脂被膜層(導体被膜181b)を有する。また、素線181より外側の外層被膜182は、同様のPA、PI、PAI等よりなり、かつ厚みが厚いものであることが望ましい。これにより、線膨張率差による被膜の破壊が抑えられる。なお、外層被膜182としては、PA、PI、PAI等の前記材料を厚くして対応するものとは別に、PPS、PEEK、フッ素、ポリカーボネート、シリコン、エポキシ、ポリエチレンナフタレート、LCPといった、誘電率がPI、PAIよりも小さいものを使うことも回転機の導体密度を高めるためには望ましい。これらの樹脂であれば、導体被膜181b同等のPI,PAI被膜よりも薄いか、導体被膜181bと同等の厚みであっても、その絶縁能力を高くすることができ、これにより導電部の占有率を高めることが可能となる。一般的には、上記樹脂は、誘電率がエナメル線の絶縁被膜より良好な絶縁を有している。当然、成形状態や、混ぜ物によって、その誘電率を悪くする例も存在する。中でも、PPS、PEEKは、その線膨張係数がエナメル被膜より一般的には大きいが、他樹脂よりも小さいため、第2層の外層被膜として適するのである。
また、素線181の外側における2種類の被膜(中間絶縁被膜、外側絶縁被膜)と素線181のエナメル被膜との接着強さは、素線181における銅線とエナメル被膜との間の接着強さよりも弱いことが望ましい。これにより、エナメル被膜と前記2種類の被膜とが一度に破壊される現象が抑制される。
固定子に水冷構造、液冷構造、空冷構造が付加されている場合には、基本的に、外層被膜182から先に熱応力や衝撃応力が掛かると考えられる。しかし、素線181の絶縁層と、前記2種類の被膜とが違う樹脂の場合でも、その被膜を接着しない部位を設けることにより、前記熱応力や衝撃応力を低減することができる。すなわち、素線(エナメル線)と空隙を設け、フッ素、ポリカーボネート、シリコン、エポキシ、ポリエチレンナフタレート、LCPを配置することで前記絶縁構造がなされる。この場合、エポキシなどからなる低誘電率で、かつ低線膨張係数からなる接着材を用いて、外層被膜と内層被膜とを接着することが望ましい。こうすることで、機械的強度だけでなく、導電部の振動による揺れなどによる摩擦による被膜破壊、または線膨張係数差による外層被膜の破壊を抑えることができる。
上記構成の導線82に対しての、機械的強度、固定等を担う、一般的には固定子巻線周りの最終工程となる最外層固定としては、エポキシ、PPS、PEEK、LCPなどの成形性が良く、誘電率、線膨張係数といった性質がエナメル被膜と近い性質をもった樹脂が好ましい。
一般的には、ウレタン、シリコンによる樹脂ポッティングが通例なされるが、前記樹脂においてはその線膨張係数がその他の樹脂と比べて倍近い差があり、樹脂をせん断し得る熱応力を発生する。そのため、厳しい絶縁規定が国際的に用いられる60V以上の用途には不適である。この点、エポキシ、PPS、PEEK、LCPなどにより射出成型等により容易に作られる最終絶縁工程によれば、上述の各要件を達成することが可能である。
上記以外の変形例を以下に列記する。
・磁石ユニット42のうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。具体的には、例えば、図4に示す磁石ユニット42(具体的には、第1,第2磁石91,92)のうち径方向内側の面と、回転子40の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。
スロットレス構造の回転電機としては、その出力が数十Wから数百W級の模型用などに使用される小規模なものが知られている。そして、一般的には10kWを超すような工業用の大型の回転電機でスロットレス構造が採用された事例を本願発明者は把握していない。その理由について本願発明者は検討した。
近年主流の回転電機は、次の4種類に大別される。それら回転電機とは、ブラシ付きモータ、カゴ型誘導モータ、永久磁石式同期モータ及びリラクタンスモータである。
ブラシ付きモータには、ブラシを介して励磁電流が供給される。このため、大型機のブラシ付きモータの場合、ブラシが大型化したり、メンテナンスが煩雑になったりしたりする。これにより、半導体技術の目覚ましい発達に伴い、誘導モータ等のブラシレスモータに置換されてきた経緯がある。一方、小型モータの世界では、低い慣性及び経済性の利点から、コアレスモータも多数世の中に供給されている。
カゴ型誘導モータでは、1次側の固定子巻線で発生させる磁界を2次側の回転子の鉄心で受けてカゴ型導体に集中的に誘導電流を流して反作用磁界を形成することにより、トルクを発生させる原理である。このため、機器の小型高効率の観点からすれば、固定子側及び回転子側ともに鉄心をなくすことは必ずしも得策であるとは言えない。
リラクタンスモータは、当に鉄心のリラクタンス変化を活用するモータであり、原理的に鉄心をなくすことは望ましくない。
永久磁石式同期モータでは、近年IPM(つまり埋め込み磁石型回転子)が主流であり、特に大型機においては、特殊事情がない限りIPMである場合が多い。
IPMは、磁石トルク及びリラクタンストルクを併せ持つ特性を有しており、インバータ制御により、それらトルクの割合が適時調整されながら運転される。このため、IPMは小型で制御性に優れるモータである。
本願発明者の分析により、磁石トルク及びリラクタンストルクを発生する回転子表面のトルクを、磁石ユニットのうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DM、すなわち、一般的なインナロータの固定子鉄心の半径を横軸にとって描くと図46に示すものとなる。
磁石トルクは、下式(eq1)に示すように、永久磁石の発生する磁界強度によりそのポテンシャルが決定されるのに対し、リラクタンストルクは、下式(eq2)に示すように、インダクタンス、特にq軸インダクタンスの大きさがそのポテンシャルを決定する。
磁石トルク=k・Ψ・Iq ・・・・・・・(eq1)
リラクタンストルク=k・(Lq−Ld)・Iq・Id ・・・・・(eq2)
ここで、永久磁石の磁界強度と巻線のインダクタンスの大きさとをDMで比較してみた。永久磁石の発する磁界強度、すなわち磁束量Ψは、固定子と対向する面の永久磁石の総面積に比例する。円筒型の回転子であれば円筒の表面積になる。厳密には、N極とS極とが存在するので、円筒表面の半分の専有面積に比例する。円筒の表面積は、円筒の半径と、円筒長さとに比例する。つまり、円筒長さが一定であれば、円筒の半径に比例する。
一方、巻線のインダクタンスLqは、鉄心形状に依存はするものの感度は低く、むしろ固定子巻線の巻数の2乗に比例するため、巻数の依存性が高い。なお、μを磁気回路の透磁率、Nを巻数、Sを磁気回路の断面積、δを磁気回路の有効長さとする場合、インダクタンスL=μ・N^2×S/δである。巻線の巻数は、巻線スペースの大きさに依存するため、円筒型モータであれば、固定子の巻線スペース、すなわちスロット面積に依存することになる。図47に示すように、スロット面積は、スロットの形状が略四角形であるため、周方向の長さ寸法a及び径方向の長さ寸法bとの積a×bに比例する。
スロットの周方向の長さ寸法は、円筒の直径が大きいほど大きくなるため、円筒の直径に比例する。スロットの径方向の長さ寸法は、当に円筒の直径に比例する。つまり、スロット面積は、円筒の直径の2乗に比例する。また、上式(eq2)からも分かる通り、リラクタンストルクは、固定子電流の2乗に比例するため、いかに大電流を流せるかで回転電機の性能が決まり、その性能は固定子のスロット面積に依存する。以上より、円筒の長さが一定なら、リラクタンストルクは円筒の直径の2乗に比例する。このことを踏まえ、磁石トルク及びリラクタンストルクとDMとの関係性をプロットした図が図46である。
図46に示すように、磁石トルクはDMに対して直線的に増加し、リラクタンストルクはDMに対して2次関数的に増加する。DMが比較的小さい場合は磁石トルクが支配的であり、固定子鉄心半径が大きくなるに連れてリラクタンストルクが支配的であることがわかる。本願発明者は、図46における磁石トルク及びリラクタンストルクの交点が、所定の条件下において、おおよそ固定子鉄心半径=50mmの近傍であるとの結論に至った。つまり、固定子鉄心半径が50mmを十分に超えるような10kW級のモータでは、リラクタンストルクを活用することが現在の主流であるため鉄心を無くすことは困難であり、このことが大型機の分野においてスロットレス構造が採用されない理由の1つであると推定される。
固定子に鉄心が使用される回転電機の場合、鉄心の磁気飽和が常に課題となる。特にラジアルギャップ型の回転電機では、回転軸の縦断面形状は1磁極当たり扇型となり、機器内周側程磁路幅が狭くなりスロットを形成するティース部分の内周側寸法が回転電機の性能限界を決める。いかに高性能な永久磁石を使おうとも、この部分で磁気飽和が発生すると、永久磁石の性能を十分にひきだすことができない。この部分で磁気飽和を発生させないためには、内周径を大きく設計することになり結果的に機器の大型化に至ってしまうのである。
例えば、分布巻の回転電機では、3相巻線であれば、1磁極あたり3つ乃至6つのティースで分担して磁束を流すのだが、周方向前方のティースに磁束が集中しがちであるため、3つ乃至6つのティースに均等に磁束が流れるわけではない。この場合、一部(例えば1つ又は2つ)のティースに集中的に磁束が流れながら、回転子の回転に伴って磁気飽和するティースも周方向に移動してゆく。これがスロットリップルを生む要因にもなる。
以上から、DMが50mm以上となるスロットレス構造の回転電機において、磁気飽和を解消するために、ティースを廃止したい。しかし、ティースが廃止されると、回転子及び固定子における磁気回路の磁気抵抗が増加し、回転電機のトルクが低下してしまう。磁気抵抗増加の理由としては、例えば、回転子と固定子との間のエアギャップが大きくなることがある。このため、上述したDMが50mm以上となるスロットレス構造の回転電機において、トルクを増強することについて改善の余地がある。したがって、上述したDMが50mm以上となるスロットレス構造の回転電機に、上述したトルクを増強できる構成を適用するメリットが大きい。
なお、アウタロータ構造の回転電機に限らず、インナロータ構造の回転電機についても、磁石ユニットのうち径方向において電機子側の面と、回転子の軸心との径方向における距離DMが50mm以上とされていてもよい。
・回転電機10の固定子巻線51において、導線82の直線部83を径方向に単層で設ける構成としてもよい。また、径方向内外に複数層で直線部83を配置する場合に、その層数は任意でよく、3層、4層、5層、6層等で設けてもよい。
・例えば図2の構成では、回転軸11を、軸方向で回転電機10の一端側及び他端側の両方に突出するように設けたが、これを変更し、一端側にのみ突出する構成としてもよい。この場合、回転軸11は、軸受ユニット20により片持ち支持される部分を端部とし、その軸方向外側に延びるように設けられるとよい。本構成では、インバータユニット60の内部に回転軸11が突出しない構成となるため、インバータユニット60の内部空間、詳しくは筒状部71の内部空間をより広く用いることができることとなる。
・上記構成の回転電機10では、軸受21,22において非導電性グリースを用いる構成としたが、これを変更し、軸受21,22において導電性グリースを用いる構成としてもよい。例えば、金属粒子やカーボン粒子等が含まれた導電性グリースを用いる構成とする。
・回転軸11を回転自在に支持する構成として、回転子40の軸方向一端側及び他端側の2カ所に軸受を設ける構成としてもよい。この場合、図1の構成で言えば、インバータユニット60を挟んで一端側及び他端側の2カ所に軸受が設けられるとよい。
・上記構成の回転電機10では、回転子40において磁石ホルダ41の中間部45が内側肩部49aと感情の外側肩部49bを有する構成としたが、これらの肩部49a,49bを無くし、平坦な面を有する構成としてもよい。
・上記構成の回転電機10では、固定子巻線51の導線82において導体82aを複数の素線86の集合体として構成したが、これを変更し、導線82として断面矩形状の角形導線を用いる構成としてもよい。また、導線82として断面円形状又は断面楕円状の丸形導線を用いる構成としてもよい。
・上記構成の回転電機10では、固定子50の径方向内側にインバータユニット60を設ける構成としたが、これに代えて、固定子50の径方向内側にインバータユニット60を設けない構成としてもよい。この場合、固定子50の径方向内側となる内部領域を空間としておくことが可能である。また、その内部領域に、インバータユニット60とは異なる部品を配することが可能である。
・上記構成の回転電機10において、ハウジング30を具備しない構成としてもよい。この場合、例えばホイールや他の車両部品の一部において、回転子40、固定子50等が保持される構成であってもよい。
・上記実施形態において、インナロータ構造の回転電機を採用した場合に、第1実施形態と同様に、円筒部43(界磁子コア部材)の一部又は全部が、q軸と配向円弧OAとの第2交点P2よりも径方向において固定子側(電機子側)に配置されていてもよい。また、インナロータ構造の回転電機を採用した場合であって、円筒部43の飽和磁束密度の方が、磁石91,92の残留磁束密度よりも大きい場合、円筒部43の径方向における厚さ寸法は、q軸と、反固定子側周面との第3交点P3から第2交点P2までの径方向における寸法L1よりも薄くしてもよい。また、インナロータ構造の回転電機を採用した場合に、Br×Wh≦Bs×Wscの関係を満たす磁石ユニット42及び円筒部43が用いられてもよい。
・上記実施形態では、円筒部43の全部が、q軸と配向円弧OAとの第2交点P2よりも径方向において固定子側に配置されていたが、図48に示すように、円筒部43の一部のみが配置されていてもよい。
・上記実施形態において、円筒部43の飽和磁束密度の方が、磁石91,92の残留磁束密度よりも小さい場合、磁束漏れを抑制するため、円筒部43の径方向における厚さ寸法Wscは、第3交点P3から第2交点P2までの径方向における寸法L1よりも厚いことが望ましい。すなわち、図48に示すように、円筒部43の厚さ寸法を設定することが望ましい。
・上記実施形態の配向円弧OAは、配向円弧OA上の第1交点P1における接線TA1が、d軸に平行になるように設定されていたが、d軸に対して平行に近い角度となるように設定されていてもよい。例えば、d軸の方向と、接線TA1とがなす角度が、例えば、80度〜100度の範囲内となるように設定されていてもよい。
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。