JP2020028516A - 部分義歯 - Google Patents

Abstract

【課題】クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を伴わず、しかも、部分床義歯のように義歯床を用いることなく装着することができて、取り外しも可能な部分義歯を提供する。【解決手段】本発明に係る部分義歯１は、人工歯１０と、人工歯１０を支持し、開閉可能に構成され、閉状態において、歯列の内側に係合する係合部材と、係合部材の閉状態を解除可能に固定するためのロック構造１４とを備え、係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部２０と、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部３０と、歯列における少なくとも一つの歯の、内側への移動に対して抵抗となる部位に係合する第三の係合部とを備える。【選択図】図２

Description

本発明は、取り外し可能な部分義歯に関する。

部分的に欠損した歯を補う歯科用補綴物として、古くから部分床義歯が用いられている。また、その後、クラウンブリッジやインプラントも用いられるようになってきた。そして、使用者の利便性に鑑みた歯科用補綴物が各種提案されており、部分床義歯であれば、特許文献１ないし５に記載されたものがその一例である。

特開平７−２３６６４７号公報 特開２０１５−１０９９６５号公報 特開２０１６−１９６号公報 特開２００４−２５４９１１号公報 特開２００４−８９４４３号公報

部分床義歯は、義歯床に人工歯を設けたものを歯列の欠損部における歯槽堤に被せて装着するものであり、人工歯にかかる咬合力は、歯槽堤の歯肉（粘膜）に作用するようになっている。そのため、部分床義歯においては、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題がある。

また、部分床義歯の中には、残存歯に一部咬合力を負担させるためや義歯の装着を安定させるために、残存歯に係合するクラスプを設けたものがある。しかし、この構造によれば、咬合力が柔軟性のある歯肉と動きにくい残存歯の両者に作用し、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題がある。

クラウンブリッジは、人工歯の両側に一体形成されたクラウンを歯列の欠損部の前後に位置する残存歯に被せて装着するものである。そのため、クラウンブリッジにおいては、クラウンを残存歯に被せるためにクラウンの厚さだけ健全な残存歯を切削しなければならないという問題がある。

インプラントは、人工歯根を歯槽骨に植立し、人工歯根の上端部に人工歯を固着するものである。そのため、インプラントにおいては、人工歯根を歯槽骨に植立するために歯肉を切開するとともに歯槽骨を切削しなければならないという問題がある。加えて、人工歯根は、自然歯根と異なり、歯根膜を介さず、歯槽骨に直接植立される。そのため、インプラントにおいては、適度なクッション性が得られないという問題がある。さらに、インプラントにおいては、周辺粘膜の歯垢や口腔内細菌に対する防御機構も存在しない。

そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を伴わず、しかも、部分床義歯のように義歯床を用いることなく装着することができて、取り外しも可能な部分義歯を提供することを課題とするものである。

本発明に係る部分義歯は、
義歯床を有さない部分義歯であって、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、開閉可能に構成され、閉状態において、歯列の内側に係合する係合部材と、
係合部材の閉状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
係合部材は、
歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部と、
歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部と、
歯列における少なくとも一つの歯の、内側への移動に対して抵抗となる部位に係合する第三の係合部とを備え、
係合部材の開状態において、前記歯列に着脱可能となる。

かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、係合部材を開状態にし、係合部材を歯列に取り付ける。係合部材を歯列に取り付けると、係合部材を閉状態にする。これにより、係合部材が歯列の内側に係合し、かつ、ロック構造が働いて、部分義歯は歯列に装着される。

しかも、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜する傾斜部であるアンダーカット部に係合している。そのため、部分義歯が歯列から咬合方向（上下方向）に外れることはない。

また、部分義歯は、歯列の内側に係合するため、そのままであれば、歯列から内側に外れてしまう。しかし、部分義歯を装着している間、第三の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、内側への移動に対して抵抗となる部位に係合している。そのため、部分義歯が歯列から内側に外れることはない。

そして、第一の係合部、第二の係合部及び第三の係合部が歯列の各部位に係合することにより、部分義歯は、歯列の内外方向（水平方向）、咬合方向（上下方向）及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。

加えて、部分義歯を装着している間、第一の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯にかかる咬合力は、欠損部における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散される。

他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して係合部材を開状態にすることにより、係合部材が歯列から離間し、部分義歯を取り外すことができる。

なお、「内側」とは、歯を基準とした場合に舌がある側（舌側）をいい、「外側」とは、歯を基準とした場合に、前歯（１歯ないし２歯の切歯及び３歯の犬歯）であれば、唇がある側（唇側）をいい、奥歯（４番ないし７番の臼歯）であれば、頬がある側（頬側）をいう。

ここで、本発明に係る部分義歯の一態様として、係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯の、咬合側と内側の間の斜め方向への移動に対して抵抗となる部位に係合する第四の係合部を備える構成を採用することができる。

かかる構成によれば、部分義歯を装着している間、第四の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、咬合側と内側の間の斜め方向への移動に対して抵抗となる部位に係合している。そのため、部分義歯が歯列から斜め方向に外れることはない。すなわち、上顎の歯列の部分義歯であれば、部分義歯が歯列から下顎の中心方向に外れることはなく、下顎の歯列の部分義歯であれば、部分義歯が歯列から上顎の中心方向に外れることはない。

なお、「咬合側」とは、咬合方向（上下方向）において、前歯であれば、切端に近い側をいい、奥歯であれば、咬合面（上顎の歯列と下顎の歯列とが噛み合う面、より詳しくは、歯の頂部において隆起している咬頭の間に囲まれた面）に近い側をいい、「歯根側」とは、切端や咬合面から遠ざかる側をいう。

また、本発明に係る部分義歯の他態様として、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、歯列方向におけるアンダーカット部に係合する部分を含む構成を採用することができる。

かかる構成によれば、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、歯列方向におけるアンダーカット部にも係合している。そのため、部分義歯は、より強固に歯列に装着される。また、かかる第二の係合部の部分は、歯列における少なくとも一つの歯の、咬合側と内側の間の斜め方向への移動に対して抵抗となる部位に係合する部分でもあるため、第四の係合部の機能も兼ね備える。

以上の如く、本発明に係る部分義歯によれば、残存歯をそのまま利用することで、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を行う必要がなく、部分義歯を取り外し可能に装着することができる。また、本発明に係る部分義歯によれば、人工歯にかかる咬合力を、義歯床を介して歯槽堤に負担させるのではなく、複数の残存歯に分散させて負担させるので、部分床義歯による諸問題を解消することができる。

また、本発明に係る部分義歯によれば、係合部材が歯列の内側に隠れて外からは見えない、あるいは見えにくいため、外部からは部分義歯を装着していると認識されず、極めて高い審美性を獲得することができる。

図１は、本発明の第一の実施形態に係る部分義歯が装着される上顎を模った上顎模型を示す図であって、図１（ａ）は、上顎模型の側面図、図１（ｂ）は、上顎模型の左半分を下顎側から見た斜視図、図１（ｃ）は、上顎模型の左半分を下顎側から見た平面図である。 図２は、同実施形態に係る部分義歯を示す図であって、図２（ａ）は、閉状態にした部分義歯を下顎側から見た平面図、図２（ｂ）は、開状態にした部分義歯を下顎側から見た平面図、図２（ｃ）は、開状態にした部分義歯を上顎側から見た平面図、図２（ｄ）は、図２（ｃ）のＡ−Ａ線断面図、図２（ｅ）は、図２（ｃ）のＢ−Ｂ線断面図である。 図３は、同実施形態に係る部分義歯を上顎模型に装着した状態を示す図であって、図３（ａ）は、図１（ａ）に対応する側面図、図３（ｂ）は、図１（ｂ）に対応する斜視図、図３（ｃ）は、図１（ｃ）に対応する平面図である。 図４は、同実施形態に係る部分義歯を歯列に装着する手順を示す説明図であって、部分義歯を開状態にして第一の係合部材及び第二の係合部材を歯列の内側に回転させながら移動させる状態を示す図であり、図４（ａ）は、図３（ｃ）のＣ−Ｃ線に対応する箇所における断面図、図４（ｂ）は、図３（ｃ）のＤ−Ｄ線に対応する箇所における断面図、図４（ｃ）は、図３（ｃ）のＥ−Ｅ線に対応する箇所における断面図である。 図５は、同説明図であって、第一の係合部材を歯列の内側に係合させた後、第二の係合部材を閉じようとする状態を示す図であり、図５（ａ）は、図３（ｃ）のＣ−Ｃ線に対応する箇所における断面図、図５（ｂ）は、図３（ｃ）のＤ−Ｄ線に対応する箇所における断面図、図５（ｃ）は、図３（ｃ）のＥ−Ｅ線に対応する箇所における断面図である。 図６は、同説明図であって、部分義歯を閉状態にして歯列に装着した状態を示す図であり、図６（ａ）は、図３（ｃ）のＣ−Ｃ線断面図、図６（ｂ）は、図３（ｃ）のＤ−Ｄ線断面図、図６（ｃ）は、図３（ｃ）のＥ−Ｅ線断面図である。 図７（ａ）は、舌側から見た奥歯部分の側面図、図７（ｂ）は、頬側から見た奥歯部分の側面図である。 図８は、同実施形態に係る部分義歯を歯列に装着する手順を示す説明図であって、図８（ａ）は、開状態にした部分義歯の第一の係合部材を歯列の内側に係合させた状態を下顎側から見た平面図、図８（ｂ）は、同状態を下顎側から見た斜視図である。 図９は、同説明図であって、図９（ａ）は、第二の係合部材を閉じて歯列の内側に係合させて、部分義歯を歯列に装着した状態を下顎側から見た平面図、図９（ｂ）は、同状態を下顎側から見た斜視図である。 図１０は、本発明の第二の実施形態に係る部分義歯を示す図であって、図１０（ａ）は、開状態にした部分義歯を下顎側から見た斜視図、図１０（ｂ）は、閉状態にした部分義歯を下顎側から見た斜視図である。 図１１は、同実施形態に係る部分義歯を歯列に装着する手順を示す説明図であって、図１１（ａ）は、開状態にした部分義歯の第一の係合部材を歯列の内側に係合させた状態を下顎側から見た平面図、図１１（ｂ）は、第二の係合部材を閉じて歯列の内側に係合させて、部分義歯を歯列に装着した状態を下顎側から見た平面図である。

＜第一の実施形態＞
以下、本発明に係る部分義歯の第一の実施形態について、図１ないし図９を参酌して説明する。なお、本実施形態に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。

図１ないし図３に示す如く、本実施形態に係る部分義歯１は、左側６番の臼歯の欠損部５１を補綴するためのもので、左側１番の切歯５２及び左側２番の切歯５３を除く、左側３番の犬歯５４、左側４番の臼歯５５、左側５番の臼歯５６及び左側７番の臼歯５８の歯列に装着されるものである。

部分義歯１は、欠損部５１に配置される人工歯１０と、人工歯１０を支持し、開閉可能に構成され、開状態において、歯列に着脱可能となるとともに、閉状態において、歯列の内側に係合する第一の係合部材２０及び第二の係合部材３０とを備える。

人工歯１０は、ベース部１１に、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティング（コーティング部１２）を施した積層体である。本実施形態においては、左側の６番の臼歯が欠損しており、人工歯１０は、左側の６番の臼歯に対応して設けたものである。

ベース部１１は、内側の歯根側に凹部１１ａを備え、凹部１１ａに、閉状態の第二の係合部材３０が入り込む。凹部１１ａと第二の係合部材３０との合致面、より詳しくは、ベース部１１と第二の係合部材３０との接離方向と交差する第一の合致面１１ｂ及びベース部１１と第二の係合部材３０との接離方向に沿う第二の合致面１１ｃのうち、第二の合致面１１ｃには、ベース部１１及び第二の係合部材３０の合致状態を解除可能に固定するためのロック構造１４が設けられる。

ロック構造１４は、第二の合致面１１ｃのいずれか一方の面に形成される係合凹部と、いずれか他方の面に形成される係合突起とで構成される。ベース部１１と第二の係合部材３０とが合致する際、第二の係合部材３０が僅かに撓んで係合突起が係合凹部に係入し、ロックがかかるようになっている。また、ベース部１１と第二の係合部材３０とが分離する際、係合突起による係合凹部への係止が外れ、ロックが解除されるようになっている。

ベース部１１は、第一の係合部材２０と一体的に設けられる。見方を変えると、第一の係合部材２０は、ベース部１１から近心及び遠心に伸びるアーム部２１，２２を備える。なお、「近心」とは、正中（右側１番の切歯と左側１番の切歯の間）に近づく方向をいい、「遠心」とは、正中から遠ざかる方向をいう。

本実施形態においては、第一の係合部材２０の近心側のアーム部２１は、左側３番の犬歯５４、左側４番の臼歯５５及び左側５番の臼歯５６の隣り合う三本の歯の内側に係合可能な歯列方向長さを有する。第一の係合部材２０の遠心側のアーム部２２は、左側７番の臼歯５８の内側に係合可能な歯列方向長さを有し、さらに左側７番の臼歯５８の遠心側を通って左側７番の臼歯５８の外側面に回り込む回り込み部２２ａを有する。

第一の係合部材２０は、歯列の内側の咬合側に位置する。第二の係合部材３０は、歯列の内側の歯根側に位置する。そして、咬合方向（上下方向）に二列配置とされる第一及び第二の係合部材２０，３０は、遠心側の端部に設けられたヒンジ部４０にて回転可能に連結される。これにより、第一及び第二の係合部材２０，３０は、歯列方向と交差する方向に互いに離間する開状態と、歯列の内側に係合する閉状態とに開閉可能に構成される。なお、第一及び第二の係合部材２０，３０が開きすぎると、部分義歯を歯列に装着させる際の取扱い性が悪くなる。そのため、ヒンジ部４０は、第一及び第二の係合部材２０，３０が所定角度以上に開かないように形成されている（図２（ｂ）及び図２（ｃ）は最大開き角度を示している。）。

第一の係合部材２０は、対応する各歯の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部（いわゆるオーバーラップ部）に係合する第一の係合部２３，…を備える。本実施形態においては、第一の係合部材２０は、左側３番の犬歯５４、左側４番の臼歯５５、左側５番の臼歯５６及び左側７番の臼歯５８のそれぞれの歯に対し、第一の係合部２３を備える。

第二の係合部材３０は、オーバーラップ部とは反対側に傾斜するアンダーカット部がある歯の、当該アンダーカット部に係合する第二の係合部３４，…を備える。本実施形態においては、第二の係合部材３０は、アンダーカット部を有する左側３番の犬歯５４、左側４番の臼歯５５、左側５番の臼歯５６及び左側７番の臼歯５８のそれぞれの歯に対し、第二の係合部３４を備える。

図６に示す如く、第一及び第二の係合部材２０，３０は、閉状態において、各歯の内側面に沿う形状の凹部２５を備える。第一の係合部２３は、凹部２５の咬合側（図面では下側）に形成される。第二の係合部３４は、凹部２５の歯根側（図面では上側）に形成される。

より詳しくは、第二の係合部材３０は、歯の歯頚部にプラークが付着するのを防止するために、歯根側の端縁部が内側の歯肉５９の縁と接して隙間ができない状態となるように、歯列の内側に係合する。そのため、第二の係合部３４は、第二の係合部材３０の歯根側の端縁部（凹部２５の歯根側の端部）に形成され、主として歯頚部に係合する。

また、臼歯５５，５６，５８に対して、第一及び第二の係合部材２０，３０は、歯の内側面をほぼ全体的に覆う高さ寸法を有している。そのため、第一の係合部２３は、第一の係合部材２０の咬合側の端縁部（凹部２５の咬合側の端部）に形成される。これにより、最大豊隆部（最大豊隆部を通る歯列の内外方向（水平方向）の線を最大豊隆線Ｌとして表す。）を歯冠の上下方向中間部に有することで太鼓状となる歯（４番ないし７番の臼歯）の表面を包むように凹部２５が歯の内側面に面当接し、第一及び第二の係合部材２０，３０は、歯列の内側に密着する。

なお、第一の係合部２３が臼歯５５，５６，５８の咬合面にまで進出すると、下顎の歯と第一の係合部２３が当たり、歯の噛み合わせが変わってしまう。そのため、第一の係合部２３は、臼歯５５，５６，５８の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部のうち、咬合面にかからない部位、例えば咬合面よりもわずかに歯根側の部位に係合する。

上述の第二の係合部３４は、歯の内側のアンダーカット部に係合するものである。これに加え、第二の係合部３４は、図２（ｂ）、図２（ｃ）及び図７（ａ）に示す如く、その一部３４ａは、歯列方向におけるアンダーカット部にも係合する。本実施形態においては、欠損部５１を挟む左側５番の臼歯５６の遠心側のアンダーカット部及び左側７番の臼歯５８の近心側のアンダーカット部に対し、第二の係合部３４ａを備える。

図１ないし図３、図６（ｂ）及び図６（ｃ）に示す如く、第一の係合部材２０は、内側への移動に対して抵抗となる部位がある歯の、当該部位に係合する第三の係合部２６，…を備える。内側への移動に対して抵抗となる部位とは、例えば、歯の外側面や歯の頂部において隆起している咬頭の外側面である。本実施形態においては、左側４番の臼歯５５の内側の咬頭の、近心側の外側面及び遠心側の外側面、左側５番の臼歯５６の内側の咬頭の、近心側の外側面及び遠心側の外側面、左側７番の臼歯５８の内側の咬頭の、近心側の外側面及び遠心側の外側面が、内側への移動に対して抵抗となる部位となっており、第一の係合部材２０は、これらの部位に対し、第三の係合部２６を備える。なお、これらの部位は、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部でもあるので、これら第三の係合部２６は、第一の係合部２３でもある。

また、回り込み部２２ａは、内側への移動に対して抵抗となる部位である左側７番の臼歯５８の外側面に係合する。このことから、回り込み部２２ａもまた、第三の係合部２６である。

さらに、図２（ｅ）及び図７（ｂ）に示す如く、人工歯１０の外側面の端部領域１０ａ（人工歯１０のベース部１１の歯列方向における側面のうち、外側の端部領域）は、欠損部５１を挟む左側５番の臼歯５６の外側面の遠心側の端部領域５６ａと、左側７番の臼歯５８の外側面の近心側の端部領域５８ａに係合するが、これら外側面の端部領域５６ａ，５８ａもまた、内側への移動に対して抵抗となる部位である。このことから、人工歯１０の外側面の端部領域１０ａもまた、第三の係合部２６である。

図３（ａ）及び図６（ｃ）に示す如く、第一の係合部材２０は、咬合側と内側の間の斜め方向Ｐへの移動に対して抵抗となる部位に係合する第四の係合部２７を備える。咬合側と内側の間の斜め方向Ｐへの移動に対して抵抗となる部位とは、例えば、歯の外側面のうち、最大豊隆線Ｌよりも歯根側の部位である。本実施形態においては、第一の係合部材２０の回り込み部２２ａ（第三の係合部２６）のうち、最大豊隆線Ｌよりも歯根側の部位に係合する部分が第四の係合部２７である。

また、図２（ｅ）及び図７（ｂ）に示す如く、人工歯１０の外側面の端部領域１０ａののうちの歯根側領域は、欠損部５１を挟む左側５番の臼歯５６の外側面の遠心側の端部領域５６ａのうちの歯根側領域と、左側７番の臼歯５８の外側面の近心側の端部領域５８ａのうちの歯根側領域に係合するが、これら歯根側領域もまた、咬合側と内側の間の斜め方向Ｐへの移動に対して抵抗となる部位である。このことから、人工歯１０の外側面の端部領域１０ａの歯根側領域もまた、第四の係合部２７である。

部分義歯１の材質としてはコバルト・クロム・モリブデン合金や金合金といった金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン（ＰＥＥＫ）樹脂といった合成樹脂やジルコニアといったセラミックを用いることができる。本実施形態においては、人工歯１０のベース部１１及び第一の係合部材２０は、金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製であり、また、第二の係合部材３０も、同じ金属材料を用いて鋳造により成型した金属製である。

本実施形態に係る部分義歯１は、以上の構成からなり、次に、この部分義歯１を歯列に装着する手順について説明する。

まず、第一及び第二の係合部材２０，３０を開状態にする。これにより、第一及び第二の係合部材２０，３０は歯列に取り付け可能となるので、この状態で、図４に示す如く、第一及び第二の係合部材２０，３０を歯列の内側に移動させる。

次に、図５及び図８に示す如く、第一の係合部材２０を歯列の内側に係合させる。このとき、第一の係合部材２０をそのまま歯列の内側に移動させると、回り込み部２２ａが歯列と干渉するので、図４に図示するように、第一の係合部材２０を回転させながら、歯列の表面をなぞるようにして、移動させると、第一の係合部材２０を歯列の内側に係合させることができる。また、この操作により、人工歯１０は、歯列の欠損部５１における歯槽堤の上の正規位置に配置される。

次に、第二の係合部材３０を歯列側に移動させて、第一及び第二の係合部材２０，３０を閉状態にし、図６及び図９に示す如く、第二の係合部材３０を歯列の内側に係合させる。このとき、ロック構造１４により第一及び第二の係合部材２０，３０は閉状態に固定され、部分義歯１は歯列に装着される。部分義歯１を外すときは、第二の係合部材３０に設けたフック３５に指を引っ掛け、第二の係合部材３０を歯列から離れる方向に移動させて、第一及び第二の係合部材２０，３０を開状態とし、歯列から取り外す。

ここで、本実施形態に係る部分義歯１は、第一及び第二の係合部材２０，３０に、傾斜の向きが互いに逆となる第一の係合部２３及び第二の係合部３４の両方が形成されている。そのため、部分義歯１が閉状態、すなわち装着形態のままでは、第二の係合部３４が歯列と干渉して部分義歯１を歯列に装着することはできない。しかし、本実施形態に係る部分義歯１は、第一の係合部材２０と第二の係合部材３０が歯列方向と交差する方向に互いに離間可能な開閉式を採用している。これにより、第一の係合部２３及び第二の係合部３４を歯列の内側に係合させることができて、部分義歯１を歯列に容易に装着することができる。

しかも、部分義歯１を装着している間、第二の係合部３４は、歯のアンダーカット部に係合している。これにより、部分義歯１が歯列から咬合方向（上下方向）に外れるのを防ぐことができる。

また、第一及び第二の係合部材２０，３０は、歯列の内側に係合するため、そのままであれば、部分義歯１は、歯列から内側に外れてしまう。しかし、本実施形態に係る部分義歯１は、第三の係合部２６を備え、歯列の内側への移動が規制されるようになっている。これにより、部分義歯１が歯列から内側に外れるのを防ぐことができる。

また、歯列から内側に外れるのを防げたとしても、第二の係合部３４のアンダーカット部への係合は、咬合側と内側の間の斜め方向Ｐに対しては抵抗とならないため、部分義歯１は、歯列から咬合側と内側の間の斜め方向Ｐに外れてしまうこともある。しかし、本実施形態に係る部分義歯１は、第四の係合部２７を備え、咬合側と内側の間の斜め方向Ｐへの移動が規制されるようになっている。これにより、部分義歯１が歯列から咬合側と内側の間の斜め方向Ｐに外れるのを防ぐことができる。

そして、第一の係合部２３、第二の係合部３４、第三の係合部２６及び第四の係合部２７が歯列の各部位に係合することにより、部分義歯１は、歯列の内外方向（水平方向）、咬合方向（上下方向）、歯列の内外方向と咬合方向の間の方向（斜め方向）及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなくなる。これにより、部分義歯１を歯列に強固に装着することができる。

しかも、第一及び第二の係合部材２０，３０の複数の凹部２５，…が歯列の内側面に面係合するとともに、第一及び第二の係合部材２０，３０の複数の第一の係合部２３，…及び複数の第二の係合部３４，…が歯列の内側に係合する。したがって、これにより、部分義歯１をさらに歯列に強固に装着することができる。

しかも、本実施形態に係る部分義歯１は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、使用者は快適な装着感をもって部分義歯を使用することができる。

また、本実施形態に係る部分義歯１によれば、歯列に装着している間、複数の第一の係合部２３，…が、歯列における複数の歯（本実施形態においては、左側３番の犬歯５４、左側４番の臼歯５５、左側５番の臼歯５６及び左側７番の臼歯５８の四本の歯）のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯１０にかかる咬合力を、欠損部５１における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散させることができる。これにより、部分床義歯が抱える、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題や、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題を解消することができる。

しかも、本実施形態に係る部分義歯１は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、咬合力の分散効果に偏りが生じて、特定の歯に咬合力が過度に作用してこの歯の寿命を縮めてしまうという問題は生じない。

また、本実施形態に係る部分義歯１は、残存歯をそのまま利用して装着するものである。これにより、クラウンブリッジのように部分義歯を合わせるために残存歯を切削するという必要がなくなる。そのため、健全歯質の喪失を防ぐことができるという使用者にとっては極めて大きな効果を奏する。

そして、本実施形態に係る部分義歯１は、第一及び第二の係合部材２０，３０が歯列の内側に隠れて外からは見えない。これにより、外部からは部分義歯１を装着していると認識されず、極めて高い審美性を獲得することができる。審美性が高いということは、使用者にとって最大の魅力となる。

＜第二の実施形態＞
次に、本発明に係る部分義歯の第二の実施形態について、図１０及び図１１を参酌して説明する。

本実施形態に係る部分義歯１は、上顎の右側５番の臼歯の欠損部５１及び左側３番の犬歯、左側４番及び左側５番の臼歯の欠損部５１を補綴するためのもので、残存するすべての歯（右側１番ないし４番、６番、７番及び左側１番、２番、６番、７番の歯）の歯列に装着されるものである。

基本的には、第一の実施形態に係る部分義歯１を右側にも設け、左右二つの第一の係合部材２０，２０を双方延長して連結した構成と同じであるが、異なる点は、ｉ）第一の係合部材２０の遠心側のアーム部２２は、歯列の内側を通らず、人工歯１０から歯列（本実施形態においては、左右の６番及び７番の臼歯）の外側を通って最奥の残存歯（左右の７番の臼歯）の遠心側に回り込む形状となっており、この回り込んだ歯列の内側の端部にヒンジ部４０が設けられる点、ｉｉ）上記ｉ）に伴い、遠心側のアーム部２２は、各歯（左右の６番及び７番の臼歯）の外側面に沿う形状の凹部（図６参照）を備える点、ｉｉｉ）上記ｉｉ）に伴い、遠心側のアーム部２２は、第一の係合部２３のみならず、第二の係合部２４も備える点、ｉｖ）第二の係合部材３０のうち、遠心側のアーム部２２に対応する部分も、各歯（左右の６番及び７番の臼歯）の内側面に沿う形状の凹部（図６参照）を備える点、ｖ）上記ｉｖ）に伴い、第二の係合部材３０のうち、遠心側のアーム部２２に対応する部分は、第二の係合部３４のみならず、第一の係合部３３も備える点である。

この場合、第一の係合部材２０の遠心側のアーム部２２は、第三の係合部であり、第二の係合部２４は、第四の係合部でもある。

本実施形態に係る部分義歯１によっても、第一の実施形態に係る部分義歯１と同様の効果を奏するものである。

審美性についていえば、第一の係合部材２０の遠心側のアーム部２２が歯列の外側を通ることにより、この部分は歯列の内側に隠れない。しかし、口腔内の奥まった位置であるので、よほど口を大きく開けない限りは、外部から遠心側のアーム部２２が見えることはない。よって、本実施形態に係る部分義歯１であっても、極めて高い審美性を獲得することができる。なお、より完璧な審美性を追求しようとすれば、遠心側のアーム部２２の表面に、歯肉と同色の肌色を有して外観上歯肉に見せるための周知のコーティングを施せばよい。

なお、本発明に係る部分義歯は、上記第一及び第二の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。

例えば、上記実施形態においては、第一及び第二の係合部材２０，３０は、ヒンジ部４０による回転構造により開閉するものである。しかし、例えば、第一及び第二の係合部材２０，３０が歯列の内外方向において平行的に相対変位して開閉するものであってもよい。

また、上記実施形態においては、同じ歯に第一及び第二の係合部材２０，３０が係合するようになっている。しかし、これに限定されることはない。例えば、第一の係合部材２０が係合する歯の一部に第二の係合部材３０が係合する、あるいはこの逆であってもよいし、第一の係合部材２０が係合する歯と第二の係合部材３０が係合する歯が異なる、あるいは歯列方向にずれていてもよい。

また、上記実施形態においては、基本的には、同じ歯に第一の係合部２３及び第二の係合部３４が係合するようになっている。しかし、第一の係合部２３が係合する歯と第二の係合部３４が係合する歯は完全一致していなくてもよい。例えば、第一の係合部２３が係合する歯の一部に第二の係合部３４が係合するようにしてもよいし、第一の係合部２３が係合する歯とは異なる歯に第二の係合部３４が係合するようにしてもよい。

また、第一の係合部２３が係合する歯の数は、人工歯１０にかかる咬合力を好適に分散させる観点から、少なくとも三つの歯であるのが好ましい。また、これは欠損歯の数にもよるものであり、第一の係合部２３は、欠損歯の数の二倍以上の数の歯に係合するのが好ましい。

また、上記実施形態においては、本来の噛み合わせを変えないよう、第一の係合部２３は、咬合面にかからない部位に設けられる。しかし、逆に、噛み合わせの矯正を目的として、第一の係合部２３は、咬合面にかかる部位に設けるようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、第一及び第二の係合部材２０，３０の各歯に対応する部位に凹部２５が設けられ、凹部２５の咬合側の端部に第一の係合部２３が設けられ、凹部２５の歯根側の端部に第二の係合部３４が設けられ、第一及び第二の係合部材２０，３０と歯の表面との係合が強固になるようにしている。しかし、面当接ではなく、第一の係合部２３及び第二の係合部３４が部分的に係合するようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、第一の係合部２３、第三の係合部２６、第四の係合部２７は、それぞれ第一の係合部材２０に設けられる。しかし、これらあるいはその一部は、第二の係合部材３０に設けるようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、人工歯１０は、第一の係合部材２０と一体に設けられ、第一の係合部材２０に支持されるものである。しかし、人工歯１０は、第二の係合部材０に支持されるようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、人工歯１０のベース部１１と第一の係合部材２０、第二の係合部材３０は、それぞれ、鋳造により成型したものである。しかし、製造方法は、鋳造に限定されず、切削による削り出しでもよい。また、人工歯１０と第一及び第二の係合部材２０，３０とは、それぞれ別々に作成されたものを組み合わせて一体化したものでもよい。

また、上記実施形態においては、人工歯１０は、ベース部１１とコーティング部１２の積層構造となっている。しかし、これに限定されるものではなく、例えばベース部１１を構成する金属材料を用いてベース部１１及びコーティング部１２に相当する形状のものを一体的に形成するようにしてもよい。要は、審美的に気にならないのであれば、コーティング部１２は用いずに、単体のベース部１１が人工歯１０の咬頭や咬合面、人工歯１０の外側面を備えるようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、ロック構造１４は、係合凹部と係合突起との組み合わせによるものである。しかし、これに限定されるものではなく、公知ないし周知のロック構造であって、開閉式の部分義歯に適用できるものであれば用いることができる。

また、上記実施形態においては、ロック構造１４は、人工歯１０の第二の合致面１１ｃに設けられる。しかし、これに限定されるものではなく、ロック構造１４は、人工歯１０の第一の合致面１１ｂやその他の部位に設けるようにしてもよい。

また、上記実施形態においては、欠損部５１の奥に残存歯がある、いわゆる中間欠損症例に対する部分義歯について説明した。しかし、本発明に係る部分義歯は、欠損部５１の奥に残存歯がない、いわゆる遊離端欠損症例に対する部分義歯にも適用できることはいうまでもない。

また、上記第一の実施形態に係る部分義歯１と上記第二の実施形態に係る部分義歯１は、ここまでに説明した技術事項のうち、相互に採用できる技術事項を採用して新たな実施形態に係る部分義歯とすることができる。一例として、第二の実施形態に係る部分義歯１は、両側の部分義歯であるが、片方を無くした形態の片側の部分義歯とすることができる。かかる形態の部分義歯は、具体的には、第一の係合部材２０は、歯列の内側に係合する近心側のアーム部と、歯列の外側に係合する遠心側のアーム部とを備え、より詳しくは、人工歯１０から近心に延びて歯列の内側に係合する近心側のアーム部と、人工歯１０から遠心に延びて歯列の外側に係合する遠心側のアーム部とを備えるものである。

１…部分義歯、１０…人工歯、１０ａ…外側面の端部領域、１１…ベース部、１１ａ…凹部、１１ｂ…第一の合致面、１１ｃ…第二の合致面、１２…コーティング部、１４…ロック構造、２０…第一の係合部材、２１…近心側のアーム部、２２…遠心側のアーム部、２２ａ…回り込み部、２３…第一の係合部、２４…第二の係合部、２５…凹部、２６…第三の係合部、２７…第四の係合部、３０…第二の係合部材、３３…第一の係合部、３４…第二の係合部、３４ａ…部分、３５…フック、４０…ヒンジ部、５０…上顎、５１…欠損部、５２，５３…切歯、５４…犬歯、５５〜５８…臼歯、５９…歯肉、Ｌ…最大豊隆線、Ｐ…咬合側と内側の間の斜め方向

Claims (3)

1. 義歯床を有さない部分義歯であって、
   歯列の欠損部に配置される人工歯と、
   該人工歯を支持し、開閉可能に構成され、閉状態において、前記歯列の内側に係合する係合部材と、
   該係合部材の前記閉状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
   前記の係合部材は、
   前記歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部と、
   前記歯列における少なくとも一つの歯の、前記傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部と、
   前記歯列における少なくとも一つの歯の、内側への移動に対して抵抗となる部位に係合する第三の係合部とを備え、
   前記係合部材の開状態において、前記歯列に着脱可能となる
   部分義歯。
2. 前記係合部材は、前記歯列における少なくとも一つの歯の、咬合側と内側の間の斜め方向への移動に対して抵抗となる部位に係合する第四の係合部を備える請求項１に記載の部分義歯。
3. 前記第二の係合部は、前記歯列における少なくとも一つの歯の、歯列方向におけるアンダーカット部に係合する部分を含む請求項１又は２に記載の部分義歯。

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