JP2020023967A - ベーンポンプ装置 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、吸入工程開始時におけるポンプ室の圧力を低下させることが可能なベーンポンプ装置を提供することを目的とする。
図1は、実施の形態に係るベーンポンプ装置1(以下、「ベーンポンプ1」と称す。)の構成部品の一部をカバー120側から見た斜視図である。
図2は、ベーンポンプ1の構成部品の一部をケース110側から見た斜視図である。
図3は、ベーンポンプ1の高圧のオイルの流路を示すための断面図である。図3は、図5のIII−III部の断面図でもある。
図4は、ベーンポンプ1の低圧のオイルの流路を示すための断面図である。図4は、図5のIV−IV部の断面図でもある。
ベーンポンプ1は、例えば車両のエンジンからの動力により駆動されて、作動流体の一例としてのオイルを、例えば油圧式無段変速機や油圧式パワーステアリングなどの機器に供給するためのポンプである。
また、ベーンポンプ1は、カムリング40よりも回転軸10の一方の端部側に配置された一方側部材の一例としてのインナプレート50と、カムリング40よりも回転軸10の他方の端部側に配置された他方側部材の一例としてのアウタプレート60とを備えている。
また、ベーンポンプ1は、ロータ20、複数のベーン30、カムリング40、インナプレート50およびアウタプレート60を収容するハウジング100を備えている。ハウジング100は、有底筒状のケース110と、ケース110の開口部を覆うカバー120とを有している。
回転軸10は、ケース110に設けられた後述のケース側軸受け111と、カバー120に設けられた後述のカバー側軸受け121とによって回転可能に支持される。回転軸10には、外周面にスプライン11が形成されており、スプライン11を介してロータ20と連結されている。本実施の形態においては、回転軸10は、例えば車両のエンジンなどのベーンポンプ1の外部に配置された駆動源により動力を受けることによって回転し、スプライン11を介してロータ20を回転駆動する。
なお、第1の実施形態に係るベーンポンプ1では、回転軸10(ロータ20)は、図1で時計回転方向に回転するように構成されている。
図5は、ロータ20、ベーン30及びカムリング40を回転軸方向の一方方向、及び、他方方向に見た図である。
ロータ20は、概形が円筒状の部材である。ロータ20の内周面には、回転軸10のスプライン11(図1参照)が嵌め込まれるスプライン21が形成されている。ロータ20は、外周部に、回転軸10の回転中心Cを中心とする円弧状の曲面部22を有している。また、ロータ20の外周部には、ロータ20の外周面から回転中心C方向に凹みベーン30を収容するベーン溝23が、周方向に等間隔に(放射状に)複数(本実施の形態においては10個)形成されている。また、ロータ20の外周部には、曲面部22から回転中心C側に凹んだ第1凹部の一例としてのロータ凹部24が形成されている。
ベーン溝23は、ロータ20の外周面及び回転軸10の回転軸方向の両端面にそれぞれ開口する溝である。ベーン溝23は、回転軸方向に見た場合には、図5に示すように、外周部側が、回転半径方向が長手方向となる長方形であるとともに、回転中心C側が、この長方形の短手方向の長さよりも大きな直径の円形状である。つまり、ベーン溝23は、外周部側に直方体状に形成された直方体状溝231と、回転中心C側に円柱状に形成された中心側空間の一例としての円柱状溝232とを有している。
ベーン30は、直方体状の部材であり、ロータ20のベーン溝23それぞれに1枚ずつ組み込まれている。ベーン30は、回転半径方向の長さがベーン溝23の回転半径方向の長さよりも小さく、幅がベーン溝23の幅よりも小さい。そして、ベーン30は、回転半径方向に移動可能にベーン溝23に保持される。
カムリング40は、概形が筒状の部材であり、カムリング外周面41と、カムリング内周面42と、回転軸方向におけるインナプレート50側の端面であるインナ端面43と、回転軸方向におけるアウタプレート60側の端面であるアウタ端面44とを有している。
カムリング外周面41は、回転軸方向に見た場合に、図5に示すように回転中心Cからの距離が全周(ただし一部を除く)に渡って略等しい略円形状である。
なお、ベーンポンプ1は、10枚のベーン30を有し、10枚のベーン30がカムリング40のカムリング内周面42に接触することで、隣接する2枚のベーン30、これら隣接する2枚のベーン30間のロータ20の外周面、これら隣接する2枚のベーン30間のカムリング内周面42、インナプレート50及びアウタプレート60とで、10個のポンプ室を形成する。以下の説明において、ポンプ室を構成する2枚のベーン30の内の回転方向の上流側のベーン30を上流側ベーン、回転方向の下流側のベーン30を下流側ベーンと称す。一例として、図5には、垂直軸上にあるポンプ室を構成する2枚のベーン30の内の上流側ベーンに「31」の符号を、下流側ベーンに「32」の符号を付している。
カムリング40のカムリング内周面42は、回転軸方向に見た場合に、図6に示すように、回転角度毎の回転中心C(図5参照)からの距離L(言い換えればベーン30のベーン溝23からの突出量)に2つの凸部が存在するように形成されている。つまり、回転中心Cからの距離Lが、図5に示した一方方向に見た図における正の垂直軸を零度とした場合に、反時計回転方向に約20度から約90度にかけて徐々に大きくなるとともに約160度にかけて徐々に小さくなることで1つ目の凸部42aを形成し、約200度から約270度にかけて徐々に大きくなるとともに約340度にかけて徐々に小さくなることで2つ目の凸部42bを形成するように設定されている。本実施の形態に係るカムリング40においては、2つの凸部42a及び凸部42bの形状は同じである。
なお、以下の説明において、第1吐出ポート4における下流側の端部が形成された回転角度と、第2吸入ポート3における上流側の端部が形成された回転角度との中央の回転角度、及び、第2吐出ポート5における下流側の端部が形成された回転角度と、第1吸入ポート2における上流側の端部が形成された回転角度との中央の回転角度を、「中央角度」と称する場合がある。
インナ凹部430は、図5に示すように、第1吸入ポート2を構成する第1吸入凹部431と、第2吸入ポート3を構成する第2吸入凹部432と、第1吐出ポート4を構成する第1吐出凹部433と、第2吐出ポート5を構成する第2吐出凹部434とを有している。回転軸方向に見た場合には、第1吸入凹部431と第2吸入凹部432とは、回転中心Cに対して点対称となるように形成されており、第1吐出凹部433と第2吐出凹部434とは、回転中心Cに対して点対称となるように形成されている。また、第1吸入凹部431及び第2吸入凹部432は、回転半径方向にはインナ端面43の全域に渡って凹んでおり、周方向には所定角度だけインナ端面43から凹んでいる。第1吐出凹部433及び第2吐出凹部434は、回転半径方向には、カムリング内周面42から、カムリング外周面41に至るまでの所定範囲だけインナ端面43から凹んでおり、周方向には所定角度だけインナ端面43から凹んでいる。
また、回転軸方向に見た場合には、第1吐出凹部433と第1吐出凹部443とは、同じ位置に設けられ、第2吐出凹部434と第2吐出凹部444とは、同じ位置に設けられている。第2吐出凹部434及び第2吐出凹部444は、図5に示した一方方向に見た図における正の垂直軸を零度とした場合に、反時計回転方向に約130度から約175度にかけて設けられており、第1吐出凹部433及び第1吐出凹部443は、約310度から約355度にかけて設けられている。
また、カムリング40には、第1吐出凹部433と第1吐出凹部443とを連通するように回転軸方向に貫通する孔である第1吐出貫通孔45が2つ形成されている。また、カムリング40には、第2吐出凹部434と第2吐出凹部444とを連通するように回転軸方向に貫通する孔である第2吐出貫通孔46が2つ形成されている。
図7は、インナプレート50を回転軸方向の一方方向、及び、他方方向に見た図である。
インナプレート50は、概形が中央部に貫通孔が形成された円板状の部材であり、インナ外周面51と、インナ内周面52と、回転軸方向におけるカムリング40側の端面であるインナカムリング側端面53と、回転軸方向におけるカムリング40側とは反対側の端面であるインナ非カムリング側端面54とを有している。
インナ外周面51は、回転軸方向に見た場合には、図7に示すように円形状であり、回転中心Cからの距離は、カムリング40のカムリング外周面41における回転中心Cからの距離と略同じである。
インナ内周面52は、回転軸方向に見た場合には、図7に示すように円形状であり、回転中心Cからの距離は、ロータ20の内周面に形成されたスプライン21(図5参照)の溝底までの距離と略同じである。
第1吸入凹部531は、第1吸入ポート2の回転中心C側の部位を構成する第1吸入内側部538を有している。第2吸入凹部532は、第2吸入ポート3の回転中心C側の部位を構成する第2吸入内側部539を有している。これら第1吸入内側部538及び第2吸入内側部539については後で詳述する。
また、インナカムリング側凹部530は、周方向には第2吸入凹部532から第2吐出凹部533に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置にインナ第2凹部534を有している。
また、インナカムリング側凹部530は、周方向には第1吐出凹部433に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置にインナ第1凹部535を有している。
また、インナカムリング側凹部530は、カムリング40の第1貫通孔47に対向する位置に形成された第1凹部536と、第2貫通孔48に対向する位置に形成された第2凹部537とを有している。
また、インナプレート50には、周方向には第1吸入凹部531に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置に、回転軸方向に貫通する孔であるインナ第1貫通孔56が形成されている。
図8は、アウタプレート60を回転軸方向の他方方向、及び、一方方向に見た図である。
アウタプレート60は、概形が中央部に貫通孔が形成された板状の部材であり、アウタ外周面61と、アウタ内周面62と、回転軸方向におけるカムリング40側の端面であるアウタカムリング側端面63と、回転軸方向におけるカムリング40側とは反対側の端面であるアウタ非カムリング側端面64とを有している。
アウタ外周面61は、回転軸方向に見た場合には、図8に示すように、ベースの円形状から2箇所が切り欠かれた形状である。ベースの円形状の回転中心Cからの距離は、カムリング40のカムリング外周面41における回転中心Cからの距離と略同じである。2箇所の切り欠きは、第1吸入凹部441に対向する位置に形成されて第1吸入ポート2を構成する第1吸入切り欠き部611と、第2吸入凹部442に対向する位置に形成されて第2吸入ポート3を構成する第2吸入切り欠き部612とを有している。アウタ外周面61は、回転中心Cに対して点対称となるように形成されており、第1吸入切り欠き部611と第2吸入切り欠き部612とは、回転中心Cに対して点対称となるように形成されている。
アウタ内周面62は、回転軸方向に見た場合には、図8に示すように円形状であり、回転中心Cからの距離は、ロータ20の内周面に形成されたスプライン21の溝底までの距離と略同じである。
アウタカムリング側凹部630は、カムリング40の第1吐出凹部443に対向する位置に形成された第1吐出凹部631を有している。
また、アウタカムリング側凹部630は、周方向には第1吸入切り欠き部611から第1吐出凹部631に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置にアウタ第1凹部632を有している。
また、アウタカムリング側凹部630は、周方向にはカムリング40の第2吐出凹部444に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置にアウタ第2凹部633を有している。
また、アウタカムリング側凹部630は、回転軸方向に平行であり、アウタ外周面61に直交する面で切断した断面がV字状であり、回転方向の上流側から下流側に行くに従って凹み深さが大きくなる第1V溝634を有している。第1V溝634における下流側の端部は、第1吐出凹部631における上流側の端部に接続している。
また、アウタカムリング側凹部630は、回転軸方向に平行であり、アウタ外周面61に直交する面で切断した断面がV字状であり、回転方向の上流側から下流側に行くに従って凹み深さが大きくなる第2V溝635を有している。第2V溝635における下流側の端部は、第2吐出貫通孔65における上流側の端部に接続している。
また、アウタプレート60には、周方向には第2吸入切り欠き部612に対応する位置であって、回転半径方向にはロータ20のベーン溝23の円柱状溝232に対向する位置に、回転軸方向に貫通する孔であるアウタ第2貫通孔66が形成されている。
また、アウタプレート60には、カムリング40の第1貫通孔47に対向する位置に、回転軸方向に貫通する孔である第1貫通孔67が、カムリング40の第2貫通孔48に対向する位置に、回転軸方向に貫通する孔である第2貫通孔68が形成されている。
ハウジング100は、ロータ20、ベーン30、カムリング40、インナプレート50及びアウタプレート60を収容する。また、ハウジング100は、回転軸10の一方の端部を内部に収容し、他方の端部を突出させる。
ケース110とカバー120とはボルトにて締め付けられている。
図9は、ケース110を回転軸方向の一方方向に見た図である。
ケース110は、有底筒状の部材であり、底部の中央部には回転軸10の一方の端部を回転可能に支持するケース側軸受け111を有している。
また、ケース110は、インナプレート50が嵌め込まれるインナプレート嵌合部112を有している。インナプレート嵌合部112は、回転中心Cから近い位置(内径側)にある内径側嵌合部113と、回転中心Cから遠い位置(外径側)にある外径側嵌合部114とを有している。
図2に示すように、カバー120は、中央部に回転軸10を回転可能に支持するカバー側軸受け121を有している。
カバー120には、アウタプレート60の第2吐出貫通孔65及びアウタ第2貫通孔66に対向する位置に、ケース110側の端面から回転軸方向に凹んだカバー第2吐出凹部122が形成されている。
カバー吸入凹部125は、吸入口116から吸入され、第1吸入ポート2及び第2吸入ポート3からポンプ室内に吸入されるオイルが流通する吸入流路R1を構成する。
本実施の形態に係るベーンポンプ1は、10枚のベーン30を有し、10枚のベーン30がカムリング40のカムリング内周面42に接触することで、隣接する2枚のベーン30、これら隣接する2枚のベーン30間のロータ20の外周面、これら隣接する2枚のベーン30間のカムリング内周面42、インナプレート50のインナカムリング側端面53及びアウタプレート60のアウタカムリング側端面63とで形成されるポンプ室を10個備えている。1個のポンプ室に着目すると、回転軸10が1回転してロータ20が1回転することにより当該ポンプ室は回転軸10の周囲を1回転する。当該ポンプ室が1回転する過程で、第1吸入ポート2から吸入したオイルを圧縮して圧力を高めて第1吐出ポート4から吐出するとともに、第2吸入ポート3から吸入したオイルを圧縮して圧力を高めて第2吐出ポート5から吐出する。
以下に、カムリング40のカムリング内周面42の回転中心Cからの距離Lが大きくなり始める回転角度(以下、「起点角度」と称す。)について説明する。この起点角度は、距離Lが最小である区間が所定回転角度に亘った後に距離Lが大きくなり始める回転角度である。所定回転角度は、例えば9度である。所定回転角度が9度である場合、所定回転角度の、ポンプ室を構成する2枚のベーン30間の回転角度(ベーン間回転角度)に対する割合は、9/(360/10)=0.25である。なお、ベーン間回転角度に対する所定回転角度の割合は、0.11以上であることを例示することができる。距離Lが最小である所定回転角度の区間、及び、起点角度は、吐出ポートと吸入ポートとの間に設けられている。
第2吸入ポート3は、カムリング40に形成された第2吸入凹部432及び第2吸入凹部442、インナプレート50に形成された第2吸入凹部532、及び、アウタプレート60に形成された第2吸入切り欠き部612にて構成される。
第2吐出ポート5は、カムリング40に形成された第2吐出凹部434及び第2吐出凹部444、インナプレート50に形成された第2吐出凹部533、アウタプレート60に形成された第2吐出貫通孔65にて構成される。
吸入工程は、吸入ポートを介してオイルを吸入する工程である。吸入工程の区間は、吸入ポートを介してオイルを吸入する区間である。吐出工程は、吐出ポートを介してオイルを吐出する工程である。吐出工程の区間は、吐出ポートを介してオイルを吐出する区間である。
以下の説明において、ポンプ室を構成する2枚のベーン30の内の上流側のベーン30を上流側ベーン、下流側のベーン30を下流側ベーンと称す。
吐出工程が終了する回転角度は、上流側ベーンが、吐出ポートの下流側の端部(以下、「下流端」と称する場合もある。)を通過する回転角度である。上流側ベーンが、吐出ポートの下流端を通過することで、吐出ポートを介してポンプ室内にオイルを吐出しなくなる。
吸入工程が開始する回転角度は、下流側ベーンが、吸入ポートの上流側の端部(以下、「上流端」と称する場合もある。)を通過した回転角度である。下流側ベーンが、吸入ポートの上流端を通過することで、吸入ポートを介してポンプ室からオイルを吸入し始める。
図11は、カムリング40及びアウタプレート60を他方方向に見た図である。
以下に、吐出工程が終了する回転角度、及び、吸入工程が開始する回転角度について説明する。なお、第1側と第2側とは点対称であるので、以下では、第1側について詳細に説明し、第2側についての詳細な説明は省略する。
さらに、上記10枚ベーン仕様のベーンポンプ装置について詳述する。
通常、複数枚のベーンを回転半径方向に移動可能に支持して回転するロータと、前記ロータの外周面に対向する内周面を有するカムリングと、を有し、前記ロータの回転中心から前記カムリングの内周面までの距離が前記ロータの回転角度に応じて変化することで、前記ロータの外周面、前記カムリングの内周面及び前記複数枚のベーンの内の隣接する2枚のベーンにて区画されるポンプ室の容積が前記回転角度に応じて変化する。
そして、前記ポンプ室の容積は、前記カムリングの内周面までの距離が最小となる吸入ポートと吐出ポート間に、隣接する2枚のベーンが重なったとき(例えば図5は、吸入ポートと吐出ポート間に、隣接する2枚のベーンが重なった状態を示しており、上流側ベーン31が吐出ポートにおける下流側の端部に位置し、下流側ベーン32が吸入ポートにおける上流側の端部に位置している)、容積が最小となる。
さらに、前記距離が最小である区間が所定の前記回転角度に亘った後に前記距離が大きくなり始める前記回転角度である起点角度は、吸入ポート開始点(吸入工程が開始する回転角度)に合致し、前記距離が最大となる前記回転角度から前記距離が最小となる前記回転角度は、吐出ポート終了点(吐出工程が終了する回転角度)に合致する。
上記ベーンポンプ装置では、吸入開始時のポンプ室の容積が最小となり、その地点より回転することにより、ポンプ室の容積が増えていく。そして、2枚のベーンの上流側のベーンが吸入ポートの下流側に合致した時にポンプ室の前記カムリングの内周面までの距離が最大となり、容積も最大となる。その後、前記カムリングの内周面までの距離が減少し、前記カムリングの内周面までの距離が最小となる吸入ポートと吐出ポート間に、隣接する2枚のベーンが重なったとき、容積が最小となる工程をくりかえす。
ベーンポンプ装置においては、吐出流量が減ることにより、見掛け上のポンプの性能が低下する。ポンプの性能低下を避けるために、これまでは、起点角度を回転方向の上流側にずらさなかった。ところが発明者が検討した結果、起点角度を従来よりも回転方向の上流側にずらすことにより、吸入工程の開始時におけるポンプ室の圧力を低下させることが可能なベーンポンプ装置を提供可能であることを知見した。本発明は、このような知見に基づいて完成させた。
本実施の形態に係るベーンポンプ1においては、起点角度は、吐出ポートにおける下流側の端部(下流端)が形成された回転角度と吸入ポートにおける上流側の端部(上流端)が形成された回転角度との中央の回転角度(中央角度)(図13参照)よりも回転方向の上流側であって中央角度との回転角度差が2.5度の位置から、中央角度よりも回転方向の下流側であって回転角度差が2.5度の位置までの範囲内となるように設定されている。言い換えれば、起点角度は、吐出ポートにおける下流側の端部が形成された回転角度と、吸入ポートにおける上流側の端部が形成された回転角度とを等分する角度を中央角度とするとき、中央角度に対して回転角度差2.5度以下となるように設定されている。これは、以下の理由による。
図13は、異なる起点角度における吐出流量比を示すシミュレーション結果である。
起点角度が、中央角度との回転角度差が回転方向の下流側に12.5度である構成を比較構成とし、起点角度を異ならせた4タイプの構成A〜Dの吐出流量を、比較構成の吐出流量と比較した。構成Aは、起点角度が、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に、2.5度である。構成Bは、起点角度が、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に、1.25度である。構成Cは、起点角度が、中央角度との回転角度差が零度(0度)、つまり、起点角度が、中央角度と同一である。構成Dは、起点角度が、中央角度との回転角度差が回転方向の下流側に、2.5度である。中央角度の回転角度を0度として、回転方向の下流側の方向を正、回転方向の上流側の方向を負とすると、構成A、B、C、D、比較構成の起点角度は、それぞれ、−2.5度、−1.25度、0度、2.5度、12.5度である。なお、構成A〜D及び比較構成においては、回転角度毎の距離Lが描く上記凸部の最高点及びその最高点となる回転角度を同一とし、起点角度を異ならせている。ゆえに、起点角度から最高点となる回転角度に至る過程で、単位回転角度当りの距離Lの変化量(図6における距離Lの傾斜角度)は、構成A、B、C、D、比較構成の順に小さい。
図13に示すように、構成Aの吐出流量は、比較構成の吐出流量の1.17倍、構成Bの吐出流量は、比較構成の吐出流量の1.18倍、構成Cの吐出流量は、比較構成の吐出流量の1.19倍、構成Dの吐出流量は、比較構成の吐出流量の1.15倍であった。
図13に示すように、起点角度を、比較構成の起点角度よりも回転方向の上流側にすることで、吐出流量が比較構成の吐出流量よりも多くなる。これは、以下の理由による。
ここで、ポンプ室を構成する2枚のベーン30の内の上流側ベーンの回転角度をこのポンプ室の回転角度とし、この上流側ベーンを含んで構成されるポンプ室の容積Vを、この回転角度における容積Vとする。つまり、上流側ベーンの回転角度が零度であるとき(上流側ベーンにおける回転方向の中心が図5に示した一方方向に見た図における正の垂直軸上に位置するとき)に、この上流側ベーンを含んで構成されるポンプ室の容積Vを、回転角度零度における容積Vとする。なお、ベーン30は回転方向に厚みがあるので、ベーン30の回転角度は、回転方向の中心を基準とする。
図14に示すように、比較構成においては、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に略19度である場合に容積Vが最小となる。また、構成Aにおいては、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に略30度である場合に容積Vが最小となる。また、構成Bにおいては、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に略29度である場合に容積Vが最小となる。また、構成Cにおいては、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に略27.5度である場合に容積Vが最小となる。また、構成Dにおいては、中央角度との回転角度差が回転方向の上流側に略25度である場合に容積Vが最小となる。
つまり、構成A〜D及び比較構成においては、距離Lは、距離Lが最小である区間よりも回転方向の上流側では、回転方向の上流側から下流側に行くに従って徐々に小さくなり、起点角度よりも回転方向の下流側では、回転方向の上流側から下流側に行くに従って徐々に大きくなっている。そして、距離Lが最小である区間に下流側ベーンがある場合であって、距離Lが徐々に小さくなる区間に上流側ベーンがある場合には、回転方向の上流側から下流側に行くに従ってポンプ室の容積Vが小さくなり、その後、下流側ベーンが、距離Lが徐々に大きくなる区間に移行することで、上流側ベーンが、距離が徐々に小さくなる区間にある場合であってもポンプ室の容積Vは大きくなっている。
図15に示すように、構成Aのポンプ容量は、比較構成のポンプ容量の1.00倍、構成Bのポンプ容量は、比較構成のポンプ容量の1.005倍であった。また、構成Cのポンプ容量は、比較構成のポンプ容量の1.006倍、構成Dのポンプ容量は、比較構成のポンプ容量の1.009倍であった。ゆえに、起点角度が、中央角度よりも回転方向の上流側に2.5度(構成A)よりも離れていると、比較構成のポンプ容量よりも少なくなると考えられる。これは、以下の理由による。
本実施の形態に係るベーンポンプ1においては、10枚のベーン30を有するポンプである。回転角度差2.5度の、ポンプ室を構成する2枚のベーン30間の回転角度(以下、「ベーン間回転角度」と称する場合もある。)に対する割合は、2.5/(360/10)=0.07である。
それゆえ、本実施の形態に係るベーンポンプ1は、起点角度が中央角度よりも回転方向の上流側である場合には、回転角度差が0.07×(360/10(ベーン枚数))度以下に設定されていることを特徴とする。
第1変形例に係るベーンポンプ1は、起点角度と吐出ポートの下流端の回転角度との吐出側回転角度差が、起点角度と吸入ポートの下流端の回転角度との吸入側回転角度差以下であることを特徴とする。言い換えれば、第1変形例に係るベーンポンプ1は、起点角度が、吐出ポートの下流端の回転角度と吸入ポートの下流端の回転角度との中央の回転角度である中央角度と同一又は中央角度よりも回転方向の上流側であることを特徴とする。
上述した実施の形態においては、回転角度毎の距離Lが描く上記凸部の最高点及びその最高点となる回転角度を同一とし、起点角度を異ならせるとともに、起点角度から最高点の回転角度に至る過程の、単位回転角度当りの距離Lの変化量を異ならせている。例えば、起点角度から最高点の回転角度に至る過程の、単位回転角度当りの距離Lの変化量(図6における距離Lの傾斜角度)を、構成A、B、C、D、比較構成の順に小さくしている(図12参照)。しかしながら、実施の形態に係るベーンポンプ1のポンプ室の容積が比較構成のポンプ室の容積よりも早期に大きくなり始めるのであれば、特にかかる態様に限定されない。
図16に示すように、距離Lが描く上記凸部の最高点となる回転角度と起点角度との間の回転角度の内の、最高点となる回転角度側の、例えば約8割を比較構成と同じにし、起点角度側の約2割の回転角度において、第2変形例に係るカムリング内周面42の距離Lが比較構成の距離Lよりも大きくなるように、基端部の曲率半径Rを大きくしても良い。かかる構成においても、比較構成よりも、早期にポンプ室の容積を大きくし始めることができ、比較構成に比べて、ポンプ効率を向上させることが可能となるとともに、逆流に起因して生じる音を抑制することが可能となる。
なお、図16には、起点角度が中央角度と同一である場合を例示している。起点角度が回転方向の上流側に位置するほど、曲率半径Rを大きくすると良い。
Claims (3)
- 10枚のベーンを回転半径方向に移動可能に支持して回転するロータと、
前記ロータの外周面に対向する内周面を有するカムリングと、
を有し、
前記ロータの回転中心から前記カムリングの内周面までの距離が前記ロータの回転角度に応じて変化することで、前記ロータの外周面、前記カムリングの内周面及び前記複数枚のベーンの内の隣接する2枚のベーンにて区画されるポンプ室の容積が前記回転角度に応じて変化することにより、少なくとも前記ポンプ室に作動流体を吸入する吸入工程及び前記ポンプ室から作動流体を吐出する吐出工程に遷移し、前記距離が同じである区間が所定の前記回転角度に亘った後に前記距離が大きくなり始める前記回転角度である起点角度は、吐出ポートにおける下流側の端部が形成された前記回転角度と、吸入ポートにおける上流側の端部が形成された前記回転角度とを等分する角度を中央角度とするとき、前記中央角度に対して回転角度差2.5度以下である
ベーンポンプ装置。 - 前記起点角度は、前記中央角度よりも上流側であって前記回転角度差が0度以上2.5度以下である
請求項1に記載のベーンポンプ装置。 - 前記回転角度差が0度である
請求項2に記載のベーンポンプ装置。
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