以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図1は、チェレンコフ検出器1の構成を示す図である。図2は、チェレンコフ検出器1の一部構成の斜視図である。チェレンコフ検出器1は、輻射体10、光検出器20および信号処理部30を備える。輻射体10は、入射した粒子(例えばγ線)との相互作用によりチェレンコフ光を発生させる。輻射体10は、屈折率が既知であってチェレンコフ効果が生じ得るモノリシックな材料からなる。輻射体10は、シンチレーション光が生じ難い材料であるのが好ましい。輻射体10の材料は、例えば、鉛ガラス(SiO2+PbO)、フッ化鉛(PbF2)、PWO(PbWO4)等である。輻射体10は直方体形状を有するのが好ましい。
光検出器20は、輻射体10で発生したチェレンコフ光を検出する受光面21を有する。光検出器20の受光面21は、直方体形状の輻射体10の一つの面に対向しており、その面と平行である。光検出器20の受光面21は、輻射体10の一つの面に接していてもよい。光検出器20は、受光面21におけるチェレンコフ光検出に基づいて、受光面21上のチェレンコフ光の検出位置(x,y)および検出時刻tを表す信号を出力する。その信号は、チェレンコフ光検出時のパルス出力により、検出時刻tを表すことができる。
光検出器20は、フォトンカウンティング動作をすることができる高速・高感度のものであるのが好適である。光検出器20として例えばマルチアノード光電子増倍管またはMPPC(登録商標)が好適に用いられる。マルチアノード光電子増倍管(multi-anode photo multiplier tube)は、複数の画素として複数のアノードを有し、各アノードの受光量に応じた検出信号を出力することができる。MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)は、ガイガー・モードで動作するアバランシェ・フォトダイオードにクエンチング抵抗が接続されたものを1つの画素として、複数の画素が2次元配列されたものである。これらは高速・高感度の光検出をすることができる。
信号処理部30は、光検出器20から出力される信号を入力する。信号処理部30は、この入力信号を処理することで、輻射体10における相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tに基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体10における相互作用位置(x,y,z)を推定する。なお、x,y,z直交座標系のx軸およびy軸は、光検出器20の受光面21に平行であって、互いに直交している。z軸は、光検出器20の受光面21に垂直である。
信号処理部30は例えばコンピュータにより構成される。信号処理部30は、ニューラルネットワークによる処理をCPU(Central Processing Unit)により行ってもよいが、より高速な処理が可能なDSP(Digital Signal Processor)またはGPU(Graphics Processing Unit)により行うのが好適である。
信号処理部30は、光検出器20から出力される信号に基づいて前処理を行う前処理部31と、前処理部31により前処理が為された後のデータに基づいて相互作用事象毎に相互作用位置を推定する推定部32と、前処理部31および推定部32それぞれによる処理の前、途中および後のデータを記憶する記憶部33とを含む。
前処理部31は、光検出器20から出力される信号に基づいて、各チェレンコフ光検出事象について検出位置(x,y)および検出時刻tを求める。検出時刻tは、入力信号のパルスのタイミングから求めることができる。その後、前処理部31は、各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを含むデータを検出時刻tでソートする。そして、前処理部31は、ソートしたデータのうち一定幅のタイムウィンドウ内のデータを、共通の相互作用事象により生じたチェレンコフ光検出事象のデータであると判断する。
このようにして、前処理部31は、各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを含むデータを相互作用事象毎に区分する。これにより、相互作用事象毎に、受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nならびに各チェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを求めることができる。以下では、1つの相互作用事象により生じたn個のチェレンコフ光検出事象のうち、第mのチェレンコフ光検出事象の検出位置を(xm,ym)と表し、第mのチェレンコフ光検出事象の検出時刻をtmと表す。mは1以上n以下の整数である。検出時刻t1〜tnの間の前後関係はt1<t2<・・・<tn−1<tn である。
また、前処理部31は、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th未満である相互作用事象のデータを破棄して、推定部32は、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th以上である相互作用事象について選択的に相互作用位置を推定するのが好適である。これは、チェレンコフ光検出事象の数nが閾値th未満である相互作用事象の場合、推定部32による相互作用位置の推定の精度が悪いからである。例えば閾値thは3である。
推定部32は、前処理部31により前処理が為された後のデータに基づいて、相互作用事象毎にニューラルネットワークにより相互作用位置(x,y,z)を推定する。ここで用いられるニューラルネットワークは、例えば、多層パーセプトロン(Multi-layer Perceptron、MLP)、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)、再帰型ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network、RNN)等である。
推定部32は、複数のニューラルネットワークを有し、チェレンコフ光検出事象の数nに対応したニューラルネットワークにより相互作用位置を推定してもよい。すなわち、チェレンコフ光検出事象の数がnである相互作用事象については、その数nに対応して設けられたニューラルネットワークにより、相互作用位置を推定してもよい。
ニューラルネットワークとしてMLPまたはCNNが用いられる場合、ニューラルネットワークに入力されるデータの形式としては、例えば図3〜図5に示される態様があり得る。
図3は、ニューラルネットワークに入力されるデータの形式の第1態様を説明する図である。第1態様では、相互作用事象毎に各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻のデータを一次元状に配列した一次元配列データがニューラルネットワークに入力される。この図に示される例では、チェレンコフ光検出事象毎にデータが配列されているが、他の態様も可能である。例えば、x1〜xn,y1〜yn,t1〜tnの順に配列されてもよい。
図4は、ニューラルネットワークに入力されるデータの形式の第2態様を説明する図である。第2態様では、相互作用事象毎に各チェレンコフ光検出事象の検出位置および検出時刻のデータを二次元状に配列した二次元配列データがニューラルネットワークに入力される。この図に示される例では、第mのチェレンコフ光検出事象の検出位置(xm,ym)および検出時刻tmのデータが第m行に配置されている。他の態様も可能である。
図5は、ニューラルネットワークに入力されるデータの形式の第3態様を説明する図である。第3態様では、相互作用事象毎に各チェレンコフ光検出事象の検出位置(xm,ym)に対応する位置に検出時刻tmのデータを有する二次元配列データがニューラルネットワークに入力される。検出時刻tmのデータが配置されない位置のデータは一定値(例えば値0)とされる。
ニューラルネットワークとしてRNNが用いられる場合、例えば、ニューラルネットワークに、最初にx1,y1,t1が入力され、次にx2,y2,t2が入力され、・・・、最後にxn,yn,tnが入力される。
次に、より具体的な構成例について説明する。以下に説明する構成例は、シミュレーションで用いたものである。前処理部31で用いる閾値thを3とする。推定部32で用いるニューラルネットワークは多層パーセプトロン(MLP)である。また、相互作用事象毎にチェレンコフ光検出事象の数nに対応したMLPにより相互作用位置を推定する。
図6は、信号処理部30の推定部32の具体的構成例を示す図である。この推定部32は、判定部35およびMLP363〜36Nを有する。
判定部35は、チェレンコフ光検出事象の数nおよび各チェレンコフ光検出事象のデータxm,ym,tm(m=1〜n)を、前処理部31から受け取る。nは閾値th以上である。判定部35は、nの値を判定して、そのnの値に対応したMLP36nにデータxm,ym,tm(m=1〜n)を入力させる。なお、nがN以上である場合には、判定部35は、データxm,ym,tm(m=1〜n)のうちのデータxm,ym,tm(m=1〜N)をMLP36Nに入力させる。例えばNは7である。
MLP363〜36Nそれぞれは、入力層、出力層および3つの中間層を含む5層構造を有する。MLP363〜36Nそれぞれは、図3に示されたような一次元配列データを入力する。MLP36nは、データxm,ym,tm(m=1〜n)を入力して、相互作用位置(x,y,z)を推定して出力する。
nがN以上である場合に、MLP36Nは、データxm,ym,tm(m=1〜n)のうちのデータxm,ym,tm(m=1〜N)を入力して、相互作用位置(x,y,z)を推定する。これは次の理由による。すなわち、チェレンコフ光検出事象の数nが大きい相互作用事象の発生頻度は小さいことから、大きいnの値に対応するMLPを学習させる為の学習用データの収集は困難である。また、データxm,ym,tm(m=1〜n)のうち、早い時刻に取得されたものほど、相互作用位置についてより正確な情報を持っている。そこで、nがN以上である場合に、1つのMLP36Nを用いることとして学習用データを増やし、データxm,ym,tm(m=1〜n)のうち早い時刻に取得されたデータxm,ym,tm(m=1〜N)をMLP36Nに入力させる。
輻射体10は、PbF2からなり、40×40×10mm3の直方体形状を有する。光検出器20の受光面21は、輻射体10の40×40mm2の面に接している。
シミュレーションではモンテカルロ法を用いた。シミュレーションのソフトウェアとしてGeant4を用いた(非特許文献2参照)。輻射体10の中心位置にx,y,z直交座標系の原点を設定し、輻射体10の40mmの長辺に平行にx座標およびy座標を設定した。輻射体10に入射する粒子をγ線とした。γ線発生源は、z軸上であって、輻射体10の入射面11(光検出器20に対向する面の反対側の面。図2参照)から10mmだけ離れた位置に設定した。γ線発生源からγ線をランダムな方向に放出させた。
光検出器20として、空間分解能および時間分解能の双方が無限小である理想的なものを想定した。輻射体10における相互作用事象に伴って光検出器20においてチェレンコフ光検出事象が生じると、そのチェレンコフ光検出事象の検出位置(x,y)および検出時刻tを記録した。各相互作用事象において最初のチェレンコフ光検出事象の検出時刻t1を0とした。
このようにして収集した多数の相互作用事象についてのデータを用いて、MLP363〜36Nを学習させた。そして、学習後のMLP363〜36Nを用いて、各相互作用事象について相互作用位置(x,y,z)を推定した。
図7および図8は、シミュレーションによる相互作用位置の推定の誤差のヒストグラムである。図7は、xy平面での推定誤差のヒストグラムである。図8は、z軸方向の推定誤差のヒストグラムである。これらの図は、真の相互作用位置から推定された相互作用位置を引いた結果の値をヒストグラム化したものである。これらの図において、横軸は誤差を表し、縦軸は頻度を表す。これらのヒストグラムをローレンツ関数で近似して、そのローレンツ関数の半値全幅(Full Width at Half Maximum、FWHM)を求めた。xy平面での推定誤差のFWHMは0.99mmであり、z軸方向の推定誤差のFWHMは2.19mmであった。
これまでに説明してきたチェレンコフ検出器1の信号処理部30は、輻射体10における相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nおよび各チェレンコフ光検出事象のデータxm,ym,tm(m=1〜n)に基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体10における相互作用位置(x,y,z)を推定するものであった。チェレンコフ検出器1は、輻射体10における相互作用事象毎に、推定した相互作用位置(x,y,z)とともに相互作用時刻を組にして記憶してもよい。
また、チェレンコフ検出器1の信号処理部30は、輻射体10における相互作用事象毎に、光検出器20の受光面21におけるチェレンコフ光検出事象の数nおよび各チェレンコフ光検出事象のデータxm,ym,tm(m=1〜n)に基づいて、ニューラルネットワークにより、輻射体10における相互作用位置(x,y,z)を推定するとともに、輻射体10における相互作用時刻tをも推定してもよい。
図9は、信号処理部30の推定部32の具体的構成の他の例を示す図である。この推定部32は、判定部35およびMLP363〜36Nを有する。図6に示された構成と比較すると、この図9に示される構成では、MLP36nは、輻射体10における相互作用事象毎に、データxm,ym,tm(m=1〜n)を入力して、相互作用位置(x,y,z)を推定して出力することに加え、相互作用時刻tをも推定して出力する点で相違する。
この構成についても上記と同様にしてシミュレーションを行った。MLP363〜36Nの学習に際して用いたデータは、各相互作用事象について、輻射体10における相互作用時刻tと光検出器20の受光面21における各チェレンコフ光検出事象の検出時刻tm(m=1〜n)との間の関係をも含むものであった。すなわち、検出時刻t1〜tnの間の前後関係がt1<t2<・・・<tn−1<tn であるので、相互作用時刻tと検出時刻t1との間の時間差を学習用データに追加した。そして、学習後のMLP363〜36Nを用いて、各相互作用事象について相互作用位置(x,y,z)および相互作用時刻tを推定した。
シミュレーションによる相互作用位置の推定の誤差のヒストグラムは、図7および図8と同様であった。図10は、シミュレーションによる相互作用時刻の推定の誤差のヒストグラムである。この図は、真の相互作用時刻から推定された相互作用時刻を引いた結果の値をヒストグラム化したものである。この図において、横軸は誤差を表し、縦軸は頻度を表す。このヒストグラムをローレンツ関数で近似して、そのローレンツ関数のFWHMを求めた。相互作用時刻の推定誤差のFWHMは12.5psであった。
このように、本実施形態のチェレンコフ検出器は、粒子と輻射体との間の相互作用の事象毎に発生するチェレンコフ光の光子数が少ない場合であっても、相互作用位置を精度よく推定することができる。本実施形態のチェレンコフ検出器は、PET装置およびSPECT装置において十分な空間分解能を有する放射線検出器として用いることができる。
また、本実施形態のチェレンコフ検出器は、相互作用位置だけでなく相互作用時刻をも精度よく推定することができるので、PET装置、プラナー型Positron imaging装置およびSPECT装置において十分な空間分解能および時間分解能を有する放射線検出器として用いることができる。