JP2020012149A - 三次元造形物の製造方法と三次元造形システム - Google Patents

三次元造形物の製造方法と三次元造形システム Download PDF

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Abstract

【課題】造形粉末としてサーメット粉末を用い、密度や硬度などの機械的特性がバルク体に近い造形物を得る三次元造形物の製造方法の提供。【解決手段】タングステン、炭素およびホウ素の少なくとも1つと、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を用意し、目的の三次元形状の造形物の積層造形データを用意し、粉末床溶融結合方式により第1造形物を造形すること、および、前記第1造形物を、不活性雰囲気中で、処理温度Tに加熱して第2造形物を得ること、を含む。ここで処理温度Tは、タングステンの炭化物またはホウ化物と、前記結合金属成分との共晶点をTE℃とし、前記造形用粉体に占める前記結合金属成分の割合をM質量%とするとき、次式:(TE×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(TE×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす。【選択図】図1

Description

本発明は、サーメット粉末を用いた三次元造形物の製造方法と三次元造形システムに関する。
3次元形状の数値表現(典型的には3D CADデータ)をもとに物体を作製する付加製造(Additive manufacturing)技術の一つとして、粉末流動床積層造形法が知られている。この手法では、まず、目的の造形物を複数の薄層に切り分けた状態に対応するスライスデータを用意する。そして粉末の形態の造形用粉体(Additive Manufacturing materials)を薄い層状に敷き詰めた後、造形用粉体をスライスデータに基づいて所定の断面形状に接合または焼結して、断面層を形成する。そしてこの断面層上に、次の断面層を順次一体的に製造してゆくことで、目的の三次元形状を有する造形物を得る。
この付加製造においては、これまで、その扱いやすさから樹脂材料を使用した樹脂製品の造形が広く行われていた。しかしながら、近年では、金属やサーメットを含む粉末材料を用い、成形型を必要とせずに金属やサーメットからなる部材を直接造形することも行われている。ここで、金属やサーメットを含む粉末材料を用いた場合、得られる造形物には気孔が多く含まれてしまうことから、例えば従来の粉末冶金により得られるバルク体に近い造形物を製造することが求められている(特許文献1〜3参照)。例えば、特許文献1には、タングステンカーバイド(WC)系のサーメット粉末を用いた付加造形において、造形後の造形物を焼結させることが開示されている。これにより、焼結後の造形物の密度を、理論密度の50%未満の状態から、90%以上にまで高密度化できることが記載されている。
米国特許出願公開第2016/0375493号明細書 国際公開第2015/162206号明細書 特開2016−172904号明細書
ここで、造形物に要求される特性が、粉末冶金によるバルク体の理論密度に近いこと程度であれば、特許文献1の開示に基づいて造形物に対して焼結処理すればよいといえる。しかしながら、造形物が例えばWC/Coなどの超硬合金からなる機械構造用品のプロトタイプ等であって、理論密度の他に、硬度や靭性等の機械的特性までバルク体の特性を反映することが求められる用途では、特許文献1の開示の手法によって焼結処理しても、適切な特性を備える造形物が得られないことがあった。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、造形粉末としてサーメット粉末を用いたときに、密度のみならず、例えば硬度などの機械的特性もバルク体により近い造形物を得ることができる三次元造形物の製造方法を提供することにある。また、他の側面において、密度のみならず、例えば硬度などの機械的特性もバルク体により近い造形物を得ることができる三次元造形システムを提供する。
特許文献1においては、造形物中の気孔を低減することを目標として、造形物を500℃〜2000℃の不活性雰囲気下で焼結させたり、1MPa〜300MPa、800℃〜2000℃のHIP処理を施すことを開示している。これにより、焼結後の造形物について高いビッカース硬度が得られたり、また、η相[(CoW)C]、WCおよびWC等の炭化物相を実質的に含まない構成とし得ることが開示されている。しかしながら、発明者らの検討によると、粉末床溶融結合方式による三次元造形では、近年では、気孔率の比較的低い造形物を直接的に得ることができる。そしてそのような造形物については、さらなる気孔の低減を目的として特許文献1に開示の焼結処理を施しても、得られる造形物は硬度が高くなりすぎて靭性に劣るものとなりがちであることを知見した。これに対し、造形物に施す熱処理条件をより適切に制御することで、バルク体に近い機械的特性を備える造形物が得られることを見出し、本発明を完成するにいたった。
すなわち、ここに開示される技術は、三次元造形物の製造方法を提供する。この製造方法は、タングステンと、炭素およびホウ素の少なくとも1つと、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を用意すること、目的の三次元形状の造形物を造形するための積層造形データを用意すること、上記造形用粉体を用い、上記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形すること、および、上記第1造形物を、不活性雰囲気中で、タングステンの炭化物またはホウ化物と、上記結合金属成分との共晶点をT℃とし、上記造形用粉体に占める上記結合金属成分の割合の割合をM質量%とするとき、次式:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす処理温度Tに加熱して第2造形物を得ること、を含む。この三次元造形物の製造方法によると、密度のみならず、例えば硬度などの機械的特性もバルク体により近い造形物を得ることができる。
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記加熱時には圧力を加えない。このような構成によると、加圧のための特別な機器等を用意する必要がないために簡便である。また、造形物中の炭化物相を好適に消失させて、WC相と結合金属相とに相分離させることができる。加えて、WC相と結合金属相とを適切に成長させて、造形物の靭性を高めることができる。これにより、粉末冶金法によるバルク体の組織、性状により近い構成を備える造形物を得ることができる。
ここに開示される技術の好ましい一態様において、上記造形用粉体の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である。これにより、粉末床溶融結合方式によって造形物を従来よりも気孔の少ないものとして造形し易くなるために好ましい。
ここに開示される技術の好ましい一態様において、レーザを照射して上記造形用粉体を溶融することで、上記第1造形物を造形する。また、上記第1造形物は樹脂材料を含まないことが好ましい。粉末材料の造形用のエネルギーとしてレーザを使用する場合、他の手法を利用した場合と比較して、粉末材料の溶融後の冷却速度が著しく速い。これにより、造形物は溶融後に急冷されたのと同様の作用をうけ、組織が微細化されたり、クラックが生じたりしやすい。したがって、このような第1造形物に対して上記の熱処理を施すことで、ここに開示される技術の上記の効果がより明瞭に発揮されるために好ましい。なお、このようなレーザ溶融焼結法によると、造形用粉体はバインダ等の樹脂材料を含む必要がないし、また、例え樹脂材料を含んでいてもレーザにより消失されて、第1造形物はバインダを含まないものとなり得る。
他の側面において、ここに開示される技術は、三次元造形システムを提供する。この三次元造形システムは、タングステンと、炭素およびホウ素の少なくとも1つと、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を貯留する粉体貯留部と、積層造形データを記憶する記憶部と、
前記造形用粉体を用い、前記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形する造形部と、上記造形用粉体を用い、前記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形する造形部と、上記粉体貯留部、上記造形部、および上記加熱部を制御する制御装置と、を備える。そして上記制御装置は、上記加熱部に対し、上記第1造形物を次式:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす加熱処理温度Tにて加熱するように制御するように構成されている。なお、式中のTは、タングステンの炭化物またはホウ化物と、前記結合金属成分との共晶点あり、Mは、前記造形用粉体に占める結合金属成分の割合を示す。これにより、上記の三次元造形物の製造方法を好適に実施することができる。
さらに他の側面において、ここに開示される技術は、三次元造形物を提供する。この三次元造形物は、タングステンと炭素およびホウ素の少なくとも1つとを含むセラミック相と、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つを含む結合金属相と、含む。そして以下の手順:上記セラミック相を構成する上記タングステンと、上記セラミック相を構成する上記炭素およびホウ素の少なくとも1つと、上記結合金属相を構成する上記鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を用意すること、目的の三次元形状の造形物を造形するための積層造形データを用意すること、上記造形用粉体を用い、上記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形すること、および、上記第1造形物を、不活性雰囲気中で、タングステンの炭化物またはホウ化物と、前記結合金属成分との共晶点をT℃とし、上記造形用粉体に占める上記結合金属成分の割合をM質量%とするとき、次式:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす処理温度Tに加熱すること;を含む製造方法によって製造されている。これにより、粉末床溶融結合方式による付加造形による三次元造形物でありながら、密度のみならず、例えば硬度などの機械的特性も粉末冶金法等によるバルク体により近い性状を備えるものとして提供される。
なお、ここに開示される第2造形物としての三次元造形物は、粉末床溶融結合方式により造形されてなる第1造形物を、所定の熱処理条件で加熱する、との製造方法に関する技術的特徴によって特定されている。この第2造形物の特徴は、一見したところ、その外形や、セラミックス相の大きさ、機械的特性等によって特定することが可能であるようにも思える。しかしながら、ここに開示される三次元造形物は、三次元造形法によりその外形を任意に設定できるものの、かかる外形は従来の粉末冶金法と切削除去法との組み合わせ手法等によって、手間と隙とをかけて高コストに製造されたものと区別することが困難となる場合があり得る。また、ここに開示される三次元造形物は、三次元造形を含む手法により製造されたものでありながら、そのセラミックス相の大きさや機械的特性を、例えば粉末冶金法等により製造されたバルク体におけるセラミックス相の大きさや機械的特性と明確に区別することが困難となる場合があり得る。すなわち、ここに開示される三次元造形物は、全体としてみた場合、物の構造又は特性によって、直接かつ適切に、特定することが不可能となる場合を含み得る。そして本願の出願のときにおいて、他に、この三次元造形物の特徴を、構造上又は特性上、明確に特定する文言や手法は存在しないといえる。かかる観点において、ここに開示される三次元造形物については、物の構造又は特性によってその物を特定することについて、不可能・非実際的事情が存在するといえる。
図1は、一実施形態にかかる三次元造形システムの構成を示す模式図である。 図2は、各例の造形物の平面視での観察像である。 図3は、例1の造形物の断面空隙率の算出の様子を説明する図である。 図4は、各例の造形物のX線回折分析の結果を示す図である。 図5は、WCとCoとの二元系相図である。
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、本明細書に記載された発明の実施についての教示と当該分野における出願時の技術常識とに基づいて当業者に理解され、実施することができる。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書において、数値範囲を示す「A〜B」は「A以上B以下」を意味する。
(三次元造形物の製造方法)
ここに開示される三次元造形物の製造方法は、以下の工程を含む。
S1.造形用粉体を用意すること
S2.積層造形データを用意すること
S3.粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形すること
S4.第1造形物を加熱して第2造形物を得ること
この三次元造形物の製造方法は、これに限定されるものではないが、ここに開示される三次元造形システムによって好適に実施することができる。図1は、一実施形態に係る三次元造形システムの構成を示す模式図である。三次元造形システム1は、粉体貯留部10と、記憶部20と、造形部30と、加熱部40と、制御装置50とを備える。
ここで制御装置50は、三次元造形を実行するように、粉体貯留部10、造形部30および加熱部40の動作を包括的に制御するように構成されている。なお、制御装置50の構成は特に限定されない。制御装置50は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェアの構成は特に限定されず、例えば、ホストコンピュータなどの外部機器から印刷データ等の各種情報を送受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(central processing unit:CPU)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、プログラムや各種データを格納するメモリなどの記憶装置と、を備えている。また、制御装置50は、例えばFPGA(field-programmable gate array)等の書き換え可能なプログラマブルロジックデバイスによって構成されていてもよい。FPGAは、例えば、集積回路によって構成されるCPUコアや、乗算器、RAM、および関連する周辺回路等を含むことができる。
以下、一実施形態に係る三次元造形システムと併せて、三次元造形物の製造方法の各工程について説明する。
(第一工程)
第一工程では、粉末積層造形に用いるための粉末状の造形用粉体を用意する。この造形用粉体は、三次元造形システム1の粉体貯留部10に貯留される。
造形用粉体は、タングステン(W)と、炭素(C)およびホウ素(B)の少なくとも1つと、結合金属成分と、を含む。結合金属成分は、鉄(Fe)、コバルト(Co)およびニッケル(Ni)のうちの少なくとも1つである。すなわち、この造形用粉体は、造形によりWとCまたはBとが反応して、タングステンと炭素とからなるタングステンカーバイド(WC)と、タングステンとホウ素とからなるホウ化タングステン(WBやWB)の少なくとも1つのセラミックス相を造形物中に含む。また、このセラミック相は、金属成分からなる相と共に、サーメットを構成する。すなわち、この造形用粉体を用いることで、タングステンと炭素およびホウ素の少なくとも1つとを含むセラミック相と、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つを含む結合金属相と、を含むサーメットからなる造形物が造形される。
ここで、造形用粉体において、セラミック相を構成するW、CおよびBは、造形用粉体全体の70質量%以上を占めることが好ましい。このような割合でW系セラミック相を含むサーメットは、超硬合金となることが知られている。これらのセラミック相構成成分が70質量%に満たないと、造形後に形成されるサーメットにおいて、サーメットに特徴的な超硬性が十分に得られないために好ましくない。また、セラミック相構成成分は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が特に好ましい。換言すると、結合金属成分は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。結合金属成分が少なすぎると、セラミック相同士を結合する結合金属の量が少なくなって、脆性の高いサーメットとなりがちであるために好ましくない。これらの各成分は、粉体の形態を有している。各成分は各々が単独で粉体を構成していてもよいし、あるいはいずれか2以上の成分が化合物となって粉体を構成していてもよい。粉体は、主として一次粒子の集合からなる粉体であってもよいし、一次粒子が結合されて二次粒子の形態の粉体であってもよい。造形用粉体は、各成分が保管中および造形中にその均質性を維持するために、二次粒子の形態の粉体であることがより好ましい。これにより、例えば、造形用粉体からなる薄層(粉末床)を用意するために造形用粉体を均したり、流動させたり、造形用粉体を繰り返しリサイクルしても、各成分が密度差等により徐々に分離することを抑制できるために好ましい。
造形用粉体の平均粒子径は特に制限されず、例えば、使用する粉末積層造形装置の規格に適した大きさとすることができる。例えば、造形に際して造形用粉体を流動させて造形用粉体の薄層を形成するのに適した粒径とするとよい。造形用粉体の平均粒子径の上限は、例えば、より大きいものとする場合には、100μm超過とすることができるが、典型的には100μm以下とすることができ、好ましくは75μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは40μm以下とすることができる。造形用粉体は、平均粒子径が小さくなるにつれて、例えば造形エリアにおいて造形用粉体の充填率が向上する点において好ましい。その結果、直接造形される三次元造形物の緻密度を好適に増すことができる。また、造形される三次元造形物の表面粗さ(Ra)を小さくできるとともに、寸法精度を向上させるという効果を得ることもできる。
また、造形用粉体の平均粒子径の下限は、造形用粉体の流動性や取り扱い性に影響を与えない範囲であれば特に制限されない。これに限定されるものではないが、より小さいものとする場合には、平均粒子径は、例えば、10μm以下、5μm以下、さらには1μm以下等とすることができる。しかしながら、二次粒子の形態を有する造形用粉体の場合は、必ずしも平均二次粒子径を小さくする必要はない。したがって、例えば、造形用粉体を形成する際のハンドリングや造形用粉体の流動性を考慮した場合には、平均粒子径の下限を1μm以上とすることができ、5μm以上が適切であり、10μm以上が好ましく、例えば、20μm以上がより好ましい。造形用粉体の平均粒子径が大きくなるにつれて、造形用粉体の流動性が向上し得る。その結果、造形装置への造形用粉体の供給を良好に実施することができ、作製される三次元造形物の仕上がり(造形精度)が良好となるために好ましい。
なお、通常、例えば平均粒子径が10μm未満程度の微細な粉末材料は、粒子形状の制御が困難となり、また、比表面積が増大されるため、流動性が低下し得る。そのため、このような粉末材料を粉末積層造形に用いると、粉末材料の供給の際の平坦化が困難となりがちである。そしてさらに、その質量の小ささから、かかる粉末材料の飛散等が発生し、ハンドリングが困難となり得る。この傾向は、後述の造形工程においてレーザや電子ビームを照射したときに、その反動で造形用粉体が舞い上げられるために特に顕著となり得る。これに対し、造形用粉体が二次粒子で構成されていると、一次粒子の形態は維持しつつも、粒子の重みづけを実現することができる。また、上記のとおり、組成の異なる第1の粉末と第2の粉末とを含んでいても、造形用粉体における成分濃度を均一に保つことができる。これによって、より平均粒子径の小さい一次粒子を用いることによる利点と、より平均粒径の大きな二次粒子を用いることによる利点とを両方兼ね備えることができて好ましい。
なお、造形用粉体が二次粒子の形態を有する場合、一次粒子はバインダによって結合されていてもよいし、バインダ等を含まず焼結等により直接結合されていてもよい。好ましくは、造形用粉体は、バインダレスで二次粒子の形態を有することが好ましい。造形用粉体は、例えば、造粒焼結粒子の集合として構成されている。ここで造粒焼結粒子とは、一次粒子が焼結され、一体となって一つの粒のように振る舞う粒子状物(粒子の体をなしたもの)をいう。そしてここでいう「焼結」とは、一次粒子同士が直接的に結合した状態をいう。したがって、焼結は、固相焼結および液相焼結のいずれであってもよい。また、本明細書でいう焼結は、いわゆる融着,溶融結合を含み得る。粉末積層造形におけるエネルギー源としては、レーザ、電子ビーム、アーク等が汎用されており、これらが造形用粉体に照射されたときには高いエネルギーが解放されて造形用粉体に衝撃が生じ得る。このような衝撃により、バインダにより結合された造粒粒子は崩壊したり、一次粒子が飛散したりする虞がある。このような事態の発生を避けるため、造粒粒子は焼結により個々の一次粒子が結合された、いわゆる造粒焼結粒子として構成されることが好ましい。この造粒焼結粒子は、エネルギー源としてより強度の高いレーザ等を照射された場合であっても、造形用粉体の崩壊および飛散等が生じ難いために好ましい。このことは、造形物の造形精度および品質を損なうことなく、造形速度の高速化に繋がり得る(例えば、レーザ走査速度を速め得る、あるいはレーザ走査速度を低減する必要がない)ために好ましい。
造形用粉体を構成する造粒焼結粒子の顆粒強度(焼結強度)は、1MPaを超えるように規定することができる。これにより、造形のためのエネルギーにより造粒焼結粒子が崩壊したり、飛散したりするのを好適に抑制することができる。その結果、造形エリアへの材料粉末の供給が安定するため、ムラの無い高品質な造形物を造形できるために好ましい。なお、おおよその目安として、例えば、バインダにより造粒一体化された造粒粒子は、顆粒強度が1MPaに満たないと考えることができる。造粒焼結粒子の顆粒強度は、10MPa以上であるのが好ましく、50MPa以上であるのがより好ましく、100MPa以上(例えば200MPa以上)であるのが特に好ましい。しかしながら、発明者らの検討によると、顆粒強度が強すぎると、造形用粉体を十分に溶融させるのが困難となるために好ましくない。また、顆粒強度が強すぎる造粒焼結粒子は、概ね造粒されていない単一粒子と類似した構成となるまで焼結が進行し、球状化した粒子とその性状が似たものとなってしまう。かかる観点から、顆粒強度は10000MPa未満とする。顆粒強度は5000MPa以下であるのが好ましく、2500MPa以下であるのがより好ましく、1000MPa以下(例えば800MPa以下)であるのが特に好ましい。
本明細書において、造形用粉体を構成する造粒焼結粒子の「顆粒強度」は、電磁力負荷方式の圧縮試験機を用いて測定される当該粒子の破壊強度を採用することができる。具体的には、加圧圧子と加圧板との間に一つの造粒焼結粒子を固定し、電磁力により加圧圧子と加圧板との間に一定の増加割合で圧縮の負荷力を与えていく。圧縮は定負荷速度圧縮方式で行い、その際の測定試料の変形量を測定していく。測定した試料の変形特性結果を専用のプログラムで処理することで、強度値(破壊強度)を計算することができる。本明細書においては、造形用粉体を構成する任意の10個以上の造粒焼結粒子について、微小圧縮試験装置(株式会社島津製作所製、MCT−500)を用いて測定した破壊強度の算術平均値を、顆粒強度として採用している。なお、各造粒焼結粒子について、圧縮試験にて得られた臨界荷重をL[N]、平均粒子径をd[mm]としたとき、造粒焼結粒子の破壊強度σ[MPa]は、次式:σ=2.8×L/π/d;で算出される。
このような造形用粉体は、粉体を構成する複数の粒子(典型的には一次粒子である)の間には間隙が存在する。そして個々の一次粒子間には間隙が形成され、一次粒子は互いに3次元的に結合される。これによって、造形用粉体はエネルギー源(熱源)からエネルギーを受け取りやすく、溶解しやすいという利点がある。その結果、二次粒子間の間隙は容易に消失されて、例えば鋳型を使用して製造する焼結体(バルク体)に近い、緻密性の高い高硬度な造形物を得ることができる。
一方で、ここに開示される造形用粉体において、二次粒子を構成する一次粒子の平均粒子径は、例えば、20μm以下(20μm未満)であることが好ましく、10μm以下(10μm未満)であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。また、二次粒子の形態の造形用粉体を作成するために用いる原料粉末の平均粒子径は、例えば、1nm以上とすることができ、200nm以上であることがより好ましく、例えば500nm以上とすることができる。原料粉末の平均粒子径は、10μm以下(10μm未満)であることがより好ましく、例えば10μm以下とすることができる。このように一次粒子の平均粒子径を微細にすることで、より一層緻密で微細な三次元造形物を作製することが可能となる。
(第二工程)
第二工程では、目的の三次元形状の造形物を造形するための積層造形データを用意する。積層造形データは、造形対象物を複数の層にスライスしたときの各断面層における断面画像についての三次元データである。積層造形データは、例えば、造形対象物の立体形状を3D CADソフトウェアや3D CGソフトウェア等を用いて作製し、これをSTL(Standard Triangulated Language)形式に変換したものである。積層造形データの用意については、従来技術と同様であってよく、ここに開示される技術を何ら特徴づけないため、更なる詳細な説明は省略する。この積層造形データは、三次元造形システム1の記憶部20に記憶される。
(第三工程)
第三工程では、原料として用意した造形用粉体を用い、積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式(Part Bed Fusion:PBF)によって第1造形物を造形する。
なお、三次元造形システム1の粉体貯留部10は、貯留槽12と、貯留槽12の底部を構成し昇降可能に構成されている昇降テーブル14と、リコータ16とを備えている。粉体貯留部10の側方には、造形部30が備えられている。造形部30は、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形するワーキングエリアである。造形部30は、造形槽32と、造形槽32の底部を構成し昇降可能に構成されている昇降テーブル34と、熱源としてのレーザ発生装置36とを備えている。昇降テーブル34は、例えば、造形物を載置、支持する、造形テーブルとしての役割を併せ持つ。貯留槽12と造形槽32との上端は概ね面一である。貯留槽12および造形槽32に渡し架けるようにリコータ16が配置されている。造形部30は、不活性雰囲気中での造形が可能なように構成されている。以下の造形は、例えば、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で好適に実施することができる。
ここで、粉末床溶融結合方式の三次元造形方法では、まず、造形用粉体を薄い薄層状に形成して粉末床を用意する。
図1に示すように昇降テーブル14が下方に下げられていることで、粉体貯留部10に収容できる造形用粉体2の貯蔵量が増大される。また、貯留槽12に造形用粉体2を収容した状態で昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ上昇させることで、貯留槽12から所定量の造形用粉体2を押し出すことができる。造形部30では、昇降テーブル34を所定厚みΔt2だけ上端から下げることで、所定厚みΔt2で造形用粉体2を収容することができる。三次元造形システム1では、貯留槽12から造形用粉体2を押し出した状態で、リコータ16を貯留槽12および造形槽32の上を通過するように、貯留槽12の端部から、造形槽32の反対側の端部まで移動させる。このことにより、貯留槽12から押し出された造形用粉体2を造形槽32に移動させるとともに、造形槽32に敷き詰めることができる。また造形槽32に供給された造形用粉体2の表面にリコータ16を走査させることで、造形用粉体2の上面を平坦化して、均質な造形用粉体20の薄層を形成することができる。これにより、所定の厚みΔt2の造形用粉体20の層(粉末床)を用意することができる。また、リコータ16で均された造形用粉体2の上面が、造形面となる。
次に、粉末床に対し、用意した積層造形データに基づいてレーザや電子ビームなどのエネルギー線を照射する。
三次元造形システム1において、レーザ発生装置36は、記憶部に記憶された積層造形データに基づいて、レーザ光を発振するとともに、光学系によって粉末床の所定の位置にレーザ光を照射する。これにより、造形用粉体を所定の断面形状に溶融させ、その後の放冷によって断面形状に粉末を結合させる。その結果、例えば第1層目の断面層を形成することができる。粉末床溶融結合方式の三次元造形方法には、いわゆるレーザ焼結法、レーザ選択焼結(Selective Laser Sintering:SLS)法、電子ビーム焼結法等と呼ばれるものが包含される。なお、より高密度なエネルギーを供給できるとの観点から、エネルギー源としてはレーザを用いることが好ましい。レーザの種類は特に制限されず、例えば、エキシマレーザ(308nm)、He−Cdレーザ(325nm)、Arレーザ(351〜346nm)、炭酸ガスレーザ(COレーザ、9.4〜10.6μm)、YAGレーザ、ファイバーレーザ(1030〜1070nm)等であってよい。
レーザ光は、必ずしもこれに限定されるものではないが、出力が50W以上であることが好ましく、100W以上がより好ましく、200W以上が特に好ましく、例えば500W以上であってよい。出力の上限については限定されず、一例として10kW程度であってよく、1kW以下等としてもよい。またレーザ光のスポット径は、500μm以下程度であってよく、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下が特に好ましく、例えば20μm以下であってよい。スポット径の下限は、レーザ収束能と造形速度との兼ね合いで決定することができ、例えば0.5μm程度であってよい。
引き続き、昇降テーブル14を所定厚みΔt1だけ上げて再度造形用粉体2を押出し、昇降テーブル34を所定厚みΔt2だけ下げて造形槽32に造形用粉体2の収容スペースを設ける。そして、貯留槽12から造形用粉体2を押し出した状態で、リコータ16を貯留槽12および造形槽32の上を通過するように、貯留槽12の端部から、造形槽32の反対側の端部まで移動させる。これにより、押し出された造形用粉体2を新たに造形槽32に供給することができる。また、造形用粉体2をリコータ16で均すことで第2層目の粉末床を形成する。
そして2層目の粉末床に対し、用意した積層造形データに基づいてレーザや電子ビームなどのエネルギー線を照射する。このとき、第2層目の粉末床は溶融し、下層である第1層目の断面層等と一体化した状態で固化し、第2層目の断面層を造形する。このようにして、造形した断面層上に、再び造形用粉体の粉末床を用意し、次の断面層を一体的に形成する。このことを繰り返すことにより、目的の第1造形物を得ることができる。
なお、造形用粉体が金属材料を含み、レーザを用いた粉末床溶融結合方式の三次元造形方法を行う場合においては、レーザにより粉末床が瞬時に高温に溶融される。造形用粉体の加熱温度は、例えば、1500℃以上、条件によっては3000℃以上まで達し得る。これにより、造形用粉体は溶融し、溶融部の表面は粉末床一層分の厚み(積層ピッチ)の大凡半分程度の高さにまで沈下する。このことにより、溶融した造形用材料の充填率は相対的に高い値(例えば80%程度)となる。ここで、溶融した粉末が再凝固する際の冷却速度は非常に速い。冷却速度は、例えば、1000℃/秒を上回る。その結果、歪みの少ない第1造形物を得ることができるという反面、第1造形物において組織の微細化が生じ得る。例えば、造形用粉体は溶融された後に急冷されて、セラミック相と結合金属相とを含む組織が形成される。ここで、各相は微細であり、またセラミック相と結合金属相との界面には、相分離しきれずに残留したη相(例えば、CoC)や、WCおよびWC等の炭化物相が析出し得る。これらの析出相は、硬質であるために第1造形物の硬度を高めるが、その反面脆いために第1造形物の靭性を低下させる。また、床溶融結合方式の三次元造形方法、とりわけSLS法では冷却速度が非常に速いことから、第1造形物は気泡を残留させやすい傾向があり、また熱膨張係数の変化に追随できずにクラックを生じ得る。そのため、この第1造形物は、例えば、粉末冶金法により作製される造形物と機械的物性が異なっており、機械構造用部材のプロトタイプ等としては十分であるとはいえない。この傾向は、第1造形物が比較的疎な場合、例えばアンダーカット部や空洞部等を含み冷却効果の高いデザインの場合により顕著となり得る。
(第四工程)
そこで、第四工程では、第1造形物を、不活性雰囲気中で処理温度Tに加熱して、第2造形物を得る。これにより、ここに開示される三次元造形物としての第2造形物を製造することができる。ここで、処理温度Tは、タングステンの炭化物またはホウ化物と、結合金属成分との共晶点T(℃)と、造形用粉体に占める結合金属成分の割合M(質量%)とに基づいて、次式を満たすように設定される温度である:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100))。
加熱温度が第2造形物に与える影響について、例えばWCとCoとからなるサーメットによる造形物を作成する場合を例にして説明する。図5は、WCとCoとのWC−Co二元系相図である。図5に示されるように、WCセラミック相と金属Co相との共晶点Tは、Co量に関わらず1320℃で一定であることが知られている。ここに開示される技術において、第1造形物の加熱温度Tは、この共晶点Tよりも高い温度に設定される。ここで、相図からも明らかなように、共晶点T以上の温度においてWC/Co系には液相が存在するために、かかる液相はクラックや気孔に浸透してクラックおよび気孔の低減や緻密化に寄与し得る。また、共晶点T以下の温度では、第1造形物は、Coの含有量によってγ単相か(γ+WC)の混相が安定相であることがわかる。したがって、相図からは、WC−Co系の第1造形物は、共晶点T以上の温度に加熱したのち冷却して第2造形物となったときには、η相や上記炭化物相が、WC相とCo層とに相分離して消失することが理解できる。しかしながら、本発明者らの検討によると、第1造形物を単に共晶点Tに加熱したり、単にη相や上記炭化物相を消失させることのみでは、バルク体によく類似する機械的特性を示す第2造形物を得ることはできない。バルク体によく類似する機械的特性を示す第2造形物を得るには、例えば、第2造形物においてWC相をある程度大きく成長させることが極めて好適である。また、WC相をある程度大きく成長させるには、第1造形物を、上記処理温度Tに加熱することが極めて有効である。しかしながら、高すぎる温度への加熱は却ってWC相の過剰な粗大化を招き、却って高度を低下させる要因となり得るために好ましくない。かかる観点から、数々の組成データに基づいて上記式が規定され、処理温度Tのとりうる範囲が定められている。
なお、上記処理温度Tにおける加熱時間は、第1造形物の形状や寸法等にもよるために一概には言えないが、たとえば、30分間以上程度、好ましくは1時間以上程度、例えば2時間以上程度とすることができる。加熱時間の上限についても同様に条件によるものの、例えば5時間以下程度が適当であり、4時間以下としてもよい。
なお、三次元造形システム1においては、加熱部40によって第1造形物を不活性雰囲気中で加熱する。制御装置50は、加熱部40が、第1造形物を上式を満たす加熱処理温度Tにて加熱するように、その作動を制御する。加熱部40による加熱は、上式の上限を超える高すぎる加熱処理温度で行うと、上述のように、第2造形物に超硬性が十分に得られない虞があるために好ましくない。加熱部40による加熱は、上式の下限を下回る低い加熱処理温度で行うと、上述のように、η相が消失してもWC相やCo相が適切に成長しないために好ましくない。そのため、制御装置50は、加熱部40による加熱が上記所定の条件を満たすように、加熱部40の運転を制御する。
加熱部40は、加熱雰囲気の制御が可能な電気炉であってよい。加熱部40は、例えば電気炉と、炉内の温度を検知することができる温度センサと、電気炉における加熱のオン・オフを制御するサーモスタットとを備えている。制御装置50は、温度センサとサーモスタットとに電気的に接続されている。制御装置50は、例えば、温度センサによって炉内の温度を随時モニタリングする。そして炉内の温度が上記処理温度Tを満たすようになると、制御装置50は、電気炉の運転を停止するか、運転出力を低下させる。その後も、制御装置50は、例えば、温度センサによって炉内の温度を随時モニタリングする。そして炉内の温度が上記処理温度Tを満たすようになると、制御装置50は、電気炉の運転を停止するか、運転出力を低下させる。そして、制御装置50は、例えば、炉内の温度が上記処理温度Tの上限を超過しそうになった場合は、炉内に多量の不活性ガスを導入して炉内をクーリングする。不活性ガスの導入量は、炉内の温度が処理温度Tの下限を下回らない程度の量である。かかる不活性ガスの導入量は、あらかじめ、加熱部40の容量と保温性能などを華南して実験的に確認することができる。加熱処理後の造形物は、例えば炉冷条件にて冷却するとよい。
なお、上記実施形態では、例えば、三次元造形システム1の粉体貯留部10を造形部30の側方に設置し、貯留槽12に貯留した造形用粉体2を昇降テーブル14で押し出すことで、造形部30に供給するようにしていた。しかしながら、粉体貯留部10の構成はこれに限定されない。粉体貯留部10は、例えば、造形部30よりも鉛直方向の上方に設置され、貯留している造形用粉体2を粉体貯留部10から重力落下させることで造形部30に供給するように構成されていてもよい。このとき、粉体貯留部10は、貯留槽30の上方を水平方向に移動可能に構成されていてもよい。
<実施例>
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
(例1)
造形用粉末として、粒度が−20+5μm(ふるい開き目20μm通過、5μm不通過)のタングステンカーバイドを含有する顆粒粉末(W1152)を用いた。この粉末組成は、WC/30%Coである。そして、3D Systems社製の金属焼結方式の三次元造形用プリンタProX200を使用し、レーザ出力:255W、走査速度:300mm/s、ピッチ幅:0.1mm、積層厚さ:0.03mmの造形条件で造形することで、1cm×3cmの寸法の板状の造形物を造形した。これにより得られた造形物を、例1の造形物とした。
(例2)
次に、例1の造形物に対して異なる二通りの熱処理を施した。一つ目の熱処理は、例1の造形物を電気炉にて、Ar雰囲気下、昇温速度200℃/hで1350℃まで加熱し、2.5時間保持したのち、炉冷(ヒータの電源OFF)により冷却するものである。これにより得られた造形物を、例2の造形物とした。
(例3)
二つ目の熱処理は、例1の造形物を電気炉にて、Ar雰囲気下、昇温速度200℃/hで1400℃まで加熱し、2.5時間保持したのち、炉冷(ヒータの電源OFF)により冷却するものである。これにより得られた造形物を、例3の造形物とした。
例1〜3の造形物の平面視による観察像を、図2に示した。図2に示すように、これらの造形物は、外観ではさほど変化が見られないことがわかった。
[断面観察]
そこで、例1〜3の造形物の断面をマイクロスコープを用いて(A)50倍、(B)200倍の倍率で観察し、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000N)を用いて1000倍の倍率で観察した。その結果を、下記の表1に示した。なお、本明細書における造形物の断面についての観察は、定法に従い、各例の造形物の評価用試料を樹脂に埋設し、断面だしを行うことにより実施した。
[ビッカース硬度]
また、例1〜3の造形物の断面を鏡面研磨し、かかる断面におけるビッカース硬度をJIS Z2244:2009に準じて測定した。ビッカース硬度の測定は、硬微小硬度測定器(株式会社島津製作所製、HMV−1)を用い、対面角136°のダイヤモンド圧子を試験力0.2kgf(1.96N)、保持時間を10秒間で押圧したときに得られる圧痕から、ビッカース硬さを算出した。ビッカース硬さの測定は6点について実施し、その算術平均値をビッカース硬さ(Hv0.2)とした。得られた結果を、下記の表1に示した。
[断面空隙率]
例1〜3の造形物の断面を鏡面研磨し、断面観察像を画像解析することにより断面に占める空隙の面積率(=空隙面積÷全体面積×100)を算出し、断面空隙率をとした。画像における空隙部分の抽出は、倍率50倍の断面画像について、二値化処理を行うことにより実施した。画像解析ソフトとしては、Image−Pro(Media Cybernetics社製)を使用した。得られた断面空隙率を、下記の表1に示した。参考のために、例1の造形物について、画像解析により断面の空隙部分を抽出した結果を図3に示した。
[XRD]
例1〜3の造形物の断面を鏡面研磨し、かかる断面についてX線回折(XRD)分析を実施した。その結果を図4に示した。
表1のマイクロスコープによる断面観察像に示されるように、例1および例2の造形物には、微細なクラックや気孔が多数存在することが確認できた。これに対し、例3の造形物については、微細なクラックが概ね消失し、気孔についてもその数が大幅に減少していることが確認できた。また、SEMによる断面観察像から、例1および例2の造形物は、クラックや気孔が目立つことのほかに、比較的微細な組織を有しているが、例3の造形物においては、四角または三角形のWC相が有意に発達しており、そしてこのWC相の周囲をCo相が隙間なく埋めて良好なサーメット組織を形成していることが確認できた。
各例の造形物の硬度は、造形したままの例1の造形物が最も高く、熱処理をした例2および例3では硬度が低下するとともに、例2と例3とでは熱処理温度が高い例3のほうが硬度がより低くなるという結果であった。これは、図4のXRDパターンからも明らかなように、造形したままの例1の造形物には、クラックや気孔がたくさん見られるものの、硬質なη相や炭化物相が含まれていることによるものと考えられる。しかしながら、このような造形物は、靭性が低いことが懸念される。
一方、例2の造形物は、共晶点以上の温度で熱処理を施していることから、図4に示されるように、例1で見られたη相や炭化物相は消失している。その結果、例1の造形物と比較して、硬度が低下したものと考えられる。ただし、例2の造形物は、WC相が極めて微細化していることから、比較的高い硬度が得られているものの、表1のマイクロスコープによる断面観察像に示されるように、大きなクラックや気孔がいくつか残存している。そのため、例2の造形物の靭性は低くなってしまう。このことから、造形後の造形物に熱処理を施す場合、たとえ共晶点以上の温度に加熱したとしても、適切な温度域での熱処理でない場合はバルク物性に近づけることが困難であることがわかった。
これに対し、例3の造形物は、ここに開示される温度条件での熱処理を施している。その結果、マイクロスコープ観察像とSEM観察像との両方においてクラックがほぼ消失し、気孔の数も大幅に低減されていることがわかった。断面気孔率は0.5%と、例1〜3のうちで極めて低く、緻密な造形体が得られたことがわかった。また、組織ではWC相が粗大に成長しており、これにより例3の造形物は、硬度がやや低下してしまうものの、靭性が高く、従来の粉末冶金法によって得られるバルク体に近い性状を備え得ることがわかった。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 三次元造形システム
10 粉体貯留部
20 記憶部
30 造形部
40 加熱部
50 制御装置

Claims (6)

  1. タングステンと、炭素およびホウ素の少なくとも1つと、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を用意すること、
    目的の三次元形状の造形物を造形するための積層造形データを用意すること、
    前記造形用粉体を用い、前記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形すること、および、
    前記第1造形物を、不活性雰囲気中で、タングステンの炭化物またはホウ化物と、前記結合金属成分との共晶点をTE℃とし、前記造形用粉体に占める結合金属成分の割合をM質量%とするとき、次式:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす処理温度Tに加熱して第2造形物を得ること、
    を含む、三次元造形物の製造方法。
  2. 前記加熱時には圧力を加えない、請求項1に記載の三次元造形物の製造方法。
  3. 前記造形用粉体の平均粒子径は、1μm以上100μm以下である、請求項1または2に記載の三次元造形物の製造方法。
  4. 電子ビームを照射して前記造形用粉体を溶融することで、前記第1造形物を造形する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
  5. 前記第1造形物は樹脂材料を含まない、請求項1〜4のいずれか1項に記載の三次元造形物の製造方法。
  6. タングステンと、炭素およびホウ素の少なくとも1つと、鉄、コバルトおよびニッケルから選択される少なくとも1つの結合金属成分と、を含む造形用粉体を貯留する粉体貯留部と、
    積層造形データを記憶する記憶部と、
    前記造形用粉体を用い、前記積層造形データにしたがって、粉末床溶融結合方式によって第1造形物を造形する造形部と、
    前記第1造形物を、不活性雰囲気中で加熱して第2造形物を得る加熱部と、
    前記粉体貯留部、前記造形部、および前記加熱部を制御する制御装置と、を備え、
    前記制御装置は、前記加熱部に対し、前記第1造形物を次式:(T×(1.04+0.04×(45−M)/100))<T≦(T×(1.09+0.1×(45−M)/100));を満たす加熱処理温度Tにて加熱するように制御する、ここで、式中のTは、タングステンの炭化物またはホウ化物と、前記結合金属成分との共晶点あり、Mは、前記造形用粉体に占める前記結合金属成分割合を示す、三次元造形システム。
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