本発明は、緑内障を処置するためのシステムおよびプロセスに関する。より具体的には、本発明は、無害で、それでも治療的な、真の閾値以下の光凝固を生成する予め決められたパラメーターを用いて緑内障に対する神経保護治療を提供するためのシステムおよびプロセスに関する。
網膜のレーザー治療が、レーザーに誘起された網膜損傷を引き起こさないが、少なくとも従来の網膜の光凝固と同じくらい有効であるという、発明者の発見は、従来の考えおよび慣行に反するものである。従来の考えは、医師が、治療上有効な処置に対する前提条件として網膜損傷を故意に作り出すことを想定している。
図2を参照すると、A−Dは、網膜血管疾患のための様々な様式の網膜のレーザー治療の実効表面積のグラフィック図である。灰色の背景は、レーザー治療による影響を受けない網膜18を表わす。黒色の領域24は、従来のレーザー技術によって破壊される網膜の領域である。薄灰色または白色の領域26は、レーザーによる影響を受けるが、破壊されない網膜の領域を表わす。
図2のAは、従来のアルゴンレーザーの網膜光凝固の治療効果を例示する。レーザーで誘起された熱による網膜の破壊に起因する治療効果は、代謝要求の減少、罹患した網膜の減量、眼内の酸素分圧の増大、および血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を含む血管作動性サイトカインの超産生を含む。
図2のBを参照すると、従来のレーザー火傷の燃焼強度の増大が示される。焼かれた且つ損傷した組織領域24がより大きく、その結果、加熱されたが損傷されていない周囲組織26のより大きな「ハロー効果」がもたらされることが理解される。実験室での研究は、燃焼強度の増加が、治療効果の増強に関連付けられているが、機能的な網膜の喪失および炎症の増加によって妨げられることを示している。しかしながら、図2のCを参照すると、従来のアルゴンレーザーの光凝固の強度が低下するときに、レーザーによる影響を受けたが破壊されていない網膜の領域26も縮小され、これは、図2のBで例示されるように、より高い強度/より高い密度での処置と比較して、より低い強度/より低い密度または「軽度の」アルゴンレーザーグリッドの光凝固からの劣った臨床結果を説明し得る。
図2のDを参照すると、選択的な網膜治療として知られている短パルス連続波レーザーの光凝固を用いる低フルエンスの光凝固は、レーザーによる影響を受けたが破壊されていない網膜の領域が最小から存在しない程度まで、レーザーの光熱組織効果の最小の光学的な及び水平の広がりをもたらすことが分かった。したがって、直接処置された網膜18の損傷または完全な切除にもかかわらず、治療上影響を受けた及び残存する組織の縁部は不足しているか又はかまたは欠損している。これは、糖尿病性網膜症のためのPASCALに対する従来のアルゴンレーザーの光凝固の優位性を発見している最近のレポートを説明するものである。
しかしながら、本発明者は、そのような熱的網膜の損傷が不必要であることを示しており、それが従来のレーザー療法の有益性を説明しているかどうかを疑問視している。代わりに、本発明者は、従来の光凝固によって誘発された網膜色素上皮(RPE)サイトカイン産生における治療上の変化は、図2において参照符号26で言及される、レーザー露光による影響を受けたが死滅されていない、従来のレーザーやけどの残存部で細胞から生じることを推測した。
図3のAは、時に閾値以下のダイオードマイクロパルスレーザー治療(SDM)として本明細書で言及される、本発明に従うマイクロパルスのダイオードレーザーなどの、低強度および低密度のレーザーの使用を表わす。これは、目に見える火傷領域32なしで、参照符号28によって典型的な目的のためにグラフで示された、「真の」閾値以下の又は目に見えない網膜の光凝固を作り出す。レーザー照射にさらされた網膜色素上皮18の領域はすべて保護されており、治療上寄与することができる。
時に本発明の「真の閾値以下」と呼ばれる、閾値以下の網膜の光凝固は、処置の時間に生体顕微鏡で目に見えない網膜のレーザー適用として定義される。用語「閾値以下」は、広く様々な程度のレーザーに誘起された熱的網膜損傷を反映する幾つかの異なる臨床シナリオについて記載するために当該技術分野でしばしば使用されている。用語「閾値以下」の使用は、本発明が具体化する真に目に見えない光線療法または真の閾値以下の光凝固に対する網膜血管疾患のための強度が低下した光凝固の一般的な用法および歴史的且つ形態学的な進化を反映する3つのカテゴリーに分類される。
光凝固に対する「古典的な閾値以下」は、従来の連続的なアルゴン、クリプトン、およびダイオードのレーザーを使用して、レーザー強度の低下での初期の試みについて記載している。網膜火傷は、顕著なことに、従来の「閾値」ほど明白ではなかった(外側網膜に制限された光凝固であり、それ故、処置の時間にそれほど目に見えない)か、あるいはさらに軽度の「閾値上」であった(処置の時間に容易に目に見える全層の網膜の光凝固)が、「古典的な」閾値以下の光凝固の病変は、処置の時間およびその後に、臨床的に及び蛍光眼底造影法(FFA)によって一様に目に見えた。
「臨床的な閾値以下」の光凝固は、レーザーに誘起された網膜損傷の低下の進化の次の出現について記載し、損傷を外側網膜および網膜色素沈着上皮に制限する、マイクロパルスレーザーまたは短パルス持続波レーザーのいずれかを使用する、低強度であるが永続的に損傷させる網膜の光凝固について説明している。「臨床的な」閾値以下の光凝固では、レーザー病変は実際に処置の時間に検眼鏡で目に見えないかもしれないが、レーザーに誘起された網膜損傷が処置の意図したポイントにとどまるため、一般に時間とともにますます臨床的に目に見えるようになるレーザー病変が生成され、すべてでないにしても、多くのレーザー病変が、処置の時間およびその後に、FFA、眼底の自己蛍光撮影(FAF)、及び/又はスペクトルドメイン(SD)の光コヒーレンストモグラフィー(OCT)によって見られ得る。
本発明の結果としての「真の」閾値以下の光凝固は目に見えず、FFA、FAF、またはさらにSD−OCTなどの他の既知の手段によって識別できないレーザー治療を含む。
それ故、「真の閾値以下」の光凝固は、検出の既知の手段によって処置の時間またはその後の時間にあらゆる手段によって検出可能な網膜損傷を絶対に生成しないレーザー治療として定義される。そのため、図3のAおよびBは、病変および他の組織の損傷および破壊のない状態の、「真の」目に見えない閾値以下の光凝固の結果を図式で表わしている。
「真の」閾値以下または「低強度」の有効な光凝固を達成するために、様々なパラメーターが決定されている。これらは、有効な処置の網膜のレーザー露光を生成する十分なパワーを提供することを含むが、組織の損傷または破壊を作り出すには高すぎる。真の閾値以下のレーザー適用は、単独で適用され得るか、あるいは熱蓄積を最小限にするが、均一の熱分布を保証することに加えて低いデューティーサイクルの使用などによって熱放散を最大限にするためのあらゆるサイズおよび構成の幾何学的なオブジェクトまたはパターンを作り出すように適用され得る。本発明者は、治療上有効である且つ無害な真の閾値以下の網膜のレーザー治療を達成する方法を発見した。本発明者はまた、網膜表面への集密的な且つ近接した真の閾値以下のレーザー適用の配置が、有害な又は網膜の損傷なしで処置の治療効果を改善し、最大限にすることも発見した。
米国規格協会(ANSI)は、理論的および経験的なデータの組み合わせに基づいた安全な作業スペースでのレーザー露光に対する基準を開発した。「最大許容露光量」(MPE)は、生物学的作用を生むと期待されるレーザー露光レベルのおよそ1/10で設定された、安全レベルである。1倍(times)のMPEのレーザー露光レベルで、絶対的な安全性が予測され、このレベルでのレーザー放射の網膜露光が生物学的影響を有さないことが予測されるだろう。ANSIデータに基づいて、かろうじて目に見える(閾値)網膜火傷を患うリスクの50%が、一般に、従来の連続波レーザー露光に対して10倍のMPEに遭遇する。同じパワーの低デューティーサイクルのマイクロパルスレーザー露光について、閾値の網膜火傷のリスクは、およそ100倍のMPEである。したがって、低デューティーサイクルのマイクロパルスレーザー照射のための治療域、即ち、まったく何もしない状態と閾値の網膜火傷をもたらす50%の可能性との間隔は、同じエネルギーでの連続波レーザー照射に対する治療域よりも10倍広い。低デューティーサイクルのマイクロパルスダイオードレーザーを使用する安全且つ有効なサ閾値以下の光凝固が、近赤外の810nmのダイオードレーザーに対する47倍のMPEでの網膜への好ましいレーザー露光などを有して、18倍から55倍の間のMPEであると判定された。このレベルで、本発明者は、いかなる網膜損傷もなく治療有効性があることを観察した。
1平方センチメートル当たり100ワットから590ワットの間の低デューティーサイクルの810nmのレーザービームの強度またはパワーが、有効である上、安全であることが分かった。レーザー光ビームの特に好ましい強度またはパワーは、810nmのマイクロパルスダイオードレーザーに対して1平方センチメートル当たりおよそ250−350ワットである。
現在のマイクロパルスダイオードレーザーにおけるパワー制限には、かなり長い露光持続期間が必要とされる。レーザー露光が長ければ長いほど、レーザースポットの残存部での露光されていない組織への及び基礎的な脈絡毛細管へのセンタースポットでの放熱性がより重要となる。したがって、810nmのダイオードレーザーの放射ビームは、500ミリ秒以下、および好ましくはおよそ100−300ミリ秒の露光エンベロープ持続時間を有するべきである。もちろん、マイクロパルスダイオードレーザーがより強力になった場合、露光持続期間はそれにしたがって短縮される。露光エンベロープ持続時間が、マイクロパルスレーザービームが網膜の同じスポットまたは位置に露光される時間の持続時間であるが、レーザーに対する組織の露光の実時間は、レーザー光パルスの持続時間が1ミリ秒未満、および典型的には50マイクロ秒から100マイクロ秒の間であるように、はるかにより短いことが理解される。
本発明に従う目に見えない光線療法または真の閾値以下の光凝固は、532nmから1300nmの範囲などの、様々なレーザー光波長で実行することができる。異なる波長の使用は、網膜組織が損傷されず、それでも治療効果が達成されるために、レーザー光ビームの好ましい強度またはパワーおよび露光エンベロープ持続時間に影響を与え得る。
本発明の別のパラメーターは、デューティーサイクル(一連のマイクロパルスの周波数、または連続するパルス間の熱緩和時間の長さ)である。同様のMPEレベルでの同様の放射照度でマイクロパルスレーザーを伝送するように調節された10%以上のデューティーサイクルの使用が、特により濃い眼底において致死的な細胞損傷のリスクを著しく増大させることが分かった。しかしながら、10%未満のデューティーサイクル、および好ましくはおよそ5%以下のデューティーサイクルは、生物学的反応を刺激するためのRPE細胞のレベルでの十分な熱上昇および処置を実証したが、濃く染色された眼底においてさえ、致死的な細胞傷害をもたらすと予測されるレベル以下のままであった。さらに、デューティーサイクルが5%未満である場合、幾つかの実例における露光エンベロープ持続時間は、500ミリ秒を超え得る。
特に好ましい実施形態では、小さな網膜のレーザースポットが使用される。これは、より大きなスポットが、大きな網膜のレーザースポット内の不均一な熱分布および不十分な熱放散に起因し得るという事実が原因であり、これは、より大きなレーザースポットの中心への組織損傷または組織破壊さえ引き起こす可能性がある。この用途において、「小さな」は、概して直径3mm未満の網膜スポットに当てはまる。しかしながら、網膜スポットが小さければ小さいほど、熱放散および均一なエネルギー応用がより理想的なものとなる。したがって、上に記載されるパワー強度および露光持続時間では、直径が25−300マイクロメートルなどの、小さなスポット、あるいは小さな幾何学的ラインまたは他のオブジェクトが、組織損傷を回避するべく均一な熱分布および熱放散を最大限にするために好まれる。
したがって、以下の重要なパラメーターが、本発明に従って、無害な「真の」閾値以下の光凝固を作り出すために発見された:a)少なくとも532nm、および好ましくは532nmから1300nmの間の波長を有する光ビーム;b)10%未満(および好ましくは5%以下)などの、低いデューティーサイクル;c)蓄熱を最小限にするための、および熱放散を最大限にするように、与えられたレーザースポット内の均一の熱分布を確かなものとするための、小さなスポットサイズ;d)7℃から14℃のRPE温度上昇をもたらす18倍から55倍の間のMPEの網膜のレーザー露光をもたらすのに十分なパワー;および100−590W/cm2の間の網膜の放射照度。
先のパラメーターを使用して、従来の光凝固の光線療法の恩恵をもたらすが、従来の光線療法の欠点および複雑化を回避すると分かった、無害であるが、それでも「真の」閾値以下の又は目に見えない光凝固の光線療法での処置が達成され得る。実際、本発明に従う「真の」閾値以下の光凝固の光線療法によって、医師は、図3のBなどに示されるように、「低強度/高密度」の光線療法を適用し、視力喪失または他の損傷をもたらすことなく黄斑およびさらに中心窩などの敏感な領域を含む網膜全体を処置することができる。上に示されるように、従来の光線療法を使用すると、敏感な領域における組織損傷が原因で視力喪失がもたらされるため、網膜全体、特に中心窩を処置することができない。
従来の網膜を損傷させるレーザー治療は、治療密度に限定され、網膜の異常の特定の領域のほぼ全体的な(subtotal)処置を含む、網膜のほぼ全体的な処置を必要とする。しかしながら、最近の試験は、糖尿病患者の眼が、他に臨床的に目に見える糖尿病性網膜症なしでびまん性の網膜異常を有し、糖尿病黄斑浮腫または中心性漿液性脈絡網膜症などの、臨床的に識別可能な異常の局所的な領域を有する眼が、しばしば網膜の機能試験によってのみ検出可能な全体の網膜の機能障害を有し得ることを実証している。網膜全体を無害に処置する本発明の能力は、それ故、初めて、局所に又はほぼ全体的にではなく完全に、網膜疾患を有する眼の予防的且つ治療的な処置;および臨床的な網膜疾患および視力喪失の症状発現前の早期処置、の両方を可能にする。
上に議論されるように、治療効果を有するために組織の損傷および病変が作り出されなければならないというのは従来の思考である。しかしながら、本発明者は、これが単純にそうではないことを発見した。レーザーで誘起された網膜損傷がない状態では、機能的な網膜組織の喪失はなく、処置に対する炎症反応もない。有害な処置効果は、それ故、完全に除去され、機能的な網膜は、犠牲にされるよりもむしろ保存される。これは、従来の光凝固治療と比較して、優れた視力結果を生み出すかもしれない。
本発明は網膜神経感覚上皮に使用され(spares)、RPEによって選択的に吸収される。網膜血管疾患の病態形成についての現在の理論は、特に、網膜血管疾患の重要なメディエーターとして、RPEによって生成された強力な追加の細胞血管作用性因子である、サイトカインに関係している。本発明は、RPE内の致死的な蓄積を選択的に標的とし、回避する。したがって、本発明によって、治療反応に関与する処置されたRPEの能力は保存され、従来の光凝固治療におけるRPEのそれらの破壊の結果として、除去されるのではなく、さらに増強される。
サイトカインの臨床効果が「U字型の曲線」に従い、ここで曲線の左側によって示される、サイトカイン産生の小さな生理学的変化が、高用量の(薬理学的)治療(曲線の右側によって示される)に匹敵する大きな臨床効果を有し得ることが留意されている。本発明に従う致死量以下のレーザー露光を使用することで、曲線の左側に作用し、ここで処置反応は、用量反応ではなくむしろ「オン/オフ」現象に近似し得る。これは、低い報告された放射照度で観察された本発明の臨床的有効性の説明になるかもしれない。これはまた、レーザーと組織の相互作用の臨床的な経験およびインビトロでの試験と一致しており、ここで放射照度の増大によって、治療効果を改善することなく、単純に熱による網膜損傷のリスクは増大し得る。
SDMが作用し得る別の機構は、熱ショックタンパク質(HSP)の活性化である。ほぼ無限の様々な細胞異常が考えられるのにもかかわらず、すべてのタイプの細胞が、共通の及び高度に保存された修復の機構:熱ショックタンパク質(HSP)を共有する。HSPは、ほぼすべてのタイプの細胞のストレスまたは損傷によって、数秒から数分で、ほぼすぐに誘発される。致死的な細胞損傷がない状態で、HSPは、生細胞をより正常な機能的状態へと修復および回復させることに極端に有効である。HSPは、一時的なものであり、一般に数時間でピークに達し、数日間持続するが、それらの効果は長く続き得る。HSPは、糖尿病性網膜症(DR)およびAMDを含む、多くの網膜障害における共通因子である炎症を減少させる。
レーザー治療は、HSP活性化を誘発し、網膜処置の場合には、それ故、網膜のサイトカイン発現を変更し、正常化する。致命的でない細胞ストレス(レーザー照射など)がより突発的且つ重度なものであればあるほど、HSP産生はより迅速且つ強固なものとなる。したがって、各SDM露光によってもたらされた非常に急激な変化率(各々が100μsのマイクロパルスである〜20℃の上昇、または20,000℃/sec)での爆発的な(a burst of)繰り返しの低温の熱スパイクは、特に、低い平均組織温度上昇のみを繰り返す(duplicate)ことができる、連続波レーザーによる閾値以下の処置への致命的でない露光と比較して、HSPの産生を刺激することに特に有効である。
532nm未満のレーザー波長は、漸増的に細胞毒性の光化学効果をもたらす。532nm−1300nmでは、SDMは、光化学的な細胞ストレスよりもむしろ、光熱をもたらす。したがって、SDMは、組織を損傷させることなく、RPEを含む組織に影響を与えることができる。HSP活性化と一致して、SDMは、網膜の電気生理、視力、および対比視力の迅速且つ有意な改善、マイクロペリメトリーによって測定された黄斑の感度の改善などの、迅速な臨床効果に加えて、DMEの減少および網膜の新血管新生の退行などの長期的な効果ももたらす。
網膜において、SDMの臨床的有用性は、それ故、サブ病的な(sub−morbid)光熱RPE HSP活性化によってもたらされる。機能障害のRPE細胞において、SDMによるHSP刺激は、結果としてサイトカイン発現を正常化させ、網膜の構造および機能を改善する。この「低強度」のレーザー/組織相互作用の治療効果は、その後、「高密度」のレーザー適用によって増幅されて、標的とされた領域に機能障害のRPEをすべて動員し、それによって処置効果を最大限にする。これらの原理は、本明細書に記載されるSDMの処置方策を定義している。薬物および光凝固の両方に類似した治療効果をもたらすSDMの能力は、(焼灼以外の効果のための)レーザーで誘起された網膜損傷が不必要且つ非治療的なものであり;および実際に、網膜機能の喪失および炎症の誘因が原因で有害であることを示している。
正常に機能する細胞が修復を必要としないため、正常細胞中のHSP刺激は、顕著な臨床効果を有さない傾向がある。様々な細胞タイプに対する、病的細胞に影響するが正常細胞に影響しない、SDMなどの近赤外レーザー効果の「病原性−選択性(patho−selectivity)」は、SDMの臨床観察と一致している。この能力は、慢性の進行性疾患を有する眼および最小の網膜異常および最小の機能不全を有する眼の初期の及び予防的な処置に対するSDMの適合性の鍵である。最終的に、SDMは、米国規格協会の「最大許容露光量」の予測と一致している、網膜のレーザー法の中でも独特な、臨床的に広い治療域を有することが報告された。SDMは、エントロピー(entropic)タンパク質のアンフォールディングおよび脱凝集などの直接的な光熱効果を引き起こし得るが、HSP媒介性の網膜修復の臨床的に安全且つ有効な刺激のために最適化されているように見える。
図3を再び参照すると、目に見えない、真の閾値以下の光凝固の光線療法は、レーザー照射に露光されたRPEの領域がすべて保存され、治療上寄与することができる、「影響を受けた表面積を最大限にする」概念によってRPEの治療上の動員を最大限にする。図2に関して上に議論されるように、従来の治療は、焼けた又は損傷した組織領域のまわりに治療リングを作り出し、一方で本発明は、焼けた又はそうでなければ破壊された組織のない治療領域を作り出すと考えられる。
ここで図4および図5を参照すると、本発明による処置前の網膜の黄斑および中心窩のスペクトルドメインのOCT画像診断が、図4に示される。図5は、中心窩を含む、黄斑濃縮(thickening)の領域の全体にわたって置かれた、131マイクロメートルの網膜スポット、5%のデューティーサイクル、0.3秒のパルス持続時間、0.9ワットのピークパワーを用いる、本発明を使用する処置後の同じ黄斑および中心窩の光コヒーレンストモグラフィー(OCT)画像を示す。(糖尿病黄斑浮腫の病理学的網膜濃縮を表わす)中心窩降下(depression)の左側の拡大された暗い領域が欠如していること、およびレーザーで誘起された網膜損傷がないという事実が留意される。そのような処置は単純に、従来の技術では達成できなかったであろう。
従来の網膜の光凝固とは異なる別の点として、810nmのマイクロパルスダイオードレーザーからなどの、低い赤から赤外のレーザー光ビームが、アルゴンレーザーの代わりに使用される。810nmのダイオードレーザーが、最小に吸収され、網膜内の血液、白内障、硝子体出血および重度に浮腫性の網膜神経感覚上皮によって無視してよいほどに散乱されることが分かった。眼底の着色の差は、主として、脈絡膜の色素沈着の差、および標的RPEの変動の少なさに起因する。したがって、本発明による処置は単純化され、黄斑濃縮、網膜出血、および白内障または眼底色素沈着などの中間透光体の混濁(media opacity)の変動のためのレーザーパラメーターにおける調整を必要とせず、エラーのリスクを低下させる。
しかしながら、本発明が、最近利用可能な577nmの黄色および532nmの青色のレーザー、および他のレーザーなどの、他の波長のマイクロパルスの発光で利用され得ることが熟考される。より短い波長のレーザーのより高いエネルギーおよび異なる組織吸収特性は、網膜火傷のリスクを増大させるかもしれず、有効に治療ウィンドウを狭くする。さらに、より短い波長は、中間透光体の混濁(opaque ocular media)、網膜出血および黄斑浮腫によってさらに散乱され、有用性を制限し、特定の臨床設定における網膜損傷のリスクを増大させる可能性がある。したがって、低い赤から赤外のレーザー光ビームが尚好ましい。
実際に、低パワーの赤色および近赤外のレーザー露光は、様々な細胞内光受容体によって、多くの細胞型にプラスの影響を与える、特に、細胞の挙動および糖尿病などの病理学的環境を正常化すると知られている。細胞機能がサイトカイン発現において正常化され、炎症が低減される。生存可能なRPE細胞の機能を正常化することよって、本発明は、薬理学的に少数の細胞後の(post−cellular)因子のみを典型的に狭く標的とする薬物治療とは対照的に、生理学的に複数の因子の発現の変化を誘発し得る。RPEサイトカイン発現のレーザーに誘起された生理学的変更は、より遅い発症の要因となり得るが、本発明を使用して長く持続する効果の要因にもなり得る。さらに、750nm−1300nmなどの、生理学的に目に見えない赤外または近赤外のレーザー波長の使用は、患者に快適なものとして認められ、反応性の縮瞳を引き起こさず、患者の瞳孔の薬理学的な散大なしで実行される、眼底の可視化および網膜の処置が可能になる。これはまた、従来のレーザー凝固での処置に現在必要とされている薬理学的な瞳孔の散大後に典型的に長時間続く一時的な視覚障害を除去する。現在、患者の眼運動は、意図した領域を処置するためにレーザースポットのパターンを作り出すことに関して懸念があるだけでなく、視力の喪失または他の合併症の結果となる、中心窩などの眼の敏感な領域に対する従来の治療の露光に結果としてつながり得ることが懸念されている。
ここで図6を参照すると、概略図は、本発明のプロセスを実現するためのシステムを示す。参照符号30によって一般に言及されるシステムは、例えば、好ましい実施形態における810nmの近赤外マイクロパルスダイオードレーザーなどの、レーザーコンソール32を含む。レーザーは、光学レンズまたはマスク、あるいは必要に応じて複数の光学レンズ及び/又はマスク34などの、光学素子に通されるレーザー光ビームを生成する。レーザープロジェクター光学素子34は、形成された光ビームを、レーザービーム光を患者の眼38上へと投射するための同軸の広視野の非接触性デジタル光視認システム/カメラ36に通す。36と標識されたボックスが、レーザービームプロジェクターと視認システム/カメラの両方を表わすことができ、これは、実際に使用時に2つの異なるコンポーネントを含み得ることが理解される。同軸の広視野の非接触性デジタル光視認システム/カメラ36は、レーザー32、光学素子34、及び/又は投射/視認コンポーネント36を操作するための、必要なコンピューター化されたハードウェア、データ入力部および制御部なども含んでもよい表示モニター40にフィードバックを提供する。
上に議論されるように、現在の処置は、処置される標的組織に単独で適用される多数の個々のレーザービームスポットの適用を必要とする。その数は、望ましい処置領域に対して何百または何千にもなり得る。これには非常に時間がかかり、骨が折れる。
ここで図7を参照すると、一実施形態において、レーザー光ビーム42は、コリメータレンズ44に通され、その後マスク46に通される。特に好ましい実施形態では、マスク46は回折格子を含む。マスク/回折格子46は、幾何学的オブジェクト、またはより典型的には同時に生成された複数のレーザースポットの幾何学的パターン、あるいは他の幾何学的オブジェクトをもたらす。これは、参照符号48を付けられた複数のレーザー光ビームによって表わされる。代替的に、複数のレーザースポットは、複数の光ファイバーワイヤーによって生成され得る。レーザースポットを生成する方法はいずれも、網膜全体から成るなどの、非常に広い治療照射野にわたって大多数のレーザースポットを同時に生成することを可能にする。実際に、ひょっとすると何百、何千またはそれ以上もの数の大多数のレーザースポットが、黄斑および中心窩、網膜血管および視神経を含む、眼底全体および網膜全体をカバーし得る。本発明におけるプロセスの意図は、視力を改善するために惜しみなく網膜に対してレーザーを用いることによって、完全且つ全体的なカバレッジおよび処置をより確かなものとすることにある。
利用されるレーザーの波長と同等の形状サイズを有する光学的特徴を使用することで、例えば、回折格子を用いて、非常に大きな標的領域のための大多数のレーザースポットの同時の適用を許可する量子力学的効果を活用することが可能である。そのような回折格子によって生成された個々のスポットはすべて、各スポットに対するパワー変動が最小である、入射ビームに類似した光学的形状である。結果として、十分な放射照度を有する複数のレーザースポットによって、大きな標的領域にわたって同時に、無害である上に有効な治療適用がもたらされる。本発明はまた、他の回折光学素子によってもたらされた幾何学的なオブジェクトおよびパターンの使用を熟考する。
マスク46を通るレーザー光は回折し、図7において48と標識されたレーザービームによって示された、マスク46とは距離を置かれた周期的パターンをもたらす。シングルレーザービーム42は、それ故、スポットの望ましいパターンまたは他の幾何学的オブジェクトを作り出すように、複数の何百または何千までもの個々のレーザービーム48へと形作られた。これらのレーザービーム48は、レーザービームを伝送し、患者の網膜上に望ましいパターンを形成するために、追加のレンズおよびコリメーター50、52などに通され得る。そのような追加のレンズおよびコリメーター50、52などはさらに、必要に応じてレーザービーム48を変換する及びその向きを変えることができる。
光学マスク46の形状、間隔およびパターンを制御することによって、恣意的パターンが構築され得る。パターンおよび露光スポットは、光工学分野の専門家による適用要件に従って望まれるように、恣意的に作成且つ変更され得る。フォトリソグラフィー技術、特に半導体製造の分野で開発された技術は、同時の幾何学的なスポットのパターンまたは他のオブジェクトを作り出すために使用することができる。
何百または何千もの同時のレーザースポットが、生成され、作り出され、および眼組織に適用されるパターンへと形成され得るが、眼組織、および特に眼水晶体を過熱しない要件が原因で、本発明に従って同時に使用することができる処置スポットまたはビームの数には制約がある。個々のレーザービームまたはスポットはそれぞれ、有効となる列持続時間にわたって最小の平均パワーを必要とする。しかしながら、同時に、眼組織は、損傷されることなく特定の温度上昇を超過することができない。例えば、眼の水晶体を過熱且つ損傷しないように水晶体を介して送られ得る平均パワーに対する上限を設定する、眼水晶体の温度上昇に対する4°Cの制約がある。例えば、810nmの波長のレーザーを使用して、生成される及び使用される同時のスポットの数は、0.04(4%)のデューティーサイクルおよび0.3秒(300ミリ秒)の合計の列持続時間が、汎網膜のカバレッジのための使用されるときに、わずか1からおよそ100までとなり得る。波長が増加するにつれ、吸水率は増加し、結果として網膜の前の硝子体液を通る長い路程にわたる加熱がもたらされる。より短い波長、例えば577nmに関して、RPEのメラニンにおける吸収係数はより高くなり得、それ故、レーザーパワーはより低くなり得る。例えば、577nmでは、パワーは、有効となる本発明に対する4倍だけ低下され得る。したがって、577nmの波長レーザー光を使用するときに、わずかに単一のレーザースポットまたはおよそ400までのレーザースポットとなり得るが、それでも眼は害されないし損傷されない。
本発明のパラメーターおよび方法論が、治療上有効であるが、それでも損傷が非破壊的且つ非永続的である処置をもたらすため、本発明は、数十または何百もの数などの、多数の同時に生成された治療的な光ビームまたはスポットを使用することができ、それによって、レーザー光スポットは、中心窩を含む網膜のあらゆる部分に適用されることが可能となるが、一方で従来の技術は、多数の同時のレーザー光スポットを使用することができず、中心窩などの網膜の敏感な領域が、従来のレーザービームへの露光から損傷され、視力の喪失および他の合併症を引き起こし得るため、これらの領域の偶発的な露光を回避するために、しばしば、1つの処置用のレーザービームに制限される。
図8は、複数の光源を、上に記載される、パターンを生成する光学サブアセンブリへと連結するシステムを図式で例示する。具体的には、このシステム30’は、上記の図6に記載されたシステム30に類似している。代替的なシステム30’と前に記載されたシステム30の主な違いは、複数のレーザーコンソール32を包含することであり、その出力は各々、ファイバカプラ54に供給される。ファイバカプラは、前のシステムに記載されたようなレーザープロジェクター光学素子34へと通される単一出力を生み出す。複数のレーザーコンソール32の単一の光ファイバーへの連結は、当該技術分野で既知なようにファイバカプラ54を用いて達成される。複数の光源を組み合わせるための他の既知の機構も利用可能であり、本明細書に記載されるファイバカプラと交換するために使用されてもよい。
このシステム30’において、複数の光源32は、前のシステム30に記載された経路と類似した経路に従う、つまり、コリメートされ、回折され、再びコリメートされ、およびステアリング機構を用いて網膜へと配向される。この代替的なシステム30’において、回折素子は、通る光の波長に依存して、前に記載されたシステムとは異なって機能しなければならず、これは、結果としてパターンのわずかな変化につながる。その変化は、回折されている光源の波長と直線状になっている。一般に、回折角の差は、異なる重複パターンが、処置のためにステアリング機構36を通って網膜38に向かう同じ光路に沿って配向され得るのに十分小さな差である。回折角のわずかな差は、ステアリングパターンがどのように網膜のカバレッジを達成するかに影響を与える。
結果として生じるパターンが各波長に対してわずかに変化するため、完全なカバレッジを達成するための連続するオフセット(offsetting)は、各波長に対して異なる。連続するオフセットは2つのモードで達成され得る。第1のモードでは、光の波長はすべて、同一のカバレッジなしで同時に適用される。複数の波長の1つに対する完全なカバレッジを達成するためのオフセットのステアリングパターンが使用される。したがって、選択された波長の光は、網膜の完全なカバレッジを達成しているが、他の波長の適用は、網膜の不完全なカバレッジまたは重複するカバレッジのいずれかを達成する。第2のモードは、その特定の波長に対する網膜の完全なカバレッジを達成するために、適切なステアリングパターンを用いて、変化する又は異なる波長の各光源を連続して適用する。このモードは、複数の波長を使用する同時の処置の可能性を除外するが、光学的手法によって各波長に対する同一のカバレッジを達成することを可能にする。これは、光学波長のいずれに対する不完全なカバレッジおよび重複するカバレッジも回避する。
これらのモードはまた、組み合わされ、一致され得る。例えば、2つの波長が同時に適用されて、1つの波長が完全なカバレッジを達成し、もう1つの波長が不完全な又は重複するカバレッジを達成してもよく、その後、第3の波長が連続して適用されて、完全なカバレッジを達成してもよい。
図9は、本発明のシステム30’’のさらに別の代替的な実施形態を図式で例示している。このシステム30’’は、図6に描写されたシステム30と概して同じように構成されている。主な違いは、光源の特定の波長に合わせられた複数のパターンを生成するサブアセンブリチャネルを包含することである。複数のレーザーコンソール32が平行に配され、その各1つは、それ自体のレーザープロジェクター光学素子34へと直接つながっている。各チャネル58a、58b、58cのレーザープロジェクター光学素子は、図7に関連して上に記載されるように、コリメーター44、マスクまたは回折格子48、およびリコリメーター(recollimators)50、52を含み、光学素子の全セットは、対応するレーザーコンソール32によって生成された特定の波長に合わせられる。その後、光学素子34の各セットからの出力は、他の波長との組み合わせのためにビームスプリッター56に向けられる。逆に使用されるビームスプリッターが、複数の光ビームを単一出力へと組み合わせるために使用され得ることは当業者に知られている。
その後、最終的なビームスプリッター56cから組み合わされたチャネル出力は、ステアリング機構を適用するカメラ36に通して配向され、網膜38の完全なカバレッジが可能となる。
このシステム30’’において、各チャネルに対する光学素子は、そのチャネルの波長に対する正確な指定されたパターンを生成するように調整される。結果的に、チャネルがすべて組み合わせられ、適切に整列される(aligned)と、単一のステアリングパターンが使用されて、すべての波長に対する網膜の完全なカバレッジが達成され得る。
システム30’’は、処置に使用されている光の波長と同じくらいの、多くのチャネル58a、58b、58cなど及びビームスプリッター56a、56b、56cなどを使用し得る。
システム30’’の実施は、アラインメント制約の数を減少させるために異なる対称性を活用し得る。例えば、提案されたグリッドパターンは、二次元で周期的であり、完全なカバレッジを達成するために二次元で操作される。結果として、各チャネルに対するパターンが、指定されたパターンと同一である場合、各チャネルの実際のパターンは、すべての波長に対する完全なカバレッジを達成するために同じステアリングパターンに対して整列される必要はないだろう。各チャネルは、効率的な組み合わせを達成するために光学的に整列される必要があるだけである。
システム30’’において、各チャネルは光源32とともに開始し、これは、パターンを生成するサブアセンブリの他の実施形態などにおける光ファイバーからのものであり得る。この光源(32)は、コリメーション、回折、リコリメーション(recollimation)のために光アセンブリ(34)に配向され、チャネルをメイン出力と組み合わせるビームスプリッターへと配向される。
光生物学の分野は、異なる生物学的効果が、標的組織を異なる波長のレーザーに露光することによって達成され得ることを明らかにしている。分離の可変期間及び/又は異なる照射エネルギーで順に、異なる又は同じ波長の複数のレーザーを連続的に適用することによっても、同じことが達成され得る。本発明は、望ましい処置効果を最大限にするか又はカスタマイズするために同時に又は順に適用される複数のレーザー、光または放射波長(またはモード)の使用を予期している。この方法はまた、潜在的な有害効果を最小限にする。上に例示され記載された光学的な手法およびシステムは、複数の波長の同時または連続する適用を提供する。
典型的には、本発明のシステムは、網膜の光刺激による完全且つ全体的な網膜処置を確かなものとするために、誘導システムを組み込む。本発明の処置方法が無害であり、中心窩およびさらに視神経を含む網膜全体を処置することができるため、この誘導システムは、具体的な網膜の位置に処置を向ける;および従来のレーザー治療によって損傷される中心窩などの敏感な位置から離れた位置に処置を向けるために利用される従来の網膜のレーザー誘導システムとは区別される。さらに、偶発的な患者の運動による偶発的な視力喪失からの保護は問題ではない。代わりに、患者の運動は、十分なカバレッジを保証するためにレーザー光の適用の追跡における誘導に主として影響するだろう。固視標、追跡機構から構成され、システムオペレーションにリンクされた、固定/追跡/登録のシステムは、多くの眼科用の診断システムにおいて一般的であり、本発明に組み込まれ得る。
特に好ましい実施形態では、同時のレーザースポットの幾何学的パターンは、網膜表面の集密的なおよび完全な処置を達成するように連続してオフセットされる(offset)。網膜の部分は本発明に従って処置され得るが、より理想的には、網膜全体が1回の処置セッション内で処置される。これは、複数のスポットを眼底全体に一度に適用することによって、時間を節約して行われる。この同時のスポットのパターンは、単一の処置セッションで網膜全体をカバーするように、連続してアレイ全体として、走査されるか、シフトされるか、また再配向される。
これは、光走査機構60を使用して、制御された方法で行われ得る。図10および図11は、MEMSミラーの形態で使用され得る光学走査機構60を例示し、これは、電子的に作動される制御装置64および66を備えるベース62を有し、制御装置は、電気がそこに適用され移される(removed)とミラー68を傾斜させパンする(pan)ように作用する。コントローラー64および66に電気を適用することによって、ミラー68は移動し、それ故、レーザースポットの同時のパターンまたはその上に反映された他の幾何学的オブジェクトが、それに応じて患者の網膜上に移動される。これは、例えば、網膜の完全なカバレッジ、または処置されることが望まれる網膜の少なくとも一部が、光線療法にさらされるまで、光走査機構60を調節する電子ソフトウェアプログラムを使用して、自動化方法で行われ得る。光走査機構はまた、小さなビーム直径の走査検流計ミラーシステム、またはThorlabsによって流通されているシステムなどの、類似したシステムであってもよい。そのようなシステムは、望ましいオフセットパターンでレーザーを走査することができる。
本発明のパラメーターが、適用された放射エネルギーまたはレーザー光が破壊的でない又は損害を与えないことを決定するため、レーザースポットの幾何学的パターンは、例えば、組織を破壊することなく又は永久的な損傷を与えることなく重複され得る。しかしながら、特に好ましい実施形態では、図12に例示されるように、スポットのパターンは、熱放散を可能にする及び熱損傷または組織破壊の可能性を予防するために直前の露光間に空間を作り出すように各露光でオフセットされる。したがって、図12に例示されるように、16のスポットのグリッドとして典型的な目的のために例示されたパターンは、レーザースポットが前の露光とは異なる空間を占めるように各露光でオフセットされる。丸すなわち空(empty)ドットの他に充填(filled)ドットの図式での使用が、本発明に従って、領域へのスポットのパターンの前の及び続く露光を例示する図式目的のみであることが理解される。レーザースポットの間隔によって、組織に対する過熱および損傷が防がれる。これは、網膜全体(好ましい方法論)が光線療法を受けるまで、または望ましい効果が達成されるまで行われることが理解される。これは、例えば、図10および図11に例示されるように、マイクロマシンドミラー(micromachined mirror)に静電トルクを適用することなど、走査機構によって行うことができる。露光自由領域によって区切られた小さな網膜レーザースポット、蓄熱の予防、および一面当たりの多数のスポットを有するグリッドの使用を組み合わせることによって、可能な現在の技術よりもはるかにより急速に短い露光持続時間で大きな標的領域を傷つけずに且つ目に見えないように処置することが可能である。このように、図3Aで例示されるような低密度処置は、図3Bで例示されるような高密度処置になり得る。
スポットまたは幾何学的オブジェクトの同時に適用されたグリッドアレイ全体の再配向またはオフセットを急速に且つ連続して繰り返すことによって、ヒト網膜などの標的の完全なカバレッジが、熱組織の損傷なしに急速に達成され得る。このオフセットは、レーザーパラメーターおよび望ましい適用に依存して、最速の処置時間および熱組織による損傷の最小のリスクを確かなものとするために、アルゴリズム的に判定され得る。下記はフランホーファー近似(Fraunhoffer Approximation)を使用してモデル化された。9×9の正方格子を有するマスクを備え、9μmの開口半径、600μmの開口間隔を有し、890nmの波長レーザーを使用し、75mmのマスク−レンズ分離、および2.5mm×2.5mmの二次的なマスクサイズを有して、以下のパラメーターは、6μmのスポットサイズ半径で133μmで区切られた一面当たり19のスポットを有するグリッドをもたらす。望ましい領域の辺長「A」、正方形の一面当たりの出力パターンスポット「n」、スポット間の区切り「R」、スポット半径「r」、および領域を処置するための望ましい正方形の辺長「A」を考慮して、処置する(小さなスポットの適用で集密的にカバーする)のに必要とされる露光の数「m」は、以下の数式によって与えられ得る:
前述のセットアップで、露光の異なる視野領域を処置するために必要とされる操作の数mを計算することができる。例えば、処置に有用な3mm×3mmの領域は、およそ30秒の処置時間を必要とする、98のオフセット操作を必要とするだろう。別の例は、ヒト網膜の表面全体を表わす、3cm×3cmの領域になるだろう。そのような大きな処置領域のために、25mm×25mmのはるかに大きな二次的なマスクサイズが使用され、6μmのスポットサイズ半径で133μmで区切られた一面当たり190のスポットの処置グリッドがもたらされ得る。二次的なマスクサイズが、望ましい処置領域と同じ倍数だけ増大されたため、およそ98のオフセット操作の数、およびそれ故およそ30秒の処置時間は一定である。これらの処置時間は、連続する個々のレーザースポット適用の現在の方法と比較して、処置時間の少なくとも10〜30倍の短縮を表わしている。3mmの照射野は、例えば、糖尿病黄斑浮腫および加齢黄斑変性症などの一般的な盲目疾患の処置に有用である、単一の露光でのヒト黄斑全体の処置を可能にするだろう。98の連続するオフセット全体を実行することで、黄斑の全カバレッジを確かなものとするだろう。
もちろん、同時のパターンアレイにおいて生成された網膜スポットの数およびサイズは、容易に且つ高度に変更される場合があり、それによって、処置を完了するのに必要とされる連続するオフセット操作の数は、与えられた適用の治療要件に応じて容易に調節され得る。
さらに、回折格子またはマスクにおいて利用される小さな開口によって、レーザー入力エネルギーの恣意的な分布を可能にする量子力学的挙動が観察され得る。これは、グリッドパターン、線、または他の望ましいパターンでの複数のスポットなどの、恣意的な幾何学的形状またはパターンの生成を可能にするだろう。複数のファイバーの光ファイバーまたはマイクロレンズを使用するなど、幾何学的形状またはパターンを生成する他の方法も、本発明で使用され得る。幾何学的形状またはパターンの同時の投射の使用からの時間節約は、単一の臨床設定または処置セッションでの、網膜全体の処置を達成する1.2cm^2領域などの、新規のサイズの治療照射野を可能にする。
ここで図13および図14を参照すると、小さなレーザースポットの幾何学的パターンの代わりに、本発明は、他の幾何学的なオブジェクトまたはパターンの使用を熟考する。例えば、継続的に又は一連の密に間隔を置かれたスポットによって形成された、レーザー光の単一の線70を作り出すことができる。領域にわたって線を連続して走査するために、オフセットする光走査機構を使用することができ、これは図13において下向きの矢印によって例示される。ここで図14を参照すると、線70の同じ幾何学的オブジェクトが、矢印によって例示されるように、光線療法の円形視野を作り出すように回転され得る。
しかしながら、この手法の潜在的な欠点は、中央領域が、繰り返し露光され、許容しがたい温度にまで達し得ることである。しかしながら、これは、露光間の時間を増やすことによって、または中央領域が露光されないように、線において間隙を作り出すことによって克服することができるかもしれない。
現在のマイクロパルスダイオードレーザーにおけるパワー制限は、かなり長い露光持続時間を必要とする。露光が長ければ長いほど、レーザースポットの残存部での露光されていない組織への及び網膜におけるような基礎的な脈絡毛細管板へのセンタースポットでの放熱性がより重要となる。したがって、810nmのダイオードレーザーのマイクロパルスレーザー光ビームは、500ミリ秒以下、および好ましくはおよそ300ミリ秒の露光エンベロープ持続時間を要するべきである。もちろん、マイクロパルスダイオードレーザーがより強力になった場合、露光持続期間はそれにしたがって短縮されるべきである。
パワー制限とは別に、本発明の別のパラメーターは、デューティーサイクル、すなわちマイクロパルスの列の周波数、または連続するパルス間の熱緩和時間の長さである。同様のMPEレベルでの同様の放射照度でマイクロパルスレーザーを伝送するために調節された10%以上のデューティーサイクルの使用が、特により濃い眼底において致死的な細胞損傷のリスクを著しく増大させることが分かった。しかしながら、10%未満のデューティーサイクル、および好ましくはおよそ5%以下のデューティーサイクルは、生物学的反応を刺激するのにMPE細胞のレベルで十分な熱上昇および処置を実証しているが、濃く染色された眼底においてさえ致死的な細胞損傷をもたらすと予測されるレベルを下回ったままである。しかしながら、デューティーサイクルが低ければ低いほど、露光エンベロープ持続時間は増加し、幾つかの例では、500ミリ秒を超過し得る。
各マイクロパルスは、1000分の100秒続き、典型的に50〜100マイクロ秒の持続時間である。したがって、300−500ミリ秒の露光エンベロープ持続時間のために、および5%未満のデューティーサイクルで、連続するパルス間の熱緩和時間を可能にするためにマイクロパルス間の相当量の時間の浪費がある。典型的に、熱緩和時間の1〜3ミリ秒および好ましくはおよそ2ミリ秒の遅延が、連続するパルス間で必要とされる。十分な処置のために、網膜細胞は、典型的に、各位置で50−200回、および好ましくは75−150回の間、レーザー光に露光されるか又は当てられる。1−3ミリ秒の緩和または間隔の時間で、与えられた領域、あるいはより具体的には、レーザースポットに露光されている網膜上の位置を処置するために上に記載された実施形態に従う合計時間は、平均で200ミリ秒から500ミリ秒の間である。熱緩和時間は、その位置またはスポット内で細胞を過熱しないために、および細胞が損傷または破壊されるのを防ぐために必要とされる。200−500ミリ秒の時間は長くないようであるが、レーザースポットの小さなサイズおよび網膜の比較的大きな領域を処置する必要性を考慮して、黄斑全体または網膜全体を処置するには、特に処置を受けている患者の観点から、相当の時間かかり得る。
したがって、特に好ましい実施形態において本発明は、第1の処置領域とは離れて間隔を置かれる網膜及び/又は中心窩の第2の処置領域、すなわち追加領域にレーザー光を適用するために、同じ位置への連続するレーザー光の適用の間隔(典型的に1〜3ミリ秒の間)を利用する。レーザービームは、予め決められた時間間隔内で、第1の処置位置、すなわち前の処置位置に戻され、本発明の望ましい治療効果を達成するために、連続するパルス間の十分な熱緩和時間を提供し、それでもなお、レーザー光をその位置に繰り返し適用することにより適切にそれらの細胞の温度を時間をかけて十分に上昇させることによってそれらの位置または領域において細胞を十分に処置する。
1−3ミリ秒以内、および好ましくはおよそ2ミリ秒以内に前に処置した位置に戻ることは重要であり、それによって、その領域を十分にその時間の間に冷やし、必要な時間窓内で処置することも可能になる。例えば、処置が有効とならない、またはひょっとしたら全く有効とはならないため、1秒または2秒を待つことができず、その後、必要な十分な処置をまだ受けていない前に処置された領域に戻る。しかしながら、その時間間隔の間、典型的におよそ2ミリ秒の間、少なくとも1つの他の領域、および典型的に複数の領域は、レーザー光パルスが、典型的に50〜100マイクロ秒の持続時間であるため、レーザー光の適用によって処置することができる。処置することができる追加領域の数は、マイクロパルスの持続時間およびレーザー光ビームを1つの領域から別の領域に制御可能に移動させる能力のみによって制限される。現在、互いに離れて十分に間隔を置かれているおよそ4つの追加領域を、第1の処置領域で始まる熱緩和間隔の間に処置することができる。したがって、複数の領域を、少なくとも部分的に、第1領域に対して200−500ミリ秒の露光エンベロープ中に処置することができる。したがって、単一の時間間隔において、100の同時の光スポットのみが処置領域に適用される代わりに、およそ500の光スポットを、異なる処置領域においてその時間間隔の間に適用することができる。これは、例えば、810nmの波長を有するレーザー光ビームに当てはまるだろう。570nmなどの、より短い波長に関しては、多数の個々の位置でさえ光スポットを作り出すためにレーザービームに露光され得る。したがって、最高でおよそ400の同時のスポットの代わりに、およそ2,000のスポットが、与えられた領域または位置に対するマイクロパルス処置の間隔の間にカバーされ得る。
上に言及されるように、典型的に、各位置は、望ましい処置を達成するために、露光エンベロープ持続時間(典型的に200−500ミリ秒)にわたって50−200およびより典型的には75−150の光の適用を有する。本発明の一実施形態に従って、レーザー光は、各々の領域または位置に対する緩和時間間隔の間に順に前に処置された領域に再適用されるだろう。これは、処置される各領域に対する予め決められた数のレーザー光の適用が達成されるまで繰り返し行われるだろう。
これは、図15A−図15Dに図式で例示される。図15Aは、第1の適用としてレーザー光を適用した第1の領域を実線の丸で例示している。レーザービームは、第1の露光領域における位置が、レーザー光を再び熱緩和時間間隔内に適用させることによって再処置されることが必要とされるまで、図15Bに例示されるように、第2の露光領域にオフセットされるか又はマイクロシフトされ(microshifted)、その後、第3の露光領域および第4の露光領域に続く。その後、図15Cに例示されるように、第1の露光領域内の位置は、レーザー光を再適用されるだろう。図15Dにおいて露光領域1の黒塗りされた丸によって図式で例示された、望ましい数の露光またはヒットあるいは光の適用が、これらの領域を治療上処置するために達成されるまで、陰影線が入ったドットまたは丸によって図15Dに例示されるように、二次的な又は続く露光が各露光領域に生じるだろう。第1または前の露光領域の処置が完了すると、システムは追加の露光領域を加えることができ、そのプロセスは、処置される網膜の全領域が十分に処置されるまで繰り返される。実際に本発明に従うレーザー光の露光が、ヒトの眼に加えて既知の検出装置および技術では目に見えず、検出できないため、実線の丸、破線の丸、部分的に陰影線が入った丸、および完全に陰影線が入った丸の使用が、単に説明目的であることが理解されるべきである。
隣接した露光領域は、熱による組織損傷を回避するために、少なくとも予め決められた最小距離だけ離されなければならない。そのような距離は、直前に処置された位置または領域から少なくとも0.5直径、およびより好ましくは1−2直径離れている。そのような間隔は、前の露光領域における実際に処置された位置に関係している。比較的大きな領域が、図15A−Dに例示される方法とは異なる方法でオフセットされる複数の露光領域を実際に含み得ることが本発明によって熟考される。例えば、露光領域は、図13および図14に例示される細線を含み得るが、これは、必要領域がすべて十分に露光され処置されるまで、順に繰り返し露光されるだろう。本発明に従って、その領域は、網膜の限られた領域、黄斑全体または汎黄斑の処置領域、あるいは中心窩を含む網膜全体の領域を含むことができる。しかしながら、本発明の方法論により、処置される網膜または網膜全体のその領域を処置するために必要とされる時間は、単一の処置セッションが医療提供者にとって非常により短い時間がかかるものであるように、および期間が長いとして患者が不快になる必要がないように、4倍または5倍著しく短縮される。
1つ以上の処置ビームを網膜に一度適用し、処置ビームを一連の新しい位置に移動させる本発明のこの実施形態に従って、ビームを繰り返し同じ位置または領域に戻して再処置することには、全露光エンベロープ持続時間の間にレーザービームを同じ位置または領域に維持する方法論と比較して、それほどパワーが必要としないことが分かった。図16−18に関連して、必要とされるパルス長とパワーとの間には直線関係があるが、生成される熱間には対数関係がある。
図16に関連して、X軸がワットでの平均パワーの対数(Log)を表わし、Y軸が秒での処置時間を表わす、グラフが提供される。下の曲線は汎黄斑の処置のためのものであり、上の曲線は汎網膜のためのものである。これは、50マイクロ秒のマイクロパルス時間、パルス間の2ミリ秒の時間、および300ミリ秒のスポット上の列の持続時間を有するレーザー光ビームに対するものである。各網膜スポットの領域は100ミクロンであり、これらの100ミクロンの網膜スポットに対するレーザーパワーは0.74ワットである。汎黄斑領域は、合計で7,000の汎黄斑スポットを必要とする、0.55cm2であり、汎網膜領域は、完全なカバレッジに対して42,000のレーザースポットを必要とする、3.30cm2である。各RPEスポットは、本発明に従って、そのリセット機構を十分に作動されるために最小エネルギーすなわち、汎黄斑に対して38.85ジュールおよび汎網膜に対して233.1ジュールを必要とする。予期されるように、処置時間が短ければ短いほど、必要とされる平均パワーは大きくなる。しかしながら、許容可能な平均パワーには上限があり、これは処置時間を短くする程度を制限している。
上に言及されるように、利用可能な及び使用されるレーザー光に関してパワー制約があるだけでなく、眼組織を損傷させることなく眼に適用することができるパワーの量にも制約がある。例えば、眼の水晶体における温度上昇は、白内障を引き起こすなど、水晶体を過熱しない及び損傷させないように4℃などに限定される。したがって、7.52ワットの平均パワーは、水晶体温度をおよそ4℃に上昇させ得る。パワーのこの制限は最小の処置時間を増大させる。
しかしながら、図17を参照すると、必要とされるパルス当たりの合計のパワーは、レーザースポットを繰り返し且つ連続して移動させて、前の処置された位置に戻す、マイクロシフト(microshift)の場合にはより少なく、その結果、処置時間の間の伝送される総エネルギーおよび合計平均パワーは同じである。図17および図18は、合計のパワーが処置時間にどれほど左右されるかを示す。これは、汎黄斑処置に対しては図17に、汎網膜処置に対しては図18に示される。上の実線または曲線は、図12などに記載される及び例示されるように、熱緩和時間間隔を活用するマイクロシフトがない実施形態を表わし、一方で下の破線は、図15などに記載される及び例示されるように、そのようなマイクロシフトに対する状況を表わす。図17および図18は、与えられた処置時間の間、ピークの合計パワーが、マイクロシフトがないときよりもマイクロシフトがあるときの方がより少ないことを示している。これは、本発明のマイクロシフトの実施形態を使用する与えられた処置時間には、より少ないパワーが必要とされることを意味している。代替的に、許容可能なピークパワーは、全処置時間を短縮して、好都合に使用され得る。
したがって、図16−図18に従うと、1.0の対数パワー(10ワット)には、本明細書に記載されるように、本発明のマイクロシフトの実施形態を使用して合計20秒の処置時間を必要とされるだろう。マイクロシフトなしでは2分を超える時間がかかり、代わりに全処置エンベロープ持続時間の間に同じ位置または領域にマイクロパルス光ビームを残す。ワット数に従って最小の処置時間がある。しかしながら、マイクロシフトでのこの処置時間は、マイクロシフトなしよりもはるかに短い。必要とされるレーザーパワーがマイクロシフトでははるかにより少ないため、与えられた望ましい網膜の処置領域に対する処置時間を短縮するために、幾つかの事例においてパワーを増大させることが可能である。処置時間と平均パワーの積は、本発明に従って治療上の処置を達成するために、与えられた処置領域に対して固定される。これは、例えば、低減されたパワーで同時により多くの治療用レーザー光ビームまたはスポットを適用することによって実施され得る。もちろん、レーザー光のパラメーターが、治療上有効であり、それでも細胞に対して破壊的ではなく、永久的に損傷を与えないように選択されるため、誘導または追跡のビームが必要とされず、本発明に従って、処置ビームだけで、中心窩を含む網膜のすべての領域を処置することができる。実際に、特に好ましい実施形態では、中心窩を含む網膜全体は本発明に従って処置され、これは単純に従来の技術の使用では不可能である。
本発明は、マイクロパルスレーザーに関連した使用に関して記載されているが、理論上、可能性として連続波レーザーが、マイクロパルスレーザーの代わりに使用され得る。
しかしながら、連続波レーザーでは、レーザーが停止せず、処置領域間で熱漏洩および過熱が生じ得るという点で、レーザーが位置間を移動すると過熱する懸念がある。したがって、連続波レーザーを使用することは理論上可能であるが、実際には理想的ではなく、マイクロパルスレーザーが好ましい。
本発明の固有の特徴によって、中間透光体の混濁、網膜濃縮、または眼底色素沈着による影響をそれほど受けない、単一のセットの最適化されたレーザーパラメーターを可能にしながら、単純化されたユーザーインターフェースが許容される。動作制御が提示され、多くの異なる方法で機能し得るが、システムは、2つの制御機能のみを利用し得る非常に単純化されたユーザーインターフェースを許容する。すなわち、第1の制御機能は「作動」ボタンであり、「スタンバイ」中にこのボタンを1回押し下げることによって、処置を作動させ開始する。処置中のこのボタンの押し下げは、処置を早期に中断させ、「スタンバイ」モードに戻すだろう。マシンの起動は、ボタンに隣接している又はボタン内のLEDなどによって識別され、表示され得る。第2の制御機能は「照射野」ノブであり得る。このボタンの1回の押し下げによって、ユニットが、例えば、3mmの焦点または「黄斑の」視野スポットをもたらすようにプログラムすることができた。このノブの2回目の押し下げによって、ユニットが、6mmまたは「後極の」スポットをもたらすようにプログラムすることができた。このノブの3回目の押し下げによって、ユニットが、「汎網膜」またはおよそ160°−220°のパノラマの網膜スポットまたはカバレッジ領域をもたらすようにプログラムすることができた。このノブを手動で回転させることで、様々なスポット照射野をもたらすことができた。各照射野内で、処置の密度および強度は同一であろう。照射野の変更は、光学的または機械的なマスキングまたは記載されるアイリス絞りまたはLCD開口などの開口によってもたらされるだろう。
固定ソフトウェアは、眼底の表示された画像をモニタリングすることができた。眼底の目印(landmark)の処置を始める前に、視神経、または(眼球正位を想定した)患者のいずれかの眼の部分または特徴などが、ディスプレイスクリーン上にオペレーターによってマークされ得る。処置が開始され、ソフトウェアは、十分な固視を確かなものとするために、眼底の画像または(眼球正位を想定した)患者のいずれかの眼の部分に対する他の画像登録(image−registered)をモニタリングするだろう。固視のずれ(break)は自動的に処置を妨げる。固視のずれは、光学的に、または瞳孔の縁のそばで処置ビームに平行して及びその外縁に投射された低エネルギーの赤外線ビームの妨害によって検出され得る。固視が確立されるとすぐに、処置は完了に向けて自動的に再開するだろう。標的への望ましいレーザーエネルギーの集密的な伝送の完了によって判定される、処置の終わりに、ユニットは、露光を自動的に終了し、デフォルトで「オン」または「スタンバイ」モードになるだろう。この処置の特有の特性により、固視の妨害は、患者損傷の害またはリスクを引き起こさないが、処置セッションを単に延長する。
レーザーは、広視野の非接触レンズを介して眼底に投射され得る。レーザー視野または中央領域以外の眼底の特定の標的または領域のカスタマイズされた配向は、オペレーターのジョイスティックまたは偏心的な(eccentric)患者の注視によって達成され得る。レーザー伝送光学素子は、広視野の非接触デジタル眼底視認システムに同軸で連結され得る。作成された眼底の画像は、レーザーオペレーターに可視のビデオモニターに表示され得る。眼底のクリアな且つ焦点を合わせられた画像の維持は、オペレーターによって手動で配向されるカメラアセンブリ上のジョイスティックによって促進され得る。代替的に、カメラソフトウェアへの標的登録および追跡システムの追加は、結果として完全に自動化した処置システムにつながるだろう。
眼の位置合わせを促進するために、固視像が患者に同軸で表示され得る。この画像は、視細胞の消耗、患者の疲労を回避し、優れた固視を促進するために、処置の間に、形状およびサイズ、色、強度、まばたき率(blink)、振動率、あるいは他の通常の又は連続的な変動が変更されるだろう。
さらに、OCT、網膜血管造影、または自発蛍光撮影などの、他の網膜の診断方法からの結果または画像は、処置を誘導する、支援する、またはそうでなければ促進するために、患者の眼底の表示画像と並列して、またはそれに上書きして表示されるかもしれない。画像のこの並列または上書きは、網膜上の疾患、損傷または瘢痕組織の特定を促進することができる。
本明細書に記載される本発明は、汎網膜の及び/又は中心窩にわたる(trans−foveal)処置に対して概して安全である。しかしながら、使用者、つまり外科医は、疾患マーカーが位置付けられる網膜の特定の領域への処置を制限する、または瘢痕組織などからのより暗い色素形成を有する特定の領域における処置を予防することに備えること(preparing)が可能である。この場合、カメラ36には、開口部を選択的に広げるか又は狭くするように構成されたアイリス絞り72が備え付けられてもよく、開口部を通って光が患者の眼38へと配向される。図19は、そのようなアイリス絞り72が備え付けられたカメラ36上の開口部74を例示する。代替的に、アイリス絞り72は、液晶ディスプレイ(LCD)76と交換されてもよいし、それを補足されてもよい。LCD76は、ディスプレイ中の各画素が、通り抜ける光を伝送または遮断することを可能にすることによって、動的な開口として作用する。そのようなLCD76は、図20に描写される。
好ましくは、本発明のシステム30、30’、30’’のうちのいずれか1つは、カメラ36を通して見られるような網膜のライブ画像を有するユーザーインターフェース上のディスプレイを含む。ユーザーインターフェースは、処置光が、アイリス絞り72及び/又はLCD76によって限定または制限または除外される領域を選択するために、網膜のこのライブ画像のオーバーレイを含んでもよい。ユーザーは、タッチスクリーン上などのライブ画像上に輪郭を描き、その後、制限または除外されたカバレッジを有するためにその輪郭の内側または外側のいずれかを選択してもよい。
例として、ユーザーは、処置から除外されるべき網膜上の瘢痕組織を特定する場合、瘢痕組織のまわりに輪郭を描き、その後、レーザー療法からの除外のためにその輪郭の内部をマークするだろう。制御システムおよびユーザーインターフェースは、その後、選択された瘢痕組織にわたって画素を通る投射された処置光を遮断するように、LCD76に適切な制御信号を送るだろう。LCD76は、投射されたパターンの領域の減衰に有用である付加効果を提供する。この特徴は、パターン内の特定のスポットのピークパワー出力を制限するために使用されてもよい。最も高いパワー出力を有するパターンでの特定のスポットのピークパワーの制限は、処置パワーを網膜にわたってより均一にするために使用され得る。
代替的に、外科医は、処置または回避されるべき網膜の領域の輪郭を描くために眼底モニターを使用してもよく、指定された領域は、その後、遮断用の(obstructing)LCD76の絞り(diaphragm)の必要性または使用なしに、その領域を処置または回避するように処置ビームをソフトウェアにより配向することによって、処置または回避される。
本発明者は、加齢黄斑変性症(AMD)を患う患者の本発明による処置が、AMDの進行を遅らせる又は止めることさえもできることを発見した。この回復性の処置効果の更なる証拠は、処置が、脈絡膜血管新生が原因のAMDの視力喪失のリスクを一意に80%低下させることができるという本発明者の発見である。患者のほとんどは、本発明による処置後に動的な機能的logMAR視力および対比視力が有意に改善され、より優れた視力を持つ患者もいた。これは、網膜色素上皮(RPE)を標的とし、保護し、およびその機能を「正常化する」(正常へと近づける)ことによって作用すると考えられる。
本発明による処置は、全身性糖尿病の持続性にもかかわらず、処置関連の損傷または副作用なしで、糖尿病性網膜症の疾患状態の発現を停止または逆転させることができると示された。本発明者によって公開だった試験は、処置の回復効果が、糖尿病性網膜症の進行のリスクを一意に85%低下させることができることを示した。これに基づくと、本発明は、工場出荷時の設定を回復させるために電子装置の「リセット」ボタンを押すことに類似して、糖尿病の影響を受けたRPE細胞においてより正常な細胞機能およびサイトカイン発現へと戻ることを誘発することによって作用し得ると仮定される。
上記の情報および試験に基づくと、SDM治療は、標的組織、特に網膜色素上皮(RPE)層におけるサイトカイン発現および熱ショックタンパク質(HSP)の活性化に直接影響し得る。重度の非増殖性および増殖性の糖尿病性網膜症、AMD、DMEなどを含む、多くの網膜疾患の進行の速度を低下させるために、汎網膜および汎黄斑のSDが、本発明者によって留意されてきた。既知の有害な処置効果の欠如と結び付けられた、これらの網膜疾患を有している個体の既知の治療上の処置有益性は、必要に応じて、初期の及び予防的な処置、開放的な適用(liberal application)および再処置を考慮することが可能となる。リセットの理論はまた、本発明が、様々なタイプのRPE媒介性の網膜障害に応用され得ることを示唆している。実際、本発明者は最近、汎黄斑の処置が、萎縮型加齢黄斑変性症、色素性網膜炎、錐体桿体の(cone−rod)網膜変性、およびシュタルガルト病において網膜の機能および健康、網膜の感度、および動的なlogMAR視力および対比視力を有意に改善することができることを示し、これは他の処置が以前には行うことができなかったことである。
現在、網膜像および視力検査は、慢性の進行性網膜疾患の管理の手引きとなっている。組織及び/又は臓器の構造損傷および視力喪失は、遅発性の疾患症状であるため、この時点で定められた処置は、集中的なものでなくてはならず、しばしば延長され、高価となり、視力を改善させることに頻繁に失敗し、めったに正常な視力を回復させない。本発明は、有害な処置効果なしで多くの網膜障害の有効な処置であることが示され、その安全性および有効性によって、それはまた、網膜疾患の発症または症状を予防的に又はそのような網膜疾患の予防的な処置として止める又は遅らせるべく眼を処置するために使用され得る。網膜機能を改善する、および故に健康を改善する処置も、疾患の重症度、進行、不適当な事象および視力喪失を減少させるはずである。病理学的構造の変化の前に、処置を早期に開始し、定期的な機能的に誘導された再処置による処置有益性を維持することによって、構造の変性および視力喪失が、予防されない場合には遅らせられ得る。疾患進行の速度の適度の初期の低下でさえ、視力喪失における有意な長期的な低下および合併症につながり得る。一次欠陥の結果を軽減することによって、疾患の経過は弱められ(muted)、進行は遅くされ、合併症および視力喪失が減少され得る。
これは、処置が、糖尿病性網膜症における進行および視力喪失のリスクを85%減少させる及びAMDを80%減少させることを発見した本発明者の試験に反映されている。
本発明の一実施形態に従うと、患者、およびより具体的には、患者の眼には網膜疾患のリスクがあるということが判定される。これは、網膜像の異常が検出可能となる前であり得る。そのような判定は、患者に、糖尿病を含む慢性の進行性網膜症のリスク、加齢黄斑変性症または色素性網膜炎のリスクがあるかどうかを確認することによって達成され得る。代替的に、または加えて、患者の網膜検査または網膜試験の結果は異常であり得る。網膜の生理学的検査または遺伝子検査などの特定の検査は、患者が網膜疾患のリスクを有していると確証するために行われ得る。
致死量以下であり、真の閾値以下の光凝固および網膜組織を作り出す、レーザー光ビームが生成され、網膜組織の少なくとも一部は、眼の網膜組織の予防的および保護的な処置を提供するように、露光された網膜または中心窩の組織を損傷することなく、生成されたレーザー光ビームに露光される。処置された網膜は、中心窩、小窩、網膜色素上皮(RPE)、脈絡膜、脈絡膜新生血管膜、網膜下液、黄斑、黄斑浮腫、傍中心窩、及び/又は周中心窩を含み得る。レーザー光ビームは、網膜の一部のみ、または実質的に網膜および中心窩の略全体に露光され得る。
ほとんどの処置効果は、永続的でないにしても長く続くように見えるが、臨床観察は、それが時々弱まるように見え得ることを示唆している。したがって、網膜は定期的に再処置される。これは、設定したスケジュールに従って、あるいは患者の網膜が患者の視覚的な及び/又は網膜の機能または症状を定期的にモニタリングすることなどによって再処置されると判定されるときに行われ得る。
本発明は、糖尿病性網膜症および黄斑浮腫などの、網膜疾患の処置に特に適しているが、他の疾患にも同様に使用され得ることが分かった。本発明のシステムおよびプロセスは、別のカスタマイズされた治療照射野のテンプレートによって達成される、緑内障の処置として線維柱帯を標的とし得る。さらに、開放隅角緑内障が進行した眼における、上に説明されたような、SDMを使用する網膜組織の処置は、視神経および神経節細胞の機能の主要な処置の改善を示し、これは、この処置の有意な神経保護効果を示唆している。視野も改善され、有害な処置効果はなかった。したがって、眼内圧(IOP)低下とは無関係に、視力喪失のリスクを低下させることによって、SDMは、本発明に従って、緑内障の臨床管理の助けとなり得ると考えられている。低強度/高密度の閾値以下(致死量以下)のダイオードマイクロパルスレーザー(SDM)は、上に詳細に説明されたように、有害な処置効果なしで、糖尿病黄斑浮腫、増殖性の糖尿病性網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、および網膜静脈分枝閉塞症などの、従来の網膜のレーザー指標の処置に有効であることが示された。上に記載されるように、網膜のレーザー治療の機構は、時に本明細書で「初期設定へのリセット(reset to default)」理論と呼ばれ、これは、網膜のレーザー作用の主要なモードが、網膜色素上皮(RPE)の熱ショックタンパク質の致死量以下の活性化であると仮定している。最近行われた試験も、SDMが開放隅角緑内障において神経保護的であるべきことを示している。
本発明に従って、SDM処置前に、緑内障の視神経乳頭陥凹及び/又は視野損失を有している、22人の患者(合計で43の眼)が、試験に適格であるとして特定された。最小の細隙灯照射の下では、主要な血管アーケードに取り囲まれた、中心窩を含む網膜後部全体は、810nmの波長、200UMの空中スポット(aerial spot)のサイズ、5%のデューティーサイクル、1.4ワットのパワーおよび0.15秒の持続時間のパラメーターを有するレーザー光の1500−2000の集密的なスポット(confluent spot)の適用を「塗布された(painted)」。IOPは、0−3の(平均1.3)局所用薬剤に対して6−23mm Hg(平均13)の範囲に及ぶ。患者は誰も全身性の緑内障用薬剤を使用しない。術前のスネレン視力(VA)は、20/52の中央値で指数弁までの20/15の範囲に及ぶ。
有害な処置効果は観察されなかった。スネレンVAおよびIOPは処置後に変わらなかった。SDM処置前後に視覚誘発電位(VEP)試験に加えて、眼は、臨床検査、眼底撮影、静脈内蛍光眼底造影、スペクトルのドメインの光コヒーレンストモグラフィー(OCT)、パターン網膜電図検査(PERG)、およびOmnifieldの解像視野測定(ORP)による処置前に評価された。PERG、VEP、およびORPは、SDM処置の1週間前およびSDM処置後の1か月以内に実行された。
VEPは、調査および臨床的な使用のためのFDAによって承認されたオフィスベースの市販のシステム(Diopsys(商標)NOVA−TR, Diopsys, Inc., Pine Brook, New Jersey, USA)を使用して実行された。試験は、製造業者のガイドライン(www.diopsys.com)に従って実行された。ゴールドの(Gold)アクティブ電極、接地電極、および基準電極(1cmのカップ)が、VEPを記録するために使用された。皮膚洗浄および皮膚剥削後に、電極を頭皮に接着させるために、導電性ゲルが使用された。被験体はすべて、試験前に屈折され(refracted)、検眼用縁で1メートルの試験距離のために補正された。一次視覚皮質からのVEP振幅、レイテンシ,およびアルファ波活性(8−13Hz)が、十分な試験インピーダンスの確証後の製造業者の推奨に従って置かれた、1つのグラスゴールドのアクティブチャンネル電極、1つの基準電極、および1つの接地電極を使用して測定された。電極位置を頭皮上に維持するために、弾性ヘッドバンドが使用された。その後、被験体は、顎当て/ヘッドレストを頭に装着し、眼レベルで及び中線に沿って中心にモニターの中心を見つめるように指示された。VEP測定は、散大させずに、暗くなった空間において両眼で記録された。
International Society for Clinical Electrophysiology of Visionのガイドラインに従って、市販のシステム(Diopsys(登録商標)Nova−ERG, Diopsys Corp., Pine Brook, New Jersey)の標準プロトコルを使用して、PERGが実行された。両眼が同時に試験され、個々に記録され、散大させずに、60cmの試験距離で屈折させた。すべての視覚刺激のために、25°視野を占める輝度パターンが、15Hzの輝度反転率で提供される。
周辺部網膜の感度の分析のために最適化されたPERG「同心環(Concentric Ring)」(CR)の視覚刺激が利用され、これは1輝度の輪および対照的な輝度を備えた外環を提供した。同心環の刺激は、それぞれ、16°と24°の視野を占める内輪を備えた2つのサブクラスの刺激を使用した。同心環の刺激は、100%のコントラストで117.6cd/m2の平均輝度を使用した。
患者および機器の準備を、Diopsys(商標)ガイドラインに従って実行した。信号の取得および分析は、標準的な緑内障のスクリーニングプロトコルに従った。分析に利用可能な試験指数は、「Magnitude D」、「Magnitude(μV)」、および「MagD(μV)/Mag」(μV)比率を含んだ。「Magnitude D」[MagD(μV)]は、マイクロボルト(μV)での時間領域で平均化した信号の周波数応答である。網膜内及び/又は神経節細胞の機能不全は、信号レイテンシを引き起こし、結果として、位相相殺によってMagD(μV)を減少させる大きさ及び位相の変動性をもたらす。Magnitude(μV)[Mag(μV)]は、マイクロボルト(μV)での全信号の周波数応答を測定する。Mag(μV)は、個々の試験セッションの信号強度および電極インピーダンスに加えて、網膜内および神経節の機能の総計(gross measure)を反映している。したがって、MagD(μV)/Mag(μV)比率は、その特定の試験の電気品質に正規化された患者応答の尺度(measure)を提供し、それ故、試験間の変動を最小限にする。健康な眼では、MagD(uv)は、Mag(uv)とおよそ等しくなるはずである。したがって、MagD(μV)/Mag(μV)が、1(unity)に近づけば近づくほど、網膜機能はより正常である。
Omnifieldの解像視野測定(ORP)(Sinclair Technologies, Inc, Media, Pennsylvania)は、中央の20°の直径視野のメソプティックな(mesoptic)閾値試験であり、ハンフリー視野試験で達成されるように、明所視のバックグラウンドに対する光源の検出よりもむしろ、各遮断でのランドルト「C」位置決めの正しい識別によってlogMAR視力を測定する。Omnifieldは、現実のビジョンタスクのメソプティックな環境を模倣するように意図されている。各々の症状の遮断で(presentation intercept)、ランドルトCは、4つの位置のうちの1つにおいて250ミリ秒間モニター上で光を当てられる(flashed)。患者は、応答パッド上のジョイスティックを偏向させることによって、正しい位置の認識を信号で伝える(signals)。文字サイズの閾値を判定するために、会話型アルゴリズムが、ランドルトCのサイズを調節し、それ以下では患者はもはや正確に応答することができない。試験は、固定時および10°の偏心率までの(out to)17−24の遮断時に実行される。視野試験からの転帰は、固定時での視力、固定の60(BA6°)以内の遮断時での最良の視力、全体的な黄斑の鋭敏さ(acuity)(GMA、重みが固定から逆に重みづけされたすべての遮断からの平均視力)、および視域(VA)、閾値の視力対遮断領域を示す曲線下面積、測定可能な視力の領域の尺度を含む。
図21および図22を参照すると、試験された42の眼の高コントラストの視覚誘発電位(VEP)振幅は、処置前に4.4−25.8μm(平均10.9)、および処置後に4.7−26.7μm(平均13.0)の範囲であり、平均で2.1uV、または19%の改善である。低いコントラクト振幅およびレイテンシも改善されたが、この小さなサンプルにおいて視覚的に有意ではなかった。
下記の表1は、VEP尺度の計算された差(ポストマイナス(post−minus)前処置)の概要である。
表1は、対象の共変数に対する平均と中央値の差を示す。各行は、2つのコントラストオプションでの、差(ポストマイナス前処置(post− minus pre−treatment))のAMP、またはLATを示す。平均差がゼロとは異なるかどうかを試験するために、共変数としての時間に対する指標を使用する、また左眼または右眼に合わせて調節する、およびランダムな患者遮断を含む、測定を予測する線形混合モデルを実行した。p値は、時間(前処置対後処置)回帰係数に関連した値である。有意なp値は、平均差がゼロとは著しく異なることを示す。AMPの高コントラストだけが、有意に異なる前処置対後処置である。この方法は眼間の相関性を考慮している。
以下の表2は、VEP結果の線形回帰分析を示す。
表2は、ランダムな患者の遮断とともに、共変数として前処置値を使用して、差(ポストマイナス前処置)を予測する、6つの一変量の線形混合モデルからの係数およびp値を示す。これらのモデルは、前処置値の間の関連性および前処置値と後処置値の差を示す。有意な関連性は、すべてのモデルおよび負方向で存在する。これは、平均で、前処置値が増加すると、差が減少することを示している。N=数。SD=標準偏差。VEP=視覚誘発電位。
図23および24を参照すると、PERG 240 Concentric Scan Mag(uv)振幅(42の眼)は、処置前に0.51−1.64uV(平均1.15)および処置後に0.7−1.93uV(平均1.25)の範囲に及び、平均で0.10uV(9%)(P=0.04)の改善であった。他のすべてのPERG尺度も処置後に改善されたが、この小さなサンプルにおいて有意なものではなかった。
下記の表3は、計算された差(ポストマイナス前処置)同心状リングPERG眼(Concentric ring PERG eyes)の概要である。
表3は、対象の共変数に対する平均と中央値の差(ポストマイナス前処置)を示す。平均差がゼロとは異なるかどうかを試験するために、共変数としての時間に対する指標を使用する、また左眼または右眼に合わせて調節する、およびランダムな患者妨害を含む、測定を予測する線形混合モデルを実行した。p値は、時間(前処置対後処置)回帰係数に関連した値である。有意なp値は、平均差がゼロとは著しく異なることを示す。この方法は眼間の相関性を考慮している。24度のM(uV)だけが、SDM NPT後に有意に改善したことに留意されたい。M(d)=マイクロボルト(μV)での時間領域の平均化された信号の周波数応答。M(uv)=は、個々の試験セッションの信号強度および電極インピーダンスを反映している。16度=16度の網膜刺激領域。24度=24度の網膜刺激領域。IQR=四分位範囲。SD=標準偏差。
下記の表4は、計算された差(ポストマイナス前処置(PERG)同心状リングPERG試験)の概要である。
表4は、ランダムな患者の遮断とともに、共変数として前処置値を使用して差(ポストマイナス前処置)を予測する、一変量の線形混合モデルからの係数およびp値を示す。これらのモデルは、前処置値の間の関連性および前処置値と後処置値の差を示す。有意な関連性が存在し、負方向にも存在することに留意されたい。これは、平均で、前処置値が増加すると、差が減少することを示している。M(d)=マイクロボルト(μV)での時間領域の平均化された信号の周波数応答。M(uv)=は、個々の試験セッションの信号強度および電極インピーダンスを反映している。16=16度の網膜刺激領域。24=24度の網膜刺激領域。SD=標準偏差。
図25および26を参照すると、ORP視野試験は、SDM処置前後に38/43の眼において実行された。これらの眼のうちの6つの眼(5人の患者)において、術前の20°の直径視野は、処置の前に完全且つ正常であった(4000の記録可能な視角)。99%のメソプティックなコントラストでのORPによる視域は、処置前に23−4000(平均280.70)、および処置後に51−4000(平均2400)の範囲に及び、平均で40.70(17%)(P=0.05)の改善であった。BA6°およびGMAは有意に改善されなかった。
下記の表5を参照すると、99%のコントラストでのOmnifieldの解像視野測定によって評価されたSDM NPTの結果が示される。
表5は、対象の共変数に対する平均と中央値の差(ポストマイナス前処置)を示す。平均差がゼロとは異なるかどうかを試験するために、共変数としての時間に対する指標を使用する、また左眼または右眼に合わせて調節する、およびランダムな患者妨害を含む、測定を予測する線形混合モデルを実行した。p値は、時間(前処置対後処置)回帰係数に関連した値である。有意なp値は、平均差がゼロとは著しく異なることを示す。この方法は眼間の相関性を考慮している。度の視域(VA)が、SDM NPT後に有意に改善したことに留意されたい。OMNI=Omnifieldの解像視野測定。BA 6=固定の60以内の最良のlogMAR視力。GMA=全体的な黄斑の鋭敏さ。IQR=四分位範囲。SD=標準偏差。
下記の表6を参照すると、99%のコントラストでのOmnifieldの解像視野測定によって評価された計算された差(プレマイナスのポスト(pre−minus post−))の眼の概要が示される。
表6は、ランダムな患者の遮断とともに、共変数として前処置値を使用して、差(ポストマイナス前処置)を予測する、一変量の線形混合モデルからの係数およびp値を示す。
これらのモデルは、前処置値の間の関連性および前処置値と後処置値の差を示す。有意な関連性が、すべてのモデルおよび負方向に存在することに留意されたい。これは、平均で、前処置値が増加すると、差が減少することを示している。
上に示されるように、線形回帰分析は、SDM NPT前の最大の異常値が、上記の表の示されるように、ほぼすべての尺度に対する処置後に最大に改善したことを実証している。OAGが進行した眼における、本発明に従う、汎黄斑SDM処置は、視神経および神経節細胞の機能の重要な尺度を改善し、これは、有意な神経保護の有効な処置を示唆している。視野も改善されたが、有害な処置効果はなかった。したがって、上に議論された特徴およびパラメーターを有しているマイクロパルスレーザー光ビームを生成し、レーザー光ビームを緑内障または緑内障のリスクを有している眼の網膜及び/又は中心窩の組織に適用することで、網膜及び/又は中心窩の組織を破壊する又は永続的に損傷させることなく、レーザー光ビームに露光された網膜及び/又は中心窩の組織に対する治療効果をもたらされ、眼の視神経及び/又は網膜神経節細胞の機能または状態が改善される。
視神経を構成する神経節細胞軸索の集合が内側網膜に存在すると、複合入力の他の網膜の要素とともに、および最終的に外側網膜の光受容体から、他の網膜要素に対する損傷またはその機能障害が、それ故、逆行性の視神経の機能障害および萎縮につながり得る。この理論に従うと、本発明に従う網膜への治療上の処置の提供は、視神経および神経節細胞に対する神経保護の、またはさらに治療上の利点をもたらし得る。
網膜の神経節細胞および視神経は、網膜色素上皮(RPE)の健康および機能の影響下にある。網膜の恒常性は、RPEによって「サイトカイン」と呼ばれる細胞間隙へと分泌された小さなタンパク質のよく理解されていないが精巧に複雑な相互作用を介してRPEによって主に維持される。幾つかのRPE由来のサイトカインは、色素上皮由来の因子(PEDF)のように神経保護的である。網膜のレーザー治療は、RPEサイトカイン発現を変更し得、これは、限定されないが、PEDFの発現の増大を含む。
本発明に従う、網膜損傷の欠如(SDMの効果)は、網膜機能を標準へと変更させる、「ホモトロピック(homeotrophic)」である。RPE機能を正常化することによって、続いて網膜の自己調節およびサイトカイン発現も正常化される。これは、網膜のサイトカイン発現の正常化が、OAGにおけるSDMからの神経保護効果の源であり得ることを示唆している。
網膜上の本発明に従うSDMの速効が、生理学的であり、解剖学的イメージングによって短期間で評価することができないため、PERGなどの、形態学とは無関係の網膜および視覚機能の尺度が必要とされる。PERG改善が、IOP低下に反応するOAGを有する眼において前に報告された改善との類似性を示したため、類似性は、本発明に従うSDMがOAGに対する神経保護であり得ることをさらに示唆している。
VEPは、視神経機能の最良の尺度と一般に考えられ、それ故、処置後のVEPによる視神経機能の改善は、神経保護効果の強固な指標となるだろう。PERG応答は、OAGにおいてIOP低下後に改善すると示されたが、VEP応答はそうではなかった。その後、上に示されるように、本発明による処置(SDM)後に、VEP振幅が改善されたことは注目すべきことである。さらに、網膜の後部20°の記録可能な視域も有意に改善され、そのようなORP改善は、本発明による処置および治療によって日常の視覚機能の改善に形を変え得る。
RPEの選択的な致死量以下のレーザー治療による視神経機能の改善は、OAGが少なくとも部分的に原発性網膜症であり得るという見解を支持している。REP由来の神経節細胞の向神経性(neurotrophism)の損失は、IOPとOAGの進行間の遮断の要因となり得る。本発明による、RPE機能の正常化による、レーザーに誘起されたRPE HSP活性化は、RPE由来の向神経性を正常化し、神経節細胞および視神経機能も改善するかもしれない。原発性網膜症は、OAGの幾つかの場合の根底にあり得、これは、正常な又は正常化されたIOPにもかかわらず疾患進行の要因となる。神経保護効果は、本発明による、RPEの選択的な致死量以下のSDM処置によって誘発されるように見える。
幾つかの実施形態は、例示目的で詳細に記載されているが、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、様々な変更がなされてもよい。したがって、本発明は、添付の請求項を除いて、限定されないものとする。