JP2019186133A - 燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】現実の細孔内部の状態に即したモデルを使って高精度な発電性能の予測を可能とする、燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法を提供する。【解決手段】本発明に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法では、細孔内部の液水領域および気体領域の形状を算出する第1ステップと、前記細孔内部の液水領域中のイオンの移動度を算出する第2ステップと、液水領域中および気体領域中のガスの拡散係数をそれぞれ算出する第3ステップと、前記細孔内部における液水領域および気体領域の形状を示す情報を読み込む第4ステップと、前記第2ステップで算出した前記移動度と前記第3ステップで算出した前記拡散係数とを用いて、前記第4ステップで読み込んだ情報に基づき、拡散方程式および電気化学反応式を連成して前記細孔における発電性能を予測するデータを算出する第5ステップとを含む。【選択図】図5
Description
本発明は、燃料電池の触媒層における発電性能を予測するシミュレーション方法に関するものである。
エネファームの市場拡大などの状況から、現在、燃料電池の性能向上および低コスト化に関する研究がすすめられている。そのような状況の中にあって、燃料電池システムの心臓部であるスタックまたはMEA(Membrane Electrode Assembly)の中核を担う触媒層のコントロールが重要となっており、究極的には運転条件と電池構造に基づく触媒層の最適な構造とその作成プロセスが試作なしで決定され得ることが望まれている。言い換えれば、触媒層を最適な設計とするためのシミュレーション方法の提案が強く望まれている。
一般的に、触媒層は多孔質構造を有しており、触媒金属、触媒金属を担持し電子を伝導するカーボン担体、触媒金属までプロトンを伝導する高分子電解質、および水素や酸素などのガスを拡散させる細孔から構成されている。
しかしながら、上記した構成では、プロトン伝導を担う高分子電解質が触媒金属に直接接触することにより、プロトン輸送性は担保されるものの、触媒金属が高分子電解質により被毒され触媒活性が低下するという、燃料電池の発電性能に関してトレードオフが生じるという問題がある。
そこで、触媒金属へのプロトン供給経路として高分子電解質の代わりに液水を利用する構成を想定し、細孔内部の液水中における物質輸送と電気化学特性とを算出して、細孔内部における発電性能を予測するシミュレーション方法が提案されている(例えば、非特許文献1)。
T.Muzaffar, T.Kadyk, M.Eikerling "Physical Modeling of the Proton Density in Nanopores of PEM Fuel Cell Catalyst Layers". Electrochimica Acta 245 (2017), p.1048-1058
本発明は、一例として、現実の細孔内部の状態に即したモデルを使って高精度な発電性能の予測を可能とする、燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法を提供することを課題とする。
本発明に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法の一態様は、上記した課題を解決するために、細孔内部の液水領域および気体領域の形状を算出する第1ステップと、前記細孔内部の液水領域中のイオンの移動度を算出する第2ステップと、液水領域中および気体領域中のガスの拡散係数をそれぞれ算出する第3ステップと、前記細孔内部における液水領域および気体領域の形状を示す情報を読み込む第4ステップと、前記第2ステップで算出した前記移動度と前記第3ステップで算出した前記拡散係数とを用いて、前記第4ステップで読み込んだ情報に基づき、拡散方程式および電気化学反応式を連成して前記細孔における発電性能を予測するデータを算出する第5ステップと、を含む。
本発明は、以上に説明したようなステップを含み、現実の細孔内部の状態に即したモデルを使って高精度な発電性能の予測を可能とするという効果を奏する。
本発明者らは、上記した燃料電池の発電性能に関するトレードオフの問題について鋭意検討を行った結果、以下の知見を得た。
まず、この上記したトレードオフ問題を解決する構成として、以下の構成を提案することができる。すなわち、高分子電解質が小さな細孔には浸入することができないという性質を利用して、カーボン担体自身が持つ細孔内部に触媒金属を担持させ、高分子電解質の代わりに細孔内部の液水を触媒金属へのプロトンの供給経路として利用する構成である。このように構成することで、高分子電解質と触媒金属とが直接接触することを防ぐことができ、触媒金属の活性低下を抑制することができる。
ただし、細孔内部の液水内における物理現象には未だ未解明な点も多く存在し、それゆえ発電性能を向上させるために最適となる細孔の条件を定量的に予測するための新たなシミュレーション方法の開発が必要となる。特に発電性能に大きく関わる細孔内部における物質輸送性について定量的に予測することができるシミュレーション方法の開発が重要となってくる。
例えば、上記した非特許文献1では、触媒金属へのプロトン供給経路として液水を利用した場合における細孔内部の物質輸送と電気化学特性とを算出するシミュレーション方法が提案されている。非特許文献1では、このシミュレーション方法によって細孔内部における発電性能を予測する。
ところで、非特許文献1では、高分子電解質で形成される細孔内部に円柱状の触媒金属が存在する系において、細孔内部が全て水で満たされ、その中をプロトンが伝導することを仮定している。しかしながら、現実の系においては、細孔内部が全て水で満たされるか否かは定かではなく、気体と液体とが共存する可能性も十分に考えられる。よって、細孔内部において気体と液体とが共存する場合は、プロトンは液水領域を、酸素などのガスは気体領域を優先的に移動するため、液水領域および気体領域の割合、ならびに各領域の形状を反映した物質輸送特性を算出し、発電性能を求める必要があるという問題点を本発明者らは見出した。
上記した本発明者の知見は、これまでは明らかにされていなかったものであり、新規な技術的特徴を有するものである。本発明では具体的には以下に示す態様を提供する。
本発明の第1の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、細孔内部の液水領域および気体領域の形状を算出する第1ステップと、前記細孔内部の液水領域中のイオンの移動度を算出する第2ステップと、液水領域中および気体領域中のガスの拡散係数をそれぞれ算出する第3ステップと、前記細孔内部における液水領域および気体領域の形状を示す情報を読み込む第4ステップと、前記第2ステップで算出した前記移動度と前記第3ステップで算出した前記拡散係数とを用いて、前記第4ステップで読み込んだ情報に基づき、拡散方程式および電気化学反応式を連成して前記細孔における発電性能を予測するデータを算出する第5ステップと、を含む。
上記シミュレーション方法によると、第1ステップを含むため、現実の細孔内部の状態を模擬したモデルとして、細孔内部に液水領域と気体領域とが共存した形状のモデルを得ることができる。
さらにまた、第2ステップ〜第5ステップを含むため、細孔内部の液水領域および気体領域の形状を示す情報を、拡散方程式および電気化学反応式を連成した計算モデルに組み込み、細孔内部に液水領域および気体領域が共存している系の発電性能を予測するデータを算出することができる。
よって、第1の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、現実の細孔内部の状態に即したモデルを使って高精度な発電性能の予測を可能とするという効果を奏する。
また、本発明の第2の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1の態様において、前記第1ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記細孔内部の前記液水領域の形状を算出してもよい。
また、本発明の第3の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1または第2の態様において、前記第2ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記イオンの移動度を算出してもよい。
また、本発明の第4の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第3のいずれか1つの態様において、前記第3ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記液水領域中および前記気体領域中の前記ガスの拡散係数をそれぞれ算出してもよい。
また、本発明の第5の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第4のいずれか1つの態様において、前記イオンはヒドロニウムイオンであってもよい。
また、本発明の第6の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第5のいずれか1つの態様において、前記ガスは酸素であってもよい。
また、本発明の第7の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第6のいずれか1つの態様において、前記液水領域が水分子で構成されていてもよい。
また、本発明の第8の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第7のいずれか1つの態様において、前記細孔は、前記燃料電池の触媒層を構成するカーボン担体における細孔であってもよい。
また、本発明の第9の態様に係る燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法は、上記した第1から第8のいずれか1つの態様において、前記第5ステップにおいて、前記燃料電池を発電させる際に細孔内に供給されるガスの濃度およびイオンの濃度、ならびに任意のイオンの電位それぞれの値を初期値として設定し、この初期値に基づき前記拡散方程式および電気化学反応式を連成して算出した前記細孔内部の電流値が、所定の電流値と一致するまで、前記初期値で設定した前記イオンの電位の値を再設定してもよい。
上記シミュレーション方法によると、細孔内部の電流値が所定の電流値になったときのイオンの電位の値を設定値として得ることができる。このため、例えば、物質輸送性(酸素の拡散係数、ヒドロニウムイオンの移動度等)に無限に大きくなる値を設定し、その時の電位を得る。そして、この得られた電位を基準として、例えば、拡散の遅さに起因してどれだけ電位が低下するかといった、物質輸送性と電位の低下との関係について予測することができる。よって、燃料電池の発電性能を予測することができる。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一または対応する構成部材には同一の参照符号を付して、その説明については省略する場合がある。
まず、本発明の実施の形態に係る燃料電池の電極触媒層材料となるカーボン担体3の構成について図1を参照して説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池の電極触媒層材料となるカーボン担体3の構成の一例を示す模式図である。なお、図1では、説明の便宜上、カーボン担体3内には円筒形状の1つのカーボン細孔5が形成されているが、形成されるカーボン細孔5の数は複数であってもよく、形状は必ずしも円筒形状である必要はない。
図1に示すようにカーボン担体3は、その外周面は高分子電解質1により覆われる一方、内部にナノスケールオーダーのカーボン細孔5を有している。カーボン細孔5は、その内部に触媒金属2が備えられている。また、カーボン細孔5内は、液水領域4および気体領域6が混在している。このように、実施の形態に係るカーボン担体3は、カーボン細孔5に触媒金属2を内包し、高分子電解質1と触媒金属2とが液水領域4で一部繋がった構成となっている。
この構成により、実施の形態に係るカーボン担体3は、高分子電解質1と触媒金属2とが直接接触することを防ぎ、触媒金属2の活性低下を抑制できる。なお、例えば、固体高分子型燃料電池のカソード側の電極触媒層では、一般的にはプロトンは高分子電解質1中を通り触媒金属2へ供給されるが、本発明の実施の形態では、カーボン担体3のカーボン細孔5においては、プロトンが、高分子電解質1から液水領域4を介して触媒金属2へ到達する構成となっている。
上記した構成を有するカーボン担体3に対して、実施の形態に係るシミュレーション方法では、カーボン細孔5内部において液水領域および気体領域を含むような、より現実的な系を想定し高精度な発電性能の予測を行う。
実施の形態に係るシミュレーション方法は、主として、分子動力学計算によりカーボン細孔5内の液水領域4の形状と、プロトンおよび酸素の輸送特性とを算出するステップ(1)と、ステップ(1)で求めた液水領域4の形状とプロトンおよび酸素の輸送特性とを使用して、拡散方程式と電気化学反応式とを連成することで、発電性能を予測するためのデータを算出するステップ(2)とを含む。
ここで、ステップ(1)において算出するプロトンおよび酸素の輸送特性とは、具体的にはプロトンの移動度と、酸素の液水領域4における拡散係数および気体領域6における拡散係数とが挙げられる。また、ステップ(2)において発電性能を予測するためのデータとは、プロトンの電位、プロトン濃度、および酸素濃度が挙げられる。
なお、このシミュレーション方法は、例えば、演算部(不図示)とメモリ(不図示)とを備えたシミュレーション装置(不図示)が、メモリに格納されたプログラムを読み出し実行することで実現されてもよい。
[カーボン細孔内の液水領域の形状と、プロトンおよび酸素の輸送特性とを算出するステップ;ステップ(1)]
まず、上記した図1に加え、図2、3を参照して、ステップ(1)について説明する。図2は本発明の実施の形態に係るカーボン細孔5内部における液水領域4の一例を示す模式図である。図2では、分子動力学計算により算出した、定常状態時の、カーボン細孔5内部に形成された液水領域4と、この液水領域4内を通るヒドロニウムイオンの状態とを模式的に表している。
まず、上記した図1に加え、図2、3を参照して、ステップ(1)について説明する。図2は本発明の実施の形態に係るカーボン細孔5内部における液水領域4の一例を示す模式図である。図2では、分子動力学計算により算出した、定常状態時の、カーボン細孔5内部に形成された液水領域4と、この液水領域4内を通るヒドロニウムイオンの状態とを模式的に表している。
また、図3は本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法において、酸素の拡散係数を算出する際に使用する計算モデルの一例を示す模式図である。本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法では、図3に示す計算モデルを用いて、液水領域4内および気体領域6内それぞれに酸素分子を挿入して、時間発展させ、そのトラジェクトリから液水領域4および気体領域6それぞれにおける酸素の拡散係数を算出する。
ステップ(1)における分子動力学計算には、例えば、材料物性解析ソフトウェアとして知られるJ−OCTA(登録商標)を用いることができる。最初に、酸素分子、水分子、ヒドロニウムイオン、およびグラファイトそれぞれに、適切な力場および電荷を設定する。力場および電荷は任意に設定してもよいが、信頼性の高い力場および電荷を用いることが好適である。信頼性の高い力場としては、例えば、汎用力場(例えば、有機分子であればAMBER、DREIDING、OPLS、水分子であればSPCEなど)または文献値を採用してもよい。また、信頼性の高い電荷としては、分子軌道法などの電荷数値計算法により算出された値を採用してもよいし、文献値を採用してもよい。そして、実際の系における、例えば密度や拡散係数などの物性値の再現性を確認する計算を行って、設定する力場および電荷の妥当性を判断することが好適である。
さらにまた、考慮すべき結合相互作用としては、一般的には結合伸縮ポテンシャル、結合角ポテンシャル、捩れ角ポテンシャル、非結合相互作用としてVanderWalls相互作用、およびCoulomb相互作用等が挙げられる。
上記したように設定された力場および電荷に基づき、各粒子(原子)が持つエネルギーが粒子(原子)間距離に応じて変化することで、結合相互作用および非結合相互作用が発生し、粒子(原子)座標が変化する。実施の形態では、分子動力学計算を用いて、これら粒子(原子)の座標位置の変化を計算し、この計算を繰り返し時間発展させていき、これら粒子(原子)の座標位置の経時変化を示す座標データを得る。
次に、グラファイトから図1に示すカーボン細孔5を模擬したモデル作成する。なお、このモデルでは、カーボン細孔5は、直径が10nmの円筒形とし、深さ方向の寸法を10nmとする。また、周期境界条件を深さ方向に課すことにより、直径10nmの無限に深い穴を模擬することが可能となる。
図1に示すモデルでは、カーボン細孔5の内部において、液水領域4と気体領域6とが共存した状態を模擬するために、例えば液水領域4が占める密度がバルク状態の水密度の半分になるような数の水分子、およびヒドロニウムイオンをランダムに挿入する。また温度をT=353[K]に設定し、NVTアンサンブルによって時間発展させ、粒子(原子)のエネルギーが時間に対し変化しなくなるまで緩和計算を行う。これによりカーボン細孔5の内部において、図2に示すような水分子およびヒドロニウムイオンそれぞれの座標位置が変化しなくなった定常状態の液水領域4を形成することができる。なお、このNVTアンサンブルによる計算処理によって本発明の第1ステップを実現する。
さらに、図2に示す液水領域4の状態から十分な時間平均をとるために、追加で数ns時間発展させ、ヒドロニウムイオンの酸素原子における孔深さ方向のトラジェクトリを取得する。この取得したトラジェクトリから平均二乗変移を算出して、ヒドロニウムイオンの孔深さ方向における1次元拡散係数を求め、例えばネルンストーアインシュタイン式により拡散係数から移動度μ[m2/V/s]を算出する。なお、この移動度μの算出処理によって本発明の第2ステップを実現する。
次に、図3に示すように液水領域4の酸素分子および気体領域6の酸素分子それぞれの拡散係数を算出する。具体的には、バルク液水の密度となる数の水分子を挿入したセル、ならびに真空状態のセルに酸素分子1気圧分をランダムに挿入したセルについて、温度をT=353[K]に設定し、NVTアンサンブルにより時間発展させて、酸素原子のエネルギーが時間に対し変化しなくなるまで緩和計算を行う。さらにまた、十分な時間平均をとるために追加で数ns時間発展させ、酸素原子の平均二乗変移を算出して、酸素分子の拡散係数を求める。なお、この酸素分子の拡散係数を求める処理によって本発明の第3ステップを実現する。
以上のようにステップ(1)では、定常状態の液水領域4が形成されたカーボン細孔5内部を模擬したモデルを作成することができる。換言すると、定常状態におけるカーボン細孔5内部の水分子およびヒドロニウムイオンの座標データを得ることができる。さらに、液水領域4におけるプロトンの移動度、液水領域4の酸素分子の拡散係数、気体領域6の酸素分子の拡散係数それぞれを求めることができる。
[拡散方程式と電気化学反応式とを連成することで、発電性能を予測するためのデータを算出するステップ;ステップ(2)]
まず、ステップ(2)の計算により発電性能を予測する際に用いるモデルについて図4を参照して説明する。図4は本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法によって発電性能を予測する際に使用するモデルの一例を示す模式図である。図4に示すモデルは、直径が10nm、深さが200nmのストレートなカーボン細孔5の内部に液水領域4および気体領域6を有している。
まず、ステップ(2)の計算により発電性能を予測する際に用いるモデルについて図4を参照して説明する。図4は本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法によって発電性能を予測する際に使用するモデルの一例を示す模式図である。図4に示すモデルは、直径が10nm、深さが200nmのストレートなカーボン細孔5の内部に液水領域4および気体領域6を有している。
図4に示すように、カーボン細孔5の上部には高分子電解質1が存在し、ここから酸素とプロトンとがカーボン細孔5内部に供給される。図4において、高分子電解質1と液水領域4および気体領域6との境界をなす面が境界面7となり、カーボン細孔5と液水領域4との境界をなす面が境界面8となり、液水領域4と気体領域6との境界をなす面が境界面9となり、カーボン細孔5の下部面が境界面10となっている。図2における細孔中心13を含む平面が境界面10に対応する。なお、境界面7、境界面8、および境界面10の内側の領域のみが、本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法における実際の計算領域である。本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法ではカーボン細孔5内部には触媒金属2が存在しておらず、発電は境界面8で均一に行われるものとして定常状態における計算を行うものとする。
この図4に示すモデルに基づき、ステップ(2)では、具体的には図5に示す処理を実施する。図5は、本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法によって発電性能を予測する方法の一例を示すフローチャートである。図5に示すように、本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法によって発電性能を予測する方法では、以下のステップを含む。
すなわち、カーボン細孔5内の構造の2値化を行うステップ(ステップS61)、2値化したデータを読み込むステップ(ステップS62)、初期値を設定するステップ(ステップS63)、設定した初期値に基づき拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を行うステップ(ステップS64)、連成計算にて求めた電流量が変化しなくなったか否か判定するステップ(ステップS65)、求めた電流量が設定値と一致するか否か判定するステップ(ステップS66)、ステップS66において電流量が設定値と一致しないと判定された場合(ステップS66において「NO」)、ニュートン法を用いて、高分子電解質1中のプロトンの電位を再設定するステップ(ステップS67)を含む。なお、ステップS61およびステップS62により本発明の第4ステップを実現する。また、ステップS63〜ステップS67により本発明の第5ステップを実現する。
まず、ステップS61において、ステップ(1)で得られたカーボン細孔5内部の水分子およびヒドロニウムイオンの座標データを基に、カーボン細孔5内部の構造の2値化を行う(ステップS61)。この2値化は、例えば、以下のように実施してもよい。すなわち、カーボン細孔5内部の空間を1辺が0.2nmの立方体となるセルによってxyz方向に分割し、セル内に、水分子、ヒドロニウムイオンの酸素原子、およびヒドロニウムイオンの水素原子のいずれか1つでも含まれていれば、そのセルは液水領域4とみなし「1(液体)」を与え、それ以外のセルについては「0(気体)」を与える。
以上のようにしてカーボン細孔5内部の構造の2値化を行うと、次に、この2値化したデータの読み込みを行う(ステップS62)。具体的には、この2値化データを、拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を行うプログラムを実行する、例えば本発明の実施の形態に係るシミュレーション装置が読み込んで解析領域として用いてもよい。つまり、シミュレーション装置は、読み込んだ2値化データにおいて、値が1の領域には液水領域4における物性値およびモデルを、値が0の領域には気体領域6における物性値およびモデルをそれぞれ適用することで、液水領域4および気体領域6が共存していても発電性能を算出することが可能となる。
ステップS62において2値化データの読み込みが完了すると、初期値の設定を行う(ステップS63)。ここで設定する初期値とは、酸素濃度、プロトン濃度、プロトン電位である。なお、カーボン細孔5内は等電位となるように設定されている。具体的には、図4に示すモデルでは、境界面7から酸素およびプロトンが供給されることとなるが、この境界面7に設定する酸素濃度は、実際に燃料電池を発電させる際に電極触媒層に供給される値とする。また、境界面7に設定するプロトン濃度は、相対湿度100%におけるNafion(登録商標)膜における値とする。プロトン電位は、任意の値、例えば0.5[V]を設定してもよい。境界面7以外のその他の領域については任意の値、例えば境界面7と同じ酸素濃度、プロトン濃度、プロトン電位を設定してもよい。また、カーボン細孔5内部での目標とする電流量を設定する。この設定された電流量と、後述するステップS64の計算で得られる電流量とが一致すれば、カーボン細孔5内部は求める発電状態になっていると判断できる。
以上のようにステップS63で初期値を設定すると、次に、拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を行う(ステップS64)。図4に示すモデルにおいて境界面7から供給される酸素は、気体領域6および液水領域4の内部を移動し、プロトンは液水領域4を移動する。また、拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を行う際、図4に示すモデルにおけるそれぞれの界面で以下の数式(5)〜数式(7)の接続条件を課し、以下の数式(1)〜数式(4)を満たすように計算を実施する。つまり、燃料電池の発電時における物質(酸素およびプロトン)の挙動は以下のアンペールの法則を示す数式(1)、マクスウェル-ガウス則を示す数式(2)、バトラーボルマー式を示す数式(3)、フィックの拡散方程式を示す数式(4)によって記述することができる。つまり、数式(1)と数式(2)とによってプロトンの電気的動きをモデル化し、数式(3)と数式(4)とによって液水領域4および気体領域6における酸素の拡散をモデル化する。
なお、数式(1)において、μH+[m2/V/s]は分子動力学計算から決定される細孔内部のヒドロニウムイオンの移動度、CH+[mol/m3]はヒドロニウムイオン濃度、F[C/mol]はファラデー定数、φH+[V]はプロトン電位、DH+[m2/s]はヒドロニウムイオンの拡散係数を表す。
また、数式(2)において、ε[F/m]は誘電率を表す。
また、数式(3)において、i[A/m2]は電流密度、iref[A/m2]は参照交換電流密度、CO2[mol/m3]は酸素濃度、CO2 ref[mol/m3]は参照酸素濃度、α[−]は移動係数、R[J/K/mol]は気体定数、T[K]は温度、φeq[V]は平衡電位、φe−[V]は電子電位、φH+[V]はプロトン電位を表す。
また、数式(4)において、J[mol/s/m2]は流速、DO2[m2/s]は酸素の拡散係数を表す。
一方、カーボン細孔5と液水領域4との境界をなす境界面8では、電束密度、流束の連続性から接続条件(数式(5))を適用する。
また、液水領域4と気体領域6との境界をなす境界面9では、電束密度、流束の連続性から接続条件(数式(6))を適用する。この境界面9では電流が発生しないため、数式(6)の2つ目の式の右辺はゼロとなる。
また、カーボン細孔5の下部面である境界面10では、系の対称性により接続条件(数式(7))を適用する。すなわち、境界面10は図2における細孔中心13を含む平面であり、電位、プロトン濃度、酸素濃度はそれぞれ勾配がないためそれぞれの右辺はゼロとなる。
なお、数式(5)〜(7)において、εc[F/m]は、カーボンにおける誘電率、εw[F/m]は水における誘電率、ε0[F/m]は真空における誘電率、φb[V]は各境界面における電位、φc[V]はカーボン細孔5における電位、φw[V]は液水領域4における電位、φg[V]は気体領域6における電位、CH+,b[mol/m3]は各境界面におけるプロトン濃度、CO2,b[mol/m3]は各境界面における酸素の濃度、CO2,w[mol/m3]は液水領域4における酸素濃度、CO2,g[mol/m3]は気体領域6における酸素濃度、DO2,w[m2/s]は液水領域4における酸素拡散係数、DO2,g[m2/s]は気体領域6における酸素拡散係数をそれぞれ表す。
なお、数式(1)〜数式(7)で用いられる変数および定数を以下の表1にまとめて示す。
上記したステップS64における拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を行うと、計算開始直後はステップS63で設定された初期値に依存した発電状態になるが、連成計算を反復計算することで、境界面7に設定した酸素濃度、プロトン濃度、プロトン電位、及び数式(5)〜数式(7)の接続条件に基づいた発電状態に物理量が収束する。
次のステップS65では、ステップS64における拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を反復計算しながら電流量の変化を判定する。ここで、今回の計算ステップで求めたカーボン細孔5内部の電流量の値が、前の計算ステップで求めたカーボン細孔5内部の電流量の値から変化していないと判定した場合(ステップS65において「YES」)、次のステップS66の処理に進む。一方、今回の計算ステップで求めたカーボン細孔5内部の電流量の値が、前の計算ステップで求めたカーボン細孔5内部の電流量の値から変化していると判定した場合(ステップS65において「NO」)、ステップS64における拡散方程式および電気化学反応式の連成計算を継続する。
ステップS66では、ステップS63で設定した、目標とするカーボン細孔5内部の電流量と、ステップS64における計算で得られる電流量とが一致するか否かを判定する。この判定において比較する電流量同士に差がないと判定した場合、もしくは差が十分に小さい所定の値以下であると判定した場合、比較する2つの電流量が一致したと判定する(ステップS66において「YES」)。そして、ステップS66において「YES」と判定すると、発電性能を予測するためのデータを算出するステップ(2)を終了する。このステップ(2)によって、任意の発電状態におけるカーボン細孔5内部の電位、プロトン濃度、酸素濃度を算出することができる。このため、任意の発電状態における発電性能を予測することができる。特に、ステップ(2)はステップ(1)で求めたカーボン細孔5内の液水領域4の形状を示す2値化データを読み込んで実施しているため、例えば、所望の発電性能を実現する、カーボン細孔5内の水の量等とカーボン細孔5の構造との関係を予測することもできる。
したがって、実施の形態に係るカーボン担体3を、例えば、燃料電池の電極触媒層に用いる場合、燃料電池触媒層の最適な構造とその作成プロセスが試作なしで決定することができるため、燃料電池触媒層の性能向上、コスト削減、および開発期間の削減を図ることが可能となる。
一方、比較する2つの電流量が一致しないと判定する場合(ステップS66において「NO」)、高分子電解質1におけるプロトンの電位を再設定する(ステップS67)。そして、ステップS63からの処理を繰りかえす。すなわち、ニュートン法のプロセスに基づき、境界面7でのプロトンの電位を更新し、拡散方程式および電気化学反応の連立計算を再度、行う。
なお、本発明の実施の形態に係るシミュレーション方法では、カーボン細孔5内に供給されるガスとして酸素分子を、イオンとしてヒドロニウムイオンを例示して説明したがこれらに限定されるものではない。例えば、水酸化物イオン伝導型の燃料電池では、イオンは水酸化物イオンであってもよい。また、燃料電池のアノード側の電極触媒層におけるカーボン細孔5内を模擬する場合は、ガスは例えば、水素分子であってもよい。
本発明は、現実の細孔内部の状態に即したモデルを使って細孔内部の物質輸送性をシミュレーションにより求める際に広く適用することができる。
1 高分子電解質
2 触媒金属
3 カーボン担体
4 液水領域
5 カーボン細孔
6 気体領域
7 境界面
8 境界面
9 境界面
10 境界面
2 触媒金属
3 カーボン担体
4 液水領域
5 カーボン細孔
6 気体領域
7 境界面
8 境界面
9 境界面
10 境界面
Claims (9)
- 細孔内部の液水領域および気体領域の形状を算出する第1ステップと、
前記細孔内部の液水領域中のイオンの移動度を算出する第2ステップと、
液水領域中および気体領域中のガスの拡散係数をそれぞれ算出する第3ステップと、
前記細孔内部における液水領域および気体領域の形状を示す情報を読み込む第4ステップと、
前記第2ステップで算出した前記移動度と前記第3ステップで算出した前記拡散係数とを用いて、前記第4ステップで読み込んだ情報に基づき、拡散方程式および電気化学反応式を連成して前記細孔における発電性能を予測するデータを算出する第5ステップと、
を含む、燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。 - 前記第1ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記細孔内部の前記液水領域の形状を算出する請求項1に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記第2ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記イオンの移動度を算出する請求項1または2に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記第3ステップにおいて、分子動力学計算を用いて前記液水領域中および前記気体領域中の前記ガスの拡散係数をそれぞれ算出する請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記イオンはヒドロニウムイオンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記ガスは酸素である、請求項1から5のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記液水領域が水分子で構成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記細孔は、前記燃料電池の触媒層を構成するカーボン担体における細孔である、請求項1から7のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
- 前記第5ステップにおいて、前記燃料電池を発電させる際に細孔内に供給されるガスの濃度およびイオンの濃度、ならびに任意のイオンの電位それぞれの値を初期値として設定し、この初期値に基づき前記拡散方程式および電気化学反応式を連成して算出した前記細孔内部の電流値が、所定の電流値と一致するまで、前記初期値における前記イオンの電位の値を再設定する請求項1から8のいずれか1項に記載の燃料電池の発電性能を予測するシミュレーション方法。
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CN111445959A (zh) * | 2020-01-16 | 2020-07-24 | 华中科技大学 | 一种液态金属电池仿真模型的构建方法 |
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CN114091980A (zh) * | 2022-01-14 | 2022-02-25 | 国网浙江省电力有限公司 | 基于分布式监测的碳排放量计算方法、装置及存储介质 |
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2018
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