JP2019177309A - GaN化合物および光触媒材料 - Google Patents

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睦生 竹永
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仁 岩崎
茄奈 石居
Kana Ishii
茄奈 石居
大智 尾▲崎▼
Daichi Ozaki
大智 尾▲崎▼
啓宏 植村
Akihiro Uemura
啓宏 植村
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Hirotaka Matsuda
洋尚 松田
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Abstract

【課題】製造コストが低く、紫外光および可視光の両方に反応する炭素で置換してなるGaN化合物を提供すること。【解決手段】GaN化合物は、GaNの元素Gaと元素Nのいずれかおよび両方のそれぞれ一部を炭素で置換してなる。【選択図】図5

Description

本発明は、GaN化合物、該GaN化合物を含有する光触媒材料、および光触媒デバイスに関する。
光触媒の研究の歴史は古い。東京大学の藤島昭、本多健一、菊池真一は、1969年、雑誌工業化学に、光触媒に関する国内最初の論文を発表した。材料は、酸化チタンである。次いで、1972年、藤嶋、本多が酸化チタンの光触媒作用を世界的学術雑誌に発表して、大きな話題となり、日本で生まれた世界的技術と大いに期待された(非特許文献1)。その後、酸化チタンを代表とする光触媒は、環境浄化材料として我々の身近に広く利用されてきた。酸化チタンは、光によって触媒中に励起された正孔と電子が、それぞれ非常に強い酸化力と還元力を持つことを利用して、有害物質の分解による無害化、水の分解による水素と酸素の発生を行うことができる。酸化チタンのような半導体光触媒は伝導帯と価電子帯が禁制帯で隔てられたエネルギーバンド構造を有する。光触媒にバンドギャップ以上のエネルギーを持った光を照射すると、価電子帯の電子は伝導帯に励起され、価電子帯には正孔が生成される。伝導帯に励起された電子は価電子帯に存在したときよりも還元力が強くなり、正孔は強い酸化力を持つ。
これまでに研究されている半導体光触媒の代表は酸化チタンTiO2である。半導体光触媒による水からの直接水素製造の契機は、1970年代の本多、藤島の研究である(非特許文献1)。TiO2光電極とPt電極からなる光化学電池のTiO2極に光を照射することにより、水を直接光分解して水素を発生させることができることを示した。地表に到達する太陽光は可視光の500nm付近に放射の最大強度をもっている。しかし、TiO2はバンドギャップが3.2eVであるため、光触媒機能は高いが、390nm以下の波長を持つ紫外光領域でのみ活性であり、太陽光の一部しか利用できないという課題がある。さらに現在の中心的用途である、減菌、滅菌、抗菌などでは、蛍光灯やLED照明などの可視光への応答性が極めて重要である。たとえば、手術室の減菌、滅菌のために紫外光源を設置することには制限が多く、現在の光触媒材料の適用は難しい。これらの光源を使用可能とする新たな材料の提供が必要である。
酸化チタンTiO2では、活性酸窒化物で光吸収波長を長波長側にシフトさせる方法が提案されている。例えば、酸化チタンTiO2の表面に、酸化チタン以外の酸点をもつ金属酸化物(酸化タングステンWO3)を配する例や(特許文献1)、別の従来例として、Ti-O-N(特許文献2)、また、CrおよびNを含有させたTi-Cr-O-N膜はバンドギャップ内に新たな準位を形成し、TiO2 、Ti-O-N、Ti-O-Sの場合よりも400〜500nmの長波長領域において光吸収係数が大きい(特許文献3)などの従来例が知られる。しかし、これらの従来例では、生産効率および触媒性能が不十分でいずれも実用化に至っていない。
酸化チタンTiO2以外では、窒化物半導体を用いたものが提案されている。GaNおよびGaNにInNを混合したGaN光触媒も光触媒活性を有し研究されているが、GaN光触媒では光触媒活性を示すのは紫外光領域のみであり、InNを混合したGaN光触媒ではより可視光側で光触媒活性を示すが、バンドギャップに対応した波長近傍のみの光吸収が大きくなるだけであり、より広い波長領域での光触媒活性を高めるためには、多層構造であるタンデム構造という複雑な構造を採らなければならない(特許文献4)。
また、窒化物半導体極として、インジウム(In)、ガリウム(Ga)およびアルミニウム(Al)から成る群から選択される一つ以上のIII族元素と窒素(N)から構成される化合物を用いたガス発生装置が提案されている(特許文献5)。特許文献5の窒化物半導体は一般式:AlXInY Ga1-X-YN(但し、0≦X≦1かつ0≦Y≦1かつX+Y≦1)で示される化合物であり、上記窒化物半導体のバンドギャップは組成により1.9eVから6.2eVまで可変制御でき、そのバンドギャップに依存して紫外光から波長650nmまでの波長の光を吸収することが可能である。
加えて、p型GaNを用いた、またはp型GaNにRuO2等の助触媒を担持させた水分解触媒が提案されている(特許文献6)。活性な波長は400nm以下であり、太陽光のエネルギーの40%を超える可視光領域である360〜830nm全域での吸収が大きいものはなく、やはり太陽光のエネルギー利用効率は低いという課題は解決されていない。また、300〜1500nmの波長帯域での光吸収係数は、GaNの場合では最小値が600〜700cm-1程度、AlNの場合では200〜300cm-1程度と小さな値しか実現できていない(例えば非特許文献2)。
図1Aおよび1Bに、GaN半導体のバンド構造と太陽光の波長・エネルギー分布をそれぞれ示す。GaNは、ワイドバンドギャップ半導体として知られ、価電子帯と伝導帯の間に電子の存在を許さない禁制帯が存在する。この禁制帯中に水素を生成するエネルギーレベルと酸素を生成するエネルギーレベルを有し、光触媒としてのすぐれた素質をもつと期待される。また、GaNは、Cr、Fe、Coなどの3d金属を適量添加すると、禁制帯中に中間バンドを形成することが報告されている。
具体的には、A. Luque らが、GaNのようなワイドバンド半導体の禁制帯中に中間バンドを形成すると、紫外光および可視光、赤外光の広い範囲の光に対して応答性が出る可能性があることを第一原理計算により推定した(非特許文献3,4)。
特許文献7は、GaNおよびAlGaN材料を用いた光触媒材料および光触媒デバイスに関する。
特開2002-126517号公報 特開2002-095976号公報 特開2001-205104号公報 特開2000-271486号公報 国際公開WO2005/089942号パンフレット 特開2003-024764号公報 特許第5885622
Nature, 238, 37(1972) Appl. Phys. Lett., 81, 5159 (2002) Physical Review Letters, 78, 5014 - Published 30 June 1997 Nature Photonics 6, 146-152 (2012)
光触媒の市場は、2020年に全世界で3000億円程度まで成長すると考えられている。1969年に世界で初めて発表され、世界的規模で実用化の努力が重ねられてきたし、究極の新エネルギー変換システムと期待されてきたが、実際は一部の応用にとどまっている。
図1Aに示すように、GaNの禁制帯中に中間バンドが形成されると、太陽光の波長分布(図1B)中で、紫外光のみならず可視光および赤外光による励起が可能となり、太陽電池、光触媒デバイスの大幅な効率改善が期待できる。
しかしながら、現在の光触媒の中心的な応用は、太陽電池や水の分解による水素の生成ではなく、防曇、減菌、滅菌、抗菌など、カビ成分、有害物の分解や、不快な臭い成分を分解除去することにあるが、上記の先行技術文献はGaN化合物に中間バンドを形成して光触媒材料による有機化合物の分解性能を高めることについては取り組んでいない。これらの用途において、現在中心的な光触媒であるTiO2は、白色塗料として用いられているため用途が限られている。また、TiO2は可視光域での応答性が不足しており、これらの問題の解決が期待されている。
屋外、屋内で広く使用されるような光触媒を開発、商用化するには、(1)低コストを実現できる材料であること、(2)紫外光領域だけでなく可視光領域で応答する、すなわち一般の蛍光灯、LED照明などに反応する素材であること、(3)シンプルな製造法で製造可能であること、(4)水中で光照射しても材料劣化がないか極めて少ないこと、等の条件を満たす材料が必要である。上記の条件を満たす様々な試みがなされているが、背景技術で述べたように、実用可能な技術は未だ見出されていないのが現状である。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、真空を要するなどの理由から本質的に製造コストを押し上げるプロセスを必要としない化学合成法で製造可能であって、かつ紫外光および可視光の両方に反応する光触媒材料およびそれを用いた光触媒デバイスを提供することを目的とした。このような光触媒材料は、水中で光照射しても材料劣化がないか極めて少ないことや、塗料材料としての有用性が期待できる多色性を有することがさらに求められ得る。
本発明は、上記課題を解決するため、様々な研究を実施した結果、酸化ガリウムGa2O3と炭素の供給源とを共存させた出発材料をアンモニアガスNH3中もしくはアンモニアガスNH3と窒素ガスN2の混合ガス中で、高温加熱することで窒化して得られる生成物、およびかかる生成物を大気中で焼成して余分の炭素を除去するとともに、表層部に酸化ガリウム薄層を形成して得た生成物が、紫外光並びに可視光照射で優れた有機化合物の分解性能を発現することを見出して、本発明を完成させたものである。
すなわち本発明は、以下の項に記載の主題を包含する。
[1]GaNの元素Gaと元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物。
[2]粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅が0.19以下であることを特徴とする[1]に記載のGaN化合物。
[3]粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅が0.15以下であることを特徴とする[1]に記載のGaN化合物。
[4]表層部に酸化ガリウム層を備えていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のGaN化合物。
[5]粉末X線回折の最大ピークの半値幅が0.14以下であり、表層部にGa2O3層を備えていることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のGaN化合物。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載のGaN化合物を含有する光触媒材料。
[7]前記GaN化合物が粉体の形状である[6]に記載の光触媒材料。
[8][6]または[7]に記載の光触媒材料を備えた光触媒デバイス。
[9]1種類または2種類以上の[1]〜[5]のいずれかに記載のGaN化合物の粉体、または[6]または[7]に記載の光触媒材料の粉体を含有する光触媒塗料。
[10](i) Ga2O3、(ii)ガリウムの有機化合物、または(iii) Ga2O3と炭素の供給源、のいずれかを、NH3ガスおよびN2ガス中あるいはNH3ガス中で高温窒化する工程を含むことを特徴とするGaおよびNの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物の製造方法。
[11]高温窒化ののち、前記高温窒化する工程で生成した窒化物を大気中で焼成する工程をさらに含むことを特徴とする[10]に記載のGaN化合物の製造方法。
本発明のGaN化合物および光触媒材料は、低コストで製造でき、紫外光および可視光の両方に反応して光触媒を発揮することができる。従って、本発明のGaN化合物および光触媒材料に照射する光は太陽光に限定されず、蛍光灯等の人工光を用いることもできる。
(A)GaN半導体のバンド構造を示す略図。(B) 太陽光の波長・エネルギー分布を示す略図。 炭素熱還元法によって作製したGaN試料の粉末XRD。●:GaN、△:Ga 炭素粉体を共存させずに、Ga2O3粉体を同じ条件で窒化して作製したGaN試料のXRD。図中の数字は窒化温度、●:GaN、x:Ga2O3 表2に示したGaN試料の拡散反射による吸収スペクトル。 表2に示したGaN試料のXRDパターン。 図5におけるXRDパターンの36.7°近傍の最大ピークを拡大したグラフ。 GaまたはNサイトをCで置換した状態を示す模式図。 Fを除く表2に示したGaN粉体の430nm近傍のPL スペクトル。 (A)アンドープGaNと(B)CドープGaNのバンド構造。 表2に示したGaN粉体のSEM像。 大気中で600℃(a)および850℃(b)で1時間保持したときのTGA プロファイル、(c)、(d)はそれぞれ図の上部を拡大したもの。 GaN粉体試料(A, B, D およびF)のXPSスペクトル (a) 、(b) は Ga3d ピーク, (c)、(d)は Ga L3M45M45のピーク, (e)、(f)は C1sによるピークを示す。 (b), (d), (f)は、Arイオンで90秒エッチング後の結果である。 (a)〜(c) XPSの結果から想定される3種の粒子構造モデル。 (A)光触媒性能評価に用いたメチレンブルーMBの化学式および(B)光吸収波長における吸収スペクトル (10ppm水溶液)のグラフ。 MBを光触媒特性評価に用いた光源の強度分布。ブラックライトとUVカット青白色蛍光灯の波長分布。 ブランク測定。縦軸は、その試料片を用いたときの最大吸光度を1として規格化した。 ともに市販の(A)GaNと(B)TiO2粉体のMB分解性能評価。 (A)図17Aの市販のGaNの耐久性評価。MB分解評価(水中24時間)後にXRDを測定した。(B)実験前の結晶構造の図18Aの点線四角で囲んだ部分を拡大したグラフ。(C)実験後の結晶構造の図18Aの点線四角で囲んだ部分を拡大したグラフ。 (A)〜(D)Ga:C=1:1の試料のMB分解能。 (A)(B) Ga:C=1:10(炭素が多い)試料のMB分解能。炭素量が多い試料(Ga:C=1:10)は残留炭素による吸着が強いため、性能評価はせず、大気中後焼成後の試料を評価した。 (A)〜(D)炭素を含まない出発材料で作製したGaNのMB分解性能。 市販品のGaN粉体試料を75℃に水中浸漬した前後のXDR 。 (A)炭素ありおよび(B)炭素なしで作製したGaN試料のXRD。
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
1.GaN化合物
本発明は、GaNの元素Gaと元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物を包含する。
本発明のGaN化合物中の元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部は炭素で置換されている。より詳細には、GaN化合物中の元素Gaの一部が炭素で置換されている場合、構造上、元素Gaの位置に炭素が置き換わって入る。GaN化合物中の元素Nの一部が炭素で置換されている場合、構造上、元素Nの位置に炭素が置き換わって入る。炭素による元素Gaの置換と炭素による元素Nの置換が両方生じてもよい。
GaN化合物の元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部が炭素で置換される場合、置換される割合は特に限定されないが、置換後のGaN化合物で(Ga:炭素)=1:0〜1:0.02(モル比)であることが好ましく、(N:炭素)=1:0〜1:0.1(モル比)であることが好ましい。
本発明のGaN化合物は、元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換されていることにより、紫外光および可視光の両方に反応して光触媒を発揮する光触媒材料として使用することができる。
本発明のGaN化合物はGa1-xCxN(0<x<1)、GaCyN1-y(0<y<1)、またはGa1-xCX+yN1-y(0<x<1, 0<y<1, かつ0<x+y<1)と表すこともできる。
本発明のGaN化合物の粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅は、0.19以下であることが好ましく、0.15以下であることがより好ましく、0.14以下であることがさらに好ましい。粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅は、0.19以下であると、炭素で置換されない場合に比べて、GaN化合物が高い結晶性を有する。
GaN化合物の粉末X線回折ピークの最大ピークは、GaN化合物がGaNの場合、36.7℃近傍に存在する。
本発明のGaN化合物は表層部に酸化ガリウム(III)(Ga2O3)の層を備えていることが好ましい。GaN化合物中の元素Gaおよび/または元素Nと置換される炭素の量が少ない場合、GaN化合物からなる粒子は、粒子の中心部にGaNからなるコアを備えるとともに、コアの周囲にGa2O3層を有する。そして、GaN化合物中の元素Gaおよび/または元素Nと置換される炭素が一定量を超えると、GaN化合物からなる粒子の中心部のコアは、IV族である炭素CがドープされたGaNとなり、コアの周囲にIV族である炭素CがドープされたGaN とGa2O3が共存する層が存在し、その上の表層部にGa2O3層を有する構造をとり得る。
本発明のGaN化合物は、粉末X線回折の最大ピークの半値幅が0.14以下であり、表層部に酸化ガリウム層を備えていることが好ましい。このような構成によれば、結晶性が非常に高く、かつ耐熱性に優れたGaN化合物とすることができる。
2.光触媒材料
本発明は、上記GaN化合物を含有する光触媒材料を包含する。
本発明の光触媒材料は、上記GaN化合物以外に、光触媒としての作用を補助する、または妨げない任意の物質、例えばTiO2またはSiO2などのケイ酸塩などを含有することができる。また、本発明の光触媒材料を、上記GaN化合物からなる窒化物系化合物半導体層とする場合、窒化物系化合物半導体層にはアクセプタドーパントおよび/またはドナードーパントがドープされていることが好ましい。
本発明の光触媒材料は、GaN化合物を粉体として提供することが可能で、薄膜形態と比較して製品化した際の形状の自由度が高いなど優位である。上述したように、本発明のGaN化合物は結晶性が高く、耐熱性にも優れるため、粉体のGaN化合物でも安定に機能することができる。
本発明の光触媒材料は、炭素で置換する前の母体よりもバンドギャップが小さくなるため、紫外光のみならず、炭素で置換する前の母体では吸収し得ない可視光領域の光を吸収することができる。これにより、炭素で置換する前の母体では利用し得なかった波長の太陽光や、蛍光灯等の人工光を利用することができるので、光触媒効率を向上できる。
また、本発明の光触媒材料は、水中で光照射しても材料劣化がないか極めて少ない材料とすることができる。
さらに、本発明の光触媒材料は、GaAs系やCdTe系の化合物半導体のようにAsやCd等の毒性の強い元素を使用しないので、環境的にも優れている。さらに、In等の希少金属を使用しないので、より低コストで製造でき、光触媒材料を備えた光触媒デバイスも低コストに製造することが可能である。
3.光触媒デバイス
本発明は、上記光触媒材料を備えた光触媒デバイスを包含する。
本発明の光触媒デバイスは、上記光触媒材料からなる窒化物半導体粉体とアルミナ粉体、ガラス粉体、ステンレス粉体などと溶射、焼結、あるいはセメント材料で固着して形成することが好ましい。
上記の本発明の光触媒材料は、MBE法やスパッタ法などの製膜法を使用しないで製造でき、粉体であることから大面積デバイスの大量製造が容易であるため、より低コストな光触媒デバイスを提供することが可能である。
本発明の光触媒デバイスは、水(水溶液)から水素を得る水素発生用の光触媒デバイスに限定されず、電子および正孔の酸化還元反応により有毒物質を分解して無毒化する等の、有機化合物の分解用の光触媒デバイスとしても用いることができる。例えば、ステンレススポンジまたは有機もしくは無機の基板に本発明の光触媒材料を担持して用いることができる。基板としては、ガラス基板、ステンレス基板などが挙げられる。さらに具体的には、上記光触媒材料を、n-GaN層またはp-GaN層に担持して、半導体層としてカソードまたはアノードとして光触媒装置を構成することができる。また、壁、天井用の基板に本発明の光触媒材料を担持して用いることができる。
4.光触媒塗料
本発明は、1種類または2種類以上の上記の本発明のGaN化合物の粉体、または上記の本発明の光触媒材料の粉体を含有する光触媒塗料を包含する。例えば、結着材、溶媒等と本発明の光触媒材料とを混合し光触媒接着剤、光触媒塗料として用いることができる。
本発明のGaN化合物および光触媒材料は塗料材料としての有用性が期待できる多色性を有することができる。防曇、減菌、抗菌用塗料の市場では、酸化チタンを用いたモノトーンの塗料が主であるが、本発明のGaN化合物および光触媒材料は多色性を活かして幅広い応用が可能である。
5.GaN化合物の製造方法
本発明は、GaN化合物中の元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物の製造方法を包含する。
一実施形態では、かかる方法はGaN化合物中の元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物の製造方法であって、(i)酸化ガリウムGa2O3、(ii)ガリウムの有機化合物、または(iii)Ga2O3と炭素の供給源、のいずれかを、NH3ガスおよびN2ガス中あるいはNH3ガス中で高温窒化する工程を含むことを特徴とする方法である。
ガリウムの有機化合物としては、EDTA-Ga、トリアルキルガリウム等が挙げられる。
炭素の供給源としては、特に限定されないが、活性炭、グラファイト、グラフェン、フラーレン、カーボンナノファイバー、Ga有機物、ポリビニルアルコール(PVA)を初めとする炭素原子を含有する有機化合物または有機重合体、炭化水素を初めとする炭素原子を含む気体等が挙げられる。
本明細書において、「高温窒化」とは、900℃以上での窒化を指し、望ましくは1000℃以上であり、より望ましくは1000〜1100℃である。より低い温度での窒化は、収率の点で有利である。より高い温度での窒化は、高い結晶性、光触媒性能、および安定性の点で有利である。高温窒化は、収率と結晶性を両立させるためには、1000℃±50℃での第1期間の間の第1の窒化と、その後の、第1の窒化における窒化温度よりも高いが1100℃±50℃以下での、第1期間よりも短い時間の第2の期間の間の第2の窒化とからなることが好ましく、第1の窒化の温度が1000℃±25℃、第2の窒化の温度が1100℃±25℃以下であることがより好ましい。
本発明のGaN化合物の製造方法は、高温窒化ののち、窒化物を大気中で焼成する工程をさらに含み得る。焼成温度は特に限定されないが、大気中で炭素が燃焼する温度であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましい。焼成時間は特に限定されないが、30分以上であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。焼成温度600℃かつ焼成時間3時間で焼成することが好ましい。
焼成工程により、GaN化合物の粒子の特にコアの部分が焼き締まり、耐熱性が向上する。
本発明のGaN化合物の製造方法によれば、元素Gaおよび元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物を低コストで製造できる。また、得られたGaN化合物は、収率、結晶性、光触媒性能、安定性および信頼性に優れている。
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.GaN試料の作製
GaN粉体およびナノ粒子は、結合の組み換えを伴うメタセシス反応あるいはアンモニア分子のHとNH2が加わって化合物を分解するアンモノリシス反応によって作製できることが知られている。前者では、Gaの化合物が高活性な金属窒化物と有機溶剤中で反応してGaNが生成する。例えば、GaCl3がNaN3やLi3Nと反応してGaNナノ粒子を生成する(Nano Lett., 2, 899(2002); Science, 272, 1926(1996))。この反応は、室温でも進行するが、高結晶のウルツ型GaNを得るには真空中またはArガス中で追加アニールをする必要がある(Chem. Mater., 18, 5392(2006))。一方、アンモリノシス反応では、Ga化合物の種類によらず、N2および/もしくはNH3ガス流中で高温(800−1100℃)の熱処理が行われる(Applied Physics Letters 106, 113105(2015); Mishra, Chem. Mater., 16, 5088(2004); J. Ceram. Soc. Japan, 121, 460(2013); Phys. Stat. Sol. (c), 5, 1522(2008); Y. Qiu, and L. Gao, Chem. Lett., 32, 774(2003))。一般に、熱処理温度があがると、生成するGaNの結晶性が良くなる。しかしながら、生成したGaNは、1100℃以上で熱分解する(Phys. Stat. Sol. (c), 4, 2346(2007))。そのために、1100℃でのアンモリシス反応は高結晶のウルツ型GaNを生成する上で良好な方法である。
アンモリシスでGaNをつくるには、安価であるとの理由から一般的にGa2O3粉末が用いられる。この反応は、次の二つの化学反応式で表される(J. Ceram. Soc. Japan, 121, 460(2013); J. Am. Ceram. Soc., 79, 2309(1996))。
Ga2O3(s) + 2H2(g) → Ga2O(g) + 2H2O(g) -------(1)
Ga2O(g) + 2NH3(g) → 2GaN(s) + H2O(g) + 2H2(g) -------(2)
ここでH2はNH3ガスの分解で生じる。そして反応(1)の還元剤として働く。H2はGa2O3を還元し、Ga2Oが生成する。できたGa2OがNH3と反応してGaNが生成する。トータルの反応式は以下で表される。
Ga2O3(s) + 2NH3(g) → 2GaN(s) + 3H2O(g) -------(3)
しかし、この反応の自由エネルギーは正であり、常温では進行しない(J. Am. Ceram. Soc., 79, 2309(1996))。したがって、第一段階で、Ga2O3の還元でGa2Oが生成するが、これによって第二段階のGaN生成へと進む。
本実施例では、上記反応を促進する手法として、炭素熱還元法を導入した。同法は、炭素源を共存させて金属酸化物をN2ガス中やArガス中で還元する方法として知られている。当初は、SiO2、Al2O3からSi、Si3N4、あるいはAlNを生成する低コストな手法として研究が行われた(J. Japan Inst. Metals, 52, 945(1988); J. Mater. Sci. Technol., 7, 289(1991); J. Mater. Sci. Technol., 7, 495(1991))。
炭素熱還元法に関する研究の成果は、Ga2O3にもほぼ適用可能であろうと考えられた。実際に、Ga2O3粉体から炭素熱還元法によってGaN粉体もしくはナノワイヤーが得られている(Applied Physics Letters 106, 113105(2015); J. Crystal. Growth, 289, 140(2006))。先行文献によれば、上記式(1)のH2に代わって炭素がGa2O3をGa2Oに還元するとされている(Chem. Phys. Lett., 327, 263(2000); J. Crystal. Growth, 289, 140(2006))すなわち炭素熱還元法によるGa2O3からGaNを生成する反応式は以下のように考えられる(J. Crystal. Growth, 310, 530(2008))。
Ga2O3(s) + 2C(s) → Ga2O(g) + 2CO(g) -------(4)
Ga2O(g) + 2NH3(g) → 2GaN(s) + H2O(g) + 2H2(g) -------(5)
しかしこれまでのところ、炭素熱還元法によるGaN粉体の生成メカニズムおよび生成物の特性に与える影響は明らかになっていない。本発明者は、GaN粉体生成の詳細なメカニズムの解明には至っていないものの、数多くの実験を重ね、おおむね以下のように反応が進行しているのではないかと考えている。
先行文献では、炭素熱還元法においては、上記式(1)のH2に代わって炭素がGa2O3をGa2Oに還元すると考えているが、(4)式で示されているように、還元によって生成するGa2Oが気相であることが重要で、かつNH3ガスが共存しているので、必ずしも炭素のみが還元反応に関わっていると考える必要はない。重要なのは、式(5)で示されるように、生成した気相のGa2OがNH3と反応してGaNを生成するプロセスにある。ここで、本願では、炭素の混合比あるいは炭素源の種類によって、生成するGaN結晶の結晶性、あるいは表面状態が著しく異なることを見出した。具体的には、活性炭を加えて還元反応を進めたものは、PVAをGa2O3にコートした出発材料として還元反応を進めたものに比べて、結晶性にすぐれ、滑らかな表面をもつことを見出した。このことは、気相のGa2OがNH3と反応してGaNを生成するプロセスにおいて、炭素粒子がGaN結晶成長の結晶化核として働いているのではないかと考えている。
本発明では、炭素源を共存させ、あるいは共存なしで高温のN2+NH3ガス中、もしくはNH3ガス中でGa2O3からGaNを作製した。炭素源としては、活性炭、PVAを用いた。さらにEDTA-Gaを出発材料として検討して良好な結果を得た。
本実施例では、まず、炭素源の種類と出発材料中の添加量、窒化温度と時間、そしてキャリアガスとしてのN2ガスとNH3ガスの混合ガスの流量、さらに窒化後の大気中焼成の効果についてしらべるために、それぞれ条件を変えて、数多くの試料を作製し、構造解析、光触媒性能の解析、化学的安定性の解析を行って、良好な光触媒材料を得た。
2.出発材料の調製
出発物質としてGa2O3またはGa-EDTA錯体を用いた。Ga2O3を第1の出発材料、Ga-EDTA錯体を第2の出発材料とした。窒化促進を目的としてGa2O3粉体と活性炭粉体を乳鉢で充分混合した混合物を第3の出発材料とした。C/Gaの混合比を0、0.8、2.5、10と変えて第3の出発材料を調整した。またGa2O3粉末にPVAをコーティングして窒化処理を行った試料も第4の出発材料として作製した。PVAコーティングは、PVA水溶液にGa2O3を分散させ予備凍結した上で,凍結乾燥機(東京理化器械製)によりフリーズドライ処理を行うことで,PVAをGa2O3にコーティングさせた。凍結乾燥時の真空度は約10 Paであり,試料が完全に乾燥するまで続けた。PVAコーティングの出発材料では、C/Ga比を、0.03、0.1、0.5、1、10となるように水に溶解させるPVA濃度を調整して出発材料を作製した。
Ga-EDTA錯体は、Ga源として市販の硝酸ガリウムまたは塩化ガリウムを用い、これらの水溶液とEDTA・2NH4の水溶液を混合し、加熱濃縮により沈殿を生成させ、濾過して乾燥することによって得た。酸性または塩基性の2種類のpH条件で沈殿を作製し、塩基性条件においてはNH3水を加えることでpHの調整を行った。
また、比較のために、市販のGaN粉体(高純度化学社製)を何も処理することなく、作製した出発材料の試料と同じ解析、評価に用いた。
なお、使用した試薬はそれぞれ下記の通りである。Ga2O3:DOWAエレクトロニクス(株)、炭素粉末、PVA(ポリビニルアルコール(平均分子量22000)、Ga(NO)3・nH2O ,GaCl3:和光純薬工業(株)、EDTA・2NH4(エチレンジアミン四酢酸二アンモニウム一水和物):東京化成工業(株)、アンモニア水:関東化学(株)。
3.窒化プロセス
GaN粉末試料は、セラミック電気管状炉(ARF-50KC,アサヒ理科製作所製)によりN2/NH3混合ガス、またはNH3ガスを流し原料の窒化処理を行うことで合成した。N2ガスは岩谷瓦斯社製、NH3ガスは住友精化社製を使用した。
各出発材料5gをセラミックボートに入れ、セラミック電気管状炉の炉芯管中で、N2ガス200ml/分の流量で600℃まで加熱したのち、N2ガスをN2ガスとNH3ガスの1:1の混合ガスまたはNH3ガスに切り替えて、トータル100および200ml/分の流量で窒化を行った。窒化温度は最高1100℃まで昇温速度は300 ℃/hで昇温し、3時間保持した。その後600℃まで自然放冷して、ガスをN2ガスに切り替えて室温まで自然放冷した。その結果、ボート内にGaN粉体が生成した。出発材料に炭素を共存させて生成した生成物に残存する炭素を除去するために600℃で大気中焼成した。
窒化条件は、800℃x4時間、900℃x3時間、1000℃x3時間、1100℃x3時間、さらに、1000℃x2時間+1100℃x1時間の各条件で行った。
これらの窒化処理後、炭素源の添加量が多い試料では、残存炭素が多く、メチレンブルー(MB)を用いた光触媒性能評価をすると、残存炭素によるMBの吸着が発生し、正確な評価ができないことが分かったので、窒化処理後すみやかに600℃、3時間の大気中焼成を行って、残存炭素を取り除いて、測定試料とした。
4.作製したGaN粉体の特性評価
(X線回折装置による評価)
窒化処理を行った粉末の結晶構造を自動X線回折装置により追跡した。自動X線回折装置はRINT2500(リガク社製)を用い、2θ/θ法によって測定を行った.測定条件は下記の通りである。
測定条件:
2θの範囲:20〜50 °
サンプリング幅0.01 °
X線40 kV / 50 mA
発散スリット:1/2 °
散乱スリット:1/2 °
受光スリット:0.15 mm
炭素粉末を共存させたGa2O3を出発物質とした試料のXRDパターンを図2に示す。ここで示すすべての粉体試料がウルツ鉱型のGaNの結晶構造を持つことを確認できた。1100℃で窒化した一部の試料では、金属Gaによるピークが見られたが、これは還元が進み過ぎて析出したものと考えられる。
図3に炭素粉体を共存させずに、Ga2O3粉体を同じ条件で窒化して作製したGaN試料のXRDパターンを示す。
上記各XRDパターンのGaN(101)ピーク(約37 °に存在するピーク)について半値幅を求めた。一般に、半値幅が小さくなると結晶性が高まるとされる。そこで半値幅の値を得られたGaN粉体の結晶性評価に用いた。表1にその結果を示す。参考として 市販のGaN(高純度化学研究所製)の半値幅も示す。表に示すように、市販品、炭素なしの試料、1000℃程度の比較的低温で窒化した試料の半値幅は大きく、結晶性が劣ることが予想された。1100℃で窒化したものは、1000℃から昇温した場合も小さな半値幅を示し、結晶性が良好であることをうかがわせた。
XRDパターンで観察される回折線(ピーク)は、結晶子サイズ、格子歪、積層不整などの要因から広がりを生じる。この回折線の広がりの結晶子サイズと格子歪による影響を分離するため、Williamson-Hallプロットを行った。XRDパターン中の複数のピークについて縦軸にβcosθ/λを、横軸にsinθ/λをプロットすることで、傾きから格子歪、切片から結晶子径を見積もることができる。Williamson-Hallプロットの結果から、どの試料に
おいても切片はほぼ同じとなり、結晶子径について大きな差はないと言える。計算から得られた結晶子径は50〜75 nmであった。一方、各試料の直線を比較すると傾きの違いが顕著であり、窒化処理温度が1000 ℃以下の場合傾きがかなり大きく、低温であればあるほどその傾きは大きくなる傾向にあった。つまり、半値幅の広がりの差は格子歪によるものと判断でき、格子歪の大きさは窒化処理温度に大きく依存するということがわかった。1100 ℃まで窒化温度を上げた試料については直線が水平または負であり格子歪がほとんどないことが分かった。格子歪の大きさは耐久性に大きく関係するので、高温まで窒化処理温度を上昇させることは,耐久性の高い試料の作製のために重要であると言える。そのためには、1000℃を経る場合も1100℃まで昇温させることが重要であると結論付けた。
(炭素添加量に応じたGaN試料の作製)
ここで、炭素熱還元法によるGaN作製条件と生成メカニズムを解明するための詳細に検討した。酸化ガリウムGa2O3粉体を炭素の還元力を用いて作製したGaN試料を作製し(表2)、炭素添加量に応じて、A、B、C、D、E、Fとして各種の測定を行った。Aは、DOWAエレクトロニクス社製のGa2O3粉体のみを、B、C、Dは同じくDOWAエレクトロニクス社製のGa2O3粉体と和光純薬製の活性炭をC/Ga比がそれぞれ0.8、2.5、10となる量を乳鉢で混合して出発材料とした。またEは、同じくC/Ga比が0.8相当の和光純薬製PVA水溶液に浸漬し十分吸着させたのちフリーズドライ法で乾燥させたのち乳鉢ですりつぶして出発材料として用いた。A〜Eの窒化処理は、前述の窒化プロセスの項に記載した通りである。Fは、高純度化学製の市販試料そのままである。
(紫外可視光分光光度計による吸収スペクトル測定)
まず、拡散反射法による吸収スペクトル測定は紫外可視光分光光度計(UV-2500PC,島津製作所)に積分球付属装置(ISR-2200,島津製作所)を取り付けて行った。
(フォトルミネッセンス測定)
次いで日本分光製分光蛍光光度計FP-6600を用いて、室温でのフォトルミネッセンスPLを測定した。励起光に、150Wキセノンランプ(330nm)を用いた。GaN粉体試料をスライドガラスに固定して測定室内にセッティングした。測定には、紫外カット用に東芝ガラス製色ガラスフィルターUV-35を、励起UV光が入らないように検出器の前に挿入した。
(光学顕微鏡および電子顕微鏡による観察)
次に、セルミック社製光学顕微鏡SEL-2700および日立製走査型電子顕微鏡HD-2700で形状観察を行った。
(熱重量分析計によるGaN粉体試料の熱安定性の評価)
さらにTA Instrument 社製熱重量分析計Discovery TGAを用いて作製したGaN粉体試料の酸化に対する熱安定性を評価した。この測定は、炭素残存量をしらべるために、大気中焼成による炭素除去前に行った。GaN粉体試料を20℃/分で昇温し、600℃もしくは850℃に達したのち、大気中で1時間保持した。TGA測定の前後にXRD測定を行って結晶構造の変化を確かめた。
(X線光電子分光計による組成の分析)
ULVAC-PHI社製光電子分光計XPS(VersaProbe II、Al Kα)を用いて、表層組成の分析を行った。Arイオンで表層部をスパッタリングしながら測定を行った。
5.解析結果
表2に、作製したGaN粉体の外観を示す。Ga2O3のみから作製した試料Aは、ベージュ色であるのに対して、試料C、Dはグレイ、B、Eはダークグレイ色を呈する。このように、炭素源と共存させて作製した試料は、共存なしの試料に比べて暗色を呈する。Fは、市販品で黄色である。
図4に作製した試料の拡散反射による吸収スペクトルを示す。すべての試料がバンドエッジ吸収による360nm付近に吸収ピークを示す。AからEまでの試料では、類似のスペクトルを示し、可視域の広い範囲でベースラインが上昇した。市販品のFは、可視域でブロードなテール(<550nm)を示した。このテールで黄色を呈するものと理解される。
Science, 272, 1926(1996)によれば、ベースラインの上昇は、XRD回折では観測されないものの残存Ga金属の存在を示唆している。窒化プロセスでGaとGa2O3の不均化反応によってGa2Oを生成し、恐らく金属Gaが非晶質状態で存在しているものと思われる(J. Mater. Sci. Technol., 7, 289(1991))。金属Gaは、通常青みがかった白色なので、広い範囲の可視光を反射する。明確ではないが、GaN粉体に分散された金属Gaがベースラインを上昇させたものと思われる。
結晶性の悪いGaNでは、550nmより短波長域で吸収曲線がブロードなテールを示すことはしばしば観測されている(Science, 272, 1926(1996))。前述したように、試料Fは、かなり結晶性の悪い試料である。結晶性の悪いGaN粉体は、高い濃度で欠損を内在し、このことが電気的、光学的特性に強く影響するとされている。空孔型欠陥は、電子を捕獲し、カラーセンターとして可視光を吸収する。電子系のエネルギーなどの物性を電子密度から計算することが可能であるとされる密度汎関数理論による計算から、アンドープのGaNではGa欠損もN欠損も存在すると見られ(M. G. Ganchenkova, and R. M. Nieminen, Phys. Rev. Lett., 96, 196402(2006))、そのために結晶性の悪いGaNでは、高い濃度の欠損が存在するものと思われる。このことから、可視域でのブロードなテールの存在が説明できる。
(粉末X線回折の結果)
図5のGaN試料のXRD回折パターンから、ここで示したすべてのGaN試料は、ウルツ鉱型の六方晶構造である。この図においても最大ピーク(2θ=36.7°)の半値幅から試料A-EがFに比べ高い結晶性をもつことを示している。とくにB、C、Dの結晶性が高い。これらの結果から、活性炭と共存させて窒化した試料は、Ga2O3のみを出発材料として窒化した試料よりも高い結晶性を示すことが分かる。およびPVAコートしたGa2O3を出発材料としたGaNはその中間にある。
図6は図5の最大ピーク(2θ=36.7°)付近を拡大した図である。試料BからCへとC/Ga2O3比を増大させると、低角側へシフトしている。さらにCからDへと増大させると逆に広角側へ戻る。かかるピークシフトは、ユニットセル(単位格子)の拡大と縮小によると考えられる。ユニットセルのサイズは、欠損に依存して変化する。例えば、GaNのNサイトにSb原子が入るとSbアニオンのイオン半径がNアニオンよりも大きいためにユニットセルが大きくなる(S. Sunkara, et al., Adv. Mater., 26, 2878(2014))。
C原子は、NおよびGaサイトの原子の原子半径とイオン化傾向が近いことからどちらにも置き換わることができる。Paulingが提案した電気陰性度に関するArkelの定量図から、GaNは、ある程度イオン結合性もあるものの、基本的に共有結合である(W. B. Jensen, J. Chem. Edu., 72, 395(1995))。GaとNの電気陰性度を考慮すると、GaN結晶格子のGaとNは、それぞれプラスイオンとマイナスイオン状態である。かくしてGaとNサイトはカチオンライクなCとアニオンライクなCで占められている。
図7(a),(b)は、GaまたはNサイトをCで置換した状況を図示している。図7(a)に示すようにカチオンライクなCは、カチオンライクなGaよりもイオン半径が小さい。そのためにGaサイトをCで置換する(CGa)とユニットセルサイズの縮小が起きる。一方、図7(b)に示すように、アニオンライクなCのイオン半径はアニオンライクなNのそれより大きい。そのために、NサイトをCで置換する(CN)とユニットセルサイズは膨張する。
低角側へのピークシフトは、NサイトをCで置換したことによるものであり、高角側への戻りは、GaサイトをCでの置換が始まったためである。これらの結果から、出発材料中のC/Gaの比がGaN格子中のCGa とCN濃度に強く影響することが確認された。
ここでピークシフトと置換量の関係を計算してみた。イオン半径(Cは+4を仮定)を基に計算したところ、無置換の場合の面間隔が1.484 Åであり、対応する2θが62.61°となり、実験値と全く対応しないことが分かった。次に、原子半径を用いて計算すると、XDR計測値から得られるピークシフトは、炭素が無い時に比べC/Ga = 2.5 の時に約‐0.13°である。Nの10 %をCで置換した場合のピークシフト計算量は約‐0.16°であり、‐0.13°のシフトは約8.1 %のNが置換されたことになる。C共存比が大きいC/Ga= 10の実験値は36.71°で、C/Ga = 2.5 の36.60°から0.11°高角度側へシフトしている。これをGaの置換によるものと仮定する。無置換の37.85°とGaの25 %を置換した時の計算結果を当てはめると、0.11°のシフトは約0.3 %のGaが置換された場合に相当することが計算で求められた。簡単な計算によっても、GaとNの欠陥がCで置換されている様子をうかがわせるものである。
(フォトルミネッセンスPLの測定結果)
図8は、バンドエッジ領域でのPLスペクトルである。このスペクトルで、市販品を除き、出発材料のC/Ga比とともにバンドエッジルミネッセンスが長波長側へシフトしている。上述したように、GaN格子中のGaおよびN欠陥サイトはCで置換されているので、バンドエッジルミネッセンスの長波長シフトは、置換でできたCN とCGaによるものと推測される。
また、最大量のCの試料では、400nm帯にブルールミネッセンス(Blue Luminescence, BL)を発する。
図9(A),(B)に、上のPL測定の結果を踏まえて、作製したGaN粉体半導体のバンド構造を模式的に表している。通常、GaNはよく知られているように、3.4eVのバンドギャップをもつ(図9(A))。このために紫外光のみが価電子帯の電子を励起できる。図9(B)に示すように、本発明によるCドープのGaNでは、C量の増大とともに多くの準位が価電子帯と伝道帯近傍にでき、PLスペクトルがレッドシフトし、バンドギャップが小さくなったことを示し、さらにC共存比が大きい試料においては、CGaからCNへのBLを発したものと推察できる。
(走査型電子顕微鏡による観察結果)
図10にSEM像を示す。試料A、B、Cは小粒子の凝集体である。B 、CのサイズはAより大きい。そしてB、C、Dはそれぞれ表面が滑らかである。Fは直径1μm、長さ3μmの円筒状である。この図から作製した試料のサイズを比較すると、(F, A)<(E, B)< D < Cとなる。
全体から言えるのは、窒化時に炭素源との混合物を出発材料とする試料B、C、D、Eは、炭素なしの試料および市販試料よりも大きい。炭素還元法で作製したGaN粉体は下式の化学反応を促進してより大きいサイズの粒を生成することが明らかになった。
Ga2O3(s) + 2C(s) → Ga2O(g) + 2CO(g)
また、炭素源の種類が表面状態に影響することも分かった。炭素粉体を炭素源に使用したとき、滑らかな表面となった。Ga金属を出発材料に用いた場合も同様に滑らかな表面となることが報告されている(Science, 272, 1926(1996))。
一方で、炭素源にPVAを用いたときはラフな表面となる。これらのことから、炭素源の種類によって結晶化に影響し、言い換えると、GaN結晶が成長するとき炭素粒が存在すると結晶成長の核となるものと考えられる。先行文献によれば、Si3N4は、炭素熱還元しながら窒化する方法で炭素粉体の核から成長するとされている(M. V. Vlasova et al., J. Mater. Sci., 30, 5263(1995)。
同様にして、活性炭のような炭素粒が結晶化核として働くが、他方、PVAの場合は窒化プロセス中に熱分解して結晶化核として働かない。
(熱重量分析)
熱炭素還元法でGaN試料を作製後にどの程度炭素が残留しているかをしらべるために、大気中焼成前に熱重量分析TGA測定を行った。図11に、600℃(a)と850℃(b)で1時間大気中保持したときのTGAプロファイルを示す。同図(c)および(d)は、(a)と(b)の上部分を表している。(c)で示しているが、GaN粉体はすべて400℃付近で重量減少を生じる。この重量減は、GaN表面に形成されたGaOOHの脱水によるものであることが実験で確かめられた。試料B、C、Dが600℃付近で示す重量減は、残存炭素が燃えたことによるものである。試料Dにおいては、総量の40%におよぶ残存炭素があったことになる。試料EはPVAコートされた出発材料を用いたものであるけれども、600℃付近での重量減が見られない。このことから、窒化処理中にPVAに含まれる炭素原子はPVA中の酸素およびGa2O3と反応してCO2を生成したのではないかと考えられる。この結果は、化学量論から計算した結果とも一致した。
図11(c)の試料Fの結果は、600℃で重量増を示しており、これはGaNが酸化されてGa2O3を生成したことによる。試料(A-E)は、600℃で酸化されないが、結晶性の劣る試料Fは、600℃で若干酸化される。
図11(b)、(d)に示すように、増加率すなわち酸化速度はことなるものの、どの試料も850℃で酸化による重量増を示す。B、C、D、Eはゆっくりと、Aはやや早く、そしてFは急速に酸化が進む。試料Fは800℃、1時間保持で完全に酸化された。これらの結果から、炭素源を共存させてつくったGaN粉体は、炭素なしで作製された試料AとFに比べ、酸化されにくいことが分かった。
GaN粉体の酸化速度は比表面積と粒径に依存する(J. Brendt, D. Samuelis et al., Phys. Chem. Chem. Phys., 11, 3127(2009))。図10の電子顕微鏡像から粒径は、(F, A)<(E, B)< D < Cである。GaN粉体の酸化速度はこの順番に並ぶと思われるが、実際はそうはならない。CとDは他の試料より粒径が大きく、酸化速度が遅いと理解される。また、Fは、Aよりも酸化速度が速い。加えて、Eは、粒径から想像される速度より遅い速度で酸化される。
文献によれば、GaNの酸化速度を決定するのは、GaN結晶からNが除かれ、Oと入れ替わる速度である(T. Yamada, et al., J. Appl, Phys., 121, 035303(2017))。ということは、表層や内層にVNが高い濃度で存在すれば酸化速度が速くなるということである。言い換えると、VN濃度が低いと速度が遅くなる。ここで、試料Fの酸化速度が速いということは、結晶性がかなり悪く、VN濃度が相当高いと想像できることから容易に理解できる。
(XPSの測定結果)
GaN粉体試料A、B、D、FのXPS分析を行った。図12に結果を示す。(a)、(b)はGa3dピークを、(c)、(d)はGa L45M45M45ピークを、また(e)、(f)はC1sピークを示す。このなかで (b)、(d)、(f)は表層直下の状況をしらべるためにArイオンで90秒(数nmに相当)エッチングしたあとのスペクトルである。
図12(e)、(f)に示すように、すべての試料からC1sのピークが検出され、これは試料表面に吸着したコンタミによる炭素からのピークであると言える。しかし、Dは、Arエッチング後にC1sピークが出るので、表層直下と内層にある程度の量の炭素が存在していると考えられる。XRDとPLの結果で述べたように、試料Dは炭素原子がN欠陥とGa欠陥と置換したCN と CGaが相当濃度で存在している。Arエッチング後強い C1s pピークが現れるのはCNとCGaによるものである。同時にDでは、Ga3dとGa L3M45M45ピークがブロード化している。このことは、内層ではGaが複数の結合状態で存在していることを示唆するものであり、Ga2O3 と C-doped GaNが存在していると考えられる。
図12のXPSスペクトルから、図13に示す3種のGaN粉体モデルが想定される。
図13(a)は、第一の粒子モデルで、最表層にGaOOH層をもつ、AおよびFに関するモデルである。このモデルにはGaOx またはGa2O3からなる最表層と内層の中間界面をもつ。 コアは、アンドープのGaNである。
図13(b)は、第二の粒子モデルで、試料Bに関するモデルである。最表層と内層・最表層間にGa2O3層が形成されており、内層あるいはコアはアンドープあるいはわずかにCドープしたGaNである。
図13(c)に第三の粒子モデルを示す。試料Dがこれにあたり、最表層にGa2O3層を形成し、内層との界面にGa2O3とCドープのGaNが共存する。活性炭と共存させてGa2O3を窒化させた試料BとDは、表層にGa2O3層ができている。これは、窒化後に残存炭素を除去する目的で行われる600℃での大気中焼成時にできるのではないかと思われる。
通常GaNの酸化は600℃以上で観察される。しかし、残存炭素を燃やす反応は発熱反応であり、GaN表層は炭素が燃焼する間、局所的に高熱に曝されながらGa2O3層を形成する。そのために得られたGa2O3層は内層が酸化を受けるのを守る役割を担っていると考えられる。実際、試料BおよびDが酸化を受けにくいことをTGAの結果が示している。
(構造解析のまとめ)
以上の結果を総括すると、炭素熱還元法で作製したGaN粉体は特異な性質をもつことが分かった。これらの効果は、出発材料のC/Gaの混合比および炭素源の種類に強く依存する。出発材料中のC/Gaの比を増大させると炭素熱還元反応によってGaN格子にN欠陥あるいはGa欠陥とCが置換したCN とCGaが相当濃度で形成される。CN と CGaが形成されると、ユニットセルの膨張もしくは縮小を生じ、XRDパターンのピーク位置がシフトすること、バンドエッジルミネッセンスが長波長側へシフトすることが分かった。炭素源に活性炭を用いると活性炭が結晶化核となりより大きな、かつ滑らかな表面をもつGaN粉体ができた。Ga2O3粉体にPVAをコートした出発材料を用いた場合、滑らかで大きな粉体は得られなかったが、これは、高温窒化反応中にPVAが熱分解して結晶化核とならなかったのではないかと考えられる。以上から、炭素熱還元法で作製したGaN粉体は、出発材料中のC/Gaの比および炭素源種を調整することで高品質なGaN粉体を製造することができる。
6.光触媒性能の評価
本実施例では、作製したGaN粉末の光触媒特性を評価するために,有機物のモデル分解物質として塩基性チアジン染料の青色色素であるメチレンブルー(MB,ナカライテスク社製)を用いた。本実施例に用いたMBの化学式と、10 ppmのMB水溶液の吸収スペクトルを図14A,14Bに示す。MBは波長664 nmと610 nm付近に吸収極大を持ち、このうち664 nm付近が最大吸収である。
MBは、正孔や水酸基ラジカル(・OH)によって,助色団である第三級アミノ基から脱メチル化が段階的に引き起こされることで淡色化が進むので、吸収スペクトルの変化を測定すれば、分解したことが容易にわかる。最終的には,水や二酸化炭素、無機分子へと分解されると考えられている。
(評価方法)
実験手順を以下に示す.
1. GaN粉体試料を受光面積が1.5 cm×1.5 cmとなるよう、ガラス片に粘着テープを用いて担持させた。これを試料片とする.
2. 20 ppmのMB水溶液50 mlに、UV,Vis,暗所用の試料片3つを浸漬させ、蓋をして暗所にて約20時間予備吸着を行った。
3.プラスチックケースに10 ppmのMB水溶液を20 ml入れて予備吸着をした試料片を浸漬させ、蓋をした。
4. 上部から可視光または紫外光を照射して、1時間毎に8時間までと24時間経過後のMB水溶液の吸光度を測定(波長は最大吸収の664 nm)することでMB濃度の経時変化を追跡した。
吸光度測定は紫外光可視光分光度計(V630,日本分光社製)を用いた。光源については、可視光照射にはUVカットフィルターを装着した青白色蛍光灯を、紫外光照射にはブラックライトを用いた。図15にそれらの発光強度分布を示す。照度は可視・紫外光ともに試料片表面で約1 mW/cm2であった。
(ブランク測定)
光触媒作用による分解以外にMB水溶液の吸光度を減少させてしまう要因がある。可視光によるMBの直接的な光分解とpHの変化によるMB水溶液の吸収域の変化である。これらが吸光度減少にどの程度の影響を及ぼすか調べるために予備実験を行った。
(可視光によるMBの分解)
図14に示したようにMBは可視域に吸収帯を持ち、光分解が起こってしまうことがわかっている。10 ppmのMB水溶液20 mlに試料片を浸漬させずに光照射を行い、吸光度の経時変化を追跡した。
図16に示すように、紫外光照射下(UV)では24時間後も吸光度に変化が見られず、光分解が起こっていないことが確認できるが、可視光照射下(Vis)では10 %ほど吸光度の減少が見られ、分解が進んだと判断できる。したがって、以降のGaN粉体試料の可視光による光触媒特性結果においてはこのことを考慮する必要がある。なお、MB分解を示す図では、縦軸はその試料片を用いた時のMBの最大吸光度を1とし、規格化を行っている。これ以降も同様である。
(pHの影響)
GaN粉末が加水分解によってGaOOHへと変化し、その際にNH3が発生する可能性がある。MBはpHによって色が変化するという性質を持っており、発生したNH3によってpHが変化し,吸光度に影響が及ぶことが懸念される。
この点を明らかにするためにpHが変化した時のMB水溶液の吸光度の変化を調べた。実験は,フタル酸水素カリウム緩衝液によりpH 4.0のMB溶液を調整した後、炭酸ナトリウムを少しずつ加えpHと吸光度の関係をしらべた。pHが10以上の塩基性域では吸光度の減少が確認されたが、pHが6〜10の間は吸光度に変化はほとんどないことが判明した(データ非図示)。今回の実験において溶液のpHが10を超えることはなかったため、pHの影響による吸光度減少は考慮しなくていいと判断した。以降の評価結果も、波長664nmでの吸光度変化を示している。
(市販試料の光触媒性能の評価)
市販GaN粉体試料Fと一般的な光触媒材料として知られるTiO2(AMT-600,アナターゼ型,テイカ社製)について光触媒特性を評価した。結果をそれぞれ図17A,Bに示す。また、MBの試料への吸着の影響を調べるために試料片をMB水溶液に浸漬させ、暗所で放置した結果についてもDarkとして図17A,Bに示した。以降の図も同様である。本実験では、予備吸着手順はどの試料も一定としたため、試料によっては吸着平衡に達していない可能性がある。同じ粉体試料であっても予備吸着の時間や予備吸着時のMB水溶液の濃度が異なると、その後の分解実験の光触媒作用による吸光度減少に差が生じてしまうことが予測される。できるだけ正確に比較するために予備吸着の条件をそろえる必要があると考え予備吸着手順を一定とした。したがって、Vis・UV照射下の吸光度変化からDarkの吸光度変化を差し引いた値を試料の光触媒作用による分解と考えて評価した。
24時間後の光触媒作用による吸光度減少は、GaNの市販試料とTiO2についてそれぞれ紫外光照射下においては0.25,0.61であり、可視光照射下ではTiO2は分解性能が見られず市販試料について0.21であった。図17BのTiO2における可視光照射下の吸光度の低下はMBの直接光分解によるもので、光触媒作用による分解ではないと判断できる。一方で、紫外光下では明確な分解作用が確認された。TiO2は白色であり紫外光しか吸収しないのでこの結果は妥当であると言える。一方、市販GaN試料については,MBの可視光分解を考慮すると紫外・可視光下共に同程度MBが分解されている結果となり、紫外光下の分解はTiO2には及ばないが、TiO2とは違い可視光にも応答性を持っているということがわかる。GaNのバンドギャップは3.4 eVであり、これは紫外域にのみ吸収を持つはずであるが、吸収スペクトルを測定すると、市販試料はバンド端の吸収が可視域にまで及んでいることが分かった。このため、可視域に応答性を持ったと考えられる。
また、市販試料についてMB分解実験後にXRD測定によって結晶構造を調べたところ、GaOOHのピークが見られた(図18)。
市販試料は半値幅が0.52であり結晶性が悪いので、やはり耐久性が低く、24時間常温でMB水溶液に浸漬させておくだけでも結晶構造が変化してしまうということがわかった。
(炭素を含むGa2O3を出発物質とするGaN)
炭素をGa:C=1:1で含むGa2O3を出発物質として種々の条件で窒化処理を行ったGaN粉体試料の光触媒特性の結果を図19に示す。一方、炭素量が多い試料(Ga:C=1:10)は吸着が強かったため、大気中後焼成前の性能評価は行っていない。大気中後焼成を行ったこれらの試料の結果を図20に示す。
ほとんどの試料について可視光下において分解性能がある。図17BのTiO2の結果と比較すると本発明による炭素熱還元法によるGaN粉体の光触媒性能がすぐれていることが良く分かる。とくに、Ga:C=1:1および1:10の試料は、1000 ℃ 2 hr + 1100 ℃ 1 hrで窒化処理した試料の紫外線照射下の結果が良好である.しかも、一定程度の可視光応答性もある。一般に、太陽光、蛍光灯では、可視光域の光量が圧倒的に多いので、図示した程度の応答性で大いに効果を発揮できると考えて良い。
また、PVAコートしたGa2O3およびGa-EDTAを出発材料として作製したGaNはともに、炭素粉体を混合して得たGaNの性能には及ばないものの、良好な紫外光/可視光応答性を示した。これらでは、いずれも、高い結晶性を示した試料がすぐれた性能を示した。
(炭素を含まないGa2O3を出発物質とするGaN)
図21A〜Dに、炭素を含まずにGa2O3を出発物質として種々の条件で窒化処理を行ったGaN粉体試料の光触媒特性の結果を示す。
紫外光照射によるMB分解能に良い結果を示している。とくに900℃、1000℃で窒化処理を行った試料はすぐれた可視光応答性を示した。しかしながら、後述するように、これらの試料は安定性の課題があり、これが、結晶性に由来するものと考えられるので、何らかの方法が新たに開発されて、この課題を乗り越える必要がある。
また、同様に気相のトルエンをモデル物質として、分解性能を評価したところ、同様の結果を得たので、液相、気相ともに本発明によるGaN粉体は応用が可能である。
(MB分解性能評価のまとめ)
作製したGaN粉体について、メチレンブルー(MB)をモデル分解物質とした液相における光触媒特性評価を行った。MBの吸光度を測定することでMB濃度の経時変化を追跡した。
その結果、今回合成した試料粉体のほとんどにおいて可視光応答性が確認され、また一部は、TiO2の結果に匹敵する紫外線応答を示した。
また、結晶性が高い試料の方が紫外光応答性に優れている傾向を示した。電子-正孔の再結合中心となる結晶内の欠陥が少ないためにこのような結果を示したと推測される。
7.安定性に関する評価
有機物の分解処理という点においては、効率や処理出来る量など他にも良い方法があるが、光を照射するだけで汚れや有害物質の分解ができることから、環境に優しく手軽な方法として注目されている。光触媒は、この有機物分解特性によって殺菌や消臭をおこなうことが可能であり、建築壁へのコーティングなど、実用化されている例も少なくない。
GaNは、熱的、化学的、機械的に安定な物質であるということが知られている。しかし、我々は、いくつかのGaN粉体試料を小ガラス瓶に入った状態で机の中に静置し光照射を避けて保存していたところ、数か月後に結晶構造がGaOOH(オキシ水酸化ガリウム)へと変化したことを経験した。GaNと同じGaN化合物であるAlN(窒化アルミニウム)において、大気中の水分によって容易に加水分解されるという報告もあり、GaNにおいても同様に以下の式に示すような反応が起こったのではないかと考えている。
GaN+2H2O→GaOOH+NH3
実際にGaN粉体試料を保管していた小ガラス瓶からアンモニアの刺激臭がすることが確認された。
GaOOHは、α-Ga2O3やδ-Ga2O3を湿った空気中において加熱処理したり、Ga金属と水を高圧滅菌器において200℃で加熱処理したりすることによって合成されることが知られているが、今回のこのGaNからGaOOHへの変化は大気中に含まれる水分によって室温で起こった可能性が高い。
また、我々は強制劣化試験の結果からGaNはその格子歪が小さいほど耐久性が優れている傾向にあるという知見を得ている。GaNを半導体光触媒粒子として利用するためには、その安定性を確認し、長期の使用に耐える材料とすることが重要であり、優先すべき課題と言える。そこで、水中浸漬試験によりGaN試料の安定性を評価した。
(水中浸漬)
試料片を水に浸漬させた場合の結果について述べる。75℃の 蒸留水(pH7付近)に浸漬した場合の市販粉体試料の実験結果を図22に示す。粉体試料は、1日経過後からGaOOHのピークが観察され、30日経過後には完全にGaOOHのパターンを示した。
図23A,Bに炭素あり(図23A)および炭素なし(図23B)で作製したGaN試料のXRDパターンを示す。図に示すようにGa2O3粉体と炭素粉体から調製された図23Aにおいて60日浸漬後21°付近のGaOOHの微小なピークが検出されたが,炭素を含まない図23Bと比較するとその差は歴然であり、炭素を加えることによって安定性の向上が顕著であることが分かった。またGa-EDTAから調製されたGaNおよびPVAコート試料についてもほぼ図23Aと同じくらい良い安定性を示した。
以上の結果から、炭素を含む試料の方が安定性は良好であり、炭素が多く含まれるほど半値幅が小さく結晶性が良い傾向があることから,炭素含有量、結晶性および安定性には関連があると考えられる。
8.収率
C/Ga=1の炭素ありの条件、および炭素なしの条件およびN2ガス、NH3ガスともに100ml/minで窒化処理して作製したGaN粉体の収率を、熱処理条件でまとめたのが表3である。
ともに高温になるほど収率がほぼ100%からおよそ40〜60%へと低下する。高温下では、生成したGaNが熱分解され、逸散するのではないかと考えられる。上述した通り、高い結晶性を得て、光触媒性能も良く、安定性も確保されるには、1100℃での窒化が望ましい。しかしながら、1100℃での窒化は、収率の低下が大きく、炭素無しの場合に約40%、炭素有りで60%程度と低く、工業的には不利であろう。そこで、同表に示しているように、1000℃で2時間保持したのち、1100℃へ昇温して1時間保持したところ、収率が80%へ回復することが分かった。さらに詰めた条件出しを行って、高い結晶性、光触媒性能そして安定性を両立させることが可能であると考えられる。
9.全体のまとめ
Ga2O3および炭素源の混合物、Ga-EDTAを、N2ガス+NH3ガス中で高温窒化することで、従来にない高結晶性、高光触媒性能、高安定性を満足する製造条件を見出した。生成物は多色性であり、今日中心的な応用である、防汚、有害物の除害、減菌、滅菌、抗菌などの用途に多用し得る成果であり、工業的な意味を十分にもつ。
本発明を総括すると、Ga2O3粉体を出発材料とし、活性炭粉体との混合物を、N2+NH3中で特定の温度および時間(好ましくは1000℃以上、より好ましくは1000℃で2時間程度、さらに1100℃に昇温)で窒化して得たGaN粉体試料は、光触媒性能、安定性そして収率の3点ですぐれており、工業的に有用であると結論付けた。なかでもXRDの最大ピーク(2θ=36.7°)の半値幅の値が、0.19、好ましくは0.15以下の高結晶性のGaN粉体がすぐれた性能を持つ。

Claims (11)

  1. GaNの元素Gaと元素Nの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物。
  2. 粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅が0.19以下であることを特徴とする請求項1に記載のGaN化合物。
  3. 粉末X線回折ピークの最大ピークの半値幅が0.15以下であることを特徴とする請求項1に記載のGaN化合物。
  4. 表層部に酸化ガリウム層を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のGaN化合物。
  5. 粉末X線回折の最大ピークの半値幅が0.14以下であり、表層部にGa2O3層を備えていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のGaN化合物。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のGaN化合物を含有する光触媒材料。
  7. 前記GaN化合物が粉体の形状である請求項6に記載の光触媒材料。
  8. 請求項6または7に記載の光触媒材料を備えた光触媒デバイス。
  9. 1種類または2種類以上の請求項1〜5のいずれかに記載のGaN化合物の粉体、または請求項6または7に記載の光触媒材料の粉体を含有する光触媒塗料。
  10. (i) Ga2O3、(ii)ガリウムの有機化合物、または(iii) Ga2O3と炭素の供給源、のいずれかを、NH3ガスおよびN2ガス中あるいはNH3ガス中で高温窒化する工程を含むことを特徴とするGaおよびNの一方または両方の一部を炭素で置換してなるGaN化合物の製造方法。
  11. 高温窒化ののち、前記高温窒化する工程で生成した窒化物を大気中で焼成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載のGaN化合物の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN113019413A (zh) * 2021-03-11 2021-06-25 王岩 一种M/GaN/FTO催化剂及其制备方法

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