JP2019175535A - 磁気記録媒体および磁気記録再生装置 - Google Patents
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Abstract
Description
非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
上記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRa(以下、「磁性層表面粗さRa」とも記載する。)は1.0nm以上1.6nm以下であり、かつ
上記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄後に光学干渉法により測定されるスペーシングSafterと、上記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄前に光学干渉法により測定されるスペーシングSbeforeとの差分(Safter−Sbefore)(以下、「メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)」または単に「差分(Safter−Sbefore)」とも記載する。)は0nm超15.0nm以下である磁気記録媒体、
に関する。
本発明の一態様は、非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、上記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.0nm以上1.6nm以下であり、かつ上記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄後に光学干渉法により測定されるスペーシングSafterと、上記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄前に光学干渉法により測定されるスペーシングSbeforeとの差分(Safter−Sbefore)は0nm超15.0nm以下である磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体(詳しくは上記の試料片。以下同様。)と透明な板状部材(例えばガラス板等)を、磁気記録媒体の磁性層表面が透明な板状部材と対向するように重ね合わせた状態で、磁気記録媒体の磁性層側とは反対側から5.05×104N/m(0.5atm)の圧力で押圧部材を押しつける。この状態で、透明な板状部材を介して磁気記録媒体の磁性層表面に光を照射し(照射領域:150000〜200000μm2)、磁気記録媒体の磁性層表面からの反射光と透明な板状部材の磁気記録媒体側表面からの反射光との光路差によって発生する干渉光の強度(例えば干渉縞画像のコントラスト)に基づき、磁気記録媒体の磁性層表面と透明な板状部材の磁気記録媒体側表面との間のスペーシング(距離)を求める。ここで照射される光は特に限定されるものではない。照射される光が、複数波長の光を含む白色光のように、比較的広範な波長範囲にわたり発光波長を有する光の場合には、透明な板状部材と反射光を受光する受光部との間に、干渉フィルタ等の特定波長の光または特定波長域以外の光を選択的にカットする機能を有する部材を配置し、反射光の中の一部の波長の光または一部の波長域の光を選択的に受光部に入射させる。照射させる光が単一の発光ピークを有する光(いわゆる単色光)の場合には、上記の部材は用いなくてもよい。受光部に入射させる光の波長は、一例として、例えば500〜700nmの範囲にあることができる。ただし、受光部に入射させる光の波長は、上記範囲に限定されるものではない。また、透明な板状部材は、この部材を介して磁気記録媒体に光を照射し干渉光が得られる程度に、照射される光を透過する透明性を有する部材であればよい。
上記スペーシングの測定により得られる干渉縞画像を300000ポイントに分割して各ポイントのスペーシング(磁気記録媒体の磁性層表面と透明な板状部材の磁気記録媒体側表面との間の距離)を求め、これをヒストグラムとし、このヒストグラムにおける最頻値を、スペーシングとする。差分(Safter−Sbefore)は、上記300000ポイントにおけるメチルエチルケトン洗浄後の最頻値からメチルエチルケトン洗浄前の最頻値を差し引いた値をいうものとする。
同じ磁気記録媒体から2つの試料片を切り出し、一方をメチルエチルケトン洗浄なしで上記スペーシングの値Sbeforeを求め、他方をメチルエチルケトン洗浄に付した後に上記スペーシングの値Safterを求めることによって、差分(Safter−Sbefore)を求めてもよい。または、メチルエチルケトン洗浄前に上記スペーシングの値を求めた試料片を、その後にメチルエチルケトン洗浄に付した後に上記スペーシングの値を求めることによって差分(Safter−Sbefore)を求めてもよい。
以上の測定は、例えばMicro Physics社製Tape Spacing Analyzer等の市販のテープスペーシングアナライザー(Tape Spacing Analyzer;TSA)を用いて行うことができる。実施例におけるスペーシング測定は、Micro Physics社製Tape Spacing Analyzerを用いて実施した。
一方、高湿下において低温から高温への温度変化が生じると、磁気記録媒体の磁性層表面に結露(水分の付着)が生じると考えられる。この水分の存在が、磁性層表面と磁気ヘッドとの摺動時の摩擦係数を上昇させる原因になると推察される。磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体では、磁性層表面と磁気ヘッドとの摺動時の摩擦係数が上昇しやすい傾向にあるうえに、上記の水分の存在によって摩擦係数が更に上昇することが、磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体において、高湿下で低温から高温への温度変化が生じると電磁変換特性の低下が発生する理由ではないかと本発明者らは考えている。したがって、高湿下において低温から高温への温度変化が生じる際に磁性層表面に付着する水分量を低減することができれば、上記の摩擦係数の上昇を抑制することにつながり、その結果、電磁変換特性の低下を抑制できると考えられる。
以上の点に関して本発明者らは、メチルエチルケトン洗浄によって除去される成分が磁性層表面上に存在することが、高湿下において低温から高温への温度変化が生じた際の磁性層表面への水分の付着を促進すると考えている。そのため、メチルエチルケトン洗浄前後の上記スペーシングの差分(Safter−Sbefore)を小さくすること、即ち上記成分量を低減することは、水分の付着を抑制することに寄与し、その結果、上記の摩擦係数の上昇を抑制することにつながると本発明者らは推察している。これにより、磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体において、高湿下での低温から高温への温度変化に起因する電磁変換特性の低下を抑制することが可能になると本発明者らは考えている。これに対し、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されているn−ヘキサン洗浄前後のスペーシングの差分の値と、磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体における高湿下での低温から高温への温度変化に起因する電磁変換特性の低下との間には、相関は見られなかった。これは、n−ヘキサン洗浄では、上記成分を除去できないか十分に除去できないことによるものと推察される。
上記成分の詳細は明らかではない。あくまでも推察として、本発明者らは、上記成分は、磁性層に添加剤として通常添加される有機化合物より分子量が大きい成分ではないかと考えている。この成分の一態様について、本発明者らは以下のように推察している。磁性層は、一態様では、強磁性粉末および結合剤に加えて、硬化剤を含む磁性層形成用組成物を非磁性支持体上に直接または他の層を介して塗布し、硬化処理を施し形成される。ここでの硬化処理により、結合剤と硬化剤とを硬化反応(架橋反応)させることができる。ただし、硬化剤と硬化反応しなかった結合剤または硬化剤との硬化反応が不十分であった結合剤は磁性層から遊離しやすく、磁性層表面上にも存在する場合があると考えられる。このような結合剤(例えばこの結合剤が有する官能基)が水分を吸着しやすいことが、高湿下において低温から高温への温度変化が生じた際に磁性層表面への水分の付着が促進される原因ではないかと本発明者らは推察している。
ただし以上は本発明者らの推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
(磁性層表面粗さRa)
上記磁気記録媒体の磁性層表面において測定される中心線平均表面粗さRa(磁性層表面粗さRa)は、1.0nm以上1.6nm以下である。磁性層表面粗さRaが1.6nm以下であることは、上記磁気記録媒体が優れた電磁変換特性を発揮できることに寄与し得る。電磁変換特性の更なる向上の観点からは、磁性層表面粗さRaは、1.5nm以下であることが好ましい。しかし、そのような表面平滑性が高い磁性層を有する磁気記録媒体では、何ら対策を施さなければ、高湿下で低温から高温への温度変化に起因して電磁変換特性が低下してしまう。これに対し、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)が上記範囲である上記磁気記録媒体では、表面平滑性が高い磁性層を有するにも関わらず、高湿下で低温から高温への温度変化に起因して電磁変換特性の低下が発生することを抑制することができる。また、磁性層表面粗さRaが1.0nm以上であれば、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)を上記範囲とすることにより、高湿下で低温から高温への温度変化に起因して電磁変換特性が低下することを抑制することができる。この点から、上記磁気記録媒体の磁性層表面粗さRaは、1.0nm以上であり、1.1nm以上であることが好ましい。
AFM(Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて磁気テープの磁性層の表面の面積40μm×40μmの領域を測定する。探針としてはBRUKER社製RTESP−300を使用し、スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとする。
上記磁気記録媒体の磁性層表面において光学干渉法により測定されるメチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)は、0nm超15.0nm以下である。スペーシング差分(Safter−Sbefore)が15.0nm以下であることにより、磁性層表面の平滑性が高い上記磁気記録媒体において、高湿下での低温から高温への温度変化に起因する電磁変換特性の低下を抑制することができる。この点から、差分(Safter−Sbefore)は15.0nm以下であり、14.0nm以下であることが好ましく、13.0nm以下であることがより好ましく、12.0nm以下であることが更に好ましく、11.0nm以下であることが一層好ましく、10.0nm以下であることがより一層好ましい。詳細を後述するように、差分(Safter−Sbefore)は磁気記録媒体の製造工程における磁性層の表面処理によって制御することができる。ただし、本発明者らの検討の結果、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)が0nmになるほど磁性層の表面処理を実施してしまうと、磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体において、高湿下での低温から高温への温度変化に起因する電磁変換特性の低下を抑制することが困難になることも判明した。この理由は明らかではない。あくまでも推察として、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)が0nmになるほど磁性層の表面処理を実施してしまうと、走行安定性の向上に寄与する成分(例えば潤滑剤)が磁気記録媒体から過剰に除去されてしまうことが一因ではないかと、本発明者らは考えている。この点から、上記磁気記録媒体のメチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)は0nm超であり、1.0nm以上であることが好ましく、2.0nm以上であることがより好ましく、3.0nm以上であることが更に好ましく、4.0nm以上であることが一層好ましい。
磁性層に含まれる強磁性粉末としては、各種磁気記録媒体の磁性層において用いられる強磁性粉末として公知の強磁性粉末を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。強磁性粉末として平均粒子サイズの小さいものを使用することは記録密度向上の観点から好ましい。この点から、強磁性粉末の平均粒子サイズは50nm以下であることが好ましく、45nm以下であることがより好ましく、40nm以下であることが更に好ましく、35nm以下であることが一層好ましく、30nm以下であることがより一層好ましく、25nm以下であることが更に一層好ましく、20nm以下であることがなお一層好ましい。一方、磁化の安定性の観点からは、強磁性粉末の平均粒子サイズは5nm以上であることが好ましく、8nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることが更に好ましく、15nm以上であることが一層好ましく、20nm以上であることがより一層好ましい。
強磁性粉末の好ましい具体例としては、六方晶フェライト粉末を挙げることができる。六方晶フェライト粉末の詳細については、例えば、特開2011−225417号公報の段落0012〜0030、特開2011−216149号公報の段落0134〜0136、特開2012−204726号公報の段落0013〜0030および特開2015−127985号公報の段落0029〜0084を参照できる。
Hc=2Ku/Ms{1−[(kT/KuV)ln(At/0.693)]1/2}
[上記式中、Ku:異方性定数(単位:J/m3)、Ms:飽和磁化(単位:kA/m)、k:ボルツマン定数、T:絶対温度(単位:K)、V:活性化体積(単位:cm3)、A:スピン歳差周波数(単位:s−1)、t:磁界反転時間(単位:s)]
希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0
の比率を満たすことを意味する。後述の六方晶ストロンチウムフェライト粉末の希土類原子含有率とは、希土類原子バルク含有率と同義である。これに対し、酸を用いる部分溶解は六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部を溶解するため、部分溶解により得られる溶解液中の希土類原子含有率とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表層部における希土類原子含有率である。希土類原子表層部含有率が、「希土類原子表層部含有率/希土類原子バルク含有率>1.0」の比率を満たすことは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子において、希土類原子が表層部に偏在(即ち内部より多く存在)していることを意味する。本発明および本明細書における表層部とは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面から内部に向かう一部領域を意味する。
また、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末を磁性層の強磁性粉末として用いることは、磁気ヘッドとの摺動によって磁性層表面が削れることを抑制することにも寄与すると推察される。即ち、磁気記録媒体の走行耐久性の向上にも、希土類原子表層部偏在性を有する六方晶ストロンチウムフェライト粉末が寄与し得ると推察される。これは、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子の表面に希土類原子が偏在することが、粒子表面と磁性層に含まれる有機物質(例えば、結合剤および/または添加剤)との相互作用の向上に寄与し、その結果、磁性層の強度が向上するためではないかと推察される。
繰り返し再生における再生出力の低下をより一層抑制する観点および/または走行耐久性の更なる向上の観点からは、希土類原子含有率(バルク含有率)は、0.5〜4.5原子%の範囲であることがより好ましく、1.0〜4.5原子%の範囲であることが更に好ましく、1.5〜4.5原子%の範囲であることが一層好ましい。
上記部分溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認できる程度に溶解することをいう。例えば、部分溶解により、六方晶ストロンチウムフェライト粉末を構成する粒子について、粒子全体を100質量%として10〜20質量%の領域を溶解することができる。一方、上記全溶解とは、溶解終了時に液中に六方晶ストロンチウムフェライト粉末の残留が目視で確認されない状態まで溶解することをいう。
上記部分溶解および表層部含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。ただし、下記の試料粉末量等の溶解条件は例示であって、部分溶解および全溶解が可能な溶解条件を任意に採用できる。
試料粉末12mgおよび1mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度70℃のホットプレート上で1時間保持する。得られた溶解液を0.1μmのメンブレンフィルタでろ過する。こうして得られたろ液の元素分析を誘導結合プラズマ(ICP;Inductively Coupled Plasma)分析装置によって行う。こうして、鉄原子100原子%に対する希土類原子の表層部含有率を求めることができる。元素分析により複数種の希土類原子が検出された場合には、全希土類原子の合計含有率を、表層部含有率とする。この点は、バルク含有率の測定においても、同様である。
一方、上記全溶解およびバルク含有率の測定は、例えば、以下の方法により行われる。
試料粉末12mgおよび4mol/L塩酸10mLを入れた容器(例えばビーカー)を、設定温度80℃のホットプレート上で3時間保持する。その後は上記の部分溶解および表層部含有率の測定と同様に行い、鉄原子100原子%に対するバルク含有率を求めることができる。
強磁性粉末の好ましい具体例としては、強磁性金属粉末を挙げることもできる。強磁性金属粉末の詳細については、例えば特開2011−216149号公報の段落0137〜0141および特開2005−251351号公報の段落0009〜0023を参照できる。
強磁性粉末の好ましい具体例としては、ε−酸化鉄粉末を挙げることもできる。本発明および本明細書において、「ε−酸化鉄粉末」とは、X線回折分析によって、主相としてε−酸化鉄型の結晶構造が検出される強磁性粉末をいうものとする。例えば、X線回折分析によって得られるX線回折スペクトルにおいて最も高強度の回折ピークがε−酸化鉄型の結晶構造に帰属される場合、ε−酸化鉄型の結晶構造が主相として検出されたと判断するものとする。ε−酸化鉄粉末の製造方法としては、ゲーサイトから作製する方法、逆ミセル法等が知られている。上記製造方法は、いずれも公知である。また、Feの一部がGa、Co、Ti、Al、Rh等の置換原子によって置換されたε−酸化鉄粉末を製造する方法については、例えば、J. Jpn. Soc. Powder Metallurgy Vol. 61 Supplement, No. S1, pp. S280−S284、J. Mater. Chem. C, 2013, 1, pp.5200−5206等を参照できる。ただし、上記磁気記録媒体の磁性層において強磁性粉末として使用可能なε−酸化鉄粉末の製造方法は、ここで挙げた方法に限定されない。
粉末を、透過型電子顕微鏡を用いて撮影倍率100000倍で撮影し、総倍率500000倍になるように印画紙にプリントして粉末を構成する粒子の写真を得る。得られた粒子の写真から目的の粒子を選びデジタイザーで粒子の輪郭をトレースし粒子(一次粒子)のサイズを測定する。一次粒子とは、凝集のない独立した粒子をいう。
以上の測定を、無作為に抽出した500個の粒子について行う。こうして得られた500個の粒子の粒子サイズの算術平均を、粉末の平均粒子サイズとする。上記透過型電子顕微鏡としては、例えば日立製透過型電子顕微鏡H−9000型を用いることができる。また、粒子サイズの測定は、公知の画像解析ソフト、例えばカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて行うことができる。後述の実施例に示す平均粒子サイズは、特記しない限り、透過型電子顕微鏡として日立製透過型電子顕微鏡H−9000型、画像解析ソフトとしてカールツァイス製画像解析ソフトKS−400を用いて測定された値である。本発明および本明細書において、粉末とは、複数の粒子の集合を意味する。例えば、強磁性粉末とは、複数の強磁性粒子の集合を意味する。また、複数の粒子の集合とは、集合を構成する粒子が直接接触している態様に限定されず、後述する結合剤、添加剤等が、粒子同士の間に介在している態様も包含される。粒子との語が、粉末を表すために用いられることもある。
(1)針状、紡錘状、柱状(ただし、高さが底面の最大長径より大きい)等の場合は、粒子を構成する長軸の長さ、即ち長軸長で表され、
(2)板状または柱状(ただし、厚みまたは高さが板面または底面の最大長径より小さい)の場合は、その板面または底面の最大長径で表され、
(3)球形、多面体状、不特定形等であって、かつ形状から粒子を構成する長軸を特定できない場合は、円相当径で表される。円相当径とは、円投影法で求められるものを言う。
そして、特記しない限り、粒子の形状が特定の場合、例えば、上記粒子サイズの定義(1)の場合、平均粒子サイズは平均長軸長であり、同定義(2)の場合、平均粒子サイズは平均板径である。同定義(3)の場合、平均粒子サイズは、平均直径(平均粒径、平均粒子径ともいう)である。
上記磁気記録媒体は塗布型磁気記録媒体であって、磁性層に結合剤を含む。結合剤とは、一種以上の樹脂である。結合剤としては、塗布型磁気記録媒体の結合剤として通常使用される各種樹脂を用いることができる。例えば、結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレート等を共重合したアクリル樹脂、ニトロセルロース等のセルロース樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルキラール樹脂等から選ばれる樹脂を単独で用いるか、または複数の樹脂を混合して用いることができる。これらの中で好ましいものはポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、セルロース樹脂、および塩化ビニル樹脂である。これらの樹脂は、ホモポリマーでもよく、コポリマー(共重合体)でもよい。これらの樹脂は、後述する非磁性層および/またはバックコート層においても結合剤として使用することができる。
以上の結合剤については、特開2010−24113号公報の段落0028〜0031を参照できる。結合剤として使用される樹脂の平均分子量は、重量平均分子量として、例えば10,000以上200,000以下であることができる。本発明および本明細書における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、下記測定条件により測定された値をポリスチレン換算して求められる値である。後述の実施例に示す結合剤の重量平均分子量は、下記測定条件によって測定された値をポリスチレン換算して求めた値である。
GPC装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK gel Multipore HXL−M(東ソー社製、7.8mmID(Inner Diameter)×30.0cm)
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
磁性層には、強磁性粉末および結合剤が含まれ、必要に応じて一種以上の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、一例として、上記の硬化剤が挙げられる。また、磁性層に含まれる添加剤としては、非磁性粉末(例えば無機粉末、カーボンブラック等)、潤滑剤、分散剤、分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤等を挙げることができる。
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等を挙げることができ、ステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。脂肪酸は、金属塩等の塩の形態で磁性層に含まれていてもよい。
脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、エルカ酸、エライジン酸等のエステルを挙げることができる。具体例としては、例えば、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ネオペンチルグリコールジオレエート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリステアレート、オレイン酸オレイル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸イソトリデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸アミル、ステアリン酸ブトキシエチル等を挙げることができる。
脂肪酸アミドとしては、上記の各種脂肪酸のアミド、例えば、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等を挙げることができる。
磁性層形成用組成物における脂肪酸含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜10.0質量部であり、好ましくは0.1〜10.0質量部であり、より好ましくは1.0〜7.0質量部である。磁性層形成用組成物における脂肪酸エステル含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0.1〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜7.0質量部である。磁性層形成用組成物における脂肪酸アミド含有量は、強磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜3.0質量部であり、好ましくは0〜2.0質量部であり、より好ましくは0〜1.0質量部である。
また、上記磁気記録媒体が非磁性支持体と磁性層との間に非磁性層を有する場合、非磁性層形成用組成物における脂肪酸含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜10.0質量部であり、好ましくは1.0〜10.0質量部であり、より好ましくは1.0〜7.0質量部である。非磁性層形成用組成物における脂肪酸エステル含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜10.0質量部であり、好ましくは0.1〜8.0質量部である。非磁性層形成用組成物における脂肪酸アミド含有量は、非磁性粉末100.0質量部あたり、例えば0〜3.0質量部であり、好ましくは0〜1.0質量部である。
本発明および本明細書において、特記しない限り、ある成分は、一種のみ用いてもよく二種以上用いてもよい。ある成分が二種以上用いられる場合の含有量とは、これら二種以上の合計含有量をいうものとする。
分散剤は、非磁性層に含まれていてもよい。非磁性層に含まれ得る分散剤については、特開2012−133837号公報の段落0061を参照できる。
各種添加剤は、所望の性質に応じて市販品を適宜選択して、または公知の方法で製造して、任意の量で使用することができる。
次に非磁性層について説明する。上記磁気記録媒体は、非磁性支持体上に直接磁性層を有していてもよく、非磁性支持体と磁性層との間に非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有していてもよい。非磁性層に使用される非磁性粉末は、無機物質の粉末でも有機物質の粉末でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物等が挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。その詳細については、特開2011−216149号公報の段落0146〜0150を参照できる。非磁性層に使用可能なカーボンブラックについては、特開2010−24113号公報の段落0040〜0041も参照できる。非磁性層における非磁性粉末の含有量(充填率)は、好ましくは50〜90質量%の範囲であり、より好ましくは60〜90質量%の範囲である。
次に、非磁性支持体について説明する。非磁性支持体(以下、単に「支持体」とも記載する。)としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体には、あらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、加熱処理等を行ってもよい。
上記磁気記録媒体は、非磁性支持体の磁性層を有する表面とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有することもできる。バックコート層には、カーボンブラックおよび無機粉末のいずれか一方または両方が含有されていることが好ましい。バックコート層に含まれる結合剤、任意に含まれ得る各種添加剤については、バックコート層に関する公知技術を適用することができ、磁性層および/または非磁性層の処方に関する公知技術を適用することもできる。例えば、特開2006−331625号公報の段落0018〜0020および米国特許第7029774号明細書の第4欄65行目〜第5欄38行目の記載を、バックコート層について参照できる。
上記磁気記録媒体における非磁性支持体および各層の厚みについて、非磁性支持体の厚みは、例えば3.0〜80.0μmであり、好ましくは3.0〜50.0μmの範囲であり、より好ましくは3.0〜10.0μmの範囲である。
(各層形成用組成物の調製)
磁性層、非磁性層およびバックコート層を形成するための組成物は、先に説明した各種成分とともに、通常、溶媒を含む。溶媒としては、塗布型磁気記録媒体を製造するために一般に使用される各種有機溶媒を用いることができる。各層形成用組成物における溶媒量は特に限定されるものではなく、通常の塗布型磁気記録媒体の各層形成用組成物と同様にすることができる。各層を形成するための組成物を調製する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程を含む。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。本発明で用いられる全ての原料は、どの工程の最初または途中で添加してもよい。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもよい。
磁性層は、磁性層形成用組成物を、例えば、非磁性支持体上に直接塗布するか、または非磁性層形成用組成物と逐次もしくは同時に重層塗布することにより形成することができる。バックコート層は、バックコート層形成用組成物を、非磁性支持体の磁性層を有する(または磁性層が追って設けられる)側とは反対側に塗布することにより形成することができる。各層形成のための塗布の詳細については、特開2010−24113号公報の段落0051を参照できる。
塗布工程後には、乾燥処理、磁性層の配向処理、表面平滑化処理(カレンダ処理)等の各種処理を行うことができる。各種工程については、特開2010−24113号公報の段落0052〜0057を参照できる。
上記磁気記録媒体の好ましい製造方法としては、磁性層表面を、好ましくは上記加熱処理の後に、メチルエチルケトンを浸潤させたワイピング材によって拭き取ること(以下、「メチルエチルケトン拭き取り処理」とも記載する。)を含む製造方法を挙げることができる。このメチルエチルケトン拭き取り処理によって除去可能な成分が磁性層表面上に存在することが、先に記載したように、高湿下において低温から高温への温度変化が生じた際の磁性層表面への水分の付着を促進すると考えられる。メチルエチルケトン拭き取り処理は、磁気記録媒体の製造工程において一般に実施される乾式拭き取り処理に準じて、乾式拭き取り処理で使用されるワイピング材に代えて、メチルエチルケトンを浸潤させたワイピング材を用いて実施することができる。例えば、テープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)については、磁気テープを磁気テープカートリッジに収容する幅にスリットした後またはスリットする前に、磁気テープを送り出しローラーと巻き取ローラーとの間で走行させ、走行中の磁気テープの磁性層表面にメチルエチルケトンを浸潤させたワイピング材(例えば布(例えば不織布)または紙(例えばティッシュペーパー))を押し付けることにより、磁性層表面のメチルエチルケトン拭き取り処理を行うことができる。上記走行における磁気テープの走行速度および磁性層表面の長手方向に与えられる張力(以下、単に「張力」と記載する。)は、磁気記録媒体の製造工程において一般に実施される乾式拭き取り処理で一般に採用されている処理条件と同様にすることができる。例えば、メチルエチルケトン拭き取り処理における磁気テープの走行速度は、60〜600m/分程度とすることができ、張力は、0.196〜3.920N(ニュートン)程度とすることができる。また、メチルエチルケトン拭き取り処理は、少なくとも1回行うことができる。先に記載したように、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)が0nmになるほど磁性層の表面処理を実施してしまうと、磁性層表面の平滑性が高い磁気記録媒体において、高湿下での低温から高温への温度変化に起因する電磁変換特性の低下を抑制することが困難になるため、この点を考慮してメチルエチルケトン拭き取り処理の処理条件および処理回数を設定することが好ましい。
また、メチルエチルケトン拭き取り処理の前および/または後に、磁性層表面に、塗布型磁気記録媒体の製造工程において一般に実施される研磨処理および/または乾式拭き取り処理(以下、これらを「乾式表面処理」と記載する。)を1回以上行うこともできる。乾式表面処理によれば、例えばスリットにより発生した切り屑等の製造工程中で発生して磁性層表面に付着している異物を除去することができる。
以上ではテープ状の磁気記録媒体(磁気テープ)を例に説明した。ディスク状の磁気記録媒体(磁気ディスク)についても、上記記載を参照して各種処理を実施することができる。
また、サーボバンドに情報を埋め込む方法としては、上記以外の方法を採用することも可能である。例えば、一対のサーボストライプの群の中から、所定の対を間引くことによって、所定のコードを記録するようにしてもよい。
本発明の一態様は、上記磁気記録媒体と、磁気ヘッドと、を含む磁気記録再生装置に関する。
各層形成用組成物の処方を、下記に示す。
(磁性液)
強磁性粉末(表1参照):100.0部
オレイン酸:2.0部
塩化ビニル共重合体(カネカ社製MR−104):10.0部
(重量平均分子量:55000、活性水素含有基(ヒドロキシ基):0.33meq/g、OSO3K基(硫酸基のカリウム塩):0.09meq/g)
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:4.0部
(重量平均分子量:70000、活性水素含有基(ヒドロキシ基):4〜6mgKOH/g、SO3Na基(スルホン酸基のナトリウム塩):0.07meq/g)
ポリアルキレンイミン系ポリマー(特開2016−51493号公報の段落0115〜0123に記載の方法により得られた合成品):6.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
(研磨剤液)
α−アルミナ(BET(Brunauer−Emmett−Teller)比表面積19m2/g):6.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:0.6部
(重量平均分子量70000、SO3Na基:0.1meq/g)
2,3−ジヒドロキシナフタレン:0.6部
シクロヘキサノン:23.0部
(突起形成剤液)
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm):表1参照
メチルエチルケトン:8.0部
(その他の成分)
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:6.0部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(東ソー社製コロネート(登録商標)L):3部
非磁性無機粉末 α−酸化鉄(平均粒子サイズ10nm、BET比表面積75m2/g):100.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):25.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂(重量平均分子量70000、SO3Na基含有量0.2meq/g):18.0部
ステアリン酸:1.0部
シクロヘキサノン:300.0部
メチルエチルケトン:300.0部
非磁性無機粉末:α−酸化鉄(平均粒子サイズ:0.15μm、BET比表面積52m2/g):80.0部
カーボンブラック(平均粒子サイズ:20nm):20.0部
塩化ビニル共重合体:13.0部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂:6.0部
フェニルホスホン酸:3.0部
シクロヘキサノン:155.0部
メチルエチルケトン:155.0部
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸ブチル:3.0部
ポリイソシアネート:5.0部
シクロヘキサノン:200.0部
磁性層形成用組成物を、以下の方法によって調製した。
上記磁性液の各種成分をバッチ式縦型サンドミルを用いて24時間分散(ビーズ分散)することにより、磁性液を調製した。分散ビーズとしては、ビーズ径0.5mmのジルコニアビーズを使用した。
研磨剤液は、上記の研磨剤液の各種成分を混合してビーズ径0.3mmのジルコニアビーズとともに横型ビーズミル分散機に入れ、ビーズ体積/(研磨剤液体積+ビーズ体積)が80%になるように調整し、120分間ビーズミル分散処理を行い、処理後の液を取り出し、フロー式の超音波分散濾過装置を用いて、超音波分散濾過処理を施した。こうして研磨剤液を調製した。
調製した磁性液および研磨剤液、ならびに上記の突起形成剤液およびその他の成分をディゾルバー攪拌機に導入し、周速10m/秒で30分間攪拌した後、フロー式超音波分散機により流量7.5kg/分で3パス処理した後に、孔径1μmのフィルタで濾過して磁性層形成用組成物を調製した。
上記の非磁性層形成用組成物の各種成分を、バッチ式縦型サンドミルによりビーズ径0.1mmのジルコニアビーズを使用して24時間分散し、その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、非磁性層形成用組成物を調製した。
上記のバックコート層形成用組成物の各種成分のうち潤滑剤(ステアリン酸およびステアリン酸ブチル)、ポリイソシアネートおよび200.0部のシクロヘキサノンを除いた成分をオープンニーダにより混練および希釈した後、横型ビーズミル分散機によりビーズ径1mmのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80体積%、ローター先端周速10m/秒で1パス滞留時間を2分間とし、12パスの分散処理に供した。その後、上記の残りの成分を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルタを用いてろ過することにより、バックコート層形成用組成物を調製した。
厚み5.0μmのポリエチレンナフタレート製支持体の表面上に、乾燥後の厚みが400nmになるように上記で調製した非磁性層形成用組成物を塗布および乾燥させて非磁性層を形成した後、非磁性層の表面上に乾燥後の厚みが70nmになるように上記で調製した磁性層形成用組成物を塗布して塗布層を形成した。この磁性層形成用組成物の塗布層が湿潤(未乾燥)状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布層の表面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理を施し、乾燥させた。その後、この支持体の反対面に乾燥後の厚みが0.4μmになるように上記で調製したバックコート層形成用組成物を塗布し、乾燥させた。こうして磁気テープ原反を作製した。
作製された磁気テープ原反に対し、金属ロールのみから構成されるカレンダにより、速度100m/min、線圧300kg/cm(294kN/m)、カレンダロールの表面温度100℃でカレンダ処理(表面平滑化処理)し、その後、表1に示す雰囲気温度の環境で表1に示す時間、加熱処理を施した。加熱処理後、磁気テープ原反を裁断機によりスリットし、1/2インチ(0.0127メートル)幅の磁気テープを得た。この磁気テープを送り出しローラーと巻き取りローラーとの間で走行させながら(走行速度120m/分、張力:表1参照)、磁性層表面のブレード研磨、乾式拭き取り処理およびメチルエチルケトン拭き取り処理をこの順で実施した。具体的には、上記2つのローラーの間にサファイアブレード、乾いたワイピング材(東レ社製トレシー(登録商標))およびメチルエチルケトンを浸潤させたワイピング材(東レ社製トレシー(登録商標))を配置し、上記2つのローラー間で走行している磁気テープの磁性層表面にサファイアブレードを押し当ててブレード研磨し、その後に上記の乾いたワイピング材により磁性層表面の乾式拭き取り処理を行い、その後に上記のメチルエチルケトンを浸潤させたワイピング材により磁性層表面のメチルエチルケトン拭き取り処理を行った。以上により、ブレード研磨、乾式拭き取り処理およびメチルエチルケトン拭き取り処理がそれぞれ1回磁性層表面に施された。
こうして実施例1の磁気テープを得た。
表1に示すように各種条件を変更した点以外、実施例1と同様の方法で磁気テープを作製した。
スリット後の磁性層表面の表面処理については、実施例2〜4、6〜8、比較例4および比較例5では、実施例1と同様にブレード研磨、乾式拭き取り処理およびメチルエチルケトン拭き取り処理を実施した。
実施例5および比較例6では、張力を変更した点以外、実施例1と同様にブレード研磨、乾式拭き取り処理およびメチルエチルケトン拭き取り処理を実施した。
比較例1および比較例3では、ブレード研磨および乾式拭き取り処理は実施例1と同様に実施し、メチルエチルケトン拭き取り処理は実施しなかった。
比較例2では、実施例1と同様にブレード研磨および乾式拭き取り処理を行うことを3回繰り返し、メチルエチルケトン拭き取り処理は実施しなかった。
SrCO3を1707g、H3BO3を687g、Fe2O3を1120g、Al(OH)3を45g、BaCO3を24g、CaCO3を13g、およびNd2O3を235g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1390℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ローラーで圧延急冷して非晶質体を作製した。
作製した非晶質体280gを電気炉に仕込み、昇温速度3.5℃/分にて635℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持して六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは18nm、活性化体積は902nm3、異方性定数Kuは2.2×105J/m3、質量磁化σsは49A・m2/kgであった。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって部分溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子の表層部含有率を求めた。
別途、上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末から試料粉末を12mg採取し、この試料粉末を先に例示した溶解条件によって全溶解して得られたろ液の元素分析をICP分析装置によって行い、ネオジム原子のバルク含有率を求めた。
上記で得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の鉄原子100原子%に対するネオジム原子の含有率(バルク含有率)は、2.9原子%であった。また、ネオジム原子の表層部含有率は8.0原子%であった。表層部含有率とバルク含有率との比率、「表層部含有率/バルク含有率」は2.8であり、ネオジム原子が粒子の表層に偏在していることが確認された。
上記で得られた粉末が六方晶フェライトの結晶構造を示すことは、CuKα線を電圧45kVかつ強度40mAの条件で走査し、下記条件でX線回折パターンを測定すること(X線回折分析)により確認した。上記で得られた粉末は、マグネトプランバイト型(M型)の六方晶フェライトの結晶構造を示した。また、X線回折分析により検出された結晶相は、マグネトプランバイト型の単一相であった。
PANalytical X’Pert Pro回折計、PIXcel検出器
入射ビームおよび回折ビームのSollerスリット:0.017ラジアン
分散スリットの固定角:1/4度
マスク:10mm
散乱防止スリット:1/4度
測定モード:連続
1段階あたりの測定時間:3秒
測定速度:毎秒0.017度
測定ステップ:0.05度
SrCO3を1725g、H3BO3を666g、Fe2O3を1332g、Al(OH)3を52g、CaCO3を34g、BaCO3を141g秤量し、ミキサーにて混合し原料混合物を得た。
得られた原料混合物を、白金ルツボで溶融温度1380℃で溶融し、融液を撹拌しつつ白金ルツボの底に設けた出湯口を加熱し、融液を約6g/秒で棒状に出湯させた。出湯液を水冷双ロールで急冷圧延して非晶質体を作製した。
得られた非晶質体280gを電気炉に仕込み、645℃(結晶化温度)まで昇温し、同温度で5時間保持し六方晶ストロンチウムフェライト粒子を析出(結晶化)させた。
次いで六方晶ストロンチウムフェライト粒子を含む上記で得られた結晶化物を乳鉢で粗粉砕し、ガラス瓶に粒径1mmのジルコニアビーズ1000gおよび濃度1%の酢酸水溶液800mlを加えてペイントシェーカーにて3時間分散処理を行った。その後、得られた分散液をビーズと分離させステンレスビーカーに入れた。分散液を液温100℃で3時間静置させてガラス成分の溶解処理を行った後、遠心分離器で沈澱させてデカンテーションを繰り返して洗浄し、炉内温度110℃の加熱炉内で6時間乾燥させて六方晶ストロンチウムフェライト粉末を得た。
得られた六方晶ストロンチウムフェライト粉末の平均粒子サイズは19nm、活性化体積は1102nm3、異方性定数Kuは2.0×105J/m3、質量磁化σsは50A・m2/kgであった。
純水90gに、硝酸鉄(III)9水和物8.3g、硝酸ガリウム(III)8水和物1.3g、硝酸コバルト(II)6水和物190mg、硫酸チタン(IV)150mg、およびポリビニルピロリドン(PVP)1.5gを溶解させたものを、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら、大気雰囲気中、雰囲気温度25℃の条件下で、濃度25%のアンモニア水溶液4.0gを添加し、雰囲気温度25℃の温度条件のまま2時間撹拌した。得られた溶液に、クエン酸1gを純水9gに溶解させて得たクエン酸溶液を加え、1時間撹拌した。撹拌後に沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で乾燥させた。
乾燥させた粉末に純水800gを加えて再度粉末を水に分散させて分散液を得た。得られた分散液を液温50℃に昇温し、撹拌しながら濃度25%アンモニア水溶液を40g滴下した。50℃の温度を保ったまま1時間撹拌した後、テトラエトキシシラン(TEOS)14mLを滴下し、24時間撹拌した。得られた反応溶液に、硫酸アンモニウム50gを加え、沈殿した粉末を遠心分離によって採集し、純水で洗浄し、炉内温度80℃の加熱炉内で24時間乾燥させ、強磁性粉末の前駆体を得た。
得られた強磁性粉末の前駆体を、大気雰囲気下、炉内温度1000℃の加熱炉内に装填し、4時間の加熱処理を施した。
加熱処理した強磁性粉末の前駆体を、4mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液中に投入し、液温を70℃に維持して24時間撹拌することにより、加熱処理した強磁性粉末の前駆体から不純物であるケイ酸化合物を除去した。
その後、遠心分離処理により、ケイ酸化合物を除去した強磁性粉末を採集し、純水で洗浄を行い、強磁性粉末を得た。
得られた強磁性粉末の組成を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−OES;Inductively Coupled Plasma−Optical Emission Spectrometry)により確認したところ、Ga、CoおよびTi置換型ε−酸化鉄(ε−Ga0.58Fe1.42O3)であった。また、先にSrFe1について記載した条件と同様の条件でX線回折分析を行い、X線回折パターンのピークから、得られた強磁性粉末が、α相およびγ相の結晶構造を含まない、ε相の単相の結晶構造(ε−酸化鉄型の結晶構造)を有することを確認した。
得られたε−酸化鉄粉末の平均粒子サイズは12nm、活性化体積は746nm3、異方性定数Kuは1.2×105J/m3、質量磁化σsは16A・m2/kgであった。
また、質量磁化σsは、振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて磁場強度15kOeで測定された値である。
(1)磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRa(磁性層表面粗さRa)
原子間力顕微鏡(AFM、Veeco社製Nanoscope4)をタッピングモードで用いて、磁気テープの磁性層表面において測定面積40μm×40μmの範囲を測定し、中心線平均表面粗さRaを求めた。探針としてはBRUKER社製RTESP−300を使用し、スキャン速度(探針移動速度)は40μm/秒、分解能は512pixel×512pixelとした。
TSA(Tape Spacing Analyzer(Micro Physics社製))を用いて、以下の方法により、メチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)を求めた。
実施例および比較例の各磁気テープから長さ5cmの試料片を2つ切り出し、一方の試料片についてはメチルエチルケトン洗浄を行わずに、以下の方法によりスペーシング(Sbefore)を求めた。他方の試料片については先に記載した方法によりメチルエチルケトン洗浄を行った後に、以下の方法によりスペーシング(Safter)を求めた。
磁気テープ(詳しくは上記試料片)の磁性層表面上に、TSAに備えられたガラス板(Thorlabs,Inc.社製ガラス板(型番:WG10530))を配置した状態で、押圧部材としてTSAに備えられているウレタン製の半球を用いて、この半球を磁気テープのバックコート層表面に、5.05×104N/m(0.5atm)の圧力で押しつけた。この状態で、TSAに備えられているストロボスコープから白色光を、ガラス板を通して磁気テープの磁性層表面の一定領域(150000〜200000μm2)に照射し、得られる反射光を、干渉フィルタ(波長633nmの光を選択的に透過するフィルタ)を通してCCD(Charge−Coupled Device)で受光することで、この領域の凹凸で生じた干渉縞画像を得た。
この画像を300000ポイントに分割して各ポイントのガラス板の磁気テープ側の表面から磁気テープの磁性層表面までの距離(スペーシング)を求めこれをヒストグラムとし、メチルエチルケトン洗浄後の試料片について得られたヒストグラムの最頻値Safterから、メチルエチルケトン洗浄なしの試料片について得られたヒストグラムの最頻値Sbeforeを差し引いて、差分(Safter−Sbefore)を求めた。
実施例および比較例の各磁気テープから長さ5cmの試料片を更に1つ切り出し、メチルエチルケトンに代えてn−ヘキサンを用いた点以外は上記と同様に洗浄した後に上記と同様にn−ヘキサン洗浄後のスペーシングを求めた。参考値として、ここで求められたスペーシングSreferenceと上記(2)で求めた洗浄なしの試料片について得られたスペーシングSbeforeの差分(Sreference−Sbefore)を求めた。
雰囲気温度23℃および相対湿度50%の環境下にて、実施例および比較例の各磁気テープについて、記録ヘッド(MIG(Metal−in−gap)ヘッド、ギャップ長0.15μm、トラック幅1.0μm、1.8T)と再生ヘッド(GMR(Giant Magnetoresistive)ヘッド、素子厚み15nm、シールド間隔0.1μm、トラック幅1.0μm)をループテスターに取り付けて、線記録密度325kfciの信号を記録した。単位kfciとは、線記録密度の単位(SI単位系に換算不可)である。その後、再生出力を測定し、再生出力とノイズとの比としてSNRを求めた。SNRは、比較例1のSNRを0dBとしたときの相対値として求めた。ここで求められたSNRが0dB以上であれば、良好な電磁変換特性を有すると評価することができる。
実施例および比較例の各磁気テープを、上記(4)で電磁変換特性を評価した後、内部が温度10℃相対湿度80%に保たれたサーモボックスに3時間保管した。その後、磁気テープをサーモボックスから取出し(外気は温度23℃相対湿度50%)、1分以内に内部が温度32℃相対湿度80%に保たれたサーモルームに入れた後、30分以内にサーモルームにおいて上記(4)と同様に記録および再生を行い、上記(4)で求められた比較例1のSNRを0dBとしたときの相対値としてSNRを求めた。実施例および比較例の各磁気テープについて、ここで求められたSNRと上記(4)で求められたSNRの差分(「本項で求められたSNR」−「上記(4)で求められたSNR」)を算出し、SNR低下分とした。ここで求められたSNR低下分が−1.0dB以内であれば、高湿下での低温から高温への温度変化に起因するSNRの低下が抑制されていると評価することができる。
更に、実施例の磁気テープは、上記の通り磁性層の表面平滑性が高く、かつメチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)が0nm超15.0nm以下である。これら実施例の磁気テープは、表1に示すように、高湿下での低温から高温への温度変化に晒されてもSNR低下分が比較例の磁気テープと比べて小さい。
また、表1に示すように、n−ヘキサン洗浄前後のスペーシング差分(Sreference−Sbefore)の値とメチルエチルケトン洗浄前後のスペーシング差分(Safter−Sbefore)の値との間には相関は見られない。
Claims (7)
- 非磁性支持体上に強磁性粉末および結合剤を含む磁性層を有する磁気記録媒体であって、
前記磁性層の表面において測定される中心線平均表面粗さRaは1.0nm以上1.6nm以下であり、かつ
前記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄後に光学干渉法により測定されるスペーシングSafterと、前記磁性層の表面においてメチルエチルケトン洗浄前に光学干渉法により測定されるスペーシングSbeforeとの差分、Safter−Sbefore、は0nm超15.0nm以下である磁気記録媒体。 - 前記差分、Safter−Sbefore、は2.0nm以上15.0nm以下である、請求項1に記載の磁気記録媒体。
- 前記差分、Safter−Sbefore、は3.0nm以上12.0nm以下である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
- 前記非磁性支持体と前記磁性層との間に、非磁性粉末および結合剤を含む非磁性層を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 前記非磁性支持体の前記磁性層を有する表面側とは反対の表面側に、非磁性粉末および結合剤を含むバックコート層を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 磁気テープである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体。
- 請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
磁気ヘッドと、
を含む磁気記録再生装置。
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