JP2019154673A - 歯科鋳造用パターンの作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】パターンを模型から取り外す際の変形を無くすことができ、ひいては、適合精度が高い歯科用補綴物を容易に作製することを可能とする歯科鋳造用パターンの作製方法を提供する。【解決手段】本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法は、口腔内印象に基づいて作製された模型の表面の所望の領域の上に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いて第一の分離層を形成し、第一の分離層の上に、油性の第二の分離材を用いて第二の分離層を積層形成し、第二の分離層の上に、重合レジンを塗布ないし築盛して所望の形状のパターンを作製し、重合レジンの硬化後、パターンを前記模型から取り外して鋳型の形成に用いる。【選択図】図1
Description
本発明は、歯科用補綴物あるいはそのパーツを鋳造により作製するにあたり、鋳型の形成に必要となる歯科鋳造用パターンの作製方法に関する。
従来より、歯科用補綴物あるいはそのパーツを作製する鋳造法としては、ロストワックス法が一般的である。ロストワックス法とは、所望の形状のパターンをワックスで作製し、このパターンを鋳型材の中に埋没させ、鋳型材を硬化させた後、鋳型材を加熱してワックスを溶解、除去することで、内部に空間を有する鋳型を形成し、この空間に溶融金属を流し込む、という方法である。
また、ロストワックス法は、作製対象物によって、さらに二つに分けられる。第1の方法は、金属床義歯などの形状・面積が大きいものを作製する場合の方法であり、第2の方法は、クラウン(歯冠)などの形状が小さいものを作製する場合の方法である。
第1の方法は、次のような方法である(例えば、特許文献1を参照)。
(1)口腔内印象に基づいて作製された本模型から再度印象採得して雌型を作製し、雌型から鋳型材を用いて本模型の複模型を作製する。
(2)複模型の上にワックスを築盛して所望の形状のパターンを作製する。
(3)パターンが取り付けられまま複模型を下部鋳型とし、下部鋳型の周囲を円筒状の埋没用リングで覆い、埋没用リングの中に鋳型材を投入してパターンを鋳型材の中に埋没させた後、鋳型材を硬化させる。
(4)鋳型材を加熱してワックスを溶解、除去することで、内部に空間を有する鋳型を形成する。
(5)空間に溶融金属を流し込み、溶融金属が冷却して固化してから、鋳型を割って鋳造体を採取する。
(1)口腔内印象に基づいて作製された本模型から再度印象採得して雌型を作製し、雌型から鋳型材を用いて本模型の複模型を作製する。
(2)複模型の上にワックスを築盛して所望の形状のパターンを作製する。
(3)パターンが取り付けられまま複模型を下部鋳型とし、下部鋳型の周囲を円筒状の埋没用リングで覆い、埋没用リングの中に鋳型材を投入してパターンを鋳型材の中に埋没させた後、鋳型材を硬化させる。
(4)鋳型材を加熱してワックスを溶解、除去することで、内部に空間を有する鋳型を形成する。
(5)空間に溶融金属を流し込み、溶融金属が冷却して固化してから、鋳型を割って鋳造体を採取する。
第2の方法は、次のような方法である(例えば、特許文献2を参照)。
(1)口腔内印象に基づいて作製された本模型の上にワックスを築盛して所望の形状のパターンを作製する。
(2)パターンを本模型から取り外し、鋳型材の中に埋没させた後、鋳型材を硬化させる。
(3)鋳型材を加熱してワックスを溶解、除去することで、内部に空間を有する鋳型を形成する。
(4)鋳型の空間に溶融金属を流し込み、溶融金属が冷却して固化してから、鋳型を割って鋳造体を採取する。
(1)口腔内印象に基づいて作製された本模型の上にワックスを築盛して所望の形状のパターンを作製する。
(2)パターンを本模型から取り外し、鋳型材の中に埋没させた後、鋳型材を硬化させる。
(3)鋳型材を加熱してワックスを溶解、除去することで、内部に空間を有する鋳型を形成する。
(4)鋳型の空間に溶融金属を流し込み、溶融金属が冷却して固化してから、鋳型を割って鋳造体を採取する。
しかし、第1の方法にあっては、次のような問題がある。
(1)鋳造工程で生じる鋳造収縮を考慮してパターンを大きめに作製する必要があることから、複模型を本模型と同じ大きさに作製するのではなく、複模型の硬化膨張を考慮しつつ複模型を本模型よりも大きめに作製する必要があるが、これは、作製者の経験や技能等によって左右される不確実なものである。そして、うまくいかなかった場合は、歯科用補綴物の適合精度が低くなるため、これを満足させるために後工程の作業(曲げ調整や研磨等の調整作業)に多くの時間をかけなければならない。
(2)雌型及び複模型を作製する必要があり、また、複模型に対応して大きめの埋設用リングを用いることで、鋳型材の使用量が多くなるため、製造コストが高くなる。
(1)鋳造工程で生じる鋳造収縮を考慮してパターンを大きめに作製する必要があることから、複模型を本模型と同じ大きさに作製するのではなく、複模型の硬化膨張を考慮しつつ複模型を本模型よりも大きめに作製する必要があるが、これは、作製者の経験や技能等によって左右される不確実なものである。そして、うまくいかなかった場合は、歯科用補綴物の適合精度が低くなるため、これを満足させるために後工程の作業(曲げ調整や研磨等の調整作業)に多くの時間をかけなければならない。
(2)雌型及び複模型を作製する必要があり、また、複模型に対応して大きめの埋設用リングを用いることで、鋳型材の使用量が多くなるため、製造コストが高くなる。
そこで、金属床義歯の金属床とクラスプとを別々に作製した後、両者を合体させて金属床義歯を作製するようにすれば、金属床のパターンとクラスプのパターンとは本模型から取り外しやすくなるので、第2の方法によって作製可能となる、すなわち、雌型及び複模型を作製する必要がなくなる、という発明も提案されている(特許文献3)。
しかし、第2の方法にあっては、次のような問題がある。
(1)ワックスは軟質であるため、パターンを本模型から取り外す際に、パターンに力が加わり、パターンが微小に変形することがある。そして、パターンが変形すると、歯科補綴物の装着適合性が悪くなるため、これを満足させるために鋳造工程後の後工程の作業(鋳造体の曲げ調整や研磨等の調整作業)に多くの時間をかけなければならない。
(2)ワックスの代わりに重合レジンを用いれば、パターンの硬度が増すため、パターンを取り外す際の変形は抑えられる(特許文献3)。しかし、それでも、作製対象物の形状・面積が大きいものについては、変形による影響を無視し得ない。金属床のような肉厚が少ないパーツや、肉厚が少ない部分や細い部分を有するパーツについては、なおさらである。
(1)ワックスは軟質であるため、パターンを本模型から取り外す際に、パターンに力が加わり、パターンが微小に変形することがある。そして、パターンが変形すると、歯科補綴物の装着適合性が悪くなるため、これを満足させるために鋳造工程後の後工程の作業(鋳造体の曲げ調整や研磨等の調整作業)に多くの時間をかけなければならない。
(2)ワックスの代わりに重合レジンを用いれば、パターンの硬度が増すため、パターンを取り外す際の変形は抑えられる(特許文献3)。しかし、それでも、作製対象物の形状・面積が大きいものについては、変形による影響を無視し得ない。金属床のような肉厚が少ないパーツや、肉厚が少ない部分や細い部分を有するパーツについては、なおさらである。
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、パターンを模型から取り外す際の変形を無くすことができ、ひいては、適合精度が高い歯科用補綴物を容易に作製することを可能とする歯科鋳造用パターンの作製方法を提供することを課題とする。
本発明者は、鋳造工程後の後工程の調整作業(鋳造体の曲げ調整や研磨等の調整作業)をなくすあるいは極力少なくするために、パターンを模型から取り外す際の変形をどうすれば抑制することができるかについて鋭意研究した結果、パターンの材質として、ワックスに比べて十分に硬質な重合レジンを用いた上で、模型とパターンとの間に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いた第一の分離層及び油性の第二の分離材を用いた第二の分離層の積層分離層を形成すればよいという事実を突き止めた。
すなわち、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法は、
口腔内印象に基づいて作製された模型の表面の所望の領域の上に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いて第一の分離層を形成し、
第一の分離層の上に、油性の第二の分離材を用いて第二の分離層を積層形成し、
第二の分離層の上に、重合レジンを塗布ないし築盛して所望の形状のパターンを作製し、
重合レジンの硬化後、前記パターンを前記模型から取り外して鋳型の形成に用いる。
口腔内印象に基づいて作製された模型の表面の所望の領域の上に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いて第一の分離層を形成し、
第一の分離層の上に、油性の第二の分離材を用いて第二の分離層を積層形成し、
第二の分離層の上に、重合レジンを塗布ないし築盛して所望の形状のパターンを作製し、
重合レジンの硬化後、前記パターンを前記模型から取り外して鋳型の形成に用いる。
第一の分離層のみ、あるいは第二の分離層のみでは、パターンの変形を好適に抑制することができず、また、第二の分離層を形成した後、その上に、第一の分離層を積層形成した場合でも、パターンの変形を好適に抑制できなかったことから(そもそもパターンを模型から取り外すことさえできないこともある。)、本発明者は、本発明による機序について次のように考察する。
パターンは、重合レジンの硬化によって収縮して分離層に緊密に密接している。そのため、パターンを分離層から剥離する際の、分離層に対するパターンの微小な相対変位によって、パターンの脆弱部分(先端部分や薄肉部分)に力が加わり、当該部分にてパターンに変形が生じやすい。そこで、分離層としてゴム弾性を有する材質を用いれば、パターンを分離層から剥離する際、分離層がゴム弾性によって微小に弾性変形して、パターンの微小な相対変位を吸収することで、パターンの脆弱部分に力が加わらなくなり、当該部分での変形が生じにくくなる。しかし、それだけでは、上記のとおり、パターンが重合レジンの硬化によって収縮して分離層に緊密に密接しているため、パターンは剥離しにくい。これを無理やり剥離しようとすれば、パターンの脆弱部分に変形を来す、あるいは、パターンに加わる曲げ応力により、パターン全体に変形を来すことになる。そこで、第一の分離層の上、すなわち、第一の分離層とパターンとの間に、第二の分離層を形成して、第一の分離層とパターンとの間に滑り性ないし剥離性を付与する。これにより、無理な力を加えることなく、すなわち、パターンに変形を生じさせることなく、パターンを分離層から剥離することができるようになる。
パターンは、重合レジンの硬化によって収縮して分離層に緊密に密接している。そのため、パターンを分離層から剥離する際の、分離層に対するパターンの微小な相対変位によって、パターンの脆弱部分(先端部分や薄肉部分)に力が加わり、当該部分にてパターンに変形が生じやすい。そこで、分離層としてゴム弾性を有する材質を用いれば、パターンを分離層から剥離する際、分離層がゴム弾性によって微小に弾性変形して、パターンの微小な相対変位を吸収することで、パターンの脆弱部分に力が加わらなくなり、当該部分での変形が生じにくくなる。しかし、それだけでは、上記のとおり、パターンが重合レジンの硬化によって収縮して分離層に緊密に密接しているため、パターンは剥離しにくい。これを無理やり剥離しようとすれば、パターンの脆弱部分に変形を来す、あるいは、パターンに加わる曲げ応力により、パターン全体に変形を来すことになる。そこで、第一の分離層の上、すなわち、第一の分離層とパターンとの間に、第二の分離層を形成して、第一の分離層とパターンとの間に滑り性ないし剥離性を付与する。これにより、無理な力を加えることなく、すなわち、パターンに変形を生じさせることなく、パターンを分離層から剥離することができるようになる。
ここで、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法の一態様として、第一の分離材は、ラテックス系の分離材であり、第二の分離材は、ワセリン系の分離材である。
かかる構成によれば、ラテックス系の分離材によって好適なゴム弾性が得られ、ワセリン系の分離材によって好適な滑り性ないし剥離性が得られる。なお、ラテックス系の分離材とは、ラテックスからなる分離材あるいはラテックスを主成分とする分離材をいい、ワセリン系の分離材とは、ワセリンからなる分離材あるいはワセリンを主成分とする分離材をいう。
また、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法の他態様として、第二の分離層の平均厚みは、第一の分離層の平均厚みよりも小さい。
分離層の厚みが大きいと、歯科用補綴物の適合精度に影響を与える。しかし、第一の分離層はある程度の厚みを持たせてゴム弾性による上記機能を発揮させる必要がある。そこで、第一の分離層の平均厚みは、第二の分離層の平均厚みよりも多くし、第二の分離層の平均厚みは、第一の分離層の平均厚みよりも小さくするのが好ましい。例えば、第一の分離層の平均厚みは、5μm以上、20μm以下が好ましく、5μm以上、15μm以下がより好ましく、8μm以上、15μm以下がさらに好ましく、第二の分離層の平均厚みは、1μm以上、5μm以下が好ましく、1μm以上、3μm以下がより好ましい。
以上の如く、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法によれば、パターンを模型から取り外す際の変形を無くすことができ、ひいては、適合精度が高い歯科用補綴物を容易に作製することが可能となる。
以下、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法を工程の一部として含む、歯科用補綴物あるいはそのパーツの作製方法の概要について、図1を参酌しつつ説明する。
まず、S1において、歯科医師は、患者の口腔内の歯列の型を例えばシリコンを用いて型取りして、印象を採得する。次に、S2において、歯科医師は、印象から石膏を用いて本模型を作製する。
歯科技工士は、S2で作製された本模型を歯科医師から預かると、S3において、本模型の表面の所望の領域の上に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いて第一の分離層を形成する。本実施形態においては、第一の分離材として、ラテックス系の分離材が用いられ、丸筆、平筆、ブラシ等の塗布具を用いて本模型の表面の所望の領域の上に均一に塗布され、分離材が乾燥すると、第一の分離層が得られる。分離材は乾燥すると厚みが減るので、乾燥後の第一の分離層の平均厚みが5μm以上、20μm以下、より好ましくは、5μm以上、15μm以下、さらに好ましくは、8μm以上、15μm以下となるように、第一の分離材がそれよりも厚く塗布される。ただし、第一の分離層の平均厚みは、これらの範囲に限られず、適宜選択し得るものである。
なお、第一の分離材の塗布に際しては、事前に塗布具を水で濡らしておくのが好ましい。塗布具に空気が含まれていると、この空気とラテックスが反応してラテックスが固まり、だまになって円滑に塗布できなくなり、ひいては、第一の分離層の厚みが非常に不均一なものとなってしまうからである。
また、塗布は、一度塗りが好ましい。二度塗りする場合でも、一度目に塗布した第一の分離材が乾燥していないと、二度目の塗布のときに一度目に塗布した第一の分離材がだまになるので、一度目に塗布した第一の分離材の乾燥を待って、二度目の塗布を行うようにする。
第一の分離材が乾燥するのを待った後、歯科技工士は、S4において、第一の分離層の上に、油性の第二の分離材を用いて第二の分離層を形成する。本実施形態においては、第二の分離材として、ワセリンが用いられ、筆、ブラシ等の塗布具を用いて第一の分離層の上に均一に塗布され、第二の分離層が得られる。第二の分離層の平均厚みが1μm以上、5μm以下、より好ましくは、1μm以上、3μm以下となるように、第二の分離材が塗布される。ただし、第二の分離層の平均厚みは、これらの範囲に限られず、適宜選択し得るものである。
次に、歯科技工士は、S5において、第二の分離層の上に、重合レジンを塗布又は築盛してパターンのベース部を形成する。本実施形態においては、重合レジンとして、即時重合レジンが用いられ、丸筆、平筆、ブラシ等の塗布具、あるいは築盛用のツールを用いて第二の分離層の上に塗布又は築盛され、パターンのベース部が得られる。
重合レジンが硬化するのを待った後、歯科技工士は、S6において、パターンのベース部の上に、ワックス(熱可塑性油脂)を塗布又は築盛してパターンの表層部を形成する。本実施形態においては、歯科技工で用いられる一般的な各種のワックスが用いられ、丸筆、平筆、ブラシ等の塗布具、あるいは築盛用のツールを用いてパターンのベース部の上に塗布又は築盛され、パターンの表層部が得られる。そして、歯科技工士は、必要に応じて、パターンの表層部の表面を削り、形を整えて、パターンを最終形状に仕上げる。
なお、重合レジンだけでなく、ワックスを用いる理由は、大きく二つある。一つは、重合レジンは、硬化すると加工が困難となり、パターンを所望の形状に仕上げるために表面を削るといったことができないが、ワックスだとこれを容易に行うことができるという点である。もう一つは、重合レジンは、硬化した後の面粗度が悪いが、ワックスだと面粗度が良く、パターンの表面、ひいては、歯科用補綴物あるいはそのパーツの表面をきれいに仕上げることができるという点である。
次に、歯科技工士は、S7において、パターンを本模型から取り外して、パターンを採取する。上述のとおり、パターンと本模型との間には、ゴム弾性を有する第一の分離層及び油性の第二の分離層の積層分離層が形成されているため、パターンに変形を生じさせることなく、パターンを分離層から剥離することができる。そして、採取したパターンに第一の分離層や第二の分離層が部分的に残っていることがあるので、これらを除去しておく。なお、上述したパターンの表層部の表面を削ってパターンを最終形状に仕上げる工程は、パターンを本模型から取り外した後に行うようにしてもよい。
S3ないしS7は、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法に相当する工程である。パターンが採取されると、歯科技工士は、S8において、パターンを鋳型材の中に埋没させ、鋳型材が硬化した後、S9において、鋳型材を加熱してパターンを溶解、除去する。これにより、内部にパターンの形状に相当する空間を有する鋳型が形成される。そして、歯科技工士は、S10において、鋳型の空間に溶融金属を流し込み、溶融金属が冷却して固化してから、S11において、サンドブラスト等により鋳型を割って鋳造体を採取する。これらの工程は、通常のロストワックス法と変わるところはない。
次に、歯科技工士は、S12において、必要であれば、鋳造体に対し、曲げ調整や研磨等の調整作業を実施する。鋳造体が既に歯科用補綴物あるいはそのパーツとしての適合精度を有しているために、調整作業が不要であれば(S13がYES)、あるいは、調整作業によって、鋳造体が歯科用補綴物あるいはそのパーツとしての適合精度を有するようになったならば(S13がYES)、工程は完了する。
このように、本実施形態に係る歯科用補綴物あるいはそのパーツの作製方法によれば、上述のとおり、パーツには変形が生じていないため、鋳造工程で既に鋳造体が歯科用補綴物あるいはそのパーツとしての高い適合精度を有している。そのため、鋳造工程後の後工程の調整作業をなくすあるいは最小限にとどめることができる。これにより、歯科用補綴物あるいはそのパーツの作製効率を大幅に改善し、高度な熟練と経験を要さず、安定した品質で迅速に作製することが可能となる。
<第一の実施形態>
ここで、本発明の第一の実施形態に係る歯科鋳造用パターンの作製方法について、図2及び図3を参酌しつつ説明する。本実施形態は、後述する適用例1の1に係る部分義歯1の内側の係合部材20を鋳造するためのパターンの作製方法に関するものである。
ここで、本発明の第一の実施形態に係る歯科鋳造用パターンの作製方法について、図2及び図3を参酌しつつ説明する。本実施形態は、後述する適用例1の1に係る部分義歯1の内側の係合部材20を鋳造するためのパターンの作製方法に関するものである。
歯科技工士は、本模型50(図2(a)参照)を歯科医師から預かる。本模型50は、上顎の左側5番及び左側6番の臼歯が欠損しており、歯科技工士は、この欠損部51を補綴するために、左側1番の切歯52を除く、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58の歯列に装着される部分義歯を作製するものである。
まず、歯科技工士は、ラテックス系の分離材等のゴム弾性を有する第一の分離材を、本模型50の表面の所望の領域の上に均一に塗布し、分離材を乾燥させて、第一の分離層60を得る(図2(b)参照)。本実施形態においては、本模型50のうち、左側2番の切歯53及び左側3番の犬歯54の内側面の歯根側半分、左側4番の臼歯55の内側面及び遠心側の表面、欠損部51の歯槽堤の表面、左側7番の臼歯58の内側面、近心側の表面及び遠心側の表面の上に第一の分離材が塗布される。
次に、歯科技工士は、ワセリン等の油性の第二の分離材を、第一の分離層60の上に均一に塗布して、第二の分離層61を得る(図2(c)参照)。第二の分離材は、第一の分離層61をはみ出して本模型50の表面の上に塗布するところがあっても構わないし、第一の分離層60の全面に厳密に塗布されなくても構わない。
次に、歯科技工士は、即時重合レジン等の重合レジンを、第二の分離層61の上に塗布又は築盛して、パターンのベース部62を形成する(図3(a)参照)。そして、重合レジンが硬化するのを待った後、歯科技工士は、ワックスをベース部62の上に塗布又は築盛して、作製しようとする部分義歯1の内側の係合部材20の形状に相当する形状となるようにパターンの表層部63を形成する(図3(b)参照)。そして、歯科技工士は、必要に応じて、パターンの表層部63の表面を削り、形を整えて、パターン64を最終形状に仕上げる。
次に、歯科技工士は、パターン64を本模型50から取り外して、パターン64を採取する(図3(d)参照)。ここで、パターン64と本模型50との間には、ゴム弾性を有する第一の分離層60及び油性の第二の分離層61の積層分離層が形成されているため(図3(c)参照)、三次元的に複雑な形状のパターン64であっても、パターン64に変形を生じさせることなく、パターン64を分離層60,61から剥離することができる。
<第二の実施形態>
次に、本発明の第二の実施形態に係る歯科鋳造用パターンの作製方法について、図4を参酌しつつ説明する。本実施形態は、残存歯の表面を削り、細くなった部分に被せるクラウン(歯冠)を鋳造するためのパターンの作製方法に関するものである。
次に、本発明の第二の実施形態に係る歯科鋳造用パターンの作製方法について、図4を参酌しつつ説明する。本実施形態は、残存歯の表面を削り、細くなった部分に被せるクラウン(歯冠)を鋳造するためのパターンの作製方法に関するものである。
歯科技工士は、本模型(支台模型)50(図4(a)参照)を歯科医師から預かる。そして、歯科技工士は、ラテックス系の分離材等のゴム弾性を有する第一の分離材を、本模型50の表面の所望の領域の上に均一に塗布し(図4(c)参照)、分離材を乾燥させて、第一の分離層60を得る(図4(d)参照)。本実施形態においては、支台模型50のうち、マージン部50b(クラウンと残存歯との境界部、すなわち、クラウンの開口端縁部)よりも先端側の削られた表面の上に第一の分離材が塗布される。
次に、歯科技工士は、ワセリン等の油性の第二の分離材を、第一の分離層60の上に均一に塗布して、第二の分離層61を得る。その後、歯科技工士は、即時重合レジン等の重合レジンを、第二の分離層61の上に塗布又は築盛して、パターンのベース部62を作製し、そして、重合レジンが硬化するのを待った後、ワックスをベース部62の上に塗布又は築盛して、作製しようとするクラウンの形状に相当する形状となるようにパターンの表層部63を形成する(図4(b)参照)。そして、歯科技工士は、必要に応じて、パターンの表層部63の表面を削り、形を整えて、パターン64を最終形状に仕上げる。
次に、歯科技工士は、パターン64を本模型50から取り外して、パターン64を採取する。ここで、パターン64と本模型50との間には、ゴム弾性を有する第一の分離層60及び油性の第二の分離層61の積層分離層が形成されているため、全体的に小さく、薄肉(特にマージン部)のパターン64であっても、パターン64に変形を生じさせることなく、パターン64を分離層60,61から剥離することができる。
加えて述べると、パターン64は、本模型50のうち、パターン64の抜き方向に対して勾配がほぼない直立部50aにて抜きにくく(取り外しにくく)なっているが、この部分での第一の分離層60にある程度の厚みがあるため(図4(d)参照)、パターン64は抜きやすく(取り外しやすく)なる。他方、本模型50のうち、マージン部50bでは、第一の分離材が乾燥した後の第一の分離層60の厚みは小さいため(図4(d)参照)、パターン64のマージン部における適合精度は極めて高いものとなる。
なお、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記実施形態においては、第二の分離層61の上に、重合レジンを塗布ないし築盛してパターン64のベース部62を形成し、重合レジンの硬化後、ベース部62の上に、ワックスを塗布ないし築盛してパターン64の表層部63を形成し、これにより、ベース部62の上に表層部63が積層されたパターン64を作製した。パターンとして、重合レジンからなるベース部62の上にワックスからなる表層部63が積層された積層構造を採用する理由は、大きく二つある。一つは、重合レジンは、硬化すると加工が困難となり、パターンを所望の形状に仕上げるために表面を削るといったことができないが、ワックスだとこれを容易に行うことができるという点である。もう一つは、重合レジンは、硬化した後の面粗度が悪いが、ワックスだと面粗度が良く、パターンの表面、ひいては、歯科用補綴物あるいはそのパーツの表面をきれいに仕上げることができるという点である。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上記したワックスの利点を必要としないような場合は、ワックスを塗布ないし築盛する工程を設けず、重合レジンを塗布ないし築盛する工程だけでパターンを作製するようにしてもよい。
上記実施形態においては、第一の分離材として、ラテックス系の分離材が用いられる。しかし、第一の分離材は、これに限定されるものではない。例えば、シリコーンゴム系の分離材等、ゴム弾性を有するものであれば、第一の分離材として採用可能である。
また、上記実施形態においては、第二の分離材として、ワセリン系の分離材が用いられる。しかし、第二の分離材は、これに限定されるものではない。例えば、シリコーンオイル系の分離材、ココアバター等、油性のものであれば、第二の分離材として採用可能である。
また、上記実施形態においては、重合レジンとして、即時重合レジンが用いられる。しかし、重合レジンは、これに限定されるものではない。例えば、常温重合レジン、加熱重合レジン、光重合レジン等も採用可能である。
また、上記実施形態においては、製造コストを削減する目的で、本模型を用いてパターンが作製される。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、従来と同様、複模型を作製し、この複模型を用いてパターンを作製することは、本発明の範囲から排除されるものではない。
また、上記実施形態においては、第一の分離材及び第二の分離材は、塗布により模型に供給される。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、噴霧等の公知の手段を採用可能である。
また、第一の分離層60の形成範囲や第二の分離層61の形成範囲は、重合レジンの築盛範囲と一致していることは必須ではなく、例えば、重合レジンの築盛範囲よりも広くてもよい。
また、上記実施形態においては、鋳造体の材質として、金属が用いられる。しかし、鋳造体の材質としては、金属以外に、セラミックや樹脂等、歯科用補綴物あるいはそのパーツに用いられる全ての材質を採用し得る。
また、上記実施形態においては、ベース部の上に表層部が積層されたパターンは、模型上で作製される。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、模型の上に、パターンのベース部を形成し、これを模型から取り外してから、ベース部の上にワックスを塗布ないし築盛してパターンの表層部を形成して、パターンを完成させるようにしてもよい。
なお、特許請求の範囲には記載していないが、分離層の構造が本発明のように第一の分離層及び第二の分離層の積層構造であるか、従来の分離層の構造であるかは無関係に、すなわち、分離層の構造は特に限定されることはないとした上で、「分離層の上に、重合レジンを塗布ないし築盛してパターンのベース部を形成し、重合レジンの硬化後、ベース部の上に、ワックスを塗布ないし築盛してパターンの表層部を形成し、これにより、ベース部の上に表層部が積層されたパターンを作製し、該パターンを鋳型の形成に用いる歯科鋳造用パターンの作製方法」は本発明とは異なる独立した発明である。
次に、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法の実施例を比較例と共に説明する。
(実施例1)
後述する適用例1の1に係る部分義歯1の内側の係合部材20を作製対象とした。第一の分離材として、ラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))、第二の分離材として、ワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))を用い、これらの分離材による積層分離層を形成した。そして、重合レジンとして、即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。なお、実験の便宜上、ワックスを用いてパターンの表層部を形成する工程は省略した。以下の比較例においても同様である。
後述する適用例1の1に係る部分義歯1の内側の係合部材20を作製対象とした。第一の分離材として、ラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))、第二の分離材として、ワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))を用い、これらの分離材による積層分離層を形成した。そして、重合レジンとして、即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。なお、実験の便宜上、ワックスを用いてパターンの表層部を形成する工程は省略した。以下の比較例においても同様である。
(比較例1)
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、実施例1と同じラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例1の分離層の平均厚みは、実施例1の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、実施例1と同じラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例1の分離層の平均厚みは、実施例1の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
(比較例2)
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、実施例1と同じワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のワセリン系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例2の分離層の平均厚みは、実施例1の第二の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、実施例1と同じワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のワセリン系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例2の分離層の平均厚みは、実施例1の第二の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
(比較例3)
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、アルギン酸ナトリウム系の分離材(商品名「アクロセップ」(株式会社ジーシー製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例3の分離層の平均厚みは、実施例1の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
同じく係合部材20を作製対象とした。分離材として、アルギン酸ナトリウム系の分離材(商品名「アクロセップ」(株式会社ジーシー製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例1のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例3の分離層の平均厚みは、実施例1の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例1と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
(比較例4)
始めに第二の分離層を形成した上に第一の分離層を形成することで、積層分離層の形成順序が逆になる点を除き、実施例1と条件は同じである。
始めに第二の分離層を形成した上に第一の分離層を形成することで、積層分離層の形成順序が逆になる点を除き、実施例1と条件は同じである。
表1からわかるとおり、比較例1ないし4では、そもそもパターンを模型から取り外すことができないものがあり、また、パターンを模型から取り外すことができたとしても、パターンに破断が生じたり、変形が生じたりするものであった。しかし、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法によれば、変形を生じることなくパターンを模型から取り外すことができ、ひいては、適合精度が高い歯科用補綴物を容易に作製することが可能となることがわかる。
(実施例2)
上記第二の実施形態に係るクラウンを作製対象とした。第一の分離材として、ラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))、第二の分離材として、ワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))を用い、これらの分離材による積層分離層を形成した。そして、重合レジンとして、即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。なお、実験の便宜上、ワックスを用いてパターンの表層部を形成する工程は省略した。以下の比較例においても同様である。
上記第二の実施形態に係るクラウンを作製対象とした。第一の分離材として、ラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))、第二の分離材として、ワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))を用い、これらの分離材による積層分離層を形成した。そして、重合レジンとして、即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。なお、実験の便宜上、ワックスを用いてパターンの表層部を形成する工程は省略した。以下の比較例においても同様である。
(比較例5)
同じ形状のクラウンを作製対象とした。分離材として、実施例2と同じラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例2のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例5の分離層の平均厚みは、実施例2の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例2と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
同じ形状のクラウンを作製対象とした。分離材として、実施例2と同じラテックス系の分離材(商品名「陶画のり(液体マスキング剤)」(グット電気株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例2のラテックス系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例5の分離層の平均厚みは、実施例2の第一の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例2と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
(比較例6)
同じ形状のクラウンを作製対象とした。分離材として、実施例2と同じワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例2のワセリン系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例6の分離層の平均厚みは、実施例2の第二の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例2と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
同じ形状のクラウンを作製対象とした。分離材として、実施例2と同じワセリン系の分離材(商品名「軟膏基剤 白色ワセリン」(丸石製薬株式会社製))のみを用い、一種類の分離材による単層分離層を形成した。分離材の使用量及び塗布範囲は、実施例2のワセリン系の分離材の使用量及び塗布範囲と同じにした。これにより、比較例6の分離層の平均厚みは、実施例2の第二の分離層の平均厚みと同じであるとみなせる。そして、重合レジンとして、実施例2と同じ即時重合レジン(商品名「ジーシー パターンレジン」(株式会社ジーシー製))を用い、パターンを同条件で3回作製した。
(比較例7)
始めに第二の分離層を形成した上に第一の分離層を形成することで、積層分離層の形成順序が逆になる点を除き、実施例2と条件は同じである。
始めに第二の分離層を形成した上に第一の分離層を形成することで、積層分離層の形成順序が逆になる点を除き、実施例2と条件は同じである。
表2からわかるとおり、比較例5ないし7では、そもそもパターンを模型から取り外すことができないものが多かった。これは、重合レジンの硬化に伴う収縮によって、パターンが模型に強固に固着してしまうからだと考えられる。しかし、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法によれば、変形を生じることなくパターンを模型から取り外すことができ、ひいては、適合精度が高い歯科用補綴物を容易に作製することが可能となることがわかる。
<適用例>
次に、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法を用いることにより、作製効率を大幅に改善し、高度な熟練と経験を要さず、安定した品質で迅速に作製することが可能となる歯科補綴物の適用例について説明する。
次に、本発明に係る歯科鋳造用パターンの作製方法を用いることにより、作製効率を大幅に改善し、高度な熟練と経験を要さず、安定した品質で迅速に作製することが可能となる歯科補綴物の適用例について説明する。
<適用例1>
適用例1に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、開閉可能に構成され、開状態において、歯列を挿入可能に離間するとともに、閉状態において、歯列に内側及び外側から係合する一対の係合部材と、
一対の係合部材の閉状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
一対の係合部材の少なくともいずれか一方の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備えるとともに、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
適用例1に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、開閉可能に構成され、開状態において、歯列を挿入可能に離間するとともに、閉状態において、歯列に内側及び外側から係合する一対の係合部材と、
一対の係合部材の閉状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
一対の係合部材の少なくともいずれか一方の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備えるとともに、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、一対の係合部材を開状態にする。これにより、一対の係合部材は歯列を挿入可能に離間するので、この状態で、一対の係合部材を歯列の内外に移動させる。そして、一対の係合部材を閉状態にする。これにより、一対の係合部材が歯列の内側及び外側に係合し、かつ、ロック構造が働いて、部分義歯は歯列に装着される。
そして、部分義歯が歯列に装着されると、i)第一の係合部及び第二の係合部が一対の係合部材のいずれか一方の係合部材に設けられている部分義歯の場合は、第一の係合部及び第二の係合部が歯列の内側又は外側のいずれか一方側に係合するとともに、一対の係合部材のいずれか他方の係合部材が歯列の内側又は外側のいずれか他方側に係合することで、一対の係合部材は、歯を内側及び外側から少なくとも3点で包むように係合し、また、ii)第一の係合部及び第二の係合部が一対の係合部材のいずれの係合部材にも設けられている部分義歯の場合は、第一の係合部及び第二の係合部が歯列の内側及び外側に係合することで、一対の係合部材は、歯を内側及び外側から少なくとも4点で包むように係合する。したがって、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
加えて、部分義歯を装着している間、第一の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯にかかる咬合力は、欠損部における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散される。
さらに、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜する傾斜部であるアンダーカット部に係合している。そのため、部分義歯が歯列から抜けることはない。
他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して一対の係合部材を開状態にすることにより、一対の係合部材が歯列から離間し、部分義歯を取り外すことができる。
なお、「内側」とは、歯を基準とした場合に舌がある側(舌側)をいい、「外側」とは、歯を基準とした場合に、前歯(1歯ないし2歯の切歯及び3歯の犬歯)であれば、唇がある側(唇側)をいい、奥歯(4番ないし7番の臼歯)であれば、頬がある側(頬側)をいう。
ここで、適用例1に係る部分義歯の一態様として、一対の係合部材の少なくともいずれか一方の係合部材は、複数の歯のそれぞれ表面に沿う形状の凹部を備え、凹部の咬合側の端部に第一の係合部が形成されるとともに、凹部の歯根側の端部に第二の係合部が形成される構成を採用することができる。
かかる構成によれば、最大豊隆部を歯冠の上下方向中間部に有することで太鼓状となる歯(4番ないし7番の臼歯)の表面を包むように凹部が歯の表面に面当接し、部分義歯は、より強固に歯列に装着される。
なお、「咬合側」とは、咬合方向(上下方向)において、前歯であれば、切端に近い側をいい、奥歯であれば、咬合面(上顎の歯列と下顎の歯列とが噛み合う面、より詳しくは、歯の頂部において隆起している咬頭の間に囲まれた面)に近い側をいい、「歯根側」とは、切端や咬合面から遠ざかる側をいう。
また、適用例1に係る部分義歯の他態様として、一対の係合部材のいずれか他方の係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯のアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える構成を採用することができる。
かかる構成によれば、部分義歯が歯列に装着されると、一対の係合部材のいずれか一方の係合部材の第一の係合部及び第二の係合部が歯列の内側又は外側のいずれか一方側に係合するとともに、一対の係合部材のいずれか他方の係合部材の第二の係合部が歯列の内側又は外側のいずれか他方側に係合する。これにより、一対の係合部材は、歯を内側及び外側から少なくとも3点で包むように係合する。したがって、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。しかも、部分義歯を装着している間、歯の内側及び外側の両アンダーカット部に第二の係止部が係合しているため、部分義歯が歯列から抜けることはない。
また、適用例1に係る部分義歯の別の態様として、人工歯は、分割面にて第一の分割体と第二の分割体とに分割され、第一の分割体は、一対の係合部材のいずれか一方の係合部材に設けられるとともに、第二の分割体は、一対の係合部材のいずれか他方の係合部材に設けられる構成を採用することができる。
かかる構成によれば、一対の係合部材の開状態において、第一の分割体及び第二の分割体は、分割面にて分離する。他方、一対の係合部材の閉状態において、部分義歯が歯列に装着された状態になると、第一の分割体及び第二の分割体は、合致して人工歯としての機能を発現する。
この場合、第一の分割体は、咬合側の横面、咬合側の横面とは反対側の、欠損部における歯槽堤に沿う形状の歯根側の横面、人工歯の内側面、及び人工歯の内側面とは反対側の立面を有するベース部を備え、第二の分割体は、人工歯の咬合面、及び人工歯の咬合面とは反対側の、第一の分割体の咬合側の横面とで第一の分割面をなす歯根側の横面を有する咬合部と、人工歯の外側面、及び人工歯の外側面とは反対側の、第一の分割体の立面とで第二の分割面をなす立面を有する外側部とを備える構成を採用することができる。
かかる構成によれば、一対の係合部材の開状態において、第一の分割体及び第二の分割体は、第一の分割面(第一の分割体の咬合側の横面及び第二の分割体の歯根側の横面)及び第二の分割面(第一の分割体の立面及び第二の分割体の立面)にて分離する。他方、一対の係合部材の閉状態において、部分義歯が歯列に装着された状態になると、第一の分割体及び第二の分割体は、第一の分割面及び第二の分割面が合わさるようにして合致する。これにより、第一の分割体の内側面、第二の分割体の外側面及び咬合面を主面とした人工歯が構成される。
また、ロック構造は、第一の分割体と第二の分割体との分割面に設けられる構成を採用することができる。
かかる構成によれば、一対の係合部材を開状態から閉状態にして、一対の係合部材が歯列の内側及び外側に係合する際、ロック構造により一対の係合部材が閉状態に固定されて、部分義歯は歯列に装着される。他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して一対の係合部材を開状態にし、一対の係合部材を歯列から離間させて、部分義歯を取り外す。
以上の如く、適用例1に係る部分義歯によれば、残存歯をそのまま利用することで、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を行う必要がなく、部分義歯を取り外し可能に装着することができる。また、適用例1に係る部分義歯によれば、人工歯にかかる咬合力を、義歯床を介して歯槽堤に負担させるのではなく、複数の残存歯に分散させて負担させるので、部分床義歯による諸問題を解消することができる。
<適用例1の1>
以下、適用例1に係る部分義歯の第一の具体例(適用例1の1)について、図5ないし図11を参酌して説明する。なお、適用例1の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
以下、適用例1に係る部分義歯の第一の具体例(適用例1の1)について、図5ないし図11を参酌して説明する。なお、適用例1の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
図5ないし図7に示す如く、適用例1の1に係る部分義歯1は、左側5番及び左側6番の臼歯の欠損部51を補綴するためのもので、左側1番の切歯52を除く、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58の歯列に装着されるものである。
部分義歯1は、欠損部51に配置される人工歯10と、人工歯10を支持し、開閉可能に構成され、開状態において、歯列を挿入可能に離間するとともに、閉状態において、歯列に内側及び外側から係合する一対の係合部材20,30とを備える。
人工歯10は、分割面11にて第一の分割体12と第二の分割体13とに分割され、第一の分割体12及び第二の分割体13は、合致して人工歯10となる。適用例1の1においては、左側5番及び左側6番の隣り合う二本の臼歯が欠損しており、人工歯10は、この二本の歯を一体的に設けたものである。そのため、第一の分割体12及び第二の分割体13のそれぞれは、左側5番及び左側6番の隣り合う二本の臼歯に対応して設けられる。
第一の分割体12は、咬合側の横面12aと、咬合側の横面12aとは反対側の、欠損部51における歯槽堤に沿う形状の歯根側の横面12bと、人工歯10の内側面12cと、人工歯10の内側面12cとは反対側の立面12dとを有するベース部12Aを備える。
第二の分割体13は、人工歯10の咬合面13aと、人工歯10の咬合面13aとは反対側の、第一の分割体12の咬合側の横面12aとで第一の分割面11aをなす歯根側の横面13bとを有する咬合部13Aと、人工歯10の外側面13cと、人工歯10の外側面13cとは反対側の、第一の分割体12の立面12dとで第二の分割面11bをなす立面13dとを有する外側部13Bとを備え、断面視でL字状を呈する。
第二の分割体13は、咬合部13A及び外側部13Bの表層を除く部位であるベース部13Cと、ベース部13Cの上に積層され、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティング部13Dとの積層構造である。したがって、人工歯10の咬合面13a及び人工歯10の外側面13cは、コーティング部13Dの外面であり、歯根側の横面13b及び立面13dは、ベース部13Cの内面である。
かかる構成からなる第一の分割体12及び第二の分割体13は、第一の分割面11a及び第二の分割面11bが合わさるようにして合致し、これにより、第一の分割体12の内側面12c、第二の分割体13の外側面13c及び咬合面13aを主面とした人工歯10が構成される。
第一の分割体12と第二の分割体13との分割面11、より詳しくは、第一の分割体12と第二の分割体13との接離方向と交差する第二の分割面11bには、第一の分割体12及び第二の分割体13の合致状態を解除可能に固定するためのロック構造14が設けられる。
ロック構造14は、第一の分割体12の立面12d又は第二の分割体13の立面13dのいずれか一方の立面に形成される係合凹部と、いずれか他方の立面に形成される係合突起とで構成される。第一の分割体12と第二の分割体13とが合致する際、係合突起が係合凹部に弾性変形的に係入し、ロックがかかるようになっている。また、第一の分割体12と第二の分割体13とが分離する際、係合突起による係合凹部への係止が外れ、ロックが解除されるようになっている。
第一の分割体12は、内側の係合部材20に一体的に設けられ、第二の分割体13は、外側の係合部材30に一体的に設けられる。見方を変えると、内側の係合部材20は、第一の分割体12から近心及び遠心に伸びるアーム部21,22を備え、外側の係合部材30は、第二の分割体13から近心及び遠心に伸びるアーム部31,32を備える。なお、「近心」とは、正中(右側1番の切歯と左側1番の切歯の間)に近づく方向をいい、「遠心」とは、正中から遠ざかる方向をいう。
適用例1の1においては、内側の係合部材20の近心側のアーム部21は、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55の隣り合う三本の歯の内側に係合可能な歯列方向長さを有し、内側の係合部材20の遠心側のアーム部22は、左側7番の臼歯58の内側及び遠心側の一部に係合可能な屈曲形状を有する。
また、適用例1の1においては、外側の係合部材30の近心側アーム部31は、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55の隣り合う三本の歯の外側に係合可能な歯列方向長さを有し、外側の係合部材30の遠心側のアーム部32は、左側7番の臼歯58の外側及び遠心側の他部に係合可能な屈曲形状を有する。
一対の係合部材20,30は、遠心側の端部、すなわち、それぞれの遠心側のアーム部22,32の先端部に設けられたヒンジ部40にて回転可能に連結される。これにより、一対の係合部材20,30は、歯列を挿入可能に離間する開状態と、歯列に内側及び外側から係合する閉状態とに開閉可能に構成される。なお、一対の係合部材20,30が開きすぎると、部分義歯を歯列に装着させる際の取扱い性が悪くなる。そのため、ヒンジ部40は、一対の係合部材20,30が所定角度以上に開かないように形成されている(図6(b)及び図6(c)は最大開き角度を示している。)。
内側の係合部材20は、対応する各歯の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部23,…を備えるとともに、この傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部がある歯の、当該アンダーカット部に係合する第二の係合部24,…を備える。適用例1の1においては、内側の係合部材20は、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第一の係合部23を備え、アンダーカット部を有する左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第二の係合部24を備える。
外側の係合部材30は、アンダーカット部に係合する第二の係合部34,…を備える。適用例1の1においては、外側の係合部材30は、アンダーカット部を有する左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第二の係合部34を備える。
図11に示す如く、内側の係合部材20は、各歯の内側面に沿う形状の凹部25を備える。第一の係合部23は、凹部25の咬合側(図面では下側)に形成される。第二の係合部24は、凹部25の歯根側(図面では上側)に形成される。
より詳しくは、内側の係合部材20は、歯の歯頚部にプラークが付着するのを防止するために、歯根側の端縁部が内側の歯肉59の縁と接して隙間ができない状態となるように、歯列の内側に係合する。そのため、第二の係合部24は、内側の係合部材20の歯根側の端縁部(凹部25の歯根側の端部)に形成され、主として歯頚部に係合する。
また、臼歯55,58に対して、内側の係合部材20は、歯の内側面をほぼ全体的に覆う高さ寸法を有している。そのため、第一の係合部23は、内側の係合部材20の咬合側の端縁部(凹部25の咬合側の端部)に形成される。ただし、第一の係合部23が臼歯55,58の咬合面にまで進出すると、下顎の歯と第一の係合部23が当たり、歯の噛み合わせが変わってしまう。そのため、第一の係合部23は、臼歯55,58の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部のうち、咬合面にかからない部位、例えば咬合面よりもわずかに歯根側の部位に係合する。
外側の係合部材30は、主として歯肉59の外側面に配置される。そのため、第二の係合部34は、外側の係合部材30の咬合側の端縁部に形成される。ただし、臼歯55,58については、前歯よりもアンダーカット部が広く、かつ、奥まった位置にあって審美性にさほど気を使わなくてもよい。そのため、外側の係合部材30の咬合側の端縁部は、歯頚部を超えて歯の外側面(例えば最大豊隆部あたり)まで延長するものであってもよい。
なお、図示はしないが、審美処理として、外側の係合部材30の外側面のうち、歯肉59にかかる部位には、歯肉と同色の肌色を有して外観上歯肉に見せるための周知のコーティングが施され、また、外側の係合部材30の外側面のうち、歯55,58にかかる部位には、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティングが施される。
部分義歯1の材質としてはコバルト・クロム・モリブデン合金や金合金といった金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂といった合成樹脂やジルコニアといったセラミックを用いることができる。適用例1の1においては、人工歯10の第一の分割体12のベース部12A及び内側の係合部材20は、金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製であり、また、人工歯10の第二の分割体13のベース部13C及び外側の係合部材30も、同じ金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製である。
適用例1の1に係る部分義歯1は、以上の構成からなり、次に、この部分義歯1を歯列に装着する手順について説明する。
まず、一対の係合部材20,30を開状態にする。これにより、一対の係合部材20,30は歯列を挿入可能に離間するので、この状態で、図8に示す如く、一対の係合部材20,30を歯列の内外に移動させる。
一対の係合部材20,30を対応する位置まで移動させると、次に、図9に示す如く、内側の係合部材20を歯列側に移動させて歯列に内側から係合させる。また、この操作により、人工歯10は、第一の分割体12が歯列の欠損部51における歯槽堤の上の正規位置に配置される。なお、内側の係合部材20でなく、先に外側の係合部材30を歯列に当接させるようにしてもよい。
次に、図10に示す如く、外側の係合部材30を歯列側に移動させて、一対の係合部材20,30を閉状態にし、図11に示す如く、外側の係合部材30を歯列に外側から係合させる。このとき、ロック構造14により一対の係合部材20,30は閉状態に固定され、部分義歯1は歯列に装着される。
ここで、適用例1の1に係る部分義歯1は、内側の係合部材20に、傾斜の向きが互いに逆となる第一の係合部20及び第二の係合部30の両方が形成されている。そのため、部分義歯1が閉状態、すなわち装着形態のままでは、第二の係合部30が歯列と干渉して部分義歯1を歯列に装着することはできない。しかし、適用例1の1に係る部分義歯1は、歯列を挿入可能に離間可能な開閉式を採用している。これにより、第一の係合部20及び第二の係合部30を歯列に対して横方向から係合させることができて、部分義歯1を歯列に容易に装着することができる。
部分義歯1が歯列に装着されると、内側の係合部材20の複数の凹部25,…が歯列の内側面に面係合するとともに、内側の係合部材20の複数の第一の係合部23,…及び複数の第二の係合部24,…が歯列の内側に係合する。加えて、外側の係合部材30の複数の第二の係合部34,…が歯列の外側に係合する。これにより、一対の係合部材20,30は、歯列を内側及び外側から包むように係合する。したがって、適用例1の1に係る部分義歯1は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
しかも、適用例1の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、使用者は快適な装着感をもって部分義歯を使用することができる。
また、適用例1の1に係る部分義歯1によれば、歯列に装着している間、複数の第一の係合部23,…が、歯列における複数の歯(適用例1の1においては、左側2番の切歯53、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55及び左側7番の臼歯58の四本の歯)のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯10にかかる咬合力を、欠損部51における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散させることができる。これにより、部分床義歯が抱える、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題や、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題を解消することができる。
しかも、適用例1の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、咬合力の分散効果に偏りが生じて、特定の歯に咬合力が過度に作用してこの歯の寿命を縮めてしまうという問題は生じない。
また、適用例1の1に係る部分義歯1は、残存歯をそのまま利用して装着するものである。これにより、クラウンブリッジのように部分義歯を合わせるために残存歯を切削するという必要がなくなる。そのため、健全歯質の喪失を防ぐことができるという使用者にとっては極めて大きな効果を奏する。
また、適用例1の1に係る部分義歯1においては、人工歯10が分割式となっている。そのため、例えば、金属より脆いコーティング部13Dが欠ける、割れる、ベース部13Cから剥離する等の不具合が経時的に発生したとしても、ヒンジ部40を外して外側の係合部材30側だけを改修するということが可能となる。これにより、材料費を低減したり、加工費を低減して、メインテナンス費用を抑えることができる。
しかも、人工歯10を分割式にしても、第一の分割体12の実質的な平坦面である咬合側の横面12aと第二の分割体13の同じく実質的な平坦面である歯根側の横面13bとがしっかり面当接する。そのため、第二の分割体13の咬合面13aにかかる咬合力は、第二の分割体13、歯根側の横面13b及び咬合側の横面12aを介して第一の分割体12に確実に伝達される。そして、第一の分割体12に伝達された咬合力は内側の係合部材20及び複数の第一の係合部23,…を介して複数の残存歯に確実に分散・伝達される。これにより、人工歯10にかかる咬合力を複数の残存歯で確実に負担することができる。なお、第一の分割体12の咬合側の横面12a及び第二の分割体13の歯根側の横面13bは、実質的には平坦面であるが、実際は、第一の分割体12の咬合側の横面12aは、第二の分割体13に向けて僅かに下り傾斜しており、また、第二の分割体13の歯根側の横面13bは、第一の分割体12に向けて僅かに上り傾斜している。これにより、一対の係合部材20,30を閉状態にする際、第一の分割体12と第二の分割体13を円滑に合致させることができる。
また、適用例1の1に係る部分義歯1においては、外側の係合部材30の上下方向における幅は、内側の係合部材20の上下方向における幅よりも狭くなっている。しかも、外側の係合部材30は、歯肉側に偏在している。これにより、適用例1の1に係る部分義歯1は、審美性に優れたものとなっている。ただし、そのあたりが気にならない使用者であったり、コーティングにより審美処理をして外観上目立たなくさせることができるのであれば、外側の係合部材30の上下方向における幅をもっと広くしたり、歯の外側面にもっと配置するようにして、係合力を高めるようにしてもよい。
また、適用例1の1に係る部分義歯1においては、ロック構造14は、一対の係合部材20,30の例えばヒンジ部40とは反対側の先端部のような部位でなく、人工歯10の第一の分割体12と第二の分割体13との間に設けられる。ロック構造が係合部材20,30の先端側に設けられる場合は、係合部材20,30の撓みが微小であってもヒンジ部40からの距離が長くなると、その影響は多少あるため、ロック構造が不用意に外れてしまうという懸念がある。しかし、適用例1の1に係る部分義歯1においては、ロック構造14はヒンジ部40に近い人工歯10の第一の分割体12と第二の分割体13との間に設けられているため、そのような問題はない。また、ロック構造14は、人工歯10における比較的広い分割面11に設けられるため、設計の自由度が高い。しかも、ロック構造14は、その分割面11によって隠されるため、非常に衛生的でもある。
<適用例1の2>
次に、適用例1に係る部分義歯の第二の具体例(適用例1の2)について、図12を参酌して説明する。
次に、適用例1に係る部分義歯の第二の具体例(適用例1の2)について、図12を参酌して説明する。
適用例1の2に係る部分義歯1は、上顎の右側6番及び右側7番の臼歯の欠損部51及び左側6番及び左側7番の臼歯の欠損部51を補綴するためのもので、残存するすべての歯(右側1番ないし5番及び左側1番ないし5番の歯52ないし56)の歯列に装着されるものである。
基本的には、適用例1の1に係る部分義歯1を右側にも設け、左右二つの内側の係合部材20,20を双方延長して連結した構成と同じであるが、異なる点は、欠損部51が最奥であるため、適用例1の1に係る部分義歯1のような一対の遠心側のアーム部22,32はなく、人工歯10の第一の分割体12と第二の分割体13とがヒンジ部40によりヒンジ結合される点である。
外側の係合部材30は、適用例1の2においては、適用例1の1と同様、右側及び左側の2番の切歯53まで延びている。第一の係合部24,…は、すべての残存歯52ないし56に対して設けられる(右側及び左側の1番及び2番の歯52,53に対するものは補助的な係合部としている。)。
適用例1の2に係る部分義歯1によっても、適用例1の1に係る部分義歯1と同様の効果を奏するものである。
なお、最奥の欠損部51が右側又は左側のいずれか一方だけの場合は、1番ないし3番の前歯52ないし54におけるいずれかの部位にて適用例1の2に係る部分義歯1の右側又は左側のいずれか一方を無くした形態の部分義歯1を採用することができる。
<適用例1の3>
次に、適用例1に係る部分義歯の第三の具体例(適用例1の3)について、図13ないし図18を参酌して説明する。
次に、適用例1に係る部分義歯の第三の具体例(適用例1の3)について、図13ないし図18を参酌して説明する。
図13及び図14に示す如く、適用例1の3に係る部分義歯1は、上顎の左側6番の臼歯の欠損部51を補綴するためのもので、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55、左側5番の臼歯56及び左側7番の臼歯58の歯列に装着されるものである。
基本的には、適用例1の1に係る部分義歯1と同じ構成であるが、異なる点は、適用例1の1に係る部分義歯1では、ヒンジ部40の軸は上下方向であり、一対の係合部材20,30は水平方向に開閉するのに対し、適用例1の3に係る部分義歯1では、ヒンジ部40の軸は水平方向であり、一対の係合部材20,30は上下方向に開閉する点、また、そのヒンジ部40について、適用例1の1に係る部分義歯1では、一対の遠心側のアーム部22,32の端部がヒンジ結合されるのに対し、適用例1の3に係る部分義歯1では、人工歯10の第一の分割体12と第二の分割体13とが(歯列の内側の部位にて)ヒンジ結合される点である。
また、適用例1の1に係る部分義歯1では、人工歯10の第二の分割体13の咬合部13Aを歯列の外側に押せば、ロック構造14が外れて、一対の係合部材20,30を開状態にできるが、適用例1の3に係る部分義歯1では、ロック構造14を外しやすくするために、外側の係合部材30の外側面にフック35が設けられる。
適用例1の3に係る部分義歯1を歯列に装着する手順についても適用例1の1に係る部分義歯1と基本的には同じである。まず、一対の係合部材20,30を開状態にし、この状態で、図15に示す如く、一対の係合部材20,30を歯列の内外に移動させる。一対の係合部材20,30を対応する位置まで移動させると、次に、図16に示す如く、内側の係合部材20を歯列側に移動させて歯列に内側から係合させる。
次に、図17に示す如く、外側の係合部材30を歯列側に移動させて、一対の係合部材20,30を閉状態にし、図18に示す如く、外側の係合部材30を歯列に外側から係合させる。このとき、ロック構造14により一対の係合部材20,30は閉状態に固定され、部分義歯1は歯列に装着される。
ここで、適用例1の3に係る部分義歯1では、外側の係合部材30を歯列側に移動させる際、外側の係合部材30は、横方向に移動する適用例1の1に係る部分義歯1と異なり、ヒンジ部40の軸を中心として咬合側から歯根側へと円弧状に移動する。しかし、ヒンジ部40の位置の設定により、外側の係合部材30は、太鼓状となる歯列の外側面に干渉することはなく、歯頸部に到達し、係合する。したがって、適用例1の3に係る上下開閉式の部分義歯1であっても、歯列に容易に装着することができる。
<適用例1のその他の態様>
なお、適用例1に係る部分義歯は、上記適用例1の1ないし1の3に限定されるものではなく、適用例1の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
なお、適用例1に係る部分義歯は、上記適用例1の1ないし1の3に限定されるものではなく、適用例1の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記適用例1の1ないし1の3においては、一対の係合部材20,30は、ヒンジ部40による回転構造により開閉するものである。しかし、例えば、一対の係合部材20,30が歯列の内外方向において平行的に相対変位して開閉するものであってもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、第一の係合部23及び第二の係合部24の組み合わせは、内側の係合部材20に設けられるものである。しかし、第一の係合部23及び第二の係合部24の組み合わせは、外側の係合部材30にも設けられるものであってもよいし、内側の係合部材20でなく、外側の係合部材30のみに設けられるものであってもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、人工歯10は、分割式に構成される。しかし、人工歯10は、分割式でなく、内側の係合部材20又は外側の係合部材30のいずれか一方の係合部材に設けられる単体式であってもよい。ただし、上述したとおり、改修する可能性が相対的に高いのは、外側の係合部材30であるので、単体式を採る場合は、人工歯10を内側の係合部材20に設けるのが好ましい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、同じ歯に内側の係合部材20及び外側の係合部材30が係合するようになっている。しかし、これに限定されることはない。例えば、内側の係合部材20が係合する歯の一部に外側の係合部材30が係合する、あるいはこの逆であってもよいし、内側の係合部材20が係合する歯と外側の係合部材30が係合する歯が異なる、あるいは歯列方向にずれていてもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、基本的には、同じ歯に第一の係合部23及び第二の係合部24が係合するようになっている。しかし、第一の係合部23が係合する歯と第二の係合部24が係合する歯は完全一致していなくてもよい。例えば、第一の係合部23が係合する歯の一部に第二の係合部24が係合するようにしてもよいし、第一の係合部23が係合する歯とは異なる歯に第二の係合部24が係合するようにしてもよい。
また、第一の係合部23が係合する歯の数は、人工歯10にかかる咬合力を好適に分散させる観点から、少なくとも三つの歯であるのが好ましい。また、これは欠損歯の数にもよるものであり、第一の係合部23は、欠損歯の数の二倍以上の数の歯に係合するのが好ましい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、本来の噛み合わせを変えないよう、第一の係合部23は、咬合面にかからない部位に設けられる。しかし、逆に、噛み合わせの矯正を目的として、第一の係合部23は、咬合面にかかる部位に設けるようにしてもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、係合部材20の各歯に対応する部位に凹部25が設けられ、凹部25の咬合側の端部に第一の係合部23が設けられ、凹部25の歯根側の端部に第二の係合部24が設けられ、係合部材20と歯の表面との係合が強固になるようにしている。しかし、面当接ではなく、第一の係合部23及び第二の係合部24が部分的に係合するようにしてもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、人工歯10の第一の分割体12と内側の係合部材20、第二の分割体13と外側の係合部材30は、それぞれ、鋳造により一体成型したものである。しかし、製造方法は、鋳造に限定されず、切削による削り出しでもよい。また、人工歯10と係合部材20,30とは、それぞれ別々に作成されたものを組み合わせて一体化したものでもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、人工歯10の第一の分割面11aを構成する第一の分割体12の咬合側の横面12aと第二の分割体13の歯根側の横面13b、第二の分割面11bを構成する第一の分割体12の立面12dと第二の分割体13の立面13dは、それぞれ、面当接するものである。しかし、これに限定されるものではない。第一の分割面11aは、咬合力を適切に伝達するために面当接するのが好ましいが、第二の分割面11bは、必ずしも面当接せず、多少の隙間があってもよい。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、人工歯10の第二の分割体13は、ベース部13Cとコーティング部13Dの積層構造となっている。しかし、これに限定されるものではなく、例えばベース部13Cを構成する金属材料を用いてベース部13C及びコーティング部13Dに相当する形状のものを一体的に形成するようにしてもよい。要は、審美的に気にならないのであれば、コーティング部13Dは用いずに、単体のベース部13Cが人工歯10の咬頭や咬合面、人工歯10の外側面を備えるようにしてもよい。外側の係合部材30の外側面に対するコーティング処理も同様である。審美的に気にならないのであれば、コーティング処理は必ずしも必須ではない。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、ロック構造14は、係合凹部と係合突起との組み合わせによるものである。しかし、これに限定されるものではなく、公知ないし周知のロック構造であって、開閉式の部分義歯に適用できるものであれば用いることができる。
また、上記適用例1の1ないし1の3においては、ロック構造14は、人工歯10の分割面11に設けられる。しかし、これに限定されるものではなく、ロック構造14は、他の部位に設けるようにしてもよい。
<適用例2>
適用例2に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、歯列の内側に係合する内側の係合部材と、
内側の係合部材又は人工歯に連結され、弾性を有し、内側の係合部材から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列の外側に係合する外側の係合部材とを備え、
内側の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備え、
外側の係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
適用例2に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、歯列の内側に係合する内側の係合部材と、
内側の係合部材又は人工歯に連結され、弾性を有し、内側の係合部材から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列の外側に係合する外側の係合部材とを備え、
内側の係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備え、
外側の係合部材は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、部分義歯を歯列に対して適正な位置に合わせた後、歯根側に押し込む。これにより、第二の係合部が歯の外側面に当接して外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材は内側の係合部材から離間する方向に弾性変更する。そして、第二の係合部が歯の外側面の最大豊隆部を超えると、外側の係合部材は弾性復元する。これにより、一対の係合部材が歯列の内側及び外側に係合し、部分義歯は歯列に装着される。
そして、部分義歯が歯列に装着されると、第一の係合部が歯列の内側に係合するとともに、第二の係合部が歯列の外側に係合することで、一対の係合部材は、歯列を内側及び外側から挟み込むように係合する。したがって、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
加えて、部分義歯を装着している間、第一の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯にかかる咬合力は、欠損部における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散される。
さらに、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における少なくとも一つの歯の、傾斜部とは反対側に傾斜する傾斜部であるアンダーカット部に係合している。そのため、部分義歯が歯列から抜けることはない。
他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、部分義歯を咬合側に引く。これにより、第二の係合部が歯の外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材は内側の係合部材から離間する方向に弾性変更し、一対の係合部材の間隔が拡がるので、部分義歯を取り外すことができる。
ここで、適用例2に係る部分義歯の一態様として、歯列の両側において欠損部よりも遠心に歯がない両側遊離端に対する部分義歯であって、内側の係合部材は、両側端部のそれぞれに人工歯が連結されて歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、外側の係合部材は、遠心から歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、第二の係合部は、歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる構成を採用することができる。
また、適用例2に係る部分義歯の他態様として、歯列の右側又は左側の片側において欠損部よりも遠心に歯がない片側遊離端に対する部分義歯であって、内側の係合部材は、右側又は左側の片側端部に人工歯が連結されて歯列の内側に係合するアーチ状に形成され、外側の係合部材は、遠心から歯列に沿って近心に延びる左右一対のアーム部を備え、第二の係合部は、歯列における前歯及び臼歯を含む複数の歯のそれぞれに対応して、一対のアーム部のそれぞれに複数設けられる構成を採用することができる。
これらの構成によれば、歯列の外側に複数の第二の係合部が異なる方向から係合するため、人工歯にかかる咬合力の向きによって部分義歯に前歯側が浮き上がろうとする力が作用したり、右側又は左側のいずれかが浮き上がろうとする力が作用しても、その方向にある第二の係合部が主として抵抗し、部分義歯の浮き上がりを防止することができる。
また、適用例2に係る部分義歯の別の態様として、内側の係合部材は、欠損部に隣接する一つないし複数の歯のそれぞれに被せられるクラウン部を備える構成を採用することができる。
かかる構成によれば、一対の係合部材が歯列を内側及び外側から挟み込むように係合することと相俟って、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
また、適用例2に係る部分義歯のさらに別の態様として、アーム部は、歯肉の外側面に配置され、外側の係合部材は、アーム部における複数の歯のそれぞれに対応する部位から各歯の外側面に向けて延びる複数のローチ部を備え、第二の係合部は、複数のローチ部のそれぞれの先端部に形成される構成を採用することができる。
さらにこの場合、ローチ部は、歯の外側面に沿って湾曲する横バー部を第二の係合部として先端部に有するT字状に形成される構成を採用することができる。
以上の如く、適用例2に係る部分義歯によれば、残存歯をそのまま利用することで、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を行う必要がなく、部分義歯を取り外し可能に装着することができる。また、適用例2に係る部分義歯によれば、人工歯にかかる咬合力を、義歯床を介して歯槽堤に負担させるのではなく、複数の残存歯に分散させて負担させるので、部分床義歯による諸問題を解消することができる。
<適用例2の1>
以下、適用例2に係る部分義歯の第一の具体例(適用例2の1)について、図19ないし図23を参酌して説明する。なお、適用例2の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
以下、適用例2に係る部分義歯の第一の具体例(適用例2の1)について、図19ないし図23を参酌して説明する。なお、適用例2の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
図19ないし図22に示す如く、適用例2の1に係る部分義歯1は、左右の6番及び7番の臼歯の欠損部51,51を補綴するためのもので、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の歯列に装着されるものである。すなわち、部分義歯1は、左右の欠損部51,51よりも遠心に歯がない、いわゆる両側遊離端に対するものである。
部分義歯1は、欠損部51に配置される人工歯10と、人工歯10を支持し、歯列に内側から係合する内側の係合部材20と、人工歯10に連結され、弾性を有し、内側の係合部材20から離間する方向に弾性変形することで、内側の係合部材20との間に歯列を挿入可能にするとともに、弾性復元することで、歯列に外側から係合する外側の係合部材30とを備える。
人工歯10は、歯の形を模した単体、あるいはベース部に、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティングを施した積層体である。適用例2の1においては、左右の6番及び7番の隣り合う二本の臼歯が欠損しており、人工歯10は、この二本の歯を一体的に設けたものである。
内側の係合部材20は、歯列の全体に内側から係合するアーチ状を有する。適用例2の1においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の残存歯列の内側に係合するアーチ状を有する。
図23に詳細に示す如く、内側の係合部材20は、歯の歯頚部にプラークが付着するのを防止するために、歯根側の端縁部が内側の歯肉59の縁と接して隙間ができない状態となるように、歯列の内側に係合する。
また、内側の係合部材20は、対応する各歯の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部23,…を備える。適用例2の1においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、第一の係合部23を備える。
また、内側の係合部材20は、欠損部51に近い一つ又は複数の臼歯の、咬合面から、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する内側及び外側の傾斜部にかけての部位(歯冠の咬合側の部位)に被せられるクラウン部26を備える。適用例2の1においては、内側の係合部材20は、左右の4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、クラウン部26を備える。
また、内側の係合部材20は、所定の肉厚を有して近心の各歯の切端部に被せられるスペーサ部27を備える。スペーサ部27は、対応する各歯における第一の係合部23の咬合側の端縁部から延び、内側から切端を通って外側に屈曲して、各歯の切端部に被せられる。スペーサ部27は、外観上目立たなくさせるために透明な樹脂等で形成される。適用例2の1においては、内側の係合部材20は、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53及び3番の犬歯54,54のそれぞれの前歯に対し、スペーサ部27を備える。
スペーサ部27は、前歯列に沿って一体的に形成される。前歯列において、第一の係合部23は、各歯の歯冠の咬合方向(上下方向)における中間部位を咬合側の端縁部として、前歯列に沿って連続している。そのため、スペーサ部27は、前歯列における各歯の歯冠の咬合方向における中間部位よりも咬合側に配置される。
外側の係合部材30は、人工歯10の所定部位、より詳しくは、6番の臼歯に対応する人工歯10のうち、外側の歯頸部に対応する部位から歯列に沿って近心に延びるアーム部31と、アーム部31における各歯に対応する部位から各歯の外側面に向けて延びるT字状のローチ部33,…とを備える。
アーム部31は、長尺であるため、弾性に起因する可撓性を有する。そして、各ローチ部33が内側の係合部材20から離間する方向(外側)にアーム部31が弾性変形することで、ローチ部33と内側の係合部材20との間隔が拡がるようになっている。
ローチ部33の横バー部33aは、歯の、近心から遠心にかけて湾曲する外側面に適合するよう湾曲しており、歯の外側のアンダーカット部に係合する第二の係合部34となる。適用例2の1においては、外側の係合部材30は、アンダーカット部を有する左右の2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56のそれぞれの歯に対し、第二の係合部34を備える。
アーム部31は、歯肉59の外側面に配置される。そこからローチ部33が咬合側に延び、歯の外側面に至る。第二の係合部34(ローチ部33の横バー部33a)は、アンダーカット部のうち、最大豊隆部寄りに係合するようになっている。なお、アンダーカット部は必ずしもすべての歯(特に前歯)に存在するわけではないので、その場合は、第二の係合部34は、単に歯の外側面に係合するということになる。
なお、図示はしないが、審美処理として、外側の係合部材30の外側面のうち、歯肉59にかかる部位には、歯肉と同色の肌色を有して外観上歯肉に見せるための周知のコーティングが施され、また、外側の係合部材30の外側面のうち、歯にかかる部位には、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティングが施されることがある。
部分義歯1の材質としては、部分義歯としての剛性を有しつつ、外側の係合部材30のアーム部31に弾性を与えることができる材質であればよく、例えば、コバルト・クロム・モリブデン合金や金合金といった金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂といった合成樹脂やジルコニアといったセラミックを用いることができる。適用例2の1においては、人工歯10、内側の係合部材20(スペーサ部27を除く。)及び外側の係合部材30は、金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製である。
適用例2の1に係る部分義歯1は、以上の構成からなり、次に、この部分義歯1を歯列に装着する手順について説明する。
まず、部分義歯1を歯列に対して適正な位置に合わせた後、歯根側に押し込む。これにより、外側の係合部材30の各ローチ部33の横バー部33a(第二の係合部34)が歯の外側面に当接して外側面の最大豊隆部に向かうのに伴い、外側の係合部材30は内側の係合部材20から離間する方向に弾性変更する。そして、横バー部33aが歯の外側面の最大豊隆部を超えると、外側の係合部材30は弾性復元する。これにより、図23に示す如く、一対の係合部材20,30が歯列の内側及び外側に係合し、部分義歯1は歯列に装着される。
ここで、適用例2の1に係る部分義歯1は、外側の係合部材30に、各歯のアンダーカット部に係合する第二の係合部34が形成されている。そのため、部分義歯1がそのままでは、第二の係合部34が歯列(の外側面の豊隆部)と干渉して部分義歯1を歯列に装着することはできない。しかし、適用例2の1に係る部分義歯1は、外側の係合部材30が内側の係合部材20との間隔を拡げるように弾性変更可能となっている。これにより、第二の係合部34を各歯の外側面の最大豊隆部を超えて最大豊隆部よりも歯根側にあるアンダーカット部に係合させることができて、部分義歯1を歯列に容易に装着することができる。
部分義歯1が歯列に装着されると、内側の係合部材20の複数の第一の係合部23,…が歯列の内側に係合する。加えて、外側の係合部材30の複数の第二の係合部34,…が歯列の外側に係合する。これにより、一対の係合部材20,30は、歯列を内側及び外側から挟み込むように係合する。加えて、歯列における臼歯には、歯冠の咬合側の部位を覆うようにクラウン部26が被せられる。したがって、適用例2の1に係る部分義歯1は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
しかも、適用例2の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、使用者は快適な装着感をもって部分義歯を使用することができる。
また、適用例2の1に係る部分義歯1によれば、歯列に装着している間、複数の第一の係合部23,…が、歯列における複数の歯(適用例2の1においては、左右の1番の切歯52,52、2番の切歯53,53、3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55及び5番の臼歯56,56の十本の歯)のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯10にかかる咬合力を、欠損部51における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散させることができる。これにより、部分床義歯が抱える、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題や、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題を解消することができる。
加えて、左右の人工歯10,10に咬合力がかかることにより、部分義歯1に前歯側が浮き上がろうとする力が作用しても、2番の切歯53,53に係合する第二の係合部34が主として抵抗し、浮き上がりを防止することができる。また、右側又は左側のいずれか一方の人工歯10に咬合力がかかることにより、部分義歯1に右側又は左側のいずれか他方が浮き上がろうとする力が作用しても、右側又は左側のいずれか他方の3番ないし5番の歯に係合する第二の係合部34が主として抵抗し、やはり浮き上がりを防止することができる。そして、このような浮き上がりの防止メカニズムは、それぞれの第二の係合部34が歯の外側面に沿って湾曲した形状であることから、第二の係合部34の端部によっても発生するものである。したがって、適用例2の1に係る部分義歯1は、咬合力がどのようにかかっても、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
しかも、適用例2の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、咬合力の分散効果に偏りが生じて、特定の歯に咬合力が過度に作用してこの歯の寿命を縮めてしまうという問題は生じない。
また、適用例2の1に係る部分義歯1は、残存歯をそのまま利用して装着するものである。これにより、クラウンブリッジのように部分義歯を合わせるために残存歯を切削するという必要がなくなる。そのため、健全歯質の喪失を防ぐことができるという使用者にとっては極めて大きな効果を奏する。
また、適用例2の1に係る部分義歯1は、クラウン部26の肉厚によってクラウン部26が被せられる歯の高さが高くなる分、人工歯10も本来の欠損歯よりも高さが高くなるように形成するとともに、前歯には、所定の肉厚を有するスペーサ部27が被せられる。これにより、残存歯列が適切な噛み合わせとなっていない場合に、噛み合わせを矯正(再構成)することができる。
<適用例2の2>
次に、適用例2に係る部分義歯の第二の具体例(適用例2の2)について、図24及び図25を参酌して説明する。
次に、適用例2に係る部分義歯の第二の具体例(適用例2の2)について、図24及び図25を参酌して説明する。
適用例2の2に係る部分義歯1は、適用例2の1のように両側遊離端ではなく、片側遊離端(適用例2の2においては、左側6番の臼歯及び左側7番の臼歯の欠損)に対するものである。そのため、基本的には、適用例2の1に係る部分義歯1と同じ構成であるが、異なる点は、適用例2の2においては、右側の人工歯10が不要となるため、右側の外側の係合部材30は、連結部31aを介して内側の係合部材20の右側端部に連結される点である。具体的には、適用例2の2においては、内側の係合部材20は、右側5番の臼歯56まで係合可能な歯列方向長さを有し、この右側端部に、右側5番の臼歯と右側6番の臼歯との歯間部を通って外側から内側に延びる連結部31aが連結される。なお、適用例2の2においては、右側の外側の係合部材30は、内側の係合部材20と一体成型されて内側の係合部材20に連結される。
もう一つの異なる点は、適用例2の2においては、噛み合わせの矯正を行わない点である。そのため、適用例2の2においては、適用例2の1に係る部分義歯1のクラウン部26及びスペーサ部27は、設けられていない。そのため、図25(b)に示す如く、左右の臼歯55,56に対し、内側の係合部材20は、歯の内側面をほぼ全体的に覆う高さ寸法を有し、第一の係合部23は、内側の係合部材20の咬合側の端縁部に形成される。ただし、第一の係合部23が臼歯55,56の咬合面にまで進出すると、下顎の歯と第一の係合部23が当たり、歯の噛み合わせが変わってしまう。そのため、第一の係合部23は、臼歯55,56の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部のうち、咬合面にかからない部位、例えば咬合面よりもわずかに歯根側の部位に係合するようになっている。右側の外側の係合部材30の連結部31aも同様である。
適用例2の2に係る部分義歯1によっても、適用例2の1に係る部分義歯1と同様の効果を奏するものである。
<適用例2のその他の態様>
なお、適用例2に係る部分義歯は、上記適用例2の1ないし2の2に限定されるものではなく、適用例2の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
なお、適用例2に係る部分義歯は、上記適用例2の1ないし2の2に限定されるものではなく、適用例2の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記適用例2の1においては、噛み合わせの矯正を行っており、上記適用例2の2においては、噛み合わせの矯正を行っていない。しかし、適用例2の1において、クラウン部26及びスペーサ部27を設けない(噛み合わせの矯正を行わない)ようにしてもよいし、適用例2の2において、クラウン部26及びスペーサ部27を設ける(噛み合わせの矯正を行う)ようにしてもよい。
また、上記適用例2の1においては、残存歯列のすべての歯に第一の係合部23が係合し、上記適用例2の1ないし2の2においては、左右1番の切歯52,52を除き、残存歯列のすべての歯に第二の係合部34が係合するようになっている。しかし、適用例2の効果を損なわない程度において、第一の係合部23や第二の係合部34の数を減らしてもよい。
また、上記適用例2の1ないし2の2においては、外側の係合部材30は、アーム部31と、アーム部31における各歯に対応する部位から各歯の外側面に向けて延びるローチ部33を備え、第二の係合部34は、ローチ部33の先端部(横バー部33a)に形成される。しかし、第二の係合部34の形成は、この形態に限定されるものではない。例えば、ローチ部33を設けず、第二の係合部34は、内側の係合部材20(アーム部31)の咬合側の端縁部に形成され、主として歯頚部に係合するようにしてもよい。
また、上記適用例2の1ないし2の2においては、ローチ部33は、歯の外側面に沿って湾曲する横バー部33aを第二の係合部34として先端部に有するT字状に形成される。しかし、ローチ部33は、I字状、L字状、U字状といった他の形状であってもよい。
また、上記適用例2の1ないし2の2に係る部分義歯1は、両側又は片側の遊離端に対する部分義歯である。しかし、欠損部51よりも遠心に自然歯が残存する中間欠損に対する部分義歯であってもよい。この場合、7番の臼歯(や、存在するならば8番の臼歯)に対しては、上記適用例2の1に係る部分義歯1の4番や5番の歯に対する構成(クラウン部26を有する構成)や、上記適用例2の2に係る部分義歯1の4番や5番の歯に対する構成(クラウン部26を有さず、咬合面の周りに第一の係合部23が係合する構成)が採られることとなる。
また、上記適用例2の1に係る部分義歯1は、両側遊離端に対する部分義歯であり、上記適用例2の2に係る部分義歯1は、片側遊離端に対する部分義歯である。しかし、上記適用例2の1に係る部分義歯1において、1番ないし3番の前歯52ないし54におけるいずれかの部位にて右側又は左側のうち欠損部51と反対側を無くした形態の部分義歯を片側遊離端に対する部分義歯として採用することができる。
また、第一の係合部23が係合する歯の数は、人工歯10にかかる咬合力を好適に分散させる観点から、少なくとも三つの歯であるのが好ましい。また、これは欠損歯の数にもよるものであり、第一の係合部23は、欠損歯の数の二倍以上の数の歯に係合するのが好ましい。
<適用例3>
適用例3に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、アーチ状となって歯列の内側に係合する第一の状態と、幅が狭まるように屈曲する第二の状態とに変形可能な係合部材と、
第一の状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備えるとともに、歯列における複数の歯のそれぞれの、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
適用例3に係る部分義歯は、
歯列の欠損部に配置される人工歯と、
人工歯を支持し、アーチ状となって歯列の内側に係合する第一の状態と、幅が狭まるように屈曲する第二の状態とに変形可能な係合部材と、
第一の状態を解除可能に固定するためのロック構造とを備え、
係合部材は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部を備えるとともに、歯列における複数の歯のそれぞれの、傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部に係合する第二の係合部を備える。
かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、係合部材を第二の状態にする。これにより、係合部材は歯列の内側に挿入可能となるので、この状態で、係合部材を歯列の内側に移動させる。そして、係合部材を第一の状態にする。これにより、係合部材が歯列の内側に係合し、かつ、ロック構造が働いて、部分義歯は歯列に装着される。
そして、部分義歯が歯列に装着されると、第一の係合部及び第二の係合部が歯列の内側に係合する。しかも、係合部材は、両端よりも中央が凸となるアーチ状となっており、第一の係合部及び第二の係合部は、アーチの複数箇所に設けられる。したがって、部分義歯は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着される。
加えて、部分義歯を装着している間、第一の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯にかかる咬合力は、欠損部における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散される。
さらに、部分義歯を装着している間、第二の係合部は、歯列における複数の歯のそれぞれの、傾斜部とは反対側に傾斜する傾斜部であるアンダーカット部に係合している。そのため、部分義歯が歯列から抜けることはない。
他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して係合部材を第二の状態にする。これにより、係合部材の幅が狭まり、係合部材が歯列から離間し、部分義歯を取り外すことができる。
ここで、適用例3に係る部分義歯の一態様として、係合部材は、複数の歯のそれぞれ表面に沿う形状の凹部を備え、凹部の咬合側の端部に第一の係合部が形成されるとともに、凹部の歯根側の端部に第二の係合部が形成される構成を採用することができる。
かかる構成によれば、最大豊隆部を歯冠の上下方向中間部に有することで太鼓状となる歯(4番ないし7番の臼歯)の表面を包むように凹部が歯の表面に面当接し、部分義歯は、より強固に歯列に装着される。
また、適用例3に係る部分義歯の他態様として、係合部材は、遠心から歯列に沿って近心に延びる第一の係合部材と、第一の係合部材の近心の端部に回転可能に連結され、ここからさらに歯列に沿って延びる第二の係合部材とを備え、第一の係合部及び第二の係合部は、第一の係合部材及び第二の係合部材のそれぞれに設けられる構成を採用することができる。
かかる構成によれば、部分義歯を歯列に装着するに際しては、まず、第二の係合部材を第一の係合部材側に回転させて、係合部材を第二の状態にする。これにより、係合部材は歯列の内側に挿入可能となるので、この状態で、係合部材を歯列の内側に移動させる。そして、第二の係合部材を第一の係合部材と反対側に回転させて、係合部材を第一の状態にする。これにより、係合部材が歯列の内側に係合し、かつ、ロック構造が働いて、部分義歯は歯列に装着される。
他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して、第二の係合部材を第一の係合部材側に回転させて、係合部材を第二の状態にする。これにより、係合部材の幅が狭まり、係合部材が歯列から離間し、部分義歯を取り外すことができる。
この場合、係合部材は、第一の係合部材の近心の端部と、第二の係合部材の連結側の端部とが歯列の内外方向において重なり合う重合部を備え、ロック構造は、重合部における第一の係合部材と第二の係合部材との重合面に設けられる構成を採用することができる。
かかる構成によれば、係合部材を第二の状態から第一の状態にして、係合部材が歯列の内側に係合する際、ロック構造により係合部材が第一の状態に固定されて、部分義歯は歯列に装着される。他方、部分義歯を歯列から取り外すときは、ロック構造を解除して係合部材を第二の状態にし、係合部材を歯列から離間させて、部分義歯を取り外す。
以上の如く、適用例3に係る部分義歯によれば、残存歯をそのまま利用することで、クラウンブリッジやインプラントのように残存歯や歯槽骨の切削を行う必要がなく、部分義歯を取り外し可能に装着することができる。また、適用例3に係る部分義歯によれば、人工歯にかかる咬合力を、義歯床を介して歯槽堤に負担させるのではなく、複数の残存歯に分散させて負担させるので、部分床義歯による諸問題を解消することができる。
<適用例3の1>
以下、適用例3に係る部分義歯の具体例(適用例3の1)について、図26ないし図32を参酌して説明する。なお、適用例3の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
以下、適用例3に係る部分義歯の具体例(適用例3の1)について、図26ないし図32を参酌して説明する。なお、適用例3の1に係る部分義歯は上顎の歯列に装着されるものであるが、ここでは、便宜上、上顎を模った上顎模型を用い、これを実際の上顎とみなして説明する。
図26ないし図30に示す如く、適用例3の1に係る部分義歯1は、左右の1番及び2番の前歯の欠損部51を補綴するためのもので、左右の3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55、5番の臼歯56,56、6番の臼歯57,57及び7番の臼歯58,58の歯列に装着されるものである。
部分義歯1は、欠損部51に配置される人工歯10と、人工歯10を支持し、アーチ状となって歯列の内側に係合する第一の状態と、幅が狭まるように屈曲する第二の状態とに変形可能な係合部材20A,20Bとを備える。
人工歯10は、ベース部15に、歯と同色の白色を有して外観上歯に見せるための周知のコーティング(コーティング部16)を施した積層体である。適用例3の1においては、左右の1番及び2番の隣り合う四本の前歯が欠損しており、人工歯10は、この四本の歯を一体的に設けたものである。
係合部材20A,20Bは、遠心から歯列に沿って近心に延びる第一の係合部材20Aと、第一の係合部材20Aの近心の端部に回転可能に連結され、ここからさらに歯列に沿って延びる第二の係合部材20Bとを備える。適用例3の1においては、第一の係合部材20Aは、左側7番の臼歯58から左側3番の犬歯54に延び、さらに欠損部51を埋めるように延びる。他方、第二の係合部材20Bは、欠損部51から始まり、右側3番の犬歯から右側7番の臼歯58に延びる。
第一の係合部材20Aの近心の端部、すなわち、第一の係合部材20Aの欠損部51における部位と、第二の係合部材20Bの近心の端部、すなわち、第二の係合部材20Bの欠損部51における部位は、前者が外側、後者が内側となるようにして、重なり合い、重合部28を構成する。なお、第一の係合部材20Aの欠損部51における部位は、人工歯10のベース部15を兼ねている。
第二の係合部材20Bの近心の端部は、重合部28において、第一の係合部材20Aの近心の端部に回転可能に連結される。適用例3の1においては、第二の係合部材20Bの近心の先端部と、第一の係合部材20Aの近心の端部のうち、左側1番及び2番の前歯の間に相当する部位とがピン軸41を用いたヒンジ部40にて回転可能に連結される。
そして、重合部28における第一の係合部材20Aと第二の係合部材20Bとの重合面28a,28bには、第一の係合部材20Aの近心の端部と第二の係合部材20Bの近心の端部(連結側の端部)の重合状態(合致状態)を解除可能に固定するためのロック構造29が設けられる。
ロック構造29は、第一の係合部材20Aの重合面28a又は第二の係合部材20Bの重合面28bのいずれか一方の立面に形成される係合凹部と、いずれか他方の立面に形成される係合突起とで構成される。第二の係合部材20Bが歯列の内側に係合する方向に回転するのに伴って、第一の係合部材20Aの近心の端部と第二の係合部材20Bの連結側の端部とが重合(合致)する際、係合突起が係合凹部に弾性変形的に係入し、ロックがかかるようになっている。また、第二の係合部材20Bが歯列の内側から離間する方向に回転するのに伴って、第一の係合部材20Aの近心の端部と第二の係合部材20Bの連結側の端部とが分離する際、係合突起による係合凹部への係止が外れ、ロックが解除されるようになっている。
第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれは、対応する各歯の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合する第一の係合部23,…を備えるとともに、この傾斜部とは反対側に傾斜するアンダーカット部がある歯の、当該アンダーカット部に係合する第二の係合部24,…を備える。適用例3の1においては、第一の係合部材20Aは、左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55、左側5番の臼歯56、左側6番の臼歯57及び左側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第一の係合部23を備え、アンダーカット部を有する左側3番の犬歯54、左側4番の臼歯55、左側5番の臼歯56、左側6番の臼歯57及び左側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第二の係合部24を備える。第二の係合部材20Bは、右側3番の犬歯54、右側4番の臼歯55、右側5番の臼歯56、右側6番の臼歯57及び右側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第一の係合部23を備え、アンダーカット部を有する右側3番の犬歯54、右側4番の臼歯55、右側5番の臼歯56、右側6番の臼歯57及び右側7番の臼歯58のそれぞれの歯に対し、第二の係合部24を備える。
また、第一の係合部23は、第一の係合部材20Aの近心の先端部にも設けられる(図29参照)。適用例3の1においては、第一の係合部材20Aは、右側3番の犬歯54に対し、第一の係合部23を備える。
図31に示す如く、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれは、各歯の内側面に沿う形状の凹部25を備える。第一の係合部23は、凹部25の咬合側(図面では下側)に形成される。第二の係合部24は、凹部25の歯根側(図面では上側)に形成される。
より詳しくは、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれは、歯の歯頚部にプラークが付着するのを防止するために、歯根側の端縁部が内側の歯肉59の縁と接して隙間ができない状態となるように、歯列の内側に係合する。そのため、第二の係合部24は、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの歯根側の端縁部(凹部25の歯根側の端部)に形成され、主として歯頚部に係合する。
また、臼歯55ないし58に対して、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれは、歯の内側面をほぼ全体的に覆う高さ寸法を有している。そのため、第一の係合部23は、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの咬合側の端縁部(凹部25の咬合側の端部)に形成される。ただし、第一の係合部23が臼歯55ないし58の咬合面にまで進出すると、下顎の歯と第一の係合部23が当たり、歯の噛み合わせが変わってしまう。そのため、第一の係合部23は、臼歯55ないし58の、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部のうち、咬合面にかからない部位、例えば咬合面よりもわずかに歯根側の部位に係合する。
部分義歯1の材質としてはコバルト・クロム・モリブデン合金や金合金といった金属のほか、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂といった合成樹脂やジルコニアといったセラミックを用いることができる。適用例3の1においては、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれは、金属材料を用いて鋳造により一体成型した金属製である。
適用例3の1に係る部分義歯1は、以上の構成からなり、次に、この部分義歯1を歯列に装着する手順について説明する。
まず、係合部材20A,20Bを幅が狭まるように屈曲して第二の状態にする。これにより、係合部材20A,20Bは歯列の内側に挿入可能となるので、この状態で、係合部材20A,20Bを歯列の内側に移動させる。
係合部材20A,20Bを対応する位置まで移動させると、次に、図32(a)に示す如く、第一の係合部材20Aを歯列側に移動させて歯列に内側から係合させる。また、この操作により、人工歯10は、歯列の欠損部51における歯槽堤の上の正規位置に配置される。
次に、図32(b)に示す如く、第二の係合部材20Bを歯列側に移動させて、係合部材20A,20Bをアーチ状となる第一の状態にし、第二の係合部材20Bを歯列に内側から係合させる。このとき、ロック構造29により係合部材20A,20Bは第一の状態に固定され、部分義歯1は歯列に装着される。
ここで、適用例3の1に係る部分義歯1は、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれに、傾斜の向きが互いに逆となる第一の係合部23及び第二の係合部24の両方が形成されている。そのため、部分義歯1が第一の状態、すなわち装着形態のままでは、第二の係合部24が歯列(の内側面の豊隆部)と干渉して部分義歯1を歯列に装着することはできない。しかし、適用例3の1に係る部分義歯1は、係合部材20A,20Bの幅(第一の係合部材20Aの遠心の端部と第二の係合部材20Bの遠心の端部との間隔)が狭まり、歯列の内側に挿入可能となる屈曲式を採用している。これにより、第一の係合部23及び第二の係合部24を歯列に対して横方向から係合させることができて、部分義歯1を歯列に容易に装着することができる。
部分義歯1が歯列に装着されると、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの複数の凹部25,…が歯列の内側面に面係合するとともに、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの複数の第一の係合部23,…及び複数の第二の係合部24,…が歯列の内側に係合する。これにより、係合部材20A,20Bは、歯列の内側で突っ張るように係合する。したがって、適用例3の1に係る部分義歯1は、歯列の内外方向(水平方向)、咬合方向(上下方向)及び歯列に対する回転方向のいずれの方向においても、動くことなく、歯列に強固に装着することができる。
しかも、適用例3の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、使用者は快適な装着感をもって部分義歯を使用することができる。
また、適用例3の1に係る部分義歯1によれば、歯列に装着している間、複数の第一の係合部23,…が、歯列における複数の歯(適用例3の1においては、左右の3番の犬歯54,54、4番の臼歯55,55、5番の臼歯56,56、6番の臼歯57,57及び7番の臼歯58,58の十本の歯)のそれぞれの、歯根に向かうほど広がる方向に傾斜する傾斜部に係合している。そのため、人工歯10にかかる咬合力を、欠損部51における歯槽堤には実質的には作用せず、複数の歯に分散させることができる。これにより、部分床義歯が抱える、強力な咬合力を必要とする硬い食べ物は食べられないという問題や、荷重にアンバランスが生じるため、残存歯にかかる負担が大きく、この残存歯の寿命を縮めるという問題を解消することができる。
しかも、適用例3の1に係る部分義歯1は、金属製の剛体であり、撓みや変形が生じにくい。そのため、長期間使用しても、係合状態が弱まったり、不均一になったりすることはない。これにより、咬合力の分散効果に偏りが生じて、特定の歯に咬合力が過度に作用してこの歯の寿命を縮めてしまうという問題は生じない。
また、適用例3の1に係る部分義歯1は、残存歯をそのまま利用して装着するものである。これにより、クラウンブリッジのように部分義歯を合わせるために残存歯を切削するという必要がなくなる。そのため、健全歯質の喪失を防ぐことができるという使用者にとっては極めて大きな効果を奏する。
また、適用例3の1に係る部分義歯1においては、ロック構造29は、第一及び第二の係合部材20A,20Bの重合部28に設けられる。そのため、設計の自由度が高い。しかも、ロック構造29は、第一及び第二の係合部材20A,20Bの重合面28a,28bによって隠されるため、非常に衛生的でもある。
<適用例3のその他の態様>
なお、本発明に係る部分義歯は、上記適用例3の1に限定されるものではなく、適用例3の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
なお、本発明に係る部分義歯は、上記適用例3の1に限定されるものではなく、適用例3の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上記適用例3の1においては、係合部材20A,20Bは、ヒンジ部40による回転構造により屈曲するものである。しかし、例えば、第二の係合部材20B(の端部)が第一の係合部材20A上をスライドすることにより、屈曲した形態となるものであってもよい。
また、上記適用例3の1においては、係合部材は、第一の係合部材20Aと第二の係合部材20Bとで構成されている。しかし、係合部材は、一つの部材で構成するようにしてもよい。例えば、中間部に弾性変形可能な変形部を有した一つの部材からなる係合部材であってもよい。
また、上記適用例3の1においては、人工歯10は第一の係合部材20Aに設けられる。しかし、人工歯10は、第二の係合部材20Bに設けられるものであってもよい。あるいは、人工歯10を分割式とし、人工歯10の第一の分割体が第一の係合部材20Aに設けられ、人工歯10の第二の分割体が第二の係合部材20Bに設けられるものであってもよい。
また、上記適用例3の1においては、同じ歯番の歯に第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bが係合するようになっている。しかし、これに限定されることはない。例えば、第一の係合部材20Aが係合する歯の数が第二の係合部材20Bが係合する歯の数よりも多くなるあるいは少なくなるように、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの歯列方向長さが異なっていてもよい。よって、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれが最奥歯(7番の臼歯58)まで延びていることも必須ではない。
また、上記適用例3の1においては、基本的には、同じ歯に第一の係合部23及び第二の係合部24が係合するようになっている。しかし、第一の係合部23が係合する歯と第二の係合部24が係合する歯は完全一致していなくてもよい。例えば、第一の係合部23が係合する歯の一部に第二の係合部24が係合するようにしてもよいし、第一の係合部23が係合する歯とは異なる歯に第二の係合部24が係合するようにしてもよい。
また、第一の係合部23が係合する歯の数は、人工歯10にかかる咬合力を好適に分散させる観点から、少なくとも三つの歯であるのが好ましい。また、これは欠損歯の数にもよるものであり、第一の係合部23は、欠損歯の数の二倍以上の数の歯に係合するのが好ましい。
また、上記適用例3の1においては、本来の噛み合わせを変えないよう、第一の係合部23は、咬合面にかからない部位に設けられる。しかし、逆に、噛み合わせの矯正を目的として、第一の係合部23は、咬合面にかかる部位に設けるようにしてもよい。
また、上記適用例3の1においては、第一の係合部材20A及び第二の係合部材20Bのそれぞれの各歯に対応する部位に凹部25が設けられ、凹部25の咬合側の端部に第一の係合部23が設けられ、凹部25の歯根側の端部に第二の係合部24が設けられ、係合部材20A,20Bと歯の表面との係合が強固になるようにしている。しかし、面当接ではなく、第一の係合部23及び第二の係合部24が部分的に係合するようにしてもよい。
また、上記適用例3の1においては、人工歯10のベース部15と第一の係合部材20A、第二の係合部材20Bは、それぞれ、鋳造により一体成型したものである。しかし、製造方法は、鋳造に限定されず、切削による削り出しでもよい。また、人工歯10と係合部材20A,20Bとは、それぞれ別々に作成されたものを組み合わせて一体化したものでもよい。
また、上記適用例3の1においては、ロック構造29は、係合凹部と係合突起との組み合わせによるものである。しかし、これに限定されるものではなく、公知ないし周知のロック構造であって、屈曲式の部分義歯に適用できるものであれば用いることができる。
また、上記適用例3の1においては、ロック構造29は、第一及び第二の係合部材20A,20Bの重合部28の重合面28a,28bに設けられる。しかし、これに限定されるものではなく、ロック構造29は、他の部位に設けるようにしてもよい。例えば、第一及び第二の係合部材20A,20Bの重合部28を設けることなく、第一の係合部材20Aの近心の端面と第二の係合部材20Bの近心の端面とを当接させて第一の状態が得られるようにした上で、この端面にロック構造を設けるようにしてもよい。
また、上記適用例3の1に係る部分義歯1は、前歯が欠損している中間欠損に対する部分義歯である。しかし、欠損部51が右側あるいは左側に偏った位置にある中間欠損に対する部分義歯であってもよい。
1…部分義歯、2…クラウン、10…人工歯、11…分割面、11a…第一の分割面、11b…第二の分割面、12…第一の分割体、12A…ベース部、12a…咬合側の横面、12b…歯根側の横面、12c…人工歯の内側面、12d…立面、13…第二の分割体、13A…咬合部、13B…外側部、13C…ベース部、13D…コーティング部、13a…人工歯の咬合面、13b…歯根側の横面、13c…人工歯の外側面、13d…立面、14…ロック構造、15…ベース部、16…コーティング部、20…内側の係合部材、20A…第一の係合部材、20B…第二の係合部材、21…近心側のアーム部、22…遠心側のアーム部、23…第一の係合部、24…第二の係合部、25…凹部、26…クラウン部、27…スペーサ部、28…重合部、28a,28b…重合面、29…ロック構造、30…外側の係合部材、31…近心側のアーム部,アーム部、31a…連結端部、32…遠心側のアーム部、33…ローチ部、33a…横バー部、34…第二の係合部、35…フック、40…ヒンジ部、41…ピン軸、50…本模型、50a…直立部、50b…マージン部、51…欠損部、52,53…切歯、54…犬歯、55〜58…臼歯、59…歯肉、60…第一の分離層、61…第二の分離層、62…重合レジン(ベース部)、63…ワックス(表層部)、64…パターン
Claims (3)
- 口腔内印象に基づいて作製された模型の表面の所望の領域の上に、ゴム弾性を有する第一の分離材を用いて第一の分離層を形成し、
該第一の分離層の上に、油性の第二の分離材を用いて第二の分離層を積層形成し、
該第二の分離層の上に、重合レジンを塗布ないし築盛して所望の形状のパターンを作製し、
前記重合レジンの硬化後、前記パターンを前記模型から取り外して鋳型の形成に用いる
歯科鋳造用パターンの作製方法。 - 前記第一の分離材は、ラテックス系の分離材であり、前記第二の分離材は、ワセリン系の分離材である請求項1に記載の歯科鋳造用パターンの作製方法。
- 前記第二の分離層の平均厚みは、前記第一の分離層の平均厚みよりも小さい請求項1又は2に記載の歯科鋳造用パターンの作製方法。
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