JP2019149968A - オフフレーバーのリスクを低減できるラクターゼ調製物 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来よりもオフフレーバーのリスクを低減できるラクターゼ調製物およびその製造方法を提供する。【解決手段】ラクターゼ活性100U/gあたりのβ−グルクロニダーゼ活性が2,400U/g以下であるラクターゼ調製物。【選択図】なし

Description

本発明は、オフフレーバーのリスクを低減できるラクターゼ調製物に関する。より詳しくは、原料乳に作用させた時にイソ吉草酸の発生量が従来よりも抑制されるラクターゼ調製物に関する。
牛乳等の乳原料やそれから製造される乳製品中にはラクトースが存在する。多くのヒトの小腸にはラクターゼが存在するため、乳製品中のラクトースは小腸でグルコースとガラクトースに分解される。しかし、ラクターゼが十分に作用しない一部のヒトにおいては、ラクトースが十分に分解されず大腸まで移動する。そして大腸に存在する細菌などがラクトースを分解するなどして下痢や消化不良の症状が生じる(乳糖不耐症)。このような症状を防ぐために、ラクターゼによってラクトースを予め分解し、乳製品を製造することが広く行われている。
現在の技術水準において、ラクターゼを化学的に合成することは極めて困難である。そのためラクターゼは酵母やカビ、細菌等の微生物を用いて生産される。しかしながら、当該微生物はラクターゼ以外の物質も産生するため、産業上で利用されるラクターゼ調製物には夾雑物としてラクターゼ以外の物質も含まれていることが通常である。このような夾雑物によって問題が生じることがあり、その1つにオフフレーバー(異臭)の問題がある。
例えば特許文献1は、アリールスルファターゼが混入すると、乳中に含まれるp−クレゾール(4−メチルフェノール)と硫酸の抱合体からp−クレゾールが遊離することを報告し、アリールスルファターゼ活性を低減したラクターゼ調製物で乳製品を製造する方法を提唱している。
特許第5544088号
p−クレゾールはいわゆる薬品臭のような臭気物質であるため、アリールスルファターゼ混入によるp−クレゾールの遊離は乳製品のオフフレーバーの原因となり得るのは事実である。しかしながら、アリールスルファターゼを低減させても、依然としてオフフレーバーが発生することがあった。すなわち、他の夾雑物によっても何らかの臭気物質が発生し、オフフレーバーが引き起こされる場合があった。
本願は、このような背景に基づき、オフフレーバーを発生させ得る夾雑物を同定し、従来よりもオフフレーバーのリスクを低減できるラクターゼ調製物とその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の第1の態様は、ラクターゼ活性100U/gあたりのβ−グルクロニダーゼ活性が2,400U/g以下であるラクターゼ調製物である。
また、本発明の第2の態様のある実施形態は、ラクターゼを産生できる微生物からラクターゼ調製物を製造する方法であって、微生物がβ−グルクロニダーゼ活性体を生来的に産生する微生物であり、β−グルクロニダーゼ活性体の量および/または活性が野生株に比べて制限されるような処理を含む、ラクターゼ調製物の製造方法である。
前記微生物は、配列番号1で表されるアミノ酸配列の酵素もしくはそのファミリー酵素をコードする構造遺伝子をゲノム上に生来的に有するKluyveromyces属に属する微生物でもよい。
前記処理は、これら構造遺伝子の発現を抑制するように遺伝子の1つ以上を付加、欠損、置換または改変する操作でもよい。
また、本発明の第2の態様の別の実施形態は、ラクターゼを産生できる微生物からラクターゼ調製物を製造する方法であって、ラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼの活性を1回以上測定する、ラクターゼ調製物の製造方法である。
この方法は、測定したβ−グルクロニダーゼ活性を所定の基準値と比較することを含んでもよい。またこの方法は、測定したβ−グルクロニダーゼ活性が所定の基準値を超えた場合には所定の基準値以下となるように精製することを含んでもよい。
第2の態様のラクターゼ調製物の製造方法によって、ラクターゼ調製物が提供される。
また、本発明の第3の態様は、原料乳と、第1の態様のラクターゼ調製物および/または第2の態様によって製造されたラクターゼ調製物と、を含む混合物である。
さらに、本発明の第4の態様は、ラクターゼ調製物に含まれるβ−グルクロニダーゼ活性を指標として、ラクターゼ調製物を原料乳に作用させたときのイソ吉草酸の生成量および/またはオフフレーバーのリスクを予測する方法である。
本発明により、イソ吉草酸に基づくオフフレーバーのリスクを従来よりも低減できるラクターゼ調製物およびその製造方法、並びに、そのようなラクターゼ調製物を用いて製造されるオフフレーバーのリスクを低減された乳製品を提供することが可能となった。
β−グルクロニダーゼ活性がイソ吉草酸に基づくオフフレーバーを引き起こすことを示すデータである。
以下、本発明について詳述する。
<第1の態様:ラクターゼ調製物>
本発明の第1の態様によれば、イソ吉草酸に基づくオフフレーバーリスクを低減できるラクターゼ調製物が提供される。
ラクターゼ調製物とは、ラクターゼを主成分として含有する溶液または固形物である。ラクターゼ調製物は任意の添加剤を含有していてもよい。ラクターゼ調製物が溶液である場合にはラクターゼを失活させない限り任意の溶媒に溶解させてよい。
乳糖(ラクトース)は、β−ガラクトースの1位の炭素にある水酸基とグルコースの4位の炭素にある水酸基とがグリコシド結合してできる2糖である。
ラクターゼは、乳糖をグルコースとガラクトースに加水分解する酵素であり、β−ガラクトシダーゼの1種である。ラクターゼは、中性ラクターゼまたは酸性ラクターゼに大別される。
本発明のラクターゼ調製物は2種以上の異なるラクターゼを含有していてもよい。この場合、2種以上の中性ラクターゼを含有していてもよいし、2種以上の酸性ラクターゼを含有していてもよいし、1種以上の中性ラクターゼと1種以上の酸性ラクターゼを含有していてもよい。また、本発明の目的に反しない限り、ラクターゼ以外の他の異なる酵素を1種以上混合してもよい。
中性ラクターゼは、活性の至適pHが中性領域であり、この活性状態において乳糖を分解できる。中性ラクターゼ活性の至適pHは6.0〜7.5である。また酸性領域で失活する性質を有するものが好ましい。より具体的には、失活pH4.0〜6.0であるのが好ましい。
酸性ラクターゼは、活性の至適pHが酸性領域であり、この活性状態において乳糖を分解できる。酸性ラクターゼ活性の至適pHは3.0〜5.9である。
なお本発明においては、pHが6〜8の範囲を中性領域と表現し、pHが6未満の領域を酸性領域と表現する。
本発明のラクターゼ調製物の中性ラクターゼ活性は、特に制限はなく、適宜調整し得るものである。限定するものではないが、例えば、0NLU/g以上、10NLU/g以上、100NLU/g、1,000NLU/g以上の中性ラクターゼ活性を有していてもよい。また、100,000NLU/g以下、90,000NLU/g以下、80,000NLU/g以下の中性ラクターゼ活性を有していてもよい。
ここで中性ラクターゼ活性の単位「NLU」とは、Neutral Lactase Unitの略である。
中性ラクターゼ活性の測定方法は、例えば、中性ラクターゼが基質o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)を、o−ニトロフェニル及びガラクトースに加水分解する反応を解析することで測定される。この反応は炭酸ナトリウムの添加によって終了させることができる。分解生成物であるo−ニトロフェニルは、アルカリ媒体中で黄色を示し、吸光度の変化によって中性ラクターゼ活性(NLU/g)を測定できる。具体的な手順は、米国食品化学物質規格集(FCC; Food Chemicals Codex)第4版、1996年7月1日、第801〜802頁/ラクターゼ(中性)(β−ガラクトシダーゼ)活性において公表されている。
本発明のラクターゼ調製物の酸性ラクターゼ活性は、特に制限はなく、適宜調整し得るものである。限定するものではないが、例えば、0ALU/g以上、10ALU/g以上、100ALU/g、1,000ALU/g以上の酸性ラクターゼ活性を有していてもよい。また、1,000,000ALU/g以下、900,000ALU/g以下、800,000ALU/g以下の酸性ラクターゼ活性を有していてもよい。
ここで酸性ラクターゼ活性の単位「ALU」とは、Acid Lactase Unitの略である。
酸性ラクターゼ活性の測定方法は、例えば、酸性ラクターゼが基質o−ニトロフェニル−β−ガラクトピラノシド(ONPG)を、o−ニトロフェニル及びガラクトースに加水分解する反応を解析することで測定される。この反応は炭酸ナトリウムの添加によって終了させることができる。分解生成物であるo−ニトロフェニルは、アルカリ媒体中で黄色を示し、吸光度の変化によって酸性ラクターゼ活性(ALU/g)を測定できる。具体的な手順は、米国食品化学物質規格集(FCC; Food Chemicals Codex)第4版、1996年7月1日、第802〜803頁/ラクターゼ(酸性)(β−ガラクトシダーゼ)活性において公表されている。
本発明のラクターゼ調製物における中性ラクターゼおよび酸性ラクターゼを合計したラクターゼ活性(LU/g)は、特に制限はなく、適宜調整し得るものである。限定するものではないが、例えば、10LU/g以上、100LU/g、1,000LU/g以上のラクターゼ活性を有していてもよい。また、1,100,000LU/g以下、1,000,000LU/g以下、900,000LU/g以下のラクターゼ活性を有していてもよい。
ここでラクターゼ活性の単位「LU」とは、Lactase Unitの略である。
上述の通り、ラクターゼ調製物を利用して無乳糖または低乳糖に加工された乳製品が製造されている。本発明者らは、従来のラクターゼ調製物を用いて乳製品を製造した場合、イソ吉草酸(3−メチルブタン酸)に由来するオフフレーバーが生じることを突き止めた。イソ吉草酸は不快感を惹起する酸臭を放つ物質である。実際、日本では悪臭防止法の特定悪臭物質に指定されている。
また通常のラクターゼ調製物を原料乳に作用させる際、夾雑物によってp−クレゾールも生じ得る。この場合イソ吉草酸およびp−クレゾールの双方の刺激を同時に感受することとなる。さらにイソ吉草酸とp−クレゾールが共存することで、これらの一方または双方の揮発性が亢進することが起こり得るため、感じる不快感はより強くなり得る。このようにイソ吉草酸の発生および/または遊離の予防はオフフレーバー防止の観点から重要である。
そして本発明者らは、従来のラクターゼ調製物に夾雑物として僅かに含まれる、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質がイソ吉草酸の発生/遊離を招くことを見出した。如何なる基質に対してこのタンパク質が作用し、イソ吉草酸が発生および/または遊離しているかについては、さらなる研究が必要である。
配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質はクルイベロマイセス・ラクティスが産生するβ−グルコシダーゼである。このβ−グルコシダーゼは、β−グルコシダーゼ活性とともにβ−グルクロニダーゼ活性を有していた。β−グルクロニダーゼは、グルクロン酸とアグリコンがβ−グルクロニド結合した配糖体を加水分解する酵素であるため、現時点での有力な仮説としてグルクロン酸とイソ吉草酸との配糖体が乳中に存在するものと推測される。したがって本発明においてβ−グルクロニダーゼ活性を示すβ−グルコシダーゼは原核生物、古細菌、真核生物のいずれの生物に由来のもの全てを指す。この中でも特に、真核生物由来のβ−グルコシダーゼ、酵母由来のβ−グルコシダーゼ、クルイベロマイセス属に属する酵母由来のβ−グルコシダーゼ、K. lactis由来のβ−グルコシダーゼを指す。
なお当然のことながら、この仮説はその他の基質や機構に由来するイソ吉草酸の発生/遊離の可能性を排除するものではない。
本発明のラクターゼ調製物におけるラクターゼ活性を100LU/gと換算したときのβ−グルクロニダーゼ活性は、2,400U/g以下であり、240U/g以下が好ましく、24U/g以下がより好ましく、0U/gが最も好ましい。ラクターゼ活性に対してβ−グルクロニダーゼ活性がこの上限値を超えると、所望のラクターゼ作用を得るためラクターゼ調製物を原料乳に添加した場合にオフフレーバーが高い確率で生じ得る。
本発明のラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼ活性は、特に制限はないが、ラクターゼ活性との兼ね合いから、120,000U/g以下が好ましく、1,200U/g以下が好ましく、0U/gが最も好ましい。
ラクターゼ調製物に含まれ得るβ−グルクロニダーゼの酵素活性(U/g)は、例えば、基質として4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルクロニド水和物(MUG)を使用する以下方法によって定量してもよい。β−グルクロニダーゼはMUGをグルクロン酸と4−メチルウンベリフェロンに加水分解する。4−メチルウンベリフェロンは励起波長360nm、蛍光波長450nmの蛍光強度によって容易に濃度を求めることができる。
ラクターゼ調製物自体またはこれを純水で適宜希釈したものを評価用検体とする。
MUGを純水に溶解させて2mM濃度の水溶液を調製し、このMUG水溶液0.5mLと所定のバッファー溶液(例えば500mM塩化カリウムを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH6.5))を0.25mLとを混合した後、液温を所定の温度(例えば37℃)に調整する。
このMUG水溶液に対して0.25mLの評価用検体を混合、前記所定の温度にて所定時間(例えば60分間)反応させる。前記所定時間経過後、速やかに所定のアルカリ性溶液(例えば1.0mLの0.1M水酸化ナトリウム溶液)を添加し反応を停止させる。これらについて励起波長360nm、蛍光波長450nmにて蛍光強度を測定する
所定の濃度に調整した複数の4−メチルウンベリフェロンを調製し、これらの励起波長360nm、蛍光波長450nmにおける蛍光強度を測定することで検量線を作成し、この検量線に基づいて測定用サンプルにおける4−メチルウンベリフェロン生成量を算出する。基質と酵素との反応時間1時間あたりの4−メチルウンベリフェロン生成量が1nモルであった場合を1U(Unit)として評価できる。こうして1gあたりの活性(U/g)を求めることができる。
上述の通り、配列番号1のアミノ酸配列はクルイベロマイセス・ラクティスのβ−グルコシダーゼのアミノ酸配列である。β−グルクロニダーゼ活性体として機能する酵素の中でも、この配列番号1に示すアミノ酸配列を有するβ−グルコシダーゼのファミリー酵素はイソ吉草酸の発生/遊離を生じるものと特に推測される。
ある酵素E1が別の酵素E2のファミリーであるとは、E1とE2のアミノ酸配列に基づく相同性が50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上を有していることを意味する。アミノ酸配列相同性は公知のソフトウェアなどを用いて容易に算出することができる。
これに加えて、ある酵素E1が別の酵素E2のファミリーであるとは、酵素E1が酵素E2の機能と同一の機能を発揮できることを意味する。この機能における活性比に特に制限はないが、例えば、活性の高い酵素の活性を100%としたとき、他方の酵素の活性は1%以上、5%以上、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上または90%以上である。
このことから配列番号1に示すアミノ酸配列と上述の相同性を有しβ−グルクロニダーゼ活性体としての機能を発揮できる酵素は、配列番号1に示すβ−グルコシダーゼのファミリー酵素であると判断される。配列番号1に示すアミノ酸配列のβ−グルコシダーゼはMUGを加水分解できるため、これのファミリー酵素はMUGに対する加水分解活性を有しているものと推測される。
クルイベロマイセス属に属する微生物(酵母)は配列番号1に示すアミノ酸配列を有する酵素のファミリーであるβ−グルコシダーゼを有するものと特に推測される。当然のことながら、本発明を制限するものではない。
すなわち本発明のラクターゼ調製物は特に、配列番号1に示すアミノ酸配列を有するβ−グルコシダーゼ(グルクロニダーゼ活性体でもある)またはそのファミリーのβ−グルコシダーゼをコードしている構造遺伝子を有するクルイベロマイセス属に属する微生物から製造できるラクターゼ調製物である。
本発明のラクターゼ調製物には、必要に応じ、その他の各種成分を添加してもよい。例えば、ラクターゼの安定化に寄与する安定化剤などの添加剤を添加してもよい。
安定化剤として具体的には、トレハロース、ソルビトール、グリセロール、グリセロールトリメチロールプロパン、ネオペンチルグリコール、トリエタノールアミン、グリコール、ジグリコール、トリエチレングリコール、グリコール、グリシン、塩化ナトリウム、乳酸塩であって分子量が1000未満であるものを挙げることができる。安定化剤は単独で又は複数を使用してもよい。
<第2の態様:ラクターゼ調製物の製造方法>
本発明の第2の態様によれば、ラクターゼ調製物の製造方法が提供される。
ラクターゼを化学合成することは現状の技術では極めて困難である。したがってラクターゼは、典型的には、ラクターゼを産生する微生物を培養し、その液状または固形の培地からラクターゼを精製することによって得られる。
ラクターゼを産生する微生物としては、特に制限はなく、ラクターゼを産生できれば任意の微生物(細胞)が使用可能である。原核生物、真核生物、古細菌のいずれであってもよい。また微生物には多細胞生物から単離した細胞も含まれる。
現在使用されているラクターゼ産生微生物としては、酵母やカビ、細菌など種々のものが挙げられる。典型的には、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、バチルス(Bacillus)属またはペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物が挙げられる。これらの中でも、クルイベロマイセス属に属する微生物が好ましい。微生物は1倍体の状態だけでなく、2倍体以上の多倍体の状態であってもよい。1倍体には遺伝子操作が容易な利点があり、多倍体には遺伝子変異を長期間継続し易い利点がある。
クルイベロマイセス属に属する微生物としては、例えば、クルイベロマイセス・フラジリス(K. fragillis)、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(K. marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(K. lactis)が挙げられ、クルイベロマイセス・ラクティスが最も好適である。
バチルス属に属する微生物としては、例えば、バチルス・サブチリス(B. subtilis)、バチルス・リケニホルミス(B. licheniformis)、バチルス・レンタス(B. lentus)、バチルス・ブレビス(B. brevis)、バチルス・ステアロサーモフィラス(B. stearothermophilus)、バチルス・アルカロフィラス(B. alkalophllus)、バチルス・アミロリケファシエンス(B. amyloliquefaciens)、バチルス・コアギュランス(B. coagulans)、バチルス・サーキュランス(B. circulans)、バチルス・ラウタス(B. lautus)、バチルス・メガテリウム(B. megaterium)、又はバチルス・スリンジエンシス(B. thuringiens)が挙げられる。
アスペルギルス属の微生物としては、例えば、アスペルギルス・オリゼ(A. oryzae)又はアスペルギルス・ニガー(A. niger)が挙げられる。
ペニシリウム属の微生物としては、例えば、ペニシリウム・マルチカラー(P. multicolor)が挙げられる。
これら微生物が産生するラクターゼは通常、その微生物が生来的に産生し得るラクターゼである。したがって、ラクターゼとしては、典型的には、クルイベロマイセス属、アスペルギルス属、バチルス属またはペニシリウム属に属する微生物に由来するラクターゼが挙げられる。
しかし当然のことながら、生来的にラクターゼを産生する微生物に対して、ラクターゼ遺伝子を改変、置換するなどして変異ラクターゼを産生させてもよい。他の生物のラクターゼ遺伝子を付与して、他の生物のラクターゼを産生させてもよい。
あるいは、ラクターゼを本来産生しない微生物に対してラクターゼ遺伝子を付与してラクターゼ産生微生物としてもよい。
遺伝子を付与する手段としては、例えば対象遺伝子を含むベクターを導入する方法が挙げられる。ベクターとしては任意のものが使用可能であり、例えばプラスミドやウィルスDNAなどが挙げられる。当然のことながらベクターは、転写制御のためのオペレーター配列やセレクションのための抗生物質耐性遺伝子などを含んでもよい。
ここで、付与するラクターゼ遺伝子はいずれの生物のラクターゼ遺伝子でもよい。上述の通り、典型的には、クルイベロマイセス属、アスペルギルス属、バチルス属またはペニシリウム属に属する微生物に由来するラクターゼ遺伝子が挙げられる。またラクターゼ遺伝子は野生型だけでなく変異型でもよい。
ラクターゼ産生微生物からラクターゼ調製物を製造する方法は任意のものが使用可能である。例えば、国際公開第2014−185364が開示する方法などが挙げられる。
ラクターゼ産生微生物からラクターゼ調製物を製造する方法は、主として、ラクターゼ産生微生物を培養する工程、この培養と同時および/またはこの培養後において微生物にラクターゼを産生させる工程、ラクターゼ産生後に微生物からラクターゼ含有原料を採取・回収する工程、ラクターゼ含有原料からラクターゼ調製物を精製する工程を含む。
ラクターゼ産生微生物を培養する手法は任意のものを使用することができる。例えば、乳糖や窒素源を含有し、pHが3〜10の培地において、20〜40℃で24〜240時間培養してもよい。
ラクターゼ産生微生物にラクターゼを産生させる手法は任意のものを使用することができる。任意の化合物を添加したりヒートショックなどの刺激を与えたりするなどして微生物がラクターゼを産生するように誘導してもよい。あるいは微生物が自然に産生してもよい。
得られた培養物からラクターゼ含有原料を採取する手法も任意である。例えば回収した細胞から抽出してもよいし、細胞外に排出されるような変異細胞等を用いてもよい。液体培地中で培養した場合においては培養液そのものを使用してもよい。
ラクターゼ含有原料は、培養液などを含む液状物であってもよいし固形物であってもよいが、液状物であることが好ましい。
ラクターゼ含有原料からラクターゼを精製する手法は、任意の手法を使用できる。
例えば、ラクターゼとの親和性が高く、夾雑物(例えばβ−グルクロニダーゼ活性体)とは親和性の低いカラムを用いたアフィニティクロマトグラフィーによって精製される。カラムは例えばラクターゼに特異的に作用する抗体などを含んでもよい。
これに加えて/これとは別に、サイズ排除クロマトグラフィなどを用いてラクターゼと夾雑物(例えばβ−グルクロニダーゼ活性体)とを分離してもよい。
これに加えて/これとは別に、夾雑物(例えばβ−グルクロニダーゼ活性体)に特異的に作用する阻害剤、捕捉剤(抗体など)や分解剤(プロテアーゼなど)を添加して、夾雑物の量および/または活性を低減させてもよい。
(第1の実施形態)
第1の実施形態のラクターゼ調製物の製造方法では、β−グルクロニダーゼ活性体を生来的に産生し得るラクターゼ産生微生物からラクターゼ調製物を製造し、その製造方法の中でβ−グルクロニダーゼ活性体の量および/または活性が野生株よりも低減されるようにする処理が実行される。
上述したクルイベロマイセス属、アスペルギルス属、バチルス属またはペニシリウム属に属する微生物は、このような微生物の典型例である。
ここで低減とは、野生型よりもβ−グルコシダーゼの量/活性が低下していれば十分であり、完全に消失させる形態に限定されない。
この処理は自然突然変異や変異誘発によるものでも良いし、微生物への遺伝子操作を含んでも良い。このような微生物を用意すればそれを継代したものから適宜ラクターゼ調製物を精製すればよい。結果、製造方法の工程数が増大し難く、時間的、経済的コストが抑えられるものと考えられる。また工程数が増えることによるラクターゼ活性の失活などの弊害を回避することができる。
遺伝子操作としては、微生物に対して、生来的に有さない遺伝子を付与する操作、生来的に有する遺伝子を欠損させる操作、生来的に有する遺伝子の少なくとも一部を改変する操作、生来的に有する遺伝子を他の遺伝子に置換する操作などが挙げられる。
β−グルクロニダーゼ活性体の発現を完全に消失させる手法としては、例えば、相同組換えなどを介してラクターゼ産生微生物のゲノムからβ−グルクロニダーゼ活性体に関する遺伝子を欠損(ノックアウト)させる手法が挙げられる。
欠損させる対象としては、β−グルクロニダーゼ活性体自体をコードしているゲノム領域(構造遺伝子)だけでなく、この構造遺伝子の発現調節に関するゲノム領域(発現調節遺伝子)なども含まれる。発現調節遺伝子とは、特にβ−グルクロニダーゼ活性体が合成される(構造遺伝子が発現する)ように機能する領域である。より具体的には、DNAからRNAへの転写の調節、mRNAからタンパク質への翻訳の調節などが含まれる。これらの除去や破壊によってβ−グルクロニダーゼ活性体が完全に合成されないよう操作することができる。このような完全な欠損株であれば、β−グルクロニダーゼ活性体が夾雑物として混入することを完全に予防できる点で有利である。
あるいは、完全に酵素活性を喪失した変異体β−グルクロニダーゼ活性体や全く別の酵素をコードする遺伝子にゲノムの野生型構造遺伝子を置換または改変する手法も考えられる。
繰り返しとなるが、本発明は上述のような、β−グルクロニダーゼ活性体の合成を完全に消失させる実施形態に限られない。β−グルクロニダーゼ活性体の量および/または活性を野生株よりも低減させる実施形態も本発明の範囲内である。特に、β−グルクロニダーゼ活性体が必須遺伝子であり、完全に欠損させることが困難な場合には、このような手法が効果的である。
β−グルクロニダーゼ活性体の量を野生株よりも少なくする手法としては、例えば、構造遺伝子から転写されるRNAの生成量の低下、RNAプロセシングの抑制、これらRNAの分解量の増加、mRNAから翻訳されるタンパク質の生成量の低下、このタンパク質の分解量の増加が挙げられる。
例えば、発現調節遺伝子を置換または改変することによって、野生株よりも転写量や翻訳量が少なくなるようにする手法が考えられる。このとき、人為的に転写量や翻訳量を低く制御できるように置換または改変してもよいし、微生物の通常の育成条件において転写量や翻訳量が自ずと低減されるように置換または改変してもよい。
これとは別に/これに加えて、β−グルクロニダーゼ活性体遺伝子を完全に欠く欠損株に対して、β−グルクロニダーゼ活性体の構造遺伝子を含むベクターを導入し、野生株よりも発現量が少なくなるよう調整する手法も考えられる。例えば、発現量が制御可能な状態でβ−グルクロニダーゼ活性体の構造遺伝子を含むベクターを導入して、通常の発現量よりも少ない量でβ−グルクロニダーゼ活性体が合成されるよう制御してもよい。
これとは別に/これに加えて、容易に分解し得る変異型β−グルクロニダーゼ活性体をコードする変異型遺伝子などに野生型遺伝子を置換または改変することも考えられる。この分解はタンパク質の段階の分解だけでなく、mRNAの段階の分解も含まれる。つまり最終的に産生されたタンパク質がプロテアーゼなどによって分解され易くなり量が野生株よりも低減されてもよいし、および/またはmRNAが野生株よりも分解され易くmRNAの量が野生株よりも低減された結果としてタンパク質の翻訳量が低減されてもよい。当然のことながら、この操作はゲノムの野生型構造遺伝子を変異型遺伝子に置換または改変するだけでなく、ゲノムの野生型構造遺伝子を完全に欠損させた上でこのような変異型遺伝子を含むベクターを導入させて行ってもよい。
例えば、β−グルクロニダーゼ活性体のmRNAに対してRNA干渉を実行することでmRNAの量およびタンパク質の量を野生株よりも低減させてもよい。RNA干渉に利用するRNA断片は合成したRNAを培養時などに適宜添加してもよいし、微生物が自ら産生するようにベクターを導入したりゲノムに挿入したりしてもよい。
これとは別に/これに加えて、ラクターゼ産生微生物が多倍体微生物(例えば2倍体酵母)である場合には、少なくとも1つの染色体にβ−グルクロニダーゼ活性体遺伝子を残し、他の染色体からはβ−グルクロニダーゼ活性体が合成されないように遺伝子を欠損させてもよい。例えば、ラクターゼ産生微生物が2倍体の酵母であり、いずれの染色体にもβ−グルクロニダーゼ活性体の遺伝子が存在する場合、β−グルクロニダーゼ活性体の片方の遺伝子の欠損(ヘテロ欠損)によってβ−グルクロニダーゼ活性体の発現量を半減させてもよい。当然のことながら、欠損させる対象は、上述の通り、構造遺伝子でも発現調節遺伝子でもよい。
これとは別に/これに加えて、上述したようにβ−グルクロニダーゼ活性体の発現量を直接制御してもよいが、β−グルクロニダーゼ活性体の発現量に寄与する他の遺伝子の発現について、同様の制御を行うことで、β−グルクロニダーゼ活性体の存在量低減を達成してもよい。すなわち、β−グルクロニダーゼ活性体が合成されるように機能するおよび/または分解されないように機能する他の遺伝子についてはその発現を抑制するように制御してもよいし、β−グルクロニダーゼ活性体が合成されないように機能するおよび/または分解されるように機能する他の遺伝子についてはその発現を促進するように制御してもよい。
これとは別に/これに加えて、β−グルクロニダーゼの活性を野生型よりも弱くしてもよい。
例えば、活性を弱体化した変異体をコードする変異型遺伝子を作製して、ゲノムの野生型構造遺伝子をこの変異型遺伝子に置換または改変することが考えられる。ゲノムの野生型構造遺伝子を変異型遺伝子に置換または改変するだけでなく、ゲノムの野生型構造遺伝子を完全に欠損させた上で変異型遺伝子を含むベクターを導入させてもよい。
これとは別に/これに加えて、翻訳後の修飾(例えば糖鎖修飾)などの制御によって活性を低下させるなどしてもよい。
当然のことながら、これら手法を複数組み合わせて実行してもよい。
本発明の典型例としては、β−グルクロニダーゼ活性体の構造遺伝子を欠損させた、クルイベロマイセス属、アスペルギルス属、バチルス属またはペニシリウム属に属する微生物から、ラクターゼ調製物をアフィニティクロマトグラフィーによって精製する方法が挙げられる。2倍体などの多倍体の微生物については、全ての構造遺伝子を欠損させてもよい。
特に、ラクターゼ産生微生物がクルイベロマイセス属の酵母である場合、この微生物のゲノムには配列番号1で表されるアミノ酸配列の酵素またはそのファミリー酵素をコードしている構造遺伝子が存在すると推測される。これら遺伝子の発現が抑制されるように上述のような処理を行ってもよい。特にこれら構造遺伝子の少なくとも1つを欠損、置換または改変してもよい。すなわち、これら遺伝子の一部または全部を欠損、置換または改変させた1倍体および/または2倍体のクルイベロマイセス属の酵母(特にKluyveromyces lactis)からラクターゼ調製物を製造してもよい。このような、配列番号1で表されるアミノ酸配列の酵素またはそのファミリー酵素をコードしている構造遺伝子を欠損、置換または改変させたクルイベロマイセス属の微生物から、ラクターゼ調製物を製造することが第1の実施形態の典型例である。
(第2の実施形態)
第2の実施形態のラクターゼ調製物の製造方法では、ラクターゼを産生できる微生物からラクターゼ調製物を製造し、その製造方法の中でラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼの活性を1回以上測定する。
ラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼ活性は、例えば、上述したMUGによる活性評価によって求められる。このとき、このラクターゼ調製物のラクターゼ活性を評価してもよい。
測定したβ−グルクロニダーゼ活性を所定の基準値と比較する工程をさらに含んでもよい。この基準はβ−グルクロニダーゼ活性そのものであってもよいし、ラクターゼ活性との比率であってもよい。基準値は製造方法の実行者が任意に設定することができる。
また、測定したβ−グルクロニダーゼ活性が所定の基準値を超えた場合には所定の基準値以下となるように追加の精製を行ってもよい。追加の精製工程は、既に行われた精製工程とは独立した別の精製工程に移行させること、既に行われた精製工程に戻すことのいずれも意味する。
独立した別の精製工程として、ラクターゼとβ−グルクロニダーゼ活性体とを分離させることに特化した工程を設けてもよい。例えば、β−グルクロニダーゼ活性体をターゲットとしたサイズ排除クロマトグラフィなどの精製工程を実行してもよい。
これとは別に/これに加えてβ−グルクロニダーゼ活性を特異的に失活させる阻害剤を用いてβ−グルクロニダーゼ活性体を失活させる工程を実行してもよい。これとは別に/これに加えてβ−グルクロニダーゼ活性体を特異的に捕捉するような捕捉剤(例えば抗体)を用いてβ−グルクロニダーゼ活性体を除去する工程を実行してもよい。これとは別に/これに加えてβ−グルクロニダーゼ活性体を特異的に分解するような分解剤(例えばプロテアーゼ)を用いてβ−グルクロニダーゼ活性体を分解させる工程を実行してもよい。当然のことながら、これら工程の後に精製工程を実行してもよい。
当然のことながら、第1の実施形態と、第2の実施形態とを組み合わせてラクターゼ調製物を製造してもよい。すなわち、以下の第3の実施形態によってラクターゼ調製物を製造してもよい。
(第3の実施形態)
第3の実施形態のラクターゼ調製物の製造方法では、β−グルクロニダーゼ活性体を生来的に産生し得るラクターゼ産生微生物からラクターゼ調製物を製造し、その製造方法の中でβ−グルクロニダーゼ活性体の量および/または活性が野生株よりも低減されるようにする処理を実行し、およびラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼ活性体の活性を1回以上測定する。
<第3の態様:ラクターゼ調製物を含む混合物>
本発明の第3の態様によれば、原料乳と上述のラクターゼ調製物とを含む混合物が提供される。
本発明のラクターゼ調製物と原料乳とを混合した混合物には、単に混合したものだけではなく、これを処理して製造される乳製品も含まれる。
原料乳としては、特に制限はないが、例えば、牛、羊、山羊などの動物の乳などが挙げられる。
ラクターゼ調製物と原料乳とを混合した混合物から製造される乳製品としては、牛乳等の乳飲料、発酵乳、アイスクリーム、ミルクジャム等が挙げられる。
なかでも、本発明のラクターゼ調製物によってロングライフミルクが製造される。ロングライフミルクとは長期保存(例えば数カ月に亘って10℃以下の冷蔵保存)を前提とした牛乳のことである。長期間に亘ってラクターゼ調製物が作用し得るので、オフフレーバーのリスクが特に大きい。したがって、本発明のラクターゼ調製物の効果を特に享受する乳製品である。
<第4の態様:オフフレーバーの予測方法>
本発明の第4の態様によれば、ラクターゼ調製物に含まれるβ−グルクロニダーゼ活性を指標として、ラクターゼ調製物を原料乳に作用させたときのイソ吉草酸の生成量および/またはオフフレーバーのリスクを予測する方法が提供される。
当然のことながら、ラクターゼ調製物に含まれるβ−グルクロニダーゼ活性が高ければ高いほど発生/遊離によるイソ吉草酸の生成量が増加する。そしてある閾値以上となるとオフフレーバーとして観測される。
したがって、ラクターゼ調製物を原料乳に添加する際、そこに含まれるβ−グルクロニダーゼ活性を指標として、イソ吉草酸の生成量および/またはオフフレーバーのリスクを予測することが可能である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[オフフレーバー要因因子の特定]
本発明者らは幾つかの因子について、以下に記載する手法によってオフフレーバーが生じるかを確認した。このうちオフフレーバーの発生が確認された因子の1つがK. lactisのβ−グルクロニダーゼ活性を有するβ−グルコシダーゼであった。以下、β−グルクロニダーゼ活性体であるβ−グルコシダーゼをオフフレーバー要因因子の代表例としての手法を具体的に詳述する。
まず、オフフレーバー要因となるか否か解析するためβ−グルクロニダーゼ活性体を大量調製した。多コピープラスミドpRS426にK. lactisのβ−グルコシダーゼ遺伝子を組み込んだプラスミドを作製した。作製したプラスミドを出芽酵母BY4741株に導入し、β−グルコシダーゼを大量に産生させた。
β−グルコシダーゼ産生後、この変異酵母をザイモリエイス(登録商標)で抽出して酵母抽出液を得た。この酵母抽出液を開始試料としてβ−グルコシダーゼについてカラムクロマトグラフィー精製を行った。使用したカラムはDEAE-Toyopearlカラム、Butyl-Toyopearlカラム、Giga Cap Q-Toyopearlカラムである。得られた精製画分は充分なβ−グルクロニダーゼ活性を発揮していた。他方、オフフレーバーの要因として既に同定されていたアリールスルファターゼの活性は検出限界以下であった。表1に示す通り、β−グルコシダーゼのβ−グルクロニダーゼ活性体としての精製度は約6倍、活性回収率は42%であった。この精製液に賦形剤として1%のラクトースを添加した後、凍結乾燥してβ−グルクロニダーゼ活性体粉末を得た。

Figure 2019149968
オフフレーバーを起こすか解析するため、多量の酵素を使用した以下の加速試験を行った。
(サンプル1)
コントロールとして、88gの無脂肪牛乳(小岩井乳業株式会社製)に対して純水12g添加したサンプルを使用した。
(サンプル2)
精製したβ−グルクロニダーゼ活性体粉末を溶解させてβ−グルクロニダーゼ活性体溶液を調製した。88gの無脂肪牛乳(小岩井乳業株式会社製)に対して、0.22μmフィルターを通じて12gのβ−グルクロニダーゼ活性体溶液(12万U)を添加してサンプルを得た。
(サンプル3)
K. lactis由来のβ−グルクロニダーゼ活性体の代わりに、市販の大腸菌由来グルクロニダーゼ(メルク株式会社製)を添加した以外はサンプル2と同じ操作を行いサンプルを得た。
こうして得られた3種類のサンプルを12℃で5日間静置し、その後臭気分析を行った。
以下の評価は大和サービス株式会社にて実施した。まず、パネラーによる官能試験を行った。3種類のサンプルの匂いを嗅いだ結果、サンプル2において不快な酸臭が観測された。またサンプル3においてはいわゆる薬品臭が観測された。他方、サンプル1においては異臭が観測されなかった。
臭気成分を解析するため、ガスクロマトグラフィー質量分析(GC−MS)を行い、臭気成分を同定した。その結果を図1に示す。
サンプル3(グルクロニダーゼ添加)においては、p−クレゾールが主として検出された。原料乳に含まれる基質からp−クレゾールが遊離したものと考えられる。この分析結果は薬品臭を感じたというパネラーの分析とも一致するものである。他方、サンプル2(β−グルクロニダーゼ活性体添加)においては、イソ吉草酸が主として検出された。イソ吉草酸は不快感を伴う刺激臭、酸臭を呈する物質である。この分析結果も酸臭を感じたというパネラーの分析とも一致するものである。
乳中のp−クレゾールの閾値は通常10ppbであるところ、サンプル3の結果から、乳中にイソ吉草酸が存在すると、p−クレゾールの閾値が下がることが認められた。乳中にp−クレゾール及びイソ吉草酸の基質が存在することを考えると、β−グルクロニダーゼ活性が低くても、時間の経過に伴い、オフフレーバーを生じるリスクが増大することになる。特に、1ヶ月以上保存する乳製品(例えば、ロングライフミルク)において、オフフレーバーの問題を生じやすく、当該乳製品に本発明を応用することができる。
アリールスルファターゼやグルクロニダーゼはそれらの基質からp−クレゾールを遊離させオフフレーバーを引き起こす。これは当業者にとって周知である。他方、イソ吉草酸が乳製品のオフフレーバーの原因臭気物質であることや、β−グルクロニダーゼ活性体がそれに関与することは周知ではない。さらに、β−グルコシダーゼがβ−グルクロニダーゼ活性体として作用することは周知でなかったうえ、およそ推測できることではなかった。これら事実は本発明者らが初めて報告するものである。
これらの結果から、ラクターゼ調製物に含まれるβ−グルクロニダーゼ活性体の量/活性を低減させることで、イソ吉草酸の発生/遊離を従来よりも減少させることができ、オフフレーバーの発生リスクを抑えることが可能であることが判明した。
[β−グルコシダーゼ欠損株の作製]
β−グルクロニダーゼ活性体(配列番号1の酵素)の構造遺伝子を少なくとも1つ欠損したK. lactisを以下の方法で作製した。
β−グルクロニダーゼ活性体遺伝子を欠損させる方法としては、ゲノムDNAの相同領域を有する直鎖状DNA二本鎖を形質転換する方法を用いた。酵母染色体内の遺伝子破壊にはエレクトロポレーション法、酢酸リチウム法を用いた。
より具体的には、
(1):配列番号1のβ−グルクロニダーゼ活性体遺伝子の両端1000bpの二つの塩基配列でマーカー遺伝子と呼ばれる抗生物質などの薬剤耐性遺伝子を挟んだ融合配列を持つ直鎖状二本鎖DNAを、PCR(polymerase chain reaction)法を用いて合成した。
(2):(1)にて作成したDNA配列を宿主生物に形質転換した。
(3):抗生物質などの薬剤を添加した宿主細胞培養用の培地を用いて、染色体中に形質転換用のDNA配列が挿入された形質転換体だけを成育させた。
(4):宿主細胞内の染色体中の標的遺伝子が正確にマーカー遺伝子によって置き換わった、つまり標的遺伝子が破壊されたかどうか、PCR法を用いて確認した。
以上の(1)〜(4)の方法によって標的遺伝子破壊株を作製した。 上記工程(1)で用いる薬剤耐性としては、G418耐性、ハイグロマイシンB耐性等が用いられる。このような薬剤耐性微生物は、形質転換により作製することができる。 上記工程(1)に用いる薬剤耐性遺伝子としては、抗生物質G418に対してはkan遺伝子、ハイグロマイシンBに対してはhph遺伝子が挙げられる。
これとは別にβ−グルクロニダーゼ活性体を生産する酵母菌体に対し、UVやγ線、過酸化水素、NTG、EMSなどで処理した後、生育してきた菌体から当該活性の低下を確認することによっても取得することができた。

Claims (8)

  1. ラクターゼ活性100U/gあたりのβ−グルクロニダーゼ活性が2,400U/g以下であるラクターゼ調製物。
  2. ラクターゼを産生できる微生物からラクターゼ調製物を製造する方法であって、
    微生物がβ−グルクロニダーゼ活性体を生来的に産生する微生物であり、
    β−グルクロニダーゼ活性体の量および/または活性が野生株に比べて制限されるような処理を含む、ラクターゼ調製物の製造方法。
  3. 前記微生物が、配列番号1で表されるアミノ酸配列の酵素もしくはそのファミリー酵素をコードする構造遺伝子をゲノム上に生来的に有するKluyveromyces属に属する微生物であり、
    前記処理が、これら構造遺伝子の発現を抑制するように遺伝子の1つ以上を付加、欠損、置換または改変する操作である、
    ことを特徴とする請求項2に記載のラクターゼ調製物の製造方法。
  4. ラクターゼを産生できる微生物からラクターゼ調製物を製造する方法であって、
    ラクターゼ調製物のβ−グルクロニダーゼの活性を1回以上測定する、ラクターゼ調製物の製造方法。
  5. 測定したβ−グルクロニダーゼ活性を所定の基準値と比較すること、
    測定したβ−グルクロニダーゼ活性が所定の基準値を超えた場合には所定の基準値以下となるように精製すること、
    を含むことを特徴とする請求項4に記載のラクターゼ調製物の製造方法。
  6. 請求項2〜5のいずれか1項に記載のラクターゼ調製物の製造方法によって製造されたラクターゼ調製物。
  7. 原料乳と、請求項1または6に記載のラクターゼ調製物と、を含む混合物。
  8. ラクターゼ調製物に含まれるβ−グルクロニダーゼ活性を指標として、ラクターゼ調製物を原料乳に作用させたときのイソ吉草酸の生成量および/またはオフフレーバーのリスクを予測する方法。
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