JP2019131523A - くすぶり型又は慢性型成人t細胞性白血病(インドレントatl)治療薬 - Google Patents

くすぶり型又は慢性型成人t細胞性白血病(インドレントatl)治療薬 Download PDF

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【課題】くすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病(インドレントATL)の原因細胞すなわちHTLV-1感染CD4+T細胞を殺傷させて減少させる治療薬の提供。【解決手段】ABL1遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質を有効成分とする治療薬であって、イマチニブ(Imatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)及びダサチニブ(Dasatinib)からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質を有効成分とする。【選択図】図1

Description

本発明は、ヒトTリンパ球指向性ウイルス(Human T-lymphotropic virus type 1: HTLV-1)に起因する疾患である成人T細胞性白血病/リンパ腫(Adult T-cell leukemia/lymphoma: ATL)のうち、くすぶり型又は慢性型ATL(まとめてインドレントATL)に対する治療薬に関する。
ヒトTリンパ球指向性ウイルス(HTLV-1)は、CD4陽性Tリンパ球(以下、CD4+T細胞)のゲノムDNAに組み込まれたHTLV-1感染細胞により、体内及び個体間で感染伝搬するレトロウイルスである。HTLV-1感染細胞が腫瘍化することで成人T細胞白血病(ATL)を発症する。またHTLV-1感染細胞は脊髄内に浸潤することで痙性脊髄麻痺や排尿障害をきたすHTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associated myelopathy/tropical spastic paraparesis: HAM/TSP)を発症することもある。
日本血液学会造血器腫瘍治療ガイドライン2013年版(日本臨床腫瘍研究グループ-リンパ腫研究グループ(JOCG-LSG))によると、ATLは臨床病像・予後などの違いにより急性型、リンパ腫型、慢性型及びくすぶり型に分類される。また、慢性型は、予後不良因子(LDH値、アルブミン値及びBUN値のいずれか1つが異常値)を持つ場合、急速な不良経過をたどる。予後不良因子を有する慢性型、急性型及びリンパ腫型をまとめてアグレッシブATLと呼ぶ。予後不良因子を有する慢性型、急性型及びリンパ腫型の生存期間中央値は、それぞれ6、10及び15か月である。
一方、予後不良因子を持たない慢性型及びくすぶり型は、4年生存率がそれぞれ約70%及び63%と比較的緩徐な経過をたどる。これらの予後不良因子を持たない慢性型及びくすぶり型のATLをまとめてインドレントATLと呼ぶ。くすぶり型は、皮疹や末梢血中異常リンパ球出現などを認め、末梢リンパ球数4,000個/mm3未満である。
HTLV-1の制御性蛋白Tax, HBZは、HTLV-1感染CD4+T細胞のゲノムDNAにいろいろな突然変異・欠失、融合遺伝子、染色体異常などの変化を多段階的に生じさせ、蓄積することによりモノクローナル性増殖、悪性化し、ATLを生じると考えられている(非特許文献1及び2)。インドレントとアグレッシブATLはこのような変化に違いがあるものと推測される。
前出の治療ガイドラインによるとアグレッシブATLに対しては化学療法(VCAP(VCR,CPA, DXR, PSL)- AMP(DXR, MCNU, PSL)-VECP(VDS, ETP, CBDCA, PSL) 療法)、初発時にはヒト化抗CCR4抗体(モガリズマブ)との併用が推奨され、また同種造血幹細胞移植も考慮される。一方、インドレントATLに対する化学療法は生存期間の延長効果がみられないため、無治療・経過観察が推奨されている。
以上のように、インドレントATLに対する治療法はないのが現状である。このためインドレントATLの治療法が求められている。
Matsuoka M et al. Retrovirology. 2016.13:16 Kataoka K et al. Nat Genet 2015. 47(11):1304-15
そこで、本発明は上述した実情に鑑み、くすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病(インドレントATL)の原因細胞すなわちHTLV-1感染CD4+T細胞を殺傷させて減少させる、くすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病に対する治療薬を提供することを目的とする。
上述した目的を達成するため、本発明者らは、HAM/TSP患者末梢血中のHTLV-1主感染巣であるCD4+T細胞由来Total RNAをヒトゲノムマイクロアレイ解析で得られたデータを用いたパスウェイ解析等により、HAM/TSP患者由来のCD4+T細胞において疾患特異的に発現亢進している発現変動遺伝子をパスウェイデータベースにマッピングすることにより、疾患特異的に使用されているパスウェイに関与する遺伝子ABL1チロシンキナーゼ(NCBI Gene ID:25)を同定した。この遺伝子のプロモーター領域中のモチーフは未解明な部分が多いが、HTLV-1病態に関与する多くの遺伝子と同様HTLV-1調節遺伝子Tax、HBZに起因する発現亢進が推察される。
ここで、本発明者は、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ABL1 tyrosine kinase inhibitor: ABL-TKI)を用いた薬剤処理によりHAM/TSP患者及び無症候性キャリア(asymptomatic carrier: AC)由来のHTLV-1感染CD4+T細胞死をきたすこと、生細胞中HTLV-1プロウイルス量(proviral load: PVL)の減少を示している(特願2016-152871)。
ABL1チロシンキナーゼについては、ヒトCD4+T細胞やCD4+CD25+制御性T細胞(Treg)でサバイバルに関与することが知られている(Silberman I et al. Cell Cycle 2008. 7(24):3847-57; Gu JJ et al. J Immunol 2007. 179(11):7334-43.)。また、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬については、Tregの細胞死を誘導すること(Chen J et al. Int J Oncol 2007. 31(5):1133-9.; Larmonier N et al. J Immunol 2008. 181(10):6955-63.; Gruber F et al. Br J Haematol 2009. 145(5):581-97; Fei F et al. Mol Cancer Ther 2010. 9(5):1318-27.)が知られている。このような知見に基づき、本発明者は、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬がHAM/TSP治療薬としてのみでなく、ATLの病型中では比較的悪性度が低いと考えられるくすぶり型又は慢性型ATLのCD4+T細胞を特異的に殺傷・死滅できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
本発明は以下を包含する。
(1)ABL1遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質を有効成分とする、くすぶり型又は慢性型成人T細胞白血病治療薬。
(2)上記物質は、イマチニブ(Imatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)及びダサチニブ(Dasatinib)からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質であることを特徴とする(1)記載のくすぶり型又は慢性型成人T細胞白血病治療薬。
本発明により、従来有効な治療薬がなく、無治療・経過観察が勧められているくすぶり型又は慢性型成人T細胞白血病に対する有効な治療剤を提供することができる。
CellTiter-Fluor Cell Viability Assay (Promega) で測定したHTLV-1陰性のヒトPBMCの細胞濃度(Y)とRelative live cell signal (RLU) (X) の単回帰分析を行った結果を示す特性図である。 ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ及びダサチニブ)による細胞生存率に対する効果を示す特性図である。 PMA viability PCR における増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数表示)との関係を示す特性図である。 PMA viability PCRにおけるCτと遺伝子相対発現コピー数(log表示)との関係を例示的に示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおける増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数表示)との関係を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおけるCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)との関係を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug) 及び薬剤処理時間による効果を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug) 及び薬剤処理濃度による効果を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug) 及び薬剤間の効果の差を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果 (HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%)) 及び薬剤処理時間による効果を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果(HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%)) 及び薬剤処理濃度による効果を示す特性図である。 PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性ATL患者由来PBMCに対する結果(HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%)) 及び薬剤間の効果の差を示す特性図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、ABL1遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを阻害する物質が成人T細胞性白血病の病型中では比較的悪性度が低いと考えられるくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病のCD4+T細胞を特異的に殺傷・死滅するとの知見を見いだしている。すなわち、ABL1遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを阻害する物質は、くすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病患者に対してくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病の治療目的で投与されるくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病治療薬として利用することができる。
本発明に係るくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病治療薬は、ABL1チロシンキナーゼ遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質を有効成分として含む。本発明に係るくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病治療薬は、HTLV-1に感染し腫瘍化したCD4+T細胞に対して特異的に死滅させる効果を示すものである。
なお、くすぶり型成人T細胞性白血病及び慢性型成人T細胞性白血病は、まとめてインドレントATLと称する場合がある。すなわち、ABL1チロシンキナーゼ遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質は、くすぶり型成人T細胞性白血病及び慢性型成人T細胞性白血病に対する治療目的として利用するインドレントATL治療剤として利用することができる。
ABL1チロシンキナーゼ遺伝子(NCBI Gene ID:25)は、NCBIデータベースにアクセション番号: NM_005157 (NP_005148.2)及びNM_007313 (NP_009297.2)として塩基配列及びアミノ酸配列が登録されている。ただしABL1チロシンキナーゼ遺伝子は、これらデータベースに登録された具体的な塩基配列及びアミノ酸配列に限定されることなく、公知の一塩基多型等の多型により、データベースに登録された具体的な塩基配列及びアミノ酸配列と異なる場合もある。
ABL1遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを阻害する物質とは、特に限定されず、例えば、当該チロシンキナーゼの産生及び/又は活性を抑制する薬物や、当該チロシンキナーゼの分解及び/又は不活性化を促進する薬物などが含まれる。当該チロシンキナーゼの産生を抑制する物質としては、特に限定されないが、例えば当該チロシンキナーゼをコードするABL1遺伝子に対するRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチド及びこれらを発現するベクター等が挙げられる。
また、当該チロシンキナーゼを阻害する物質としては、当該チロシンキナーゼに対して作用する化合物を使用することができる。このような化合物としては、有機化合物(アミノ酸、ポリペプチド又はその誘導体、低分子化合物、糖、高分子化合物等)、無機化合物等を使用することができる。また、このような化合物は、天然物質及び非天然物質のいずれであってもよい。ポリペプチドの誘導体としては、修飾基を付加して得られた修飾ポリペプチド、アミノ酸残基を改変することにより得られたバリアントポリペプチド等が挙げられる。さらに、このような化合物は、単一化合物であってもよいが、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等であってもよい。
具体的に、ABL1チロシンキナーゼ遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを阻害する物質としては、特に限定されないが、イマチニブ(Imatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)及びダサチニブ(Dasatinib)等のABL1チロシンキナーゼ阻害薬と呼ばれる群から選ばれる少なくとも1つの物質を挙げることができる。これらイマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブについては、ABL1 チロシンキナーゼ阻害薬(ABL-TKI)として公知であり、例えば慢性骨髄性白血病(CML) の治療薬として使用されている。ABL1遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質としては、これらイマチニブ、ニロチニブ及びダサチニブに限定されず、現在においてABL-TKIとして開発中の物質或いは慢性骨髄性白血病の治療薬として治験中の物質を使用することもできる。ABL1チロシンキナーゼを阻害する物質の中には、ABL1チロシンキナーゼ触媒活性部位を標的とする物質のみでなく、触媒活性部位以外の部位に結合することによりABL1チロシンキナーゼ蛋白の構造変化をきたすことによりABL1チロシンキナーゼ蛋白の機能を失わせる、いわゆるアロステリック阻害剤も含まれる。
所定の物質がABL1遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを阻害する機能を有するか否かは、定法に従って判定することができる。例えば、ABL1遺伝子によりコードされるチロシンキナーゼを含む溶液に供試化合物を添加し、25℃で30分間プレインキュベートする。ビオチン化標識基質ペプチド(poly Glu-Tyr)とATPをプレインキュベート液に加え、25℃で30分間リン酸化反応行わせる。EDTA添加により反応を停止させ、アビジンでコートされた96ウェルプレートに反応液を加えてビオチン化基質を結合させる。基質のリン酸化レベルを、抗リン酸化チロシン抗体を用いたELISAによって測定する。本評価系では、ポジティブコントロールとしてイマチニブを用いることが好ましい。このELISAの結果により、供試化合物におけるチロシンキナーゼ阻害活性をイマチニブと比較して評価することができる。
また、これら公知の化合物以外でも、ABL1遺伝子の発現又は当該チロシンキナーゼ活性を抑制する物質、以下の(1)〜(3)をくすぶり型又は慢性型成人T細胞性白血病治療薬とすることができる。
(1)ABL1遺伝子の翻訳を抑制可能な物質
(1−1)二本鎖RNA
ABL1遺伝子の翻訳を抑制するために、RNA干渉(RNA interference)を利用することが可能である。具体的には、標的とするABL1遺伝子の塩基配列に相補的な二本鎖RNAを細胞内に導入するとABL1遺伝子のmRNAが分解されて、結果としてその細胞での遺伝子発現が特異的に抑制されることとなる。この手法は、哺乳動物細胞などにおいても確認されている(Hannon,GJ., Nature (2002) 418,244-251 (review);特表2002−516062号公報;特表平8−506734号公報)。ABL1遺伝子に対する二本鎖RNA(dsRNA)分子の設計及び作製、その投与方法などの詳細については定法を参照することができる。
(1−2)アンチセンス法
また、ABL1遺伝子の翻訳を抑制する手段としては、いわゆるアンチセンス核酸を用いる方法が挙げられる。すなわち、ABL1遺伝子のmRNAに対するアンチセンスRNAを転写するDNAを、プラスミドとして導入するか又は被験者のゲノムに組み込み、当該アンチセンスRNAを過剰発現させることで、ABL1遺伝子のmRNAの翻訳が抑制される。アンチセンスRNAに関する技術は、例えば哺乳動物を宿主とした場合でも知られている(Han et al.(1991) Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 88,4313-4317; Hackett et al.(2000) Plant Physiol., 124,1079-86)。
(2)ABL1遺伝子の転写を抑制可能な物質
ABL1遺伝子の転写を抑制する物質としては、対象となる被験者における当該遺伝子の転写プロモーター領域を転写抑制型プロモーターと置換するために用いることが可能な発現ベクターが挙げられる。また、ABL1遺伝子の転写を抑制する手段としては、当該遺伝子の転写に関わる領域に転写抑制活性のある塩基配列を挿入するための発現ベクターを用いてもよい。上記のような発現ベクターの設計及び調製は当業者には周知である。
(3)ABL1遺伝子がコードするチロシンキナーゼに対する抗体
当該チロシンキナーゼに対する抗体は、チロシンキナーゼと特異的に結合することにより、該チロシンキナーゼのキナーゼ活性を抑制することができる。チロシンキナーゼに対する抗体は、当技術分野で公知の抗体作製方法によって作製することができる。簡単に説明すると、チロシンキナーゼの全長タンパク質又はその部分ペプチドを用いて免疫原を調製し、免疫原を適当な動物(マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、トリなど)に適当な回数で投与することにより、該動物においてチロシンキナーゼに対する抗体を誘起することができる。免疫した動物から抗血清を採取することによりポリクローナル抗体を得ることができる。また免疫した動物の脾細胞又は抗体産生細胞を不死化細胞(ミエローマ細胞など)と融合してハイブリドーマを作製し、目的の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングし、該ハイブリドーマから抗体を採取することによってモノクローナル抗体を得ることができる。その他、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体フラグメントなども用いることができ、それらは全て当技術分野で公知の方法に従って作製することができる。
本発明の治療剤は、くすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)を罹患している被験体、及びくすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)の罹患が疑われる被験体に投与することができる。被験体は、例えば哺乳動物及び鳥類、動物を含む動物でありうる。例えば哺乳動物としては、ヒト、実験動物(マウス、ラット、サル、ウサギ、チンパンジー等)、ペット動物(ネコ、イヌ等)、家畜動物(ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ等)が挙げられる。
また、本発明の治療剤による治療の成果は、投与された被験体に少なくとも健康に良い効果をもたらすことであり、好ましくはくすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)の少なくとも1つの症候を軽減若しくは緩和すること、又はくすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)の進行若しくは再発を阻止すること、くすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)を罹患している被験体が病名を診断され、治療開始以後の平均余命を延長させること、くすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)を根治させることなどである。くすぶり型又は慢性ATL(インドレントATL)の症候の軽減・改善としては、限定されるものではないが、白血球数増多の改善、末梢血中リンパ球数の正常化、異常リンパ球(%)の減少、花細胞(flower cell)の陰性化、LDHの減少・正常化、リンパ腫腫脹の改善、皮膚病変の改善、肝脾腫の改善等を挙げることができる。
本発明の治療剤は、1以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤を用いて慣用的に製剤化することができる。例えば、本発明の治療剤は、経鼻投与、経口投与、直腸投与、注射による投与などにより投与するための組成物に製剤化しうる。また投与は全身性又は局所的のいずれであってもよい。
本発明の治療剤は、その投与経路に応じて、液剤、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸薬、ペレット、カプセル剤、散剤、徐放性製剤、坐剤、エアロゾル、スプレーなど、使用に適したいかなる他の剤形であってもよい。
経鼻投与では、有効成分を、適当な溶媒(生理食塩水、アルコールなど)に溶解し、その溶液を鼻に注入又は点鼻することによって送達することができる。あるいは、経鼻又は吸入による投与では、有効成分を適切な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素、又はその他の適切な気体を用いて、加圧パック又はネブライザからエアロゾルスプレーを噴出させる形で都合良く送達することができる。加圧エアロゾルの場合、投薬単位は、計量分が送達されるように弁を設けることにより決定することができる。
注射の場合、有効成分は、例えばボーラス注射又は連続注入による非経口投与(すなわち静脈内又は筋肉内投与)用に溶剤として処方することができ、好ましくはハンクス液やリンガー液、生理食塩水などの生理学的に適合性のある緩衝液として処方することができる。この溶剤は、懸濁剤や安定剤、及び/又は分散剤などの処方可能な薬剤を含有してよい。あるいは有効成分は、使用前に、例えば滅菌した発熱性物質を含まない水などの適切な賦形剤と共に再構成するために、粉末形態にすることができる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプル又は複数回投与容器中の単位投与剤形として提供することができる。
経口投与する場合には、本発明の治療剤は、例えば錠剤、ロゼンジ、水性又は油性懸濁液、頼粒、散剤、乳剤、カプセル、シロップ、又はエリキシルの形態であり得る。錠剤又は丸薬形態の場合は、胃腸管内での分散及び吸収を遅延させ、それにより長時間持続した作用をもたらすために、組成物をコーティングすることができる。
その他の投与経路に適した製剤の形態及び製剤化方法は、当技術分野で公知であり、それらの任意の形態及び製剤化方法を用いて本発明の治療剤を製造することができる。
薬学的に許容される担体又は賦形剤としては、限定されるものではないが、液体(例えば水、油、生理食塩水、デキストロース水溶液、エタノールなど)、固体(例えばアカシアガム、ゼラチン、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、タルク、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、ケラチン、コロイド状シリカ、乾燥脱脂乳、グリセロールなど)が挙げられる。また、本発明の治療剤は、通常の医薬組成物に配合される補助剤、防腐剤、安定化剤、濃化剤、潤滑剤、着色剤、湿潤剤、乳化剤、及びpH緩衝剤などのうち適当なものを含有してもよい。
本発明の治療剤は、ABL1チロシンキナーゼ遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質を有効量で含有する。有効量とは、治療対象の被験体に健康に良い効果をもたらすのに十分な有効成分の量を意味する。
本発明の治療剤の毒性及び治療効力は、例えばLD50(集団の50%が致死となる量)及びED50(集団の50%に対して治療上有効な量)を決定するため、標準的な手順により、細胞培養物又は実験動物において決定することができる。毒性作用を示す用量と治療効果を示す用量の比を安全域又は治療指数(治療インデックス)と呼ばれており、比(LD50/ED50)として表すことができる。
治療インデックスが高い治療剤が好ましく、毒性が高い場合には、治療剤が擢患組織の部位に標的化するような送達系を設計して、非擢患細胞が受ける可能性のある損傷を最小限に抑え、それにより副作用を低減することに注意すべきである。
細胞培養アッセイ及び動物試験から得られたデータを用いて、ヒトにおける使用のための用量範囲を決定しうる。そのような治療剤の投与量は、ほとんど又は全く毒性のないED50を含む循環血漿濃度の範囲内であることが好ましい。投与量は、この範囲内で、使用する投与剤形、及び採用する投与経路に応じて異なる。本発明の治療剤については、まず細胞培養アッセイから有効量を推定しうる。細胞培養で決定したIC50(すなわち症状の最大半分の抑制を達成する試験治療剤の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて決定しうる。このような情報は、ヒトにおける有効量をより詳細に決定するために用いることができる。血漿中のレベルは、例えば高速液体クロマトグラフィーにより測定することができる。
被験体の症状及び年齢、並びに/又は投与経路に応じて、当業者であれば、本発明の治療剤の適切な用量を選択することができる。例えば、本発明の治療剤にニロチニブを使用する場合、慢性骨髄性白血病(CML)に対する治療と同様の投薬量とすることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕
HTLV-1関連脊髄症(HTLV-1-associatedmyelopathy: HAM)患者由来のCD4+T細胞を用いたマイクロアレイ解析及びパスウェイ解析により、HAM患者由来のCD4+T細胞では、有意に発現亢進している遺伝子を含むパスウェイとして、ABL1遺伝子を含むパスウェイを同定した。そこで、本実施例では、ABLl遺伝子がコードするチロシンキナーゼの阻害剤であるニロチニブ(タシグナ)、ダサチニブ(スプリセル)を使用し、これら薬剤のくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞に対する影響を検討した。
<検討方法>
[1] Cell Titer-Fluor Cell Viability Assay (G6080, Promega社製) を用いたヒトPBMCの細胞濃度測定 (アッセイ感度決定)
Cell Titer-Fluor Cell Viability Assay (G6080, Promega社製) Technical Bulletin (#TB371): Instructions for use of Products G6080, G6081 and G6082 のプロトコールに従った。本キットは生細胞プロテアーゼの基質である細胞膜透過性の蛍光ペプチドglycylphenylalanyl-aminofluorocoumarin (GF-AFC, Ex400/Em505 nm) を用いて生細胞数に比例する生細胞プロテアーゼによるGF-AFC基質の開裂による蛍光を定量するものである。ヒトPBMCを用いてCell Titer-Fluor Cell Viability Assay 標準曲線を作成する手順を記載する。
(1)プロトコール
(1−1) 細胞の洗浄:比較的新鮮な陰性対照者(Negative control: NC)由来末梢血単核球(Peripheral blood mononuclear cells: PBMC)検体(液体窒素中凍結保存細胞 1×107個)を37℃湯浴で溶解しPBS 10 mLを入れた15mLチューブに移し、300×g、10分間遠沈し洗浄した。上清を捨て、ペレットのみとしたチューブの底部を金網上で擦過し、PBS 10 mLを入れて同様にもう1回洗浄した。そして、PBS 1 mLで懸濁して氷上に置いた。
(1−2) 血球計算盤による細胞濃度の決定と細胞検体の濃度の調製:ビュルカー−チュルク(Burker-Turk) 血球計算盤、Trypan Blue 0.4 % 溶液(T8154,シグマアルドリッチジャパン合同会社製) とトリパンブルー除外テストを用いて生細胞濃度を決定し、生細胞数の濃度を、10%非働化Fetal bovine serum(#10437028, Thermo Fisher Scientific社製) 及び1%Penicillin-streptomycin (#15140122, Thermo Fisher Scientific社製) を添加したRPMI1640培地(#189-02025, 和光純薬工業社製)中で40万個 (4×105 個) cells/mL(培地)となるように細胞濃度を調製した。
(1−3) 384ウェルプレートへのプレーティング: Nunc 384-well clear polystyrene plate with non-treated surface (#242765, Thermo Fisher Scientific社製) のような384ウェルプレートを準備し、A行及びB行の1〜3列、7〜9列の合計6列の12ウェルに細胞濃度4×105 cells/mL (培地)に調製した細胞懸濁液10μL (4000個) をマルチチャンネルピペッターでピペッティングして入れた。
次にB〜H行、1〜3列、7〜9列に前出の培地10μLを入れた。B行は細胞懸濁液と培地が両方入り20μLになっているが、マルチチャンネルで、泡立てないようピペッティングし、B行からC行へ各列とも10μLずつ移した。同様にC行からD行、D行からE行といった具合にG行まで10μLを上の行から下の行へ移した。G行からは10μL吸って廃棄した。H行にはG行からの細胞懸濁液は入れずに培地のみでありNo cell controlとした。
以上の操作によりA〜G及びH行のウェル中の生細胞個数はそれぞれ4,000個、2,000個、1,000個、500個、250個、125個、62.5個、0個(No cell control) となり、ウェル内の液量はすべて20μLとなる。
(1−4) ジギトニンによる細胞の殺処理:細胞溶解性のdetergentであるジギトニン(digitonin) (Calbiochem #300410, Merck-Millipore社製) の20 mg/mL in DMSO (043-07216、和光純薬工業社製) 溶液を調製し、ストック液とした。これをさらにDMSOで希釈し、300 μg/mLのジギトニンワーキング溶液としておく。ジギトニンワーキング溶液1.0μLを先述の384ウェルプロレートのA〜H行の7〜9列のウェルに各々入れて室温で10分間インキュベートした。これが死細胞の蛍光シグナルとなる。
ジギトニン未処理サンプル(対照)としてA〜H行の1〜3列の各々のウェルには液量を標準化するためdouble distilled water (D2W) 1.0μLを入れた。これにより、全ウェル内の液量は21.0μLとなるが単純のため20μLとして生細胞濃度(終濃度)を計算するとA〜G及びH行のウェル中の生細胞濃度はそれぞれ20万個、10万個、5万個、25,000個、12,500個、6,250個、3,125個、0個cells/mL(No cell control) となる。
(1−5) Cell Titer-Fluor 2×試薬の添加:A〜H行の1〜3行と7〜9列の全ウェルにCellTiter-Fluor 2×試薬(2×Reagent) (G6080, Promega社製)を10μLずつ入れた。つまりウェル内の容量と2×試薬の容量比は約1:1で混合した。
短時間オービタルシェーカーに載せて混合した後、37℃インキュベーター中で30分間インキュベートした。なお、GF-AFC基質とAssay bufferを容量比1: 1000で基質が完全に溶解するまでボルテックスして溶解させたものが2×Reagentである。
(1−6) 蛍光測定:TECAN Infinite 200M (Tecan Japan社製)で蛍光(Ex400/Em505nm)を測定した。
(1−7) 蛍光シグナルと細胞濃度の回帰分析:上記(1−6)で測定した生細胞シグナル(未処理サンプル)と死細胞シグナル(処理サンプル)を用いて下記式により希釈度(細胞濃度)毎に生細胞シグナル比を算出した。
Relative Live cell signal (RLU)=(生細胞シグナル−死細胞シグナル)/ (No cell control signalの平均)
そして、細胞濃度を説明変数、生細胞シグナル比を目的変数として単回帰分析により回帰式を作成した。作成した回帰式を用いて、同じ細胞のCellTiter Fluorのシグナルから元の細胞の細胞濃度を算出した。
(1−8) 感度の算出:各々の細胞希釈度毎にシグナル-to-ノイズ(S/N比)の計算をすることにより感度を算出した。なおアッセイ感度の実際のレベルはS/N比が3 SDよりも大きいとされる(Niles AL et al. 2007. Anal Biochem 366: 197-206.)。
Viability S:N = (未処理サンプルの平均−処理サンプルの平均) / (H-1〜H-3までの標準偏差)
(2) 結果
測定したRLUと細胞濃度との関係を次のように表1に示した。
Figure 2019131523
表1に示したデータを用いてRelative live cell signal (RLU) を説明変数(X)、細胞濃度(cells/mL) を目的変数(Y)として単回帰分析を行った結果、回帰式:Y=180080.3519*X + 7966.4186、P=1.802E-05、R2=0.96155となった。RLU (X)と細胞濃度(Y)の回帰式のグラフを図1に示した。次に示す実施例においては、CD4+T細胞、CD4-PBMC(CD4陰性PBMCである)の細胞濃度については、この回帰式を用いて蛍光シグナルデータから算出するものとした。
<検討方法>
[2] ABL1チロシンキナーゼ阻害薬処理によるくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞の細胞死誘導効果の測定
本項では、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬:ニロチニブ(Nilotinib)及びダサチニブ(Dasatinib)を用いてくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞を処理することで細胞死がNC由来CD4+T細胞よりも優先的に起こるかどうかを検討した。なお、本項においてニロチニブ及びダサチニブは、それぞれのIC50濃度(ニロチニブ 30 nM、ダサチニブ1.85 nM)で検討することにした。
(1) プロトコール
(1−1) 検体
くすぶり型又は慢性型ATL患者、陰性対照(NC)由来のPBMCを各4例、2×107個の液体窒素中凍結保存PBMCを準備した。
(1−2)細胞の準備
37℃湯浴で融解したPBMCを、PBS 10 mLを入れた15mLチューブに移し、300×g、10分間遠沈し洗浄した。上清を捨て、ペレットのみとしたチューブの底部を金網上で擦過し、PBS 10 mLを入れて同様に更に1回洗浄した。
(1−3) 細胞の分離・精製
マイクロビーズと抗体カクテルを用いたCD4+Tcellアイソレーションキット、ヒト(#130-096-533, Myltenyi Biotec社製) のプロトコールによりPBMCをCD4+T細胞、CD4-PBMCに分離した。分離した細胞はPBS 6. 5 mLに再懸濁し、チューブを氷上に置いた。
(1−4) 薬剤処理
ABL1チロシンキナーゼ阻害薬:ニロチニブ及びダサチニブによる細胞死誘導効果を、CellTiter-Fluor Cell Viability Assay (G6080, Promega社製) を用いた細胞濃度測定によって検証した。
まず、各検体由来のCD4+T細胞、CD4-PBMCのPBS懸濁液をボルテックスしながらよく混合し、Falcon 6-well clear flat-bottom TC-treated multi well cell culture plate with-lid (# 353046, Corning Japan社製)の3 ウェルに各々2,000 μLずつ入れた。ただし薬剤未処理、ニロチニブ処理(終濃度30 nM)、ダサチニブ処理(終濃度1.85 nM)を各1ウェルずつ準備するものとする。ニロチニブ及びダサチニブのストック液(ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液)は十分高濃度のものをワーキング溶液として用意し、1/1000で終濃度となるようにし、インキュベート開始時の3ウェルの細胞濃度は同一とみなした。
(1−5) 細胞の培養
細胞懸濁液を入れたプレートを37℃、5%CO2下で、24時間インキュベートし、24時間後に各ウェルの細胞懸濁液を全量2 mLチューブに別々にハーベストした。
(1−6) 蛍光測定の準備(プレーティング)
次にCD4+T生細胞濃度測定用384ウェルプレート(Nunc 384-well clear polystyrene plate with non-treated surface (#242765, Thermo Fisher Scientific社製))を1枚準備した。くすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞の薬剤未処理ウェルの細胞懸濁液を入れたチューブをボルテックスしながらよく混合し、CD4+T細胞懸濁液を各検体毎にA〜D行に10 μLずつ3つ組で1〜3列及び13〜15列のA〜D行に入れた。同様にくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞のニロチニブ処理ウェルの細胞懸濁液を10 μLずつ3つ組で4〜6列及び16〜18列のA〜D行に入れた。さらにくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞のダサチニブ処理ウェルの細胞懸濁液を7〜9列及び19〜21列A〜D行の順序で10μLずつ3つ組で入れた。10〜12列はブランクとした。
次に正常検体由来の対照実験として、NC検体由来CD4+T細胞(CD4-PBMC)の薬剤未処理ウェルの細胞懸濁液を1〜3列及び13〜15列のI〜L行へ、NC検体由来CD4+T細胞のニロチニブ処理ウェルの細胞懸濁液を10μLずつ3つ組で4〜6列及び16〜18列のI〜L行へ、またNC検体由来CD4+T細胞のダサチニブ処理ウェルの細胞懸濁液を10μLずつ3つ組で7〜9列及び19〜21列のI〜L行へ同様に検体を入れた。E〜H行はブランクとした。
同様にして、CD4-PBMC細胞濃度測定用384ウェルプレート(Nunc 384-well clear polystyrene plate with non-treated surface (#242765, Thermo Fisher Scientific社製)も1枚準備した。くすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4-PBMC 細胞懸濁液及びNC由来CD4-PBMC 細胞懸濁液も薬剤未処理ウェルの細胞懸濁液、ニロチニブ処理ウェルの細胞懸濁液、ダサチニブ処理ウェルの細胞懸濁液を同様に、1〜3列及び13〜15列; 4〜6列及び16〜18列; 7〜9列及び19〜21列のI〜L行に10μLずつ3つ組で入れ、10〜12列、E〜H行はブランクとした。
(1−7) 蛍光測定
2枚のプレートともに、300μg/mLのジギトニンワーキング溶液1μLをブランクを除く13〜21列の各ウェルに入れ、容量を等しくするため1〜9列のブランクを除くウェルにはdouble distilled water 1μLを入れ、室温で10分間インキュベートした。ブランクを除く細胞懸濁液を入れた全ウェルにCellTiter-Fluor 2×Reagentを10 μL加え、短時間オービタルシェーカーに載せて混合した後、37℃インキュベーターに少なくとも30分間入れて遮光下でインキュベートした。その後TECAN Infinite 200M (Tecan Japan社製)で蛍光(Ex400/ Em505nm)を測定した。
(1−8) 細胞濃度の算出と統計解析
NC検体由来のPBMCを用いて作成した先述のRelative live cell signal (RLU)と細胞濃度(cells/mL) との回帰式を用いて、くすぶり型又は慢性型ATL患者由来及びNC由来のCD4+T細胞、CD4-PBMCの2枚のプレートの蛍光測定結果から各々の生細胞濃度を算出した。未処理を100%、処理24時間後をX%として、細胞数の%低下(% Regression)を算出した。薬剤未処理、ニロチニブ処理、ダサチニブ処理の場合で比較した。同一薬剤処理条件下での検体間比較(NC vs ATL)は独立2群間検定(Student t検定)、同一薬剤処理前後での比較(No treatment vs Nilotinib 30 nM 12h又はDasatinib 1.85 nM 24h)及び同一検体群内での薬剤種類間の比較(NC又はATLでのNilotinib 30 nM 12h vs Dasatinib 1.85 nM 24h)は関連2群間t検定(Paired t検定)で検討した。いずれも危険率5%未満の場合を有意とした。
(2) 結果
(2−1) 細胞生存率の要約
ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ30 nM又はダサチニブ1.85 nM)24時間処理による細胞生存率を表2と図2に示す。
Figure 2019131523
薬剤未処理(No treatment)の細胞濃度(cells/mL)を100%とし、Nilotinib 30 nM 12h処理、Dasatinib 1.85 nM 12h処理後の細胞濃度を(%)±標準誤差として表示している。
図2においてグラフのバーは薬剤処理なし(No treatment) 24時間後の細胞生存率(%)を細胞濃度を対照100%としたときのパーセンテージとして示し、エラーバーは標準誤差を示している。棒グラフ上の数字は、対応する薬剤処理なし(No treatment)と薬剤処理24h後との比較(NC、ATLの場合いずれかでは関連のあるt検定)、或いは比較対象を示す横棒上の場合は比較する2群間比較(NC、ATLの場合いずれかでは関連のあるt検定;NCとATL間での比較では独立2群のStudent t検定)で危険率5%未満で有意差があるものはP値を示し、有意差がなかったものはn.s.(not significant)と示している。なお、CD4+T細胞の検討結果を図2Aに示し、CD4-PBMCの検討結果を図2Bに示した。
図2Aでの薬剤処理前後の比較でのP値は、ATL由来CD4+T細胞のニロチニブ30 nM処理前後、ダサチニブ1.85 nM処理前後ともP < 0.001で有意に細胞生存率が低下していた。しかし、NC由来CD4+T細胞でもニロチニブ30 nM処理前後でP=0.018、ダサチニブ1.85 nM処理前後でP=0.042で有意の低下がみられ、IC50濃度でも24時間処理では副作用として有る程度の減少がみられる可能性がある。また、同一薬剤処理条件下での検体間比較では、NC、ATLのいずれもニロチニブ30nM処理、ダサチニブ1.85nM処理のいずれも有意差はなかった。
図2Bに示したように、CD4-PBMCに対しては、薬剤処理前後の比較、同一薬剤処理条件下での検体間比較、同検体での薬剤種類間(ニロチニブ30 nMとダサチニブ1.85 nMとの間)での比較のいずれにおいても有意差は認めなかった。
(3) 考察
このように、ニロチニブ、ダサチニブとも、IC50濃度での薬剤処理24時間後にはCD4+T細胞を有意に減少させること、その効果はNCよりもATLで有意により効果が大きいこと、ニロチニブ、ダサチニブの薬剤間では効果の有意差はないがダサチニブの方がより効果が大きい傾向がみられること、以上の効果はCD4-PBMCでは認めないということが示唆された。
以上から、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬は、くすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞、すなわちHTLV-1感染したATL細胞を優先的に殺傷する効果を有することが示唆された。
このように、くすぶり型又は慢性型ATLとABL1チロシンキナーゼとが関連するということ、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬がくすぶり型又は慢性型ATL細胞を殺傷するという知見は今までに報告がなく、世界初の知見である。
ただし、NC由来のCD4+T細胞、すなわちHTLV-1未感染のCD4+T細胞における対照実験においてもニロチニブ、ダサチニブはともにIC50濃度での薬剤処理24時間後で薬剤未処理に比べ細胞濃度が減少しており、副作用となる可能性も示唆している。しかし、これは上述の殺傷効果はNCよりもくすぶり型又は慢性型ATLで有意により効果が大きいことから、薬剤処理濃度がより低い場合、あるいは生体内の場合のように生理的に排泄やCD4+T細胞刺激効果のあるIL-4のようなサイトカイン存在下のような条件下などでは軽減されることも考えられる。また、ニロチニブ、ダサチニブ等のABL1チロシンキナーゼ阻害薬は、既に慢性骨髄性白血病(CML)に対し臨床的に承認、使用されている薬物であり、通常の臨床的に使用する濃度での細胞傷害の副作用のデータはニロチニブ及び/又はダサチニブに関する既知のデータが使用できると考えられる。
〔実施例2〕
本実施例では、生細胞のみにおけるHTLV-1プロウイルス量(PVL) を定量できる新規定量法PMA (propidium monoazide)-HTLV-1 viability PCRを開発し、この手法を用いることでABLl阻害薬が生細胞中HTLV-1プロウイルス量減少効果を有するか検討した。通常のPVL測定法は、死細胞と生細胞のPVLをそれぞれ区別して測定することができず、両者について一括してPVLを測定する方法であり、本実施例の方法とは異なる。
<従前公知の方法PMA viability PCRの概略とその新規拡張>
(1) PMA viability PCRとは
まず基礎となるPMA viability PCRの概略を説明する。PMA (Propidium monoazide)とは、膜非透過性、核酸(DNA/RNA)結合性蛍光色素で、azide基に光反応性がある。PMA viability PCRは、環境学的検体、食品などの検体における微生物が生きているかどうかを判定する目的でNockerらにより2006年に考案され、従前公知となっている(Nocker A. et al. J Microbiol Methods 2006. 67:310-320)。
PMAは膜統合性(非対称性)が喪失した死にかけている細胞又は死んだ細胞(合わせて死細胞)に入り、二重鎖DNAに優先的に結合する。一方、PMAは膜統合性を有する生細胞内には入り込まない。
二重鎖DNAに結合したPMAは吸収波長464nm (ほぼ470nm)を照射すると光クロスリンク(Photo-crosslinking)によりDNA鎖に不可逆的に結合する。一方、結合していないPMAは照射により光分解(photolysis)される。そして抽出したDNAを鋳型として定量PCR (qPCR)を行うと、PMAが結合したDNAはPCRにおける伸長反応が阻害され、PMAと結合していない生細胞由来のDNAのみが鋳型としてPCRにおける伸長反応が進行する。このように、鋳型となるDNAのなかにPMAが結合したDNAが含まれると、定量PCRにおける関値に到達するサイクル数(Cτ値)は大きくなる(延長する)。よって生菌(生細胞)が多いとPMAが結合していないDNAが多いのでPCRがかかりCτ値は小さく、生菌(生細胞)が少ないとCτ値は大きくなる(延長する)。
PMAのPCR阻害効果を検討するための指標として、上述のNockerらの原著では、PMA未処理後抽出したDNAを鋳型としてPCRを行って測定したCτから、同一細胞検体をPMA処理後抽出したDNAを鋳型としてPCRを行って測定したCτを差し引いた値(負になる)をΔCτとして下向きに表示して用いている(下記の式)。
[数1]
ΔCτ = Cτ w/o PMA−Cτ with PMA
w/o PMA : PMA未処理後抽出したDNAを鋳型としてPCRで測定したCτ値
with PMA : 同一細胞サンプルのPMA処理後抽出したDNAを鋳型としてPCRで測定したCτ値
(2) PMA viability PCRのプロトコールと計算理論の拡張
以下の項では、PMA viability PCRのプロトコールと計算理論の拡張について記載する。
(2−1) PMA viability PCRのプロトコールの拡張
PMA viability PCRのプロトコールでは対象の検体が環境検体、食品中の微生物細胞だが、ここではヒト細胞を対象に拡張する。またPMA viability PCRのプロトコールでは、通常のリアルタイムPCR絶対法と異なり、標的核酸の標準品希釈系列を用いた標準曲線を作成しない。本実験例では、ここで標的核酸の標準品とその希釈系列、標的核酸に対するプライマーセット及びTaqManプローブを用いてリアルタイムPCR絶対法に準じたプロトコールを行う場合を考える。
測定対象となる細胞を2分割し、PMA処理しないもの(w/o(without) PMA)、PMA処理したもの(with PMA)としてDNA抽出し、リアルタイムPCR絶対法に準じたプロトコールに従い、標的核酸のスタンダードと、測定対象DNA検体の標的核酸コピー数を三重測定 (Triplicate)で測定するものとする。
(2−2) PMA viability PCR の計算理論の拡張
リアルタイムPCRでは一般に増幅産物を意味する蛍光強度は最初の1〜最大10サイクルまではノイズレベルでサンプルブランクとみなし、それらの標準偏差(Standard deviation: SD)を算出し、10SDを闘値(Threshold)とする。関値を初めて最初に上回るサイクル数をCycle threshold (Cτ)値とする。リアルタイムPCRのプロトコールでアプライするDNA量は一定量であるが、その中の標的初期鋳型DNA量がPCR開始時に多いとCτ値は小さく、標的初期鋳型DNA量が少ないとCτ値は大きくなる。
これらの関係と細胞検体のPMA処理の有無を含め、PCRの増幅回数−増幅産物量(実数)プロット、Cτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット中にそれぞれ図示すると、図3及び図4のようになる。
(2−2−1) PMA viability PCR における増幅回数 (サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット
上述のNocker Aらの原著ではPMAによるPCR阻害効果を検討するための指標として、PMA未処理検体のCτから、同一細胞検体のPMA処理検体のCτを差し引いた値(負になる)をΔCτとして下向きのグラフに表示して用いている。
ここで、リアルタイムPCRにおける増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット上でさらにΔCτの表示を試みると図3のように表示できる。PMA処理(−)ではCτ値は小さいがPMA処理(+)では生細胞DNAのみにより増幅産物量曲線が立ち上がりCτ値は遅延し(大きくなり)、死細胞数に依拠するΔCτは小さい方のPMA処理(−)検体のCτw/o PMA 値からPMA処理(+)検体の大きい方のCτwith PMA値を引いて拡大した負の値になる。
(2−2−2) PMA viability PCRにおけるCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット
図3のΔCτは、PMA viability PCRに加えてさらに同時に標的核酸配列の標準品とそれに対するTaqManプローブを用いた絶対法で標準曲線(検量線回帰式)を得たとする。この標準曲線を用いてY軸(Cτ)上に図4のようにΔCτをプロットできる。
さらに、X軸上の遺伝子相対発現コピー数(log表示)の軸上でPCR時にアプライした初期鋳型コピー数を、
Iw/o PMA:PMA処理(−)検体でPCRによりCτw/o PMA値だった時の初期鋳型量(コピー数) (log表示)
Iwith PMA:PMA処理(+)検体でPCRによりCτwith PMA値だった時の初期鋳型量(コピー数) (log表示)
とするとき、ΔCτと同様に負の値として
初期鋳型量(コピー数)減少分:ΔI=Iw/o PMA−Iwith PMA
を新たに定義し図示できる。
なお、標準曲線から算出した次式を用いてΔIを計算することもできる。
Figure 2019131523
(3) 生細胞のみにおけるHTLV-1プロウイルス量(PVL)定量法 PMA-HTLV-1 viability PCR
通常のTaqMan法によるPVL測定法(Nagai M. J Neurovirol. 1998. 4(6): 586-93.)は生細胞、死細胞を含むPBMCからDNA抽出キットにより精製したDNAを鋳型に、標的遺伝子pX、内部対照遺伝子β-actinに対するTaqManプローブ、プライマーセットによりリアルタイムPCRを行う。この方法では生細胞、死細胞由来のHTLV-1 PVLは原理的に区別できない。そこで生細胞のみのPVLを測定する方法があれば、抗HTLV-1候補薬処理の有無により生細胞PVL量を比べることで抗HTLV-1候補薬の効果を検討することが可能となる。
生細胞でのPVLの減少を示すために、Dead cell removal kit (Miltenyi Biotec 130-090-101)のようなAnnexin V(膜GPIアンカー構造であるPhosphatidylserineやCa2+と結合する抗凝固蛋白)をコンジュゲートしたビーズを詰めたカラムで死細胞を除去する方法では、細胞単位で死細胞が除去され、ハーベストできるDNA量が顕著に減少してしまい、PVL測定に必要なゲノムDNAの量と質を確保することは非常に困難となる。このためこの方法では、抗HTLV-1候補薬処理をする際に低い薬剤濃度で処理せざるを得ず、抗HTLV-1候補薬の効果の検討で有意差をみいだすことが困難になってしまうという二律背反に陥ってしまう。
そこで細胞レベルではなくDNAレベルで、すなわちリアルタイムPCRの段階で生細胞・死細胞由来のDNAを区別する方法として、PMA-HTLV-1 viability PCRを提案する。
(3−1) PMA viability PCRを拡張したPMA-HTLV-1viability PCR
PMA Viability PCRを細菌その他の微生物ではなく、哺乳類であるヒト細胞に応用し、ヒトゲノムDNAに組み込まれたHTLV-1ウイルスpX領域を標的遺伝子(核酸)としてプライマーセット、TaqManプローブ、pX標準品希釈系列を用いたスタンダードをConventionalなHTLV-1 PVL定量法と同様に用い、PMA処理、DNA抽出、Cτ値測定及びΔCτ値算出といったステップを含む方法をPMA-HTLV-1viability PCRと呼称することにする。
(3−2) PMA-HTLV-1 viability PCRは生細胞のみにおけるHTLV-1を測定する
PMA-HTLV-1 viability PCRは、PMA viability PCRをHTLV-1 pXに対して測定するものなので、増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット、Cτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット(図3及び図4)はそのまま使用できる。
PMA viability PCRの基本的事項はそのままPMA-HTLV-1viability PCRについても成り立つことをHAM/TSP患者由来PBMC及びHTLV-1感染T細胞株Hut102を用いて後に示す。
基本的事項を再確認すると、生・死菌混合物由来DNAの場合、PMA処理(−)でのDNAを用いた通常のPCRでは生・死細胞比率に無関係に産物量は一定(Cτ値一定)だが、PMA処理(+)でのDNAを用いた、すなわちPMA viability PCRでは生細胞比率が高いと産物量が増えPCR立ち上がりが早く(Cτ値小さい)、生細胞比率が低いとPCR立ち上がりが遅い(Cτ値大きい)。つまり産物量とCτ値は負の相関関係にある。
PMA処理(−)のDNAを用いたPCRすなわち通常のPCRでは早い立ち上がり(あるいは大きいCτ値)は、生・死細胞両方から抽出されたDNAに由来するが、PMA処理(+)のDNAを用いたPCRすなわちPMA viability PCRでの遅い立ち上がり(Cτ値遅延あるいは大きいCτ値)は生細胞のみに由来する。これにより生細胞のみでのHTLV-1PVL定量が可能となる。
同様に、ΔCτは死細胞のみに由来する。これを用いてくすぶり型又は慢性型ATL治療薬の効果が判定可能となる。
(4) PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイ
次に、PMA-HTLV-1viability PCRを用いて、HTLV-1感染細胞を標的として殺傷する候補薬物(すなわち、本実施例で使用するABL1チロシンキナーゼ阻害薬)の効果をアッセイする場合を考える。
(4−1) PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおける増幅回数(サイクル数)−増幅産物量(実数)プロット(図5)
(4−1−1) PMA処理によるCτ値延長ΔCτPMA、薬物処理によるCτ値延長ΔCτDrug
候補薬物処理(Drug処理)で標的細胞が死ぬと、その後にPMA処理することにより標的細胞の特異的核酸(用いるプライマーセットで増幅する遺伝子)を増幅するPCRは阻害されCτ値(CτD+P+)は候補薬物処理なしの時(CτD−P+)よりも大きくなる。前述したPMA処理によるCτ値延長ΔCτをΔCτPMAとし、候補薬物処理によるCτ値延長をΔCτDrugとして新たに定義する。すなわち、
ΔCτPMA=CτD−P−−CτD−P+(Nocker A. 原著の式に相当する)
ΔCτDrug=CτD−P+−CτD+P+
ここで
D−P−:Drug処理(−)、PMA処理(−)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物未処理検体の生細胞及び死細胞由来DNA量を反映する。
D−P+:Drug処理(−)、PMA処理(+)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物未処理検体の生細胞由来DNA量を反映する。
D+P+:Drug処理(+)、PMA処理(+)のDNAを用いたときのCτ値であり、薬物処理検体の生細胞由来DNA量を反映する。
そしてΔCτPMAは、細胞検体毎に異なる生細胞及び死細胞比率を反映する指標である。一方ΔCτDrugは、生細胞のみに由来するDNA量の薬物による減少を反映する。よって、後者は薬物の標的細胞傷害効果を判定する指標として使用できる。また、ΔCτDrugは後述するように生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells)(%)とまったく同意義である。
(4−2) PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイにおけるCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット(図6)
PMA viability PCRに加えて同時に標的核酸配列の標準品とそれに対するTaqManプローブを用いた絶対法でpXの標準曲線(検量線回帰式)を得たとする。この標準曲線を用いてY軸(Cτ)上に図6のようにΔCτをプロットできる。
(4−2−1) PMA処理による初期鋳型減少ΔIPMA、薬物処理による初期鋳型コピー数減少ΔIDrug
同様にCτ−遺伝子相対発現コピー数(log表示)プロット上では、前に定義したように、初期鋳型量(I)に関連して新たに定義した量を用いる。PCRにアプライした初期鋳型コピー数の減少をΔIPMAとし、候補薬剤処理(Drug処理)による減少をΔIDrugとして定義する。すなわち、
ΔIPMA=ID−P−−ID−P+
ΔIDrug=ID−P+−ID+P+
ここで
ID−P−:Drug処理(−)、PMA処理(−) のDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物未処理検体中の生細胞及び死細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
ID−P+:Drug処理(−)、PMA処理(+)のDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物未処理検体中の生細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
ID+P+:Drug処理(+)、PMA処理(+)のDNAを用いたときの初期鋳型コピー数であり、薬物処理検体中の生細胞由来DNA中初期鋳型コピー数である。
ID−P−が生細胞及び死細胞全体の中の初期鋳型コピー数なのに対し、ID−P+及びID+P+は生細胞中のみの初期鋳型コピー数である。
ΔIPMAは細胞サンプル毎に異なる生細胞及び死細胞比率を反映するPMA処理による生細胞のみの初期鋳型コピー数の指標である。ΔIDrugは生細胞のみに由来する初期鋳型コピー数の薬物による減少を反映する。よって薬物の標的細胞傷害効果を判定する指標として使用できる。なお標準曲線から算出した次式を用いてΔIPMA及びΔIDrugを計算することもできる。
Figure 2019131523
(4−2−2) 生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells) (%)と生細胞中標的遺伝子コピー数残存率(Target gene survival rate in live cells) (%)
PMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイでは、候補薬物処理(Drug処理)により減少した生細胞中の標的核酸コピー数(ここではHTLV-1 pX遺伝子コピー数すなわちプロウイルス量)の減少率(%)を、Drug未処理時に元来あった生細胞のみにおける初期鋳型コピー数D−P+に対する比率として、生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells) (%)を定義し計算できる。標的核酸がHTLV-1 PVLなので、この指標はHTLV-1 pX コピー数(プロウイルス量)減少率(%) (HTLV-1 PVL decrease in live cells)と言い換えてもよい。これにより、アッセイしたい薬物の標的核酸(ここではHTLV-1 PVL)減少効果の指標となり効果が判定できる。前述のように、生細胞中標的遺伝子コピー数減少率(Target gene decrease rate in live cells) (%)はΔCτDrugとまったく同意義である。これは次式で標準曲線の傾き(Slope)は定数であり互いに変形して求められることからも理解できる。Target gene decrease rate in live cells (%)は、上記式(1)を用いて次式のように計算できる。
Figure 2019131523
上記の式から判るように、100−Target gene survival rate in live cells (%)で求められる値は、生細胞中標的遺伝子コピー数残存率 (%)と言い換えることもできる。
<検討方法>
[3] くすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCを用いたPMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブの検討
上述したように公知の細菌に対する方法PMA viability PCRをヒト細胞へのプロトコール拡張、計算理論をリアルタイムPCRへ拡張した新規手法であるPMA-HTLV-1 viability PCRを用いて、くすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCをABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ、ダサチニブ)で薬剤処理し、くすぶり型又は慢性型ATL細胞のHTLV-1 PVLすなわちATL細胞個数が減少する効果がみられるかどうかを検討する(注:HTLV-1感染細胞、ATL細胞は細胞のゲノムDNAにHTLV-1ウイルスゲノムが1個組み込まれている)。
(1) プロトコール
(1−1) ATL患者由来PBMCの準備と細胞の洗浄
書面での研究についての同意を予め得た、凍結保存されていたくすぶり型又は慢性型ATL患者由来末梢血単核球(Peripheral blood mononuclear cells: PBMC)検体(液体窒素中凍結保存細胞2×107個)を10例分準備した。37℃湯浴で溶解しPBS 10 mLを入れた15mLチューブに移し、300×g、10分間遠沈し洗浄した。上清を捨て、ペレットのみとしたチューブの底部を金網上で擦過し、PBS 10 mLを入れて同様にもう1回洗浄した。そして、PBS 1 mLで懸濁して氷上に置いた。
(1−2) 細胞濃度カウント
元の細胞濃度が2×107個と多いので、以下のようにして1/5濃度に希釈してカウントした。氷上の細胞懸濁液2μLとPBS 8μL、これに対しTrypan Blue溶液量を1:1とするためTrypan Blue 0.4%液10μLを加えて合計20μLをエッペンドルフチューブに取り、ボルテックス、軽くスピンダウンした。この中から10μLを取り、カバーガラスを圧着したビュルカー-チュルク血球計算盤に入れ、顕微鏡下で生細胞数を4視野カウントした。4視野の細胞数の平均をMeanとすると、元の細胞懸濁液の細胞濃度(cells/mL)は血球計算盤とカバーグラス間の隙間の容積は1×10-4(mL)なので、PBS、Trypan Blue液による希釈を元に戻すと
細胞濃度(cells/mL) = Mean×5×2×104 = Mean×105
と算出できる。
(1−3) T=0hでの細胞サンプル分取とPMA処理(−/+)検体からのDNA抽出
算出した細胞濃度から約5万〜20万個の細胞数を含む細胞懸濁液を2組分取しておく。これらは一方はPMA処理(−)、もう一方はPMA処理(+)としてDNAを抽出した。残りの細胞懸濁液はすべて後述するABL1チロシンキナーゼ阻害薬処理を行った後インキュベートした。
PMA処理はPMA (propidium monoazide)(#43313, Biotium, Inc)のDMSO(Dimethyl sulfoxide)溶液を最終濃度50μMとなるように細胞懸濁液に加えてボルテックスし、室温5分間暗所下、シェーカー上でインキュベートし時々チューブを指ではじいた。その後ハロゲンランプ(100W, 100V)に5分間照射した。この間は細胞懸濁液の温度が上昇しないようにドライヤーの冷風で空冷した。PMA処理後、PMA処理(−)の細胞懸濁液検体と共にゲノムDNAをDNeasy Blood & Tissue Kit (Catalog Number 69506, QIAGEN)のプロトコールに従い抽出した。DNAサンプル名をSample No.-D−P−、Sample No.-D−P+などと命名した。
(1−4) 薬剤処理(プレーティング)
残りの細胞懸濁液の入った15mLチューブに適当な容量のRPMI1940培地を加え、ポリスチレン製 6ウェルプレート(CellStar 6 well multi well cell culture plate with lid, #657160, Greiner-Bio-One)のウェル当たり細胞懸濁液と薬剤溶液を合計2,000μLとなるように入れた。薬剤処理は最終濃度でニロチニブ30 nM、ダサチニブ1.85 nMのIC50濃度、及びニロチニブ 3μM、ダサチニブ246 nMの添付文書中のCmax濃度の2通りで処理した。プレーティングをしたらウェルの隙間にdouble distilled waterを5mL/plate程度入れ乾燥予防の上、37℃、5% CO2インキュベーター内に入れてインキュベートした。
(1−5) T=6hでのハーベストとPMA処理及びDNA抽出
インキュベート時間6時間となった時点で、各ウェルから細胞懸濁液の半分量(約1,000μL)を2 mLエッペンドルフチューブにハーベストし、1 mLのPBSで300×g、10分間遠沈して洗浄。上清を捨てPBS 100μLを加えT= 0hと同様にPMA処理、DNA抽出を行った。DNAサンプル名をSample No.-処理したNilotinib濃度/Dasatinib濃度-6hと命名した(T=6h、後述のT=12hのサンプルはすべてDrug処理(+)・PMA処理(+)サンプルとなる)。
(1−6) T=12hでのハーベストとPMA処理及びDNA抽出
インキュベート時間12時間となった時点で、各ウェルから細胞懸濁液の残量すべて(約1,000μL)を2 mLエッペンドルフチューブにハーベストし、1 mLのPBSで300×g、10分間遠沈して洗浄。上清を捨てPBS 100μLを加えT=0hと同様にPMA処理、DNA抽出を行った。DNAサンプル名をSample No.-処理したNilotinib濃度/Dasatinib濃度-12hと命名した。
(1−7) DNAサンプルの濃度測定
抽出したDNAサンプルの一部2μLを用いてNanoDrop ND-1000 (Thermo Fisher Scientific)を用いてプロトコールに従いDNA濃度を測定した。DNAサンプルは適切な量のdouble distilled waterを加え、すべて10 ng/μLに調製した。この時点で10例分のATL患者PBMCからT=0hでのDrug処理(−)PMA処理(−)群10サンプル、Drug処理(−)PMA処理(+)群10サンプル、T=6h、12hでのDrug処理(+)PMA処理(+)群80サンプルが調製されたので、合計100サンプルとなった。
(1−8) リアルタイムPCRの準備
TaqMan Universal Master Mix II, with UNG (4440038, Thermo Fisher Scientific)のプロトコールに従い、検体数、標準曲線用サンプル数の合計×3つ組(Triplicate)でさらにピペッティングロスも考慮の上Reaction Master Mix混合液を調製する。96ウェルプレート MicroAmp Fast 96-well Reaction Plate(0.1mL) (REF4346907, Applied Biosystems)の1ウェル当たり反応系25μLでPCRを行った。1ウェル当たりのReaction Master Mix混合液の内容は、2×Universal Master Mix II 12.5μL、HTLV-1 pX用20μM(最終濃度200 nM)、forward primer並びにreverse primer各々0.25μL、pX用8μM (最終濃度 200 nM)、TaqManプローブ 0.625μL及びdouble distilled water (D2W) 6.375μLで合計20μLとなる。HTLV-1 pX用のプライマー及びTaqManプローブの塩基配列、標識方法はTaqMan法によるPVL測定法の原著論文(Nagai M. et al. J Neurovirol. 1998. 4(6):586-93.)と同一のものを使用した。このReaction Master Mix混合液を3ウェル分ずつエッペンドルフチューブに取り、このチューブに上述したように濃度10 ng/μLに調製済みのDNAサンプルを15μL (50 ng/well)を加え、ボルテックス、スピンダウンし、96ウェルプレートのDNAサンプル当たり3ウェルに3つ組でピペッティングした。陰性対照(No template control)はDNAサンプルの代わりにD2Wを入れたものを準備した。pXの標準曲線を作成するための希釈系列も前出の原著論文同様に、pX 2000コピー/μLを5μL/well (10,000 コピー/well)、200コピー/μLを5μL/well (1,000 コピー/ well)、20コピー/μLを5μL /well (100 コピー/ well)、2コピー/μLを5μL/well (10 コピー/ well)の4サンプルの3つ組で測定、作成した。測定サンプルをピペッティングしたプレート毎に陰性対照、希釈系列を必ず加えた。ピペッティングが終了したプレートはMicroAmp Optical Adhesive Film (P/N 4311971, Applied Biosystems)でシールし、短時間振盪混合の後、スピンダウンした。
(1−9) サーマルサイクルプログラムの実行
プレートをStepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Thermo Fisher Scientific)にセットし、StepOne Software ver2.3上でHold stage 1 cycle: 50℃2分、95℃10分;Amplification 45 cycles: 95℃15秒、60℃1分のプログラムでPCRを実行した。実験結果はエクセルファイルにエクスポートした。
(1−10) 統計解析
測定したプレート毎の標準曲線作成用の希釈系列サンプルによる標準曲線の傾き(Slope)、Y軸切片(Y-intercept: Y-int)、また測定用サンプルのCτ (3つ組 Triplicateの平均)などを用いて、前述したように生細胞中pXコピー数減少率(PVL decrease rate in live cells)を算出した。また薬剤間比較、同一薬剤での濃度間比較、同一薬剤濃度での時刻間比較をそれぞれ関連2群間(Paired t検定)で検定した。危険率5%未満の場合を有意とした。
(2)結果
全てのDNAサンプルを標準曲線作成用のサンプルと共に96ウェルプレート5枚を用いてPMA-HTLV-1 viability PCRを行った。
(2−1) HTLV-1 pX標準曲線のまとめ
5枚のプレート各々におけるHTLV-1 pX標準曲線のSlope、Y軸切片(Y-intercept)を表3にまとめた。データはPVL decrease rate in live cells算出時に使用した。
Figure 2019131523
(2−2) PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果をまとめて表4に示した。
Figure 2019131523
表4の結果に加えて、統計解析の結果を含めて図7〜図12に示した。ABL1チロシンキナーゼ阻害薬の効果の検討の指標として、まず候補薬物によるCτ値延長ΔCτDrugを用いて検討し、図7〜9に統計解析結果を図示した。次にHTLV-1 pXコピー数減少率(HTLV-1 PVL decrease rate (%))を用いて検討し、図10〜12に統計解析結果を図示した。
先ず、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug)及び薬剤処理時間による効果を図7に示した。すなわち、10例のくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対し、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ又はダサチニブ処理の後PMA-HTLV-1 viability PCRを行い、薬剤処理の効果の指標としてΔCτDrugを算出した結果を図7に示した。
図7において横軸はABL1チロシンキナーゼ阻害薬の種類と薬剤濃度毎(ニロチニブ30 nM;同3μM; ダサチニブ1.85 nM;同246 nM;前者の濃度はIC50濃度、後者はCmax濃度である)に薬剤処理インキュベート時間T=0h、6h、12hを示す。縦軸で棒グラフの高さは、対応する薬剤・濃度検体のT=0h時のΔCτDrugを、エラーバーは標準誤差を示す。棒グラフ又はエラーバーの端に記載した数字はT = 0hと比較したときのP値、2本の棒グラフの間の線上又は下に記載した数字はT=6hと12hとを比較したときのP値を示す。特に記載がないものは有意ではなかったものである。
ニロチニブ30 nMのT=0hと12hの比較ではP=0.072、6hと12hの比較ではP=0.058と有意ではなかったが12hではPVLがニロチニブ30 nM処理でΔCτDrugの低下傾向を来すことが示唆された。ニロチニブ3μM処理ではどの薬剤処理時間でも有意ではなかった。ダサチニブ1.85 nMでは6hでは有意ではなかったが12hではP=0.005、6hと12hの比較ではP=0.011で有意に低下し、ダサチニブ246 nMでも6h、12hでそれぞれP=0.032、0.014と有意な低下を示した。6h、12hの間は有意ではなかった。
次に、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug)及び薬剤処理濃度による効果(IC50濃度とCmax濃度の比較)を図8に示した。図8Aに示すように、ニロチニブの30 nM(IC50濃度)と3μM(Cmax濃度)を比較すると、T=6h、12hのいずれの時点でも30nMと3μMの濃度間で有意差はなかった。また、図8Bに示すように、ダサチニブの1.85 nM(IC50濃度)と246 nM(Cmax濃度)を比較すると、T=6hの時点でP=0.045で有意に246 nM処理の方が低下していた。12hでは有意差はなかった。
次に、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(ΔCτDrug)及び薬剤間の効果を図9に示した。図9Aに示すように、ニロチニブ及びダサチニブを低濃度(IC50濃度)で比較すると、ニロチニブ30 nM、ダサチニブ1.85 nM間ではT=6h、12hいずれの時点でも有意差はなかった。また、図9Bに示すように、ニロチニブ及びダサチニブを高濃度(Cmax濃度)で比較すると、ニロチニブ3μM、ダサチニブ246nM間ではT=6h時点での比較でP=0.035で有意にダサチニブの方がΔCτDrugが低下していた。12hでは有意差はなかった。
次に、薬剤処理の効果の指標としてΔCτDrugに代えて、生細胞のみでのHTLV-1 PVL減少率(HTLV-1 pX PVL decrease rate in live cells (%))を算出し、関連のあるt検定で検討した結果を図10〜図12に示した。これらの図において、縦軸で棒グラフの高さは、対応する薬剤・濃度検体のT=0h時のHTLV-1 pX PVL decrease rate in live cells (%)を、エラーバーは標準誤差を示す。棒グラフ又はエラーバーの端に記載した数字はT=0hと比較したときのP値、2本の棒グラフの間の線上又は下に記載した数字は2者が表す棒グラフデータを比較したときのP値を示す。n.s. (not significant)の記載があるもの、又は特に記載がないものは有意ではなかったものである。
先ず、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(HTLV-1 pX PVL decrease rate in live cells (%))及び薬剤処理時間による効果を図10に示した。図10に示すように、ニロチニブ30 nMでは0hと比較して6hでは有意差はなかったが、12hではP=0.044、6hと12hの比較でもP=0.049と有意に生細胞PVL減少がみられた。また、ニロチニブ3μM処理では、6hで有意な低下はなく、6hと12hの比較でもP=0.099と有意ではなかったが、12hではP=0.046と0hに比べ有意に低下した。
さらに、図10に示すように、ダサチニブ1.85nMでは6hでは有意ではなかったが12hではP=0.002、6hと12hの比較ではP=0.040で有意に低下した。ダサチニブ246nMでは6h、12hでそれぞれP=0.073、0.070と有意ではなかったが低下傾向がみられた。6h、12hの間において有意差はなかった。
これらの結果から、生細胞PVL減少率は、薬剤処理6hでダサチニブ246 nMでは約41.5%の生細胞中PVL減少がみられたが、ニロチニブ30nM、3μM及びダサチニブ1.85nM処理では平均10〜28%の生細胞中PVLがみられることが理解できる。薬剤処理12hでは両薬剤のIC50濃度、Cmax濃度とも処理前に比べ有意に減少しており、ニロチニブ30 nM、3μM及びダサチニブ246nMでは生細胞PVL減少率約50%、ダサチニブ1.85nM処理12hでは約60%だった。ダサチニブ246nMの高濃度処理では他の場合に比べ6hで有意に減少がみられた。
次に、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%))及び薬剤処理濃度による効果(IC50濃度とCmax濃度の比較)を図11に示した。図11Aに示すように、ニロチニブの30nM(IC50濃度)と3μM(Cmax濃度)を比較すると、T=6h、12hとも両濃度間での有意差はなかった。また、図11Bに示すように、ダサチニブの1.85nM (IC50濃度)と246nM (Cmax濃度)を比較すると、ニロチニブ同様にダサチニブでもT=6h、12hとも両濃度間での有意差はなかった。
次に、PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬ニロチニブ、ダサチニブのくすぶり型又は慢性型ATL患者由来PBMCに対する結果(HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%))及び薬剤間の効果の差を図12に示した。図12Aに示すように、低濃度(IC50濃度)でのニロチニブとダサチニブを比較すると、両薬剤IC50濃度処理ともT=6hでは10〜20%程度生細胞中PVLは増加しており有意差はなく、T=12hではニロチニブ約49%低下、ダサチニブ約60%低下と有意差はなかった。また、図11Bに示すように、高濃度(Cmax濃度)でのニロチニブとダサチニブを比較すると、T=6hでニロチニブ処理では平均約28%増加、ダサチニブ41.5%減少がみられたが有意差はなく、12hでもニロチニブ、ダサチニブとも49.2%、47.4%減少と有意差はなかった。
(3) 考察
公知の環境検体・食品中の微生物ほ生死を判定する手法であるPMA viability PCR法を、検討対象をヒト細胞中の標的核酸へ拡張し、また通常のPCRからリアルタイムPCRへプロトコールと計算理論を拡張したPMA-HTLV-1 viability PCR、及びこれを用いたPMA-HTLV-1 viability PCRによるHTLV-1感染細胞傷害性薬物のアッセイ手法を提案した。その上でHTLV-1感染細胞傷害性薬物の候補薬物としてABL1チロシンキナーゼ阻害薬を、くすぶり型及び慢性型ATL細胞に対する細胞殺傷すなわちHTLV-1 PVL減少効果の指標としてΔCτDrug及び生細胞のみでのHTLV-1 PVL減少率(HTLV-1 PVL decrease rate in live cells (%))の2つの指標で検討した。
(3−1) ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ、ダサチニブ)はくすぶり型又は慢性型ATLのHTLV-1感染CD4+T細胞を特異的に標的とし、生細胞中のHTLV-1 PVLを半減させる。
本実施例では、10例のくすぶり型及び慢性型ATL症例由来のPBMCをABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ、ダサチニブの2種)のIC50濃度、Cmax濃度で処理(12時間まで)し、PMA-HTLV-1 viability PCR法で上記の2つの指標について統計解析を行った。その結果、両薬剤についてほぼ同様な結果を得た。すなわち、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(ニロチニブ、ダサチニブ)は、両者ともIC50濃度、Cmax濃度において薬剤処理12時間では約47〜49%と未処理時に比べ有意に生細胞中PVL減少効果がみられ、ダサチニブCmax濃度(246nM)では薬剤処理6時間の時点で41.5%の有意な低下がみられた。
また、実験結果からは、ダサチニブの方がニロチニブに比べ殺傷効果がやや優位性がある可能性が示唆された。このことは、ダサチニブがABL1チロシンキナーゼの阻害のみならず、Srcファミリーキナーゼの阻害効果を持つマルチキナーゼ阻害薬であることが理由として考えられる。すなわち、ダサチニブは、そのマルチキナーゼ活性により、腫瘍細胞であり種々のキナーゼが活性化しているATL細胞の殺傷効果に関連していることが示唆された。
生体内では薬剤排泄もあるため、適切なABL1チロシンキナーゼ阻害薬の血中濃度を維持するように内服を継続することで、本実験でみられるようなATL細胞殺傷効果は12時間以降も継続すると考えられ、患者体内においてATL細胞を完全に死滅させる可能性も考えられる。また、何等かの機序により腫瘍細胞の完全な死滅には至らずとも、ATL細胞を殺傷することにより先述したATLの種々の症状・症候の改善や、患者の生存期間の延長を来しうるということは容易に推測できる。
(3−2) ABL1チロシンキナーゼ阻害薬はくすぶり型・慢性型ATLのHTLV-1感染CD4+T細胞(ATL細胞)に特異的に働いて細胞を殺傷する。
また、上記[2] ABL1チロシンキナーゼ阻害薬処理によるくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞の細胞死誘導効果の測定で、CellTiter Fluor Cell Viability Assayによる細胞レベル、すなわちくすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞レベルでABL1チロシンキナーゼ阻害薬は有意な細胞殺傷効果を持つという知見が得られた。この知見は、上記[3] PMA-HTLV-1 viability PCRによるABL1チロシンキナーゼ阻害薬のくすぶり型及び慢性型ATL細胞に対する細胞殺傷効果の検討実験結果により、くすぶり型又は慢性型ATL患者由来CD4+T細胞を殺傷の標的としていることに起因していること、さらにABL1チロシンキナーゼ阻害薬が標的としているABL1チロシンキナーゼはくすぶり型又は慢性型ATLにおける治療標的としてふさわしいものであることが結論づけられた。
(3−3) くすぶり型又は慢性型ATLに対するABL1チロシンキナーゼ阻害薬の応用はDrug Repositioningの利点がある。
慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として既に臨床応用され、副作用についても既にデータが蓄積されている安全性の高いABL1チロシンキナーゼ阻害薬をくすぶり型又は慢性型ATLの治療法として応用することは、いわゆる既存薬再開発(Drug Repositioning)であり、副作用が未知である新規化合物を臨床応用する場合に比べ、動物実験での安全性の検討、ヒトでの安全性・副作用の検討などが簡略化しうる点も有望と考えられる。
(4)結論
このように、本実施例により、ABL1チロシンキナーゼ阻害薬は、くすぶり型又は慢性型ATL(インドレントATL)の患者由来のATL細胞を特異的に殺傷することを世界で初めて証明することができた。ABL1チロシンキナーゼ阻害薬は、現在有効な治療法がなく観察のみが推奨されているくすぶり型又は慢性型ATL(インドレントATL)に対する有望な治療法を提供する手段となることが結論付けられる。

Claims (2)

  1. ABL1遺伝子によりコードされるABL1チロシンキナーゼを阻害する物質を有効成分とする、くすぶり型又は慢性型成人T細胞白血病治療薬。
  2. 上記物質は、イマチニブ(Imatinib)、ニロチニブ(Nilotinib)及びダサチニブ(Dasatinib)からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質であることを特徴とする請求項1記載のくすぶり型又は慢性型成人T細胞白血病治療薬。
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