以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.動力伝達装置の構成>
まず、図1〜図4を参照して、本実施形態に係る動力伝達装置1の構成について説明する。
動力伝達装置1は、例えば、車両の動力伝達系に設けられ、エンジン等の車両の駆動源からの動力を駆動輪としての後輪と接続される左右一対の駆動軸に分配して伝達する装置である。
なお、以下ではこのような動力伝達装置1を一実施形態として説明するが、本発明に係る動力伝達装置はこのような例に限定されない。例えば、本発明に係る動力伝達装置は、駆動源からの動力を駆動輪としての前輪と接続される左右一対の駆動軸に分配して伝達する装置であってもよい。なお、その場合には、動力伝達装置に含まれるフロントディファレンシャル装置が本発明に係るディファレンシャル装置の一例に相当する。また、本発明に係る動力伝達装置は、車両以外の様々な装置の動力伝達系に設けられ得る。
図1は、本実施形態に係る動力伝達装置1を模式的に示す側面断面図である。図2は、本実施形態に係る動力伝達装置1を模式的に示す図1と逆方向から見た側面断面図である。図3は、本実施形態に係る動力伝達装置1を模式的に示す上面断面図(具体的には、図1のA−A断面図)である。図4は、本実施形態に係る動力伝達装置1を模式的に示す背面断面図(具体的には、図1のB−B断面図)である。
なお、本明細書で参照する各図面は、動力伝達装置1が搭載される車両の進行方向を前方向とし、進行方向に対して逆方向を後方向とし、進行方向を向いた状態における左側及び右側をそれぞれ左方向及び右方向として、鉛直上方向及び鉛直下方向をそれぞれ上方向及び下方向として示されている。
動力伝達装置1は、図1〜図4に示すように、リヤディファレンシャル装置10と、オイルガイド20と、遊転ギヤ30と、オイルタンク40とを備える。また、動力伝達装置1は、これらの構成要素を収容し、底部に潤滑油L1を貯留するハウジング50をさらに備える。
リヤディファレンシャル装置10は、動力伝達装置1に設けられるディファレンシャル装置である。リヤディファレンシャル装置10は、本発明に係るディファレンシャル装置の一例に相当する。
図3に示すように、リヤディファレンシャル装置10は、リングギヤ11と、ディファレンシャルケース12と、一対のピニオンギヤ14,14と、一対のサイドギヤ15,15とを備える。
リングギヤ11は、ディファレンシャルケース12の外周部に、溶接等によって固定されている。ディファレンシャルケース12は、ハウジング50に設けられている軸受74,75によって左右方向に沿った軸を中心に回転自在に支持されている。リングギヤ11の歯面110には、駆動源からの動力を伝達するドライブピニオンシャフト80に一体的に設けられたドライブピニオンギヤ81が噛合されている。リングギヤ11の歯面110は、例えば、右方向を向く姿勢で設けられ、リングギヤ11として、例えば、まがりばかさ歯車が用いられる。
ドライブピニオンシャフト80は、ハウジング50の内部において、ハウジング50に設けられている軸受71,72,73によって前後方向に沿った軸を中心に回転自在に支持されている。ドライブピニオンギヤ81は、ドライブピニオンシャフト80の後端部に設けられている。ドライブピニオンシャフト80の回転軸はリングギヤ11及びディファレンシャルケース12の回転軸よりも下方に位置しており、ドライブピニオンギヤ81はリングギヤ11の前部の下側と噛合されている。
ディファレンシャルケース12の内部には、ディファレンシャルケース12の回転軸に対して直交する方向に延在するピニオンシャフト13が設けられている。一対のピニオンギヤ14,14は、ピニオンシャフト13上において、ディファレンシャルケース12の回転軸を挟んだ両側に配置され、ピニオンシャフト13を中心に回転自在に支持されている。このように、一対のピニオンギヤ14,14は、ディファレンシャルケース12の回転軸に対して直交する軸を中心に自転自在であるとともに、ディファレンシャルケース12の回転軸を中心に公転自在に設けられている。
一対のピニオンギヤ14,14には、左右一対のサイドギヤ15,15がそれぞれ噛合されている。左右一対のサイドギヤ15,15には、駆動輪と接続される一対の駆動軸90,90がそれぞれ連結されている。一対の駆動軸90,90は、ディファレンシャルケース12の回転軸を中心にディファレンシャルケース12に対して回転自在に支持されている。
動力源からの動力がリングギヤ11にドライブピニオンシャフト80を介して伝達されると、ディファレンシャルケース12がリングギヤ11と一体的に回転する。そして、ディファレンシャルケース12に固定されたピニオンシャフト13によって支持された一対のピニオンギヤ14,14がディファレンシャルケース12の回転軸を中心に公転する。左右の駆動輪に回転差がない場合(車両の直進時等)、リヤディファレンシャル装置10は、動力を左右一対のサイドギヤ15,15に均等に分配して伝達する。このとき、左右一対のサイドギヤ15,15の回転数が等しいことから、ピニオンギヤ14,14は、自転することなく、ディファレンシャルケース12の回転軸を中心に公転する。
一方、左右の駆動輪に回転差がある場合(車両の旋回時等)、リヤディファレンシャル装置10は、動力を左右一対のサイドギヤ15,15に各ギヤ間で差を生じるように分配して伝達する。例えば、車両が左に旋回し、左の駆動輪よりも右の駆動輪の回転数が大きくなる場合、右の駆動輪の駆動軸が嵌合されたサイドギヤ15は、ディファレンシャルケース12よりも速く回転しようとし、左の駆動輪の駆動軸が嵌合されたサイドギヤ15は、ディファレンシャルケース12よりも遅く回転しようとする。このとき、ピニオンギヤ14,14は、ディファレンシャルケース12の回転軸を中心に公転しながらディファレンシャルケース12の回転軸に対して直交する軸を中心に自転し、左右の駆動輪の回転数差が吸収される。
なお、リヤディファレンシャル装置10は少なくともリングギヤ11を有していればよく、リヤディファレンシャル装置10の構成は上記の例に限定されない。例えば、図3では、一対のピニオンギヤ14,14が1本のピニオンシャフト13上に設けられている例が示されているが、一対のピニオンギヤ14,14の各々について互いに異なるピニオンシャフトが設けられていてもよい。また、その場合には、2組以上のピニオンギヤ及びピニオンシャフトが設けられてもよい。
オイルガイド20は、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1をリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内する機能を有する。オイルガイド20は、本発明に係るガイド部の一例に相当する。
オイルガイド20は、リヤディファレンシャル装置10の外表面を覆う部材である。具体的には、オイルガイド20は、後述するように、少なくともリヤディファレンシャル装置10のリングギヤ11の歯面110における特定の部分を覆う。オイルガイド20は、例えば、金属材料から形成される。
例えば、オイルガイド20は、図3及び図4に示すように、リヤディファレンシャル装置10の軸方向(左右方向)の全域に亘って延在する。また、オイルガイド20は、略均一な肉厚を有しており、リヤディファレンシャル装置10の外表面に沿った形状を有する。オイルガイド20におけるリングギヤ11を覆う部分は、他の部分と比較して径方向外側に突出している。上記のように、オイルガイド20は、リングギヤ11の外周部をリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に亘って覆ってもよい。
また、オイルガイド20は、ハウジング50に固定されている。例えば、オイルガイド20の左右の両端部が、ハウジング50の内周部に固定されている。なお、オイルガイド20は、ハウジング50に他の部材を介して固定されてもよい。
図1及び図4に示すように、オイルガイド20の下部には、開口21が形成されている。開口21は、例えば、リングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側までの範囲に亘って形成されている。リングギヤ11の歯面110における下部は、開口21を介して露出されており、ハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1に浸漬されている。ゆえに、リングギヤ11の回転に伴い、ハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1が掻き上げられる。
図1及び図4に示すように、オイルガイド20の上部には、開口22が形成されている。開口22は、例えば、リングギヤ11の歯面110の上部と対向して形成されている。リングギヤ11の歯面110における上部は、開口22を介して露出されており、後述する遊転ギヤ30と噛合されている。このように、リングギヤ11の歯面110のうち開口22を介して露出されている部分が、リングギヤ11の歯面110における遊転ギヤ30との噛合部P1に相当する。
図1及び図3に示すように、オイルガイド20の前部の下側には、開口23が形成されている。開口23は、例えば、リングギヤ11の歯面110の前部の下側と対向して形成されている。リングギヤ11の歯面110における前部の下側は、開口23を介して露出されており、ドライブピニオンシャフト80のドライブピニオンギヤ81と噛合されている。このように、リングギヤ11の歯面110のうち開口23を介して露出されている部分が、リングギヤ11の歯面110におけるドライブピニオンギヤ81との噛合部P2に相当する。
動力伝達装置1において、リングギヤ11の回転方向は、図1及び図2において矢印D11によって示すように、リングギヤ11の後部が上方へ向かう方向である。ゆえに、リングギヤ11の歯面110における遊転ギヤ30との噛合部P1に対してリングギヤ11の回転方向側にドライブピニオンギヤ81が噛合される。
リングギヤ11の歯面110は、開口21,22,23を介して露出されている部分を除いて、オイルガイド20によって覆われている。ゆえに、リングギヤ11の歯面110のうち、ハウジング50の底部の潤滑油L1に浸漬される下部、遊転ギヤ30との噛合部P1、及びドライブピニオンギヤ81との噛合部P2を除く部分が、オイルガイド20によって覆われている。
このように、オイルガイド20は、図1に示すように、少なくともリングギヤ11の歯面110における下部からリングギヤ11の回転方向に沿って遊転ギヤ30との噛合部P1に至るまでの間の部分を覆う。それにより、後述にて詳細に説明するように、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1は、オイルガイド20によってリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内される。
なお、オイルガイド20は少なくともリングギヤ11の歯面110における下部からリングギヤ11の回転方向に沿って遊転ギヤ30との噛合部P1に至るまでの間の部分を覆っていればよく、オイルガイド20の形状は上記の例に限定されない。例えば、オイルガイド20は、リヤディファレンシャル装置10の軸方向(左右方向)の一部の範囲(例えば、リングギヤ11の歯面110よりも右側の範囲)のみに亘って延在していてもよい。また、オイルガイド20は、例えば不均一な肉厚を有していてもよく、少なくとも部分的にリヤディファレンシャル装置10の外表面に沿わない形状を有していてもよい。
遊転ギヤ30は、オイルガイド20によってリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内された潤滑油L1を飛散させる機能を有する。
遊転ギヤ30は、遊転自在なギヤである。また、遊転ギヤ30は、リングギヤ11の歯面110における上部と噛合されている。具体的には、遊転ギヤ30は、リングギヤ11の歯面110のうち開口22を介して露出されている部分と噛合されている。遊転ギヤ30は、例えば、ハウジング50の内部の上側において、上下方向に沿った軸を中心にハウジング50に対して遊転自在に支持されている。具体的には、遊転ギヤ30は、図1及び図4に示されるように、ハウジング50の内周部の上部から下方へ延設されるギヤシャフト51に遊転自在に支持されている。なお、遊転ギヤ30は、オイルガイド20に取り付けられてもよい。その場合、例えば、オイルガイド20の外周部における開口22に対して右側の部分から上方へ向けてギヤシャフトが延設され、遊転ギヤ30は、当該ギヤシャフトに遊転自在に支持される。
このような遊転ギヤ30が設けられることによって、後述にて詳細に説明するように、オイルガイド20によってリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内された潤滑油L1を、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散させることができる。
オイルタンク40は、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1を溜める機能を有する。オイルタンク40は、本発明に係る油溜め部の一例に相当する。オイルタンク40は、例えば、金属材料から形成される。
例えば、オイルタンク40は、上部に開口を有し下部に底部を有する中空直方体形状の部材であり、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1の近傍に設けられる。図2及び図4に示されるように、オイルタンク40は、例えば、リングギヤ11に対して遊転ギヤ30と逆側(具体的には、リングギヤ11に対して左側)に位置する。具体的には、オイルタンク40は、ハウジング50の内部におけるリングギヤ11に対して左側の領域のうち、リヤディファレンシャル装置10より上方に位置する。また、オイルタンク40は、ハウジング50に固定されている。なお、オイルタンク40は、ハウジング50に他の部材を介して固定されてもよい。例えば、オイルタンク40は、オイルガイド20に固定されてもよい。
このようなオイルタンク40が設けられることによって、後述にて詳細に説明するように、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1をオイルタンク40に溜めることができる。
なお、オイルタンク40はリングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1を溜めることができればよく、オイルタンク40の構成は上記の例に限定されない。例えば、オイルタンク40の形状は、種々の中空多角柱形状若しくは中空円柱形状又はこれらを少なくとも部分的に組み合わせた形状であってもよい。また、例えば、オイルタンク40において開口が設けられる位置は、オイルタンク40の側部であってもよい。
動力伝達装置1には、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1を動力伝達装置1における給油対象部分に供給する油路が設けられる。動力伝達装置1における給油対象部分は、例えば、動力伝達装置1に設けられる軸受を含む。動力伝達装置1では、このような油路として、例えば、油路61,62,63,64,65が設けられる。なお、各図面では、これらの各油路は部分的に省略されて示されている。
図4に示されるように、油路65は、オイルタンク40の底部及びハウジング50の壁部の内部に貫通して設けられ、オイルタンク40の内部と軸受75の側方の空間とを連通する。また、油路64は、油路65から分岐してハウジング50の壁部の内部に貫通して設けられ、軸受74の側方の空間と連通する。また、油路61,62,63は、油路65から分岐してハウジング50の壁部の内部に貫通して設けられ、図1及び図2に示されるように、軸受71,72,73のそれぞれの側方の空間と連通する。オイルタンク40は、例えば、動力伝達装置1における給油対象部分より上方に位置する。それにより、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1が、重力によって、油路61,62,63,64,65を介して、軸受71,72,73,74,75に効果的に供給される。
なお、動力伝達装置1の油路を介して潤滑油L1が供給される給油対象部分は、上記の例に限定されず、軸受以外の部分であってもよい。例えば、そのような給油対象部分は、ディファレンシャルケース12の内部であってもよい。その場合、油路を介してディファレンシャルケース12の内部に潤滑油L1が供給されることによって、ディファレンシャルケース12の内部の各ギヤが潤滑される。
また、動力伝達装置1の油路の構成は、上記の例に限定されず、油路はハウジング50の壁部の内部に貫通して設けられなくてもよい。例えば、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1を給油対象部分に供給する油路として、オイルタンク40と給油対象部分とを接続し、内部を潤滑油L1が通過可能な中空管形状の部材又は上面に潤滑油L1が通過可能な溝部を有する部材等の部材が用いられてもよい。
上記では、オイルガイド20及びオイルタンク40が他の部材と別の部材としてそれぞれ構成される例を説明したが、オイルガイド20及びオイルタンク40は、他の部材と一体的に形成されてもよい。例えば、オイルガイド20とオイルタンク40とが1つの部材により一体的に形成されてもよい。また、例えば、オイルガイド20及びオイルタンク40の少なくとも1つがハウジング50と一体的に形成されてもよい。オイルガイド20が他の部材と一体的に形成される場合、一体形成される部材のうち、リヤディファレンシャル装置10の外表面を覆う部分がガイド部とし機能し得る。また、オイルタンク40が他の部材と一体的に形成される場合、一体形成される部材のうち、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1を溜める部分が油溜め部として機能し得る。
<2.動力伝達装置の動作>
続いて、図5〜図7を参照して、本実施形態に係る動力伝達装置1の動作について説明する。
まず、図5及び図6を参照して、潤滑油L1がハウジング50の底部からリングギヤ11の回転により掻き上げられた後、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散するまでの間について説明する。図5は、ハウジング50の底部からリングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1に到達するまでの潤滑油L1の経路を模式的に示す拡大側面断面図である。
上述したように、動力源からの動力がリングギヤ11にドライブピニオンシャフト80を介して伝達されると、リヤディファレンシャル装置10のリングギヤ11はディファレンシャルケース12と一体的に回転する。この際、リングギヤ11は、図5において矢印D11によって示すように、リングギヤ11の後部が上方へ向かう方向に回転する。
図5に示すように、オイルガイド20の開口21を介して露出されているリングギヤ11の歯面110の下部は、ハウジング50の底部の潤滑油L1に浸漬されている。ゆえに、ハウジング50の底部の潤滑油L1は、リングギヤ11の歯面110の下部によって掻き上げられて、矢印D21によって示すように、オイルガイド20の開口21を介してオイルガイド20の内側に送られる。そして、潤滑油L1は、リングギヤ11の回転に伴って、矢印D22によって示すように、オイルガイド20によってリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内される。その後、潤滑油L1は、矢印D23によって示すように、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から主に上方向に排出されて飛散する。
ここで、図6を参照して、オイルガイド20により上方へ案内される際及び遊転ギヤ30により飛散する際の潤滑油L1の挙動について、より詳細に説明する。図6は、潤滑油L1がオイルガイド20により上方へ案内されて遊転ギヤ30により飛散する様子を模式的に示す図である。
図6に示すように、リングギヤ11の歯面110には、具体的には、リングギヤ11の周方向に沿って間隔を空けて複数の歯部111が設けられている。ゆえに、隣り合う歯部111の間には、溝部112が形成されている。ハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1は、オイルガイド20の開口21の縁部24と対向している溝部112aに開口21を介して送られる。
その後、溝部112aは、リングギヤ11の回転に伴って上方に移動することによって、図6に示される溝部112aに対してリングギヤ11の回転方向側の溝部112b,112cのように、オイルガイド20によって覆われる。ゆえに、溝部112aに送られた潤滑油L1は、オイルガイド20によって覆われた溝部112aに保持された状態で、リングギヤ11の歯面110に沿って上方へ送られる。
その後、溝部112aは、オイルガイド20の開口22を通過し、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1に到達する。ここで、遊転ギヤ30は、リングギヤ11と噛合されているので、矢印D12によって示すように、リングギヤ11の回転方向と対応する方向に回転している。ゆえに、溝部112aが開口22を通過した後に、溝部112aにおいて潤滑油L1が保持されている領域に遊転ギヤ30の歯部31が侵入して、当該歯部31と溝部112aに隣接する歯部111とが噛合される。それにより、溝部112aにおいて、潤滑油L1は、遊転ギヤ30の歯部31により押圧され、噛合部P1から排出されて飛散する。
次に、図7を参照して、潤滑油L1がリングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した後、オイルタンク40に溜められるまでの間について説明する。図7は、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1からオイルタンク40に到達するまでの潤滑油L1の経路を模式的に示す拡大背面断面図である。
噛合部P1において、潤滑油L1には、リングギヤ11の回転による遠心力が上方向に付与されるとともに、遊転ギヤ30による押圧力がリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に向かう方向に付与される。よって、潤滑油L1は、噛合部P1から上方向に排出された後、図7において矢印D24によって示すように、主にリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に向かう方向(具体的には、左方向)に飛散する。その後、潤滑油L1は、飛散しながら降下してオイルタンク40の上部の開口を通してオイルタンク40の内部に落下する。それにより、潤滑油L1がオイルタンク40に貯留される。そして、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1は、油路61,62,63,64,65を介して、動力伝達装置1における給油対象部分としての各軸受に供給される。そして、潤滑油L1によって各軸受が潤滑された後に、潤滑油L1は、重力によって、ハウジング50の底部に戻される。
なお、図5〜図7で矢印によって示した潤滑油L1の経路は、あくまでも模式的に示した経路である。具体的には、各図において矢印によって示した潤滑油L1の経路は、潤滑油L1の主たる経路である。よって、実際の潤滑油L1の経路は、様々な経路をとり得る。ゆえに、オイルタンク40の位置は、リングギヤ11に対して遊転ギヤ30と逆側であることが好ましいが、そのような例に限定されず、噛合部P1から飛散した潤滑油L1をオイルタンク40に溜め得るような位置であれば種々の位置をとり得る。
<3.動力伝達装置の効果>
続いて、本実施形態に係る動力伝達装置1の効果について説明する。
本実施形態に係る動力伝達装置1は、リングギヤ11の歯面110における上部と噛合され、遊転自在な遊転ギヤ30を備える。また、動力伝達装置1は、少なくともリヤディファレンシャル装置10のリングギヤ11の歯面110における下部からリングギヤ11の回転方向に沿って遊転ギヤ30との噛合部P1に至るまでの間の部分を覆うガイド部としてのオイルガイド20を備える。それにより、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1を、リングギヤ11の歯面110に沿って上方へ噛合部P1まで案内し、噛合部P1から飛散させることができる。
さらに、動力伝達装置1は、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1を溜める油溜め部としてのオイルタンク40を備える。また、動力伝達装置1は、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1を動力伝達装置1における給油対象部分に供給する油路61,62,63,64,65を備える。それにより、噛合部P1から飛散した潤滑油L1を、オイルタンク40を介して給油対象部分に適切に供給することができる。
このように、本実施形態によれば、潤滑油L1を、ハウジング50の底部、リングギヤ11の歯面110、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1、オイルタンク40、油路61,62,63,64,65、給油対象部分の順にハウジング50の内部で循環させることによって、給油対象部分に潤滑油L1を供給することができる。ゆえに、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1の一部が給油対象部分に供給されずにハウジング50の底部に戻されることを抑制することができる。よって、リングギヤ11の回転による潤滑油L1の掻き上げが給油対象部分への潤滑油L1の供給に十分に寄与しない状況が生じることを抑制することができる。したがって、本実施形態によれば、動力伝達装置1における給油対象部分に潤滑油L1をより適切に供給することができる。
さらに、本実施形態によれば、ハウジング50の内部の潤滑油L1のうちの一部がオイルタンク40に溜められている状態が継続されるため、ハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1の高さが過剰に高くなることを抑制することができる。ゆえに、リングギヤ11の下部とハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1との間での摩擦損失の増大を抑制することができる。
さらに、本実施形態によれば、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1を給油対象部分に安定的に供給することができるので、各給油対象部分に供給される潤滑油L1の量のばらつきを低減することができる。それにより、例えばハウジング50の内部の潤滑油L1の総量を増大させることなく、各給油対象部分に供給される潤滑油L1の必要量を確保することができる。
また、本実施形態に係る動力伝達装置1では、オイルガイド20は、リングギヤ11の外周部をリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に亘って覆い得る。リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1は、上述したように、具体的には、オイルガイド20によって覆われた溝部112aに保持された状態で、リングギヤ11の歯面110に沿って上方へ送られる。この際、溝部112aに保持された潤滑油L1には、リングギヤ11の回転による遠心力がリングギヤ11の径方向の外向きに付与される。ゆえに、リングギヤ11の外周部をリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に亘って覆うことによって、リングギヤ11の回転による遠心力に起因して溝部112aに保持された潤滑油L1の一部が溝部112aの外部へ飛散することを抑制することができる。よって、給油対象部分に潤滑油L1をより適切に供給する効果を向上させることができる。
また、本実施形態に係る動力伝達装置1では、オイルタンク40は、給油対象部分より上方に位置し得る。それにより、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1を、重力によって、給油対象部分に効果的に供給することができる。ゆえに、オイルポンプ等の潤滑油L1を送出するための装置を追加的に設けることなく、給油対象部分に潤滑油L1をより適切に供給することができる。よって、動力伝達装置1の大型化、重量の増大及び製造コストの増大を抑制することができる。さらに、潤滑油L1を送出するための装置を追加的に設けることに起因する動力伝達装置1の全体における摩擦損失の増大を抑制することができる。
また、本実施形態に係る動力伝達装置1では、オイルタンク40は、リングギヤ11に対して遊転ギヤ30と逆側に位置し得る。上述したように、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1において、潤滑油L1には、リングギヤ11の回転による遠心力が上方向に付与されるとともに、遊転ギヤ30による押圧力がリングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に向かう方向に付与される。それにより、潤滑油L1は、噛合部P1から飛散する際に、水平方向について、リングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側に向かう方向に飛散しやすい。ゆえに、オイルタンク40をリングギヤ11に対して遊転ギヤ30と逆側に位置させることによって、噛合部P1から飛散した潤滑油L1をより効果的にオイルタンク40に溜めることができる。
また、本実施形態に係る動力伝達装置1では、オイルタンク40から油路を介して潤滑油L1が供給される給油対象部分は、動力伝達装置1に設けられる軸受を含み得る。軸受は、動力伝達装置1において潤滑油L1を適切に供給する必要性が特に大きい給油対象部分である。ゆえに、オイルタンク40から動力伝達装置1に設けられる軸受に油路を介して潤滑油L1を供給することによって、動力伝達装置1において潤滑油L1を適切に供給する必要性が特に大きい給油対象部分に潤滑油L1をより適切に供給することができる。
<4.変形例>
続いて、図8を参照して、変形例に係る動力伝達装置2について説明する。
図8は、変形例に係る動力伝達装置2を模式的に示す拡大側面断面図である。
動力伝達装置2は、上述した動力伝達装置1と比較して、オイルガイドの形状について異なる。
例えば、変形例に係るオイルガイド220は、上述したオイルガイド20と同様に、リヤディファレンシャル装置10の軸方向(左右方向)の全域に亘って延在する。また、オイルガイド220は、略均一な肉厚を有しており、リヤディファレンシャル装置10の外表面に沿った形状を有する。オイルガイド220におけるリングギヤ11を覆う部分は、他の部分と比較して径方向外側に突出している。また、オイルガイド220は、ハウジング50に固定されている。
図8に示すように、オイルガイド220の下部には、開口221が形成されている。開口221は、例えば、リングギヤ11の歯面110側から歯面110の裏面側までの範囲に亘って形成されている。リングギヤ11の歯面110における下部は、開口221を介して露出されており、ハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1に浸漬されている。ゆえに、リングギヤ11の回転に伴い、ハウジング50の底部に貯留される潤滑油L1が掻き上げられる。
また、変形例では、図8に示すように、オイルガイド220の上部から周方向に沿って前部の下側までの範囲に跨って、開口222が連続的に形成されている。開口222は、例えば、リングギヤ11の歯面110の上部から周方向に沿って前部の下側までの範囲に跨る部分と対向して形成されている。リングギヤ11の歯面110における上部は、開口222の上側を介して露出されており、遊転ギヤ30と噛合されている。また、リングギヤ11の歯面110における前部の下側は、開口222の下側を介して露出されており、ドライブピニオンシャフト80のドライブピニオンギヤ81と噛合されている。
リングギヤ11の歯面110は、開口221,222を介して露出されている部分を除いて、オイルガイド220によって覆われている。ゆえに、リングギヤ11の歯面110のうち、ハウジング50の底部の潤滑油L1に浸漬される下部、及び遊転ギヤ30との噛合部P1から周方向に沿ってドライブピニオンギヤ81との噛合部P2までの範囲に跨る部分を除く部分が、オイルガイド220によって覆われている。
このように、オイルガイド220は、上述したオイルガイド20と同様に、少なくともリングギヤ11の歯面110における下部からリングギヤ11の回転方向に沿って遊転ギヤ30との噛合部P1に至るまでの間の部分を覆う。それにより、リングギヤ11の回転によりハウジング50の底部から掻き上げられた潤滑油L1は、オイルガイド220によってリングギヤ11の歯面110に沿って上方へ案内される。
また、変形例に係る動力伝達装置2では、リングギヤ11の歯面110における遊転ギヤ30との噛合部P1からリングギヤ11の回転方向に沿ってドライブピニオンギヤ81との噛合部P2に至るまでの間の部分は、上述した動力伝達装置1と異なり、オイルガイド220により覆われない。
上述したように、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1に到達した潤滑油L1は、矢印D23によって示すように、噛合部P1から主に上方向に排出されて飛散する。ここで、噛合部P1に到達した潤滑油L1の一部は、上方向以外の方向にも排出され得る。例えば、噛合部P1に到達した潤滑油L1の一部は、矢印D24によって示すように、リングギヤ11の回転方向に沿った方向(具体的には、前方向)に排出されて飛散し得る。
変形例では、上述したように、リングギヤ11の歯面110における噛合部P1と噛合部P2との間の部分が露出されているので、噛合部P1から前方向に飛散した一部の潤滑油L1は、歯面110においてこのように露出された部分に衝突して付着し得る。また、当該露出された部分には、噛合部P1に到達した潤滑油L1以外にも、ハウジング50内に飛沫として存在する潤滑油L1が容易に付着し得る。歯面110に付着した潤滑油L1は、リングギヤ11の回転に伴って、矢印D25によって示すように、リングギヤ11とドライブピニオンギヤ81との噛合部P2へ送られる。そして、潤滑油L1によって噛合部P2が潤滑された後に、潤滑油L1は、重力によって、ハウジング50の底部に戻される。
上記のように、変形例によれば、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1からリングギヤ11の回転方向に沿った方向に飛散した一部の潤滑油L1及びハウジング50内に飛沫として存在する潤滑油L1を、リングギヤ11とドライブピニオンギヤ81との噛合部P2の潤滑に利用することができる。それにより、リングギヤ11とドライブピニオンギヤ81との間での摩擦抵抗を低減することができるので、リングギヤ11及びドライブピニオンギヤ81の摩耗の促進や燃費の悪化を抑制することができる。
<5.むすび>
以上説明したように、本実施形態は、リングギヤ11の歯面110における上部と噛合され、遊転自在な遊転ギヤ30を備える。また、動力伝達装置1は、少なくともリヤディファレンシャル装置10のリングギヤ11の歯面110における下部からリングギヤ11の回転方向に沿って遊転ギヤ30との噛合部P1に至るまでの間の部分を覆うガイド部としてのオイルガイド20を備える。また、動力伝達装置1は、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1から飛散した潤滑油L1を溜める油溜め部としてのオイルタンク40を備える。また、動力伝達装置1は、オイルタンク40に溜められた潤滑油L1を動力伝達装置1における給油対象部分に供給する油路61,62,63,64,65を備える。
それにより、潤滑油L1を、ハウジング50の底部、リングギヤ11の歯面110、リングギヤ11と遊転ギヤ30との噛合部P1、オイルタンク40、油路61,62,63,64,65、給油対象部分の順にハウジング50の内部で循環させることによって、給油対象部分に潤滑油L1を供給することができる。ゆえに、リングギヤ11の回転による潤滑油L1の掻き上げが給油対象部分への潤滑油L1の供給に十分に寄与しない状況が生じることを抑制することができるので、動力伝達装置1における給油対象部分に潤滑油L1をより適切に供給することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。